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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Battle68 『Mな奴ら/月氷龍が見ている』


正直八神君がなにを狙っているのか、そしてなにをしたのか……全く理解できない。

それも許してほしい。いきなりBP40000超えとか、強化(チャージ)なんて効果まで出てくるんだ。もうわけが分からない。


「……あー、ディオクマくん、八神くんのやったあれは」

「分からないよねぇ。ボクも予想外だから、みんなで整理していこう」

『お願いします!』


そこで全員お辞儀だよ。いや、ほんと……頭こんがらがるんで許してください。


「では解説しよう。まずアシュライガーのバースト召喚から、マジックで直接ブレイヴ。ここまではいいね?」

「それがホーク・ブレイカーでー、直接ブレイヴさせてブロック……だよねー」

「そ、それよ! あの鳥みたいなの、一体なんなの!? それでどうしてBPが三万以上も……インチキじゃない!」

「律子、本当にものを考えてから喋った方がいいわよ?」


千早、お前もキツい事言うな! いや、でもあれは不思議すぎるぞ! チートって言われてもいいレベルだろ!


「ホーク・ブレイカーの効果は説明されていたでしょう? 相手のシンボル一つに付き、BP+5000。
ランゲツのシンボル数がめちゃくちゃだったからあんな数値になっただけで、単体ではさほど強くないわ」

「え……そう、なの?」

「千早、そうなのか」

「プロデューサーまでなんですか。アニメでも主要キャラが使っているブレイヴですよ?」


あぁ、春香達も全力で頷いてきたよ。しかし主要キャラが……じゃあ常識なレベルなんだろうなぁ。

だがおかしい。一応ブレイヴのアニメは見始めてるんだが、あんなのは……あ、もっと話進まないと駄目なのか。

じゃあ後々の楽しみとしておこう。あの効果だし、もう凄い扱いがいいかもしれない。


「間違いなく絶晶神――それもアマテラス対策だよね。ホーク・ブレイカーは単体だと重装甲:赤を発揮するの」

「あ、それは俺も思った。絶晶神はトリプルシンボルだから、奇襲ブレイヴでBPを一気に跳ね上げ反撃と……よく考えついたな。地尾さん」

「ボクは教えてないよー? まぁここまではよしとして、次のワン・ケンゴーによるアタック。
ここで二枚目のクヴェルドウールヴを発動し、シャイニング・ソードを召喚。
シャイニング・ソードの召喚時効果は相手にだけ発揮するサザンクロスフレイムで、破壊した分ドローできる」

「あとは強化(チャージ)でサジッタフレイムを強くして、ワンちゃんも破壊……でも凄いわぁ。
あれ、ジャスティスさんからもらったカードよねー」


あずささんはなんか知ってる!? あ、もしかしてドイツへ戻る時とかの話か! ジャスティスって言ってるし!

みんながあ然とする中、あずささんはやっぱり素晴らしい笑顔。……やっぱり距離近いよなぁ、八神君と。


「……アイツ、響がランゲツを召喚した時点でコンボキーは揃ってたでしょ。やっぱり性悪」

「だが我那覇くんには絶大だったみたいだな」

「それも分かるわ」


伊織と社長が言うように、響はガタガタと震えていた。手札に絶甲氷盾はあるが、それでも自分の勝ちを信じられない。

いや、そもそも手札がランゲツのみの状態から、また召喚して場を整えるのか?

響には未来が見えない。シンボルもなにもない状況で、立て直せると考えられない。


最強を誇っていると思っていたランゲツが崩れた事で、響は恐怖から逃げられなくなった。


「詰め将棋よね、あれは。アイツ、低BPスピリットで大量展開するよう誘導もしたでしょうし」

「伊織、それどういう事? 恭文が響ちゃんの手札をこう、分かってたとか」

「違うわよ。……まず響が恐怖しているなら、あれはどれだけ吠えようと怯えた状態。
いわゆる保守的なプレイングが基本になってくるわ。負ける事を恐れているから」

「でもそれならランゲツは」

「そのランゲツを呼び出してから、響がどうプレイしたか思い出しなさい。
防御マジックの絶甲氷盾に、疲労ブロッカー化させるブレイヴ。
更にマジックを回収できる爆烈十紋刃――攻撃ではなく、防御を念頭と置いた戦略よ」


そう言えば……あれ、それなら双光気弾はどうなるんだろうか。ちょっと聞いてみよう。


「伊織、それなら双光気弾はどうなるんだ。いや、それがプレイングの癖になるのは分かるんだ。
だがあれならセットより、フラッシュタイミングで使った方が」

「ライフは守れたけど、手札が確保できないでしょ。確かにコア二個の対価はあるけど、その結果は」


そこで伊織は右手の指を三本立てる。


「三枚ドローよ」

「ネクサス効果で一枚、バースト効果で二枚か」

「それにコアは多いに越した事はないわ。あとは……その目的が問題。
勝つためではなく、『身を守るため』なら意味合いが大きく変わってくる」

「我那覇くんのプレイングはあくまでも、自分を守るためのもの。勝つために踏み込むプレイングではないからねぇ。
……更に言えば最後、あれだけ吠えておきながら通常のカードであるワン・ケンゴーで決めようとした点だよ。
低コストスピリットの必要以上な召喚は、万が一ランゲツが破壊されたらという恐怖からだろう。
そしてワン・ケンゴーでアタックしたのは自分の手を、必要以上に血で染めなくて済むため」

「待ってください、社長……それじゃあ」

「我那覇くん、ワン・ケンゴーでアタックする時、笑っていたよ。それも安どの笑みだ」


俺は気づかなかったが、あずささんや雪歩、真は気づいたらしく頷いてきた。もちろん伊織もだ。

つまり、あれか。そうして手を汚さないで済むとか、そういう思考を持ってたから笑っていたのか。

ランゲツが倒され、あれだけ許せないと言っておきながら……響の本質はあくまでも保守。


傷つかないため、怖いものを遠ざけるため、どこまでも守りに走っている。

八神くんはその本質を踏まえた上でプレイングしていたわけか。だから詰め将棋になるし、かっちりハマる。

これが遊びの本気。恐怖をも糧にする気持ち――俺も見習うべきところが多いな、やっぱり。


いや、それは八神君だけの話じゃないな。春香達からも教わる事はたくさんある。

八神君もその一人ってだけの話だ。……とにかく次のターン、九割くらい詰んだ状態だ。

レベル1なカグツチやワン・ケンゴー、ブレイドラならバーストを発動させずに決められる。


更に響の手札は二枚だが、そのうち一枚は回収しながら使用していない絶甲氷盾。フラッシュでの反撃を恐れる心配もない。


「ブレイヴ環境に戻りつつあるから、あのコンボと構築は当たりだと思うなー。でもセイバーの兄ちゃん……真美ー」

「うん。今の、ブレイヴの馬神弾みたいだったー」

「わ、私はばしなんちゃらって分からないけど……あれは凄いなーって。私も、あんなバトルできるかなぁ」

「やよいならきっと大丈夫さ。自分なりのデッキも組めてるんだからな」

「プロデューサーさん……はい!」


つい仕事絡みの話をしてしまう事に、全員が苦笑してしまう。あぁ、確かにそうだな。

バトスピはどこまでいっても遊びなんだ。過去はともかく、俺達は……それでいいのかもしれない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN16→17

恭文

ライフ×1 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×14 コア総数×18

手札×8 デッキ×10

スピリット:ジーク・バシンドラゴン レベル1・BP6000(コア×2 疲労中)

ムサシード・アシュライガー レベル1・BP8000(コア×1 ホーク・ブレイカーとブレイヴ 疲労中)

輝きの聖剣シャイニング・ソード(コア×1)

ネクサス:不死山・レベル1(コア×0)

英雄皇の神剣・レベル1(コア×0)
                 ↓
                 ↓
TURN18メインステップ開始時

ライフ×1 リザーブ×15 トラッシュ(コア)×0 コア総数×18

手札×9 デッキ×9

スピリット:ジーク・バシンドラゴン レベル1・BP6000(コア×2)

ムサシード・アシュライガー レベル1・BP8000(コア×1 ホーク・ブレイカーとブレイヴ)

輝きの聖剣シャイニング・ソード(コア×1)

ネクサス:不死山・レベル1(コア×0)

英雄皇の神剣・レベル1(コア×0)


響(アイマス)

ライフ×1 リザーブ×14 トラッシュ(コア)×5 コア総数×19

バースト×1

手札×2 デッキ×19





バトルスピリッツ――通称バトスピ。それは世界中を熱狂させているカードホビー。

バトスピは今、新時代を迎えようとしていた。世界中のカードバトラーが目指すのは、最強の称号『覇王(ヒーロー)』。

その称号を夢見たカードバトラー達が、今日もまたバトルフィールドで激闘を繰り広げる。


聴こえてこないか? 君を呼ぶスピリット達の叫びが。見えてこないか? 君を待つ夢の輝きが。

これは世界の歪みを断ち切る、新しい伝説を記した一大叙事詩である。――今、夢のゲートを開く時!



『とまとシリーズ』×『バトルスピリッツ覇王』 クロス小説

とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/ひーろーずU

Battle68 『Mな奴ら/月氷龍が見ている』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『メインステップ。ジーク・バシンドラゴン、ブレイヴスピリットをレベル3へアップ』


リザーブからコアが移動開始――ジーク・バシンドラゴンへ三個、アシュライガーへ四個乗せられる。

リザーブの残りは合計八個。だがそこで八神君は緑のカードを取り出す。


『いくよ、グラント・ベンケイをコスト5・レベル1で召喚!』

「うげぇ、容赦ないなー」

「全くなの。恭文、やっぱりドSなの」


地尾さんと美希が言っている間に、緑のコアが出現。それが回転して嵐を呼び、その中心部から牛もどきが飛び出してくる。

いや、カブトムシなのは分かるんだよ。分かるんだが……どうも体型が牛とかに見えて仕方ない。

だがそんなのは問題じゃなかった。どうして八神君がシナジーも取れていない、あんなカードをデッキに入れていたか。


そこで仁霧コブシ君のバトルを思い出して、血の気が引いた。だがもう遅い――響の手札二枚は、緑の光に包まれる。

そうして浮かび上がり、響の手から離れてしまった。当然響は顔が真っ青。今にも倒れそうだった。


「ふむ、あれは緑のカードだね。一体どんな効果が」

『グラント・ベンケイの召喚時効果。相手は相手の手札一枚を破棄する』

「……はい? だが、我那覇くんの手札は」

「ランゲツと、絶甲氷盾の二枚よ。だから性格悪いのよ、アイツは」

「なるほど、そういう事か」


八神君ェ……ほんと今回は否定できないぞ! しかも君、また楽しそうだしなぁ!


『な、なんでそんなカード……バースト召喚もできないだろ、それ!』

『そんなの、お前に徹底的な敗北を刻みつけるためだよ。さぁどうする、響』

「……ヘイアグモン、人間の狙いは」

「響が勝利を狙うなら、破棄するべきは当然ランゲツだ。だがアイツにとってランゲツは、命にも等しいカード」


ヘイアグモンは冷静に解説しながら、どこからともなく取り出したフレンチトーストを一口で食べきる。


「恭文は響に突きつけているんだ。……戦ってみんなを守る。
なにも怖がっていないと言うなら、ランゲツは迷いなく捨てられる。
だがここでランゲツを捨てられないなら、それは恭文の言葉を証明するものになる」

「ひびきんは勝つ事なんて考えてない。ただランゲツっちを大事にして、引きこもってるだけ……セイバーの兄ちゃんェ」

「真美達も今回は性悪って言うしかないよー。しかもこの土壇場でー」

『どうしたの、選べよ。お前は怖くないんだよね。怖いものは食いちぎって、みんなを守るんだよね。
だったら選べるはずだろ。みんなを守るために必要な道は、たった一つ!』


そこで八神君は浮かび上がった響の手札を指差す。


『ランゲツを捨てる事だ! さぁ、捨てろ! お前の覚悟が本物なら、捨てられるはずだ!』

『あ』


響は糸が切れた。よだれをたらし半笑い。それから。


『あぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! がやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


狂ったように絶叫し、頭をかきむしる。そうして髪を振り乱しながら、何度も何度もプレイ台に額を叩きつける。


「ひ、響ちゃんがぁ……!」

「壊れた」

「オレの知る限り、まだ甘い方だな」

「だよねー。山田先生相手の時はもっと酷かったしー」


わぁ、ヒメラモンと布仏さんが絶望振りまいてきたよ。あれで甘いって、八神くんはどんだけなんだよ。


『……ン……るぞ』


全員で呆れていると、響の動きが止まった。それでなにやら呟きを放つ。


『聴こえないよ。はっきりくっきり宣言しなよ』

『ンゲ……るぞぉ!』

『だから聴こえないって。もっとはっきり言えよ、お前はなにを捨てるんだ』

『――ランゲツを! 捨てるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


宣言と同時に、ランゲツがトラッシュへ置かれる。響は荒く息を吐き、涙を零しながら崩れ落ちた。


『はい、ご苦労さん。ところでグラント・ベンケイ、レベル1のBPは幾つか分かる?』

『は……?』

『BP4000だ』


その瞬間、全員がずっこけた。……台なしすぎるだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

ほら見ろ、響が悔しさで打ち震えてるぞ! あの葛藤が無意味だったのかとショック受けてるぞ!


「え、あの……どういう事よ。結局アシュライガーが出て、このターンは仕留められないじゃない。次のカードで逆転できるかもだし」

「律子、それは無理だ。アシュライガーは『BP5000以上のスピリット』がアタックしないと、召喚できない」

「はぁ!?」

「律子さん、さすがにそれはあり得ませんよ。このバトルだけでも二回使われてるのに。
……響ちゃんの手札は絶甲氷盾のみですから、もう止めようがありません。でも恭文、性格が悪すぎる」

「響ちゃん、前のターン以上にダメージ受けちゃったわねー」

『どう、してだ』


響は突きつけられた敗北に怯えながら、八神君に問いかける。


『どうしてなんだ! こんなの、あり得ない! 自分はランゲツがいる! ランゲツがいるから、強くなったんだ!』

『馬鹿だねぇ。……ランゲツが強いだけで、お前はなにも変わってないだろうが!』


八神君の一喝で、響が身を竦ませる。赤くなった額を揺らしながら、またボードに崩れた。


『お前は真耶さんやIS学園の連中、順二朗元社長達と同じだ! 恐怖で引きこもって、現状から進もうとしない!』

『自分が、社長と……!?』

『真耶さん達はISとIS学園に連盟と国家! あのボケジジイはルード・ルドナ! そしてお前はランゲツだ!
踏み込む事もせず、自分から変わろうとせず、力に甘えてなにが変えられる! ――さぁ』


そこで八神君が右手をスナップさせ、響をビシッと指差す。


『お前達の罪を、数えろ!』


響は涙を流し、改めてボードに崩れ落ちる。……根っこからへし折られた。カードをビリビリに破くよりキツいだろ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「さて響、まだ日高舞やアマテラスの方が怖い?」

「……恭文の方がストーカーみたいで怖いぞ。とんでもなく、怖い」

「響が魅力たっぷりなのがいけない」


そこで響が顔を真っ赤にし、泣きじゃくりながら立ち上がる。ツッコミができるってのは素晴らしいねぇ。


「な、なんだそれ! それはホントに変態だぞ!」

「そういう意味じゃないよ。……夏のライブ、見に行ったって話はしたよね。竜宮小町が台風で遅くなってさ」


春香とバトルした時にも触れた、オールスターライブ――響はその辺りを思い出してか、涙を止めて頷く。


「お客さんも竜宮がお目当てで、春香達はほぼ前座扱い。そのせいかお客さんの盛り上がりも悪くて、春香達もそれを受けてか地に足がついてなくて」

「そう、だぞ。自分達不安で、もうなにもかも上手くいかなくて」

「でも美希が二曲連続でうたって、空気が変わった。
はっぱをかけられたのか、一気にステージの空気が鋭くなってさ。
……響、あの時も怖かったんだよね。なのにどうして今戦わないのさ」


もう響は自分の恐怖から逃げていない。なのでさっきとは打って変わって、優しく問いかけてみる。


「無駄だ! そんな事しても……結局求められるのは」

「気づかせてやればいい、あの時みたいに。みんなが求めていたのは、確かに竜宮小町の歌だった。
だけどそれを勇気一つで切り替えた。……最後にみんなが求めていたのは、みんながうたうみんなの歌だ」


響はハッとし、震えながら両手を見る。


「なんだ、それ」


響はまた泣きじゃくりながらも笑い、両手で目元を必死に拭う。

でも溢れる涙は何度も、何度も拭うのに決して止まらない。


「それなら自分、なにも怖がる必要なんてなかったじゃないか。もうできるって、知ってたのに」

「だから気づかせてやればいい。そうして気づいた後に笑ってやればいい。
……もしまた不安になるなら、僕が響の全部を受け止める」

「恭、文」

「今日みたいに楽しませてもらうけどね」

「やっぱりひどいぞ、変態だぞ。でも」


響は泣きじゃくりながらも頷く。それに安心し。


「アタックステップ――これがとどめだ! グラント・ベンケイ、決めろ!」


グラント・ベンケイのカードを倒す。グラント・ベンケイは鈍く吠え、背中のハッチを展開。

中から大量の長物武器を展開しつつ、ドスドスと響の場へと突撃する。


「ライフで、受けるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


響は今度こそ踏み込んだ。自分からグラント・ベンケイへ踏み込み、突き出された角を命の障壁で受け止める。

そこから緑の火花が走り、激しい音を響かせながら粉砕。響はアーマーを砕くほどの衝撃により、吹き飛びながら姿を消した。


「焔と修羅、一つとなりて」


変わったままの髪をなびかせ、反時計回りに一回転。その上で右人差し指は天を指差す。


「未来へ示せ! 勝利の導!」


そうして響くのはスピリット達の咆哮と、シャイニング・ソードの輝き。合計十九ターンに及ぶ攻防は、こうして決着した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


僕もエクストリーム・ゾーンから戻って、まだ泣きじゃくってた響からランゲツを奪う。

響の状態はもう問題ないらしく、黒子に戻っていた地尾が自信満々にサムズアップ。


「我那覇さんのトランスは既に解消されています。逃げられないほどの恐怖を叩きこまれましたからねぇ」


その言葉で全員がホッと一息。しかし……恐ろしいカードだよ。僕にもプレッシャーかけてきてるもの。

まぁ僕は全然平気だけど。てーか完全敗北した事で、吠えるだけしかできないっぽいし。


「でも恭文、やっぱり破かないんだね」

「破くよ?」


やっぱりかぁという顔の美希に、笑顔で本気だったと告げてやる。みんながぎょっとするけど気にしない。

そう、破くよ……いつかね。すぐ破るみたいな事、言ってなかったと思うしー。


「ただしみんなが見えないところで。みんなはいつ破かれたのかとハラハラし、胃を痛めるわけだよ」

「……やっぱり性格悪いの」

「どこが?」

『全て!』


おかしい、僕が性格悪いところなんて一度も描写してないのに。

なぜかヘイアグモンやヒメラモンが、僕の背中を叩いて慰めてくる。


「ただ……我那覇さんは、しばらく八神さんと一緒にいた方がいいですね」

「な……! それ、どうしてですか! だってもう、そんなカードの影響はないんですよね!」


律子さんが忌々しげにミオガルド・ランゲツを指差す。でも僕が持っているので、そういうのはやめてほしい。


「一つ、これをジャッジメント・ドラゴニスへ戻すためには、もう一枚の欠片が必要なんです。
そして我那覇さんは今の段階でも、ミオガルド・ランゲツと強くリンクしています」

「ようはあれなの? ジャッジメントにしないと、響とのリンクも消えない。
もしまた響が恐怖心に負けちゃったら、同じように暴走しちゃう」

「正解です。いや、星井さんはお話が早くて助かります」

「で、でも恭文君が倒したのに! 痛めつけたじゃないですか、あんなに!」

「それでも芸能界における日高舞の『呪い』は変わらないでしょう?」


端的に言われて、律子さんが絶句する。……僕は立ち向かう事はできると示しただけ。

そういう認識を一気に変えたわけじゃないから。それで恐怖が再発したらって危惧してるのよ、地尾は。


「だ、だからそれは……さっきも言いましたけど、やっぱりスポンサーや局への失礼で」

「気づかないふりもいい加減にしておかないと、人を追い込むだけですよ? 結局なにも変わらない」

「そんな! 気づかないふりじゃなくて、これは感謝の気持ちです!
私達はそんな、誰かの代わりで仕事を得たわけじゃありません! ……みんな、聞いて!
そんな事はあり得ないし、あっちゃいけないの! 日高舞なんて関係ない!
ちゃんと自分達のやってきた事を、一緒にやってきた人達を信じて!」


そう言っても、全員が微妙な表情。それが余計に律子さんを苛立たせる。


「なんでなにも言ってくれないのよ! こんなの、なんの根拠もないデタラメ話じゃない!」

「律子、それは無理よ。……現に元社長と、黒井社長がそうだったわ」

「なに言ってるのよ、千早! それでも信じ抜くのよ! そうすれば周りが応えてくれる!
ここでこんな裏切りに流されたら、やってきた事全部消えちゃうかもしれないのよ!? そんなの」

「律子」


赤羽根さんが肩を叩いて諌めても、律子さんは納得しきれない様子。悔しげに唸りながら、涙をこぼし始めた。


「プロデューサー、止めないでください! こんな嘘、怖く感じる必要なんてないんです! そんなの……どこにも」


でもそれ以上の言葉も続かない。ただ悔しさを涙と一緒に吐き出すだけ。……こっちもやばいか。

もしペインメーカーに目をつけられたらヤバイもの。ああもう、どうしてこう面倒な人間が増えるのか。


「まぁ律子……さんは美希達に任せてほしいの。分かってるみたいだし」

「でもりっちゃん、頑固だからなぁ。基本折れないし、時間かかるかもー」

「時間をかけてもらえると嬉しいわ。こっちもこっちで忙しいし……あとは織斑一夏達か。黒子」

「既に四条さんの居場所は掴んで、連絡していますよ。あとはバトルが上手くいくかどうか」


だよなぁ。もしかしたら響と同じような状態かもしれないし……いや、もう任せると決めた。

それにね、織斑一夏から感じたのよ。今までと違う、新しい力を。多分仕込みは黒子だと思う。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


時は恭文と響が連続バトルをしていた、その最中へと遡る。一夏達は都心を走り回っていた。

だがデバイスサーチでも貴音の居場所は分からず、途方に暮れていた。……そこで地尾から連絡。

ネクサスミニチュアにより、貴音の居場所を発見したのだ。その場所はなんの因果か、フジテレビの球体展望台。


貴音はそこで一人、あのカードを持った上で佇んでいた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いや、地尾さんにはマジで感謝だよ。サーチも無理でどうしたものかと思っていたら……でもすげぇなぁ、錬金術。

やっぱり千冬姉とかもそうだが、手に職持っている人は強いよ。オレも人生の後輩として見習いたい。

オレならなにができるだろうとか、状況とズレた事を考えならお台場の球体展望台へ。


そこは昼間なのに人気がなく、お客は一人佇む女性のみ。顔見知りな鈴とセシリアを先頭に、彼女へ近づく。


「四条さん」


セシリアが声をかけると、ややとろけた目で四条さんがこちらを見た。


「セシリア・オルコット、それに鈴も……どうしたのですか」

「どうしたのじゃないわよ。いきなり事務所を飛び出したって言って、みんな心配してたんだから」

「そうですか、でも問題はありません」


あっさり言い切ったよ。それで幸せそうに、白いカードを空へかざす。

そこに描かれていたのは……確かに白いロード・ドラゴンだった。

月光を背にし、ストライク・ジークヴルムのような機械的な翼を背負っている。


「わたくしはこのかぁどに恋をしてしまいました。もうあいどるを続ける意味もない」


いや、意味が分からないんだが! え、あれか! 寿退社……いや、寿引退って話か!? そうなのか、おい!

迷っているのはオレだけではと思ったが、箒やシャルロットも戸惑った顔をするばかりだった。それにちょっと安心する。


「……おいみんな、あれやばいで」


そこで箒の隣でギラモンが、腕組みしながらあのカードを睨みつける。


「ギルモンの言う通りぶ〜ん。アマテラスやルード・ルドナに近い気配がしてるぶ〜ん」

「るごるご……!」

「そう、なの? おかしいわね……フェイトさん達は」

「デバイスにはなんの反応もありません。あれ、マジで神のカードなんか?」

「はやてはん、間違いないです。もうビリビリきてますさかい」


どうやら機械的なものじゃあ、現段階だと力が見られないらしい。

それでもデジモン達は……くぅ、オレもこういう感覚が欲しい。だがどうする。

四条さんはあの……えっと、月氷龍ロード・ドラゴン・ストライクしか目に入っていない。


てーか初対面なリンディさん達もいるのに、ガン無視なんだぞ。礼儀正しい人なのに、さすがにこれは。


「イチカ、どうしよう。事情を話して納得するとは」

「無理だな。下手をすれば逃げられるぞ。無理やり拘束という手もあるが」

「穏やかではありませんね」


小声で話していたシャルとラウラが、ぎょっとしながら貴音さんを見る。貴音さんに聴こえるような音量じゃなかったのに。


「わたくしとストライクを引き裂く。つまり、あなた達は」


やばい、考えが見抜かれたのか。このままだと……!


「恋敵ですね!」

『……はい?』


だが警戒態勢は、彼女のそんな言葉であっさり覆された。冗談……いや、目がマジだ!

嫉妬の炎でメラメラしてるよ! マジでカードに恋してるんだ、この人!


「ですがわたくしの夫は、わたくし一直線! あなた達の入る隙など決して存在しません! ……そうでしょう、あなた様」


カードにべったりで、まさしく新婚夫婦と言った様子。どうするよ、これ。やっぱ無理には……あ、待てよ。


「あ、あの……四条さん? 私達はそういう事を言っているのではなくて、そのカードは」

「だったら四条さん、オレとバトルしてください」


一ついい手を思いついた。なので説明しかけたリンディさんを左手で制し、そう提案してみる。

みんなが驚く中、四条さんは怪訝そうにするわけで。……まぁ普通ならストライクを賭けてって話だろうしなぁ。


「あなたは私の夫を質に入れろと?」

「いやいや、そうじゃありませんって! ……カードの所有権とか、そういうのは賭けません。
あくまでも好奇心なんですよ。オレ、そんな奇麗なカードは見た事がなくて……な!」


そこで右側の箒を見て、『乗ってこい』とアイサイン。箒とギラモンはハッとして、笑顔になりながら何度も頷く。


「ほんまやで! てーかあれや、バトルフィールドでどないな活躍すんやろ!」

「私もぜひ見てみたいです! いえ、見させてほしいんです! その……私もバトルを勉強している最中でして」

「旦那様を、ばとるふぃぃるどで?」

「「はい!」」


正直ドキドキの瞬間だった。オレはこういう駆け引きは得意じゃないからさ。

乗ってくれるかどうかは自信がない。だけど四条さんはカードを数秒見つめて。


「……そうでしたね。すぴりっとであるあなた様は、ばとるふぃぃるどで輝く存在。いいでしょう、そのばとるお受けします」

「ありがとうございます! それじゃあ」


すかさず八神から貸してもらったライフカウンターを預かり、四条さんへかざす。


「ターゲットロック!」


その瞬間、カードから蒼い光が走る。それが四条さんの胸を捉えたので、隠しモードを意識で発動。


「ゲートオープン、界放!」


オレ達全員は展開する虹色の極光に包まれ、エクストリーム・ゾーンへと跳ぶ。

オレも白い光の中で、光と同じ色のアーマーを装着。若干角張っているのがまたカッコいい。

そうして黒の輝きと衝突し螺旋を描く。その上でフィールドへボードごと降り立ち、四条さんと対峙。


……ここがエクストリーム・ゾーンか。来るのは初めてだな。ちなみに四条さんは銀色のノースリーブアーマーを装備。

フィールドリングには虹のシャボン玉が幾つも浮かび上がり、その中に鈴達がいる。


「……これは」

「すみません、ちょっと待ちきれなくて、エクストリーム・ゾーンの方に来ちゃいました」

「織斑一夏、あなたは意外とせっかちさんなのですね。ですがそれもしょうがない事。
……わたくしも恋をした自分が、こんなに愚かな女だとは気づきませんでした。
あなたも同じなのですね、あなた様――ストライクの輝きに魅入られた」

「ま、まぁ恋ではないですけど、そんなところです」


やばい、どうしよう。なんか乗り切れないんだが。てーかオレは恋愛なんて……考えなきゃ、いけないのに。

正直触れるのが怖くて、現状を言い訳にしている。……いや、今は迷うな。迷って勝てる相手じゃない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「いきなり光が発生したと思ったら、うちらはシャボン玉みたいなのに包まれてプカプカ浮かんでいた。
なにを言っているか分からないと思うけど、うちも自分でなにを言ってるかよう分からん」

「はやてさん、言っている場合!? これなんなのー!」


はやてさんと同じシャボン玉に閉じ込められ、なにもできずに浮かぶだけ。

しかも織斑君と四条さんはバトル始めちゃいそうだし。……あの、まさかこれが。


『一夏の奴、隠しモードを使うなら使うとそう言え……!』


そこでギラモンを抱きながら、私達の前を篠ノ之さんのシャボン玉が通り過ぎる。


『しゃあないって。はよ入らんと、あのストライクが横槍入れるかもやし。
……あぁ、でもえぇ感触やー。箒ちゃん、このまま』

『このまま私に拳を入れられるか? 全身に』

『冗談やないかー! こないに狭いんやから許してよー!』

「あの、あなた達! これがなにか教えてー!」


事情を知っているらしい篠ノ之さん達が近くに浮かんでいたので、声を張り上げてみる。

二人はこちらを見て、少し驚きながらも納得した様子。よかった、これで状況だけは分かりそう。


『あー、リンディ提督はご存じなかったのですね。これはエクストリーム・ゾーンです』

「それは分かるけど、どうして私達まで」

『ライフカウンターの隠しモードや。ロックした相手を、デッキの有無に関わらず引きずり込むモードがあってなぁ。
あとは観客も呼べるモードもある。一夏は二つとも発動して、ワイらを引き込んだんや』

「なるほどなぁ、それで有無を言わさずバトルして、さっきの名目を掲げつつ倒す。
そうして四条貴音をカードの力から解放しようと……一夏君、やるなぁ」

『アイツは自覚がないですが、頭はそれなりに回る方なので』


篠ノ之さんは自慢げに胸を張り……やめた。ギラモンが顔を埋めてる状態だものねぇ。


「でも、大丈夫なの? 事情も隠した上だし、バトルに負けたら意味がないんじゃ」

『ですが事情を話しても、あの様子です。……ここはバトルに賭けるしか』

「ああもう……バトスピって本当になんなの」


ただの遊びなはずが、世界の命運やカード一枚の行方すら決定する。正直その力に恐怖している。

いつもなら彼女と交渉の上、理性的に取り戻すのに。……でも言ってもしょうがないか。

納得しきれないのは確かだけど、絶晶神みたいな力を発揮するかもしれない。織斑君の判断はかなり的確よ。


できれば説明をしてほしかったと思うけど、状況的に無理だった。まぁ私は焦って泣いて、取り残されるのが役割なんでしょう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


始まった貴音と一夏のバトル――第一ターン、貴音はエゾノ・アウルをコスト3・レベル1で召喚。

更にバーストをセットし、ターンエンド。貴音は月光龍・月光神龍をキーとした白デッキ。

無限ブロッカーであるエゾノ・アウルを出せたのは、滑り出しとしては順当だろう。そうして一夏のターンへ移る。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN01→02

貴音

ライフ×5 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×3 コア総数×4

バースト×1

手札×3 デッキ×35

スピリット:エゾノ・アウル レベル1・BP2000(コア×1)


一夏

ライフ×5 リザーブ×4 トラッシュ(コア)×0 コア総数×4

手札×4 デッキ×36
                 ↓
                 ↓
TURN02メインステップ開始時

ライフ×5 リザーブ×5 トラッシュ(コア)×0 コア総数×5

手札×5 デッキ×35


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「メインステップ。エゾノ・アウルを、コスト3・レベル2で召喚」


こちらもエゾノ・アウルを出しておく。……白デッキだから、展開がかぶるのはしょうがない。


「あなたも白使い」

「はい」

「やはりあなたはとても真っ直ぐなのですね」


いきなり唐突に笑われて、ついまゆを潜める。


「一手目なのですから、とぼける事もできたというのに」

「まぁ、性分なので」

「これは楽しいばとるになりそうです。そんなあなたが守りの白をどう使うか」


本当に嬉しそうな顔をしてくるよ。こっちはかなりヒヤヒヤなんだが……とにかく。


「バーストセット」


手札の一枚をバーストセット。それにより手札は三枚へ減る。


「アタックステップへ入り、ターンエンドです」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ねぇはやてさん、BPっていうのだと四条さんのスピリットが低いのよね。どうしてアタックしないのかしら」

「あー、それは」

『バーストを警戒しとるんや』


ギラモンから答えが返ってきた。ギラモンは篠ノ之さんの胸から顔を外し、背にする形でバトルを見守っていた。


『BPが上でもスピリット破壊って可能性もあるし、あとはエゾノ・アウルの効果もある……やったよな、箒ちゃん』

『あぁ。エゾノ・アウルはバーストをセットしている状態でブロックした時、ボイドからコア一個を置ける。
……つまりコア二個でレベルアップし、一夏のエゾノ・アウルとBPが並ぶんです。相打ちにされる危険が高い』

「そこでバーストやな。相打ちにされた上でなんか展開されるかもしれんし、安全と思われるまでは攻め込まんつもりか」


どうもそういう事みたい。……単純に数字だけじゃないのね、学習したわ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN02→03

貴音

ライフ×5 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×3 コア総数×4

バースト×1

手札×3 デッキ×35

スピリット:エゾノ・アウル レベル1・BP2000(コア×1)
                 ↓
                 ↓
TURN03メインステップ開始時

ライフ×5 リザーブ×4 トラッシュ(コア)×0 コア総数×5

バースト×1

手札×4 デッキ×34

スピリット:エゾノ・アウル レベル1・BP2000(コア×1)


一夏

ライフ×5 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×3 コア総数×5

バースト×1

手札×3 デッキ×35

スピリット:エゾノ・アウル レベル2・BP4000(コア×2)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「めいんすてっぷ。まじっく、双翼乱舞をこすと4で発動いたします」


四条さんは双翼乱舞を場に出し、デッキから二枚ドロー。手札を合計五枚とする。

でもエゾノ・アウルを放置で、ドローマジック? あのバースト、スピリットの破壊時に発動するタイプなのか。

それなら手札補強も納得できるが。どうしたものかと思いながら、あのバーストに注目していた。


「ではたぁんえんどで」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN03→04

貴音

ライフ×5 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×4 コア総数×5

バースト×1

手札×5 デッキ×32

スピリット:エゾノ・アウル レベル1・BP2000(コア×1)


一夏

ライフ×5 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×3 コア総数×5

バースト×1

手札×3 デッキ×35

スピリット:エゾノ・アウル レベル2・BP4000(コア×2)
                 ↓
                 ↓
TURN04メインステップ開始時

ライフ×5 リザーブ×4 トラッシュ(コア)×0 コア総数×6

バースト×1

手札×4 デッキ×34

スピリット:エゾノ・アウル レベル2・BP4000(コア×2)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「メインステップ。シュライクンをノーコスト・レベル2で召喚。
不足コアはエゾノ・アウルより確保し、レベル1にダウン」


場に出てきたのは、灰色の百舌鳥ロボット。ダイヤコアの粒子を払いながら、一メートル弱の体を地面に下ろす。

これで手札は三枚……だがもういっちょいくぞ。


「更にペガシオーネをコスト2・レベル1で召喚!」


続けて出すのは、銀色の翼と体を持ったペガサス。これのロボットで、ビット的に翼を射出していた。

場に現れたペガシオーネは体長二メートルほど。……奇麗だなぁ。

シュライクンやコイツは、地尾さんからもらったカード達にあった。


あとはオレが、コイツらをどれだけ使いこなせるかだ。


「アタックステップ――ペガシオーネでアタック!」


ペガシオーネが駆け出し、翼からビット展開。合計六基なそれらは、ジグザグに進みエゾノ・アウルを取り囲む。


「ペガシオーネのアタック時効果! BP4000以下の相手スピリット一体を手札へ――エゾノ・アウルには戻ってもらいます!」

「なんと」


四条さんのエゾノ・アウルはレベル1・BP2000。条件クリア。

ビットからオールレンジで放たれる光を受け、エゾノ・アウルがもがく。

螺旋状の光に包まれ、場から消え去った。そしてボード上のカードも四条さんの手札へ戻る。


「更に連鎖(ラッシュ):緑発動! シュライクンはレベル2時、緑のスピリットとしても扱うので条件はクリア!」

説明しよう! 連鎖(ラッシュ)とはソードアイズ時代に存在していた、闇のスピリットが持つ効果!
自分の場に対応するシンボルが存在する場合、追加効果を発揮する事ができるのだ!
一夏はエゾノ・アウルのレベルを下げる事で、シュライクンを連鎖のトリガーに仕立てのである!


「自分の緑シンボルがある時、ボイドからコア一個をこのスピリット上へ置く!
ペガシオーネはレベル2・BP5000となります!」


シュライクンが翼を広げ、緑の輝きを放つ。それに呼応するかのように、ペガシオーネ上にコアが出現。

より力強くなったペガシオーネは速度を上げ。


「らいふで受けましょう」


四条さんの展開したライフシールドへ頭突き。蹴ったりしないのかと驚いていると、四条さんのコアは砕け散った。


「シュライクンでアタック!」


……この機会を逃すつもりはない。次はシュライクンを滑空させ、四条さんのライフを狙う。

正直ドキドキなラインだが、今の場ならなんとか持ちこたえられる。さぁ、どうする。


「らいふで」


四条さんはライフの障壁を展開。シュライクンのくちばしによる刺突を受け止め、それは粉砕された。

二つ目のライフ……バースト発動はなし。召喚時効果か、スピリット破壊だな。なら。


「エゾノ・アウル、お前もだ!」

「らいふで受けます」


次はエゾノ・アウルでアタック。エゾノ・アウルは翼を羽ばたかせ、そこから氷の礫を射出。

四条さんは三つ目のライフでそれを受け、苦しげに呻きながらも吹き飛ばされた。


「ターンエンド」


四条さんはボードを立て直し、元の位置へ戻る。でもその表情はとてもすがすがしそうだった。


「実に心地の良い、果敢な攻めです。ですがのぉがぁどというのは、些か無謀では?」

「それでも自分だけ守ってばかりじゃ、絶対に勝てませんから」

「いい心がけです」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あっという間にライフが半分以下。相手の守りを抜いての攻撃に、素人ながら感心させられる。


『よし、一気にライフを削った! 残り二つ!』

『一夏、ようやったで!』

「これは、一夏君が勝つかしら。だって残り二つですもの」

「それはないでしょ」


このまま攻めたらと思ったけど、はやてさんが渋い顔で首振り。


「少なくともすぐ決着がつく事はないと思います。その分四条さんはコアが増えましたから。
……きますよ、次のターンで大型が。それもあれくらいの陣形なら抜ける奴が」

「そう、なの?」

「そのためには……セシリアちゃんー、鈴ちゃんもデッキ内容は」

『分かりますわ。四条さんは白デッキ――その中でもルナテックとストライク・ジークヴルムをキーとしております』

「確か無限ブロッカーやったな。とにかく次のターンをどう乗り切るか……やなぁ」


あの削られたライフがそのまま、ピンチになっても切り返す手段になるみたい。でも、できればすんなりいってほしい。
そもそも問題のカードが来ないうちに仕留められれば……これで負けたらと思うと、いても立ってもいられない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN04→05

貴音

ライフ×2 リザーブ×4 トラッシュ(コア)×4 コア総数×8

バースト×1

手札×6 デッキ×32
                 ↓
                 ↓
TURN05メインステップ開始時

ライフ×2 リザーブ×9 トラッシュ(コア)×0 コア総数×9

バースト×1

手札×7 デッキ×31


一夏

ライフ×5 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×2 コア総数×7

バースト×1

手札×2 デッキ×34

スピリット:エゾノ・アウル レベル1・BP2000(コア×1 疲労状態)

シュライクン レベル2・BP2000(コア×2 疲労状態)

ペガシオーネ レベル2・BP5000(コア×2 疲労状態)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「メインステップ――月牙に吼えよ、白き雷皇龍」


いきなりきた。四条さんがカードをかざすと、周囲が夜へ変わる。そうして四条さんは満月を背にし、アイツを呼ぶ。

月光を受け、フィールドの壁をよじ登って白龍出現。それは翼のブースターを吹かせ、空を舞う。

ふだんはオレが使う立場だったから、こうして見ると新鮮だ。口から走る青い火花に、三日月を模した両角。


白の体色やその効果も含めて、全てが完成された美しいスピリットだと思う。それは貴音さんの場へ降り立ち、オレへと咆哮。


「月光龍ストライク・ジークヴルム、こすと6・れべる2で召喚。たぁんえんどとしましょう」

「月光龍……四条さん、月とか好きなんですか」

「えぇ。月を見ると、『くに』を思い出します。ですがなぜ」

「えっと、風花ってシングルの表紙も、月を背にしていたので」


これでもアイドル関係には……まぁ弾が詳しいせいもあるんだが、それなりに知っている。

シングル表紙だと貴音さんは、月を背に花畑で佇んでいた。幻想的で、でも凛々しくてさ。

カッコよくもあるし、奇麗でもある。……そう考えると凄いよなぁ。そんなアイドルとバトルしてるんだから。


「ありがとうございます。……実はわたくしも、あの表紙はとても気に入っています。
プロデューサーやすたっふにわがままを言わせてもらえたので」


貴音さんはそう言いながら月光龍を――そして既に消え去った、満月のあった方を見る。


「ああすれば『くに』の皆も、わたくしが健在だと分かるような気がして」

「……四条さんの故郷って、月がよく見えるんですか」

「えぇ、とっても」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN05→06

貴音

ライフ×2 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×6 コア総数×9

バースト×1

手札×6 デッキ×31

スピリット:ストライク・ジークヴルム レベル2・BP8000(コア×3)


一夏

ライフ×5 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×2 コア総数×7

バースト×1

手札×2 デッキ×34

スピリット:エゾノ・アウル レベル1・BP2000(コア×1 疲労状態)

シュライクン レベル2・BP2000(コア×2 疲労状態)

ペガシオーネ レベル2・BP5000(コア×2 疲労状態)
                 ↓
                 ↓
TURN06メインステップ開始時

ライフ×5 リザーブ×3 トラッシュ(コア)×0 コア総数×8

バースト×1

手札×3 デッキ×33

スピリット:エゾノ・アウル レベル1・BP2000(コア×1)

シュライクン レベル2・BP2000(コア×2)

ペガシオーネ レベル2・BP5000(コア×2)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


第六ターン――一夏はシュライクンのコア一個をエゾノ・アウルへ移し、レベル2・BP4000へアップ。

更に突機竜アーケランサーをコスト3で召喚し、エゾノ・アウルへブレイヴさせた。

アーケランサーの召喚時効果により一枚ドローし、一夏はブレイヴスピリットでアタック。


BPではストライク・ジークヴルムが上となるが、アーケランサーのブレイヴ時効果がここで引っかかる。

フラッシュタイミングで自分のスピリット一体を疲労させる事で、ブレイヴスピリットをBP+3000できる。

現在一夏の場にはシュライクンとペガシオーネがいるため、貴音がブロックした瞬間にこの効果を発動。


そうしてBPを底上げすれば、ストライク・ジークヴルムは破壊できるのだ。当然後の展開にも関わってくる。

貴音は迷う事なくライフで受け、その生命は残り一つ。どう見ても一夏に優勢な状況。

だが一夏は感じていた。あまりにスムーズすぎると。同時に貴音のライフを削っても、それに触れている感じがしない。


まるで自分は水面に映る月を、掴もうとただもがいているだけのようだ。貴音から奇妙な不気味さを感じていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN06→07

貴音

ライフ×1 リザーブ×1 トラッシュ(コア)×6 コア総数×10

バースト×1

手札×6 デッキ×31

スピリット:ストライク・ジークヴルム レベル2・BP8000(コア×3)
                 ↓
                 ↓
TURN07メインステップ開始時

ライフ×1 リザーブ×8 トラッシュ(コア)×0 コア総数×11

バースト×1

手札×7 デッキ×30

スピリット:ストライク・ジークヴルム レベル2・BP8000(コア×3)


一夏

ライフ×5 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×3 コア総数×8

バースト×1

手札×3 デッキ×32

スピリット:エゾノ・アウル レベル1・BP7000(コア×2 アーケランサーとブレイヴ 疲労中)

シュライクン レベル1・BP1000(コア×1)

ペガシオーネ レベル2・BP5000(コア×2)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「めいんすてっぷ。ソードールをのぉこすと・れべる1で二体召喚」


四条さんはソードールを二体展開し、不敵に笑いながら一枚のカードを取り出す。……来るか。


「目覚めなさい、白き巨獣。凍てつく大地を闊歩せよ」


辺りが急に吹雪、四条さん周辺の大地が氷で覆われる。だが……ちょっと寒いぞ! すげぇな、エフェクト!

そんな大地を打ち砕き、全長十メートルほどの巨大なバッファローが出現。

地割れの中から這い出たそれは、白い毛並みを持っていた。あと……角がおかしい。


白いクリスタルな銃身を持つ、ロングライフルになってんだ。こう、西部劇に出てくる感じで。


「バッファロング・ビル、こすと4・れべる2で現出! ……たぁんえんどです」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

バッファロング・ビル

スピリット

7(3)/白/雄将・巨獣

<1>Lv1 5000 <2>Lv2 6000 <4>Lv3 10000

Lv1・Lv2・Lv3『相手のアタックステップ』
コスト6以上の相手のスピリットすべては、アタックするときこのスピリットを指定してアタックしなければならない。

Lv2・Lv3『このスピリットのブロック時』
コスト6以上の相手のスピリットをブロックしたとき、このスピリットをBP+10000する。

シンボル:白白

イラスト:開田裕治

フレーバーテキスト:
うちの軍にあのバッファローがいなければ、
たとえ停戦できたとしても、その前に全滅していただろう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN07→08

貴音

ライフ×1 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×4 コア総数×11

バースト×1

手札×4 デッキ×30

スピリット:ストライク・ジークヴルム レベル2・BP8000(コア×3)

ソードール レベル1・BP1000(コア×1)

ソードール レベル1・BP1000(コア×1)

バッファロング・ビル レベル2・BP6000(コア×2)


一夏

ライフ×5 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×3 コア総数×8

バースト×1

手札×3 デッキ×32

スピリット:エゾノ・アウル レベル1・BP7000(コア×2 アーケランサーとブレイヴ 疲労中)

シュライクン レベル1・BP1000(コア×1)

ペガシオーネ レベル2・BP5000(コア×2)
                 ↓
                 ↓
TURN08メインステップ開始時

ライフ×5 リザーブ×4 トラッシュ(コア)×0 コア総数×9

バースト×1

手札×4 デッキ×31

スピリット:エゾノ・アウル レベル1・BP7000(コア×2 アーケランサーとブレイヴ)

シュライクン レベル1・BP1000(コア×1)

ペガシオーネ レベル2・BP5000(コア×2)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「メインステップ。ならオレも……!」

「えぇ、あなたの本気も見せてください」

「行くぞ、新しいキースピリット!」


地尾さん、感謝します。取り出したカードを左へ振りかぶると、そこから吹雪が発生。


「揺らめく白夜」


それには構わず、カードを空へかざす。すると吹雪は炎へと変わり、揺らめきながら合計九本の柱となる。


「その先の光を穿て!」


炎柱は渦を巻きながら天へ突き刺さり、いつの間にか生まれていた暗雲に穴を開ける。

そこから降り注いだ虹色のオーロラから、九個の狐火を携えスピリット降臨。

それは白の体に、黒の紋様を刻んだ狐。全長はストライク・ジークヴルムと同じくらいで、その尾は九本。


ただし全てがナタのように反り返っており、鈍い輝きを放つ。

背には黒いバックパックを背負い、尾と同形状なキャノン砲二門を携える。コイツの名は。


「闇皇ナインテイル・ダーク! コスト3・レベル2で召喚!
不足コアはペガシオーネから確保し、レベル1へダウン!」


コアを拝借し、ボード上のカードが輝く。ナインテイル・ダークは縦に身を翻し、オーロラから飛び出てオレの前へ着地。

そうして存在を現すように咆哮――これは闇の白きソードアイズが使ったとされる、キースピリットの一体らしい。

正確にはレプリカカードだが。それも今、新効果のテスト用に再現されたもの。当然貴音さんも知らないスピリットだから、目を見張る。


「ナインテイル・ダーク……織斑一夏、あなたのでっきは」

「……あなたも知ってる地尾さんから頼まれて、カードを幾つか預かったんです。大会外でのバトルに備えて。
これは闇の白きソードアイズ――白夜王ヤイバが使った、キースピリットのレプリカ」

「なるほど、古の力には古の力で対抗すると」

「その必要があると、地尾さんは言っていました」


本来はアリエスが入れられるよう、まだ調整が必要なんだけどさ。でもドキドキしてる。

レプリカと言えど、そんな凄い人のカードを使わせてもらえるなんて……カードバトラー冥利に尽きるってもんだ。

オレもコイツに負けないよう、もっともっと鍛えないと。よろしくな、ナインテイル・ダーク。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


闇皇ナインテイル・ダーク

スピリット(闇)

6(3)/白/機獣

<1>Lv1 5000 <2>Lv2 7000 <4>Lv3 10000

Lv1・Lv2・Lv3『このスピリットのブロック時』
BPを比べ相手のスピリットだけを破壊したとき、このスピリットは回復し、このターンの間、このスピリットをBP+3000する。

Lv3『このスピリットのバトル時』
コスト6以下の相手のスピリット1体を手札に戻す。

【連鎖:条件《緑シンボル》】
(自分の緑シンボルがあるとき、下の効果を続けて発揮する)
[緑]:相手のスピリット1体を疲労させる。

シンボル:白

コンセプト:今石進
イラスト:船弥さ吉
イラスト:SUNRISE D.I.D.(バトルスピリッツソードアイズウエハース輝龍VS闇皇・バトルスピリッツソードアイズウエハースソードブレイヴ!)

フレーバーテキスト:
闇から闇へ、九尾の獣が刃を振り下ろす。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「アタックステップ! ブレイヴスピリットでアタック!」


まずはエゾノ・アウルでアタック。背中にアーケランサーを背負ったエゾノ・アウルは、ブースターで突撃開始。

向こうがBP勝負で勝つのは無理だ。まずはこれでライフを削り……と思っていたら。


「それを待っていました。ではバッファロング・ビルへ指定あたっくを」

「はい!? ……え、指定アタックってまさか」

「そうです」


ブロック自体は問題ないんだよ。バッファロング・ビルも回復状態だしさ。でも指定アタックときた。

エゾノ・アウルの効果じゃないのにだ。つまりこれは……! やられたと思っている間に、バッファロング・ビルが吠える。

そうしてドスドスと巨体を揺らし、攻めこんでくるエゾノ・アウルへ突進開始。


「バッファロング・ビルの効果。こすと6以上の相手すぴりっと全ては、あたっくする時このすぴりっとを指定しなければならない。
更にれべる2・3のぶろっく時効果。こすと6以上の相手すぴりっとをぶろっくした時、このすぴりっとをBP+10000」

「強制指定アタックの上に、BP16000……!」


また強烈な。高コストスピリットにのみ働く、無限ブロッカーかよ。さすがは白の高コストスピリットだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一夏にとって有利な場が続くと思ったら、相手から手痛い反撃がきた。これでは、ブレイヴスピリットは……!


「いや、それならアーケランサーのブレイヴ時効果があるで!」


でもそこでギラモンが、まだだと言わんばかりにガッツポーズしてくる。


「三体全部疲労させれば、相打ちに持ち込める!」

「そ、そうか! その手が」

『……無理やな』

「「はい!?」」

「そうそう、疲労によるBPばんぷはさせません。まじっく、クレッセントハウリングをこすと2で発動」


そこで四条貴音さんが出してきたのは、ストライクヴルム・レオが吠える絵柄のカード。

まて、確かあれは以前一夏に見せてもらって……しまった!


「不足こあはストライク・ジークヴルムより確保いたしましょう。シュライクン、手札へ戻りなさい」


ストライク・ジークヴルムが吠えると、二体の進軍はそれとして不可視の衝撃波が発生。

観客席まで揺らすほどに大きな咆哮が、シュライクンの体を白い螺旋に包み込んで消し去った。

ボード上ではコアがリザーブへ戻り、カードも一夏の手札へと収まる。


「更にペガシオーネ、あなたもです」


今度は戸惑うペガシオーネが消し去られる。そこでつい、右拳でシャボンの床を叩く。


「くそ、やられた!」

『な、なにあれ。スピリットが消えちゃったけど』

説明しよう! クレッセントハウリングは、相手スピリット一体を手札に戻す事ができる!
だがその後、自分の場に名称『ストライク』と入っているスピリットがいる場合、更にもう一体手札へ戻せるのだ!


「あの姉ちゃんの場には『ストライク』・ジークヴルムがおるからな、二体バウンスできたっちゅうわけや」

『そんな』


リンディ提督は今までの展開に安心していたようだが、それが覆されて明らかに動揺している。


『織斑君のターンなのに、ここまで陣形がボロボロにされるなんて。しかもこれじゃあ』

『えぇ、アーケランサーの効果で相打ちは無理です』


二体は肉薄――そこでバッファロング・ビルの角から散弾が放たれ、エゾノ・アウルが蜂の巣にされる。

そうしてバランスを崩したところで、バッファロング・ビルが体当たり。エゾノ・アウルは体中から炎を吐き出しながら爆散した。


「アーケランサーは分離。スピリットとして場に残す」


一夏は苦々しく、カードとコアを操作。それにより爆炎からアーケランサーが離脱し、やや煤けた体を晒す。

そうして一夏の場へ降り立った。そこで一夏はなぜか背筋を正した。


『さて、これは厳しいなぁ。高コストスピリットでの攻撃は、全部バッファロング・ビルで止められる。
これで更にレベル上げられたり、ブレイヴされたりしたらちょお厄介やで』

『だったらその、条件に合わない弱めのスピリットで攻撃すれば』

『それも駄目です。ストライク・ジークヴルムは相手スピリットがアタックする時、回復する効果がありますから』

『盤石の守りなわけね。……これが、カードバトル』


というか、白の守りと言うべきか。ライフ差を感じさせない壁に、私達はつい押されてしまう。だが一夏は違った。


「……四条さん」

「なんでしょう」

「凄いです!」


恭文みたいに目をキラキラさせ、前のめりになりながら声を張り上げた。


「オレ、今のプレイングはめちゃくちゃしびれました!」

『イ、イチカー!? 状況分かってるかなー!』

『分かった上での事だろうな。私の嫁は大胆不敵というかなんというか』

「実を言うと、アイドルだから仕事として、片手間で……とかちょっと考えてたんです!
でもそんな事ない! 生意気な事思ってて、ほんとすみませんでした!」


更には思いっきり頭まで下げてくるので、ついズッコけてしまう。お前は……お前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「……一夏ぁ」

『ねぇはやてさん……本当にあの子で大丈夫なのよね! や、やっぱり交渉でなんとかするべきじゃ!』

『リンディさん、落ち着いてくださいって! それでどうにかならんって結論出したでしょ!』

『それでも不安になるわよー!』

「まぁ、えぇやないか。見てみ、みんな」


ギラモンの呆れ気味な言葉に、改めて一夏を……いや、四条貴音さんを見た。四条さんは嬉しそうに、そして穏やかに笑っていたのだ。


「ありがとうございます。そしてあなたが謝る必要はありません。
……ストライク・ジークヴルム達に出会わなければ、そういうお付き合いをしていたかもしれませんから」

『四条さん的には好感が持てたようですわね』

『ほんとねー』

「ですがバトスピとは、まこと不思議なものです」


まだ一夏のアタックステップは続いている。だが二人は一旦手を止め、見つめ合いながら通じ合っていた。

あぁ、通じ合っている。痛みもそれなりに伴うバトルで、まるで旧知の如く近づいているんだ。

それが少し、羨ましくもあった。……私もバトルすれば、少しは素直になれるのだろうか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「わたくし達はらいふを撃ち合い、争っている。なのにあなたの事が少しずつ分かるようです」

「オレもほんの少しだけ、四条さんの事が分かってきました」


四条さんの言葉にはそう返し、改めてエクストリーム・ゾーンを見渡す。そして警戒の唸り声を上げる、ナインテイル・ダークも。


「めちゃくちゃ真剣で、頑張る人なんだなってのは」

「ありがとうございます」

「だからオレも全力で向き合いたい。実を言うと、勝ったらそのカードを預けてもらえないか……とか、ちょっと考えてました」


ついそんな事をバラし……あぁ、箒達の視線が痛い。でも一番厳しいのは四条さんだし、気にならないや。


「なぜでしょう。まさか……びーえるというのでは!」

「違いますよ! そうじゃなくてそれ、月で復活させようとしたカードの一部なんです」

「それはもしや、八神恭文や地尾殿が言っていた」

「はい。でも月で妨害にあって、カードが三つに分裂して……そのうち一つは我那覇さんが」


一枚は四条さんが持っていて、それでというのは理解してくれたようだ。あとはBLが違うというのも……そこに一番安心してしまう。


「あなた達は、カードを元に戻したいのですね」

「はい」

「それには頷けません」

「だと思います。だからそれは一旦置いておきます」


驚く四条さんは気にせず、両手で『それは置いといて』とモーション。その上で笑ってみる。


「みんなには悪いんけど、もっとこのバトルを楽しみたいんです。
それで四条さんがあのカードを、どう使うかも見てみたい。
そんな気持ちで、胸の中がグラグラ煮えたぎっている」

「ふふ、それは本当に悪いですよ?」

「それで四条さんの事も知りたい」

「……わたくしは、一応あいどるなのですが」


そこでまた驚かせてしまったようなので、申し訳なく思いながら両手を振る。


「変な意味じゃないんです。ただどうしてそこまで、あのカードを大事にしたいのか……それを知りたいんです。
四条さん、これはオレの勝手な推測です。もしかして765プロを飛び出したのは」


四条さんはそこで笑って、右手人差し指をピンと突き出す。それは『静かに』のポーズ。


「そこまでです」


更に言葉でも念押しされて、出かけていた考えはグッと飲み込むしかなくなった。


「今わたくし達はばとるをしている。ならば言葉ではなく」

「バトルで示せ、ですか」

「約束します、わたくしも示しましょう。そしてあなたが示したものを、わたくしの全力で受け止めます」

「ありがとうございます」


実は考えていた。四条さんはさっきの我那覇さんや、話に聞く高木社長に比べてかなり冷静。

それに今も言っただろ、『自分はアイドル』だって。ちゃんと今の自分とか、やりたい事を覚えてる。

カードの力に流されて、暴走しているようには見えないんだ。……仮に暴走していないとしたら、目的はなんだ。


ここへ来たのはどうしてだ。765プロを飛び出したのは。ただ、オレは無粋だったんだと思う。

バトルが対話なら、オレは最後までその対話を続ける。そのためにまず、オレから示そう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN08 アタックステップ途中

貴音

ライフ×1 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×6 コア総数×11

バースト×1

手札×3 デッキ×30

スピリット:ストライク・ジークヴルム レベル1・BP5000(コア×1)

ソードール レベル1・BP1000(コア×1)

ソードール レベル1・BP1000(コア×1)

バッファロング・ビル レベル2・BP6000(コア×2 疲労中)


一夏

ライフ×5 リザーブ×3 トラッシュ(コア)×3 コア総数×9

バースト×1

手札×5 デッキ×31

スピリット:アーケランサー レベル1・BP3000(コア×1)

ナインテイル・ダーク レベル2・BP7000(コア×2)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今日の一枚――バッファロング・ビル。白の高コストスピリットだ。

その効果は劇中の通り、高コストスピリットにのみ働く無限ブロッカーと言っていい。

今回は防御面ばかりが目立ったが、ダブルシンボルというのも大きい。


アタックが許される状況なら、攻め・守りの両方で活躍してくれるだろう。当然このスピリットにもモチーフがある。

それはロングライフルと、アメリカバイソン――バッファローだろう。

名前は西部開拓時代のガンマン、『バッファロー・ビル』からと思われる。



(Battle69へ続く)







あとがき


恭文「というわけで、ドキたま/じゃんぷ第五巻が販売開始。ご購入してくださったみなさん、ありがとうございます」


(ありがとうございます)


恭文「というわけで今後共、とまと同人板の方よろしくお願いします。……それはそれとして、今回のバトル」

フェイト「ヤスフミ、A's・Remixのヤスフミがエグいよ」

恭文「あぁ、グラント・ベンケイの下りだったら読者アイディアだから」

フェイト「はい!?」


(アイディア、ありがとうございます)


恭文「というわけでお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。それでえっと、今回ヤスフミが使ったデッキレシピは」

恭文「こちらになりますー」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


敗北からの進化! 恭文赤デッキVer14


※スピリット×17

ブレイドラ×2

ワン・ケンゴー×3

カグツチドラグーン×3

グラント・ベンケイ×1

サンク・シャイン×2

焔竜魔皇マ・グー×2

龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード×1

刀の覇王ムサシード・アシュライガー×1

美の覇王セイバー・ネロ・クラウディウス×1(とまとオリカ)

激突の覇王ジーク・バシンドラゴン×1(とまとオリカ)


※ブレイヴ×6

輝きの聖剣シャイニング・ソード×1

希望の星剣ミルキーウェイ×1(とまとオリカ)

ホーク・ブレイカー×1

刃狼ベオ・ウルフ×1

砲凰竜フェニック・キャノン×2


※マジック×14

絶甲氷盾×2

双光気弾×1

双翼乱舞×3

五輪転生炎×2

サジッタフレイム×1

リバーシブルスパーク×1

デルタバリア×1

クヴェルドウールヴ×2

ストームアタック×1


ネクサス×3

不死山(とまとオリカ)×1

英雄皇の神剣×2


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文「なお今回は響用に調整していたので、グラント・ベンケイはふだん三枚目のサンク・シャインとなっています」

フェイト「まぁそうだよね。あとはマジックの構成だよね。いっそリバーシブルスパークとか抜いても良さそうだけど」

恭文「あとは五輪転生炎だなぁ。拍手でもツッコミきたけど、ブレイヴ中心だとアンチシナジーだし。
ネクサス対策もかねて、ネクサスコラプスにしてもいいかなとは思っていたりします」


(そこも今後調整する感じで)


恭文「そうそう、あと……今まで出そうとしてすっかり忘れていたレシピを」

フェイト「ふぇ?」


(闇の黄なるソードアイズデッキ『http://club.battlespirits.com/bsclub/mydeck/decksrc/201311/01385533378415_20131127.html』)


フェイト「あ、これは黄色のデッキだね。高木社長戦で使ったの」

恭文「レシピは組んでたのに、出すのを毎回忘れてたよ。めんごめんご。
……とにかく響の方は拍手でのアイディアも盛り込み、あんな感じで決着」


(アイディア、ありがとうございます)


恭文「そして一夏と貴音のバトル。貴音は以前OOO・Remixでも使った白デッキが元。
織斑一夏は……黒子、おのれいつの間にヤイバデッキなんて」


(『黄なるソードアイズデッキを見て、必要かと思い準備してました』)


恭文「マジですか!」

フェイト「でも今回は助かってるかも。大会外の事だし」


(なおミブロックというアイディアもありましたが……ミブロック系はあのキャラで出したい)


恭文「あぁ、あれだね。というかあれか、大会外はわりと自由か」


(自由です)


フェイト「それとガンダムビルドファイターズ、明日にはエクシアのダークマターが発売……ここも詳しく説明できないんだよね」

恭文「ただプラモ自体はフライングゲットした方もいて、主だったレビューサイトでは紹介していたりします。
なんでも新規パーツ七割とかいう勢いだそうなので、気になる方はチェックしてみましょう」


(ちなみに某動画での紹介によると、ランナーにエクシア『D/A』みたいなのが書いてたらしいです)


恭文「アメイジングが楽しみだね!」

フェイト「バンプレかなぁ」

恭文「RGでの改造パーツなら許す!」


(RGでもリペアの改造パーツが受注開始しましたね。さぁ、リペアUはまだか。
本日のED:Janne Da Arc『WILD FANG』)





恭文「というわけで二〇一四年三月二十一日、午後十時現在――ニコニコ生放送で、仮面ライダー電王の一挙放送がスタートしています」

フェイト「今日と明日で、二つに分けてだね。ちょうど桜井侑斗さんが出たタイミング……うぅ、侑斗さん」

恭文「この時は本当に謎キャラだったなぁ。そして……二年前に出た人がいきなり出てきて、びっくりしました」

フェイト「あ、ヤスフミやはやて達的にはそっちもあったよね。……でもなんで今電王? 映画かな」

恭文「いや、将棋で電王戦ってのをやるから、その記念で。もちろん映画の宣伝もあるだろうけど」

フェイト「電王戦なんてあるの!?」

恭文「そこもニコニコでチェックだね」


(おしまい)






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