小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) Battle58 『悲劇的L/絶対不動』 前回のあらすじ――うちの社長が、思っていたよりずっと馬鹿でした。もう、やってられない。 さすがのプロデューサーも参ってるわね。まぁ倒れないように気遣っていきましょうか。 ……私は大丈夫。恭文と相談して、こういう結果も予想してたから。だから小鳥は帰れって言ったのに。 「伊織ちゃん、嘘……だよね。こんなの、夢だよね。社長は、そんな悪い事してないよね。というか、カードのせいで」 「それ勘違いよ、雪歩。カードの力を使ったのは社長自身だもの。……ただの犯罪者よ、あれは!」 「伊織」 真が肩を叩いて諌めてくる。ふだんなら怒鳴りつけてるだろうに……私も相当って事か。首を振って、思考を切り替える。 「でも信仰者と考えたら納得がいったわ。信者を増やすのに、表立って暴力は使わないでしょ。そんな事したらカルトよ」 「いや、ぼく的には疑問だよ。それで人を燃やしたりは……不信心者だから?」 「それね。あと社長が直接的にどうこうしたわけじゃないから、理念に反していないわ」 「無茶苦茶じゃないか、そんなの!」 真が言う通り、無茶苦茶よ。でも社長はそれで納得している。神のおぼし召しだと思って、自己の責任から逃げている。 ……どこの馬鹿よ、こんな危ないものを渡すって。下手をすればそれまでに、自分が取り込まれる可能性だってあるわ。 まともじゃない。ソイツは自分すら捨てている。そういう、強烈な意志力を感じさせるの。 「社長の、せいだ。社長が……あんなカードをもらわなければ! ピヨ子や千早だって傷つかなかったぞ!」 「我那覇さん」 「……それで響、アンタはどうするっていうのよ」 「決まってる! 恭文が負けたら自分だ! 自分があれを倒して、社長も」 その言葉があり得なくて、右裏拳で響の頬を張り倒す。響は驚きながら、私を見た。 ……響は優しい子。小鳥の事で、怒りを持ってしまってもしょうがないわよ。 自分の痛みより、誰かの痛みに怒る。そういう子なんだと思うから、その心を傷つける。 「そんな事をしてもなにも変わらないわ。響、社長の姿をよく見なさい」 響の肩を掴んで、不可思議モニターの前へ突きつける。 「アンタもいずれこうなる」 「え……違う! 伊織、なに言ってるんだ! 自分は社長みたいにはならない!」 「なるわ、確実に。黒井社長が悪いから。悪徳記者や千早の父親が悪いから。政治家が悪いから。 そう考えて実行した結果があれよ。……もし違うというのなら、聞かせなさいよ! 社長を消し去って……アンタは本気で小鳥が喜ぶと思ってるの! 小鳥と私達が、アンタに礼を言うと!」 「その通りだよ、我那覇くん」 順一朗おじさまは諌めるように声をかける。響が震えながら、順一朗おじさまを横目で見た。 「順二朗があそこまで固執するのは、後戻りできないと知っているからだ。 間違っていたとなれば、全てが壊れる。順二朗自身すらもだ。……君はあんな風になるな!」 でもおじさまの一喝でその目がパッと開いて、体ごと向き直った。 「でも、でも……それなら自分は」 「君はアレをただ哀れむだけでいい! 憎む必要はどこにもないんだ! みんなも……それを望んでいるよ」 響が体の力を抜いて、床に膝をついた。それでも両手は離さず、画面だけを見てもらう。 「でもアンタが役立たず扱いした恭文は違うわ」 息を整え、右手で髪をかき上げる。それから改めて腕組みして、恭文を見た。 「アイツは神様でもなんでもないから、完璧になんてできない。失敗してばっかよ。 でも……アンタよりはマシよ。アイツのバトルも、目を離さず見てなさい。アイツは絶対に負けないから」 「伊織はん、まさか」 「恭文くん、どれだけ頑張ったんですか」 「勘違いしてんじゃないわよ! フラグとかじゃないから! ……黒井社長が健在だった時、アイツがどれだけ頑張っていたか知ってる。 だからどこの誰にも、役立たず扱いなんてさせたくない。それだけよ」 そっぽを向いてしまうと、気恥ずかしくて顔が赤くなる。別に、本当にそういうのじゃないのに。 ただ……なんの得にもならないのに、神様とタイマン張ろうとしている馬鹿だから、かな。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ※TURN07 メインステップ途中 高木社長 ライフ×5 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×10 コア総数×11 手札×7 デッキ×32 スピリット:絶対なる幻械神ルード・ルドナ レベル1・BP0(コア×1) 恭文 ライフ×5 リザーブ×4 トラッシュ(コア)×5 コア総数×15 バースト×1 手札×6 デッキ×30 スピリット:ガトーブレパス レベル2・BP2000(コア×2 疲労中) グロリアス・ソリュート レベル3・BP11000(コア×4 疲労中) ネクサス:朱に染まる薔薇園 レベル1(コア×0) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「だがおかしい事がある。彼女達をおかしくした君も、天罰を与えるべきだと進言した」 さらっととんでもない告白をしながら、高木社長は僕へ向き直る。 「なのになぜだ。なぜ君はここにいる」 ≪あー、それは当然でしょ。この人運勢最底辺で、呪いの類ははじき返しますから≫ ≪なのなの。むしろおじいちゃんが燃やされなかったのは奇跡なの≫ 「やかましいわ!」 てーか僕の魔力が消えたの、コイツのせいじゃね!? さらっと僕まで狙ってくれてたんかい! よし、やっぱヤザン・ゲーブルのものまねさせてやる! 警視庁の表玄関前で、全裸で! その前準備として。 「相手の召喚時効果発揮後なので、バースト発動!」 セットしていたバーストを展開。浮かび上がったそれを持ち社長へかざすと、蒼い燕がカードから飛び出す。 いや、実はアマテラスみたいな召喚時効果持ちかなーっと思ってたんだ。無駄にならなくてよかった。 「秘剣燕返! 相手の手札が五枚以上の時、相手は相手の手札を二枚になるよう破棄する!」 「君はまだ分からないのか。敗北を認めるんだ。この輝きは奇跡そのもの。君に間違いを突きつけている」 ガタガタ言っている間に、燕が社長の手札を撃ち抜く。 その瞬間手札は青い光に包まれ、その全てが横並びに浮かび上がった。 「さぁ、残す二枚を選んで捨ててもらおうか! お前の愛するアイドル達を!」 『……社長、選んでください。それがルールです』 「……やはり、バトルなど愚かしい。天海くん達にも、ルード・ルドナのような在り方を徹底させなくては」 社長は屈辱の表情を浮かべ、右端の二枚を取って手札とする。残り四枚は粒子となってトラッシュへ送られた。 一枚は真のカードだね。社長、手札の位置を入れ替える素振りもなかったから。もう一枚は知らない。 「お前の夢はとっくの昔に、自分で壊している。小鳥さんの気持ちを踏みにじった時点でな」 「そんな事は無意味だと、音無くんは理解していないだけだ。君達がその邪魔をしている」 「そうやって自分達の感情だけで、小鳥さんの気持ちを否定した。 あの人は恩人に手を伸ばそうとしただけだ。それで誰かの自由を踏みつけたわけじゃない。 ……お前達は人間じゃない。人の願いを、心を、そして自由を踏みにじる悪だ」 「当然だ! 黒井は間違っていた! 私がそれを証明したんだ! 許さない、君は絶対に許さない! 神の名において鉄ついを下す!」 そうは言っても棒立ち。……ち、乗ってこないか。とことん性根がへし折れているらしいねぇ。当てが外れて肩透かし。 かと思ったら、ルード・ルドナが動き一歩踏み出す。その一歩で、フィールド全体が大きく揺れる。 よく見ると社長のプレイ台上で、ルード・ルドナのカードが疲労状態になっていた。 「あ……待て! ルード・ルドナ、止まれ!」 「戻るステップはない! ライフで受ける!」 ようやく楽しくなってきた。ライフが三つ折り重なって、分厚い障壁となる。 そのまま突撃し、ルード・ルドナの右ストレートを受ける。そして僕は大きく吹き飛ばされフィールドの端まで後退。 命の障壁が砕け、頑丈なはずのアーマーにも深い亀裂が入る。まさに魂まで持っていかれそうな一撃。 それに相応しい痛みを堪え、踏ん張りながら笑いを浮かべる。ろっ骨、やられたかな。 左脇腹が痛みで軋んでるわ。でもいいねぇ……こうでなくっちゃ! この気合いの入った一撃、神の名にふさわしい! これにぶち当たりたかったのよ、僕は! 「ようやくバトルしてきたか」 「ち、違う。今のは」 「いいや、お前は手を出したんだ。……どう!? お前が嫌っている闘争へ踏み込んだ感想は! お前の気持ちを! 願いを! ルード・ルドナは叶えたんだ! ははははは! 滑稽だねぇ!」 笑いながらボードを急速前進。そのまま社長の周りをぐるぐるしながら、更に口撃する。 「口ではあれこれ言いながら、結局黒井社長と同じ事を望んでいる! お前達は似た者同士だ!」 「やめろ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 「はい、似た者同士! 似た者同士! 似た者同士! 似た者同士! 似た者同士! 似た者同士!」 「やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……エグいわね。挑発で社長を自己嫌悪させるって」 「しかも楽しそうなの」 どうしよう、空気が微妙すぎるわよ。てーかさっき信じるって言ったの、全部撤回したくなってきた。 「な、なんというかごめんなさい」 「いやいや、問題ないよ。実際私達は愚かだった」 順一朗おじさまは恭文の発言に怒った様子はない。 プロデューサーが平謝りでも、ただ申し訳なさげに小鳥を見ていた。 「彼女の手を止めなければ、こんな事にはならなかっただろう。我々が、この結果を生み出したんだ」 「でもあのおじいちゃん、馬鹿だよね。恭文を怒らせたらこう、怖いのに」 「恭文くん、やっぱりストレスが溜まってたみたいですね。やり口が容赦ない」 「挑発してライフを削らせますか。トリプルシンボルやのに、ようやりますわ」 元仲間からすると、これは納得らしいのが安心。……もう安心するしかないのよ。 てーかアイツ、神様の一撃を食らったのに笑ってるのよ。ライフが一気に七個も削られたってのに。 「でもこれはマズいですよ」 「光子郎はん、どういう事でっか」 「下手をすると次のターン、一斉攻撃に出られるかもしれません。 高木社長もコアが溜まっていますし、それをやられると」 「大丈夫です」 不安が生まれかけたところで、黒子がバッサリ切り捨てる。様子を見るに、単なる強がりではないみたい。 「高木社長はバトスピを――魂の闘争を甘く見ている。それどころか神もだ」 「神も?」 「どうやらスピリット達の方が、しびれを切らしたっぽいですから。 あとはノーガードで殴り合いでしょうね。正真正銘命がけですよ」 でもどうするのかしら。まだ相手の効果もさっぱりだし、ツツかない限りはどうしようもない。 しかもライフまで回復されたのよ? 状況的には五分五分。 ……ただ出るだけで、全てを支配するか。神のカードって半端ないわね。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ※TURN07→08 高木社長 ライフ×5 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×10 コア総数×11 手札×2 デッキ×32 スピリット:絶対なる幻械神ルード・ルドナ レベル1・BP0(コア×1 疲労中) 恭文 ライフ×2 リザーブ×7 トラッシュ(コア)×5 コア総数×18 手札×6 デッキ×30 スピリット:ガトーブレパス レベル2・BP2000(コア×2 疲労中) グロリアス・ソリュート レベル3・BP11000(コア×4 疲労中) ネクサス:朱に染まる薔薇園 レベル1(コア×0) ↓ ↓ TURN08メインステップ開始時 ライフ×2 リザーブ×13 トラッシュ(コア)×0 コア総数×19 手札×7 デッキ×29 スピリット:ガトーブレパス レベル2・BP2000(コア×2) グロリアス・ソリュート レベル3・BP11000(コア×4) ネクサス:朱に染まる薔薇園 レベル1(コア×0) バトルスピリッツ――通称バトスピ。それは世界中を熱狂させているカードホビー。 バトスピは今、新時代を迎えようとしていた。世界中のカードバトラーが目指すのは、最強の称号『覇王(ヒーロー)』。 その称号を夢見たカードバトラー達が、今日もまたバトルフィールドで激闘を繰り広げる。 聴こえてこないか? 君を呼ぶスピリット達の叫びが。見えてこないか? 君を待つ夢の輝きが。 これは世界の歪みを断ち切る、新しい伝説を記した一大叙事詩である。――今、夢のゲートを開く時! 『とまとシリーズ』×『バトルスピリッツ覇王』 クロス小説 とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/ひーろーずU Battle58 『悲劇的L/絶対不動』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 第八ターン――恭文はガトーブレパスをレベル3にアップ。二体目のガトーブレパスをコスト1・レベル3で召喚。 続けてダーク・ソードールをコスト3・レベル2で召喚した。これも昔存在していたスピリットらしい。 ちなみにこのダーク・ソードール、体は黒で両手の刃は金色という、禍々しい色合い。 コストと効果こそ違えど、形状自体はみなさんがよく知るソードールと同じです。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「ダーク・ソードールの召喚時効果。デッキから一枚ドローする。更に連鎖(ラッシュ)発動」 そこで参照されるのは、ネクサスの黄色シンボル。まぁガトーブレパスでもいいんだけど。 黒色の体が金色に包まれ、ダーク・ソードールは喜びながら刃を振り上げ、頭上でたたき合わせる。 「黄色のシンボルがある時、効果を続けて発揮する。 このターンの間この子は、レベル1の相手スピリットからブロックされない」 「無駄な事はやめたまえ。全てが無駄……そう、無駄だ」 「それじゃあ……グロリアス・ソリュート、行け!」 アタックしなきゃ、ターンは進められない。まずはグロリアス・ソリュートだ。 「絶対なる幻械神ルード・ルドナ、あれを消し去ってくれ」 ルード・ルドナが両腕を胸元で組むと、白い光が辺り一面に広がる。その輝きで、飛び込むグロリアス・ソリュートを迎え討った。 「ルード・ルドナは戦いを否定する。争う者全てを消し去る力がある。君はもうなにもできない」 『社長の説明は全く意味不明なので、私が代わりに説明しよう! ルード・ルドナは相手のアタックステップ時、疲労状態でブロック可能! 更にルード・ルドナがブロックした時、相手スピリット一体をデッキの下へ戻すのだ!」 なるほど、デッキへのバウンスか。しかもボトムなら確定除去。でも……相手が悪かった。 グロリアス・ソリュートはそんな光など完全スルーで、そのままルード・ルドナの胸元へ飛び込む。 「……なぜ消えない!」 『グロリアス・ソリュートは全レベル帯で、相手スピリットの効果を受けない。 例え絶晶神と言えど、それはスピリットという枠に入っている。よってグロリアス・ソリュートはデッキに戻らない』 でもそこで、絶晶神がガトーブレパスの一体を指差す。するとガトーブレパスが白の螺旋に包まれ、そのまま消失。 カードはデッキの下へ戻り、載っていたコア三個もリザーブへ返却。……グロリアス・ソリュートが無事でもこれか。 「神のBPは0――グロリアス・ソリュート、斬れ!」 グロリアス・ソリュートの剣が、ルード・ルドナの胸元を捉え斬り裂く。すると神は悲鳴を上げながら、あお向けに倒れる。 が……その直前で体の全てが粒子化。音もなく全てが再生する。 「無駄だよ。ルード・ルドナは破壊されない」 なるほど、疲労ブロッカーな上に破壊耐性持ち。その上効果による排除も無理。 普通ならどうにもできないんだろうねぇ。でも……弱点はある。今の僕は黄色使いよ? 「じゃあダーク・ソードール、いって!」 ダーク・ソードールが両手の刃を振り上げ、ガシャガシャと駆け出す。その様子を見て、社長が首振り。 「本当に愚かだ。やはり君はいてはいけない悪魔――ルード・ルドナ、消し去ってくれ」 でもルード・ルドナは動かない。ダーク・ソードールは悠々とルード・ルドナの脇を抜け、高木社長へ飛びかかる。 「待て……なぜだ! 神よ、私をこの悪魔から守ってくれ!」 「それは無理だ! ルード・ルドナはレベル1! ダーク・ソードールは効果によりブロックされない!」 「ふざけるな! 神はあらゆる力を跳ね除ける! こんなのはルール違反だ!」 『いいえ、八神さんの言う通りですよ』 おぉ、ジャッジ扱いな黒子が立ち上がってくれたよ。じゃないとこのおじいさん、納得しないしなぁ。 「公式の裁定でも記載されているところなので、ライフで受けてください」 「なにを言っているんだね! 神は万能なんだ! そんなはずはない! ……そうか! 君はこの悪魔に買収されているのか! だから私に不利な事ばかりを押し付ける!」 『しょうがないなぁ。ではジャッジ権限発動。ダーク・ソードール、ライフを削っちゃいなさい』 ダーク・ソードールはこくんと頷き、両の刃で唐竹一戦。社長のライフを斬り裂いた。 社長は体に走る火花に苦しみながら、こちらへ戻ってくるダーク・ソードールと僕を忌々しげに睨みつける。 「分からないなら覚えておくんだね。神は絶対じゃない。ターンエンド」 「こんな汚い真似をしてまで、勝ちたいかね。この輝きをよく見るんだ」 ねぇ、逆ギレってなによ。そして誇らしげにルード・ルドナを見上げなくていいのに。 「ルード・ルドナは我々に教えてくれているんだよ。 戦う事の虚しさを――そして無意味さを。それを受け入れるんだ」 「そう。だったらさっきそれでぶん殴ってきたのは、どこの誰かなぁ」 「もうあんな事はない。君が敗北を認めるまで、私はこの輝きを示し続ける。 それこそがアイドルに関わる者としての、そして天海くん達の間違いを正す道」 「いいや、お前は嘘をついている。宣言してあげるよ」 僕は笑いながら、右人差し指を立てる。 「ルード・ルドナはまた勝手に僕を殴る」 「そんな事はあり得ない。ルード・ルドナは絶対不動の神――君のように愚かな存在ではない」 まだ妄執にすがりつくか。……どうやら神の力が絶対じゃないと、まだ示す必要があるみたい。 でもライフが回復してるからなぁ。残り四つとしても、あと一手足りない。 ……大丈夫、デッキにはそのためのカードがある。それも、思う存分嫌がらせできるカードだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……ねぇ黒子、連鎖(ラッシュ)って」 「昔のバトスピにあった効果です。現在復活に備えている最中なので、一年ほどお待ちください」 「分かったのー」 「い、意味が分からない……!」 律子が頭を抱えていた。春香達は納得らしいんだが、バトスピ素人な律子はついていけてない。……実は俺もギリギリだ。 「だってブロックされないんでしょ? でも効果が無効になるんだから、ブロックできるじゃない」 「りっちゃん、違うよー。ブロックされないだと、自分を強くする効果なんだよー。装甲じゃあ止められないってー」 「そうだよー。これがブロック『できない』なら、止められちゃうけどー」 「なにが違うのよー! もー!」 「……しょうがないの。律子……さん、ちょっとこっち見て」 美希はホワイトボードに、ルード・ルドナとダーク・ソードールの絵を簡単に描く。 「ルード・ルドナのあれは、自分が効果を受けない能力。装甲の超発展系って考えればいいの。 でも相手が効果でBPアップしたり、シンボルが増えたりしても止められないんだ。ここまではいい?」 「な、なんとか」 「そしてアンブロッカブルには、『ブロックできない・されない・されなかったものとして扱う』の三種があるの。まずできないは」 ダーク・ソードールからルード・ルドナへ、赤い矢印が引かれる。 「スピリット効果で、相手スピリットにそういう制限をつけるの。律子さんが防げるって言ったのはこれ。 もっと言うとバトスピ秘宝館で春香が使った、ファレグがこっちなの」 「律子さん、覚えてます? 召喚時効果でサイゴードが出たけど、あれはブロックできましたよね」 「え、えぇ」 「あれはファレグの効果を受けなかったから、ブロックできたんです。 あんな風に特殊な召喚をしなくても、装甲があれば同じようにできます」 「いや、だったらこれだってできるはずじゃない」 「無理なの。ダーク・ソードールの『ブロックされない』は」 続いて青いペンで、オーラっぽい線が描かれる。それがダーク・ソードールを囲んだ。 「自分を強くする効果なの。とにかく『されない』だと、装甲とかでは防げないの。 これは公式の裁定でも載ってるから、恭文のプレイングで問題ないよ」 「そういうルールに変わっちゃうとか、そう考えれば分かりやすいと思います。ルール変更系は、装甲では防げませんから」 「で、でも……もうわけが分からないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 律子は頭を抱え、バリバリとかきむしり始める。……律子、やっぱりお前、勉強した方がいいって。 「じゃあ美希、『されなかったものとして扱う』はどうなるんだ? ウィングブーツとかであるよな」 「これも装甲では防げないの。条件を満たすと、ブロックは無効。 そのまま攻撃が通っちゃうの。こっちもルールが変わる感じかな」 「……なるほど」 「まぁ律子……さんが戸惑うのは分かるの。なのでこういう時は、公式裁定に準ずるのが一番なの。 それなら間違いは少ないの。例えば公式HPやWikiなんかだね。あとは質問メール送ったり」 確かに素人考えであれこれ言うより、公式的に決まっている方が一番だろう。 カードの事を理解するって、そういうところからなのか。……俺も頑張ろう。 「あー、すまん。こっちもいいか」 「おじいさん、どうしたの?」 「あれは白いよな。なぜ聖命が使えるんだ。いや、さっきから気になっていたんだが」 そう言えばと、順一朗さんの疑問に頷いてしまう。確かにグロリアス・ソリュートは白のカード。 さっき美希は、聖命が黄色専用だと言った。使えるのはおかしいだろ。 「あれはね、裏Xレアなの」 「裏Xレア?」 「しょっぷばとるなどでの優勝賞品となっている、特別なかぁどです。 特徴は他色の能力を合わせ持つ事。聖命が使えるのもそのせいです」 「ほう、貴重なカードなのだな」 バウンスは白で、聖命は黄色の固有効果――だからなのか。あれが八神君の新しいキースピリット。 ……でもおかしいな。いや、カード効果どうこうじゃないんだよ。地尾さんはあのデッキを、古いものだと言っていた。 ソードアイズとやらがなにかはよく分からないが、超古代文明時代のものだろ? それでグロリアス・ソリュートなんてカードは、本当にあったんだろうか。単に俺が知らないだけかもしれないが。 いや、そうじゃなくても問題ないか。八神君はバトスピ自体の経験は浅いが、ボードゲーム全般に詳しい。 しかも国内大会へ駒を進めているハイランカーだ。ショップバトルで優勝していてもおかしくはない……はずだ。 いや、秘宝館でのアレを見ていたら自信なくなるんだが。まぁ、そういう事にしておこう。 「グロリアス・ソリュートは黄色の軽減を二つ持ってるし、聖命アンブロッカブルデッキなら相性ピッタリなの。それに」 「君的には、やっぱり面白いのかな?」 「なの」 順一朗さんの問いかけに、美希は笑顔で頷く。さっきあんな爆弾発言があったのに。 ……いや、違うか。それでも強がってるんだ。美希の手、軽く震えてるんだよ。 「美希、恭文が他の色を使っているところ、もっと見てみたいな。特に紫」 「……それやめない? いや、なんかエグい事になりそうで」 『グロリアス・ソリュート、やっぱカッコいいー!』 「あ、見て見て春香ー。この状況でもスピリット愛も全開なのー♪」 「喜ぶとこかな、そこ! ていうか恭文ー! 空気を読んでー! シリアスブレイカーはいらないからー!」 「みゃ、脈絡なく突然スピリットにドキドキしてますぅ」 春香と雪歩が呆れるのも無理はない。ターンが終わったら八神君は、くるくるとグロリアス・ソリュートの周囲を旋回。 それでどこからともなく取り出した一眼レフデジタルカメラで、写真を撮り始めたんだ。 『シャッターチャンス! シャッターチャンス! グロリアス・ソリュート、こっち向いて−!』 「あの……恭文、写真撮り始めてるんですけど」 「賢ちゃん、恭文ってやっぱり自由だね」 「大丈夫ですよ。スケッチブック持ち込んで、絵を描いている人もいますから。あれくらいは」 『誰それ!』 そんな人いるのか! いや、一乗寺君達じゃないけど、さすがに驚くって! あれはOKな時点で……もうさぁ! しかしその様子が安心するというか。かなりあり得ない異常事態なのに、自然と全員で笑っていた。 「セイバーの兄ちゃん、神様のカード相手だっていうのに」 「変わってないねー」 「でもそこが恭文くんのいいところだと思うわ。だから、その」 『あずささん、ありがとうございますー!』 いきなりなお礼で全員の笑顔が引きつり、あずささんを凝視。 その間にも八神君はカメラ目線で、思いっきり手を振っていた。 『これ大事に使います! ていうかお礼だ! 絶対お礼しますから! ご飯奢りますから!』 「え、あのグロリアス・ソリュート、あずさがプレゼントしたの!?」 「正確にはトレードね。恭文くんの新デッキにピッタリだと思ったから、戻る途中で」 「まさか、恭文くん」 「これは……ヒカリはんが荒れますな。いや、またフォークが飛ぶかもしれん」 気になる事を言いながら泉君とテントモンが、ヒメラモン達を見る。だがヒメラモン達……いや、違う。 貴音や地尾さんまで顔を背けた。おい……なにがあったんだよ! 頼むからこっち向いてくれよ! 「それで地尾、八神恭文は勝てるのでしょうか」 「あー、でもそれがあった! あんなの無理じゃない! 破壊もできなくて、バウンスっていうのも無理で!」 「しかも社長のライフは残り四つ。どうやってあんなの削るんだ」 「できるよ」 美希は強く言い切り、腕組みしながら俺と律子に呆れた視線を向ける。 「だが美希、本当に可能なのか? 今のだって何度もできるわけじゃ」 「いつもの赤デッキなら、間違いなく負けてたの。でも今の色は黄色だし……というかほら」 ……美希が言うように、信じてみてもいいかもしれない。俺も美希が八神君を指差しして、ようやく気づいた。 八神君、めちゃくちゃ楽しそうなんだよ。とんでもアイテムを前にしてるのに、勝利を確信して笑っている。 いや、少し違うな。あれは余裕というより、例え無理でもつかみ取ろうとしている。そういう覚悟の目だ。 順一朗さんも八神君の目に思うところがあるらしく、顎を撫でながら感心した様子で唸った。 そうだな、下駄はもう預けてあるんだ。あとは信じてみるしかないじゃないか。そう考えると、少し胸がすっとした。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ダーク・ソードール スピリット(闇) 3(1)/紫/無魔 <1>Lv1 1000 <2>Lv2 2000 <5>Lv3 5000 Lv1・Lv2・Lv3『このスピリットの召喚時』 自分はデッキから1枚ドローする。 【連鎖:条件《黄シンボル》】 (自分の黄シンボルがあるとき、下の効果を続けて発揮する) [黄]:このターンの間、このスピリットはLv1の相手のスピリットからブロックされない。 Lv3 このスピリットは黄のスピリットとしても扱う。 シンボル:紫 コンセプト:今石進 イラスト:相崎勝美 イラスト:SUNRISE D.I.D.(バトルスピリッツソードアイズウエハース・バトルスピリッツソードアイズウエハースソードブレイヴ!) フレーバーテキスト: 使い魔らしき者が城へと案内してくれた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 絶対なる幻械神ルード・ルドナ スピリット 10(0)/白/絶晶神 <1>Lv1 0 このスピリットカードは一切の効果を受けない。 Lv1 このスピリットは合体できず、このスピリット以外の一切の効果を受けない。 また、このスピリットは破壊されない。 Lv1『このスピリットの召喚時』 自分のライフが2以下の時、ライフが5になるようボイドからコアを置く。 そしてコアを置いた数、相手のライフのコアをリザーブへ置く。この効果で相手のライフは0にならない。 Lv1『相手のアタックステップ』 このスピリットは疲労状態でブロックすることが出来る。 このスピリットがブロックしたとき、相手スピリット1体をデッキの下に戻す。 シンボル:白白白 (名前の由来はケルト神話のルー。魔眼のバロールの孫で、クーフーリンの父親 公式でスピリット化する事があれば別のモチーフに差し替えます。 これだけBPが完全にゼロ、その代わり絶対に破壊されない。その能力は「絶対不動の神」) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ※TURN08→09 高木社長 ライフ×4 リザーブ×1 トラッシュ(コア)×10 コア総数×12 手札×2 デッキ×32 スピリット:絶対なる幻械神ルード・ルドナ レベル1・BP0(コア×1 疲労中) ↓ ↓ TURN09メインステップ開始時 ライフ×4 リザーブ×12 トラッシュ(コア)×0 コア総数×13 手札×3 デッキ×31 スピリット:絶対なる幻械神ルード・ルドナ レベル1・BP0(コア×1) 恭文 ライフ×2 リザーブ×3 トラッシュ(コア)×4 コア総数×19 手札×6 デッキ×29 スピリット:ガトーブレパス レベル3・BP3000(コア×3) ダーク・ソードール レベル3・BP5000(コア×5 疲労中) グロリアス・ソリュート レベル3・BP11000(コア×4 疲労中) ネクサス:朱に染まる薔薇園 レベル1(コア×0) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 第九ターン――退屈な不動は続く。高木社長はアイドル天使菊地真をコスト5・レベル1で召喚。 続けてアイドル天使水瀬伊織を、コスト3・レベル1で召喚する。ここで召喚時効果発動。 トラッシュから黄のマジックカードを一枚手札へ戻せる……が、当然これは空打ち。 しかもまたコスト効率ガン無視の召喚。だがなにを言っても無駄だろう。 彼は自分の欲しか、再び場にならんだアイドルしか見えていないのだから。……だが。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ルード・ルドナは僕の予想通り、足を踏み出し進軍開始。それに伴い、アイドル天使達もこちらへ飛んでくる。 「ルード・ルドナ、待て! 勝手に動くな!」 やっぱり……ルード・ルドナは高木社長の『意思』を汲んでいる。それは絶対不動すらも覆る、強烈な支配欲。 オーガという暴力の衝撃によって身につけ、ひた隠しにしていた欲求。それを満たすため、無意識にルード・ルドナを動かしている。 いいねいいね。さっきとは別の意味で嬉しいよ。お前が攻撃してくれれば、それだけ奴の心をへし折れるんだから。 「おぉおぉ、ルード・ルドナはやる気みたいだね。お前の願いを叶えようとしているよ」 「嘘だ! 私は……こんな事を願ってなどいない!」 「いいや、お前は願った。願ってその力で、黒井社長達を踏みつけたんだよ。……今みたいにねぇ!」 あざ笑いながら、ガトーブレパスのカードを倒し、前進させる。BP0なら勝てるんだけど、それじゃあ足りない。 だって後に二体控えてるもの。恐らくこの二体もアタックを仕掛けてくる。なので。 「でもちょっと甘い! ガトーブレパスでブロック!」 まずはブロック。それが成立したので、すかさずフラッシュタイミング――紫色のカードを取り出す。 「フラッシュタイミング! マジック、デッドリィヘクスをコスト3で発動! 僕はガトーブレパスを破壊……ガトーブレパス、ごめん」 無謀にも神へ跳びかかりかけていたガトーブレパスが、紫色のヘックスに包まれ拘束。何事かとこちらを見始める。 「そして社長、アンタも自分のスピリット一体を選んで破壊するんだ。 ……あと言っておくと、戻るステップはない。さぁ、選んで」 「ふざけないでくれ。私がなぜそんな事をしなければならない。君がそんなカードを取り下げればいいだけだ」 「選べ――破壊しろ! お前の愛するアイドルを、お前の手で選んで破壊するんだ!」 「君こそ何度も言わせるな。なぜこの輝きを認めない。なぜ無駄な争いに」 残念ながら、僕はもうお前の妄言なんて相手にしていない。僕が言っているのは、お前の本心を映し出す神。 神は予想通りに振り向き、アイドル天使菊地真を指差す。そこで真もヘックスによって拘束。 二体のスピリットはそのまま紫の電撃を受け、体が爆散。当然社長はその様を見て、顔を真っ青にする。 「ルード・ルドナ、なにをするんだ! 私は選んでいない! やめろ……私の輝きを壊さないでくれぇ!」 「ルード・ルドナは『また』お前の願いを叶えた。素晴らしい神様だねぇ。真ー、おのれはいらないってさー」 「嘘だぁ! ルード・ルドナ、なにをしている! お前は私の望みだけを叶えていればいいんだぁ!」 「だから叶えてるっつてるだろうが! ……更に白と黄色の連鎖(ラッシュ)発動!」 プレイ板上で、グロリアス・ソリュートとネクサスのシンボルが輝く。 このカード、実は二色の連鎖(ラッシュ)を持ってたりします。デッドリィバランスでもよかったんだけどねー。 「黄色の連鎖(ラッシュ)により、お前のスピリット一体をレベル1として扱う! ……まぁどっちもレベル1だから意味ないけど、一応アイドル天使の伊織を指定するよ。 そして白の連鎖(ラッシュ)発動。相手スピリット一体を手札へ戻す。当然アイドル天使水瀬伊織を指定」 そこで平然としていた伊織が自分を指差し、ぎょっとする。頷くと伊織は、白の螺旋に包まれ消失。 カードが浮かび上がり、社長の手札へと戻った。僕はその様へ――そして陣地へ戻り、膝をついたルード・ルドナへ嘲笑。 「はい、これでバトル終了」 「待てぇ! 君のケダモノも消えたぞ! ならば攻撃は通るのではないかね!」 「全然違う。ブロック確定した上で破壊したでしょ? その場合、攻撃は通らない」 「嘘だ! 君はまたそうやって、汚い手を使うのか! 連盟の職員をも抱き込んで……そんなに勝利が欲しいかね!」 「それはこっちのセリフだよ。姿勢が聞いて呆れるねぇ。……ルード・ルドナはお前の願いを叶えてくれる」 馬鹿にしながらそう言うと、社長は顔を真っ赤にして首振り。まだ認めないんだぁ。 まぁ別にいいんだけどさ。その方がきっと、負けた時のショックも大きくなる。 「てーかお前と一緒にしないでもらえるかなぁ。僕は別に負けてもいいよ」 心の中にいる獣を解放――鎖をかみ砕きながら前のめりになると、社長が怯えながら後ずさった。 「でも勝つために踏み込まない奴には、絶対に負けない」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 神にライフを削られようと、バトルの雰囲気が変わろうと、八神君のペースなのは変わらない。手札を削り、スピリットを破壊。 更にマジック一枚で、社長の陣形を崩した。もちろん場が整っているせいもあるんだが……これはなかなか。 「あのマジックは二色の連鎖(ラッシュ)効果があったの?」 「えぇ。ネクサスの黄色と、グロリアス・ソリュートの白。両方を参照して、効果発揮したんです」 「うーん、これは楽しいのー。ていうか、美希の願いがちょっとだけ叶ったのー」 「……やっぱり、エグいけどね」 春香、顔色悪いぞ。いや、まぁ確かに……あずささんよりえぐい事しそうで、正直俺は怖いよ。 八神君に紫を使わせちゃいけないだろ。……あぁ、寒気がしてくる。 「地尾さん、あのデッキって恭文はいつ」 「昨日ですね。こっちの時間で言うと、お昼頃」 「まだ一日経ってないじゃないですか! それでよく使いこなせてますね!」 「そりゃあもう。あずささんとみっちりバトルしてましたし」 春香はその言葉を受け、首から錆びた機械みたい音を出す。そうしてあずささんを見やると、あずささんは困った様子で笑う。 やっぱりあずささんか! ほんと後で……後があればいいんだけどなぁ! てーか俺達、結構余裕あるなぁ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ デッドリィヘクス マジック 4(2)/紫 フラッシュ: 自分のスピリット1体を破壊することで、相手は、相手のスピリット1体を破壊する。 【連鎖:条件《白/黄シンボル》】 (自分の白/黄シンボルがあるとき、下の同じ色の効果を続けて発揮する) [白]:相手のスピリット1体を手札に戻す。 [黄]:このターンの間、相手のスピリット1体をLv1として扱う。 イラスト:高梨かりた ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ アイドル天使 水瀬伊織(とまとオリカ) スピリット 4(2)/黄/天霊 <1>Lv1 3000 <3>Lv2 5000 <5>Lv3 6000 Lv1・Lv2・Lv3『このスピリットの召喚時』 自分のトラッシュから黄のマジックカード 1枚を手札に戻す。 Lv3 自分の系統:「天霊」を持つスピリットすべてに “【光芒】『このスピリットのアタック時』 バトル終了時、自分がこのバトルで使用した マジックカードすべては手札に戻る。”を与える シンボル:黄 テキスト: にひひ♪この私の輝きをよーく見てなさい! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ※TURN08→09 高木社長 ライフ×4 リザーブ×4 トラッシュ(コア)×8 コア総数×13 手札×2 デッキ×32 スピリット:絶対なる幻械神ルード・ルドナ レベル1・BP0(コア×1 疲労中) 恭文 ライフ×2 リザーブ×3 トラッシュ(コア)×7 コア総数×19 手札×5 デッキ×29 スピリット:ダーク・ソードール レベル3・BP5000(コア×5 疲労中) グロリアス・ソリュート レベル3・BP11000(コア×4 疲労中) ネクサス:朱に染まる薔薇園 レベル1(コア×0) ↓ ↓ TURN10メインステップ開始時 ライフ×2 リザーブ×11 トラッシュ(コア)×0 コア総数×20 手札×6 デッキ×28 スピリット:ダーク・ソードール レベル3・BP5000(コア×5 疲労中) グロリアス・ソリュート レベル3・BP11000(コア×4 疲労中) ネクサス:朱に染まる薔薇園 レベル1(コア×0) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『――ドローステップ!』 八神君のターン――でもドローした瞬間、泉君達が目を細めた。 「光子郎さん」 「えぇ」 「恭文はんの雰囲気が変わりましたな」 「じゃあ、このターンで決めるつもりだねー」 そう、なのか? 俺には普通に見えるんだが。いや、彼らは付き合いも長いし、だから気づけるところがあったのかもしれない。 『リフレッシュステップ、メインステップ! ガトーブレパスをコスト1・レベル2で召喚!』 三体目のガトーブレパスを召喚すると、彼は別のカードを……あれ? コスト1ってなんだろう。 あれはコスト3だから、他の軽減があるんだろうか。気になっている間に、新しいカードを取り出す。 『闇より目覚めよ、無限の輝き! 夢導く、黄金の導となれ!』 カードを天へかざすと、空から幅広の大剣が落下。そのまま地面へ突き刺さる。その美しさに、俺達全員が息を吐く。 『ソードブレイヴ――夢幻の天剣トワイライト・ファンタジア! コスト3で光来! グロリアス・ソリュートへ直接ブレイヴ!』 プレイ台上のブレイヴカードを、グロリアス・ソリュートへ載せる。 すると白黄の二重螺旋が弾け、グロリアス・ソリュートが左手でソードブレイヴを掴んで引き抜く。 『未来惑わす悪を断ち切れ』 白銀と黄金――二刀流となったグロリアス・ソリュートは剣を振り上げ、それを下ろしながら半身の構え。 『ソードブレイヴスピリット! そしてトワイライト・ファンタジアの召喚時効果! 自分のライフが5以下の時、リザーブのコア一個を自分のライフへ置く事ができる!』 リザーブのコア一個がライフへ置かれ、八神君のライフは三個となる。 ……また凄い。今まで聖命で蓄積したコアをフル活用している。 「ソードブレイヴ……! あれが恭文くんの切り札その二ですか」 「なんや、めっちゃキラキラしてますなぁ」 『更にマジック、ライフドリームをコスト2で発動!』 次に出したのは、やっぱり黄色のカード。コアを中心に黄色い爆発が起こっている絵で、やっぱり見た事がない。 コストが送られた途端、グロリアス・ソリュートとガトーブレパス達が体から黄色のオーラを放出。それを爆発させた。 『使用するのはメイン効果! このターンの間、自分の黄色のスピリット全てにアタック時効果を与える!』 「アタック時効果?」 『アタック時、自分のライフのコア一個をこのスピリット上に置く事で、このスピリットはブロックされない!』 「ライフを対価にした、アンブロッカブル効果なの! これなら……!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ライフドリーム マジック 4(2)/黄 メイン: このターンの間、自分の黄のスピリットすべてに “『このスピリットのアタック時』自分のライフのコア1個をこのスピリットに置くことで、このスピリットはブロックされない。 この効果で自分はバーストを発動できない” を与える。 フラッシュ: このターンの間、スピリット1体をBP-2000する。 イラスト:しもがさ美穂 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「アタックステップ! まずはガトーブレパスでアタック!」 ガトーブレパスのカードを倒し、進軍――ぱからぱからと、蹄の音を響かせながら走っていく。 「いいだろう、何度でも来るといい。だが覚えておきたまえ。全ての輝きが揃った時、君は自分の過ちに気づく」 「なにを勘違いしている! これでお前の遊びは終わりだ! ライフドリームで追加した、アタック時効果発動! このスピリットのアタック時、自分のライフにあるコア一個を、このスピリット上に置く事で」 宣言によってライフコア一個が砕け、その粒子がガトーブレパス上へ移動する。 「このスピリットはブロックされない! ただしこの効果で、バーストは発動できない! ガトーブレパスはレベル3にアップ!」 「またそれか。いいかね、もう君達の嘘は通用しない。ルード・ルドナ、真実を知らしめてくれ」 そんな事を言っても無駄。ルード・ルドナの脇を抜け、ガトーブレパスは社長へ飛びかかる。 「なぜだ……なぜ動かないんだ」 そのまま角ごと突撃し、展開したライフを打ち砕く。社長に背を向けガトーブレパスを迎えながら、僕は思いっきりあざ笑ってやる。 「もう一度僕から言ってやる! この効果は、神に対してかけるものじゃない! よって無効化なんてされない!」 ≪例え神様でも、守れるのは自分だけなの!≫ ≪後悔するんですね、なにもせずに崇めていた罪を。 ……ターンを進めもしないで、スピリット達が輝けるわけないでしょ≫ 「だがそんな手は何度も使えまい。なにをやろうと無駄なのだよ。結局神には」 「そして聖命発動!」 忘れているようなので、現実を教えてあげよう。右手を前へかざすと、ボイドからライフへコアが補充される。 「ボイドからコア一個を自分のライフへ! 更に朱に染まる薔薇園の効果で、デッキから一枚ドロー!」 ライフが増えたので、ネクサスの効果発動条件クリア。手札も四枚に増やしておく。 社長は僕のプレイを見て、さすがに驚いている様子。……そう、これは聖命とのコンボよ。 「馬鹿な。減ったライフが……こんなのはインチキだ!」 「いいや、これはコンボって言うんだよ。学習しとこうね、三下。 ……スピリットがアイドルなら、マジックは歌! ネクサスは舞台! ブレイヴは衣装!」 ちょうど全ての力が、場に揃っている。スピリット達が咆哮し、ブレイヴは強い輝きを生み出す。 そして薔薇園が花吹雪をステージ中にまき散らす。赤い輝きの全てが、凍りついていた大地を溶かしていく。 「全てをつなぎ合わせ、一人ではできない戦いをする! それがカードを輝かせ、応えるという事だ! お次は」 ダーク・ソードールのカードに手をかけ、そのまま倒す。 「ダーク・ソードール、行け!」 カードを倒すと、ダーク・ソードールはガシャガシャと走り出す。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「うわ、追い詰めにきてるよ」 「社長が分かってないから、連続でやってるねー。兄ちゃん、やっぱりドSだー」 『ルード・ルドナ、動いてくれ! 私に力を貸してくれるのではないのか! ……ならもういい! ブロックなどしなくていいから、彼に天罰を! 黒井のように、罪を突きつけてくれぇ!』 なぜダーク・ソードールでと思っているとこに、社長が再度爆弾発言。やっぱり……! それだけでなく、なにも答えない神にいら立ち、プレイ台を叩く。 『なぜだ……なぜ私の思う通りにならないんだぁ!』 『ダーク・ソードールの効果発動! 自分のライフ一個をこのスピリット上に置く事で』 「え、ちょっと待て!」 『このスピリットはブロックされない!』 『ば、馬鹿を言うな! それは紫のカードだろう! それで神を突破できるはずがない!』 「そうよ! その、ライフドリームの効果は使えないじゃない! 恭文君、なに考えてるのよ!」 だが社長の言葉を否定するように、コアが自動的に移動。ダーク・ソードールは更に勢いを増して駆け抜けていく。 『そうそう、言い忘れてたねぇ。……ダーク・ソードールはレベル3時、黄色のスピリットとしても扱う!』 このせいかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! だからアタックさせたのか! そこで気づくべきだった! ライフドリームは黄色のスピリットである事が条件だから、これなら……確かに社長を追い詰めにきている。 「律子……さん、また恥ずかしいの。美希だって気づいたのに」 「だよねー。りっちゃん、やっぱりルールも分からないのに知った顔は駄目だってー」 「そんな事言われても困るわよー! 知らないカードだし、気づける要素だってなかったのに!」 「あったよ。恭文はガトーブレパスの二体目を、コスト1で召喚したの」 「……やっぱり意味分からないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 そういう事か。ガトーブレパスの軽減は2みたいだから、ネクサスとダーク・ソードールでちょうど満たせる。 そうかそうか、美希達はそれで気づいて、納得していたと。……これがバトル、なんだよなぁ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「ふざけるな! そんな効果は無意味だ! いいから待つんだ! 彼女達の輝きを見てくれ! そうすれば必ず」 そんな戯言を、ダーク・ソードールの斬撃が止める。展開した障壁をバツの字に斬り裂き、社長が痛みで崩れ落ちる。 「もう一度言ってやる、お前のやってる事は全て遊び。人を自分の人形同然に貶める、最低な行為だ」 言いながら殺気を放つと、社長はボードの上をみっともなく這いずる。 ゆっくりグロリアス・ソリュートのカードに手をかけると、その表情が恐怖で引きつる。 「結局力での支配を望んでいる。よかったね、黒井社長……あ、高木社長だっけ? 同じようなもんだから間違えちゃったよ。とにかく神は、お前の願いを全て叶えた」 「やめ、ろぉ」 「逆を言えばお前が望まなきゃ、あんな事は起こらなかったんだけどね」 「やめろぉ! もう、やめてくれぇ……!」 「さぁ」 ブレイヴスピリットを手にかけると、グロリアス・ソリュートが翼を羽ばたかせて浮上。 「お前の罪を、数えろ! ブレイヴアタック!」 カードを倒すと、そのまま社長の場へと飛び込んでいく。 「グロリアス・ソリュートの効果発動! アタック時、自分のライフ一個をこのスピリット上に置く事で」 ライフが痛みを伴いながら、グロリアス・ソリュート上に移動。 それにより黄金色のブーストがかかり、グロリアス・ソリュートは更に加速。 「このスピリットはブロックされない!」 『説明しよう! グロリアス・ソリュートは白のスピリットなので、本来は効果対象外! だが黄色のブレイヴであるトワイライト・ファンタジアと合体しているので、BPやシンボル、効果のみならず色も追加中! それらは本来の値として扱うため、グロリアス・ソリュートもライフドリームの効果を使えるのだ!』 そしてグロリアス・ソリュートは神の脇を突き抜け、高木社長へ迫る。 「更にトワイライト・ファンタジアの合体アタック時効果を発動! このスピリットが相手スピリットからブロックされなかった時、ボイドからコア一個を自分のライフへ置く!」 ライフに新しい輝きが灯り、それが癒やしとなる。いやー、この力がみなぎる感覚、素晴らしいねぇ。 高木社長は首を振りながら、迫るブレイヴスピリットに背を向ける。そのままボードから飛び降りた。 「嫌だ……嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 みっともなく逃げるので、僕もボードを加速。グロリアス・ソリュートの後を追う。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ボードから下りる時、デッキも一緒に持ちだそうとする。だがデッキはプレイ板にしっかりくっつき、決して動かない。 それにいら立ちながら……いや、これは悲しさだ。誰も私を助けてくれない、認めてくれない。 私を唯一認めていた神も、私の願いを裏切り動かない。だから必死に、この異常な空間から逃げる。 あの山を越えれば、きっと逃げられる。そうすれば警察が……そうだ、警察が助けてくれる。 このままでは殺されてしまう。私はただ願っただけなんだ。どうしてそれが罪になるんだ。 神は私の願いを――私が望む、輝きにあふれた世界を作ってくれた。その足がかりを生み出してくれた。 なのに、なぜだぁ。荒く息を吐きながら、必死に怪物から逃げ続ける。誰か、誰か助けてくれぇ。 「助けてくれぇ! 誰か、この怪物から私を守ってくれぇ!」 『……順二朗、敗北を認めろ』 この声は、順一朗兄さん? なぜだ、なぜ順一朗兄さんまで、私を否定する。 『お前では何度やろうと、彼には勝てん。踏み込み、戦う覚悟のないお前ではな』 「なぜなんだぁ! 私は、兄さんとの約束を守っているだけなんだぁ! 日高舞を超える――そのために事務所を作ったんだぞ!」 『私達は間違っていたんだ! 黒井と同じく!』 嘘だ……そんなのは嘘だ! 間違っていたのはアイツだけなんだ! 私は間違ってなどいない! 私は正しいんだぁ! 認めてくれるまで、逃げ続けてやる! 新しい神が私を救うまで、何度でも……何度でもぉ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ グロリアス・ソリュートは大きく上昇し、社長を飛び越えながら反転。その行く手を阻む。 僕は尻餅をつき、またグロリアス・ソリュートに背を向けた社長へ迫る。そのままボードをスライドさせながら、前を取る。 「グロリアス・ソリュート、やれ」 その様を見た社長は右へ走り出そうとする。でもそこでグロリアス・ソリュートが、兜の奥から眼光を放つ。 それは社長を張り付けにする、白銀のバインドに変化。……最初からこれを使えばよかったんじゃ。 「や、やめ……!」 グロリアス・ソリュートは両の刃を逆手に持ち、そのまま社長へ突き立てる。その瞬間、どこからともなく二重障壁が展開。 それが二刀の切っ先を受け止め、激しい火花を散らす。社長は今までで一番の衝撃と痛みを、全身に受ける。 「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 余りに価値のない勝利――そう思っていると、突然辺りの光景が真っ白になる。 同時にルード・ルドナから感じていた力が、そこらかしこから発生する。 「あれ、ここは」 「なんだ! どこだよここ!」 「この空間に満ちている力は、ルード・ルドナのものと」 『そう、同じだ』 すると僕達の目の前に、あのカードが現れる。キラキラと輝くカードは、少しずつその輝きをなくしていた。 「あなたは」 『魂強き者達に問う。お前達はなんのために、私と戦った』 「お前の調子づいてる、鼻っ柱をへし折るため。そして……今泣いているみんなを助けるため」 『自身の命を捨ててでもか』 「まさか。未来のビジョンがない奴ほど、弱いものはないよ。 ……僕は戦って、自分とみんなの今を繋ぐ」 『……この者とは真逆だな』 するとカード――ルード・ルドナの脇に、歪みが生まれる。その歪みはモニターのように、今なお苦しみ続ける社長を映し出す。 『この者は決して動かない。自分から動く事なく、理想の体現者のみを求める』 「お前はそれを求めたんじゃないの? 崇拝者としての高木順二朗を認めた」 『その通りだ。だが自身の敗北から逃げる者に、神はほほ笑まない。 我の不動は逃げ道に非ず。不屈であり、不滅であり、不退である覚悟だ』 負けを負けとして認め、それでも折れない精神が信条ってわけですか。むしろそれはイバラ道。 ただ強い存在にすがる事しかできない社長は、崇拝者としての資格すら失ってしまったわけか。 ルード・ルドナもその対価を払う。不動の神は敗北から決して逃げない。なぜならそれは、不動である事の否定。 でもそれを貫けば、絶対ではなくなってしまう。それでも奴は、不動である事を貫く。これが神のプライドか。 「……じゃあひとつ聞かせろ、なんのためにそんなのを欲したんだ。やっぱ、この世界が嫌いだからか」 『好きになる理由がどこにある』 ショウタロスの問いかけに、ルード・ルドナは嫌悪感丸出しで言い切った。ショウタロスはソフト帽を目深にかぶり直す。 「でも、お前はそのためにこんな馬鹿な事をした。……お前には罪がある。だからそれを数えろ」 『神にも、罪はあると言うか』 「あるよ。お前はもうそれを認めている。だからなにもしないし、絶対を捨てる。違う?」 ルード・ルドナはなにも答えない。不動であるから、ただ受け止めるのみか。沈黙している間にも、力は消えていく。 やっぱり不動だから、力もそのままってわけじゃないみたい。神でさえ抗えぬルールもある。 「教えてほしい事がある。お前は誰に見つけられ、社長の元へ渡されたの」 『言えない。私にも分からないのだ。紫のオーラを纏い、強い意志のまま動く者。人間かどうかすらも』 「そう。じゃあ……全部終わったらなんだけど、一度僕に使われてくれないかな」 ショウタロスがぎょっとする。カード状態のルード・ルドナも、少し驚いた様子だった。 「お前もこのバトルじゃ不満でしょ。だからお前の力を生かす、最高のデッキを作る」 『お前では存分に力を振るえない。例え私が絶対でなくなったとしてもだ』 「運命力なんてなくても、必ず引き当てるよ。だって絶対じゃないんでしょ?」 『……この罪深き神に慈悲をくれた事、決して忘れん』 そしてルード・ルドナから、全ての輝きが消えた。同時に白だけだった空間も、少しずつ色を取り戻していく。 『時がきた時、必ず共に戦おう。神と崇拝者としてではなく、未来を憂う同志として』 「うん、約束だ。それは、絶対」 世界に全ての音と色、空気が戻る。エクストリーム・ゾーンの乾いた風と、未だに削られ続ける命。 それに耐えかね、苦しみ続ける社長――僕はボードを右にスライドさせながら、右手を振り下ろす。 グロリアス・ソリュートが一旦両の刃を引き、順手に持ち直した上で振り上げる。 社長は張り付け状態のままそれを見上げ、失禁しながら歯をガチガチ鳴らした。そして、とどめの一撃。 唐竹双閃は再度展開したライフを一瞬で斬り裂き、刃は社長のアーマーを捉える。 そして黄金と白銀の斬撃波が生まれ、それに押されながら社長は吹き飛んだ。 斬撃波が地面に二条の線を刻み、凄まじい衝撃が社長の体を再び痛めつける。 そのままキロ単位で直進し、社長はリングに衝突。そこで斬撃波が交じり合い、二重螺旋の爆発となる。 その爆発を見ながらボードを上昇させ、時計回りに一回転。 「輝け――そして繋げ!」 それから引いていた右拳を、エクストリーム・ゾーンの空へ突き出した。 「命と夢の鼓動!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ エクストリーム・ゾーンから戻った僕は、さすがに疲れてソファーに持たれかかっていた。 社長は肉体的にもズタボロだったため、病院へ搬送。心からへし折れているので、馬鹿な真似はもうできない。 カードもしっかり回収したし……そっちには善澤さんが付き添っている。しかし、疲れた。 そこで黒子が右人差し指と中指を立て、呪文を唱える。すると僕の体が紫色に包まれ、痛みが和らいだ。 「八神さん、お疲れ様です」 「ん、ありがと」 「あばら、やられてるでしょ。一度病院に行かないと」 「まさか、ルード・ルドナに殴られた時!? 恭文くん!」 「アーマー越しにきましたよ。あー、でも大丈夫ですから」 心配するあずささんや春香達に、右手を振って大丈夫だとアピール。……それでも駄目なんだろうけどさ。あばら骨だし。 「八神くん、地尾くん、ありがとう。順二朗もこれでもう、あんな事はできないだろう」 「いえ。私達は自分の都合もあって、こちらへ伺いましたし。しかし……本当に他の絶晶神が目覚めてるなんて」 ≪この調子だと残り四枚も……早めに所在を見つけたいところですけど≫ ≪なのなの! 今回の事、かなり大変な事になってるの!≫ 「まぁ僕達的には、その大変な事に因縁もなく関わっている恭文くんが心配ですけど」 光子郎さん、テントモン達もそんな目で僕を見ないで。僕はなにもしてないの、本当にこれは偶然なの。 ……でもこの場合危惧するべきはなんだろう。やっぱり、アマテラスと他の絶晶神が出会う事かな。 そうして力が融合し、パワーアップでもしたら……いや、その可能性はかなりある。アマテラスじゃなくてもいいのよ。 残り四色の主を見つけ、ソイツら同士でバトルさせればさ。それだけで全部なんとかなりそうだし。 「ねぇ恭文、神様に勝った事への感想はないの? せっかくの大金星なの」 「無茶苦茶なデッキ構成に仕立てたしね。自慢にはならないよ」 「……それでも恐ろしいの、真なる神のカード」 美希が渋い顔をしながら、黒子の取り出したルード・ルドナを見る。 もう普通のカードになっているらしく、黒子がおかしくなるような事もなかった。 「その無茶苦茶なデッキ構成でも、社長の事を全力で守りにきてたの。 美希もあの防御、アンブロッカブル系じゃないと抜けないだろうし」 「ぼくの赤デッキなら、なにもできずにデッキアウトだったかも。だけど……なんだか、突き刺さるね」 「真ちゃん?」 「実はね、恭文とルード・ルドナの会話、こっちでも聴こえてたんだ」 あら、そうなんだ。春香達を見ると、やや申し訳なさげに頷いていた。 「ルード・ルドナは敗北から決して逃げない。絶対より、自身の在り方を選んだ。 そういう、強い誇りを持っていた。……そんな神様が怒るほど、世界は末期的なのかってさ」 「確かにな。なぁ、ルード・ルドナ」 赤羽根さんは困った笑いを浮かべながら、ルード・ルドナのカードを軽く撫でる。 「お前の間違いは八神君が突きつけた。そしてお前は逃げなかった。確かにお前は、絶対不動の神だよ。 だから俺は、お前を責めるつもりはもうない。みんなにもそんな事はさせない。でも一つ、頼みがあるんだ。 ……この世界の一員として、俺達を見ていてくれ。俺も世界に住む一人として、できる事から矛盾と戦っていくから」 「それが、赤羽根さんの結論ですか」 「あぁ。本当に身近なところから――自分自身からになるが、俺も今を変えたくなった。でもまずは、自分のデッキを組むところかな」 「……ハニー、絶晶神と戦うつもりなの?」 「そういうの抜きで、やりたくなったんだよ。結局八神君へ任せっぱなしだったし、情けないなって思ってさ」 照れたように笑う赤羽根さんに、美希やみんなも安どの笑みを浮かべる。そういう情けなさから逃げず、変えていく。 赤羽根さんの戦いは、確かに自分自身からスタートするみたい。とても小さく、でも大きい一歩だと思った。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あの強烈なバトルは終わり、高木はズタボロ状態でフィールドからたたき出された。 ……自分では立てないほどの重傷だ。忍者の坊主も、それなりに怪我を負っているはず。 とにかく高木は救急車で運ばれ……俺もまぁ、一応付き添いだ。縁を切るとは言ったが、若い連中を見て反省したよ。 そんな真似をしたら、なんのために坊主が命を賭けたか分からない。まだ向き合い方に迷いはあるが。 いろいろ考えている間に、病院へ到着。高木の担架が救急隊員によって降ろされ、搬送口へ運ばれていく。 今にも搬送口へ入ろうとしたその時だった。高木の体から、突然虹色の炎が生まれた。 「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」 担架を引っ張っていた救急隊員二人が、驚き尻もち。そのまま混乱しながら後ずさる。 その間にも高木は担架ごと燃やされ、苦しげな悲鳴を上げる。まさか、これは……! 「高木ぃ!」 高木を助けようと走りより、とっさに羽織っていたコートを脱ぐ。炎をコートで叩き、なんとか消そうとする。 だが消えない。それどころかコートが一気に燃やし尽くされる。慌てて手を離し、つい距離を取ってしまった。 それでも諦めきれず、両手を伸ばして高木に。 「だ、駄目です!」 近づこうとすると、別の救急隊員が俺の脇へ抱きつき止めてきた。 「離せ! アイツは……アイツは親友なんだぞ!」 「じっとしていてください! おい、消火器! 消火器を持ってこい!」 「「は、はい!」」 「離せ! 高木ぃ……! 高木ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 高木順二朗、お疲れ様でした。ですが……あなたは喋り過ぎた。そしてがっかりしました。 だからあなたには、天罰を与えました。……病院の裏口付近は、燃やされている愚か者を中心に大騒ぎ。 善澤記者が虹色の炎に近づこうとするものの、勢いが強すぎてどうにもならない。 そんなに慌てなくてもいいのに。大丈夫、彼は死にませんよ。ただ……永遠の苦しみを味わうだけで。 私は大慌てする方々に背を向け、ビルの屋上を歩く。右手に持った紫色のカードに笑いかけ、懐へと仕舞う。 しかしこの段階で、ルード・ルドナの存在に気づかれたのは予想外。もちろんあれが倒されたのもだ。 本来なら勢力拡大したルード・ルドナと、他の太陽神をぶつける予定だったというのに。 まぁ、いいでしょう。計画通りと言えばそうなるのだから。しかし予想以上ですよ、これは。 八神恭文――特異点とも言うべき存在。そしてそれに与する者達。認めましょう、あなた達の強さを。 そして今日の負けを。あなた達に目をつけたのは、間違いではなかった。むしろ正解でしたよ。 その嬉しさで口元が更に歪む。それでも左手で印を組み、ゲートを開いてこの場から退避。 ……さて、どう転がるでしょうかね。いずれにせよ世界は変わる。いや、変わらなければならない。 そして変革には痛みが伴う。私はそれを生み出す者となろう。来たるべき時のために、私自身の正義を持って。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 本日の一枚――天戒機神グロリアス・ソリュート。白の裏Xレアであり、恭文の新しいキースピリットだ。 召喚時のバウンス効果と、スピリット効果を受けない効果。そしてレベル2からになるが、聖命も発揮する。 バウンス効果や聖命に目が行きがちだが、スピリット効果を受けない点が評価されていたりする。 覇王編環境で猛威を振るっていた、ジーク・ヤマト・フリードなどで焼かれる心配がないのだ。 メインで使うのであれば、聖命サポートをうまく絡ませていきたい。あとは……単純にカッコいいですよねー。 恭文(A's・Remix)「当然! これをくれたあずささんには、感謝しないと! あずささん、ありがとー!」 テンション高いなー。恭文にはもう一枚キースピリットがあるが……そこはいずれお見せしよう。 (Battle59へ続く) あとがき 恭文「というわけで、バトル決着。最後はどつき合いとなりました。お相手は蒼凪恭文と」 キャス狐「ご主人様ー!」 恭文「……このキャス狐です。で、どうしたの」 キャス狐「私の……私のガンプラがー! 貧相な眼鏡っこに(うったわれるーものー♪)ましたー!」 (どうやら昨日放送された、ガンダムビルドファイターズの第9話について言っているらしい) 恭文「なお規制音はネタバレ回避のためなので許してください。……ベアッガイVが登場するあれだね」 キャス狐「そうですー! こう、中からびゅるーって! ご主人様、私汚されましたー!」 恭文「いかがわしい言い方やめてくれる!? ていうか、変なものじゃなかったから!」 (キャス狐の中の人は、今回のゲストキャラクターとして登場していました) 恭文「それよりさ、フェイトがナイトガンダムをメッキ仕様にするとか言い出して」 キャス狐「……どうやるんですか、一体」 恭文「そういう業者さんみたいなのはいるっぽいけど。あとはあれだよ、ケンタロス形態で空を走れるように」 (でもあれ、きっとプラフスキー粒子の応用だと思うなぁ) キャス狐「とにかくご主人様ぁ、その……ご主人様の愛で私を清めていただけると」 恭文「だから変なのじゃなかったよね、あれ!」 キャス狐「私の外でも中でも、ご主人様もバナナジュースをいっぱい」 恭文「やめんかい馬鹿!」 (げし!) キャス狐「きゃうー! ご主人様が冷たいー! 添い寝してるんだから、いいじゃないですかー!」 恭文「どういう理屈!? ……とにかく来週、早々に出てくるみたいだね。新機体」 キャス狐「あ、そうですねー。でもご主人様の予想、外れましたねー。もうちょっと遅く出るかもって言ってたじゃないですか」 恭文「ガンプラの発売に合わせてね。今回のベアッガイVがそうだったし。でもベアッガイV、かわいいよねー」 キャス狐「……あの、実は一つ疑問が。あの表情が変わるのはどうなってるんですか。ノイズみたいなのが入ってたんですけど」 恭文「あれ、顔の部分が液晶モニターになってるっぽい。それで表情を映し出してるのよ」 キャス狐「幾らかかるんですか、それ! バトルで壊れるでしょ!」 恭文「でもほら、環境みたいなものが違うし。もしかしたらあれくらいのサイズの液晶モニター、手軽に入手できるのかも」 (それをガンプラに組み込む発想が凄いけど) キャス狐「じゃああのリボンは」 恭文「あぁ、あれはストライカーパック。だからビルドストライクなんかに装着できるの」 キャス狐「えぇ!」 恭文「なんか飛行も可能……だっけ? そこはあやふやだけど。 ちなみに専用パーツをつけると、ベアッガイに他のストライカーパックを装着可能」 (アニメだけでなく、実プラモでもそうなっております) 恭文「そんなベアッガイ、もう発売されているのでみなさんも作ってみてはどうでしょう。かわいいですよー」 キャス狐「やっぱりあのアニメ、恐ろしいですね。普通に購買意欲を煽ってきます」 恭文「ほんとそうだよね」 (でも九話で世界大会――これからの展開が読めない。ここからフルで世界大会なんだろうか。それとも。 本日のED:CLUTCHO『Billy Billy』) クラリッサ(八神さんと地尾氏が日本で大変だった頃、ドイツもかなり荒ぶっていました。 みなさんには宇宙飛行士訓練の必須科目と言うべき、閉鎖環境試験に挑戦していただいているのですが) 一夏『……みんな、正直に言ってほしい。ロボットのパーツ、壊したよな』 セシリア『わ、わたくしではありませんわ! というか、そんな事をするメリットがありません!』 シャルロット『ぼくもだよ! まぁ……言いたくなる気持ちは分かるけど。でもぼくからも質問、イチカは』 一夏『やってない。というか、オレもやる意味が分からない』 箒『現在我々は密室空間で一つ屋根の下。外へ出るまでに、小型ロボットを組み上げなければならない』 ラウラ『にも関わらず、予め運び込まれた部品の一つがなくなり、それが半壊状態で見つかった』 鈴(IS)『普通に考えれば、この中に……よねぇ』 一夏『まぁ、だからこそなんだよなぁ。そんな状況でこんな事やったら、普通に犯人がこの中にって言うのと同じだろ?』 箒『……なぁ、この事は後でもよいのではないか? 仮に犯人がいるとしても、今言ったように容疑者は限定される。 それよりはロボットの完成を急ぐべきだと思う。もちろんその、疑いやなんかで不安はあるが』 鈴(IS)『そこを解消するために犯人探し……でも、時間はかなりギリギリだしなぁ。 よし、あたしも箒に賛成。こうしている時間がもったいないわよ』 ラウラ『だが部品はどうする』 シャルロット『でも、いいのかな。やっぱりはっきりさせた方が』 セシリア『時間がないのも確かですし、ここは後腐れなく多数決でいいのでは』 千冬「予想通りに揉めているな。だがクラリッサ、指示が極端すぎるだろ」 クラリッサ「そう言わないでください。数ある中から、ランダムで引いたものを渡したので。 内容は私も確認していません。しかし織斑さん達は気づくでしょうか」 千冬「気づかなければ、危なっかしくて宇宙には出せん。 ……宇宙飛行士に必要なのは、個々の能力よりコミュニケーション能力と言う。 目的を達成するため、人間関係をうまく回す努力が必要。ようはチームワーク」 クラリッサ「そのための閉鎖環境試験――そしてグリーンカード。 仲間のミスによって受けるストレスをコントロールし、不測の事態をどう切り抜けるか。 チームのパフォーマンスを上げるため、どれだけ貢献できるか。足し算した結果を見るのがこれ」 千冬「その通りだ。……まぁ予想よりは穏やかな対応で、安心しているが」 クラリッサ「そうなのですか?」 千冬「連中、当初は険悪な仲だったからな。主に愚弟が原因で」 クラリッサ「あぁ、なるほど」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |