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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第38話 『Jの世界/仮面ライダーとは』


ミッドに戻ってきたその日の夜――フェイトさんを手伝う形で、一緒にあっちこっちへ連絡。

フィアッセさんや椎名さん……ようは私達の関係者で、ミッドにいないメンバーはどうなったのか調べたの。

と言っても電話連絡しただけなんだけど。……結果ほとんどの人が失踪状態。連絡も取れなかった。


もう、これどうなってるの。向こうの方でも軽い騒ぎになっているっぽいし、頭が痛くて机に突っ伏す。


「ギンガちゃん、はい」


そんな私に栄次郎さんが、山盛りのおかゆを置いてくれる。顔を上げ、即座にレンゲを取る。


「ありがとう、ございます」

「大丈夫だよ。しかし士くん達、遅いねぇ」


そう言って、栄次郎さんはキッチンへ……とりあえずおかゆを一口。

中華風で、上のザーサイがとても泣かせる。ていうか泣きたい。


「ギンガさん、泣きながらでもその量は……まぁいいですけど。だけどこれ、どういう事でしょう。
さすがにスーパー大ショッカーがさらった……っていうには、少しおかしくありませんか?」

「逃げ出したなのは達が匿ってる。そう考えるべきなのかな。だったら合流して、情報提供すれば反撃のチャンスも」

「無理よぉ、それ。そもそもあたし達、外へ出るのも危ないのに」


全くもってその通りなので頷きかけると、フェイトさんがフォークを取り出す。右掌に乗せたフォークは鋭く回転し始める。


「……なにしてるのぉ、あなた」

「え、フォークダウジング。これでなのは達の居場所を探すの」

「馬鹿じゃないのぉ!? あなた、ついに頭がおかしくなったんでしょ! ちょっとヒビキー! 隼人ー!」

「うっせぇ! 猫なで声で俺の名前を呼ぶな! ……というかあれだ、俺はオカルト専門外だから……おっさん任せた」

「えぇ! いやいや、俺もこれは……てーかフォークってオカルトなのか!?」


揃ってこっちを見てくるので、両手と一緒に首をぶんぶんと振る。その間にフォークが動きを止め、壁時計を指す。


「そうか……みんなはデンライナーにいるんだね。危ないところを仮面ライダーの人達が助けてくれて、避難を」

「どうしてそんな事が言い切れるんですか!?」

「どうして? 夏海ちゃん、そんなの決まってるよ。フォークが訴えかけてきて」

「しっかりしてください!」


夏海さんは立ち上がり、右手親指を首へ突き出す。……あれは、笑いのツボ! そうか、それでフェイトさんを正気に戻すんだ!


「えい!」


でも指は、突如出現した別のフォークによって阻まれる。……もう嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

フェイトさんは電波になるし、私達は強制引きこもりだし、こんなんでなにができるのかな! 無理だよ無理!





世界の破壊者・ディケイド――幾つもの世界を巡り、その先になにを見る。

『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説

とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路

第38話 『Jの世界/仮面ライダーとは』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


前回のあらすじ――ギンガさんルートの世界が、士さんの出身世界だと思いました。みんなあ然としました。

……僕達の推論は、全員を黙らせるに十分な破壊力を持っていた。一応、これで不可解なところはあらかた説明できるしね。

例えばギンガさんルートな僕を、向こうが悪魔扱いして殺しにかかったのも。特異点は邪魔でしょ。


木の幹で存在している特異点だもの。下手をすれば世界樹との相互作用で、向こうの活動が邪魔されるかも。

あとその世界樹――士さんを、スーパー大ショッカーが倒そうとしているのも説明できる。

恐らく士さんを殺す事で、リセット現象は一気に加速する。だから連中は存在を隠し、同士討ちを狙った。


もしこれで同士討ちが成立し、士さん共々他のライダーが倒れた場合……リセット現象が発動し、奴らの思うつぼだったはず。

なので渡さん達の反応は推して知るべし。あのまま計画通りに謀殺してたら、取り返しがつかなかったかもだし。


「ちょ、ちょっと待って。ヤスフミ、それって」

「もう一度言うけど、確証はない。疑問点もあるしね」

「疑問点ってなによ。一応辻褄は合ってるっぽいけど」

「なんかね、見えてないなーって感じがするんだよね」


座席に座り直し、さっきつついたところに触れる。


「ウラタロスさん」

「同じく。そもそもこんなの前代未聞で、予測しろって方が無茶だしね。ただ……アイツらは必ず動く」

≪もうその時に正面対決するしかないですね。≫


僕達が動くタイミング……うん、見えてきた。士さん達は絶対にあの世界へ戻る。

始まりと終わりを司る、全ての中心へ。その時こそ、決戦開始の時だ。

……心配そうに近づいたどらぐれっだーを受け止め、軽く撫でる。


「だったら」


そこで真司さんが立ち上がり、一枚のディスクを渡してくる。

ミッドでは一般的なデータディスクだった。でもかなり古いものっぽい。


「これが鍵になるかもしれない」

「これは」

「スーパー大ショッカーが使っていたと思われる、研究施設を見つけたんです。放棄されてかなり経ってましたけど」

「だが中身が見られない。プロテクトがかかって」

「なら任せてください」


こういう時、僕の能力は役立つ。どこからともなくパッド型端末を取り出し、ディスクを挿入。

術式プログラムを同時に走らせ、ディスクのデータにアクセス。瞬間詠唱処理能力は、超高速の演算能力とも言える。

これでプロテクトを調べた上で、解除する。てーかもうできた。


「できました」

「早いな! てーか魔法って便利だな!」

「それは否定しません。さて」


恐る恐る中のデータフォルダを開く。項目は七つ……データ量は多くないっぽいね。

日付やタイトルがないっていうのが、予感を高める。とりあえず術式プログラムを停止。

端末も起動時からオフラインにしてあるから、ウイルス関係も一応大丈夫。


鬼が出るか蛇が出るか。少しドキドキしながら、一番古いファイルを開く。……これは。


「ビンゴだね」


ウラタロスさんが僕の左肩に腕を載せ、不愉快そうに呟く。文量は短いんだけど、書いてる内容があり得ないしなぁ。


「ヤスフミ、中身はなに!? 首領の正体とか書いてるのかな!」

「まぁ慌てなさんなって」


データ自体にタイトルはないけど、文頭には『レポート1.DCD計画』と書かれていた。さて。


「それじゃあ読むね。……私は日本で遺伝子学を研究していた、科学者だった。
だが二〇〇〇年一月三十日――スーパー大ショッカーという連中に誘拐され、ここに連れてこられた」

『誘拐!?』


みんなは驚いてるけど、ショッカーとして考えるなら、不思議な事はないよ。

連中は優秀な人間を洗脳・改造して戦力にするんだから。


「最初はふざけた名前と思った。ショッカーと言えば特撮の悪役じゃないか。
だが奴らの力は圧倒的だった。ほんの一部を見せられただけで、その存在が冗談ではないと理解した。
世界が奴らの手に落ちるのは時間の問題だ。このレポートが誰かに見つかる事を願い、これを残す」

≪文面から察するに、こっちの人っぽいですね≫

「さらわれたのは私だけではなかった。私以外にも各国の科学者が誘拐されていた。
その理由は――どうやら大首領と呼ばれる、奴らの親玉を呼び出すために器を必要としているらしい。
大首領の器を作り上げるDCD(ディケイド)計画と名付けられたこれは、ただの人体実験だ。
これから私は、この悪魔の計画に手を貸す事になるだろう。そうしなければ日本にいる家族がどうなるか」


ここで一つ目のレポートは終了。一旦ドキュメントを閉じて、次のデータを開く。


「レポート2――私達はミッドチルダという異世界に連れてこられた」

「な……そんな馬鹿な! 二千年って言ったら、九年も前なのに!」

「エリオ、君」

「人目に付かない場所で、計画が始動した。奴らは大首領の器に、自らの天敵である仮面ライダーを選んだ。
目には目を、仮面ライダーには仮面ライダーをという事らしい。理解に苦しむ。しかし私達に意見する権利はない。
はっきり言って、大首領の器たる仮面ライダーのシステム――ディケイドライバーは直ぐに開発を完了された」


ちびっ子二人がガクガクと震えながら、お互いを抱き寄せる。まぁ刺激が強いのは否定しない。


「更に仮面ライダーを擬似的に召喚・使役するもう一つのシステム、ディエンドライバーも作り上げた」

≪やっぱりディエンドライバーも、スーパー大ショッカーのものだったんですね。今のところは正解ばかりですか≫

「改めて奴らの技術力の高さを実感する。ただ問題は上記のシステムを使う体の方だ。
ディエンドはシステム上特に問題はなかったが、ディケイドは十人のライダーに変身し、能力全てを使うというもの。
ただの器では負荷に負けボロボロとなるだけだ。これでは奴らは満足しない。
ましてや大首領の器だ。その器を作り上げる――それが私達の仕事だった」

「……恭文、続きはどないなるんや」

「レポート2はこれで終わり。次いくよ」


ここからが本番らしいね。レポート3を開き、さっと目を通す。……これはひどいね。


「レポート3――ついに始まってしまった。奴らが管理局という組織を通じて、集めた被験体を毎日手にかけている」


冒頭からとんでもない話が飛び出し、はやて達が顔を真っ青にして立ち上がる。


「被験体は管理局で捕まえた犯罪者らしいが、幾ら犯罪者とはいえ相手は人間だ。それが毎日、数十人と死ぬ。
悪夢としか言いようがない。ディケイドライバーを使いこなすため、人間に怪人達の因子を組み込ませる。
人間の体がそれに耐えられるはずがない……私達は、私はこれから何人殺さなければならない」

「嘘、やろ」

「管理局が……スカリエッティだけじゃなかったのかよ!
なんだよ、それ! しょっぱなから乗っ取られてたってか!?」

「ヤスフミ、そんなのあり得るの? 犯罪者だってその、一応拘置所とかで」

「方法は幾らでもあるでしょ。連中は僕達の理解を超えた組織なんだから」


レポート3はこれでおしまい。どうやら相当精神にきているらしく、これ以上は書けないといった様子。次のデータを開く。


「レポート4。怪人の因子が一つ二つなら、まだ抑える方法はある。しかし数十という因子を組み込むんだ。
最初は三秒も持たずに発狂した。ただ発狂するのは被験体だけではない、
この悪夢に耐え切れずに発狂し自殺する科学者もいる。私もいつこうなるか……もう一度、家族に会いたい」

「うぅ」


エリオがこの短いレポートできたらしく、口元を抑え呻き始める。

慌ててナオミさんがバケツを持ってきて、エリオはその中におう吐。


「エリオ君、しっかりしてー! 恭文、それなんか怖いよー! 僕嫌いー!」

「甘いねぇリュウタ、ここで吐いてたらこの先は持たないよ」

「なんや。まだ、ひどくなる言うんか」

「ならない理由がないでしょうが。次いきますね」

「……おう、頼むぜ」


モモタロスさん達までヘコんでるし。まるで僕が悪者みたいに感じながら、次のレポートを開く。


「レポート5――以前のレポートから、何年経っただろうか。研究所に軟禁され続け、外でどれほど時間が経ったのか分からない。
悪夢の研究は、漸く終わりが見えてきた。きっかけは奴らがとある世界で見つけた、記憶を再現するガイアメモリだ」

「ガイアメモリですって!」


……嫌なものを感じさせるワードに、フェイトも息を飲む。

それを渡さん達は知っているらしい。まさかという顔で立ち上がった。


「渡さんと真司さんは」

「え、えぇ。地球の記憶と呼ばれるデータベースから抽出した、特殊な生体ワードを内包した端末なんです。
それを用いると、そのワードに基づいた怪物となる。使える能力もそれ準拠です。
例えば……マグマのワードなら、マグマの怪人に。傷のワードなら、傷の怪人に」

”や、ヤスフミ……それって”

”いや、微妙に違うっぽいし、また後で話そうか”

”うん”


ここでその話出しても、脱線するからなぁ。はやてや師匠達も問題ないらしく、アイサインを送ってきた。


「傷の怪人? 生物だけじゃなくて、そういう現象も怪人化するんですか」

「そこが既存の怪人との違いです。かなり特殊能力に特化していて、僕達でも注意していたんですが」

「記憶を再現って事は、メモリーとかそっちか?」

「恐らくは。続き、お願いします」


渡さんに頷いてから、改めて文面確認。うん、間違いないっぽいね。メモリの名前も出ている。


「ガイアメモリを使い、復活させた死神博士は研究に参加」

「なぎ、さん。その死神博士って」

「最初の仮面ライダーに登場した、ショッカーの大幹部だね。
怪人づくりの名人という異名を持つ、改造人間研究の第一人者だよ」


まぁこの死神博士が、僕の知っているそのままかどうかは読み切れないけどさ。

とにかく研究畑な幹部が復活した事で、DCD計画が一気に進んだのは間違いない。


「三秒しか持たなかったのは十万人を超えた段階で、六十秒まで持ちこたえられるようになった。
そして百万人を超えた段階で……これでようやく、家族に会える」

「青坊主よぉ、その数はなんだよ」

「聞く必要あります?」

「なんだよ……なんなんだよ、アイツらはよぉ!」

「連中、本当にオイタしてくれてたようだねぇ」


いら立つモモタロスさんは、力いっぱいにテーブルを殴る。ウラタロスさんも腰をくねらせながら不愉快さ全開。

でも疑問がある。連中は犯罪者を中心に人体実験してるんでしょ? 百万人もどうやって集めたんだろう。

数年単位としても、数が多すぎる。恐らくその疑問も……次のデータを開く。冒頭から出てきた話に、つい言葉を失った。


「アンタ、どうしたのよ。急に黙って」

「レポート6――私が馬鹿だった。百万人以上の被験者を、どうやって集めたのかと疑問に思うべきだった」

「あれ、でもそこ犯罪者って」

「奴らは犯罪者だけでなく、各世界の孤児やホームレスも被験者として誘拐していたのだ」


全員が悲鳴に近い叫びを上げ、一斉に立ち上がる。……エリオはまたバケツにモザイクを吐きかける。

今度はキャロまでもが一緒に……おぉ、後片付けが大変だ。


「ただそれだけならいい、だが……つい先日ディケイドは完成した。しかしその完成した被験者は、私の息子だった」

「な……! ヤスフミ、ちょっと待って!」

「なぜだ、なぜ息子が。奴らは最初から約束を守るつもりはなかったんだ。
被験者……いや、犠牲者達の名簿を見て分かった。
他にも研究に参加した、科学者の家族が研究に使われていた」

「そんなぁ……そんなの、ひどすぎるよ! 僕、絶対許せない!」

「かうかうー!」

「息子は私の事を覚えていなかった。当然だ。怪人の因子による拒絶反応を抑えるため、私が記憶消去を行ったのだから。
これでは娘がどうなったのかも分からない。私は、どうすれば」


レポート6はこれで終了。つまりこれを書いた人は……だとしたら残酷過ぎる。

息子から記憶を奪い、更にとんでも人外にした。だとすると僕達の推測、ちょっと正す必要があるね。

様々な怪人の因子ってのは、言い換えればいろんな世界の生物図とも言える。あくまでも一部だけどね。


でもそういうデータは、それ単体で収まるスケールのものじゃない。そこも一応覚えがある。

スーパー大ショッカーはそんな縮図を作る事で、全ての世界に干渉できる世界樹をでっち上げたとしたら?

全てを破壊し、全てを繋ぐ――そんなチート・オブ・チートが大首領の正体だよ。なら士さんは。


≪次が最後ですね≫

「うん。レポート7――私は決意した。息子を逃がす。そのためにまず、死神博士を解放した」

「解放? どういう事よ、それ」

「ガイアメモリで再現されていた死神博士のメモリを取り除き、元の人間に戻した。
幸いな事に死神博士の母体となっていた、光栄次郎氏は善人だった」

「光栄次郎やて! ……つまりあれか、メモリで死神博士の意識だけを再現して、他の人間に仕込んで乗っ取らせた?」

「メモリっていうか、それただのオカルトじゃねぇかよ」


真司さんとはやてが頭を抱え、大きくため息。……地球の記憶ってやつに、死神博士の記憶でもあったのかな。


「栄次郎氏は私の話を聞いて、すぐに協力してくれた。彼も元の世界に孫娘がいるらしく、息子を匿ってくれるとの事だ。
……私達はすぐに計画を実行した。何年もいた研究所だ。どこの動力を壊せば、損害が大きいかは分かる。
息子から大首領としての記憶を消し、栄次郎氏に任せた。私は奴らの目を引き付けるために残る。
私はもう、息子と娘に会えないだろう。だが願わくば、奴らの目の届かない世界で平和に暮らす事を願う――門矢 優(かどや・すぐる)」

≪これで、全部ですね≫

「……確かにあの研究所、破壊活動の跡がありました。後は血痕らしきものも」

「そういう事かよ」


真司さんの言葉を最後に、全員がなんとも言えない表情で黙りこくってしまう。……結局この願いは無駄だった。

スーパー大ショッカーは侵略を続け、門矢優博士の願いは虚しく散った。まぁ新しい疑問が出てくるけどさ。


「これで全部繋がったね。でも夏海ちゃんのおじいちゃんが、大幹部ひょう依させてたってのは驚きだったけど。
ただ恭文、それなら僕達の推測、大外れって感じかな。ほら、世界樹云々」

「いや、そうとも言えませんよ」

「偶然そうなったって感じ?」

「そうさせられたんですよ、士さんは。……小さい頃、恐竜惑星ってアニメがやっていまして。
その中で宇宙の眼ってアイテムが出てきたんですよ。バーチャル大陸っていう、仮想空間を舞台に冒険するお話で」


NHKの天才てれびくんでやっていたアニメだね。まぁ半分は実写が混じってたんだけど。

仮想体験システムの情報量がどんどん増していき、結果とんでもない事が起こった。

バーチャル大陸は単なる仮想空間ではなく、現実世界にも影響を与える多次元宇宙の交差点となったのよ。


だからバーチャル大陸で倒れた恐竜人類が、現実世界で新種恐竜の化石って言って発見されたり……でも凄いよねぇ。

子ども向けで一話十数分ってアニメだったのに、壮大なネタをバシバシ積み込んでくるし。


「またそっちからの知識なんだね。……まぁいいや、それで?」

「宇宙の眼は各時代に存在する恐竜たちの中から、進化上重要な個体の脳を集めて作った、巨大なバイオ・コンピュータ。
結果的にバーチャル大陸を中心に交わっている、多次元宇宙の未来をも改変できるシステムになりました」

「……恭文、すまん。もうちょい俺らにも分かるように」

「つまり、あれ? スーパー大ショッカーは恐竜じゃなくて、各世界の怪人因子を集めて、宇宙の眼を作った。
それがディケイドで、同時に世界中の因子を取り込む事で、それ自体が多次元宇宙の交差点になってしまった」

「なんで亀の字は分かるんや!」


おぉ、さすがウラタロスさん。こういう時話し相手になってくれる人がなかなかいないので、実はかなり嬉しい。


「そういう話ですね。それなら各世界の怪人達と協力しているのも……しかも奴らの場合、時も超えている」

「……クチヒコとミミヒコだね」

「え、ヤスフミ待って! あの二人もその、重要な個体因子なの!?」

「どうかは分からないけど、そうして昔いた怪人とかにも接触してるのは事実でしょ。
レポートにもあったけど、ディケイドに組み込んだ怪人因子も数十単位だもの。
……フェイト、考えてみて。平成ライダーだけなら、まだ九種で収まるでしょうが」

「あ……! そ、そうだよね! 残りはなんの因子を組み込んでるのかな!」


一応予測はできるんだよ。例えばデストロンやGODみたいな、別組織の改造人間達とかさ。

又は僕達が知らない世界の、未知の怪人とかさ。ただこのレポートも数年前とかだしなぁ。

もしかしたら数が増えて、百……いや、千くらいは詰め込まれてるかも。しかしどうするよ、これ。


もしそうだった場合、話はスーパー大ショッカーだけで終わらなくなっちゃうのよ。

だってこれは渡さんが言っていた、『ディケイドを中心に』って辺りにも絡む話だから。


「おい、お前らだけで話進めんな! つまりどういう事なんだよ!」

「まぁ先輩が分からないのはしょうがないよ。ほら、僕達って頭いい方だし?」

「知性の問題ですね、知性の」

「うるせぇよ! てめ、亀の悪いとこまで吸収してんじゃないよ!」

「まぁまぁ先輩。とにかくディケイドが暴れると、世界的に問題が起こるよう仕込まれたって考えればいいから。
……でもそうなると、ちょっと問題だよね。ディケイドがそういう、世界樹的な存在なのも変わりないし」


そこでウラタロスさんが、渡さん達をちら見。……そうなった場合、士さんは倒さなきゃいけない。

各世界とそういう繋がりを持っている可能性は高いし、それは仮面ライダーの力を復活させる事でより盤石になってるかも。

一度それを切り離さないと、スーパー大ショッカーを止めてもまた同じ事が起こる。


問題はそれができるかどうか。又はこの話が正しいかどうか、だけど。まぁ様子を見るに慎重ではいてくれるし、一応安心。


「そこもスーパー大ショッカーを止めてからにしないか? アイツらのデータとか掴めば、解決策だって」

「そうですね。仮に倒すしかないとしても、復活させる手があるかもしれません」

「そんなのあるんですか! ヤスフミ、そうなの!?」


僕にすぐ頼るのねー。でも肩を掴んで、ガシガシ揺らすのはやめてほしかったり。


「普通の人間ならともかく、彼は特異点に近い存在ですから。なにか手があるかも……とは。
とにかく明日、この門矢優博士を中心に調べ直してみましょう。もしかしたらご家族も」

「だな」

「うぅ、なんだか大変な事に……ヤスフミ、どうしよう。私達、まだ体戻ってないし」

「なんとかするしかないでしょうが。……そういう事ですよ、シグナムさん」


目が覚めていたシグナムさんに声をかける。シグナムさんはソファーにもたれかかり、顔を真っ青にして震えていた。


「分かったでしょ? もう手柄なんて無意味だ。スーパー大ショッカーを潰すって事は、管理局を潰す事でもある」

「やめて、くれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「それは無理だ。……管理局はツケを払う。だからアンタ達も腹決めて、一緒に死ね」


絶叫しながらシグナムさんは、床へ頭をこすりつける。それでも状況は変わらない。

ギンガさんルートの管理局は、スーパー大ショッカーそのものだった。

誰かの自由を踏みつける事に協力し、それを当然にしていた。なら、それは仮面ライダーの敵でしょ。


仮面ライダーは正義の味方じゃない。誰かの自由を踏みつける、相対的な悪と戦う戦士なんだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


全然、眠れない。戻ってきたのになにもできなくて、ただくすぶる事しか……しかもヒビキさんが言っていた事、突き刺さる。

足を引っ張るつもりなんてなかった。ただ、共有したかった。不安な気持ち、少しだけでも分かち合いたかった。

力になれないから、せめて……でもそれは押し付け。なぎ君はそんなもの、最初から見ていなかった。


私達はいつもそうだ。なぎ君の行きたい場所へ行く邪魔しかしない。信じて待つ事ができない。

決めた事すら忘れて、自分の気持ちを大事にしてしまう。……何度も何度も考えて、ベッドから抜け出す。

台所でなにか……と思い撮影室へ入ると、栄次郎さんがなにやら作業していた。


「お、眠れないのかい」

「栄次郎さん」


栄次郎さんに手招きされ、テーブルに座る。


「恭文くんはねぇ、馬鹿なんだろうね」


するとすぐに紅茶が出された。お辞儀してお茶を受け取り、栄次郎さんの言葉に首を傾げる。


「テレビのヒーローみたいになんて、できるわけないのにねぇ」

「テレビの、ヒーロー?」

「事件があったら一直線。全力で解決して、ハッピーエンドだよ。理想だけど、現実じゃあまず無理」

「そう、ですね」

「でもそれはねぇ、人が好きじゃなきゃできないよ」


次に栄次郎さんは、リゾットらしきものを持ってくる。トマトクリームで、チーズの香りが鼻をついた。


「細かい理屈じゃないんだよ。あの子は人が好きで、守りたくて……だから全力を尽くす。
でも好きだからこそ、上手くできない事もある。まぁそこはギンガちゃんの方が、よく知ってるか」

「……知りませんでした」


リゾットをスプーンですくい、口に入れる。温かく優しい味わいなのに、なんでか涙しか出ない。


「私、なにも知ろうとしなかった。なぎ君が今助けたいのは、私達じゃなかったのに……それが怖くて。栄次郎さん」

「なんだい」

「栄次郎さんは、どうしてそんなに信じて待っていられるんですか」

「いやいや、私は信じてなんてないよ。ギンガちゃん、知ってるかい?」


栄次郎さんはニヤリと笑い、右人差し指を建てる。


「仮面ライダーは正義の味方じゃない」

「同族、殺し?」

「いいや。仮面ライダーは人間の自由を奪う敵に、敢然と立ち向かうんだよ」


そこで栄次郎さんが、少し悲しげな顔をした。その瞳がとても重く感じて、どうしたのかとは聞けなかった。


「お世話になった人がね、教えてくれたんだよ。仮面ライダーってお話を生み出した人は、そう言ってたってね。
悪い奴の力をいい事に使って、誰かのために戦う。それが仮面ライダーってやつなんだよ」

「それが、正義の味方じゃないんでしょうか」

「いやいや、違いがあるんだよ。まぁ、だから……かね。
そんなみんなが、ハッピーエンドを迎えられないなんて……信じたくないんだよ」


その言葉がまた突き刺さる。それは確かに信じていない。ただ疑う事をしないだけだ。

リゾットを食べる手は止まらない。疑って、縛り付けて、自分の都合で振り回して、そんな後悔も一緒に食べる。

もし自由を守るのが仮面ライダーだとしたら、私達はスーパー大ショッカーとなにも変わっていない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


シグナムさんは半狂乱状態だったので、面倒な事をしないよう気絶させた。

ついでにレヴァンティンも奪い、僕が預かっている。飛び出して暴れかねないからなぁ。

まぁ猿ぐつわした上に、両手足の筋を断ち切ってるから……事件終了後までは動けないでしょ。


誰もいない食堂車に座り、一人あのデータを見ていた。ナオミさんも気づかってくれて、ゆっくりコーヒーを淹れてくれてる。


「なんだ、眠れないのか」


食堂車後方からモモタロスさんが入ってきて、呆れ気味に右肩を回す。それに渡さんも続く。


「モモタロスさん、渡さんもどうしたんですか」

「それは僕達のセリフですよ」

「だよなぁ。……ま、しょうがねぇよな。あんな話した後じゃあよ」

「コーヒー、淹れますね」

「おう、悪いな」


ナオミさんに断ってから、モモタロスさん達は僕の前に座った。


「仮面ライダーってのは、なんだろうな」

「いきなりですね」

「まぁ俺も怪人ってやつだからよ、考えちまったんだよ。そんな大層なもんになった覚えもねぇし。わたあめ、テメェはどうだ」

「渡です。……同じですね。ただ仮面ライダーという存在の共通点、ですか?
それは蒼凪さんのお話から納得はしてるんですけど」


渡さんもかなりヘビーな生き方してる人だからなぁ。ほれ、ファンガイアとのハーフって言ってたでしょ?

最初はそれすら分からずに戦ってたんだよ。でも途中でそうだって判明して、ファンガイアはもちろん人間からも敵視された。

キバは本来、ファンガイアが使える特殊な鎧だから。穏やかで弱気な人っぽいけど、その分うちに詰め込んでるんだよ。


「僕が言えるのは、仮面ライダーという作品が生まれた経緯をざっと……ですけど」

「お、それ面白そうだな。聞かせてくれよ」

「お願いします」

「仮面ライダーというお話が生まれる前、日本は戦争をしていました。とても馬鹿馬鹿しい戦争です。
いろんな国がそれぞれの正義を持って戦って、人が死んで……仮面ライダーを作ったのは、そんな時代を生きた人達です」


それは一見すると関係ない話。それでもモモタロスさん達は、黙って頷きだけを返してくれる。


「その中に市川森一さんという人がいます。脚本家さんなんですけど」

「おう」

「その人はこう言ったそうです。……正義のために戦うなんて言うのはやめましょう。
悪者とはどんなお題目を掲げていても、人間の自由を奪う奴が悪者です。
仮面ライダーは我々人間の自由を奪う敵に対し、それを守るために戦うのです」

「なんだそりゃ」


そう言いながらもモモタロスさんは、少し納得した様子であくび。両手を枕にし、壁に寄りかかる。


「それが正義ってやつじゃないのか」

「正義を掲げていたって、自由を踏みつける奴らはいます。
仮面ライダーを作った人達は、戦争の中でそれを見たんです。だから望んだ。
……そんな時風のように現れ、嵐のように戦う。そうして朝日とともに帰ってくる、ヒーローの姿を」

「それが、仮面ライダー。作品を作り上げた人達が込めた、強い思い」

「はい。だから大好きなんです。時代が変わろうと、誰がライダーになろうと、その遺伝子は受け継がれているから」


だから仮面ライダーは同族殺しとなった。悪の存在と同じ力を持ちながら、自由を守るために戦う。

同族殺しってのはね、怪人が怪人を倒すってだけじゃない。場合によっては人間とも戦うから。

なので僕は平成ライダーも仮面ライダーだって思うのよ。だから……そうだな。


あくまでも一意見だけど、平成ライダーはライダーじゃないって言う人達もいる。

ようは石ノ森章太郎先生が生み出した、昔のライダーと違いすぎているから。

改造人間とかも倫理観や時代背景の問題で出てこないし、ショッカーみたいな分かりやすい組織がいない場合も多い。


それに仮面ライダーを名乗りながら、悪事に手を染める輩もいる。龍騎みたいにライダー同士で戦う場合もある。

それに反発を覚える人もいるって事よ。そんなのはライダーじゃないってさ。

だけど僕はそう思わない。まずライダー同士の戦いは、ショッカーライダーという存在が出た時点から始まっている。


V3とライダーマンだって、目的の違いから衝突する事もあった。最終的には戦友になったけど。

目の前にいる渡さんだって、立派な仮面ライダーだ。どんなに迷っても傷つけられる人達を守るため、最後まで戦い続けた。

結果ファンガイアを倒すだけじゃなくて、掟そのものを変えて共存の道も示しちゃったもの。


真司さんもそう。真司さんね、偶発的にデッキを手に入れただけなんだ。ライダーバトルのシステムについても知らなかった。

でもミラーモンスターに人が襲われて、傷つく様を見て戦おうと決意し、飛び込んでいった。

ライダーバトルについて知っても、基本はみんなを守るために。そういう強い人なのよ。


もし他のライダーがその力で人に危害を加えようとしたら、全力で止めに行っていたから。

もちろん良太郎さんとモモタロスさん達もそうだよ。イマジン達から、みんなの時間――未来という自由を守った。

さっき言ったような一部例外はいるけど、それも仮面ライダーの本質じゃないかな。


例え仮面ライダーを名乗っても、『心』が伴わなければ怪人と同じ。それはメッセージなんだよ。

仮面ライダーとは名前でもなく、称号でもない。ましてや正義の味方でもない。

それは生き方を示す言葉。仮面ライダーという言葉は、その在り方を示している。


自由のために戦う勇気があれば、きっと誰でも……いろいろと憶病な自分を知っているから、余計にそう思う。

……ヴェートルの事、バラしちゃおうかな。問題がない形で、ちょっとずつでもさ。


「恭文ちゃん、やっぱり仮面ライダーが好きなんですね」


ナオミさんが僕達のコーヒーを、笑顔で持ってきてくれる。……なんだか熱く語った感じがして、少し恥ずかしい。


「ありがとうございます」

「いえー。……あれれー?」


ナオミさんが端末を不思議そうに見てくる。正確には映っている、レポート7の末文だけど


「恭文ちゃん、これって」

「みんなにはまだ内緒ですよ? 明日、渡さん達にだけ言うつもりなんです」

「僕達にだけ?」

「おい、どうした」


モモタロスさんも気になるらしく、テーブルの向こう側からのぞき込んできた。そこに書かれたものを見て、怪訝そうに声を漏らす。


「青坊主、なんだこりゃ。なんで最後のとこだけ青くなってんだ」

「少し気になって、全部のデータを調べたんです。文面を全選択したりして……そうしたら、これが」

「えっと、文字の色を変えてるんですよね。だから普通に読むと見えない」

「そうです」


ワードパットでもできる、ちょっとしたトリックだよ。隠されたメッセージには、こう書かれていた。

『レポート8――栄次郎氏は無事に逃亡した。だがそれは罠だった』と。そこから続く文面は、にわかには信じ難いものだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


伊織と一緒に八神家にお泊まり……僕ははやてとリインフォース、リインにリースも交えてコミュニケーション。

なお伊織は疲れ果てて寝ちゃったよ。まぁ今日一日で事態が動いたし、ここはしょうがない。

そんなわけで翌朝――早朝から台所で動きまくっていた。はやてが料理好きなせいもあって、八神家の勝手はかなり本格的。


今日はトーストとスクランブルエッグ、サラダにハムとミネストローネです。


「みんなー、朝ごはんできたよー」


大きな声で呼びかけると、まず伊織がパジャマ姿で入ってくる。シドタロスを撫でつつ、軽く首を傾げた。


「おはよ……って、アンタが作ったの?」


そこでドタドタと足音が響く。伊織は脇へズレ、なだれ込んできた四人へ道を譲った。


「す、すみません! 私達の仕事なのに!」

「寝坊しちゃったですー」


リースとリインが入り、リインフォースは胸元がやや開いた状態で頭を下げてくる。


「も、申し訳ありません!」

「いいっていいって。みんな昨夜は頑張ってくれたんだし。ていうか、無理させちゃったかな」

「そんな事ないよ」


はやてはリインフォースの頭を撫でてなだめ、僕の前へ立って顔をのぞき込んでくる。


「アンタはどうなん? 四人がかりでも手玉に取られた訳やし、実は満足してへんとか」

「ううん、とっても素敵だった」

「そんなら良かった」


はやてが笑って顔を近づけるので、目を閉じておはようのキス。唇と舌を少しついばんでから、優しく唇を離した。


「うちらもめっちゃ幸せやったよ。……伊織ちゃん、コイツの愛はめっちゃ濃厚やで?
なので正妻として、覚悟しといた方がえぇと思うなー」

「知らないわよ、馬鹿!」


顔を赤くした伊織をからかいつつ、みんなで朝食……穏やかだなぁ。でもどうしよう、キスしたらなんだか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


はやての家はかなり広い。お風呂も浴室というよりは浴場レベルで、僕達六人で入る事も可能。

それでもまだ余裕があるけど……伊織を後ろから抱き締め、思いっきりすりすり。


「うう、久しぶりだなー。伊織とお風呂」

「うっさい! 抱きつくんじゃないわよ!」

「相変わらずツンデレやなー。でも伊織ちゃん、意外にあっさり承諾したやんか」

「へ、下手に抵抗してもしつこく迫られるだけだと思っただけよ! 今更コイツに裸見られたって、どうって事ないし!」


うぅ、伊織のツンデレはやっぱいいな。それになんやかんやで、一年数か月ぶりなんだよね。

伊織の生まれたままの姿――以前よりも胸は膨らみ、肉付きも良くなってる。実はとってもドキドキしてる。


「あ、そうだ。水瀬の家をラブホテル代わりにするのが、駄目ならここを使わせてもらえば」

「良いわけないでしょうが! ていうかそれ、最低よ!? 他の彼女の家をラブホテル扱いって!」

「うちは構わんで? その代わり二回目以降は混ぜてもらうけど」

「リインもですよー」

「アンタ達が許可しても、私が許可しないわよ!」


伊織はとっても荒ぶってる。まあ確かに……今のはムードに欠けてたかもしれないねぇ。でも無意味なので、抱擁を強める。


「まぁその話はおいおいしようか。……ねぇ伊織、魔王エンジェルで馬鹿やった分のお仕置き、まだだったよねぇ」


伊織の耳元でささやく。伊織はそれだけに観念したように大人しくなり、顔を耳まで真っ赤に染めた。

納得してくれたようなので、たっぷりお仕置き――え、内容?

悪いけど伊織の可愛い姿は、僕と彼女達だけのトップシークレット。誰にも見せられません。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


翌朝――結局門矢さん達は事務所でお泊まり。まぁ行く場所もないし、ここはしょうがない。

なお社長は知っての通り……でもプロデューサーさんが言う権利ないかー。というか、社長も頭を抱えてた。

やっぱりちゃんと話せばとも思うんだけど、伊織もあれでしょ? それにベルトも問題だらけだし。


私達、慣れていたつもりだったのかな。プロデューサーさんが仮面ライダーで、メモリの事もちょくちょく関わって。

……モヤモヤしながらも、今日はお昼前から事務所直行。レッスンって感じでもなさそうだけど、がんばろう。

ドアを開けるとみんな揃っていて……あぁ、安心する。やっぱりここはいいなぁ。


「おはようございまーす」

「春香、蒼凪君見なかった!?」


入った途端、慌てた様子の律子さんに詰め寄られた。あれ、みんな焦ってる?


「え、見てませんけど……というか、きたばかり」

「あっちのプロデューサー、いなくなってるの! もやしも知らないって!」

「えぇ!」

「気にしなくていいよ」


静かにそう言ってきたのは、ソファーに座る嶋さん。物すごく余裕を出して、右人差し指を立てる。

すると人差し指に巻きつけた糸のリングが、静かになびき始めた。ここ、風とかが吹いてるわけじゃないのに。


「彼は答えと向き合いに出たんだ。なにを守り、なにを否定するべきか」

「いや、気にするなって……もしなにかあったらどうするんですか!」

「それより君も答えを出すべきじゃないかね。……彼があそこまで煮詰まったのは、君が原因でもある」


そこでユウスケさんが固まり、いら立ちながら頭をかく。……そういう話、してたっけ。

フェイトさん達を気づかってフォローって、本筋と関係ないところで負担かけてたと。

確かに蒼凪さん、二人絡みだと相当イライラしてたしなぁ。やりたい事、なんにもできないって感じで。


それが答え、なのかな。だったら蒼凪さんのやりたい事って。


「でもおじちゃん、あっちの兄ちゃんに優しいよねー」

「だねー。やよいっちとかにはキツい一言ぶつけたのにー」

「別に優しい訳じゃないさ。……頼まれたからね」

「頼まれた? あの、誰にでしょう」

「内緒だよ」

『そんなー!』


全員で声を荒らげてしまう。この人も底が読めない。だけど、信頼できるのは……うん、なんとなくでも分かってきたかな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一晩考えた。どうやっても現状で恐れは拭えない――それが僕の結論。でもやりたい事は思い出した。

僕がやりたかった事は……だけどそれはずっと邪魔されてきた。家族や仲間、いろんな人の都合で。

ううん、僕が振り払えなかっただけだ。正しい事は、大事な夢はちゃんと胸の中にあるのに。


一番に行きたい方向も見えている。だから腹を決めた。僕は誰かの前に、自分を助けなきゃいけない。

いろんな事に怯えて、手を伸ばす事に恐れている自分から。自分の心と未来を、自分の生き方で照らす。

だけどそのための一歩は、今は踏み出せない。……今一番にしたい事を何度も復唱。


その上で外に出た。夜も明けきっていない中、のんびりとお散歩。それで気持ちが晴れたので。


≪HYPER CAST OFF≫


人目がつかないよう、ダブトに変身した上でハイパーキャストオフ。追加装甲を纏い、ダブトはより力強い姿となる。


≪CHANGE――HYPER DARK BEETLE!≫

≪いいんですか、もやしさん達を置いていって。ていうかバックルは≫

「今の僕には必要ない。それに、ずっと気になってた」


ハイパーゼクターのスラップスイッチを叩き、ハイパークロックアップ発動。

各部装甲が展開し、虹色の粒子が羽となって吹き出す。


「まずはミッドへ向かうよ。その上で過去に行く」

≪しょうがありませんねぇ。ここからはいつも通り、ロンリーソルジャーですか≫

「そういう事。てーか……もやしとユウスケはミッドへ連れていけないでしょ、どっちにしても」

≪ですね≫

≪HYPER CLOCK UP≫


翼が羽ばたき、僕は虹色の歪みへと消える。でも行き先はちゃんと見えている。大丈夫、もうやれる。

もやし、ユウスケ、ごめん。でも……しばらくじっとしてて。特にもやしは、僕の予測通りなら。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


伊織とはやて達をかわいがった後は、765プロ事務所前へ戻る。なんとなく、嫌な予感がしたのよ。

すると一人の男が、車道のど真ん中を堂々と歩いていた。車は男の出す覇気に押され、怯えながら道を譲る。

僕も男と同じように歩いていく。既にゲンヤさん経由で、交通封鎖はしてもらった。


避難誘導も直に始まるでしょ。男は僕に気づいて、少し訝しげな顔をする。


「修羅……いや、違うな。お前は誰だ」

「まず自分から名乗るべきじゃない?」

「これは失礼した。俺は大和鉄騎」

「火野恭文だよ。お前、鬼だね」


僕の指摘にソイツは、嬉しそうに両手を挙げる。あぁ、鬼だね。こりゃまた、どでかい化け物だ。


「お目当てはもやしか、それとも小野寺ユウスケ? 又は僕かな」

「違う。俺の目当ては、お前と同じ顔の修羅だ」

「あの半端者を狙うなんて、物好きだねぇ」

「確かにお前の方が手応えはありそうだ。だが……お前はいらない」

「これはつれないねぇ」


どうやら半端者でも、お眼鏡に叶う部分はあるらしい。それはまぁ、感じていた。僕なんて眼中にないってのはさ。


「だが俺達は勝負運に恵まれないんだよ。一度目と二度目は下らない邪魔が入り、俺もしばらくは仕事で缶詰だ。そして三度目はお前」

「そういう事なら邪魔はしないよ。好きに戦って、アレは殺せばいい」

「ほう、助けないのか」

「半端者も乗ってるんでしょ? ていうか、乗らない理由がない」


鬼はまた楽しげに笑う。ほんと、残念だねぇ。よそ見されてなきゃ、僕が戦いたかったのに。

それほどにこの鬼はゾクゾクさせるものを感じさせる。こういう高ぶり、久方感じてなかったわ。

しかし仕事で缶詰? 奴らの動き、かなり進んでいると見ていいかもしれないね。


その上ここにきてるって事は、やっぱり僕の事とかもバレている。海東にもバレてたくらいだしなー。

翔太郎達も危ないし、連携取らないとやばいかな。でも……今はどうでもいいわ。


「悪いが場所は移せない」


奴は僕の十メートル前で停止。ゆっくりと右手を――装着しているライダーブレスをかざす。


「それをやると、面倒な奴が手を出してくるんだ」

「だったらしょうがないか」


コイツ、僕達への攻撃担当になってるのよ。だから場所を移そうとすれば、途端に765プロが攻撃される。

……被害は極力出さないよう心がけよう。まぁもやし達もいるし、多少はなんとかなるでしょ。

どこからともなくどらぐぶらっかーとカブティックゼクターが飛来。二人は僕達の間で数度ぶつかり交差。


数度せめぎ合ってからどらぐぶらっかーが近づいてきたので、受け止め撫で撫で。同時にデッキを取り出す。

すると腰の辺りに輝きが生まれ、ベルトが展開。奴も同色のカブティックゼクターをブレスに装着。右手をゼクターにかけ。


「「……変身」」

≪HENSIN≫


カブティックゼクターと右腕を捻り、変身開始。僕もデッキをベルトに入れてから、すっと右手を横に広げる。

僕達は黒と同色の装甲を纏いながら、一瞬でライダーへと変身する。


≪CHANGE――BEETLE!≫


大和鉄騎はゼクトクナイガンを取り出し、僕へ銃口を向ける。僕も左手でウィザードマグナムを取り出し、同様に狙う。

まずはお互い一発弾丸を放つ。マズルフラッシュがほぼ同時にひらめき、中間地点で弾丸が衝突。

走る火花は気にせず、射線を僅かに変え続けながら連射。でもその尽くが防がれ、弾丸が次々と衝突・破裂していく。


僕の射線を見抜くとは、実に楽しい。すたすたと早足で近づきながら射撃を続け、僕達の距離は一メートルを切った。

……そこですぐにターゲット変更。僕から見て左側のガードレールに向かって、弾丸を連続射撃。

僕達の射撃によって、ガードレールが蜂の巣にされていく。すると射線上にある電柱から、白いスーツ姿の男が転がるようにして退避する。


男の顔は警視庁で働いている、伊丹さんそっくりだった。でもその正体は考えるまでもない。スーパー大ショッカーの手先だ。


「大和鉄騎……貴様、なにを」

「知り合い?」

「アポロガイスト、言ったはずだ。俺達の間に不純物は必要ないと」


アポロガイスト……家の資料で見た事がある。仮面ライダーXが戦ったっていう、GODの幹部か。

別世界の奴なので、ここはイタミンガイストと呼んでおこう。きっとサルウィンの亀山さんには受けるはずだ。

まぁそこはどうでもいいか。僕達はイタミンガイストへ向き直り、ゆっくりと歩き出す。


大和鉄騎はクナイガンをクナイモードにし、右手で順手持ちにする。僕もマグナムは仕舞い、デッキに右手をかける。

カードを取り出し、左手のブラックドラグバイザーを開く。取り出したカードを挿入し、スロットを閉じる。


≪ソードベント≫

「横から襲いかかって、漁夫の利か。空気が読めないねぇ」


イタミンガイストはいら立ちながらも変身。黒スーツに白マントを羽織った怪人となる。

右手にはライフルを持ち、左手は回転ノコのようなシールド。赤い顔は騎士の兜が如く。

羽のような耳飾りに、真ん中の白いラインが人間的な印象を与える。……そんなイタミンガイスト、ライフルでこちらを狙う。


飛んできたソードベントをキャッチし、そのまま投てき。射線を塞いだ上で、また別のカードを取り出しバイザーにセット。


≪アドベント≫

『くぅくぅー!』


どらぐぶらっかーが近くの窓ガラスから現れ、僕の周囲をぐるぐると囲む。

そうして周りから迫っていた迫っていたワーム達へ尻尾アタックし、出現させる。

その間にイタミンガイストの弾丸はソードによって斬り裂かれ、イタミンガイストは迫る刃をシールドで防御。


上へと弾いた上で、こちらへ迫ってくる。


「大和鉄騎、やれ! 私とお前とでこの特異点を始末」

「始末するのはお前だ」

≪CLOCK UP≫


瞬間、大和鉄騎がクロックアップにより加速。僕の周囲にいた色とりどりのワーム達は、再加速する前に首や胴体を両断。

合計十五体が一瞬のうちに沈み、次々と爆散する。信じられない様子でこちらを見ていたイタミンガイストは、首を振るばかり。

そんな事をしているから、ライフルが突然両断される。響き渡る悲鳴と逃げ惑う人をよそに、イタミンガイストは吹き飛ばされ車道へと転がる。


≪CLOCK OVER≫


イタミンガイストはふらふらと立ち上がり、左腰のサーベルを抜く。

僕は大和鉄騎から投げられたソードを右手で受け取り、軽く一回転。その上でアイツと一緒にイタミンガイストへ迫る。


「貴様、スーパー大ショッカーに逆らうつもりか!」

「悪いなぁ、仏の顔も三度までだ。四度目はない」

「ごめんねー。僕が三度目使っちゃったっぽいから、もう邪魔するなら殺すってさ」

「馬鹿な!」

「再就職先の心配はいらない。やはり俺は」

「さぁ」


僕達はそれぞれの得物を振りかぶり、笑いながらイタミンガイストへ突撃する。


「ZECTの鬼だからな」

「ショータイムだ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


外で幾つも爆発音が響く。同時に悲鳴も響き、ドタドタと騒がしい。何事かと下を見ると、赤い騎士っぽい怪人と……虫怪人の集団?

それがどらぐぶらっかーちゃんに蹂躙され、一瞬でズタボロにされた。

そして今、騎士怪人がリュウガと銅色のライダーに迫られている。……プロデューサーさん! あと一人は誰ー!?


「な、なんですかー!」

「ケタロス――大和鉄騎かよ! でもあれ、スーパー大ショッカーの怪人だよな! なんでアイツが!」

「だからそれは誰よ!」

「恭文の事を付け狙ってる、とんでもイカレ野郎だ!」


ユウスケさんを先頭に、慌てて下に降りる。歩道に出ると、二人は笑っていた。

笑いながらあの、騎士怪人へ斬りかかっているの。なんなの、この覇気。

プロデューサーさんだけじゃなくて、銅色のライダーからも同じのが出ている。


「なるほど、大和鉄騎とやらも人ではないのですか」


貴音さんがすっごい分かったような顔してる! どういう事なの! なんでそんなすぐ理解できるの!


「人ならざる者の前に立てるのは、同じように人ならざる者だけ。そうでなければ無礼――だからこそ狙うのですね」

「え、あのライダーも改造人間とかですかー!?」

「いいえやよい、あれは普通の人間。ですがその心根と闘争本能は違う」

「だからアンタ、なに言ってるの!? お願いだから私達にも分かる言葉で話してよ! もー!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「貴様ら……一体なんなのだ!」


突き出されるレイピアを大和鉄騎が左に払い、僕が踏み込んで逆袈裟の斬撃。

シールドで防がれたところで、大和鉄騎が右飛び蹴り。顔面を蹴飛ばしたたらを踏ませた上で、僕のターン。

左薙に打ち込まれようとした、レイピアの持ち手を狙い刺突。アポロガイストの右手から火花が走り、レイピアが手から離れた。


大和鉄騎が入れ替わりで迫り、袈裟・逆袈裟と連続で斬りつける。


「おいおい、もうちょっと」


シールドで防いだイタミンガイストは、のこぎりのような刃を左薙に振るい反撃。

それをすっと下がってから、大和鉄騎が右ハイキック。左腕を蹴飛ばした上で、がら空きな胴体へ踏み込む。

左右のストレートを連続十五発打ち込んだ上で、迫ってきた左腕へ右薙一閃。腕を斬り裂きながら払い、一回転して左後ろ回し蹴り。


「楽しませてくれよ!」


イタミンガイストには下がってもらい、僕は空いた右側から強襲。

打ち込まれる右裏拳に対し、逆袈裟の斬撃。肘を両断すると、その先が跳ね上げられ宙に跳ぶ。


「が……!」

「本当だよ」


更に一回転し、打ち込まれたシールドの刃を払う。その上で刃を返し、顔面へ袈裟の斬り抜け。

すかさず大和鉄騎が右ミドルキックで脇腹を蹴飛ばし、イタミンガイストを地面へ転がす。

ふらふらと起き上がるアポロガイストへ、僕達はまたゆっくりと迫る。


「お前は自分で言う通り、迷惑な存在だよ。アポロガイスト」

≪CLOCK UP≫


そこで大和鉄騎が加速――またまたクロックアップしながら迫っていたワーム八体を、次々と両断しているらしい。

周囲で起こる爆発と、それによって伴う粉じんを切り裂きながら進む。すると僕の目の前に、象やカマキリ、うさぎを模した怪人が現れる。

その体は石こう像のように白く、デザインもそれっぽい。オルフェノクまで味方にしてるか。


呆れながらも袈裟にうさぎを切り捨て、反時計回りに回転しながら左ストレート。

エレファントオルフェノクを怯ませた上で、右薙一閃――首を斬り捨て灰になってもらう。

ひるんで足を止めたマンティスオルフェノクへは、ソードを素早く投てき。胸元を貫くと、あお向けに倒れ青く燃え始めた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なんなのだ、コイツらは……! 全世界にとって迷惑な私が、ここまで押されるだと!?

奴らはワームを、オルフェノクをゴミ同然に斬り捨て、少しずつ迫っていく。

斬られた右腕と一緒に体を盾でガードし、後ずさる。状況的には劣勢だ。なぜだ、なぜこうなった。


いや、反逆者の居場所は既にバレているんだ。ならば……背後に次元の壁を展開する。一旦撤退し、体勢を立て直した上で。


≪アドベント≫

『くぅー!』


だが左側から突然ドラグブラッカーが出現。慌ててシールドでガードするものの、シールドごとかじられ壁から引き離された。

抵抗しようにもしっかりホールドされ、全く離れん。奴は建物の間でくねったかと思うと、私をようやく解放。

頭を振り回しながら、私を天高く上げる。そうしてリュウガはカードを取り出し、大和鉄騎もカブティックゼクターを一回転。


嘘だ、この私が! 世界にとって迷惑な存在だった私が……また死ぬのか! 仮面ライダーXへの復しゅうもできずに!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


大和鉄騎はカブティックゼクターを百八十度回転させ、元に戻す。それにより必殺技発動。


≪ライダービート!≫


虹色の電撃が走り、それは角へ収束。そこから一気に右手のクナイへと移動し、刃を強い輝きに染める。

僕もカードをバイザーへ挿入し、スロットを閉じる。すると頑張ってくれているどらぐぶらっかーがこちらへ戻ってきた。


≪ファイナルベント≫

『くぅくぅくぅー!』


両手を輪にするよう広げ、右へ振りかぶる。腰を落とした上で落下するイタミンガイストへターゲットロック。

僕が大きくジャンプすると、周囲でどらぐぶらっかーが螺旋を描く。


「ライダービート……!」

≪CLOCK UP≫


大和鉄騎はまたまた超加速――イタミンガイストへ肉薄し、シールドを両断。同時に胴体にも深い傷をたたき込む。

その様を見ながら身をくねらせ、上空で飛び蹴り体勢を整える。背後からどらぐぶらっかーが炎のブレスを吐き出し。


『くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!』


僕は青い炎に包まれながら、イタミンガイストへ突撃。両断され跳ね上がるシールドの間を突き抜け、一気にイタミンガイストへ肉薄。


「ビートスラップ!」


右足でイタミンガイストの胴体を捉え、そのまま突き抜け体を粉砕。地面へ滑るように着地すると。


「嫌だ……私はまだ、迷惑をかけていない!」


そんな断末魔を残し、イタミンガイストは爆発。


≪CLOCK OVER≫


すっと立ち上がると、隣に大和鉄騎が現れる。奴は右手をスナップさせ、鼻を鳴らしながら僕へ向き直る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


勝負は本当に、あっという間についた。蹂躙と言うのがふさわしい徹底攻撃。

それでプロデューサーさんは、銅色のライダーと向き合う。どらぐぶらっかーちゃんがすーって鏡へ戻っていくのに、目もくれない。

二人は仲良しって感じでもない。笑いながら冷たい殺気を放っていて、なのに楽しげなの。


「ようやく静かになった」

「だねぇ。でもいいの? スーパー大ショッカーには戻れなくなった」

「言ったはずだ、今日からはまた……ZECTの鬼だと」


理解を超えたやりとりだった。協力してるっぽいから仲間のはずなのに、今度は殺し合おうとしている。

そうだ、これは殺し合いだ。二人はこれから、いつそうなってもおかしくない。


「相変わらずだねぇ、君は」


そこで今まで黙っていた嶋さんが、優しく声をかける。プロデューサーさんは頭だけ振り返り、小さく礼。


「嶋さん、久しぶりです。意識はちゃんとしてるんですね」

「おかげ様でね。……大変だったようだが、鍛える事はやめていないんだね」

「当然です。だから」


プロデューサーさんは右手をスナップさせ、ベルトからデッキを外し変身解除。

よく着ている黒コート姿となった。口元を歪め、心から楽しげに笑う。……変身解除!? 相手はやる気満々なのに!


「コイツの前に立てる」

「やはりお前も修羅か。あぁ、だが嬉しいよ」


銅色のライダーも合わせて変身解除……なにやってるのー! そこから出てきたのは、精かんな顔つきの男性。

黒いケープにスーツ? 口ひげが生えているけど、だらしない印象じゃない。むしろこう、武人みたいな空気が出ている。


「本命の前に、お前でついた汚れを払うのも悪くない」


二人は少し下がり、三メートルほど距離を取る。その上で腰を落とし、笑いながらにらみ合う。

それだけで空気が震え、窓ガラスが揺れている。風が吹き荒れ、さっきまで快晴だった空も曇ってしまった。


「……嬉しいのですね、あなた様」

「うれ、しい……!? 貴音、なに言ってるのよ!」

「天が吠えている」


貴音さん、空を見上げている場合じゃありませんよ! ていうか電波すぎる!

なに、このスピリチュアルな展開! いや、スピリチュアルですらないけど!


「わ、分かりませんー! 貴音さんがなに言ってるのか、全然分かりませんー!」

「くそ……!」


そこでユウスケさんが飛び出し、両手をぱっと振り。


「変身!」


ベルトの両サイドを叩き、クウガとなる。


「火野の恭文、ここは協力してコイツを」


ユウスケさんは銅色のライダーへ跳びかかって、右ストレート。

……でもそこでプロデューサーさんは一回転し、ユウスケさんの顔面へ右ハイキック。

まともに受けたユウスケさんは吹き飛び、車道を数メートル転がった。


「ユウスケさん!? ……プロデューサーさん、なにしてるんですか!」

「なにって、決まってるじゃない」


右手をスナップさせ、プロデューサーさんは銅色のライダーと向き合う。


「助けてあげたのよ」

「はぁ!? 恭文君、意味分かんないわよ! 攻撃じゃない! 一緒に戦って、その人止めようって言ってたのに!」

「馬鹿ですねぇ、律子さんは。……こうしなかったらユウスケは」


プロデューサーさんは左手で、銅色のライダーを指差す。言いたい事は分かったけど、嘘だと思った。

だって変身も解除してるんだよ? それなのに……だけどプロデューサーさんは嘘なんて言ってない。

そ、そう言えばプロデューサーさんも変身せずに、怪人なみの力が出せるんだっけ。もしかして、あの人も?


大和鉄騎と呼ばれたあの人は、おかしそうに笑う。そうして両手を広げ、ふらふらと起き上がるユウスケさんに侮辱の視線を向けた。


「人間を捨てられないなら、もうなにもするな。お前は俺達の速度についていけない、もちろん修羅の速度にもなぁ。……興が削がれた」


あの人はすっと下がって、背後に銀色のカーテンを展開。それに少しずつ近づいていく。


「なに、五度目なのに殺さないの」

「お前が邪魔するだろう? だから興が削がれたのさ」

「そりゃ当然だよ。今のままじゃコイツ」


プロデューサーさんはなんの感慨もなく、ユウスケさんを指差し。


「未確認生命体第〇号と同じになるから」


とんでもない一言をかました。……それでユウスケさんが震え、視線を落とす。〇号と、同じに?

どういう事、なのかな。それって……あの大虐殺を思い出して、私達は言葉を失っていた。

だって、未確認生命体第〇号は、四号が倒したんだよね。四号っていうか、クウガが。


そこまで考えて、今までプロデューサーさんが話してくれた事が一気に思い出される。

仮面ライダーは同族殺し、怪人と等しい存在。じゃあ第〇号を倒したクウガも、それくらい強い力を持っていた?


「煽り耐性がないしねぇ、お前と接触させておくと一気に覚醒しそうだわ」

「底の読めない奴だ」

「お互い様でしょ。……さて、本当は誰の命令で動いてるのかねぇ。ZECTの残党? それとも」

「分かっているだろう、火野恭文。お前も俺と同じなら」


それだけを言い残し、大和鉄騎さんはカーテンの中に消え去る。そのカーテンもすぐに消失し、場はようやく静かになった。


「食えないねぇ、大和鉄騎。ヘタレな僕の獲物なのが残念だわ」

「恭文、君……どういう事なの。ユウスケさんが、アレと同じになるなんて」

「言葉通りですよ。ソイツらが一度消えてから、警視庁の資料を調べて知ったんです。
第〇号――ダグバはそれくらいに強い相手だった。だからクウガも等しくならなかったら、対抗できなかった。
……ただしその結果、クウガの変身者は人としての心をなくし、ベルトの侵食を受けて完全に人間じゃなくなる」


まさか〇号が倒された後、第四号も消えたのって……しかも警察はそれを知っていた?

いや、途中から協力体制を取っていたっぽいから、納得はできるんだけど。でもなにそれ……じゃあ、ユウスケさんも。


「じゃああの、あの人があれだけ挑発してたのって」

「ユウスケを怒らせて、そんな状態に追い込むため……でしょうね。裏切ったってのも、もしかしたらポーズかも」

「だ、だったら殺すはずがないじゃない!」

「殺すなんて言ってないじゃないですか。『殺す寸前まで追い込まれる』でしょうけど」

「無茶苦茶すぎるわよ!」


ほんとだよ! それでユウスケさんが飛び込むかどうかなんて分からないのに! 現にドン引きしてたよ、あの人!


「てーかユウスケ……お前、それを恐れてるでしょ。だから本気が出せない」


更に続くプロデューサーさんの指摘で、ユウスケさんの瞳が震える。……そこでようやく納得した。

ユウスケさんはドン引きしてたんじゃない。迷って足が止まっていた。それでもと決意したけど、それはやっぱり遅くて。

瞳にね、迷いが出てるの。しかもユウスケさん、顔を背けちゃったし。


「なんで、そんな事を」

「拳を交えると、相手の事が多少なりとも分かるのよ。嶋さんも気づいてましたよね」

「あぁ。小野寺ユウスケ、君にも恐怖心がある。しょうがないとはいえ、それが君を弱くしてしまっているんだよ」

「そんな事ない! 俺は」


ユウスケさんはそこから先の言葉が紡げず、両膝をついてしまう。

そうして右拳を地面に叩きつけ咆哮――とても悲しげな叫びが、街に響いた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


応接室から大体の事は見ていた。だがユウスケの奴……響鬼の世界から、なんか戦ってても地味だったのはそれが理由か。

まぁ、しょうがないって言えばしょうがないんだろうな。どうもテレビのクウガは相当な超越者だったようだ。

蒼チビが伝説を塗り替えたとか言ってたくらいだ。……改めてソファーへ座り、軽く頭をかく。


さて、俺はどうする。蒼チビは蒼チビで勝手にやり始めるだろう。ユウスケも……まぁきっとなんとかする。

だが俺は、どうなる。俺がスーパー大ショッカーの首領なら、俺の居場所なんてどこにもない。

俺が探していた、俺の世界や記憶なんて……きっと。なら俺はどこへ向かえばいい。これからどうやって、旅を続ければいいんだ。


(第39話へ続く)









あとがき



恭文「というわけで、あっちこっちでいろんな僕が動いているお話です。そのためギンガさんルートの僕が物語からフェードアウトしました」


(整理整頓です)


フェイト「いやいやいやいや! 整理しちゃ駄目なところだよね!
一番引いちゃいけないところだよね! えっと、お相手はフェイト・T・蒼凪と」

恭文「蒼凪恭文です。なお今回のレポート関係やお泊まり後の様子は、頂いた拍手が元となっております。アイディア、ありがとうございました」


(ありがとうございました)


恭文「つまりディケイドは……恐竜惑星だったんだよ!」

フェイト「わけ分からないよ、それ! ていうかこれどうなるの!? もうひっちゃかめっちゃかなんだけど!」

恭文「大丈夫、次回から本筋に戻るから。とりあえずは……アンデッドだ」

フェイト「うんうん、そこだよ!」


(プロットは考えています)


恭文「まぁハイパーダークカブトがいなくなったから、もやし達は世界移動できないけどね」

フェイト「それ駄目だよね!」

恭文「大丈夫。一応もやしのバイクは世界移動できる機能があって」

フェイト「そうなの!?」

恭文「でもそんなシーン劇中であったっけ。あれれ、覚えてないや」

フェイト「ちょっとー!」


(ぎゅー、ゆさゆさ)


恭文「それと昨日から関東地方では大雪が続いております。作者も朝転びました」

フェイト「なので足元や交通などはご注意ください。雪のせいで停電になる地域も出ているそうなので」


(雪は楽しいですけど、安全確保は大事です)


恭文「そして響鬼の世界から、原作準拠なユウスケ……お前も恐怖心」

フェイト「というか、怖くならないはずないよね。ライジングとかが出なかったのも」

恭文「戦闘機会が少ながなかっただけじゃなくて、意識的にブレーキをかけてた。必然的に戦闘の冴えも……だよ」


(数話は動かしにくかったです)


恭文「そしてもやしも悩むようになり、いい感じで今までのチームがバラけてきたよ。……面白くなってきたよ!」

フェイト「なんでそんな楽しげに!」

恭文「だって僕がラスボス倒すんでしょ?」

フェイト「駄目だよそれ!」

恭文「だって台本がここに」

フェイト「こらー!?」

恭文「作ってみた」

フェイト「よけいにこらーだよ!」


(なので燃やしてみた。――ボー)


恭文「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 僕の作った台本がー! そこからゆかなさんルートに入る台本がー!」

フェイト「それも駄目ー!」


(ぽかぽかぽかぽかー)


恭文「まぁしょうがないか。既にラスボスは決定しているし」

フェイト「誰なの?」

恭文「……シャルロット・デュノア」

フェイト「それ違うラスボスー!」


(『そうだよ! ていうかぼく違うからね!?』)


恭文「とりあえずアレだよ、あの嘘予告も含めて、できる限り劇場版のネタも拾いつつ構築するとか」

フェイト「そうなの?」

恭文「うん。ていうか、あの嘘予告を中心に……ほら、これが本当の世界だったのかーって」

フェイト「……確かにギンガルートがそれっぽい感じに」

恭文「でもイタミンガイストは引っ張れないので瞬殺」

フェイト「ご、ご愁傷様でした。とにかく次回は」

恭文「本筋に戻って……だね。どっちかというと今回の話、番外編的だもの。さて、ゆっくり温める感じで進めて」


(リューネ・マト「恭文さん、あなたの力になるために私生まれ変わりました」)


恭文「……へ?」

フェイト「え、この黒髪ロングの子は誰かな」

ガブリエレン(新しい精霊さんだー)

ヴィエルジェ(今度出る詩姫のブースターパックに出てくる子ね)

恭文「えぇ!」


(こんな拍手が昨日届きました)


リューネ・マト「えっと、これからよろしくお願いします」

恭文「ちょ、ちょっと待って! なんで僕の名前知ってるの! しかも生まれ変わったって!」

リューネ・マト「……私の事、分かりませんか?」


(涙目でずいっと詰め寄る)


フェイト「と、とりあえず初対面……だよね」

恭文「うん……あれ、でも待って。確かあのブースターパックのスピリット達、モチーフとなっているスピリットがいるような」

リューネ・マト「そうですそうです! ……ずーっとデッキに入れてもらいました。
でも上手く力になれなくて、制限カードになってからもそれは同じで」

恭文「制限カード!?」

リューネ・マト「それでも見捨てず、お側に置いてくれました。
アルティメット環境になってからも、古竜バーストデッキには必ず。
だから嬉しくて、もっと力になりたいなーと思ってたんです」

恭文「ま、まさか」


(リューネ・マト『http://batspi.com/index.php?%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%8D%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%88』

[歌の姫巫女]リューネ・マト『http://batspi.com/index.php?%EF%BC%BB%E6%AD%8C%E3%81%AE%E5%A7%AB%E5%B7%AB%E5%A5%B3%EF%BC%BD%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%8D%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%88』

公式紹介ページ『http://www.battlespirits.com/capture/bsc16_bt.html』)


恭文「ジーク・ヤマト・フリード!?」

リューネ・マト「はい!」

フェイト「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! で、でも全然違うよ!」

リューネ・マト「気づいてもらえて、とても嬉しいです。これからもよろしくお願いしますね」


(控えめに飛び込んでくる姫巫女……蒼い古き鉄、こうして同居人が増えました。
本日のED:UVERworld『儚くも永久のカナシ』)




恭文「ちょうど某アイマス作品でBGMを効いたところだった」


(『http://www.nicovideo.jp/watch/sm22834409』)


恭文「はい、というわけでラスボス予想選手権ー。フェイト、ラスボスは誰だと思う?」

フェイト「えぇ!? えっと、あれじゃないのかな。シャドームーン。劇場版で出てたし」

恭文「なるほどー。でも翔太郎さん達が入れば三分で倒せるかな」

フェイト「あの演出については言わないであげようよ!」

恭文「じゃああむ!」

あむ「ラスボスでしょ? という事はやっぱり、でっかく強くなきゃ駄目だと思うんだ」

恭文「うんうん」

あむ「だからあれだよ、MOVIE大戦に出てきたあの……ほら、変な生物兵器じゃ。あとクライシス要塞」

恭文「なるほど……そしてケガレシアが(ぽぇ……♪)」

あむ「それ演じてるのが同じ人なだけじゃん!」

恭文「はたして正解はこの中にあるのか! それは今後のお話で明かされます!」

古鉄≪いや、ありませんよ≫

恭文・フェイト・あむ『今言うの!? じゃあ誰!』


(おしまい)



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