小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第36話 『Jの世界/ミッシング・ピース』
――仮面ライダー龍騎はライダーバトルと呼ばれる、ライダー同士の戦いを主軸に描いた作品。
その目的は発起人である神崎士郎の妹、神崎優衣を生きながらえさせるため。もちろんこの目的は、最初隠匿されていた。
あくまでもライダー達は自分の願いを叶えるため、その戦いに身を投じていたの。
そうやってライダー達を利用し、戦わせ、美味しいところだけもらって妹を助ける。それが神崎士郎の目的。
真司さんはそうとは知らず、ミラーモンスター達から人を守るためにライダーになった……完全イレギュラーな人。
でもそんな欲望が行き交うバトルは、神崎士郎の目的をなかなか叶える事がなかった。
だから神崎士郎は自身の代理人とも言うべき、オーディンの力で何度も何度も、時間を巻き戻した。
そうしてライダーバトルは何度も行われ、その結末の一つが劇場版やTVスペシャルとなっている。
そう、龍騎というお話は、今でいうところのループものなんだよ。ひぐらしとかと同じあれ。
そのために劇場版も最終回先行上映なんて、大胆なキャッチフレーズを打ち立てた。
実際の立ち位置は今言った通り、ループの一つって扱いだったんだけど。それ自体がネタフリだったのよ。
ただ結果的に神崎優衣は、自身の死を受け入れた。神崎士郎も説得を受け、ライダーバトル自体がなかった事にされたの。
だから最初、真司さんが龍騎として出てきたのには本当に驚いた。だってライダーになってないもの。
その上ドラグレッダーがこれって、ほんとどういう事? 軽く頭こんがらがってるんですけど。
「なんかさ……何度も行われた時間のループが原因らしいんだよ。
そのせいでミラーワールドと現実世界は、とても密接な関係になった。
ミラーモンスター達はその影響で、現実世界では外見や内面の在り方が反転するらしくて」
「だからその、可愛らしくなったり……甘えん坊になる? 性格が反転するから。ていうか、ミラーワールドあったんですか」
「あぁ。優衣ちゃんや神崎士郎も、今はそこで暮らしているらしい。俺も聞いた時はびっくりしたよ」
とか言いながら真司さんがとても嬉しそうなのは、仲間が本当に死んでいなかった事への安ど。
もちろん現実世界で、二人の存在は既にないものとなっている。だけど……それでも、今は繋がっているから。
「城戸さんには、そんなお二人にお願いして接触したんです。もちろんここへ乗り込んだのも。
現在ターミナルは、ミラーワールドの二人と協力体制を取っているので」
「協力体制!? またなんで!」
「ライダーバトルに伴う、時間改変の影響から……だそうです」
そこですかさずオーナーが……って、知ってて当然かー。だってターミナルの話だし。
「まぁ私は管轄外の話なので、今回改めて知ったわけですけど。
……バトルで使われたデッキの幾つかは、現在行方不明。
その捜索をターミナル、及び関係者が担当しています」
「原因はタイムベントのカードですか」
「えぇ。それを主に使っていたオーディンのデッキは、厳重封印されていますが……念のために。
ちなみに城戸さんが現在所有しているデッキは、そうして保管されていたものの一つです」
「でもヤスフミ、それを主に使ってたデッキが厳重封印されてるなら」
「他のライダーデッキに、それが入っている可能性もあるのよ。ですよね、オーナー」
「その通りです」
タイムベントというのは、仮面ライダーオーディンが使っていたカード。これが時を巻き戻していた原因だよ。
効果は今話した通り、時間操作。神崎士郎は失敗するたびに、オーディンの能力でライダーバトルをやり直していた。
実際劇中でも一度巻き戻されてるんだ。だからターミナルの方でしっかり預かるのも、必然と言えば必然だった。
……まぁ予想外すぎるとこ、たくさんだけど。
「じゃあこの子、本物のドラグレッダーなんですか? わぁ、サインちょうだいー♪」
「かうー♪」
「無理だからな、それ! どらぐれっだーも乗り気にならなくていいぞ! どうやって書くつもりだ!」
それでも書いてくれるらしいどらぐれっだーは、尻尾をピンと立てる。なるほど、剣でごりごり削るようにと。
「それはサインじゃなくて、もはや彫刻だろ! ……で、なんの話だっけ。どうしてこうなったんだっけ」
「さぁ? でも真司さん、大丈夫なんですか。モンスターとの契約は」
「そこも解決してる。なんかループしまくった関係で、情みたいなものができてるらしくてさ。
だから食事とかも人間のそれと変わらないし、モンスターを狩らないと食べられるって心配もない」
「ほんとですか! それよかったじゃないですか!」
「あはは、ありがとな。いや、俺もそこは安心したよ。やっぱ一緒に戦ってきたしさ」
そう言って真司さんは、どらぐれっだーの頭を軽く撫で撫で。なんというか、本当にペット状態だなぁ。
でも可愛らしいから、僕も撫でさせてもらう。するとどらぐれっだーは、やたらとはしゃいだ声でひと鳴き。
「かうー? かうかうー♪」
「あー、はいはい。そうだよな、すぐ終わらせて帰してやるからな」
「かうー」
「それ言っちゃ駄目だぞ? ほら、しーだ」
え、帰してあげるって……別に飼い主でもいるのかな。少し不思議だったけど、それ以上は聞けなかった。
だって……どういうわけかオーナーがせき払いしたし。それで二人してチラチラと僕を見るのが、また不思議。
世界の破壊者・ディケイド――幾つもの世界を巡り、その先になにを見る。
『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説
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第36話 『Jの世界/ミッシング・ピース』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
前回までのあらすじ――ついにディエンドの世界へ突入。一体なにが飛び出してくるかと、みんなと一緒に外へ。でも。
「ここが新しい世界か……あれ」
気のせいだろうか。すっごいデジャヴ……この大通り。てーかこのスーツに、近くのビル一階にある『たるき亭』って言うのもだよ。
「おい、青チビ」
「なにも言わないで。これは、あれだ。そっくりな世界だ。いや、まさかそんな」
「だ、だよなー! 士、考えすぎだって! きっとここは」
「――おのれら、なにしてんの!?」
慌てて右側を見ると、あり得ない僕と765プロメンバーの一団……とりあえずあり得ない僕へ飛び蹴りを打ち込む。
すると蹴りを足で受け止められ、そのまま軽く放り投げられた。……なにコイツ!
なんで素の状態で僕の蹴りを受け止める! 驚きながらも身を翻し着地。
「いきなりなにするのかな」
「それはこっちのセリフだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! てーかなに! あのフォーク!」
「え、あれ使っちゃったの? わぁ、馬鹿だー」
「お前に言われたくないー!」
「ああもう、少年落ち着け! だ、だが俺達の事を知ってるって事は……ここはやっぱ」
ヒビキさんに羽交い締めを受けるも、改めてあり得ない僕や春香達を確認……やっぱり戻ってきてるー!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
しょうがないのでヘタレな僕とディケイドの一団を引っ張り、ついでに束にも連絡。
正直危険もあるし、また助ける義理立てもないけど……一文字隼人と聞かされたらなぁ。
そして事務所外では雨が降り始める。なんだかんだで梅雨だから。
「とりあえず……一文字隼人、だっけ? 写真館で留守番してるの」
「あぁ」
「束に連絡して、体診てもらうから。あとは僕の彼女でこの手の事に詳しい人間も引っ張る」
「それで一文字さんのインジェクション、なんとかなりそうか?」
「約束はできないけど、束は世界一の天才だから」
自称だけど、それに見合うだけの能力はある。もしかしたら……まぁ駄目な場合も考えてほしいと言っておく。
「だがお前、どういう風の吹き回しだ。この間と全然違うだろ」
「別におのれら見捨てたところで、心なんざ痛まないよ。ただ……『一文字隼人』なら別だ」
「相変わらずプロデューサー、ツンがきついなぁ」
真、僕をツンデレみたいに言うな。ツンデレは伊織やあむ、ティアの専売特許だと言うのに。あとはやっぱりアリサ。
「なのでヒビキさん、その人についててもらえますか」
「え、なんで俺?」
「いえ、人間関係が不得手なヒビキさんにはぴったりかと」
「その話はもうやめてくれ! ……まぁ、了解。アイツは俺で見張っておくから安心してくれ」
「お願いします」
ヒビキさんは苦笑しながら手を振り、そのまま事務所を出ていった。考えが読まれてるってのも、あれだよねぇ。
「でも、どういう事なんですか。あの人の世界だと思ったら、ここへきたなんて……春香」
「いやいや! 千早ちゃん、私に聞かれても困るよ!? というかほら、私達はほとんど話してないし。
……もしかして海東さん、この世界で生まれたのかな。ほら、それならウィザードメモリについて知っていても」
「地元だから情報もばっちり……ほんと厄介事しか運んでくれないねぇ」
こうなるとフィリップ達に頼んで、海東大樹について調べてもらうか。この調子だとアイツが鍵になるかもだし。
「じゃああり得ない僕に質問がある」
「なによ、フォークの件ならおのれがヘタレなせいだよ」
「やかましいわ! そうじゃなくて……アンデッドって、知ってるかな」
……いきなり出てきた懐かしい響きに固まってしまう。そうして思い出すのは、あの馬鹿な兄ちゃん。
「知ってるんだね」
「こういう、仕事だしね。まさか」
「スーパー大ショッカーに加担してるっぽい。途中で出てきてさ。じゃあ、これに見覚えは」
今度は懐から、銀色のバックルを見せてくる。それもめちゃくちゃ覚えのあるバックルだ。
強引に奪い取り、表面を確認。付いている細かい傷や手触り……間違いない、ブレイバックルだ。それも……!
「これをどこで見つけたの」
「いや、見つけたもなにも、天道ってのが預けてきて」
天道……やっぱりあの人まで絡んでるのか。まどろっこしいので右手で首根っこを掴み、思いっきり持ち上げる。
どうやらこっちの僕は鍛えが足りないらしい。これしきの事で抵抗できなくなるとは。
「じゃあ天道さんはどこ! 早く吐け! 今すぐに!」
「ちょ、プロデューサー!」
「あなた様!」
美希と貴音が止めてくるけど、さすがに二人は振り払えない。ヘタレな僕を放り投げ、腕を下げる。
「なにすんじゃおのれは!」
「そ、そうだよ! あの……火野のなぎ君、どういう事か話してくれないかな。一体そのバックルが」
「必要ない」
懐にブレイバックルを仕舞い、そのままみんなの輪を抜けて玄関へ。
「これは僕が預かっておく」
「はぁ!? ふざけんな馬鹿! いいから返」
ついでにあり得ない僕の腹へボディブロー。天井近くまで吹き飛んでもらい、意識も奪う。じゃないと転送魔法とやらでスリされるし。
「恭文くん、どうしたのよ! というか仕事ー!」
「しばらく休職するんで、手続きよろしく」
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
「ちょ、プロデューサーさん! 待って−!」
驚くみんなは気にせず事務所を出て、すぐに行動開始。……まさかこんなところで、アンデッドが絡むなんて。
急いで海道を探す。アイツもUターンしてるかもだし……足早に曇りかけの街を駆け出した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ちょ、プロデューサーさんが今までで一番理不尽&無茶苦茶だよ! 人のもの、いきなり強奪したし!
慌てて携帯にかけても全然繋がらない。激しさを増す雨と同じく、私達の心もどんどん不安が募る。
それで蒼凪さんは唸りながらもソファーで横になってる。全力で殴られたみたいで、動けないの。
……プロデューサーの全力って、パンチ力十トン以上だったよね。それで生きている蒼凪さんも凄いけど。
「アイツ、今度会ったらぶっ飛ばす……! てーかクロックアップしてやる!」
「な、なんというかごめん。でも一体どうしたんだ、プロデューサー。
確かに今までも無茶苦茶な時はあったけど、今回みたいに理不尽なのは」
「一度も、なかったですー。どうしちゃったのかなー」
「……ねぇみんな、そもそもあれがなにかってところから考えない?」
戸惑いまくっている響ちゃんとやよいを励ますように、私から一つ提案。するとみんな表情を明るくして、すぐ頷く。
「蒼凪さんはあれについて」
「知ってる。あれはブレイバックル。ラウズカードのカテゴリーAを入れて展開すると、仮面ライダーに変身できるアイテム」
「ラウズカード?」
「アンデッドと呼ばれる、不死の存在が封じ込められているんだ」
「……あれ、なぎ君待って! アンデッドって、確かカードがないとか言っていたのじゃ!」
「あー、そこも説明するからちょっと待ってて。まずね、アンデッドが存在していた世界……つまりここか。
全生命体の原種に等しき存在が、世界を賭けてバトルファイトをしていた。
結果人間の原種が勝利し、世界はその末えい達が暮らした。参加者である怪物達は、全員カードとして封印されたけど」
な、なんか想像以上にSF混じってるし! しかも、私達のご先祖様が不死の怪物!? ぶっ飛びすぎていて、みんなで顔を見合わせる。
「……でも現代、その力を利用しようとする馬鹿が現れた」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ソイツは人類基盤史研究所――BOARDを作り、折を見て封印されたアンデッド達を解放。
結果終結していたバトルファイトが再開され、アンデッド達は勝利のために暴れ始めた。
黒幕の名は天王路博史(てんのうじ ひろし)。天王路がアンデッドを解放した目的は、まずバトルファイトの再開。
更に自身を究極のアンデッドへと変える事で参加・勝利し、現人類を全て消滅。
自分を王として崇める新人類を作り出し、世界を支配する事だった。BOARDの設立も、その手段を探すため。
まぁ解放したのは別の人なんだけどね。ただ天王路はそれすらも織り込み済みだった。
自身の手は汚さず、アンデッド解放による犠牲も省みず、終わり際に美味しいところだけをかっさらおうとした。
でもここで一つ誤算。BOARDは解放されたアンデッド達を再封印するため、あるシステムを生み出した。
カードに封印されたアンデッドの力を引き出し、扱うための強化スーツ。それが仮面ライダーギャレンと、ブレイド。
ブレイドはスペードスートのカードを使い戦い、ギャレンはダイヤスート……懐のバックルを取り出し、改めて確認。
やっぱり、間違いない。でもどうしてこれをあの馬鹿どもが? 本来ならあり得ない。
これはカードと一緒に橘さんと烏丸さんが、厳重に管理・研究していたはずなのに。
剣崎さんを、人間へ戻すために。いや、答えなら分かる。途中でアンデッドが出たとか言ってた。
どうやらスーパー大ショッカーの事、僕も多少本気にならなきゃいけないみたいだね。
……まずはタチバナ・レーシング・クラブへ向かう。必要になるもの、持ってこなきゃ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――そうして再開されたバトルファイトは、今も継続してるかもしれない」
「んな! どういう事だ! だってその、黒幕は止めたんだよな!」
「システム自体はどうしようもない。しかも……最終的に勝利したのはジョーカー」
「ジョーカー? あれ、それってトランプにもありますよね」
「そう、番外のアンデッドだよ。どの生物原種でもなく、他のアンデッドの力を使う事ができる存在。
カードを使わず、アンデッドの封印も可能。そのジョーカーが勝ち残ると、ダークローチっていう怪人が大量出現。
ソイツらの力で世界を滅ぼし、バトルファイトがリセットされる。覚えがない? ゴキブリに似た怪人が大量発生して」
ゴキ……そう言えばとみんなで顔を見合わせる。そうだそうだ、私達は覚えがある。
「そういう事件、ありました。四年とか前ですけど」
「自分もその時は沖縄だったけど、あったぞ。それで」
響ちゃんがそれ以上言葉を紡げず、悔しげに俯く。見てられなくて、背中を軽く撫でて落ち着かせた。
「でもあの怪物、少ししたら出なくなりました。滅びてなんてないですし」
「その場合の回避方法は二つあった。一つはジョーカーを封印する事。そうしたらバトルファイト自体がなくなるから。
そしてもう一つ。スペードスートのライダー――ブレイドだった人は、自分のカードの力を限界以上に使いアンデッド化した」
「な……! マジかよ! なんのために!」
「ジョーカーはね、人間としての心や人格に目覚めてたんだよ。それでブレイドとは親友同士になった。
そんな友達を助けるため、もちろん世界も守るため、自分がアンデッドになり、みんなから離れる道を選んだ。
一緒にいれば戦う本能に負けるかもしれないから、仲間達からも離れて……一人で消えた」
「だから、バトルファイトは今も継続してるってのか。二人のジョーカーが生き残った状態だから」
「ジョーカーが封印されていなければね」
あぁ、そうか。プロデューサーさんが飛び出した理由、もう考えるまでもない。
プロデューサーさんもそのブレイドさんと知り合いで、もしかしたらずっと探していたのかも。
……でもだからってやり過ぎだと思うけど! ほら、預けられたならなにか目的があるかもだし!
いや、考える必要ないのかな。カードを持って、いなくなったその人を引っ張りだそう……とか?
「でもそれだけじゃない。ユウスケ、鎌田の事は覚えてるよね」
「もちろんだ。あー、みんなは分からないよな。旅の途中、出てきたアンデッドだ。人間に擬態できたっぽくてさ。
その時は多分、そのブレイドかな。それが姿隠して、カードを投げて封印……おい恭文」
「急いでこっちのラウズカード、所在を調べる必要があるね。もしかしたらだけど」
「ここのアンデッドが解放されてるのかよ……!」
≪少なくとも強いあの人はそう考えてます。だからあれだけ焦った≫
どうやら世界は私達が知らなかっただけで、大変な事がたくさん起こってたみたい。でもプロデューサーさん……どうして。
「アンタ達、なにしてんの!?」
玄関から驚いた声が響く。この声は……そうだ、この手があった!
私達は慌てて、戻ってきたらしい律子さんと竜宮小町メンバー――伊織へ詰め寄る。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
通り雨は止み、レーシング・クラブでの用事も終了。僕は都内の飲み屋さんへ。
顔見知りがやっているお店で、そこの個室でしばし待つ。今後の事も考えつつ、携帯チェック。
やっぱり春香達から電話かかりまくってるね。でも全て無視だ。あの馬鹿にバックルは預けられないし、確かめる事もある。
それも絶対に人任せなんてできない。……ドアが開き、人懐っこい笑みの男性が入ってきた。
なお服装はラフ気味だけど、きちんと襟が立っている。それでこわ張っていた表情が自然と緩む。
「恭文くん、久しぶり! 相変わらず暴れてるみたいだねー!」
「虎太郎さん、お久しぶりです」
しっかり握手すると、虎太郎さんは真向かいに座る。……この人は白井虎太郎さん。
ブレイドの戦いを間近で見ていた人で、職業はフリーのルポライター。
「で、アイドルは何人落としたの」
「……それを言わないでください」
「あらら、やっぱりフラグ立てちゃったんだ。それで、僕を呼び出した理由は」
「これです」
個室を選んだのは、秘密の話がしやすいから。気配に気をつけつつ、ブレイバックルを見せる。
「ブレイバックル! 一体どこで!」
「かくかくしかじか――なんですよ」
「はぁ!? ぺけぺけうまうま――じゃあ剣崎くん、世界の外にいるんだ!」
「まだ分かりません。でもアンデッドまで出ていたとなると、もしかすると絡んでいるかも……信じてくれます?」
「当たり前だよ。アンデッドなんかと関わったから、もう常識の幅広がっちゃって」
当然だと手を振りながら、両横へ流した茶髪も軽く揺らす。こういう構えず柔らかいところが、虎太郎さんの良さだと思うよ。
「で、僕に頼みたい事ってなにかな」
「橘さんと連絡が取れないんです。あと栞さんや烏丸さんとも」
「あー、それ僕もだ。だからね、もう探し始めてるんだよ。……まぁ三人は一緒だと思うけどね。
剣崎くんのアンデッド化を解消する研究、軌道に乗り始めてたっぽいから」
「そうだったんですか」
「君が失踪中の事だし、しょうがないよ。BOARD創設の件もあるから、地下にでも潜ってるんじゃないかな」
BOARDという組織は、裏社会の帝王だった天王路によって作られた。そうして利用されてるからなぁ。
どこの誰にもカードを利用されないよう、研究している三人も……か。でもこの場合は少し困る。
もしかするとスーパー大ショッカーに襲撃された? 又は密かに剣崎さんと接触し、バックルとカードだけ返した。
それを使って剣崎さんが戦ってたけど、なんらかの事情でバックルを手放してしまう……とかかな。
とにかく疑問点も多いし、そこをひも解くためにもすぐ連絡を取りたい。でも僕はこの有様なので、虎太郎さんに頼ってる。
「そう言えば睦月(むつき)と始(はじめ)には」
「まだです。特に始さんは考えちゃって」
「いいっていいって。アイツ、どんどんふてぶてしくなってるし……いや、それは元からかな」
ジョーカーだって判明してから警戒していたのに、また仲良くなったものだ。虎太郎さんの笑いについ釣られてしまう。
「とにかくお願いします。いざって時は匿いますんで」
「お、第一種忍者のお墨付きかぁ。それは嬉しいなぁ。じゃあお互い、なにか分かったら連絡するって事で」
「はい。……じゃあ話はここまでにして、お食事タイムにしましょう。ここのランチ、美味しいんですよ。奢りますので」
「いやいや、ここはお兄さんに奢らせてほしいなぁ」
また笑いながら、二人でサバのみそ煮定食を注文。それをがっつり食べながら、どうも嫌な予感がしてしまう。
もしかするとまた……やっぱしばらく休職だね。剣崎さんの状態、ようやく分かるかもしれないんだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とにかく伊織にかくかくしかじかで説明。プロデューサーさんの行動がおかしいし、早く見つけたいとも言った。
でも説明を続けるたび、伊織が今まで見た事がないくらい苦い顔をする。やっぱり、この辺りについては知ってるみたい。
「……事情は分かったわ。まず……蒼凪、アンタの言った通りよ」
「じゃあ」
「えぇ。剣崎一真は自身がアンデッド――第二のジョーカーとなる事で、バトルファイトを継続。
そうして世界を救ったのよ。でも自分を救う事はできなかった」
最後の言葉は、若干の刺があった。その刺がまるで伊織自身へ突き刺さっているかのように、顔の苦さが強まる。
「なら伊織ちゃん、その人達の事教えてくれるかな。火野のなぎ君が行きそうな場所とか分かるなら」
「悪いけど協力できない」
「どうして!?」
「おいこら、デコ」
そこで伊織がケンカキック。でも蒼凪さんはあっさり右へ避ける。
「避けるんじゃないわよ! てーかデコ言うな! ……みんなもお願いだから、今回だけは好きにやらせてあげて」
「駄目だよ伊織ちゃん! それにその、今回はやっぱりプロデューサーさんが駄目だと思うんだー! ちゃんと謝らないとー!」
「無駄な理論ね。それになにを言っても止まらない。コイツがバックルを魔法で取り返したら、殺してでも奪い返す」
そんな馬鹿なと言いかけたけど、伊織の目は真剣そのもの。それで反論しようとしたやよいも黙ってしまう。
「で、どうしてそこまでするんだ。それも内緒ってか」
「士くんの言う通りです、納得できません。あのバックルは、仲間のライダーから渡されたものです。彼に預けるのが筋じゃ」
「そうね。そしてカードも揃ったらいずれ……って話でしょ?」
ようは蒼凪さんが、ブレイドっていうのに変身するかもと。でもそれが不服らしく、伊織は嫌悪感丸出し。
「お願いだからあのバックル、このままここに置いていって」
「ねぇ伊織ちゃん、それはおかしいんじゃないかな! あれはなぎ君が」
「じゃあソイツがアンデッド化、してもいいの?」
その言葉で考えていた反論は全てたたき潰される。つい寒気を感じながら、蒼凪さんを見てしまう。
「……やっぱそこを危惧してか」
「えぇ。アンタなら知ってるだろうけど、あれで変身するのはアンデッドとの融合に近いのよ。
その度合いが高いほど能力が発揮される。でも高過ぎると、アイツみたいにアンデッドへ変わり果てる」
「な、なぎ君! そうなの!?」
「そうだよ。ただ剣崎さんは、人並み外れて高かったけど」
「それも、仮面ライダーなのかな」
つい呟いてしまう。プロデューサーさんは以前言っていた、仮面ライダーは同族殺しだと。
初代ライダーは改造人間同士で戦い、翔太郎さん達は同じメモリの力で戦う。もちろんプロデューサーさんだって同じ。
どういうわけか相手と同じ力、又は体を使って戦い倒す……そういう業みたいなのがある。
ブレイドっていうライダーも同じだから、自然とあの話を思い出していた。でも、使う事で怪物化するかもなんて。
「なにより……ブレイドは剣崎一真一人だけ。アイツにとってはそうだから。もちろん私も」
「ねぇ伊織、その人って……そんなに凄い人だったの?」
「凄いなんてもんじゃないわよ。どこにでもいる普通の人で、悲しい過去もあって。でも」
伊織はそこで首を振り、私達に背を向け外へ出ようとする。
「とにかくそういうわけだから。律子、私帰るわね」
「ちょっと伊織! それならバックルの事は一旦置いて、恭文君の行きそうな場所とか」
「協力できない、そう言ったはずよ。後の事は全部アイツに任せなさい」
それだけ言って、止める間もなく伊織は出ていく。その背中を指差しながら、ギンガさんがなぜか荒ぶった。
「なぎ君、結界! 結界で閉じ込めて尋問」
「無理だよ。ありゃ僕達がなにを言っても話さない。だったら勝手に動くしかないでしょ」
「動くって、今回は手掛かりもないのに」
「あるよ。とりあえず原作知識は使えそうだから」
そこで全員揃って拍手を打つ。……そうだそうだ! この人、仮面ライダーフリークだった!
原作そのまま……って、私が言うのもおかしいけどさ! とにかく知識通りなら、ある程度の目星はつけられるんだ!
「律子さん」
「あ、うん! こっちのパソコン使っていいから! それで恭文君と伊織を見つけたら、なんとかして!」
「ありがとうございます」
こうして蒼凪さんはまずここのパソコンを使い、幾つか情報検索。
……これはOKなんだろうか。なにかもう一手打てないだろうかと考えた結果。
「そうだ、あとは」
「春香ちゃん、なにか思いついたの?」
「フェイトさん達にチクろう」
「……それが一番いいかもしれないわね」
千早ちゃんの賛同も得たので、早速『こっちの』フェイトさん達に連絡。
実はこの間のゴタゴタで、彼女ネットワークに入れてもらっちゃったんだ。
私達は彼女じゃないけど、女の子同士仲良くできたらって感じで。フォークがあればもう恐れるものはない!
携帯を取り出し、番号をポチポチ……と。
「でも力を貸してくれるかしら。実際にあれを使って、人一人が人外化してるかもしれないのに」
……千早ちゃんの呟きは気にしない。だとしても、扱うのは蒼凪さんだもの。
原作知識もあるなら……とも思うし、プロデューサーさん一人が決めていい事じゃないよ。一旦止めないと。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
虎太郎さんと別れて、続いては上城睦月という人を尋ねた。その人は丸の内のオフィス街で、やや疲れた顔で立っていた。
服装は灰色のスーツ姿で、すっかり社会人。僕は軽く駆けながら、声をかける。
「睦月さん」
短い黒髪を風になびかせながら、その人は右側からくる僕を見る。
「恭文君……あんまり大きくなってないね」
「あはははは、余計なお世話です。でも大変そうですね、就職活動」
「まぁ、それなりにね。でも望美との事もあるし、なんとかって感じかな」
あの時高校生だった睦月さんは、今は大学四年生。就職活動の真っ最中で、ここへも面接できていた。
あと望美さんというのは、睦月さんの婚約者。睦月さんが厨二病発症してた時代から、献身的に支えてたんだ。
「それと……例の事務所、もう潰れちゃったのかな」
「虎太郎さんと同じ事言うの、やめてもらえます!? 潰れてませんから! 口説いてませんから!」
「いや、でも説得力ないって。……とにかくメールしてくれた事、本当かな」
「面接中で大変な人に、こんなジョークかましませんよ」
またパラパラと空から雨が降り出したので、睦月さんと一緒にビルの影へ退避。
でも雨はそれ以上強くならず、ただ乾きかけのアスファルトを濡らすのみ。
そんな小さな雨だけど、大人達は濡れまいと必死な形相で逃げる。
「睦月さんも橘さん達とは」
「連絡取れなくなってる。まぁメールも送ってるし、なにかあったらすぐ教えるよ」
「お願いします。あと……僕にそっくりだけどヘタれた奴と、ふてぶてしい連中が来るかもしれません」
睦月さんに、以前連中が迷惑かけてくれた時、撮っておいた写真数枚を渡す。
「別世界の君と、ディケイド……だっけ」
「えぇ。ソイツらがきても、適当に対応しといてください。
『もうライダーの事は忘れたいんだ』とか言えば、多分引きますから」
「忘れるつもりもないんだけど……まぁ了解。始には」
「これから会いに行きます。じゃあ」
「気をつけてな」
ちょっと話している間に、また空から光が溢れる。まだ小さく振り続ける雨を振り払い、睦月さんと別れた。
今の僕が雨を恐れる理由はない。それよりも恐れるべき事があるなら、動じる必要もない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
池袋から東武東上線へ乗り込み、電車で一時間弱――東松山駅が目的地。
ウィザードサイクロンで川越街道を進み、なんとか無事に到着。都心に比べると緑も多く、開けた印象。
なんだかんだでここへも久々。天音ちゃんはまた可愛くなってるかなぁと思いながら、六十六号線の道路を進み、川を渡る。
あとは奥まった場所になるけど、小さめな森林道路を進めば……そこで空に違和感が走る。
ウィザードサイクロンを停止し見上げると、幾何学色の景色が展開していた。ち……やっぱきたか。
更に僕の四肢やウィザードサイクロンのタイヤを、蒼いリングが戒める。サイドスタンドは立ててたから、倒れる事はなかった。
『結界だよ。さすがにこれはどうにもできないでしょ』
響くのはヘタレな僕の声。恐らくもやし達もいるんだろうねぇ、無駄なのに。
『おのれが剣崎一真と接触するために、バックルを奪ったのはよく分かった。
なのでこうしようじゃないのさ。ここはお互い協力して向こうの出方を』
「断る」
『ちょっと待てよ! 春香ちゃん達も突然あんな事やらかして、かなり戸惑ってたんだぞ!』
「一つ、お前達が剣崎さん達を攻撃した。このバックルはそうやって奪ったもの……違う?」
『違う! 俺達はそんな事していない!』
「じゃあそれを証明してよ」
あり得ない事を言うので、軽く笑ってしまう。とりあえず腕に力を入れ、がん字がらめなリングを引きはがす。
それから鼻歌交じりに、ウィザードサイクロンのコンソールを確認。……時間はバッチリ。
自動操縦モードに変更。時間設定して、結界が解けるであろう時間に動くようセッティング。
更に操作すると、タンク上に粒子が発生。蒼いそれは、右腕につけている機械的なリングへ吸い込まれた。
……ウィザードサイクロン内の粒子空間に、ブレイバックルを入れといて正解だったね。
そしてこのリングは子機とも言うべきもの。粒子変換していたブレイバックルをそのまま移したのよ。
『悪魔の証明か。その上春香達の事はガン無視……とんでもないプロデューサーだな』
「無視するしかないでしょ。春香達には関係のない事だ」
『あーよく分かった! じゃあしばらくそこでじっとしてろ!』
セッティングは終わったので、サイクロンから降りる。それから手鏡を用意。
近くに潰れたファミレスの窓があったから、そこから脱出は可能。手鏡をサイクロンのタンクに乗せる。
位置を調整し、僕の上半身がきっちり映るようにして……これでよし。
「どらぐぶらっかー」
中学へ上がる前に知り合った、大事な友達の名前を呼ぶ。更に左手で、黒いデッキケースを取り出す。
それは表面に銀色の龍が刻まれていて、自然と頬が緩む。これもその時入手したものなんだよ。
まぁお守り代わりにずっと持ってたんだけどさ。……懐からその友達がはい出てくる。
それは黒い金属質な龍で、ちょっとした蛇くらいの大きさ。でも違うのは宙に浮いて、僕へスリスリしてくるところ。
「くぅくぅー」
「ごめん、力を貸して」
「くぅー♪」
どらぐぶらっかーが頷いてくれたのを確認してから、デッキを手鏡へかざす。すると鏡に、銀色のベルトが映し出される。
それは鏡から反射するように飛び出て、僕の腰へ装着。……本当なら鏡もいらないんだけどねぇ、でも今回は脱出用だから。
「……変身」
「くぅくぅー♪」
デッキをベルトへ挿入。龍のレリーフが前へ来るようにセットすると、僕の周囲で黒いライダーの幻影が現れる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
先回りして、結界に閉じ込めたまではよかった。幾らウィザードだろうと、さすがに結界の中から抜け出すのは無理でしょ。
そう思っていたら……まず平然とバインドを砕いてきた。普通の怪人くらいなら軽く止められる強度なのに。
「お、おい……恭文! あのバインド脆くないか!?」
「違う! 力ずくで壊されたんだよ!」
「嘘だろ! 変身もしてないんだぞ!」
「蒼チビは蒼チビでも、やっぱぶっちぎりらしいな」
もやしの言葉が突き刺さる。そうだ、感覚以外もぶっちぎりだ。
察するに変身しなくても、カブトやディケイド……今のクウガレベルの身体能力がある。
確かに響鬼に出てくる鬼達は、変身状態でパンチ力三十トン以上はあるよ? でもこれは。
一瞬欲望を解放しているせいかと思った。でもすぐに首を振って否定。だ、だからって彼女いっぱいとか……ありえないし!
とにかく落ち着け。力があっても結界は破れない。仮にウィザードに変身してもさすがに。
『……変身』
『くぅくぅー♪』
だと思ったら、余りに予想外なのを出してきたよ。あの馬鹿は龍騎そっくりなライダーへ変身し、鏡の中へ消えた。
「なぁ、あれって龍騎だよな!」
「違う! リュウガ――劇場版に出てきた、龍騎の色違いだよ!」
「じゃあなんでアイツがデッキを。ここはライダー裁判なんてやってないだろ」
「知らないよ!」
予想外で軽く混乱している。いや、推測はできる。ここでは仮面ライダーが都市伝説って言ってた。
しかも天道の事も知ってたっぽいし、やっぱり歴代ライダーが存在している?
……それでもデッキを持ってるのはあり得ないけどさ! ほんとどういう事!?
しかもあれ、正確に言えばリュウガでもない。てーか契約モンスターであるドラグブラッカーが、あんなに小さいわけがない。
リュウガの頭部&デッキのドラゴンレリーフは黒色で、デザインももっと禍々しい。
アーマー部分はメタリックグレイだったのに、今見たのはやや青みがかった黒色。
あとは目だよ。リュウガはやや釣り上がり気味の赤色だったのに、蒼色だった。
あー、あの小さいドラグブラッカーも同じだった。あっちも原典は赤色だから。
いや、そもそもあれはドラグブラッカーなの? さっきも言ったけど、サイズが全然違う。
真っ黒だった体色も蒼が混じったような色合いだったしさ。……問題はそこじゃない。
鏡の中へ入り込んだという事は、アイツはミラーワールド。さすがにああやって逃げられると、結界は。
「とりあえずじっとしててもらえるかなぁ」
慌てて後ろを見ると、さっき消えたリュウガが……! 一体、どうなってんのよ。
コイツはどれだけ変身できるの。てーか入った鏡以外から普通に脱出してきたし。
いや、ここは普通なのよ。でも例外がある。龍騎のライダーは、ミラーモンスターと契約する事でようやく完成。
契約前の状態をブランク体って言うんだけど、それに限っては入り口となった場所からしか出入りできないんだ。
やっぱコイツ、ドラグブラッカーと契約してるの? でもモンスターとの契約は危険が……どうなってるのよ、コイツの周囲!
でも落ち着け。それならそれで、とっとと逃げればいいだけだ。どうしてこっちへ出てきた?
幾つかの推論を立てた上で、対策を整える。もしかするとだけど、僕がやられさえしなければ。
「あとの事は僕がやっておくから。お前達は適当に次の世界へ行けばいい」
「悪いがそれは無理だな。……なぁ、恭文も言ってただろう。
ここは協力させてほしいんだ。春香ちゃん達の事だってあるし、お前一人じゃ」
「言ったはずだ、春香達は関係ない」
これは駄目だ。コイツ、マジで押し通そうとしてやがる。……そこで右側からダブタロス突撃。
でもその突撃をあれは、身を僅かに逸らして平然と避ける。しょうがないので手をかざし、こちらへ来るダブタロスをキャッチ。
「なにが関係ないんですかー!」
……はい、実は春香達も来ています。実力行使に走っても、自分達がいれば手出ししないだろうと。
右脇から走って、僕達の前に立つ。でもぶっちゃけ……もう無意味だ。
ミラーワールドを経由して移動されたら、僕達には捕まえようがない。もやしはいるけど、それでどこまで追いつけるか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ていうかプロデューサーさん、それ一体どうしたんですか! なんで別のライダーに!」
「いろいろあってね」
なにがどういろいろあってそれなのか、めちゃくちゃ聞きたいよ! もう、そこはほんと!
ていうかこれでどうして、ウィザードメモリの事は悩んでたの!? もう仮面ライダーなのにー!
「とりあえずみんな、邪魔しないでくれるかな」
「だ、駄目ですプロデューサーさんー! とりあえずあのバックル、蒼凪さんに返してくださいー!
それでそれで、蒼凪さんにバキーってやったのは謝ってくださいー! 悪い事したらメっですよー!」
「あぁ、やよいの言葉は心に突き刺さる。でも」
プロデューサーはたった一歩だけ踏み出す。それが地面を踏み砕くだけ。それなのに、私達全員が気押される。
なに、この妙な感じ。空気が震えて、それに押し潰されそう。足が、ガクガク震える……!
「さっきも言ったでしょ? ソイツらが僕の身内に手出ししたかもしれない」
「みんなはそんな事しま……せん」
「じゃあそれを証明してよ、ちゃんとした形で」
悪魔の証明というのを聞いた事がある。『ある』を証明するのは簡単だけど、『ない』はほぼ無理ゲーというお話。
さっきも士さんが少し言っていた事。そうだ、私達には証明しようがない。でもきっと。
「証明できないよね。だから僕が自ら動いて、証明してあげようって言ってるの。どうしてそれで謝らなきゃいけないの?」
「そ、それはぁ……!」
「二度目はない。邪魔をするなら、押し通す」
やよいが反論できなくなったところで、妙なプレッシャーが強まる。……そう、プロデューサーさんなら証明できる。
これを持っていた人に接触すればいいんだから。多分だけど、それは剣崎って人じゃなかった。
もちろんツッコミどころはある。でも……ただ震える足を見つめてしまう。まともに立っているのは貴音さんだけ。
ほんと、これはなに。攻撃されたわけじゃないのに。まさかこれが、殺気?
じゃあプロデューサーさんが今まで出してたのって、なんだったのかな。
「どこまでも上から目線だな……! おい春閣下、お前ら下がってろ! 邪魔だ!」
「は、はいー!」
駄目だ、ここにいたら本気でどうなるか分からない。それくらいプロデューサーさんの意志は硬い。
私達は年少組の手を引いて、一気に距離を取る。情けないけど……ほんと情けないよー!
まぁ長年引っかかってたところに介入しようっていうのが、元々間違いなんだろうけどさ!
≪KAMEN RIDE≫
「「「変身!」」」
≪DECADE!≫
≪HENSIN≫
士さんはカードをバックルに入れ、蒼凪さんはダブタロスをベルトにセット。
ユウスケさんはポーズを取って、出現したベルトの両脇を叩く。それでみんな、姿が変わった。
プロデューサーさんは右腕を横に広げながらスナップし、もう一歩踏み出す。
「さぁ、ショータイムだ」
その瞬間プロデューサーさんは疾駆――目にも留まらぬ速さで、ユウスケさんの前へ出る。
ユウスケさんが慌てて手を伸ばし掴もうとすると、なぜかその場でコケる。
その瞬間、喉元にプロデューサーさんの右足が打ち込まれた。喉から激しい火花が走り、ユウスケさんの体が震える。
動きが止まっている間にユウスケさんが蹴飛ばされ、近くのガードレールに叩きつけられた。
「な、なにあれ……! なんでユウスケさん、コケちゃったのよ!」
「律子、違う。あれはコケたんじゃなくて、投げられたんだ」
「投げられたぁ!?」
「合気道って言えば分かる? でも、あんなレベルが高いのは……!」
合気道……あ、攻撃しない武術だっけ。専門家じゃないから、それくらいしか分からない。
でも今プロデューサーさんが見せたものは、空手有段者の真が驚くほどのものらしい。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ホッパー2こと一文字隼人と一緒に……ていうか、フェイトちゃんやギンガちゃん達と一緒に?
とにかく現在居残り中。そろそろおやつの時間だと思ってウキウキしていると、突然あの絵が輝いた。
いつもみたいにガシャンと動かしてもないのに輝く絵は、その中で姿を変える。
「……なんじゃありゃ!」
「うえ!?」
一文字隼人とヒビキが声を上げ、ギンガちゃんとフェイトちゃんが信じられない様子で立ち上がる。
あたしも翼をバサバサさせながら、絵に近づいて確認。そこで栄ちゃんがやや慌てながら、エプロン姿で出てきた。
「二人とも、どうしたんだい」
「ど、どうしたもないんです! これー!」
「あらまぁ……え、あれやっちゃったの? ガシャンって」
「違うの栄ちゃん! 突然絵柄だけが変わっちゃって!」
「ヤスフミ……士さん!」
慌てて私達は外へ。もし勝手に移動しているとしたら、少しマズいかも。
……絵に描かれていたのは、白い二つの月とそれにかかっている高層タワー。あれは、多分。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ユウスケ!」
「無駄だよ」
ヘタレが声かけしている間に、ユウスケは変身解除。はい、これでまず一人。
「時間がないから、ちょっと本気を出してあげる。はい、きてきて」
手招きすると、ヘタレは迷いなく突撃。僕の後ろに回り込み、後頭部へ右ストレート。
振り向きながらその腕を取り、下へ振るってほうり投げる。ヘタレは数十メートル吹き飛び、そのまま近くの野原へ墜落。
そしてもやしは腰の装備を剣に変え、斬りつけてきた。寸止めされる前に踏み込み、剣をかわしながら頭突き。
こちらへ踏み込んだ衝撃が強化スーツ越しにもやしへ伝わり、剣を揺らしながら数歩下がる。そこで野原の方から破裂音。
≪CAST OFF――CHANGE! DARK BEETLE!≫
ヘタレが飛び出て、僕を頭上から強襲。縦に回転しながら右かかと落とし。
そんなに回転したいならと、打ち込まれた足を右手で取り押し込む。
ヘタレは予想外の回転にバランスを崩し、頭からコンクリに叩きつけられる。
その間にもやしが剣を銃へ変形。銃口を向けたので、すっと踏み込み視界外へ消える。
「どこ行った!」
「遅いわ」
背後へ振り返る前に、背中へ掌底。脊髄を狙って打ち込むと、もやしが呻きながら膝をつく。
動きを止めたところで右平手。側頭部を叩いて倒し、意識を奪う。もやしは倒れて停止。
二人目……そこでヘタレが再突撃。左アッパーから右ストレートとくるけど、そのどれもがフェイント。
本命は拳を直前まで打ち込んで、視界を塞いでの右後ろ回し蹴り。足へ打ち込み、へし折ろうってか。
その足を左手ですくい上げ、バランスを崩しほうり投げる。宙を舞うヘタレへ向かって右掌底。
……でもそこで嫌な予感がして、手を止めて後ろへ跳躍。僕の周囲に蒼いリングが生まれ、空間を戒める。
数メートルの距離を取りながら、懐からあるものを取り出し投てきしつつ着地。
ヘタレは右肩から地面に叩きつけられ、呻きながら起き上がる。懐からスイッチを取り出し、ぽちっと押す。
次の瞬間、ヘタレの背後で大爆発。さっき投てきしたのは束特製・超小型プラスチック爆弾。
ただしあれじゃあ装甲は砕けない。なので爆発した不意を突いて踏み込み、右手で後頭部を掴んで、顔面をコンクリに叩きつける。
一瞬体が跳ねるものの、 動きを止めた。はい、これでおしまいっと。
しかし弱すぎる。奥の手、触りの触り程度しか出してないんだけど……ほんとなにこれ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
プロデューサーさんがあっさり勝った。三人とも、倒れて動きもしない。でもなにあれ。
私達にはみんなが攻撃したら、勝手に転げて頭を打ったようにしか見えなかった。
いや、プロデューサーさんも頭や背を叩いたりしてたけど。でもでも……うまく言えないー!
「ま、真ちゃん……プロデューサーさん、なにしたの?」
「ごめん、説明できない。ただ一つ言えるのは……プロデューサーは今まで、本気なんて出してなかった」
プロデューサーさんは軽く伸びをし、私達に手を振りながら去っていく。でもどうしよう、止め……られるの?
いや、無理だ。今のプロデューサーさんは、本気でやりかねない。ていうか考えてみてよ。実力は圧倒的。
私達なんて全員、大して苦労せず気絶とかさせられちゃうかも。そうなったら……!
プロデューサーさんは左腕の小手をスライドさせ、余裕たっぷりなのに。
「待てよ……!」
≪KAMEN RIDE――KABUTO≫
そこで士さんが起き上がって、赤い角つきライダーへ変身。そのまま加速して消え去る。
≪ATTACK RIDE――CLOCK UP≫
≪CLOCK UP≫
更に蒼凪さんも起き上がって同じように消える。これ、もしかしてクロックアップっていうの?
これなら……! 私達には見えていないけど、プロデューサーさんは止められる。
でもプロデューサーさんは、龍顔な小手にカードを挿入。それから再スライドさせ、元の形状へ戻す。
≪アドベント≫
次の瞬間プロデューサーさんの周囲に、体長十メートルに及ぶ黒龍が出現。それは炎を伴いながら渦を巻く。
するとその脇に蒼凪さんと士さんが、プロデューサーさんを挟み込む形で出現。二人は龍の回転にはじき飛ばされ、地面を転がる。
龍は回転しながら炎の砲弾を吐き出し、二人を攻撃。二人は咄嗟に横へ転がり砲弾を避ける。
「ひぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ド、ドラゴンですー!」
「雪歩、落ち着いて! でもプロデューサー、ほんとどこでこんなのと!」
「……ドラゴンって友達になれるのかなぁ」
真が倒れかけな雪歩を支えていると、とんでもないボケが披露……響ちゃんー!?
まさかドラゴン飼うつもりかな! さすがにこれは無理だよ! 体長十メートルだし!
『くぅくぅー!』
「あ、でも鳴き声は可愛いぞ!」
「我那覇さん、問題はそこじゃないと思うわ」
「ほんとだよ!」
響ちゃんへツッコんでいる間に、龍が回転を停止。プロデューサーさんの周囲で揺らめく。
というかすりすりして腕とかを軽くかじり始める。
『なんかじゃれてる!?』
「全く、甘えん坊だねー。よしよし」
『くぅー♪』
「随分、余裕だねぇ……!」
二人はフラつきながら立ち上がる。士さんはディケイドの姿に戻っちゃって、剣をまた構え直した。
「悪いねぇ、余裕出すしかないんだわ。だってお前ら、弱すぎるもの。特にお前」
そこで左手が動き、当然のように蒼凪さんが指差される。
「実際やり合ってよく分かったわ。欲望を解放しないからそうなる」
「彼女作れってか……!」
「全然違う。お前は自分の限界を自分で狭めてる」
わりと鋭い言葉で、いら立っていた蒼凪さんが動きを止める。
……私も気づいた。プロデューサーさんの言葉、どこか悲しげだった。
「周囲の『当たり前』に縛られ、限界の前でうろちょろしている。だから僕に勝てない。同じ化け物なら」
あ、まただ。またあのプレッシャーが……! つい後ずさっていると、プロデューサーさんがまた小手を操作。
黒いデッキからカードを取り出し、それを挿入する。
「より解放している方が強い。道理でしょ?」
≪ソードベント≫
すると空がキラリと光り、ドラゴンの尻尾が落ちてくる。ドラゴンはその場にいるから、言葉おかしいけど。
というか、同じ形状の片刃剣? それを右手でキャッチすると、プロデューサーさんは楽しげに手元で一回転。
「お前、ほんと何者だ」
「ただの化け物だ」
……その言葉を合図に士さんが踏み込む。そこから目にも留まらぬ斬り合いに発展。それをただ、見守る事しかできない。
「な、なに言ってるの。恭文君……ていうか、これはなに!」
「……人を捨て去るほどの鍛錬、うちに秘めた人外に等しき闘争心」
貴音さんが一歩踏み出し、険しい表情で煌めく刃とプロデューサーさんを見た。
「確かに蒼凪殿では勝てるはずもない。より深遠へ踏み込んでいるのは、あなた様」
「四条さん……できればその、私達にも分かる言葉で」
「ですが」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
唐竹に打ち込まれたソードブッカーを弾き、袈裟・逆袈裟と胴体を斬りつける。
更に反時計回りに振り返り、ヘタレのクナイ一閃を弾いて防御。もう一度もやしへ振り向きながら刺突。
腹を突いて下がらせた上で側転。左へ回りこんで組みつこうとしたヘタレを避け、その脇に立った上で右後ろ回し蹴り。
脇腹を蹴り飛ばし吹き飛ばしてから、再度踏み込んできたもやしへダッシュ。
袈裟の斬撃を逆風に弾き、開いた胴体へ右薙の斬り抜け。……その間にヘタレがハイパーゼクターを召喚。
「ハイパーキャストオフ!」
≪HYPER CAST OFF≫
腰に装着したゼクターを叩き、火花を走らせながら更に変身……潮時か。振り返るもやしへ、零距離の刺突。
全身のバネで打ち込んだそれは、まさしく必殺の威力。ディケイドのアーマーがひび割れ、吹き飛びながら破片をまき散らす。
「……牙突、零式もどき」
刃を手元で一回転させながら、変身完了間近なヘタレへ向き直る。二枚目の手鏡を取り出し、その中へドラグブラッカー共々退避。
ミラーワールドへ再び入り込む。そこは全てが反転した世界で、足元には僕がいなくなった事で割れた手鏡も出現。
さて、距離を取った上で脱出するか。これだけ引きつけておけば、十分な時間は稼げたでしょ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
≪CHANGE――HYPER DARK BEETLE!≫
≪……逃げられましたよ≫
「分かってる!」
割れた手鏡の元へ近づき、周囲確認。しょうがないのでダブタロス達を外して変身解除。
アイツ……こっちがハイパーダブトになった途端逃げやがった。間違いない、カブトのライダーもこっちにいる。
ハイパークロックアップの詳細を知ってるから、さすがに対応できないと知ってこれだ。
しかも……変身解除し、呻いているもやしを見る。ミラーワールドとなると、カメンライドできるもやししか入れない。
そのもやしに徹底的なダメージを与え、逃げ道もしっかり確保。これが、限界を超えた先ってわけか。
≪でも言われましたねぇ≫
「だから付き合えってか」
≪そうじゃありませんよ。まぁ私にも責任はありますけど、確かに常識で狭まってるでしょ。あなたの限界≫
「……くそ!」
反論できず、ただ地面を踏み砕く事しかできない。……そうだ、反論できない。
リンディさんや仲間の常識に流され、ヴェートルの事だってちゃんと告発できなかった。
六課の事だって止められなかった。六課入りする事だって、はっきり断れなかった。
限界を感じながら、超えようとしながら、肝心なところでそれに引っ張られて半端止まり。それが……今の僕。
アイツは本当に、恋愛どうこうじゃなく突きつけてきた。僕は中途半端で、だから弱いんだと。
でも……弱いなら弱いなりの戦い方をすればいい。幸いな事に向こうのバイクはこっちにある。
ここでいきなり逃走へ走らなかったのは、やっぱりバイクの事があったからだと思う。
だから確保すれば、必ず手掛かりになる……といいなぁ。それでも、ちゃんとするしかないんだけど。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そんな事をもう一人の僕は考えるだろう。仮に無駄だと分かっていても、調べないわけにはいかない。
だからウィザードサイクロンは置いていった。向こうがウィザードサイクロンへ引きつけられている間に、こっちはやる事を済ます。
ニキロほど離れた上で現実世界へ戻り、変身も解除。どらぐぶらっかーと一緒に都内へ戻ってきた。
恐らく奴らはハカランダを訪ね、仮面ライダーカリス――相川始さんへ接触しようとする。
まぁそれはそれとして、池袋西口へ到着。ビックカメラ裏手の西口公園前のベンチに座り。
「伊織、よかったの?」
「いいわよ」
「くぅー」
待ち合わせしていた伊織と合流。伊織は懐から出てきたどらぐぶらっかーを受け止め、優しく撫でる。
「アンタも心配しなくていいから、元の場所へ戻ってなさい」
「くぅくぅー」
「ん、ありがとう。またなにかあったらお願いね」
「くぅー♪」
伊織が手鏡を出すと、どらぐぶらっかーは頷いてからその中へ。ため息混じりに伊織は手鏡を仕舞い、横目で僕を見る。
「フェイト達にもお願いしてる。フォーク持ち出されても面倒だし」
「……納得してくれた?」
「一応ね。アンタの気持ちも分かるから。剣崎の馬鹿と同じになったらって……考えちゃうわよね」
「ていうか、今のままだと確実になるよ。さっき追ってきたのを返り討ちにしたんだけど、あれじゃあなぁ」
はっきり言おう。ハイパークロックアップとかもなしで、僕に一撃でもいいのを入れられたら……バックルは渡すつもりだった。
でもあれじゃあ駄目だよ。恋愛の事だけじゃなく、いろんなものに縛られて限界を決めている。
それはきっと、こうするしかと突き進んだあの人と同じで。確かに現実は甘くなんてない。
だけどハッピーエンドに進めない言い訳をしたら、そこから先へは進めない。だからアイツには預けられない。
限界の先へ進む勇気がない奴に、あれは預けられない。もう、あんなのはゴメンだから。
まぁ伊織は納得してくれたようで安心。なんだかんだでこういう時、愛を感じるんだよねぇ。
「ていうかなりかけた」
「……うん。それでさ、時々考えるんだ。僕があの時ライダーだったら……ってさ」
「ライダーだったじゃない。それで止めようとして、睦月共々返り討ちにあった」
「ライダーじゃないよ。そんなヒーローだったらきっと、剣崎さんの事も救えたはずだから」
「アンタは自覚した方がいいわよ? 踏み込める力があるって」
伊織はジト目でそう言ってくるけど、すぐにそれを緩めた。
「てーかアンタだけのせいじゃない。……始の方は」
「それなら大丈夫」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
しょうがないのでバイクは結界内へ置いておく。ろっ骨をへし折られたもやしは春香達に任せ、僕は貴音を連れてハカランダへ。
そこはいわゆるロッジ風の喫茶店で、中も木造りで雰囲気がいい。そんなお店を運営しているのは、ショートカットの女性。
その横には中学生くらいの黒髪ロングな女の子。髪を一つ結びにしている。
「いらっしゃ……あら! 恭文くん!」
「恭文、またきてくれたんだー!」
女の子がカウンターから出て、僕へ近づき……怪訝な顔をした。
「あれ、恭文じゃない?」
「えっと、そんなに似てます? 僕、ソイツとは別人なんですけど」
「この方は火野恭文ではありません。まぁ名前は恭文ですが」
「あら、そうだったの。でも……確かにちょっと違うかも。火野くんよりちょっと幼いというか」
その言葉が今は突き刺さる。アイツの方が、上って事か。どうにも言えないモヤモヤが心へ降り積もっていく。
「でも恭文の知り合いなのは確かなんだよね。それは驚きだよ」
「まぁ、向こうも驚いてた。それでその、相川始さんってここに」
「始さん?」
「わたくし達はその方に会いに来まして。……申し遅れました、わたくし765プロの四条貴音と申します」
気持ちを入れ替え、貴音と一緒にお辞儀。すると二人は驚きながら貴音をガン見。
「つまり、恭文くんの新しい彼女さん?」
「わたくしの心はもう、あの方のものです」
「やっぱり……恭文がアイドルプロデュースしたら、絶対そうなるよね」
ちょっと!? なに勝手な事言ってるの! いや、彼女とは明言してないけど、誤解させてるよね! 知らないよ、僕!
戦々恐々としてしまうけど、本題に戻ろう。このままだと話が進まない。
「えっと、それで」
「ごめんなさいね。始さんならちょっと前に出かけて」
「出かけた!?」
「遅くなるって言ってたけど……えっと、出版社絡みだっけ。始さん、写真集出すのかな!」
「天音、駄目よ。まだ事情が分からないんだから」
……この人達は栗原遥香さんと、娘の天音ちゃん。相川始――仮面ライダーカリスの戦う理由。
旦那さんの死後、やってきた相川始を家族同然に受け入れ、今も暮らしているらしい。
でも肝心の本人はお出かけ。しかも理由をちゃんと言ってもないっぽい。やられた……アイツはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
始さんには、予め連絡を取っていた。その上で事情説明し、行方を眩ますように進言。
始さんは剣崎さん絡みの事だし、快く受け入れてくれた。僕があの場で戦ったのは、完全な時間稼ぎだよ。
始さんの動きが制限されると面倒だしさ。今ごろは虎太郎さんと合流しているはず。
「自分を囮に引きつけたってわけ? また性悪」
「うっさい」
伊織にデコピンしかけた瞬間、猛烈に嫌な予感が走る。すると警察署方面から悲鳴。
大勢の声と衝突音が響き、人が我先にと川越街道方面へ走っていく。……てーか待って、この気配は。
「……伊織、逃げて」
「いや、逃げろって……あー、もういい! 分かった! 気をつけてね!」
「うん」
伊織はすぐ納得してくれて、ベンチから立ち上がり駅構内へ走る。……その後で、人をなぎ倒しながら現れる怪物達を発見。
黒く、両腕から鎌を生やした奴を先頭に、合計四体。二人目はやたらゴツい、リクガメっぽい奴。
三人目は緑色で、頭が蚊みたいな形状。ドリルみたいな口と、白い羽を出している。
四人目は右手にエラみたいな刃を持つドリル、左腕に白いシールドを装備。シールドはドリルミサイルを発射もできる。
んな、アホな……! トータス(ダイヤの7)、モス(ハートの8)にモール(クローバーの3)アンデッド!?
それにあのカマキリ、まさかマンティス(ハートのエース)アンデッドじゃ! くそ、予想が悪い方向で当たった!
でもどういう事だろう。モールアンデッドはもぐらの原種だから、暗いところを好むはずなのに。
……そこは後だ。僕は駆け出し、こちらへ迫る奴らを迎え撃つ。まずはトータスアンデッドへ飛び蹴り。
シールドで防がれるものの、構わず蹴り飛ばして反転。トータスアンデッドはたたらを踏んで下がる。
着地してから、飛んできたドリルミサイルを飛針で打ち抜き爆散。その爆炎を突っ切り、モスアンデッドが飛しょう。
バク転しながら突撃をかわし、腹を蹴り飛ばしておく。その時に腰のだ円形バックルもチェック。
間違いない、これ……! ラウズカードもなしじゃあ封印は無理だけど、引きつけるくらいはなんとかしないと。
着地すると、モールアンデッドが踏み込みドリルを突き出す。それを伏せて避け、ひざ下へ入り込むようにタックル。
足元を崩され、モールアンデッドは前のめりにコケる。そこで二時半方向からマンティスアンデッドが強襲。
右側転で左刃での左薙斬り抜けを避け、トータスアンデッドが投げた鉄球へ左バックブロー。
右側から飛ぶそれを殴りつけ、こちらへ振り返り迫るマンティスアンデッドへぶつける。
上から掴みかかってきたモスアンデッドは、左側転で回避。そのままバク転して数メートル距離を取る。
すかさずモスアンデッドが反転して突撃してくるので、また反撃……と思っていると、右側から飛び蹴りが飛ぶ。
それはモスアンデッドを吹き飛ばし、公園中央のステージ縁へ叩きつける。
その人は灰色のコートを揺らしながら着地し、僕へ近づきながら腰を低く落とす。
黒い髪を揺らしながら、威嚇の遠ぼえ。その姿はさながら獣……でも僕の友人だった。
「火野、大丈夫か」
「えぇ」
「だが相変わらず無茶をする。……予測は当たっていたか」
この人が相川始さん――一人目のジョーカーだよ。今はカリスへ変身できないし、多分これが正確。
ライダーの変身には、各スートのエースカードが必要になる。そして始さんのカリスは、ハートスートのライダー。
……マンティスアンデッドがハードのエースだから、あれがないとどうにもならない。ジョーカー形態になれば別だけど。
あれならアンデッドの封印も可能。でも……今変身させるのは駄目だ。やるにしてもギリギリまで追い込んでから。
「始さん、ジョーカーには変身しないでください。剣崎さんが近くにいるかもしれない」
「それでどうする」
「僕が誰かお忘れで?」
ロストドライバーを取り出し、腰へ装着。
「……分かった」
すぐ納得してくれて嬉しい。メモリを取り出そうとした瞬間、奴らの背後に三つのバイクが止まる。
白・青・赤にカラーリングされた、ホンダCBR600SS――スーパースポーツバイクだよ。
それから三人の男女が降り、こちらへスタスタと迫る。先頭は黒いスーツ姿で、黒髪セミロング二つ分けの男。
その右側は青色のダウンジャケットを着た、気の強そうな茶髪。反対側には茶髪ショートで、更に気が強そうな女。
女は茶皮のジャケットを着ているけど、スタイル抜群。……あ、結構好みかも。
ソイツらは懐からだ円形のバックルを取り出し、それに白枠のカードを挿入。そこには色違いでケルベロスが描かれていた。
腰の前に当てると、両端から赤い裏表紙のカードが展開。それが腰へ巻きつきベルトとなる。
「「「変身!」」」
三人は声と動きを揃え、バックル左半分を横へスライド。色違いのAが現れると、そこから光が展開。
≪OPEN UP≫
金色・緑・ピンクのカード型カーテンを突っ切り、一気に変身。黒色を基調とし、ほぼ同デザイン。
胸元にはAのエンブレムがあり、全体的にAモチーフなのが見て取れる。目はないけど、一つ目の如くダイヤ型宝石をセット。
茶髪男は緑のラインが入り、右手に槍。一つ目宝石の色はオレンジ。槍らしきものを持ってる。
女は赤いラインが入り、一つ目宝石は緑色。二人とも顔はほぼ同じ。
顔の両側面にAの文字が描かれ、端がゴーグルのように顔の前まで伸びている。
右手に持っているのはボウガンらしき武器。弓の部分が緑色の刃にもなっている。
黒スーツの方は金色のラインが入っていて、更にリング上のアーマーも装備。王冠を思わせる飾りも付けられていた。
それだけでリーダー格と思える風格が出ていた。一つ目な宝石は赤色……これだけ輝きが強い。
腰には醒剣ブレイラウザーに似た、黒塗りの剣。それを振るい、先陣を切りながらトータスアンデッドへ逆袈裟一閃。
戦い始めた三人とアンデッド達を見て、僕と始さんはただただ呆然。
あのバックル、レンゲルのものと同方式だ。しかもものはケルベロスのカード。
天王路がアンデッド化するために使っていたカードじゃないのさ! まさか、アイツら!
「嘘……!」
「仮面、ライダー」
(第37話へ続く)
あとがき
恭文「はい、というわけで恐らく今年最後のとまとです。あと幕間第十八巻もぬるっと販売開始」
(いや、三十一日に出ると思ってたら……こんな感じに)
恭文「ぬるっと出たにも関わらず、ご購入されたみなさん、ありがとうとございました」
(ありがとうとございました)
恭文「お相手は蒼凪恭文と」
フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……ヤスフミー!」
恭文「落ち着け、というわけで、しばらくあれこれ考えて、拍手アイディアも元にして始めたお話。
うん、ディエンドの世界じゃないよね。でもディケイドクロスもここから最終章へ突入。いつもと雰囲気が変わっています」
(一応ラスボスとの最終決戦とエピローグ、下書きくらいはできていたり)
フェイト「えっと、あのディストピアかと思ったら、またOOO・Remixの世界へ戻ってきて」
恭文「そして前回渡されたバックルを火野の僕に奪われ……アイツはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
フェイト「ま、まぁ一応理由はあるし」
(あのEDを思い出し、バトルスピリッツブレイヴも思い出した罠)
フェイト「でもこれ、時期的には」
恭文「一応ダーグが来る前で、海東が出て行った直後くらいかな。今まで描かれなかった、秘密エピソードだよ」
(物は言いよう)
恭文「あとこのお話、リュウガへの変身も含めて拍手アイディアが盛りだくさん」
フェイト「どらぐれっだー達の現状とか、城戸真司さんがまた龍騎になって、安全なのかとか……そういう部分にも絡むしね」
恭文「というわけで、そんな生まれ変わったリュウガのスペックを……以前頂いた拍手ですけど」
(※−恭文がリュウガに変身した時のアイデア−
◆仮面ライダーリュウガ(恭文Ver)。 どらぐぶらっかーと絆を深めた状態で恭文が変身したリュウガ。オリジナルのリュウガと多少の差違が存在する。
まずメタリックグレイに黒のレリーフで描かれていたリュウガのデッキが、恭文と絆を深めたどらぐぶらっかー(後述参照)の影響により、
メタリックグレイが夜空のような青みがかった黒に、黒のレリーフが銀色(鉄のイメージ)に変化し、レリーフの龍もオリジナルより禍々しくはなくなった。
デッキの変化に伴い、リュウガ自体も僅かに変化しており、所々に鉄をイメージする銀の色彩が追加され、
複眼が蒼色になり、ブラックドラグバイザーの音声も、くぐもったものから通常のモノへと変化している。 変身ポーズはお好みでGO☆
◆夜天龍ドラグブラッカー・ナハト。 みらーもんすたぁ時に得た恭文との絆によって、姿や内面が変化したドラグブラッカー/どらぐぶらっかー。
夜天龍の名が示す通り、全てを塗りつぶすようだった漆黒の体色は、所々に銀の意匠(星と鉄の同時イメージ)が組まれた青みがかった黒(夜の色)に変化し、
禍々しい血の如き紅い目や黒い炎の色も、蒼に染まり変化している。
モモタロス達のように、他者との繋がりによって存在が安定してる為、みらーもんすたぁ時の人懐っこさなどは反転せず、そのままミラーモンスターの能力を得た状態。
その為か、この状態でもかなりの甘えん坊。甘噛みもするし『くぅー♪』と鳴き声も変わらない。
しかし、戦闘時は勇ましく、パートナーとなった恭文を的確にサポートする。暗黒龍時の石化の炎は使えないが、
変わりに全身を青い炎で包み込む事で鉄の如く硬化し、防御力と攻撃力を上げることができる。
ファイナルベントはリュウガや龍騎同様のもの。ドラグブラッカーの吐く蒼い炎と共に飛び蹴りを放つものだが、名称もドラゴンライダーキックではなく『ビートスラップ・ナハトエフェクト』になる。 ……以上です。
補足──夜天龍ドラグブラッカー・ナハトについて。暗黒龍時の時から銀色だった部分は蒼に変化している。
つまり体色は青みがかった黒(夜の色)。鉄をイメージした銀色と恭文のイメージの蒼の装飾になる感じです。)
恭文「えー、改めて。アイディア、ありがとうございます」
(ありがとうございます)
恭文「あとサバイブのアイディアも送ってくれてるんだ。それもこんな感じで」
(※●仮面ライダーリュウガ サバイブ
恭文の変身するリュウガが『サバイブ:獣王』のカードによってパワーアップした姿。
「どらぐぶらっかー」だけではなく「ですとわいるだー」、「べのすねーかー」、
「えびるだいばー」、「めたるげらす」全員のパワーを得る。使えるカードは
龍騎サバイブに準拠だがパワーはこっちの方がはるかに上。
その分エネルギー消費と体にかかる負担も大きい。
「みらーもんすたー」達は5体合体した「すーぱーじぇのさいだー」から更に変身して
バイク型の「ぐらんど・じぇのさいくろん」になる。)
フェイト「アイディア、ありがとうございます。……でも五体なんだ」
恭文「その分いざって時だけの変身だよ。あー、それと必殺技は……蹴り技追加します」
フェイト「え、そうなの?」
恭文「だって放映当時、サバイブの蹴り技がなくてがっかりしたから」
(ドラゴンライダーキックがカッコよかったから)
恭文「あれだ、すーぱーじぇのさいだーが変形して、巨大な足となるのよ。
それを飛び蹴りした僕に接続され、そのまま」
フェイト「それウィザードのストライクエンドじゃないかな!」
(もしくは一度分離し、みんなが螺旋を描きながら中に上がる。その中を飛んで一体化しながら飛び蹴り)
恭文「そして魔法陣が展開し、色とりどりのドラゴンが」
フェイト「だからそれウィザードー!」
恭文「まぁ今回、サバイブが出るかどうかは微妙だけど。また別の奴が登場するかもだし」
(あれとかね!)
フェイト「ところで、海東さんは? というか、あの絵は今のところ関連性が全く」
恭文「いや、絵が変わったから問題ないでしょ」
フェイト「ちょっとー!?」
(そこも後々の話で)
恭文「まぁじっくり進めていこう。MISSING ACE準拠だけどさ」
(そしてあの二人の扱いも変わるはず。というわけで、じっくり頑張ろう。
本日のED:きただにひろし『Revolution』)
恭文「どらぐぶらっかー、本編初登場だよー!」
どらぐぶらっかー「くぅー♪」(すりすり)
どらぐれっだー「かうかうー!」
だーくういんぐ「きぃー!」
べのすねーかー「しゅる〜♪」
ですとわいるだー「ぐるぐるー♪」
めたるぎらす「ぐぅぐぅ〜♪」
えびるだいばー「ひゅ〜♪」
ぶらんういんぐ「みゅー♪」
ぎがぜーる「みー♪」
ばいおぐりーざ「きゅる〜♪」
ぼるきゃんさー(ぶくぶく)
ごるどふぇにっくす「るー♪」
さいころーぐ「むー♪」
まぐなぎが「……zzz」
(がく!)
恭文「おのれはやっぱり寝てるんかい!」
どらぐぶらっかー「く、くぅー」
(おしまい)
(おしまい)
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