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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第50話 『勇気の形〜マージ・マジ・マジーロ〜』


修行二日目――やっぱり火花がバチバチバチバチ。それでもゾクゾクするものを感じてしょうがない。でも。


「――ゲキワザ!」


お昼すぎ――結界内でゲキワザ発動。引いた右拳を突き出すと、紫色の気が二つの半生命体へと構築される。


「来来獣!」

『カルカルー!』

『カスカスー!』


地面へ降り立ち駆け出すゲキカルノ達は、トタトタと走り……そのままUターン。


『『カルカスカルカスー♪』』


元のカルノ達と同じ体長のまま、僕へ飛び込んできた。脱力しながら受け止めると、二人ともすりすり。

その様子を見て、近くにいたモノホンカルノ達が荒ぶりぴょんぴょん。


「カルカルー!」
「カスー!」
「あー、二人も落ち着いて。てーか」
「「カルカスカルカスー!」」
『カルカスカルカスー!』
「仲良くしようか! ほんとお願いだから! ……はい」


左手を伸ばすと、二人もごきげんで飛び込んでくる。ちょっと大変だけど、しっかり受け止め甘えさせる。


「……恭文」

「あむ、なにも言わないで。いや、ほんとお願い」

「まぁ当然だろう」


脇で見ていたマスター・ジミーは、あむやシルビィ達と違い致し方なしという反応。僕へ近づき、カルノ達の頭を無で始める。


「修行を初めてひと月も経っていない奴が、いきなりゲキビーストを巨大化させるなど普通は無理」

「ですよねー。でもヤスフミのゲキビーストがその、甘えん坊なのは」

「一応自我も持った半生命体になるからな、そのせいだろう。まずは鍛えろという事だ」

「そうします」


ゲキカルノ達はひとしきり甘えてから、満足した様子で僕の中へ戻っていった。

……ゲキビーストっていうか、ペルソナなり出している気分だよ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


林の中から、二人でこっそり様子を確認。変なフィールド張ってたけど、あたし達なら楽勝って感じー?

気づかれてないっぽいし、しめしめー♪ さて、お目当ての子は……うん、オッケー。


「あれあれ。あれで間違いないね」

「ないねー。でも大丈夫なのかなー」

「まぁセイジェルが見込んだし、なんとかなるんじゃない?」

「なるといいよねー」


じゃあちょっと下がって……一人のところを狙ってお願いかなー。一応魔法使いって、一般人には内緒だしさー。


「そうそう、そこの二人」


二人で顔を見合わせて頷いてると、恐竜さんがギロリとこちらを見てくる。


「そろそろ出てきたらどうだ。でなければ、手荒い対応をさせてもらうが」

「やば!」

「なんかバレてたー!?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


マスター・ジミーだけじゃなく、僕も気づいてた。カルノ達を一旦下ろし、懐から取り出した獅子手裏剣を六個投てき。

六時半方向の林へと飛ぶと、黒ゴスロリ姿な女の子二人が出現。手裏剣を飛び越え着地する。

やたらとキツいメイクに長い黒髪……あれ、待って。ところどころに見える吸血鬼の装飾は……もしかして!


「ちょ、ちょおたんまー!」

「アタシ達、敵とかじゃないから! ほら、白旗白旗!」


二人揃って小さな白旗を出し、パタパタと振る。それでもみんなは警戒を緩めない。

マスター・ジミーもそうだし、特に龍可は……あー、そっか。こういう感覚鋭いからなぁ。


「あなた達、なに。人間じゃ……ない」

「龍可さん、どうしたの。めっちゃ顔怖いけど……え、人間じゃない!?」

「あー、みんな大丈夫だよ」


敵意はないっぽいし、右手を振って静止していおく。まさかと思いながら数歩近づく。


「もしかして、ナイとメア?」

「「そう!」」

「や、恭文……知り合いか! お前またフラグ立てたのか!」

「違うわボケ!」


ヒカリが肩の上でガタガタ震えながら、アホな事を……お化けとか苦手だからなぁ。

この二人はナイとメアと言って、魔法戦隊マジレンジャーに出てきた敵役。今は仮の姿って感じかな。

ただ曲折あって、最終的にマジレンジャーへ協力。同様に協力した幹部と一緒に、ラスボスを倒した。


でもそっか。二人はあらゆる結界を無効化する能力があるから、この中にも入ってこられたんだ。


「やっぱりあたし達の事、知ってたんだねー」

「だねー。それなら話早いや。ね、アンタ」


メアがくすりと笑いながら、左耳にささやく。


「セイジェルって知ってるよね」


……やっぱそれ絡みかぁ。知っているので頷くと、二人は笑って僕の両手を取る。


「ちょっとお願いがあってさ。あたし達と一緒にきてほしいんだ」

「だよねー。だから早く早くー」


すると足元に紫色の魔法陣が展開。円形のそれは禍々しい感じもするけど、不思議な事に嫌な予感は一切しなかった。


「ちょ、アンタどこ行くの! ていうかアンタ達なに!」

「あー、ごめん! ちょっと行ってくるから! いや、頑張って今日中には戻るから心配しないで!」

「心配しないでって……恭文君、待って!」


そのまま結界の中へ沈み込み、僕は地底の奥深くへ進む。向かう場所は恐らく、地底冥府インフェルシア。

修行中ではあるけど、新しい世界へ行ける喜びでドキドキしていた。





『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説

とある魔導師と彼女の機動六課の日常

第50話 『勇気の形〜マージ・マジ・マジーロ〜』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ではここで、魔法戦隊マジレンジャーという作品について説明しておこう。モチーフはもちろん魔法。

二十九番目のスーパー戦隊で、デカレンジャーの翌年に放映。次作はボウケンジャーです。

その頃はハリー・ポッターなどが流行っていたし、その関係からこんな戦隊が生まれた……はず。


息子三人娘二人・母一人の小津家は普通に暮らしていたけど、ある日突然醜悪な化け物に襲われる。

子ども達はそれをきっかけに、母が魔法使いである事をカミングアウト。

更に封印されたはずの世界、地底冥府インフェルシアと戦うようにも言われた。


ここでセイジェル達、天空聖者の存在が絡む。地上に住む人間は天空聖者から魔法を授かる事で、魔法使いとなれる。

結果兄弟五人は魔法戦隊マジレンジャーとなり、インフェルシアから地上界を守るため戦う。

その戦いはかなりの激戦。戦いの中で小津家の面々は強くなっていったものの、インフェルシアはその上を行く。


結果後半戦は、毎週がラスボス戦にしか見えない苦戦具合。その関係で二号ロボなどの売り上げも悪かったという説が。

とにかく最終決戦時インフェルシアは、マジトピア及びマジレンジャー達と和解。

みんなから教わった勇気を元に、僕達人間と変わらない世界を作り始めていた。


敵対していたマジトピアとも交流を始め……その結果がご覧の有様だよ!


「わぁ……ここがインフェルシア!?」


薄暗くも広大な地下の一部には、様々なファンタジーモンスター達が営みを育んでいた。

市場らしきものもあるし、住居や遊び場……時代は中世くらいだけど、確かに街だ。

テレビで見た時はこう、穴蔵にみんなこもっているような感じだったのに。


その様子を岩の城から見下ろしていた。ここはそんな城のバルコニー。

ここまで二人に引っ張られてさ。それで飛びながらも見ていたのよ。

でもいいなー。あそこに行ってみたいなー。美味しい食べ物とかあるかなー。


≪モンスタータウンですね。でも平和そうでなによりです≫

「いろいろ大変だったけどねー」

「けどねー。でもアタシ達の事、詳しいんだねー。じゃあ改めて」


話に戻ろうか。振り返ると、二人がスカートの裾を上げながら軽く会釈。


「あたしがナイで」

「アタシがメアだよー。そしてー」


二人が手を繋ぎ、お互いの頬をすり合わせる。すると黒い光を伴いながら融合。

黒いシレーヌっぽい怪人と化した。体に白いラインが入っており、体型は女性的。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ヒカリが悲鳴を上げながら気絶。慌ててキャッチすると……あれ、なんか重い! ちょっと重くなってる!?


「どうしたの、その子」

「気にしないでください。お姉様はお化けやホラーの類が苦手なんです」

「納得したわ。とにかくアタシはバンキュリア――よろしくね、坊や」


そこで両手が差し出されるので、やや驚きながらもしっかりと握手。すべすべしてるけど、とても温かい手だった。


「よろしく」

≪なの!? どうしたの、なんで一つになってるの!≫

「ナイとメアは、こっちが本来の姿なんだよ」


その名も妖幻密使バンキュリア。クイーンヴァンパイアで、バンキュリア自身もかなりの実力者。

太陽の光が苦手なんて事もなく、完全に倒されても夜になるだけで自動再生する。ぶっちゃけ僕よりずっと強いかも。


「でもセイジェルの事……を知ってるのはともかく、どうして僕を呼んだの?」

「正確には」


バンキュリアは再び光に包まれ、またナイとメアへ戻る。


「あたし達が呼んだわけじゃないんだー」

「でもちょっと困った事があって、力を借りたいなーって」

「セイジェルからの強い要望です。あなたにやらせてみてはどうかと」


更に後ろから出てきたのは、スフィンクス顔の女性魔人。金色の顔と黒のボディ、白いケープを身にまとい、眼鏡をかけている。

ただこちらへ近づいているだけなのに、半端ない存在感を放っていた。シオンが気押され、僅かにたじろぐ。


「「スフィンクス様!」」


ナイとメアがさっと跪くけど、女性は左手で優しく止める。


「そのままで大丈夫ですよ。……よく来てくれましたね、異界の魔導師。私がスフィンクスです」

「初めまして、蒼凪恭文です」

「お兄、様……なんですか、このプレッシャーは。この私が、押されている?」

「それはしょうがないよ」


スフィンクス――冥府十神の一角。インフェルシアの神々と呼ばれる、伝説上の存在だしね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


それでは説明しよう。冥府十神とは、マジレンジャーの後半に出てきた敵役。

主だった敵が倒された後に出現。ラスボス『冥獣帝ン・マ』を、神々の頂点に立つ絶対神として転生させようとした。

裁きの石版というアイテムを使い、選ばれた冥府神は『神罰執行神』として地上界へ攻め込む。


その時自ら侵略ルールを定めるのだが、それを破った場合闇の戒律に従い自決、又は仲間の冥府神に粛清される。

あくまでも地上界への攻撃は、神様を転生させる儀式なのだ。それまでの戦いとは全く違う模様になった。

……これがなければ、間違いなくマジレンジャーが負けていただろう。冥府神は一人一人がラスボス級の強さ。


しかもその全員をまともに戦って倒したわけではない。ある者はルールを守れなかったため粛清。

またある者は『選ばれた冥府神以外は手出し無用』というルールを破り、仲間の冥府神に手助けさせた。

それを知った別の冥府神は怒り、マジレンジャーへの攻撃を妨害。その隙になんとか倒す事ができた。


またある者はマジレンジャーでは全く敵わず、急きょ来た増援によってなんとか倒される。

またある者は冥府神の依り代に選ばれたため、仲間の手によって命を絶たれる。

ぶっちゃけよう。仮に今の恭文がスフィンクスと戦った場合、五分と経たずに敗北する。


冥府神はそれほどに圧倒的な存在である。……だがそれも昔の話。

唯一の生き残りとなったスフィンクスは、マジレンジャーとの邂逅により『勇気』を学ぶ。

それはバンキュリア達も同じく。三人は勇気の可能性を信じ、マジレンジャー達と和解・助力。


恭文も言っていたように、最終決戦後はインフェルシアの改革に尽力。地上界へ攻撃する事もなくなったのである。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「それで、僕にやらせたい事ってなにかな」

「あなたにはこれから、マジトピアへ行ってほしいのです」

「はい? え、ここでなにかするんじゃ」

「もうやってもらっています。あなたがここへきた事も、決して無意味ではありません」


どういう事かとナイ達を見るけど、二人もただ笑顔で頷くだけ。ここについては今聞いても駄目みたい。


「あなたは天馬をご存じですか」

「天馬……それってバリキリオンとか、ユニゴルオンみたいな」

「えぇ。星の魔法力を秘めた、最近生まれた天馬です。ただ少々性格に問題があり、天空聖者達も手を焼いています」

「それを僕になんとかしろと。ちなみに小津家は」

「それが駄目だからお願いしているんです」


ですよねー。でも僕、完全部外者なのに。……そこでセイジェルが絡むのかな。


「ちなみにセイジェルがそこでどう絡むのかな」

「彼女が天馬問題をなんとかするよう言われたのですが、思いっきり嫌われてしまって」

「なにやったの」

「人参で仲良くなろうとしました。でもそれが美味しそうだったので自分で食べて」

「アイツの尻拭いかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


つーか馬鹿じゃないの!? 食べ物にこだわりがあるっぽかったけど、なんで餌を自分で食べるのよ!

いや、落ち着け。だって……そうだそうだ、引き受けない理由がない! 気づいた僕は右手でガッツポーズ。


「あー、とにかく分かった」

「引き受けてくれるのですか」

「うん。だって……マジトピア、行ってみたいし!」


力いっぱい言い切ると、なぜか三人がたじろぎ後ずさる。


「ま、眩しい。これも人間の可能性なのでしょうか」

「いや、それとはまた違うようなー」

「でもありがとー。じゃあ」


ナイとメアはまた両手を合わせ、バンキュリアへと戻る。そのまま僕を後ろから抱えた。


「マジトピアまではアタシが連れていくわ。しっかり掴まっててね」

「うん。スフィンクス、それじゃあまた」

「えぇ。私達からももう一つ頼みがありますので、またそのうち……そしてこれを」


スフィンクスは優しい手つきで、僕の右手に蒼いマージフォンを持たせる。これ、セイジェルが持ってたのだ。


「セイジェルから預かってきました。あなたの勇気が輝く時、マージフォンは応えてくれるでしょう」

「……なんでセイジェルはいないの?」

「外せない用事があると言っていましたが。とにかくお願いします」

「うん。じゃあまた」


マージフォンを懐へ仕舞うと。


「それじゃあ行くわよ!」


バンキュリアが飛び立つ。音を超える勢いで飛び、展開した結界へ突入。

すると視界は黒から青へ変化。そのまま雲を目指し、空の中を突き抜けていく。

幾つもの雲を超え、通り過ぎる風にどんどん胸が高鳴っていく。そうして空の彼方――遥か上空へ到達。


そこには幾つもの島々が浮かび、その上で大地が唸り、風が吹き抜け、水がたゆたう。

雷が走り、炎が燃える。三百六十度、周囲に広がる世界が僕達を出迎えてくれた。


「ここが……!」

「えぇ、マジトピアよ」

「凄い凄い! ラピュタは本当にあったんだ!」

「それ映画のよね! ラピュタじゃないわよ!」


こっちにもラピュタあるんだ! そっちの方が驚きだよ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文が突然連れ去られました。ていうか、シルビィさんはこのパターンに覚えがあるらしく、頭を抱えてた。

しょうがないので全員ロッジのリビングに集合。どうやって恭文を探そうかと検討中。


「……って、無理だしー! 手掛かりないじゃん!」

「そう、だよねぇ。ただ恭文君の知り合いっぽいし……知り合いだよね」

「残念ながらそこもさっぱりよ。ただ、もしやと思うんだけど」

「きっと恭文さんなら、インフェルシアですねぇ」


そう、そのインフェルシアがどこにあるかも……全員でハッとしながら、そう呟いたスゥへ詰め寄る。


「スゥ、アンタ、あのゴスロリが誰か知ってんの!?」

「知ってるもなにもぉ、魔法戦隊マジレンジャーに出てきた人達ですよぉ」

「ナイとメアって言ってたし、間違いないねー」

『やっぱりそれ!?』


やっぱ戦隊なんだ! まぁまぁそんな予感はしてたんだけど、アイツは……! あ、じゃあまた変身形態増えるとか!?

いや、それは一旦置いておこう。大事なのは正体が分かった事だよ。これなら、恭文を追える!


「アンタ達、じゃあそのマジレンジャーの基地とか教えて! あとはインフェルシアってとこの場所も!」

『無理』

「なんで!?」

「だって基地なんてないしさー。小津家は普通の民家だしー。
それにね、魔法使いって秘密の存在なんだー。だからほとんどの人は知らないよー」

「場所も分からないし、いきなり訪ねても門前払いされるだけだよ。
インフェルシアも地底の奥深くにある。普通の方法じゃあ行くのは無理」


普通の方法じゃあと言われて、あの紫色の魔法陣を思い出す。もしかしてあれが魔法で、使えないと行けない?

いや、でもそれで諦めるわけにはいかないじゃん。ていうか、基地とか普通に建ててくれていたら……!


「ねぇ三人とも、魔法使いが秘密なのはどうして? 確かに私も知らないんだけど」

「マジトピアっていう、天空世界の掟なんだー。そこにいる天空聖者と契約して、人間は魔法を使えるのー」

「仮に恭文君が契約したとしても、その辺りから話を聞き出すのは難しい?」

「だと思うー。天空聖者の人達、マジレンジャーの中だと掟関連には物すごく厳しかったしー」


更に言えば、マジレンジャー本人も同じ感じなのかな。ああもう、それ最悪じゃんー! 喧嘩してる暇ないかもなのにさ!


「そもそも乗り込むのは危ないよ。インフェルシアは元敵組織だし、和解はしてるだろうけど……冥府神もいるから」

「冥府神? 別に問題ないじゃん。ただ恭文を探してるだけだし」

「大有りだよ。冥府神は下手をすると、恭文が瞬殺されるレベルの強さだから」

「はぁ!? いや、でもアイツ忍者になれたりしてるじゃん!」

「それくらいインフェルシアは強かったんだよ。もちろんナイとメア達だって同じ。
マジレンジャーが前向きな和解へ持ち込めたのも、状況に左右されたところが大きい」

「あむちゃんがいつもの調子で意地を張ったら、指先一つでダウンですぅ」


うっさいし! ていうか、ラスボスと和解!? あれ、なんかわりと凄い戦隊なのかな!

でも恭文、アンタそれやばいんじゃ……! ああもう、このまま待つしかないの!?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「それで問題の天馬は」

「この辺りにきたって話なんだけど……かなり無軌道っぽいのよね」


この辺りって空中……あー、問題ないか。魔法の国だしね。きっと馬も普通に空中を走るんでしょ。

とりあえず気配察知……ん? なんだこれ、四時方向から妙に暗い気配がする。

それだけじゃなくて、なにか馬の鳴き声みたいなのが響いた。慌ててバンキュリアとそちらを見る。


「「天馬!?」」


するとそこにいたのは天馬ではなく、空を走る黒いチャリオット。そこに刺々しい鎧の騎士が乗っていた。


「おらおら……どけどけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


しかもお構いなしにこちらへ突撃してくる。バンキュリアが慌てて上昇し回避。

なんとかすれすれで飛び越え、去っていくチャリオットを見送った。


「バンキュリア、あれなに」

「嘘……バーサーカー族のラント・ド・ブライドン!?」

≪あれ、それって劇場版に出てきた奴じゃ≫


説明しよう。マジレンジャーの劇場版に、オリジナルの敵としてグルーム・ド・ブライドンというのがいた。

インフェルシア最強の戦闘民族・バーサーカーの王で、アメイジアボイス。つまりソイツの親戚みたい。


「ラント、ちょっと待てって! お前荒っぽすぎ!」


同じ方向から少し遅れて、また馬の鳴き声。一角角を持つ馬に乗っているのは、赤いスーツのヒーロー。

顔は不死鳥を模したゴーグルで、体に金色のライン。背にはマントをなびかせ、空中を踏みしめ駆け抜けていく。

あれは……間違いない! マジレッド――小津魁さんだよ! バンキュリアも気づいて、走り去っていく魁さんを追いかける。


「ちょ、魁! なにしてるのよ!」

「あー、バンキュリアか! ちょうどいい、手伝……あれ、君は」

「あの子の事、なんとかするためにセイジェルが声をかけたのよ。新しい魔法使い」

「どうも、蒼凪恭文です」

「ただの尻拭いじゃないかよ! ていうか、なんでセイジェルいないんだ!」


よかった。僕だけじゃなかった、これが正しい感覚だったんだ。つい涙ぐんでしまう。


「あー、でも悪い! 挨拶は後だ!」

「その方が良さそうですね。察するに問題の天馬が」

「今追跡中! ほら、見えた!」


大陸の合間をすり抜けるように飛び、黒いチャリオットへ追いつく。

そしてその前方二百メートルほどのところで、灰色の天馬を発見。

背中から二枚の翼を囃し、やっぱり蹄で空中を踏み締め走る。その姿に一瞬で見ほれる。


「天馬……ペガサスキタァァァァァァァァァ! というわけで結界展開!」


術式発動――結界を展開し、天馬が逃げないようにする。でもそこで天馬は吠え、鉄色の輝きに包まれながら速度を上げる。

そのまま触れられないはずの結界へ衝突し、一瞬で粉砕する。……三十秒も持たなかったよ!


≪結界、破壊されました≫

≪もうどうなってるのー!≫

「結界とは添えるものかもしれない。ミラフォと同じように」

「無駄だぁ! コイツ、ガキのくせに力だけはある!」


ラント・ド・ブライドンとやらは野太い声を響かせながら、チャリオットを右へ走らせ……あ、やばい。


「バンキュリア、避けて!」


声をかけた瞬間、天馬が反転。光に包まれながらこちらへ突撃してきた。やば、僕達と魁さんは間に合わない。

慌てて転送魔法で上へ回避。その間に天馬は後方へと消えてしまう。

僕達はUターンし、再び天馬を追いかけていく。しかし、なんつう速度だよ。


その上無軌道にスラロームとかしてるしさ。自由すぎるにもほどがある。


「ラント、これどういう事なのよ! どうしてあなたがここに!」

「荒くれの天馬がいるって聞いてな! オレ様がしばいてやろうと思ってよ!
てーかバンキュリア、てめぇもなんで人間のガキなんか連れてやがる」

「誰がアメーバサイズじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ああもう、じっとしてて!」


くそ、確かに仲間割れしてる場合じゃない。でもどうする……方法は一つかー。

……ロデオで手なずける! 早速転送魔法を発動し、バンキュリアの手から抜け出す。


「ちょ、坊や!」

「ちょっと行ってくる!」

「おい、待てやコラァ!」


ラントの言う事はガン無視で連続転送――瞬間転送というのは、時速にするととんでもない速さになる場合もある。

それにどういう逃げ方をしようと、常に最高速度で移動可能。これもまた僕だからできる事。

それによりキロ単位まで伸ばされた距離を十数秒で埋め、天馬の上を取った。天馬が光となってジャンプし、僕へ体当たり。


それも転送で回避し、動きが止まったところで再転送――天馬にしっかりまたがる。

両足で天馬の胴体を締め、両手で首裏の毛並みを握る。すると天馬は跳ねながらジグザグに進む。

天馬でもロデオになるのかと、躍動する体と衝撃に耐えてなんとか踏ん張る。


視界がミキシングされ、お尻に鈍痛も走る。それでもこの力強さにどんどん魅了されていく。

天馬がターンすると、視界の端にこちらへ迫るチャリオットやユニコーンが見える。あとはバンキュリア。

このまま乗りこなせれば……天馬は空中を進み、近くの白い大陸へ移動。地面を踏み締め、更に跳ねる。


蹄がまっさらな地面……てーか床? それを何箇所も砕いていく。そして前足を上げた。

威嚇……かと思ったら、そのままあお向けに倒れ込んできた。慌てて天馬から離れ、地面を転がる。

天馬も倒れるものの、羽もあるのに器用に起き上がる。そこから光となって僕へ突撃。


慌てて左に転がると、天馬は僕の脇を突き抜ける。すぐにその輝きへ飛び込み、首根っこを掴む。

体が引き裂かれると思うほどの加速に耐え、なんとか騎乗体制へ戻る。

また空中でロデオを繰り返してくれるので、こっちも派手に暴れてみる。すると今度は近くの岩山へ突撃。


ギリギリまで加速して、僕が自分から離れるように仕向けるつもりらしい。……そういうのは好みだ。

一直線に空を駆け、数百メートル前方の岩肌へ一気に接近。でもそこで急停止し、今度は山を駆け上がっていく。

そのまま空へ飛び出し……凄い。視界が飛行魔法使ってる時以上にぐるぐるしてる。


バンキュリア以上のスピードで、数百メートル以上も上昇。そこからUターンし急降下。

見えなくなっていたマジトピアへ最大加速で近づき……さっきロデオしていた島が見えた。

そのままギリギリませ接近し、急停止。僕を振り落とそうとするけど必死に堪え、両手を引いて天馬の激突は止める。


天馬はそのまま両足で床を踏み締め、小さなクレーターを生む。更に後ろ足を蹴り上げ、僕を強引に背からたたき落とした。

痛みに顔をしかめていると、両足の蹄が覆いかぶさるように襲ってくる。慌てて横へ転がり。


「いら立ってるからって」


両足が床を踏み砕くのも気にせず、天馬の首根っこを抱えて一本背負い。


「八つ当たりしてんじゃねぇ!」


天馬の背が叩きつけられ、巨体が震える。でもそこで脇腹に痛み……かみ付かれたし。

布ごと肉をかみ千切ろうとしてくるので左肘打ち。天馬の側頭部を殴り、強引に離してもらう。

そうだ、コイツはいら立ってる。だからあっちこっちで暴れてるっぽいしさぁ。でもそれで人様に迷惑かけていい事にはならない。


「なんでそうなったのか話せ。それが無理なら」


それでも起き上がろうとしたところへまた飛び乗り、乱闘にも似たロデオ開始。


「強引にでもこじ開ける!」


白く平だった床が踏み荒らされ、いん石でも落ちたのかと言わんばかりの場になっていく。

また振り落とされ、今度は後ろ足で蹴られた。左腕でガードするものの、右足の蹴りは胸元へまともに食らう。

口から血を吐き出しながら膝をつくと、天馬が勝ち誇った様子でこちらへ振り返る。


……なので立ち上がりながら右掌底。天馬の顎を打ち上げ吹き飛ばし、もう一度床に倒れてもらう。

それでも起き上がり、真正面から襲ってくる。右フックで側頭部を殴り飛ばし床へ倒す。

すると翼が煌き、こちらに流星の散弾が照射。それを飛び越えながら回避するものの、左足の外側や右腕を掠める。


それでも天馬へ跨って、もう一度ロデオ……! こうなったら意地だ! とことん付き合ってやる!

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


坊やの姿が見えなくなって、いら立つラントを引っ張りながらも捜索――ていうか、天馬に跨って行方不明ってなに!

ほんとどうなってるのかと焦りながら捜索した結果、坊や達は元の場所へ戻っていた。でも……なに、あれ。

坊やは全身ボロボロで、天馬もアザだらけ。口から血も流れてる。寒気が走りながら急ぎ飛ぶと、坊やが前足での蹴りを顔面に受けた。


顔面が潰れたかと思うと、坊やは煙となって消失。天馬の上へ出現し、手の平に螺旋形のエネルギーを構築。


「螺旋丸もどき!」


そのまま天馬の背に螺旋丸とやらを叩きつける。すると天馬が圧力で押し潰された。

ほとんど土塊になっている床へ大穴を開け、同時に地面へ螺旋状の傷も刻まれていく。

天馬が身を捻りながら絶叫……口から血を吐き出しながらバタリと倒れた。


坊やもふらふらとしながらその場で膝をつき、血を吐き出す。……ああもう、あれはマズい!


「坊や!」

「ペガシフォン!」


慌てて坊やと天馬へ近づき……って、そうだった。ペガシフォンって名前だったわね。

凄い惨状になっているので、左手刀で右の手首を切る。まずは坊やの頭に、傷口から流れる血をかける。

それから天馬にもかけると、二人の傷は全く瞬く間に再生。坊やは目をぱちくりさせながら周囲を確認。


「あれ、バンキュリア」

「『あれ』じゃないわよ! なに! 一体なにがあってこうなったのよ!」

「いや、ロデオしてたらイライラして……大げんかに」

「どうしてそうなるのよ! 腕とかも折れてたわよね!」


魁達も無茶なものだと思っていたけど、この子は下手するとそれ以上に無茶苦茶だわ。

まさかこのアタシがここまで心乱されるなんて……ちなみにアタシの血には、再生効果がある。

これでもクイーンヴァンパイアですから。スフィンクス様レベルとまでいかなくても、それなりに力はあるって事よ。


とにかくもうちょっと言ってやろうと思うと、天馬は光となってこの場から消え去る。

慌てて立ち上がった坊やが振らつくので、咄嗟に受け止めた。


「駄目よ! 傷は治したけど、無茶しないで! ……ていうか、どうしてそこまで」

「八つ当たり、してたから」


物すごく端的な事だった。でも……そっか。もしかしたらこれが、この子の勇気に繋がっているのかもしれない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


後に残るのは、ロデオによって踏み荒らされた床だけ。我ながら派手に暴れたなぁと思っていると。


「なにしてんだてめぇ! あれはオレ様がしばくつっただろうがよ!」


掴みかかってくるラントを軽く避け、周囲をチェック。……あ、ここやばいかも。

魁さんも奥にある門構えに気づいたらしく、軽くたじろいだ。


「ま、まぁ落ち着けって。それより今はほら、早くここから逃げて」

「るせぇんだよ! こんなチビにナメられっぱなしで、バーサーカー族の王が務まるかってんだ!」


とか言うので遠慮なく腹を蹴り飛ばすと、ラントは起き上がり再突撃してくる。


「なにすんだゴラァァァァァァァァァ!」

「誰が砂粒レベルのみじんこじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「誰もそこまで言ってないだろ! いいから見つからないうちに」

誰に見つかりたくないのじゃ?


つい怒りに任せ、ラントとガンを付け合ってしまっていた。でもそれが間違いだと気づいた瞬間、奥の大きなドアが開く。

それがブラックホールのごとく、周囲の空間を吸引。抵抗する事もできず僕達はそれに吸い込まれ、ただ真っ白な空間へ投げ込まれる。


『うぉっととととととととと!』


床へ転がりながら起き上がると、前方に巨大な威圧感。というか、実際に巨人がいた。

その人は白髮ロングパーマなおばあちゃん。頭に『M』の字を模した、黄金色のティアラをつけていた。


「「げ……!」」

ふん、そっちのバーサーカー族と人間も、私が誰かは知っているようじゃのお

「マ、マジエル! あぁ、やっぱりかー!」

「マジエル様!」


バンキュリアが跪き、魁さんも変身を解除。中から黒いケープを身につけた、黒髪の男性が出てくる。

髪は左に流れ、赤メッシュ入り。はい、この人が小津魁――マジレッドの正体です。

和解後、インフェルシアとマジトピア、地上界を繋ぐ親善大使になると決意。インフェルシアの改革にも尽力してるんだ。


そしてこの見上げるほどに巨大なおばあちゃんは、マジエル。天空聖界マジトピアの長。

つまりここは……玉座の間に等しいんだよ! 僕達、そんなところに乗り込んでロデオや喧嘩しかけたの!


この、大馬鹿者どもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


なので当然大叱責。にこやかだったマジエルが咆哮すると、空間そのものがひび割れるような衝撃を発生。

それに吹き飛ばされかけながらもなんとか踏ん張るものの、怒りの形相は変わらない。


いきなり我が前でロデオってなんじゃ! 喧嘩ってなんじゃ!
お前達、私の事をナメとるじゃろ! 魁、バンキュリア! お前達もなにしとる!


「ご、ごめんなさい! でもえっと……この子は偶然乗り込んだだけで!」

「そうなんです! 天馬を捕まえようとしたら暴れて、そのままどーんっと!」

言い訳無用じゃあ!

『はいー! ごめんなさいー!』


凄まじいプレッシャーに押され、僕達は揃って頭を下げる。……ここへ来て三十分も経ってないはずなのに、どうしてこんな事に。


……で、この子はなんじゃ。そっちはバーサーカー族のラント・ド・ブルキアンじゃろ

「は、ははぁ! お初にお目にかかります、マジエル様!」

あー、よいよい。今更じゃしのう。で

「この子はセイジェルが見込んだ、新しき魔法使いです。天馬の問題も解決するようにとお願いを」

ほう……なんと大変な


え、それはどういう意味? どうしていきなり哀れむような声になるのかな。顔を上げるとキリッと睨みつけられたので、すぐ下げ直す。


事情は分かった。それならばここを騒がせた罰として、お前達四人で協力し、天馬を捕まえるように

「はぁ!? ……あ、失礼しました!」

うん、今更じゃのう。ではこうしよう、人間の子よ。お主の名前は

「蒼凪恭文です」

では恭文、お前はこれから、ラントと決闘するんじゃ


いきなりとんでもない提案が成され、ラントをガン見する。


このままでは天馬を捕まえる時、また馬鹿やりそうじゃしのう

「溜まってる膿は、腐る前に出しちゃえと」

そういう事じゃ。ラント、どうじゃ

「問題ありません! むしろ後腐れがなくなくって、すっきりするってもんだ!」

「僕も……大丈夫です」

では


マジエルが指をぱちんと鳴らすと、白一色だった風景が切り替わる。まるで太古のコロシアム。

その中央の円形バトルステージ上には、僕とラントだけが立っていて、脇には魁さん達がいた。

凄いよ、マジエル。こんな事までできるんだ。感じている迷いはそれとして、やっぱり感動してしまう。


思う存分やるといい!

「マジエル様、感謝します。……おい人間」

「うん」


アルトをセットアップし、腰から抜く。なお逆刃刀モードにしている。ラントは黒いブロードソードを取り出した。

そのまま近づき、お互いの射程距離へ入る。それから剣を突き出し、軽く打ち合わせた。

それが決闘開始の合図。お互い距離を取る事なく逆袈裟一閃。斬撃をぶつけ合うと同時に、その衝撃でステージを踏み砕く。


その瞬間ブロードソードが翻り、切っ先が僕に向けられる。突き出され、更に右に薙がれる刃を伏せて回避。

左薙の斬撃を払い飛び込み、顔面へ右薙一閃。するとラントは左腕をかざし、遠慮なく防御する。

それに構わず斬り抜けるけど、鎧に僅かに傷ができるだけ。くそ、魔剣Xの斬撃でこれかい。


「おいてめぇ……本気を出せよ!」


いら立ちながらラントが振り返り、唐竹の斬撃。下がって避けると左薙の一撃。

足元へ飛ぶそれをバク転で避けると、刺突が飛ぶ。……踏み込みながら跳躍し。


「飛天御剣流」


斬撃を飛び越え、ラントの右側頭部目掛けて右薙一閃。


「龍巻閃・旋!」

「甘いわぁ!」


そこでブロードソードが翻り、その腹で斬撃を受け止める。そのままラントを飛び越え背後に着地。

すぐさま飛ぶ右薙の薙ぎ払いをアルトで受け止め、鍔元で向こうの刃を滑らせるように突撃。

顔面目掛けて袈裟の撃ち込み。ラントはそれを受け止め、笑いながらヘッドバット。


「甘いつってんだろうがぁ!」


刃を弾いた上で、右切上の撃ち込み。伏せて避けると、すぐさま左ボディブローが飛んでくる。

アルトで受け止めると衝撃で大きく吹き飛ばされる。なんとか体勢を整え着地すると、ラントは疾駆。

袈裟から刺突・一回転しながら右薙一閃と続き、なんとかアルトで弾き防ぐ。そこで再びつばぜり合い。


「オレは魔法使いのお前と戦いたいんだよ! てーか、なに迷ってやがる!」


腹へ強烈な衝撃。右ミドルキックを受け、地面を数メートル滑る。

それでも起き上がろうとすると、踏み込んでいたラントが唐竹一閃。

その場でブレイクダンスを踊り、横から刀身を蹴り飛ばし脇へ逸らす。


飛んでくるケンカキックを右に避け、距離を取る。


≪あなた、迷ってるんですか≫

「迷ってはいない。でも」

「だからよ……かったるいんだよ、てめぇ!」


いら立ちながら刃を床へ叩きつけると、黒い衝撃波が地割れを伴いながら飛んでくる。


≪じゃあ勝ってから考えましょ≫


その言葉でハッとする。……アルトをモード変更。刃を本身に替えた上で逆袈裟一閃。衝撃波を斬り裂き爆散させる。

その中を突撃し、ジグザグに疾走。ラントは翻りながら唐竹一閃。そこでアルトを鞘に収め直し、一気に抜き放つ。

ラントは咄嗟に刃を盾にして防御。それには構わず強引に刃を振り切る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ようやく本気になったらしい。ちっこいくせに斬撃の重さがあるとは思ってたが、それが倍増しだ。

一撃で腕ごと持ってかれそうな一撃で心が躍る。そうだそうだ、こういうのが見たかったんだよ……オレはぁ!

その一撃をなんとかやり過ごし、床を踏み砕きながら耐える。そのまま刃を翻し刺突……だが次の瞬間、アイツの左腕が閃く。


白い鞘に上げた腕を捉えられ、オレは思いっきり吹き飛ばされた。地面をガリガリと砕きながら滑るが、その痛みが心地いい。

インフェルシアが変わってから、こういうのは少なくなっちまったからなぁ。だがそれも悪くなかった。

人間の中にも歯ごたえのある奴がいて、勇気っていう今まで知らなかった強さを知った。


戦うだけじゃない世界を作るのも、強さなんだと知った。そうだな、きっとオレは見たかった。

オレを追い越して、あの輝きに手を伸ばしたアイツの……勇気ってやつを。だがよぉ……!


「ひゃはははははははははははははは!」


笑いながら立ち上がり、剣を肩に担ぐ。そのまま一回転して剣を投てきしてから、獣のように身を伏せ突撃する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


鎧の突起物が逆立ち、刃のようになる。その姿に心が躍りながら、飛んでくる剣を左に避ける。

そこでラントが左爪で逆袈裟斬り抜け。アルトで払いながら交差――左二の腕が斬り裂かれ、痛みが走る。

でもそれが心地いい。ラントはUターンし素早く僕の背を取り飛びかかってくる。……振り返りながら右薙一閃。


右エルボーでの斬りつけと衝突し、そのまま押し込まれステージを滑っていく。


「オレはなぁ、アイツの翼にときめいちまったんだよ!」

「いきなりなにを」

「いいから聞け!」


両足を踏み締め、突撃を止める。肘を弾くと今度は左フック……受けたら死ぬ!

しゃがんで避けると返す肘が打ち込まれてきたので、時計回りに回転しながら下がって回避。

左ハイキックをアルトで払うと、こちらへ跳躍しながら左右の連続キック。左へ避け、脇腹を蹴って下がってもらう。


「すげぇじゃねぇか、自分の翼と蹄で、どこまでも突き抜けちまうなんてよ。
そう考えたらじっとしてらんなかったのさ。もったいなくてよ」

「もったいない?」

「そんな力で迷惑かけてんだ。以前のオレ達と同じじゃねぇかよ。
……オレはな、アイツの根性をたたき直しにきたんだよ!」


右手を握り締め、力強くガッツポーズ。その姿が眩しいというか、驚きというか。


「ラント」

≪それがあなたの勇気なの?≫

「そんな大層なもんじゃねぇよ。……テメェにはなにもねぇのか! ただセイジェルに言われてきただけかぁ!」

「……考えていた」

「なにをだ!」

「ロデオして、めちゃくちゃドキドキしたんだ。力強くて、素早くて。
でも捕まえたら、それを閉じ込めるんじゃないかって考えた」


アイツはいら立ってた。そのいら立ちは、僕が持っていたものに近い。だから戦いながら考えた。

止めた後、どうするか。檻にでも閉じ込めるの? ていうか、アイツの事をなにも知らない。

ついそんな事を考えてしまった。もしかすると勝負する事で、誰のものになるか決定するかもだし。


つまり……それくらいときめいちゃったのよ! ペガサスに乗ったのなんて初めてだから、今もドキドキしっぱなしだし!


「でもそれは後だ! まずはあの無軌道馬鹿をぶっ飛ばして、困っている人達を助ける! もちろんアイツもだ!」

「へ……だったらとっとと本気出せってんだ!」


またラントが飛び込もうとしたところで、懐からピコピコと着信音が響く。

この音は……慌ててマージフォンを取り出し開く。するとモニターと『1・0・6・ENTER』ボタンが煌いていた。

このボタン配置は……! マージフォン左横のスイッチを押すと、先端部が展開。


モニター部分が上部へ飛び出し、その先から透明な切っ先が出てくる。

これはマージフォンのワンドモード。この携帯で対応する番号を入力すると、魔法が使えるのよ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あの子の迷い、そして決意――それに魔法が答えてくれたみたいだ。初めて変身した時を思い出して、つい頬が緩む。


「坊やのマージフォンが」

「あれも、勇気なんだな」


自分の力を、誰かを困らせるだけにしか使えない。そんなアイツも止めて助けたい。

自分と人の可能性、両方を守りたいと思う気持ち――それがあの子の勇気。だったら。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「天空聖者よ、我に魔法の力を!」


輝く番号をプッシュし、両手を胸元前でクロス。天へマージフォンを突き出す。


「マージ・マジ・マジーロ!」


エンターボタンを押すと、切っ先から蒼の光が生まれ昇っていく。

それが五色のシンボルを宿す魔法陣となり、落ちてくる。


≪マージ・マジ――マジーロ!≫


おぉ、玄田哲章さんボイスだー!  ……魔法陣は蒼色となり、僕の体を包み込む。

左手を振りかぶり横へ振るうと、背後にセイジェルのシルエットが現れ、それも同化するように変身。

蒼いスーツに黒と金のラインが入り、背中には内側が銀色のマント。左腰にはM型の装飾を持つワンド装備。


バックルもやっぱりM型で、こちらは金色。顔は突き立てた剣を模しているゴーグル……やばい、感動してる!


「聖なる剣(つるぎ)のエレメント――マジブレイド!」

「そうだ……それが見たかったぁ!」


ラントが狼のように咆哮。すると周囲に次々と黒い影が出現。それらはジェイソンフェイスの怪人となる。

茶色のボディに石斧やら槍を持ったソイツらは、冥府兵……いわゆる戦闘員。


「え、コイツら冥府兵!?」

「安心しろ! オレ様の力で作り出した分身だぁ!」

「そりゃよかった。じゃあ」


腰のワンド――マジスティックを取り出し、手元で一回転。使い方……よし、変身したらなんか電波きてる!


「マジスティック!」


これはマジレンジャー五人の基本装備。見ての通り魔法の杖……なので天へ突き出し、魔法発動。


≪どうも、私です≫

「おのれかい!」


また変化してるの!? じゃあマジスティックじゃなくてアルトスティックですか! とにかく魔法発動!


「マジカ!」

≪The song today is ”魔法戦隊マジレンジャー”≫


するとどこからともなく音楽が鳴り響く。これはマジレンジャーのOPだよ。

なぜかラントはズッコけてるけど……テンション上がってきたー!


「なんだそりゃあ! お前ナメてんのか!」

「なにを言う! 立派な魔法だ!」

「だったら魔法を舐めてるだろうがぁ! あー、もういい! 行け!」


分身達が散開しつつも、僕へと迫る。投げつけられる石斧十数個にスティックを向け。


「ジーマ・マジーロ!」


魔法発動。穂先にある蒼い羽飾りが輝き、同じ光が石斧達を包む。それらは停止し、ブロードソードに変化。

スティックを逆袈裟に振るうと、ソードは回転しながら分身冥府兵達へ迫る。一団の中程を斬り裂き、陣形を崩していく。

そのままラントへ迫るけど、ラントは駆け出しながら左右のフックで全て打ち払った。……じゃあ残り九体を片すか。


僕も突撃しながら、スティックを逆さに持つ。そのままM型装飾をスライド。それによりスティックが変形。

穂先を柄尻とし、今までの柄は蒼色に変わり延長。形状も刃となる。


「アルトスティックソード!」


袈裟・逆袈裟と二人斬り捨て、左横から突き出された槍はマントを翻し防ぐ。

このマント、実は防御用としても使えます。時計回りに一回転し刺突をやり過ごし、三人目の首を両断。

そこで殴りかかってきたラントを飛び越え、身を回転させる。着地し、正面からの刺突を切り上げ回避。


踏み込み四人目の腹を斬り、七時方向へ振り返り反転ダッシュ。五人目の唐竹一閃を防御。

ただし剣で受け止めるのではなく、斬撃で指を粉砕。動きが止まったところで。


「マジカ!」


魔法発動。マントを中心に、周囲にロングソードが六本展開。その刃は蒼色で、アルトと同じだった。


「クアンタ・ソードビット――展開!」


左手でその内の一本を逆手で持ち、右薙斬り抜け。そのまま飛び上がり、二時半方向から再突撃してきたラントへ対処。

ビットを順手に持ち替え、アルトと合わせて袈裟一閃。ラントの右フックを弾き、アルトで刺突。

肩すれすれに避けられるのも構わず左半身を突き出し、ビットで刺突。左腕でガードされ、そのまま弾かれる。


続く左右の連打をアルトとソードビットで交互に脇へ弾き、懐へ入り込みビットを手放す。

するとビットは自動誘導で射出。ラントの腹へ突撃する。ラントはそれに気づき、咄嗟に身を上へ逸らして回避。

後ろに飛び退きながら残りのビットを連続射出。ラントが両拳で全て撃ち落としている間に着地。


身を捻り、右後ろ足払い。回り込んでいた六体目をこかし、ソードを逆手に持って腹へ刺突。

そこで残り二人が同時に飛び込み、斧を打ち込む。ソードを放り投げ、右手でマント展開。斧を防いではじき飛ばし跳躍。

またまた踏み込み、ラントがスライディング。足へ飛ぶ蹴りを避けながら、マントを翻しながら背後へ。


着地してから落ちてきたソードをキャッチし、右薙一閃。残り二人の背を一刀両断し、消えてもらう。

ラントが起き上がって飛び込んで、渾身の左フック。弾き飛ばされたビット達が切っ先を重ね、シールドとする。

拳を受け止めた刃達は回転しながら散開。ラントの足を止めようと再び突撃。


後ろへジグザグに跳んで回避するラントへ疾駆――左へ回り込み、後頭部を狙って右薙の斬撃。

伏せて避けられるのも構わず袈裟・右切上・逆袈裟・左薙と連撃。

たたき込まれる拳を弾き、足払いを後ろへ跳んでしっかり避ける。更に踏み込むラントの横から、ビット達が強襲。


刃が鎧を掠め交差する間に着地し、アルトを右に振りかぶる。


「ジー・ジジル!」


魔法を発動し、茶色の斧剣へ変化・大型化させる。その剣の腹で、打ち込まれた右拳を受け止める。

てーかこれ、Fate/staynightのバーサーカーが持ってたような。重さはそれなりにあるっぽいけど、僕にとっては軽い軽い。


「マジスティック・ハイブレード!」


剣の峰を蹴り持ち上げてから、拳を跳ね上げつつ逆袈裟の斬撃。肩から受けたラントは吹き飛ぶものの、反転して着地。

舌打ちしながら右回りに駆け出し、瞬間的に僕の背を取る。素早く振り返り、片手で右薙一閃。

突き出された左爪を払いながら、ラントの胴体を斬り裂く。激しく火花が走り、ラントはまた地面を転がった。


僕はハイブレードを両手で持ち、振りかぶりながら全力で疾駆。ラントが対処する前にブレードがまたまた突撃。

動こうとした足を、振りかぶられた腕を、上がった首を、そして退路を狙い、瞬間的に地面へ突き刺さる。

ラントの機動力とパワーなら、一秒もあれば吹き飛ばせる。でもそれじゃあ遅い。


「ジー・マジカ!」


蒼い煌きが刀身を包み、ラントへ肉薄。ラントがソードを弾き飛ばす前に。


「是、射殺す百頭(ナイン・ライブズ)!」


魔力を全解放しながら、瞬間的に合計九撃を放つ。目にも映らぬ剣閃は重くも鋭い。その余波で周囲の床も細切れとなる。

ラントは悲鳴を上げる事もなく吹き飛び、火花を走らせながら外壁へ叩きつけられた。


「……もどき」


荒く息を吐きながら、ハイブレードを元のソードへ戻す。そのまま手元で一回転。左手を挙げ、指を鳴らす。


「チェックメイト」


壁に埋まったラントを中心に爆発。ラントは鎧を煤けさせながら、その中から飛び出て地面を転がる。

ビットは粒子化して消失。ただ油断はしない。リングアウトもあるかどうか分からなかったし。


そこまでじゃ!


空が歪み、そこにマジエルの顔がでかでかと……あ、ちょっと怖いかも。


いい勝負じゃった。さてラント、一応負けたわけじゃが

「け……しょうがねぇなぁ」


一応加減はしていたので、ラントは立ち上がりステージ上へ。鎧形状も元に戻し、煤けた箇所を両手で払う。


「おい人間」

「なにかな」

「一応認めてやる。とりあえずあれだ、アイツをぶっ飛ばすまでは協力しようぜ」

「……まぁ、それが妥当かな」


変身を解除し、差し出された手をやや乱暴に握手。鎧の体だから冷たいはずの手は、妙に温かかった。

すると着信が鳴り響く。慌ててマージフォンを取り出すと、『9・8・9』の順番でボタンが光った。


「これは」

「なんだ、こりゃ」

ほう……新しい魔法じゃな

「お前達二人がぶつかって、お互いの勇気を重ねたから」


魁さんとバンキュリアがこちらへ近づいてくる。魁さんは笑って、空のマジエルを見上げた。


「ですよね、マジエル」

うむ

「じゃあ早速」


まずはワンドモードに変更し、光った順番にボタンを押す。それからエンター。


「マジュナ・ジー・マジュナ!」


すると目の前に煙が生まれ、巨大な樹木が突如現れる。そこにはどういうわけか……木の実代わりに人参がなっていた。


「……おい」

「僕に聞かれても困るよ! え、これなに! まさか人参で釣れと!」

「それはセイジェルで失敗してるだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ラントは頭を抱え、打ち震えるのみ。でも僕にはほんと、なにもできないよ? 幾らなんでも。


「美味そうな匂いがする!」


そこで今まで引っ込んでいたヒカリが飛び出し、一目散に人参の一つへかぶりつく。

すると今まで見た事がないほどに、幸せそうな顔をしながら落下。人参も一緒に落ちてくるので受け止める。


「し、死ぬほど美味い……! 恭文、すまん。私食べ過ぎだよな。でもこれが私の愛なんだ」

「わけ分からないんですけど、その愛!」

「おいおい、なんだこのちっこいのは。てーか人参くらいでガタガタ」


ラントが僕から人参をひったくり、フェイスガードを外す。

蒼いモンスターフェイスだけど、それは気にならない。問題は。


「うめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


ラントが人参を丸ごとかじって食べた直後、こう叫んで倒れたからだよ。


「ちょ、ラント! アンタまでどうしたのよ!」

「や、やべぇ。兄貴が……兄貴、俺を情けないと笑うかい? だがよ、俺は胸張って生きてるぜ。
インフェルシアの掟っていう、絶対的なもんと喧嘩してんだ。毎日楽しすぎで死にそうだ」

「おい、お前ほんと大丈夫か! しっかりしろ!」


魁さんが慌ててラントを揺り起こすも、意識は定まらない様子。

バンキュリアもさすがに変だと思ったらしく、僕の隣へきて木を見上げる。


「ねぇ坊や、まさかこれ」

「食べた相手を素直にさせる? でもこれで……もしかして」

ふむ……どうやら答えに行き着いたようじゃのう。あとは頑張るんじゃぞぉ


マジエルは用は済んだと言わんばかりに消えた。……とりあえず人参を収穫できるだけ収穫。

するとコロシアムは消え失せ、僕達はどこかの大陸上に立っていた。なんというか、この流れはアリなんだろうか。


「まぁ、進展はあったからいいとしましょ。でもどうして……坊やの特殊魔法は、見る限り剣の精製魔法っぽいのに」

「だよ、ねぇ」


……そこで馬の鳴き声が響く。まさかと思い七時方向へ振り返ると、あの天馬がこっちを見ていた。


「「うそぉ!」」

「これは……二人とも、人参だ!」


魁さんに言われるがまま、バンキュリアとゆっくり近づきながら、天馬へ人参を差し出す。


「ほ、ほれほれー。人参だよー」

「美味しいわよー。ほれほれー」


天馬は怪訝そうにしながらも近づき、人参の先をしゃくり。口をもぞもぞと動かしていたかと思うと、二口・三口と食べていく。

驚かせてもあれなので、バンキュリアと見つめ合って頷くのみ。

そのまま僕の人参はなくなったので、次はバンキュリアのを食べ始める。えっと、あとは。


「お兄様、お任せを」


よしシオン! いいところで出てきてくれた! ……シオンがそっと天馬へ近づき、髪をかき上げる。


「初めまして、天馬。私はシオン」


そして空を指差すと、なぜか太陽の光が差し込んだ。


「この世界を照らす、太陽――選ばれし者です」


その自己紹介はいらないよ!? もうちょっとまともなやり方があったでしょうが! ほら、天馬ポカーンとしてるし。


「ところで天馬、あなたはなにかやりたい事でもあるのですか? かなり走り回っていたようですが」


刺激しないよう質問すると、天馬が軽く鳴く。


≪ふむふむ……主様、この子はつまんないーって言ってるの≫

「つまんない?」

≪自分が珍しくて小さいから、大事に大事に……って言って、同じところへ閉じ込めようとする。それがつまらないそうです≫

≪もっともっといろんなものを見たいっぽいの≫


……その気持ちがよく分かった。でも同時に、子どもなんだなとも思ったり。言うなら八つ当たりだしさ。

一歩踏み出さなきゃいけないけど、その踏み出し方が分からない。だからここを走り回ってるけど……だったら。


「じゃあ天馬……てーか名前は」

「そういえば説明してなかったわね。この子はペガシフォンよ」

「……ペガシフォン、僕達と一緒に地上へ行ってみる?」

「坊や!?」

「少なくともこんなとこでいたずらしてるよりは、ずっと楽しいよ。知らない世界へ行くなら、自分から踏み出さなきゃ」


ペガシフォンは少し考えこむように俯いたけど、すぐに嬉しそうに鳴いた。


「よし、いい子だ。じゃあ早速行ってみよう!」


するとペガシフォンが頭を下げ、僕にすり寄る。これはもしかして、その。


「いいの?」

「乗ってやれ」


そう答えたのはペガシフォンではなく、ラントだった。どうやら復活したらしい。


「てめぇが真正面から喧嘩してくれたのが嬉しかったんだろうよ」

「ラント」

「ほれ、早くしろ」

「ありがと」


ペガシフォンへ跨ると、もう暴れる事もない。そのまま首裏を掴むと、ペガシフォンは全力疾走。

空を駆け下りていく。凄い……やっぱ天馬って凄い! 


「さー、せっかくだから地上のみんなへ最高のいたずらを仕掛けるぞー! みんな手伝って!」

「いたずら!? 坊や、なにするつもりなのよ!」

「お、なんか面白そうだな! おっしゃ、やるぜー!」

「いや、待てって! なんか……めちゃくちゃ嫌な予感がー!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その日――黒いチャリオットに乗ったサンタクロースが世界中を駆け巡ったが、本件とは一切関係ありません。

サンタクロースが通った軌跡から星の光が降り注いだりしたが、本当に関係ありません。

もちろんマジエルから恭文達が大目玉を食らったのも関係ありません。そして恭文とペガシフォンは特殊な訓練を受けております。


なので読者の皆さん、牧場などに出かけても恭文みたいな真似は絶対してはいけません。

動物には慈愛の心を持って接しましょう。ナレーターとの約束だぞ?



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文がいなくなって数時間後……辺りはすっかり暗くなっちゃって、もういても立ってもいられない。

ていうか、ラン達があのナイとメアって奴らの事を知ってた。あのさ、マジレンジャーって戦隊絡みらしいの。

敵だけど味方になって……だって! でも意味分かんないし! ああもう、アイツはどうしてこういうのが多いの!


「ねぇ、アンタ達……ほんとにマジトピアってとこ行けないの? インフェルシアも」

「あむちゃん、その質問二十回目……無理だって」

「あと、バンキュリアさん達を捕まえてボッコボコも無理ですよぉ?」

「そうだよー! 特に冥府神なんて、ラスボス級の強さなんだからー! 下手すると恭文だってあっさり負けちゃうよー!」

「じゃあどうすればいいのかなぁ!」


頭を抱えるのも許してほしい。いきなり連れ去られて心配するなっていう方が無理だし。

しかも……アイツ、連絡一つよこさないんだよ!? ホントなにしてくれてんのか!


「あむちゃん、落ち着いて。とりあえずその、そろそろ連絡……きてくれないかなぁ。恭文君、こういう事多いんですか?」

「……連絡取ろうにも携帯が壊れたとか、電波が届かないとか、それどころじゃない修羅場とか……一番多いのは三つ目ね」

「誰か助けてあげて……!」


龍可さんまで頭抱えちゃったし! マスター・ジミーは普通に山菜鍋作り始めてるし、これはどうしよう。まさか、このままずっと。


「ただいまー」


そこで玄関から馬鹿の声。あたし達は全員立ち上がり、そっちを見た。一言言ってやろうと思って……硬直。


「いやー、ごめんね。連絡取ろうとしたんだけど、おばあちゃんから大目玉食らっちゃって」

『なに、その格好!』


恭文はチャイナ服を着ていて、下はアロハシャツ。更にその上から分厚い防寒具を着込んでいた。

しかもすっごい大荷物で……コイツなにしに行ったのかな! 魔法が絡んでる様子ないじゃん!


「あぁ、これ? 世界中回ってきたんだ。苦労したよー。日付変更線計算して、半日で世界一周だし」

「はぁ!? や、恭文君……その、あの人達は」

「あぁ、途中で別れた。みんな仕事あるしさ」

「「カルカスー♪」」


あ然とするあたし達はそれとして、カルノ達がぴょんと飛び込む。恭文はそれを受け止め、軽く撫で撫で。


「カルノ、カスモ、ただいまー」

「「カルカスー」」

「どうやら楽しい冒険だったようだな」


あ、マスター・ジミー……よし、一言言ってやって! ていうか詳細説明しないし、ホントこれは。


「ちょうど鍋ができた。さぁ食え」


なに夕飯勧めてるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! もっと言う事あるじゃん! 他にあるじゃん!


「わぁ……ありがとうございます! あ、お土産たくさん持ってきたんで、どうぞ!」

「気が利いていてなによりだ」

「ちょ、待てー! あたし達になにがあったかちゃんと」

「あむちゃん、駄目よ」


食卓へつこうとする恭文。それを止めようとすると、ダイヤがすっとあたし達の前に出てくる。


「龍可さん達も。恭文君、今回は絶対話さないから」

「なんで!?」

「そうだよ。さすがにみんな心配して……あ、なるほど」

「龍可さん納得した!?」

「ほら、ランちゃん達が言ってたじゃない? 魔法使いの正体は、誰にも知られちゃいけないって」


それかぁぁぁぁぁぁぁぁ! うん、言ってた! つまり本当になにも……話すつもり、なさそうだしなぁ。

つまりあれ? あたし達は心配損……それはそれで腹立つし! つい頭をバリバリとかく。

――しょうがないので、みんなで温かい山菜鍋を食べる。それとお土産ももらう。


龍可さんには可愛らしい城の置物で、シルビィさんは首飾り。あたしは……その、指輪。

イミテーションのだけど、虹色にキラキラしてめちゃくちゃ奇麗なの。ふん……馬鹿。


(第51話へ続く)







あとがき


恭文「というわけで、お待たせしました。……マジレンジャーをバンダイチャンネルでチェックしてて時間が」


(一年分だから大変だった)


恭文「後はF91をマーカー塗装中心で簡単に仕上げたり、ヴェスパーの色塗り範囲間違えたり」

フェイト「でも仕上がったんだよね。一応本体は」

恭文「うん。ビームランチャーと展開フェイスがまだ残ってる」


(なお諸事情で筆は使わず……これも同人版で活かすのです)


恭文「筆用意してたけど、ムラとか塗りやすさはどうとか、実際やってみないと分からないしね」

フェイト「書き下ろし分は一種の作成レポになる感じかな。あとは写真」

恭文「……実はデジカメを買おうと画策中。でもどれがいいか迷ってる感じなんだよねぇ。PS Vitaや3DSだと荒くて。
とにかく二〇一三年十二月二十四日、午後五時半頃に700万Hit達成。今年最後のとまかのです。お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。今回はマジレンジャーへの変身……でもあむ達は居残りで、ヤスフミオンリーだね」

恭文「バンキュリアとマジレッドの小津魁さん。そしてオリジナルキャラであるラント。
ラントは劇場版マジレンジャーに出てきた敵役と同姓で、一応その弟みたいな感じをイメージしています」


(劇場版だとアメイジアボイスでした)


フェイト「それとマジブレイド……実はマジレンジャーって、それぞれ特徴的な特殊魔法があるんだよね」

恭文「うん。単純に炎や水を出すだけじゃなくてね。魁さんが錬成魔法。ようは僕がブレイクハウトでやっているような事だね。
次男の翼さんが魔法薬調合で麗さんが占い、次女の芳香さんが変身って具合」

フェイト「でもこれだとヤスフミの特殊魔法は、一体。剣を出したりするのは属性発動としても」


(謎です)


恭文「あとビット展開時はあれだ、ダンボール戦機のアキレスD9みたいな感じで」

フェイト「そういえばダンボール戦機のプラモも出来いいんだよね」

恭文「なんだよねぇ。そうそう、遅れましたが、クリスマスイブは雪歩とアンジェラ。
そして今日は良太郎さんと真鍋和ちゃん(けいおん)の誕生日です」

フェイト「みんな、おめでとうー」


(おめでとうー)


恭文「というわけで誕生日プレゼントも用意して……喜んでくれてよかったなぁ。雪歩にはベアッガイVを送り」

フェイト「最初かなり困ってたけどね! やたらと大きなぬいぐるみだったし!」

恭文「アンジェラには特大ローストビーフ。良太郎さんには新しいジャンバーを。そして和ちゃんには」


(『僕が頑張りました』)


恭文「アイツはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

フェイト「ヤスフミ、落ち着いて! 冷静にー!」


(そしてクリスマスは……大変でした。蒼い古き鉄達。
本日のED:リトルブルーボックス『BRAVE HERO』)





サウンドベルト≪The song today is ”呪文降臨〜マジカル・フォース”≫

魁・恭文・ナイ・メア「――マジレンジャー!」(そして踊り出す)

あむ「……アンタ、なにやってるの」

恭文「いや、EDでは踊るのよ。そして披露される黄色の腰」

ナイ「これ、一度やってみたかったんだよねー」

メア「だよねー」

魁「やば、なんかめっちゃ久々だ!」

ラント「黄色はいないから、オレがやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

あむ「アンタ誰ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


(おしまい)




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あきゅろす。
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