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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Battle49 『振り返ればEがいる/剣の指し示した先は』


放課後の平和な空気は、突然各所から出火した炎によってかき消された。

あちらこちらから響くのは悲鳴と、先生達の厳しい声。そんな中オレとモノドラモンは、人の波に逆らいながらISのガレージへ。

箒達はもう逃げている。あとは……できれば無駄足になってほしいと思いながら、崩れかけのドアを蹴飛ばす。


ガレージの中は教室などよりもひどい有様だった。備え付けの機材は溶けかけ、異様に高い熱ばかりが襲ってくる。

そんな中を走り、ぼう然としている一つの影を見つけた。その影が見ているのは、ようやく完成したばかりの専用機。

虹色の炎に燃やされ、装甲は歪んで消失。フレームも溶けるように床へ崩れ落ちていた。


「かんざしー!」


モノドラモンが慌てて駆け寄るも、彼女は全く反応しない。……オレも同じように近づき、強引にお姫様抱っこ。

この機体は置いていくしかない。もう、どうしようもない。


「モノドラモン、逃げるぞっ!」

「で、でもかんざしの機体がぁ」

「このまま焼け死んだら、それこそおしまいだっ! ……すまない」


モノドラモンは首を振り、俺と一緒にまた走りだす。白式が使えれば……!

もしかしたら間に合っていたかもしれない。機体も一緒に運び出せたかもしれない。

だが無理なんだよ。白式はオレの呼びかけに答えてくれず、ただ沈黙するのみ。


オレはいつもこうだ。一人じゃあ肝心なところで手が届かない。それが歯がゆくて、苦しくて溜まらない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


留置場というのは、実に辛気臭い。弁護士に釈放手続きを頼んだというのに、未だにこれだ。

それもこれも、全て高木のせいだ。高木ぃ……見ていろ、釈放されたらもう容赦はせん。

全てを破壊してやる。私の力があれば、必ずそれはできる。そうして証明してみせる。


貴様も破滅すれば、分かる事だろう。この私が正しかったという、厳然たる事実をな。

あの三流アイドルも潰してやる。高木にスカウトされた事を後悔するほどに、強烈な絶望を。


……貴様は悪だ


誰もいない一室に、妙な声が響く。刑務官の話し声かと思ったが、外は妙に静か。顔をしかめ、辺りを見渡す。

とはいえあるのは殺風景な部屋と、サビも浮かんでいる鉄格子。ほぼ丸見えなトイレだけだった。


過去に囚われ、自分ではなにもせず、他者を踏みつける。そうして夢と希望を食い物にする。
貴様はクズだ。万死に値する、生きていてはいけない人間


「なんだ、貴様はぁ……姿を現せぇっ!」


立ち上がって声を張り上げるも、誰も答えない。まるで世界に私しかいないような……そんな静けさだった。


もしその罪を悔いる気持ちがあるのなら

「罪だとぉっ! ふざけるなっ! 私は間違ってなどいないっ!
間違っているのは高木っ! その三流アイドル達だぁっ!
奴らの甘いやり方では、上を目指す意味がないのだよぉっ! 貴様は誰だっ!」

……ならば仕方あるまい


声が一段と冷たくなった瞬間、足元に強烈な熱が走る。慌てて下を見ると、虹色の炎が生まれていた。

それはメラメラと燃え、足の外側を焼き始めていた。それは本来なら、ありえない光景だ。

ここは留置場――下手をすれば、どこよりも安全な場所だ。突然火災が発生するなどありえない。


「な……!」


慌てて足を引こうとするも、身体が動かない。指先どころか、視線すら動かせない。

私は自分の足が、肉体が炎に包まれて燃えていくのを、震えながら見せつけられていた。

焼かれる熱と痛みに気を失う事もできず、悲鳴をあげる事もできない。なんだ、これは。


一体なにが起こっている。なぜ私は、こんな目に遭わなければならない。

わけが分からなくなっていると、頭の中に様々な光景が思い浮かぶ。それは私が今まで、手を尽くし踏みつけてきた奴ら。

奴らの苦しみ、痛み――あざ笑ってきたものが、まるで自分の事が如く襲ってくる。


貴様はこの世界の可能性を食いつぶす。その痛み、苦しみ――全てを受け止め、罪と向き合え


やめろ。


今貴様が感じている絶望は、貴様が笑う事で生まれていたものだ


やめろ、私にどうしろと言うのだ。


身を焦がす炎は消えようと、心を責める絶望の炎は消えない。
貴様はこれから先、その苦しみを味わい続ける。――神の名において命じよう



やめてくれ、こんな苦しみ……耐えられるわけがない。私は、何一つ悪くないではないか。


貴様から、命以外の全てを奪い去る。それが貴様への罰であり、課せられる償いだ


やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 私は……私は正しかったんだぁっ! それを高木に、認めさせたかっただけだぁっ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


学園に戻ってきて早々、こんな事になるとは……だがなんだったんだ、この炎は。

混乱する同級生達もまぁ、ふだんの訓練があるからだろうか。悲鳴があがりながらも、しっかり避難。


幾つかの問題はあったが、幸いな事に死者は出さずに済んだ。昼間だったというのも運がよかった。

だが……校区の外から見たIS学園は、あまりに変わり果てていた。見ているだけで寒気のするものだった。

本日戻る手はずだった鈴、オルコット、デュノア達も私服のままぼう然としている。


この三人は幸いな事に、火事の時には移動中だった。おかげでダメージもなかったが……いや、部屋が潰れていたな。


「箒ちゃん」

「大丈夫だ。ギラモン、よく頑張ってくれたな」


避難が無事に済んだのは、ギラモン達の力が大きい。我々のISが使えない中、それぞれ進化して救助に当たってくれた。

なんでもこういう時に備えて、救助の手はずを整えていたのだとか。……ファンビーモン達の仕込みらしい。


「それはえぇって。それよりあの炎、普通とちゃうかった」

「色からしてそこは分かるが」

「そういう意味ちゃう。一種の超常能力っちゅうたらえぇんかな。めっちゃ寒気するくらいの力や」

「篠ノ之さん、ギラモンが言う通りです。こう、残滓のようなものが感じられます」

「ガオモンまで……ですが、一体どうしてそんなものが」


私には炎としか認識できなかったが、ギラモンやガオモン達は違うらしい。廃虚を見ながら青ざめている。

しかもその影響というか、残り香がまだ存在している。私には見えないが、確かにそれはある。

さっきからガオモンの毛が逆立っていたのだが、どうやらそのせいらしい。


……確かにおかしい事ばかりだった。左手の紅椿を軽く撫でる。

それから展開したままにしていた、空間モニターをチェック。そこに映し出されているのは、紅椿の状態。

いや、それは正確ではないか。紅椿は現在システムダウン中。なので外部端末からのアクセスを試みている。


だが芳しくない。実は火事の時、紅椿とレーゲンは起動ができなかった。そのため避難誘導などもできなかった。

ようやく再起動をかける段階なんだが……全く駄目だ。試せる手は全て試したというのに、動く気配がない。


「ボーデヴィッヒ、そっちはどうだ」

「駄目だ。オルコット達は問題ないのだったな」

「ぼく達は大丈夫。火事の現場にいなかったからかな」

「あ、さっき連絡した教官も同じく。疾風古鉄にダメージはなかった」

「つまりつまり、火事が起きた時、その場にあったISだけが駄目になってるぶ〜ん?」

「るご……?」


施設やISだけが狙われた。現状を見ると、そういう印象を受ける。これだけの火災で、取り残された人間もいないんだ。

炎の回りが不自然だった部分もあるというか……駄目だ、かなり混乱している。


「ギラモン、デジモンの仕業というのは……いや、お前達を疑っているわけではないんだ」

「分かっとるって。そないに申し訳なくせんでもえぇよ。……まぁ、ないとは言い切れん。
けどワイの感覚やとちゃう。あれはデジモンとはまた別の力や。お前らもそう思うやろ」

「うぅ、ボクはすっごく怖かったぶ〜ん。あんな力、デジタルワールドにいた時も感じた事がないぶ〜ん」

「るごるごっ!」


一体どういう事だ、なにが起こったというのだ。姉さんがまたなにか始めたのか? だがこれは……人智を凌駕している。


「……なにこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


後ろから声がかかったので振り返ると、あ然とした表情の布仏がいた。

……そういえば恭文とバトルしていたのだったな。戻ってきたのか。


「布仏さんっ! ネーモンもっ!」

「ほ、ほんとに焼けちゃってるー!」

「駄目ぇ……本音、怖いよぉ。ここ怖い……!」


ネーモンも同じくか。本音の陰に隠れて、ガタガタ震え出している。


「ねぇ、なにが起こったのー! ネーモンもそうだし、やすみーとショウタロス達もずーっとこうなのっ!」

「ショウタ……布仏、誰だそれは」

「ま、まぁそこはいいじゃないっ! ていうか本音、教官どこっ!? 一緒にいたわよねっ!」

「あ、やすみーは途中で電話がかかってきて、バトスピショップに戻っちゃったー」

「はぁっ!?」

「なんかね、どうしても行かなきゃいけないところがあるんだーって」


一体どういう事だ。バトスピショップに行ってバトル……いや、違うか。そこへ寄った上で、改めてか。

だが一体どこへ。いや、このタイミングでなにがあったのかを考えるべきか。……もしや更識のところか?

更識は近くの病院に収容されている。一夏が救出したのだが、心神喪失状態でな。まぁ、当然であるが。


一夏曰く見つけた時、打鉄弐式が燃える様を見ていたそうだ。それも間近で、なにを言うでもなく。それならまだ。


「教官……あー、更識さんのとこかな。一夏や楯無会長もいるらしいし」

「う、ううん。違うみたいなのー。わたしもそうかと思って、一緒に行こうとしたら」

「じゃあどこ行ってるのよ、あの馬鹿っ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


バトスピショップへ戻り、ハジメとバトルしていた美希を引っ張って電車へ。そのまま765プロへ戻る。

本当なら簪の様子を見に行きたかったのに……まぁしょうがない、一応僕担当者だし。


「ヤスフミ、あのカードを取り上げたりはできねぇのかよ」

「あんな風になってもいいなら、止めないよ」

「それじゃあ世界はテガマルの思い通りってかっ!?」

「面白くありませんね。この私を差し置いて、世界を照らすとは」

「なんとか、しないと」


こりゃやばい事になる。ていうか現時点でもうなってる。とにかくアマテラスの所在と、テガマルの状態。

更に連絡がきたあの件もちょっと見ておかないと。僕は立ち上がり、IS学園に背を向ける。


「恭文、どうしたの。一人言が多いの。というかなんで美希、呼び戻されるのかな」


電車の中で美希が、小声で聞いてくる。いきなりなので、疑問があるのは分かる。

できれば事務所へ着くまで待っていてほしいけど、なにも言わずにそれは無理か。軽く話しておこう。


「報告が二つ。まず千早とお母さん、明日には家へ帰れる」

「本当なのっ!? ……あ、それでお祝いとか」

「そんなムードじゃない。まぁ事務所へ戻るまで待ってよ。ここじゃさすがに話せない」

「ん……分かったの」


――さっきかかってきた電話は、961プロ事件の担当者から。黒井社長、『虹色の炎』で焼かれたらしい。

結果四肢は焼失。意識は戻っているものの、呼びかけなどには答えない。ただ目を開き、苦しみ続けるだけ。

留置場の管理官が消火器などで火を消そうとしたけど、炎は消火剤すらもかき消した。


黒井社長は動く事もせず苦しみながら、無残な姿となった。今警察は大騒ぎだよ。……これはマズい。

さすがに内密にって感じでは処理できないよね。警察内部で起きた事件だもの。荒れるなぁ、765プロ。





バトルスピリッツ――通称バトスピ。それは世界中を熱狂させているカードホビー。

バトスピは今、新時代を迎えようとしていた。世界中のカードバトラーが目指すのは、世界最強の覇王(ヒーロー)。

その称号を夢見たカードバトラー達が、今日もまたバトルフィールドで激闘を繰り広げる。


聴こえてこないか? 君を呼ぶスピリットの叫びが。見えてこないか? 君を待つ夢の輝きが。

この物語はバトスピで繋がった少年少女達が、それぞれの夢に向かって正面突破を続けていく一大叙事詩である。



『とまとシリーズ』×『バトルスピリッツ覇王』 クロス小説

とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/ひーろーず

Battle49 『振り返ればEがいる/剣の指し示した先は』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


戻ってきて事情説明すると765プロは、お通夜みたいな状態になっていた。

ただアマテラスの事や、『事故』原因については伏せてある。ライブ前だってのに……ほんとさぁ。

特に小鳥さんなんて、もうグスグス泣き崩れてるのよ。ああもう、頭痛いったらありゃあしない。




「八神君、それで……一体なにが原因なんだ」

「話せません」

「いや、話せないって」

「一般人に捜査情報は漏らせませんよ。しかも全くの部外者に」

「あがっ! それどういう事だっ! ピヨ子は部外者じゃないぞっ! それに今までなら」

「今まではおのれらも当事者だったからでしょうが。でも今回の件に、この中の誰かが絡んでるわけ?」


呆れ気味に聞き返すと、全員が気まずそうに沈黙した。……ごめん、こう言うしかないの。

神のカードについては、まだ秘匿事項だしさ。てーかマジで関係ないし、バラせるわけがない。


「言える事はまぁ、あれですよね。千早の父親にも不幸があった事」

「千早ちゃんのお父さんがっ!?」

「いきなり火だるまになって路上へ飛び出したら、車に跳ねられたんだって。
一命は取り留めたけど、全身不随の重傷。もう動く事もできないらしい」

「面妖な。……しかし火だるま?」


貴音が首を傾げるけど、それ以上はツッコまなかった。……当然その炎は、アレだよ。目撃証言も取れてる。

まぁ、娘を売った馬鹿だしなぁ。アマテラスの『粛清対象』になってもおかしくはない。


「お願い恭文くん、教えて。一体なにが」


小鳥さんは、これじゃあ納得できないか。でも僕の答えは変わらないので、冷たく返すしかない。


「駄目です」

「だって、こんなのおかしいじゃないっ! せめて詳しい状態だけでも」

「前に言いませんでしたか? 黒井社長達に手を伸ばせば、犯人隠避になると」

「でも逮捕したら問題ないってっ!」

「問題ありになっちゃったんですよ、今回の件で」


警察はこれを、デジモンによる犯罪と考えている。まぁしょうがないけどさ、少なくとも人間の仕業じゃないし。

黒井社長達に余計な事を喋られると困るので、どっかの悪党がパートナーデジモンにやらせた……って感じ?

恐らくIS学園の方にもメスは入る。でもそれでなんとかなるとは思えない。……やってくれるなぁ、アマテラス。


下手すると突然炎に燃やされ……どこのデスノートだよ。あれか、アマテラスはキラか。


「まぁみんなはライブの準備しててください。もう障害はありませんし」

「それしかなさそうだな」

「でも、プロデューサー殿」

「察してやろう。IS学園だって大変な状況なんだし、八神君にも話せない事の一つや二つはできるさ」

「助かります。でもその察しの良さが、どうしてアマタロスの時に出なかったんでしょうねぇ」

「「がはっ!」」


赤羽根さんと雪歩が吐血し、椅子から崩れ落ちた。……メンタル弱いなぁ、もっと鍛えたらどうだろう。


「……恭文君、ごめん。いや、もういろんなとこを含めて。小鳥さん」

「分かり、ました」


小鳥さんも納得してくれたので、とりあえずライブに集中してもらう。……僕はやっぱり手伝えないけどさ。

だって行くとこ、確かめるとこが多いのよ。ライブまでフル稼働だと思います。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


翌日――火事で大変だったはずの織斑先生から連絡があった。しかも火急の用件。

神のカードという単語を聞いて、とりあえずバトスピショップへ来るようお願い。

なのにどういうわけか真耶さんがいた。この馬鹿がバラしたわけじゃないのも聞いたけど、二人を引っ張り二階の事務室へ。


当然ミカさんも事情を知る人間として同席。その上で真耶さんを張り倒した。


「ヤスフミ、おまっ! ……まぁしょうがないけどよぉ」

「ですね。山田先生、確かお兄様が口外しないようお願いしたはずですが」

「で、ですから私は話してませんっ! 篠ノ之博士から言い出したんですからっ!」

「あー、ごめんなさいね。篠ノ之博士ってISを作った人よね。それがどうして」

「我々にも詳細は不明です。とにかく、その」

「あなた達が聞いた話は本当よ。神のカードは実在している。この世界には元々、スピリット達が住んでいたのよ。
そして神も実在しているわ。真なる神のカードは、その証明なのよ」


ミカさんが認めても、全く受け入れられないらしい。特に真耶さんは、首振りしながらありえないって何度も呟いてるし。


「あの、待ってください」

「山田先生は信じられない?」

「はい……だっておかしいじゃないですか。篠ノ之博士は、神は倒されたと言っていました。
その、ソードブレイヴを持ったソードアイズ達によって。しかもそれは有史以前の超古代文明。
その時に天照大御神という存在はいたんでしょうか。そこがどうも引っかかって」

「あー、そういう事もあったのね。実は以前気になって、連盟に確認した事があるの。
まずアマテラスのような絶晶神……あ、絶晶神というのは、アマテラス・ドラゴンの系統ね?
その絶晶神達は世界が人の時代になって、数千年後に生まれたものらしいの」

「ぜ、ぜっしょうしん……達っ!? じゃあ真なる神のカードは、複数枚あるんですかっ!」

「異なる文化圏を背景に、各色に対応した太陽神が一枚ずつ存在しているそうよ。
残念ながら伝承で確認できるだけで、存在がはっきりしたのはアマテラスのみだけど」


異なる文化圏……なるほど、太陽ってのは神様扱いされる事も多かったしねぇ。

アマテラスみたいな経緯で、同じようなカードが生まれてもおかしくはない。

とにかく元々いた神様とは別物と。……じゃあなんであんなカード、作ったんだろうねぇ。


器を作ったのは人でも、力を込めたのは神だ。そんな真似しなきゃ、奇麗なカードってだけだもの。

あれかな、これで僕達に右往左往しろと? だったらお前が右往左往しろっつーの。


「それで八神は、神のカードを見たのだな」

「えぇ。あの馬鹿がどこで情報掴んだかは知りませんけど」

「ではもう一つ聞こう。今回の火災、なにか覚えはないか」


いきなり話が飛んだので、顔をしかめる。まさか……いや、完全に悟られてはいない。

ただその話が出たすぐ後にこれだから、気になってるって感じか。ちょい伏せておこう。


「僕がやったとかそういう意味だったら、答えはNOです。大体本音とバトルしてたんですよ? できるわけがない」

「アリバイ証明はバッチリすぎるな」


さて、どうしたものかな。アマテラスの危険性は……駄目だ。下手に知っている人間が増えると、被害が拡大する。

……そういや今、テガマルはバトルしてるんだっけ。こっちよりも一階の方だね。


「まぁそういうわけなんで、僕一階へ行っていいですか?」

「話せる事はもうないと」

「在庫がカラなんで」

「恭文くん、待ってくださいっ! あの」

「山田先生」


肩を竦めながら歩き出すと、真耶さんがハラハラしながらこっちを見てくる。それは気にせず外へ。

事務室から出て、僕は軽く伸び。そのままショウタロス達と一緒に進んでいく。


「しかしヤスフミ、どうするよ」

「バトルで止める」

「……止まるのかよ」

「普通の方法で無理なのよ? そこに賭けるしかないでしょ」


一応それなりの確証もある。馬鹿うさぎ曰く、超古代文明の人達は、バトスピで神様を倒したらしいし。

やっぱりこの世界においてバトスピは、絶対的な決定力を持ってる。神に近いものなら、余計にだ。

……こういう時イビツとかいると、ほんと助かるんだけどさっ! どこかにいないかと、辺りをキョロキョロしながら一階へ。


「まぁ納得はするさ。昨日の事もあるし、ラゴシア伯だって言ってたもんな。テガマルは、カードに選ばれたと」

「ラゴシア伯が奪い取れたのは、まだ資格を得ていない覇王丸が持っていたからでしょうか。
しかし、どうしてでしょうか。効果的には穴もあるカードなんですが」

「得体が知れないよね」

「えぇ」


まだ神を撃ち砕くには遠い――そう考えるべきかな。まぁいいや、迷いもないし、これも冒険と考えれば楽しい。

ちなみにテガマルをどうこうは無理だよ。確証がないもの。それに……知ってる?

呪いで誰かを殺したとしても、法律では裁けないのよ。つまりはそういう事だ。


なので軽くマークする程度に留める。チヒロのバトルを見ているテガマルへ、すっと近づく。

テガマルはまた牛乳を飲んでいた。しかもこの、瓶詰めの容器は。


「あれ、それって山川牧場特濃牛乳じゃないのさっ!」

「ヤスフミ、おま……いきなりなに聞いてんだっ!」

「……なんだ、知ってるのか」

「知ってるもなにも、めちゃくちゃ美味しいとこじゃないのさっ! 幼なじみが常備してるよっ!」

「そうか」


やるなぁ、棚志テガマル。牛乳好きなのは知ってたけど、これをこの場に持ってきて飲むとは……なかなかだ。


「そうだ、例のカードって言った通り」

「もちろんだ。まだ許可も取れないのでな、神棚に飾っている」

「……またお似合いの場所で」

「テガマルさまー♪」


てくてくと走ってきたのは、後ろ向きに帽子をかぶった黒熊。帽子の色は赤で、両手にはバンテージ。

左肩からショルダーバックをかけていて、身長は一メートル程度。青いくりくりとした瞳をこっちに向け、駆け寄ってくる。


「ただいま戻りましたー」

「迷わなかったか」

「はいー。……ん?」


デジモンにしか見えないそれは僕を見上げて、慌ててテガマルの陰に隠れる。テガマルはその様を見て、軽くため息。


「ベアモン、コイツらは少なくとも悪い奴ではない。いちいち怯えるな」

「は、はい。どうも」

「あ、どうも」


顔だけ出してきたデジモンにお辞儀。あー、そっか。帽子の色が違うから一瞬驚いたけど、この子はベアモンだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ベアモン <成長期><獣型><ワクチン種>

後ろ向きに被った帽子がトレードマークの小熊の姿をした獣型デジモン。

ちょっと憶病なところがあるが、他のデジモンとすぐに仲良しになる。


しかし一旦戦いが始まると、どんな攻撃を受けても戦い続ける。並外れた体力と根性を持っており、とても頼りになる存在。

その体に秘めた格闘能力はとても強く、特にパンチの破壊力で自分のコブシを痛めないよう、革のベルトを巻いているほどである。

必殺技は相手の懐に飛び込み、正拳突きを思いっ切り打ち込む『小熊正拳突き』。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「すまない、どうにも憶病な奴でな。誰にでもこうなんだ、気にしないでくれ」

「いや、それはしょうがないよ。ベアモンってそういうデジモンだし」

「そうなのか?」

「うん。でもある程度慣れると、すぐ仲良くなれるでしょ。そこも特徴」

「……なるほど。コイツどうこうではなく、種としての特性だったのか。不勉強だった」


少ししゃがみこんで右手を伸ばすと、ベアモンは恐る恐る僕の手に触れる。

そのまま優しく握手――ベアモンは笑顔になって、何度も頷いた。


「ところでテガマル、まぁ大体答えは分かってるんだけど、この子なに?」

「日本へ戻ってから、俺のパートナーになった」

「よ、よろしくお願いしますっ!」

「「えぇっ!」」

「キンタローグだからでしょうか」


ベアモンを見ると、やっぱり何度も頷いていた。それで僕の手は絶対離さない。やっぱり人懐っこいねぇ。

でもこの状況でパートナーに……かぁ。ベアモンの手はとても温かいのに、なにかが引っかかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「織斑先生、いいんですかっ!?」

「いいもなにも、どうしろと言うんだ」

「いえ、ですから……そんなカードがあるなら、歴史的大発見じゃないですかっ!
私は事態を政府に知らせて、然るべき調査をするべきだと思いますっ!
篠ノ之博士がその線上にいる可能性だってっ! 放置はできませんっ!」

「なるほど、そのために八神を拘束しろと。……この話、我々が知らなかっただけでかなり有名のようだぞ?」

「で、ですけど」


山田先生、憔悴してるな。昨日の今日でこれだし、それなりに感づいているんだろう。

……八神はなにか隠している。それもIS学園炎上や、二件の自然発火事件に絡む事だ。

とはいえ、ツツいて答えるとは思えないが。下手をすれば大会まで失踪する可能性もある。


「そうだ……あの店長さん、所有者が誰か教えてください。先ほども言いましたが、所有者には危険があります。
篠ノ之博士が襲う可能性もありますし、然るべき保護を受けてほしいんです。もちろんカードも預けて」

「あー、それは無理よ。会長の方針で、政府とIS関係者には絶対教えるなと言われてるから」

「どうしてですかっ!」

「あら、あなたがそれ聞いちゃう? 身勝手な理由で、せっかくユーロチャンプとバトルできるチャンスを潰したのに」


また辛辣な……山田先生はつい呻くものの、首を思いっきり振る。その時胸も揺れるが、女性だけなので気にならない。


「そ、それとこれとは関係ありませんっ! 話を逸らさないでくださいっ!」

「あるの。……うちの会長はね、その辺りの人達にお冠なのよ。
どうも政府やあなた達は、誰かの夢や願いを踏みにじっていいと考えてるみたいだし?
もちろんここは亡国機業ショックもそうだし、バトルフィールドシステムの転用問題もある」

「で、ですが……所有者は下手すると各国政府、宗教関係者から狙い撃ちですよっ!?
今必要なのは理想論ではなく、確固たる実行力ですっ!」

「じゃあ聞かせてもらおうかしら。あなた達がこれまで、一体なにを守ったのか」


特に嫌みがあったわけではない。だが山田先生はなにも言えない。我々はなにも守っていない。

公的な立場や権力があっても、それを上手く生かしていない。それを持っていない人間に始末を押しつけるばかり。

そう、それが答えだった。我々は信頼を受け止め、応える力がないんだ。権力があっても宝の持ち腐れ。


……もう一つ言うと、それで彼らを拘束したり、所有者の居場所について自白強要はできない。

まずこの伝説は比較的有名な話らしい。つまり束じゃなくても、知っている人間が多い。

現にオルコットの父上やデュノア社長も知っていたし、アマテラスを保管していた御夫妻も知っていた。


この話が根っこにあったからこそ、バトスピが爆発的に広まったらしい。

束が我々に話したのも、たまたま知って自慢したくなったから……そんな理由が成り立ってしまうんだ。

次にそんなカードがあったからと言って、それで政府を動かす事はできない。


どちらかというとこれは、考古学者の仕事だ。政府や警察機関がいちいち出る話じゃない。

もちろん束が狙っているという方向なら……いや、これも怖いな。というか、それで納得はさせられないだろう。

そういう理屈を振りかざし、亡国機業の手先となっていたのが我々だ。同じ事だと思われてもしょうがない。


「あら、どうして黙っちゃうの? 答えてくれて構わないのに。ちゃんと聞くわよー」

「で、ですから……変わっていくんです。これからを、信じてほしいんです。
もう亡国機業は存在しません。だったらISや政府の未来だって、きっと明るいものに」

「じゃああなたはどう変わりたいの? 一体なにをしたいのかしら。あなたの夢はなにかしら」


山田先生はなにも答えない。首を振って、店長から目を逸らす。そのさまを見て、店長はため息を吐いた。


「歌唄ちゃんだって、地区予選の時言ってたじゃない。夢を描いて、それに近づくまでになにが必要か――考えて実践する。
ただ変わるだけを期待するだけで、一体なにができるのよ。それは余りに無責任だわ」

「無責任……!?」

「だってそうじゃない。あなた自身は、なにも変えようとしてないんだもの。
どう変わりたいか、なにをしたいか言えないのがなによりの証拠。……それは卑きょうよ」

「山田先生」


……山田先生の肩を叩き、首を振る。この件に関しては、我々はなにも言えないだろう。

だが気になる事がある。答えが出るかどうか分からないが、少しツツいてみよう。


「では店長、会長は現状維持と。もし問題が起きた場合、防護策などは」

「それが……会長、『大丈夫だ』って言い切ってるのよ。例えそういう輩に狙われても、問題にはならないって。
あ、もちろん襲った側の都合に合わせて、そういう処理がされるとかじゃないの。まぁ、秘密裏にガードを付けてると」

「そうですか」


まぁ普通に考えるのなら、それが正しいのだろう。だがもしも……そうでなかったとしたら?

……考えすぎだろうか。だが我々の理解を超える、とんでもない事が起こっている。そう思えてならない。

話すつもりはなかったが、一応伝えておこう。もしかするとなにか関係があるかもしれない。


「実は束がですね」

「えぇ」

「力あるカードと、それを具現化できるバトルフィールドが今存在している。
そんな状況で神のカードを使い続ければ、一体どうなるか。そんな話をしていたんです」

「それは私達が聞きたいですよ。ただ……ここからはあくまでも、私の勝手な妄想なんです」


いきなり店長の表情が険しくなった。少々戸惑いながら、店長は腕を組む。


「多分ここがあるから、会長も『なにも喋るな』と言っているんじゃないかなーと」

「どういう事ですか」

「例えば前所有者である信長公は……お二人ならご存じでしょう? 相当暴れていました」


いきなり信長の話か。というか、前所有者? そこは束も言っていなかったが……なぜだろう、どんどん背筋が寒くなっていく。


「彼は軍事的・政治的な革命も起こしていたし、運もあった。
本能寺の変という大ポカさえなかったら、後世にさらなる影響を残しているわ。
もしそれが全て、神のカードによるものだとしたら」

「そういえば神のカードは、所有者に強大な力を与えるのでしたね。
もしやこう、所有しているだけで流れが自分のものになるとか」

「そういう感じです」


なるほど、奪い取ろうとしても必ず失敗するとか……そういう方向で考えているのだろうか。

八神も少し触れていたが、カードが所有者を選んでいるらしい。言い換えればそれは、神に認められたも同然。

認めた者を守護し、全力で支援……そこでなにかが引っかかった。それも強烈で、喉の奥を痛めつけるようなものだ。


「……店長」

「えぇ。その場合、所有者は神に限りなく近い存在となっちゃうかも。
カードに込められた力によって、全てを思いのままにできる
……人やデジモンでは太刀打ちできない、この世界を制覇する覇王の誕生よ」


……それははっきり言えば与太話だ。たかだか一枚の紙切れに、そんな価値があるとは思えない。

だがもし我々の知る事が全て事実とするなら、与太話は一瞬で予言に変化する。

神が存在し、その力が込められているなら……それは神を手にしたのと同じではないだろうか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


テガマルにそれとなくアマテラスの事を確認。とりあえずデッキに入れていないのは確定っぽい。

これ以上は危険と判断し、バトスピショップから出る。次は……近隣の病院。

そこの五階にある個人部屋で、入院着姿の簪はいた。モノドラモンはその傍らで、不器用にりんごを剥いていた。


「恭文君」

「ヤスフミー!」

「簪、モノドラモン……とりあえずは大丈夫そうだね」


怪我などはないので安心してると、簪が頭を下げてきた。


「ごめん」

「なにがよ」

「せっかくくれたデータも」

「原本があるよ。まぁ、打鉄弐式はさすがに無理だけど」


その辺りの話は聞いているらしく、簪が泣きそうな顔で頷く。


「学園内にあったISのコア自体が、使用不可能になってるんだよね」

「うん。専用機だけじゃなく、練習機数十機もお釈迦だ」

「うぅ、どうなってるんだよー! あの炎、すっごく嫌な感じがしてたしー! せっかく、せっかくかんざしがー!」

「無理、かな」


簪は俯いたまま、ボロボロと涙を流す。その雫がひざ上に置いてある両手へ、ぽたぽたとこぼれ落ちた。

モノドラモンもナイフとりんごを脇へ置いて、簪へ飛び込みながら号泣。それを見て、ショウタロスがまた涙ぐむ。


「走り切る道すら……なくなるみたい」

「大丈夫だよ」

「なにが、大丈夫なのかなっ! もうコアも」


怒鳴り散らそうとした簪が、僕の目を見て停止。どうやら僕が本気で言ってる事、伝わったみたい。


「あー、ここだけの話にしておいてね? まだ確証がないから」

「う、うん。もしかして恭文君」

「ガチ超常現象の領域だけど、原因については見当がついてる」

「ほんとにー!?」

「しー! 内緒って言ったでしょうがっ! 静かにっ!」

「あ、ごめんー」


モノドラモンが両手で口元を押さえもごもごしだしたので、そのさまを見て二人で笑う。

……簪がようやく笑顔になってくれたので、一応安心。


「まさか、デジモンかな。それなら恭文君が知っていても」

「現段階だとちょい話せない。……多分年単位の時間がかかると思う。
更に言うと、それでどうにかできる自信もない。でもできる限りの事はする。
簪が走り切る余裕くらいは……なんとか確保できるようにね」

「無理、しなくていいよ? だってこんなの、どう考えたって」

「してないよ。止めとかないと、僕達が守った世界を好き勝手にされるかもしれないの。……それは絶対に嫌だ。だって」


簪を安心させるために、更に笑う。するとなぜだろう、二人が怯えたように身を竦ませた。


「僕達が守ったって事は、この世界は僕のものでしょ? なのに好き勝手するなんて、万死に値するじゃない」

「ヤスフミー!?」

「いや、その理屈は……ぷ」


二人は顔を見合わせ笑い出し、息を整える。簪はモノドラモンを撫でてから、僕を見上げた。


「でも一つだけ約束。そのために、帰ってこられなくなるような事は……しないで」

「うん」

「あなたがいなくなると、私は本当に困る。打鉄弐式も大事だけど、あなたは……もっと大事」

「約束するよ」


更に安心させるため、簪とは指きりげんまん。もちろんモノドラモンとも。

――二人にお見舞いのお菓子などを渡してから、病室を出た。手を振りながら歩き出すと、セシリアが待っていた。

やや険しい表情のセシリアを伴って、また廊下を歩く。表情が重いのはもう、許してください。


「大変な事になりましたわね」

「なったね。セシリア、リンと一緒にうちへきていいよ。寝るとこもないでしょ」

「うぅ、そうさせていただきます。家財道具も駄目になっていたので、もう」

「昨日はホテルだっけ」

「えぇ。唯一の救いは」


セシリアがデッキケースを取り出した。青いケースは、一応僕の手作り。せっかくだし、プレゼントしたんだー。


「持ちだしていたデッキとカードが、無事だった事でしょうか」

「そういえば遺品は」

「……見つけました。鈴さんにも手伝っていただいて、ようやくです」

「そっか、よかった」

「まぁお披露目は、またいずれ」


セシリアは悲しげに笑いながら、デッキケースを仕舞う。すると表情が一気に引き締まった。


「恭文さんは、その……これからどうなさいますの? というか、なにが起きてますの」

「聞いてたんじゃないの?」

「うぅ、バレておりますのね」

「気配察知は得意だもの。……ここじゃあさすがに話せない」

「それもそうですわね」

「じゃあ、俺がいたらどうかな」


右の曲がり角から突然出てきたのは、イビツだった。気配では分かってたから驚きもせず、僕は足を止める。

初対面なセシリアはその怪しい風貌に、警戒の視線を向ける。それに気づいたイビツが、さっと両手を挙げた。


「セシリア、話したでしょ? イビツだよ」

「あぁ、恭文さんにアマテラスを確保するよう頼んだ。……ではあなた」

「原因については知ってる。あー、ちょっと待って」


イビツが指を鳴らすと、辺りから人の気配が消え去った。これは……結界に近い能力?


「恭文君なら分かるだろうけど、結界を張った。人に聞かれる心配はないよ」

「それはまた、ご丁寧に。……あなた、一体何者ですの。もしかして魔導師とか」

「少し違う。まぁ俺の正体についてはどうでもいいよ。今の問題はアマテラスだ。
……IS学園と黒井社長達の炎上事件、これらはアマテラスが原因だ」


やっぱりか。確証がなかったし、絶晶神が複数って話もあったしさ。僕もちょい疑問だったんだけど。

なら神棚に飾られた事が嬉しくて、それで願いを叶えたとか? ……デスノートかな、これは。


「そんな馬鹿なっ! それだと棚志さんが」

「テガマル君は意識的に、なにかしたわけじゃないよ。ただ……深層意識っていうのはあるからねぇ。
ISはこの世界の歪みと言えるものだ。そして黒井社長達の行動も同じく。
例えばさ、新聞やニュースで悲惨な話を見たら、そりゃあ腹立つでしょ? つまりそういう事よ」


辺りが静かすぎて、耳が痛いレベル。そんな中、イビツの言葉がまた鋭い。関係なくても、持ってしまう怒りがある。

そういう感情に反応して、アマテラスが制裁を加えた。でも……正直信じ難い話だ。

嫌な言い方だけど、そういう怒りは軽いものだよ。当事者じゃないから、別のニュースがあれば消えるようなもの。


そんな軽い感情に反応するほど、アマテラスの力は過敏なの? いや、もしかしたら。


「ていうか、恭文君辺りは分かるでしょ。……恭文君は何度かこの世界を救っている。
なのに救ったはずの可能性を、誰も彼も大事にしない。分かり合えるはずなのに、分かり合えない。
育てていけるはずなのに、ドブに捨てる。目に見えない気持ちや願いよりも、目に見える権利や力、立場に傾倒する。
亡国機業がいなくなったのに、この世界はなにも変わっていない。そんな世界が腹立たしくて、変えたくてさ」

「当たり前の事だけどね。変わるために踏み出してないわけだから」

「あらま、ドライだねー」


まだ世界は戸惑っているだけ。亡国機業ショックから立ち直ってもいないんだもの。

この状況で一気に変わっていったら、むしろ気持ち悪いくらいだよ。誰かが裏でなにかやってるんじゃないかーってさ。

夢を叶えるのと同じだよ。描き、追い求め、叶えるために行動していく。そうやって今は変わるもの。


「……だから、なのかよ。だからアイツ、あのカードを公表するために動いてるんじゃ」

≪世界を憂うが故に、現状へ怒りを持つ。それも本当に真剣な怒り。だから暴走してしまうんですか≫

「まぁ救ったってのはなくてもね? あとは……アマテラス自身だ。アマテラスは単なる力の入れ物じゃない。
それ自体にも意思がある。アマテラスはこの世界に絶望しちゃってるのかも。
神話を越えた先にあった世界は、アイツから見ると余りにも醜い。可能性を見いだせないんだよ」


なるほど、アマテラス自身の意思もあってこれか。そこはちょい、思考から抜けていた。

だとすると……やっぱり直接的打破は厳しい。アマテラスは既に、テガマルを主と認めている。

だから乗っかったとも考えられるし、アマテラスの意思に反する行動を取ったら、その時点でジ・エンドだ。


「止める方法は」

「まず真なる神のカード――絶晶神達は、その所持者にあらゆるものを与える。
それこそ運命力なんてものも含めてね。でも恐ろしい部分はそこじゃないんだよ。
彼らは自分が神だと驕り、調子に乗っている部分がある。こんな事やらかすのもそこが理由だ」

「お待ちください。絶晶神とは」

「……アマテラスの系統だよね。なら」

「バトルフィールドで、アマテラスと棚志テガマルに勝つんだ。そうすれば調子に乗っている部分をへし折れる」


イビツは右の指を鳴らし、皮の鞘に収められた短剣を取り出す。鍔が放射される光みたいで、きれいな剣だった。


「恭文君はもう聞いているだろううけど、かつてこの世界には神が存在していたんだ。
でもそれはソードブレイヴを持つ、十二人のソードアイズ達によって倒された」

「恭文さん」

「さっき織斑先生から聞いた。どういうわけか篠ノ之束が、神のカードとバトスピ伝説について知ってた」

「篠ノ之博士がっ!?」

「おーい、話聞いてー。……結果人は太陽の光と青い空、繋がった大地を手に入れ、人の歴史を紡ぎだした。
あ、ちなみにこれはソードブレイヴのレプリカ。カッコいいでしょー」


とか言いながら仕舞いこんだ……自慢したかっただけっ!? おのれなにさっ!


「バトスピは魂と魂をぶつけあう、至高の決闘方法。それは神さえも斬る力がある。
いや、人がやるからそれだけの力を持つんだ。人のカードと知恵で、神の根源を打ち砕く」

「人だから、か」

「――神は在るもの。ただ作り、ただ壊すだけ。そこに意味はない。だが人は意味を求める。そして」


イビツの手が上がり、僕を……いや、ショウタロス達を指差す。


「神は夢を持たないが、人は夢を持つ。それだけで神様の先を行っている。人間は神様の進化。
夢が甘美なるゆえに惑わされる事もあるけど、人は夢と戦う。
そうして自分自身の戦いを始める。……今見せたソードブレイヴの所有者は、そう言って神を斬った」

「それが、未来に賭けた願い。オレ達の存在が、神を超えている証明ってわけか」

「ですがその願いは今、何一つ叶っていない。人は自分の夢と戦う気持ちすら忘れかけている」

「でも可能性は残ってる」


何度も感じた温かな力、優しい強さをかみ締めながら、掲げた右拳を握る。


「僕達はそれを知ってるじゃないのさ。だから今まで戦ってこられた。……アマテラスは僕達で止めるよ。夢のためにさ」

「あぁ、そうだな」

「当然です。この私を差し置いて太陽を名乗るなど、許せませんから」

≪私も許せませんねぇ。だって神は私なのに。調子に乗っているなら、教えてあげないと≫

≪なのなのっ! みんなの夢と可能性を守るなら、守護者の出番なのっ! 神様の食い物にはさせないのっ!≫

「おぉおぉ、揃ってやる気だねぇ」


イビツは両手に腰を当てて、気合い十分な僕達を見て笑う。でもその表情はすぐ引き締まった。


「できれば出番がない事を祈るよ。その時棚志テガマルは、覇王として覚醒し始めている」

「できれば……か。ここで踏ん張るのはありえないのかな」

「今の流れが続けばね。だけど倒せばアマテラスは、神としての誇りを砕かれる。結果普通のカードと変わらなくなるよ」


あっさり言ってくれるけど、かなり大変な事なのは理解した。アマテラスはきっと、これまでもバトルで使われたはずだもの。

信長の手に渡る前とかでさ。にも関わらず今に至るまで調子乗りっぱなしという事は……そういう事だよね?

アマテラスに勝った人間は、未だかつて一人もいない。僕達はそんな伝説に挑むのよ。


あれか、遊戯王の最終戦か。欲しいカードをドローしまくる闇遊戯相手に勝てと。


「……まぁそういうわけだから」

「教えてくれてありがと、助かったわ」

「いやいや」


イビツは僕達に背を向け、そそくさと曲がり角へ戻る。慌てて追いかけると、場の静寂が破られた。

辺りに気配が生まれ、時間が再び動き出す。僕達が見た先には、やっぱり看護婦さんや入院患者達が行き交うだけだった。


「一体どこに……!」

「神出鬼没なんだよ、アレは。でもこれで確証が得られた」

「神を止めるなら、バトルスピリッツ――バトスピはオレ達に与えられた、可能性を示す剣なんだな。
ところでヤスフミ、今バトルは駄目なのか? 止めるなら早い方が」

「分かってるでしょ?」

「だよなぁ」


今バトルは無理だ。テガマルもこの件では慎重になっているし、国際バトスピ連盟の許可がない限り動かないはず。

無理にやろうとしても、乗ってくるタイプじゃないしなぁ。……なので方法は一つ。

戸惑うセシリアの手を引き、また歩き出しつつ決意する。まぁ、バトスピはしっかり楽しみつつだけどね。


やっぱりイタリアで感じた通りだった。僕はアイツと――アマテラスと戦う事になるってさ。


「でも幸いな事に、おかげで準備ができる。本格使用する前なら、今回みたいな事も早々起きないはず」

「お兄様、確証は」

「……そうあってほしいって感じ。でもまさか、軽い気持ちで始めたバトスピがここまで大事になるとは」

「予想外すぎますわ、こんなの。でもそれなら、彼に話せば」

「やめといた方がいいと思う。アマテラスの意思も絡んでるなら、やった途端に攻撃される危険もある。なので」


まぁ幾つかの懸念事項はあるけど、もし最速で止めようと思うなら……我ながら無茶だと思って、つい笑ってしまう。


「世界大会まで進むよ」

「世界大会?」

「アマテラスの使用許可、それくらいに出そうなんだ」

「……まさか恭文さんっ!」

「恐らくこれが、最速かつ確実にアマテラスを止められるコースだ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


僕の作戦はこう。棚志テガマルが世界大会まで勝ち抜いたら、そのままアマテラスを使うはずでしょ?

そこで対戦して、アマテラスを倒すのよ。……もちろんどちらかが負ける場合もある。

その場合は普通に申し込めばいいけど、問題はアマテラスを出すかどうか。


もちろん引き受けてくれるかどうかという問題もある。特に覇王となった場合だよ。

例えば『俺とバトルしたければ、来年駆け上がってこい』とか言われたら、もうどうしようもない。

その場合アマテラスの力で、次の大会までに世界がズタズタかもしれない。現にたった数日でこれだよ。


僕が勝ち残った時は……問題なさそうだけど、逆に自重とかしたら余計厄介だ。なので一番確実なコースはたった一つ。

僕と棚志テガマルが勝ち抜き、世界大会で対戦。そのたった一度のチャンスで、アマテラスを打破する。

……アマテラスの概要がガチなら、確実にフィールドへ出てくる。引けませんでしたって心配はしなくていい。


うん、割りと無茶苦茶だよね。世界大会前に対戦する可能性だってあるし、そうなったらおじゃんな計画だ。

その場合はまた考えるけど……もうちょっと煮詰めていく事にする。

というわけで鈴と本音&ネーモン達と合流し、うちへ引っ張ってきた。久々に感じる家の空気を吸い込み。


「ヤスフミ、お帰り」

「ただいま」


玄関先でハグをしてから、そっとキス。本音とネーモンが声をあげるけど、僕は気にしない。

……本音達は実家へ戻ると、簪のお見舞いとかが辛いから。ここならまだって事で、しばらく預かる事になりました。


「えっと、布仏本音ちゃんとネーモンだよね。お久しぶり」

「は、はいー。あの、ありがとうございますー」

「ありがとうー」

「ううん。ところで……もふもふしていいかなっ! 実は以前見かけた時から、気になってたんだー!」

「「……はい?」」


ネーモンを見て目が輝き始めたフェイトへ、デコピンしておく。とりあえず疲れてる様子だから、座らせてあげてください。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


どうにも不透明な時間が続く。そのもどかしさをかみ締めながら、家に戻った。

主婦みたいな我が弟はエプロン姿で背広を受け取り、さっとかけてくれる。

手洗いを済ませリビングへ戻ると、温かい茶が出される。テーブルへ座り、それをゆっくりと飲んだ。


弟――一夏は変わらない様子だが、白式が使用不可能になった事は当然ショックだ。

更識の事もあるし、心労はそれなり。にも関わらず……茶の味を、しみじみとかみ締める。


「千冬姉、やっぱ大変だよな」

「当然だ、いきなり職場が崩壊だからな。……お前の方はどうだ、荷物の確認をしに行ったんだろう」

「教科書類も駄目になってた。まぁ全財産置いてたとかじゃないから、なんとかなるさ」

「そうか」

「でも不思議な事があったんだよ。どういうわけかその……学園に置いてたデッキとカード類は、無事だったんだよ」


つい顔をしかめてしまう。一夏は首を傾げっぱなしだが、どうも胸がざわつく。


「そこだけ避けたみたいな焼け跡になっていたんだろう」

「そうなんだよ。検証していた鑑識さん達も不思議がってて……あ、悪い。もう連絡いってたんだな」

「違う。実はボーデヴィッヒとデュノア達も、似たような事を言っていた。
他生徒や、職員にいるバトスピプレイヤーもだ」

「マジかよっ!」

「だが対称的に、ISに関するものは焼き払われていたがな。それこそコンピュータ内のデータも含めてだ」


……まさかとは思うが、神のカードが絡んでいるのか? だからバトスピのカードは無事だった。

そんな、まさかな。あんな話を聞いたせいか、深く考えすぎているのかもしれん。それでも不安は拭えないが。


「じゃあ千冬姉」

「出火原因は未だ不明だ。学園のISも再起動できる目処が立っていない。
国際IS連盟は大騒ぎだよ。年間スケジュールにも大きな乱れが出るしな。なにより」

「各IS関連施設で、同じ事が起きるかもしれない……か。しっかしどうなってるんだよ、白式もさっぱりだしさ」


一夏が左手の白式を見つめ、困り気味に笑う。気のせいだろうか、白式の輝きがくすんでいるように思う。


「再起動は無理かもしれん。篠ノ之達のISを別所で調べたが、コアが完全に機能停止している。束を呼ぶしか手がない」

「でも来るわけないよなぁ。束さん、未だに指名手配犯だしさ。
そこも解除は無理……だよなぁ。暴走させた事は事実だし」

「いっそこのままでいいかもしれないな」

「なに言ってんだよ、そうしたら千冬姉は失業だぞ?」

「だがIS絡みの面倒事は、これで消え去る。お前も好きな学校へ通えるぞ」


ありえないと言いたげな一夏が、顔をこわ張らせる。……このままIS自体が駄目になれば、それもありえる。

まぁ私は就職先を探す必要があるわけだし、安泰とは言い難いが。しかし、どうもな。

神のカードについて聞いてから、この世界について不安を覚えっぱなしだ。神が支配し、それを過去の人が打ち砕いた。


夢と戦い、叶え、未来を作る世界――それを夢見て、戦った人達がいる。なのに我々はどうだ。

その戦いが無駄な結果に終わった。その徒労感が……どうもなぁ。職場もあれなせいか、私も落ち着いていない。


「……そうだな。でもIS絡みで夢を見ていた奴らは、みんなたたき落とされた」


そんな私を責めるでもなく、一夏は私の湯のみを回収。そそくさとキッチンへ戻る。いつの間にか飲み干していたらしい。


「実際更識もかなりヘコんでた。やっと完成した機体を、見捨てなきゃいけなかったんだ。それなのに」

「……すまん」

「いや、オレの方こそ悪かった。千冬姉を責めてるわけじゃないんだ。むしろ感謝してる」

「そうか」


戸惑っているだろうに、この愚弟は……だがそれが強みだった。コイツは馬鹿だが、止まる事を知らない。

誰かの痛みを放っておく事もしない。改めて馬鹿の強さを知って、見習おうと思った。

……そうだ。つい気持ちが落ち込んで忘れていたが、大事な話があった。またお茶を入れ始めた一夏へ、そこを報告する。


「お前に一つ伝えておく事があった」

「なんだ?」

「デュノアとボーデヴィッヒだが、しばらくうちで預かる事になった。もちろんファンビーモン達もな」

「マジかっ!」


一夏は急須を持ったまま、こちらへ驚きの顔を向ける。それがおかしくて、沈んでいた気持ちが持ち上がった。


「でもこういう時、実家とか本国へ戻ったりするんじゃっ!」

「向こうも混乱しているからな、それが落ち着くまでの処置だ。ほれ、亡国機業ショックの時と同じだ」

「こっちにいた方が安全と。でもセドリックさん達の許可は? あとは……電波」

「クラリッサだ。せめて名前で呼んでやれ」


一夏、苦々しい顔をするな。相当痛い目を見ているのは分かるが……一夏は入れ直してくれたお茶を、また持ってきてくれる。


「既にクラリッサと、デュノア夫妻の了承は取りつけてある。向こうも同意見だった。
オルコット達は八神宅でお世話になるし……あとは他の生徒達だな」

「みんなは実家、だよな。箒とギラモンはおばさんのところ。でも大丈夫かな。ほら、出席日数とか」

「そこも当然だが、個人の事情にも配慮する。学園長達も早速動いてくれてる。
なのでそこはなんとかなるさ。それよりお前は、自分の心配をしておけ」


お茶を受け取って、熱いのを一口……頭が冴えるな。この渋みがたまらん。


「だが……いかがわしい事はするなよ、未成年」

「はぁ? するわけないだろ、みんな大事な友達だぞ」


コイツは……この鈍さは、本当になんとかしたい。せめて八神を見習ってほしい、アイツは気づくぞ。

どう説教してやろうかと考えていると、一夏が両手をパンと叩いて笑い出す。


「よしっ! じゃあ美味しいものでも作って、みんなと豪勢に食べるかっ!
千冬姉、フランス料理とドイツ料理でいいよなっ!」

「構わんぞ。だがフルコースでも作るのか」

「家庭料理だよっ! 向こうへ行った時、幾つか気に入ったものがあってさっ!
……あー、ドイツ料理も調べないとなっ! せっかくだから八神達も呼ばないとっ! これから忙しくなるぞー!」


説教は後だな。やっぱり止まらない馬鹿だ、アイツは。……今の私達には、その馬鹿が必要なのかもしれん。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


本音とネーモンは家に着いてすぐ、ふらふらとし始めた。あてがった部屋で横にすると、揃ってそのまま熟睡。

やっぱり疲れていたんだと納得。今はロッテさん達が入れてくれた紅茶を飲みながら、残ったメンバーで落ち着いてるとこ。

ていうか落ち着かせて。またフル稼働だから。例のライブ、明日から会場入りだから。


僕もすぐ水瀬家へ戻って、ヒメラモン達と合流しなきゃいけないし。……出席日数、大丈夫かなぁ。


「でもヤスフミ……本音ちゃん、相当疲れてたんだね。もう寝ちゃうなんて」

「だよねぇ。ご主人様が運んだら、ぐっすりだもん。……まぁ当然かー」

「学園があんな事になって、その上親友も心的ショックでしばらく入院だしね。
疲労溜まらない方がおかしいよ。……でも、今はそれでよかったかも。これ見て」


アリアさんが空間モニターを展開。それを三つほどに分裂させて、一気に押し出す。

一つはフェイトとリインフォース、アルフさん達の方へ。一つは僕とセシリア達の方へ。

右手でさっとそれを止め、ガオモンも含めてチェック。見えづらいだろうから、僕が抱きかかえておく。


このデータは……なに、この波形の乱れは。ていうかこの座標は。


「……IS学園の観測データですね。察するにこの波形は、例の炎」

「そうだよ」


さておさらいです。元々IS学園には、なにかあった時のためにサーチャーを仕込んでいました。

ほれ、魔導師部隊襲撃とかあったからさ。オータム達の動きをすぐ掴めたのも、その辺りが大きい。

これはそのサーチャーから取ったデータだよ。ただ、見る限りかなり無茶苦茶だけど。


「該当データはなし。ご主人様が言う『神の力』なら、前例がないのも当然だけど。
このデータから言える事は幾つかあるけど……ぶっちゃけようか。
魔法での対策は不可能だ。もちろんISでも同じ。ご主人様達のキャラなりでもできるかどうか」

「まぁプリズム・エクストリームにでもならない限りは、無理でしょうね」

「じゃああれか? アタシやフェイト達じゃあ駄目って事かよ。ならレナモン」


アルフさんが身体を起こし、辺りをキョロキョロとする。次に見るのはフェイトの両腕。

でもそこにはなにもない。……いつもならポコモンがいるしなぁ。


「フェイト、レナモンは」

「あ、言ってなかったっけ。レナモン、765プロにいるんだ。ほら、ステルス能力があるから」

「んなっ! まさか影からガードッ!?」

「ヤスフミに相談されて、実はこそこそね」


アルフさんが驚きながらこちらを見るので、肩を竦める。黒井社長、今は廃人になったけど……さすがにやばかったしねぇ。

単独で移動する子とかを、こっそり尾行してもらってたんだ。……まぁ貴音にはバレたけど。

でも貴音も趣旨は納得してくれたので、一応『とっぷしぃくれっと』という事になっている。


「アリアさん……ありがと。おかげであたし達の絶望が広がったわ」

「その言葉はさすがに心外だわ。私もロッテとデータ見て、無限書庫で調べたりしてさ……絶望してるの」

「私も同じくだ。戦ってどうこうという相手ではないぞ。……恭文、本当にバトルするしかないのか」


リインフォース、そんな心配そうな顔しないで。あと後ろから抱きつかなくていいから。迫力凄いのよ、ほんと。


「言った通りだよ。それが現時点で思いつく、確実な方法だ。あとは効果がいきなり変わったりしない事を祈るだけ」

「変わりさえしなければ、なんとかなるんだな」

「元々倒す事前提で考えてたしね。目的が派手になっただけで、やる事自体は変わらないよ。ただ」

「なんだ」

「神のカードは使用者に全てを与える。それこそ運命力――運みたいなものも向上するらしい。
つまり引くカードは全て神引きと考えていい。その時必要なカードが必ず出てくる。
こちらのアタックにもかなりの頻度で対応されるだろうし、当然向こうのアタックも厳しい」

「つまり、カードゲーム上でもチート状態か。アマテラス自体に穴があっても、それを運命力とやらが埋める」

「そういう事。……まさかこんなとんでもチートと、またやり合うハメになるとは」


その上今回の騒ぎだ。もうめんどくさすぎるわ。……ただ、半分はワクワクしてる。

だって神様たたき潰せるのよ? 僕の運を良くしてくれない、馬鹿な神様を。愉悦……愉悦っ!


「恭文くん、一応こういう場合、ロストロギアとして回収……という手もあるわよ? クロノ提督達に相談して」


シャマルさんがありえない事を言うので、つい首を傾げちゃう。シャマルさんはなぜか僕を見て、涙目になりながら身を引く。


「……えぇ、無理ね。うん、分かってた。お願いだから『空気読んで』って目で見ないで? 私泣きたくなっちゃう」

「泣きたいのは僕の方ですよ。それに神のカードは管理局とかの手……ううん、人の手には預けたくない。
幾ら倒して調子に乗らなくなったとしても、危険すぎますから」

「では恭文さんとしては、回収次第イビツさんに?」

「そうしようと思う。……少なくとも僕とかが持ってるよりは、ずっと安全だよ。
ラゴシア伯のところも場所が割れてるから、多分危ないだろうしさ」


まぁそんなわけでみんなにも、『余計な事はしないように』と厳命。やらかした場合、間違いなく大変な事になる。

そして僕は……うぅー、フェイトとラブラブできないー。それがめちゃくちゃ寂しいー。

あ、あとはその……リインフォースやシャマルさん達とも。うぅ、僕はやっぱり駄目な奴です。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


水瀬家へ戻り、留守を任せていたヒメラモン達に感謝。お礼のお菓子も届ける。

今日はね……カルビーの贅沢塩キャラメルだよっ! 限定のポテトチップスなんだけど、これが美味しいのよっ!

使わせてもらっている部屋に新聞紙を広げ、その上に置いた大量のポテチをバリバリ食べる。


「ん……これはいいな。甘さと塩味のバランスが絶妙だ」

「うむ、悪くない」


気に入ってくれたらしいダガーレオモンには、またポテチを一枚あげる。ダガーレオモンはそれを口に咥え、器用に咀嚼。

なおヘイアグモンは……気にしないでください。幾らなんでもコイツは食べ過ぎだ。


「それで恭文、なにか分かったか」

「やっぱり今回の事、真なる神のカードが原因だった。……どうやら神様は、今の人間に不満があるらしい」

「そうか。オレ達にできる事は」

「力ずくって意味ならない。あれはバトルを通して、倒さなきゃ止められないみたいだから。だから、僕がやる」

「ならこうしてはいられん」


ヘイアグモンはいきなり食べる手を止めて、近くのナプキンで両手を拭く。

それから立ち上がり、荷物からデッキケースを取り出した。

更にその中から、落書きが描かれたカードが出てくる。これは、アマテラス?


「恭文、バトルするぞ。俺が相手になる」

「それは」

「パソコンを使って描いた、アマテラスもどきだ。本物をいきなり相手にするよりは楽になるだろう」

「……ん、ありがと」


その気持ちに感謝し、早速バトル三昧。神様を倒すために、できる限りの事を始めていく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


本日の一枚――と言ってもバトルしていないので、新しいアルティメットを紹介しよう。

先日情報が公開された、アルティメット・ジークフリーデンだ。



アルティメット・ジークフリーデン

アルティメット

7(赤2白2)/赤白/新生・古竜・武装

<1>Lv3 12000 <3>Lv4 20000 <6>Lv5 30000

【召喚条件:自分の赤スピリット1体以上と白のスピリット1体以上】

【Uトリガー】Lv3・Lv4・Lv5『このアルティメットのアタック時』
Uトリガーがヒットしたとき、トラッシュに置いたカードのコスト1につき、BP10000以下の相手のスピリット1体を破壊する。
(Uトリガー:相手のデッキの1枚目をトラッシュに置く、そのカードのコストが、このアルティメットより低ければヒットする)

Lv4・Lv5『相手のアタックステップ』
相手のアルティメットがアタックしたとき、自分の手札にあるアルティメットカード1枚を破棄することで、このアルティメットは回復する。

シンボル:金

コンセプト:
イラスト:

フレーバーテキスト:
勇者よ、我らの祈りをすべて託します。どうか勝利を。
─アンターク『終焉の黙示録』残り750日─


二〇一三年十月二十六日に販売開始される、アルティメットバトル01で登場予定。

あの聖皇ジークフリーデンがアルティメット化したカードだ。今弾では、今まで見られなかったUトリガーも登場する。

これもその一つだ。二体のスピリットが必要となる召喚条件だが、その分トリガー効果は絶大。


まずはトラッシュへ置いたカードのコスト1に付き、BP10000以下の相手スピリット一体を破壊する効果。

なので最大六体のスピリットを破壊できる。ただしブレイドラなどの0コススピリットの場合、発動しない(はず)なので注意だ。

更に相手のアタックステップ時、アルティメットがアタックすると使える回復効果。


アルティメットの破棄も必要なので、決して気軽に使える効果ではないが、強力なのは間違いないだろう。

あのジャッジメント・ドラゴニスも登場するアルティメットバトル01、みんなも是非ゲットしよう。



(Battle50へ続く)







あとがき


恭文「はい、お待たせしました。やっぱり月変わりは忙しい……お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。みなさん、同人版のご購入ありがとうございました」

恭文「ありとうございました」


(ありとうございました)


恭文「……ごめん、最終話と言ったけどあと一話続くんじゃ。意外とISサイドの話が長くなった」

フェイト「みんなの動向もあるしね。でもアマテラス、なんて凶悪な」

恭文「神を斬るっ!

フェイト「ヤスフミ、それ敗北フラグだよっ! 恭也さんの声は真似しなくていいからっ!」


(『ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
『ヤイバァァァァァァァァァァァァァァッ!』)


恭文「……さてみなさん、ここで本編には一切触れず、悲しいお知らせをしなくてはいけません」

フェイト「え、触れないってなにっ!?」

恭文「それくらい重要なんだよ。……先ほど届いたばかりの拍手です。どうぞ」


(初投稿者「トーマーーーー!」

凉次「あん?初のやつどうしたんだ?」

匳「これ」

凉次「うん?今月の娘type・・・なんだと!?」

勝吾「どうした?」

匳「Forceが・・・長期休刊だとよ」

勝吾「あららー調子にのって二本も新作作るから」

凉次・匳『オイ!バカ!!ヤメロ!!!』

勝吾「いや・・・事実だろ?なぁ〜恭?」)


恭文「事実だけど言わないでやってよっ! 作者もこれ終わったら、ディケイドクロスに集中するからっ!」

フェイト「ブーメランなんだね。えっと……えぇっ!」

恭文「はい、まぁこれが届く前から知ってはいましたけど……リリカルなのはForceが長期休載となりました」


(ががーんっ!)


フェイト「え、えっと……これはその」

恭文「既にやばい状況になっています。トーマはポケモンのジムリーダーを目指して旅に出て」

フェイト「どうしてポケモンッ!?」

恭文「巨人を駆逐して、女バスのコーチとして皆を守るんだって」

フェイト「意味分からないよっ! トーマどうしちゃったのっ!」


(『俺はジムリーダーになって、巨人を一匹残らず駆逐するっ! そして女バスのみんなを守るんだっ!』)


恭文「リリィはキープスマイリングを口癖に、笑顔の練習」

フェイト「それどっちにしても未来ないんじゃないかなっ! 悪役だよっ!? 多分生き残れないよっ!?」

恭文「大丈夫だよ。なんかトーマとToLOVEるしちゃうそうだから」

フェイト「リリィ、しっかりしてー!」


(『キープスマイリングよー☆ ……うぅ、恥ずかしいよー』)


恭文「アイシスははい寄る混沌デッキを組み……ほら、ちょうど覇王編でニャルラトホテプモチーフのカード出たから」

フェイト「それは止めた方がいいんじゃないかなっ! 怖いよっ! 異合に偏るのは怖いよっ!」

恭文「大丈夫だって。ランも一緒だから」

フェイト「ランちゃんもなにしてるのー!」


(『アイシス、これ入れたらどうかなー』
『あ、いいかも。じゃあ早速回してみよー』)


恭文「フッケバイン・バンガードのみんなは、『オレ達暴れすぎたかな』と反省会モード」

フェイト「みんなは悪くないよっ! 大丈夫だよ、なにも悪い事はしてないよっ! 少なくともここではっ!」

恭文「しょうがないから巨人駆逐しに行くって」

フェイト「死んじゃうから駄目ー! なんかそういうフラグにしか見えないよー!」

アルナージ「……いや、でもそんな勢いなんだよ」


(現地妻十号、登場です)


恭文「あれアルナージ、こっちきてよかったの?」

アルナージ「だって、あんまりに湿っぽすぎて……! あのカレン姉でさえ、放心状態なんだよ?」

恭文「おー、よしよし」


(蒼い古き鉄、さすがにいつものドSは出せず、現地妻十号の頭を優しく撫でる)


アルナージ「うぅ、ありがと」

フェイト「と、とりあえずアルナージ……みんなの目を覚まさなきゃいけないから、協力してくれる? 特にトーマ」

アルナージ「……トーマはもう、そっとしておいていいんじゃないかな」

フェイト「駄目だよっ! 明らかに方向音痴すぎるのにっ!」


(でもあれは……ねぇ?
本日のED:fripSide『eternal reality』)






アルナージ「まぁしょうがないかー。放ってもおけないしなぁ。でもトーマ、なんでポケモン?」

恭文「今度始まる、ポケモンの新シリーズに出るみたいだね。ジムリーダーなんだって」(注:中の人です)

アルナージ「あー、ようはあれか。タケシポジか」

恭文「それ。まぁアルナージだけに任せるのもあれだし、僕も頑張るよ。ついでに協力者も呼んだ」

アルナージ「協力者?」

スバル「トーマが一夏病になったって聞いてっ!」

一夏「オレを病原菌みたいに言うの、やめてもらえますっ!?」

アルナージ「あー、姉貴分と経験者か。そういやアンタもあれか。
ガンダムパイロットとナンバーズハンターって妄想に囚われてたんだっけ」

一夏「いや、オレはガンダムパイロット兼ナンバーズハンターですけど」

アルナージ「……経験者どころか現在進行形じゃないのさっ! てーかアニメ放映直前なのにこれはなにっ!」

恭文「まだアニメ二期が始まるって、現実を信じられないんだよ。もう察してあげて?」

アルナージ「察するからコイツは帰せっ! 絶対逆効果だってっ!」


(おしまい)



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あきゅろす。
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