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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
サイト開設四周年記念小説その4 『新しきWを夢見て/世界を変えるものは』


結論から言おう。リンディ提督はなにもしていなかった。少なくとも殺人には絡んでいない。

僕が見た映像――提督の記憶だね。それによると二人は、リンディ提督の執務室でその話をしていた。

そうそう、そこで例のリストの件も、バッチリ判明したよ。いや、ここは予想外だった。


『――ではスチュワート提督、あんな馬鹿な計画を認めろと言うの? ふざけないで。
管理局を――そして我々を信じてさえいれば、なんの問題もない事なのよ』

『残念ですがリンディ提督、その理屈はもう通用しません』

『なにを言っているの。そんな事をすれば、積み重ねた犠牲が無駄になる。
この世界は管理局があって、初めて幸せになれるの。それが否定されたら』

『はっきり言えば提督のここ一〜二年のやり口は、目に余るものがあります。
特にヴェートル絡みの件ですよ。Ha7の事を不問にされたのが、妙な勘ぐりを生む。
もちろん機動六課の事もです。……ただここは、我々にはうかがい知れない事情があったのかもしれない』


『査察』しながら、またはっきり言うものだと思ったよ。リンディ提督、もう顔真っ赤だしさ。

でもそれに構わずスチュワート提督は、胸を張っていた。


『だからこそ、その評価を覆すために賛成してはどうでしょうか』

『いいえ、無理よ。もう一度あの失礼な男を説得するわ。私達を信じる事が、どれだけ尊いか。
変わっていく事を否定されるのが、どれほど悲しいか。そうしなければいけないのよ』

『提督、残念ながら言葉だけではどうにもならない。だからこそ我々は、行動で示すべきです。
……初めてのPMCメンバーは、六課のような動き方をする部隊にするんです』

『六課のように? どういう事かしら』

『やはり初めての事ですから、データが必要です。その辺りの動き方で一番近いのは、私の知る限り機動六課だ。
ようは機動六課が持っていた特徴はそのままで、市井からの依頼も受けていく部隊に仕上げる。
ここはもちろん局の管轄下に置いた上でです。その方が設立の手間も省けるでしょうしね』


そこでリンディ提督の目が僅かに光った。機動六課をそのままと聞いて、いい考えを思いついたらしい。口元が歪んだもの。


『なによりバッカラ氏の事だ、恐らく協力者の目星はつけているはず』

『では彼は』

『えぇ。恐らくこっちがGOサインを出せば、すぐにでも部隊を作れるはずです。
もしかすると、リストのような形で集めているかもしれません。
……この形でなら、GPOや維新組のような別組織扱いは避けられます。
提督、どうでしょう。考えていただけませんか? このまま反対し続けても立場が』

『そうね……機動六課か』


そこでリンディ提督は笑って、両手をポンと叩く。そこに嫌なものを感じたのか、スチュワート提督が僅かに引いた。


『そうだわ、その部隊は機動六課にしましょう』

『は? いや、機動課とは別扱いですし、名前はさすがに』

『いいえ、機動六課にするのよ。市井の依頼を受ける必要もない。……機動六課を復活させるの。
そうね、確かに行動が大事だわ。行動で私達を信じる事が、当然だと示さなくちゃ』


そう言って、ブツブツとありえない妄想を繰り広げる。……本当に局の事しか見えてないようだね。

ライナスの毛布って言うけど、本当だよ。ただ……そこで気になった事がある。

それは僕がリンディ提督ではなく、記憶を映像として見ている第三者だから気づいた事。


妄想にふけるリンディ提督を見て、スチュワート提督……笑ったんだよ。本当に、僅かにだけど。





サイト開設四周年記念小説その4 『新しきWを夢見て/世界を変えるものは』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


朝早くから死体を拝むっていうのも、実に気分がよくない。それが望まぬ形で死を迎えた人なら、なおさらだ。

かけられたビニールシートを一旦外し、まずはしっかり両手を合わせる。

……やっぱりひどいなぁ。睡眠薬のせいだと思うけど、口から泡を吹いた痕があるし。


「部長」

「あぁ」


朝早くから一緒に来てくれた部長へ声をかけると、渋い顔で頷いてくる。……これは自殺じゃないね。

いやね、後頭部に打ちつけた痕があるんだよ。でもまたなんでこんなところで。

こういうのは、ホテルとかならまだ分かる。幾らなんでも自供して自殺で、公園は選ばないでしょ。


単純に誰かが見つけて、そのまま生存するかもしれないしさ。本気で死にたいなら、長時間誰にも触れられない場所を選ぶよ。

突発的な行動……ではないよね。遺書も残っているわけだしさ。……さて。


「どうします?」

「当然継続して調べるぞ。それより『査察』の結果は」

「もちろんまとめてあります。まぁそこも、現場検証した上で」

「分かった」


そのまま立ち上がって、改めて……というところで、あるものに気づいてしゃがみ込む。


「アコース、どうした」

「これを」


死体の手を取り、ゆっくりと開く。するとそこには、バッジらしきものが握られていた。

ただ……見覚えがないものだな。金色で、イカリを模したものだ。それでも証拠なのは間違いないので、しっかり確保っと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


それでイカリのバッジも、市販されているもので特別なわけじゃない。指紋などもスチュワート提督のものしかなかった。

あとは死体の検死結果だけど……その前にやる事がある。それは三佐への連絡だよ。

三佐も既にこの話は知っているけど、まぁ一応ね? 僕達協力体制取ってるわけだし。


一度査察部へ戻り、デスクに座ってぽちぽち。さほど経たずに、三佐は出てくれた。


「三佐、朝早くすみません」

『いやいや、早いのはお前さんの方だろ。……で、レポート見てたところなんだが』

「その後変わりなしでしね。検死の方はもうすぐと言ったところです。では簡単に報告を。
まず……リンディ提督にリストの事を言ったの、スチュワート提督だったようです」

『なんだよなぁ、正直驚いたよ』


流れとしてはこうだよ。まずリンディ提督はこき下ろされ、周囲からはれ物扱いされるようになった。

そんな時にスチュワート提督から、第二の六課設立という流れを聞く。

もちろん直接的に、六課を復活させようなんて言ってはいない。あくまでも似た要素のあるって話だけだ。


六課の事は、名前を出した方がリンディ提督に分かると思ったからだよ。でもリンディ提督はこう考えた。

初代六課にやましいところがあるなら、その風評を六課再設立で払しょくしようと。

うん、かなり強引だね。それでもちろん、スチュワート提督がどこから知ったのかという疑問もある。


ここに関してだけど、どうも言い方の問題だと思う。提督はリストがあると、確定的な言い方はしていない。

あくまでも準備しているかもしれない。そういうのがリスト的に記録されているかもしれないって話をしただけ。

全ては可能性の話なんだけど、それを本気に捉えて……昨日の騒ぎだよ。


僕の印象だとスチュワート提督に踊らされて、いい具合に利用された。そんな感じじゃないかな。

提督がどうしてそんな真似をしたかは、一旦置いておこう。今大事なのはそこじゃない。

リンディ提督がリストを手に入れ、どうしたかったのか。結論から言えば、全員スカウトだよ。


そうして入局させ、新六課のメンバーとする。もちろん主要隊長陣は、前六課時代そのまま。

ここは過去六課に絡んだ、優秀な魔導師も加わる。新しく入るメンバーは、全員彼女達の部下。

あくまでも全ての手柄と称賛は、目玉である彼女達が受ける。そういう仕組みにしたかったようだ。


……この条件で納得する人間がいるとは思えないけど、リンディ提督はかなり強引にスカウトしていくしなぁ。

いやね、ここ一〜二年でよりひどくなったようなんだよ。原因は……もう言うまでもないよね。

なんていうか、見ていて悲しいよ。提督だけ僕達とは違う時間に生きているようなんだ。


『また強引だな』

「でもそれが全部でしたよ。ここはヴェートルの件も絡んでいる。
GPOと恭文が解決したというのが、既に常識化していますから。ただ管理局が認めていないというだけの話。
改めて調べて分かったんですけど、その辺りの批判も少なからずあったみたいですね。それも局内から」

『それが市井の管理局離れに拍車かけてんだよなぁ。
実際嬢ちゃん達じゃ止められなかったのは、明白だしよ』

「いっそ認めていいと思うんですけど、難しい事情も絡んでいる事件ですし……これがなかなか」


あとはっきり言えば六課隊長陣は、リンディ・ハラオウンの一派と取れる存在だしね。

ほら、みんなの入局はリンディ提督がきっかけだからさ。その後も付き合いが深いし、そりゃあこうなる。

例えばヴェートルの件では、提督が不問。一派であるはやて達が『英雄』扱い。まぁすぐに剥がれたけど。


六課ではそんな提督が後見人で、現場にいたはやて達の動き方はあの有様。

……ね、こうして見ると不思議でしょ? はやて達を守るように提督が動くと、すっごく黒くなってくる。

だからね、みんなへの批判は同時に……リンディ提督への批判にも繋がっているんだよ。


「ただその批判は、はやて達には届いていない。少なくとも直接言われた分以外は」

『全部提督が手を回して、封殺していたと』

「管理局内にあるものは……ですけどね。あと……三佐、これはオフレコでお願いします。
査察部でも六課の動き方や影響を鑑みて、はやて達にも言っていない事です」

『なんだなんだ、また重い話か』

「えぇ。……最高評議会は、六課にスカリエッティとレジアス中将を始末させようとしたんです」


そこで三佐の目が細まり、どういう事かと視線で聞いてくる。

……まぁそうなるよね、僕もさすがにありえないとか思っちゃってたしさ。

この事を知っているのは局上層部と、データを実際に見たクロノとサリエルさんくらいか。


あ、それとミゼットさん達だね。なおリンディ提督も……知っているはずなんだけどね。

自分達の夢がただ利用されただけだっていうのはさ。いや、だからこそあんなに一生懸命なのかもしれないね。

それが間違いだと必死に抗っている。でも空回りするばかりで……そういう印象も受けていた。


……それはそれとして、今は提督に答える方が先か。痺れ切らしそうだしさ。


「考えてみてください。六課が動き出してすぐ、レリックやらなんやらがぽんぽん出てきたんですよ?」

『確かにスカリエッティは、今まで庇護されてたわけで……おい、まさか』

「えぇ、全部最高評議会の差し金です。六課を誘導し、現場レベルで全員を殺害しようとした。
そのためにスカリエッティや戦闘機人と深く関わっている、あなた方やフェイトちゃんにエリオ君も自由に動けた」

『つまり恨みつらみで、そのままと……ナメてやがんな、奴らは』

「でも実際の動き方は、それに近かった。失礼ですけど六課や我々達だけでは、真実には迫れなかった」


実はこれ、ブーメランなんだよねー。三佐を責めてるわけではなく、自分も含めて言ってる。

だからね、実は六課……かなり危ない位置にあったんだよ。去年の事も含めて、最高評議会に協力したんじゃないかってさ。

でもそうはならなかった。はやて達は現場では大活躍だったし、被疑者を殺すような真似もしなかった。


そういう行動が内密に評価されて、一応お咎めなしって事になったんだ。みんな、自分で自分の疑いを晴らしたんだよ。


「そうそう、ここはフォン・レイメイの事も入っています。……彼は最高評議会のスパイだったんですよ」

『じゃあスカリエッティと同じ』

「いえ、外部から雇った上で、スカリエッティ側につかせたんです。もちろん関わりは内緒にした上で。
そうした理由は……お分かりでしょう? 恭文対策です。あとはスカリエッティ達を暗殺するため」

『六課が駄目ならと。だがよ、恭文対策ならナンバーズがいるだろ。AMFを張れば』

「それじゃあ無理ですよ。恭文はその昨年、それより厳しい条件でアイアンサイズと戦っています」


……あれ、これだと事件結果バラしているような……まぁいいか。うん、完全キャンセルより厳しいよ?

相手は胴体に穴が開こうと、頭が吹き飛ぼうと、平然と復活する存在だもの。

しかも魔法は決して有効手にはならない。実質封じられた状態で、デバイスの使用も無理。


そんな『化け物』相手に用意したのが、同じ能力を持ったフォン・レイメイ。

まぁ彼からも最後、見限られたけどね。そこが中央本部襲撃に繋がっている。

恐らく彼はスカリエッティ側にも、最高評議会側にもつかず、適当に暴れて逃げようとしたんだと思う。


結果は知っての通りだけどね。だからね、提督やアルフが恭文を責めるのは間違いなんだよ。

彼を野放しにしても、もし彼女達で捕まえてしまっても、共犯者と思われかねなかったんだから。

ちなみに後者で駄目なのは、いわゆる出来試合と疑われるからだよ。だって彼女達じゃ、フォン・レイメイには勝てない。


三佐は僕の話を聞いて、がく然とした様子だった。ただそれでも、経験はあるからね。ある程度は落ち着いてる。


『その事、リンディ提督は』

「知っています。最高評議会のデータ、彼女も見ていますから。念のため、そこも確認しました」

『そうか。……八神の奴が聞いたら、自殺しかねないな。なにもできなかったってだけじゃなく、利用までされちゃあ」

「正直僕も、口止めされて助かってます。……墓まで持ってく必要はありますけど。
それで問題は、スチュワート提督の方です。提督は今言った通りですが」


そういう内偵の動きもあったし、結果的にはOKでもみんなのこれからにヒビを入れかねない。

だから胸を張り、信じるに値する存在だと――機動六課を無駄に持ち上げようとしている。

そんなところなのは、三佐も理解してくれたらしい。……あまりにおろかしいけどね。


「その辺りも聞きたくて捜索してたんですけど、本人が死んじゃいましたし」

『遺品から調べるしかねぇな。そっちはもう手を回してるんだったな』

「えぇ。こういう状況で、自由に動ける人間がいるんで」


誰の事かなんて、もう言うまでもない。ただ留守を任せるに当たって、あちらはあちらでツテを使ったそうだけど。

三佐も納得してくれたらしく、やや難しい顔で唸りだす。……お、メールだ。

通信はそれとして、さっき届いたばかりの報告書に目を通す。ふむふむ……やっぱりか。


「三佐、いいタイミングで検死結果出ましたよ」

『お、そりゃあ助かる。それで』

「死亡時刻は昨日深夜……大体午後十時辺りですね。直接の原因は、やはり睡眠薬の多量摂取。
後頭部に打撲の痕があったんですけど、頭を打って意識喪失。その後で……という流れですね」

『やっぱ口封じか』

「少なくとも自殺じゃありません。もみ合った形跡もありますし。
あとは遺書の方も調べて、用紙やインク、印刷機の割り出しを行っています」


そうそう、忘れちゃいけない事が一つ。……スチュワート提督のご自宅だね。

動いている子が、なにか掴んでくれるのを待つだけだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


事件がどんどん面倒な方向へ進んでいる。これはあれか、二時間ドラマか。

お願いだからさ、こういうのはほんとやめてほしい。僕がどっかの名探偵こと最悪な死神みたいだから。

とにかく事件の報を聞いた僕は、英断を下しある連中に連絡。それは……ボランティアなども行っている、とある会。


元々はなのはのファンクラブだった。でもそれがどういう経緯か、砲撃ジャンキーが集まるカオス会へと変ぼう。

しかも僕が隊長って事に……規模と戦力、ツテだけは半端ないので、網の方をお任せした。

もしあっちになにかするようなら、ソイツは容赦なく砲撃の雨にさらされる事だろう。


……まぁそれが不安でもあるけど。とにかく尾行に気をつけやってきたのは、クラナガンの高級マンション。

さっと忍び込み、カメラなどにも注意しながら上層階へ。それでそそくさと、スチュワート提督の部屋へ入る。

こう言うと犯罪みたいだけど……実は既に108と査察部が、がさ入れしている最中。


なので顔なじみの捜査員にも軽く挨拶し、両手袋をはめて……とはいうものの、大体は探し尽くされている。

しっかしいい部屋だよねぇ。部屋が何部屋もあるし、調度品もかなり高め。それでお酒の棚とかもあるし。

しかも奇麗に片付けてあるねぇ。ただ……灰皿の類と、タバコの吸い殻があった。


あと壁にもヤニというか、シミみたいなのがある。かなりのヘビースモーカーと見て間違いないね。

あれかな、家でだけ吸う人だったのかな。最近外だと、禁煙禁煙って騒がしいしねぇ。ミッドでもそこは変わらずだよ。


「恭文、ようやく来たか」


リビングで軽く唸っていると、後ろからカルタスさんが呆れ気味に声をかけてきた。


「カルタスさん、どうも」

「おう。……早速だがちょっと来てくれ、やってもらいたい事がある」


手招きされて入ったのは、提督の寝室。……また良いベッドや家具使ってるなぁ。カーペットもかなり高いのだし。

一人暮らしには不釣り合いな広さだけど、まぁ広い方が寝心地いいしね、これはしょうがない。

それでラッドさんが指したのは、提督が使っていたと思われるノートパソコン。


「このパソコンなんだが、一部データにロックがかかっている。お前の能力で開けられないか?」

「普通のハッキングは」

「やろうとしたんだが、無理に開けるとデータが消えるタイプらしい。頼む」

「分かりました」


早速携帯とパソコンを繋ぎ、内部へハッキング。術式を走らせ、慎重にパズルを組み上げる。

すると画面の中に、新しいウィンドウが展開。……よし。


「できました」

「さすがだな。えっと」


ただ僕達はそのデータを見て、初っぱなから眉をひそめる。それでも確認のため、少しずつ確認。

でも結局なにも変わらなかった。いや、変わった事はある。……それはこのデータが、極めて不愉快って事だよ。


「……おい、なんだこれ」

「見て分かりませんか? 買春ですよ」


そう、それは……どう見ても如何わしい写真だった。しかも男女問わずだよ。

てーか事細かになにしたかとか、写真付きで解説してくれてやがる。どう見ても小学生な子までいる。

……春先に潰した人身売買組織みたいに、人そのものを道具にして稼ぐ奴らってのは少なからずいる。


例えば人身売買に限ってもそう。ここは違法研究用のモルモットってお得意先もあるから、自然と繋がりができたりする。

それだけじゃなくてこういう、春を売り買いする店に売られる場合もある。しかもこれ、かなり詳細なデータだよ。

店の住所やら規模、『従業員』の人数までばっちり入れてる。どんだけ好きなんだよ、あのおっさん。


まぁこのデータを元に、そういう店やってる奴らは根こそぎ潰すとして……どうしようか、これ。

事件とは全く関係ないところで黒い部分が出て、カルタスさんも呆気に取られてるし。


「人間、誰にでも闇があるってやつか?」

「そうですね、僕以外にはあるでしょう」

「いや、お前は闇全開だろ。主に鬼畜外道って方向で。……どうするよ」

「まずは」


この胸くそ悪いデータに書かれている、住所やらなんやらをまとめてコピー。ファイル化して、カルタスさんにも渡す。


「ここに書かれている店、片っぱしから潰していきましょうか。
ちょうど暇してる奴らがいるんで、収集かけてバックから粉砕します」

「できるのか」

「できますよ。鬼畜法人撃滅鉄の会って、聞いた事ありません?」

「……おいおい、あそこと繋がりあったのかっ! 初耳だぞっ!」

「実は局員で話すの、フェイト以外だと初めてなんですよね」


そう言いながら、改めてデータ確認。しっかし……結構あるんだなぁ、こういう店。

決して件数は多くないけど、だからこそ多々ある普通の店に埋もれてしまう感じ……ってあれ。

そのうち一件の住所が目につき、目を細める。ここ、最近見た覚えがある。


「どうした」

「ここ、スチュワート提督が贔屓にしているっていう、バーの近くなんです」


それでカルタスさんが、まさかという顔をする。……他のとこは任せて、まずここから行ってみるべきだね。

なんかピンときたのよ。単純に行きつけのバーで飲んで、その後っていうなら問題ない。

でもそうじゃなかったとしたら? 念のために会の人員も使って、関係者探しだしておくか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なんというか、実に奇遇な事ってあったもんだよ。実は鬼畜法人撃滅鉄の会、このアウトな商売について調べてたのよ。

それで連絡を取ったところ、あのリストはただの趣味なんかじゃなかった事が判明。

あれは全部系列店――そういう組織の稼ぎ場だった。なので早速、分厚い鎧姿の事務長と合流。


会長・副会長両名はスポンサーを潰しているとの事らしいので、調べといてくれた隠れ家へ乗り込む。

そこは繁華街の一角で、いわゆる貸しビル。そのうちの一つに、脳天気な隠れ方をしていた。

まぁ乗り込むっていうか……爆破するんだけどね。入り口となっているドアの前で、すかさず術式発動。


まずは結界で、内部にいる奴ら全員を閉じ込める。続けてブレイズキャノンを詠唱。

ドア越しに砲弾を生成し、そのまま発射。続けてブレイクハウトを発動し、ドアの強度を強化。

するとなんという事でしょう、部屋が一瞬で爆発に包まれてしまいました。


「隊長、なにビフォー&アフターみたいに言ってるんですかっ! これどうするんですかっ!?
燃えてるんですけどっ! むしろこれ、『なんという事をしてくれたのでしょう』ですよねっ!」

「うーん、やっぱり事務長のゆかなさんボイスは素敵だなぁ。地の文を読まれても気にならない」

「話を聞いてくださいー!」

「大丈夫大丈夫、死なないようには配慮してるから」

≪Icicle Cannon≫


なので更に術式を発動。今度は氷結砲弾を打ち出し、内部で爆発。燃えているであろう炎を一気に消す。うーん、僕って優しい。

なのでドアを分解し、そのまますたすたと中へ。氷漬けになっている連中を適度に踏み、蹂躙開始。

出てくるチンピラを斬り倒し、ボロボロな女の子には優しく布を駆け、腕利きっぽいのは事務長のパンチで一発KO。


そんな事を続けた結果、あっという間に事務所制圧。なので結界は維持したまま、ひげオールバックなおっさんをけり飛ばす。

ついでに腰もへし折って、床と友達になってもらう。いや、抵抗しようとしたから正当防衛正当防衛。

それでおっさんが怯えながら僕達を見ているので、事務長がさっとバインダーを取り出し開く。


「この人が例のバーマスターです。それで……この店の責任者」

「な、なぜそれを」

「我が会をナメないでください。……あなた達、再起不能にしてあげますから。
ここにいる子達や私達に、二度と手出しができないように。社会的に抹殺します」


さらっと恐ろしい事を言いながら、殺気を出さないでほしい。ほら、なんかガタガタ震えて漏らしちゃったし。

でもゆかなさんボイスだとこう……癒されるよねー。なんだろう、やっぱりゆかなさんは大正義って事かなー。


「さて、そんなおのれに質問だ。答えなければその腕を、一センチずつ折っていく。
指から初めて肩へ……もちろんすっごく痛くするから、発狂するかもね」

「隊長、なんて恐ろしい事を……!」

≪殺気向けたあなたにだけは言われたくありませんよ≫

「なんだよ……これ以上なにをするっていうんだっ!」

「答えればなにもしないかもよ? デリック・スチュワートってのに聞き覚えがあるよね」


そこで一気に顔色が変わって、そっぽ向いたし。なのでしゃがみ込んでから、左手を取る。

それで宣言通りに第一関節から、指をへし折ってあげた。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ソイツはこの店に来始めて長いのかな。結構暴れてるみたいだけど……あ、もう一回折らないと、答える気にならない?」

「違う、そうじゃないっ! 全部アイツの指示なんだ……!」

「どういう事ですか」

「スチュワートが俺達のボスなんだよっ!」


……いきなり話が大きくなってきたので、立ち上がって事務長と顔を見合わせる。

いや、待って。それならあのリスト……うん、繋がってくる。

スチュワートが元締めなら、確かにあれだけやっててもおかしくはない。でもどうやってよ。


当然提督クラスともなると、昇進の際には身辺調査だって行われる。それをくぐり抜けて……方法がひとつあった。

その辺りに絡んだ人間を、買収する。金でもいいし、自分が扱っている商品でもいい。

しかもこれなら、ネアスさんを襲う動機だって十分成り立つじゃないのさ。ただ疑問が残るけど。


「それじゃあ顧客リストは」

「お、俺のオフィスに」

「その中に局高官は」

「いた……スチュワートの上司や、昇進の審査担当だ」


やっぱ予想通りにか。スチュワートが新進気鋭って扱いだったのは、ここがあったからだよ。

でも綱紀粛正で目が厳しくなっているところに……なるほど、曖昧な言い方をしたのはこれが理由か。

リンディさん、本当に体よく利用されたのよ。事件後に暴走するよう、予めタネを仕込まれていた。


それがリスト関係だよ。リンディさんは知っての通り、非常に思い込みが強い。特に局関連はそう。

だからリストを手に入れれば……そうじゃなきゃ、スバルやギンガさんにまで一気に連絡しないでしょ。

あの後確認したらエリオやキャロ、事件の後処理で忙しいティアナとジンまで声かけされてたし。


もちろん査察部や捜査本部も、Ha7という前歴がある以上この人の動きを無視できない。

そうだよ、この時点でスチュワートは、ネアスさん殺害を計画していたんだ。

結果僕達はリンディさんの暴走から止めるはめになって、スチュワートを一度見失ってる。


ほんと、とんでもないタヌキだね。……でも待って、それでどうして殺されたの?

その時スチュワートの居場所を知っていたのは……まさか。


「おい、お前……スチュワートに一体なにをした。最後に連絡を取ったのはいつだ」

「なんの、話だ。連絡を取ったのは一週間も前で」


とか言うので、動かなくなっている足を踏み抜き、足首をへし折る。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「嘘を言うな」

「ほ、本当だっ! てーかなにがあったんだっ! アイツがなにかしたのかっ!」


目には怯えこそ混じっているものの、嘘は言っていない様子。……これは顧客リストから調べないと駄目か。

とにかくコイツらは重要参考人だ。適度に痛めつけつつ、情報を引き出そう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


カルタスが慌てた様子で戻ってきて、かくかくしかじかで報告――頭痛ぇ。

おいおい、どういう事だよ。児童買春してたのを写真に撮って、リスト化?

それは完全にアウトな証拠だろうが。ハッキングやらなんやら、警戒してなかったのかよ。


「なぁカルタスよ、どうしてそうなった」

「……あれじゃないですか? シリアルキラーが被害者の遺体を一部切除して、集めるような事するじゃないですか」

「それで優越感かよ、とんでもない変態だな。しかも男女問わずだったんだろ」

「えぇ。相当エグい事してて……後から来たギンガがこれを見て、盛大に吐いてくれました」

「……量は」

「恭文が転送魔法で、つい屋上に飛ばしてしまった。あとは察してください」


あぁ、半端なかったのか。スバル共々クイントに似て、凄まじい量食べるからなぁ。

あれか、清掃代とかビルの管理者から請求されるかもしれないな。覚悟だけはしておこう。

ただギンガだけではなく、カルタス自身も辛いらしい。今にも吐きそうな顔してるしよ。


恭文の方は……まぁ犯人への対応が厳しくなるだけだから、問題ないだろ。あとはしばらく肉が食べられなくなるだけだ。

それより問題は……今派手に暴れているであろう、あの馬鹿とその仲間か。


「で、恭文は」

「派手に暴れてますよ。後始末、全部俺達にやらせるつもりです」

「それで証拠が掴めるなら、問題ないだろ」

「それなんですが提督、証拠……見つかりました」

「マジかっ!」


それでカルタスは脇に置いてあった、ビニール袋をこっちに置いてくる。……驚いたものの、実は気になっていた。

透明な袋の中には、黒いジャケットとロングパンツ、それに黒帽子とグローブが入っていた。


「ただ恭文の行動どうこうじゃないんです」

「じゃあこれ、どっから手に入れた」

「スチュワート提督の自宅周辺にあった、ゴミ集積所からです。
燃えるゴミの中へ隠すように入れてありました。
ただ間抜けな事に、ゴミの仕分けができてないって事で張り紙されてて」

「あれか、近所のおばちゃんとかが漁ったのか」

「かもしれませんね」


いやな、いるんだよ。仕分け確かめるためなら、人んちのゴミ漁ってOKと思ってるのがさ。

それでうちの管内でも、一度凄いトラブルになった事があってなぁ。あの時は仲裁が大変だった。


「でも助かりましたよ。……このジャケットを調べたところ、バッカラ氏の指紋が検出されました。
それとバッカラ氏の爪に、皮っぽいものが付着していたんですが」


カルタスは大きめな袋を少しずらし、左袖をチェック。そこには薄い引っかき傷がある。


「この皮素材と一致しました。スチュワート提督の遺体にも、同じ箇所に小さなアザが」

「……つまりあれか、あの襲撃は」

「スチュワート提督で間違いないかと。ただそうなると」

「殺された動機だよなぁ。頭打ったってのは間違いないんだしよ」


ていうか、誰が殺したのかって話なんだよなぁ。ただ頭打っただけだったら、天網なんとやらで済ませられるんだが。

もしかして買春の問題絡みか? だとすると……お、通信か。てーかギンガから? なんだろうと思い通信を繋ぐ。


「ギンガ、どうした」

『ぶ、部隊長っ! 大変なんですっ!』

「いや、今度はなんだよ」

『今なぎ君から連絡があって……げふ』


おいおい、部隊長の前で吐くんじゃないよ。まぁお前からすると相当強烈だったのは、よく分かった。

あとな、嗚咽の音を長々と響かせるな。お前、そりゃ女は捨ててるぞ。てーか泣きたくなるわ。


『……す、すみません』

「で、連絡ってなに知らせに来たんだ。報奨金の手続きなら後にしてくれ」

『そうじゃないんですっ! あのリスト、趣味で作ったようなものじゃなかったんですっ!
例のバー店主を捕まえて、話を聞いたんですけど……スチュワート提督が元締めだったんですっ!』

「……なんだと」


おいおい、それだと話が大きく変わってくるぞ。てーか話を聞いたって……マジでどういうツテを使った、アイツ。

いや、例の会だってのは聞いた。だがそれにしたって早過ぎるだろうが。


「ギンガ、恭文に通信繋げるか」

『はいっ! 今回線回しますっ!』


そうして出てきたのは……おいおい、なんだこの地獄絵図は。両足や腕、腰が変な形に折れ曲がってるのがいるんだが。

てーかその隣にいる鎧はなんだ。あれか、お前から借りたハガレンってやつか。


「恭文、どういう事だ。大体のところはギンガから聞いたが」

『どうもこうもありませんよ。スチュワートは長年非合法な組織を運営し、出世の糧にしてた。
顧客リストの方も、改めて見つけましたよ。そうして馬鹿な人脈作りに励んでいた』

「その結果、総務統括官の補佐役みたいになったわけか。ほんとどうしようもねぇな。
……こっちもいろいろ分かったぞ。バッカラ氏を襲ったのは、スチュワートだ」

『証拠、見つかったんですね』

「もうぼろぼろとな。データ送るから、見てくれ」


画面の中でデータを受け取った恭文が、腑に落ちないという様子で目を細めた。


『……ゲンヤさん』

「なんだ」

『これだとスチュワートが、自分で手を下したんですよね』

「そうなるな」

『こんな事するでしょうか』


……やっぱそう思うか。いや、実は俺も疑問だったんだよ。

少なくともスチュワートは綱紀粛正が騒がれる中で、ここまでボロを出さなかった。

まぁ褒められたものじゃないが、少なくとも慎重な奴ではあるんだよ。


同時に大胆な奴でもある。上司である提督を、自分が行方眩ますための囮にしやがったんだしよ。

そんな奴がよ、自分で手を下すような事するか? アリバイ云々はともかく、少々迂闊すぎるだろ。

よっぽど強い恨みがあるならともかく、さすがになぁ。しかもそれだと、スチュワートがどうして殺されたかも説明できない。


そこで一番に考えられるのは、組織の連中がスチュワートを切り捨てた事。

匿ったら大損害かもしれないし、だったら自殺させて……って寸法かもしれん。

もしくは奥さんだ。スチュワート提督へ復しゅうだよ。だがバッカラ氏は重傷とはいえ、一応生きている。


動機としては弱いし、どこでスチュワート提督が犯人だと知ったのかが疑問だ。……そこも確認するか。


「恭文」

『とりあえずここの連中はなにもしてませんね。一週間ほど連絡取ってなかったって言ってますし』

「……それでこれか」


相変わらず過激な奴だ。……ギンガが頭抱えてるが、見なかった事にしよう。

あれだ、お前が出産ってレベルで吐くよりはマシだろ。


『そっちは会長達に任せますよ。それよりも少し気になる話が』

「なんだ」

『スチュワートの秘書が、何度かこっちに来ていたそうなんです』


……ここで突然、新しい容疑者候補が浮上。捜査ってのはまぁ、こういう事もあるわけでな。

んじゃあ恭文や部外者任せにしてもあれだ、アリバイなんかの裏付けはこっちで行うか。


『そういうわけでゲンヤさん、一つ頼みが』


その手はずを整えようと思っていると、いきなり頼みときた。……なんとなく嫌な予感がしながらも、聞き返してみる。


「あー、なんか嫌な予感がしなくはないが……どうした」

『フェイトを逮捕してください、今すぐに。それを秘書へ伝わるように』

「……はぁっ!?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


フェイトが臭い飯を食い始めた頃、僕はみんなのお礼に最高級かつお節を送ってから、本局へやってきた。

そうして入ったのは、スチュワート提督のオフィス。そこにはいそいそと荷物整理をする、あの秘書がいた。


「失礼します」

「あなたは」

「いや、どうも。その……お話を聞きまして」

「あぁ、それで。わざわざありがとうございます」


それでぺこりと頭を下げ、礼に返す。……さて、ここからが本番だ。


「あぁそれと……犯人捕まりました」

「……フェイト執務官、なんですね」

「……えぇ」


涙声でそう言って顔を背けると、秘書がいきなり腕を振り上げた。そうして両手で勢い良く、机を叩いた。


「馬鹿なっ! ハラオウン執務官が……そんなはずないっ!
 あなただって彼女と付き合いが深いなら、分かるはずだっ!」

「でも、証拠がない。どうも108の方には、フェイトの犯行を示すものがあるらしく」

「馬鹿な……そんなはずはないっ! これは絶対になにかの間違いだっ!」

「……どうして、そう強く言い切れるんですか」


優しく疑問を告げると、秘書ははっとしながら顔を背けた。


「それは、閃光の女神がそんな事をするわけが……そんなあなたこそ、なぜ迷う。
彼女がそんな人間でない事は、少なくとも私より知っているのでは」

「そうですね。僕はてっきり……おのれがスチュワートを、殺したからだと思ってたんだけど」


そこで場が静寂に包まれ、秘書が目を見開く。馬鹿なと声をあげようとするけど、それは僕の視線で止められた。


「おのれはスチュワートの裏の顔――売春斡旋なんてやってる事実を、どうしても許せなかった。
店の関係者をしばいて、もう吐かせたよ。おのれ、スチュワートの使いっぱにされていたそうだね」

「どうして、それを」

「忘れた? 僕は古き鉄だよ。そういう連中の口を吐かせる手なら、幾らでもある。
恐らくネアスさんも、その事実を掴んだ。いや、掴んでなくても関係ないか」


もう一度言うけど、大事なのはリンディさんの事が事細かに調べられ、徹底否定された事。

僕達は大事な事を忘れてたのよ。PMCって大きな看板ばかり見て、根本的なところを見ていなかった。

それはあの会議で覚えた恐怖は、腹に一物持っている人はなおさら強くなるってところ。


スチュワートにとってネアスさんは、凄まじく邪魔な存在に格上げしてしまった。知らないうちにね。


「初っぱなの賛成派は、恐らくそれが理由。まぁ最初は本当に言った通りで、後にってパターンかもだけど」

≪だからスチュワートはネアスさんを襲い……だがそこで誤算が起きた。
それはネアスさんが生きていた事。このままではいずれ事がバレる。
だから身を隠す他なかった。当然ですよね、売春のスポンサーなんて、重犯罪ですよ≫

「それを察知したおのれは、提督を呼び出し……そのまま手にかけた。
逃走の手助けをするとか言えば、使いっぱなおのれの言うとおりに動くでしょ」

「妄想だ、そんなのは。確かに私は……提督の悪行を知りながら、黙っていた。それは事実だ、だが殺しては」

「いやね、実は目撃者がいたのよ」


そこで顔を背けていた秘書が、慌てた様子で僕を見る。


「あの公園に寝泊まりしてるホームレスが、たまたまおのれらを見かけてさ。顔までばっちり覚えてたよ」

「馬鹿を言うなっ! あの公園にホームレスなどいなかったっ!」

「はい……自白ありがとう」


笑顔で素晴らしい反論に返すと、秘書の顔が真っ青になる。……なぜいなかったと分かる?

そんなの、あの時間にあの場であれこれしていたからだよ。それ以外にないでしょ。

少なくともこの人は、現場に行ってるのよ。……でもこれ、ほんと有効なんだね。実はドラマの中だけだと思ってた。


「証拠には、ならない」

「そうだね。だからこのままだと、フェイトは犯罪者だ。
いや、とりあえず局員としての立場は全て失うね」

「君は、それでいいのかっ! 彼女は――閃光の女神は、局の宝だっ! そんな彼女が全てを失うんだぞっ!」

「それを決めるのは僕じゃない、おのれだ」


確かに証拠はない。店に行ったのは事実でも、実際に行為には及んでいない。

黙っていた事は咎められても、スチュワート提督が脅してきた可能性もある。

上手くいけば情状酌量の余地は出てくる。そう、この男は自分の罪から逃げられる。


フェイトの立場を犠牲にし、見殺しにすれば……だけど。


「まさか、そのために彼女を利用したのかっ!」

「いや、実はフェイトから申し出てきた。僕も止めたのよ」

「彼女がっ!?」


実はゲンヤさん達へ連絡する前、フェイトから通信が来た。ほら、レオスタットもいるから、その辺りどうするのかって話。

それで現状を説明したら……だったら自分が犯人になるって、とんでもない事言い出してさ。


「おのれの事、本当に悪い人とは思えないんだってさ。ただ……真実を告げるのに、勇気が出せないだけ。
失う事を恐れて、本当に正しい事から逃げてしまっているだけ。自分にも覚えがある事だから、だったら」

「私のために、自分の立場を賭けたというのかっ! そんな馬鹿なっ!
なぜそこまでするっ! 彼女とは付き合いもなにもないんだぞっ!」

「フェイトはおのれが思ってるより、ずっと馬鹿やってるのよ。……どうする?
殺してないならそれでいいのよ。だけどお願いだから、本当の事を話して」


フェイトに関しては……まず証拠もなにもないから、不起訴にはなる。

それでも捜査陣営からは叱られるだろうし、職だってどうなるか分からない。

ていうかね、フェイト……嘘話でもいいはずなのに、マジで逮捕されたのよっ!


僕馬鹿かと思ったもんっ! それで手錠かけられて、今ごろ留置場でご飯食べてるよっ!

幾ら証拠なくて、自白させるためだからってこれはないでしょっ! ていうか、いちいち方向音痴だしっ!

我ながらこんなやり方で吐くわけが……と思っていると。


「……もういい」


観念した様子で、男は腰を落とした。それで震えながら、頭を抱える。え、マジで通用したの?

嘘……フェイト大勝利っ!? ていうかこれはありなのかなっ!


「俺が、殺した。あと一つ、勘違いしている」

「なに?」

「バッカラ氏を襲ったのも、俺だ」

「……やっぱりか。傷跡あるものね、ネアスさんからやられたんでしょ」


そこではっとしながら僕を見上げてくるので、静かに頷いた。なお、傷跡はサーチしました。

ゲンヤさんにも言ったけど、少なくともスチュワートは自分で手を汚すタイプじゃない。

あのデータもそうだし、ゴミ袋に入っていた証拠とかも、全部偽装工作なんだよ。


スチュワートを殺した後、自宅へ侵入。しっかり証拠を出した上で……って感じ?

死人に口なし、ジキルとハイドじゃないけど、二面性のある犯罪者を演出したんだよ。

まぁそのせいで、証拠もなにもなかったんだけど。やっぱりフェイト大正義なんだろうか。


「動機はやっぱり」

「そうだ。スチュワートは生粋の狂人だった。年端もいかない少年や少女に、あんな事を……!
しかも誘いを断ったら秘書として縛りつけ、無理矢理同じ位置へ引きずり込んだ。毎日地獄だった。
全てを知らせれば解決するのに、ためらってしまうんだ。その代わり俺も全てを失うと知って、震える」

「……そうやっておのれは流され続けた。ネアスさんも襲って、結局耐え切れなくなり」

「あぁ、殺した。裁きのつもりだった。こんな男、殺されて当然だと……アイツは俺を、役立たずだと罵ったんだっ!
言う事すら聞けない、愚図な奴だとっ! だから……だが恐ろしいんだっ!」


秘書は嗚咽を漏らしながら、震える手をおぞましげに見つめる。それは罪の痛みゆえだろうか。

手の中でうごめいている歪みが、男の精神をがしがし蝕んでいるようだった。


「脅されて、人を殺しかけた自分がっ! そしてそのきっかけとなった相手を、実際に殺した自分がっ!」

「それでいいじゃないのさ」


らしくないかもしれないけど、優しく声をかけた。すると秘書は顔を上げ、僕を驚きながら見上げる。

それでそんな僕を、シオンも髪をかき上げながら見てくる。それがなんか照れくさくて、顔を背けた。


「お前はそうやって殺した事が、間違いだと感じる。フェイトの馬鹿に対し、しっかり答えた。
その気持ちは……スチュワートにはなかったものじゃないの?」

「この、気持ちが」

「だからおのれは、遺書なんて残したんじゃないの? 通り魔に見せかければいいのに」


そう、通り魔に見せかければ問題はなかった。遺書なんて残す必要ないのよ。

遺書で殺害を疑われ、捜査がここまで及んだしね。……フェイトがここまでしたの、そこが理由なの。

もしかしたら自分では止められなくて、誰かに止めてほしがっているのかもしれない。


だったらって……そこまで言われて、僕もなにも言えなくなった。それで正解だったみたい。

だってそこをツツいた事でこの人は、瞳に涙を溜め始めたもの。


「その気持ちがあるなら、どんなに時間がかかってもいい。やり直せ。
考えて迷って、コケて……それでも負けないなら、きっとできる。さぁ」


右手をスナップさせ、そのまま秘書を指さす。


「お前の罪を数えろ」


秘書はぼう然としながら、そのまま落涙。嗚咽を漏らしながら何度も、何度も頷いてくれた。

こうして事件は無事に解決……とはいかない。だってスチュワート関連の違法行為、全部明らかにしなきゃいけないもの。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


フェイトはまぁ、厳重注意を受けた上ですぐ釈放。つい勢いでやっちゃったけど、それはねー。

ていうか、僕も説教された。……理不尽だ、ゲンヤさんも乗っかったのに。ギンガさんはやっぱ理不尽だ。

それで僕もようやくお役御免で、自由の身。みんなと夏休みを過ごす、正しい毎日が戻ってきた。


「うわ、なんか凄いニュースになってるー」

「人気提督の表と裏、未成年に襲いかかる闇と、それを貪った管理局高官達」

「こちらは『腐敗ここに極まれりっ! 変わらなかった管理局っ!』とありますね。相当過激ですよ。これだと」


そこで海里とあむ達が見るのは、なぜかこっちへ来ているレオスタット。

調査の経過報告も兼ねてるんだけど、こやつはなぜ……まぁツッコむまい。

来た時に若干涙目だったもの。一体何がどうしてこれかは、察していける。


「査察部も忙しさ満載であります。……なのに自分は、なぜかここへ」

「まぁまぁ。レオスタット査察官にもお世話になりましたし。はい、お昼のかしわうどんです」

「ありがとうでありますっ!」


それで幸せそうにかしわうどんをすするレオスタットへ、涙を禁じ得ない。

おのれ、やっぱり査察部向きじゃないのかもしれない。


「でもさ、犯人のおじさんってどうなるのかな」

「残念ながら殺人未遂と殺人、その他の違法行為もあるしねぇ。ただ」

「ただ?」

「スチュワートに相当酷い脅され方をしてたしね。それと同時に、その違法行為にも詳しかった。
なので司法取引で、違法組織の摘発に協力できるなら……多少刑は軽減されるかも。もちろん反省してるなら、だけど」

「そっか。……よかったね。ネアスさんももう目が覚めて、リハビリしてるって言うしさ」


僕を見て、なぜかみんながほほ笑ましく見てくる。……それはそれでムカつく。だからだろう。


「まぁその違法組織も、僕と撃滅鉄の会で壊滅状態なんだけどねー」


こんな茶目っ気たっぷりな事を言ったのは。そうしたら全員ずっこけた。


「それ駄目じゃんっ!」

「いや、そのかわり賞金はがっぽりよ? みんな、今日は回らないお寿司だから」

「マジかよっ!」

「マジだよ。……そうそう、せっかくだしレオスタットも来なよ。フェイト達のガードしてくれたお礼に」


レオスタットがうどんを吹きかけながら、こっちを見てくる。

どうやら僕が回らないお寿司を奢る事が、信じられないらしい。


「い、いいのかっ! 回らない寿司だろっ!?」

「いいよいいよ。それでおのれがどうしたら査察部でやっていけるか、相談に乗っていこう」

「余計なお世話だぞっ! ……非常に有り難い話だが、自分はこれで十分だ」


そう言ってレオスタットは、すっと器を持ち上げる。やや照れた笑いなのが、また珍しい。


「えー、お兄さんお寿司食べないのー。恭文が連れてってくれるから、絶対美味しいとこなのにー」

「あぁ。いやな、実は自分……見ての通り不器用でな。決して要領がいいわけじゃないんだ」


うん、知ってた。それはもう、見てたらこう……今時めずらしいくらい、直進キャラだなぁとはさ。


「だから査察部にいる意味もちょっと分からなくなってたんだが、先輩やお前の姿を見て……少し分かった」

「なにがよ」

「この仕事は、組織の中にある悪へのカウンターウィルスだ。とてもやりがいがあると……だから」

「だったら余計に来なよ、お祝いだ」


左手を挙げながらそう返すと、奴が面食らった顔をする。まぁお祝いなんて言ってくるしねぇ。

そう、これはお祝いなのよ。若い査察官が、あやふやでも道を決めた。

そういう時は、お寿司でも食べて豪勢にやっていいのよ。――こうして事件は無事に終わりを迎えた。


いろいろな余波があるけど、その辺りは全部査察部のお仕事。まぁ頑張ってくださいとしか言えない。

それはそれとして、僕は早速店選び。せっかくだし、あそこにしようかなー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


査察部の拘留が解け、私はようやく解放された。それで正式に抗議させてもらったわ。

私のやっている事が、間違っているような扱いだもの。そんな事あってはならない。

でもその声はレティや上層部から、年がいもない説教という形でもみ潰された。本当に許せない。


なにより許せないのは……スチュワート提督の事よ。彼が違法行為に携わっていた?

そんなのは嘘よ。だから私は真実を守るために、戦おうとしたわ。彼は何者かにハメられたのだと。

でもそれすら止められてしまった。彼は薄汚い裏切り者として……許せない。


原因は間違いなくあの子だわ。私の愛を、管理局の正義を、仲間の未来を踏みにじる。本当に、どうしてなの。

私はなにも間違っていない。仲間を、組織を信じて預ける。ただそれだけをできない人間がおかしい。

そうよ、私は間違っていない。間違っているのは私以外全員よ。私が間違っていたら、クライドに申し訳が立たない。


クライドのためにも、私は間違っていないと認めさせなきゃ。そうよ、それがクライドや死んでいった仲間のためなのよ。

今はレティの目も厳しいけど……いつかチャンスを掴んだら、全てを取り戻してみせる。

あの栄光の日々を、そして……私達の夢である機動六課を。それが、みんなのためなのよ。


みんな、お願いだから信じて? 私は正しい――決して間違ってなんていないの。

世界を守るのも、変えるのも、私達管理局なの。私達は、信じられて当然の存在なの。


(サイト四周年記念小説――おしまい)






あとがき


恭文「はい、というわけで……Skyrimは本当にやばいっ!」

フェイト「もういいからっ! とにかく一応でも決着した、記念小説です」


(難産でした)


恭文「うん、分かる。でもSkyrimやってる場合じゃないって」


(だってようやく、MODの入れ方わかったから。あとは拍手のお返事も……もう拍手、全部返事とか難しいかもしれない)


恭文「前にも言ってたけど……やる事増えたしね。それでもちょこちょこ返事は書いてるけど。
それはそれとして、今回はまた派手な不正行為に。そしてリンディさんがまた」

フェイト「これであれに繋がるんだね。もう管理局、駄目かもしれない」

恭文「いつもの事だよ」


(それでもドキたまで多少変わります)


恭文「そうそう、五月五日という事で、伊織の誕生日です」

フェイト「えっと……火野の恭文と結婚するんだよね」

恭文「一応お祝い送らないと。あれはムカつくけど、そこを祝わないのも駄目だし」



(おくらないでよっ! いや、ほんとやめてっ! いつ孫を生むのかとか、マジで言われてるんだからっ!
本日のED:Labor Day『Extreme Dream』)





リンディ(OOO)「……やっぱり愛よっ! 愛情があるから私も……ね?」(ぎゅーすりすり)

恭文(OOO)「伊織、僕は大丈夫だよ。伊織を愛する気持ちなら」

伊織(アイマス)「竜宮小町どうするのっ! なにより高校っ!」

恭文(OOO)「いや、子どもはあれだけど結婚ならいけるんじゃないかな」

伊織(アイマス)「お断りよっ! アンタはその前に、抱きついているその人をなんとかなさいっ!」


(おしまい)




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