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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory23 『大会前夜』


太陽照りつける砂漠――ビルドストライクの頭上から、トゲ付き肩アーマーの青いモビルスーツが強襲。

左手に備えたフィンガーマシンガンでビルドストライクを狙い撃つも、その弾幕は砂漠の砂を叩くのみ。

着地したモビルスーツに対し、ビルドストライクは後退しながらイーゲルシュテルン。でも正確無比な弾幕はあっさりスウェーで避けられる。


『正確な射撃だ。それゆえ対応も予想しやすい』

『……やっぱチマチマすんのは』


ビルドストライクは意を決して反転。右手にジャーマングレーの鞭『ヒートロッド』を携える、グフというモビルスーツへ突撃する。

更に左腰サイドアーマーからビームサーベルも抜き放つ。


『性に合わねぇ!』

『ほう、思いっきりのいいパイロットだな。手ごわい――しかし!』


次の瞬間、ビルドストライクの袈裟斬り抜け。グフは胴体部を両断され背後で爆発した。

……ここはイオリ模型。大尉に呼び出されたと思ったら、なんかバトル中でござる。

しょうがないんで改造用のプラ版やらを買い込んで、お会計を済ませている間に決着がついた。


バトルルームから粒子が消失し、フィールドに残るのは倒れたグフとビルドストライクのみ。

そして今のグフを操っていたのは……大尉です。


≪――BATTLE END≫

「見事だなレイジ君。……だが!」


大尉はビシッと指差し。その先にあるのは、剣を振るったままで停止しているビルドストライクだった。


「自分の力で勝ったのではないぞ! セイ君が作ったガンプラのおかげだという事を忘れるな!」

「つーかさ、そんな古いガンプラじゃ勝負になんねぇよ」

「ええ!? もう一戦、もう一戦だけ!」

「えぇー」

「次はゲリラ屋本来の戦法で!」


うんざりという様子のレイジと、右人差し指を立てて食い下がる大尉。

そんな二人を見て、リン子さんはほほ笑ましそうに笑う。確かに楽しそうだけど。


「大尉、全然本気出してないでしょ」


さすがに弱い風に見られるのはちょっと癪なので、外から介入。すると二人がこっちを見た。


「おぉヤスフミ君! 待たせてしまったか、すまんな!」

「いえいえ」

「あれ、お前ってこの間店にいた」

「初めまして、蒼凪恭文だよ」

「レイジだ。でも、なんだソイツら」


そこですかさず指差すのはしゅごキャラ達。……やっぱ見えてるのかー、おのれも。


「レイジ、しゅごキャラの事知らないの?」

「しゅごキャラ……聞いた事ないな。いや、それより本気出してないってのは一体」

「確かにそのガンプラは古い。一九八〇年――今から三十二年前に出たガンプラだもの。
股関節は動かないし、各部駆動もおのれが使ったビルドストライクには敵わない。でも」


そこでくすりと笑ってしまうのは許してほしい。だって、ねぇ。本気の大尉を知っている身としては見過ごせなくて。


「大尉はそれでおのれの射撃、あっさり避けてるんだよねぇ」

「そういや……じゃあ、ラルのおっさん」

「なのでもう一戦だ! 今度こそ、ゲリラ屋本来の戦い方を」

「大尉、その前に僕を呼び出した理由を」

「おぉ……そうだったそうだった! いや、実はレイジ君の練習相手を探していてな。ヤスフミ君ならと思ったんだよ」


あぁなるほど、だから大尉が……でも思いっきりハンデつけてるのに、負けて悔しそうなのが面白いというか。こういう大人になりたいです。


「へぇ、お前強いのか」

「それどころではないがな。ヤスフミ君はセイ君とはちょっとした知り合いであり、ユウキ・タツヤ少年と十年来の付き合いがある」


そこでレイジの目が鋭くなる。うわぁ、負けた事相当悔しかったんだなぁ。やる気満々だし。


「二度のバトル、見させてもらったよ。実はおのれの腕にちょっと興味があってねー。あとはどうして突然現れたのかとか」

「なんだ、そんな事気にしてたのか。別に大した理由じゃないが」

「ならそれも勝負した後で教えてほしいな。……大尉、そういう事なら協力します。新装備のテストもしたいし」

「それは助かる。ならオレもユウキって野郎についてちょっと」


そこで店の玄関からチャイム。そちらを見ると、セイが俯き気味に店内へ入ってくる。ただいまとかもなしで。


「セイ、おかえり」


セイはリン子さんの声に答える事もなく、すたすたと歩きバトルルームへ。そうしてレイジの右手を取り、引っ張っていく。


「セイ君もやらないか? わしのベストメカコレクション『グフ』は手ごわいよ」

「ちょっと来て」

「なんだよ」

「いいから!」

「セイー、恭文君もきてくれてるのよー。挨拶なさいー」


でもセイは聴こえてないようで、そのままレイジと一緒に消えてしまう。大尉とリン子さんは不思議そうにしながら僕を見る。


「ごめんなさいね。あの子、どうしたのかしら」

「いや、大丈夫ですよ。僕の事も目に入ってなかったっぽいですし」

「なんか思いつめていた様子だったな。……もぐ」


そしてヒカリはクロワッツをパクリ。……最近出た新作スイーツです。おのれ、ほんといつもどっから調達してくるのか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レイジを部屋に引っ張って、改めて向き直る。……まずは深呼吸。


「なんだよ、セイ」

「レイジ、はっきりと答えてくれ」

「なんだ」

「君は……君は、君はぁ!」


思い出すのは突然消えた光景。あの非現実が信じられなくて、レイジを指差す。


「何者なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」





魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory23 『大会前夜』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レイジにあの消失現象はなんだと聞いたところ。


「イオリ・セイ君たちが生きている世界と別の世界――そこにはアリアンという、美しく平和な国がありました」


なぜかスケッチブックにクレヨンで絵を描かれ、湖や草原の風景を見せられているでござる。

なにを言っているか分からないと思うが、僕にも分からないのでどうしようもない。


「そしてその国には王位継承権を持つ、素敵な王子様がいました。更に好奇心溢れる王子様は、王宮の宝物庫で秘宝を発見したのです」


ページがめくられると、なぜか絵のタッチが変わる。描かれているのはレイジだけど、なぜか絵画風になった。

いやいや……美化しすぎだろ! ていうか絵上手いな! さらさらーって書いたものとは思えないんだけど!


「すると唐突に秘宝が動き出し、王子様は激しい光に包まれました。
王子様はセイ君たちがいる世界に行けるようになったのです。早速王子様は、この世界を探検することにしました。
見るも聞くも珍しく、楽しい日々が続きます。そして――王子様はガンプラに出会ったのです!」


そうしてレイジは自画像を指差しドヤ顔。


「つまり、その王子様ってのがオレだ」


とりあえず、レイジの額に手を当ててみる。


「熱はねぇよ」


じゃあ次は右手を取って、脈。


「病気でもねぇ」

「……なるほど」


OKOK、イオリ・セイはクールに理解したよ。冷静を装いつつ、勉強机に腰掛ける。


「つまり君は異世界にある国の王子様で、なんとなく地球にやってきたってわけだ」

「よく分かったな!」


ベッドに座るレイジが僕へサムズアップ。なので。


「分かったよ」


顔を背け、浮かぶ涙を必死に堪える。


「君が可哀想な人だって事は」

「喧嘩売ってんのかぁ」

「そんな馬鹿な話、信じる方がどうかしてるよ!」

「ガンプラバトルやんねぇぞー」

「ひどい脅しきたー!」

「本当の事なんだよ。オレの体、光って消えていくのは見ただろ」


そう言えば……! で、でもそんなのあり得ない。異世界なんてと、つい鼻で笑ってしまう。……多少汗が滲んでいるのは気のせいだ。


「あ、あれはきっと夕日が眩しくて、君が消えたように見えただけなんだ」

「あくまで信じねぇつもりなんだな」

「なら、証明してみせてよ! 僕をその異世界ってとこに連れてくとか!」

「あー、それ無理」

「じゃあ、超能力とか魔法とか使ってみせてよ!」

「……お前、漫画の読み過ぎじゃねぇの?」


憐れまれたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ていうかムカつく! 可哀想な頭なのはコイツなのに!


「聞きたい事はそれだけか?」


レイジは立ち上がり、めんどくさそうに部屋から出ていこうとする。


「店番の途中だから戻るぜ」

「ちょ、話はまだ!」

「そんな事より、お前はやるべき事があるだろ」


レイジは振り返り、僕の机を指差す。……そこにはビルドストライクと、現在作成中の武器やストライカーをまとめた箱。

選手権の開催までに、この機体を完ぺきな状態に仕上げてほしい――それがユウキ先輩との約束。


「それはその通りだけど……でも」


素性不明で不安なのに、レイジは気にした様子もなくドアを開けて廊下へ。


「セイ、オレ明日からしばらく来られねぇから」

「ちょ」

「あとヤスフミってのきてたぞー。後でいいからちゃんと挨拶しとけ」

「えぇ!」


どういう事かと聞く前に、レイジは出ていってしまう。……なんなんだよ、もう。

異世界とか、アリアンとか……煙に巻かれてるし。なにか、言えない事情でもあるのかな。

じゃないと、こんなすぐ分かるような嘘をつくはずがない。とにかく、作業に集中するか。


僕のガンプラを理想通りに動かせるのは、レイジしかいない。レイジがやる気になってくれているなら、あとは。

……あ、その前に恭文さんへ挨拶しとかないと。レイジの事で頭いっぱいで、全然気付かなかったからなぁ。悪い事したや。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その日の夜――作業室で新装備のすり合わせ。これでゴーストも一応僕仕様にできる。あとはあれも調整完了。

ただ、なぁ。念のために予備機体も用意しておかないと。下手したら勝ち上がれても、一週間じゃ直せないって場合もあるだろうし。

その辺りの準備も一段落ついたので、一気に増えた同居人がいるリビングへ戻ると。


「全く、甘えん坊な赤子達だ。そんなに我の側がいいのか」


なぜかディアーチェがうちの双子に授乳してました。当然上半身裸で、胸の谷間もくっきり……慌てて背を向ける。


「おぉ小僧、作業は終わったのか」

「それどころじゃないー! ていうかなにしてんの、おのれ!」

「あぁ、ごめんねなぎ君! 今女の子だけだからすっかりすっ飛ばしてたよ!
ディアーチェ……無理かー! アイリ達吸い付いてるもの!」

「だからなにしてるのー!」

「授乳で安心させてたのです。アイリ達、すっかりディアーチェになついてるですね」

「私……私、いるのにー」


フェイトがなんか負けてるー! すっごい悔しそうなオーラ出してるー! ていうか胸を隠して! 僕そっち入れないー!


「全く、この程度で動揺する必要もなかろう。女の裸ならフェイトで好きなだけ見ているだろうに」

「そういう問題じゃないわボケが!」

「ディアーチェ、一応王として恥じらいを持つべきかと」

「そうですよ。ディアーチェは恭文さんの奥方じゃありませんし」

「そういうものか? ……あ、なるほど」


あれ、ディアーチェがなんかにこやかな声出してる。なに、このからかうような声色は。


「お前も我の乳房を味わいたいのか。まぁ仕方あるまい。いくら鬼畜と言えど男である以上、我に欲情するのは当然」

「ディアーチェ、明日の朝ごはん抜きね」

「なんでだぁ! 我がなにをしたと言うのだ!」

「ヤスフミ、そうなの? あの……ディアーチェとそうなりたいのかな。
それなら私は大丈夫だよ? ヤスフミの気持ちが一番だし」

「フェイトさん、もじもじしないでください。相変わらずエロい」

「私はエロくないよー! ティア、またそういうデマを流すー!」


デマじゃないと思う僕は間違っていない。きっとみんなも同じだろう。――その後、少ししてディアーチェは服を着直す。

それに安心してようやくリビングのソファーに座れた。なお二人は相変わらずディアーチェにべったり。

僕が抱えようとしたら、今はディアーチェの方がいいと……うぅ、もう親離れするとは。なんて早熟な二人。


「そう言えばレヴィとダーグ達は」

「部屋で作業中よ。レヴィの場合古いキットだから、時間がかかっている……らしいわ」


ティアナが隣へ座り、僕にガリガリ君を渡してくる。そしてディードもやや膨れながら、僕の隣に。ベルがそんなディードの肩に乗っかる。


「ありがと」


ガリガリ君を受け取り一口……うーん、ガリガリ君の味わいはいつ食べても素晴らしい。

……じゃあちょっと確認しにいってくるか。そのメンバーだけなら聞きやすいし。


「レヴィはアニメ放映当時のデスサイズヘルだもんねぇ。
パーツ組み込むのも一苦労だし……初心者にはキツいんじゃ」

「それなら大丈夫です。私が指導しましたので」


……おかしい。同じ初心者なシュテルが、めっちゃドヤ顔でなにか言ってきた。

どういう事かとディアーチェとユーリを見ると、なぜか揃って顔を背ける。


「ねぇ、なにがあったの」

「恭文さん、そこは気にしないでください。ただその、やっぱり理のマテリアルなんだなと」

「あとでお前にも我の胸を吸わせてやるから、それで勘弁しろ」

「ふざけんじゃないよ! ねぇ、ほんとなにがあったのよ! そこまでして触れられたくない事があるってなに!」

「あ、あの……じゃあ今日はディアーチェと三人で、なのかな。あの、私は大丈夫だよ? そういうのも刺激的だし」

≪フェイトさん、あなたほんとツッコミがなってませんね≫


くそー! なんかレヴィの様子が気になってきた! あとで確認しておかないと!


「恭文さん、ディアーチェの胸を……そう、なんですか。私では」

「旦那様、ディードちゃんの胸はふわふわぽにゅぽにゅだよー? ベル、いっつも枕にしてるから分かるもん」

「おのれらも落ち着けー! ていうかなんでどいつもこいつもツッコミがなってないの!?」

「全く同感だわ! ……でもそういうアンタはどうなのよ。確か武器自作よね」

「なんとか形になったよ。あとはセコンドか」

「いや、だからそれ私がやるって」

「リインー」


リインを手招きすると、笑顔で僕のひざ上に乗っかってくる。はい、既に話をまとめていました。じゃないと大論争になりかねないから。


「えへへ、やっぱりリインが一緒なのです♪」

「ちょ、なんでよー!」

「おのれはもう手遅れだから」

「なるほど、ティアナはIKIOKUREなのですね。覚えておきます」

「シュテルゥゥゥゥゥゥ!」

「あ、あの……ヤスフミ、私は? ほら、プラモ作れたし大丈夫だよね」


フェイトがオロオロしているけど気にしない。てーか……セコンドってなにするか分かってるんだろうか。ちょい聞いてみよう。


「フェイト、それだけじゃ足りないよ」

「どうしてかなー! だって奥さんなのにー!」

「だってオペレーターだよ? 敵機の分析に戦略立案、粒子も含めた機体の状態チェックに出力調整まであるんだから」

「あの、だったら大丈夫だよ。ほら、私一応魔導師だし、戦略とか得意だし」

「……フェイトさん、それ正気ですか。全てにおいてなぎ君が上じゃないですか」

「シャーリーがなんかひどい!」


いやぁ、むしろ正当な評価だよ。だってフェイト、基本脳筋だし。フェイトから作戦というものを聞いた覚えがそんなにないし。

基本突っ込んで斬るを体現しているのが、元ライトニングの四人なわけで。


「フェイトお嬢様、申し上げにくいのですが」

「え、なにかな」

「JS事件時、一応私達も戦略会議を行っていたんです。その中で機動六課メンバーの能力考察もありまして」

「うん」

「その中でフェイトお嬢様の戦略眼は最低ランク、挑発すればたやすく捕縛可能と結論が」

「どうしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


ディードの今更な告白で、フェイトが衝撃を受ける。そしてディアーチェに抱かれているアイリ達は、慰めるように手を振った。


「まぁ、そんなわけでリインさんが適任だと思います。ていうかフェイトさん、戦略ってガンダムの作品知識も必要ですよ?」

「え、どうしてかな。だってプラモのバトルだし、アニメ関係ないんじゃ」

『はぁ!?』

「え、なに。みんなどうしてそんなに驚くのかな」

「ですから、そのプラモの元となったアニメもチェックしておかないと、すぐ動きや性能が察知できないじゃありませんか。
さすがに全部オリジナル機体なんて事はないでしょうし……でもフェイトさん、ガンダムとかさっぱりですよね。あとティアも」

「はう!?」

「ぐ……それを言われると弱い」


そういう意味でもリインが適任だった。なのでリインは僕に抱かれながら、思いっきり胸を張る。


「リインさん、コイツと遊ぶ事多いし、ガンダムも」

「サイコガンダム大好きなのですよ」

「……それが分からない時点で私は駄目かー!」

「私も、駄目ですね」

「ディードちゃんー!」


ヘコむディードを見ていると心が痛い。でもベルが慰めてくれているようなので一安心。

あとティアよ、それが現実だ――そんなわけでセコンドはリインに決定。

こういうのは久々な感じがして、つい抱き締めながらスリスリしてしまう。……あ、そうだ。


どこからともなくスケッチブックを取り出し、リインを抱えながらサラサラとお絵かき開始。

描くのは羽のようなスラスターを持つ、曲線が美しいモビルスーツ。

長大なライフルと大型シールドを構えるそれは『シナンジュ』。ガンダムUCに出てくる敵役だね。


ただジオン系ではあるけど、連邦軍からの強奪機体なので実はガンダム系列というややこしい機体。


「恭文さん、これは」

「予備機体の完成図、今のうちに描いておこうと思って」

「予備って……あー、あれよね。ガンプラバトルってガンプラが壊れる事もあるから、次の試合までに直せないとか」

「正解。本体は仮組み済ませてるし、改造コンセプトも決まってるんだけどさ。図にしておくとやりやすいから」

「あのあの、それなら私手伝うよ。ほら、もう私もガンプラあるし」


そうしてフェイトが取り出すのは、当然あの初代ガンダム。……でもガッツポーズはやめて。失敗フラグだから。

とはいえ……ガンプラに興味持ってるって事だしなぁ。ゴーストとかを触らせるのは怖いけど、好奇心は消さないようにしなくては。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


フェイトには勝手にガンプラを触らないよう言いつけて……なぜか本人不満そうだったけど。

ていうか、僕の完成形も見えないのに手を加えてどうするのかと。とにかく左隣の部屋へ上がらせてもらう。

さすがにうちの一室だけで全員受け入れは無理だから、隣にも部屋を借りました。


そっちにダーグやキリエ達、紫天メンバーも住んでいる感じ。……まぁ少々殺伐としているけど。

リビングのテーブルはプラの破片が散り、アミタが泣きそうな顔でパーツをヤスリがけしていた。


「……あれ、なに」

「お姉ちゃん、力入れすぎて肩パーツ壊しちゃったのよ。しょうがないから作り直ししてるとこ」

「納得した。レヴィは」


あー、順調そうだね。ニコニコしながらサーフェイサー塗ってるもの。もうエアブラシの使い方も覚えているのが凄い。

恐らく監督役なダーグの影響だろう。レヴィの脇にいるダーグも、実に満足そうだった。


「そうだ、いい調子じゃないか」

「えへへ、そうかなー。でもなんだか楽しいなー。なにかを作っていくって、今までだとない感覚だから」

「ならもっと味わうといい」

「そうするー」


そしてレヴィはまた集中。その姿がなんだか嬉しくて、少し見入ってしまった。


「ところでキリエ」

「分かってる」


キリエは急に物憂げな顔をして、僕の左腕に抱きつく。そうして胸を押し付けてきた。


「……今日は、わたしなのよね。でもね、男の人とそういう事するの、初めてなの」

「はい?」

「ギアーズだからって、乱暴にされるのも嫌。だから旦那様、優しく」


しょうがないのでデコピン。キリエは相当痛かったらしく、その場に蹲った。


「ど、どうして……本気だったのに」

「だからだとどうして気づけない!? とにかくほれ、トーマとリリィの事だけど」

「あー、そっち? なら安心して、トーマ達の記憶封印はまた別枠で強化してあるから。奥様達も思い出してないわ」

「や、やっぱりトーマとリリィは……その、いろいろと、あれです。もう肩が……ぼきっと」

「おのれはこっちに加わらなくていいよ! 作業に集中してていいから! 泣かなくていいから!」


説明しようとするアミタはちょっと止めておく。パーツ壊れたのが相当ショックらしく、手元震えてるもの。大丈夫かな、あれ。

ただトーマ達の事は問題なさそうで安心している。今までガンプラ関係でゴタゴタしてて、聞く機会逃してたからなぁ。


「でもー、旦那様との記憶は封印できないから。だってその一つ一つがわたしの」

「ダーグ、おのれのガンプラはどう?」

「あぁ、完成してるぞ。集中したらあっという間だった」

「無視しないでー!」


キリエがガシガシ揺らしてくるので、一旦手を取って落ち着かせる。


「いや、だから僕は奥さんが」

「でもいるのよね、第三夫人まで。……わたしもそうなりたいなー」

≪論破されましたね≫

「ちくしょー!」


やっぱり、ちゃんと考えなくちゃいけないのかな。キリエがこう、ギアーズだからって理由で嫌とは考えられない。

でもでも……お互い出会ったばっかりだし、さすがにいきなりは。……あれ、これなんか駄目じゃ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


翌日、アイリ達と離れるのが寂しく感じながらもお出かけ。商店街の中でまずは大尉に敬礼。

それから夜六時十分。街灯に照らされながら、レイジが左側からやってきた。


「遅刻だぞ」

「悪い、まだこっちの世界に慣れてなくて……ん?」


当然レイジはフェイトの存在に注目。なのでフェイトは一礼。


「紹介しよう。フェイト・T・蒼凪君――この街に住んでいる、私の友人だ。ヤスフミ君とも親しい関係にある」

「初めまして、レイジ君。あの、フェイト・T・蒼凪です」

「レイジだ。だがラルのおっさん……今日は大丈夫なんだろうな」

「任せてくれたまえ」


そうして四人で歩き出し、目指すは……先日大尉に教えてもらったあの場所。僕達は軽い挨拶も兼ねている。


「――プラフスキー粒子が発明されて十年。ガンプラバトル選手権が開催されて今年で七年目。
ガンプラ人気はアジア圏は言うに及ばず。北米、ヨーロッパにまで広がっている」

「アジア圏……え、それが言うに及ばずってどういう事ですか」

「あのねフェイト、中国や台湾と言った国では粒子発見前からガンプラブームなんだよ。モデラーによる大会も頻繁に行われていたんだ」

「そう……ガンプラバトルがブームになる前から、ガンダムを愛し、ガンプラを愛し続ける者達がいる」


そこは地下にあるバー。短い階段をスタスタと下りていき、大尉は上品な木目調のドアに手をかける。


「いわば歴戦の古つわもの。そんな彼らがアフターファイブに集い、自分を解放して夜な夜な戦いに明け暮れる」


そうしてドアを開くと、木造のシックなバー内部は――戦場だった。


「その戦場がここだ」


あるフィールドでは足のない、白いモビルスーツ『サイコミュ高機動試験型ザク』と、一つ目でごつい『リック・ディアス』が宇宙を飛んでいた。

サイコミュ高機動試験型ザクはMSVに出てくるもので、見た目からお察しできる通り実験機体。

リック・ディアスはZガンダムに出てくるモビルスーツで、実はアレ……一応ガンダムの類なんだよ。


採用されなかったコードネームだけどね。とにかく緑のリック・ディアスは、上昇し続ける試験型ザクを追う。

でもビーム砲が内蔵されたザクの両腕が射出。有線で繋がれたそれは、リック・ディアスの死角からビームを放つ。

そうしてリック・ディアスはあっさり撃墜。そしてある場所ではナスカの地上絵が描かれた場所で、軽快に重量級モビルスーツが斬り結ぶ。


あれはセプテムとプロトタイプドムか。しかし……ガンプラバーってのは相変わらずだよねぇ。

ジオン軍制服着込んでるし、コスプレバーだよ。フェイトも驚いて、目をぱちくりさせてるし。


「どうかね?」

「いいねぇ、どいつもこいつもギラついた目をしてやがる」

「あ、あの……レイジ君って子どもだよね。いいのかな、こんなところに入って」

「既にマスターへ話は通してある、問題はないよ」

「ん……た、大尉!」


そこで全員が一斉にバトルを中断。制服姿で僕達の前に整列した。


「ラル大尉!」

『ジーク・ジオン! ジーク・ジオン!』


大尉は静かに右手を挙げ、号令に応える。


「一体、なにをやってるんだ」

「ここでのあいさつだよ。でもここ、開店したばかりなはずなのに」

「ラルさん、本当に凄い人なんだね」

「久しぶりに出撃でありますか、大尉」

「大尉とご一緒できるなんて光栄であります!」


ねぇ、ここって本当に開店したばっかりなのかな。なに大尉が数年前から通ってるって体なの?


「いや、今日戦うのは私ではなく」


そこで大尉がレイジを左手で指す。念のため僕はフェイトと一緒に離れておく。


「この少年だ」


そうしてジオン軍の帽子を被った男が、僕に近づき訝しげな顔で見下ろしてくる。


「まだ子どもじゃないですか」


僕もお父さんになって、多少丸くなった。なので顔面アイアンクローだけで済ませてあげよう。


「ぐ、ぐががががが!?」

「あのねぇ、僕は諸事情で年齢隠してるけど……一応二十二歳なんだよ! 誰が子どもだ、おらぁ!」

「す、すまなかった! 一生の不覚……とりあえずこれを離してくれー!」

「ヤスフミ、駄目ー! ほら、お店に迷惑だから!」


フェイトになだめられ、アイアンクロー解除。すると男達はなぜか僕に敬礼。それからレイジを見る。

「ではこちらが……しかし大尉のご推薦だ、スペシャルかもしれんぞ。少年、ガンプラ暦は何年だ、何体作った」

「作った事ねぇよ」


そこで男達は揃って驚がく。ただそれをレイジはとても不思議そうに見ていた。


「作った事がない!?」

「おい小僧、作る気がないなら……いや、まさかファイター専任」

「そうですよ。超すご腕なビルダーとパートナー組んでるんです」


これでもめても困るので、僕からさっとフォロー。でも男達はそれで大丈夫なのかと訝しげにするわけで。


「なぁ、なんでおっちゃん達どよめいてんだ」

「……おのれ、本当にガンダムの事とかさっぱりなんだね」

「さっぱりじゃ駄目なのかよ」

「それでどうしてバトルにって辺り、疑問に思われてもしょうがないとこはある。
ガンダムが創作物で、ガンプラがその中のロボットをプラモ化したものは」

「聞いてる」

「普通はアニメなりゲームをやって、そこから好きになって……ってパターンがほとんどなんだ。ガンプラだってそう。
劇中で気に入った機体を作ってみたいってところからスタートするし、バトルをやり出すのも同じ感じ。そうですよね」

『もちろん!』


わーお、一斉に声が返ってきたよ。凄い連帯感なので、フェイトやレイジがあっ気に取られる。


「では話も伝わったところで……戦士なら口先でなく、その実力を戦場で示すべきだ。この少年に力を貸してやってくれ」

「大尉がそうおっしゃるなら」

「レイジ君、ここはガンプラの貸し出しもしている」

「なら一番弱そうなガンプラを貸してくれ」


そこで衝撃が走る。まさかそんなラフな注文を……しかも相手をナメているとしか思えない注文をするとは。

そして物静かな白髪紳士がすっと前に出て、銀トレイに載せたガンプラを持ってくる。この人がマスターです。

それは灰色カラーで、球体状のボディが特徴。その両側にマニピュレーターがあり、頭頂部には大型キャノン一門装備。


「お客様、ご注文の機体です」

「なんだ、これ」

「地球連邦軍戦闘用ポッド『ボール』です。別名丸い棺おけ」

「え……あの、これガンダムじゃないですよね。だってガンダムって足があるし……ガンプラじゃないですよね」


そこで強者なコスプレおじさん達が大笑い。フェイトは笑われた意味が分からないらしくオロオロし始める。


「足などは飾りなんだよ、お嬢さん!」

「偉い人にはそれが分からんがな!」

「え、えぇ! ヤスフミー!」

「ボールってのは、モビルスーツとは別枠の戦闘兵器なのよ。戦闘力ではモビルスーツに譲るけど、初代ガンダムでは貴重な戦力として扱っていた」

「へぇ、ガンプラってのはロボット以外もあんのか。いいねぇ」


どうやらレイジはボールが気に入ったらしく、受け取った上であっちこっちから見る。

そうして大体の事が分かったと言わんばかりに、おじさん達へ向き直る。


「さあやろうか! 本気のガンプラバトルってやつを!」

「ふ……相手してやるよ小僧」

「きゃんきゃん泣きわめくなよ?」

「えぇ! ヤ、ヤスフミー!」

「大丈夫大丈夫、本当に喧嘩してるわけじゃないから」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そうしてボールが宇宙に飛び立つ。なおボールについて改めて説明しよう。ボールは初代ガンダムに出てきた戦闘用ポッド。

武装は頭頂部に装備する180mm低反動キャノン砲。全長は十二メートル前後と、十八メートルほどが平均なモビルスーツより小さめ。

動力源からモビルスーツと違い、そのためモビルスーツ運用に最適化されていない艦船でも運用可能。


ただそれゆえに推力などはモビルスーツに譲り、更に火力も負けている。なおこれ、作業用ポッドを改修したものなんだ。

そんなボールだけど元が作業用ゆえに、センサー系がモビルスーツより高性能。

更に武装も長距離砲なので、基本的に相手の射程外からキャノン砲で仕留めるのが基本戦術。


一応火力だけならモビルスーツにも引けを取らないんだ。でも他のスペックはやっぱりお察しください状態。

だからこその丸い棺おけ。……だから、僕は見た事がなかった。


『キャン!』


ボールが敵モビルスーツを殴り飛ばすところなど。現在殴っているのは、∀ガンダムに出てくる『マヒロー』。

丸みを帯びたボディで、レドーム型の頭部が特徴。武装は右肩に装備している平たいシールド。

それに内蔵しているメガ粒子砲や、両腕に半固定されているカッターなど……あれスクラッチだよね。プラモ出てないし。


『キャンキャン!』


次の試合――ボールの左ストレートによって、青紫の流線ボディが派手に吹き飛ぶ。

背部に巨大なバックパックを背負うアレはシャイターンだね。Vガンダムに出てくる機体だよ。……あれもプラモ、古いはずなのに。


『キャンキャンキャン!』


まだ試合は続く。からし色のゲルググキャノンへボールが右アッパー。ボールのマニピュレーターって、ああいう武器だったっけ。

そんな錯覚を覚えるほどにインファイト連発。そして粒子が散り……フェイトはあっ気に取られていた。


「ヤスフミ、ガンダムじゃないのに勝っちゃったよ! なんで、どうして!」

「つ、強い……!」

「この小僧、フラナガン機関の出身か?」


ボールで歴戦の猛者達を打ち倒すとは……しかもボールが苦手とするインファイトで。でも本人は不満そう。

まぁ機体特性を引き出してないって辺りで問題だけど、それは作品世界に捕われない発想ができるって事でもあるしなぁ。

変に型へハメるより、このままの方が強いんじゃ。だから大尉もなにも言わないわけで。


「ラルのおっさん」

「なんだ」

「二つだけ分かった事がある。一つはあのガンプラ動かして、セイのガンプラがいかに凄いかって事。
……もう一つはこの程度の実力しかない相手じゃ、練習にならねぇって事だ」


わーお、大胆だねぇ。全員に喧嘩売ってきたよ。それでおじさん達の視線が明らかに厳しくなる。


「奴は……ユウキ・タツヤのガンプラは、こんなもんじゃねぇ。……もっとだ! もっと強い奴はいねぇのか!」

「このガキ……調子に乗りやがってぇ!」

「大人をなめんじゃねぇぞ!」

「あぁ、駄目ですよ! 落ち着いてー!」

「まぁまぁ、みんな冷静に」


止める前に粒子展開――再びフィールドが形成され、そこに合計七機のガンプラ。

ボール、シャイターン、マヒロー、ゲルググキャノン、旧ザク、サイコミュ試験型ザク、リック・ドム……まさかこれは。


「ならないし!」

「ろ、六人がかり!? それはずるいんじゃ!」

「面白ぇ……こうこなくっちゃ!」

「よせ、レイジ君!」

「は! 雑魚が徒党を組んだところで!」


大尉が止めようとしても、全く言う事を聞かない。囲まれた状態で早速開戦……この馬鹿は!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


からし色のタコ口がバズーカを、キャノン持ちがライフルをバシバシ撃ってくる。それを余裕でかわしてると、左側から体当たり。

そのまま押し込まれ、画面を見る。コイツは……さっき殴り飛ばした脳髄野郎か。

くそ、ガンプラってのはこんなたくさん種類があるもんなのかよ。もうわけ分からねぇぞ。


脳髄野郎は平たい左腕の刃で強引に斬りつけ。袈裟に振るわれるそれを斜め上に下がって回避……しきれなかった。

左マニピュレーターがやられたらしい。警告がビービー鳴ってやがる。

それでも下がりながら、追撃してきた脳髄野郎へキャノン連射。……今度は背後から強襲。


青いデカブツ背負ってる奴が、両手足や胸元から黄色いビームをぶっ放してくる。

上昇してそれをぎりぎり回避すると、今度は目の前に白い腕。左に避けても、今度は右側から別の腕が襲ってくる。

その腕の指先から放たれるビームを、右マニピュレーターで受け止める。だが次の瞬間、マニピュレーターが弾けた。


吹き飛んでいる間に、最初襲ってきた腕が迫ってくる。迎撃で砲弾一発を発射すると、腕はぐるりと右へ移動。

追撃しようとした瞬間、後方から衝撃。ビームによってキャノン砲が根本から……ちぃ、一体誰だ!

てーかなんで腕が飛ぶんだよ! セイやアイツのガンプラはそんな事やってねぇぞ!


「ち……!」

『いかん、バトルをやめるんだ!』

「いいからやらせろ!」

『これは修行ではない、ただの無謀だ!』

「いいんだよ!」


武装が全て奪われた。それでも……そうだ、それでも止まれねぇ。踏み込まなきゃ、自分の限界も分からないんだ。

ここで引いたら、アイツに借りは返せない。そうは思っても、対抗する手が見つからないまま囲まれてしまう。


『だ、駄目ー!』


……そこでやたらとのろのろした、真っ白いガンプラが飛んでくる。なんだ、あのガンプラ。

なんであんな動きが遅いんだよ。コイツらだってもうちょっとマシな動きするぞ。

ストライクに似たガンプラはふらふらしながら、オレ達の脇をすり抜けていく。


『みんな、落ち着いて……あれれ? みんなどこへ行くの』

「……アンタがどっか行ってんだよ!」

『邪魔だぁ!』

『素組みのFGが出てくるな!』


脳髄野郎がシールドから光を放つ。あとは太っちょな一つ目も肩のバズーカから一撃。

それにあのガンプラは頭や膝、胴体を砕かれ爆散する。


『ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


ち……まぁいい、勝負の邪魔をされるのは気に食わねぇ。そのまま突撃し、辛子野郎に体当たり。そうして陣形を抜けた上で反転。

武装はないが、まぁなんとかなるだろ。あとはアイツらに同士討ちさせれば……そこで背後に警告音。

なんだと思い振り返ると、またあの腕があった。まさか、読まれていた? このオレが。


指先に光が灯り、ボールとやらを撃ち抜こうとする。やべぇ、避けられない。


『……馬鹿ばっか』


だがそう思った瞬間、左横から緑の光が走る。それが腕を貫き爆散させた。いや、貫かれたのはそれだけじゃない。

俺を追撃していた奴らは、緑とピンクの光に次々と食い破られる。胴体を貫かれ、ガンプラ達は爆発。

しかも、一撃で二体ずつだ。一体貫いたら、背後のもう一体も容赦なく撃墜している。


慌てて光が走った方を見た。……するとそこにいたのは、また別のガンプラだった。

一体は緑と白で、二枚の翼が左側にある。ボディアーマーも左右非対称だった。つーか目も左目が緑で、右目が赤かった。

ソイツはやたらと長いライフルを構え、瞳を輝かせていた。まぁ、ソイツはいい。問題は……もう一体。


それは青色で、どういうわけかあっちこっち傷だらけ。塗装はげみたいなものも見える。

右手に片刃のサーベルを持ち、左手にはガイコツマークのシールド。

背中にはこう、ペンチみたいなのを背負ってやがる。……なんでだよ、あれは。


「ビルドストライク、だと!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


フェイトの馬鹿が……あれで飛び出してもなにもできないでしょうが。とにかくバトルは終了。

粒子が消え去り、僕のストライクとアシンメトリーな機体は着地。傷だらけなガンプラ達を見下ろす。

そう、あれはガンダムWの主人公機である、ウイングガンダムの改造機体。左右非対称のボディですぐ分かる。


右腕に持っているのは分割可能な通常ライフルを増設した、バスターライフルカスタム。

右肩上部にはビーム砲が仕込まれ、左腕外側には柄尻がビームガンにもなるレイピアを装備。

更に左肩アーマーには防御用のビームマント。さながら騎士を思わせるフォルム。


でも歴戦の記憶も内包していた。耳あてが如き頭部アーマーは一部破損し、増設したものに差し替えられている。

頭部アンテナも右側のが中程からへし折れているの。これは。


「なんと……たった一撃で稼働中のガンプラを二機まとめて、連続で撃ち落とすとは! しかもその機体は」

「ウイングガンダム、フェニーチェ」


その操り手は僕の隣にいた。マホガニー色のコートを着た、身長百八十以上はある男。

無精髭を生やし、やや灰色がかった黒髪を肩まで伸ばす。一部は束ねてちょんまげにしている。

……ほんとなんでこんなところにいるのよ! さっきまで気配なんてなかったのに!


「誰だよアンタ……てーかお前も! 人の戦いに水差しやがって!」


そこでレイジが怒りの形相でこっちに詰め寄ってくる。それに対し男は困り顔で笑った。


「ん? 余計な事しちまったか」

「気にしなくていいよ、リカルド。八つ当たりみたいなもんだったんだから」

「なにぃ! てーかお前、なんでビルドストライクを持ってやがる!」


これがビルドストライク……本当にガンダム知識がさっぱりみたいで、大きくため息。


「おのれはまず、ガンダム知識を多少は頭に入れなよ。それじゃあビルドストライクもちゃんと使いこなせない」

「どういう意味だ!」

「それはビルドストライクではない――という事だ」


そこで大尉がレイジの肩を叩く。思わず振り向くレイジがそこで硬直。……大尉、ちょっと怒ってるみたいだから。


「ビルドストライクのベースとなった、ガンダムSEEDに登場する機体『ストライクガンダム』。ヤスフミ君が使ったのはそれだよ」

「ベース、だと。だがセイのガンプラにはこんな背負いもの」

「だからビルドストライクは未完成なのだ。ストライク系列のモビルスーツは、状況に応じたストライカーを装備する事で本領発揮する。ヤスフミ君、それは」

「試作中のオリジナル装備です」

「ふ、なるほどな」


どうやら大尉にはこの装備の秘密、バレちゃったみたい。まぁいいかー、レイジには気づかれてないっぽいし。


「レイジ君、バトルはただ操縦が上手ければ勝てるものではない。ガンプラや装備に対する知識も必要となる。
もちろんガンプラへの信頼と愛もな。……無闇矢鱈な経験を積むだけでは、決して強くなれんぞ。いいな」

「……分かった。つーか、悪い」

「私に謝る必要はない。君が謝るべきは」


レイジにそれ以上の言葉は必要なかったらしい。傷ついたボールを、飛び散った破片も全て拾い集めた上で。


「すまねぇ」


ボールに謝った。その様子を見て、大尉がようやく表情を緩める。


「しかし……君もきていたとはな、フェリーニ」

「大尉、お久しぶりです」


そこで大尉と男――リカルドがしっかり握手。……するとリカルドの右肩に、黒い影が飛びかかる。

両手で抱えられるサイズのそれは、黒コート姿で髪型は僕そっくり。その上肩に乗っかって。


「あおー♪」


可愛らしく鳴いた。え、なにこれ。ほんとなにこれ……戸惑っていると、フェイトが僕の肩をとんとんと叩いてくる。


「あの、ヤスフミ、この人は」

「ガンプラバトル・イタリアチャンピオンのリカルド・フェリーニだよ」

「チャンピオン……え、国内最強って事!?」

「うん」

「……ヤスフミ、久しぶりだな!」


そこでリカルドがバッと振り返り、僕へ思いっきりハグ。ざわめくおっちゃん達は気にせず、再会の喜びを分かち合う。

一旦離れると、リカルドは僕の隣にいるシオン達を見た。


「ん、その素敵なフェアリー達は」

「僕のしゅごキャラ。ほら、シオンとヒカリ、ショウタロスだよ」

「おぉそうか! お前達が……噂は聞いているぞ! グラッチェー!」

『グラッチェー!』


今度はシオン達とハグ。肩のナマモノもとても嬉しそうに……あ、しまった。

つい流されてしまったけど、コイツの事があった。一体なんだろうと聞く前に、今度はフェイトへ向き直る。


「君がフェイトだな。初めまして、実際見るととても美しい」

「だ、駄目ー! 私にはヤスフミがいるんです! だから駄目なんですー!」

「あははは、もちろん知っているよ。君みたいな女性に見初められたヤスフミは、幸せ者だって言いたくてね」

「はう!? あの、その……ヤスフミとはお知り合いなんですか」

「リカルドは世界中を旅して回ってるんだ。僕とも旅先で」

「一緒に荒野を渡り歩いた仲さ」

「そうだったのか。ところでフェリーニ、その子は」


あぁよかった、大尉が触れてくれた。ナマモノはきょとんとしながらも床へ降り、僕達へ右手を挙げて挨拶。


「おー♪」

「あおと言います。最近旅先で意気投合しまして……いや、ヤスフミそっくりだから他人とは思えなかったんですよ」

「ふむ、確かに。いい目をしているな。あお君、ラルだ」

「あおー♪」


きゃー! 大尉納得しちゃったよ! なんか固い握手交わしてるー!


「意味分からないんですけど! いや、マジでどっから来たの、その不可思議生物!」

「なんでも武者修行中らしい」

「あおあおあおー!」


そうしてナマモノは両手をバタバタ。……やっぱり意味が分からない! フェイトを見ても、首を振るばかりでどうしようもない。

いや、まぁ僕の周り非常識ばっかりだからさ! これくらいで驚くのも正直駄目なんだろうけど!


「しかしお前、面白いな」


大尉と仲良くなっていくあお。それは気にせず、リカルドがレイジにそんな言葉をかける。

ボールを持ったままレイジは、また瞳に炎を宿し始めた。


「どうだい、サシでやるかい」

「……面白れぇ! だが一人じゃ足りねぇ!」


そこで指差されるのは僕だった。自分でも指差しすると、レイジは頷く。


「お前も相手になれ!」

「もちろん。でもその前に」


相手するのは問題ない。オリジナルウェポンも試作品のものだし、本仕様ではないから。

バレても懐は痛まない。……でもと思いながらフィールド上を見る。そこには半壊し、うつ伏せに倒れるFGガンダムがあった。


「……フェイトのガンダムを修理させてくれないかな。このままだとグスグス泣かれて辛い」

「あ……そうだー! わ、私のガンダムがー! どうしてー!? ちゃんと作ったのに、みんなと全然違うー!」

「フェイト、そろそろ理解しようか。完成度が違うって」

「ふぇー!」

「……あおー」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけでパーツを集め、一旦カウンターへ移動。その上でFGガンダムと向き合う。フェイトはずっと涙目です。


「……いちいち修理して、なんだよな」

「そうだよ」


さっきの事があるのか、レイジは神妙な顔で破片を見ていた。ただ、これはなぁ。修理っていうか作り直しでしょ。


「だ、大丈夫だよね。関節をこうやってくっつけ」


フェイトは震えながら左膝から下と、左太もものパーツを握る。接続しようとガチャガチャ言わせる。

結果ヒビの入っていた関節部が砕け、左膝から下が破片に変わる。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ちょ、なに更に破壊してんの!」

「ふぇー!」

「なぁ、コイツはもしかしなくてもドジなのか?」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


しょうがないので破片を回収し、改めてテーブル上へ。


「よし、これは家に戻ってからだね。じゃないと直せないや」

「だ、大丈夫だよね! あの、私頑張るよ! 接着剤とか必要なんだよね!」

「そう、じゃあガッツポーズはやめようか」

「意味が分からないよー!」


それあり得ないわー。フェイトのガッツポーズは失敗フラグなのに。

しょうがないので頭を撫でて落ち着かせてあげると、フェイトはもじもじし始めた。

それから持ってきておいたケースにパーツと破片をまとめて入れて、作業終了。


じゃあ……と思っていると、お店の玄関が開く。


「いらっしゃいませ」


そうして入ってくるのは、青髪ロングの女性。女性は青い薄手のコートを羽織り、穏やかな笑みを浮かべていた。

スレンダーな体型とその美貌に、おっちゃん達が軽くどよめく。

……今日は一体、なんて日なんだろう。懐かしい顔に連続で再会するとは。


女性は僕に気づき、明るく笑いながら駆け寄ってくる。


「プロデューサー! フェイトさん!」

「千早」

「千早ちゃんー!」


そう、この子が如月千早。なんだかんだで長い付き合いになる女の子……でもなんだろう、妙な圧力を感じる。


「なんだ、また知り合いなのか」

「如月千早だよ」


やっぱり常識関係に疎いっぽいレイジへ、大尉がすかさず補足……でも大尉、頬が緩んでます。


「765プロ所属の歌姫。現在はアイドル活動から引退しているが……彼女もまた、世界大会に連続出場しているファイターだ」

「なんだって!」

「おぉチハヤー!」


当然リカルドとも知り合いです。二人は力いっぱいに握手。


「リカルド、あなたいつ日本に……地区予選は」

「もちろん一抜けさ。そうして君へ会いにきたのさ」

「相変わらずね。でもごめんなさい、私……ずっと好きだった人がいるから」


そこで千早は僕の隣へ座り、ニコニコと笑顔……でもなんだろう。妙な圧力を感じて辛い。


「お久しぶりです、如月さん」

「えぇ」

「ショウタロス先輩は相変わらず……もぐ」

「オレがなにしたってんだ! なにを言いかけた、てめぇ!」

「でも千早、なんでここに」

「実は自宅へ伺ったんです。そうしたらみなさんがここでって……また、お嫁さん増えたんですね」


その言葉でフェイトと一緒にズッコけてしまう。


「はい!? いやいや、違うから! みんなただの同居人」

「じゃあどうしてプロデューサーを旦那様という人がいたんでしょう」

「はう!? ヤ、ヤスフミー!」


フェイトが肩を掴んで揺らしてくる。……キリエかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! あのボケナス、初対面の人になにやってくれてんだよ!


「それとアイリちゃんと恭介君に、おっぱいをあげていた人がいたんですけど」

「ディアーチェ、またなの!? うぅ、私がお母さんなのにー!」

「いや、僕達お出かけしてるからしょうがないけど……早めに戻ろうか」

「うんうん」

「あとプロデューサーもおっぱいを吸わせてもらうとか。その人に欲情しっぱなしとか」


そこで千早の笑顔が深くなったのもあって、僕達はもう一度ズッコける。


「それは全然しょうがなくないかな! ていうかデマ! あの中二病なに抜かしてんの!」

「そ、そうだよ! 勘違い、なんだよね! 違うんだよねー!」

「本当に、大きい人ばかりでした。本当に……くっ」

「千早ちゃん、話を聞いてー!」


あぁやばい、やっぱりだ! この圧力気のせいじゃなかった! 千早、胸関連になるといっつもこうなるのよ!

……千早はとてもスレンダー。バストサイズ72は未だ変わらずなので、とても苦しげに呻く。


「まぁその辺りの恨みつらみは、私に責任を取ってもらう事で帳消しにするとして」

「一体なんの責任!?」

「プロデューサー、聞きましたよ。ガンプラバトル選手権に出場するそうですね」

「あー、うん。あれだよ、世界一のお父さんになろうかなーと」

「プロデューサーらしいです」


千早は嬉しそうに笑い、早速ソフトドリンクを注文。お酒、飲めるようになったのにねぇ。

大人になったんだよなぁ、千早。まぁ僕もだけど。でも、そうなんだよなぁ。出会ってから五年とか経ってるわけで。


「なぁ、アンタもユウキ・タツヤと同じくらい強いのか」

「えっと、この子は……あー、プロデューサーのお友達ですね」

「ためらいなく僕の関係者と決めつけてきた!?」

「友達かどうかは知らないが、レイジだ。……だったらオレと勝負しろ!」

「それは構わないけど」

「「構わないんだ!」」


ついフェイトとハモってしまう。あれ、千早ってこんなキャラだっけ! 五年の間に変わったのかな!


「でも自分のガンプラは家だし……あ、そう言えばここは貸し出し」

「もちろん行っております」

「じゃあギラ・ズール、ありますか。一般兵用の」

「こちらに」


マスター、ただ者じゃない。即座に用意してきたし。……それは濃い緑色で塗装されたガンプラ。

AKに似たビームマシンガンを持ち、シンプルなスラっとしたフォルム。

右肩に分厚いシールドを接続し、左肩は丸っこいショルダーアーマー。


タコ口と胸元・両手首にあるエングレービングが特徴。背部のバックパックもランドセルと言うべきデザイン。

上部と下部にメインスラスターを持ち、両サイドにそれより小型のサブスラスター。

太もも・両アンクルアーマー外側にも増加ブースターを装備。


左サイドアーマーにはビーム・アックス、右スカートアーマーにはハンドグレネードを懸架。

リアスカートに装備しているのは、バズーカに見えるけど使い捨てのシュツルムファウスト。……これも見事な完成度だ。


「ありがとうございます」

「え、これってザクとか言うのじゃないの? ヤスフミ、そうだよね」

「全然違うよ。これはネオ・ジオン軍残党『袖付き』が使用している、ギラ・ズールの一般兵仕様だよ。……じゃあやろうか、レイジ」

「あぁ!」

「そうそう、勝ったら突然現れた原因とか、教えてもらおうかな」

「面白ぇ。あーだがオレのガンプラは」

「またレンタルだな」


大尉の言葉に少し唸りながら、レイジは入り口横の展示棚を見る。


「その、普通のストライクだっけか? それもあるのか」

「はい。各種ストライカーパックも取りそろえておりますので」

「じゃあ頼むわ」

「かしこまりました」


その言葉に大尉も嬉しそう。ビルドストライクの事だけじゃなくて、ストライク自体も知ろうとしているから。

無茶と無謀からも学習し、反省もして、僕達は新しいバトルに挑む。……僕とフェイトは早めに抜けさせてもらうけど。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文はなにやら楽しそう。元々旅や冒険大好きな奴だし、そういうのもあるんだろうなぁ。

あたし達はまぁ、ミッドに戻ったから応援くらいしかできないんだけど。でも応援ばっかりしてるわけにもいかない。

今日はなのはさんの家にみんな集まって、延期になったけどIMCSの対策会議。


アインハルトのデバイスもはやてさん達が協力してくれるし、まずは……修行方針の決定です。

チーム・ナカジマと銘打って、専属コーチになってしまったノーヴェさんがあたし達の前に立つ。


「えー、まず基本ルールはみんな」

『ルールブックは熟読しました!』

「よし。体に覚えさせる必要はあるが、まずは頭だ頭。とりあえずスバルみたいな脳筋はやめてくれと言いたい」


ノーヴェさん、なんでそんな苦しげにするの? スバルさん、局員だからIMCS出られないじゃん。なのに……なんかあったの?


「でだ、ぶっちゃけると……目指すは優勝だが、現状じゃあ全員無理だ」

「え……ノーヴェさん、それってアインハルトも? あたしやヴィヴィオちゃん達は初出場だけど」

「それにノーヴェさんにも勝ってますしねぇ」

「野試合だけなら、間違いなく強いと思うけど……また違うのかしら」


うん、スゥとダイヤの言う通りだ。アインハルトの実力は、あたし達から一抜けしている。

そういう印象を受けてたから、ラン達と一緒に首を傾げる。


「確かに。アインハルトはストリートファイトで鳴らしていたが、知っての通りIMCSは独特なルールがある。
それにトーナメント戦ってのは、自分を丸裸にしつつ全勝していく競技だ。それにはコツもある」

「あ、そっか。あのね、それ恭文も言ってたんだ。トーナメント戦は優勝まで全勝しなきゃいけないって」

「全勝……そっか、予選ならともかく、本戦に入ったら一度も負けられないんだ」

「ヴィヴィオもすっかり忘れてたー」

「実はアタシもだ。なのでまずは」


ノーヴェさんが大型モニターを展開し、そこにある文字を打ち出す。それは……『長所』。


「みんなの長所を伸ばす。ようは武器を作っていくんだよ。丸裸になる以上、まずここが必要だ」

「私達の、武器」

「まぁなのはさんの理論だけどな。得意とするところを持って、そんなノリに相手を引き込む」


あぁ、そう言えば……なのはさん、教導ではまず長所を伸ばすって言ってたっけ。

後ろのテーブルに座っているなのはさんを、全員でチラ見。なのはさんはニコニコとするだけだった。


「例えばリオなら」

「アタシは中国武術と炎熱・凍結系魔力での中距離戦闘!」

「そうだ。コロナは」

「私は、瞬間詠唱・処理能力によるゴーレム操作です」

「そんな感じだ。しかしあむとヴィヴィオは」


そう言えば……ノーヴェさんがじーっと見てくるので、軽く身構えてしまう。あたしの武器ってなんだろう。

戦闘はそれなりに場数踏んでると思うけど、魔導師・格闘競技者としてはまだまだだし。

ブースト……でもそれだけってのもなぁ。自己ブーストみたいに、体の負担がかかるものはやりたくないし。


ヴィヴィオちゃんはあれだよね。書庫で鍛えた、魔法術式の多重処理とか。……あれ、それをどう格闘に生かしていくんだろう。


「あむは話術か?」

「ちょ、ノーヴェさん!」

「じゃあヴィヴィオは色気ー」

「ヴィヴィオー! 大人モードで色仕掛けは駄目ー! なのはと約束したよねー!」

「よし、お前ら宿題な。アタシも手伝うから、武器を見つけようか」

「「はい!」」


そこで素直に返事をしてしまうのは、やっぱり武器が分からないから。それを鍛えてって話だし……でもなんだろう。

ちょっと面白いなって思ったんだ。あたしの知らない、あたしのキャラが引き出されそうで。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


夢を見ていた。それは父さんが世界選手権用の、HGUCガンダムを完成させた時の事。

小さかった僕から見て……ううん、今でも追いかけている理想。

それは模型店店主でもある父さんが、ありったけの情熱と力を注いだもの。


世界大会でも大活躍だった。並みいるガンプラの猛攻を退け、基本武装だけで戦い抜いた。

人によってはガンプラバトルれい明期だから……とも言われるけど、それは誤解だ。

でも、僕には届かない。一人じゃ、届かない。機体を作れても、理想通りに動かす事ができない。


あの日描いた憧れを形にできない。それが悔しくて、腹立たしくて。


「イオリ君。……イオリ君」


その声で夢から覚める。顔を上げると、そこは夕方の美術室。

そうか、作業してて……うたた寝しちゃったんだ。最近寝てなかったから。

声がした方――左隣を見ると、委員長が僕を優しく見下ろしていた。


「委員長……あ、ごめん。寝ちゃってたみたい」

「先生が美術室閉めるからって」

「うん、分かった」

「それ、ガンプラでしょ?」


委員長が目を向けるのは、僕の目の前においてあるビルドストライク。でももう、今までのビルドストライクじゃない。

背中に青い可変翼とスラスターを装備し、左腕には取り回しのいいハーフシールド。

更にビームガンを軸としたユニット式ビームライフルも装備。その姿を見て、ちょっと安心する。


「うん」

「なんだかこの前見たのと形が違うみたい」

「そう、ついに完成したんだ。……これが僕が考えられる、想像力の全てを注ぎ込んで作った機体」


夕日を浴びて、生まれ変わったビルドストライクがきらりと輝く。


「ビルドストライク・フルパッケージ。可変出力式のビームライフルに、積層式のチョバムシールド。
可変翼とスラスター、ビームキャノンを装備したオリジナルストライカー。
これを装備する事で、機体出力は160%以上アップするんだ」

「よく分からないけど、強そうなのは分かる」

「強いだけじゃなくて速いよ! 通常のファイターにはピーキー過ぎて、扱えないほどの機体なんだ!
でも……レイジならこの機体を自在に操れると思って、作ったんだ」

「レイジって、この前学校に来ていた」

「うん! アイツと一緒に、ガンプラバトル選手権に出場するんだ!」


そこで委員長を見上げて、ハッとする。しまった、また……! 慌てて立ち上がり、ビルドストライクをケースへ仕舞う。


「あ、僕帰るね! ごめん、ペラペラしゃべっちゃって! ……あの、ここでガンプラ作ったことは先生には」

「うん、分かってる」

「ごめんね」


委員長には謝った上で、美術室を出た。……機体はできた。あとはレイジと一緒に練習・調整だ。そうすれば、きっと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ガンプラ作りも大事だけど、父親としてアイリ達のお世話も大切。おしめを替え、離乳食も作成。

まだまだ母乳中心だけど、そういうのもちょっとずつ混ぜていく事にする。ただ……一段落し、アイリ達が寝ついた後。


「やすっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


ダーグがデカい声を出しながら、リビングに駆け込んできた。なのでハリセンで頭頂部に一撃。


「なにすんだ!」

「しー!」


右手で『静かに』とサインを送り、ディアーチェに抱かれてすやすや眠る二人を見る。

なおディアーチェ、ダーグにめっちゃ殺気を送っていました。……その隣でフェイトが悔しげに唸っているけど、もう気にしない。


「す、すまん」

「で、どうしたのよ。下らない事だったらコアメダルを一枚ずつ宇宙へ打ち上げてやるけど」

「なら安心だな、これを見てくれ」


ダーグが差し出してきた用紙を受け取り、さっとチェック。

それでディードとティアナ、ベルものぞき込んでくる。……結果、みんなで目を見張ってしまった。


「ちょ、アンタこれ……!」

「恭文さん」

「悪い事は、するもんじゃないってわけですか」

「はわわわ……大変だよー!」


左手で軽く頭をかいて唸ってしまう。てーか僕に負担がかかりすぎでしょ、これ。


「ヤスフミ、どうしたの。それなにかな」

「地区予選のトーナメント表だよ。ダーグ」

「さっき届いたもんだ」


テーブル上に置くと、フェイトやディアーチェ、何事かとリビングに入ってきたシャーリーも確認。……結果全員が目を見開く。


「えぇぇぇぇぇぇ! ヤ、ヤスフミー!」

「大声を出すな馬鹿者。ふん、望むところではないか」

「でもなぎ君、相変わらず運悪いかも。いや、この場合は紫天一家も?」


シャーリーがそう口にするのもしょうがない。僕の一回戦……相手は紫天ズです。

そして二回戦、順当に勝ち上がればアミタとキリエ。三回戦はダーグとバトる事になる。


なお千早は別ブロックなので、当たるとしたら決勝戦。……計画が根っこからおじゃんだよ!

なに、この虎の穴的思考! ああもう、頭痛い! 一回戦目からゴースト壊れるとか嫌なのに!


(Memory24へ続く)








あとがき


恭文「数押しなんて悪い事はするもんじゃない。そう証明されたVivid編第二十三話です。お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。そして本編軸だと、あおや千早ちゃんが初登場」

恭文「あとはフェリーニだね。ちなみに今回僕が使ったストライクは、支部の方で先日掲載したものになります」


(あれから足元などをウォッシングして、更にボロくなりました)


恭文「やっぱボロいロボットっていいよねー。……それはそれとして、今日五月二十二日は」

フェイト「真美ちゃん、亜美ちゃんのお誕生日です。おめでとー!」


(おめでとー!)


恭文「……それよりもその、あおがなぜいるのかとかがもう」

フェイト「読者さんのアイディアなんだけどね。どうしようか、あれ」

恭文「セコンドだから大丈夫だよ、きっと。なんとかなるよ」

フェイト「あとはあの、機体説明がかなり適当な箇所」

恭文「しょうがないのよ。詳しくないレイジ視点とかだと思う」


(チナ視点だともっと大変になります)


恭文「そしてビルドMk-II的なシナンジュの存在が明らかに」

フェイト「そう言えばアニメでも、第三話でビルドブースターMk-IIの設計図が出てたんだっけ」

恭文「セイがスケッチするシーン、あったね。しかし……どうしよう。いや、大体の事は決めてるんだけど」


(紫天一家とのバトル、最初から最後までクライマックスです)


恭文「そして最後に待ち受ける千早という壁」


(『……くっ』)


真美「兄ちゃん、千早お姉ちゃんを壁扱いは」

亜美「ちょっとひどくないー?」

恭文「そういう意味じゃないよ! いや、ほんとに!」

フェイト「え、壁ってなにかな。千早ちゃん、壁っぽいところあるの?」


(無自覚に傷へ触れていくスタンスです。
本日のED:ナノ feat. MY FIRST STORY『SAVIOR OF SONG』)






あお「あおあおーあおー♪」

恭文「同人版だともうあおは出ているし、あそこで再会って感じになるのかな」

あお「おー♪」

恭文「そして出てきたリカルド・フェリーニ……通称、イタリアの駄目男」

あお「あおあおー!」(訳:違うよ、だて男だよー!)

恭文「十五話まではそんな感じでしょうが! 特に世界大会入ってから!」

あお「あおー!」(訳:確かにー!)

古鉄≪そんなだて男なリカルドさんも、いずれ登場しますのでお楽しみに≫


(おしまい)





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