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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory22 『紅の彗星』


世の中、不思議な事はそれなりに多いみたい。でもすぐにレイジと出会えた事は幸運だった。

夕飯を食べ終えたところで、早速レイジへ部屋に連れていく。レイジはベッドへ座り、僕を不思議そうに見上げた。

「レイジ、一緒にやろうよ!」

「やるってなにを」


そうして持ち出すのは、さっきのバトルで使用したビルドストライクガンダム。


「ガンプラバトルだよ! 僕が作ったガンプラを、君が操縦してガンプラバトル選手権に出場するんだ!
さっきのバトル、君の操縦は本当にすごかった。僕のガンプラと君の技術があれば、きっと!」


そこでレイジはそっぽを向き。


「やだ。めんどくせぇ」


いきなり断ってきた。あんまりにあっさりで、体に電撃が走るほどショックを受ける。


「えー! ガ、ガンプラバトル、興味あるでしょ!」

「別にー」

「じゃあ、どうしてさっき戦ったのさ!」

「セイへの借りを返したんだよ。誓いは守った。約束終わり」

「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? じゃ、じゃあ僕んちで晩御飯を食べた借りはどうする気!」


レイジはあくびしながら、ベッドに寝っ転がる。


「あれはお前じゃなくて、ママさんへの借りだ。言われなくてもちゃんと返す」

「嘘だと言ってよバーニィ!」

「レイジだ。あー、今日泊まってく借りも一緒に返すから」

「え……と、泊まって」

「おやすみー」


止める間もなく、レイジから寝息が漏れる。頭を抱えドタバタしてもレイジは全く起きない。

「なんなんだよ君は! 勝手すぎるだろ! せめて……せめて歯を磨けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


前回のあらすじ――不思議現象に遭遇してしまいました。そしてビルドストライクガンダム、かっけー。

その翌日、予定通り僕達のオフトレーニングは終了。シュテル達もエントリーは終わったし、各自ガンプラも調達。なので。


『ありがとうございましたー!』

「「あうあうー♪」」


アルピーノ家玄関前で、改めてメガーヌさん達にお礼。抱きかかえたアイリ達も手をブンブン振っている。


「いえいえー。またきてねー」

「というか、今度は私達から遊びにいくね」


……そこで僕を見るのはやめてほしい。あとフェイトもガッツポーズしなくていいから。

また失敗フラグが……でもそこで一つ思い出して、右指を軽く鳴らす。


「あー、そうだ。エリオ、おのれしばらくここへ残れ」

「……はぁ!? 恭文、それどういう事かな!」

「いや、キャロの権限でおのれは休職扱いになったから」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? いや、意味分からない! 特にキャロの権限って辺りで!」

「エリオ君に足りないのはやっぱり勉強だよ」


キャロが平然と言い切り、傍らのフリードを優しく撫で撫で。フリードは嬉しそうに身震いする。

エリオはハッとしながら、おさげを揺らしていた。……そう、エリオのスランプ脱却のために休職だよ。

でもこの空気、頭硬いから無理にでも送り出さないと動かないでしょ? だからキャロ権限なのよ。


「少し自由になって、あっちこっち見て回ったらどうかな。なぎさんも私達と同じくらいの頃から、世界中回ってたって言うし」

「キャロ、もしかして」

「私の権限って言うより、ミラさん達の意見でもあるんだ。
閉じこもってウジウジ迷うなら、飛び出していこうよ。仕事は大丈夫だから」

「で、でもいきなり行けーと言われても……あ、だからここで考えろ?」

「そんなところ。ね、ルーちゃん」


そこでルーとキャロが視線を交わし、笑顔で頷き合う。


「あ、でも変な事したら許しませんからね。私達はもう、恭文くんのものだしー♪」

「身も心も、お父さん一色だもの。エリオの入る幕はないよ」

「そんな事しませんよ!」

「てーか黙れ馬鹿! 僕もなにもしてない! そんな関係結ぼうとしてませんからね!」


みんなの視線が厳しいから、軽くせき払い。本当に……なにもしてないのに!


「な、ならその……あともう少しだけ、お世話になります」

「えぇ。それじゃあみんな、またねー。恭文くん、世界大会は応援に行くから」

「頑張ってね、お父さん」

「だからやめてー! 世界大会に行く事前提はやめてー!」

「まぁまぁヤスフミ、応援してくれてるんだから。あの、私も手伝うし……ガンプラ作れたから大丈夫だよね」


こっちもこっちで不安な事言い出してるー! ……とりあえずフェイトの頑固は道すがら解いていこう。僕達はゆっくり転送ポートへ移動する。





魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory22 『紅の彗星』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


結局レイジは学校へ行く時間になっても起きず、不機嫌になりながら僕は朝ごはん。

クロックムッシュとサラダをがっつり食べ、レイジの事は母さんに任せる。

ていうか、母さんがうちに上げたんだからこれでいい。……本当に、なんなんだアイツ。


一応礼節ってやつは弁えてるっぽいけど、なんかわがままだし自分勝手だし。なにが、『どんな状況でもこのオレが駆けつける』だよ……!

確かに、駆けつけてくれたけどさ。でも、そうなんだよな。ここへきたから、ガンプラに興味があると勝手に思ってた。

だけどそうじゃない。そうじゃないなら……本当に、僕を助けるためだけにきてくれたのか。


それでも素直に感謝できない自分がちょっと嫌いになりながらも、僕は教室で頭を悩ませていた。

席にノートを広げ、イライラしながら左手で頭をかく。そうして描くのは、ビルドストライクガンダムの全体像。


「この例文で彼は個人的感情を吐き出す事が、事態を突破する上で一番重要ではないかと考えました」


レイジはもう当てにできない。というか、当てにしちゃいけない気がしてる。……僕が戦うしかないんだ。

そのためにも選手権までに、ビルドストライクをフル装備にしないと。これはその設計図でもある。

本体はできているから、やっぱり気にすべきは武装だよ。ビルドストライクはベース機体の特徴をそのまま受け継いでいる。


ベース機体――ストライクガンダムは、ガンダムSEEDに出てくる主人公機。まぁ前半だけの話になるけど。

PS装甲はガンプラでの再現は無理だから置いておくとしても、それ以外の特徴なら問題ない。それは拡張性だ。

劇中でもストライクガンダムは装備を換装する事で、様々な戦況をなんとかくぐり抜けていった。


機動性特化のエール、射砲撃戦特化のランチャー、格闘・近距離戦特化のソードがアニメだと基本。

MSVにはそれら三種の特性を併せ持ったI.W.S.P.、有線でのオールレンジ攻撃を可能とするガンバレルストライカーもある。

あ、最近HDリマスターが始まってる関係で、基本三種の装備をてんこ盛りしたパーフェクトもあるか。


とにかくストライクガンダムはストライカーがあって、初めて本領を発揮する。

その拡張性の高さは、本編以後の時間軸でも様々な影響を与えている。だからこそベースに選んだんだけど。

一応昨今の世界大会出場者みたいに、大型ガンプラを使うという方法もあった。


だけど……僕が理想とする戦い方ではないから。よし、まずは武装だ。ライフルの性能を。


「イオリ君、この問題は分かりますか」

「……悩んでいます」


ノートを持ち上げ、改めてビルドストライクと向き合う。


「高出力にするとライフルは大型化するから、機体の小回りが利かなくなるし即射性も落ちてしまいます」

「え、あの……イオリ、君?」

「ですから、ライフルの大型化は避け、ビームの出力を任意で変えられる方式はどうかな……って」


そこで気づいた。今……授業中だった。ていうか、みんな見てる。壇上の山田先生も涙目でこっちを見ていた。

一気に顔が熱くなりながら、一旦立ち上がる。そうしてノートを置いて。


「答えは、三番の二です!」


力強く宣言。よし、これでなんとか乗り切った。


「い、今は国語の授業中ですー!」


無理だったー! てーか先生が更に涙目だー! ……そうだ、先生で気づくべきだった。

壇上にいるのは、うちのクラスで副担任もしている山田真耶先生。ショートヘアーの眼鏡美人で……凄く大きい。

谷間もくっきりなので、学内でもファンが多数いる。その上穏やかかつ明るく優しい人なので、そりゃあなぁ。


なので集中していなかった事には申し訳なくて、もう平謝りするばかり。


「す、すみません」

「あの、先生の授業……つまらないですか。どこか分かりにくかったところがあったから、別の事を考えちゃったとか」

「違います! いや、これは認めたくない若さゆえの過ちというか……とにかくそんな感じなんです!
決して先生が駄目なわけじゃ!……本当にすみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


わたしの左隣に座るあの子は、少し変わっている子。家が模型店なんだけど、ロボットが好きみたい。

だから今も……授業中なのにロボットの絵を描いていた。でも、とっても優しい子でもある。

悪い事をしたら、今みたいにすぐ謝れる。落ち込む先生にも本気で謝りすぎて、むしろおかしいくらい。


わたしは春から、あの子の事を見ているのがちょっとした日課。だってロボットの事になるとあの子は、目がお星様みたいにキラキラするから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


セイの奴、なんかカリカリして学校ってところへ行ったらしい。あれか、おもちゃのバトルを断ったのがそんなに不満か。

まぁアイツへの恩はきっちり返したし、問題ないだろう。とりあえず今やる事は。


「……なぁママさん」

「なにー?」

「ここって、店なんだよな」

「そうよー」


店の中で、エプロンつけてママさんのお手伝いだ。恩は返すって言ったからなぁ。

だが、店は客一人きやしねぇ。ママさんは変な板をパチパチ弄って、仕事をしているらしい。


「まぁ言いたい事は分かるわ。お客さんがこないって辺りでしょ」

「そうそう。……ここ、潰れかけとか」

「そこは時間が関係してるわね。今の時間だと、セイくらいの子達はみんな学校だから。大人もお仕事中」

「むしろ来る奴が珍しいと」

「そうそう。セイが帰ってきてからが本番ね。あの子にガンプラ作り、教わりに来る子も多いから」


どうもセイはガンプラっていうおもちゃを作るのが上手いらしい。それを動かして戦うのがガンプラバトルってわけか。

……おもちゃで遊ぶのに、なんであんな一生懸命になるんだろうか。楽しさを否定するつもりはないが、正直分からない。

昨日の奴も正直強くはなかったしなぁ。あの程度ならアイツだってなんとかなるだろ。


でも……本気で、願ったんだよな。そうじゃなかったら、オレはここにいなかった。

アイツにとってガンプラバトルで勝つっていうのは、それくらい欲しいものだった。

つまり……アイツは凄まじくへっぴり腰で弱いって事か? 我ながらひどい考えだと思い、頭をかく。


「セイ……あ、いけない!」


そこでママさんがハッとして、ドタバタしながらカウンターを出る。そうして家の中へ戻っていった。


「ママさん?」


少しすると慌てた様子で、青い袋に包まれたものを持ってきた。


「どうしよ、セイったらお弁当忘れちゃってる!」


あー、イライラしてたって言ってたからなぁ。それで食いっぱぐれるなんてほんと馬……そこで思考をストップ。

玄関近くから、ママさんのいるカウンターへずいっと移動。その上で弁当包みを指差した。


「なぁ、セイが戻ってくるまでは店は暇なんだよな」

「えぇ」


そうしてから、ママさんが弄っていた板を指差す。確かアレだ、パソコン……つってたっかな。


「でもママさんはそれ弄って、仕事しなきゃいけない」

「えぇえぇ!」

「じゃあオレが行ってくるよ、場所教えてくれ」

「ほんとに!?」

「あぁ」

「レイジ君、ありがとー!」


天気もいいし、じっとしているのは辛い。手伝える事もなさそうだったから問題ない……とは言わないでおこう。

どういう形であれオレにできる事があって、それで恩を返せる。重要なのはそれだけだ。

しかし、学校かぁ。オレやセイくらいの奴が集まって勉強するそうだが……まぁ行けば分かるだろ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


お昼休み――山田先生には悪い事をした。もう授業中にガンプラアイディアを練るのはやめておこう。

そう決意し、気合いを入れる。お昼も食べつつ、またデザインを……すると廊下からけたたましい悲鳴。

なんだろうと思って教室後方の入り口を見ると、女子が固まっていた。でも誰かが怪我したとかではなさそう。


こう、黄色い悲鳴と表現するのが正しいのかも。そうして教室に入ってきたのは、くり色の髪を奇麗に分けた先輩。

優しい切れ長な瞳は、穏やかな人柄を連想させる。……あの人は!


「貴重な休み時間に失礼するよ」

「どうぞ、どうぞ!」

「あぁ〜!」

「高等部の悠木(ユウキ)会長よぉ!」

「なんの御用かしらぁ……!」


そう、悠木達也(ユウキ・タツヤ)先輩だった。そこで隣に座る委員長が立ち上がり、ぴっと背筋を伸ばす。


「会長、クラス委員の香坂(コウサカ)です。なにか御用でしょうか」

「違うんだ。今は学園生徒会長としてではなく、模型部の部長としてきている。イオリ・セイ君」

「……え!?」


いきなり僕の名前が呼ばれたので、ぱっと立ち上がる。


「ユウキ先輩!」

「イオリ君、昼休み……私に少し時間をもらえないかな」

「僕、ですか」

「うん、頼むよ」


それは願ってもないお誘い。先輩は世界大会にも出場経験がある、国内屈指のガンプラビルダー。

そんな人からご指名とくれば……あれ、どうしてだろう。女子の視線がガシガシ突き刺さる。いや、ちょっと待ってよ。

別に僕はその、女の子じゃないよ? そんな嫉妬されても困るんだけど。いや、ほんとやめてください。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そうして高等部へ移動。更に模型部部室へ招かれる。まず目にするのは……やっぱり展示作品だよねー!

ガンプラも多いけど、戦車や飛行機などの実在スケールモデルも多数。ヴィネットやジオラマもかなり多い。

特にスケールモデルはふだん触れないものだから、その技法には目を見開くばかりだよ。


並ぶミーア専用ザクウォーリアに、ランバ・ラル専用高機動型ザク……見ているだけでドキドキするよ。


「さすがは高等部の模型部……凄く上手いですね! あー! これは」


そんな中で目を引いたのは、緑と青に彩られた旧ザク。基本カラーなんだけど、ウェザリングなどが凄い。

あ、ウェザリングっていうのは汚し塗装の一種なんだ。……やる意味が分からない人もいると思う。

だけどガンプラをアニメのキャラではなく、架空の兵器として捉えるならこの表現も間違いじゃない。


戦っている間に汚れや傷がつく事だってある。環境によってその種類も変わる事がある。

僕が見ている旧ザクはあちらこちらに細かい傷やサビ、塗装のがれなどが見受けられる。

左右非対称な肩アーマーや、タコを連想させる顔、シンプルなボディの各所に『光景』が見える。


ただ奇麗に色を塗るのとはまた違う、独特の味が旧ザクから染み出していた。


「旧ザク……なんて凄い出来だ! 旧型の機体まで投入せざるを得なかった、ジオン軍の状況が伝わってきます!」

「ありがとう。その機体は私が作ったものなんだ」

「ユウキ先輩が!?」


後ろを振り向くと、なぜかユウキ先輩が顔を背けた。それもめちゃくちゃ眩しそうに……あれ、おかしいな。


「ユウキ先輩、どうしました」

「い、いやいいんだ。気にしないでくれたまえ。……そっかぁ、デジャヴを感じていたのはこのせいか」


なにか呟いたような気がするけど、それよりも僕は……旧ザクだよー! ザクというのは初代ガンダムに出てきたMS。

まぁその後も宇宙世紀の中では、後継機やバリエーションも含めて多数存在しているけどね。

言うならこれは始まりのモビルスーツだよ。ここから全てのモビルスーツは存在していると言っていい。


それも作品群を越えて――初代ガンダムにおいて、国力で劣るジオン軍が当初圧倒できたのはモビルスーツを開発したから。

既存の戦闘機とは違う特性を持ったモビルスーツは、その戦果からあっという間に戦場の主役となった。

ガンダムも元々は、連邦軍がジオン軍打破のために開発したもの。基本思想はやっぱりザクなんだよ、ザク。


アニメに出てくるのは旧ザクの後継機であるザクU中心だけど、この旧ザクもちょこちょこ出番があってさー。

まだ戦闘に不慣れだったアムロ・レイを圧倒したりしてるんだよ! まさしくMSの性能が戦力の決定的な差ではないのだよ!

それをここまで作り込めるんだから……さすがはユウキ先輩。ユウキ先輩はモデラーとしての方向性は、僕と大きく違う。


僕はあくまでもアニメに出てくる『キャラ』として、ガンプラを作る事が多い。

アニメの世界観や設定をかみ砕き、それを塗装や工作で表現する感じ。汚しもほとんど入れないかな。

それに作例見本とかだと、あんまり尖ったものは作れないんだ。そういうのはベーシックじゃないと。


ただユウキ先輩はどちらかというと、スケールモデラー。同じプラモでも、ガンプラとスケールモデルは趣が大きく異なる。

実在する分、こだわる人は本当にこだわるからなぁ。だからこそそれ用の技法っていうのも存在しているわけで。

そのノウハウを旧ザクに利用し、アニメのキャラではなくあくまでも『兵器』として表現している。


それがこの旧ザクだよ。これはどっちがいい悪いじゃないんだ。ほら、絵だっていろんな表現方法があるだろう?

水彩画や油絵、パステルに鉛筆――画材だけでもたくさんあるし、技法の違いも含めたらそれこそ無数。

僕とユウキ先輩の表現方法は、ジャンルが違うというだけの話なんだ。でも、スケールモデルかぁ。


昨日ちゃんと挨拶できなかったせいもあるけど、恭文さんを思い出した。恭文さんも作り方はこっち系統だった。

というか、かなり大ざっぱだった。見た時、エアブラシも使わずにそれだからかなり驚いた記憶がある。

でも尊敬するモデラーさんが……もしや。


「ちなみにユウキ先輩、尊敬するモデラーさんは」

「横山宏(よこやまこう)さんと田中克自さん、平田英明さんだね。でもそれがなにか」

「い、いえ。僕の知っているスケールモデラーさんが、その三人を挙げていたので」

「あぁ、それでかい。他にも凄い人達はいるけど、三人はまた独特だからね」


確かに……田中克自さんは飛行機モデル中心だけど、緻密でハンドフリーな筆塗り技術を構築している。

横山宏さんと平田英明さんも、やり方こそ違うけど筆塗りが多いみたい。僕はガンプラ中心だから知らなかったんだけど。

その三人はこう、あれなのかな。スケールモデラーにとっては特別なんだろうか。僕にとってのMAX渡辺さんみたいな。


「まぁ君の作品ほどではないさ」

「そんな事ありませんよ! 僕にはできない表現で、とても刺激的で……あれ、そう仰るという事はユウキ先輩」

「実はイオリ模型には、なんとか伺わせてもらった事があってね。その時から私は、君のファンなんだ」

「そ、そんなー! ……あ、まさか用件って、僕を模型部に勧誘」

「あははは、それはないよ。学部が違うじゃないか」


笑顔で一刀両断されたー! それもまっとうな理由すぎて反論できないー! やばい、恥ずかしい! 

ちょっと期待した自分が恥ずかしい! 消えてしまいたい! 今すぐ『ここからいなくなれ』と言われたい、カミーユに!


「それなら中等部へ……と言いたいが、聞いたよ。中等部の模型部部長から直々に誘われたの、断ったとね」

「は、はい。家の手伝いがあるので……どうしても」

「そうかい、大変だね。ご両親は厳しいのかい」

「いえ。小学校の頃から、部活に入りたいなら好きにしていいと……ただ」


そこでつい、あらぬ方向を見てため息。

「父さんは海外で活動中ですし、肝心の母さんが……模型関係さっぱりで!
それで店は任せてなんて言われても無理ですよ! 僕がやるしかないじゃないですか!」

「イ、イオリ君?」

「信じられます!? 未だにザクUとボルジャーノンの区別がつかないんですよ!」


つい怒りがこみ上げてしまう。はい……もう知っているかもだけど、母さんは模型関係がさっぱりです。

父さんや僕の近くにいるから、少しは覚えそうなのに。でもガンダム作品についてもさっぱりだし、プラモの製作技術なども当然さっぱり。

なのでお店でお客さんになにか聞かれても、トンチンカンな答えばかりが返ってくる。


それでも商品名なら分かるから、事務的な事はびしっとできるんだけど……だから僕がやるしかないんだよ!

断言してもいいね! 僕が部活に入ったら、間違いなく店が潰れる! つなぎ止めている需要がなくなるよ!


「それはその、無茶じゃ……というかほぼ同じ」

「いいえ違います! まずザクUは」

「よし、私が悪かったね! そこは謝るからちょっと落ち着こうか!」


ユウキ先輩になだめられ、ハッとしながら萎縮。また、またやってしまった……!


「す、すみません!」

「いや、いいんだよ。私も立ち入った事を聞いてしまったし……そう言えばこれも噂で聞いたが、あのサザキ君に勝ったそうだね」


……そこで縮こまっていた背が自然と伸びた。なるほど、それが理由だったのか。

まぁサザキは多少マイペースな奴だけど、ファイターとしてはそれなりの強さがある。地区でも有名なんだよ、アイツ。


「彼はこの地区でも、実力者として名を馳せた存在だ。そのサザキ君を打ち破った――つまり」


会長は僕へ数歩近づき、穏やかな笑みを浮かべる。でもその笑みがなんだかこう、ゾクっとする鋭いものに感じた。


「君は出るつもりなんだろう。ガンプラバトル選手権に」

「え……えぇ」

「そうか! それは楽しみだ! ……これで君の作品と戦う事ができる」

「む、無理ですよ! ユウキ先輩は世界大会に出場するほどの実力者じゃないですか! 僕なんかが叶うわけが……それに」

「それに?」

「勝てたのは、僕だけの力じゃないんです」


……そう、あれは本当に一度きりの奇跡。ランプの精にお願いして、ズルして勝ったようなもの。

そう思わなきゃ、正直諦めがつかない。ようやく見つけた理想を振り切るには、それくらいしなきゃ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


お昼休み――会長と出ていったイオリくんの背中が、なんだか辛そうだった。まぁ、そうだよね。

女の子達、ヤキモチ焼いてたもの。でもイオリくん、線は細いけど男の子なのに。

それが不思議になりながら、お友達二人と中庭でお昼。お弁当を広げて、ゆっくりのんびり。


「でも会長、なんでイオリ君を? 羨ましいなー」


友達の一人――ユカリちゃんがボトルグリーンのウェーブ髪を揺らし、悔しげに呟く。いや、だから男の子同士なのに。


「まぁしょうがないわよ。確かあれよね、チナ」

「うん?」

「イオリ君の家、模型店なのよね」

「そうよ」


もう一人の子はアケミちゃん。ゴールデンイエローのポニテが明るく揺れて、それがとても奇麗。

だけど、どうしてわたしに聞くんだろう。イオリくんとはその、実はそんなに話した事もないし。

ミートボールを食べながら、疑問の視線を送ってしまう。


「やっぱりかー。ていうかチナ、イオリ君に告白したの?」


いきなりアケミちゃんからストレートボールを投げられ、ミートボールを吐き出しかける。なんとか踏みとどまったけど。


「えー! チナ、イオリ君が好きなの!? でも学校終わってすぐ帰っちゃうし、友達いなさそうだよ!? 今日だって変人行動取ってたし!」

「そ、それはひどいんじゃないかな。イオリくん、お店の手伝いもあるみたいだから……というかアケミちゃん、あんまり変な事は」

「じゃあなんでアンタ、授業中とかよくイオリ君の事見てるのよ」


……つい顔を背けてしまった。別に、そういうのじゃないのに。ただ……わたしは。


「なぁ」


そこで左横に人の気配。ハッとして顔を上げると、赤髪の男の子が隣に座っていた。


「そのイオリって……イオリ・セイか?」

「は、はい……あなたは」

「お、美味そうだなぁ!」


そこでわたし達のお弁当に注目……話を聞いてくれない。かと思うとその子は、首を横に振った。


「……っと、駄目だ駄目だ。今は恩返しが一番」

「あの」

「あー、悪い。セイがどこにいるか分かるか? オレ、ママさんに頼まれてこれを届けに来たんだ」


その子がすっと前に出したのは、青い弁当包み。この子、イオリくんのお兄さんとか……でも外国の人っぽい。

もしかして親戚? とにかく悪意はなさそうだし、イオリくんに聞けばすぐ分かる。


「おいお前!」


そこで野太い声が響く。わたし達の前から、背の高い高等部の先輩がやってきた。えっと、二年の権田紋太(ゴンダ・モンタ)先輩。

この人は会長と同じく生徒会と模型部を掛け持ちしているから、学部こそ違うけどお話した事はある。


「学園の生徒ではないな」

「オレはセイに弁当を届けにきたんだ」

「そんな事は知らん」


ゴンダ先輩は右手親指で背後――校門を指す。


「即刻立ち去れ」

「あ、あの……ゴンダ先輩、この人はイオリくんの」

「下級生は黙っていろ。……さぁ、早くしろ」

「無礼な奴だな。なんだ、このゴリラ」


ちょ……! それはゴンダ先輩にとって禁句だと、学部こそ違えど知っている。

あっという間にゴンダ先輩の顔は真っ赤になり、両手をわなわなとさせる。


「俺は生徒会執行委員だ……! お前な学園の秩序を乱す輩から、生徒達を守るために行動している!」

「オレがなにしたってんだ」

「ここにいて、不審物を持ち込んだ時点で犯罪者同然だ!
いいから即刻立ち去れ! それも没収し、こちらで検査した上で処分する!」

「ま、待ってください! それはさすがに横暴です! ちゃんとお話を」

「二度も言わせるな!」


ゴンダ先輩は強引に右手を伸ばし、お弁当を奪おうとする。……でも彼は鋭く伸びた手を、左手でたやすく払いのけた。


「先に突っかかってきたのはそっちだろ、ゴリラ」

「二度も……二度も言ったなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


これは、駄目だ。わたしじゃ止められない。でも……あの二人ならと思い、お弁当箱を置いて一気に走り出す。


「チ、チナ!」

「どこ行くのー!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そうして窓際へ座り、先輩相手に人生相談――僕が操縦下手なのとかもぶっちゃけました。

そしてレイジは魔法のランプで、もう頼れない事も。ユウキ先輩は少し困った顔をし始めた。


「そうかい。君のガンプラにファイターが……本来なら楽しみは倍に増えたと言うべきなんだろうが」

「すみません」

「そのレイジ君、だったね。彼は全く興味がないと」

「本当に、恩返しのために……それだけなんです。だから、もう頼っちゃいけないかなって」

「どうしてかな」


ストレートに聞かれて、少し困ってしまう。それでも考えをさっとまとめ、ユウキ先輩へ自嘲の笑みを送る。


「例えばですよ、ユウキ先輩が誰かに助けられたとしますよね。
その相手へ恩返しするために、全く知らなくて……興味のない事に取り組めますか?」

「……物事の是非、更に一体どんな助けられ方をしたかによるかな。まぁ普通なら難しいね、自分の都合も絡めるなら余計にだ」

「そう、ですよね。最初は腹が立ったんです。あれだけの技術があるのに、あれだけの事ができるのにって」

「君はできないから、余計に」

「ほんと、その通りです。でもそんなのは八つ当たりで、エゴです」


でも、学校へ来る途中で気づいた。そんなのは僕のエゴだった。どうやっても変われない、僕の。

確かに万引き疑惑から助けたけど、そうやって僕は……アイツに恩を着せながら戦っていくの?

それってさ、アイツの善意と誇りを利用している事になるんじゃないかな。そう考えたら、駄目だって思った。


それじゃあ勝ち上がっても嬉しくない。それじゃあ、パートナーにはなれないんだ。だから、諦めるしかない。

もう覚悟は決めた。選手権には僕一人で……そこで廊下からバタバタと足音が響く。

先輩とそちらを見ると、慌てた顔で委員長が飛び込んできた。


「失礼します!」

「コウサカ君」

「委員長」

「よかった……イオリくん、窓の外を見て!」

「へ?」


いきなりな呼びかけに驚いていると、委員長は僕の脇まできて腕を取る。

そうして引きつつ閉じていた窓を開き、そこから中庭を指差した。疑問に思いながら先輩とそちらを見て、頬が引きつる。

というか僕達、どうして気付かなかったんだろう。現在中庭では生徒が多数集まり、乱闘を見学していた。


中心にいたのは生徒会執行部のゴンダ先輩と……そんな先輩にエビ反りがためをかます、レイジだった。


「……レイジィィィィィィィィィィィィ!?」

「やっぱり、イオリくんの親戚さんだったんだね」


親戚どころか赤の他人と言ってやりたくなった。そして当の本人はのんきそうにこちらを見上げてくる。


「おー、セイー。弁当届けにきたぞー」


うわぁ、めっちゃ気楽に返してきたよ! 認めたくない、こんな現実はシャア少佐じゃなくても認めたくない!

てーか弁当って、ここの生徒でもないのに……いや、よく見ると近くのベンチに見覚えのある包みが。


「と、届けにって……なんで! ここの生徒でもないのに!」

「そうだ……! とっとと出ていけぇ! この不審者がぁ!」

「うっせぇなぁ」


レイジは体をあお向けに倒し、更にきつくエビ反り……やめてー! ゴンダ先輩の体が引きちぎれそうに見えるー!


「てーかセイ、ママさんが携帯ってので、お前に伝えておくって言ってたぞー。聞いてないのか」

「はぁ!? そんなの聞いて」


携帯を取り出すと、メールの着信……マナーモードにしてたからスルーしてました。

慌てて中身を確認すると、確かにその旨が書かれていた。……つい打ち震えてしまう。


「どうして電話じゃないんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「イオリくん、マナーモードじゃ結局同じ」

「そうだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


委員長の冷静なツッコミで、僕はただ――晴れ渡った青空に叫ぶ事しかできなかった。なおお弁当は……美味しく頂く時間、あるかな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


頂く時間などなかった。僕達はレイジとゴンダ先輩、更にお弁当を回収し、慌てて生徒会室へ移動。

とりあえずレイジがその、外国生まれで常識がさっぱりなのはしっかり伝えた。あと伝達ミスがあったのも。

レイジにも『学校は部外者が勝手に入れない』という、原則的ルールを伝える。その結果。


「じゃあなんでママさんはオレを行かせたんだよ」


こう反論するわけで……荒ぶるゴンダ先輩はともかく、ユウキ先輩の苦笑がまた突き刺さる。

ユウキ先輩は高そうなソファーへ座り、時折興味深げにレイジを見ていた。


「ほんと、ごめん。それについてはその、僕からしっかり叱っておくから。
とにかくその、ユウキ先輩……全部僕と母の責任です。なのでレイジにはどうか」

「問題ないよ。話通りなのは確かみたいだしね」

「ありがとうございます! そしてすみませんでした!」


即決してくれたユウキ先輩には感謝。レイジも強引に頭を下げさせる。

一応ルール違反だったのは理解したのか、かなり素直に従ってくれた。


「ちょっと待ってください、ユウキ会長! この不審者を見逃すというのですか! 先生に報告もなく!」

「まぁまぁ。それに君の態度も高圧的で、かなり問題があったようだけど?」

「そ、それは生徒会執行部として、学園の平和を守るためにですね!」

「だが結果的に無用な衝突を生み出し、穏やかな昼休みをぶち壊しにした」


かなり穏やかな口調だけど、それが逆に突き刺さるらしい。ゴンダ先輩が明らかにたじろいだ。


「更に言えば愛情こもったお弁当を、不審物としてあの場にぶちまけかけた。
そうそう、クラス委員であるコウサカ君の制止も振り切ったそうだね。
生徒会執行部と言えど、さすがにちょっとやり過ぎてるんじゃないのかなぁ」

「か、会長ぉ……!」

「それに連絡不備は僕にも原因があるからね。ここは喧嘩両成敗という事にしておこうじゃないか」

「ぐ、ぐぬぬぬ」


あぁ、ゴンダ先輩は全く納得してない。いい人なんだけど、NGワードを言われると相当意固地になるからなぁ。

当然それはゴリラ……会長もそれを知っているから、苦笑を深くする。


「ただ……お互い遺恨が残ったままというのも、気分がよくないねぇ。
どうだろう、ここは仲直りも兼ねてガンプラバトルというのは」

「は? なんだそりゃ。なんでオレがまたおもちゃのバトルなんて……待て」


レイジはそこで思い直した……違う。なにかを見定めるように、ユウキ先輩を見る。


「いいぜ、ようはそのゴリラとやれって事だよな」

「誰がゴリラだぁ!」

「レイジ、いいの!? 僕達が君に迷惑かけた図式だけど! 今回は恩返しにならないよね!」

「確かにな。だが勝負から逃げるのは、一族の名誉に関わる」


やっぱりレイジは、どっかの貴族なのかもしれない。だけど、これでいいのかという迷いもある。

レイジの誇りを利用しているのかもって……ああもう、しっかりしろ。ユウキ先輩なりに、騒動を鎮めようとしているんだ。

学内ならバトルシステムもちゃんとあるし、それでイベント……って感じなのはすぐ分かった。


「会長、どういう事ですか。なぜいきなり」

「まぁまぁ。ゴンダ君、彼はあのサザキ君に圧勝したファイターだそうだよ。
全力でぶつかれば、彼が悪意ある人間じゃないのはすぐ分かるんじゃないのかな」

「コイツが、サザキを? 信じられませんが」

「……なぁセイ」

「昨日君が戦った子だよ。おかっぱな」

「あぁ、あの歯ごたえがない奴か」


わぁ、ゴンダ先輩がまたゴリ……もとい、鬼のような目に。でもサザキが実力者なのは確かなのに、歯ごたえがない?

レイジの操縦技術……いや、ファイターとしての視野はどこまで広いんだ。一体どこにそれだけの基準があるのか。


「では決まりだ。君達の使用ガンプラは、美術部のものから好きに」

「あ、大丈夫です。自分のガンプラは持ってきているので」


そこでゴンダ先輩がクワッと睨みつけてくる。しまったと思いながら、つい顔を背けてしまった。


「あれ、どうしたんだセイ」

「……模型部でもない子が学校にプラモを持ってくるのは、校則違反なんだよ」

「あー、納得したわ。セイ、お前もしかして駄目な奴なのか?」

「レイジィィィィィィィィィィィィ!」


ついレイジの両肩を掴んでガシガシ揺らすものの、レイジは笑って素知らぬ顔。でも……なにもできない。

そうさ、僕はどうせ駄目な奴さ。バトル前なのに、本気でヘコんで泣いてしまいました。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


中等部や高等部などは関係なく、ロボットの戦いを見るために講堂へ集まる。六角形の機械が七つ集められ、中央に設置。

細長いベースを挟んで、イオリくん達とゴンダ先輩が向かい合う。……あの装置、すっごく高いみたい。

でも学園の後援会長をしている、ユウキ先輩のお父さんが寄附した……と、今近くの先輩達が噂していました。


「ユウキ先輩、これで趣味がバンドとかなら言う事ないのにー」

「馬鹿ね、そのギャップがいいんじゃない」


そして左隣では、女子の先輩達がとっても楽しそう。わたしは講堂の二階から、見下ろす形でイオリくんを見ていた。


「やるのはゴンダかぁ」

「えー! ユウキ先輩じゃないのー!?」

「誰よ、あのゴリラ!」

「誰がゴリラじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


なんて無謀な……女子だろうとお構いなく殺気を向けてくるので、この場にいる全員がNGワードに気づく。

そんな空気も、二人の間にユウキ会長が立つ事で停止。ユウキ会長は二人にアイサインを送り。


「――これより我が聖凰学園・模型部による、ガンプラバトルのエキシビションマッチを行う!」


会長の宣言でゴンダ先輩とあの子は、携帯みたいな端末をベースにセット。

するとキラキラとした光がベースとイオリくん達の足元から立ち上る。

足元から生まれた光は、画面みたいな模様を持つ壁になる。それは半透明で、ベースと同じ六角形。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field5――City≫


それで光が幾つも集まって、ベースの上に町並みが現れた。


「奇麗」

「あれはプラフスキー粒子の光だよ」


左隣にノーネクタイスーツのおじさんが登場。更に黒コートな男の子も前に出てくる。

あとはオロオロとした、金髪の女性。……胸がとっても大きくて、軽くヘコんでしまう。

でもそれより気になるのは、コートの子。周囲に妖精みたいな子が三人いた。


え、あれもその、ロボットの戦いで生まれたのかな。街みたいに。


「十年前に発明されたこの粒子は、ガンプラの素材となっているプラスチックにのみ反応する性質がある。
高濃度のプラスフキー粒子を流動的に操作する事で、ふだんは動かないガンプラに命が吹き込まれるのだ。
更に粒子変容によって、ビーム砲や爆発などのエフェクトも加えられ、その臨場感はリアルのそれに匹敵する」


おじさんはさっと解説してから、わたしを得意げに見下ろす。


「これがガンプラバトルだよ、お嬢さん」

「ヤスフミ、あの……ラルさんもこれっていいんですか。だって、よその学校」

「静かに。いいからちゃんと見てて、本物のガンプラバトルをさ」

「その前に答えてー!」


せ、説明ありがとうございます。でもその、一つ疑問が。このおじさん達……誰?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今回は正真正銘、レイジと二人でバトル。レイジが今立っているコクピットと隣接する形で、セコンドゾーンも形成。

こっちからできるのは細かいデータ観測と、レイジへのアドバイスくらいだけどね。


≪Please set your GUNPLA≫

『これがオレのガンプラ――スモーだぁ!』


さて、バトルに集中だ。ゴンダ先輩がセットしたのは、金色のモビルスーツ。丸っこい装甲に独特なフェイス。

右手にはスピードガン的なハンドビームガンを装備。これは∀ガンダムに出てきた『スモー』だ。

詳しく知りたい人はバンダイチャンネルの見放題でチェックしてもらいたい。


カッコいいんだよねー、∀ガンダム。デザインは賛否両論だったけど、世界観を考えればあのデザインでよかったとも思う。


「……相撲? それってママさんが朝ごはんの時見てた」

「違うよ、そういう名前のモビルスーツ。武装は右手のハンドビームガンと軍配型ヒートホーク、あと左腕のIフィールド・ジェネレーター」

「なんでそこまで分かるんだよ、戦った事あるのか」

「分かるよ。アニメに出てきた機体ならね」

「そういうもんか」


レイジは一応納得しつつ、ビルドストライクをセット。もちろんまだ武装には手を付けてないから、昨日と特に変わってないんだけど。


「じゃあ向こうは」

「大丈夫、ビルドストライクガンダムは僕だけのオリジナル機体だ。……と言っても、武装は二つしかないけど。いけるかな」

「当然!」

≪BATTLE START≫


レイジは操縦スフィアを両手に取り、一気に押しこむ。


「軽く捻るぜ!」

『発進!』


ビルドストライクはカタパルトを加速し、青空の下へ出撃。立ち並ぶビルの合間を進んでいく。

でもその空は……ここ、コロニーの中か。空がこう、白いマス目みたいなので埋め尽くされていた。

……前方二百メートルの影から、スモーがホバリングしつつ飛び出してくる。すかさず右手のハンドビームガンを向けて連射。


黄色のビームが二発走るものの、レイジは後退しながらのスウェーで軽く避けていく。

一旦停止し、左腰のサーベルを抜き放ちながら前方へ加速。三発目も脇を抜けるようにして、平然と回避成功。

スモーもホバリングで前進し、左手で腰の後ろからヒートホークを抜き放つ。名前通り軍配型のそれは赤く発熱。


スモーの全高jは約二十メートル。ビルドストライクより一回りも大きい巨体が、のしかかるように刃を振るう。

レイジは逆袈裟に撃ち込まれたヒートホークへ、サーベルを打ち込み鍔競り合い。大丈夫、パワー負けはしていない。

ヒートホークをあっさり払い右回し蹴り――胴体部を蹴り、スモーを左側へ吹き飛ばす。


スモーは勢いに押され後退し、ハンドビームガンを構えた。そこですかさず頭部四門のイーゲルシュテルンを連射。

それはモビルスーツを打破するには少し力不足。でも構えたハンドビームガンを撃ち抜くくらいはできる。

弾丸の雨にさらされ、スモーのハンドビームガンが爆散。これで向こうの射撃武器は封じた。


やっぱり凄い……! レイジの操縦は! いや、落ち着け。スモーにはアレがある。


「レイジ、Iフィールド・ジェネレーターに注意して!」

「どんな武器だよ!」


ビルドストライクはビルの谷間を加速。角に隠れ逃げようとするスモーを追撃する。


「高出力のビームが飛んでくるかもしれない! とにかく左腕の動きに注目!」

「分かった!」


指示している間に、ビル郡を抜け大きな川へ差し掛かる。でもスモーの姿はどこにもない。


「どうした、もう終わりか!」


そこで警告表示――これはビルドストライクの上! レイジも気づいて機体を反転させる。

すると予想通りにスモーが……どうやらビルの陰に隠れてから上昇。僕達に気付かれないよう屋上へ上ったらしい。

更に左手のIフィールド・ジェネレーターに、緑のエネルギーが収束。


『舐めるなぁ!』


それは杭のように撃ち出され、ビルドストライクくらいなら一気に飲み込むほどのものとなる。

レイジは素早くビルドストライクを跳躍・後退させてビームを回避……いや、まだビームは消えていない!


『逃がさん!』

「追撃くるよ!」


下へと放たれたビームは、そのまま上へ薙がれる。いわゆるギロチンバースト……こうくるか。

陰に隠れたのはビームのチャージ時間を稼ぐため? 速射できるなら、ハンドビームガンが壊された時点でぶっ放していてもいい。

ビームは道路どころか、流れている川も底から断ち切っていく。そうして僕達を真っ二つにしようと迫ってくる。


ビルドストライクは川を越え、近くのビル群へ隠れる。その上で右へ動き、追撃してくるギロチンバーストを難なく回避した。


「あっぶねぇ……!」

『この』


スモーも川とビルを飛び越え、再度頭上を取ってくる。ただし攻撃に使うのはIフィールド・ジェネレーターではなく。


『死にぞこないがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


右手に持ったヒートホークだった。レイジはとっさにビルドストライクを後ろにジャンプさせ、刃をすれすれで回避。

着地したスモーは勢いを生かし、一気に僕達へと振り向く。そうして僕達はビルの合間で再度対じ。


「残念だったなぁ!」


そこでレイジと僕の前に、『Field Change』という警告表示。一瞬意味が分からなかったけど、空の様を思い出して寒気が走る。


「しまった……!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


さすがはイオリ君の新作ガンプラ……その機動、更にレイジ少年の操作技術にも感心していた。

イオリ君の話通りなら、彼はガンプラバトル初心者。それであれだけ動けるのはさすがだ。

だが……と思っていたが、スモーのIフィールド・ジェネレーターを避けた事で評価は変わる。


彼の操縦技術は確かに高い。しかし少々調子に乗りやすいきらいがある。なのであの不意打ちは当たると思っていたんだが。

だがそれもイオリ君のフォローで補われている。技術と知識、それぞれないものを補い合っている。

そうしてより強い輝きを生み出しているんだ。いいコンビじゃないか、あの二人は。


昔を思い出して、ほんの少しだけ懐かしい気持ちに浸らせてもらった。だがそれだけではない。

血がたぎる。まだまだ原石な二人だが、だからこそ輝いた先を見たい。このまま、あの二人のバトルが消えるなど……私には認められない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


スモーのIフィールド・ジェネレーターでコロニーの川が両断。……問題はその底にある外壁。

それも両断されたため、コロニー内部の空気が外へ漏れ出てしまっている。結果空は青さを失い、まるで嵐のように風が吹き荒れる。

空気の流れは当然損傷部に集中するため、風の流れに取り込まれれば引きずられるのみ。実際ビルドストライクの動きは止まる。


偶発的……いや、違うか。その辺りも計算に入れた上で、スモーは風上を取った。あれじゃあ狙い撃ちされるだけだ。


「なに、あれ」

「コロニーに穴が開いて、ステージのバージョンが変更されたか。あのすさまじい気流の中で、どう戦うか」

「コロニー……ヤスフミー!」

「落ち着け!」


フェイトがわたわたし始めたので、軽くチョップ。


「コロニーってのは、ガンダムにちょくちょく出てくる居住スペースだよ。
あの町はコロニー内部にあるから、外壁が壊れたら空気が逃げていっちゃうのよ」

「じゃ、じゃあ中にいる人達は……駄目ー! すぐ助けないと」

「だから落ち着け! あれは粒子で作られたジオラマだから! 人はいないから!」


くそー! フェイトの天然具合が年々ひどくなっているような! てーかガンプラバトルを見てもらおう!

両手でフェイトの顔を掴んで、ビルドストライクとスモーに集中させる。


「なぁヤスフミ、お前ならどうするよ」

「風の流れに乗って後退するか……ってのがセオリーなんだけど、条件がひとつ満たせるなら前に出る」

「なんだそりゃ」

「自分のガンプラが信じられるのなら」


確かに強烈な風だ。でも移動できないほどじゃあない。出力のあるガンプラなら十分いける。

そういうのも作りこみで変わってくるんだ。しっかり作った分、粒子によって得られるエネルギーが大きくなる。

それが性能差に繋がるわけよ。でもそれは……はっきり言おう、レイジには絶対できない。


だってあれはセイが作ったものだから。前へ進むには、自分とガンプラへの絶対的信頼が必要になる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やられた。地形やバージョン変更も視野に入れた戦略……そう言えばゴンダ先輩も、サザキに並ぶファイターだっけ。

風の重さは操縦スフィアにも伝わっているらしく、レイジが焦りを顔ににじませる。

スモーは足からスパイクを出し、風に流されないようしっかり機体固定。その上で左腕をかざし、Iフィールド・ジェネレーター起動。


「く……!」

「懐に飛び込んで!」

「けどよ!」

「アレだけの高出力砲、次弾発射までタイムラグがある! ――行くんだ、レイジ!」

「分かったぁ!」


迷いなく実行してくれるのが有り難い。レイジがスフィアを押し込むと、ビルドストライクは一歩ずつ前に出る。

そうだ、それでいい。僕の仕事はレイジのフォロー。でもそれは、単純に敵の事や戦い方を教えるだけじゃない。

自分のガンプラについても教えるんだ。レイジはガンプラを作った事もないであろう、ガチ初心者。


だから僕が橋渡しをする。僕が持っている知識を、ビルドストライクへの信頼を、レイジに伝える。

レイジがビルドストライクを信じ切れないというのなら、僕が声を張り上げる。まだ行ける、まだやれると――何度でも!


『無駄だぁ!』


でもスモーは浮上し、ホバリングしつつ後退。ちぃ、引き撃ちか! 呆れるほど有効な戦術だ!

だけどスモーにあの軽快な動きはない。スモーも風の影響を受けている、当然の事だけどさ。これならやれる。


「下がりやがった!」

「僕のビルドストライクならやれる! いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


レイジは更にスフィアを押し込み、背部メインスラスターをフルブースト。

その勢いも加味して、ビルドストライクの重かった足取りが軽やかなものへ変わっていく。

ビーム収束まであと少し。でもこの勢いなら……! ビルドストライクはサーベルを突き出しながら突進。


そうしてスモーへ肉薄する。スモーのヒートホークが迎撃のため振るわれるけど、もう遅い。

腰が引けている刃なんて、敵に届くわけがないんだ。――サーベルの切っ先は、スモーの股間部を直撃。

そうしてスモーの動きが停止する。とっさにビルドストライクが下がった次の瞬間、金色の巨体が爆発に包まれる。


「やった」


場が歓声で響く中、二度目の勝利が嬉しくてガッツポーズ。


「やったぁ!」

「セイ」


そこでレイジが呼びかけ。レイジは右手を挙げ、こっちへ振り向いていた。……笑顔で勢い良くハイタッチ。

でもレイジのは勢いが強すぎて、僕の手が痛い。痛みを払おうと、手を動かし……ある事に気づいた。

嫌な予感がしつつももう一度バトルフィールドに目を向ける。


「あれ」

「どうした」

「おかしい。もうバトルは終わってるはずなのに……フィールドが分解しない」

『少しばかり、勝負が早くつき過ぎたようだ』


この声、ユウキ先輩。……レーダーに敵機反応!? 前方百メートル、ビルの影から出てくる!

その機体はいわゆるシャアピンクに彩られていて、両肩には丸みを帯びた左右対称の装甲。

頭部はザクだけどツノ付きで、両足は増加スラスター付き……バックパックもそうだけど、高機動型ザクのものか。


両サイドアーマーはピストルのホルスターとなっていて、バックパックから伸びている増設アームには五連装ミサイルポッドを接続。

あの機体は……! 間違い、ない! でもなんで! なんでここで介入してくる!


『これでは集まってくれたギャラリーに申し訳が立たない――そうは思わないか?』


そこで僕達の前に通信用モニターが展開。そこに映るのは、髪をオールバックにしたユウキ先輩だった。


『いいや、わたしはそう思う!』

「ユウキ……先輩?」

「あんにゃろう……!」


なんかキャラ変わってるし! いや、知ってたけど! 僕だって去年の世界大会はチェックしてる!

まさかこんな、いきなり世界大会クラスと……! ビルドストライクの武装はまだ完成してないってのに!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ユウキ先輩が、赤いロボットを操縦しているみたい。でもどうしてだろう、イオリくんがすっごく焦ってる。


「な、なにあれ……ヤスフミー!」

「やはりそうか」


そこで謎のおじさんが腕組みしながら、ユウキ先輩のロボットをじっと見つめていた。


「あれは去年のガンプラバトル選手権世界大会に出場した」

「ユウキ・タツヤのザクアメイジング」


そこで黒コートの男の子が続く。それも、目をキラキラさせながら。……この輝きには覚えがあった。


「最強の現役高校生。人呼んで、紅の彗星」

「紅の……彗星」


紅……確かに、赤い。赤いロボットだから、だよね。でも彗星ってどういう事だろう。お星様みたいにキラキラするのかな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レイジはザクアメイジングについてさっぱりだろうから、僕から軽く解説。とりあえず、強敵だってところは念入りにだ。


「ザクアメイジングはビルドストライクと同じ、オリジナルガンプラだ。ベースは恐らく、高機動型ザク」


実弾・実体系武装が基本で、スケールモデラー派なユウキ先輩らしい機体だ。

今は持っていないけど、去年は戦車砲から流用したっぽい長距離ライフルを使ってた。

ミサイルでの中距離戦、ピストルでの近距離戦に、バックパックに仕舞っているヒートナタでの接近戦。


全ての射程距離で適した戦い方ができる、実に合理的な武装選択。生で見ると各種汚し塗装もバッチリしてある。……どうする。

基本武装だけでどこまで戦える。この状況じゃあミサイルの誘導も辛いだろうけど、ユウキ先輩は接近戦も強かったはず。


「じゃあ、あれか。お前でも武装とかは」

「いや、分かる。去年の選手権に出た機体だ、データはある。でも」


相手は世界大会に出られる完成度だ。ビルドストライクはそれに追いつける高スペックガンプラだけど。


「……ならやるぜ、セイ」

「レイジ!?」

「こんな挑発受けてよぉ……逃げられるかってんだ!」


確かに、そうだ。世界大会仕様なガンプラを前に、つい飲まれていたのかもしれない。

深呼吸で気持ちを入れ替え、頬をバシッと叩く。その上で改めて、コンソールに両手を伸ばした。


『すまない。そしてありがとう』


ザクアメイジングは両手を後ろに回し、バックパックからヒートナタを取り出す。


『それはバトルに乱入した事への謝罪と、君達と戦える事への』


黒鉄色だった刀身は一気に赤熱化し、機体は青いブーストをかけながらホバリング。

でもその勢いは風上という事を含めても、さっきのスモーより速い。下手をすれば、三倍。


『感謝の言葉だ!』

「しゃらくせぇ!」


レイジは冷静に迎撃。右手のサーベルで右薙一閃。伏せて避けられたので、左手を左サイドスカートのサーベルラックへ当てる。

ラックを回転させ、基部の鍔元を伏せたザクアメイジングへ向ける。そしてサーベル形成。

至近距離での刺突に近い攻撃を、ザクアメイジングは身を僅かに左へ逸らして回避。


ピンク色のビーム刃は頭部すれすれを突き抜けるだけ。そのまま滑るように後方へ回りこんでくる。

すかさず左手でサーベルを取り出し、ビルドストライクが左切上に斬りつける。

でも次の瞬間には、ザクアメイジングは三十メートル以上離れていた。刃はただ荒れ狂う風を斬り裂くのみ。


「避けた!?」

「でも、風上を取った!」


今の連撃を避けるのは、ある意味想定の範囲内。……範囲外はここからだった。ザクアメイジングは更にブーストを噴かせる。

そうして逆風の中、先ほどと全く変わらない速度で迫ってくる。イーゲルシュテルンで迎撃。

でもジグザグ移動によってばらまかれた弾幕をすり抜けてくる。ブーストによって舞い上がった炎がまるで翼のように広がる。


舞い散る炎の羽一つ一つが、ザクアメイジングを押し出しているかのようだった。


「えぇ!」

「速ぇ!」


まずい、さっきとは逆だ。風上にいるのは決して有利な事ばかりじゃない。前に出るならともかく、下がるのはさすがにキツい。

ビルドストライクは左のサーベルで逆袈裟一閃。ザクアメイジングも同様にヒートナタを打ち込む。

サーベルも小さなパーツだけど、自分なりの設定を詰め込んで作った自信作。普通の武器なら押し通せる。


でもザクアメイジングには通用しない。ユウキ先輩がそのまま斬り抜けると、ビルドストライクの左手からサーベル基部がはじけ飛んでしまう。


『燃え上がれ』


至近距離で二体は振り返り、今度は右の刃をぶつけあう。一瞬閃光が走ったかと思うと、右のサーベルも押し負けて脇に飛ばされる。


『燃え上がれ……!』


ザクアメイジングはこちらの右脇を抜け、一気に後退。すかさずレイジはイーゲルシュテルンで追撃。

でも弾幕はかすりもしない。レイジの技量は初心者でも圧倒的だ。それを、あっさり読んでくる……!?


『燃え上がれ!』


ザクアメイジングは風の中飛しょう。ビルドストライクの迎撃は更に続き、飛び越えてくる赤い影を弾幕が追いすがる。


『ガンプラァァァァァァァァァァァ!』


でも僅かに届かず、ザクアメイジングは僕達の右側に着地。向けられた背にレイジは左回し蹴り。

でも次の瞬間、モニターの光景が鋭く動く。気づいたら僕達は曇天を見上げていた。

……蹴りを避けられた上で、軸にしていた右足を払われた!? 気づいて起き上がろうとしたけど、もう遅かった。


ビルドストライクへ、向き直ったザクアメイジングから勝利宣言。首元に、ヒートナタの切っ先が突きつけられていた。


「そ、そんな」

「なんだ、アイツ……!」


次元が、違いすぎる。レイジとなら、やれると思っていた。ビルドストライクとなら、やれると思っていた。

ずっと追い求めていたけど、届かなかった理想が……ちゃんと掴めたんだ。でも、それでも届かない。

しかも恐ろしいのは、ユウキ先輩は前回世界大会『出場者』という点。決して優勝者ではない。


僕達は途方もない壁を突きつけられ、ぼう然と立ち尽くしてしまう。周囲から上がる、先ほど以上の歓声など無視して。

いや、それも当然の事なんだ。決着した瞬間の歓声は、いつだって勝者のものだ。僕は、それをよく知っている。


≪BATTLE END≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


赤いロボットが、凄い勢いで勝った。わたしにはそうとしか思えないし、そうとしか見えない。

爆発したわけでもないのに、負けが確定したみたい。キラキラとした光が、街やイオリくん達の側から離れていく。

そうしてバトルを始める前と変わらない光景が広がる。ううん、変わっている事がある。


フィールド中央部で、イオリくん達のロボットは倒れたままだった。それを見下ろしているのは、ユウキ先輩の赤いロボット。


「勝利が一瞬にして敗北に変わる、戦いとは非情なものだな。そして戦場は荒野だ。ヤスフミ君」

「駄目です」


黒コートの子は、バトルが気に入らなかったみたい。そう思ってチラっと見たけど、全然違った。

そういう意味の『駄目』じゃない。この人も、ユウキ先輩みたいにやりたがっていた。

それを我慢している顔だった。本当に……本当に、楽しげに笑っていたの。


「あんなの見せられたら、体が疼いてしょうがない」

「うむ」

「それとストライクガンダムが作りたくなる……! でもかぶるしなー」

「いいじゃないか。ガンプラは遊びだ、好きなようにやればいい」

「ヤ、ヤスフミ? あの、やめようね」


黒コートくんの両肩に、金髪の人が不安げに手を添える。


「疼くのはいいけどその、乱入とかは……ほら、他所様の学校だし」

「……あんなの見せられたら、体が疼いてしょうがない。
それとストライクガンダムが作りたくなる……! でもかぶるしなー」

「スルーしないでー! あの、それなら私が相手するよ。ガンプラあるし、きっとあんな風にバトルも」

「……フェイト、残念ながらあれじゃあ無理だよ。もうちょっと手を加えないと」

「どうしてー! わ、私一生懸命作ったよ! あのザクっていうのみたいにぎゅいぎゅいいけるよー!」


金髪の人が涙目だけど、黒コートの子は全く聞いていない様子。揺さぶられてもびくともしない。


「……お前、ほんと乱入するなよ。いや、フリじゃなくてマジでやめろよ。お前が出ていったらわけ分からなくなるだろ」

「ショウタロス先輩がやりたいようにやれと言っている。やるしかないだろ」

「では私が代わりに」

「だから振ってねぇよ! あと代案出すな馬鹿! お前ガンプラないだろ!」


あれ、おかしいなぁ。妖精っぽい子もまだ見えてる。粒子がどうこうじゃないのかな。

わたし、おかしくなったのかな。それはそれとして……だからこのおじさん達、誰?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あれがユウキ先輩のガンプラ。まるで紅蓮のように燃え上がる彗星。知っていたはずなのに、全然違う。

生で見て、対じしてよく分かる。一見目立った武装はない。でも、凄まじく強い。これが世界の壁。


「オレが、こんなおもちゃのバトルで」


悔しげに唸り、レイジはザクアメイジングを睨みつける。

そんなレイジの視線に気づいたらしいユウキ先輩は、こちらへ優しくほほ笑んだ。

さっきとは完全に別人。今のバトルを経験して、よく分かる。アレはユウキ先輩の一面にすぎない。


ザクアメイジングの戦い方は、ユウキ先輩がふだん隠している情熱そのもの。

この人は凄まじい情熱家だ。その熱が工作・操縦に注ぎ込まれているんだ、強くないはずがない。


「野郎……!」

「バトルはここまでにしておこう」


ユウキ先輩の言葉で、呼吸を止めていたと気づく。ハッとしながら息を吐き出すと、またユウキ先輩が笑った。


「作品の出来具合――その動きから察するに、イオリ君の機体は未完成と見た。
選手権開催までに、その機体を完璧な状態に仕上げてほしい。私はイオリ君が本気で作ったガンプラと戦いたいのだよ」

「ユウキ先輩、どうしてそこまで僕に」

「私に勝つ事ができたら教えよう。そして、その戦いの場は選手権こそふさわしい」


……確かに、ユウキ先輩も出場するなら地区予選でぶつかる。だけど……少し不安になりながら、悔しそうなレイジを見た。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


それから僕達は帰宅。ビルドストライクは損傷も皆無で一安心。あと……ゴンダ先輩に謝られた。

僕達が悪かったからいいって言ったんだけど、自分もってさ。それでレイジと握手して仲直り。

バトルの結果はどうあれ、その中でレイジの人柄は認めてくれたらしい。それが、少しだけ嬉しかったり。


あ、ただ無断侵入はしないようにと注意されたけど。レイジもそこは了承していた。ただ、機嫌が良かったのはそこまで。


「むかつくぜ! あのユウキって野郎!」


レイジは負けた事が相当悔しかったのか、帰り道でも怒りを継続。通りがかった池に石を蹴り飛ばした。

石がぽちゃんと沈んでいく様を見ながら、苦笑してしまう。いや、僕はなんというかこう……突きつけられちゃったから。


「でもさすが、ユウキ先輩が作ったガンプラだよ。その出来栄えも、卓越した技術も……世界大会出場者の実力は本物だった。僕らの完敗だ」

「違う! 負けてねぇ! 野郎だって言ったじゃねぇか!」


そう言っていた。でもねレイジ……僕は突きつけられたんだよ。井の中のかわず大海を知らずってやつ?

今まで大会に出ても、一回戦負けが当たり前だったから知らなかった。世界の舞台で勝ち残るガンプラの凄さ。

知識ではなく、その肌で――心で知った。やっぱり、今のままじゃ足りない。ビルドストライクをバージョンアップさせていかないと。


でもそうなった時、僕の腕じゃ……ううん、それでもやるしかない。もう、僕一人で。


「そうとも、決着はまだついてねぇ。セイ」


レイジは左手を挙げ、僕のショルダーバッグを指差す。


「そのガンプラを完成させろ!」

「レイジ?」

「受けた借りは返す――それが屈辱ならなおさらだ。やるぞ、ガンプラバトル」


その言葉が信じられなくて、つい前のめりになってしまう。でもレイジの目に嘘はない。

恩返しのためじゃなく、そういう誇りからでもなく、本気で挑んでくれる。それが嬉しくて、つい涙ぐんでしまった。


「いいの!?」

「決まってんだろうが!」

「レイジ……!」


ありがとうと言うしかなかった。興味もない事に巻き込んでいるんじゃないかと、不安もあったけどさ。

それでも今はただ……もしかしてユウキ先輩、もしかしてあの時乱入したのは、レイジを焚きつけるために。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


模型部部室へ戻り、ザクアメイジングの状態確認。まぁ傷なんてあるわけもなく……と思っていたら違った。

右手のヒートナタ、ひび割れているんだ。そのひび割れが夕焼けの中、妙な美しさを生み出す。

ガンプラバトルはガンプラの出来栄えによって、性能が決まってくる。それは武装もしかりだ。


ようはヒートナタより、ビームサーベルの出来栄えがよかったって話さ。

結果粒子で構築されている、サーベルの出力も半端なかった。これは僕も鍛え直さないと。

もし本体がザクアメイジングにパワー負けせず、数合打ち合っていたら結果は逆だっただろう。


タケシさんの息子……やはり虎の子は虎という事か。でもどうしてだろうか、それでバトルに勝てないというのは。

バトルの様子を見るに、彼はガンプラやガンダムの知識も多く保有している。そこから生み出される戦術眼もかなりのものだ。

下手をすれば多少操縦技術が拙くても、お釣りがくるほどに。それほど致命的になるのは、なにか原因が。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ユウキ先輩には感謝する。迷いはあるけど、それでも左手でバッグを撫でた。


「レイジ、作るよ。このガンプラを。ビルドストライクガンダムを最高の……うん、最強の機体に仕上げてみせる!」

「頼むぜ、セイ」

「ああ!」


こうして僕達はタッグ結成。もうすぐな大会に向けて……あれ、なんだろう。

気のせいかと思って、右手で目をこする。……でも気のせいじゃなかった。レイジの体が赤く発光していた。


「なんか、光ってない!?」

「おっと、時間みたいだ。またな、セイ」

「あ……え、え!」


次の瞬間、レイジは光とともに消失。まるで……そう、まるでテレポートしたみたいに、この場からいなくなった。

僕は池の畔で一人残され、ただぼう然とする。そうして。


「なんじゃそりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


夕焼け空に向かって、叫ぶしかなかった。なにこれ……一体なんなんだ、アイツはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


(Memory23へ続く)




おまけ:モデラーにはいろんな人がいます。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レイジ「なぁセイ、スケールモデラーってなんだ? ガンプラとは違うのか」

セイ「そうだなぁ……まずガンプラはアニメや漫画作品に出てくる架空兵器。ここは覚えておいて。
そんな架空兵器を模型として売り出しているのがガンプラ。そういうのはキャラクターモデルと言われる事が多い」

レイジ「あぁ」

セイ「逆にスケールモデルは実在するものを題材に、縮小サイズでプラモ化されたものなんだ。
ガンプラはそれと比べると、歴史の浅い部分がある。それでも三十年以上なんだけどさ」

レイジ「じゃあ実物モデルなやつが先に出たのか」

セイ「プラモデルじゃないものも含めれば、模型自体にはそれこそ百年以上の歴史があるよ。
例えば木々で作る帆船模型とかさ。レイジ、ボトルシップって見た事ないかな」

レイジ「あー、瓶の中に船があるやつか? あれも不思議だよなぁ、どうやって作ってんだ」

セイ「パーツ一つ一つを瓶に入れて組み立ててるんだよ。物凄く手間のかかる趣味なんだ。
……そんなわけでスケールモデルの世界には、実物さながらの表現方法というものが確立されている。
そんな長い歴史の中で積み重ねられたものだよ。それは現在進行形で発展を続けている」

レイジ「じゃあユウキの野郎は、そういう技術をガンプラに応用してんのか。ちなみにスケールモデルってどんなのがあんだ」

セイ「戦車や飛行機などの、新旧問わない兵器関連。あとは電車やお城。
情景そのものを立体化させたジオラマセットなんかもある。峠の茶屋とかさ」

レイジ「城や茶屋ぁ!? ……いや、不思議はねぇのか。実物モデルだから、建物でもOKと」

セイ「そうそう。ただスケールモデルは単色成形が基本だったり、接着剤を使う場合も多い。
価格もHGなどに比べるとやや高めなんだ。だからプラモ初心者向けでは……ないのかな。慣れればOKだろうけど」

レイジ「あれ、でもお前んとこにそんなのは」

セイ「うちはガンプラ中心のお店だから」

レイジ「じゃあ次の質問。ぶっちゃけどっちが売れてんだ」

セイ「アニメもやっている関係で、僕達中高生くらいだとガンプラが圧倒的かも。
価格帯から手に入りやすいというのもあるし……あ、でもスケールモデルは最近だと」

タツヤ「嬉しい事に、スケールモデルを作る人達が増えてきているんだよ」

レイジ「ユウキ! てめぇ、どっから湧いてきた!」

タツヤ「まぁまぁ。……最近ブラウザゲームの『艦隊これくしょん』、そしてアニメ『ガールズ&パンツァー』というものが出てね。
艦隊これくしょんは旧日本軍などが作った、艦船モチーフなキャラが出てくるゲームだ。それもいわゆる美少女キャラ」

セイ「擬人化というやつですね」

レイジ「……ようはあれか、可愛い女の子に釣られた奴らが、元ネタになってる船のプラモにも手を出してると」

タツヤ「身も蓋もない言い方をすると、そうなっちゃうね。実際うちにもいるよ? それで艦船模型にハマった子が。
……ちなみに艦船模型のスケールは小さいものだと、装備も少ない駆逐艦は千円前後で手に入る」

セイ「標準的なガンプラと同じ価格帯ですね。サイズは……七百分の一とかだったけな。
初心者で作るのが不安という方は、そういうところから始めると」

タツヤ「いいと思うよ。ただスケールが小さい分、パーツも小さくなる。ピンセットやパーツ入れなどは準備しておいた方がいいね」

レイジ「じゃあガールズ&パンツァーってのは」

タツヤ「こちらは戦車だよ。アニメスタッフのこだわりからか、かなり忠実なモデルが使われている。
あとはまぁ、劇中の舞台が女子校なんだよ。戦車同士のバトルが主だけど、それも試合形式だから死人が出るわけでもなく」

レイジ「それもあれか、可愛い女の子に」

セイ「それ以上いけない」

レイジ「なんで片言になんだよ。……つーかあれか。なんかアニメやゲームとかって影響力強いのか? ガンダムもそれなんだよな」

タツヤ「たくさんの人に見てもらえて、興味を持ってもらえるからね。僕としても実に嬉しいよ」

セイ「はい! 僕もガンダムを好きな人が増えるともう……母さん相手だと語れないし、父さんは出張中だし、どうもフラストレーションが」

レイジ「……お前、友達いないのか」

セイ「レイジィィィィィィィィィィィィ!」

タツヤ「イオリ君、生徒会長として悩みがあるなら相談に乗るよ? 学部は違うけど」

セイ「やめてくださいよ! いや、本当にやめて! 僕はちゃんと友達いますから!」

恭文「セイは友達が少ない。略してはがない」

セイ「恭文さんも突然出てきて、オチに使うのやめてもらえますか!? なんなんだよ、もうー!」


(おまけ――おしまい)





あとがき


恭文「えー、そんなわけでVivid編第22話です。今回はビルドファイターズの第二話。バンダイチャンネルさんには助けられています」


(見放題ですしね)


フェイト「でもその、ヤスフミがラルさん枠に……ていうか学校へ侵入ー!」

恭文「侵入? 違うよ、敵情視察だよ。スパイだよ」

フェイト「うぅ、理論武装しないでー! 今日はお仕置きだよ! うん……いっぱいお仕置きだから。その、上になってヤスフミをいじめるの」


(ひどい開き直りを見た)


恭文「お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。今回はチナちゃんとゴンダ君、タツヤ君が登場。あとはザクアメイジングだね」

恭文「まぁここまでセイ主役なのは……しょうがないのよ。この話は導入部からきっちりやらないと意味ないから」


(途中で関わったって形にすると、世界大会まで絡みませんから)


恭文「そしてやっぱり圧倒的なザクアメイジング。どんだけ強いんだって話ですよ」

フェイト「それとモデラーとしての方向性、だよね。でもスケールモデラーって辺りは」

恭文「漫画のビルドファイターズAから。あれだよ、スケールモデルを作って勉強してたから、その影響からだね」


(というわけで過去話、既に書き上げております。小学生編だけですけど……一応どっかでお見せする予定です)


恭文「でもストライク、いいなー。ちょうど二体目作ってるとこだから」


(同人版の挿し絵用に、デフォなパーツが必要になりました。もう終わりましたけど)


フェイト「そう言えばエリオはどうするの」

恭文「いや、最初はこれでIMCSに参加……と思ってたのよ。休職ならOKとか言って」

フェイト「うん、いいと思うな」

恭文「でもそれじゃあ抜け道同然だからNGにして」

フェイト「……え」

恭文「ガンプラバトル……も考えたけど、これ以上地区予選でキャラ増えても大変だなぁと」

フェイト「ノープラン!? ノープランなのかな、これ!」

恭文「大丈夫だって。旅立って数か月後に、ドラゴンボールGTの悟空みたいに小さくなるから」

フェイト「単なる丸投げだよね! ていうかどうして小さくなるの!?」

恭文「僕の許可なくでかくなりやがるからだよ!」


(蒼い古き鉄、断言。そして閃光の女神、唸りながらぽかぽかたたき出す)


恭文「あれ、なんで?」

フェイト「当たり前だよー! やっぱりお仕置きだから! お仕置きだからー!」


(今日も閃光の女神は楽しく生きています。
本日のED:AiRI『Imagination>Reality』)





恭文「なおこのお話はフィクションです。実在する団体や情勢なんかは一切関係がありません。
それとみんな、学校などの敷地に入る時は許可をもらおうね。僕達みたいに」

フェイト「もらってたの、許可!」

恭文「当たり前でしょうが。まぁ僕というか、大尉なんだけど」

フェイト「……ヤスフミ、あの人本当に何者なの? いや、それなりのお付き合いはあるんだけど」

恭文「大尉は大尉だよ。それ以上でもそれ以下でもない」

フェイト「意味分からないよー!」(ぽかぽかー)


(おしまい)





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あきゅろす。
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