小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第37話 『Jの世界/飲み込む闇』
前回のあらすじ――馬鹿どもがまたまたやってきました。失踪していた人が見つかるかもしれません。
結果正体不明の仮面ライダーが、アンデット達を強襲。剣持ちが突撃し、モールアンデッドの刺突を右薙に払う。
そのまま切り込むと、左側からモスアンデッドが飛しょう。飛び込んでくるそれに。
「おりゃあ!」
槍持ちが上から襲いかかり、唐竹一閃。背を叩き、地面へと落とす。
脇に着地した槍持ちは、モスアンデッドが起き上がる前に右足で蹴り上げ転がす。
その背から殴りかかろうとしたトータスアンデッドへ、剣持ちが立ちふさがり逆袈裟一閃。
盾で防がれても気にせず袈裟の斬撃を放ち、押し込んで距離を取らせる。少し遅れてボウガン持ちが踏み込む。
遠距離から攻撃せず、弓部分の刃を殴りつけるように振るう。モールの肩に一撃入れるも、二時方向からマンティスが襲う。
……しょうがない、変身は後だ。ドライバーを外して駆け出している間に、ボウガン持ちへ袈裟一閃が打ち込まれる。
鎌の一撃をボウガンで受け止め、強引に押し返そうとする。でもそこでトータスアンデッドが背後から襲い、左肩にかみ付く。
「夏美!」
剣持ちが叫んでいる間に、零距離へ踏み込む。まずはマンティスアンデッドの左わき腹へ、右フック。
「陸奥圓明流」
それから地面を踏み砕き、その衝撃も加味して拳を突き出す。
「虎砲もどき!」
するとマンティスの体から火花が走り、大きく吹き飛ばされた。
すぐに飛び上がり、しつこく食らいつくトータスアンデッドへ左肘打ち。
コイツはすっぽんみたいにかみつくから、外部からなんとかしないとどうしようもない。
普通なら無理だね。でも僕なら……肘で頭頂部を叩かれたトータスは、呻きながらボウガン持ちから離れた。
数歩下がるものの、すぐに僕へ向かって左爪での引っかき。それをかいくぐりながら回転し、左回し蹴り。
胴体を蹴り飛ばし、数メートル転がってもらう。着地すると、ボウガン持ちが掴みかかってきた。
僕もそれに合わせて、後ろへ振り向く。
「余計な真似すんじゃないわよ! てーか生身でアンデッドに」
馬鹿を言うので腕を捻り上げ、一気にお姫様抱っこ。右側へ回転させながらほうり投げる。
「きゃ!」
右側から飛びかかってきたマンティスは避ける事ができず、二人は正面衝突。ボウガン持ちは地面に落ちた。
そうして隙を作った上で跳躍。マンティスの頭部を蹴飛ばし下がらせる。踏み込む……いや、駄目だ。
トータスから鉄球が飛んできた。跳躍し、倒れているボウガン持ちの上を取りながら一回転。
右回し蹴りで百キロはある鉄球を蹴り返し、トータスの胴体へぶつけて倒す。更に回転し、ボウガン持ちの左脇へ着地。
モスとモールも、槍持ちと剣持ちに徹底的に斬られて膝をつく。ボウガン持ちは不満そうに立ち上がった。
「アンタねぇ……!」
「夏美、集中しろ!」
「ああもう……下がってなさい!」
こっちを突き飛ばしにくるけど、すっと下がって回避。三人はそれぞれのカードを取り出す。
槍持ちは柄尻、ボウガン持ちは銃身の上、剣持ちは刀身側面――やっぱり剣持ちはブレイドに似ている。
≪≪≪Mighty≫≫≫
「……うぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
≪Mighty Impact≫
青白いエネルギーがカード上になって現れる。それはそれぞれの刃へと吸収された。
槍持ちは飛びかかるモスへ、唐竹一閃。緑の斬撃を受けながら、モスは交差――そして墜落する。
≪Mighty Ray≫
続くボウガン持ちトータスアンデッドへ跳びかかり……やっぱり馬鹿すぎる!
カウンターの拳に肩を叩かれながらも、頭や首を数度斬りつけ、胸元に銃口を突き立てる。
そうしてトリガーを引き、赤い光弾発射。零距離から一気に仕留める。
≪Mighty Gravity≫
そして剣持ちは腰を落とし、モールアンデッドへ疾駆――突き出されたドリルごと右切上一閃。
黄金色の斬撃が異形を斬り裂き、爆発を起こす。それは他の二体も動揺――そしてバックルが展開される。
バックルにはそれぞれのカテゴリー数が書いてあった。三人は右腰のカードホルダーからカードを取り出す。
なにも描かれていないカードをバックルへ投てき。カードは何度も見たように、回転しながら飛ぶ。
カードがバックルに突き刺さると、アンデッドが緑色の光となって吸収されていく。
そしてカードにアンデッド達の姿と効果名が描かれ、再び三人の手元へ戻る。それをキャッチして、封印終了。
あとはマンティス……ち、逃げられたか。引き際のいい事で。……それを見計らったように、始さんがこちらへ来る。
お願いした通り、じっとしてくれてたみたい。でもコイツら、始さんには無反応だった。
三人は展開していたバックルを閉じる。すると先ほども現れたカーテンが再び出現。
自らへ迫るそれをくぐり、三人は変身を解除した。……やっぱり、間違いない。間近で見て確信した。
でもどういう事かと思っていると、女が僕へ振り返り右平手。でも受けてやるつもりはないので、左手で軽く止める。
「いきなり暴力はないんじゃない? 素敵な顔が台なしだ」
「うるさい! アンタが邪魔するから一匹逃がしちゃったじゃない!」
「おぉおぉ、八つ当たりは怖いねぇ」
邪魔な手を払うと、今度は金的蹴り。それを左へ避けながら、かかとに手を当て一気に持ち上げる。
すると女は一回転し、背中から地面へ叩きつけられた。あー、痛そう。
「力任せで刺々しいだけ。中身がまるで伴ってないのに、また偉そうだなぁ」
「なによ……!」
「もうちょっと柔らかく戦うべきだね」
「おいテメェ、いきなりなんだ! 素人が」
今度は槍持ち――ダウンジャケットが詰め寄ってくる。でもその前に、スーツの男が右手で制した。
「彼は素人じゃない。第一種忍者だ」
「はぁ!? 純一、なに言ってんだよ! こんなガキが第一種忍者なんて取れるわけねぇっつーの!」
しょうがないので一足飛びで踏み込み、顔面を蹴り飛ばす。鼻から血を流しながら、失礼なダウンジャケットは倒れた。
「納得してくれたかな、三流」
「確か火野恭文さん、でしたね。お噂通り、随分乱暴な方だ」
「嫌だなぁ、そこの恩知らずと節穴には負けるよ。で、僕の仕事を知ってるって事は、介入理由も」
「当然の事と考えています。一応でも公務員のあなたが、放置しておけるわけがない」
とか言いながら純一とやらは、ダウンジャケットを揺り起こす。
すぐに意識を取り戻したダウンジャケットは僕へ飛びかかろうとするけど、それは抑え込む。
ついでに僕も右に動き、背後から飛んできた右ストレートは回避。打ち込んだ女の手を掴み、軽くねじって投げ飛ばす。
愚かなダウンジャケットの隣へ叩きつけてあげたので、実に満足だろう。三人は敵意を向けながら、ゆっくりと起き上がった。
「じゃあ次に続くコンボは分かってるよね。事情聴取だ」
「すみませんがそれは無理です。僕達も事情があって動いているので」
「その事情を」
言いかけた瞬間、純一が懐に手を忍ばせる。……踏み込もうかと思ったけど、体が反射的に後ろへ跳んでいた。
奴の懐からこぼれたカプセルが強烈に発光。距離を取っていたのと、両手でガードしていたので目は潰されていない。
でも気配はバッチリだ。……だけどあえてなにもせず、バイクに乗って走り去る三人を見逃す。
CBR600の心地いいエンジン音が響く中、光――閃光弾は効力を喪失。場は一気に静けさを取り戻す。
「火野」
始さんも大丈夫らしく、目をしばしばさせながら僕の脇へ。
「どうして見逃した」
「尋問しても口を割らなそうですから。なので」
左手で携帯を取り出し、ポチポチと操作。出したマップに、赤い光点が点滅しながら現れる。
それは川越街道へと続く道へ出て、そのまま水道橋方面へ向かおうとしていた。……はい、発信機です。
あのヒステリックグラマーを投げ飛ばした時、チョチョイとね。束特製だから、大抵のジャミングは無効化できる。
「根っこから探りましょ」
「いつ仕掛けた」
「あのじゃじゃ馬が殴りかかってきた時。でも惜しいなぁ、もっと柔らかくなればいいのに」
「……口説くなよ」
なぜか始さんが、僕を警戒しながらそう言う。……おかしいなぁ、どういう事だろう。
とにかく……伊織と合流して、虎太郎さんと睦月さんも呼び出すか。
そう思っていると、始さんが携帯を取り出し操作。代わりに連絡してくれるみたい。
「すみません」
「気にするな。だがあれは」
「おかしいですよね」
「あぁ」
アンデッドが解放されている事もおかしいけど、習性ガン無視だっていうのがなぁ。
そもそも徒党を組んでいたっていうのも……アンデッドは基本単独行動。自分以外のアンデッドは全て敵だから。
にも関わらずこれだし、僕達が知るアンデッドは違うところが多すぎる。でも気配はそれだったし……うーん。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
手掛かりなしだし、けが人を引きずっては長期行動もできない。しょうがないので一旦春香達のところへ。
「あ……蒼凪さん! 貴音さん!」
「駄目、空振り。先回りされてた」
「えー! じゃあお目当てのライダーいなかったのー!?」
「兄ちゃん、本気出しすぎだよー!」
そう、これが奴の本気。僕はそれに……腹立たしさで頭をバリバリとかく。
それより……近くのベンチに寝かされてるもやしだ。痛みに呻き、ふだんが嘘みたいに苦しんでる。
「ユウスケ」
「お前が回復魔法かけたおかげか、大分楽そうだよ。だが、なんだよこりゃ。なんで火野の恭文はここまで」
「……僕が人間だからでしょ」
疑問に端的な答えを返しながら、左手をかざす。こうなるとバイクを調べるしかないもの。
結界が解除され、消えていたバイクが突如出現。……でもその瞬間、猛烈に嫌な予感が襲う。
≪TAKE OFF≫
バイクのエンジンがかかり、搭乗者なしで加速。それどころか後部が変形・展開し飛行機みたいになった。
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
全員が声を上げる中、結界を再展開……でも遅かった。その前にバイクは視認できなくなり、彼方へと消え去る。
僕は怒りに打ち震えながら、伸ばした左手を下ろすしかなかった。
「な、なんなのよ今の! なんでバイクが飛ぶの!」
「律子さん、落ち着いて。もしかしたらだけど……ほら、あのバイクって篠ノ之博士が作ったーって」
「あ……まさか、ISと同技術!?」
あずささんの推測で、春香達はただただぼう然とするばかり。……ちょっとちょっと、ISまであるんかい!
いや、篠ノ之束って聞いた辺りから嫌な予感してたけど!
……ISというのは、インフィニット・ストラトス。そういうラノベがあるんだよ。
ほんと、どうなってんのよこの世界は。ライダーだけじゃなくて、そんなのまでいるなんて。
いや、それどころか……アイツはなに! こっちの行動、完璧に読みきってやがる! 結界の解除時間まで!
「……なんなのこれ。同じ『恭文』なのに、プロデューサーが尽く上をいってるの」
「まるで詰め将棋ですね。ですが……蒼凪殿」
「なにさ」
「あなたはなぜ、限界を突き破ろうとしないのですか」
彼女が……という意味なら、答えは決まっている。でもそれだけじゃないので、つい言葉に詰まる。
「そして同時に、あなたはそれを恐れている。違いますか」
「それは」
貴音の言葉にはなにも返せなかった。貴音は暗にこう言ってもいる。恐れを乗り越えられなければ、上を取られ続けるだけだと。
恐れ……確かに挑戦しない事は逃げで、恐れているとも取られる。……恐れ?
その言葉がとても引っかかり、改めてブレイドのあれこれを脳内リピート。まさか、アイツ……!
「一旦、写真館へ戻るか」
導き出された答えにがく然としていると、ユウスケが僕の背を軽く叩いてきた。
「士もちゃんとしたとこで寝かせなきゃいけないしさ。恭文、転送頼めるか」
「……分かった」
とりあえず考えるのは後回しらしい。術式発動――みんなまとめて、転送魔法で765プロ社内へ跳ぶ。
みんな安どする間もなく、もやしを抱えて写真館前へ。でも、そこは。
「ちょ……千早ちゃん!」
「なによ、これ」
僕とユウスケは言葉を失うしかなかった。そこにあったのは、真新しい美容室。
今も美容師さんがお客さんの髪を、せっせとカット・シャンプーしていた。
≪写真館じゃ、ありませんね≫
「じゃ、じゃあ……夏海さん達はどこいっちゃったんですかー! 蒼凪さんー! ユウスケさんー!」
「……僕に聞かれてもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「同じくだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ユウスケと二人、頭を抱えるしかなかった。やばい……やばいやばいやばい!
写真館が勝手に移動したとかなら、僕達どうすればいいの!? あれか、またフェイトのドジか!
数ある多元世界の中から、みんなを探すのなんてほぼ不可能だよ! いや、そもそも移動手段……あるけどさ!
でも探す手段が……不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
世界の破壊者・ディケイド――幾つもの世界を巡り、その先になにを見る。
『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説
とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路
第37話 『Jの世界/飲み込む闇』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
フェイトさん達と外へ出た結果、ここは……ミッドと判明した。
見慣れた街並みに二つの月、それに遠くで見えるミッド中央本部。……間違いない。
「ここ、私達の……父さん、スバル!」
私達の世界……思わず飛び出しかけたところで、夏海さんとフェイトさんに中へ引っ張り込まれる。
「ちょ、二人とも! 痛い痛い痛い! 夏海さん、髪掴んでる!」
「あ、すみません!」
夏海さんが慌てて離してくれたので、廊下の真ん中で一旦ストップ。うぅ……傷にならなきゃいいけど。
「でもギンガさん、駄目ですよ。ここ、敵地かもしれないって言ってたじゃないですか」
「あ……で、でもそれなら余計に行かなきゃ!」
「だから駄目だよ、ギンガ。……ね」
フェイトさん、脇のフォークに問いかけないでください。あとね、フォークも折れ曲がらなくていいの。
……これなにー! フォークがペット扱いになってる! フェイトさん、絶対入れちゃいけないスイッチ入れたよ!
「あー、なんだ」
ヒビキさんがやや困り気味に頭をかく。……そっか、ここが最終目的地って言ってたものね。
そうだそうだ、落ち着け私。なぎ君達もいない状態で世界移動しちゃってるし、戦える人もヒビキさんだけ。
もしそれでワームとかが出てきたら? 又はその、アンデッド。冷静に行動しないと……見つかったらアウトだよ。
「とりあえず情報収集、しておくか。ここが本当にフェイトちゃん達の世界かどうかも調べないとな」
「……はい。だけど外には不用意に出られないのに、どうすれば」
「だったらネットを使えばいいんじゃない〜?」
キバーラの提案に、夏海さんと一緒に拍手。それなら最近のニュースとかだけど、まだなんとかなるかも。
自然と胸元のブリッツキャリバーを取り出す。まずはこれでネットに繋いで、それから……かな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ネットを通じて情報収集した結果、あんまりにおかしい事ばっかり起きていた。
まず機動六課……とんでもないスキャンダルが発生していた。最高評議会と繋がっていて、事件の隠匿工作に当たっていたと。
そしてその事実を知った私となぎ君、フェイトさんは残りの機動六課メンバーに謀殺された……らしい。
そのためJS事件に関わった関係者を全て拘束。尋問……のはずが、そのうち数名は逃亡。
更に他の関係者も拘置所から逃げ出し、局はその……嘘でしょ、これ。
今私が見ているのは特設ページで、そこに失踪中の関係者全ての顔が載っている。
その一人一人に『指名手配』のマークが付けられているの。これじゃあ、犯罪者扱いじゃない……!
「……迂闊に飛び出さなくてよかったな」
ヒビキさんが私の頭に手を当て、撫でてくる。その感触である程度落ち着いてくるから不思議。
「それと一つ安心していい事がある。ギンガちゃん、この中にギンガちゃんの家族は」
「あ、います! これが父さんで……こっちが妹のスバルです! それに家族同然な子も!」
「エリオとキャロも指名手配されてるから、みんなは無事? でも、どういう事だろう。シルビィさん達もって」
GPOメンバーも同じく失踪していたみたい。関係者って話なのは分かるけど、これ、本当になんなの。
どうやらここが私達の知る世界かどうか、確かめられたらしい。余りにおかしすぎて、腰が震えてるけど。
「だけど、こんな……どうして」
「ギンガさん、ネットのニュース以外って見られないんですか?
例えばその、局の人しか見られないような情報網とか」
「あるには、ありますけど……でも」
「アクセスするのはやめた方がいいわよぉ。多分これ、スーパー大ショッカーの仕業だからぁ」
キバーラの言葉には頷くしかなかった。なぎ君が予測した通り、みたい。でもどうしよう。
これじゃあ街の様子を確かめる事もできない。もちろん一文字さんの治療だって同じ。
少なくとも私やフェイトさんが出ていったら……! なら夏海さんやヒビキさん?
いや、駄目だ。二人もスーパー大ショッカーに顔を知られている。特に夏海さんは、鳴滝にしつこく接触されていた。
それで当初、なぎ君が本物の悪魔じゃないかって疑うレベルだったし。一人にしたらなにがあるか。
と、とにかく落ち着け。深呼吸して、右手で軽く胸を撫でる。……よし、やっぱり深呼吸って効果がある。
「じゃあ以前話していた通り」
「管理局は乗っ取られている――そう考えた方がよさそうねぇ。でも滑稽ね〜。
ショッカーみたいな事をしていた組織が、より大きな組織に食われちゃうんだものぉ」
「もうキバーラ! 笑い事じゃありませんよ! ……これから、どうしましょう。
キバーラの言う通りなら、ギンガさんが出て『違う』とか言っても駄目ですし」
「あぁ、そんな真似したら捕まってなにされるか分かったもんじゃない。……とはいえなぁ」
ヒビキさんが腕組みし、窓の外を見やる。……馴染んだ光景はすぐそこにある。
でもとても遠く感じて、手を伸ばす事すらできない。それが今の私達だった。
「少年達をアテにもできない。ほれ、少年達は移動手段がないだろ」
「あ……!」
「一つあるにはあるが、それを今の少年が使いこなせるかどうか」
やや困った顔をしながら、ヒビキさんが椅子に座り直す。
「ヒビキさん、それって」
「ハイパーゼクターだよ」
「……あ、そっか。ヤスフミ、言ってましたよね。時間や次元を超える力があるって」
「だが今の少年には使いこなせない。少年には恐れがあるからな。
……少年、最近かなり荒ぶってただろ。まぁ二人が馬鹿してたせいもあるけどさ」
「「……ごめんなさい」」
フェイトさんと揃って謝ってしまう。はい、馬鹿でした。私達結局、自分の事ばかりで。
「あれってさ、そういう壁を乗り越えようと足掻いてたんだよ。選ばれし者――太陽になるため?」
「それが、恐れなんですか? でもあの人、傍若無人の外道ですよ。悪い人ではないですけど悪人です。恐れるものなんて」
「あるさ。俺にだってあるし、夏海ちゃんにだってある。……もっと向き合わせられたらなぁ。いや、ホント失敗した」
ヒビキさんが反省しきりな表情で俯き、首を振る。その言葉が更に突き刺さった。
私には、なぎ君がなにを恐れているのか分からない。せいぜい私達と同じとしか……でも違っていたら?
というか、私が怖い。今までだってそうだ。私達の都合で振り回して、なぎ君のやりたい事を尽く邪魔してきている。
私は……なんなのかな。一応、彼女候補のつもりだった。でもこれじゃあ、意味ないよ。
力になろうとして、足を引っ張って……本当に今更なのに後悔して、下を見て泣いてしまった。
知っていたはずだった。分からなきゃいけなかった。なのに結局流された自分が腹立たしくて、何度も泣き叫ぶ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
写真館へ戻ってきた……訂正、戻ろうとした。なのに、これなに。写真館はなくなっていた。フェイト達とも連絡が取れない。
しょうがないので事務所の応接室にもやしを寝かせて、一旦休憩。……どうすんのこれ!
「蒼凪君、門矢さんは」
「回復魔法は継続してかけますから、二〜三日中には。それより伊織は」
「駄目なの! 伊織の携帯をGPSでって思ったんだけど、反応なくて!
……あとはフェイトさん達しかないわ。幾らなんでもあのフォークなら」
「駄目です」
携帯を悔しげに持ちながら、春香がデスクから立ち上がる。春香、そっちの連絡を担当してくれてたんだ。
「フェイトさん達、今回は絶対協力できないって」
「はぁ!? いやいや、おかしいじゃない! どう考えても恭文君が悪いのに!」
「私もそう言いました。事情があるなら話せばとも……でも駄目なんです!
話しても『そっちの恭文』は絶対に使う! だから渡さないって!」
「マジかよ……! 一体どうなってんだよ、ブレイドってライダーは! どんだけ曰くついてんだ!」
つまりチートフォークの力も借りられない。いや、そんなオカルト信じたくはないんだけど。
ダブタロスが心配そうに近づき、僕へスリスリしてくる。……それで乱れていた心が落ち着いてきた。
ダブタロスを撫で、ありがとうとお礼。それでダブタロスはプルプルと身を震わせた。
≪その上フェイトさん達は写真館ごと消失。なんですかこれ、追い込まれてますよ≫
「まさかフェイト、ドジかまして鎖をガラガラ〜ってやったんじゃ」
「……あり得ないって言えないのが悲しいよ。だがどうしてなんだ。なんで恭文じゃ駄目なんだよ。
ブレイドの事だって知ってるし、危険も承知の上ならアンデッド化する事だって」
「それでも追い込まれたらやらかす。そう思われてんだろうね。……僕の人生、どんだけ信頼ないんだろ」
「……それだけじゃ、ないんじゃないかな」
だったらと考えていると、美希が小さく呟いた。
「というか、多分プロデューサー二号も考えてるんじゃないかな。もしかしたらーって」
「……実は」
「例えばだよ? プロデューサーも前に、ブレイドになった事があるとか」
「えぇー! だ、だったらずるいですー! 蒼凪さんだってなってもいいじゃないですかー!」
「そうじゃないよ、やよい。美希が言いたいのはね……その時になにか、大きな問題が起こったんじゃないかって事」
……みんなが一斉にこっちを見るので、頷いておく。確かに僕とアレは完全に別人。
でも顔や名前、性別に体型までもが同じ。だから渡すのを避けているのかと、一応ね。
それに……ブレイドのライダーは、問題がかなり多いからなぁ。融合云々だけじゃないのよ。
「で、でも基本別人じゃない! そこまで気にする必要があるの!?」
「あると思うな。というか律子……さん、アンデッド化しちゃうってだけで大事だよ?」
「そうだったー!」
「……私、もう一度フェイトさん達にお願いしてみます!」
「あ、俺も話させてくれ! 恭文……お前はとりあえず、落ち着け」
ユウスケになだめられ、僕は軽く伸び。……確かに、僕は半端な事ばっかりしてる。
それじゃあ駄目って事か。今のままじゃあ選ばれし者なんて、太陽なんてなれない。目指すのは、もっと先。
ダブタロスを手にした時、僕はどう思った? 見えていたものは……ちゃんとここにあるのに。
「失礼するよ」
穏やかな声が玄関から聴こえてきた。慌てて立ち上がり振り向くと、そこには壮年の男性。
青いターバンにゆったりとした薄水色の服――テレビで見たそのままの格好に、腰を抜かしかける。
「あの、あなたは」
「律子!」
正体に気づいたっぽい貴音が、律子さんや他のみんなを左手で制する。
「え、なに!? 貴音、どうしたのよ!」
「あなたは何者ですか! 人間ではない!」
「え……!」
「よく分かったね。だが君達と戦うつもりもない。私は」
「嶋昇……!」
どうしよう、ここで正体をバラすのは躊躇われる。だってこの人は、カテゴリーキングだもの。
アンデッドの中でも特に強い力を持つ、J・Q・Kの上級アンデッド。真の姿は……タランチュラアンデッド。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
僕こと蒼凪恭文はフェイトと一緒に、過密状態なデンライナーでのんびり。
もうほんと、大変だったよ。シグナムさんはどらぐれっだーを退治しようとするし、まだ同族殺しについて納得してないし。
……というか、新しい友達ができてリュウタとドキドキ。どらぐれっだー、めっちゃ可愛いんだよねー。
真司さんと渡さんはまた調査に出たので、リュウタとどらぐれっだーの遊び相手になっていた。
「ほれほれー。どらちゃん、あーん」
「かうー!」
リュウタがケーキのいちごを差し出すと、どらぐれっだーが笑顔でパクリ。口をもぐもぐさせ、嬉しそうに揺らめく。
「かうかうー」
「あは、美味しいー?」
「かうー♪」
「おー、よしよし。どらぐれっだーはいい子だねー」
リュウタと二人撫で撫で……まぁなのは達は疲れ切った表情だけど、気にしてはいけません。
「ヤスフミ……遊んでる場合じゃないよ! というか、ほんとどうするの!?
あっちの管理局、なんとかして止めなきゃいけないのに!」
「どうやってよ。僕やフェイトが出ていったら、確実に問題発生。
それはそこの馬鹿どもも同じだし、なにより戦力が」
「そ、そうだった……!」
「でもさぁ恭文」
ウラタロスさんがすっと近づき、僕達のテーブルへ腰かける。それからどらぐれっだーを軽く撫で撫で。
「釣り糸も垂らさずに相手を釣り上げようっていうのは、ちょっと虫がよすぎるんじゃない?」
「それはそうなんですけど、今回の場合垂らした瞬間竿ごと持ってかれますよ。相手の目的もさっぱりだし」
「確かにねぇ。そこさえ探れれば、なんとかなりそうなんだけど……仮面ライダーのいない、世界か」
そう、ライダーがいない世界だ。ライダー候補はいても、この世界を守る仮面ライダーとなると……本当にどうして?
こういう場合、貴重な資源云々かな。又は……落ち着け。冷静に考えろ。
今までの中にヒントはあるはずなんだ。奴らは全並行世界の侵略を考えている。
各世界の仮面ライダーを倒し、世界を征服する。でも同時に干渉しすぎたため、リセット現象は始まった。
奴らもそれは知っている。その上であの世界にも喧嘩を売った。そして士さんはそんな組織の元首領。
士さんが首領時代、暴れたのを中心に異変が起こり始めた。それは確かに、鳴滝が言うように破壊者。
士さんが暴れる事で世界は変化し、あの温厚な渡さんや他の人達でさえ、外道手段に走って致し方なしとしていた。
破壊の爪痕を新しい破壊によって消し去り、リセットした上で士さんを倒す。
そうしてリセット現象を止めようとしていた。……あれ、待って。リセット?
そしてライダーがいない世界……そこで強烈な寒気に襲われる。そうか、もしかして。
「ねぇ、それって本当にいないのかな」
僕と同じタイミングで、もしやと行き着いたのはウラタロスさんだった。全員がウラタロスさんの呟きに注目。
「亀ちゃん、それどういう事ー?」
「単に僕達が知らないだけで、ギンガさんルートの世界にも仮面ライダーがいるんじゃ。ほら、それなら襲われる理由も分かるよ」
「あぁ? 亀公なに言ってんだ。そんなのがいるなら、青坊主二号がとっくに気づいてんだろ。目ん玉キラキラさせてよ」
「つうか恭文なら関わるやろうなぁ。なにせ恭文やから」
モモタロスさんは両手で目をつり上げ、キンタロスさんはどっしりと構えながら納得顔。
でもなんだろう、なにかこう……僕の存在が激しく揺らいだ気がする。
「いやいや、先輩の馬鹿はともかく」
「なんだとぉ! 誰が馬鹿だオイ!」
「先輩だって。……金ちゃんまでそれはちょっとらしくないんじゃない? そのライダーが世界の外にいたとしたら、どうなるかな」
「外やて。つまりあれか、ディケイドやディエンドみたいに旅しとって……おい亀の字」
「恭文も気づいたよね」
「何度目かの確証ゼロですけど」
でもそれなら分かるんだ。というか、改めて振り返って気づいた。世界が全部消えたら、アイツらだって巻き込まれる。
それに巻き込まれないためにはどうすればいいか。なんらかの装置を使う? いや、無理だ。
これは『世界』の根幹に関わる、人知を超えた整理現象。でもリセットの先は予測がついている。
余計な枝葉――各並行世界は消滅し、一本化される。そうして『世界』の均衡は取り戻される。
全てがなくなるわけじゃない。木の幹だけは残るんだ。そしてこれは、渡さん達と同じ方法だ。……やばい。
各世界の同時侵略、全部この前段階だったんだ。もし僕達の考えた通りなら、ギンガさんルートは。
「ウラタロスさん」
「まぁキバの僕ちゃんと龍騎が戻ってから、また相談しようか。一応辻褄は合うし」
「えぇ」
「なんやなんや、うちらには話してくれんのか」
「でかすぎる釣り針ですしね。僕達も整理整頓したいんですよ」
ウラタロスさんが空気だったはやて達に、軽くそう言って流す。
そう、確かにでかい釣り針だ。でも突破口にはなるはず。アイツら、正気か。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
すっかり暗くなったけど、僕達はなんとか集合。虎太郎さんの車に乗り、郊外へと移動する。
奴らのバイクは新設されたらしい研究所に止められていた。そこはかなり広い施設で、外観も奇麗。
発信機の反応は……三流だねぇ。まだピコピコ鳴ってるよ。携帯でそれを確認し、みんなと一緒にジープから降りる。
研究所の表玄関を抜け、中庭へ入る。あとは内玄関へと進むだけ。……人の気配は全くなしか。
「ここね」
「うん」
「でもなんの施設だろ」
虎太郎さんがスマートフォンをいじり、首を傾げっぱなし。睦月さんも脇からのぞき込む。
「細かいデータが載ってないんだ」
「おかしいですね。恭文君は」
「同じく。登録されてない建物なんですよ」
「……いよいよ怪しくなってきたな。それはそうと、そこの三人」
始さんと同じ方向――近くの木陰を視線で指す。虎太郎さん達がぎょっとして、僕達から距離を取る。
「とっとと出てこい。出てこないなら、出たくなるようにするだけだが」
数瞬の沈黙が襲う。それを破りながら出てきた三人は、やっぱりアイツらだった。
スーツ姿の奴はともかく、チンピラとヒステリックグラマーは僕へ敵意むき出し。
「どうも先輩。まさかあなた達がカリスと」
スーツ姿の純一とやらは、笑顔で始さんを見る。それから睦月さんへ視線を移した。
「レンゲルだったとは」
「おいガキ、テメェさっきは良くも調子こいてくれたな」
「ちょっとお仕置きが必要かしらね、これは」
「弱い犬ほどよく吠える」
鼻で笑うと、二人が馬鹿みたいに睨んでくる。それを笑いながら右手でクイクイと手招き。
「変身してもいいよ? ハンデは必要でしょ」
「ざけんな! お前なんざ、変身しなくても潰せんだよ!」
威嚇しているところへ踏み込み、右ミドルキック。腹を蹴飛ばすと、ダウンジャケットは地面を滑る。
加減はしたから大丈夫。馬鹿はゲホゲホと言いながら、僕を驚きの表情で見る。
うん、そうだろうね。おのれと僕の距離、五十メートル以上はあったもの。それを一瞬で踏み込んだから。
「だったら言う前に踏み込めよ、チンピラ」
「チン……テメェ!」
「やめておけ」
そこで前方から、ノーネクタイスタイルな男が現れる。全身黒で、サングラス着用。
でも男はすぐにそれを外す。やや長めな黒髪を二つワケにして、目は切れ長。……間違いない。
『橘さん!』
「ダディ!」
そう、この男が橘朔也――仮面ライダーギャレン。剣崎さんの先輩で、BOARD所属の科学者でもあった男。
僕は愛着を込めてダディと呼んでいる。するとダディはなぜかズッコけた。
「おま……それはやめろと言っただろうが! そもそもどこから出たんだ、ダディって!」
「いや、ダディはダディですよ。ダディは雪山から転げたり、激辛パスタを笑顔で欲したり」
「おちょくってるだろ! お前、おちょくってる時だけダディって言うもんな!
……ほんと変わってないな。そう言えば名字、変わったそうだな。なにがあった」
「家の馬鹿どもとやり合いまして、絶縁を。まぁよくある話ですよ」
肩を竦めて簡潔に言うと、橘さんが静かに納得してくれる。ただ……やっぱり悲しげな顔ではあった。
「おい橘さん、なんで止めんだよ! コイツは昼間、オレ達をコケにしてくれたんだぞ!」
「ていうか今もよ! ちょっと懲らしめるくらいいいじゃない!」
「彼には変身しようと勝てない、むしろ地獄を見るぞ。
それよりもどういう事だ。報告になかったが、顔見知りだったのか」
橘さんが厳しめに睨みつけると、二人が顔を背けて舌打ち。なるほど、恥かかされたのは黙っていたと。
すかさず純一とやらが入り、申し訳なさげに頭を下げる。
「昼間、たまたま遭遇しまして。レポートで報告しようと思っていたのですが、遅れてしまいました。すみません」
「そうか。とにかく全員、中へ入ってくれ」
……気になる事はあるけど、まぁ昼間変身しなくてよかったって感じ? 僕達は足早な橘さんを追って室内へ。
中は照明が付けられている関係で、外よりも明るい印象……まぁ当たり前か。
でも内装も白が基調だから、やっぱ清潔感あるのよ。橘さんは徐ろにペンを取り出し、前へかざす。
どんどん進んでいる僕達の前に、一瞬だけ赤い網目が展開。でもそれはすぐ消え去る。……赤外線センサーか。
あれはペンじゃなくてスイッチだね。瞬間的に無効化されたセンサーを抜け、僕達は施設の奥を目指す。
「橘さん、栞さんと烏丸さんは」
「二人は別行動だ。俺がここ……というか、その三人を任されている」
「改めて――志村純一と申します。二人とも」
「……禍木慎(まがきしん)だ」
「……三輪夏美」
チンピラとヒステリーはぶ然としながら自己紹介。……一つ、謎が解けた。
やっぱあのライダーシステムは、烏丸さん達が作ったのか。レンゲル準拠なのは、一応アレが最新型だから。
そこでどうしてケルベロス――人造アンデッドかってところだよ。そこもマンティスアンデッドの存在で予測はできるけど。
「それで橘、一体どういう事なのよ。アンデッドはアンタ達が管理してたわよね」
「四年前――全ての戦いが終わった後、カードは厳重に保管されていた。
だが何者かが剣崎のブレイバックルと一緒に奪い去ったんだ。それも二回に分けて」
「二回、ですか」
「そして最近、解放されたアンデッド達まで出始めた」
「その犯人、一人は知ってます」
足を止め、懐からブレイバックルを取り出す。橘さんは振り返り、それを見て僕へ詰め寄った。
「それは……! まさか蒼凪、お前が!」
「違う違う! 恭文くん、ある人達が持っていたものを取り返したんだよ!
……その人達はどうもその、剣崎くんの知り合いから預けられたらしいんだけど」
「それで俺達に連絡してくれて、橘さん達の事も改めて探そうとしたら……これで」
「……スペードスートのアンデッドが出なかったのはそのせいか。しかし剣崎の奴、それならそうと言ってくれれば」
うわ、この話ですぐ信じてくれるんだ。でも睦月さんと虎太郎さんには感謝。
二人に視線でありがとうと言うと、揃って大丈夫と返してくれる。
「……やっぱアイツがバックルを持ちだしたんだ。じゃあ一回目はそれとして、二回目は……ねぇアンタ、やっぱり」
「スーパー大ショッカーだろうね」
「ショッカー? 昔いたという秘密結社か」
「それよりも規模が大きい組織ですよ。どうも全平行世界を征服しようとしてるみたいで。
バックルを預けられた連中、ソイツらとトラブった中でアンデッドと戦ってるんです」
「アンデッドを戦力として使っているのか。なんと愚かな」
それが本当かどうか、確かめるために橘さんを探してたんだけどなぁ。……でもこれで確定かな。
こっちのアンデッドが解放されているのは間違いないしさ。連中、みんなの苦労をなんだと思ってるのか。
「でも橘さん、どうして俺や相川さんになにも言ってくれなかったんですか。それなら」
「馬鹿、お前は就職活動中だろ。大事な時期によそ見してどうする」
「それすら吹っ飛ばすような事件じゃないですか! さすがに放っておけませんよ!」
橘さんは僕達を先導しながら、安心した様子で笑う。一時期の厨二病睦月さんに比べたら、凄い成長だものなぁ。
それは抜きに、ためらいなく力になると言ってくれたのが嬉しいんだよ。僕も昼間会った時、同じものを感じた。
でも残念ながら、睦月さんを呼んでも意味がなかったりする。……だって。
「……理由は俺達のカテゴリーAも奪われているから、だな」
「そうだ。俺のはなんとか無事だったが」
「じゃあ、クラブのカテゴリーAも……! 嶋さんと光も!」
「その通りだ」
名前の出た二人は、クラブの上級アンデッド。嶋さんはカテゴリーキングに属するけど、これがめっちゃいい人なのよ。
元々種の保存本能による闘争心が薄いらしくて、他のアンデッドみたいに人を襲ったりしなかった。
それどころか争いを止めるため、烏丸さんや僕達に協力してくれた。その中で結局、睦月さんに封印されたんだけど。
でもそれだって、睦月さんがクラブのカテゴリーA――スパイダーアンデッドに取り込まれていたから。
睦月さんを助けるため、わざと封印されて力を貸してくれた。その後押しをしたのが二人目。
光(ひかる)というのもクラブのカテゴリーQで、正々堂々とした戦いを望む女性。
バトルファイトを神聖な儀式と捉え、人を安易に襲ったりもしなかった。
睦月さんが厨二病発揮していた時も交流して……何度か本気で殴り合ったっけ。
テコンドー的な蹴り技を使っててさぁ、食らったら痛いのよ。でもそれがまた楽しくて。
睦月さんが若干嬉しそうなのは、二人に助けられたおかげだよ。もちろん……状況的に喜べないところもあるけど。
スーパー大ショッカーがアンデッドを解放したなら、二人だってどうなっているか。だから、あくまでも若干。
「だが出てくるアンデッド達はなぜか徒党を組んで暴れ、それぞれの習性も無視した行動を取る。
今日のようにな。それは上級アンデッドも同じだ。原因は一切不明で、こちらでも頭を抱えていたんだが」
「そのスーパー大ショッカーとやらが妙な仕掛けを施した。
だから奴らの習性が変わって……いや、特性が失われた分劣化した」
「かもしれない。……そこで俺達は、天王寺が使っていたワイルドカードに目をつけた。そうして新しいライダーを製作。装着者も選出した」
話している間に、僕達は妙に分厚い扉へとくる。橘さんが近くの端末に目を当て、スキャン開始。……網膜スキャンってやつだね。
「カテゴリーAが解放されている以上、先輩達がいても歯がゆい思いをさせるだけ。
橘さんと烏丸さん達はそう考え、僕達新しいライダーとご自分達だけで対処を。
……ただ戦闘能力で言えば、第一種忍者である火野さんには遠く及ばないのは否めませんが」
「だろうねぇ。ヒステリー持ちとチンピラって、もっと他にいただろうに」
「てめぇ……!」
「やめろ」
網膜スキャンを終えた橘さんが、僕達をなだめる。肩を竦め、開いたドアへと入る。
そこは不思議な空間で……まず目についたのは、ライトアップされた円卓。
その奥には黒い石版が鎮座していた。それを見て始さんが警戒し始めた。
「おい橘、これは」
「最近見つけて、運び込んだものだ。なのでこちらからまた連絡を取ろうと思っていた。……見覚えは」
「ある。まさか、奴らの狙いは」
「始、どうしたのさ。橘さんもそんなシリアス……しょうがないけど」
「バトルファイトの勝利者には、実は景品が存在していた。お前達も知っている通りな」
虎太郎さんの問いに答えたのは、やっぱり始さん。……そっか、改めて考えると景品になるのか。
世界が自分と同種で満たされて、なおかつ王様にもなれるわけだしさ。あれ、今この話をするって事は。
「勝利者となった者は新しい世界の創造主となる。だがそのためにはチケットが必要だ」
「まさか、これが」
「そうだ。だが統制者が管理し、現実世界には存在しないはず。どこでこんなものが」
「チベットだ。一度勝者が決まった影響だろうと、烏丸所長は推測している。
そしてこれを使うなら、天王路のようにアンデッドとなり、勝利者となるしかない」
「そのためにカードを奪った? でも」
言いかけた言葉を飲み込み、まず現状で対処すべきものを見つめる。……やっぱり出ているアンデッドの封印だね。
相手の目的に乗るかもだけど、だからって放置もできない。まぁ僕は僕で動いていくけど。
「すまないがお前達も力を貸してくれるか。睦月は無理をしなくていいが」
「橘さん、気を使いすぎですって」
「そうですよ。睦月さんはあれです、いざとなったら僕が雇いますから」
「「なん……だと」」
「あー、恭文くんはオーナーさんだしね。その手があったかぁ。でも、衝撃的かも」
みんなが僕を驚がくの表情で見てくるので、とりあえず胸を張る。
「ま、まぁそれは最後の手段でいいだろう。なぁ、睦月」
「もちろんですよ! その、さすがに……甘えたら駄目だなと思うわけで!
この件解決したら、ほんと就職活動頑張るから! だから大丈夫だって!」
「じゃあプロデューサーになります? ちょうど人員募集してるんで……むしろきてください」
僕が楽できるので、深々と頭を下げる。
「お願いします」
「「平服したぁ!?」」
「……許してやって。うち、人員不足なのよ。コイツもそれなりに苦労してて」
「睦月、やめておけ。火野がアイドルを何人か落としてるからな、いずれ潰れる」
「始さんまでなんですか! 何人もは落としてないですから!」
「では何人だ」
……その問いかけに顔を背けてしまう。するとどうしてだろうか、みんな微妙な顔で僕を見る。
さて、今日のところはもう解散かな。大体の事情は飲み込めたし、後は各自気をつけつつだよ。
僕は……自宅はやばいよなぁ。@Me-Goも駄目だし、タチバナ・レーシング・クラブも駄目。春香達が待ちぶせてるかもだし。
しょうがない、あそこにするか。あそこならみんなには教えてないから、まだなんとかなる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
現在、765プロ事務所は大騒ぎ。全員が嶋さんから距離を取り、僕は嶋さんとソファーに座って向き合うのみ。
そんな中顔を真っ青にした雪歩が、嶋さんと僕にお茶を出す。でも……震えすぎだ、おのれ。
「ど、どうぞぉ……!」
「ありがとう」
お茶を受け取った嶋さんは一口飲み、ハッとする。
「これは」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
雪歩は食べられるとでも思ったらしく、思いっきり壁際へ逃げた。
「とても美味しい! こんなお茶、そうそう飲めるものじゃないよ! いや、感激だなぁ!」
喜んでるよ、この人! 雪歩……あー、駄目だー! なんか気絶してるー!
「雪歩、落ち着いて! 褒められただけだから! なにもしてないから!」
「……それでその、嶋さん」
「なんだい」
「どういう事ですか。なにが起こってるんですか、これ」
「実を言うと、私もよく分からない。私が解放された時、既にほとんどのアンデッドが解放されていた。
だが何者かが継続しているバトルファイトの隙をつき、アンデッドを利用しようと動いているのは確か」
それが嶋さんの再出現に……あとは池袋の騒ぎだね。タイムリーすぎだし、恐らくあれも。
でもなんつう無謀な。アンデッドの存在は兵器なんてくくりで縛れないレベルだろうに。
「じゃあ、教えてください。あの馬鹿はなんで」
「君には恐怖心がある」
嶋さんの言葉はとても端的。でも僕の心を抉り、止めるには十分だった。恐怖心……やっぱりそれか。
「覚えがあるね」
「……はい」
「君は彼と同じように、とても優しい子だ。だからこそ引きずられてしまう。
仲間の嘘と歪みを否定できず、それに加担してしまった」
「あの、なんの話ですか。それに恐怖心って一体」
邪魔なのでユウスケは右手で制する。……ユウスケはしぶしぶだけど下がってくれた。
この人、全部知ってる。今日僕が突きつけられた事も含めて、全部だ。ホント……どうして。
そんな嶋さんにダブタロスが近づく。嶋さんは笑顔を浮かべ、ダブタロスを左手で撫でてくれた。
「君の恐怖は……いや、みなまで言うまい。あの子はきっと見抜いていたよ」
「でもそれは全部間違いだった。僕は声を上げるべきだった。
アイツら(フェイト達)を全員、ぶちのめすべきだった」
天道にボコられ、あれにボコられ……今なら分かる。ヴェートルの嘘なんてバラせばよかった。
機動六課の事なんて気にせず、全部さ。六課の裏事情だってそう。半端なところで止まってしまった。
やりたいようにやる事もできず……それで、仲間や家族を傷つける事を恐れている。
それが嶋さんの言う恐怖心。そして恐怖心がある限り、ブレイドには絶対変身できない。
これから先、アンデッド系の怪人が出てくるかもしれないのに。なのに……!
ちなみに嶋さんがあれこれ知っているのは、特に気にする事じゃない。そういう能力持ちなのよ、この人。
でも情けない。これじゃあやっぱり、太陽になんてなれない。勝ち続けるって決めたのに。そこは変わってないってのに。
「君に夢はあるかい?」
またスリスリしてきたダブタロスを受け止めていると、嶋さんがほほ笑みながら問いかけてきた。
「人は誰でも迷う。自分自身も含めた未来を守るなら、指針が必要だ。
だからもう一度聞こう。君に夢は――『なりたい自分』はあるかい」
「僕の、夢……だったらもう、叶っています」
両手にダブタロスを乗せる。するとどこからともなくハイパーゼクターも現れ、隣に乗る。
……僕の夢は、仮面ライダーやスーパー戦隊みたいなヒーローになる事。泣いている誰かを助けられる人になりたかった。
でもそんなの、とても難しくて。戦って誰かを傷つけて、矛盾ばっかり。そうだ、夢ならもう叶っている。
ダブタロスが僕を選んでくれて、仮面ライダーになって……もう、叶っているはずなのに。
「これだけじゃ、足りないって事かな」
「少し考えてみるといい」
嶋さんは立ち上がり、肩をポンと叩いてくる。それに頷いて、改めて二人を見つめる。
そこに首元のアルトも浮かんでのっかり、三人……僕の夢はなんだろう。どうしてこれじゃあ、納得できないんだろう。
守られるものは確かにあった。だけど歪みも生み出した。その歪みが許せないのは、どうして。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
なにがなんだか分からない。とりあえず恭文に声をかけようとすると。
「そっとするんだ」
嶋さんとやらに引っ張られて外へ出される。それに春香ちゃんもついてきた。
「これは彼の戦いだ。君達が介入していいものじゃない」
「あの、どういう事なんですか! 恐怖心って一体!」
「……場所を移そうか。彼を一人っきりにしたい」
「なら……レッスン場に」
あずささんの提案に俺達は乗っかり、三階のレッスン場へ。明かりをつけるが、妙に寒々しい。入ったばかりだからだろうか。
「それで、どういう事なんでしょうか。恐怖心というのは」
「その前にブレイドやギャレン、レンゲルについて説明しておこう。あれがどういうシステムかは」
「えっと、カテゴリーAってアンデッドのカードで変身するんだよねー。
でもでも、融合係数っていうのが高いと、自分がアンデッドになっちゃうーって」
「だから火野の恭文は、こっちの恭文からバックルを奪って」
「ならそれはとても正しい判断だ」
この人もかよ! ほんとどうなってんだ、今の恭文のなにが駄目って言うんだよ!
確かにアイツは無茶苦茶だが……それでもこれまで、必死に戦ってきてたぞ!
あぁ、そうだ。俺は知ってる。もしかしたら士や夏海ちゃん達より近くで、アイツの事を見ていたかもしれないから。
フェイトさん達との事も悩んで、でもスーパー大ショッカーの事も放置できなくて、それなのに……この仕打ちはないだろ。
正直腹立たしくてしょうがないが、嶋さんは冷静に右人差し指を立てる。
「問題はその融合係数なんだよ。潜在的な恐怖心があると、融合係数が高まるどころか低下。同時に変身者へ様々な悪影響を与える」
「悪影響?」
「恐怖に基づく破滅へのイメージが植え付けられ、変身していなくても幻覚症状が現れる」
幻覚症状……思いすらしなかった言葉が出てきて、全員がざわつく。
「当然それに伴う体調異常も起こり、健全な生活を送る事さえ困難になる」
「な……なんなのそれ! とんだ呪いのアイテムじゃない!」
「アンデッドとの融合というのは、それだけ危険なんだ。
そしてレンゲルというライダーはもっとひどい状況になった」
「まさか、その人もアンデッド化」
「違う。変身に使うカードが、適合者の精神を乗っ取ったんだ。
クラブのカテゴリーAは封印されてなお、強い力を発揮していてね」
じゃあ恭文も下手したら……! おい、待てよ! そんな危ないもん渡したのか、天道さんは!
それを火野の恭文は……知ってるに決まってるよなー! 親しかったっぽいし、きっとその現場にもいたんだろ!
「普通に変身できたとしても問題はある。融合の影響で、体内の各種物質が異常な数値を示す。
……まぁこれは表立った影響じゃないからまだいいか」
「よくないだろ、それ! つまりその、ブレイドってのに変身するだけで、普通じゃなくなるのか!」
「ちゅちゅー!?」
「そうなるね。例え人間のままだったとしても」
なんだよそれ……俺のクウガとどっこいどっこいじゃないか! ……あぁ、ようやく分かった。
恭文にもそういう恐怖心があって、このままだとやばいから火野の恭文は奪い去った。
というか、普通に変身できても人間から逸脱するかもしれない。詳細を知ってたら、それは躊躇う。
だからこっちの彼女達も賛成したのか。どうすんだよこれ、俺達が介入できる問題じゃなくなってるぞ。
てーかそれならそれでなんとか言えよ……! いや、その必要はもしかしたらなかった?
「そして君達にあれこれ言う必要もない。彼は他の仮面ライダーについても詳しいんだろう? なら」
「蒼凪殿に恐怖心を自覚させれば……まさか、そのために追いかけるよう仕向けた?」
「そういう事だ。口であれこれ言っても、彼は必要なら使う。そして剣崎一真と同じ道を進む」
「だ、だったらやっぱりお話すればいいだけですー! やっぱりこんなの、おかしいです!」
「君はとても純粋だね。だが……同時に人の業というものを全く分かっていない」
その物言いで、やよいちゃんが萎縮する。口調は優しいんだが、それ以上の厳しさがにじみ出ていた。
泣き出しそうなやよいちゃんを、千早ちゃんがそっと受け止める。
「アイツが……勝ち続けるって思うだけじゃ、駄目なんですか」
「駄目だ」
絞りだすような問いかけ。嶋さんはそんな俺の問いかけを一刀両断した。
「彼は知っているんだよ、そうして救われない人間が出る事を。……だから彼は否定する。彼と『剣崎一真』をね」
それだけ言って、そそくさとレッスン場から出て行った。なにも、できる事はないってか。
いや、違うな。なにもしなかったんだ。アイツが迷って考える時間くらい作れたはずだ。
近くの柱へ寄って、左拳を叩きつける。俺は、なにしてたんだよ。近くにいたのに……俺はぁ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
僕と伊織がお邪魔したのは……はやての家です。いや、虎太郎さんのところも考えたのよ。
でも虎太郎さんの存在も向こうに知られてるだろうし、ここは慎重に慎重を重ねた。
やや遅い来訪だったけど、それなりに広い二階建ての家で四人は出迎えてくれた。
一人ははやて……もう三人ははやてのメイドさん。リインフォース・アインス、ツヴァイ、ドライの三姉妹。
アインスはリインフォース、ツヴァイはリイン、ドライはリースと呼んでいる。
現在僕達は三人が出してくれた、パン入りのオニオングラタンスープを飲みながら一息ついている。
八神家はメイドさんも暮らせるような広めの家で……はやてのご両親はこの家と財産を残し、かなり前に他界している。
財産管理もしっかりしてるから、一応はやてものんびりニートが楽しめる。本人はバイトもしてるけど。
「はやて、ありがとう。そしてごめん」
「えぇってえぇって。今日はその代わり、いっぱい付き合ってもらうけどな。リインフォースも一緒やでー」
「えぇ! わ、私はその」
はやてが艶っぽく笑うので、一応頷いておく。……あぁ、伊織の視線が厳しい。
「でもでも、恭文さんはこれからどうするですか」
「それに伊織お嬢様もお仕事……こっちの方が大事じゃないですかー! 竜宮小町、売れてきてるのに!」
「しばらく休むって言ってるからなんとかなるわよ。それよりも剣崎の馬鹿よ、アイツ……ほんとなにやってるんだか!」
「世界平和を守ってるんだよ、言わせんな恥ずかしい」
とりあえず会ったら殴ってやろう。その共通意見だけは変わらないので、二人でスープを一気に飲み干す。
それから伊織は脇に置いてあったバッグを開け、そこから黒色のノートパソコンを取り出す。
「それなんなのですか」
「アンデッドサーチャーよ。これでアンデッドを見つけたら、それを追って暴れるって寸法」
「橘さんからもらってきた。ウィザードサイクロンも回収してるし、しばらくはこれで」
「でもアンタ、封印とかでき」
はやては軽くため息を吐いて、首振り。
「できない理由、ないかぁ」
「もちろん。……ごちそう様、とっても美味しかったよ」
「ならよかったわ」
「じゃあ次は、リインとラブラブなのですよー♪」
思いっきり抱きついてくるリインを受け止め、よしよししておく。……さて、あとはどう剣崎さんを引っ張りだすか。
というか、橘さんは一つ黙っている事がある。それは……現状旧世代ライダーへ変身するのは、危険が伴う事。
それも今以上にだよ。アンデッドの性質変化が生体改造などによるものなら、四年前と話が変わってくる。
もし変身したりコンボを発動する事で、適合者が乗っ取られたりしたら?
恐怖心によるイメージの暴走が発動したり、融合係数が信じられないほど高くなったら。
特に危ないのは始さんだ。始さんの変身はその姿や特性をも映し出す。
下手にカードを使って、闘争本能やらが暴走したらどうなる。恐らく烏丸さん達がいなかったのも、その調査に回っているせいだ。
……こりゃ、やっぱバックルを渡せないね。今のアレが使ったら、確実に暴走する。
スペードスートのアンデッドは今のところ出てないっぽいけど、それでもカードの所在をはっきりさせないと。
つまり剣崎さんを引っ張り出す。アンデッドの話を知ったら、確実にどっかで出てくるはず。てーか出てこないと困る。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
渡さん達がデンライナーへ戻ってきた。二人ともやや疲れた顔で食堂車へと乗り込む。
「ただいまー! すまん、待たせた!」
「かうかうかうー♪」
どらぐれっだーは一目散に真司さんへ駆け寄り、スリスリしまくる。ほんと好きなんだなぁ。
「おー、よしよし! お迎えありがとなー!」
「かうー♪」
「恭文、リュウタロスもありがとな。コイツの世話、大変じゃなかったか?」
「そんな事ないよー。どらちゃん、とってもいい子だったしー♪ ね、恭文ー」
「えぇ」
笑顔で頷くと、真司さんも納得してくれた様子。そのまま渡さんと隅の席へ座る。
「それでお二人さん、どないな感じや」
「とりあえず……地球の知り合い連中も、同時期に姿消してるな。恐らくはハイパーダークカブトだ」
「ただ現場を見たわけではないので、確証はありませんが。しかし困りました。
知り合いを完全退避させているとなると、他に突っ込みようがなくて」
「それなんだけどね」
ウラタロスさんが立ち上がり、腰をくねらせながら指も弄る。僕もウラタロスさんに続いて立ち上がった。
「実は……敵の目的、分かったかもしれない」
「本当ですか! なにか情報提供があったとか!」
「そうじゃないんです。今までの事を振り返ったら、自然と推測ができて」
「蒼凪、どういう事だ!」
詰め寄るシグナムさんをサラリとかわし、空いている席へ座らせる。
「早く教えろ! 私はいち早くミッドへ戻り、悪を斬る! そうして機動六課ここに在りと世にしらしめるのだ!」
「そうして手柄を立てると」
「当然だ! さすれば我らへの疑いは晴れ、夢は守られる! お前も協力しろ!」
「ゴメンだわ。……そろそろ自覚しろ。機動六課は間違いだった。じゃなきゃアンタ、一歩も前へ進めないぞ」
「ふざけるな! 我らに間違いなど」
掴みかかろうとした馬鹿へ向き直りながら、右回し蹴り。顔面を蹴飛ばし、後頭部を別のテーブルへと叩きつける。
角で頭を打ったシグナムさんは、そのまま床に倒れて動かなくなる。僕は着地し、お手上げポーズ。
「シグナム副隊長!」
「恭文、いきなりなにするんだ! 確かにシグナム副隊長も悪いと思うけど、さすがにこれは」
「ちびっ子二人も落ち着け。まず……おのれらの世界だけは消えない。だから安心していいよ」
「「……え」」
面倒なので話に入る。すると二人やはやて達が、呆けた顔をした。
「恭文、それはどういう事じゃ。あれじゃろ、ギンガちゃんルートなわしらの世界は消えんっちゅう事じゃろ」
「えぇ。……みんな、思い出して。渡さん達、ディケイド謀殺の件を話す時、こう言ってたよね。
『異変はディケイドを中心に起こっている。それを正すなら、中心に彼を置かないと意味がない』って。渡さん」
「確かに言いましたけど……あれ、中心?」
「そしてリセット現象の詳細。ここももう一度思い出して。リセット現象は増えすぎた世界を一旦整理し、一本化するもの。
リセット現象が発動したからと言って、世界全てが消えるわけじゃない。木の幹、又はそれに近い世界はとう汰される中でも生き残る」
首を傾げていた渡さん、それにはやてとサリさん、ヒロさん達がハッとしながら立ち上がる。
「……やっさん!」
「俺らの世界が木の幹――平行世界の中心部だって言うのか!」
「そう考えれば、スーパー大ショッカーがあそこを狙った理由も説明がつきます。
基本ライダーがいない世界だけど、そこを徹底侵略すれば現象が起きても問題ない」
「いや、それどころか現象後に続く分岐世界は、アイツらの支配ありきなもんばっかになるやないか!」
「そう。各世界への干渉はこの前振り。元々全てを消し去り、自分達の都合に合わせた新世界を作るつもり……のはずだよ」
ウラタロスさんが弱気になるのは、何度目かの確証なし――完全な推論だから。
だけど現象が起きているのを知った上で行動でしょ? 後の事を考えているのは確定でいい。
どちらにしても奴らは木の幹を特定している。そうじゃなかったら、共倒れになるような真似をするわけがない。
「で、でもなんでうちらの世界なんよ! 仮にそうやったとしても、アイツらはなんでそれを察したんや!」
「アイツ、か」
「くぅー?」
首を傾げたどらぐれっだーを軽く撫で、答えに触れた真司さんが僕達をじっと見る。
「いや、僕達は考えたんですよ。もしかしたらそっちの世界には、仮面ライダーがいたんじゃないかって。
ただそれは姿を消している。その理由は……今、絶賛旅をしている最中とか? それも記憶喪失状態で」
「同時にリセット現象を起こそうと思えば、起こせるだけの力も内包している。
もちろん渡さん達がやろうとしたように、起爆剤にして消えた世界を復活させるのも可能。
……特異点中の特異点、全ての世界に破壊と再生をもたらす存在。言うなら世界樹そのもの」
「ヤスフミ、それって」
「みんなの世界が中心地になるのは」
右手人差し指を立て、それで近くのテーブルをとんと叩く。
「そこで世界樹が生まれたから」
「嘘、やろ。うちらの世界が」
「門矢士の――ディケイドの世界!?」
(第38話へ続く)
あとがき
恭文「ゆかなさん、一月六日にお誕生日を迎えられました! ゆかなさん、おめでとうー!」
フェイト「ちょ、ヤスフミ落ち着いて! 目をキラキラさせすぎだから!」
(おめでとうー!)
恭文「はい、というわけで最終章の一歩手前で、別れたギンガさん達の様子も映しながらディケイドクロスです。お相手は蒼凪恭文と」
フェイト「フェイト・T・蒼凪です。えっと、まずは……あの三人とどうして衝突するのか」
恭文「いや、実際劇中でも奴らは調子に乗っていた。そしてあっさり殺されるわけで」
(あー!)
恭文「あとは橘さん――ダディが登場」
(辛味噌!)
恭文「そして僕は愛情を込めてダディと」
フェイト「おちょくってるだけだよね! 本人尊敬や愛情は感じてないみたいだけど!」
(オデノコゴドハボドボドダー!)
フェイト「なに言ってるか分からないよ! ……でも潜在的恐怖に、カテゴリーキングって! もう意味が分からないよ!」
恭文「大丈夫、作者も意味が分かってない」
フェイト「ちょっとー!?」
(大丈夫、バンダイチャンネルの見放題で調子に乗っただけだ)
恭文「次回はあれだ、恐怖心をなくすために鍛えるから。そしてあっちの僕はオンドゥル語しか喋らないように」
フェイト「それはワケが分からないから駄目だって! ……えっと、それじゃあ火野の恭文は」
恭文「劇場版だとこのあと」
(こそこそ)
恭文「だけど」
フェイト「……それで、海東さんはどう絡むの?」
恭文「大丈夫。アレはアレだ、カリス枠だから」
フェイト「だからなにが大丈夫なの!?」
(ヒーローは遅れて登場するものらしいです。
本日のED:橘朔也(天野浩成)『rebirth』)
律子「でも恐怖心による幻覚って、そこまで問題なの? 幻覚だけならなんとかなりそうなのに」
恭文「そう言うだろうと思って、既にバンダイチャンネルへ接続しておきました。さぁ、みんなでブレイド序盤を見よう」
やよい(アイマス)「は、はいー」
(飛び込んでくー♪ 嵐の中ー♪ なにも迷わずにー♪ 躊躇うー瞬間ーその闇に飲まれるー♪)
律子「……飲まれた結果がこれ!?」
恭文「これですね。そしてダディは全てに愛されるキャラになりました」
律子「あれ、幻影見ていいんじゃない!? 愛されるならいいんじゃない!?」
千早「やっぱり、変身できる人じゃないと……分からないのかしら。そういう苦しみは」
(おしまい)
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