小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory19 『GEARS OF DESTINY/紫天の名は』
前回のあらすじ――よりにもよって巨大×キャラが出ました。結果。
「あ……ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「トーマ!」
待機していた第二陣のみんなまで混乱中。約一名を除いて、見事に全員動けなくなっている。
ヴィヴィオは概要を聞いてたからギリギリ耐えられてるけど……トーマは頭を抱えて発狂。
【やぁ、殺したくない。わたしに触れる人はみんな……もう、やぁ】
「なんだ、これ。どうしてこんなに、悲しいんだ。なの、は」
「ユーノ、くん」
ユーノ君はなのはママと涙をこぼし、手を取り合う。あれだけ見たら恋人同士だけど……未来を知っていると切ない。
「知らない、ボク……こんな悲しさは知らない。なに、これ。なんで……ぶえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「お前の、仕業なのか。これは……我らがまき散らそうとしていた、痛み、悲しみ」
「ディアーチェ、しっかりしてー!」
「クライド、君」
「博士、博士ぇ」
あぁ、駄目だ! アリアさんやアミタも沈んでる! まぁヴィヴィオも……動けないんだけど。
ゆりかごで知った自分の事、自分がここにいちゃいけないって思っていた時の事、他にもあった悲しい事。
もちろん怖い事も含めて、全部が一気に襲ってくる。一応、二度目なのにキツい……!
そんなヴィヴィオの頭へ、クリスが乗っかってペシペシと叩いてくる。大丈夫って言いたいけど、やっぱり今戦闘は無理かも。
だけど、動かなくちゃ。ヴィヴィオ達より危険なのは、今前に出ているあむさん達だもの。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
マズい……マズいマズいマズいマズい! あたしとラン達はまだ大丈夫だけど、みんながマズい!
痛みや涙はこらえられる! それでもって前も見られる! だけど……!
『父さ……ぐ』
『クライド、君……ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! ごめんよ、ごめんよぉぉぉぉぉぉぉ!』
「みんな、しっかりして! 悲しい事に負けて、諦めちゃ駄目だ! 悲しい事は立ち向かって変えられるんだ!」
クロノさんとロッテさんも泣きじゃくり、もう戦える状態じゃない。ていうか、あたしの話を聞いてないー!
『リイン、フォース。すまない……私は、主達は、お前の旅立ちからなにも学んでいない』
『なん、ですかこれは。この痛みは……なぜ私は、涙が溢れるのですか。なぜ、力が』
「あむちゃん、マズいよー! シグナムさん達もアウトっぽいー!」
「最悪だ……!」
いや、もっと最悪な事がある! もし『アレ』を完全再現してたら、この時間が!
「みんなのたまごに×が付いて、悲しみで時間が壊れちゃいますぅー!」
「……あむちゃん!」
「分かってる!」
どうするどうする……! みんながこの状態じゃあさすがに。てーかあんな大きな欠片は今まで出てない。
当然パワーだってダンチだろうし、あたし一人じゃさすがに。
「あむ、なんなのよ。これ」
「……アイツ、みんなの中から悲しい記憶を引き出してるんだ。その影響はキリエが感じてる通り」
「それだけ……!? たった、それだけの事で」
「大丈夫! みんな、聞いて! 悲しい事は変えられない!
だけどね、立ち向かえるの! その可能性はちゃんとここにある!」
「そんなものはない」
通信越しに呼びかけていると、あの子が悲しげにこちらを……ううん、違う。悲しそうじゃない。
怒りに打ち震えた顔で威圧してくる。どうやら性格まで切り替わってるみたい。
≪ぴよ……!≫
「もう変わらない。あなた達の宿命は変わらない。私ではどうする事もできない」
「知った事か! アンタ一人じゃどうしようもない事をなんとかするために、みんな踏ん張ってるんだ!」
「だったら勘違い。もうあなたしか踏ん張れない。私は、そしてこの巨大兵器はもう止まら」
とか言っているあの子がハッとして、巨大×たまへ振り向く。……でももう遅かった。
巨大×キャラの頭上に触れているのは恭文だった。一体なにをしようとしているのか、あの子はすぐ理解する。
「させない」
でもその瞬間、あの子の右側から砲撃が迫る。あの子は舌打ちしながら右手をかざす。
そうして防御障壁を展開し、超長距離から放たれた桜色の奔流を受け止める。
その間に恭文は巨大×キャラへプログラム干渉。激しく火花が走り、欠片は一瞬で崩壊する。
無数に散った黒の破片は、一瞬で虹色のガラスとなって全て砕ける。それで走っていた胸の痛みがすぐに消え去った。
あの子はいら立ちながら砲撃を振り払い、恭文を見上げる。でも恭文はもうそこにはいなかった。
あの子の後ろへ回りこみ、左ミドルキック。それを食らいあの子は呻きながら吹き飛ばされ、二百メートルほど距離を取った。
「恭文!」
「予定通りに第二陣出発だ。――みんな、下がって! この馬鹿は僕達が仕留める!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ギリギリだった……初動が遅くなってたら、死人が出るところだった。我ながら瞬間詠唱・処理能力、不意打ちに強すぎる。
とにかく通信越しだけど、クロノさん達へ一喝。退避行動が終わるまでの間に、軽く話術タイムで引きつけておこうか。
「なんで……あの兵器の力で、動けなくなっているはずなのに」
「あれは兵器なんかじゃないよ。お前と同じで、狭い檻に閉じ込められていた子の叫びだ」
アルトを一回転させ、肩に担ぐ。即時鎮圧したから、影響は最小限のはず。だけどみんな、精神的にフルボッコされたも同然。
第一班と砲撃を撃ってきた横馬以外は全員、立ち上がるのにまだ時間がかかるはず。それまではロンリーウルフだよ。悲しいねぇ。
「だからその檻から解き放ってやるよ、システムU-D」
「なぜ抗うの……もう無駄なのに! あなたが魔導殺しであろうと、もう私には勝てない!
私はこの世界に存在する全てのものを超越している! あなた達がそんな私を目覚めさせた!」
「それはちょっと違う。お前、忘れてるっぽいね。……お前が自分の意思で目覚めたんだ」
それはこちらへ向かいながら、シュテルから改めて説明された事。具体的にはシステムU-Dとシュテル達の事。
その話をすれば時間は十分だと思い、軽く馬鹿を指差し。
「お前、自分で自分が抑えられないって言ってたね。それは当然だ。
元々お前とシュテル達は一つのシステム。四人揃って、一つの魔導書だったんだから」
≪その名は紫天の書。闇の書と同レベル……いえ、それ以上の力を持った、独立稼働プログラム。
夜天の書を乗っ取るために後付されたものの、あなたが言っていた通り誰もコントロールできず封印≫
≪でもそれは、今まで休眠状態だったシュテルちゃん達がいなかったからなの!
三人が揃っている今なら、もういやな事なんてしなくていいの!≫
「無駄。もう、無駄。確かにこの時間は、奇跡にあふれている。だけど私はもう、得てしまった」
そこで強烈な魔力波動が放射。全方位の衝撃波をなんとか耐えると、奴の背後に巨大な歪みが生まれる。
巨大なカメムシ状なそれは、ガイ・アスラの如く人の胴体がでていたり、触手が生えたりとかなりグロテスク。
≪あれは、闇の書の防衛プログラム……!≫
「そう、あなた達が防衛プログラムと呼ぶそれは、正式名称ナハトヴァール。
あれは主を暴走させる悪意であると同時に、私を眠らせ続けた優しいゆりかご。
それを壊したのはあなた達。それを誇り、驕り、歪んだ歯車を組み込んだのもあなた達」
システムU-Dは涙を流しながら、右手に魔力を集束。それを禍々しい赤で彩られた、細身のレイピアに変えた。
そうして翼を羽ばたかせ飛しょう――咄嗟に左へ動くと、音速をも超える勢いでシステムU-Dが突撃。
レイピアの切っ先が胸元をわずかに掠め、U-Dもそのまま僕と交差する。……凄まじい速度だねぇ。
更に衝撃波で吹き飛ばされ、そこでナハトヴァールが動く。周囲に黒のスフィアを展開し、僕へ砲撃連続発射。
身を翻し、右薙・逆袈裟・袈裟と連撃。回避行動を取りつつ、当たりそうなものは全て斬り払う。
連続発生する爆炎を背後に左へ退避すると、前方にシステムU-Dが回り込む。
刺突を左薙の斬撃で払うと、U-Dはすかさず身を翻し左翼で引っかき。僕を下がらせ、懐へ入るのをストップさせる。
更に背を向けたところで魔力弾生成。こちらもクレイモアを生成し発射。魔力弾を撃墜しつつ上昇する。
「だからもう、みんな死ぬしかない」
すかさずU-Dが振り返りながら、レイピアで逆袈裟一閃。アルトで受け止めると、赤と蒼の火花が激しく走る。
「それが宿命」
更に翼を展開し、そこから杭を射出。力で僕を押さえつけつつ。
「あなた達の選んだ、抗えぬもの!」
その杭で僕の頭を、首を、胸元を貫いた。……が、その瞬間僕の体は電撃として崩壊。
システムU-Dの体を焼き、僅かにたじろがせる。僕は驚くU-Dの背後を強襲。
「な……!」
「ざけるな!」
レイピアで僕の唐竹一閃を受け止めるものの、防ぎきれずに五十メートルほど吹き飛ぶ。
忍法――雷遁・変わり身の術。いやぁ、組んでおいて正解だったよ。はい、忍術を修得しました。
子育てしてる間に、良太郎さんの世界へ行ってちょちょいーとね。はいそこ、またトラブルに巻き込まれたとか言わない。
他にもいろいろ覚えてる技能はあるけど、一番のお気に入りは忍術。……だって忍者ってロマンでしょ!?
「弱かったり、運が悪かったり、なにも知らないとしても、それはなにもやらない事の言い訳にはならない。
僕の知っている凄く強い人達がそう言っていたよ。……さぁ」
左手をスナップさせ、荒れ狂う風の中システムU-Dを指差す。
「お前の罪を、数えろ!」
魔法少女リリカルなのはVivid・Remix
とある魔導師と彼女の鮮烈な日常
Memory19 『GEARS OF DESTINY/紫天の名は』
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「弱かったり、運が悪かったり、なにも知らないとしても、それはなにもやらない事の言い訳にはならない。
僕の知っている凄く強い人達がそう言っていたよ。……さぁ」
左手をスナップさせ、荒れ狂う風の中システムU-Dを指差す。
「お前の罪を、数えろ!」
戸惑うシステムU-Dを追いかけ加速。迎撃に放たれる魔力弾と杭をすり抜け、懐へ入り右薙の斬り抜け。
レイピアで防がれるものの、すぐに反転し左へ回る。
「お前に」
振り返りつつ放たれた、U-Dの斬撃波を回避し右サイドへ。
そこから右薙・袈裟・逆袈裟――至近距離で斬撃を数度ぶつけ、つばぜり合いへ移行する。
「この時間は消させない!」
”ヤスフミ、キャラなりとユニゾウルブレードはいいのか!”
”今回はしなくていい! やっぱ応用力で魔法だ!”
”まぁ楔役もあるし、妥当なところだろうな”
”ですが油断しないでください。やはり彼女は強敵です”
”ありがと!”
そこで再び翼が展開するものの、その翼が鋭く重い斬り抜けで弾かれ粉砕。水色閃光に巻き込まれる形で、U-Dがよろめく。
「レヴィ……!」
「おまたせ、ヤスフミ!」
レヴィはザンバーで翼を斬り裂き、僕をサポートしてくれる。遠目でナハトヴァールもチェック。
なのはが砲撃を撃ち込み、なんか一発で粉砕していた。……でかくなってもクリーンヒットしたら終わりって。
あれはどう見ても普通の欠片より弱いでしょ。だって出力がでかい分、的もでかいもの。
呆れながらもアルトを右に振り切る。剣圧でレイピアを弾き、その上で一回転。
U-Dの眼前に剣閃を置き、意表を突いた上で左フック。拳でU-Dの右腕を捉え、ひねり潰す。
これも忍術の応用。魔力とは違う生体エネルギーを使い、NARUTOの綱手様みたいな怪力を演出。
苦しげに呻くU-Dは、僕が拳を振り切った事でレヴィへと突撃。……こちらの攻撃が通っている。
どうやらあの姿、オーギュストの隠しモードと同じらしいね。スペックは上がっているけど、その分防御力が下がってる。
魔力もなにもない、僕の攻撃をいちいち剣で弾いていたのが証拠だ。ただ油断はできない。
相手は規格外とも言えるロストロギアの動力炉。スーパーアーマー発動しつつ攻撃とかするかもだし。
その間にレヴィは魔力スフィアを展開し、砲撃発射。水色雷撃が奔流となり、システムU-Dを飲み込む。
U-Dが雷撃に苛まれながら、その爆発によって体を痛めつけられる。そこで突撃してきたのはトーマ。
雷撃混じりな爆炎を払い、システムU-Dがトーマへ魔力弾を連射。翼から放たれる黒き雨へ、トーマは構わず突撃。
弾丸は全てトーマへ触れる直前で消え、無害化する。……あれがエクリプスウイルスの効果か。
どこの誰がそんなの作ったのかは教えてもらってないし、今あれを潰すのも駄目だろうけど、今は助かる。
驚くU-Dにトーマは唐竹一閃。U-Dは右手のレイピアを投てきし、左翼を剣に変える。
でも魔力で構築された剣はかき消され、同時に翼の巨剣もトーマには通用しない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
リリィの事や鉱山で起きた事件、こういう体になった時の事を思い出して、めちゃくちゃ死にたくなった。
リリィとの融合も解けそうになってさ。だけど……やっぱりこの音楽には感謝だ。
ヘッドホンから流れてくるヴァイオリンの音色が、ちゃんと思い出させてくれた。
忌まわしい力かもしれないけど、その今と未来を変えようと決意した時の事。リリィの手を取った時の事。
そうだ、そうやって抗っている奴がいるじゃないか。フッケバイン・バンガードの奴らみたいにさ。
まぁ蒼にぃに先は取られたが、なんとか追いついた。それで改めて、この体に感謝。
この泣いている子を止める手助けになるかもしれないんだ。やっぱり俺、めちゃくちゃついてるのかも。
「嘘、どうして……なぜ、諦めて」
U-Dは刃を左へ振り切り、俺を吹き飛ばす。十数メートル下がりながらも、空中を踏みしめなんとか停止。
さすがにあれだけの質量だと、全部消されないか。だがさっき戦った時に比べたらかなり楽。
「くれないのぉ!」
そこでバインドがかかる。だが……もうこんなのじゃ止まらない。バインドは俺達のエフェクトによって消失。
すぐさま接近し、放たれた刺突をディバイダーの腹で防御する。
そのまま数十メートル押し込まれるが、空中を踏みしめ踏ん張りながら対処。
「諦めるか! 何度だって言う――俺達もお前と同じだ! こんな体になって、もう死ぬしかないとまで思い込んだ!
だけどそうじゃないって教えてくれた人達がいる! そうやって諦めたら、本当の怪物になるって」
両足へ更に力を入れると、システムU-Dの周囲に幾つもの魔法陣が展開。
そこからチェーンバインドが現れ、U-Dの四肢や腹をがんじがらめにする。
なるほど、これはスクライア司書か。バインドの名手って聞いてたけど、これは凄い。
システムU-Dはつんのめりながら、突撃を停止させられる。更にその背を白い砲撃が襲う。
直撃を食らうも、ただ前のめりに揺らぐだけ。発生する爆炎や砲撃魔力の爆発は、最小限のエフェクトで全て防御する。
「俺達を叱って、引き戻してくれた人達がいるんだ!」
そこで桜色の奔流が一時方向から飛んでくる。システムU-Dがもがいてバインド達を引きちぎり、回避しようとする。
でもその前に白いバインドがかかる。魔力とは違うエネルギーで構築された、リリィのバインドだ。
それが四肢を縛り、一瞬動きを止めた。でも、受けるのではなく回避か。
そこに希望を見いだし、U-Dと一緒になのはさんの砲撃を受けた。でも俺達は大丈夫だ。
ダメージを受けるのはコイツだけ……! 逃げられないよう、今度はこっちから押し込んで砲撃にぶつける。
もがくU-Dを叩く魔力は、例のカートリッジで構築されたもの。
走る火花と脇を掠め続ける奔流、更にU-Dへ言葉が届くように叫び続ける。
【だからわたし達が引き戻す! あなたもずっと考えてたんじゃないの!? 助けてほしい――止めてほしいって!】
「ち、が」
【だったらどうして泣いてるの! 本当に一人になりたいなら、どうしてあの時……アースラを消し飛ばさなかったの!】
リリィの言葉で、システムU-Dの抵抗が止まる。その瞳は怒りではなく、動揺で揺れていた。
【あんな事をしたのは、確かめたかったからじゃないの!? 私達が本当に、宿命と抗えるかどうか!
今だってそうだよ! だったらもう、こんな事しちゃいけない! 誰よりなにより、あなたが辛いだけじゃない!】
「違うと……言っている!」
そこで魔力衝撃――システムU-Dは砲撃と俺達を吹き飛ばし、迷いをかき消すように叫ぶ。
でも入れ替わりで青い光が走る。ジグザグに走るそれは、システムU-Dの腹を蹴り飛ばす。
そうして吹き飛ばした上で、光――アミタは銃口から弾丸連射。システムU-Dに翼で防御態勢を取らせる。
「アミタ!」
「私の言いたい事はただ一つ! あなたには――熱血が足りない!」
……それだけか!? おい、根性論か! それは根性論なのか! それでなんとかするって無茶だろ!
駄目だ、コイツ脳筋だ! とりあえずツッコミは蒼にぃに任せる! とにかくU-Dは海上近くで停止。
そこから翼を広げ、幾つもの魔力スフィアに変える。そうした上で砲撃……前に出て、ゼロエフェクト発生。
アミタを守るように、上へいる俺達へ迫る砲撃達はかき消す。魔力粒子が霧散したところで、俺の左側に殺気。
そちらを見ると、U-Dが翼を剣に変え、振り落としかけていた。慌てて後ろへ下がると、眼前すれすれに赤い巨剣が通り過ぎる。
だがU-Dは身を翻し、すぐさま右薙一閃。それは上昇し、なんとか回避。更にディバイダーの先を向けこちらの砲撃。
右の翼をシールド代わりに防いでから、U-Dは逃げた俺達へ飛び込む。……そこで八時方向からまた光が走った。
すくい上げるような軌道を描き、桜色の羽を閃かせながらなのはさんが接近。
しかもレイジングハートから魔力バンカーを出し、特攻体勢を取っていた。
U-Dはすかさず回避しようとするも、そこでまた複数バインドによる捕縛。
動きが止まった一瞬を狙い、なのはさんがシステムU-Dの腹を貫いた。いや、寸前で魔力障壁を展開してる。
ただ勢いに押され、システムU-Dはなのはさんもろとも一気に吹き飛んだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
エクセリオンバスターA.C.S.……無茶と言われ続けた突撃方法も使い方次第。もう呼吸する間すら与えない。
叫びながら、反応される前に零距離砲撃連射。桜色の閃光があの子の腹にたたき込まれ、爆炎が発生する。
それに二重メートルほど吹き飛びながら、アクセルフィンを展開しつつ体勢を立て直す。
錐揉み回転からのマニューバでなんとか立て直し、ほっと一息……つけないなぁ!
左斜め上へ跳び、炎を払いながら突き出された巨剣を回避。更に反転――右薙に薙がれた、赤い翼の剣をラウンドシールドで防ぐ。
ただしまともには受け止めない。シールド角度を軽く斜めにして、斬撃を上へ跳ね上げる。
隙だらけなところでショートバスター。更にトーマとアリアさん、更にヴィヴィオやレヴィも射砲撃で援護。
色とりどりの砲撃があの子の体を叩き、連続的に爆発。……でもそれを払うように、炎が走る。
それが一瞬で地平線を赤く染め上げ、システムU-Dが怒りの形相で睨みつけてくる。
更にアクセルシューターを三十発生成――一気に撃ち出すものの、あの子は逃げずに全て受け止める。
そうして揺らがず吠えながら加速。一気になのはの懐へ入り込み、翼の爪を突きつけてくる。
とっさに身を後ろに逸らし、眼前すれすれに翼を回避。マトリックスみたいにシステムU-Dと交差し、あの子はそのまま突き抜ける。
その行く手をトーマとレヴィが塞ぎ、揃って唐竹一閃。両翼が変形した巨大な拳と、ザンバーとディバイダーが正面衝突。
激しく火花を走らせながら、システムU-Dは右・左と拳を振りぬき、二人を吹き飛ばす。
同時に拳から魔力衝撃を放ち、その体も痛めつけた。……その間になのはは狙いを定め、エクセリオンバスター。
砲撃にカートリッジの魔力も込め、しっかりと楔に変えた上で放つ。桜色の奔流がシステムU-Dへ迫る。
それは背に命中し、派手に爆散。でも間を置かず、広がった翼が炎や魔力の残滓を放つ。
やっぱりスーパーアーマーが発生してる。舌打ちしてると、アリアさんとユーノ君がバインドで動きを封じる。
でもそうして止められたのはコンマ何秒か。がんじがらめな二色のバインドは、解けるようにして消え去る。
……そこで懐に入ってきたのは、恭文君とヴィヴィオ。揃ってU-Dの腹を蹴り、翼から発生した杭は左右に分かれて避ける。
更にシステムU-Dが時計回りに回転し、二本の巨剣に変化。二人に揃って右薙の斬撃を放つ。
揃って飛んで回避したところで、援護のためにショートバスター三発連射。
楔をあの子の胴体に叩きつけると、システムU-Dの頭上にアミタさんが接近。至近距離からの砲撃を頭にたたき込む。
……でもよろめく事なく、ただ小さな爆炎が生まれるだけ。巨剣を翼に戻し羽ばたかせると、羽のようなエネルギービットが展開。
アミタさんは慌てて距離を取りながら、銃剣を剣に変えた上で乱撃。ビットを払うものの、頬や左二の腕、脇腹が軽く抉られる。
追撃する前に恭文君が懐へ入り、右フック。魔力もなにも込めていない拳が、展開した障壁を砕いてシステムU-Dへ届く。
でも拳だけでは止まらず、恭文君の体は翼が変化した手に掴まれ、そのまま握り潰される。
その瞬間、恭文君の体は火花となる。同時に恭文君の姿が、システムの背後に現れる。
原理は分からないけど、恭文君はそこで。鉄輝一閃……ううん、凍結魔力を打ち上げ刃とする。
「飛天御剣流」
――壱(唐竹)・弐(袈裟)・参(左薙)・四(左切上)・伍(逆風)・陸(右切上)・漆(右薙)・捌(逆袈裟)・玖(刺突)!
「九頭龍閃もどき!」
その瞬間、極光が九つの斬撃となってあの子の背を穿つ。白い爆煙を生み出しながらも、斬撃によってあの子の体がよろめいた。
九頭龍閃……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! あれ、修得しちゃってるの!? さすが未来!
更に気を取られたシステムU-Dの顎へ、ヴィヴィオちゃんが踏み込んでサマーソルト。
爆煙を払いながら打ち込まれた蹴りは、とても奇麗に見える。更にヴィヴィオはシステムU-Dへ向き直り。
「セイクリッド」
左手で魔力スフィアを構築し、眼前に置く。それを右ストレートで打ち抜いた。
「バスタァァァァァァァァァァァ!」
圧縮された魔力が至近距離での砲撃となり、更にシステムU-Dの体を叩く。……これでやられたら嬉しいんだけど。
二人が離れる隙を作るため、チャージしていた大きめな砲撃を発射。右翼の裏拳で防御されるものの、砲撃はそれで止まらない。
でもそれでいい。あの子の頭上百メートルの位置に、トーマが回り込んでいる。
更にその下にはレヴィだよ。二人はそれぞれの得物をかざし、切っ先をあの子へ向ける。
【トーマ、フルスペックで!】
「これで……全てゼロに帰す!」
トーマのディバイダーから、黒い砲撃が撃ち出され。
「いい加減止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
レヴィが右薙に振るったザンバーから、水色の魔力が奔流として放たれる。
システムU-Dは戸惑いながらも逃げる事ができず、砲撃をまともに食らい爆発。
……なのははみんなにちょっとだけ攻撃を任せた上で、レイジングハートを構え集中。
周囲にめちゃくちゃ漂っている魔力の欠片を全て集める。
ユーノ君とアリアさんならきっちり合わせてくれるから、あとはタイミングだけ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そろそろ締め……あの謎キャラの衝撃が辛くはあるけど、レヴィと二人控えていた王と合流。
「王」
「おぉお前達、無事であったか!」
「ちょっとやばかったけどねー。でももうクライマックスだよね、だから」
レヴィは目を閉じ、身を構築するプログラムに操作――一旦身体維持を解除し、そのまま王へ吸収される。
それにより王の紫が混じった翼は、レヴィの水色を含んだものとなる。
「王、あとはご説明した通り……我らの消失も一時的なものとお考えください」
「分かっておる。預かるぞ、お前達の力と命」
王の頼もしい言葉に頷き、私もレヴィの後に続く。私の色も、きっと翼の一部となるだろう。
私達は四人で一つ――これもあの子を止め、今までと違う未来を見つけるため。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
爆煙を突っ切り、システムU-Dが落ちていく。でもすぐに錐揉み回転で体勢を立て直し、腹立たしそうに僕達を見てくる。
やっぱでかいのが必要か。しょうがないので左手で印を組み、術式発動。
僕を中心に白い煙が発生し、それはU-Dを取り囲むように広がる。
それが晴れた結果、僕の分身を三十体ほど出現する。それから左手を振りかぶらせ、手の平から忍術に使う生体エネルギーを放出。
それを一気に乱回転させ、球体状に圧縮。更に近くの分身一体が蒼いエネルギーに両手をかざす。
そうして雷遁エネルギーも込め、球体状のエネルギーは雷撃を伴う台風となる。
笑いながら分身達とU-Dに突撃。力の形態変化と、属性そのものの性質変換――はい、NARUTOに出てきたあの技です。
僕の場合は雷遁だけど。……当然警戒するのは大技を構築した僕。システムU-Dは肉薄する僕に対し、右に加速して攻撃を回避。
突き出したエネルギーを横目で見ながら、翼から杭を射出。……その瞬間、エネルギーの圧縮を解除。
瞬間的に爆発する乱回転エネルギーは、その場にだけ雷撃の嵐を巻き起こす。
それはシステムU-Dを至近距離で焼き、杭の動きを止めるほどの衝撃を与える。
同時に大技を構築した『分身二体』は消滅。ぽんと煙を放ち、姿を消す。……その背後から更に本命が接近。
当然左手には構築した大技。でもすかさず空間固定型バインドが走る。
ディアーチェは隙を消すため、背後にバインドをセットした。それが迫る本命と分身に反応し、その体を縛りつける。
システムU-Dは勝利を確信し、振り返りながら右翼を裏拳にして殴りつける。それはバインドごと、分身と本命を砕いた。
そう……本命の囮を。今度こそシステムU-Dの思考がストップする。同時に二発目の圧縮エネルギーも暴発。
翼を痛めつけ、肉体や服も雷撃で斬りつける。その痛みも思考の停止時間を延長させる。
僕がなんのために変わり身の術を使うたび、背後を取ったか。全てはそれが『クセ』だと思わせるため。
ついでに見るからに大技な攻撃を、連発するとは考えられない。そういう思い込みを利用した。
本命な僕は思考停止状態なU-Dの眼前へ転送魔法で飛び込み、まだ残る雷撃の残滓を払いながら『一人で』同じ技を構築。
……二人でってところも引っ掛けだよ。この技は忍術だろうと一人で構築できる。
ただし今回使うのは魔力で、その大きさは僕の身長ほどもある。カートリッジの特殊魔力も込めた上で、最大級の楔を。
「雷遁」
システムU-Dの腹へと叩きつけた。
「螺旋丸もどき!」
腹に直撃した螺旋丸は奴の体を錐揉み回転させながら、一気に数百メートルほど斜めに吹き飛ばす。
更に抉るように打ち込まれた雷撃変換の魔力も、その前進とジャケットを派手に焼ききっていく。
よし、ダメージはある。スーパーアーマーも解除されているし、あと一撃。そうして体勢を立て直す前に、再び周囲で魔法陣展開。
幾つものチェーンバインドが展開し、一気にシステムU-Dを縛り上げた。ついでに僕やヴィヴィオ、トーマ達も補佐。
何色ものバインドにより、システムU-Dが受け止められる。……そしてその頭上に、魔王の輝きが生まれる。
上方四十メートルほどの位置に横馬が立っていた。魔法陣を展開し、構えたレイジングハートの先に星の光をかき集める。
その大きさはふだんの倍増し。でもこれも当然の事。巨大な欠片やコイツ自身が今も振りまいている魔力、その全てがあれに集束している。
更にディアーチェもようやく登場。なのはの隣でデバイスを構え、黒い魔力スフィアを形成している。
ただしその数は五つ。魔法陣上にスフィアは形成されていて、同じ輝きがディアーチェの魔導書からも放たれている。
「な、ぜ……なぜなの!」
システムU-Dはバインドを振りほどこうともがき、更に魔力衝撃を迸らせる。
「もう抗う術なんてないのに! みんな、私に殺されるしかないのに! 無駄なのに!」
「馬鹿者!」
でもU-Dの動きはディアーチェの一喝で止められる。ディアーチェは三色となった翼をより大きく広げ、スフィアへ更に魔力を込めた。
脈打ちながら倍の大きさへ変化するスフィアには、なぜかレヴィ達の気配が感じられた。
「我のように望んで、自らの道としてやるならいい! だがお前は泣いておるではないか!
こんな事は嫌だと……そんな道を強いる王なら、我に存在価値などない! だから」
「私達で止めるよ! 全力全開」
「我の闇で、貴様の痛みをかき消す! 開闢滅殺!」
二人は得物を振り上げ、自らの魔力スフィアへ唐竹一閃。
「スターライトブレイカァァァァァァァァ!」
「ジャガーノート――マキシマム!」
桜色と黒、二色の魔力砲撃が交じり合いながらU-Dへ迫る。そこでシールドが幾重にも展開し、砲撃を受け止める。
何層もの障壁で全力の砲撃は防がれると思われていた。でも……二人は気持ちから違う。
赤黒いシールドは一層、また一層と砕け、僕達のバインドも千切れる端からかけられ続ける。
更に砲撃が途中から分岐。合計四発の砲撃が追加で生まれ、脇から回り込むようにしてU-Dへ接近。
バインドを全て砕き、脱出しようとしたU-Dへ次々と着弾。マーブル模様の歪みとなり、U-Dを飲み込み押しつぶそうとする。
そうしてメインの砲撃によって、全ての障壁が粒子化。歪みすらも貫き、システムU-Dが更に叩かれる。
……生まれるのはU-Dの絶叫と、今までにない大爆発。そこへディアーチェがすかさず飛び込んでいく。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
炎と荒れ狂う魔力残滓――その中を多少のダメージは構わずに突っ切る。一人では無理だが、三人ならば……!
魔力フィールドは全開で中心部へ突き抜けると、目を閉じて落下しかけているあれを発見。
すぐに駆け寄りお姫様抱っこ。その上で目を閉じ意識集中……あとはイメージインターフェイスの仕事。
感覚で触れられるプログラムの網。その中をすり抜け、中核を全力で抱き締める。
今までなら触れられなかったであろう防御障壁も、レヴィの力とシュテルの理で難なく突破。
これで、ようやくか。たったこれだけの事が長い間できなかったのは……本当にどうしてか。
「機能、破損。エグザミア、損傷。私は、壊れたのでしょうか」
「安心しろ、壊れてなどおらぬ。……しっかりせよ! 目を開け!」
呆れながらも一声かけると、U-Dはようやく目を開く。それに安心し、一息吐いた。
「戦術がうまくいったようだな。……飽和攻撃によってエグザミアの誤作動を停止。その隙に我が貴様のシステムを上書きした」
「それは、まさか」
「そう、あの情けない子鴉がかつて、リインフォースと呼ばれた融合騎にやった作戦だ。癪には触るがな」
「本当、だ。エグザミアが、止まってる」
ボロボロの体で、まっ平らな胸を右手で撫でる。U-Dはそれが信じられない様子で、呆けた顔のままただそうしていた。
「我が闇の力とシュテルの発案、レヴィの出力があったからなぁ。まぁ当然の結果よ」
……まぁあの外道どもの助けも、ないよりはマシな程度だったが。褒めると調子に乗りそうなので、黙っておこう。
「とにかく……しばらくは不安定になる事もあろうが、我がしっかり縛り付けておいてくれる」
「なぜ、そんな事を。私を放っておけば、あなたの」
「だからだ。……さっきも言っただろうが。我は我の意思で、闇としての使命を貫く。その覚悟を決めている。
だがお前にはその覚悟がない。しょうがないで殺りくを繰り広げるなど、命に対しての侮辱。
それは、王として止めねばならん。あとは……あのチビ外道も言っていたであろう。我々は元々一つだった」
なんだか見上げる視線が少々気恥ずかしく、つい顔を背けた。
その時シュテルとレヴィの色が見えて、ややふてくされながらもU-Dへ視線を戻す。
「永遠結晶(エグザミア)とそれを支える無限連環(エターナルリング)の構築体(マテリアル)。
すなわち、四基揃って一つの存在。闇から暁へと変わりゆく、紫色(ししょく)の天(そら)を織りなすもの。
紫天の盟主とその守護者――我が王、シュテルとレヴィがその臣下。そしてお前は我らが王であり、盟主」
「それは」
「よく覚えていないか」
U-Dは申し訳なさげに謝る。そこでそっと頭を撫で、大丈夫だと仕草でも伝えておく。
「なら無理に思い出さなくていい。だがこれだけは言っておく。お前が破壊を望まぬというのなら、我が止める。
一人になど決してせぬ。シュテルとレヴィもそれを望んでいるし、すぐに戻る。……安心して、こちらへこい」
「王……あなたの、宿命は」
「なに、一つ考えている事がある。世界制覇を諦めたわけではない」
奴らの前ではないからこそ、言える自分の気持ち。闇だ殺りくだと言ったところで、結局我はこういう存在らしい。
そんな甘さが悔しいというか、歯がゆいというか……だが心地良く感じるのも不思議だ。
「あとお前は盟主なのだから、王などと呼ぶな、名前でよい。……それとな、シュテルがお前の名前を思い出した」
「なま、え」
「あぁ。システムU-Dなどと無粋な名前ではない。お前が生まれついた時付けられた名は、ユーリ・エーベルヴァイン。
それが人として生まれた時の、お前の名。これよりお前は、ユーリだ」
U-D――ユーリが静かに頷いたのを見てから、ゆっくりと浮上する。話している間に炎と魔力の残滓は消え去った。
そしてユーリは安心したのか、我の胸に顔を埋めて……静かに眠った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
こうして一連の事件は一応決着した。でも……あたしはもう、驚きだよ。まず巨大×キャラ。
クロノさんが調べてくれたんだけど、影響はあの近辺でしか起こってなかったみたい。
だから海鳴はもちろん、世界中も無事。この時間の恭文が影響を受けた様子もない。
なお恭文曰く……まぁ『もしかしたら』ってのがつくんだけど、さすがに完全再現は難しかったみたい。
ただあのまま継続して暴れてたらまずかったっぽい。あたし達の心を通じて、この時間のみんなにリンクするかもだし。
それとシステムU-D――ユーリはボロボロになったけど、少し休んだらすぐ復活した。
それでも安静を取って、今はアースラのラボで寝てるけど。うん、今あたし達はアースラに戻ってる。
ほら、今のフェイトさんやリンディさん達の記憶も封じなきゃいけないから。アミタ達も忙しなく動いてる。
あたしとヴィヴィオちゃんを含めた未来組は……誰もいない、だだっ広い食堂で突っ伏していました。
現在関係者の記憶封鎖中。今回の事、覚えていられるのはあたし達未来組だけになる。
なお逃げたアースラ組は恭文が口八丁手八丁で全員呼び戻して、気絶させた上で縛り上げた。
その手口がとてもエグかったので、クロノさんが未来に絶望した。……恭文、アンタって一体。
「サポしかしてないのに、疲れた……!」
「ヴィヴィオも、同じくです」
「リメイクハニーはかけてもらったのに……ねぇ」
みんなテーブルに突っ伏しているのは、体より精神的な疲れが大きい。ほら、やっぱり巨大×キャラの泣き声ってキツいしさ。
「アインハルトさんは大丈夫ですかー?」
「なんとか。ですが情けないです。私はあの攻撃を受けるの、二度目だと言うのに」
「それ言ったら俺も全然駄目だよ、施設で頭抱えてもんどり打ったのに。あむさん、よく耐えられたよなぁ」
「わたし、尊敬してます。むしろあむ様です」
「様づけはやめて!? ……いや、あたしや恭文達も最初はもう、全然動けなかったよ」
だけど雑魚扱いはほんと無理。もうあれは止めたい。もう二度と出ないでほしいと、ラン達と全力で頷く。
「みなさん、お待たせしましたー」
そこでアミタが疲れた顔をしながら、こちらへ早足で近づいてくる。それで全員顔を上げて、ぱっと立ち上がった。
「アミタ、記憶封鎖は」
「全員完了です。いや、疲れましたよー。なにせ数百人単位でしたし」
「……それをどうやってこんな短時間で行ったのでしょうか」
「まだ二日程度だしねー」
「あぁ、これです」
そこでアミタが取り出したのは、銀色の筒状アイテム。普通なら香水とか言うんだろうけど、あたし達はついぎょっとしてしまう。
あの、メン・イン・ブラックって映画で……あれから光が出たら記憶消えちゃうってのがあるの! え、まさかそれ!?
「それ映画で見た事あるんだけど! え、そんなのまであるんだ!」
「え、知ってるんですか。これは博士が昔、異星人の犯罪を取り締まっていた時に使っていたものの複製で」
「そのまま過ぎじゃん!」
「恐るべし、エルトリア……!」
「他星への移住って話をしてた辺りから、凄いのは予測していましたが」
トーマとアインハルトが頬を引きつらせるも、アミタは終始笑顔だった。それがまた怖い。
「それでアミタ、記憶封鎖って……ママ達は全部忘れちゃう感じかなー」
「本当ならそうしたかったんですけど、恭文さんが言っていた聖王教会の予言、あるじゃないですか。
あそこまでなかった事にはできないので、あくまでも一部封鎖に留めています。
覚えているのは『特殊な魔力反応』が出た事と、それを止めた事だけ」
「それで大丈夫なのか。この時間だと最高評議会だっているし」
「大丈夫なようにしていますので。全部封鎖しちゃうと、食い違いがあった時に思い出しかねないんです。
あと一番重要なところも封鎖していますので、ご安心を」
「……恭文やあたし達がここにいた事、かな」
アミタはやや困りながら頷く。ようは『アースラスタッフだけで調べて、対処した』形になるんだよ。
そうじゃないとフェイトさんがあたしの事とか、知っていたって話になるからさ。
例えぼんやりとでもそれはマズいから……特に恭文はなぁ。ほら、この時間の恭文は今回別行動だったじゃん?
それでこっちにいたって話になったら、またややこしくなるし。本当に、ほとんどの事は忘れちゃうんだね。
ここは過去だから、あたし達はこれから起きる間違いを正せない。時間は、やっぱり変えられない。
それが少し辛いって思っちゃうのは、駄目なのかな。みんなのあんな姿、見たせいかもだけど。
「なによりヴィヴィオさんやトーマさん、リリイさんのためにもここはちゃんとしないと。
お三方ともかなり奇跡的なコースで生き残っていますから、下手にみなさんの事を覚えていると」
「えっと……俺達の時間が変わって、下手したら消えるかもしれない?」
「そ、それは嫌かもー」
「わたしも同感です」
「じゃああとは帰るだけ……そういやキリエは」
「最後の記憶封鎖中です。すぐ合流しますので」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
記憶封鎖の準備は本当に大変だった。なのはやシグナム達はまだいいんだ、トーマ達のためにもと納得してくれた。
まぁ、シグナムは不安げだったが。忘れる事で、同じ間違いを繰り返すのではと。だが少し考え迷いを振り切った。
間違えたら今回のようにやり直せばいい。自分が家族の間違いを正すし、自分が間違えたらみんなが正す。
その意思だけは忘れないようにしよう。そう考えて記憶封鎖を受け入れた。……問題は他だ。
局の方は現段階でかき上げた、偽の報告書があるから問題ない。紫天の書やエルトリアの事はやはり報告できないからな。
話の流れとしてはこうだ。闇の欠片に似た魔力反応を見つけたが、結局は勘違い。
こっちへ落ちてきたらしいロストロギアの影響で……ようはガイアメモリの同種だった。
結果暴走したので僕となのは達で、危険性を考慮して破壊。なので証拠品もなにも残らなかった。
かなり乱暴な説明だが、流れとしてはこんな感じだ。もちろん上を納得させられるよう、理屈という名の言い訳も散りばめている。
これだけで二日ほどかかったよ。その間にフローリアン姉妹が記憶封鎖を頑張ってくれていた。
当然はやてやヴィータ達に、フェイトと母さんも納得などしなかった。みんな、なにも変えなかった。
未来の事を教えてほしい、未来の力を託してほしい、システムU-Dを壊してほしい、自分達を信じてほしい。
歪んだ歯車に突き動かされ、自分の都合でしかものを語らない。シグナムじゃないが、不安になったよ。
それでも言った事は変えない。恭文が過去を変えないというのなら、僕は今を変えない。
僕達は歪んだまま、ただ前へ進んでいく。……何度も何度もそう念じながら、執務室のデスクに座っていた。
そうでないと躊躇ってしまいそうだったんだ。キリエは僕の前に立ち、香水瓶らしきものを見せてくる。
「じゃあいくわね」
「頼む」
「でも本当にいいの? 知っていれば変えられる未来もあるのに」
それでも消すつもりだろう……と言いたいが、その言葉は飲み込んでおく。というか、聞きたくもなるさ。
それほどフェイト達の荒ぶりっぷりはひどかったんだから。現にキリエはうんざり顔だ。
「いいんだ。まぁ、賭けてみるさ。僕達はそれほど愚かではない方向にな。
それでも駄目なら腹を据えて、その先を変えてみる」
「シグナム空尉が言ってたみたいに?」
「二番煎じだがな」
「……あなたもそれなりにいい男ね」
「ありがとう」
最後に礼を言って、彼女が放つ光を受け入れる。……そうして問題は先送りにされ、歴史は正しい方向へと進む。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
記憶封鎖の処置とかはみんなに任せ、僕は復活したレヴィと寒空を見上げながら歩いていた。
レヴィはバリアジャケットを応用し、コートとGパン姿となっている。服を用意する時間もないしねぇ。
そうしてやってきたのは、クリスマスに必ず行く高台。みんなの馬鹿っぷりを見た後なので、妙に切なくなる。
「ここが」
「うん。お姉さん――リインフォースが天へ昇っていったところ」
「きっと呆れてるだろうなー、みんな自分の事ばっかだし」
「でもレヴィ、よかったの。デート先ってここで」
「うん」
レヴィはツインテールを揺らし、僕の左腕にさっと抱きつく。
「ここがボク達にとっては始まりだから。闇の書が消えて、それで少しずつ。……あのね、ヤスフミ」
「うん」
「ボクと王様達はね、このままアミタ達のところへ行こうと思うんだ」
寂しげにそう言いながら、レヴィは空を見る。十一月だから雪にはまだ早いけど、それでも寒々しい。
「向こうにはダンジョンやモンスターとかもいるらしいし、退屈はしなさそう」
「ダンジョン!? モンスター!? え、なにそれ! なんか面白そう!」
「だよねだよね! ボクも同じ事思ったんだ! あとあと、紫天の書にあるデータが星の復興に役立ちそうだし!
……ボク達がこっちにいると、安心して暮らせないだろうしさ。乗っかる事にしたんだ」
「問題は、変わらずだしね。でも戻れるの? なんならデンライナーで」
「あ、それも大丈夫。ユーリのエグザミアがあれば、タイムマシンも安定して動かせそうなんだ。
もちろんギアーズじゃなくてもいける。……まぁシュテるん様々だけどねー」
その言葉には安心する。ほら、キリエ達が戻れない可能性もあったしさ。だけどレヴィの顔は、あんまり明るくない。
「今のヤスフミはボクが復活した事、知らないんだよね。
だから会いに行くにしても、ちょっと待たないと駄目だって言われた」
「タイムマシン使えば、すぐ会えそうなのに」
「あ、それもそっか。だけど、そんな頻繁には……無理だと思う。だからね」
「忘れないよ」
「そんなの当たり前だよ。それだけじゃなくて」
レヴィは瞳に涙を浮かべ、思いっきり飛び込んでくる。それを受け止めると、頬に思いっきりスリスリされる。
「本当はボク、この時間のヤスフミと一緒にいようって……思ったんだ」
「うん」
「あんなトーヘンボクどもに囲まれてたら、ヤスフミのいいところ全部消えちゃう。
ボクの事、へいとのコピーじゃなくてボクだって言ってくれたのに……だからボクが守るの。
ヤスフミが嫌な事で苦しんだり、困ってたらボクが一番に……でもやめた。
アミタに言ってたよね、時間は変えさせないって。ヤスフミは変えない時間の中で頑張ったから、ボクとまた会えたんだよね」
「そうだよ。辛い事はたくさんあったけど、それでも……諦めなかったからここにいる」
それを示すように、レヴィの前にしゅごキャラ三人も移動。
「だからしゅごキャラ達もいてくれる」
「お兄様は決して折れないし、諦めませんよ。だって私達はずっとお兄様の中にいたんですから」
「オレなんて一度完全に忘れられてるんだぜ? それでもずーっと、心の中から見ていたんだ」
「コイツはさほど弱くない。安心してダンジョン探索家になれ。……もぐ」
「そっか。じゃあ、これでいいかな。ボクは変えない事で、今のヤスフミを守る。
ヤスフミが自分で頑張って乗り越えてきた事、なかった事になんて絶対しない。だから」
レヴィは頬を離して、今までで一番優しい笑みを浮かべる。フェイトのコピーではなく、レヴィなりの優しいほほ笑み。
「今のヤスフミに、必ず会いに行くから。だから、またね」
「うん、約束だ」
そうして笑顔で指きりげんまん――その後は改めて町に出て、少しだけ二人の思い出を作る。
少し遠いけど、いつか来る未来のために。この時間で出会えた事にも感謝する。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
レヴィとのデートを終えた後、すぐに別れの時はやってきた。とりあえずトーマとリリィは、キリエ達が送ってくれるらしい。
最終決戦が開始されたあの海岸線に集まり、みんながそれぞれ別れを告げる。それで僕の前にキリエがきた。
「本当はあなたの記憶も消したいのだけれど、無理だしねぇ」
「あー、トーマ達絡みでしょ? 詳細は聞いてないので安心してもらえると」
「あなたがこういう事に慣れていてよかった」
その言葉には肩をすくめ、お手上げポーズを取る。
「ところで……次のあい引きはいつにする? 妾としてはできる限り早めがいいのよねー」
でも突然な馬鹿発言でズッコけてしまう。
「おのれ……! もう空気は暗くないんだから、必要な」
そこでキリエはすっと僕へ近づき、右頬に軽くキスをしてくる。少し驚いていると、すっと離れ軽く舌を出してきた。
「これは本気。時間は変えさせない、そして消させない――そう言った時のあなたにしびれちゃったもの」
「え、えっと……ありが、とう」
あれ、なにお礼言ってんの僕! ここでお礼言ったら、なんかOKしたみたいじゃないのさ!
違うの、そうじゃないの! 告白されたわけだし、ちゃんとしないと駄目かなーって……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「お兄様、後でお話が。私というものがありながら……!」
「いや、お前ヒロインじゃないよな。なんで嫁気取りなんだよ。嫁はフェイトと歌唄に」
「ショウタロス先輩は黙っていてください。これは夫婦の問題です」
「そもそも夫婦じゃねぇだろ、お前ら!」
「そうだな、ショウタロス先輩はいらないだろう」
「そこ同意してんじゃねぇよ! あとな、お前らいい加減オレの名前を覚えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
しゅごキャラーズの声は無視します。あとヴィヴィオの視線とかもスルーで……キャンディーズも相談とかやめてください。
「え、えっとですね……気持ちは有り難いんですけど、僕は結婚してまして。子どももいるし」
「確かに妾は教育上悪いわね。なら新しい妻で。こっちって一夫多妻OKだし」
「やぶ蛇だったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「まぁまぁ。なんにしてもお礼、必ずさせてもらうから」
キリエはピンク色の長髪を揺らしながら、ふわっと浮かび上がる。
「わたしの迷惑も全部引き受けてくれたしね。これは約束」
「とりあえずエネルギー源はなんとかして。じゃないといるだけでヒヤヒヤするわ」
「ふふ、りょうかーい」
いつもの口調に戻ってから、同じように浮かんだ他のみんなと合流。
「じゃあみなさん、お世話になりました!」
「またねー♪」
「蒼にぃ、またあっちでな!」
「あむさん達もまたですー!」
あむ達と一緒に、まずはトーマ達へ手を振る。そしてユーリと手を繋ぎ、ぶんぶん降ってくるレヴィへ。
「ヤスフミ、またね……またねー!」
「お、お世話になり……レヴィ、痛いです。それ以前に、恥ずかしいです」
「こういう時、この言葉がふさわしいとヤスフミに教わりました。……みなさん、いつか未来で」
「そこの外道、覚えておけよ! 今度こそギッタンギッタンに叩きのめしてやるからな!」
「みんな、またねー!」
そしてみんなは白い光に包まれ、一瞬でこの場から姿を消す。……それを見送ってから、僕達はゆっくり歩き出した。
「大変でしたが……とてもいい方達でしたね。盟主エーベルヴァインも、本質的にはとても穏やかで」
「ですねー。さぁ、ヴィヴィオ達も帰るよー。恭文、デンライナーは」
「もちろん使えるよ。さぁ、僕達も時間の旅だ」
「ん、それで帰ろうね。あたし達の時間に」
そして僕達も時の電車へ乗り、今の時間へ。少しだけ長い旅を終え、繋ぎたかった絆を繋ぎ、僕達はまた戦う。
悲しい事や苦しい積み重ねもあったけど、それでもつかみ取った時間の中で。後悔しないように、諦めないように。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
二〇〇二年・十一月――ベトナムでの旅は大変だった。まさか地元のヤクザと大げんかするとは。
でもでも、食堂経営しているお姉さんとその、いっぱい仲良くなってしまった。
その甲斐もあって、生春巻きの作り方は無事にマスター。材料も帰りに商店街で買い込んだので。
「ただいまー」
家へ戻り、早速調理できるわけで。クーラーボックス片手に入ってきた僕を、まぁまぁ頑固な同居人達が迎えてくれる。
……なに、この空気。なんでこんな暗いの。なんでリンディさん、疲れ果てた顔でテーブルに突っ伏してるの。
アルフさんも僕を見てなんか涙ぐんでるし、これはなに。ほんとどういう事よ。
戸惑っていると、フェイトが涙目で思いっきり抱きついてくる。
「フェイト、どうしたのかな。え、僕の私物でも壊した? だったら許さないけど」
「あの、分かんないの。でもヤスフミがここにいるの、すっごく嬉しくて……それで」
「そう。そんなに僕の生春巻きが食べたかったんだね。それでなにを壊したのかな」
「ううん、そうじゃないの。なにも壊してないの。あの、今から局に入ろう? それでね、一緒に母さんが言うような大人になるの」
アホな事を言うので、クーラーボックスの角で軽く殴ってやる。フェイトは痛みで呻き、床に崩れ落ちる。
なので左足を掴み、ズルズルと引きずっていく。
「さ、生春巻きがどういうものか教えてあげるよ。本場で鍛えたから良い感じだよー?
あとなにを壊したかはっきり説明してもらおうか。絶対許さないけど」
「ま、待て恭文! そうじゃないんだ! フェイトはちょっとこう、情緒不安定で! ほら、お母さんもこんな感じだし」
「だったら全部吐けばいいのに」
「わぁ、思いっきり疑いにかかってるよ! なんでだ!」
「……理由もなくいきなりこんな事言われたら、誰だって疑うわボケがぁ!」
「ですよねー!」
こんな感じで僕の日常は続く。ただ……少し様子が変だったのははやて達も同じだった。
まぁ生春巻きにミントたっぷり入れてごちそうしたので、すぐ目を覚ましてくれたけど。よかったよかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
デンライナーは静かに時間の中を進み、僕達を元の時間へ下ろす。そうして空へ上り、時の中へ帰っていった。
リインとアギトも連れた上で、軽く伸び。元いた演習場のすぐ近くなので、ささっとそこまで進む。
「あー、ようやく戻ってきた」
「大変だったなぁ。……アタシらの出番、一度だけだったが」
「ですです。まぁあんまり干渉しても大変ですし、これでよかったと思うのですよ」
「アギトさん、リインちゃんもありがと。なんかそっちも大変だったんだよね。その、スーパーヒーロー大戦で」
わぁ、二人とも全力で頷いてきたよ。どうしよう、これは。気にはなるんだけどさ。
でも空海やりまが頑張ったそうだけど、カブタロスが『そっと触れろ』って言うくらいだしなぁ。
「あー、アインハルトさん」
「大丈夫ですよ、ヴィヴィオさん。あの列車の事は内緒にしますので。……ただ」
「ただ?」
「今回の事で、少し考えてしまったんです。私が今できる事、今したい事はなんだろうと」
アインハルトはアインハルトなりに、思うところができたみたい。それは以前のような後ろ向きなものではない。
上手くは言えないようだけど、変化の芽を感じてあむが頬を緩める。その間に僕達は演習場へ到着。
「みんな、ただいまー!」
『おかえりー!』
一声かけると、みんな揃って右側から登場した僕達を見る。……が、追加メンバーがいた。
ただでさえたっぷりな人員内に、さっき別れたはずのフローリアン姉妹、及びレヴィ達がいた。
「ヤスフミー!」
驚いているとレヴィが思いっきり飛び込んでくる。そうして僕へ全力ハグ。
「ヤスフミ……会いたかったよー! すっごくすっごく会いたかったよー!」
「お、おのれらどうしたの! なんでここにいるの!」
「ひどいよー! 会いに行くって言ったじゃんー! だからきたよ! 二週間ぶりー!」
『期間短!』
え、二週間とかなの!? なにそれ、僕はてっきり十年ぶりとか思ってたのに……なにそれ!
いや、そう言いたくなる光景はまだあった。どういうわけかトリコのゼブラっぽい男がいて。
「あはははははははー! 面倒な時に面倒な事起こしやがってー!」
「「ご、ごめんなさいー!」」
ソイツが器用にフローリアン姉妹をジャイアントスイングしていた。しかもやたら速いので二人が恐怖している。
……てーかあれ、ダーグじゃね!? ターミナル副駅長の! 僕、一度会った事あるんだけど!
「マーベラス、撃ってやる」
「り、りまー、落ち着いてー。スマイルスマイルだよー」
≪りま様ー!≫
「もやしの野郎……!」
「今度はぶっ飛ばしてやろうな! なんなんだよ、アイツ!」
≪空海、落ち着きなさいよ。あとね、あたし潰れちゃうから≫
更にりまと空海が怒りに打ち震えていた。その勢いが凄すぎて、全員距離を取っているレベル。なに、このカオス。
あむやキャンディーズ達も混乱している中、フェイトがすっと近づいてくる。
「あ、フェイトただいま。……過去のフェイトは馬鹿だったよ」
「もう思い出したから言わないでー! そ、それよりこの状況なんだけど」
「あ、そうじゃん! これほんとなにかな!」
「あのね、ヤスフミ達がどこに跳ばされたのか教えてくれたの、アミタ達なんだ」
そこであむと顔を見合わせる。つまりその、アミタ達が教えてくれて……ようやく救援? でもなぜに。
「本当は私達も助けに行きたかったんだけど、これ以上未来人が介入すると大変な事になりそうで」
≪というか、ダーグさん辺りに止められたんですか≫
「そうなの」
「あと、あの時の我々に変化が起こってもあれなので」
そこですっと出てきたのはシュテル。なぜかVサインしてきた。
その横をひょこひょことユーリがついてきて、静かにお辞儀する。
「シュテル、もしかしてヴィヴィオ達のためにー?」
「アムやヴィヴィオは当然ですが、ヤスフミでさえあの件は知らない話ですから。
当然記憶封鎖を受けたフェイト達も、きっかけがなければ思い出せません」
「だったら私達が連れて……というのも考えたんですけど、あなた達は時の列車に援護を受けてましたよね。
そうしないほどに危ない相手なのは、一応私のデータにも残っていたので」
「そうだったのですか。……みなさん、お心遣い感謝します」
なので一応僕達も礼。まさかこう絡むとは……だからこその二週間って短さだったのね。
「ヤスフミ、模擬戦やってるんだよね! ならボクともやろうよー!
ボク、エルトリアで強い怪獣とかと戦って、腕上げたんだー!」
「二週間で!?」
「もちろん! タイムマシンの調整とかで思ったより時間かかっちゃったけど、その間鍛えたよー!」
「え、えっと……まず休ませてほしいなって思うんですけど。というか、我が子を抱かせてください」
「あぁ、大丈夫だよ。ほらアレ」
そこでレヴィがディアーチェを指す。ディアーチェは隅っこでなにやら笑っていたかと思うと。
「ははは、そんなに我の腕の中がいいか。可愛い赤子よのう」
なぜかうちの双子を抱いて、心から幸せそうにしていた。そしてうちの双子も楽しげに笑っていました。
「……なんでおのれが抱いてんじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ヤスフミ、抑えて抑えて! ほら、ハードボイルドー!」
そんな僕の叫びが青い空に響く。本当に、どうしてこうなった。とりあえず……士さん達は僕も殴ろうと思いました。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
前回のあらすじ――戻ってきたらもうひっちゃかめっちゃかになっていました。
それでも無事に片付いたと安堵してたら、ダーグが話があると言い出しました。
なのでフェイトになのは――過去でシュテル達と関わったメンバーは全員集合。十数人という人数で、食卓に座ります。
「それでダーグ、話ってなに。そこの馬鹿どもへお仕置き?」
「少し違う。……もうみんなには言うまでもないだろうが、紫天の書復活は影響が大きかった。
その辺りを調べないといけなくてなぁ。まずえっと、ユーリだったか。あとはディアーチェとシュテル、レヴィ」
「は、はい」
「あー、そんなに警戒しないでくれ。みんなが思ってる疑問を解すだけだからよ。
……まず根っこのところだ。お前ら、なんで復活できたんだよ」
それは確かにとても根本的な事。そう言えばダーグは知らないのか、僕達は予め説明されたけど。
「まずヤスフミにも絡む話なのですが、きっかけの一つは十年前、地球に持ち込まれ暴走しかけたロストロギア『ガイアメモリ』。
ただあれは時期が早まっただけの話。紫天の書自体はガイアメモリの暴走がなくても、必ず復活していました」
「あのシュテル、それってどうしてかな。だって闇の書はその、私となのは達で」
「キリエが求めたエグザミア、そしてそれを根幹とする紫天の書は、外部からの攻撃で完全破壊する事は不可能です。
よって断片化しようと、十年単位の時間をかければ復活は可能。
あの時点で闇の書破壊から五年ほど経っていましたし、出てくる準備はできていたかと」
「それがガイアメモリの暴走で加速して、あの一連の騒ぎになったんだね。じゃあシュテル、なのはから質問。
はやてちゃん達が破壊してーってアピールしてたけど、あれは」
「完全に無駄です」
「我を壊しても同じくだ。時間さえ置けば必ず復活する。貴様らとは鍛え方の作りが違うのよ」
その話、ぜひ今のはやて達にしてほしい。そうしたらみんな、立ち直れないかもしれないから。
「それでね、紫天の書ってのはボク達四人が揃った状態を言うんだ。
今までは闇の書の防衛プログラムが好き勝手してたから、その機会がなかったけど」
「私が動力炉になってるんです。でもディアーチェという制御装置がないと、自分で自分の力を抑える事もできない。
シュテルとレヴィはそれぞれの得意分野から、王様を補佐する立場。……だから、私一人で抑えられるはずがなかった」
「馬鹿でかいシステムだからこそ、お互いの役割を明確化した。
でもあんまりにデカすぎて封印された結果、もうわけ分からない状態になったと」
「そう、です。……あの、私達はやっぱりなにかの罪に問われるんでしょうか!」
「だから落ち着け。それで破壊活動に走るなら考えるが、そうじゃないよな」
そこは全員で頷く。そこでアミタやキリエまで乗っかるのは、培った絆ゆえだろうか。
「そこは私達が保証します! みんなとってもいい子なんです! 私達の復興活動にも協力してくれて!」
「みんなもどうしようもなかったところはあるし、そこは鑑みてくれないかしら。
ていうか、それを言ったらわたしがこっちへきたのが原因だし」
「だから安心しろ、なにもしないならどうこう言うつもりはない。……だが二度目はないぞ」
『……はい』
ダーグがやや厳しめに念押ししてから、両手をパンと叩く。
「てーかお前さん達には、ちょっと協力してもらわなきゃいけないかもしれないしな。そこまで乱暴な手は取らない」
「協力だと? どういう事だ、デカブツ」
「今回の件が明確化した事で、ターミナルとして気になるところが出た。
やすっち、ちょうど十年前、地球で生まれた新しい遊びがあるだろ」
十年前……その遊びが時間運行に関わっている? 一体なんだろうと考えたけど、すぐに気づく。
「――ガンプラバトル!」
「それだ」
≪あなた、前に『粒子』を調べた事がありますよね。確かあれって≫
「うん!」
そうか、確かに……十年前なら一番に調べなくちゃいけないところだ。納得すると同時に予感がしていた。
ここからまた戦いが始まると。それも今までにない、新しい戦いが。
(Memory20へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、ラストシーンは以前頂いた拍手から。長かったGOD編もようやく終了」
(こんな感じになりました)
恭文「というわけで、同人版ドキたま/じゃんぷ第五巻も現在好評販売中。他のも含めて、何卒よろしくお願いします。
……なおとまとFSリマスターの第三巻は月を越えそう」
(そんな感じになりました)
恭文「それはそれとして、お相手は蒼凪恭文と」
フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……とりあえず私達はあれだよね、この事は忘れて」
恭文「何事もなかったかのように片付いたわけだよ。そうしてまた同じ事をやらかすという、滑稽な奴ら」
フェイト「ふぇー!」
(『ふぇー?』)
恭文「というわけで、頑張ってプラモを作る日々が続くわけで……話に出す奴を作ってー、それを支部にアップしてー」
フェイト「そんな企画が!」
(まぁ、素組み中心になるとは思いますが)
恭文「そして今回の話。割りと目立っていたのは盾役なトーマ達と、楔役なぼくとなのは」
フェイト「ヤスフミも最近だと珍しく、魔法中心の戦闘だよね。最後の螺旋丸も魔力カートリッジ使った上だったし」
(ゲームでも最後の一撃はディアーチェなので、ああいう構成になりました)
恭文「そしてさらっと本編に初登場のダーグ」
フェイト「……スーパーヒーロー大戦絡みなんだね、分かるよ」
恭文「いつかは、頑張ってまとめなきゃいけないんだろうなぁ。あのカオスな戦いを」
(当然火野恭文なども巻き込まれました)
恭文「そういえばさ、またプラモの話でアレだけど」
フェイト「うん」
恭文「戦車模型や艦隊模型って流行ってるの?」
フェイト「え、またどうして」
恭文「ガルパンや艦これ人気で。艦これの公式イラストが載ったプラモとかもあるみたいだし」
(驚きでした)
恭文「なんだか亜美と真美が作っているっぽいし。てーか765プロのみんな」
(アイマス模型制作動画『http://www.nicovideo.jp/watch/sm23139370』)
フェイト「いや、これはまた違うような……でもガンプラは作りやすいの分かるけど、スケールモデルって」
恭文「とりあえず接着必須で、塗装もガッチリなコースなのは理解していたり。最近いろいろ見てるし」
(読者様で作った人とかいるんだろうか。ちなみに作者はありません。
本日のED:水樹奈々『ROMANCERS'NEO』)
アミタ「ついに私達もストライクノワールで参戦するんですね! KKYですよ、KKY!」
恭文「とりあえずあれだ、RGエクシアでなんとかならないかな」
アミタ「KKYというのは『気合いと、気合いと、やっぱり気合い』の略です!」
恭文「黙れ脳筋! こっちは新たな戦いに向けて準備が必要なのよ!」
(おしまい)
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