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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第35話 『NEXTの世界/守り抜く宿命 伝え行く運命』


恭文「前回のディケイドクロスは……火野恭文ー!」

ユウスケ「もうそこいいだろっ! ていうかなんだよ、元首領ってっ!」

恭文「え、知らなかったの?」

ユウスケ「お前は知ってたのかよっ!」

恭文「だって劇場版ディケイドで」

ユウスケ「リアルの話持ち出すのってズルくないかっ!?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いきなりワケ分かんない奴らに、私達の全部が壊された。それで留置場にぶち込まれて、ガタガタ震える。

嘘だ、こんなの嘘だ。私は悪い事なんてしてない。元はと言えば、あの子が……そうだ、あの子が悪いんだ。

私達がChiharuでなにが悪いの? ワケ分かんない、私やファンが満足してるんだから、それでいいじゃない。


大丈夫だ、こんなので罪になるわけがない。これで……そう思っていると、留置場の照明が一気に落ちる。

さすがに暗くなったので気づいて、顔を上げた。すると私の目の前に、ちはるの顔があった。

私と一緒に入れられているおばさんとかじゃない。それは見間違えるはずのない、ちはるの顔だった。


慌てて声を出そうとするけど……あれ、出ない。混乱しながら辺りを見渡して、私はようやく気づいた。

あの口やかましいデブいおばさん達、首が変な方向に折れ曲がって倒れてるの。まさか……すぐに逃げようとする。

でも身体が動かない。するとちはるは笑いながら、私の足に触れる。


下から上へなで上げるように触られると、触れられたところが爆ぜた。血と肉が噴き出し、気絶しそうな痛みに襲われる。

でも気を失えない。声を出す事も、逃げる事もできない。ただ震えながら、涙を流すしかなかった。

次にちはるは足の小指に触れる。すると指が……やだ、こんな死に方やだ。お願い、助けて。


謝るから。私が悪かったって謝るから……助けて、助けてよぉっ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


まぁ当然のようにデンライナーの車内は、どういう事かと揉める事になった。なので僕から軽く説明。

仮面ライダーが持っている、業の話をさせてもらった。それは……同族殺し。

仮面ライダーはどういうわけか、相手と同じ力を使った上で戦うという共通点がある。


それはモモタロスさん達自身を振り返れば、すぐ納得できるものだった。だからね、ちょっと考えたんだ。

ディケイドが破壊者で、ライダー大戦なんて起きるのは……ライダーを倒すためのライダーだからじゃないかって。

ここは渡さん達の計画抜きにだよ。そこで一番に思いついたのは、初代仮面ライダーに出てきたショッカーライダー。


つまりディケイドは、スーパー大ショッカーが開発した現代版ショッカーライダーなのよ。

正直確証もない、妄想と言われれば否定できない与太話。でも渡さん達は、頷きを返してきた。


「待て蒼凪っ! お前、なにを言っているっ! あまりにおかしいではないかっ!
それでは電王が、ネガタロスや他のイマジン達と同じと罵っているも同然だろうがっ!
仮面ライダーは、子どもが憧れる正義の味方と聞いたっ! それがそんな存在のわけないだろうっ!」

「シグナムさん、僕の話を聞いてました? その通りですよ。電王だってイマジンの力を使い、イマジンを止めてる。
相手方と同じ力、または相手方の技術を用い戦う同族殺し――それが仮面ライダーの本質です」

「そんな馬鹿な話があるかっ! 奴らは醜き悪の存在だぞっ! それが正義の味方と等しいわけがなかろうっ!
いいか、そんな事はもう二度と言うなっ! それは我々を助けてくれた、ライダー達への侮辱だっ!」

「いえ、彼の言う通りです」


不満そうなシグナムさんはともかく、二人は突き刺さる部分があるらしくすぐ認めてくれた。

それに一安心だよ。ここで問答するのも面倒だし。


「実際僕も、ファンガイアと人間のハーフです。そうじゃなきゃ、キバにはなれなかった」

「ファンガイ……怪人との子どもっ!?」

「えぇ。ファンガイアは人間との間に、そういう営みも作れるんです。僕の父さんと母さんも、愛し合った上で僕を」

「俺もミラーモンスター――怪人と契約して、ようやく戦えるようになるからな。
恭文が言ってる事、実に筋が通ってるんだよ。本質って言われたら否定できない。
……それで門矢士は……記憶を失う前、スーパー大ショッカーの一員だった」


やっぱりか。そこも既に確証が掴めてるって感じなのかな。結構力強く言ってくれるし。


「ただ俺達はその時、スーパー大ショッカーの存在は知らなかった。
あくまでもあっちこっちの世界で暴れる、『破壊者』という認識だったんだ。
しかもアイツによって生まれた影響は、姿を消した後も残ってしまっていた」

「それまではこう、ディケイド軍団って感じだったんです。ネガタロス軍団みたいなノリで」

≪同士討ちのために、巧妙に隠れてましたしね。ディケイドを目くらましに、根回ししまくってたんでしょ。
ならあなた達が本格的にスーパー大ショッカーの一員だと察したのは、やはり≫

「ここのみなさんが、鬼退治した時の前後です。残党的に動いてるってのは知ってたんですけど」


ようは少人数の派閥で、悪い事をしている奴ら。それがディケイドへの認識だった。

しかもその影響は決して見過ごせるレベルではなく、渡さん達が謀殺なんて手を思いつくほど深刻。

でも少し気になって調べてみたら、そんなの全くの勘違い。予想外にでかい組織が絡んでいたと。


まぁ全ての世界にいる怪人達が、手を組んでるしなぁ。想像しろって方が難しい……ちょっと待って。

ディケイド軍団って認識だった? つまりそれって。


「まさか」

「えぇ。門矢士は……スーパー大ショッカーの首領です」


そこで全員がまさかという顔をする。僕も士さんの顔を思い出して、もうなぁ。どう言っていいのか分からないよ。


「ほな首領自ら暴れまわって、世界壊そうとしてたんかっ!」

「あらら……これは意外な真実ってやつ?」

「意外すぎるだろうがっ! おいわたあめ、それマジかっ!」

「わた……いや、僕渡ですよっ!?」

「モモタロスの馬鹿はいいからー! でもでも、そんな悪い奴に見えなかったのにー!」

「……それありえるで」


混乱するモモタロスさん達をよそ目に、はやてが静かに呟く。それで僕の方を見るので、同意見と頷きを返した。


「ディケイドの能力は敵に回ると厄介やし、なにより囮としては十分やろ。ライダーが破壊活動やもん。
もしも最初から組織を隠した上でなにかやろうってしてたなら、自然な流れやと思う」

「主はやて、あなたまで仮面ライダーが悪と同じなどという、荒唐無稽な話を信じるのですかっ!
もう一度言いますが、そんな事はありえませんっ! こんなのはこじつけだっ! 私は絶対に信じませんっ!」

「こじつけちゃうよ。実際仮面ライダーという番組は、ダークヒーローとして生み出されたんやから。
……敵と同じ改造人間の身体で、悪と戦う。その悲しみから仮面には、泣いているようなデザインが組み込まれている。
ここはな、どんな仮面ライダーにも共通しているところなんよ。アンタがなんと言おうと、絶対に変わらん」


とか言いながら、はやての頭にはぐさぐさとなにかが突き刺さる。まぁ本質理解せず、これだしなぁ。

ていうか、こっちの機動六課も……まぁなにも言うまい。その話したら、はやてやフェイトが自殺しそうだし。


≪それであなた達は門矢士を見つけ、暴れたせいでおかしくなった世界を治そうとした。
それも鬼畜外道の所業で。鬼畜外道としか思えない所業で。あなた達の方が悪魔ですって、それ≫

「ご、ごめんなさい。もうここは、僕達の不手際です」

「だがなんでや。わざわざもやし巻き込まんでも、恭文のあれだけで十分やろ。もやしは記憶なくしてるんやで」

「……さっきも言いましたが、異変はディケイドを中心に起こっているんです。
だからそれを正すなら、中心に彼を置かないと意味がない。それが僕達の結論でした」


だからこその謀殺で、だからこその計画であり破壊。しかもそれが諸悪の根源なら、ためらう必要もない。

ついでに士さんが記憶を失う前もあのままだったら、適当にやってるだけでつぶし合いをしてくれる。

まぁ他の世界のライダーを破壊させるんだから、その時点で鬼畜外道なのは否定できないけど。


元に戻そうって辺りで少しは……軽くならないよねー。二人がどんどん針のむしろになっていく。


「……あれ、ちょっと待って。ヤスフミ、それならあの海東って人は?
ほら、あの人も仮面ライダー呼び出したりできるし」

「海東のディエンドも、恐らくスーパー大ショッカーが作ったものだよ。
さっきも言ったけど、ディケイドの特徴はやっぱりカメンライド。
それで多種多様な相手への対抗策を打ち出し、倒していくのが役割だろうから」

「いろんなライダーを呼べるディエンドも、それに当てはまる? ならあの人……スーパー大ショッカーの人じゃっ!」

「違うと思う。だってほら、鬼退治してる時点でスーパー大ショッカーに反旗翻してるし」

「あ、そっか」


単純にドライバーだけ奪ったのかもしれないし、やっぱ判断つかないなぁ。ほれ、泥棒だから。

それに……アイツはスーパー大ショッカーに、使われるような奴に見えないしね。

なんだかんだで手助けしてもらったせいか、そんな事を考えてしまっていた。


「それで、その事士さんには」

「首領かもという話はしていません。僕達は言うべきだと思ったんですけど、天道さんが止めてきて」

「なんでまた」

「……僕にも分かりません。あの人、自由すぎて。もう泣きたい」


それで渡さんは、本当に崩れてテーブルへ突っ伏す。そんな渡さんを、涙目で真司さんが慰めた。

まぁ、いろいろあったんだよね。あの人自由だから……振り回されてるんだろうなぁ。


「……かうかうー♪」


あれ、なに。渡さんの泣き声じゃないよね。やたら明るい声だし。

それでキョロキョロすると、天井付近に赤い蛇……いや、龍が飛んでいた。

しかもその龍は両手で抱えられるサイズで、デザインはドラグレッダーそのもの。


当然ながらそれを見た全員が驚き、人によっては身を後ろに逸らす。


「え、あれなにー!? 可愛い龍だよー! 見て見てー!」

「リュウタ、言ってる場合じゃないってっ! ていうか龍ってっ! どこから入り込んだのっ!」

「えぇい、怪しい奴め……レヴァンティンで」

「やめてくれっ! ていうか悪い、コイツ俺の知り合いだっ!」

『はぁっ!?』


真司さんが慌てた様子で立ち上がり、両手を伸ばす。それでミニドラグレッダーは、一目散に真司さんへ飛び込む。

受け止められたドラグレッダーは、まるで幼い猫か犬の如く真司さんへすりすり。


「かうー♪ かうかうかうー♪」

「あー、よしよし。ていうかどうした、ちょっと待ってろって言っただろ?」

「かうー」

「寂しかった? お前はまた……ほんとキャラ変わってるよな」

「かうー?」

「あ、あの……真司さん、そのミニドラグレッダーは」


さすがに放置もあれなので、僕が代表して聞く。するとフェイトや他のみんなが、真司さんから僕へ視線を移した。


「アンタ、知ってるの?」

「……ドラグレッダーは、真司さんの契約モンスターだよ。ほれ、さっき話したでしょ」

「あぁ、あの……ちょっと待ってっ! ミラーモンスターってみんなこんな感じなのっ!?」

「いや、テレビに出てきたものは、全長十メートル近くあった。性格だってもっとどう猛だったし」

「なんだよなぁ。いや実はさ、ミラーモンスター達はみんな……みらーもんすたぁって、萌えキャラになってて」

『はぁっ!?』




世界の破壊者・ディケイド――幾つもの世界を巡り、その先になにを見る。

『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説

とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路

第35話 『NEXTの世界/守り抜く宿命 伝え行く運命』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――スーパー大ショッカーに盾突いたその罪、惨めな死で償いなさい。……さようなら、元首領」


すぐにカバーしようと思ったが、奴の呟いた一言で動きが止まる。どういう、事だ。

いや……今はいい。とにかくトラックの前に回りこんで、士を助ける。だが復活した時にはもう遅かった。

士とトラックとの距離は、目と鼻の先。もう俺じゃ、どうやっても追いつけない。


「……士っ!」


声をあげるしかできなかった俺の視界に、白い大型バイクが映る。

それは跳躍しながらコーカサスの脇を通り、黒トラックの側面へ。

これは、CB1300か? 結構改造されてる感じだが、大体のデザインは似てる。


それに乗っていた白ジャケットの男は、バイクから飛び上がりながら……いや、バイクもろともトラックへ突撃。


「おりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


右足とタイヤが正面衝突すると、トラックの装甲は手品でも使ったみたいに裂け、衝撃で横倒しになる。

それにより士の頭から離れたトラックは、そのまま回転。俺は慌てて速度を上げ、黒トラックから離れる。

その間にトラックはこっちにケツを向け、爆散。そんな中から、あのバイクと男が飛び出してくる。


いや、あれは男じゃない。本郷さんとは色合いの違う、仮面ライダーだった。

もちろんデザインはほぼ同じなんだが、色合いとしてはこちらの方が明るい。だがなんだ、あの口元の血は。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「これは、一体」


コーカサスが驚いている間に、腹を蹴りとばしてどいてもらう。全く……人をしつこく踏みつけやがって。

そのまま起き上がると、大型バイクに乗ったライダーが跳躍。俺の右隣へ乗っかってくる。


「無事だったか」

「あぁ。おかげさまで死に損なったさ」


そのまま奴は拳を握り、腰も落として構えを取る。……声を聞いて確信した、コイツは一文字だ。

さっきの転送魔法も、蒼チビだな。俺達を囮に、めぼしいのを潰すって作戦だ。

まぁ元々そういう話だったし、驚きはしてないが。……いいタイミングって事以外はな。


「まぁ、俺は不死身だから問題ないがな」

「それはなによりだ」

「愚かな。スーパー大ショッカーに逆らうのですか。ならばせめて」


アイツはまたどこからともなくバラを取り出し、それをパッと離す。そうして左手を腰サイドに当てる。

またハイパークロックアップか。くそ、幾ら不死身でもあれは。


「あざやかな死を……!?」


だがそこで奴の様子が一変。それもそのはずだ。よく見ると腰についていたメカカブトムシが、どこにもない。

あれが蒼チビの言っていたハイパーゼクターなのは、既に分かっている。つまり……なるほど、大体分かった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一文字さんを先に突っ込ませ、その上でトラックとの距離を詰める。もやしが押されていたけど、今は助けない。

最悪の場合は介入するけど……まぁハイパークロックアップがあるなら、普通に時間移動も可能だけどさ。

ようはもやしが死んでも、死ぬ前の時間に戻って止めるのよ。ハイパーゼクター優先なら、それもアリだよ。


だけどそれは極力やりたくない。昨日も話したけど、全世界の時間流そのものからおかしくなってる。

普通の状態ならともかく、そんな中でタイムスリップなんてしたら一体どうなるか。

下手をすれば時のはざ間的な場所へ跳ばされて、一生出られないなんて事もありえるから。


でもギリギリのところで、一文字さんの介入が間に合った。その瞬間、転送魔法発動。

それによりハイパーゼクターをしっかりゲット。ハイパーゼクターは逃げようともせず、僕のベルトへと装着された。


「様子見てたと思ったら、これが狙いだったんだな」

「えぇ。もやし達には予め伝えてあります。それでもちょいヒヤヒヤしましたけど」

「そっか。信頼してるんだな」

「まさか。あの性悪をどう信用しろと? まぁ疑ってもいませんけど」


既に変身状態なのに、本郷さんが笑った気がした。そうしてサイクロン号へまたがり、本郷さんはエンジンをかける。


「じゃあ俺はあっちに。蒼凪君は」

「あの金色カブトムシ、ちょっと邪魔なんで蹴散らします」

「気をつけてね」

「そちらも」


バイクで走る本郷さんを見送ってから、僕は右手をスナップ。それから左手をハイパーゼクターのホーンに駆け。


「ハイパーキャストオフ」


下へコッキング。するとハイパーゼクターから黄色の火花が走り、全身のアーマーへと迸る。


≪HYPER CAST OFF≫


その火花をアーマーが吸い込み、せり上がるように大型化。思わず自分の姿をガン見してしまう。

そうだ、これだ。間違いない……これがハイパーダークカブト。ダークカブトのハイパーフォームだ。


≪CHANGE――HYPER DARK BEETLE!≫


試しに角も両手でぽんぽんと触ってみると、ハイパー化する前より大きい。……やばい、感動かもー!

僕、本当にダークだけど、ハイパーカブトになったんだよねっ! 旅しててよかったー!

でも喜ぶのは後。まずハイパーゼクター中央にある、スラップスイッチを左手で叩く。


「ハイパークロックアップ」

≪HYPER CLOCK UP≫


各装甲が展開すると、僕の意識に合わせて瞬間移動。空間そのものを突き抜け、僕は戸惑うコーカサスの隣へ。

それで奴が気づく前に右フックで、ゆっくりと走るトラックからたたき落とす。

ついでに円筒形コンテナにも触れて、再び空間跳躍。奴の頭上二十メートルの位置へ移動し、そのまま下降。

落下するコンテナから離れ、安全圏を確保した上で着地。コンテナは吹き飛ぶコーカサスと同じく、スローで落下していく。


≪HYPER CLOCK OVER≫


そこで時間切れ。装甲が閉じられると、全ての存在が元の速度に戻る。いや、僕の速度が戻っただけか。

コーカサスが落下すると、その眼前には運搬されていたはずのコンテナ。

そしてコーカサスは、クロックアップする間もなく押しつぶされる。


「が……!?」


奴のうめき声が響いた瞬間、盛大な爆炎が発生。コンテナの破片もろとも、中の荷物を燃やしてくれた。

アルトのサーチだと、あれにナノマシンが入っていたようだし……念のために近付かないでおこうっと。


「返し、なさい」


そして炎の中から、怒りに溢れた声が響く。奴はややふらつきながら……いや、すぐに姿勢を戻した。

前のめりになり、こちらを睨みつけながら近づいてくる。やっぱあれじゃあ死なないか。


「なに、これがないと強くないってわけ? また三流だねぇ」

「――恭文っ!」


僕の左隣から、チェイサーに乗ってユウスケがやってくる。でも距離を取った上で停止し、首を傾げた。


「……だよな」

「おかげさまでね」

「やったじゃないかっ! これで敵なしだろっ!」

「相変わらず調子のいい。でもありがと」

「そうはいきません。戻りなさい、ハイパーゼクター」


奴が左手を伸ばし声かけしても、ハイパーゼクターは無反応。ただ緑色の瞳を輝かせるだけだった。


「なぜです、それは私専用のはず。……戻りなさいっ!」

「当然でしょ。僕は既に未来を掴んでいる。ユウスケ、離れてて」

「一人で大丈夫か?」

「それを試すのよ。さぁ」


僕は左手をスナップさせてから、コーカサスを指差す。


「お前の罪を数えろ」

「ならば、力ずくで返してもらいましょう」


諦めが悪いねぇ。まぁ向こうもプライドがあるから、しょうがないか。……全力で潰す。

右手をスナップさせ、駆け出してくるコーカサスを迎え撃つ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一文字さんへの処置は、なんとか完了。でもそれで即行飛び出すって……命知らずと言うしか。

あとはバインドに縛られながら、未だにうなだれている風見さんだね。あむちゃんももう、呆れた顔して見てたし。

そんなわけで写真室は現在、無駄に重い空気です。こういうのは初めてじゃないはずなのに、どうしてだろう。


『――次のニュースです。昨日警視庁の留置所内で、何者かによる大量殺人事件が発生しました』


そんな中、空気を更に重くするニュースが流れる。ていうか、留置所内で大量……どうしたらそんな事に。


『被害者は留置所内にいた容疑者全員。警視庁では前代未聞の事態として、緊急捜査を開始しました』

「あらま、怖いねぇ」

『その中にはつい昨日発覚した、Chiharuこと風見ちはるさんの事件に関係している』


そこで気になる名前が飛び出て、私達は慌ててテレビへ詰め寄る。

するとテレビには男性二人と、女性の写真が映し出されていた。


『トライスター・プロモーション社長・進藤竜太容疑者、同じくマネージャー・山崎正隆容疑者。
所属タレントで風見ちはるさんの替え玉となっていた、戸塚尚子容疑者の三人も含まれます。
三人が留置された直後に起きた事件なので、なんらかの関係があるとして調べを進めています』

「そんなっ! これって昨日、士くん達が会った人達ですよねっ!」

「なの、かな。でも容疑者全員って……そんな」

「外してください」


あむちゃんが顔を真っ青にしているので支えていると、床にうずくまっていた風見さんがいきなりそう言ってくる。

しかも相当慌てた様子で、こっちを見てきた。私にとっては今まで見た事もない、真剣な顔だった。


「お願いします……早くっ!」

「え、でも」

「夏海ちゃん」


そこでフェイトさんが傍らのフォークを飛ばして一閃。それでなぎ君がかけたはずのバインドは、あっさり粉砕された。

……だからどうしてっ!? ねぇ、このチート能力はなにっ! そもそも傍らにフォークってところからおかしいっ!


「ありがとうございます。この礼は必ず……あむちゃん」


風見さんがすたすたとあむちゃんへ詰め寄ってくる。なにかするのではとガードするけど、風見さんは私達を押しのけた。

そうしてあむちゃんの肩を優しく掴んで、そっと頭を撫でる。そのあまりの気遣いに、あむちゃんや私達も面食らった。


「これはショッカーの仕業だ。私には分かる、彼らはショッカーに協力していたんだ」

「え、でも昨日の様子だと」

「全てを話していたわけじゃなかった。だから君はこの事を気にする必要はない。いいね」


戸惑いながらもあむちゃんが頷いたのを見てから、風見さんはすたすたと写真室を出ていった。


「フェイトさん、良かったんですか?」

「うん。フォークが」

「「もうそれいいですから―!」」

「アイツ、どうしていきなり」


あむちゃんの問いかけに、私達はなにも答えられない。ただ、分かった事がある。

あの人の中で、なにかが変わった。だってあの人の目……とても強い輝きが生まれていたの。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いきなりコーカサスが吹き飛んだかと思うと、俺達の目の前から円筒形の荷物が消えた。

そして後ろの方で爆発……蒼凪君、派手にやるなぁ。じゃあこっちもいきますか。

サイクロン号のアクセルを全開にし、左へ傾けながらトラック前方にいる車の真横へ。


すると助手席にいた眼鏡の男が、虎っぽいマスクをかぶる。窓ガラスガン無視で、こっちに刃を突き出してきた。

慌てて身を後ろに逸らし、ガラスを砕きながら迫る刺突は回避。すぐさま左薙の斬撃が来るので、頭を伏せてキャノビーに身を隠す。

追撃をふせぐためにも、まずは右ミドルキック。車を蹴飛ばし、強引に右へ走らせる。……あ、やばい。


ワゴンはたまたま通りがかった、木造のステーキハウスへ突入。垣根を突き破り、そのまま店内へ乗り込んだ。

聞こえる悲鳴に寒気がするものの、慌てて車体を左へ。するとトラックが俺の脇を抜け、そのハウスの近くで停車。

もしかして……俺もサイクロン号を止め、慌てて店内へ乗り込む。中はやけに広く、死傷者は出ていない様子。


店内中央にはT字型の階段があり、その上からリザードとショッカーライダーが降りてきていた。

やっぱりここは連中の基地だったのか。拳を構えている間に、一文字達もやってくる。

まずはあの虎頭。下がっていく虎頭を追いかけると、ショッカーライダー達の脇から戦闘員が出現。


一人目を右フック、二人目を左ラリアットで倒し、三人目は右後ろ足払いで床に倒す。

前に回りこんできたショッカーライダーの右フック、続けての左ボディブローを両腕でガードし、すぐさま腹を蹴り飛ばす。

動きを止めた上で、胸元に右ストレート。ショッカーライダーは胸元から火花を走らせ、そのまま壁へ叩きつけられた。


すると背中に衝撃……背後に回っていたショッカーライダー三人に蹴飛ばされ、床を前転。

なんとか起き上がると目の前には虎頭。逆袈裟の斬撃を下がって避け、刺突に合わせてしゃがみ込む。

頭上スレスレに通っていく刃は気にせず、そのまま左足払い。だが奴は跳躍し、前転しながら回避。


そのまま振り返り、立ち上がりながら左回しげり。奴はまた跳躍し、店内奥にあるカウンターに乗った。

すばしっこいと思いながら詰め寄ると、奴の身体が一気に沈み込む。そうしてカウンター上から、右ミドルキック。

胸元に強い衝撃を受け、俺は情けなく吹き飛んでしまった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


本郷の馬鹿をけり飛ばしたショッカーライダー三人の背後から、連続右ミドルキック。

スキだらけな奴らを吹き飛ばし、続けて右からくる戦闘員をバックブローで沈めておく。

逆側から迫ってきた奴も右エルボー・右ミドルキックのコンボで吹き飛ばす。


背後から迫ってきたリザードのチェーンソーを、走って避けて壁際へダッシュ。

壁を蹴飛ばし反転して、追いかけてきたショッカーライダーその五の顔面へ一発。

そのまま走り出し、跳躍しながら右回しげり。奴は足を開き、地面にぺったりくっつきながらしゃがみこんだ。


そのままリザードの頭上を飛び越え着地。リザードは立ち上がり、すぐさま右足払い。

それにすくわれ床を転がるが……リザードと挟み込む形で来たショッカーライダーその五へ、右足を打ち込む。

動きを止めてからくるりと回転し、一気に起き上がる。突き出されたチェーンソーを避け、続けてくる刺突も右へ回避。


チェーンソーの根本を受け止めガードしつつ、すぐさま足払い。動きを止めてから反時計回りに回転。

右バックブローでチェーンソーを払い、そのまま左後ろ回しげり。リザードの胸元を蹴飛ばし距離を取った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なるほど、大体分かった。本郷が力重視なら、一文字は技重視と。動きが本郷のそれと比べたら実に軽やかだ。

色以外ほとんど違いはないが、動きはまるっきり別人。まぁ当然とも言えるが。

次々と湧いてくる戦闘員達を斬り払い、本郷の方へ近づく。その間に一文字はリザードの斬撃を避けながら、T字型階段を上がる。


本郷の虎は刀……いや、ハサミか。それを避けるので精一杯だったので、無理矢理割り込んでブッカーで防御。

袈裟・右薙と打ち込み、襲ってくる二刀を払い唐竹一閃。そこでつばぜり合いとなる。


「ディケイド……我らショッカーの邪魔をなぜするぅっ!」

「やっぱ俺が元首領とやらだから、そういう事を聞くのか」

「知らんなぁっ! 偉大なるショッカーの邪魔をする事が、単純に理解できないのだよっ!」

「さぁな。もしかしたら」


奴と距離を取り、背後へ袈裟の斬撃。迫っていた戦闘員を両断する。それから虎頭へ向き直り、左手でブッカーの刃をすっと撫でる。


「俺が破壊者だからかもしれないぞ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


リザードの右薙一閃を、階段中ほどで跳んで回避。そのまま左手を奥の手すりへ伸ばし、一気に二階部分へ。

こっちをのぞき込んでいたショッカーライダーの右フックを左腕でガードし、カウンターの右ストレート。

沈めてから別のライダーが俺の右サイドへ回り込んで、右回しげり。それを左腕で払い。


「はぁっ!」


胸元へ右ミドルキック。背後にあった壁もろとも、邪魔なのをぶち抜く。

また別な奴のワンツーパンチを裁き、そのまま押し込み二階にあるバーカウンターへ。

ソイツの腹を蹴飛ばし、四体目の左フックを伏せて回避。入れ替わりに迫る五体目へ向き直り、左右の連続ボディブロー。


五体目は少しよろめくと、俺へ右ハイキック。それを右腕でガードしながら払い、すぐに右ストレート。

それを吹き飛ばすと四体目が後ろへ回り込み、また左フック。それを伏せて避け、跳躍してカウンター上へ。

中にいた戦闘員の顔を蹴飛ばし、俺と同じように乗ってきた別の戦闘員と対峙。


右フックでカウンターの端――柱へ叩きつけ駆け出し、まずは飛び込みながら右ミドルキック。

それで奴の背骨をへし折りながら、また跳んで反転。上がって俺を追ってきた四体目へ跳びかかりながら左フック。

カウンター上へ倒れ込みながら、落ちた四体目へ向き直りながら左後ろ回しげり。


起き上がっていた奴の側頭部を打ち抜き、再び転がしておく。

すると右足に衝撃が走り、一回転しながらカウンターへ背中から落ちる。……足払いか。

そのまま回転しながら、カウンターの外へ落下。俺の身体は床を転がった。


すぐさま迫る四体目の腹を、右ハイキックで打ち抜き起き上がる。そこでリザードが迫り、唐竹の斬撃。

すぐさま根本を受け止め、チェーンソーを止めようとするが……やっぱ力強いわ。スペックじゃあ勝てないか。


「……なんてなっ!」


強引にチェーンソーを上へはねのけ、再び振り下ろされる前に左右の連打。リザードを下がらせ、すっと立ち上がる。

走り出しながら右フックを放つと、リザードはしゃがんで避けながら俺と交差。

背後を取って、唐竹の斬撃……俺は振り返りながら身を反らし、斬撃を回避。物騒な刃は近くにあったテーブルを両断する。


奴が身体を起こす前に右フック。いら立ち気味に右薙の斬撃がくるが、それも伏せて胸元に右ストレート。

動きが止まったところで踏み込み、右ストレート・右ストレート・左ハイキック・右ストレートと打ち込み、よろめいたところで右アッパー。

リザードは身をきりもみ回転させながら、床を転がった。うし、この調子で……と思っていたところで、身体に違和感が走る。


強烈な痛みと、呼吸そのものから握りつぶされそうなプレッシャー……俺は次の瞬間、足を止めながら吐血していた。


「――一文字っ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


二階にいる一文字のマスクから、真っ赤な血が勢い良く噴き出した。……マスクについていた赤いのは、あれが原因か。

だがどういう事だよ。まさかリジェクションってやつか? それは治った……治ってるわけないよなぁ。

そこも蒼チビから事前に説明されていた。あくまでもできるのは、血液交換によるリジェクションの抑制だけ。


現象そのものの除去は、それこそ一文字の身体を分解して作りなおすくらいしないと無理だと。

そしてリジェクションは放置しておくと、起きる間隔が短くなっていく……病み上がりじゃあこれが限度って事か。

慌ててカブトになり、クロックアップしようとするとショッカーライダー達が詰め寄ってくる。


くそ、こっちになにもさせないつもりか。蒼チビはカブトムシ狩りしてるし……やばい、余裕こきすぎた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やっぱ、根本から治すのは無理か。それでも大分マシになってるんだが……動きを止めている間に、四体目と五体目が俺の腕を掴む。

そうして窓際へ連れていかれ、二人同時にボディブロー。そのまま押し込まれてしまう。

続けて六体目が飛びげり。そして他の二体が回しげり。それを食らってよろめく俺は、リザードにキャッチされる。

だがすぐに突き放され、左腕で首を捕まれる。


「惨めだなぁ」


あざ笑うような声とともに、右回しげり。それをまともに食らった俺は、二階の窓を突き破りながら吹き飛んだ。

さすがにこれで死ぬような事はないだろうが、集中攻撃を食らう二人がやばい。

すぐ戻らないと……そう思っていると、エンジン音が響く。どういう事だろう、これは。


俺の目の前に、カウル付きのオフロードバイクが飛び込んできたんだよ。乗ってるのは、赤いヘルメットのライダー。

ソイツは左腕で俺を抱きとめると、そのまま割れた窓へ突入。手すりをへし折り、バイクごと床を滑った。

ショッカーライダーや戦闘員達を跳ね飛ばしている間に、俺も床へ落ちてなんとか一息つく。

そうして立ち上がり、正体不明な奴を見上げる。おい、まさかコイツは。


「馬鹿な……Version3! なぜソイツを助けるっ!」

「おい、貴様なにをしているっ!」


六体目のショッカーライダーが、奴の背後へ迫る。だがその瞬間、こん身の肘打ちがショッカーライダーの顔面を捉えた。

それにより仮面は砕け、中の顔も無残な姿になる。スプラッタ状態になった六体目は、その場で膝をつき倒れた。


「Version3……いや、社長っ! 裏切るつもりですかっ!」

「私はもう、Version3ではない」


この声は……なるほど、あのイケメンが変身するとこうなるってわけか。それがなんだかおかしくて、つい笑っちまう。


「ある少年が教えてくれた。別の世界にいる私は、V3と言うらしい。それが私の新しい名前だ」

「アンタ」

「これがちはるの願い――私が美しくあるために出した結論だっ!」


その叫びはリザードすらもぼう然とするものだった。その中で笑っているのは、きっと俺と本郷……ディケイドだけ。

奴へ近づき、不格好なカウルに左腕を載せた。そんな俺を、風見志郎は訝しげに見る。


「いい顔するようになったじゃないか」

「顔は見えないでしょう」

「馬鹿、ここからも見えるんだよ」


右手親指で胸をトントンと叩いてから、パッと離れる。のんきに会話してる場合でもないしなぁ。

迫ってきた戦闘員を左ハイキックで沈めると、四体目のショッカーライダーが左から飛びげり。

後ろに下がって避けてから、右フック・左後ろ回しげりの連続攻撃。奴を風見の方へ吹き飛ばす。


すると風見はバイクを回転させながら、他のライダーやら戦闘員をなぎ払っていた。

そうして全員を壁や床に叩きつけてから、階下へ追いやるように階段を下りる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


しつこい戦闘員やライダー達を斬り払い、本郷共々階段の根本へ。

追いやられた戦闘員やリザード達は、そのまま虎頭と合流。すると本郷が左腕を引き、右腕を横へ伸ばす。

ユウスケの変身ポーズにも似た構えを取ると、その瞳が輝いた。続けて一文字が両拳を握り、胸元近くでポーズ。


やはり瞳が輝く……どういう機能だ。今度は風見がバイクに乗ったまま、右手をすっと挙げる。

その手首に左手を添えると、奴の目がライトグリーンに光った。しょうがないので俺も乗るか。

左手で剣をそっと撫でてから、カブトのカードを取り出し見せつける。


「貴様らぁ……なぜだっ! なぜショッカーの偉大さが理解できんっ!
お前らは私達と同じ、改造人間だぞっ! ショッカーのために生きるのが全てっ!」

「できるわけないだろ」


こういうのも結構久々な感じがしながら、俺は睨みつける奴らを鼻で笑う。


「そうだな、確かにコイツらはお前らの仲間だ。だがな、その魂だけは好き勝手になんてさせない。
同族殺しなんて面倒な理屈に縛られても、美しいと思うものが分かる。
そう思えるもののために戦える。……俺達はそれを、人間って呼ぶんだよ」


そこで三人が息を飲み、俺を見てくる。それに対し、軽い笑いだけを返した。


「仮面ライダーだから戦うんじゃない、改造人間だから戦うんじゃない。
人間だから美しいものを守り抜くため、伝え行くため――戦うんだよっ!」

「貴様ぁ……! 一体何者だっ!」

「通りすがりの仮面ライダーだっ!」


俺はそのままカードを入れ、バックル両サイドを押しこむ。


「覚えておけっ!」

≪KAMEN RIDE――KABUTO!≫

「――殺せっ!」


カブトに姿を変えながら、次のカードを挿入。そうしている間に、奴らが一斉に襲ってくる。だが。


「お前ら、ボスキャラは任せたぞっ! 雑魚はこっちで一蹴するっ!」

≪ATTACK RIDE――CLOCK UP≫


もう油断はない。俺はそのまま駆け出し、クロックアップ突入。

ワームなどがいないかどうか確認しながら、戦闘員やショッカーライダー達を斬り倒していく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


≪The song today is ”LORD OF THE SPEED”≫


おぉ、この曲は……カブトの後期ED! 加賀美がうたっている爆死用BGMじゃないのさっ!

解説は……また後だね。正拳突きを左に避け、続く右裏拳・左右交互の正拳突きをスウェーで回避。

右回しげりが飛んでくるので左腕でガードしてから、懐へ踏み込んで右・左・右と連続ボディブロー。


でも奴は下がらず、僕のわき腹へ左フック。すっと下がり右掌底で弾きつつ、回転して左バックブロー。

顔面を叩いてから右正拳突きを左へ避け、返す右ひじ打ちも伏せて回避。同時にわき腹へ左ストレート。

カウンターの肘打ちを反時計回りに回転しながら避け、飛び上がりつつ左回しげり。


コーカサスはそれをガードし、僕の左腰へ手を伸ばす。……読み切っていたので、足を引きながらしゃがみ込んで回転。

伸びた手を掴み、関節を決めた上で懐へ入り左エルボー。わき腹を叩いてからそのまま一本背負い。

左手がハイパーゼクターへしつこく伸びてきたけど、その手はすぐに停止。


奴は腕が折られると察して、すかさず跳躍。僕を飛び越えながらそのまま投げ飛ばされる。

それでも着地し、強引に腕を振り払って左正拳突き。至近距離での突きは右掌底で弾き、同時に右ローキック。

すぐに返す足でミドルキック。腹を蹴り飛ばし、強引に距離を取る。ただ……しぶとい。


あれだけやって倒すのが無理って、マジで空手家かい。ならばと思い、下がるコーカサスを見ながら左手を動かす。

ハイパーゼクターのスラップスイッチを叩き、再びハイパークロックアップ突入。


「ハイパークロックアップ」

≪HYPER CLOCK UP≫


各部装甲が再び展開し、コーカサスの動きがスローリーとなる。すぐさまゼクターホーンを倒す。


≪――MAXIMUM RIDER POWER≫


それからダブタロスのスイッチを連続で押し。


≪1・2・3≫


ゼクターホーンを初期状態へ戻す。


「ハイパービートスラップ」


考えていた必殺技名を言いながら、ホーンを再び折る。


≪HYPER BEAT SLAP≫


すると展開した胸元の装甲から、にじ色の輝きが生まれる。それが角へ伝わったかと思うと、一気に右足へ収束。

僕は背中から同じ色の翼を羽ばたかせながら跳躍。そのまま右足を突き出しながら、コーカサスへ飛び込む。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


また恭文の姿が消えたと思った瞬間、コーカサスを中心に風が吹き抜ける。いや、そういう名の衝撃だ。

それによりコーカサスの角がへし折れ、胸元の装甲も一気にひび割れる。

そのまま奴は吹き飛び、そのまま地面を滑りながら変身解除。中から白タキシードを着た、やたらとごつい男が出てきた。


あれが話に聞いていた、黒崎一誠って奴か。黒崎一誠は呻きながら、顔だけを上げる。


≪HYPER CLOCK OVER≫


その視線の先には、当然ハイパーダークカブト。いつの間にか現れていた恭文を、忌々しげに見ていた。


「馬鹿、な。この私が最強」

「残念ながら一番強いのはお前じゃなくて」


アイツはそう言いながら、天を指差す。すると仕込まれていたかのように、太陽が恭文を照らし出した。

黒色の装甲が光り、状況を弁えていないのは承知で奇麗だと思った。


「ハイパーゼクターだ」


……うぉいっ! そこ自分じゃないのかよっ! いや、話聞いてると否定できないけどっ!


「恨むならハイパーゼクターを持って余裕こいていた、自分を恨むんだね。地獄でその辺り、よく勉強してくるといいよ」

「嘘、だ」


そう呟いて、黒崎一誠が目を開いたまま崩れ落ちる。事切れたのだと分かった瞬間、コーカサスのゼクターが飛び上がる。

そのままどこかへ消えていくもんだと思ったら、その進行方向に覆いかぶさる影が出現。

そいつはコーカサスのゼクターを両手でキャッチし、金属製の虫カゴの中へ入れる……って、海東さんっ!?


あの人なにしてんのっ! ほら、恭文も予想外なのか、ぎょっとしてるしっ!


「……おのれ、なにしてる」

「なにってお宝ゲットだよ」


いや、死人の脇でまた嬉しそうに言うなよっ! てーかその虫カゴなにっ!


「しかもこれは凄いお宝だ。三種あるカブティックゼクターの一つ――ゴールドタイプだからね。
これはね、ハイパークロックアップを前提として作られたモデルで、本当に貴重なんだ」

「……恭文」

「あれ、大和鉄騎のと同型なんだよ。角の形は違うけどね。ほら、金・銀・銅でメダル三色」


あぁ、なるほど。だからデザインも似ていて、海東さんが言うような設定もあるから……納得できるかっ!

なんだ、このこそ泥っ! 脇からおいしいとこ持ってっただけだろうがっ!


「まぁ別にいいけど」

「いいのかよっ!」

「僕のじゃなくて、スーパー大ショッカーのだしさ。
でもスーパー大ショッカーに使わせるような事だけはやめてよ?」

「あぁ、それは約束するよ。いやー、やっぱりお宝は素晴らしい。では二人とも、士によろしく」


そのまま海東さんは俺達に指を向け、銃を打つ仕草。それから楽しげにスキップしながら、この場から去っていった。

……まぁツッコむと面倒だし、やめておくか。それはそれとして、感心しながら恭文へ近づいていく。


「でもおま、凄い威力だよなぁ」

「まだハイパーゼクターが強いって段階だけどね。もっと使いこなせるようにならないと……そうそう」


やや自重気味にそう言ってから恭文は、すたすたと事切れた黒崎一誠へと近づいていく。


「なにするんだ?」

「え、死体処理。復活とかされても面倒だから、ちょっと宇宙空間の衛星軌道上に送ってくる」

「念入りすぎるだろうがっ! てーかあれか、復活とかできる技術があるのかっ!」

「悪の組織だしねー」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「わ、分かったっ!」


とか言ってる間に、どんどんショッカーライダーや戦闘員が真っ二つになっていく。

これはクロックアップか。なら……ワームとかも任せていいな。俺達三人は、虎頭とリザードの方だ。

こちらへ前転しながら虎頭が飛び込んで、両バサミを唐竹に振り下ろす。


慌てて下がって避け、一文字と二人構えを取る。そのまま奴を挟んだ状態で突撃。

だが奴は俺達の間を跳躍で抜け、そのまま二階部分へ。慌ててその後を追い、二人揃って二階へ。

カウンター前で余裕立ちしている虎頭へ踏み込み、まずは飛びげり。


それを飛び上がりながら避けると、奴は俺達の間でハサミをしならせ踊る。

こちらの突きや蹴りをハサミで捌き、同時にけん制……コイツ、やっぱ強い。

それでも負けずにワンツーパンチ、左回しげりと続けて打つが、奴はスウェーしながら身を捻り回避。


そうして攻撃しようとしていた一文字へ向き直り、一文字の右ミドルキックを右刃で弾く。

すると瞬間的に一文字へ踏み込み、右肩から体当たり。すぐさまこっちへ左ミドルキック。

それをガードしている間に、一文字は吹き飛び床へ滑る。奴は俺を足場にしてけり上げ、そのまま一文字へ。


ハサミをクロスさせながらその首元を狙うが、一文字は左足を上げて振り下ろされる前にキック。

そうして奴の攻撃を防いだ。刃物ってのは、ある程度勢いをつけて切るものだ。

それが出る前に止められたら、俺達の身体は切れない。虎頭は無理せずに引いて側転。俺に向かって振り返りながら左回しげり。


それを伏せて避けている間に、また回転。一文字が起き上がって踏み込み、右ストレート……が、その腕が両バサミに挟まれた。

切るというよりは、挟んで動きを止めたような感じ。虎頭は反時計回りに身を捻り、伏せながら一文字をカウンターへ押し付ける。

それにより後頭部を狙った俺の右ストレートは避けられ、慌てて右足払いへ移行。


だが虎頭はすっと飛び上がり、バーカウンター上へ。その足元を狙って左フック。

だが一文字を蹴飛ばしてから再び跳躍。右フックはあっさり避けながら、鋭く回転しながら左かかと落とし。

また床に倒れた一文字の腹へ、足を叩きつける。衝撃で一文字が呻き、床に軽いクレーターができる。


すぐさまローキックするものの、虎頭は起き上がってあっさり回避。すぐさまその足を返し右後ろ回しげり。

虎頭は頭を下げて避けるので、右ストレート。だが左ハサミによる左薙一閃で拳は払われ、奴がまた踏み込む。

返す刃での右薙一閃を伏せて避けると、今度は右の刃が襲う。それが俺の顔へと迫り――そして直撃。

激しい火花が走り、予想外に強い衝撃によって俺の身体はあっさり吹き飛ぶ。


「本郷っ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


秘書の……いや、リザードの袈裟一閃を左へ避け、同時に腕を取ってそのまま足払い。

そのまま刃は恐れず関節を決め、地面に倒した上で左回しげり。チェーンソーの根本から腕を両断した。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


チェーンソーはそのまま脇へほうり投げ、左拳を握り彼女へ……だがそこで腕から触手が展開。

それが一瞬でチェーンソーを形作り、私の腹へ突き立てられる。

衝撃と火花に押され、そのまま吹き飛び店内の柱へ叩きつけられた。……そうだ、これがあった。


だが私も条件は同じ。幸いな事に身体が両断される事もなく、なんとか無事だった。すぐに起き上がり再び彼女へ踏み込む。

袈裟の斬撃を伏せて避け、振り返りながら右後ろ回しげり。右薙に打ち込まれかけていたチェーンソーを外へ弾く。

すると彼女は回転しながら私から距離を取り、再びチェーンソーを構える。


私も同じように下がり、両腕を広げた。――すまない。


「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


彼女がチェーンソーを振りかぶり走りだした瞬間、私は跳躍。身を捻りながら彼女へと飛び込み、胸元へ右・左と連続飛びげり。

そのまま空中で反転し、動きが止まった彼女へもう一度飛び込む。そう、ディケイドにあの時止められた技だ。


「でやっ!」


こん身の蹴りは彼女の頭を撃ち抜き、歪める。衝撃で彼女は店外へ吹き飛びながら。


「エク……スタ」


爆散した。私はその場で着地し、言いようのない痛みに震える。本当に、とんでもない矛盾だ。

私と彼女、そして他の改造人間達に違いなんてない。なのに……だが今は、これでいい。

私はもう……そう思っていると、左にちらりと影が見えた。思わず構えを取るが、そこで動きが止まる。

なぜならその姿は、ちはるだった。ちはるは笑顔で頷き、下を指差してそのまま消える。私が手を伸ばす前にだ。


ちはる、お前は……ずっと見てくれていたんだな。なら待っていてくれ。伸ばした拳を握り、床にそれを叩きつける。

木でできた床は派手に粉砕され、私はそれに伴い落下。すると落ちていきながら見えたものは……なるほど、そういう事か。

ここが目的地だったようだ。着地しながら見えるのは、様々な工業機器。ここはショッカーの秘密基地だ。


それでちはるが現れたという事は、間違いなく……だがそこで工業機器が次々と爆発。

慌てて両手でガードすると、その炎の中から影が生まれる。それは間違いなく、ちはるだった。

だが左半身は醜く歪み、異形と言うべき形状になっていた。しかもコンクリの地面から、やや浮かび上がってもいる。


そしてその背から、白い螺旋状の触手が展開。あまりの有様に私は、少しの間言葉を失ってしまった。

予想は、していたはずなんだ。予想外の形態とも書いてあった。分かっていた、はずなんだ。

なのに私は……怒りに震え、動く事ができない。そうだ、これは自分への怒りだ。


私が力に酔っている間、ちはるはこんな姿の自分と向かい合い、ずっと苦しんでいたんだ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あの馬鹿……! 慌てて駆け寄ろうとすると、虎頭がハサミで俺の首を挟んでくる。

それで一気に掻っ切ろうとするので、両手でハサミを掴みホールド。その上で頭突きを食らわす。

よろめいたところでハサミを強引に引きはがし、左フック。側頭部を狙った一撃で虎頭は倒れ、階段を転がる。


そうしてT字の中心部に落ちたアイツを見ながら、向かい側を見る。

やっぱりしぶとい奴は、手すりにもたれかかりながら立ち上がっていた。

ただしヘルメットは外れ、息も絶え絶え。だが……目は死んじゃいねぇ。


俺とやり合った時からずっと見せてた、あの目のまんまだ。それがおかしくなりつつも、俺達は頷き合う。

その場で俺達は飛び上がり、起き上がろうとした奴へ左足を突き立てる。

双方向から来る飛びげりに対し奴は、もう動く事もせず両腕を交差。


そこに向かって、俺達の飛びげりが命中。奴の腕とハサミをへし折り、そのまま一階部分へ吹き飛ばす。

どうやら頭に一発食らったのが効いているらしい。止めようとしていたが、そんなんじゃあ無理だ。

だがそれでも階段の中ほどで足を止め、呻きながら右腕を振り上げた。そのまま着地した俺達へ踏み込む。


それに合わせて俺は左拳を、本郷は右拳を振りかぶり。


「しゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「「――うぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」


奴の刃が打ち下ろされるよりも速く、鋭く、顎に向かってアッパーをたたき込む。

顔がひしゃげながら、虎頭は天井へと飛ぶ。そうして吊されているシャンデリアへ衝突し、それもろとも落下。

今度こそ一階の床部分へ落ち、身体を震わせながら爆散した。同時にディケイドも姿を現す。


「おい、大丈夫か」


それで開口一句、これだよ。大丈夫に見えないだろ、本郷はよ。だが本郷は一階にいるディケイドへ、遠慮なく笑いを送る。


「あぁ。だって生きてるんだから」

「そうか」


相変わらず甘い野郎だ。だが……これで終わりってわけじゃないよな。風見志郎、どっか行っちまった。

帰るまでが遠足とも言うし、ちょっと迎えに行くか。下になにがあるかも気になるしよ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『おにい、ちゃん』


フリーズしていた私を動かしたのは、やはり妹の声だった。そこにはどうしようもない悲しさと、絶望があった。

明るく笑う妹の姿など、もうどこにもない。そこにあったのは……一体、なんだろう。分からない。いや、分かりたくない。


『ころし、て』


渦巻く炎の音よりも小さく、かすれそうな声。だがはっきりと聴こえた。正直、嫌だと言いたい。

元に戻る方法があるかもしれない。それで以前のように一緒に……そう言おうとした。


『ころして……ころし、てやる』


だがその言葉は、ちはるの殺意によって止められる。そうだ、これは殺意だ。

ちはるは今、誰よりなにより死を望んでいる。それも自分ではなく、他者の死を。

そこであのレポートが思い出されていく。……もうちはるは、ちはるじゃなくなりかけている。


誰かを憎まずには生きていられないほど、絶望してしまった。それでも私はまだ迷っていた。

なにか方法が、なにか……そう考えている間に、螺旋の触手が私の胸元を叩く。

チェーンソーとは比べ物にならない衝撃で、私の身体は大きく吹き飛ぶ。


その間に炎が床一面へ回り、辺りはさながら地獄のような風景となった。


その床へ倒れながら悟る。もう、やるしかない。そうしなくては、美しいものが守れない。

今のちはるは、自分が美しいと思っていたものさえも憎む。そうして壊し、殺す。

もしかしたら親友と呼び、笑い合っていた彼女さえも……そう考えていたら、自然と立ち上がっていた。


『ころして、やる……!』

「ちはる、あむちゃん……お前を探していたよ」


その言葉でまた迫ろうとしていた触手が、全て動きを止める。

ちはるが見せた戸惑いに安心を覚えながらも、ゆっくりと歩いていく。

炎がその行く手を阻むようにまとわりついてきても、私は――俺は決して止まらない。


もうやるべき事は決まった。ためらっている理由も、恐らくない。分かっていたのに、今更すぎると自嘲する。


「それでさ、言ってたよ。お前は自分の力で輝こうと、みんなを元気にしようと頑張っていたってさ。
ホント、驚いたよ。俺はお前の事、知っているようでなにも知らなかったんだな。ちはる、俺な」


両拳をベルトに添え、バックルに取り付けられているダブルタイフーンを逆回転。

そうして周囲の炎を取り込み、その熱量を俺の力に変える。そしてそれを全て、右拳へ送り込んだ。

拳は赤く、神々しいまでに輝きを放つ。その輝きは紅蓮の炎となり、更なる力を与える。


一体、なんのための力なのだろう。少なくとも神の鉄槌などではない。

……ただの暴力、そう言った方が分かりやすいかもしれない。


「やっと見つけたよ、自分の生き方――自分のやりたい事。だから」


だから、お前を殺す。憎しみのままに、全てを壊そうとするなら……それが俺の道。

出そうになる涙を堪え、振り上げた拳を更に強く握り締め、炎を迸らせる。決して、忘れない。

この痛みを、苦しみを、矛盾を――忘れてはならないと、強く刻みこむようにして。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


その拳を、ちはるへと叩きつけた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


俺達三人が地下へ乗り込むと、工場らしき場は大炎上。その中心で風見は、声もなく膝をついていた。

傍らには瞳を閉じ、安らかに眠っている少女。それだけで全てを察したが……のんきにやっている暇もない。

炎のせいで、あっちこっちから爆発音が響いてくる。俺達は慌てて動かない風見を抱え、飛び上がる。


そのまま一階部分、二階部分へと移動し、窓から外を目指して跳躍。次の瞬間、ステーキハウスは爆発。

炎を巻き上げ、柱や壁をまき散らしながら消えていく。それを背に、俺達はなんとか着地。

風見もようやく状況に気がついたらしく、ゆっくり立ち上がって振り返っていた。


俺は一文字や風見と一緒に、再セットしていたヘルメットを解除。炎と一緒に生まれる、黒い煙が上っていくのを見上げた。


「――うわぁ、派手にやったねー」


とか言いながらこっちへ来るのは、蒼凪君と小野寺君。向こうは向こうで、無事に片づいたみたい。

怪我もないようなので安心していると、風見がハウスへ近づきながらヘルメットを落とした。

まさか一緒に……と思ったけど、風見はすぐ足を止める。その様子に、少し安心した。


「おい」


そんな風見に一文字は、ぶっきらぼうに声をかけた。


「お前、これからどうするんだ」


その問いかけで、現実に引き戻されたような気がした。戦い終わりで、ちょっと気が抜けていたのかもしれない。

そうだ、風見はショッカーを裏切った。これからは俺達と同じ逃亡者になる。

――守り抜くため、伝え行くため、俺達は生きる。それぞれに美しいと思うものを守るために、どんなに苦しくても。


もしかしたら俺達は、風見を辛い道に引きずり込んだのかもしれない。そう考えると。


「生きていきますよ」


風見は落としたヘルメットを拾い上げ、パンパンとついた土や埃を払う。

その声は俺の心配や不安、罪悪感などを吹き飛ばすようなものだった。


「自分が美しいと思うものを守るために」


それからこっちを振り返り、俺や一文字達を見つめた。


「あなた達のように」


それで、いいのか……そう聞いてしまいそうになるが、その言葉は飲み込んだ。

これはただ、俺だけが安心したいための言葉だから。俺達はそのまま、空を見上げた。

きっと俺達はこれからも戦い続ける。今は……その先の未来を信じてみよう。それだけでいい。


それなら心配ないよ


そこで右側から声がかけられる。そちらを見ると……蒼凪君と全く同じ格好の奴がいた。


「お前、やっぱり」

みんな、ご苦労様。ショッカーは僕で潰しといたから

『はぁっ!?』


いきなりとんでもない話を持ちだされて、俺達はすっとんきょうな顔をするしかなかった。ていうか、風見がまたヘルメットを落とした。


当然でしょ? さしあたっての脅威は取り除いておかないと。いや、大変だったよ。
各国首脳陣も絡んでて、ハイパークロックアップありでも大仕事。こっちまで手が回らなかったし


「おま……なんだよそれっ! 台なしじゃねぇかっ! てーかそれできるなら、風見の妹とか助けてやれよっ!」

「そうだぞっ! ほら、ハイパークロックアップってタイムスリップもできるんだよなっ!」

ごめん、それは無理。この辺りだと、これ以上の時間逆行は不可能なんだ。
てーかできてるなら、最初からやってるって。ショッカーも潰して、みんなも改造とかされてないようにさ



またあっさり言い切るしっ! この時点で正体バレバレなんだけどっ! ほら、蒼凪君も頭抱えてるしっ!

でも逆行不可能……やっぱり世界線がおかしくなっている関係か。

多分こっちに乗り込んで、いろいろやってくって事そのものがかなり危ないんだと思う。


口調こそ軽いけど、俺達への申し訳なさとかがにじみ出てた。特に……風見には。妹があれな、直後だしな。あとは。


「……アトラクタフィールドの収束もあるから、とかか?」

さすがは本郷さん。その通りです

「本郷さん、それって」

「時間――世界線に関する理論だ。でもそれが本当だとすると、かなり複雑だけど」


パラレルワールドってのは、ロープみたいなものなんだ。ほら、ロープってたくさんの糸が組み込まれてできてるだろ?

その糸それぞれが別々の世界線――パラレルワールドなんだ。そんなロープに、一つ結び目を作ったと考えてほしい。

結び目を出来事だと仮定すると、どんな世界線でも必ず起きる事と言える。これがアトラクタフィールドの収束。


歴史を変えても必ず起きる事件って考え方なんだ。つまり俺達がライダーになるのも、全て必然。

例えショッカーを潰しても、話に聞くデストロンなり他の組織なりが出てどうしてもって感じかも。

多分逆行不可能とは言ってるけど……実際やってみたんじゃないかな。あの申し訳なさは、そうでもないと考えられない。


だったらショッカーが潰れるのはどうなんだろう。下手をするととも思うけど、大丈夫なんだろう。

どういうルートを進んでも、彼がショッカーを潰すというのが確定的な事なら……問題はないんだ。


まぁそういうわけで本郷さん、聖夜学園もやめなくて済みますから。
さしあたっての脅威はスーパー大ショッカーだけですし。それじゃあそういう事で


「いや、済みますからって……ちょっとっ!」


そう言ってもカブトは左サイドの、ハイパーゼクターをパンと叩き。


≪HYPER CLOCK UP≫


緑色の歪みに包まれ、そのまま消え去ってしまった。それで俺達はまぁ、残念ながら蒼凪君を見るしかないわけで。


「おい蒼チビ、どうすんだよ」

「私、怒りが沸き上がってきたんですけど。もう台なしすぎて……殴っていいですか?」

「ハイパークロックアップでボコっていいなら」

「それはやめてください」


そんな感じでシュールな問答が続く中、俺は自然と笑ってしまっていた。いや、なんか……さぁ。

あれこれ悩んでた事が馬鹿らしいってのもあるけど、一応うまくいったわけだし。


(第36話へ続く)





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