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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory21 『セイとレイジ』


変わらないものがある。どんなに変えたくても、変えられないものがある。そんな僕の実家はイオリ模型店。

世界中へガンプラを広める旅に出ている、父さんのお店だ。現在は母さんが店長代理。

でも店番を任されるたび、常々思う事がある。商店街からも離れているし、駅前にあるわけでもない。


ようするに店の立地条件が悪い。それでも生計が成り立っているのは、ネット販売なども手がけているためだろうけど。

そのため暇な店内と反比例して仕事はそれなりにある。だけど僕は。


「それでは伊織(イオリ)リン子大尉、食料物資の補給へ行ってまいります!」


青髪ロングを一つ結びにして、僕から見てもスタイル抜群な母さんに敬礼。店内カウンターから見送る。


「今日の食料はなんでありますか、大尉」

「野菜炒めであります」

「えー! またー!?」

「……なによー、母さんの野菜炒めは世界一って言ってたくせにー」

「そりゃそうだけど……ほら、毎日はさ」


そうは言うものの、母さんは大丈夫と言わんばかりにほほ笑んで。


「じゃあ、行ってきまーす。店番よろしくね」

「はーい」


そのまま店の玄関から出ていく。そうして僕は一人店内に残され……そう、一人です。

カウンターに備え付けてある椅子に座り、軽く頬づえ。本当に、この立地条件と客入りでよく生活できていると思う。

普通なら退屈な店番だけど、その分ガンプラ作ったりできるから実は好きだったり。


あと……左側の窓から見える、六角形のスフィアにため息。はい、個人店だけどバトルシステムを置いています。

あれで練習……はちょっと無理かー。集中しちゃうと店放ったらかしだし。ガンプラ製作はOKだけど。

なおガンプラ製作がOKなのは、作業場の様子が見られるせい。ようはあれだよ、宣伝も兼ねてるんだ。


こんな風に作るんだーとか、こんな感じなんだーっていうのを見せる。……そう、見せるんだよ。

それならあとは右腕だけだし、今のうちに……作っちゃおうかな。僕だけのガンプラ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

世界が逆さに見える。上に町並みが広がり、下には空。逆転した地平線が嬉しくて、つい笑っちまう。


「……はははは!」


ついこみ上げてくる笑いを吐き出し、両手を添えた頭はもうちょい動かす。

棒みたいに突っ立ってる建物達を逆に見るのは、最高に面白い。ここは高いから景色もいいしなぁ。


「何度来てもすっげぇなー。ここから見える建物全てに人が住んでるってんだから、アリアンの何倍あるんだか」

「こらぁ!」


そこで足先からおっさんらしき声。頭だけ動かすと、七時方向にある階段から……あ、やっぱおっさんだ。

金網の上に寝転んでいるオレを見上げながら、なんでか険しい顔をしていた。


「そこでなにをしている! 危ないから下りてきなさい!」

「大丈夫だって!」


両足を上げ、鋭く下ろす。そのまま金網を踏み締め、すっと立ち上がる。なんだか不思議だなぁ、まるで空の上に立ってるみたいだ。


「おっさん!」

「誰がおっさんだぁ! 私はまだ二十五歳だ! いいから下りなさい、下りるんだ!」


左人差し指を立て、左側を向く。そうして風の方向をちょい確かめてみる。……その瞬間、風が強めに吹き抜ける。


「……よし」


それが嬉しくて左手を引き、かけていたサングラスをおでこの上へ。そうして背後へ振り向く。


「行き先決まった!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ガンプラ作る前に、やるべき事があった。それは……店内の掃除。はたきを持って、埃を丹念に払う。

整理整頓は大事だよー。だって店の印象に関わるし、塗装や工作の時邪魔になるしさー。

これも楽しいガンプラ製作タイムのためと思い、しっかり丁寧に。……そこで玄関からチャイム。


そちらを見ると、男性と男の子が二人連れで入店。というか、親子連れだね。


「いらっしゃいませー」

「うわぁ……ガンダムだ!」


まだ幼稚園くらいかな。いや、小学校低学年? それくらいの子が、元気よく玄関から左側へ。

その奥には歴代ガンダムのプラモが飾られていて、目をキラキラさせながら見てくれる。


「ガンダムがいっぱい!すっごい!」

「へぇ、よくできてるな」

「ありがとうございます!」


つい嬉しくて、商品棚の間から抜け出す。それで二人が背後にいる僕へ振り向くので、また笑顔。


「それ、展示用に僕が作ったんです」

「ここにあるの全部?」

「はい」

「すごいな、君」

「いやぁ」


もう恥ずかしくて、左手で頭をかきながらもじもじ。


「これだけ作れるって事は、もちろんガンプラバトルもしてるんでしょ」


……その言葉で喜びはフリーズ。どうにもならない気まずさばかりが胸に広がる。


「ま、まぁ……一応」

「きっと強いんだろうな」


そこでお父さんは棚上の左隅においてある、地球を模したトロフィーに目をつけた。


「第二回、ガンプラバトル選手権世界大会……準優勝!? すごいじゃない!」

「あの、それは僕の父さんが」

「ねぇパパー、このガンプラはなにー」


聞いて……くれませんよねー。それより男の子の方だ。男の子は右手で棚の一角を指差す。

そこにあるのは両翼を携え、右手に長大なライフルを構えたガンダム。兜的な頭部がまた印象的。


「うーん、なんだったかな」

「ウイングガンダムです!」


そういう事なら僕の出番。さっきのモヤモヤは一旦忘れ、ずいっと前に出た。


「特徴は高速飛行できるバード形態への変形機能! 大口径のバスターライフルも装備! 火力と機動性、両方に優れた機体です!」


あぁ、見える……見える! 宇宙を飛び、変形し敵陣へ飛び込むウイングガンダムが!

バルカンを放ち、モビルスーツすら倒せるマシンキャノンが両肩部から発射!

密集するような敵は右手に持っているバスターライフルでどがん! 素晴らしき高山みなみさんの歌声!


胸高ぶりながらも、ちょうど近くにあったHGACウイングガンダムの箱を取り、くるりと一回転。


「ちなみにウイングガンダムは、地球圏統一連合に反抗地下組織が開発したモビルスーツで、開発者はドクターJ(ジェイ)!
オペレーションメテオの発動によって地球降下作戦の」


そこでなぜかお父さんが僕の両肩を叩いてくる。


「も、もう、分かったから」


困り気味な声に顔が赤くなり、謝りつつ数歩下がる。うぅ……あの子、僕を見て笑っている。

父さんにも笑われた事はないのに。いや、父さんは僕以上のガノタだけど。


「敬介、あのガンプラにするか?」


とにかくあの子のお父さんはすっとしゃがみ込み、目線を合わせる。その仕草で父さんを思い出したからか、少し胸が温かくなった。


「うん!」

「あのお兄ちゃんみたいなガンプラが作れれば、バトルの勝利も間違いなしだ」


いやー、そう言われると辛いなぁ。だって僕。


「お客さーん、それはいかがなものかと思いますよ」


……そこで玄関に新しい気配。茶色の髪をおかっぱにして、紫のダウンジャケットを着ている奴が突然入ってきた。


「ゲゲ!」

「誰だい?」

「サザキ……!」

「伊織静(イオリ・セイ)の作るガンプラは、確かに出来がいい。プラモをただ組み立てるだけではない。
パーツの合わせ目を消し、専門塗料で着色――商品見本と見間違えるぐらいの出来栄えです」


おい、挨拶しろよ。デュエルはしなくていいから、挨拶しろよ。……コイツは佐崎(サザキ)。

一応まぁ、近所では有名なガンプラファイターで、うちの常連ではある。少々困りものだけど。


「しかし、出来のいい作品だからガンプラバトルに勝てるわけではりません。だよねぇ」


僕に聞くなと思い、つい顔を背けてしまう。


「そ、そんな事」

「だったら試してみようじゃないか」


サザキは腰につけているケースから、薄紫で塗装された細身のガンプラを取り出す。

それは騎士を思わせる風貌で、頭部中心にはクリアピンクの一つ目。……HGのギャンか。相変わらずのギャン推し。


「君のガンプラと僕のガンプラ、どちらが優れているか」


そうしてサザキは右手にある、バトルスペースをギャンで指す。


「ガンプラバトルで!」

「おぉ!」

「見たい見たい!」


えぇ! ちょ、ま……それはまずいというか、なんというか! ていうかコイツなに! 明らかに営業妨害なんだけど!

「ほら、お客さんもこう言ってくれてるよ。……逃げる気かい」


そう言われてむっとしてしまうのは、僕の悪いくせだろう。気づいたら少しの迷いも振りきって。


「やるよ、ガンプラバトル」


前に踏み出し、そう言い切ってしまった。


「そうこなくっちゃ」


――サザキの笑みは気にせず、早速バトルスペースへ。個人店だからベースは一個だけではあるけど、バトルには十分。

まず僕達は向かい合う形でユニットの外側に立つ。目の前には内部からせり出した白いベース。


≪Plaese set your GP-Base≫


そのベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。

GPベースというのはガンプラバトル用の端末。あれだよ、戦績とかを記録するものだ。

外観は長方形型で、先が斜めに折れ曲がっている。それを設置すると、すると黒かった画面が点灯。


PPSEのロゴが入り、更に僕の名前が表示される。下はガンプラのデータとなっており、型式番号まで出てくる仕様。

今回はあの子が気に入ってくれた、ウイングガンダムを使う。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field3――Forest≫


するとユニット表面と僕達の足元から青白い粒子が立ち上る。ユニット上の粒子は物質化し、桜の木々が立ち並ぶ平原に変化。

足元から昇った粒子は空間モニター的に、計器類や三面モニターとなった。辺りの景色もここで遮断される。


≪Please set your GUNPLA≫


ベースにガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透。スキャンされているが如く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。この瞬間がめちゃくちゃドキドキする。

粒子が僕の前に収束――メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。


モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、操縦スフィアは月のような黄色。

コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙しなく動く。

両手でスフィアを掴むと、ベース周囲で粒子が物質化。機械的なカタパルトへと変化する。


同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。

うん、コクピット視点なんだ。ドキドキとワクワクを更に強めながら。


≪BATTLE START≫

「イオリ・セイ、ウイングガンダム――行きます!」


スフィアを押し込む事で、カタパルトに乗ったガンプラが加速――そのまま射出し、平原に現れる。

なお出入り口は宙に浮かんだ状態だけど、それも粒子化してすぐに消滅。まずは木々の間に着地し、ライフルを構え警戒。

……そこで正面メインモニターに警告。『CAUTION』と赤い表示が出て、上下左右の矢印が展開。


右側が点滅するので反射的にそちらを振り向く。……すると気を飛び越え、サザキのギャンが登場。

ギャンは接近戦用機体で、メイン武装は右手のビームサーベル。更に左手にはミサイルポッドを仕込んだサークルシールドも装備。

ギャンのプラモ自体はHGUC初期だから、今のと比べるまでもない。ただサザキはビルダー……当然それなりの改造はしている。


そのため鋭く踏み込み、背部のスラスターも吹かせながら刺突。咄嗟にウイング左腕のシールドで防御し後退。

でもサザキは続けて逆袈裟の斬撃。それでシールドが横に払われると、左肩を突き出しタックルしてきた。


『今回も教えてあげるよ。プラモの出来栄えが』


駄目だ、僕のガンプラが――負けてしまう。それが怖くて下がったところで、サザキは引いていたサーベルで再び刺突。


『ガンプラバトルに勝つための、絶対条件ではないという事を!』


シールドで防御するものの、二十メートルほど吹き飛ばされてしまう。でもこれはチャンス。


「間合いを!」


上昇すると、ウイングガンダムは腰部から回転。バスターライフルをシールド先端部に埋め込み、更にシールド後部はバックパックに接続。

そのまま両翼を広げバード形態へ変形し、一気に上昇。サザキから距離を取る。

落ち着け、ギャンは近接用武器がほとんどない。距離を取り、バスターライフルで一撃当てれば。


『させない!』


でもそこで画面が大きく揺れる。なんだと思っていると、ガンプラの状態を示すサブモニター展開。

左ウイングが根本から外された? サザキはシールドを投げつけ、それでこちらの機体を壊しにかかった。

相変わらず乱暴な戦い方。いら立ちと恐怖でパニックになりながら、必死に操縦スフィアを動かす。


でも機体バランスは全然よくならない。なんでだよ、なんで……なんでいつもこうなるんだ!

結局僕にできたのは変形を解除し、尻もちをつくように不時着する事だけ。

そうして数十メートルを滑る中、メインモニターにサザキの機影。サザキはシールドをいつの間にか回収し、それをかざしながら突撃していた。


『相変わらず』


反撃のためバスターライフルをかざす。


『反応速度が遅い!』


でも反撃はサザキのサーベルによって、右腕が肘から両断されたために失敗。

胸にジリジリと走る痛みが苦しくて、息が詰まる。だったらマシンキャノンとバルカンでと思っていると、今度は右回し蹴り。

首から上が接続部から外れ、衝撃で機体があお向けに倒れる。そしてサザキは、コクピット部に向かって刃を振り下ろした。


痛みが最高潮に高まったところで、ウイングガンダムが爆散。なにもできず、また……負けた。


≪BATTLE END≫


粒子による擬似コクピットとフィールドが少しずつ消えていく。ベース上に立っていたのは、サザキのギャン。

そして僕のウイングガンダムは……左主翼が外れ、右腕も腕の付け根から外れていた。

そこはまだいい、くっつければ済むはずだから。でも……胸元のクリアパーツには明確な穴。


ひび割れ、無残な姿になったウイングにしか目がいかない。僕が、弱いから。僕が……負けたから。


「うわぁ……すっごーい! お兄ちゃんのガンプラ、すっごく強いね!」

「そう、強いものが勝つ! それがガンプラバトルの唯一無二の掟だ!」

「お父さん、僕あのお兄ちゃんと同じやつが欲しい!」

「そうか、なら、そうするか!」


ウイング本体と外れたパーツを持って、大きくため息。僕は、どうして……ニュータイプへの変革はまだこないのか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

結局あの親子はギャンを購入。ただ……ギャンはなぁ。一応、購入前に説明タイムです。


「まずですね、HGギャンはHGUC最初期に出たキットなんです。
そのためパーツ構成や可動範囲なども、今のキットと比べるとかなり劣ります」

「でも、さっきのバトルだと」

「サザキのギャンは徹底改造してあるんです。なのでお子さんが素組みして、最初からあの強さにはなりません。
もしガンプラバトルをするのなら、そこだけはご注意を。……それでまぁ、こういう事を言うのはですね」


カウンターでドヤ顔なサザキは気にせず、少し不思議そうなお父さんに説明継続。


「ガンプラバトルはプラモの出来栄えなどでその性能が変わってきます。
例えば塗装や工作関係……その中で大きいのが可動範囲です。可動範囲はキットの個体差がモロに出る部分なので。
しかも改造には強度計算も必要なので、下手に弄るとボキっといきます」

「ボキッと!?」

「はい」

「セイ君、見苦しいよぉ。彼は僕のおかげでギャンを選んだというの」


邪魔なのでギロリと睨みつけると、サザキは怯えながら後ずさった。……今、僕は仕事中なんだ。

それも模型店の店番としてとっても大事な話。邪魔しないでくれるかなぁ……!

そんな事を考えていたからか、サザキにも僕の気持ちが伝わったらしい。ホールドアップして全力で頷いてきた。


「でも安心してください。そうなった場合、相談していただければフォローもできますし。
修理用のパーツや、その機体に対応した改造パーツなども取り扱っています」

「でも古いガンプラなんだよね、絶版だったりは」

「バンダイのプラモデルは、原則的に絶版というものはありません。全種類が定期的に再販されています」

「全種類!? じゃ、じゃあ私が子どもの頃売っていたようなものも!」

「古いものほど再販のペースが開いていますけど、ギャンに関してはまだまだ現役です。
説明が長くなってしまいましたが、ようするになにかあればご相談をと……まぁそういうお話ですね」


お父さんも納得してくれた様子なので、ギャンの箱を持っているあの子を見下ろし笑いかける。


「もしギャンが壊れて困ったりした時は、いつでも相談にきていいからね」

「うん! ありがとう、お兄ちゃん!」

「ううん」


あとは作るのに必要な用具、扱いなどもさっと説明。刃物を扱うし、作る時は気をつけてほしいともお願いした。

お父さんは少々長い話ではあったけど、一つ一つ丁寧に聞いてくれた。そうして会計が終わったので。


「ありがとうございました」


二人をお見送り。なおその間、お客は全くこなかった……やっぱ立地条件が。


「大変だねぇ、セイ君」

「別に。空気を読まない、サザキって人の相手よりは大変じゃないよ」

「そ、それは悪かったってー」

「それに必要な事だよ。……素組みで世界大会レベルになれるーとか、そう考えるお客さんも多いからね」

「ちゃんと言っておかないと、クレームに繋がるとか?」

「それもつまらない話だしね」


あの二人がいなくなったから、ビルダーであるサザキの前だから呟ける事。確かにガンプラバトルは世界的人気。

でも誰にだって初めてな時間はある。例えばバトルを見て、活躍するガンプラを見たとする。

さっきのサザキとギャンみたいにさ。でもそんな活躍を真似て作ったのに、自分で作ったものは同じ事ができない。


それでガンプラバトルをクソゲー的に見ちゃう場合もあるんだ、本当に悲しい事だけどね。

でも……そのために僕達模型店がある。僕達が門戸になって、基本工作や改造なんかを教えるんだ。

そのためにバンダイもガンプラマイスター制度なんて作っているしさ。一応僕もその資格持ち。


これは模型店の店長やスタッフにそういう、インストラクターみたいな資格を発行している。

一定の試験を受けないと取れないんだけどね。なのでうちでも一応、プラモの作り方みたいな小冊子を作っていたり。

いわゆるコピー本なんだけど、新規のお客様には必ずつけてるんだ。涙ぐましい営業戦略とも言う。


「まぁ君もこれで分かったはずだよ。君の操縦技術じゃガンプラバトルには勝てない」


サザキの言う事は気にせず、外に出て窓ふき開始。道具は既に準備していたので、それも持って外へ。


「だからさ、僕と組もうよ」


サザキは平然と僕を追いかけてくる。悪い奴ではないんだけど、どうにもしつこい。


「君の作った高性能ガンプラで僕が戦う。二人で選手権に出れば、勝利と栄誉が手に入る。この店の売り上げだって」

「君に頼むなら、うちの高等部にいる悠木(ユウキ)先輩を頼るよ。世界大会常連だもの」

「なにを言ってるんだい。彼は君と同レベルかもしれないビルダーだよ? それなら僕と」

「断るよ、空気読めないし」


そこでサザキがズッコけるので、つい冷たい視線を送ってしまう。


「それに何度も答えただろ? 君は強いけど……戦い方が乱暴だ。僕のガンプラを預ける気にはなれない」

「やせ我慢だね。選手権は間近に」

「更に営業妨害もしかけたし」

「君は根に持つ方かい! 分かった、さっきのは悪かった! 謝るよ! だから僕と」

「更に営業妨害もしかけたし」

「聞いてくれないかー! ……でも覚えておくんだね」


サザキは髪を右手でかき上げながら、僕に背を向けスタスタと歩いていく。


「このままでは君の敗北は必至。勝ちたいならよく考えておく事だ」


まるで捨てぜりふ。だけど……掃除するために外へ出たのに、なにもする気が起きず歯がみする。

悔しい……僕にもっと操縦技術があれば。そう、父さんのように。

勝ちたい。僕の作品で、僕が求める理想の動きで、ガンプラバトルに勝ちたい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


前回のあらすじ――ガンプラの買い出しです。なんだろう、これ。

聖夜市へはダーグのガオウライナーに乗ってさっと移動。……昨日もこれ使えばよかった。

でもガオウライナーに乗れるとは……やっぱりいいよね、新しい事がどんどん起きるのって!


住宅街を歩きながら僕はもうワクワクしっぱなし。ただ……世界大会の様子も改めて見て、思うところもできたけど。

世界大会優勝者のカルロス・カイザーが作ったα・アジール、チームネメシスのデビルガンダム……どれもMA系。

最近の世界大会上位入賞者と使用ガンプラは、重火力・重装甲を地でいくものばかり。


いわばガンプラバトルの恐竜化が進んでいる。それがただの火力馬鹿なら、やりようもあるんだけど。

でもそうじゃないからなぁ。どう戦っていくべきかと、今から頭を悩ませている。

……いっそ核グレネードでも作る? もちろんガチなのじゃなくて、クロスボーン・ガンダム内で使われたの。


「ところでやすっち、昨日疑問って言ってたけど……なんか問題あるのか?」

「実は。ここは操縦じゃなくて、工作の問題なんだ。まず……近年の世界大会上位入賞者は、大型ガンプラを使っている事が多い」

「そういえば……あのα・アジールもそうでしたが、やたらと大きい機体ばかりが目立っていましたね」

「それだけならまだよかった。世界大会レベルの実力者はね、プラフスキー粒子の特性をよく理解しているのよ。
例えば塗装で擬似Iフィールドを発生させたり、特有の装備を用意したり」

「塗装だけでそんな事ができんのかよ! ……あー、でも待て!」


驚くみんなとダーグは、少し考え思い当たったらしい。実際さっきの映像でも、そういう場面は幾つか見受けられたもの。


「ちょっと待て。小僧、Iフィールドというのはなん」

「Iフィールドというのは簡単に言えば、ビーム攻撃に強い耐性を発揮するバリアです」


そこでぎょっとして、足を止め振り返ってしまう。いや、だって……シュテルが普通に解説してるー!


「ビームサーベルの形成などにも使われる、ミノフスキー粒子の操作技術を応用。
周囲に展開する事で、射撃系のビーム攻撃をシャットアウトするのです」

「待て待て! シュテル、貴様がなぜ説明する! 小僧に聞いてたのだぞ、我は!」

「ヤスフミの手を煩わせてもあれかと思い、戻るまでにウィキペディアというものを熟読。
ガンダム作品の知識はある程度頭に入れました」


そう言ってシュテルはドヤ顔。やんわりではあるけど、めっちゃ得意げだった。わぁ、こういうキャラだったか。


「わぁ……シュテル、凄いです。私も見習わなくては」

「……ユーリよ、とりあえずこやつのドヤ顔だけは見習わんでくれ。だがそれならば我らも同様の技術で対抗すればよいだろう」

「丸々コピーは難しいよ」


ディアーチェの言っている事は事実だけど……また歩き出しながら右手を挙げる。


「各ファイターも工作過程は、秘密にしている場合が多いんだ。……ここでワークスチームの存在が関わってくる。
シュテル、さっき僕は言ったよね。ガンプラ開発にもお金の力は関わるって」

「ようは粒子特性を理解した、工作法の開発と」

「その結果デカブツ率が増加しているわけよ、そうじゃないのもいるけど。
更に言うと、それだけの工作技術を保有するビルダーは貴重。
どこのワークスチームも喉から手が出るほど欲しがっている」

「もしかしてそれがPPSE社のスカウト云々に繋がるのかしら」

「うん」


個人レベルでもそうなんだよねぇ。強いビルダーと組むってのは、ある意味優勝への近道だよ。マジでF1とかそっちの世界だね。


「特に、PPSE社はなぁ。PPSE社はガンプラバトルの大元でもあるし、勝利に手段を選んでいないところがある。……大馬鹿二代目がやらかしてくれたし」

「二代目?」

「名人カワグチって人がいてさ、その人はガンプラが出始めた頃からのベテランモデラーだったのよ。
その人の名を受け継ぎ、ガンプラバトル販促の名目で二代目が登場したんだけど……ちょっとね」

「じゃあやすっち、その二代目は大会に」

「出てくるかもしれない。PPSEワークスチームの顔と言っていい人だから。もしそうなら、大会中一番の強敵だ」


それに二代目というと……でも、そっかぁ。改めて考えて気づいた。世界大会まで進めば楽しく遊べるんだね、またさ。それで口元が少し歪む。


「しかしそうなると……考えが甘かったなぁ」


苦い思いは一旦封印していると、ダーグが困り顔で頭をかく。


「やっぱ上手く作るだけじゃ」

「足りないね。僕達はプラフスキー粒子の特性を考慮した、固有装備を用意する必要がある。
例えば僕のゴーストだと、漫画の装備が基本だからさ。ガンダムをよく知っている人には読まれやすいのよ」

「手札の問題もあると……なるほどな、小僧が疑問と言うのも理解できる。とはいえ止まるわけにはいくまい」

「もちろん。でも僕達にはそんな工作法や固有装備を作る手段もない。地区予選でも千早が出てくるし、早いうちに対策を考えないと」

「それならばいい方法があるぞ」


……そこでハッとして前を見る。すると青いノーネクタイスーツを着た、中年男性が立っていた。

その外見はガンダムに出てくるランバ・ラルそっくり。みんなはおじさんを見て、軽く首を傾げる。


「ついにあの戦場へ飛び込むか。私はこの時を待っていたよ、ヤスフミ君。いや……きっと彼もだ」

「……誰だ、このおっさん」

「大尉!」


みんなは気にせず、まずは敬礼。大尉が返してくれたところで、前に出てしっかり握手する。


「シオン君達も元気そうだな」

「はい、元気すぎて困ってます」

「お久しぶりです、大尉。あと私が元気なのは当然――私は太陽ですから」

「今日も飯が美味かった……もぐ」

「誰もお前の元気さは聞いてねぇよ、きっとな」


ヒカリがまんじゅう食べながら不しつけなので、チョップでツッコんでおく。ふだんならともかく、今の相手は大尉だし!


「でも、今日はどうしてこちらに」

「知り合いがガンプラバーを開店してな、そのお祝いだよ」

「この近くに!? わぁ、今度フェイトと一緒に行きます!」

「やすっち、頼むから紹介を……大尉ってなんだよ」

「全員、敬礼」

『なんで!?』


軽いジョークも交え、すっと右にずれる。さすがに紹介もなしは悪い。


「この人はラル大尉――ガンプラバトルフリークの中では、重鎮に等しい人だよ」

「いやいや、ただのガンプラ好きな男だよ。初めまして、ラルだ」

「ラル……え、ランバ・ラル!? すげぇ、めちゃくちゃそっくりじゃないか!」

「はは、ありがとう」


はい、ランバ・ラルについて説明しましょう。初代ガンダムに出てきた敵役で、めちゃめちゃかっこいい名称。

主人公であるアムロとの絡みに激闘は、今なお語られるほど。だからこの人も大尉なわけで。

実際それに見合う実力もある。でも大尉がこのタイミングで、『いい方法』がある? ……胸の中が期待感で膨らんだ。


「えっと……初めまして、ダーグだ」

「私、アミティエ・フローリアンと言います! 初めまして、大尉!」


アミタはノリがいいなぁ。しっかり敬礼してくるよ。なおそんなアミタを見て、キリエはあきれ顔。


「初めまして、おじ様。わたしはこの暑苦しい子の妹で、キリエ・フローリアンよ。それでそれで、旦那様の新しいお嫁さん」

「このピンクは少々妄想癖があるので、気にしないでください」

「ちょ、旦那様ひどいー!」

「お初にお目にかかる。ディアーチェ……K・クローディアだ」


なおファミリーネームがついていますが、これは戸籍取得の結果です。ややぎこちないのもそのせいです。


「初めまして、大尉。シュテル・スタークスです」

「ボク、レヴィ・ラッセルー♪」

「ユ、ユーリ・エーベルヴァインです。ところでその、大尉という事は軍属かなにかで」

「いや、私はプラモ関係のフリーライターだが」

「ならなんで大尉なのだ!」

「なるほど、いい目をしている」


そこで大尉はずいっと前に出て、ディアーチェの目をのぞき込む。驚いたらしいディアーチェはぎょっとしながらのけぞった。


「だが決して油断するな。戦場という荒野は非情なものだ」

「会話になっておらんぞ、貴様ぁ!」

「ディアーチェ、駄目ですよ。その、ラルさんとは初対面なんですから」

「……このおじさんはなに言ってんだ、やすっち」

「それで大尉、いい方法というのは」

『無視!?』

「なに、簡単な話だ」


そこで大尉は携帯を取り出し、ある画像を見せてくる。これ……模型店のHPかな。外観の写真が表紙になってるのよ。

個人店っぽい大きさで、昔ながらの模型店と言うべきか。でも外観はかなり奇麗。これは。


「イオリ模型店――第二回世界大会で準優勝した、伊織猛(イオリ・タケシ)が経営する模型店だ」

「……大尉、もしかして」

「彼は現在ガンプラを広めるため、世界各国を回っているが……彼の息子がいる。名前は伊織静(イオリ・セイ)。
興味があるなら会いに行ってみるといい。私の名前を出せばすぐ納得してくれるはずだ」


イオリ・セイ……その名前がなにか引っかかったけど、今はいい。僕は改めて大尉にお辞儀。


「ありがとうございます!」

「なに、君達のバトルも楽しみにしているよ。では」


そうして大尉は手を振り、奇麗に去っていく。その背中に僕とシオン達はしっかりと敬礼……大尉、ありがとうございます。


「ね、ねぇ旦那様? 道のど真ん中で敬礼はやめましょうよ。あのね……みんな見てるから!」

「馬鹿! みんなも敬礼して! 大尉のお見送りだよ!」

「意味分からんわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! あのおっちゃん、結局わけ分からんままだぞ! ただのそっくりさんだからな!?」


大尉、ありがとうございます。さぁ、やるぞ……世界二位の息子がどれほどのものか、見せてもらおうか!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その日の夕方……どうにも気分が乗らなくて、夕飯前に家を出る。行くあてもなく駅前に来て、ベンチに座る。

すると大型スクリーンに次々とガンプラ達が映り、し烈なバトルを繰り広げていく。そうした結果。


『第七回ガンプラバトル選手権――間もなく開催! 君は、生き延びる事ができるか』


永井一郎さんの声でかっこよく宣伝。いやぁ、胸が熱くなるなぁ。しかも永井一郎さんって辺りが分かって……違うし!

無理だよ無理! だってみんな超強そうだし! このままじゃ選手権に出ても、サザキの言う通り……!

だからって、あんな風にガンプラを扱う奴と組むのは嫌だ。別に、サザキは嫌いじゃない。


だけどあのバトルスタイルは嫌なんだ。なんとかして、勝てる方法を考えないと。

やっぱり、優秀なファイターに声をかけるべきなのかな。ガンプラバトルはそういう形式も認められている。

もちろんガンプラの製作者――ビルダーとファイターをちゃんと登録するのが前提だけど。


ガンプラビルダーズでは一応、作って戦うのが楽しいって結論づけてたけどね。だけどアテがない。

僕が求めるのは、父さんのような機動。あれができる人なんて、それこそ父さんしか。


「なぁ」


左隣から急に声をかけられびくっとする。そちらを見ると、乱雑な赤髪の男の子がいた。年は僕と同じくらい?

サングラスを頭に引っ掛けていて、クリーム色の上下。上にはノースリーブのベスト。

でも身なりはかなりしっかりしてる。服もぱっと見だけど高そうな感じだ。


その子はアンパン、かな。とにかくパンをかじりながら、不思議そうな顔をしていた。


「え! な……なに」

「あそこに流れている映像、あれなんなんだ」

「え、ガンプラバトル知らないの?」

「なんだ、それ?」

「ガンダムのプラモデル――通称ガンプラを作って対戦するんだ。その大会の告知映像だよ」

「対戦……要するに武闘大会みたいなもんか?」

「まぁ、そうとも言えるかな」


なるほど、確かに武闘大会だ。天下一……でもこの人、よく見ると日本人じゃない。

でも、外国人でもガンプラバトルのこと知らないなんて。


「食うか? うまいぞ」


まじまじと見ていたせいか、パンを差し出してきた。なので両手を振り、大丈夫と答える。


「いや、僕は」

「そう、じゃあな」


わぁ、あっさりだー。まぁ通りすがりっぽいし……きっとフランクな人なんだろう。

背を向けるので温かく見送ろうとすると、その子の前に息を切らせながら白衣姿の男性出現。……あれ、この人って近所のパン屋さん。


「見つけたぞ、泥棒小僧!」

「えぇ!」


ど、泥棒!? いや、それにしちゃあ逃げてる様子も……あ、まさかそのパンは!


「おいおい、人をいきなり泥棒呼ばわりすんなよ!」

「なにを言う! うちの店からパンを盗んだくせに」

「これか? これは……店の外に捨ててあったから持ってきただけだ」


それ違うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! あぁ、分かった! それ店頭販売だ! それ黙って持っていったんだ!


「店頭販売なの! 勝手に持っていかれれちゃ困るんだよ!」

「だったら奥にしまっとけよ」

「盗人猛々しいとはまさにこの事!」


それでパン屋はあの子の腕を掴んで、一気に引き寄せようとする。当然あの子は抵抗するばかり……本気で分かっていないっぽい。


「来い! 警察に突き出してやる!」

「なに!」

「ちょ……ちょっと待ってください!」


さすがに見てられなくて、ベンチから立ち上がり声を上げる。周囲の目もあるけど、気にせずに前へ出た。


「君は、イオリさん家の」

「あの、悪気があってやったわけじゃないみたいだし……今回は僕が立て替えますから」


お財布を取り出しながら、この子が外国人っぽい事も一応説明。ようは日本の常識がないって話だよ。

パン屋さんはそれならばと、渋々許してくれた。代金も払ったし、一応警察沙汰だけは避けられた。でも僕……まぁいいかぁ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


さすがに見てられなかった――やっぱり、そんなところだろうか。人目があるので近所の公園へ移動。

そこのベンチに座ってもらい、缶ボトルのコーラを購入。それを彼に差し出す。


「飲む?」

「ありがとう」


ベンチに座った彼は不思議そうにしながらも蓋を開け、一口。それから目を見開き、缶と僕を見比べ始めた。


「なんだこれ! 口ん中がジュワってしたぞ!」

「炭酸、飲んだ事ないの?」

「けど……うまいなこれ」


でも美味しくないとかではなかった。疑問そうだった表情が一気に明るくなる。


「すっげぇ! スカッとするわー!」


彼は気持ちよさそうに息を吐きながら、初めてのコーラを飲んでいく。

やっぱり日本の事がよく分かっていないらしい。でもコーラがない国ってどこだろう。

アメリカ……とかではないよね。でも日本語は流ちょうだよね、誰かから教わった?


いやいや、それだったら文化的な事を知っていてもおかしくないのに。疑問に思いながらも、楽しげなその子をじっと見守る。


「迷惑……かけたみたいだな」


ジュースを飲み終えたところで、申し訳なさげに謝ってきた。それにちょっと安心しながら首を振る。


「まぁ、仕方ないよ。君、外国から来たばっかで、日本の事よく分かないんでしょ? 困ったときはお互い様だよ」


彼は急に真剣な表情となる。それから木のベンチにボトルを置いて、すっと姿勢よく立ち上がった。


「この恩は必ず返す、絶対だ」

「いいよ、別に」

「そうはいかない。一族のこ券に関わる。名誉が傷つく」


彼は日の沈む方を見て、右手で力強くガッツポーズ。……なんだか仰々しいなぁ。

でも見るにいいとこのお坊ちゃんって感じだし、そのせいかな。


「これやるよ」


太陽を見ていたはずの彼は僕へ向き直り、薄水色の丸い石を取り出す。それも指でつまめるサイズ……宝石!?


「宝石!? 駄目だよ、そんな高価なもの!」

「ただの石ころだよ」


少しおかしそうに笑う彼から、そっと石を渡される。これが、石ころ? どう見ても宝石なんだけど。

いや、イミテーションの類? 又はこう、パワーストーンとか。それなら分かるかも。


「えっと、お前」

「セイ――伊織静」

「オレはレイジだ」

「レイジ」


彼――レイジはさっと自分のボトルを回収。僕を見ながら少しずつ後ずさっていく。


「セイ、困った事があったらその石に祈れ」


そうして右手で左手に置かれた、あの石を指差す。


「どんな時でも、どんな状況でも、このオレが駆けつける」


公園の入り口まで下がったかと思うと、ボトルを放り投げる。それはレイジの十時方向にあった、ゴミ箱へシュートイン。

しかもきっちり缶のところ……あぁ、箱の中が透明になってるからか。あれでゴミ箱ってすぐ分かったんだね。

やっぱり常識はあるみたい。ただこう、自分の国と日本とのすり合わせができていない感じかな。


少しずつ彼の事が分かってきたなと感じた。レイジは右手を挙げ、金色の腕輪を見せる。

腕にピッタリくっついているタイプのそれには、あの石が一個だけ埋め込まれていた。


「どんな困難でもオレが打開する。これは約束であり、オレの宣誓だ」

「な……なんか凄いね」


どう反応していいか分からなくて、右手で頭をかきながらよそ見。ほんの一瞬だけ、どう返事をするか考えるためのよそ見。


「まるでヒーローみた」


そうしてまたレイジを見るけど、レイジの姿が……消えていた。


「あ……あれ、どこに?」


慌てて立ち上がり、辺りを確認。でも人の気配も、もちろん姿もない。夕焼け色に染まる公園で僕は、一人ぼっちだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


不思議な出会いの翌日――ゴールデンウィークって素晴らしい。一日中ガンプラを作っていてもいいんだから。

こんなに嬉しい事はないよ。そうして夢に描いたガンプラを……もとい、右腕をしっかり作り上げる。

もちろん夢に見た感じで外れたりしないよう、しっかりきっちりはめ込む。それも確認して。


「よし」


自室で歓喜混じりな声を漏らす。それからガンプラを持って、すぐに一階へ。

店番中の母さんの前に立って、完成したばかりのガンプラをカウンターへ置く。


「母さん、できたよ! ガンプラバトル選手権用に作った、僕だけのガンプラ」


母さんはすぐに立ち上がり、嬉しそうな顔でガンプラを見てくれる。


「ビルドストライク。ストライクガンダムをベースに改造した、僕だけのオリジナルなんだ」

「へぇ、素敵じゃない」

「ライフルとかは、まだなんだけどね」


つい母さんには苦笑い。現在の武装は四門に増設したバルカン――イーゲルシュテルンと、腰部の両サイドアーマーにつけているビームサーベルだけ。

ただベースに拡張性溢れるストライクを選んだから、バックパック装備でどうとにでもなる。

そっちも作業を進めている最中だし……懸念事項はあるけど、ベースとなるビルドストライクができればどうとにでもなるから。


「母さんはセイほどガンプラに詳しくないけど、父さんが作ったプラモデルと……どことなく雰囲気似てるわね」

「そうかな」

「うん」


その言葉がとても嬉しかった。僕にとって父さんは目標であり理想だから。それに少しでも近づけたなら。


「ついに出来上がったようだね」


そこで突然、どこからともなくサザキが出現。僕の右脇に立って、目をキラキラさせ始めた。


「……サザキェ」

「いらっしゃい、サザキ君」

「なるほど、これが選手権用の新型か。すばらしい出来だよ。僕が操るにふさわしい」

「そのガンプラは、君のじゃない」


はっきり拒絶すると、サザキはヘコたれもせず鼻で笑う。


「おいおい、まだ分からないのかい? 君の操縦ではバトルに勝てない」

「ていうか、ガンプラの出来栄えはバトルの絶対条件じゃないんだろ?」

「ぐ……痛いところを」

「まぁまぁ」


母さんがしょうがないなぁという顔でなだめてくる。というか、冷静にと僕を止めてくる。

……僕がサザキのバトルスタイルに批判的なの、知っているから。サザキは確かにクセはあるけど、悪い奴じゃない。

ガンプラが好きじゃなかったら、古いキットであるギャンをあそこまで作り込めるはずがないから。


ただバトルスタイルだけは気に食わない。何度も負けて、何度も壊されたから? ううん、それだけじゃない。

僕の理想は……僕の、やりたい事とは遠いから。分かってる、それが八つ当たりだって。

結局僕はサザキにエゴを押し付けている。サザキはファイターとして、全力でバトルしているだけ。


僕に理想のスタイルがあるように、サザキもそれを追い求めている。たったそれだけなんだ。

それはサザキのギャンを見ればよく分かる。なのに……割り切りが、必要なのかな。

これで駄目なら、それはもう割り切るしかない。サザキも引くような奴じゃないし、僕も負けるのはもう嫌だ。


だからまだ目をキラキラさせて、ビルドストライクガンダムを見つめるサザキに提案。

……その瞳の輝きに少しだけ救われた。サザキもガンプラが好きなんだって分かるから。


「なら、そのバトルで証明するよ」


少しだけ勇気を持って宣言すると、サザキが僕を不格好に見上げる。


「僕の作ったそのガンプラで」

「……いい気合いだ、つまり君が負けた場合は」

「そのガンプラを好きにしていいよ」


そこでサザキはぱぁっと笑って、折れていた背を伸ばし、右手の指を鳴らす。


「その言葉を待っていた!」

「いいの、セイ」

「いいんだ。ここで負けるくらいなら……もう」

「事情は聞かせてもらった」


そこで商品だなからHGグフを持って出てきたのは……うちの常連でラルさんだった。


「そのバトル、不肖このラルがジャッジを引き受けよう」

「ラルさん!」

「誰?」

「うちの常連で、ラルさん」


ていうかいつきてたんだろう。神出鬼没な人だけど……と思っていたら、ラルさんはサザキへぐいっと顔を近づける。


「うお!」


のけぞるサザキの両肩を掴み、まるで値踏みするかのようにその瞳を見つめるラルさん。


「ほう……いい目をしているな。自信と野心に彩られた目だ、度胸もある。しかし戦場に絶対はないぞ、少年」

「……セイ、君」

「良かったねサザキ、ラルさんに気に入ってもらえて」

「どうしてだろう、余り嬉しくない……!」

「いらっしゃい、ラルさん」


母さん、ツッコミがなっちゃいないよ。出かけた言葉をサザキと一緒に飲み込んでいると、険しかったラルさんの表情が一変。

カウンターの母さんへ向き直り、デレデレになりながらハニカム。


「リ、リン子さん……お邪魔しております」


サザキと一緒に、そんなラルさんに微妙な視線を向けるしかなかった。しょうがないので軽くせき払いしジト目。

ラルさんはハッとし、分かっていると言わんばかりに僕をなだめてくる。……うちの店について、一つ説明が抜けていた。

母さんはまぁ、息子の僕が言うのもあれだけどかなりの美人。スタイルもマリュー・ラミアスクラスでよく、声も三石琴乃さんボイス。


そのため商店街や近所のガンプラフリークからの人気も高い。そう、母さん目当てのお客さんもちょくちょく来ます。

まぁ変な事にはならないんだけどさ。父さんは海外を回っているけど、二人ともバカップルだから。

二人が一緒の時だと『リンちゃん・タケちゃん』ってもう……僕が困るくらいにいちゃつくから。


みんなもそんな二人を応援している感じなので、アイドルというよりは可愛い親戚の姪とか……そんな感じかな。

ラルさんが前にそう言っていた。まぁ、今のデレっぷりを見ると全く信用できないけど。

とにかくバトルに集中しよう。ラルさんも基本良識的な人だし、ちょっと釘差しすれば……そこでまたお客さん。


「「いらっしゃいませー」」


母さんと一緒に……もうクセだから、この挨拶。玄関を見ると、十人近くの団体客。

しかもその、バリエーション豊か。僕と同い年くらいの子に、色とりどりな髪の女の子。

更に二メートル近く身長がある、ゼブラっぽい人まで……あれれー!? まって、あのくり色髪の子は!


「おぉヤスフミ君、君達もちょうどいいところに」

「大尉!」

「あなたは!」

「セイ君、お友達かい」


サザキにはどう答えていいか分からないけど、とりあえずくり色髪な人の前へ。


「えっと、おのれは」

「あの、覚えてませんか! 二年くらい前、聖夜小・模型部にお邪魔した事があって!」

「……あ!」


どうやら思い出してくれたらしく、その人は僕をビシッと指差し。


「模型部同士の交流会だよね!」

「はい! その時案内してもらった……うち一人の、伊織静です! その節はお世話になりました!」

「そっかそっか! おのれが……ごめんね、すぐ思い出せなくて」

「いえ、大丈夫です!」


そこでしっかり握手し、改めてお辞儀。……僕、模型部に入ったりはしてなかったんだけどね。

店番とかもあったから、部活は難しくて。でも環境からプロの技能は勉強してたから、非常勤的にお手伝いしてたんだ。

そんな時近隣の市――聖夜市にある、聖夜学園という学校へおじゃました。そこの模型部との交流会が行われたんだ。


その時学校を案内して、交流を取り持ってくれたのがガーディアン、だっけ。私立だからかかなり洒落た名前の生徒会だった。

この人はそのうちの一人だった。名前はえっと、蒼凪恭文さん。模型関係にもかなり詳しいらしく、盛り上がったんだ。

ブラシは使わず、筆塗り塗装中心でバシバシ作ってるからいい刺激になって……まさかこんなところで再会できるなんてー。


あとはその、生徒会の人達にしゅごキャラっていうのがいて、だから余計に強く覚えてたんだ。

しゅごキャラ――人の心はたまごらしいんだ。未来への夢や希望、『なりたい自分』が詰まったたまご。

普通の人には見えないそうなんだけど、時たまそれが外へ飛び出す事がある。そうして生まれるのがしゅごキャラ。


時折妖精みたいな幻覚を見る事があったんだけど、そうじゃないって教えてもらって嬉しかったなぁ。

本気で精神科行きを考えていたし。というか今も恭文さんの側に三人ほどいる。あの時は見なかった顔だ。

あ、そう言えば言ってたっけな。こころのたまごがあると、しゅごキャラが見えるって。


じゃあ恭文さん……そっかぁ。恭文さんの夢、こんなに可愛らしかったんだ。

いつか会えるかもと言ってたけど、それが叶うなんて。人生って分からないなぁ、まだ十三歳とかだけど。


「なんだヤスフミ君、セイ君を知っていたのか」

「知っていたのに忘れてました。名前を聞いた時、引っかかってはいたんですけど」

「二年前、恭文さんの学校で行われた交流会へ行った事があって。というかあの、恭文さんはラルさんと知り合いなんですか」

「かれこれ十年来の付き合いだよ」

「そんなに!?」


それこそ生まれた頃だろうに! どうやら連れの人達も知らなかったらしくぎょっとしている。でも当の二人は自慢げに胸を張る。


「まぁ積もる話は後にしようじゃないか。これからセイ君の新型ガンプラがお披露目だ」

「なんですって! そりゃあ確かにグッドタイミングだ!」


……そうだった、懐かしい気持ちに浸ってついすっ飛ばしかけたよ。気合いを入れ直すため、頬を軽く両手で叩く。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そうしてバトルルームに移動。昨日と同じようにサザキと向かい合い、ベース起動――フィールドと足元から粒子が立ち上る。

自己紹介もなしな方々が見ているから緊張するけど、今は集中集中。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field10――Desert≫

『君達の真剣勝負、かつ目させてもらおう』


ラルさんの声が響く中、生まれたフィールドは乾いた山脈地帯。草木などもなく、荒れ果てた大地が広がる。

遮蔽物もほとんどないけど、小さな山々はある。それをうまく活用できれば、なんとかなるかも。


≪Please set your GUNPLA≫


ビルドストライクをセットすると、粒子がカタパルトとして構築。ガンプラ本体にも粒子が浸透し、カメラアイが輝く。


≪BATTLE START≫

「イオリ・セイ、ビルドストライク」


既に現れている操縦スフィアを押し込み、ビルドストライクを加速――カタパルトから射出させる。


「行きます!」

『サザキ・ススム――ギャン、出る!』


乾いた空の中へ飛び出し、反対方向からやってきたサザキと五十メートルほど離れて着地。

見通しのいい場所だ、不意打ちなんて基本通用しない。そして性能なら僕のビルドストライクが勝っている。


「さぁ、どう来る」


サザキのギャンは……右手にジャーマングレーで塗られた、長身ライフル? あれはゲルググが装備しているものだ。

まず射撃戦で攻撃だろうか。サーベルは持ってるっぽいし……ライフルで点と線、ミサイルシールドで面の制圧射撃。

だったら僕はそれをかいくぐって……でもそこでギャンはシールドを手放し、地面へ投げ捨てた。


「え」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いきなりゲルググのライフルを捨てたかと思うと、続いて左腕のシールドミサイルもパージ。

丸腰になった上でサーベル基部を右手で取り出し、サーベル展開。切っ先をビルドストライクに向けフェンシングの構えを取る。

あれはギャン特有の構え……ビルドストライクとセイは戸惑った様子。でもギャラリー側も混乱してるよ。


「武器を落とした」

「対等の条件で戦うという意思の表れか」

「お、いいぞー! ボク、こういうの大好きだー! やれー、やれやれー!」

『「「違いますよ」」』


そこで僕とシュテル、あのサザキとやらの声が重なる。


「違うわ、バカタレが」


ディアーチェ……またキツい言葉を。初対面の人もいるので、デコピンでお仕置きしておく。

とにかくリン子さんと大尉、レヴィの言う事は違う。コイツは。


『負けた後で難癖つけられては、たまりませんから』

「マジかよ! じゃあ」

「ハンデか……もぐ」


ショウタロスが驚く横で、またヒカリがアンパンを取り出しカジカジ……なおシオンは面白そうに髪をかき上げた。


「やっぱり。ナメてるねぇ」

『残念ながら』


……ギャンの切っ先が僅かにブレる。その瞬間背部のメインブースターが火を噴き、ギャンが一瞬で肉薄。


『彼はナメる程度の力しかない!』


速い……あのギャン、古いキットなのにかなり改造してある。でも突き出した刃の先にビルドストライクはいなかった。

ビルドストライクは右肩部に仕込んだ、サイドブースターによって真横へ移動。刺突を避け、瞬時に距離を取る。


『なに……!』

「おぉ、凄い凄いー! ヤスフミ、あのガンプラぎゅいーんって速いよー!」

「さすがはストライク……身軽だねぇ」

「恭文さん、ストライクガンダムというのは」

「ガンダムSEEDに出てくる主人公メカですよ、ユーリ」


そこで補足を加えてきたのはシュテルだった。なおまたもドヤ顔です。


「特徴はバックパックを交換し、多種多様な状況に対応できる事。
そして装甲材質にPS装甲と呼ばれる、物理攻撃に絶対耐性を持つものが使用されている点でしょうか」

「シュテルゥ……!」

「まぁガンプラだから、PS装甲とかはないけどね。だけどあのガンプラはいいものだ」

「ガンプラの性能は、その出来栄えによって左右される。さすがはセイ君の新型……しかし!」


そう、大尉が言うように『しかし』だ。ビルドストライクはブースターを吹かし続け、必要以上に距離を取る。

あそこから反撃に出てもいいのに、一気に数百メートル距離を取った。当然サザキは追撃する。

それに対応しようと停止を試みるも、両足で踏ん張っても機体バランスは崩れまくり。更に滑ってようやく停止する。


そうして向かってきていたサザキを……迎え撃てない。サザキは既にビルドストライクの視界外。

セイは慌てた様子で操縦スフィアを動かし、周囲確認。その表情には明確な怯えがあった。


「高すぎる機体性能に振り回されている!」


一方死角外へ消えたギャンは、現在ビルドストライクが背にしている山を一周。

足のブースターも改造してあるらしく、見事なホバリングで一気にビルドストライクの背後を取る。


『高性能な機体を作っても、満足に操縦する事ができない』

「あの小坊主、腰が引けておる」


ビルドストライクは咄嗟に気づき、右スカートアーマーからサーベルを取り出す。

両手で構えた基部からピンク色のビームが走り、刃となる。ギャンの刺突を脇へ払い防御。


『悲しい現実だぁ!』


更に左薙・逆袈裟・袈裟と連撃。黄色い粒子で構築されたギャンのサーベルは、ビルドストライクの防御をひたすらに叩く。

反撃や回避もなく、ただ防御? うまく動けず、ただ威圧され続けている。そりゃあディアーチェもいら立つわ。


「え、あの……セイは操縦下手っぴだけど、腰がって」

「気持ちから負けておるのだ。あれでは勝負にならん」

「そんな、まだ始まったばかりなのに!」

「いえ、ディアーチェの言う通りです」


動けないと見て、ギャンが右切上一閃。それを防御させた上でサーベルを振り切り、ビルドストライクの体勢を崩す。

そこからブースターを吹かせ、縮こまった胴体へ左エルボー。衝撃に耐え切れずビルドストライクは吹き飛び、乾いた地面を滑る。

……そうしてフィールド際に頭が衝突。なにもない空間に描かれた空が僕達の前で一瞬乱れる。


現在ビルドストライクが背にしているのは、ちょうど見学用の大窓前にいる僕達。

近くで見るとビルドストライクの出来がよく分かる。僕とは工作の方向性が違うけど、セイの技術力はプロ級だから。


「逆にサザキさんという人は、あのガンプラが欲しいから前に出ていってますし」

「王とユーリは我々と古武術も嗜んでおりまして、そういう観点から発言しております」

「あぁ、それで……え、王!?」

「諸外国の王族なのです。ですがここは内密に」


シュテルが息を吐くように嘘を……リン子さんは驚きながらもコクコクと頷く。


「操縦が下手っぴなだけでこんな簡単にやられちゃうんだー。でも……いいなー、ボクも動かしたいなー」

「はわわわ……なんとかならないんですかー! 熱血ですよ、熱血! やっぱり気合いですー!」

「お姉ちゃん、うるさい!」


バタバタしても邪魔なので、キリエがアミタをがっしり押さえる。その間にギャンは一歩ずつ、ゆっくりビルドストライクへ近づいていく。


『これ以上機体を痛めつけたくはない。場外に出して勝負を決める』

「やすっち」

「リングアウトはあるよ。まぁ世界大会で使うフィールドはかなり広いけど、ここはね」


でもこれ、フィールド用のベースが一個だからなぁ。個人店などではよくある形式だけど……ここまでか。

技術力では勝っている。でも……だからセイは悔しげに震えていた。よっぽどこのサザキに、ガンプラを渡すのが怖いらしい。

いや、怖いのは負ける事なんだろうか。セイの表情には僕も覚えがある。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


逃げられない、父さんだったらどうする? そう考えてもなにも思いつかない。父さんなら、きっと戦えるのに。

でも僕じゃあ無理なんだ。うまく作っても、どんなにガンプラが好きでも、また負ける。

まだなにもしてないのに。負けたくない、もう負けたくない。……ちくしょう!


「諦めるな!」


悔しさで目を閉じた瞬間、声が響いた。それだけじゃなくて、右手に温かい感触が重なる。その感触に操縦スフィアが押し出され。


「前に、出ろ!」


目を開くと、ビルドストライクも最大出力で加速。場外へ押し出そうと、サーベルの展開も切っていたギャンへ体当たりする。


『なにぃ!』


そのままギャンは弾かれ、ビルドストライクから距離を取る。ビルドストライクはやや滑りながらも着地し、改めてギャンと対じ。

前に出る……たったそれだけの事で、こんな事で状況が変わった。父さんみたいなマニューバなんてしてないのに。

それが不思議で、でもあの声と手の感触がもっと不思議で、右側を見た。そこにはしてやったりという顔のレイジがいた。


「レイジ……! どうして!」

「お前が祈ったんだ、だからオレは来た」

「え」


重なっていたのはレイジの右手。その手を挙げ、レイジはあの石を見せる。

……まさかと思い、左ポケットに入れていたあの石を取り出す。どういう、事だろう。

あの石は太陽みたいな光を放っていた。青からは想像できない、熱さも感じさせる赤色だ。


「セイ、約束は守るぜ」


混乱している僕の右肩を叩き、レイジが優しくどかしてくる。そうして操縦スフィアを両手で掴んだ。


「お前の代わりにオレが戦う……ルール違反じゃないよな」

「だ、大丈夫。チーム戦もありだし、公式大会じゃないし……で、でもやった事ないんでしょ」

「オレに任せろ!」


自信満々にスフィアを動かす。……するとビルドストライクは手足をバタバタ。

なぜかシェーのポーズや、変なおじさん的な踊りまでやりだす始末。


「僕のガンプラになにさせてんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

『……お友達かしら』

『さぁ』

『お、おいやすっち……!』

『分かってる! なに、この気配……めちゃくちゃ熱い!』


お友達じゃないよ! ていうか恭文さんとゼブラっぽい人はどうしたの!

なんか電波受け取ってる!? ていうかニュータイプに覚醒してるー!


『ゆ、許せないなぁ……セイ君』


あ、サザキの事忘れてた。どうにかしてレイジを止めようとしている間に、ギャンがサーベルビームを再展開。


「サ、サザキ……そっか! そうだよね、さすがに途中で選手交代は駄目か! じゃあ仕切り直しで」

『ド素人にその機体を預けるなんて。それは、そのガンプラは……僕のものなのにぃ!』


違うからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ていうかそっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?

と、とりあえず落ち着け! 選手交代は問題ないっぽいし、あとはレイジを止めるだけ! ていうか初めてなのかー!

やっぱり僕が……と思っていると、サザキが突撃。もう駄目だと頭を抱えた瞬間、ビルドストライクが伏せる。


ギャンの刺突をすれすれで避け、そのまま脇を抜け交差。ギャンが振り返り反撃に出ようとしたところで左ミドルキック。

位置を入れ替えた上で、ギャンとの距離を離した。嘘……え、なに。今の、すれすれな回避。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


突然セイの周囲から熱い気配がしたかと思うと、あのレイジとやらが出現。それも瞬間転送されたみたいな現れ方だった。

一体どうしてと思っている間に、戦闘再開。……ビルドストライクはすれすれでサーベルを避け、反撃の蹴り。


『よーし! 大体分かった!』


ギャンが体勢を立て直し、再度踏み込む。


『舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


そこから鋭く刺突三連続。でもビルドストライクはさっきまでと違い、無駄のないスウェーで難なく回避。

三撃目を避けられたギャンは刃をくねらせるように、右薙の足払い。

でもそれは飛び越えられ、背後に回られたビルドストライクから蹴りを食らう。


サザキの操縦は決して下手ではない。即座に振り返り、着地際を狙ってまた攻撃できるんだから。

でもその刺突は伏せて避けられ、打ち上げるような左エルボー。右腕は衝撃に耐え切れずサーベル基部を落としてしまう。


「なにあれ、まるで人間みたいに……おもちゃなのに!」

「す、凄いです! 大会映像で見た大きいガンプラよりも俊敏で、とても鋭い!」


キリエとアミタが声を漏らし、興奮気味にガッツポーズ。やはり姉妹、よく似ている。


『ちぃ……!』


丸腰となったギャンはUターンし飛び上がる。ビルドストライクはすかさず追撃……さっき武器を落とした場所へ戻るつもりか。

それ自体は正しい。ファイター交代も認めた以上、サザキにとってはまた条件が変わっている。

これくらいはやらかしてもいいでしょ、カッコ悪いけどさ。それより問題は、あのレイジって奴だ。


「初めてのガンプラであのマニューバ……あの少年、ニュータイプとでもいうのか」

「大尉、それだけじゃありません。あの動き、僕は見覚えが」

「私もだ。あれはセイ君の父・タケシ君と同質のマニューバ!」

「……待って、おじ様。それって世界大会二位っていう」


キリエがこっちを見てくるので頷いて肯定。そう……伊織猛が今なお伝説となっている理由だ。

恐竜的進化の最中なガンプラバトルだけど、あの人のHGUC初代ガンダムはそれと逆行するような仕上がり。

時代が違うとか、そういう話じゃないのよ。ニュータイプの如き鮮やかな操縦技術はかなりのもの。


実際その工作・操縦技術は今のガンプラバトルでも通用する。あの人、世界を渡り歩いているからさ。

ベーシックな初代ガンダムで勝ちまくってるのよ、恐竜的進化中なガンプラ達に。……それも当然なのかも。

セイの工作技術はプロ級。でも操縦技術が足りなかった。それを埋めたのが……あのレイジだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ギャンはスタート地点へ戻り、ライフルとシールドミサイルを回収。追撃してきた僕達へ向き直り。


『認めない、こんな事……!』


右にスライド移動。サザキじゃないけど、認められなかった。受け入れられなかった。

初めてでこの操縦技術っていうのもあるけど……違う、レイジを否定する意味じゃない。

まるで、夢を見ているようなんだ。望んでいたものが、変わりたかったものが目の前に突然現れた。


そんな衝撃でこう、頭がいっぱいなんだ。僕は本当に、夢を見ているのかもしれない。


『僕は認めない!』


そこでギャンのシールドミサイルから、ミサイルが連続発射。揺らめくミサイルに対しレイジは急停止。右へのスライド移動で華麗に避けていく。

地面に着弾し次々と爆発するミサイルは気にせず、レイジは安全にビルドストライクを停止。

さっきの僕とは違う。本当に、あのへんてこな動きでビルドストライクの可動域やパワーを理解した?


「セイ、なにか武器は」

「三番目のスロット――ビームサーベル!」


レイジは親指でスフィアの一部を押す。そうして空間モニター的に、横並びで武器スロットが六つ展開。

一つ目と三つ目以降は空っぽだけど、だからこそすぐ分かる。簡単な絵もついているからさ。

それから人差し指を二回押し、カーソルで武器選択。それが終了してからまた親指のスイッチを押す。


「こいつかぁ!」


ビルドストライクは残っていた左サイドスカートのサーベルを右手で抜き、背部メインスラスターを最大出力で噴射。

目もくらむような加速をしながら、機体が左右にスウェー。ギャンのライフルから放たれるビームをすれすれで避けていく。

この動き、父さんの……僕が求めていた、理想の! ならこれは。


『なんだ……!』


夢じゃ、ないのか! これは……僕が変えたかった、僕が探していたガンプラバトル!


『なんなんだ、お前は!』

「これで――終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


そしてビルドストライクはギャンに肉薄。サーベルが袈裟に振るわれ、ギャンを一刀両断にしながら斬り抜け。

左肩から胴体、腰部までを真っ二つにされたギャンは、僕達の背後で大爆発。

ビルドストライクはそこから飛び上がり、近くの丘に着地。振り返りながら刃を振るう。


≪――BATTLE END≫


そうしてフィールドが、ビームが、爆煙が粒子化していき、元のバトルルームへ戻る。

ベース中央には左肩部と胴体が外れ、倒れたギャンの姿。でもビルドストライクは健在。

サザキは自分のギャンを見て、恐れた様子で一歩後ずさる。


「勝った。僕のガンプラが」

「こ、この僕が……負けるなんて」

『見事な勝利だった』

『やったわね、セイ!』

「僕じゃないよ!」


ラルさんや母さんが褒めてくれるのは嬉しいけど、首を振ってきっちり否定。


「僕のガンプラを勝たせてくれたのは」


そうしてレイジの方を見る。……でもそこには誰もいなかった。バトルルームのドアは開かれ、レイジは……いなくなっていた。


「あの子どこに?」

「……レイジ!」


……慌ててGPベースを左手で取り、空いているドアから店内へ。

恭文さん達も不思議そうにしているから、出ていったところは見ていなかったと察知。

だから暗くなった外へ出て、近くを探す。感じたばかりの感動を反すうしつつ、とにかく走る。


「セイ!」


母さんの声には答えず、レイジの姿を探す。まだ近所にいるはずだから……やっと、やっと会えた! 


(どんな時でも、どんな状況でも、このオレが駆けつける)


僕のガンプラを、一番うまく操れるファイターに!


(どんな困難でもオレが打開する)


僕の理想を、体現してくれる奴に!


(これは約束であり、オレの宣誓だ)


……でもレイジの姿はどこにもない。駅、商店街、住宅街――探せるところは探した。

そうして最後に行き着いたのは、レイジとコーラを飲んだあの公園。夜の公園にもやっぱり、レイジの姿はない。

そう言えばこんな歌、なかったっけ。山崎まさよしさんの……本当に、夢だったのかな。


左手でGPベースを取り出す。それから右手であの石を……ううん、夢なんかじゃない。

石の輝きはもうなかったけど、レイジが宣誓を守ってくれるなら、きっとまた。

GPベース上部にあるカメラ部分へ石を埋め込み、荒くなった息を整える。


レイジ、必ず会いにいくから。一緒にガンプラバトルをやろう。君と一緒に……戦いたいんだ。


(Memory22へ続く)





あとがき


恭文「というわけで、今回はビルドファイターズ本編本格参戦。印象深い第一話です。お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……でもそっか、確かに印象深いよね」

恭文「お台場で第一話、先行上映見たしねー」


(あれから半年以上――まさかこうしてやる事になるとは)


恭文「しかも時間改変で元に戻さなきゃーとかもないから、好き勝手にやれるのが楽しいねー」

フェイト「あの、私も頑張るよ。ちゃんとガンプラ作れたし」

恭文「……僕のいないところで勝手に触るのとかは駄目だよ? フラグだから」

フェイト「信用されてない!? どうしてー! あとフラグってなにー!」


(ドジっ子です)


恭文「それはそうと、昨日は伊織とフェイトの誕生日ー。フェイトはとまと設定だけど」

フェイト「う、うん。みんな、お祝いしてくれて……とっても嬉しかった。
ヤスフミもその、いつもよりいっぱい優しくしてくれたし、プレゼントもくれたし」


(閃光の女神、ドキドキもじもじ)


恭文「まぁ一年に一回の事だしね。フェイト、おめでとう」

フェイト「うん、ありがとう」


(ぎゅー、すりすり……頬ずりもいっぱいな二人)


フェイト「あの、また成長したし……ガンプラバトルも頑張るよ。お手伝いするし」

恭文「まぁ一緒にならいいか。でも僕がいない時とかは駄目だよ? それ手伝いじゃないから」

フェイト「だからどうしてー!?」


(蒼い古き鉄は至極当然な事を言っています)


フェイト「とにかくその、本編は……でもヤスフミ、ラルさんやセイ君と知り合いって」

恭文「大尉は大尉だから。あとセイに関しては……時期的にあれだ、ブラックダイヤモンド事件の頃だよ」

フェイト「あ、そっか」

恭文「あとはほら、この話ってしゅごキャラ見えそうな人がたくさんいるから」

フェイト「……そう言えばラルさんも見えてたよね」


(なのでいちいち説明が入るとテンポ悪いので、知り合い関係は割りと多くなります)


恭文「まぁ原作の流れは汲みつつ進めていく感じかな。なお僕達が大会でどの辺りで進むかなども既に決定」

フェイト「え、そうなの!?」

恭文「その辺りで対戦カードを変えたり……あ、でもセイとレイジ組は変わらないや。
あれはあの流れじゃないと駄目だから。ただどうしても変えたい箇所があって」

フェイト「うん」

恭文「ルワン・ダラーラ」


(これだけで全てをお察しください)


フェイト「え、どうして」

恭文「……だってアビゴルバイン、好きなのよ! もっと活躍させたいのよ!」

フェイト「そ、それだとレナート兄弟は」

恭文「なので中二病兄弟の相手はまた別にして」

フェイト「こらー!?」

恭文「ルワン・ダラーラは僕と対戦とか? それならまだ」


(真正面から拳をぶつけあうイメージです)


恭文「でも大丈夫、あの兄弟も活躍するから。絶対あの戦いはやるから」

フェイト「そ、そっか。とにかくその、まずは」

恭文「次回……あのキャラが登場するよ。そして当然入り込む僕達と大尉」

フェイト「不審者が増えている!?」


(いえ、ケフィアです。
本日のED:BACK-ON『ニブンノイチ』)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そう言えば恭文さん達の事、すっかり忘れてた。挨拶もちゃんとしてなかったし、怒ってるかなぁ。

不安になりながらも家へ戻る。あー、それと母さんとラルさんにも突然出ていったの、謝らないと。

ただ店内にラルさん達の姿はない。なので自宅スペースへ入り、食卓へ。


「ただいまー。母さん、遅くなってごめ」

「おぉ、おかえり」


そう言って僕を出迎えたのは、食卓に座るレイジだった。しかも野菜炒めをガッツリほおばって……さすがに信じられなくてズッコける。


「おかえり、セイ」


しかも母さんが平然とキッチンから……慌てて立ち上がり、もぐもぐしっぱなしなレイジへ詰め寄る。


「ど、どういう事だよ! レイジ!」

「なに言ってんだよ、セイ」


レイジは笑いながら、またあの腕輪を……というか、石を見せてくる。


「お前が祈ったんだろ?」





魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory21 『セイとレイジ』





(おしまい)





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