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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第51話 『GP-VS/悪意ゴウダツ』


ヤスフミが修行やらなんやらで大変だった頃、私もようやく絵を仕上げました。……ちょっと感動。

でもそんなのは吹き飛ばす勢いで、こっちでも事件が起こっていた。朝も早い時間、ジャンさんは変身し怪人と一緒に跳躍。

ビルの屋上でヌンチャクを振るい、ぶつけ合わせながら交差する。着地したかと思うと振り返り、二人は肉薄。


目では追い切れない速度でヌンチャクが振るわれ、火花を散らしながら激突。と、とりあえず結界ー!

術式詠唱している間に、二人はバッと離れる。数メートルほどの距離を取ったところで、遅れて私の両脇からレツさん達が突撃。

ジャンさんの隣を取り、三人で構える。青銅色の怪人はそれでも余裕で、ヌンチャクをぶんぶん振り回していた。


でもあれ、なに。鬼みたいな顔で、ところどころ銀色のフィンやパイプみたいなのが通ってる。

生物というか、どこかのサイボーグみたい。サーチ結果……全く出ないし。


「あなた、一体何者!」

「いきなり僕達を襲うなんて、ちょっと礼儀がなってないね」

「そうだそうだ! このヌンチャクバキバキ!」

「誰がバキバキだぁ! 俺様は害地水気スペシャル目蛮機獣」


が、がいち……首を傾げていると、鳥みたいに叫びながらまたヌンチャクを振り回す。

どうなっているのかと思っていると、ヌンチャクの先が右脇に挟み込まれた。


「ヌンチャクバンキ! ゲキレッド、貴様の慟哭丸……いいや! 無間龍の力をもらいにきた!」

「……お前、なんでアイツの事知ってる!」

「臨獣トータス拳――リンギ!」


みんなが動揺している間に左手を引き、ヌンチャクバンキから紫色のオーラが出る。

あれ、紫激気? じゃあヤスフミと同じ……もしかしてあれも戦隊もののスーツなのかな。

……いやいや、そんなわけないよね! 臨獣とかって言ってたし! と、とにかく結界展開!


なんだか技が出そうだったので、ヌンチャクバンキだけを閉じ込め……られないー!

もうこの辺一帯を覆うように形成しちゃったよ! なので空は幾何学色に変わり。


「空裂波ぁ!」


ヌンチャクバンキが左手を突き出し、オーラを衝撃波として放つ。

慌てて右に回避するけど、ジャンさん達はまともに受けて吹き飛ばされる。

動揺していると、ヌンチャクバンキがこっちを見て笑う。


「ま、待て!」

≪Sonic Move≫


魔力光を纏い一気に加速。更にセットアップし、右に回転しながらヌンチャクバンキの背後を取る。


≪Harken Form≫


バルディッシュを鎌形態にして、右薙の斬撃。首を狙った一撃は伏せられた事であっさり避けられる。

更にヌンチャクバンキは私へ振り返り、左ボディブロー。慌ててバルディッシュの柄で防御するも、吹き飛ばされてしまう。

近くの壁に叩きつけられ呻いていると、つまらなそうに私を見る。相手に、ならないと思われてる……!


そんな事ないと思い、壁から抜け出し更に突撃。一気に懐へ入り、まずは腹へ左薙一閃。

続けて袈裟・逆袈裟・右薙と連続で斬りかかるけど、その全てをあっさりと避けられてしまう。

足早に下がりながら、また笑ってくる。どうして……! どうして私の速度についてきてるの!


動揺していると、袈裟の斬撃を避けたヌンチャクバンキがすっと立ち上がる。

ううん、頭を突き出してヘッドバットしてきた。左腕の側面が強く叩かれ、嫌な痛みと衝撃で動きが止まる。

更にお腹に衝撃。両手で掌底されたのだと気づいた時には、また壁に叩きつけられていた。


「弱い奴が邪魔をするな」

「待て、蛮機獣!」


そこで左脇から、バトルスーツ姿の五人組が現れた。呻きながら左側をガン見して、つい口をポカーンと開ける。

だってそのバトルスーツ、ボウケンジャーやゲキレンジャーに似てるの。いや、どっちかっていうとボウケンジャー?

でもボウケンジャーじゃない。頭部ヘルメットは動物っぽくて、耳の辺りにタイヤ的なパーツが埋め込まれてる。


黒いゴーグルも逆三角形が基本だけど、形状は微妙に違う。ややだ円がかっている人がいたり、耳までゴーグルが到達していたり。

両腕と両足には黒いタイヤっぽいリングを装着して、その下は白グローブとブーツ。

右腰にはガソリンスタンドにある、給油機っぽい装置を下げていた。あ、それと胸元に1から5までのナンバーが入ってる。


なに、この人達……そう思っていると、黄色と青の人が近づいてくる。

黄色の人はヘルメットがクマ的で、ゴーグルは丸っこい。胸元のナンバーは3だった。

青の人はジャガー的っていうのかな。ゴーグルは逆台形みたいで、ナンバーは2。


「大丈夫ですか!」

「全く……どこの誰かは知らないっすけど、蛮機獣相手に無茶しすぎっすよ」

「は、はい。あの」

「なんだお前ら!」


赤い鳥ヘルメットの人が、ジャンさん達を指差す。ジャンさん達は素早く起き上がり、みんなを逆に指差し。


「お前らこそなんだー! ……あ、フェイトを助けてくれてありがとなー」

「あぁ、いえいえ」

「……レツ」

「このパターン、つい最近経験したね。まさかこの人達は」

「ふん、ゴーオンジャーに用はないっちょう!」


二人に抱え起こされていると、ヌンチャクバンキが気になるセリフを……あれ、ゴーオンジャー!?

それってこの間出てきた、ガイアークと戦っている人達だよね! この人達、戦隊だったんだ!


「トータス拳リンギィ!」


驚いている間にヌンチャクバンキが踏み込み、私達へ肉薄。黄色と青の人達は私をかばい、背を向ける。

その間に目にも止まらぬ速さで拳が連続で打ち込まれ、かと思うとヌンチャクバンキは元の位置へと下がっていた。

一瞬寒気がするけど、みんなは特に問題ないと言った様子で軽く体を捻る。怪訝そうにしながら顔を見合わせもした。


「ふん、全然効かない……がぁ!」


でも赤い人がいきなり崩れ落ち、他のみんなも膝をつく。一体どうしたのかと思い、苦しそうな青と黄色の人を揺らす。


「ど、どうしたんですか! しっかりしてください!」

「時劣態(じれったい)――時間差でダメージを与える技だっちゃ!」

「ヌンチャクバンキ、よくやったでまんねん!」


更に別の声が響き、私達の左側から大きなU字磁石が投げつけられる。慌てて身構えると、手からバルディッシュが抜けた。

それだけじゃなくて、手の平サイズの駒みたいな物も磁石に引き寄せられくっつく。


「あぁ、スピードル!」

「ベアール、みんなぁ!」

「バルディッシュ!」


ゴーオンジャーの人達が慌てた様子で手を伸ばすけど、U字磁石は空へと消える。

でもそれをキャッチして、ヌンチャクバンキの隣に青い怪人が着地。

ソイツは亀みたいな甲羅をまとった、ふとましいスタイル。こ、今度はなにー!


「なんだ、お前は! スピードルを返せ!」

『走輔ぇ!』


赤い駒から声がしたと思うと、ゴーオンジャーのみんなが一斉に突撃。そこで青い怪人は叫んだ駒を掴み、強く握る。


「動くな! コイツらがどうなってもいいんかぁ!」

『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

「スピードル!」


みんなは困惑した様子で足を止め、手を出すに出せない状況。
で、でもどうしよう。私もバルディッシュ取られちゃったから、魔法が使えない……!


「この気配……あなた、臨獣殿ね!」

「その通りでまんねん!」


ランさんの問いかけに答え、青い怪人は口元を歪めニヤリと笑う。


「臨獣トータス拳――メカ!」

「トータス拳!? ならヌンチャクバンバンにリンギ教えたのもお前か!」

「その通りやで! ……ヌンチャクバンキ、確かこれは捨てちゃ」

「駄目だっちゃ! ヨゴシュタイン様達に怒られるだろ!」

「了解したで! お前達、これを返してほしくば」


メカは駒とバルディッシュを一緒くたに引きがしてから、左手でジャンさんの首元を指差す。


「慟哭丸を渡してもらおう!」

「なんですって! あなた、これがなんなのか分かってるの!?」

「もちろん! 確かに無間龍は恐ろしいが、ならば力だけを引き出せばいいだけの事!
そうして散っていた同胞達、三拳魔、理央様達のために臨獣殿を」


メカの体からどす黒い瘴気が出る。それが空気を揺らす中、メカが絶叫。


「復活させるのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『だ、駄目だ! なんだかよく分からないが、アンタも絶対渡すな!』

「スピードル、お前」

『コイツらはめちゃくちゃ悪い事を考えてる! 走輔、オレ達の事は気にするな!』

『きょうでぇ、大丈夫だ! 炎神はそんなにヤワじゃねぇ!』

「バスオン! でも……くそ!」


ど、どうしよう。魔法が使えれば……! ヤスフミが入れば、転送魔法でぽいっと盗めるのに!


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


そこで赤い人が叫びを上げながら、右腰の給油機に手をかける。


「分かった、慟哭丸渡す!」


抜こうとした時、ジャンさんの声が響く。ジャンさんは立ち上がり、どこからともなく金色の玉を取り出した。

それは龍の文様が刻まれていて、いっつも首から提げていた玉だった。まさかあれが、慟哭丸っていうの?


「こら、ジャン!」

「駄目よ! それを渡したら一体どうなるか!」

「取り戻せばいい!」


詰め寄ったレツさん達に言い切って、ジャンさんは左手で鼻をかく。


「慟哭丸は取り戻せる。でも、アイツらのムニムニは、壊れちゃったら取り戻せない」

「アンタ」

『馬鹿野郎! オレ達がいいって言ってんだ! なのに、なんでだよ!』

「嫌だ! オレがよくない!」


どうして、そんな……なにが起こるか分からないのに、初対面の人を労って渡す?

ううん、それは私もだ。だけどこんなの、駄目だ。なんとか取り戻さないと。そうだ、取り引きの瞬間を狙って。


「ははははははは! 交渉成立だっちゃ!」


そうするとメカとヌンチャクバンキは背中合わせに立って、お互い構える。これじゃあ、バルディッシュ達を取り返せない。


「では、ヌンチャクバンキが合図をしたら同時に投げるで」

「分かった」


緊張の時間が流れる。そんな中、頭は一気に冷静さを取り戻した。

そうだ、無理に攻撃する必要はない。慟哭丸と駒が投げられた瞬間、ソニックムーブで動く。

そうして先回りして、二つとも私がキャッチする。そうすれば問題ない。


バルディッシュがいないから真・ソニックは使えないけど、速さなら絶対負けないもの。

今か今かとまっていると、ヌンチャクバンキが左手を挙げる。


≪Sonic Move≫


ソニックムーブ発動――二人は同時に目的のものを投げた。ジャンさんは慟哭丸とやらをメカへ。

でもメカは駒達を、全て手すりの向こうへ放り投げた。地面へ落ちる駒達は気にせず、メカは慟哭丸をゲット。


『あぁ!』


思わず足を止めそうになっていると、ヌンチャクバンキが目の前に立つ。

そうして抵抗する間もなく掌底を食らい、また吹き飛び壁に埋まった。

嘘、そんな……読まれていたなんて。さっきのは、偶然じゃなかったの?


「てめぇ!」

「「リンギ、空裂波ぁ!」」


怒りのままに飛びかかろうとしたジャン達を、全方位の衝撃波が襲う。みんなは吹き飛び、同時にメカ達も姿を消す。


「くそ、やられたっす!」

「そんな、ベアールが――炎神達がぁ!」

『ぬはははははははは! 炎神ソウルゲットナリ!』


あれ、この声って確か……あの時ヤスフミ達が戦った、あの変な三人組を思い出す。



「お前達、ガイアーク三大臣!」

『ゴーオンジャー、それにゲキレンジャーも……この間はよくもやってくれたゾヨ!』

『これはその礼でおじゃる! 慟哭丸の力は我らガイアークが、有効利用してあげるでおじゃるよー♪』

『もちろん憎き炎神達もな! それではさらばナリー! はーははははははははははははは!』


そんな声を残し、辺りに漂っていた悪い空気は消え去った。同時に展開していた結界もひび割れ、元の空を取り戻す。


「「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」


ジャンさんと赤い人が、同時に膝をつく。そうして床を拳で叩き、思いっきり悔しがった。

どう、しよう。バルディッシュ――私が、弱いから。どうして私は、こんなに力がないの。


「……おい、お前ら!」


どうしようと思っていると、変身状態のゴウさんとケンさんがやってくる。

二人はゴーオンジャーを見て警戒するけど、私の姿も見つけて拳を下ろした。


「お前達がジャン達を襲った……っぽくないなぁ。フェイトさん、こりゃ一体」

「あの……蛮機獣が臨獣トータス拳で、五色の駒とバルディッシュが磁石でビューンって!
そうしたらガイアークの三大臣がふはははーなんですー!」

「「はぁ?」」

「首を傾げないでー!」


どうして私の説明じゃあ分からないって顔するの!? おかしいよー! ホントの事しか話してないのに!





『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説

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第51話 『GP-VS/悪意ゴウダツ』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


私達は一旦、銀色のトラック・バスへ移動する。ギンジロー号と呼ばれるそれが、ゴーオンジャーさん達の拠点らしい。

バス内には長めのテーブルやソファーが置かれており、私とジャンさん達はゴーオンジャーさん達と向かい合わせに座る。

今は赤いゴーオンジャーさん――江角走輔(えすみそうすけ)さんが運転し、スクラッチ本社へ向かっているところ。


走輔さんは茶髪の髪を二つ分けにして、頭頂部がやや逆立っていた。活発そうな人っぽい。

それでゴーオンジャーの人達は、色違いの同デザインジャケットを着ていた。こう、レーサーが着る感じなのかな。

青い人は香坂連(こうさかれん)さん。黒髪を品よくまとめて、この上だと一番年上っぽく見える。


黄色い人は楼山早輝(ろうやまさき)さん。くり色の髪をボブロングくらいにしている、可愛らしい感じの人だった。

緑の人は城範人(じょうはんと)さん。やや茶色がかった髪を、ヤスフミと同じ感じでまとめてる。

黒い人は石原軍平(いしはらぐんぺい)さん。黒髪短髪で、結構気難しそう。でも、見る限り普通の人達だ。


ボウケンジャーの人達みたいにこう、プロのトレジャーハンターという感じでもない。もちろんジャンさん達とも違う。

あとはカクレンジャー? あっちも忍者だよね。こう、とにかく腕利きという感じには見えない。


「まさか、噂のゴーオンジャーに出くわすとはなぁ。参ったぜ」

「え、ぼく達の事って有名なの!? どうしよ、軍平ー!」

「落ち着け」


はしゃぐ範人さんが、軍平さんのチョップで沈み込む。……ツッコミが容赦ない。


「しかも可愛い子ちゃんまでいるし! ねぇ、今度オレと二人でメンチカツ」

「そんな場合じゃないだろ!」


続いてゴウさんが肘打ちで、ケンさんを沈める。そこで軍平さんと顔を見合わせ、なぜか固い握手を交わす。


「……分かり合ったっすね。とにかくヌンチャクバンキは獣拳……でしたっけ。それを習得している」


連さんの言葉で思い出すのは、あの怪人達。全然、相手にならなかった。それが悔しくて、情けなくて、涙が出かける。


「あぁ。それでゴーオンジャーのムニムニ……ごめんー!」

「謝る必要はないっすよ。それ言ったら、俺達も油断してたのが悪いんっすから」

「そうだぜ、ジャン! それによ」


赤信号らしく、バスは一旦停止。すると運転席の走輔さんがこちらへ振り向いた。


「だったら取り戻せばいいだろ! 慟哭丸ってやつもな!」

「ソウスケ……それオレのセリフー!」

「だから問題ないんじゃないか!」

「だなー! よし、頑張るぞー!」

『立ち直り早!』


な、なんでそんなにすぐ切り替えられるんだろう。だって……私は、バルディッシュがないとちゃんと戦えないし。


「でもみんな、みんなのムニムニってなんだ?」

「アンタ、よく分かってないのにOKしてるんだな」

「走輔と似てるかもー」


軍平さんと早輝さんが呆れる気持ちも分かるよ。だって大事なもののはずなのに、だもの。

しかも取り戻せばいって簡単に言い切れる方が、私にはよく分からなかった。


「ごめんね。ジャンってその、純粋だから。あ、だけど私達も教えてもらえると……助けるならちゃんとしたいし」

「みんなは炎神っす」

『炎神?』


軍平さんは左腕のブレスレット……なのかな。なんかこう、スロットルレバーっぽいのが付いてるんだけど。

とにかくその上部を展開し、オレンジ色の駒を入れる。あれ、これって奪われた駒と同じ。

牙っぽい装飾付きで、数字の『6』が表面に描かれていた。蓋が閉じられると、モニター部から青い光が展開。


円すい形なそれの中心部に、デフォルメされたワニっぽいモンスターが現れた。


「わわ、これなんだー!」

「これが炎神だ。コイツはキャリゲーター」

『あ、ゲタゲータ!』

「まずこの世界――ヒーローワールドも含めて、全部で十一の次元が並列に存在しているっす。
炎神達はマシンワールドという、機械生命体の世界からやってきたんっすよ。
ただ炎神達はこっちの世界だと、本来の力を発揮できない。
キャストっていうボディ部分と、みなさんが見たソウルっていうコアパーツに分割される」


ようはコアパーツを奪われて……って話なんだ。だからみんな、おもちゃみたいなアレを見て大慌てしていたんだね。

だけど疑問があるので、ちょっと首を傾げながら聞いてみる。


「でもその、ヨゴシュタイン達はソウルとかになってなかったですよね」

「ガイアークはまた別の世界――ジャンクワールドってところからやってきたんっす。
そこは廃棄物だらけで、アイツらは他の世界も侵略しにきてる。
マシンワールドに攻め込んだ奴らは炎神達にたたき出されたんっすけど」

『我ら炎神もそれを追いかけ、この世界にきたでゲータ』


とにかく炎神達のあれこれは、ヨゴシュタイン達には適応されないっぽい。でも、どうしてなのかな。

基本別世界なんだよね。自分達の世界が守られたなら、追いかける必要もなさそうなのに。それが不思議だった。


「でも連が言ったみたいに、炎神達はそのままだとちゃんと動けない。
だからこっちの世界でパートナーを見つけて、一緒に戦うようになったんだー。
それがぼく達、ゴーオンジャーってわけ。お姉さん、分かったかなー」

「い、一応は」

「ところで……よければ全部終わった後で、番号を交換」

「お前はぁ……!」


範人さんはなぜか軍平さんに頭をグリグリされ、悲鳴を上げる。……どうしてだろう、よく分からない事がまた続く。


「で、でもそれなら宇宙警察とかに通報すれば……みなさん、一般人なんですよね」

「そうっすね。俺は元々送迎バスの運転手でしたし」

「わたしもサーキット場で売り子してたんだー。あ、走輔は新人レーサーだったの」

「ぼくがアルバイターで、軍平は警察官だね」

「宇宙警察だけじゃあ頼りないからな、これも正義の味方ってやつだ」


や、やっぱりよく分からないよー! だってだって、炎神っていうのも警察に預けちゃえばよくないかな!

ほら、そうしたらウメコさん達とかが有効活用してくれるだろうし! なんで一般人が戦隊になって戦ってるの!?


「まぁアンタらの事情は分かった、説明してくれて助かったよ。……それより問題はフェイトだろ」

「はう!? た、確かにバルディッシュがないと今の私は」

「こりゃ、恭文を呼び戻した方がいいかねぇ。通訳代わりに」

「ゴウさん!? 誰が通訳ですかー! さ、さっきの事なら事実そのままじゃないですか!
そ、それよりも……あの、一般人が侵略者と戦うなんて無理だと思うんです。
いい機会ですし、炎神達は宇宙警察に預けて……あの、一応知り合いの警察官もいますし」

「それでそれで、慟哭丸ってなんなのかなー」


早輝さんが勝手に話を進めてくるー! 私を置いてけぼりにしないでー! うぅ、みんなひどいよー!

なぜかケンさんが私の肩をポンと叩いて、安心させるように笑いかけてくる。


「フェイトさん、頭脳労働はオレ達に任せてくれていいんっすよ? 人には向き不向きが」

「だからいちいちひどくありませんか!? わ、私は頭脳労働が専門だったんです! そういう、警察官みたいな仕事してたんですから!」

「馬鹿野郎!」


あれー!? 軍平さんがいきなりキレたー! 詰め寄ってくるけど、それを連さん達が必死に抑え込む。


「経歴詐称でしょっぴくぞ! 貴様のような警官を誰が雇うか!」

「ちょ、軍平落ちついて! 駄目だからー!」

「そうっすよ! 気持ちは分かるっすけど、暴力は駄目っす!」


範人さんと連さんが軍平さんを押さえ、どぉどぉとなだめる。で、でもどうしてー!

なんかもう、私が犯罪者って勢いでかみ付いてきてるんだけど! これはなにー!


「な、なんですかいきなりー!」

「あー、ごめんなさい。軍平って元警察官だから。……こら、駄目でしょ! フェイトさん、混乱してるじゃない!」

「だったら問題ないだろ、それはデフォだ!」

「確かに……いやいや、それでも駄目っすよ!」


連さん達が更に叱って、ようやく軍平さんは落ち着く……そんなの振りだけだよ!

目が敵意でいっぱいだし! なにこれ、私はどれだけ低く見られてるのかなー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


マジレンジャーになったり、魔法が使えるようになったせいだろうか。訓練は一気に進んだ。

あれ、おかしいなぁ。昨日まで小さかったゲキカルノ達が、どういうわけか……不思議に思いながらも、今日の朝練終了。

豪華な朝食をガッツリ頂き、後片付けも手伝う。それじゃあまた訓練と思っていたところで、フェイトから通信。


なにやらテレビで見た背景に驚きながらも、事情を確認したところ。


「慟哭丸がガイアークに奪われたぁ!?」

『そ、そうなの! ヌンチャクバンキとメカが、空裂波でしゅーんって!
ゴーオンジャーの人達もじれったいーって技でぼこぼこーって!』

「最悪だ……!」


よりにもよってあれが……ドン・ホラーが倒れたばっかなのに、またまた世界の危機だよ。

ガクブルしていると、フレミング・アクアがすっと出現。なだめるように抱き締めてくれて、大分落ちついた。


「……ありがと」


お礼を言うと、フレミング・アクアが首をフルフル。でもスリスリはやめてほしい、圧力がきつい……!


「ヤスフミ、今の説明で理解できるの? かなりひっちゃかめっちゃかなのに」

「大体のニュアンスではあるけど、こういうのは重要な部分だけ抜き出せばいいから」

『あれ、やっぱり馬鹿にされてる! というか待って! その子はなに!』

「え、カードの精霊。フレミング・アクアだよ」

『意味分からないよ!』


だけどどうしてガイアークが、慟哭丸の事を? ……まさかこの間接触した時!? あの時さらっと目をつけてたのか!


『じゃ、じゃあ慟哭丸っていうの、そんなに大事なの? ジャンさん達も慌ててるの』

「大事っていうか、凄まじく危険なんだよ! 慟哭丸には無間龍(むげんりゅう)・ロンが封印されてる!」

「恭文君、無間龍って」

「……世界中に伝承として残る、竜・ドラゴンの元となった存在。幻獣そのものだよ」


龍可は自然とデッキを取り出し、エンシェント・フェアリー・ドラゴンを見る。

そっか、そう言えばこれも……いや、でもあれが元とは考えたくないなぁ。

無間龍は一言で言うと、ゲキレンジャーという物語のラスボスだよ。そして吐き気を催す邪悪。


マク達の裏切りや、ジャンさんに黒獅子理央の両親殺害――獣拳で起きた事件は、奴の暇つぶしによるもの。

無間龍は不老不死の存在で、代わり映えのしない世界に飽きていた。だから人間達を弄んだ上で、壊そうとしたのよ。

その結果無間龍は報いを受ける。ジャンさん達が二つの流派を統一し、ロンを奥義で封印。


それが慟哭丸だよ。慟哭丸は元々、閉じ込めた生命体のエネルギーを死ぬまで絞り取る封印術。

でも無間龍は不老不死のため、永遠の闇に閉じ込められ、ずっとその苦しみを味わう事になった。

ただ封印が解かれる危険もあるため、その扱いが問題になってさ。ここも理由がある。


劇中で一度、慟哭丸という技は使われているのよ。使用者は三拳魔で、対象はマスター・シャーフー達七拳聖。

それもジャンさん達がなんとか解除したんだけど、だからこそ悩みも生まれる。自分達が永遠に守れるわけじゃないから。

その答えを出した結果が、今のジャンさん達だよ。獣拳を伝え、ズンズン進んで、技と一緒に慟哭丸も受け継いでもらう。


そうして先の先まで、みんなで守っていく。こういう事があっても、大丈夫なようにさ。


『どうして封印なのかな。悪い怪人とかなら、倒しちゃえばいいんじゃ』

「倒せない。幻獣である奴は不老不死なんだから」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! そ、そんな……あの、なにか手があるんじゃないかな。
ほら、ヤスフミの物質変換で消し去っちゃうとか。あの、コアを破壊するとか……そうすれば』

「無理だっつってるでしょ! 人知なんて飛び越えた存在なんだから、アルカンシェル受けようと復活する!」


駄目だ、フェイトをこのままにしておくと、間違いなく問題を起こす。というか、それを抜きにしても無間龍は放置できない。

あむとシルビィを見ると、二人は即で頷いてくれる。龍可も……やや呆れ気味だけど、笑顔で背中を押してくれた。


「僕達もすぐに戻るから、それまでフェイトはなにもしないで」

『でも修行は』

「さすがに無間龍は放置できない、一旦中断するよ。マスター・ジミー」

「……仕方あるまい。だがその前に、中間試験を受けてもらうぞ」


その上でないとかぁ。マスター・ジミーの様子から逃げるのは無理っぽいし、頑張る事にしよう。

それに相手は無間龍。中間試験を受けて強くなれるのなら、それに越した事はない。


「というわけだからフェイト、ゴーオンジャーとジャンさん達の指示をちゃんと聞くように。
絶対に余計な事をしちゃ駄目だから。おのれがそれやると、確実に問題発生する」

『私を駄目な子みたいに言わないでー! 私だって頑張ってるよ!?
ほ、ほら……もしかしたら魔法で無間龍が倒せるかもしれないのに。
あの、コアみたいなのがあるんじゃないかな。それを露出させれば、確実に』

「いいからなにもするなっつってんの!」

『できるわけないよ! バルディッシュがさらわれちゃったんだよ!? もし、なにかあったら……!』

「だったら余計になにもできないでしょうが! おのれ、デバイスないとほぼ無力化されるよね! たるんでるから!」

『それを言わないでー!』


くそ、またウジウジしてると思ったら……まぁ分かってた。でもこれで暴走したら、絶対トンチンカンになるし。

しょうがないのでフェイトの傷を抉ろう。……あとでランさんにも教えておかないと。


「フェイト、思い出して。僕が報酬でもらった高額切手、ボロボロにしてくれたのは誰かなぁ」

『はう! で、でもそれとこれとは関係が』

「聞き込みしたお店の高級ワインを何本も割り、下水に証拠品を落としたのは?」

『はうはう!』


ドジを暴露すると、あむ達が実に微妙な顔をする。マスター・ジミーに至っては両手で顔を覆い、わんわんと泣き出した。


『でも走輔さん達って、どう見ても普通の人だよ!? なにかのプロって感じでもないし!
あの、ヤスフミからも言ってほしいの! ほら、ウメコさん達に炎神達を預ければ、危ない事もないよ!』

『やかましいわ! 貴様にプロのなにが分かる! 警察舐めてんのかぁぁぁぁぁぁぁ!』

『ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

『軍平、落ちついてー! あ、こっちは気にしないでいいからね!』


うわぁ、ゴーオンブラックさん切れてるわ。続いた声は、ゴーオンイエローの早輝さんかな。

ほんと、一体なにやったんだろう。ほぼ初対面でここまでキレられるって、相当すぎる。

いや、それ以前に今の会話は全部聴こえてたの? おのれ、邪魔しないように話すならもうちょっと配慮しようよ。


「大丈夫、その人達は最初からヒーローなのよ。とにかくじっとしてて」

『……分かった』

「よろしい。じゃあジャンさんに替わって」


フェイトはグスグス言いながら、画面を動かす。それでジャンさんの顔が思いっきり映る。

ジャンさんが笑って手を振ってくれるので、一応安心。


『お、ヤスフミー! 修行進んでるかー!』

「おかげさまで。その成果も持ってそっちに戻りますから、待っててください。それで慟哭丸も、炎神達も全部取り戻す」

『ヤスフミ……ありがとな! レツ達と一緒に待ってるぞ!』

「はい」

『ところでその青髪、誰だ?』

「カードの精霊です」

『なんだそれ!』


フレミング・アクアがよろしく〜とやっているところで、通信は終了。

フェイトが暴走しない事を祈るのみ……あ、これ不安かも。こっちもとっとと準備を終えないと。


「でも恭文、ソイツって一度封印できたんだよね。だったら復活しても楽勝じゃあ」

「そんな甘い相手じゃない。まともに戦ったら、マスター・シャーフー達七拳聖が揃ってても勝てないから」

「マジですか! じゃ、じゃあアンタやフェイトさんは」

「単独じゃあ絶対勝てない。脅威度で言えばドン・ホラーレベルだ」

≪それにアイツも同じ轍は踏まないでしょ。解放して姿を眩ませられたら、それだけで大問題です≫


ドン・ホラーレベルと言って、あむや龍可があ然とする。……ここが一番警戒すべきところだよ。

アイツに姿を眩ませられたら、またどこかで悲劇が積み重なる。それも退屈しのぎのために……そんなのは絶対許さない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ドン・ホラーと同じくらい、怖くて強い奴。倒しても倒しきれない、不老不死の無間龍。

その言葉で、龍可さんとシルビィさんもなにも言えなくなった。

ていうか、世界の危機が常連すぎる。あぁそっか、だからこれだけ強く言ってたんだ。


あたしは、さすがに邪魔かな。いても逆に気を使わせちゃいそう。少し悔しくなっていると、頭の中で声が響いた。

助けを求めるような必死な声、つい顔をしかめると、ラン達が揃って前に並ぶ。


「あむちゃん、今の声ー」

「……アンタ達も聴こえたの?」

「うん。うっすらだけど……しかもこれ」

「黒獅子理央さんとぉ、メレさんの声ですぅ」


あのライオンとカメレオン!? あ、そっか! 二人も無間龍とかいうのに面倒かけられたんだっけ!

だからその、あたしを呼んでる? でもどうすればいいんだろうと思って、近くのソファーが目に入った。


「……お休み!」


さっとソファーへ寝っ転がり、すぐ目を閉じる。あぁ、みんなの視線が突き刺さる。


「あむちゃん、なにやってるの?」

「あむちゃんはね、夢の中で黒獅子理央達と会うために、お昼寝するところなの」

「……ダイヤ、待って。黒獅子理央って」

「聴こえたの。私達を呼ぶ二人の声。とても苦しげで、必死だったわ」

「そ、そうなんだ。でもその、すぐ寝られるのかな」


龍可さんの疑問には答えない。とにかく寝ないともう、会えるかどうかも分からないし。

馬鹿をやっているとは思うけど、だからって無視もできない。一応、先生だしさ。


「ねーむれー♪ ねーむれー♪ ヒードーインよー♪ ねーむれー♪」

「アンタうっさいし! 寝かせる気ないじゃん! あとヒドイン言うなー!」

「恭文君、ちょくちょくキツいボケ飛ばすよね! ていうか容赦なさすぎ!」

「えっと、スタンバレットでいいかしら。あむちゃん、ちょっとズキッとするけど耐えてね」


シルビィさんが物騒な事やろうとしてるー! なんかガチャガチャ言ってるんだけど! ちょ、撃つのはやめてー!


「シルビィさんまでなんですかー! そのリボルバーは仕舞いましょう!」

「目は閉じていろよ」


そこであたしのおでこに、ややひんやりとした手が乗っかる。このシワっぽい感じ……マスター・ジミーの手?


「今からリンギで、お前を眠りの世界へ誘う」

「それって」

「眠らせるだけだ。なので後の手助けはできん、いいな」

「うん、ありがとう」


目を閉じたままお礼を言うと、額を中心に熱が生まれる。それが全身へ広がり、心地良い温かさに変化した。

それに温められながら数度呼吸すると、お昼前なのにすぐ眠ってしまった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


うぅ、ヤスフミも冷たい。おかしい、私は普通にしているだけなのに。修行してちょっとはよくなってるはずなのに。

ぐすぐす言いながら、美希さんのオフィスへ。全員揃って入ると、美希さん達が立ち上がって出迎えてくれる。


「みんな!」

「美希、ネコ、ごめんー! 慟哭丸取られたー!」

「由々しき事態じゃな。さて、お主達が」

「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」


いきなり範人さんが美希さんを指差し、バツが悪そうに顔を背けた。

早輝さんもマスター・シャーフーを指さしたかと思うと、一気に近づき。


「猫ちゃんだー! よしよしー、可愛いですねー!」


可愛がり始めた!? 頭を撫で、肉球に頬ずり……とっても楽しげだった。


「ちょ、こらー。もう、やっぱり乙女のほっぺは素敵じゃのー♪」


マスター・シャーフーも喜んでる……なんだろう、この緊張感のなさ。

そんなマスター・シャーフーにツッコむ事なく、美希さんは範人さんを指差ししたまま。


「あら、あなた……恐竜やでバイトしていた!」

「やっぱり大盛りカレーの女王! ど、どうも」

「なんだ範人、知り合いなのか」


走輔さんに聞かれると、範人さんは背を向けて隅っこに。そこで思い出すのはヤツデンワニとアスカさん。

……え、範人さんってあそこの店員だったの!? アルバイターって言ってたけど、なんて偶然!

ていうか美希さんは、そうだったよね! 恐竜やで牧野博士と知り合ったとか言ってたし!


「あの、バイト先で知り合って……玉砕してー!」

「ぎょく、え?」

「あー、フェイトさん達は分からないよねー。範人、かなり惚れっぽいの」

「ついでに言うと、さっきもフェイトさん……範人に口説かれてたっすよ?」

「……だ、駄目ー! 私、彼氏いるんです! 浮気なんてしません!」

「更に振られたー!」


範人さんが頭を抱え、みんなはお手上げポーズ。……もしかして恐竜やで知り合いになってる人、もっといるんじゃ。


「とにかく美希、事情は電話で説明した通りだ」

「あとはメカ、だったわね。それがどう動くか。マスター・シャーフー」

「奴が臨獣殿の復活を目論んでいるのなら、手段が整い次第すぐに攻め込むはずじゃ。
臨獣殿の源は人々の嘆きや悲しみ、悲鳴――それを溜め、力とするためにな」

「なら話は簡単だ!」


ケンさんやジャンさん達は、もう方針が決まったらしい。ケンさんが右拳を、左の平手にパンと叩きつける。


「奴らが攻め込んできたら、犠牲者を出す事なくぶっ飛ばす! フェイトさん、そん時は結界よろしくっす!」

「……駄目、です」

「はぁ!? フェイト、どうしてだー!」

「バルディッシュ、取られちゃったから。私、バルディッシュがいないと……結界とかは張れなくて」

「そんなー!」


ジャンさん、頭を抱えないでー! つ、突き刺さる! でもソニックムーブや、簡単な攻撃魔法ならできるのに!


「参ったぜ」


ゴウさんも呆れた様子で、右拳でおでこをポンと叩く。


「こりゃ、恭文も呼び戻して正解だったな。アイツならそんな事もないだろ」

「はう!」

「ゴウさん、駄目ですよ。……あ、そう言えばゴーオンジャーのみんなは」

「あぁ、オレ達なら大丈夫だ」


ランさんの問いかけにみんなは自信満々に頷いて、あの駒――ソウルを取り出す。


「それも、ソウル?」

「それはチェンジソウルだよー」


部屋の入り口から突然、一メートル前後のロボットが入ってくる。

クラシックカーのボンネットみたいな体で、上部にはヘッドライトっぽい二つの瞳。

色はクリーム色、なのかな。アームっぽい両手を動かしながら、走輔さん達へ近づく。


「ボクがみんなの炎神ソウルを参考に作った、変身用ソウル。ゴーオンジャーのスーツが内蔵してあるんだ」

「ボンパー!」

「挨拶が遅れてごめんねー。ボクは水先案内ロボ、ボンパー」

「え、えっと……この子は」

「わたし達の仲間だよー。わたしや走輔達に変身アイテムをくれたのも、ボンパーなんだー」


でも炎神、じゃあないよね。え、どういう事なの。それで仲間……意味が分からないー!


「わぁ、ボンボン可愛いなー! よしよしー、ほれー!」


ジャンさん達は明るく笑い、ボンパーを撫で始めた。まるでネコでもあやすように、撫で撫で……これはなんだろう。


「わ、こらー。やめろよー。恥ずかしいじゃないかー。あとボクはボンパー!
……とにかく街の守りは心配いらないよ。大翔(ひろと)達にも連絡して、動いてくれる事になったから」

「お、悪いなボンパー! だがアイツら、素直にOKしたのか」

「今回は事態が事態だし、被害を出さないのが優先だもの。あとはヌンチャクバンキとメカをどう攻略するか」

「……確かにな。奴らは強かった」

「へ、軍平なに言ってんだよ! なんのためにここまできたってんだ!」


走輔さんは妙案があるらしく、右親指で鼻の頭を軽く拭う。それからぱっと振り返り、ジャンさん達を指差し。


「修行すればいいんだよ!」

『修行!?』

「話によると臨獣拳ってのは、獣拳の一種だったんだろ? で、ジャン達はそのマスターだ」

「あ……なるほど。敵を知り、己を知れば百選危うからずっすね」

「そういうこった!」


そっか。獣拳を勉強する事で、メカやヌンチャクバンキ対策を採ろうと……いやいや、納得しちゃ駄目だよ!

この人達、本当に素人なんだよ!? わ、私はプロとして、下がらせなきゃいけないんだから。


「あの、駄目です! 何度も言いますけど、ここは……宇宙警察に預けましょう?
みなさんは元の生活に戻って、危険な事からは遠ざかるんです。
あの、大丈夫ですよ。宇宙警察の人も戦隊ですし、炎神達の事だってちゃんとして」

『よろしくお願いします、師匠ズ!』


話を聞いてくれないー! みんなお辞儀しちゃったよ! ジャンさん達を師匠にしちゃったよ!


「参ったぜ……お前達、迷いないなぁ」

「でも兄さん、筋は通っているよ。ここは」

「よっし! だったらみんなでやるか、修行!」

『はい!』


嘘ー! 即答しちゃったよ! ど、どうして……どうしてなの!? この人達、一般人の集まりなのに!

危険から遠ざけて、守ってあげるのが私達の仕事じゃないのかな! こんなの間違ってるよー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


不満そうなフェイトさんは一旦ジャンに預けて、私は軍平さんと早輝ちゃんを連れて近くの神社へ。

なおアシスタントとしてケンにも来てもらった。まずは四人でお参りし、必勝祈願。

その上でケンには近くの木に登ってもらい、ザルいっぱいの落ち葉も持ってもらう。


「獣拳修行……と言っても、実のところ教えられる事はそんなにないの。獣拳の基本は自分で見いだす事だから」

「自分で」

「見いだすー?」

「そう。私やジャン達も、かなり無茶苦茶な事をやらされたわ。……ひたすらフライフィッシングとか」

「「フライフィッシング!? 拳法修行なのに!」」


あぁ、驚くわよね。私もそう思ってたから……あ、ちょっとイラってした。

二人じゃなくて、あの時おしり触られたり……つい拳を握ってしまった。


「しかも時間がないし、まず気持ちだけは固めてほしいの。
一から十まで、手取り足取り教えるような事はしない。いいかしら」

「「……はい! よろしくお願いします!」」

「うん、良い返事。じゃあケン、お願い」

「おうよ!」


ケンが葉っぱを一斉に落としてくる。雪崩のように落ちてくる葉っぱを見ながら、意識を集中。


「突きこそ基本、魂込めて――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



手を広げながら、一気に突き――突き突き突き突き突き突きぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!

葉っぱは地面に一枚も落とす事なく、次々と脇に置いたザルへ置く。そうして数秒後、全ての葉っぱはザルへ置かれた。

そこで息吹。静かに息を吐き、力を抜いた上で二人に振り返る。軍平さん達はポカーンとしていた。


「これをやってもらうから」

「え……え?」

「今の、わたし達が?」

「そう」


二人とも、そんなに半笑いしなくても大丈夫。こういうのは気持ちからだから……じゃあスタートしようー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


俺は範人と一緒に、レツさん・ゴウさんの二人に教わる。この二人、実は兄弟らしい。

だから仲がよかったのかと納得しつつ、引っ張ってこられたのは音楽室。

さすがは巨大企業スクラッチ、福利厚生がしっかりしている。……なんて嘘だった。


これすらも獣拳の修行だった。二人は素足となり、鍵盤上に乗りながらピアノ演奏。

それも猫ふんじゃったとかじゃなくて、華麗なクラシックっすよ。

鍵盤を折ったりする事もなく、足の親指を中心に柔らかく跳躍しながら弾いていく。


範人と二人嫌な予感がしながらもその様子を見守っていると、二人は最後にジャンプ。反転した上で再度鍵盤の上へ。

あれでどうして鍵盤をへし折らないんだろう。不思議になりながらも演奏は終了。二人は床に降り立った。


「さ、やってみようか」


レツさん、また軽く言ってくれるっすね。いや、いやいやいやいや……ちょっと待ってくださいっすよ。

確かに一から十まで、教えている暇はないって聞いてるっすよ? でもこれは。


「レツ、お前なに言ってんだ」


おぉ、さすがお兄さん。レツさんの肩を叩いて、優しく諭す。


「こういう時はあれだ。『ね、簡単でしょ?』って言うのが正しいんだよな」

「あぁそうだったね。さすが兄さん」

「「いやいやいやいやいやいやいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」


駄目だ、この兄弟似た者同士だった! ていうかこれは簡単じゃないっすよ!

達人レベルの技じゃないっすか! 幾らなんでもこれを習得は無理っすよ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


みんな、私のお話を全く聞いてくれない。ウメコさん達に連絡したけど、それで止まってる。

代わりに取り戻してって言ったけど、『犯人の特徴がよく分からない』って……私説明したのにー!

空裂波な亀とヌンチャクバンキで、磁石がしゅーんって! なのにまた呆れられたー!


なんとか説得を続けていたはずなのに、どういうわけか私はジャンさんと走輔さんの二人と一緒に外へ。

走輔さんは道着姿で気合い十分。なのに持ってきたのはどういうわけか、バケツと雑巾だけ。

それでジャンさんは笑顔で、スクラッチ本社の外壁を指差す。近代的な建物だから、奇麗な壁が数十メートルという高さで伸びている。


「ソウスケ、フェイトの修行はこれだ。この壁を奇麗にするんだ」

「はい! よろしくお願いします!」

「あ、あの……だから聞いてください。走輔さんも、もう戦ったりしなくていいんです。一般人なんですから、警察に任せて」

「じゃあ手本見せるから、二人ともちゃーんと覚えるんだぞー」

「だから話を聞いてー!」


どうして尽く流されるの!? 私、間違った事言ってないのに! それでもジャンさんは雑巾を持って、壁に手をかける。

そのまま手近なところを拭くのだと思ったら、ジャンさんは壁に足をかけ駆け出した。


「うおりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


垂直な壁を一直線に抜け、途中にある窓も奇麗に磨く。そうして数十階を一気に上がり、屋上付近の反り返った縁へジャンプ。

難なく縁の上へ出て、屋上に着地。すっかり小さくなったジャンさんは屋上から顔を出し、笑顔で手を振る。


「分かったかー! これをやるぞー!」

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」


雑巾がけを垂直にやれと! む、無理だよこんなの! 一般人なのに! 魔法なんかもなしでやれとか……死ぬよ!?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


眠ったはずのあたしは、気づいたらあの場所にいた。……慣れている自分がもう、なんか嫌だ。

いつものみんなはとても騒がしい。というか、主に騒いでいるのは黒獅子と緑のカメレオン。


「まぁまぁ。理央ちゃん達も落ちついて」

「その通りだ、若獅子よ。ここは我らとマク様が」

「これが落ち着けるか! ジャンの奴……弛んでいたんじゃあるまいな!」

「やっぱりカクシターズだわ、アイツら! とにかく……あー! 理央様ぁー♪」


カメレオンが無駄に甘い声を出しながら、あたしへ近づく。するとその姿は女性に変わった。

きらびやかな緑のチャイナドレスで、露出も結構ある。渦巻きの髪飾り二つを黒髪につけ、さっとアップにしていた。

黒獅子も人間の姿にチェンジ。黒いレザースーツに茶髪ロング、でも顔つきはかなり凛々しい感じだった。


「アンタ、今すぐにあの紫激気使いとカクシターズに伝えなさい! アタシ達を復活させろって!」

「は……はい?」

「方法ならマスター・シャーフーが知っている。いいな、後は俺達に任せろ」

「待てと言うのに!」


カタが詰め寄ってくる二人を押さえ、あたしから遠ざける。でもその、意味分かんない。だって……お、落ち着けあたし!


「ねぇ、どういう事なの! 復活って、アンタ達って死んでるはずじゃん!」

「……それはねぇあむちゃん」

「よせ!」

「理央ちゃんは無間龍――ロンに、家族を殺されちゃってるのよ」


黒獅子――理央さんは、いら立ちながら顔を背けた。でもその、正直信じられない。

いや、概要では聞いてたんだけど、実感してなかったというか。なんか、胸が思いっきり震えてる。


「もっと言えば、私達が臨獣殿を立ち上げたのもロンの差し金。もちろん騙された私達が一番いけないんだけど」

「じゃあ、復しゅう?」

「そんなところね。例え、魂が地獄へ落ちてでも」


ラゲクは大きくため息を吐いて、二人をたしなめる。


「理央ちゃん、何度も言ったはずよ。あの技を使えば、あなた達は永遠に地獄でさ迷うかもしれないと」

「地獄!?」

「当然転生もできん。仮にも弟子であるお前達を、そんな道へ行かせるわけにはいかん」

「カタ様達こそ何度も言わせないで! アタシは、理央様とだったら……きゃ!」


ちょっと、このカメレオン急にデレたんだけど! なんかもじもじしてるんだけど!

ゆかなさんの事話してる恭文みたいになったし! なに想像した!? てーかシリアス続けろー!


「いいな、お前は余計な事を考えずに、この事を伝えろ」

「ツッコミなってないじゃん! その前にこのデレに対してなんか言おうよ! シリアス続けられないじゃん!」

「あむちゃん、気にしなくていいわよぉ。メレちゃんは常にこの状態だから」


だからツッコミを放棄するなー! この話はツッコミなくなったら駄目じゃん! ていうか、スルーされるだけデレデレってなに!


「あとねぇ……気にするななんて無理よ、理央ちゃん。そういう事できない子なのは、今までの事で分かるでしょ」

「そうだよ! カタ達が師匠として止めるっていうなら、あたしは弟子として止める! そんなの絶対認めない!」

「この分からず屋が……! 世界がどうなってもいいと言うつもりか!」

「アンタ達二人がきたところで、なにが変わるわけ!?」

「アンタ馬鹿じゃないの!? アタシ達で、あの弛んでるカクシターズに喝入れてやるのよ!」

「だったらあたしがやる!」


反論する二人に啖呵を切って、右手で胸をパンと叩く。


「あたしが二人の言葉も、カタ達の気持ちもジャンさん達に伝える! それなら問題ないじゃん!」

「馬鹿か、貴様は! 無間龍の力を知らないからそんな事が言える!」

「そうよ! ただのメッセンジャーじゃあ駄目なのよ! あの腹立つキンキンドラゴンと戦って、ぶちのめさなきゃ」

やかましいわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


最後のヴェールから凄い声が響く。つい動きが止まってしまい、慌ててそちらを見た。

するとヴェールがはじけ飛んで、中から赤いクマ型怪人が登場。がっしりとした体型で、両手には爪。

頭部は白いポニテになっていて、胸元にクマの装飾を装備している。赤い肉体に黒い拭くや茶色の半パン――どう見てもまともじゃない。


「アンタは」

「貴様とは初めてだったなぁ。ワシは怒りで力を司る」


そこで怪人から黒いオーラ――臨気が出る。いや、これ違う。カタ達が出していた臨気よりどす黒くて、とっても深い。


「大地の拳魔――臨獣ベアー拳のマク!」


まるで間欠泉みたいに吹き出したオーラが、空気や場の床を揺らす。てーか、なんかひび割れが走り始めた。


「な、なにこれ!」

「これが怒臨気だ。聞いているであろう」

「臨気の上位バージョン……!」


恭文から詳しく聞いたところによると、マクだけしか使えなかったらしい。でも理央さんも後々開眼したそうだけど。

怒りによって更に力を増す、究極の臨気。ジャンさん達が使える過激気の対、だっけ。


「おい小僧! リンリンシーもなにもするな! 貴様らの出る幕はない!」

「だからお前達が出るというのか!」

「当然だぁ! 奴との因縁はワシらの方が長い! それに二人より三人と言うだろ!」

「だからアンタも待て!」


声を張り上げ、マクを止める。するとギロリとこっちを睨んできた。


「なんだ、小娘」

「あたしがやるって言ってるじゃん! アンタ達も地獄になんか落とさない! てーか……まだラゲクに一本取ってないし!」

「あむちゃん」

「ふん、貴様になにができる! 相手は神に等しき無間龍だぞ!」


だったら……一気に踏み込んで、激気を右拳にまとわせた上でストレート。でもマクは拳を避ける事もせず、胸元で受けた。

なに、これ。なにかの鉄板みたいに硬い。それで全然、動きもしないし。


「……ほう、悪くはない。だが」


そこでマクの体から怒臨気放出。その衝撃であたしの体は簡単に吹き飛ぶ。


「きゃあ!」

「軽いわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


地面に叩きつけられるかと思ったら、すかさずラゲクが受け止めてくれる。


「あ、ありがと」

「もう、いきなりマク様に喧嘩売るなんて……無茶苦茶ねぇ」

「全くだ! それにな新しき若獅子、二人は単純にはっぱをかけるだけでなく」

「もういい」


マクは慌てるカタ達を尻目に、自分の席へ戻る。乱暴に腰掛けたかと思うと、理央さん達を指差した。


「理央、メレ、この生意気な小娘に修行をつけてやれ」

「はぁ!?」

「なんだと」

「新しき若獅子――なぜカタがそう呼ぶか、お前達も気づいているはずだ」


二人やカタが顔を見合わせる中、今度はあたしがマクに指差しされる。


「おい小娘、なぜ小僧達が蘇りたいか、教えてやろうか」

「まずあたしの名前はあむ」

「聞け!」

「はいー!」


やばい、どっかの怖い先生みたい! ていうか空海のおじいちゃん!? 覇気が凄いし!


「万が一ゲキビーストを使って戦う時、あのトライアングルの力となるためだ」

「……ゲキビースト?」

「若獅子とリンリンシーのゲキビーストは、ジャン達トライアングルのゲキトージャと合体する事ができる」

「マジ!? でも流派違ってたんだよね! ていうか敵対!」

「あら、あむちゃんにしては勉強不足ね。臨獣拳と激獣拳は、元々一つの流派だったのよ?」


……でしたよねー。でもほら、敵対してたのに、合体する機会があったのかって疑問じゃん。そういうところからなんですけど。


「貴様が小僧達に言っただけでは足りん。それを通すのであれば、今すぐに二人のゲキビーストを受け継げ」

「それができなきゃ、結局口だけって事かな」

「そうだ。無理だと思うならもう邪魔をせず、言う通りにしろ」

「やるよ」


ラゲクにお礼を言った上で、マクが売ってきた喧嘩をガッツポーズしながら買う。


「言ったじゃん、絶対認めないって。だから、絶対に修得する!」

「貴様、本気か」

「本気も本気!」

「はぁ……馬鹿だわ、コイツ」

「そうねぇ。でも私、あむちゃんのこういうところ大好きよぉ」


なんでかメレさんが呆れて、頭をかきむしる。それでも二人は下がり、カタ達もあたしから距離を取った。


「臨気――凱装」


改めて二人は、あの変身形態を取る。黒と緑のオーラが装甲となり、黒いゴーグル型の瞳であたしを見据える。


「では俺達も本気でいかせてもらおう」

「時間もないし、無理だと思ったら強制的にここからたたき出すわよ?」

「上等じゃん!」

「話はまとまったわね。じゃあ」

「早速修行――開始だ!」


カタが左手を上げたところで、あたしは全速力で飛び込む。メレさんの足払いを避けながら、まずは全力で右飛び蹴りした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あむを龍可とシルビィに任せ、僕はマスター・ジミーと湖畔近くへ移動。

太陽で煌めく湖畔を一望してから、マスター・ジミーが僕へ振り返る。


「無間龍との戦闘なら、他のスーパー戦隊の力を使えばとも思う。お前ならキャラなりもあるだろう」

「リインフォース・ライナーですね。ですが相手は神に等しき幻獣」

「しかも不老不死ともなると、楽ではないだろうな……もぐ」


僕は神様より、おのれの食欲が楽じゃないよ。エンゲル係数上がりっぱなしだし。てーかその豚まんはどこから手に入れてきた。


「さて恭文、お前に問う。黄臨気とはなんだ」

「……激気から変換した、臨気ですよね」

「それだけではないだろう。お前ならとっくに気づいているはずだ」


どうやら概要だけでは満足してくれないらしい。本当はもっと確信を得てから話したかったんだけど。

胸元に右手を挙げ、目を閉じて深呼吸。そうして集中すると、胸の奥に降り積もっている力を感じる。

それは例えるなら黄色くて、力強い光。それを感じていると、自然といても立ってもいられなくなってしまう。


しかもその気持ちのままに、黄色い火花が走る。


「お兄様、火花が!」

「おい、また変換に失敗してるぞ」

「違うよ、これは……違う」


今までどうして気づかなかったんだろう。火花が走ると、光が少しずつ大きくなっていくの。

一旦目を開けると、マスター・ジミーは満足そうに頷いた。


「やはりか。いつ気づいた」

「昨日の夜……ですね。この火花も、変換失敗っていうのとはなんか違うなと」

「その通り。それがお前の臨気――黄臨気だ。恭文、黄臨気は初日で完成していたんだよ」

「「「はぁ!?」」」

≪なの!? ど、どういう事なの! 主様は修行中なはずなの! それが初日で完成って!≫


マスター・ジミーは右手をすっと挙げ、そこに黄色い火花を走らせる。


「黙っていたが臨気黄変によって変換された気は、特殊な性質を帯びる。
我慢する――つまり苦痛を糧に生み出されるんだ」

「苦痛!? じゃああの火花バチバチーっていうのは! 変換がちゃんとできてないからじゃ!」

「その通りだ。自傷行為に走る事で、強引に変換していたんだよ。苦痛が自身のうちで多くなければ、どうしてもこうなる」

「解せませんね。なぜ自らを傷つけなければ、変換できないのですか。お兄様はドSなのに」


シオン、それが特性……そういう話じゃないよね。ぶ然としながら髪をかき上げなくていいから。


「安心しろ、俺も全く同じ事をやっている。アレが単なる反発現象ではないと、理解するまでにかなり時間をかけた。
そしてこれが臨気黄変――引いては黄臨気・紫激気の使用に関する制限だ。戦い始めで使おうとすると、上手く変換できん」

「では戦ってストレスなり、緊張なりが積み重なっていると溜まりやすくなるのか」

「その通りだ。もちろん少量ずつの自然変換・蓄積も可能……というか、本来臨気黄変はそうして使用するゲキワザだ。
……そうそう、お前にやらせた事も意味があるぞ。体に変換プロセスを刻む必要がある」

「あのビリビリーを超えないと、自然変換もできない。てーかできるわけがない」


そもそも本当の意味で自然蓄積するものなら、ジャンさん達だって使えるはずだしなー。

最初に集中的にビリビリさせる事で、文字通り体に染みこませると。

過去のマスター・ジミーは自然とその道筋を辿り、黄臨気を習得したわけか。


でも苦痛――ストレスや痛み、だよね。臨気黄変だけでも切り札になるじゃないのさ。

戦って疲労する毎に、エネルギーが蓄積されていくんだもの。メインがガス欠になってもそれを使う方法もある。

確かにこれは、奥義だ。それ単体に意味はないかもだけど、活用方法を模索する事で可能性が広がる。

これがマスター・ジミー――八人目の拳聖なんだ! やばい、ドキドキしっぱなしだしー!


「今はあむのリメイクハニーで万全の状態だが、苦痛の蓄積で変換は更にしやすくなるはずだ。
……正直お前の習得速度は驚異的だよ。本来なら強制変換の段階へ進むまで、かなり時間がかかる」

「そう言えば二週間とか言っていたな。……もぐ」

「だが当然の事とも言える。俺も先日気づいたが、お前の気は外向きな性質も備えている」


あ、なるほど。最初に説明してくれたっけ。紫激気は内と外、両方に向かう感情から発動する。

だからベクトル変換もやりやすい……でもちょっと残念かも。だって修行中、すっごく楽しかったしさ。


「ではお兄様達にそこを黙っていたのはどうしてですか。理由そのものから偽っていましたよね」

「その答えは恭文が持っている。お前はこの修業をしている間、どう感じた」

「……楽しかったです」


目を閉じて、中にある二つの気を再確認。問いかけるように変換を続けると、痛みと一緒に感じるのはワクワクだった。


「そうだ、僕は元から知っていた。少しずつだけど、今までとは違う力を感じていた。
それが楽しかった。どうしてそうなるのか知りたくて、その先を見たくて、ドキドキでいっぱいだった」

「ドキドキの中に修行あり――未知なるものを知り、それを取り込む事こそ強さの秘けつ。
そのためには未知に対し、手を伸ばす勇気がなくてはいかん」

「勇気」

「そうだ。恐れを乗り越える勇気がなくては、ドキドキを楽しむ事など一生かなわん。
だが難しいものでな……恐れがなくては、強い勇気を絞り出す事はできないのだよ。
それでは乗り越えた時の自分をイメージして、ドキドキできない。……お前は、もう気づいているはずだ」


……そっか。そういう事だったんだ。左手で胸に手を当て、改めて溜まっている臨気に感謝。

僕が紫激気を使えたのは、本当に必然だった。だって僕、ドキドキするだけじゃ物足りなかったもの。

手を伸ばしてたくさんのものに触れたり、助けたいと思った人達を助けたり――それも勇気。


勇気は決意って意味だけじゃない。外に対して、手を伸ばしていく感情でもあった。


それ自体は違うかもしれないけど、そこに至るまでのプロセスを進む、原動力になっている。

昔みたいに知る事を怯えていたら、たまごを育てる事を怖がっていたら、ここになんていなかった。


それで最初から臨気黄変の正体が分かっていたら、きっとこんなにドキドキできなかった。

分からない事が修行だったんだよ。分からないから、見えないから、ドキドキできる。

恐れても乗り越えるために、ありったけの力を絞り出そうとする。


そういう気持ちが、臨気黄変に必要なんだ。今なら、できるかもしれない。

胸が震える中、慌ててスケッチブックを取り出す。そこには初日に描いた、夢の形。


「じゃあゲキてんこ盛りフォーム、できますか!?」

「もちろんだ!」


マスター・ジミーは僕の肩を強く叩き、目をキラキラさせる!


「中間試験はこれにて終了! あとはあれを仕上げて決戦に挑むぞ!」

「はい! おっしゃー! やるぞー!」

「あぁ!」


こうしてゲキてんこ盛りフォームの構築がスタート。ふふふ……待っていろよガイアーク!

新フォームで奥歯ガタガタ言わせてやる! ゲキてんこ盛りフォームの力に恐れおののくがいいわ!


(第51話へ続く)







あとがき


恭文「というわけで二〇一四年二月二日、午後七時半頃七百十万Hit達成。
みなさん、いつもありがとうございます。とまかの第51話です。お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。えっと、今回はスーパー戦隊のVSシリーズだね」


(ゴーオンジャーVSゲキレンジャーですな)


恭文「まぁ各キャラの紹介やなんかは次回も含めつつ……だね。前回はゲキレンジャー組、一回出てからの参戦だったけど」


(今回は炎神達もいるので、割りとひっちゃかめっちゃかです。
そして今回も読者アイディア多数満載。アイディアを下さったみなさん、本当にありがとうございました)


フェイト「まずは走輔さん達からやって、炎神達も戦闘しつつって感じかな」

恭文「そうそう。そして奪われたタマタマ」

フェイト「だ、駄目ー! またそうやっていじめるー! た、確かにそういうところに」

恭文「はい黙れ!」


(ぐりぐりー)


フェイト「ふぇー!」

恭文「とにかく出てきたヌンチャクバンキとメカを倒すため、修行開始。なおあれは原作そのままです」

フェイト「……無理だよ、あんなの! いきなり過ぎるよー!」

恭文「自分で見いだすんだよ」

フェイト「死しか見いだせないよ!」


(閃光の女神、涙目です)


恭文「そしてあむと僕も修行開始。まぁあむはいいとして、僕はゲキてんこ盛りフォームだよ」

フェイト「だからそれださいよ!」

恭文「でもオールドラゴンは一話出すのに一千万かかるんだ。みんなー、オラに元気(現金)を分けてくれー」

フェイト「こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


(クラウドファンディングするなら、ちゃんと計画を作りましょう)


恭文「分かってるってフェイト、ドラゴタイマーは作ったから」

フェイト「どうやって!?」

恭文「太陽に跳ばされそうだった白の魔法使いを助けて、作らせて、その上でまた太陽に跳ばした」

フェイト「それダーグの代わりに跳ばされたのじゃ!」


(注:拍手のお話です)


恭文「大丈夫大丈夫。もうなにもできないよう、真っ裸にしたから」

フェイト「余計にひどいよ、それ!」


(『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
『ヤイバァァァァァァァァァァァァァァ!』)


フェイト「また関係ない叫び入ってくるし! うぅ、ヤスフミの馬鹿ー!」

恭文「フェイト、劇中の自分を鑑みてる?」

フェイト「はう!」

恭文「なので今日もお仕置きだね」


(軽く頬を撫でてあげると、閃光の女神はぽかぽかぽかー)


フェイト「うぅ、ヤスフミの馬鹿馬鹿馬鹿ー!」

恭文「だからなぜ叩く!」


(そして本日は真城りまの誕生日です。りま、お誕生日おめでとう。
本日のED:真城りま(CV:矢作紗友里)『いつかはロマンス』)




恭文「というわけで、お誕生日おめでとう!」

あむ「りま、おめでとうー!」

ラーナモン・クロスクラウン≪『りま様、おめでとうございます!』≫

カルマーラモン『姐さん、おめでとう!』

クスクス「りまー、おめでとー♪」


(ぱんぱかぱーん♪)


りま「ありがとう。やっぱり、こういうのっていいなぁ」(そっと蒼い古き鉄の腕に抱きつく)

恭文「……なぜ僕に抱きつくんでしょうか」

りま「あら、いいじゃない。私達はこういう関係なんだから」

恭文「いつそうなった!?」

あむ「それでりま、今年の目標は」

りま「そうね、なぎひこの存在抹消」

あむ「また敵意向けてるし!」

りま「または佐倉さんのコミュ力向上」

あむ「……あー、最近できた後輩だっけ」

りま「そうなの。でも佐倉さん、なかなかコミュ障が解消されなくて」

恭文「大丈夫だよ、佐倉さんは頑張ってるよ。きっとその願いは叶うよ」


(おしまい)








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