小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) Battle76 『滅せよR/忌むべき不変』 クリスマス――それはキリスト教で、イエス・キリストの降臨を記念する祭日。実はキリスト様の誕生日は明確に決まってないのよ。 それに関する記述もない。そんな驚きの事実はともかく、日本ではクリスマスイブと合わせて楽しい日。 そう、楽しい日なんだ。決してサンタとデジモンがカオスに飛び込んできたり、女性が多数振られたりする日ではない。 そんなわけで聖夜学園高等部の講堂は、生徒会主催のクリスマスパーティーで賑わっていた。 たくさんの料理と飲み物、更に穏やかな音楽。ホワイトクリスマスを祝うと同時に、忘年会や期末試験のお疲れ会も兼ねている。 僕はアイドルな響の側について、ガードしつつパーティを楽しんでいた。……まぁ。 「やすみー、このフライドチキン美味しいよー」 「そ、そうだね」 「こっちのテリーヌも……アイツら、どこで準備してきたんだか。まぁ美味いから有り難いが」 顔見知りは固まってるから、あんま意味ないんだけど。てーかヘイアグモンやリン、本音がガツガツ食べてて……ムードないし! 「しかし恭文、お前また……なんで戻ってきて早々こんな事に」 そう言いながらも、やっぱりガツガツ食べているのは空海。おのれ、食べるか喋るかどっちかにしようよ。 まぁ言いたい事は分かるけどさ。ドイツへ行って出席日数やばくなったり、アイドル連れてきたりしたしさ。 「でも交換留学生があの我那覇響ちゃんなんて……あのあの、いっつもテレビ見てます!」 「ややもややもー! あのあの、サインちょ」 ファンモードを出されても面倒なので、相川清香とややに笑いかける。するとシャコモン共々数歩下がり。 「「応援してまーす!」」 「ゲソー♪」 「あははは、ありがとなー。……というか恭文、顔怖いぞ。もうちょっと穏やかに」 「合宿の時みたいなのは嫌なの」 「分かるけど落ち着けー!」 「しかし凄いですわね、聖夜学園」 セシリアはフィッシュアンドチップスをフォークでつまみ、幸せそうに笑う。故郷の味だしねー。 それで僕の隣をとって、少し寂しそうにくっついてくる。こ、これはその……うぅ、僕はやっぱり浮気者です。 「ここまで豪華なパーティーを開くなんて」 「ぼくも同感。こんな学校、見た事ないんだけど」 「……ここはまぁ、基本自由だから。初等部が自由で、中等部もそこからの上がりでやっぱり自由だから」 「実は私も六年になってから、こっちに転校してきたんだけど」 赤いカラフルなドレス姿なりまが、僕の脇にそっとくっついてくる。……なんか圧力を感じて辛い。 「ここの校風には驚かされたわよ。それで無秩序になっていないのがまた凄いんだけど」 「察していましたわ。でなければ、我那覇さんが急に交換留学などできるわけもありませんし」 「でも楽しそうだぞ? 校舎も広いし、いい学校だよなー」 「ちゅー」 響はローストビーフをさっと切り分け、一切れずつ食べる。ハム蔵はその横で持ってきたらしいペレットを……うん、ハムスターだもんね。 でもおのれ、ハムスターの定義から外れるレベルで生きてるよね。とっとこハム太郎の親戚だよ。 「そう言ってくれると有り難いです。なにかあれば僕達もフォローしていきますので。ね、相馬君」 「うちは生徒会がビシッと統治してるから、なにかありゃあ相談してくれ」 「ありがとうだぞー。……そういえば理事長はどこだ。自分、挨拶しないといけないんだけど」 「司さんならほら、あそこだよ」 あむが指差すのは壇上。ちょうど上がってきたのは、全く外見に変化がない司さん。相変わらずフリーダムで過ごしています。 『みんな、楽しんでいるかなー』 『はーい!』 『うん、いい事だ。今年はいろいろと大変だったけど、来年も変わらず元気で頑張っていこうね。そうそう、実は報告が』 司さんは左手で壇上の上手を指す。するとそこからとことこと……ファングジョーカーな熊が登場する。 その姿に僕とセシリア達はフリーズ。それでも奴は変わらず、笑顔で司さんの隣に立つ。 『理事長の他に、学園長という役職を作ってみたんだ』 『はぁ!?』 『えー、みなさん初めまして。今日からボクが聖夜学園の学園長――ディオクマです!』 『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』 当然会場内は一気に混乱へ……ディオクマァァァァァァァァァ! てーか黒子! アイツなにしてんのよ! なんで学園長!? ていうか学園長と理事長ってどっちが偉いの! 一体どういう事なの! 司さん、笑ってる場合じゃないから! あの場のあれは冗談じゃなかったんかい! 「ちょ、教官!」 「僕に聞くな……唯世!」 「ぼ、僕に聞かれてもー!」 『まぁまぁ、みんな落ち着いてー。ボクが学園長となった記念に』 ディオクマはざわめく生徒達をなだめ、クリップらしきものを取り出す。 それにはバトルしているハジメやテガマル、キマリ……これ、赤ブロック予選の様子? 『バトルフィールドを全学部に寄附しましたー♪』 『なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』 一体なんだろうと思っていたら、斜め上のボールが投げられたでござる。 『ディオクマくんはバトスピが強いらしくてねー。それに今や世界的ホビーだもの、覚えておくといろいろ得だよ?』 「あっさり言い切ったし! 司さん、馬鹿じゃないの!? 知ってはいたけどさ!」 「ちょ、八神君……あの熊なに! あの大山のぶ代ボイスは! 八神君の知り合いなんだよね! あたし達に説明しろー!」 「しゅごしゅごー!」 「黙れ! 焼きそばパンも買ってこない分際で、僕に意見できる立場だと!?」 「理不尽なキレ方してんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 クリスマスって、なんだろう。変な熊が学校の学園長になる日かな。 ……僕は来年から、クリスマスの定義について悩む事となった。そこでメールが届く。 携帯を取り出しチェックし、ショウタロス達と一緒に笑った。メールの差出人は簪。 僕が送ったクリスマスプレゼント、届いたらしい。お礼メールの中で、簪はモノドラモンと一緒にマフラーを巻いて笑っていた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ パーティーは更に進む。ビンゴ大会や導入されたバトルシステムでのバトスピ、笑顔と優しい時間はやっぱり幸せで。 いきなりの転校で不安そうだった響だけど、聖夜学園の校風は気に入ってくれた様子。終始笑っていたのでそれは安心。 司さんとの挨拶も滞りなく終わり、そうして短くも濃厚なクリスマスパーティーは無事に終了。 みんなで後片付けして、雪降る夜の街を歩き出す。響はハム蔵をマフラーの中に入れ、一緒にぬくぬく。 「でも奇麗な街だなぁ。星がすっごく近いぞー」 「ちゅちゅー」 「別名星夜市って言われてるくらいだしね。面白いとこも多いよ、聖夜学園を筆頭に」 「だよなー。……なぁ恭文」 「なにかな」 「Jupiterは……天ヶ瀬冬馬は、本当に変われると思ってるのか?」 「思ってないよ」 空を見上げながら、響の疑問は解いていく。みんなは空気を読んで黙ってくれているので、静かに深呼吸。 「変わりたいと思ってるんだよ、あの三人は。道はこじ開けていく、そうして踏ん張っている」 「そっか。なら、自分も」 響が僕をじっと見るので、預かっていたミオガルド・ランゲツを取り出す。その上で響に渡した。 響は雪の中瞳を閉じ、ミオガルド・ランゲツのカードに願いを込める。ううん、願いじゃないか。 きっと誓いだ。依存ではなく、力になってくれようとした友達への……自分なりの誓い。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 十二月二十六日――響はハム蔵と一緒に帰り、相川清香とシャコモンはうちでお泊まり。 これが本音の部屋じゃなかったらもう、ちょっとどうしようもなかった。僕はセシリアと一緒に添い寝中。 また一つ仲良くなって、もうとっても幸せ。でもその、ちょっと自重しなくては。 ほら、セシリアが代表候補生というのは変わらないし……我慢我慢。 「恭文さん」 「うん」 「わたくし、魅力がないでしょうか」 抱きついているセシリアに、いきなりジト目でそう言われてドギマギしてしまう。そ、そういうわけじゃないのにー。 「え、えっと……ほら、セシリアは代表候補生でしょ? だから、あんまり深く進んだ感じも駄目かなと」 「ではお風呂はよいのですか? わたくしの胸を、そのまま触ったり」 「……あんまり、よくないです。はい」 「そんなに落ち込まないでください。ありがとうございます、気づかっていただいて」 それでセシリアはくすりと笑い、僕の両手を顔まで持ち上げる。 「では恭文さんに、クリスマスプレゼントを」 「あれ、それならもうもらって」 「こちらが本命です」 セシリアは瞳を潤ませながら、僕の両手をそっと……自分の胸に当てた。それだけでセシリアがなにを言いたいか分かってしまう。 「恭文さんにわたくしの全てを捧げます。その代わり、恭文さんをください。今までよりもっと、深くに」 「セシリア、あの」 「クリスマス、ですから」 ど、どうしよう。それを言われるともうなんでもありな気が。でも……もう、答えなら出てる。ちゃんと考えて、受け止めてきてるし。 「本当にいいの? 僕、セシリア以外の子とも……こういう事してるよ。嫌じゃないかな」 「嫌じゃ、ありません。浮気ならお仕置きですけど、みんなを大切にしているのなら……というか、嫌だったら裸なんて見せません。 まだ、キスもしてないのに……乳房をそのまま、触らせるなんて事もしません」 「……うん。僕も、同じ。セシリアの事が好き。だから今、すっごく嬉しい」 「わたくしもです。わたくしも、あなたが好きです。だから、今日は」 そこまで言うと、セシリアは静かに目を閉じた。セシリアの胸から手を離し、代わりに両手を取る。 しっかり繋ぐと、セシリアが驚きながら目を開く。でもすぐに嬉しそうなほほ笑みを浮かべ、もう一度目を閉じた。 手を握り合いながら、本当に優しく――セシリアの震える唇を奪う。それだけで胸がときめいて、幸せで満たされる。 赤く柔らかい唇をゆっくり味わってから、キスする時と同じくらい慎重に離す。するとセシリアは目を開いて、涙を零し始めた。 「セシリア」 「ごめんなさい。でも……想像していたよりもずっと優しいキスで」 右手を一旦離すと、セシリアがさっと涙を払う。 「嬉しくて」 「ありがとう」 「いえ。では、もっとわたくしを味わってください」 手を繋ぎ直して、もう一度触れるだけのキス。そこからちょっとずつついばんで……いこうとした時、携帯が鳴り響く。 僕達は顔を離し、枕元を確認。セシリアが不満そうに頬をふくらませる。……あれ、なんだろう。今ゾクってしたような。 「あれ、なんかすっごく嫌な予感が」 「むぅ、無粋ですわ。切っちゃいましょう」 「ちょい待って」 さすがにそれはまずい。着信相手を確認した上で通話に出た。電話をかけてきたのはラウラだった。 「もしもし、ラウ」 『恭文、すまない。そちらに一夏はきていないか』 食い気味に用件を切り出してきたよ。一体なにを言っているのかと、部屋の時計を天幕越しに確認。 はい、セシリアのベッドは天幕がかかっています。ここだけ王宮みたいなノリだよ。とにかく時刻は午前〇時を過ぎた段階。 「織斑一夏? きてないけど……え、帰ってきてないの?」 『あぁ。教官もかなり心配している』 「……実は本命の彼女がいて、お泊まりデートとか」 『それならまだ安心できる。だがアイツ、白式を置いていってるんだ』 不満そうだったセシリアも、電話口から漏れる焦った声に息を飲む。――こうして僕達は、ようやく仲間の喪失に気づいた。 余りに遅すぎたのだと、僕達は後になってやんなるくらい突きつけられる事となる。 バトルスピリッツ――通称バトスピ。それは世界中を熱狂させているカードホビー。 バトスピは今、新時代を迎えようとしていた。世界中のカードバトラーが目指すのは、最強の称号『覇王(ヒーロー)』。 その称号を夢見たカードバトラー達が、今日もまたバトルフィールドで激闘を繰り広げる。 聴こえてこないか? 君を呼ぶスピリット達の叫びが。見えてこないか? 君を待つ夢の輝きが。 これは世界の歪みを断ち切る、新しい伝説を記した一大叙事詩である。――今、夢のゲートを開く時! 『とまとシリーズ』×『バトルスピリッツ覇王』 クロス小説 とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/ひーろーずU Battle76 『滅せよR/忌むべき不変』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ しょうがないのでリンやシャルロット、本音と清香をたたき起こす。あとはフェイト達にも確認した。 深夜で申し訳ないけど、念のためリンディさんにも確認した。織斑一夏から連絡はきていないかと……でも全員なし。 とりあえず本命の彼女と楽しんでいるのかもと結論づけ、リン達は寝かせた。僕達も一応お休み。 ただその前に警察へ連絡し、一応捜索手続きは踏んだ。そして翌日――クリスマスってなんだろう、トラブルが連続する日なのかな。 織斑一夏は朝になっても戻っていない。そうラウラから連絡がきたのは、朝の十時頃だった。 「――こっちにもきてないよ、ショウタロス達も見た覚えないって」 『そうか。あ、ちょっと待て……教官が五反田家にも聞いていたんだが、そちらも収穫なしだそうだ』 「そっかぁ。普通ならゴタゴタしたから、旅に出て自分を見つめ直す……とかなんだろうけどなぁ。部屋を荒らされた形跡は」 『ない。だがついさっき、リビングの床に重いものが落ちたような傷を見つけた。 ファンビーモン達も知らない匂いがあると言っている』 うわぁ、テンプレ過ぎて笑うしかない。重いものが落ちて、知らない奴の匂い? 宅配便でなにか注文でもしていたんだろうか。いや、それより確実なのは。 「ラウラ」 『兄さんもそう思うか。もしかすると一夏は、更識楯無に』 「改めて警察に連絡しとくわ」 『ただそうなると、少しおかしいところがあるんだ』 「おかしいところ……あぁ、白式やデッキが置きっぱだったところだね。ロード・ドラゴン・ストライクは」 『そちらはないんだ。本当に、一体どうして』 ……確かにそりゃあ、変だよね。更識楯無があれをさらったなら、置いていく理由がないもの。 持っていく理由ならいろいろ思いつくけどさ。ISがなかったら、織斑一夏は基本一般人だもの。 その一般人かそうでないかの境目が……まぁ僕も似たようなものだから、言ってて突き刺さるけど。 『私達も改めて周辺を捜索してみる。なにか分かれば、その都度情報交換を』 「うん、気をつけて」 そうして電話を終了。リビングに集まって、神妙な様子なみんなには……まぁお手上げポーズ。 「あの馬鹿、いきなり失踪ってなによ! しかもクリスマスに!」 「八神くん、織斑くん本当に」 「単なる失踪じゃないかも。状況的に倉持技研の時と同じだから」 「でもどうしてでしょう。織斑さんを連れていったとしても、ISコアの始動には」 「さぁ。傅いてもらうナイトでも欲しかったんじゃないかな」 ここはさっきも考えたところ。ISを動かせるというレアキャラすら魅了する、最強な私って感じ? だからISという『アクセサリー』がなかったら、傅かせる意味がほとんど消えると言ってもいい。そうなると僕も危ないけど。 いずれにせよ有力な手掛かりは更識楯無。本気で追い回さないと駄目だな、こりゃ。 じゃないと、もう……シャルロットなんて顔真っ青だもの。とにかく落ち着け、まずレムリ・アリエス絡みじゃない。 テストしようとしたところで倉持技研の件が明るみに出て、未だに黒子が預かった状態だもの。 ……黒子にも連絡しておかないとやばいか。もしかしたら国際バトスピ連盟に乗り込んでくるかも。 「たださ、白式を部屋の勉強机に置いていってるのよ。それも荒らされたような様子もないらしくて」 「はぁ!? いや、それ」 「やっぱおかしいよね」 「おかしすぎるわよ! 仮に抵抗して、白式が利用されないよう置いていったなら分かるわよ! でも机になんて……すぐ見つかっちゃうじゃない! 教官、ロード・ドラゴン・ストライクは」 「それはなかった。もし倉持技研関連じゃないとすると……やっぱり」 「なんにしてもイチカは、自分の意思で出ていったって事かな」 ……そこだけなら倉持技研の件と同じなんだよなぁ。でもさ、やっぱり置いていった理由が引っかかるわけで。 あの馬鹿会長、織斑一夏に惚れてたとか? いや、そんな素振りや描写もないしなぁ。 まぁ救いではあるけどさ。白式を使って犯罪とかされる心配もないし。うん、そういう可能性も出てきてるよ? 現に更識楯無、人をさらって好き勝手してるじゃないのさ。それでまぁ、清香もいるから最悪の可能性には触れない。 それは織斑一夏が、ロード・ドラゴン・ストライクに飲まれた可能性。それならある程度の疑問点は解消できる。 もしかしたら主として認めたわけではなくて、あれなら飲み込みやすいと思われただけ? なんにしても早く行方を掴まないと……くそ、こうもやられっぱなしだと笑うしかないぞ。ただその前に。 「とにかくリン、お出かけの準備は」 「いや、そっちはできてるけど……教官」 「向こうの予定は変えられないんだし、ビシッとやるしかないでしょ。 織斑一夏は警察やラウラ達も動いてるし、僕達はこっち」 「それもそっか。……よし」 リンは気分を入れ替えようと、両頬をパンと叩く。それからガッツポーズを取って、ようやく笑えるようになった。 「じゃあ僕達、昨日言った通りだから。フェイト、気をつけといてね」 「ん、分かった」 「相川清香もあれだ、気をつけてね。本音、悪いんだけど簪の事は」 「任せといてー。でもおりむー、大丈夫かなー」 「……今回ばかりは知らないよ」 セシリアとガオモン、ヒメラモン達も連れて、僕達は揃ってお出かけ。そう……今日はいよいよ待ち望んでいた時がくる。 織斑一夏の事はそれとして、こっちは楽しまないと。せっかくのチャンスなんだ……やるぞー! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ みんなと一緒にやってきたのは、都内にある中華料理店。ここであの人とリンが対談する。 さすがにまだ料理等は並んでいないけど、それでも奇麗な店内に僕達の心は踊りまくり。 とある団体客用の部屋を貸し切り、急ぎ照明などを準備中。リンも赤いチャイナドレスにさっと着替え、薄く化粧もする。 「ほう、色鮮やかだな。美味い料理が食べられそうだ」 「……ヘイアグモン、お前相変わらずそれか」 ダガーレオモンがぶ然とするのもしょうがない。だってここで僕達がお食事するわけじゃないしさ。 「いや、だがオレもお腹が」 「おのれら、朝ご飯食べたばっかだっていうのに。……でも凄いなぁ、ここ結構いいとこだよ?」 「あたしも雑誌で見た事あるわ。まさか、こんなところで対談させてもらえるなんて」 「素晴らしい光栄と幸運ですわね」 「勝どき一つで世界的有名人――まさしくシンデレラストーリーでしょう」 リンがシンデレラ、ねぇ。ガオモンの例えは間違っていないけど、どうもイメージが違う。ついセシリアと二人首を傾げる。 「む、なによ教官、その疑わしそうな目は。あたしじゃシンデレラじゃないってわけー?」 「いや、今はチャイナドレスだし」 「そっちかー。でも今日の衣装、悪くはないでしょ」 「それはね。よく似合ってるよ」 「ありがと」 そこでリンは一回転。スリットから見える足にドキッとしていると、ハトの鳴き声が響いた。 「あ、きたみたいですわね」 「アントニーさん、現場入りしましたー!」 左の入り口側を見ると、変わらぬ佇まいなユーロチャンプとソラリスがやってきた。僕達は揃ってお辞儀。 「みなさん、今日はよろしく。……やぁ、君達も久しぶり。あと恭文君、鈴ちゃんとの婚約おめでとう」 「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「ありがとうございまーす♪」 「婚約!? いや、お付き合い報告しただけ……ですみませんわよねー! 全世界発信ですもの!」 「私も今更ですが気づきました。な、なんというか……頑張ってください」 リンが笑顔で右腕に抱きついてくる。それがもう、辛いやらなんやら……引き返す事のできない道って、あるんだね。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今のところなんにも問題は解決してないけど、かんちゃんの体調は大分よくなった。 打鉄弐式の事も心配だけど、今日はかんちゃんの退院日。きよぽん達も一緒にきてもらって、四人でお迎えー。 まずは病室に入ると、かんちゃんはもうコート姿。モノドラモンもリュックを抱えて、帰りの準備はできてるみたいー。 「かんちゃんー」 「本音……大丈夫だって言ったのに。恭文君についてなくていいの?」 「いいのー。かんちゃんのメイドさんだから、やすみーのメイドさんなのー」 「えっと、初めまして……かな」 きよぽんは静かに頭を下げて挨拶。かんちゃんもそれに返してくれた。 「相川清香さん、だよね」 「あ、うん。え、私の事は」 「モノドラモンー」 そこできよぽんの両手から、シャコモンが飛び出す。それでモノドラモンに抱えられ、撫で撫でされて嬉しそう。 「退院おめでとうでゲソー♪」 「ありがとー! ていうか、わざわざきてくれたのか……かんざしー!」 「ありがとう、二人とも」 「あはは、やっぱりシャコモン経由かー」 「ぼく達デジモン、クラスは関係なく仲良しだからねー」 「納得した。えっと、私もいても」 「もちろん。というかあの、わざわざありがとう」 かんちゃんはやすみーと仲良くなったからか、以前みたいに笑う事が多くなった。それがとっても嬉しい。 今だってそう。……でもわたし、なーんにもできないなーって思っちゃってる。 やすみー、わたしよりずーっと強いし頭もいい。だから神様のカード相手でも頑張れば勝てちゃう。 助けてくれてばっかりで、わたしはやすみーの事、助けた事なんて一度もなくて……むしろ迷惑かけてばっかりでー。 それが少し寂しくなりながら、かんちゃんとモノドラモンも加えて六人で病室を出た。 「ねぇかんちゃん。一緒にやすみーの家で暮らそうよー。聖夜学園にはあむちゃんもいるしー」 「あむちゃん……って、さすがにそれは無理だよ。恭文君の家、もう満杯状態なんだよね」 「だからお隣さんー」 「本音、それもう我那覇さんが埋めてるんじゃ」 「お隣さんの、お隣さんー。それが駄目なら」 「どこまでも増えてくよ、それ」 あ、それを言われると……でもでも、かんちゃんも悪い気はしないみたい。一緒だったらって嬉しそうだもの。 「でも更識さん」 「簪でいいよ。お姉ちゃんもいるし」 「じゃあ簪さん、聖夜学園は昨日私もお邪魔したけど、かなり環境いいよー。 学内も広いし、緑いっぱいだし。そういえばプラネタリウムもあるって」 「プラネタリウム……学内に!?」 「わわ、それオレも見たいー! かんざし、いこうよー!」 「じゃ、じゃあまずは見学から……あれ、入る流れになってる?」 戸惑うかんちゃんを引っ張り、三人で一階の受け付けへ。退院手続きを済ませた上で、病院を出た。 「退院おめでとうございます、簪お嬢様」 「よかったですね、大事がなくて」 出ていこうとしたら、いきなり声をかけられた。……そうしたら玄関前のロータリーにお姉ちゃんと山田先生がいた。 あとあと、見覚えのある子達もずらーっと横並び。あれ、確かあの人達って、楯無お姉ちゃんの事大好きだーって人達じゃ。 「お姉ちゃんー」 「虚さん……山田先生もすみません。迎えにきてもらうなんて」 「いいえ。お迎えではなく、そのケダモノ達をデリートしにきたんです」 それでお姉ちゃんは、ピカピカーって光るカードをかざした。……あのカード、なんだか感じがやすみーのルード・ルドナと似てるようなー。 そう気づいた瞬間、モノドラモン達がいきなり虹色の炎に包まれる。きよぽんも熱さで慌ててシャコモンを手放しちゃった。 「ふぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「ネーモンー!」 「熱いゲソー!」 「シャ、シャコモン!?」 「かんざ……かんざしぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 「モノドラモン!」 みんな、地面にのたうち回って……助けようと思って、コートを脱いでみんなを叩く。でも炎は消えない。 それどころかコートにも燃え移って……わたしたちみんな、離れるしかなかった。待って、これって……! 「お姉ちゃん!」 「本音、なにを怒っているの。ケダモノと一緒にいるのはおかしいのよ? さぁ、行きましょう」 「更識さんが待っています。それで私達と一緒に、IS学園を再建しましょう。 デジモンのような侵略者に負けない、より強いIS学園を作り上げるんです」 嘘、山田先生まで……というか気づいた。みんなの目、なんだか怖い。笑ってるんだけど、違うの。 「お姉ちゃん……モノドラモン達になにしたの! 先生も答えて!」 「答える必要は」 『答えてほしいねぇ、ちゃんとさ』 そこでまた別の声。いきなりわたし達とネーモン達の間に、ケープを着た怪人が入り込んだ。 それが右の手刀でみんなの炎をさっと斬る。たったそれだけなのに、虹色の炎が一瞬で払われた。 「な……! お前は!」 驚くお姉ちゃんは下がりながら、怪人にカードをかざす。その途端怪人が焼かれちゃうけど、すぐにそれは消えた。というか逆に。 「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「布仏さん!」 お姉ちゃんが炎に包まれた。床を転がると、ネーモン達と違って炎はあっさり消える。でも、なにこれ。 怖い……炎や怪人じゃなくて、お姉ちゃんの後ろにいるみんなが怖い。お姉ちゃんが焼かれたのに、微動だにしないの。 身震いしていると、怪人がネーモン達に優しく触れる。それで僅かにくすぶっていた炎も全てかき消えた。 「あなたは、なんなんですか! また……また私達の学園を壊そうと言うんですか! 私達を間違っていると断罪するんですか! 私達はただ、変わらないものを望んでいるだけなのに!」 『それがお前達、そして亡国機業の間違いだといい加減思い知った方がいいね。……みんな、大丈夫?』 「う、うん……!」 「ネーモン!」 慌ててみんなへ駆け寄って抱き起こす。よかった……ちゃんと、生きてるよぉ。 「シャコモン、しっかりして! 生きてるよね、シャコモン!」 「だ、大丈夫でゲソォ」 「かんざしぃ」 「あ、あなたは」 『念のためついといて正解だった。虚さん、真耶さん、バトルもできないまがい物のカードは捨てた方がいい』 怪人さんはわたし達から離れて、お姉ちゃん達から守るみたいに前へ出てくれる。……なんだか、分かる。 この怪人さん、やすみーと似た感じがするの。きっとわたし達が襲われるかもって、守っててくれたんだ。 というか、お姉ちゃん達の事を知っているの? 今、虚さんに真耶さんって。 『それを使って戦っている間は、また今みたいに苦しむよ』 「貴様……!」 『二人とも、今解放してあげる。ゲートオープン』 怪人さんがライフカウンターを取り出そうとすると、お姉ちゃんがまたあのカードをかざす。 今度はピカーって光って、わたし達は眩しくて目を閉じる。……光が消えて辺りを見ると、お姉ちゃんの姿はどこにもなかった。 「お姉ちゃん!」 「先生! なんなの、他の人達も……一斉に。これって、オカルト?」 『逃げられたか』 「……モノドラモン? しっかりして、モノドラモン!」 そこでかんちゃんが更に叫ぶ。もうみんなは大丈夫なのに……大丈夫じゃなかった。 ネーモンやシャコモンは大丈夫。でもモノドラモンだけが、新しく出てきた虹色の光に包まれた。 それで止める間もなく、モノドラモンと光が小さくなって、カードみたいになった。 かんちゃんがそれを抱え上げる。わたし達も中をのぞき込んで、絶句する。中には張り付けにされた、モノドラモンがいたの。 「なに、これ……!」 『貸して!』 そこで動揺するかんちゃんから、怪人さんが優しくカードを奪う。……そこでさっきの炎を思い出した。 もしかして怪人さん、あの炎とかを食らっても無効化しちゃうのかな。でも……カードになにか起こったりはしない。 『僕が触れても干渉力を遮断できない……!? くそ、やられた!』 「なんなの、これ。モノドラモン、返事してよ……モノドラモン!」 かんちゃんが叫んでも、病院の人が何事かとやってきても、モノドラモンはなにも答えない。 でもシャコモンやネーモンも、もしかしたら……それが怖くて、わたしときよぽんは二人を強く抱き締めちゃう。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 対談は無事に進み、終了。さぁユーロチャンプとバトルだ……と思ったら、本音から泣きそうな声で連絡がきた。 話を聞いて寒気が走りながらも、僕達はユーロチャンプへ平謝り。こうしてバトルの機会はお流れとなった。 急ぎ自宅へ戻ると、本音と相川清香が思いっきり抱き着いてくる。泣きじゃくる二人を受け止め、とりあえず落ち着かせる。 そうしてリビングで改めて事情を聞いていると、ごくごく普通に黒子が入ってきた。 「八神さん、みなさんもお帰りなさい。お邪魔しています」 「ん……ありがとね。ネーモン達の事、見ててくれたんだよね。それで、モノドラモンは」 「駄目です」 黒子は首を振りながら、問題のカードをテーブルへ置く。改めて僕が触れるけど、さっぱりだった。 「ただネーモンとシャコモンは大丈夫です。恐らく二人は処置がほんの少しだけ早かったんでしょう」 「じゃ、じゃあもしあの、怪人さんがこなかったら」 「二人も、モノドラモンと同様に」 それで二人はなんとも言えない顔をしながら、客間の方を見る。今は簪も含めて、全員寝かせてる。 特に簪は……モノドラモンがこれで、しかもそれをやったのが虚さんだもの。駄目押しが更識楯無だよ。 虚さんと真耶さん、更識楯無が待ってるって言ってたらしいのよ。くそ、予想して然るべきだった。 アレがシンパを増やすつもりなら、生徒を巻き込むのはむしろ当然じゃないのさ。 「で、その怪人さんは」 「あの、病院の人がきたらすぐどっか行っちゃって……八神くんの知り合い?」 「一応ね。黒子、『神様に封印されたカードから、スピリットを解放する方法』は」 「ソードアイズとの戦いから今日に至るまで、そんな事例は一件もありません」 「おい、ちょっと待てよ! 恭文、そう聞くって事は」 「えぇ。神のカード化してます」 清香以外の全員が息を飲み、本音に至ってはボロボロと泣き出した。そんな本音を、清香は優しく受け止める。 「や、八神くん……神のカードって」 「過去ね、それこそ超古代文明って言われる時代……バトスピは存在していたんだよ。それどころかスピリットも実在していた」 「はぁ!? いやいや、バトスピってバンダイの」 「我々はあくまで昔存在したバトスピを、復刻させただけにすぎません。……自己紹介が遅れました。 私は国際バトスピ連盟・カード開発部所属、地尾あきまさと言います。 今言ったように、昔のカードプールを研究・復刻させる仕事についています」 「ど、どうも。え、じゃあ本当に」 「はい。ただ神は自ら生み出したスピリットを、反旗を翻されたため封印したんです。今のように」 そこで清香は息を飲みながら、モノドラモンのカードを改めて見る。 「人々はそれを用い、バトルスピリッツというゲームを構築した。ただそんな封印を施した神は倒され、もう存在していません。 ですが世界には一万年以上の時を経てなお、複数存在しているんです。スピリットを閉じ込める檻――神の作りしカードが」 「そんな。それが、外へ出たりできないっていうなら……モノドラモンはどうなるんですか! 簪さんも!」 「落ち着いてください。ただこれは、厳密な意味で神のカードとは言えないんです」 「黒子、どう言う事よ。確かに気配が」 「ここから先を調べるには、あなたの知識とツテ、更に紋章の力が必要です。 ただ一つ言えるのは、まだ慌てるような時間じゃない……って事ですか?」 「僕の知識とツテ? ……まさか!」 慌てて両手をカードへかざし、意識集中。更に紋章にも力を貸してもらう。……すると僕の体から黒い光が生まれる。 そうして改めて、自分の感覚だけではなくデータとして『これ』を理解する。そうか、そういう事か。 「や、八神くん? それなに! なんかオカルトっぽい光がー!」 「大丈夫だよ。ヤスフミは紋章の力を使ってるだけだから」 「紋章!? いや、紋章ってこんな事までできるんですか!」 「ヤスフミの紋章だから、かな。どうかな、ヤスフミ」 「間違いないよ。ごめん、僕は結論が早すぎた」 手を引き、纏っていた力を収めていく。軽く浮かんでいた汗は右手でさっと拭う。 「これ、暗黒進化に近い。モノドラモンはこの状態でもデジモンとして存在してる」 「暗黒進化……ポコモン」 「恭文が闇の紋章で理解した事だ、私が言える事はないだろ。つまりあれか、絶晶神の力で強制的にと」 「でもこれは」 僕の力だけで戻せないかもしれない。ここは……携帯を取り出し、光子郎さんも呼び出しておく。 まずはこのカードについて、徹底的に調べないと。それから、簪には……どう説明するか決めようっと。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そしてその日の夜――光子郎さんとテントモンにもきてもらって、うちはもう過密状態。 それでも数時間後、なんとか結果は出た。時刻は午後十時……疲れたー。 「八神くん、お疲れ様」 結局今日もお泊まり決定な相川清香が、僕と光子郎さん、テントモンに黒子へにゅうめんを持ってくる。 それを受け取ると、丼の温もりでほっとしてしまう。そっか、もうお夜食が妥当な時間だったんだ。 「ありがと」 「えっと、泉さん達もお疲れ様です」 「いえ、ありがとうございます」 「それで、その」 「……結果として、私達の予想は半分当たって半分外れていました。まずモノドラモンを元に戻せる可能性は、十分にあります。 そのためには退化を司り、時にデジモンの転生すら可能にする闇の紋章が必要」 黒子は両手を合わせ、にゅうめんの麺を器用にすする。……面は外していないのに。 「じゃあ、大丈夫なんですね! よかったー! 簪さんが聞いたらきっと」 「ごめん、それ無理」 「え……!?」 「僕の力だけじゃ絶対に戻せない。モノドラモンの状態は、強制進化なんかじゃなかった。 ……絶晶神の力で無理やり圧縮して、デジタマにしてるんだよ。ほら、パソコンでもデータ圧縮があるよね」 両手を使い、おにぎりを握るような仕草。それを見て相川清香は、大体の事がイメージできたらしい。 「ならあの、解凍すれば……フェイトさんからも教えてもらったけど、八神くんの紋章ってやり直す紋章なんだよね」 「その通りです。ですが圧縮率が凄すぎて、現在の恭文くん単独では解凍できないんです。というか、できませんでした」 「あ」 そこ、なんだよなぁ。僕の魔法が健在だったら、まだ分からなかっただろうに……そこで相川清香が思いっきり頭を下げてきた。 「ご、ごめん。私、知った風な口叩いちゃって」 「別にいいよ。それに……これで方向性は定まった」 「えぇ。必要なのはより大きなパワーです。しかしこれ以上となると、更識簪さんの力を借りるしかない。 ようは進化のパワーも込みで、神の檻を打ち破るんです。ただし必要なのは成熟期レベルの進化じゃなく、完全体以降へ超進化ですけど」 「つまり紋章とタグが必要になるんですわ。でも簪はん、そのどちらも持っておりません。本音はん達にも確認取りました」 「そんな。紋章とタグなんて、どうやって……デジタルワールドにでも行かないと。 ねぇ八神くん、更識会長のカードを止めて、それでっていうのは」 「行く、よ」 そこでリビングの入り口から、フラつきながら簪が入ってきた。今にも泣きそうな顔で、僕へ近づいてくる。 「簪さん、まだ動いちゃ駄目だよ!」 「恭文君、お願い。力を貸して。モノドラモンを……モノドラモンを助けたいの!」 「無視しないでー!」 ……実はもう一つ、恐らく確実な方法がある。少なくとも今からタグと紋章を準備するよりは楽だ。 でも簪の目はもう、気持ちを固めていた。僕はため息混じりに立ち上がり、簪を手招き。 近づいてきた簪を座らせ、にゅうめんを食べさせる。まずは腹ごしらえからだよ。 「相川清香、ごめんね。にゅうめんは簪と分けるわ」 「ううん。でも、八神くんに頼んでもさすがに無理じゃ」 「大丈夫。……黒子、こっちの事はお願いできるかな。光子郎さん、テントモン、すみませんけど付き合ってください」 「その方がよさそうですね。それなら篠ノ之さんも誘ってはどうでしょう、確か彼女も紋章が必要だったはずです」 「そうします」 「え、あの……八神くん、もしかして」 「行けるよ。だって僕」 笑ってD-3を取り出し、心配そうな相川清香に見せつける。 「オリジナルD-3の持ち主だもの」 「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 「……あ、でも内緒ね? バラしたらツルすから」 「りょ、了解」 わりとマジなトーンで言ったせいか、相川清香はすぐ理解してくれた。いやー、安心安心。 ……さて、簪も腹ごしらえしてくれたし、まずは準備だね。向こうへ行く前に、やらなきゃいけない事が幾つかあるから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 簪と一緒ににゅうめんを食べた後、自室待機していたみんなを呼ぶ。 相変わらずの過密状態だけど、留守にする以上みんなの協力は必要だもの。説明しないわけにはいかない。 まずはモノドラモンの状態を説明。そのためになにが必要で、僕がどう行動するかも説明。更に。 「――更識楯無は絶賛行方不明で、更識家ももぬけの殻。使用人の方々までいなくなっていた」 「お父さん達まで!? 恭文君、それは」 「モノドラモンを調べてる時、警察にも連絡したんだ。一応重要な手掛かりだからね、虚さん達は。 更に更識楯無のシンパだった生徒達も失踪中。あとね、IS学園所属のデジモン達が次々と襲われてる。そうしてみんなカードに」 「お姉ちゃん、そんなー! どうしてー!」 「考えるまでもないよ。デジモンはISという兵器ではどうにもならない存在。 そんなのがいたら、IS学園最強であっても意味がなくなるもの。 ……もちろんIS学園の平穏を、自分達で守る事もできない。だから真耶さんも賛同してる」 そう、だからあの馬鹿はデジモンそのものを消しにかかった。そうして自分の強さを証明……ううん、違うね。 更識楯無って器を、健在だったIS学園という場所を守ろうとしてるのよ。デジモンにも勝てるし、あんな超犯罪にも対抗できる。 そんな凄いキャラであり場所……でも自分達が起こしてるんだけどね、その超犯罪! 「じゃあ恭文くん、その子達も連れてデジタルワールドへ?」 「いえ。恐らく更識楯無と絶晶神を止めれば、みんなへの圧縮も解除されます」 「じゃあそっちでいいじゃんか。アンタがあっち行っちゃったら、バトスピでの戦力が少なくなるだろ? あの外道も失踪してるし」 「そうも行かないんですよ、アルフさん。……調べて分かったんですけど、モノドラモンはちょっとずつ弱ってる」 そこでみんなが息を飲み、テーブル上のモノドラモンをガン見。 張り付け状態だから表情は分からないけど、それでも苦しげな感じはさっきからしている。 「モノドラモンだけがカード進化しちゃったのは、どうも念入りに攻撃されたせいですね。 オフィウクス・ゾディアーツがもう少し早く出てきても、結果は変わらなかった」 「じゃ、じゃああれか!? 念入りに攻撃された分、この子は死にかけてるっていうのかよ!」 「なのですぐにでも圧縮を解除しないと、かなりやばいです。ようは特別処置ですよ」 「納得した。そうだよな、死なせるわけには……いかないよな」 アルフさんは涙目でモノドラモンのカードを、優しく励ますように撫でる。その姿を見て、簪が驚きながらも嬉しそうに笑った。 「恭文君、一応聞くけど……モノドラモンが念入りに攻撃されたのは」 「間違いなく馬鹿会長の意思だよ。モノドラモンがいると、自分は妹を守れない。 だから排除するってさ。元々邪魔だと思ってたんでしょ、他のデジモン達もそう」 「教官、そこまで言っちゃって」 「……じゃなきゃ、こんな事になるわけがない」 「それも……そっか」 思い出してほしい。IS学園が炎上した時、みんなはIS学園を――生徒達を守るため、必死に頑張ってくれたじゃないのさ。 シャコモンだってそう、ギラモン達だってそう。そんなみんなを、ケダモノ扱いして燃やして……挙げ句これだ。 それも自分達の優位性を守るためだけに。……こんなの、絶対に許されるべき事じゃない。 「なら後の問題は、やはり更識楯無達ですわね。IS学園のシンパも味方につけ、実行動へ移っているわけですし」 「しかも彼女達は自らの行いを誇ってもいる。更識会長の名前も堂々と出していましたし。 ……ですがお嬢様、彼女達を止める方法ならあります。バトルにより影響を解除できるのは」 「あ……そうだよー! あの怪人さん、お姉ちゃん達にゲートオープンってやってたもん!」 「シンパ達はそれでよしとして、問題は本人よ。バトルを申し込むにしても、居場所が分からないと……ん?」 リンも気づいたらしく、もしやという顔で簪を見た。それで簪は慌てて、首を横に振る。 「あ、あの……私、お姉ちゃんの居場所は」 「そういう事じゃないわよ。……はっきり言うけど、更識楯無は歪んでいるわ。なによりもまず、自分のキャラを守ろうとする。 ならIS学園最強として、生徒会長として、更識当主として、事件を追うのは必然。 そうする動機はやっぱり、アンタの打鉄弐式が燃やされちゃった事もあるはず。つまり」 「……そうか、棚志さんですね! 赤の絶晶神所持者が棚志さんだと気づけば、間違いなく攻撃を仕掛けますわ!」 「それこそがペインメーカーの狙いでしょうね。太陽神同士がバトルでぶつかれば」 「「あー、ちょっと待った!」」 そこでアルフさんがさっと右手を挙げてくる。ていうか、清香も挙げてくる。 お互いにハッとし、どうぞどうぞと譲りあった結果……清香から話す事にしたらしい。 「ねぇ八神くん、それなら余計に八神くんがこっちにいるのは駄目なの? ほら、白の絶晶神っていうの、八神くんも持ってるんだよね」 「あ、アタシもそれ言いたかった……って、駄目だよなー! そうだ、すっかり忘れてた!」 「え、どうしてですか!」 「あのね相川清香、絶晶神は全六色あるんだけど、そのどれもが異なる文化形態から生まれた太陽神なのよ。 つまり力の出元は一つ。だから太陽神同士がバトルしちゃうと、相互反応を起こして」 「ど、どうなるのかな」 「世界規模の破壊現象が起きるか、融合してより巨大な神様になるか。どっちにしてもろくな事にはならない」 「なん、だよなぁ。アタシもそれ、さっきまですっ飛ばしてた」 そこでフェイトがアルフさんを、慰めるように撫で撫で。アルフさんも状況に混乱してるだけだから、あんまり言えないわけで。 「じゃあさ、なんでその、本音のお姉さん達は手先みたいになってるのさ。 いや、シンパってのは分かるんだけど、それが更識楯無のキャラをどう守るのか」 「……お姉ちゃん、人の心を掴むのが上手なんです。だから『人たらし』なんて言われてる。 例外は恭文君とかくらいで……そういうのも、『更識楯無』のキャラと言えばそうなります」 「そっか。なんかさ……まぁ妹なアンタの前で言うのあれだけど、疲れないのかな」 「え」 「自分の『なりたい自分』じゃなくて、誰かの都合に合わせた『なりたい自分』を必死に演じてる……それって、面倒だよ」 ……そこで簪は俯いてしまう。なにも答えられず、ただ黙る。そんな簪を見て、アルフさんが慌て出す。 「ご、ごめん! そうだよな、お姉ちゃんだもんな! 今のは忘れてくれていいから! いや、ほんとに!」 「大丈夫、です。とにかくその、赤の絶晶神がIS学園を……だったよね。その辺りの証明って」 「できてないのよ。現状だとさっき説明した通り、バトルの中で対話ってのも難しくて。 ……ただ更識楯無を確保すれば、はっきりするかもだけど。今のあれはあらゆるものを持ってるもの。セシリア、リン」 「分かりましたわ。狙いが棚志さんなら」 「連中を近づけさえしなければこっちの勝ちよ。そこはデュノア達とうまくやる」 「お願い」 黒子もセシリア達と一緒にいてもらうとして……これではっきりするよ。織斑一夏の失踪がアレに絡むかどうか。 絡むなら確実に出てくるはずだ。出てこなかったら、本当にどうしたものか。 「そういえば八神さん、アストロスイッチの方は」 「それなら二十四番まで解放・練習済みだよ。二十番――ファイヤースイッチもバッチリ受け止めてる」 「私達も訓練には付き合ったが、問題ない」 そこでリインフォースとシャマルさん、リーゼさん達がニコニコしてくる。もうほんと、感謝しています。 「なら安心ですね。こちらはまぁ、なんとかしますのでご安心を。恐らく彼らも手伝ってくれるでしょうし」 「……だよねぇ」 普通に姿現したんだよね、オフィウクス・ゾディアーツ。消えそうになっても……か、又はなんらかの対策が掴めたか。 夜も遅いので、気になりながらも就寝。明日から早速行動開始となる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そして翌朝――早朝六時という時間だけど、箒とギラモンが自宅にやってきた。そして僕の自室へ入ってもらう。 更に簪と光子郎さん、テントモンもきて……ただまぁ、ツッコもうか。ヒメラモン達もどうしたものかとヒソヒソしてるし。 「ねぇ箒」 「なんだ、事態は風雲急を告げるのだろう? 私達は大丈夫なので、早く」 「……早くできないよ! てーかなに、その探検家ルック! あとね、リュックがデカすぎ! 箒のおさげより大きいでしょ!」 「そうやで箒ちゃん、物持ちすぎやて」 「なにを言っている! 異界での冒険だぞ、なにがあってもいいように装備は整え」 「基本身軽な方がいいの! ほら、アルトに荷物収納してあげるから、一旦下ろして!」 ――そして下着関係以外の荷物はアルトとジガンに収納。なお持ってきたのはテントに食料多数……マジで冒険家だった。 あとね、日本刀が五本くらい入ってた。これは持っていく意味が分からないので、遠慮なく置いていく。武器としてならこれが当然だよ。 「じゃあすっきりしたところで行くよ」 「えぇ」 「うん。恭文君、お願い」 「――デジタルゲート、オープン!」 D-3をパソコンへかざし、一気にデジタルワールドへ。光を突き抜け、僕達が着地したのは崖の上。 尻もちをついた箒を起こし上げ、崖の上から……どういうわけか広がっている砂漠を見る。 「恭文、ここが」 「うん、デジタルワールドだよ。ギラモンはわりと久々かな」 「たまごの状態やったけどなー。うーん、懐かしい空気やー」 「やっほー!」 なぜかヒメラモンがやまびこを期待し叫ぶ中、ギラモンも気持ちよさげに伸び。 「私達も久しぶりだな。人間とIS学園へ出張って以来だろうか」 「わりと長く留守にしていたか。……本当なら帰郷を楽しみたいところだが、それは後だ。光子郎」 「分かっています」 ヘイアグモンに頷きつつ、光子郎さんがしゃがみ込む。それからノートパソコンを取り出し、素早く開いてなにやら操作。 「あの泉さん、なにを」 「ここでデジタルワールドのエージェントと待ち合わせしてるんです。昨日のうちに連絡して、あなたのタグを用意してほしいと」 「そんな事までできたんですか!?」 「光子郎さん、僕の先輩だもの」 「……ちょっと待て。エージェントという事はもしや」 『僕だよ』 ノートパソコンからあの声が響く。光子郎が立ち上がり脇へずれると、モニターからプリズムの光が漏れた。 それが形作られ、ゲンナイとなる。いきなりな登場に簪が軽く息を飲んだ。 「初めまして、更識簪」 「やはり……ゲンナイ殿!」 「あの、初めまして。でもこの人は」 「私はゲンナイ。デジタルワールドの大いなる意思に使えるエージェントさ」 「ようは神様直属の小間使いや。光子郎や恭文達も、ここで冒険しとった時はサポート受けてたんよ」 驚く簪に、ゲンナイは優しく右手を差し出す。そこにタグが握られていた。 「事情は聞いている。これが君のタグだ、受け取ってくれ」 「は、い」 簪は緊張気味にタグを手に取る。するとタグが光輝き、ある方向を指す。……それは砂漠の向こうだった。 「これは」 「君の紋章がある場所を指し示している。まずはあの砂漠を渡ってみるといい。そういえば篠ノ之箒、君のタグは」 「は……そうだ!」 慌てて箒も自分のタグを取り出す。……指し示す方角は、簪と真逆だった。 「反対方向かー!」 「いや、でもちゃんと反応しとるんやから、これは次回やな。今はモノドラモン助ける方が先や」 「それもそうだな」 「ごめん」 「謝る必要はないさ。大事な友の危機なんだ」 簪が嬉しそうに笑い、お礼のお辞儀。二人は胸元へそっとタグを仕舞った。 「細かい場所を教える事はできないが」 「大丈夫です。見つける事も含めて試練だと、恭文君が教えてくれたので」 「私も同じくです。ただその、あなたは現実世界についても詳しいと聞いています。もしよければ」 「ISのオリジナル、織斑一夏君とご両親の捜索はこちらでも行っているよ」 驚く箒が僕を見るので、その通りとアイサイン。……今回、管理局組の手は基本借りられないしね。 ゲンナイには危険も説明した上で協力してもらってる。一応、やらないって選択肢もあったのに……そこはほんとあり難い。 「なにか分かれば最優先で君達に伝えよう。それは約束する」 「……感謝します! ゲンナイ殿!」 「では幸運を祈っているよ」 「ありがとうございました、ゲンナイさん」 ゲンナイはほほ笑みながら、光となって消え去る。それから流れる風を受け止め、改めて砂漠を見据える。 しかし砂漠……まさかフェイトの時みたいに、蜃気楼状態になってるとかじゃないよね。 「ヤスフミ……向こうは本当に大丈夫なのか?」 そこでショウタロスが心配そうに腕組みし、僕の前に出てきた。 「その、早朝ニュースでも凄い騒ぎだったじゃねぇか」 「そのためにお兄様は手を打っていますよ。あとは私達でどれだけ早く止められるか」 「取り返しがつかなくなったら、その時点で……オレ達は本音と簪から」 「そうならないよう、祈ろうか」 戦う事に迷いはない。その結果なら引き受けなきゃいけない、いつも通りやっていくだけの事だ。 例え本音と簪から、大事なお姉ちゃんを奪う事になってもだ。……迷いはない、正しい事はちゃんと見えてる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 十二月二十七日、午後十二時――恭文さんが出発し、居残り組は更識会長達の捜索を開始。 ですが、状況は芳しくありません。捜索と言っても制限がかなりかかっていますから。 まずルード・ルドナを所持し、デジモンパートナーである恭文さんとその関係者はかなり危ない。 次にわたくしとボーデヴィッヒさん、昨日襲われたお二人ですわね。二度あることは三度あるとも言いますし。 ……総数で言えば、既に超えておりますけど。白昼堂々とした事件なので、マスコミも既に騒ぎ出している。 国際IS連盟も事件の関与を疑われ、各国から絞め上げられている模様です。堂々と名前を出すから、もう。 これでは事件が無事に解決しても、山田先生は失職するかもしれません。もちろん関与した生徒達も退学。 これ以上被害が出て、取り返しがつかなくなる前に止めなければ。なのでフェイトさん達は揃って、時空管理局・本局へ避難。 わたくしは鈴さんと、ボーデヴィッヒさんはデュノアさんに布仏さん、相川さんと一緒に捜索中です。 それで自宅にはしばらく戻らないように……強襲されるとしたら、あそこが一番危ないですから。 もちろん狙われる動機もある。恭文さんは図らずも、更識会長のキャラを打ち壊せる存在。 現在はそのキャラを固めるために暴走しているわけですし、なによりも邪魔なはずです。 正直、デジタルワールドへ行ってもらってよかったと思います。恭文さんの姿が見えなければ、狙いは自然と絞られますから。 あとは織斑さん……本当に、会長が取り込んだんでしょうか。どうしてでしょう、嫌な予感がするんです。 鈴さん達への対処もそうですけど、最近のあの方はやけっぱちになっていたように感じて。 できるなら冗談ではなく、隠れていた本命の彼女と楽しんでいてほしい。そちらの方がまだ笑い話にできますもの。 悩みながらも門出町周辺を右往左往。さすがに疲れて、ケンタッキーフライドちくわを買い食い。 ちくわのフライドってどうなのかと思ったら、温まったちくわは魅惑的な風味をかもちだしていた。 それがスパイスと混ざり合って……なんて幸せ。ガオモンと一緒に表情を緩めてしまう。 「うぅ、恭文さん達に申し訳ないです」 「まぁまぁ。こういう時こそしっかり食べておかないと、力つかないもの」 「そうですよ、お嬢様。しかし……これは美味しいですね。是非再現してみたいです」 鈴さんとガオモンに励まされ、これも大事な事だとちくわをかみ締める。 それでガオモンの隣にいるピンク髪の子も、うんうんと頷いてくれます。 「ほんと美味しいよねー。いや、こっちはきた事なかったんだけど、これは当たりだわ」 「しゅごしゅごー♪」 「ところで日奈森さん、カオスモンは」 「……あー、アイツならデジタルワールドの方。止める間もなく飛び込んじゃって」 「アンタ、苦労してるのね」 「言わないで……!」 ……そうそう、捜索にはもう二人加わっています。それは日奈森さんとしゅごタマモンです。恭文さんが巻き込んだんです。 日奈森さん、実は幼稚園の頃更識姉妹と関わりがあったらしく……それで一人にしておくと危ないと判断して。 それに日奈森さんも今の更識会長を放っておけないと……本当は、更識さんについていたかったはずなのですが。 「ていうか、アンタはこっちでよかったの? 更識さんとは親しかったのよね」 「まぁ、かんちゃんってあたしも呼べるくらいには。実はさ、何度かお見舞いにもいってて」 「え、マジで!?」 「八神君が気を使ってくれて。……あっちはその八神君や光子郎さんもいるし、大丈夫だよ。それにほら、いざとなったら」 そこで日奈森さんは背負っていたバッグから、ノートパソコンを取り出します。更に懐からD-3……あ、なるほど。 「わたくし達を連れて、デジタルワールドへ避難するのですね」 「正解。そこも八神君と相談して決めたから、安心していいよ。 ……あ、本音ちゃんのとこには、また別の子が向かってるから」 「しゅごー♪」 「そっちも同じ感じで? しかし教官、手回しがいい」 「八神君、基本いっつもそうだよ? 自分が離れる時は打てる手打ちまくるの。心配性だよねー」 「あー、分かるわ。しかもやたら悪知恵働くから、あんま文句も言えないのよねぇ」 その言葉がまた重い。一緒に冒険してきたから、教官と慕っているから……そう、確かな信頼があった。 特に日奈森さんは。基本喧嘩の多い二人ですけど、数年の付き合いですものね。これも当然です。 「――オルコット、凰!」 そこで緩まった表情が引き締まり、慌ててベンチから立ち上がる。右側を見ると、慌てた様子で織斑先生が走ってきた。 「「「織斑先生!」」」 「すまん、遅れた。山田先生が今回の事件に関わってる関係で、警察から事情聴取を受けてな」 「あちゃー、やっぱりか。それで」 「PSA――忍者派遣組織の劉氏が手を回してくれたようでな、一応なんとかなった」 あ、なるほど。前に絶晶神の事は説明したからですわね。恭文さんが向こうへ行く前に、連絡していたのでしょうか。 なんにしてもよかった。あの集団を捕まえようとしても、遠慮なく燃やされるだけだろうから。 ……そこで先生が日奈森さんをちら見。日奈森さんが慌ててお辞儀する。 「先生、こちらは日奈森あむさんとしゅごタマモンです。わたくし達の同級生で、オリジナルの持ち主なんです」 「あとは更識さんとも幼なじみ。話を知って協力してくれてるの」 「あの、初めまして」 「しゅごしゅごー」 「初めまして、凰以外の担任で織斑千冬だ」 「……え、鈴ちゃん以外?」 「あたし、教官達とは違うクラスだから。あとは更識さんもね」 納得したらしい日奈森さんは、声を漏らしながら苦笑。そこを律儀に説明しているのですから、それがまたおかしいです。 「進展はどうだ」 「手掛かりなしですわ。やはり棚志さんの周辺を張るしか……その、織斑先生」 「……役に立たない教師だからな。こういう時くらい、率先して動かないとまずいだろ。あと、増援も連れてきた」 「増援?」 「僕達だよ」 そうして出てきたのは、青髪短髪で眼鏡の男性。ブレザー姿で、とても理知的な印象。 肩にはこう、アザラシっぽい小さなデジモンを載せていた。もう一人はオレンジ髪の女性。 ボブロングくらいの髪で、ピンク色の鳥型デジモンを抱いている。その、見慣れない方々だった。 「えっと、あなた方は」 「空さん! 丈さんもどうしたのかな!」 「しゅごー!?」 どうやら日奈森さん達のお知り合い……あれ、という事は。 「初めまして。私は武之内空」 「パートナーのピヨモンよ」 「僕は城戸丈。こっちはゴマモン」 「よろしくなー。えっと、光子郎と一緒に旅した仲って言えば分かるかな。あとはあむ達ともちょこちょこなー」 「あ……! 一九九九年の選ばれし子ども達!」 「我々の先輩ではありませんか。初めまして」 慌ててみなさんへお辞儀。……でも一体どうしてこちらにいらっしゃったんでしょう。 日奈森さんが呼んだのかと思ったけど、先ほどの驚きようからそれはない。でも予期せぬ新しい出会いに、胸が高鳴っていく。 「フェイトちゃんに聞いて、あなた達がこっちにいるって教えてもらって……その途中で先生ともお会いしたの」 「あたし達に? あの、それって教官じゃなくて」 「あなた達よ。あの子達がね、あなた達と一緒に戦いたいって言ってるの。空」 「丈、早く早くー」 「分かってるって……はい」 そうして城戸さんはわたくしに、武之内さんは鈴さんにバトスピカードを差し出す。……見た事がないカードだった。 鈴さんは七色に輝く羽根扇で、背後に紋章らしきものが描かれていた。わたくしのは、角槌? 「愛情の鳳扇フェニック・ファン?」 「誠実の角槌ナーヴァルハンマー……あの、これは」 「ちょ、愛情と誠実って、二人の紋章じゃん! あれ、まさかこれタケルと」 「しゅごしゅごー!?」 「そういう事、みたいだね」 まさか、これは……紋章のソードブレイヴ!? 高石さんのものがそうなったのは聞いておりますけど、まさか他の方々もなんて! そこでゲンナイさんの仰っていた事を示す。これが、デジタルワールドの意思。わたくし達が示すべき、可能性の一つ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 愛情の鳳扇フェニック・ファン(とまとオリカ) ブレイヴ 5(3)/緑/剣刃 <1>Lv1 5000 <0>合体+5000 ≪合体条件:コスト5以上≫ 【合体時】『自分のアタックステップ』 このスピリットは、相手がバーストをセットしている間、疲労しないでアタックできる。 【合体時】『このスピリットの合体アタック時』 相手は、相手のセットしているバースト1つを破棄することができる。 この効果でバーストが破棄されたとき、ボイドからコア2個を自分のリザーブに置く。 シンボル:緑 テキスト: 強き愛情は、ときに常識をさえも吹き飛ばす。 (デジモン紋章ブレイヴ。七色に輝く羽根を集めた羽根扇。 「回復」ではなく「疲労せずアタック」にしたのは回復メタへの対策。 それだけだと相手のバーストが「召喚時発揮後」の場合に無限アタックが 成立するので、相手が自発的にバースト破棄出来るようになってます) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 誠実の角槌ナーヴァルハンマー(とまとオリカ) ブレイヴ 6(3)/青/剣刃 <1>Lv1 5000 <0>合体+5000 Lv1『このブレイヴの召喚時』 自分のデッキのカードをすべて自分のトラッシュに置く。その後、自分の トラッシュあるネクサスカードを好きなだけコストを支払わずに配置する。 <合体条件:コスト5以上> 【合体時】『お互いのアタックステップ』 効果によってアタックステップを終了することはできない。 シンボル:青 テキスト: 敵対者にも偽りなく真心を持って戦いを挑む……大胆にして誠実な戦術だ。 (誠実の紋章ソードブレイヴ。ナーヴァルとはイッカクのこと 誠実とは何ぞやと考えた結果、「戦力を隠さずフルオープン」と見て 背水の陣を敷いて最大戦力でラストアタックを行うカード。 デュラン・キッドやギ・ガッシャのような大量回収系と合わせると面白いかも 出したターンで決めないとまず敗北だが、ジェラルディーやブラックスターと 組み合わせて延命を図る可能性も考えられるので、 公平にするため、ウォール系メタの効果は自分にも有効としました) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ オカルトなんて信じない私だけど、このカードは信じられる。カードが教えてくれたの、自分と同じ存在を。 そいつがIS学園を……私達の城を破壊した。更識楯無の城を破壊し、蹂躙した。そんなのは許さない。 それはやっぱり、イビツとか言う奴の話していた赤い絶晶神。本来なら退魔師などに頼むのが筋道なのだろう。 でも心配ないわ。私はIS学園最強――オカルトなんて、その強さで切り払える。そのための実験もうまくいった。 打鉄弐式は相変わらず動かせないけど、忌々しいケダモノ達は排除できたもの。 虚や山田先生、私を崇めてくれる信者達に力を分け与えてね。うふふ、こうじゃなくちゃ。 強くなくちゃいけない。私は誰よりも、なによりも強くなくちゃいけない。そうして全てを守るの。 簪ちゃん、待っててね。私は今、生まれ変わるわ。IS学園最強はより高みへ昇るの。 赤の絶晶神――アマテラスも私の力で支配する。もちろんその所有者である棚志テガマルもよ。 さぁいきなさい、私を最強と認める者達。あの男に、裁きを与えるのよ。そうして後悔させてあげる。 この私を――『更識楯無』を貶めたんだから、それくらい当然よ。 私は強くなければならない、私は負けてはいけない。だから、私には全てを裁く権利がある。 (Battle77へ続く) あとがき 恭文「というわけで、ひーろーずUも二クール目終了。次回からは新OP」 フェイト「またそれ!?」 恭文「あれだよ、後半戦だから気持ちを切り替えてって意味だから」 フェイト「な、納得しました」 (物事の切り替えって大事ですよね) 恭文「というわけでついに動き出した黄色の絶晶神……てーか馬鹿無。わりとさっくり終わらせる予定ですが」 フェイト「こちらの展開や最後に出てきたカード達は、読者アイディアが元となっております。アイディア、ありがとうございました」 (ありがとうございました) 恭文「お相手は蒼凪恭文と」 フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……ヤスフミ、リンちゃんにあのカードは」 恭文「実は今回二人が渡されたカード、それぞれのキースピリットと絡ませるとかなりやばい事になります。一体どの辺りがやばいかは、次回以降で」 (当然ばっちり出番があります。鈴の最強化が止まらない) 恭文「そして落ちて以降、出番が見えないミルキーウェイ」 フェイト「ま、まぁ今後だよ今後。助けられる状況も多くなりそうだし」 (全国大会では強敵たくさん。でもテンポよく進めましょう) 恭文「そうだ、今日作者は秋葉原へ行ってきて……注文した同人誌を受け取りに」 フェイト「『アリスのプラモ』だよね、新装版で出たのを見つけて……えっと」 (ぱらぱらー) フェイト「東方のアリスちゃんがプラモを作るんだけど、それが孤独のグルメ風で」 恭文「実は作者、この本に凄い衝撃を受けました。いや、絵柄どうこうじゃなくて、同人誌はこういう作りもアリなんだと。なにより」 (テーブルどん!) 恭文「途中でムサシロードが流れてるの! 歌詞載ってたの!」 フェイト「そこ!?」 (JASRAC、こいよ! ナイフなんて捨ててかかってこい!) フェイト「きちゃ駄目ー!」 恭文「まぁ作者は怖いからやらないけど。でも……こういうのもアリなんだよなぁ。いや、勉強させていただきました」 (勉強しました。そしてアリスのプラモ、実際に読んで面白かったのでお勧めです) 恭文「そして四体目のF91とアドバンスド・ヘイズルをゲット」 フェイト「四体目!? いや、三体目もあるのにー!」 恭文「三体目は予備パーツとなっているけどねー。あとアドバンスト・ヘイズルはあれだ。 やや古いキットなんだけど、Amazonとか六百円近くより安くてさ。千百円前後で買えた……が」 フェイト「が?」 恭文「帰ってきてネット検索したら、アドバンスド・ヘイズル……Amazonだと千九十一円だった」 (安くなってたのね。でも送料の分……電車代があったー! 税金上がったおかげで、アキバまでの電車代も上がってたし!) 恭文「ただアドバンスド・ヘイズルも見かけなかったから確保しただけじゃなくて……フェイト、頑張ってね」 フェイト「ふぇ!?」 恭文「読者アイディアを叶えるためだから」 フェイト「ど、どういう事かな! なにかなー!」 (ヘイズル改は発売直後に買ったから分かりますけど、恐ろしい可動範囲と完成度を誇っていたキットでした。 そしてアドバンスド・ヘイズルはそんなヘイズル改に追加パーツが入り、更にティターンズカラーへ色変えされた状態……楽しみです。 本日のED:鮎川麻弥『Ζ・刻を越えて』) あむ「えっと、アドバンスド・ヘイズルは二〇〇五年の十一月……え、八年前のキット!?」 恭文「うんうん、懐かしいなぁ。サーベルと手首が一体化したパーツが昔はあったのよ。 この辺りから、かな。肘とかが二重関節になって、ガシガシ動くようになったのは」 古鉄≪あなたも一時期、ガンダムバトルで使ってましたよね≫ あむ「でも大丈夫なの? いや、FGよりは楽だと思うけど」 恭文「ABSパーツは塗装関係に気をつけなきゃいけないけど、それを除くとかなり作りやすいキットだよ」 あむ「でもフェイトさん、あり得ない力加えてボキってやるからなぁ。どうも不安が」 フェイト「わ、私をドジっ子みたいに言わないでー!」 (おしまい) [次へ#] [戻る] |