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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Battle52 『Lの試練/激突新生』


※TURN08メインステップ途中

恭文

ライフ×4 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×5 コア総数×8

バースト×1

手札×2 デッキ×31

スピリット:アサシン・ドラゴン レベル2・BP8000(ペンドラゴンとブレイヴ コア×2 疲労中)

ワン・ケンゴー レベル3・BP6000(コア×1 効果によりレベル3扱い 疲労中)


ディオクマ

ライフ×2 リザーブ×6 トラッシュ(コア)×4 コア総数×16

手札×1 デッキ×26

スピリット:イグア・バギー レベル2・BP3000(コア×2)

ストライクヴルム・レオ レベル3・BP12000(コア×4)

ネクサス:要塞都市ナウマンシティー レベル1(コア×0)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


前回のあらすじ――人間として大事なものを否定されてしまいました。どうしよう、この怒り。


「さーらーにー! 双翼乱舞をコスト3で発動し、デッキから二枚ドロー!」


まだドローするか。運命力が半端なくて、さすがにうんざりしてくる。


「ホーク・ブレイカーをコスト3で召喚! ストライクヴルム・レオへブレイヴー!」


ダイヤのコアから飛び出たホーク・ブレイカーが、白い光に包まれ翼付きのバックパックとなる。

ストライクヴルム・レオの背中へそのまま装着され、白の二重螺旋がフィールドで弾ける。


「切り裂け、ブレイヴスピリット! そしてレベル3・合体時の効果だ!
光導・星魂を持つ自分のスピリット全てに、白のシンボルを追加!
ストライクヴルム・レオとイグア・バギーはダブルシンボルとなっているよ!」

「ほう」

「むきー! 余裕こいちゃってー! アタックステップ! ストライクヴルム・レオ……食いちぎれ!」


ストライクヴルム・レオはフィールドを駆け抜け、そのまま僕へ覆いかぶさるように跳躍。右前足を振り上げる。


「ライフで受ける!」


袈裟の引っかきをライフの障壁で受け止め……凄まじい衝撃と一緒に吹き飛ばされる。

ボードを乱回転させながら、なんとか体勢を立て直し停止。疼く痛みを堪えながら、右手をスナップ。


「バースト発動!」


展開した白いバーストをキャッチし、そのままディオクマへかざす。すると僕の胸元に、ライフの輝きが戻ってきた。


「絶甲氷盾! ボイドからコア一個をライフへ置く! フラッシュ効果を発動!
不足コアはアサシン・ドラゴンとワン・ケンゴーから一個ずつ確保し、ワン・ケンゴーはトラッシュへ!」


今削られたコア二個と、指定した残り二個がトラッシュへ。ワン・ケンゴーは悲しげに吠えながらトラッシュ送り。

でもその価値はある。場へ戻ったストライクヴルム・レオとイグア・バギーの前へ、巨大な氷壁が出現。その進軍を止めてくれる。


「ププププー♪ コアもないから、ワン・ケンゴーもさよならだねー! ピンチだよねー! それじゃあターンエンドー!」


確かにピンチだ。確かに……わりとマズい状況が続いている。でも奴は分かっていない。

……僕がちょっとお冠なのをさぁ。手札もない状況でどうするか、見せてほしいものだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN08→09

恭文

ライフ×3 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×9 コア総数×10

手札×2 デッキ×31

スピリット:アサシン・ドラゴン レベル1・BP7000(ペンドラゴンとブレイヴ コア×1 疲労中)
                 ↓
                 ↓
TURN09メインステップ開始時

ライフ×3 リザーブ×10 トラッシュ(コア)×0 コア総数×11

手札×3 デッキ×30

スピリット:アサシン・ドラゴン レベル1・BP7000(ペンドラゴンとブレイヴ コア×1)


ディオクマ

ライフ×2 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×10 コア総数×16

手札×1 デッキ×24

スピリット:イグア・バギー レベル2・BP3000(コア×2)

ストライクヴルム・レオ レベル3・BP15000(ホーク・ブレイカーとブレイヴ コア×4 疲労中)

ネクサス:要塞都市ナウマンシティー レベル1(コア×0)





バトルスピリッツ――通称バトスピ。それは世界中を熱狂させているカードホビー。

バトスピは今、新時代を迎えようとしていた。世界中のカードバトラーが目指すのは、最強の称号『覇王(ヒーロー)』。

その称号を夢見たカードバトラー達が、今日もまたバトルフィールドで激闘を繰り広げる。


聴こえてこないか? 君を呼ぶスピリット達の叫びが。見えてこないか? 君を待つ夢の輝きが。

これは世界の歪みを断ち切る、新しい伝説を記した一大叙事詩である。――今、夢のゲートを開く時!



『とまとシリーズ』×『バトルスピリッツ覇王』 クロス小説

とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/ひーろーずU

Battle52 『Lの試練/激突新生』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……このタイミングでこれがくるか。さて、あとは運試しって感じ?


「メインステップ……バーストをセット」


バーストをセットした上で、次の手を取る。


「古竜を統べる皇よっ!」


カードをかざすと、台座の周囲に赤く燃えたぎる炎が発生。

炎が渦を巻き、天へ昇る螺旋となりながら僕の頭上へ球体状に集束していく。

それは言うならば太陽。でもそれにしては荒々し過ぎるのかもしれない。


だって炎は怒りをまき散らすが如く、激しく燃えているんだから。


「焔を光に変え、未来斬り開く導となれっ!」


そして集束した炎が弾け、僕の周囲に炎の雨が降り注ぐ。そんな中、黒い両手鎌を持った魔皇が降臨。

腕は左右三本ずつ。右の腕の一つが、黒く分厚いツインセイバーを持っている。

顔に装着している白仮面の双眸から、赤い輝きを放ち雄々しく叫ぶ。


「焔竜魔皇マ・グー、コスト6・レベル1で召喚っ!」

「ぷぷぷぷ……今更マ・グーなんかがきても遅い遅いー!」


ディオクマはプレイ台をパンパン叩き、こっちを笑ってくる。……どうやら奴は、本当に気づいていないらしい。


「もうボクの勝利は確定ー♪ さぁ、とっとと家に帰って引きこもる準備をするんだ! 君はなにもできないんだからね!」

「お、おいヤスフミ……とりあえず落ち着け? いや、マジで」

「お兄様、冷静に……とは無理ですよねぇ」

「それは無理だ」

「へぇ、どうしてかなー!」

「決まっている」


僕は不敵に笑い、左手でガッツポーズ。


「ジャッジメント・ドラゴニスを使いたいからだ」

「だーかーらー! 君の運命力じゃあドラゴニスの効果は」

「そんなの関係ない。僕は……ジャッジメントのデザインに一目ぼれしたんだ!」

「……へ?」

「ラスボスのサジットとも言うべき姿に、無骨な剣! 背中には円形に配置された、十二の剣!
ほぼ石版状態だったけど……ピンときたのよ! これをキースピリットにしたいってさ!」


……あれ、ショウタロスとクマが同時にずっこけた。なに、僕は至って真面目なんだけど。


「お前……馬鹿だろ! そんな理由かよ! 神のカードとか関係なしか!」

「ない!」

「ぷぷぷぷ……でも残念ー!」


クマはころんと起き上がって、両手足をおかしげにバタバタさせる。


「ジャッジメントは君には預けられないよ! あえてもう一度言おう!
君では神のカードは使えないし、勝つ事もできない!」

「そう。じゃあ試してみようか。獣装甲メガバイソンをコスト3で召喚。マ・グーにブレイヴ」


コア三個によって、マ・グーの隣に獣装甲メガバイソンが現れる。

それは飛び上がりながら、V字型の翼へ変形。いつも通り、突き出した角が元になってる。

その翼がマ・グーの背に重なり、マ・グーは機械的な六枚羽根を展開。体の色も黒から白へと変化する。


「咆えろ――ブレイヴスピリット。アタックステップ、マ・グーの効果により、トラッシュにあるコア九個をマ・グー上へ」


マ・グーの胸元に九個のコアが現れ、そのまま吸収される。同時にトラッシュのコアもマ・グー上へ移動。

マ・グーの関節部から白い炎が噴き出し、強くなった力を現してくれる。


「マ・グーのアタックステップ時効果発動。系統:竜人のマ・グーはBP16000にアップ。
更にマ・グーのレベル2・3効果により、系統:古竜を持つマ・グーはトリプルシンボルとなる。ターンエンド」

「うんうん、すごいねー。でもでも、それは意味がないんだよー? さぁ、現実を更に思い知ってもらおう!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN09→10

恭文

ライフ×3 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×0 コア総数×11

バースト×1

手札×0 デッキ×30

スピリット:アサシン・ドラゴン レベル1・BP7000(ペンドラゴンとブレイヴ コア×1)

マ・グー レベル3・BP13000(メガバイソンとブレイヴ コア×10)


ディオクマ

ライフ×2 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×10 コア総数×16

手札×1 デッキ×24

スピリット:イグア・バギー レベル2・BP3000(コア×2)

ストライクヴルム・レオ レベル3・BP15000(ホーク・ブレイカーとブレイヴ コア×4 疲労中)

ネクサス:要塞都市ナウマンシティー レベル1(コア×0)
                 ↓
                 ↓
TURN10メインステップ開始時

ライフ×2 リザーブ×11 トラッシュ(コア)×0 コア総数×17

手札×2 デッキ×23

スピリット:イグア・バギー レベル2・BP3000(コア×2)

ストライクヴルム・レオ レベル3・BP15000(ホーク・ブレイカーとブレイヴ コア×4)

ネクサス:要塞都市ナウマンシティー レベル1(コア×0)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


第十一ターン――ディオクマは二体目のストライクヴルム・レオを、コスト4・レベル3で召喚。

一体目のレオとイグア・バギーは、合体時効果でダブルシンボルとなっている。そのためフル軽減での召喚ができた。

続けてブレイヴ、突機竜アーケランサーをコスト2で召喚。デッキから一枚ドローし、二体目のレオにブレイヴさせた。


レオにはこのスピリット以外の系統『光導・星魂』を持つ、自分のスピリットが疲労した時、回復する効果がある。

これにより以前紹介した、レオ二体による無限アタックが可能となった。だがそれだけではない。

二体目に限りだが、アーケランサーのブレイヴ時効果によりBPを無限に上昇可能である。


アーケランサーのブレイヴ時効果は、アタック時のフラッシュタイミングに発動可能。

自分のスピリット一体を疲労させ、そのBPをブレイヴスピリットに加算する事ができる。

ここで重要なのは、『自分のスピリット』とある事。合体しているレオも含まれるため、疲労を延々続ければ……お察しください。


なのでこの状況に限り、レオはBP『MAX』として扱われる。ようは無限だ。はっきり言おう、ほぼ積みである。

……あれ、ちょっと待って! なんかおかしくない!? レオ二体目って!



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「さー、念仏のお時間はOKかなー?」

「こら待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「えー、なにかなー。命ごいは受け付けないよー?」

「違うわボケ! おのれ、前話でピン差しって言ってたよね! なに二体目出してるの!」

「あぁ、これ?」


二体目のレオをディオクマが指差すので、全力で頷く。するとディオクマは口元を押さえ、くすくすと笑う。


「馬鹿だねー。あれはオリジナルの十二宮がピン差しって意味だよー。二枚目以降は普通のカード」

「はぁ!? おい、そりゃねぇだろうが! 完全にハッタリじゃねぇか!」

「え、なに? 勘違いしちゃったのかな。ピン差しだって……それはごめんねー♪」

「「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

「……たたき伏せてやりたいです」


シオンですらこめかみを引くつかせてるけど、奴は気にせずホーク・ブレイカー装備のレオに手をかける。


「じゃあ……ブレイヴアタック!」


カードが横に倒されると、レオが疾駆。こちらに翡翠色の眼光を突きつける。……良かったよ、二体目のホーク・ブレイカーとかなくて。


「相手スピリットがアタックしたので……バースト発動だ!」

「なぬ!」


浮かび上がった赤いバーストをキャッチすると、奴がまた鼻で笑ってくる。


「でもアシュライガーじゃあこれは止められないよ!」

「アタックしてきたスピリットが、BP12000以上の場合……そのスピリットを破壊する!」

「へ?」


カードから爆煙が放たれ、それがあのドラゴンの形を取る。ディオクマはカードを見て、信じられない様子で目を見開く。


「ば、馬鹿な……! どうしてお前がそのカードをー!」


言っている間にストライクヴルム・レオは爆炎に飲み込まれ、そのまま吹き飛ばされる。

ディオクマの脇を突き抜け、ボードを煽って揺らす。ディオクマが慌ててバランスを取っている間に、レオは壁に叩きつけられた。

そして爆散。無限アタックの一角があっさり崩れ去り、フィールドが赤光で照らされる。


「レオー! ……あ、ホーク・ブレイカーを分離させるぞ! これで重装甲:赤が発動だー!」


爆炎からホーク・ブレイカーが飛び出し、息も絶え絶えにこちらへ突撃していく。

ディオクマは頭上を通り過ぎていく、ホーク・ブレイカーを苦々しげに見上げた。


「そう言えばアタック時、ブレイヴスピリットがバウンスされたり破壊されたら……アタック継続なんだっけ?」

「そうそう、よく知ってる……げ!」

「じゃあ効果発動後、このスピリットを召喚する。――燃えろ激突魂!」


カードに赤い炎が宿り、天に暗雲が立ち込める。僕は反時計回りに回転し、それを頭上へと掲げる。


「今、赤き伝説を超える時! 太陽よりも眩く、雷よりも鋭く」


カードの絵柄を改めてディオクマへ見せた途端、暗雲を斬り裂き雷光が迸る。

それがカードへと直撃し、炎と雷撃が交じり合い極光へと変化。僕はカードを左へと振りかぶり。


「天を切り裂く導となれ!」


プレイ板へと投げつける。カードがすっとプレイ板に置かれた瞬間、僕の背後から炎と雷が交じり合った爆発が起こる。

その中から赤と黄土色の肌と翡翠色の複眼、ふとましい身体に三本の爪……そして大きく広い翼を持つドラゴンが出現。


「激突の覇王ジーク・バシンドラゴン、レベル3で焔来(えんらい)! 維持コアはマ・グーから確保!」


ドラゴンは背後で雄たけびをあげてから、翼を羽ばたかせ僕の頭上を飛び越す。

コア五個がマ・グーからジーク・バシンドラゴンへ移動し、バシンドラゴンはフィールドに着地する。


「わー、きたきたっ! ジーク・バシンドラゴン、よろしくー!」

「……おい、ヤスフミ!」


すると僕のアーマーも炎に包まれる。炎の中で赤いアーマーは変化。

特徴的なのはV字型を描く、鋭い肩装甲。全体的に丸みを帯びた形状となる。

しかも色も金色を基調としたものになる。これはアニメ二期後半で、馬神弾が装着していたアーマー。


ジーク・バシンドラゴンを召喚すると、こうなるみたい。……まぁやっと召喚できたけどね!


「馬神弾――激突魂を体現しているのですね」

「みたいだね。……ジーク・バシンドラゴンのレベル1・2・3効果発動。
自分の赤のスピリット全てに、激突を与える。そして」


みんなが雄たけびに応える中、こちらへ迫ってきたホーク・ブレイカーを指さす。


「ジーク・バシンドラゴン、たたき落とせ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


激突の覇王 ジーク・バシンドラゴン

スピリット

7(3)/赤/覇王・古竜

<1>Lv1 6000 <3>Lv2 8000 <5>Lv3 11000

【バースト:相手のスピリットのアタック時】
アタックしてくる相手のスピリットがBP12000以上ならば
そのスピリットを破壊する。その後このカードを召喚する。

Lv1・Lv2・Lv3【激突】『このスピリットのアタック時』
相手は可能ならば必ずブロックする。

Lv1・Lv2・Lv3
自分の赤のスピリットすべてに【激突】を与える。

Lv3『お互いのアタックステップ』
【激突】を持つ自分のスピリットが破壊されたとき、
自分のライフ/リザーブのコア1個をボイドに置くことで、
回復状態で自分のフィールドに戻る。

シンボル:赤

フレーバーテキスト:
異界を救いし覇王の一人、赤の戦士


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ジーク・バシンドラゴンは吠えながら首を後ろへ逸らし、そのまま前へ突き出しブレス。

渦巻く炎でホーク・ブレイカーを焼き払い、爆散させる。……これで重装甲:赤もなしだ。


「ターン、エンド……! おいお前! それは一体どこで手に入れ」


ディオクマの言葉を、ジーク・バシンドラゴンは怒りの咆哮で遮る。余りに大きい叫びのため、ディオクマは両手で耳を押さえた。


「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! そうかそうか! 生みの親より今のご主人様が大事か! よーく分かったぞ!」

「……生みの親ってどういう事よ」

「そのカードはあの黒子が作ったものだ! それもかなり特別仕様!」

「はい!?」


ジーク・バシンドラゴンを見上げると、僕の聞きたい事が分かるように頷いてきた。


「まさか君、普通にバトスピタワーから引いたんじゃ」

「そうだけど」

「んな馬鹿な! ていうか、ボクの運命力に押されて、ドローできるはずが……!」

「知らないねぇ、そんな事。それより……ねぇねぇ、どんな気持ち?」


ボードで近づき、首を傾げながら笑ってみる。するとクマはなぜかビクリと震え、後ずさる。

でも逃がす事なく周囲をぐるぐる回りながら、このクマをあざ笑う。


「逆に現実教えられて、どんな気持ち? ねぇねぇ、今どんな気持ち?」

「ぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐ……!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN10→11

恭文

ライフ×3 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×0 コア総数×11

手札×0 デッキ×30

スピリット:アサシン・ドラゴン レベル1・BP7000(ペンドラゴンとブレイヴ コア×1)

マ・グー レベル3・BP13000(メガバイソンとブレイヴ コア×5)

ジーク・バシンドラゴン レベル3・BP11000(コア×5)
                 ↓
                 ↓
TURN11メインステップ開始時

ライフ×3 リザーブ×1 トラッシュ(コア)×0 コア総数×12

手札×1 デッキ×29

スピリット:アサシン・ドラゴン レベル1・BP7000(ペンドラゴンとブレイヴ コア×1)

マ・グー レベル3・BP13000(メガバイソンとブレイヴ コア×5)

ジーク・バシンドラゴン レベル3・BP11000(コア×5)



ディオクマ

ライフ×2 リザーブ×5 トラッシュ(コア)×6 コア総数×17

手札×1 デッキ×22

スピリット:イグア・バギー レベル2・BP3000(コア×2)

ストライクヴルム・レオ レベル3・BP15000(アーケランサーとブレイヴ コア×4)

ネクサス:要塞都市ナウマンシティー レベル1(コア×0)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「メインステップ! メガバイソンをマ・グーから外し」


メガバイソンのカードを持ち上げると、機械的な六枚羽根が離脱。マ・グーは一瞬で元の姿を取り戻す。


「ジーク・バシンドラゴンにメガバイソンをブレイヴ!」


メガバイソンはそのままジーク・バシンドラゴンへ突撃。白い光となり、赤き竜へ焼結する。

ジーク・バシンドラゴンの各所に白い鋭角的な装甲が取り付けられ、その姿はとあるスピリットそっくりとなった。


「再び咆えろ――ブレイヴスピリット! 更にマジック、三札之術をコスト2で発動!
コストはマ・グーから確保! マ・グーはレベル2にダウン!」

「んな! この状況でドローマジックかー!」

「デッキから二枚ドローし、トップをオープン!」


手札を二枚へ増やし、デッキトップをオープン。出てきたカードは……やっぱりこのタイミングかー。


「龍の覇王、ジーク・ヤマト・フリード! 赤のスピリットカードなので、手札へ加える! バーストをセット!」


さっき引いたばっかのジーク・ヤマト・フリードをセットし……さぁ、反撃の時間だ。


「ペンドラゴンをアサシン・ドラゴンから外し、マ・グーに再ブレイヴ!」


紫のシミターがアサシン・ドラゴンの手元から離れ、回転しながら大きさを増す。

マ・グーは左右の空いている腕でキャッチし、体から赤紫の炎を吐き出した。


「命を司れ――ブレイヴスピリット! アサシン・ドラゴンをレベル2へ上げ」


このターンで追加され、リザーブに置きっぱだったコア一個が移動。アサシン・ドラゴン上に載せられる。


「アタックステップ! トラッシュのコア二個をマ・グー上へ!」


コアがフィールドへ出現し、マ・グーはそれを胸元に吸収。同時にボード上のコアも移動する。

その途端に赤い炎が二体の足元を包み、その巨大な体に力を与える。


「各種効果により、マ・グーはBP13000のダブルシンボル!
ジーク・バシンドラゴンはBP17000のトリプルシンボルとなる!」

「はわわわわわ……!」

「ジーク・バシンドラゴンでアタック!」


慌てた様子のディオクマは、そこで口元をつり上げる。


「……なーんちゃってー! フラッシュタイミング、クレッセント・ハウリングをコスト2で発動!」


残った手札に描かれていたのは、ストライクヴルム・レオが吠える様子。

イラスト通りにストライクヴルム・レオが雄たけび――白い波動が空間いっぱいに突き抜ける。


「ジーク・バシンドラゴン……は無理だから、マ・グーを手札へ!」

「……ペンドラゴンも手札へ戻す」

「いいよいいよー! もうどんどんやっちゃおー!」


マ・グーがペンドラゴンごと場に戻され、載せられていたコア五個もリザーブへ。でもまだ終わらない。


「そして自分のフィールドに、名称『ストライク』とついたスピリットがいる場合、もう一体手札へ戻せる!
ストライクヴルム・レオがいるから、条件クリア! アサシン・ドラゴンも手札へ!」


心もとなかった手札が一気に五枚となった。いやー、バウンスでも安心感があるねー。

アサシン・ドラゴンに載せられていたコア二個もリザーブへ。合計七個……計算通り。

これでジーク・バシンドラゴンは、BP14000のダブルシンボルにパワーダウンする。


レオには勝てないけど、それでいいのよ。……さっき三札之術できた、赤色のカードを取り出す。


「お前の手札はもうない。じゃあ、地獄を楽しんでもらおうか。――フラッシュタイミング!」


すると空に暗雲が生まれ、炎の矢が降り注ぐ。そう、今使ったのはあのカードです。


「サジッタフレイムをコスト4で発動! イグア・バギーを破壊する!」

「げ……!」


イグア・バギーは矢雨の中、右往左往するも結局撃ち抜かれ爆散。

これで残りはBP15000のストライクヴルム・レオのみ。

ディオクマは僕がなにを狙っていたか、ようやく知ったらしく慌て始める。


「そして激突! ブロックしてもらうよ!」

「ス……ストライクヴルム・レオでブロック!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ストライクのバウンスで場が奇麗になり、反撃のサジッタフレイム……それでもイグア・バギーを倒しただけ。

クマの手札はなくなったと言っても、相手はあのストライクヴルム・レオだ。

しかも運命力ってのもある。これは……どうにもならない絶望感が、オレ達を襲っていた。


「……決まった、かな」

「次のターン、ジーク・ヤマト・フリードがセットしてあるとはいえ厳しいだろう。それでおめおめとアタックするはずが」

「いや、違う」


ラウラやシャルの考えを否定したのは、他ならぬ千冬姉だった。……てーかオレも気づいてた。

八神の奴、笑ってるんだよ。というか考えてほしい。どうして今サジッタを使った?

オレにはまるで、ジーク・バシンドラゴンを撃破してほしいように見えたんだ。それも確実に。


「えぇ、その通りですわ! 恭文さん、いってください!」

「え……セッシー、どうしたのー!」

『ここでジーク・バシンドラゴン、レベル3効果発動! お互いのアタックステップ時』


八神が右手を開いたまま掲げると、そこに虹色のコアが生まれる。あれ、障壁にもなるライフじゃないか。


『激突を持つスピリットが破壊された時、ライフかリザーブのコア一個をボイドに置く事で、回復状態で自分のフィールドに戻す!』

「な……太陽石の神殿を内蔵してんのかよ!」

「イチカ、その太陽石って」

「そういうネクサスがあるんだよ! つー事は」

『僕はライフのコア一個をボイドへ置き』


八神は宣言通り、自分のライフを握り潰す。コアの破片が舞い散る中、八神のアーマーに電撃が走る。

でもその輝きはフィールドで渦を巻き、ジーク・バシンドラゴンが中から再び現れた。


『ジーク・バシンドラゴンをフィールドへ戻す!』

「なんと……!」

「わわわわわわー! 復活したー! 凄いよ凄いよー!」

「ねぇ一夏、これって馬神弾がアニメでやってたコンボじゃない!? ほら、最終回!」

「それだよ! 流星の激突コンボ、バージョン2だ!」


なるほど、このためのサジッタフレイムか。イグア・バギーを破壊し、ストライクヴルム・レオとバトルしたかったんだな。

ストライクヴルム・レオの方がBPは上だから、ブロックさせて疲労。

手札はもうないから、マジック使用でBPを下げられる心配もない。確実に破壊される。


ここはあれだよ。ストライクヴルム・レオのBPを下げれば、バシンドラゴンが勝つだろ? そういう話だ。

その場合、当然効果は発揮しない。回復状態で復活するから、連続攻撃できるしなぁ。

クマはイグア・バギーでガードするつもりだったんだろうが、油断したな。


しかもこの効果は破壊時処理タイミングで発動してるだろうから、当然ブレイヴも外れていない。

あとはこのままアタックすれば……だがオレは忘れていた。ライフが減ったという事は、もう一手打ち出せるのに。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


太陽石の神殿

ネクサス

5(3)/赤

<0>Lv1 <1>Lv2

Lv1・Lv2『自分のアタックステップ』
【激突】を持つ自分のスピリット1体が自分のターンの最初のアタックをし、
BPを比べ相手のスピリットだけを破壊したとき、BP合計(破壊したスピリットのBP)まで、
相手のスピリットを好きなだけ破壊できる。

Lv2『自分のアタックステップ』
【激突】を持つ自分のスピリットが破壊されたとき、自分のライフのコア1個を
ボイドに置くことで、回復状態で自分のフィールドに戻る。

シンボル:赤

イラスト:船弥さ吉

フレーバーテキスト:
竜人たちが、星竜を崇めて建てた神殿。想像の3倍はある。
―放浪者ロロ「異界見聞録」名所千選233―


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『そしてバースト発動!』

「ここでバースト発動!? ……あ、そうか!」

「えぇ! 恭文さんがライフのコアを置いたのは、このためです! 発動するバーストは当然」


浮かび上がったバーストの色は赤。そこに描かれているのは、赤い鎧を装備した古竜。

チャンピオンもキースピリットにしているそれが、赤光を放つ。八神はそれをキャッチし、ディオクマへかざした。


『龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード!』

「えー! 嘘ー! 自分のターンで発動って……事はー!」

「ほんね、どうなるのー!?」

『ライフ減少後、自分のライフが3以下の時、BP15000以下の相手スピリット一体を破壊する! レオ、消し飛べ』


その瞬間、ストライクヴルム・レオの足元から爆炎が生まれる。炎の中でレオがのたうち回るが、すぐに爆発。

ディオクマはぼう然とし、ブレイヴを残す事もせずトラッシュへ送った。これで完全に、場はスッキリだ。


「これで勝負ついたなぁ。しっかし……恭文、また強くなっとるやろ。地区予選の時とかと比べたら別人やで」

「それは当然よ。……教官、アマテラスを見てからずっと勝とうとあれこれ考えてたんだもの」

「納得したわー」

「奴は、前に進もうとしているのだな。よし……よし!」


箒がガッツポーズで気合いを入れている。あぁ、やっぱりなんだ。箒、頑張れよ。オレは応援してるからな……ぐす。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「効果発揮後、このスピリットカードを召喚する! ――――たぎれ、太陽の覇竜!」


手にしたバーストカード――ジーク・ヤマト・フリードを前にかざしながら叫ぶ。

その瞬間僕の場に、赤く燃えたぎる太陽が生まれた。周囲がその炎で照らされ、赤色に染まる。

同時にジーク・ヤマト・フリードのカードに炎が宿り、手の中で燃えたぎる。


「駆けろ、神速の焔!」


腕を左に振りかぶり、すぐ右薙に振るってカードを投てき。すると太陽が震えながら徐々に凝縮していく。

ううん、これは震えているんじゃない。言うなら脈打つ生命――鼓動だ。太陽は今、その鼓動を刻み始めている。


「輝き繋ぎ、勝利を掴む導となれ! レベル2・バースト召喚!」


太陽を中から打ち破るように赤き鱗の鎧と、灰色の体皮を持つ巨大な龍が現れた。

それはフィールドに降り立ち、自分が飛び出た事で弾けた太陽のかけらを、その背に背負う。

かけら――炎は翼となり、身体に装着している水色のまが玉が一際強く輝く。


「爆現せよ――龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード!」


右手を上に伸ばしてから右薙に振るうと、手の中に炎が生まる。それは一瞬で両刃の剣となった。


「ば、馬鹿なぁ……! なんだ、この運命力はぁ」

「運命力ぅ? んなもんないっつったのはお前だろうが。これは」


デッキに右手を当て、二体のドラゴンと一緒に吠える。


「僕とみんなの力だ!」

「……ならそんな君に、ディオクマから質問だ。なぜそうまでして、神と戦おうとする。
この黒子は昔ね、君と同じように神へ踏み込んだんだよ」

「それって」

「君達みたいに世界の現状を憂いて、立ち上がったとかじゃない。
好奇心で神の領域に踏み込んだ。結果……人と顔を合わせられなくなった。二度とね」


クマは呆れた様子でため息を吐き、お手上げポーズ。……なるほど、呪いの類か。それで黒子と。


「アマテラスの力はよく知ってるでしょ。IS学園や黒井社長達みたいになりたくないなら、とっとと逃げればいい」

「それは無理だ。奴には数えなきゃいけない罪がある」

「相手は神だよ? そんなにIS学園の事が腹立ったのかな。それとも君が守った世界を、好き勝手されたくないとか」

「それもある。……一つ、確かにIS学園の事がある。二つ、守った世界だからってのもある。
でもまだある。三つ……黒井社長に手を伸ばし、引き上げようとしていた奴らを泣かせた」


言うまでもないけど、小鳥さんとJupiterの三人だよ。黒井社長、完全に廃人だしね。

昔のようにと望んでいた小鳥さんも、目を覚まそうと動きたかったJupiterも踏みつけた。

Jupiter達はもう保護が解除されているけど、黒井社長と会う事もできない。かなり悶々としてたよ。


それでも再デビューに向けて動いて……気になってないはず、ないのにさ。あの姿で、余計いら立ちが募る。


「四つ、僕達で解決すべき罪を、勝手に裁いた」

「……如月さんのお父さんですね」

「あぁ、そうだよな。あれも許せねぇ」


あれだって千早や、千早のお母さんが解決すべき問題だった。向き合って、その上でどうするか決めてさ。

例えそれが拒絶だったとしてもだ。なのに横入りして、その機会を奪い去った。

いくら心が離れていると言っても、家族だった存在だ。胸を痛めないほど、揃って冷たくない。


「五つ、そうして街を――世界を泣かせた。僕はそれがたまらなく許せない。
しかも表に出ようとせず、主へおんぶに抱っこ。幾らなんでも傲慢すぎる。
だから突きつけ、数え、そこから今を変える。もうとっくにそう決めてる」

「なるほど、それが君の正義かい。でも……それは命と人生を賭けても、貫くべき事かい?
君は負けるかもしれない。負けて黒子と同じように、いろんなものを台なしにするかもしれない」

「そんな事、考えた事ないね」

「……は?」

「一度も考えた事はない! さぁ行くよ、最後のブレイヴアタック!」


カードを横に倒すと、ジーク・バシンドラゴンは翼を羽ばたかせ飛しょう。

空高く上昇してから、ディオクマを睨みつける。ディオクマはその様を見上げながら、愉快そうに笑う。


「いやー、分かった! ようやく分かったよ! このディオクマ、一生の不覚だ!
……なぜ君をジーク・バシンドラゴンが選んだのか。なぜボクが負けるのか。ようやく分かった」

「ほう」

「君は勝利に迷わない。まるでそのカードのモチーフとなっている、馬神弾のように。
……だから絶妙なタイミングでカードが引ける。運命力ではなく、その意志で。認めよう、君なら神に」

「そう、じゃあ地獄へ落ちろ」


びしっとディオクマを指差すと、ジーク・バシンドラゴンが下降。一度錐揉み回転すると、体が炎に包まれる。


「……え? いや、今いい話」

「人に散々言ってくれたんだ。命くらいは……覚悟してるんだろうねぇ」

「ちょ、怖! その顔マジで怖いから! ライフで受けるー!」


宣言により、ライフの障壁が……あれ、出てこない。ディオクマが周囲を見て、ムンクの叫びみたいなポーズを取る。


「あれ、ライフが現出しない!? まさか生身で……ストップ! 死ぬ! それは死ぬ!」

「戻るステップはない。……大丈夫、ジャッジメントは僕が預かる」

「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


なにやらトラブルみたいだけど、戻るステップがない以上どうしようもない。

そしてディオクマはジーク・バシンドラゴンの激突を、その身に受けて燃え尽きた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なぜかショウタロスがドン引きなのを気にしつつも、店内へ戻ってきた。するとズタボロな黒子は。


「アンタ、なんつうかよく生きてたな」

「おかげ様で……本当にすみませんっしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


僕に土下座。なので後頭部を踏み抜き、床に顔を埋めてもらう。


「いやいや、そんな頭下げなくていいのよ? え、ジャッジメントくれるんだ。それは嬉しいよ、ありがとう」

「八神、やめてやれ! てーかそれは下げてるんじゃなくて、踏み潰してるんだろうが!」

「そう、じゃあ死ね」

「せめて会話をしてくれよ! オレのツッコミにその結論は絶対ないからな!?」


なんかみんなが必死に止めてくるので、足を外す。すると黒子はガタガタ震えながら、土下座し直した。


「で、できれば命だけは助けてくれるとー!」

「いや、これはアマテラスの仕業なんだ。右足が勝手に動いて……怖いね、アマテラス。じゃあ天罰だ」

「あれ、私やっぱり死ぬ!? あぁ、長いようで短い生涯だったー!」

「恭文さん、冷静にー! 地尾さんになにかあっては、ジャッジメントも使えませんからー!」


セシリアに抱きつかれながらストップをかけられ、僕は拍手を打つ。そっかーそっかー、それは確かに。

それまでは生きていてもらわないと困るので、納得し笑顔。


「そっかー。僕のものだしね、ジャッジメント。あははは、駄目だなぁセシリアは」

「どうしてわたくしが言った事になってますのー! もうー!」

「大丈夫だよ、セシリア。僕は冷静だから」

「嘘ですわよね!」

「ほんとよ! 教官、ゴキブリ以下と言われてキレてるでしょ! ゴキブリ以下の扱いで仕返ししてるでしょ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


よし、鈴達が八神を止めてくれるから、これでなんとかなる。しかし……マジで二重人格か?

あんな煽りをかますような人には見えないからなぁ。八神を試してたって感じもすっ飛ばしてたし、正直疑問だ。


「あれですよ、地尾さん」

「は、はい」

「もうジャッジメントは諦めましょう、じゃないと八神は……マジでやります」

「ですよねー!」

「更に言えば、我々は止められんぞ。……貴様がクマになって、あそこまでディスらなければまだ納得しただろうが」

「すんませんっしたー!」


ラウラが呆れ気味に、笑顔の八神を見る。……ほんと、八神を怒らせるのだけはやめとこう。マジで生き地獄にたたき落とされる。


「でもぼく、少し気になったんですけど……どうして最後、ヤスフミはあれだけの反撃を?
地尾さんというかクマの手札、クレッセントハウリングだったじゃないですか。メガバイソンがなくてもアウトですし」

「……あくまでも予測の段階になるんですけど」

「はい」

「八神さんは補正力を跳ね返しています。それって悪い影響も同じではないかと……今気づきました。
神のカードを前にしても、常にフラットな引きが可能になっているのかもしれません」


あ、そう言えばクマが前話ラストで言ってたな。補正力は相手にも影響を出すってさ。

そうだそうだ、ちょっと考えれば分かる事だった。八神の運が底辺なら、それ以上は悪くなりようがないって事だしさ。

ただ地尾さんも確証がないらしく、かなり困惑した表情だった。こんなのは想定外にもほどがあるんだろう。


「地尾氏、私は専門家ではないから聞くのだが……八神のそれはあり得るのか」

「普通あり得ませんよ。人間の運勢には、バイオリズムがありますから。
八神さんの場合、最低値で常に固定……運の悪い事ばかりでしょ、彼」

「……否定はできんな。実際私の目から見ても八神は、かなり運がない。だがそれは幸運でもあるだろう。
少なくとも我々の理解が及ばない、超能力バトルに持ち込まれる心配はない」

「あくまでも『そうかも』って話ですから、確定されるとさすがに困りますけど」


それでも油断は禁物か。神の領域へ踏み込むってのは、やっぱり……オレも考えが甘かったみたいだ。こりゃ腹をくくり直さないと。


「ヤスフミー、そろそろ大丈夫かなー」


シャルが恐る恐る八神に声をかける。かなりおっかなびっくりなのは許してほしい。

まぁこれも時間が経てば治るだろう。……ただ八神は、みんなの引き様ガン無視でいい笑顔だった。


「なにが……あぁ、ジャッジメントのためにソイツは、生きていてもらわなきゃいけないって辺り? 大丈夫大丈夫」

「その発言は全然大丈夫じゃないよ! そうじゃなくて……実際問題、どうやって月へ行くのかな」

「あ……そうだよ! その問題があったじゃないか! 千冬姉!」


その瞬間、オレの頭頂部に出席簿が打ち込まれる。……痛い。てーか千冬姉、なぜここに出席簿を。


「織斑先生だ、馬鹿者。……とにかくデュノアの言う事も一理ある。現行のISは、あくまでも『それの視野に入っている』だけ。
実際に行って活動できるかどうかはまた違ってくるぞ。宇宙に出るなら、酸素や宇宙線の問題もある」

「当然ですが、政府にバレないよう動かなければ……ですがわたくし達だけでは」

「それなら心配いらないよ」

≪あなた、まさかクロノさん達に頼るつもりじゃ≫

「それはない」


クロノさん……あー、フェイトさんのお兄さん的な人か。以前紹介してもらったよ。

ようは時空管理局に連絡して、それでって話みたいだな。だが八神にはそのつもりがないみたいだ。

恐らくだがアマテラスの事を話して、あれこれ問題になるのを恐れてるんだろう。


そういう事情を聞いたら、ロストロギア……だっけか。オーバーテクノロジーの遺産。

それ扱いで、アマテラス回収に動くかもしれないしなぁ。……改めて八神に不安を覚えた。

本人じゃなくて、心情というべきか。オレ達より付き合いの長い人達にも、隠し事してる状況だしさ。


下手したら、コイツ一人だけで……そんな中オレ達には話してくれたんだよな。


「ラウラ、すぐシュヴァルツェ・ハーゼに連絡取って。僕も月村重工に話を通す」

「月村重工……なるほど、ドイツか。確か現在の社長がドイツ在住だったな」

「そうだよ。残念ながら僕だけの力じゃ無理。でもみんなが協力してくれるなら」

「分かった、すぐ手配しよう」

「ありがと」


なるほど、身内で協力してくれそうな人達を……そこには妙な安心を覚えた。

さっき一人で突っ走らないかとか、考えたからさ。ようはそういう、視野が狭まっている?

ちゃんと他の人を頼る事も考えられるなら、とりあえずはと感じたんだ。


……そういうのは箒の時や、学園祭でのゴタゴタで十分だからな。

もちろんオレも、もうあんな事を仲間にさせるつもりはないが。自然と頬が緩まっていると、千冬姉に肩をぽんと叩かれた。


「えー! ドイツに行って、宇宙へ行くのー!?」

「お前達……まぁ議論するまでもないか」


それでもダガーレオモン的には呆れているらしく、首と尻尾を同時に振る。

八神とラウラはそれに構わず、早速連絡&事情説明中ではあるが。


「所有者をどうするかはともかくとして、まずはジャッジメントを復活させないとだしね。
でもアンタ、どうするの? ジャッジメントの能力を最大限生かすとなると、やっぱ教官は」

「そう、なんですよね。……ただ国内だけで言えば、他の目星もつけてるんです」

「マジか! ちなみにそれって」

「五反田弾さんです」


その名前が出た時、感じたものは驚きではなく……納得する感情だった。それがどうにも嫌で、右手で頭を抱える。


「……あぁ、どうしよう。オレ納得しちまった」

「ぼくも。確かに五反田君の実力だったら……ほら、彼もちょうど赤デッキだし。でも出場枠が」

「そこはまぁ、なんとか。五反田さんの実力なら、ハイランカーリーグも勝ち抜けるでしょうから」

「……なぁ、ちょっと待ってくれ。弾ならいけると思うが、チャンピオンの薬師寺アラタさんは」

「チャンピオンは会長自らがNG出したんですよ。あの人は神のカードを倒す事に執着しすぎて、勝機を逃しそうだと」


おいおい、現時点で世界最強のカードバトラーが駄目って。というか、それだと会長のお伺いも立てて決定か?

だが……さっきのバトルで聞いた話が、そこで一気にリピート。自然と口元を引き締める。


「もちろん五反田さんはみなさんのご友人ですし、事情が事情です。どうしてもと言うのでしたら」

「いや、オレは構わない」

「はぁ!? おい一夏、いいのか!」


箒が慌てて止めてくるので、分かっていると右手で制する。……もちろん分かっている。

実際にバトルするのだって、それなりの危険が伴うだろう。なので。


「ただし条件がある」

「……お聞きしましょう」

「弾へは全てを話してくれ。その時は、オレも同席する。
そして弾が駄目だと言ったら、無理強いをせず、すっぱり諦める事。
事情を隠して利用しようとするなら、オレはアンタ達を絶対許さない」

「もちろんです。今この場で約束しましょう」


黒子は表情こそ見えないが、固い声を放ちオレに向き合ってくれる。それも背筋をピンと伸ばし、真剣な面持ちでだ。


「会長からもそこは厳命されています。我々が欲しいのは同志であって、利用できる駒ではない」

「信じていいんだな、その言葉」

「もし私が裏切ったと思ったら、遠慮なく背中から撃ってください」


つまり命を賭ける――その言葉を信じ、オレは右手を差し出す。地尾さんは両手で強く握り返してくれた。

まぁ、その前に八神をどうにかする方が先だよ。アイツ、オレ達の事めちゃくちゃ威圧してくるんだよ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


交渉の結果、忍さんとシュヴァルツェ・ハーゼは協力してくれる事になった。もちろん政府には内緒で。

一応バレてもいいように、『次世代IS開発に向けた、実地試験』という名目を立てた。

ほら、ISは宇宙活動用にシフトするって話があったでしょ。あれを利用して、月旅行するのよ。


実際に宇宙へ出て、様々な実験を行う。スペースシャトルに乗った宇宙飛行士の如く。これで理由付けはできる。

それとセシリアやリンが、『ジャッジメントは諦めよう』と凄い説得してくる。どうすればいいのだろうか。

もう僕の心はジャッジメントをキーとした、第二デッキ構築に向けて動いているのに。


効果がちらっと見えたから、あれをあれしてあれで……楽しみだなー。……そうそう、それともうひとつ。

ジーク・バシンドラゴンについて聞いてみたところ、どうもあのカードは特殊なものらしい。

いわゆる人工的な命というか、精霊に近い力が込められているとか。ただ現段階ではちゃんと目覚めていない。


あくまでも自分の主を選ぶのみ。今日やたらと自己主張してたっぽいのは、エクストリーム・ゾーンの影響があったみたい。

どうしてそんなのを作ったのかも聞いた。ただ非難等はなかったけど。ほら、僕達も同じでしょ。

ISのコアにも人工人格があるし、アルト達だってAIだから。それと似た形なのは理解できた。


そしてジーク・バシンドラゴンは補正力云々の話が絡まないので、問題なく使えるみたい。

でも僕、そこまでなんだ。呪いのビデオやら見た時、亡霊が苦しみながら消滅したのは……そういう理由からかぁ。

七日後に死ぬとか言われてたのに、ピンピンしてるのもそのせいなんだ。あれから四年以上経つし。


唯世達も元気いっぱいだし。
あ、やばい。涙出てきたかも。タイプライターから手を離し、さっと涙を拭う。

もう夜になって……自宅へ戻った僕は、久々に思える報告書作成。それもそろそろ終わりだけど。

勉強机に座りながら伸びをし、ゴロゴロしてるヒメラモン達へ振り返る。


「ねぇみんな、僕は運がいいよね」

「……恭文、許してくれ。無力なオレを、許してくれ」

「人間、もう諦めろ」

「そもそもお前の人生に置いて、運のいい時があったのか?」

「ちくしょうめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


無慈悲だった。みんな揃って無慈悲だった。机に突っ伏してわんわん泣いてしまう。ちくしょお……ちくしょお。

人生の無慈悲に絶望しかけていると、通信がかかってくる。モニターを展開すると、深刻そうな顔をしたクロノさんが映し出される。


「はい」

『恭文、夜遅くすまないな。実はお前に一つ聞きたい事がある』

「なんですか。IS学園炎上のデータなら、もう送ったでしょ。原因も一切不明で」

『そうか。では……神のカードについても知らないと』


通信をたたき切り、フェイト達を集める。そして尋問開始――誰だよ、バラしてくれたのは!

話すと絶対調査やなんやと面倒な事になって、アマテラスを刺激するから黙っていたかったのに!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


バラした犯人はすぐ判明しました。はい、シャマルさんです。ハリセンで木魚の如く、シャマルさんの頭を叩きまくる。

シャマルさんが涙目の中また通信がかかってきたので、リビングで応対。……しかもリンディさんも一緒だよ。

クロノさんはどうしてか、僕の顔を見て引きつった表情。うーん、人生って不思議だねー。


ちなみに本音とネーモンは……実は魔法の事、もうバラしてます。同居生活を送るのに、隠すなんて不可能だもの。


「シャマルさん、僕は言いましたよね。話すなと。なのになに勝手にバラしてるんですか……!」

「ごめんなさい……!」

「じゃあ今日はす巻きですね。……あー、なんか雨が降るらしいけど頑張ってください。
あとコミュニケーションと一緒にお風呂も……そうだなぁ、半年禁止ですね」

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


絶望して突っ伏そうとしたので、顔面を叩いて起きてもらう。それからまた木魚の如く叩きまくる。


「二人とも、事情は分かってるんですよね」

『えぇ。シャマルから聞いて……でもその、本当なの? 超古代文明の話もそうだけど』

「本当ですよ。そしてアマテラスはバトルで倒すしか、対処方法がない」

『そこも聞いているわ。神様だと調子づいているけど、バトルで地につければ……よね。確証は』

「一つ、国際バトスピ連盟も絶晶神の危険性を知っていました。それで僕達と同じ事をやろうとしていた。
そして二つ――今日実際に、負けた事のある真なる神のカードを見ました。
絶晶神じゃあないんですけど、ただ一度負けただけでそのカードは、今にも死にそうなくらい弱ってた」

『とにかく絶晶神と呼ばれる類にとって、バトルでの敗北は死刑宣告に等しいと』


リンディさんも信じられない様子ではあるけど、現実を受け入れようとしてくれている。

問題はクロノさんだよ。艦長姿なクロノさんは苦い顔で僕達を見ていた。


『恭文、フェイト達もだが……なぜ事実が判明した時、こちらに相談しなかった』

「聞いてるでしょ? 絶晶神を刺激したくないんですよ。どうせ回収とかそういう話になるでしょ」

『当然だ。僕は絶晶神――アマテラスをロストロギアとして、なんとか回収しようと思う』

「やめてもらえます? 今アマテラスを刺激したら、更に犠牲者が増える。
アンタ、エイミィさんと結婚直前なのに死にたいんですか」

『機動課にも協力を要請する。そもそもお前の計画は不確実すぎるだろう。
バトルで勝っておとなしくするなど前代未聞だ。恭文、これはクラウディア艦長としての命令だ。
こちらへ協力しろ。棚志テガマルと交渉し、穏便な形でアマテラスを回収するんだ』

「それができるならとっくにやってますよ。てーか目的はどうするんですか」


クロノさんもその辺りの答えを持ちあわせてないから、更に苦々しい顔をする。

眉間にシワ寄っちゃって……白髪増えると思う。まずアマテラスは世界に一枚しかない、歴史的にも貴重な一品。

絶晶神云々を抜いても、レア度高いのよ。それをどうやって棚志テガマルから預かるの?


当然強奪なんて手は使えない。そんな真似をすれば、アマテラスの粛清対象となって地獄を見る。

もちろん身分を偽って預かるのもマズい。その辺りはクロノさん、分かってないかもだけど。


『方法ならある。歴史的に貴重なものだ、それを預かり保管するという名目で近づく。
こちらの組織について隠しつつ近づけば、問題はあるまい。あとは根気だ』

「クロノ、それは無理だよ」

『フェイト、君まで反対なのか』

「これに限ってはね。……確かにベターだよ。確かなのはアマテラスの力が、途方もない事。
魔法やデジモン、もちろんキャラなりですら止められない。しかも自分の意志を持って行動している。
そしてアマテラスの所持者は、カードからあらゆるものを与えられる。もしその力で見抜かれたら、やっぱり粛清」

『フェイトさん、ちょっとストップ。絶晶神というのは、そこまでの事ができるの?』

「できるかも、しれません。とにかく既存の常識が全く通用しない存在ですから。
そもそもアマテラスがただのカードなら、ロストロギアとして回収する必要がない」


素晴らしいカウンターだよ。ただのカードなら放置してくれて問題ないわけだしね。クロノさんも口を閉ざすしかない。


「ていうか教官、絶晶神の事を話して預かるのも駄目よね。魔法の事とか、管理局の事とか話すのも」

「当然それもNGだ。いきなりそんな組織の事を説明されて、テガマルが信じられるかどうか。
理解したとしても、OKするとは思えない。……絶晶神の力を利用するんじゃないかとか、疑いを持つに決まってる。
更に今のテガマルが絶晶神の本質を知った時、どういう反応をするか予測できない」

『だからこそこちらへ預けてもらう。そういう方向は……無理よねー』

『リンディ提督』

『だって問題の子は、世界の現状に確かな怒りを持ってるのよ?
ひょっとすると亡国機業と同種と思われるかもしれない。
そして実際、そこは否定できない。クロノ、あなただって分かってるでしょ』


最高評議会の存在からそう言っているのは、よく分かった。リンディさんは理解を示してくれそうで一安心。


『そういう力を持っているから、自分が使いこなす。自分が抑えこむ――そう考えたらどうなるかしら。
余計意固地になって、状況が悪化するかもしれないわ。……実はね、私も考えていたの。
ロストロギアとして回収できないかと。でもこれは、ちょっと無理だと思うわ』

『それこそ無理です。その現状でIS学園や現地住民達に被害が出ているんですよ?
時空管理局として、放置はできません。なんとかして回収すべきです』

『実際に接触する、捜査員達の命をチップにして? 危険過ぎるわよ、それは』

「……なぁ、マジでバトルを通してしか、なんとかできないのか?」


アルフさん、おのれもか。なに前のめりになって迫るんですか、谷間丸見えでしょ。


「でも……無理だよなー! ごめん、アタシ分かってた!」

「あらま、素直ですね」

「いや、だってさっきもリンディさん、そういう話してたから。それ言われるとなーって。なぁなぁクロノ」

『なんだ』

「回収はアマテラスがバトルに負けて、調子を崩してからでもいいんじゃないかな。
国際バトスピ連盟ってのも動いてるなら、そこは間違いないっぽいしさ。
だからさ、こう考えようよ。バトルしてアマテラスを負かすのが、封印処理ってさ」

『いいや、ここは言う通りにしてもらう。もう一度だけ言おう。絶晶神は時空管理局で回収する』


ち、やっぱこういう話になったか。まぁ局員としては見過ごせないよねぇ。しかも……対処するのが一般人ばっか。

ロストロギア級……いや、下手するとそれ以上に危険な代物だ。関わらせたくないってのが本音なんでしょ。


「ちょっとクロ助! アンタなに言ってるの!」

「そうだよ。ご主人様達だって考えなしで黙ってたわけじゃないんだよ? 下手に話すとこうなるから」

『君達はもう局の人間じゃないだろう。口出しされる筋合いはない』


それを言われると弱いらしく、師匠役だったリーゼさん達も舌打ち。


『とにかく僕はそういう方向で動けるよう、調整してみる。一応でも準備は必要だろう』

「クロ助? それって」

『かなり状況が特殊なのは理解した。だが僕にもそれなりの立場がある。
事実を知った以上、『なにもしませんでした』では通用しない。
実際の対処はそちらに任せてもいいが、これは僕も譲れない。分かってもらえると助かる』

「分かりませんよ」


面倒なのでぶった切ると、クロノさんが頬を引きつらせた。


「ていうか準備するって事は、誰かしらに話すって事でしょ? それもやめてください。
もう一度言いますけど、下手に干渉したら被害が出るんです。まぁあれですよ、なにも見なかった事にしてください」

『では……絶晶神はどうするつもりだ』

「バトルで倒したら無害化しますし、そのままテガマルに持たせておきましょ。それが一番いい」

『……お前達は地獄へ落ちろ!』


なぜかクロノさんは涙目で、通信を切った。僕は舌打ちし、シャマルさんの顔面にもう一発打ち込む。

シャマルさんは俯いてしくしくと……泣かないでもらえます!? 泣きたいのは僕の方だよ! なにこれ!

ジャッジメントの事もそうだし、なんでこんな次々と頭の痛い事ばかり起きるのよ! 僕に過労死しろと!


「ヤスフミ、あれは……クロノも怒るよ。一応配慮してくれてたのに」

「そうだよ。それにさ、クロノなら信頼できる相手を選ぶと思うんだよ。
じゃあ問題ないんじゃ。ほら、エンブリオ探して、ゴタゴタしてた時みたいにすれば」

「選んでも無意味ですよ。正式な事件として捜査する場合、上に報告しないといけないんですから。
あとエンブリオの時とは一緒にできない。……アルフさん、アマテラスは誰にでも見えるんですよ」

「そういう事かー! ちくしょー!」


アルフさんも分かってくれたらしく、頭をバリバリかき始めた。……もちろんクロノさんには申し訳ないよ。

ある程度の前提を踏まえた上で、譲ってくれてたんだから。でもね……僕はそれが怖い。

それはさ、前提を踏まえるために話が広がるって事なのよ。それでもし、誰かが現状に不満を抱いて暴走したら?


それだけのものがあるならとか言って、点数稼ぎのためにテガマルへ手を出したら?

そうして状況が悪くなる事を考えたら、話す相手を考えちゃうのよ。実際今だってそうだし。

もちろん局に隠し通すのも無理だ。エンブリオの時はまだなんとかなった。こころのたまご自体が普通の人には見えないから。


でもアマテラスは違う。カードとして存在している以上、やっぱりロストロギアとして扱われてしまう。

そこにある以上、見える以上、誰も存在を否定できない。それがまた厄介なんだけど。


「しかも一番怖いのは他の絶晶神を、局が見つけた場合だよ。それも僕達が知らないうちに」

『他の……恭文君、どういう事! 絶晶神が他にもあると!?』

「あれ、シャマルさんから聞いてないんですか。……絶晶神は全六色に、一枚ずつあるんです。
異なる文化背景ですけど、その全てが太陽神として作られている。まぁ存在が確認されたのはアマテラスのみですけど」

『……あぁ、分かったわ。あなたがどうしてそこまで、秘密裏に片づけたかったのか。
一枚でもこれだけの大騒ぎなのに、他の絶晶神が知らないところで見つかったら』

「大問題でしょ?」

『大問題すぎよ。個人で見つけたならともかく、組織ぐるみで隠す可能性もあるし……ああもう』


こういう発言は提督がするものじゃないんだろうけどねぇ。でも現状で阿呆やらかしてるから、否定できないって感じか。

リンディさん、年齢詐称ってレベルで若々しいのに……今はシワ寄りまくっちゃってるよ。

しかもここで引っかかってくるのは、やっぱりバトルしないと止められないという点。


暴走に気づいても、ロストロギアとしての対処をしても無意味。それで時間をロスしている間に、被害は広がるよ。


『……ならこうしましょう。クロノは私で止めるわ。あなたは国際バトスピ連盟に連絡して、事情説明を』

「それでいいんですか」

『普通なら止めるわよ。でも……あなたじゃあねぇ。どうせ勝つつもりなんでしょ? 神に』


当然と言い切り、ショウタロス達と一緒にお手上げポーズ。リンディさんは僕を見て、なんでか嬉しそうに笑った。


『どこまでも進んでいく子と思ってたけど、今度は神様に喧嘩を売るなんてね。
一応お母さん代わりな私としては、鼻が高いというか呆れるというか』

「売ってきたのはアイツだ。そして僕は買って、勝つだけですよ」

『ふふ、そうね。でも状況に進展があれば、必ず教えてほしいの。
もちろんこちらも、不用意にアマテラスへ干渉しないようにするから』

「分かりました」

「でもやすみー、大丈夫なのー!? お兄さん、すっごく怒ってたけどー!」

「プランは変わらない。それに僕達が捜査妨害? そんなわけないない」


シャマルさんも反省しているようなので、顔面にハリセンを投げつけパス。痛そうなのは気にせず、軽くお手上げポーズ。


「だって僕は既に国内大会へ進出決定よ? たまたまそこを勝ち上がって、テガマルと対戦する事のなにが妨害なのか」

「……凄い言い訳だぞ、お前。いや、確かに成り立つけどさ。元のプランがアレすぎて、普通に成り立つけどさ」

「問題は……機動課の中で、何人か火だるまになる事だな」


今まで黙っていたリインフォースが、僕の腕に抱きつきながら困り顔。

交渉に出たら、その危険だってある。なのにあの馬鹿は……とりあえずシャマルさんはす巻きにしよう。


『準備するという事は、それなりに事情も話さなきゃいけないでしょうしね。
知った人間は当然ながら、今のクロノみたいな動きをするでしょうし。
そうならないよう、すぐに手を打つわ。というか、私もバトスピ覚えようかしら』

「……箒みたいな事言い出してるし。教官、フェイトさん」

「この人は昔からこうだよ」

「リンディさん、意外とノリノリな人なんだ。ね、ポコモン」

「まぁ、なぁ」


箒も実は……なんだよねー。自分も織斑一夏やみんなと一緒にって言ってたよ。紋章が必要な理由もさっぱりだしさ。

てーかタグの件もあるから、大変だろうに。未だにオファニモンから返事こないし、動けないけどさ。

タグがないと、紋章を探す事自体が無理だもの。……だからいろいろ、ジレンマ抱えてるのかな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


頭が痛い……僕はそのうち倒れるかもしれない。とにかくすぐに黒子へ連絡。もう魔法の事も面倒だからバラした。

黒子は茶化したりせず全部納得してくれて、管理局の干渉もかわせるよう手を打つと約束。

その代わりこちらも情報を……という感じかな。まぁ一応感謝しといた。クマの暴言は一生許さないけど。


クロノさんもリンディさんが止めてくれてるし、あとは……宇宙だよ、宇宙。ジャッジメントを復活させなくちゃいけない。

それじゃあ夜も深まったところで、シャマルさんにお仕置き開始だよ。

自室のベッド上でぐすぐす言っているシャマルさんは、お仕置きを受け入れると約束。


しかもガクガク震えて……感動なんですね、分かります。しょうがないので、シャマルさんをそっと抱きしめてあげる。


「ふぇ……恭文、くん?」


優しくシャマルさんの頭を撫でてから、そのまま押し倒しちゃう。うぅ……僕はやっぱり罪深いかも。


「えっと、そういうお仕置き?」

「はい。だって今日はその、シャマルさんと添い寝する日だったでしょ?」


……うちではそういうローテーションがあります。もうずっと前からの事だけど。

それでその、そういう時はリインフォースやシャマルさん達と……エ、エッチな事したり。

十五歳の誕生日にその、知佳さんとそうなってしまってから……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。


自分の罪深さを思い知って、今度教会へ行こうと思った。ていうか、めっちゃ懺悔しよう。


「す巻きは」

「いやー、最近世の中うるさいので……でもシャマルさんがやりたいなら」

「こ、こっちでお願いします! でも……いっぱい、いじめるのよね」

「そのつもりです」


とにかくシャマルさんへいっぱいお仕置き開始。いい匂いのするパジャマを、やや乱雑に脱がせていく。お仕置きだもの。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あれから三日後――僕達はドイツへ向かうため、羽田空港へきていた。織斑先生も同席なのは、まぁしょうがない。

既に搭乗手続きは済ませ、ロビーでのんびり中。え、出席日数? まぁなんとかなった。

そこはもう、水瀬家に感謝するしかない。夜遅くの集合だけど、みんなわりと元気。


わいわい言いながら、夜の空港を見ていた。いやー、これはこれでロマンチック。


「ん……このサンドイッチ、美味いな。何個でも入る」

「ねぇヘイアグモン、それは五十個以上食べてる奴のセリフじゃないよ。もう入らないのが正解だよ」


なのにヘイアグモンはお夜食食べてるよ。ダガーレオモンも呆れ気味にあくびする。

ヒメラモンは夜景やゆっくり動く飛行機とかを見て、楽しんでいるというのに。もう尻尾パタパタしまくりだよ。


「あははは、大変ですね」


後ろから声がかかったので振り返ると、一人遅れていた黒子がこちらへ近づいてくる。

脇にはわりと大きめな荷物を抱え……それを見て全員、なんとも言えない顔になる。


「みなさん、こんばんは! これからよろしくお願いします!」

「……ねぇ地尾さん」

「なんでしょう、デュノアさん!」

「テンション高いですねー。ていうかあの、え? それで入れたんですか、ここへ」

「えぇ、問題なく」


黒子なのに……まぁ、いろいろある黒子だしなぁ。そこについてはツッコんじゃいけないと思い、全員ぐっと飲み込んだ。


「というか織斑先生も同席ですか」

「ドイツは馴染みでな。生徒達だけに任せ、挨拶しないわけにもいかん。
それでボーデヴィッヒ、ドイツに着いたらまずは」

「シュヴァルツェ・ハーゼの本部へきてもらいます。そこで宇宙進出に向けて訓練を」


さすがにいきなり宇宙へはいけない。僕達もそれなりの研修を受ける必要があるのよ。

たまごサンドへかぶりつきながら、気持ちを高ぶらせていく。するとセシリアが僕の左腕に抱きついてきた。


「セシリア?」

「今日はわたくしが隣ですから。……今日はわたくしが隣ですから!」

「なに気合い入れてるの!?」


でも今日はマズい……誰だよ、深夜便がいいとか言ったの! おかげで笑顔のリンとも添い寝だよ!

あ、あとは痴漢として捕まらない事を祈るのみ……! 祈るのみ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


前回の反省から、恭文に頼んで席指定。一夏の隣にしてもらった。だ、だから今のうちから緊張している。

今回は深夜便を利用して向かうため、一夏の隣で眠り……添い寝だ! 添い寝なんだよ、私は!

いや、しっかりしろ私。目的とは全然違うところで緊張してどうする。でも……十二時間、一夏の隣かぁ。


ここから目的地であるミュンヘン……だったか? そこへは、直行で十二時間弱かかるそうだ。緊張はそのせいもある。

ギラモンからは『こいつ大丈夫かいな』という目で見られ続けているが、私は冷静だ。頼む、そういう事にしてくれ……!


「箒、大丈夫か?」

「ほぇ!?」


隣に座っている一夏からそう言われ、つい体が熱くなる。ま、まさか私の考えている事を。


「ほら、やっぱりオレより八神の隣がいいんじゃないかなと」


その瞬間、私は左拳を打ち込んでいた。一夏の腹を穿ち、意識を奪っておく。

……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 私の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

頭を抱え、しくしくと泣いてしまう。どうしよう、一夏が完全に勘違いしている。


というかというか、ヤキモチとか焼いてくれないのか? せめて嫉妬……ないよなー! お前はいい奴だものなー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……ファンビーモン達を撫でて遊びながら、あたしは崩れ落ちる馬鹿二人を遠巻きに見ていた。

一夏、馬鹿すぎる。せめてヤキモチくらい焼きなさいよ。まぁ、あたしが言っても無駄かと思い、ため息を吐いた。


「ねぇギラモン、アンタのパートナーはどうすればいいと思う?」

「笑うしかないやろ、あれ」

「ほんとぶ〜ん。箒ちゃん、方向音痴すぎるぶ〜ん。どこへ向かおうとしてるか分からないぶ〜ん」

「るごるごー」

「まぁ箒ちゃんの事は気にせんで、宇宙に集中しようか。タグもまだ見つからんようしなぁ」

「それもそうね」


もうすぐ出発時刻だし。あたしは軽く伸びをして、シャルロットとアイサイン。それにガオモンもついてきてくれた。

みんなでまずは……あの崩れ落ちてる馬鹿二人を起こす。そうじゃないと手間かかってしょうがないわ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


本日の一枚――激突の覇王ジーク・バシンドラゴン。前期で手に入れ、ついに登場したスピリットである。

その効果はモチーフとなっている馬神弾そのもの。赤のスピリット達に激突を付与し、そのサポート能力まで内包。

レベル3能力は太陽石の神殿・レベル2効果の発展形。リザーブのコアも送る事ができる。


だがライフを送るのも利点がある。今回のように自分からバースト発動が可能なので、これからも活躍してくれる事だろう。



(Battle53へ続く)







あとがき


恭文「というわけで、ひーろーずU第51話です。……そっか、今日は鎧武お休みだった」

フェイト「そんな中、作者さんはようやくポケモンXYを進め……五つ目のバッジをゲット」


(え、進んでいない理由? スパトレでニドランの努力値上げてました)


恭文「ミラクル交換で、意地っ張りなニドラン手に入ったからねー。物理型として仕上げるためにコツコツと」

フェイト「あとはポケモン撫でたり、パズルしたり」


(かわいがってました。……やばい、半分近くそういう時間だ)


恭文「というわけで本日のお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……ようやく出たね! ジーク・バシンドラゴン!」

恭文「うん。アイディア、ありがとうございました。もう大活躍です」


(ありがとうございました)


恭文「そして今回ディオクマが使ったデッキはこちら」


(ディオクマ・レオデッキ『http://club.battlespirits.com/bsclub/mydeck/decksrc/201311/01383471742740_20131103.html』)


恭文「星魂・レオデッキって感じかな。コアブしつつドローしまくったり、大型を早期召喚したり」

フェイト「……ピン差しって言ってたのに」

恭文「あれか、オリジナルだけ異様に引けるって理屈か」


(勝てばいいのだよ!)


フェイト「あと気になるのは……蛇皇神帝アスクレピオーズ」

恭文「これでブレイヴ最終回のコンボが可能になります」

フェイト「あぁ、あの猛攻だね。とにかくバトルの結果、なんとかドイツへ」

恭文「リンディさん達にはバレたけど、それでもなんとか抑えつつ……かな。とにかく状況が厄介すぎるし」


(気分はレジスタンス)


恭文「そして来週はドイツ旅行編です」

フェイト「旅行じゃないよね!」

恭文「うん。だから飛行機の中だけ観光気分だよ。ネットで調べて、また機内食の描写を」


(深夜便なんて今回初めて知りました)


フェイト「……ちなみに転送は」

恭文「不法入国になるから駄目。今回はアウトなコースぎりぎりだし、踏める手続きはしっかり踏む」

フェイト「ツッコミどころをなくさないためと。うぅ、あとはジャッジメント……誰が使うんだろう」

恭文「え、僕だけど」

フェイト「……うん、ヤスフミはその、ね?」


(蒼凪荘のジャッジメントは、今日も元気に庭を走り回っています。
本日のED:及川光博『君が待ってる』)





カルノリュータス「カルー?」

カスモシールドン「カスー」

ジャッジメント・ドラゴニス『がるどーす?』

カルノリュータス・カスモシールドン「「……カルカスカルカスカルカスー♪」」(ぴょんぴょん)

ジャッジメント・ドラゴニス『がるどすがるどすがるどすー♪』(翼ばっさばっさ)

ラルトス「ら……ラルラルラルラルラルラルー」

キルリア「対抗しなくていいのよ! ていうかアイツら、なにしてるの!」

ちびアイルー「仲良しになってきてるにゃー」

どらぐぶらっかー「くぅくぅー♪」


(おしまい)





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あきゅろす。
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