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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第34話 『NEXTの世界/美しきもののために』



「――アンタは結局、自分の力じゃなにもできなかったって事じゃんっ!」


そこで後ろから、ドタドタと足音が響く。そちらを見ると……ここにはいないはずのあむがいた。

あむは怒りの表情を浮かべたまま僕達を押しのけ、両手で風見の首根っこを掴む。

……なぜおのれがいるっ! ほら、風見もポカーンとしてるしっ! 一体どうなってるのっ!


「ちはるはアイドルとして、一生懸命頑張ってたっ! 自分の力で輝くために、みんなを笑顔にするためにっ!
なのにアンタはなにっ! ショッカーやらなんやらの力を借りなきゃ、なんにもできないっ!
自分で自分に満点あげられる生き方もできないくせに……偉そうな顔するなっ!」

「あむちゃん……君まで、どうしてここに」

「俺が連れてきた」

「天道ー!?」

≪そう言えばさっき、渡してきたとか言ってましたね。だからですか≫

「お前達があれこれ言うより、効果的だと思ってな」


いや、効果的だけど……どうやってっ! ハイパークロックアップで解決ってやつですかっ!

……あ、ギンガさん達からメール来てるっ! なんかすっごいたくさん……なにやらかしてんの、コイツッ!


「なにより情けないのは……そんなアンタを見て、ちはるがそうしてたって事だよっ!」

「ちはるが?」

「そうだよっ! お兄ちゃんは自分の力で会社作って成功して……だから自分もってっ!
親代わりに頑張ってくれたお兄ちゃんが安心できるように、アイドルとして独り立ちするんだって言ってたっ! なのに……なんで」


あむは首根っこを掴んだまま崩れ落ち、それでも風見志郎を揺らし続ける。

嗚咽にまみれ、言葉にならない罵倒を続ける。そんなあむが不びんで、僕は優しくその手を解いてあげる。

……確かに僕達があれこれ言うよりも効果的かも。ダメージ受けて、ぼう然としちゃってるし。


ちょうどいいので、ツッコんでいこうか。この馬鹿をこのまま返すってのもあれだしさ。


「風見志郎、おのれに一つ質問だ。ナノマシン散布はいつから始まった」

「そんなの決まっているじゃないですか。隔離されてから」

「そうだって、確認は取ったんだよね」


鼻で笑って当然と言い切ろうとした風見の表情が、そこでこわばる。視線を落とし、更に狼狽する。


「……いえ。そんな、まさか」

「風見ちはるは隔離が始まる前に、エクサストリーム社から出たんだよね。なにか変化はなかった?」

「そう言えば……少しふらついた事が。寝ていないと言っていたので、事務所の方に送ってもらって」

「おい、蒼チビ」

「そう考えると、辻褄は合ってくる。あむ、落ち着いて聞いて」


あむの手を離し、優しく頭を撫でる。それであむが涙をごしごしと拭いて、頷いてくる。

それでも安心はできないけど、それでも……ちゃんと伝えなくちゃいけない。僕は腹を決めた。


「風見ちはるはナノマシン散布の影響を受け、改造された可能性が高い」

「……え。じゃあ、コイツと同じで」

「うん。もしかしたらショッカーのところにいるのかも」

「そんな馬鹿なっ! 偉大なるショッカーが……そんな」


否定しきれない風見は、小さく呟きながら首を振る。まぁ、ここは昨日予想してた通りだね。

それであの死体は……いや、エクサストリーム社の事件後、活動していたChiharuは替え玉だよ。

ここでリザード達が出てきた事も説明がつく。見ての通り、こいつは風見ちはるが無事だと信じきっていた。


連絡を取ろうとすれば別だったかもしれないけど、巻き込む事を恐れてそうしなかった。だから余計にね。

不審に思ったのは、連絡を取ろうとしたあむくらい。そう、コイツを体よく利用するための替え玉だよ。

多分あの転落も事故とかじゃない。替え玉が変な行動を取ろうとしたから、殺したとか?


そこでたまたま僕達がやってきて……少なくとも、そういう疑いが生まれた。

それで風見はそれを無視できる男じゃない。ショッカーに依存していてもコイツは、美しいものが分かるから。


「……その話もまた後でだな。まずは東京へ戻ろう。日奈森は」

「転送魔法で帰りましょう。バイクで移動はさすがに危ない。
それと……風見、おのれもこのまま連れていく。人質としてな」


動揺する馬鹿を見下ろしながらそう告げると、風見と本郷さんが驚いた顔でこっちを見る。


「いいのか?」

「このまま野放しにしても、また利用されかねないですから」

「ありがとう」

「待ちなさい。私を……殺さないのですか」

「お前だって、ちはるちゃんがどうなってるのか知りたいだろ」


それでなにも答えられなくなった風見を見て、本郷さんは安心した様子で表情を緩めた。


「なあ風見、お前は洗脳されてるって思ってるかもしれないけど、それは勘違いだ。
お前の洗脳は不完全。あとはお前の気持ち一つで、全部吹き飛ばせる」

「馬鹿を言わないでください、ホッパー1。私は身も心も、ショッカーに捧げている。その気持ちが不完全など」

「ありえるさ。だってお前、美しいものが分かるじゃないか」


その言葉を聞いて、今度は僕が表情を緩める番だった。

あっ気に取られた風見の前へしゃがみこみ、本郷さんはその肩をポンと叩く。


「ちはるちゃんとの絆――大事にしたい美しさを、ちゃんと覚えてるじゃないか。
それを知っている奴は、人間なんだよ。例え身体が、人じゃなくなってもな」


それは本郷さんが、FIRSTで見つけた戦う理由。自分が美しいと思うもの――命を守るために、その力を使って戦う。

この人は元々、水の結晶の研究を行っててね。様々に変化するその美しさに引かれていたの。

本当に、それだけでいいのにね。仮面ライダーは同族殺し。その本質だけは変えようもない。


それでも正義の味方なんて言われているのは、そこから一歩踏み出した先にいるから。

だから今、風見は試されているのかもしれない。ただの傀儡から、その先にあるものへ進めるかどうかを。





世界の破壊者・ディケイド――幾つもの世界を巡り、その先になにを見る。

『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説

とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路

第34話 『NEXTの世界/美しきもののために』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


何度かに分け、慎重に転送魔法を発動。それでなんとか写真館へ到着。

涙目なギンガさんと夏みかんを諌めるのが大変だった。……天道ェ。

風見は特に抵抗する事もなく、素直についてきた。それで現在、ソファー近くで縛って寝かせてる。


それでなぜだろう。一文字さんが、僕へ明らかな不満をぶつけてきている。


「なぁ、おい……なんだよこれ。あれか、お前は改造人間捕まえるのが趣味か」

V3、ゲットだぜ

「無駄に似てんな、その声真似っ! あとな、頼むからこれ解けよっ!」

「すみません」


そう言われても困っちゃうので、顔を背け嗚咽。軽く涙ぐんでしまうのも許してほしい。


「僕の技術力だとモンスターボールは作れないので」

「そうか、だったら必要ねぇよっ! ピカチュウみたいにお前の側にいてやるからよっ!
本郷、お前も昼飯食ってる場合じゃないだろっ! なにかツッコめよっ!」

「いや、でもこれうまいぞ?」

「俺には関係ない話だがなっ!」


ちなみに今日のお昼は、栄次郎さん特製の鮭チャーハン。これがもう、素晴らしい味です。

ただまぁ、天道が普通にいるのがなぁ。それでヒビキさん、もうペコペコです。


「いや天道、ほんと助かったわっ! もうどうしようかと思ってさっ!」

「お前が迂闊なだけだ。この馬鹿に生半可な優しさをやるからそうなる」


そう言って見るのは、当然フェイト。ただフェイトはそんな事は意に介さず、フォークを浮かべている。

それで右に左に動かし、コントロールの訓練。……僕はツッコまない。僕は絶対ツッコまないぞ。

てーか天道もそうだけど、ヒビキさん達もチラチラこっち見ないでよ。


『お前の彼女だろ、なんとかしろよ』って視線を送らないでよ。僕にはどうしようもないから。


「ねぇ、これからどうするの? ちはるの事とかも……というか、ワケ分かんないしっ!」

「ねぇあむ、それなら一つ手掛かりがある」

「ほんとにっ!?」

「今活動してるChiharuだよ。……エクサストリーム社の失踪事件の真相は、あの場で言った通りだ」


そこで鮭チャーハンを一気にかきこみ、全て食べきる。それからお茶を頂き、ほっと一息。


「ただちはるちゃん関連はまだよく分からない。それでも今推測できる結果は、三つだけど」

「その、ちはるが改造失敗して死んでるか……改造に成功して、ショッカーにいるかだよね。あと一つは?」

「改造関係には巻き込まれていない。でもそれ以外の要因があって、面倒な事になってる。
昨日死んでいたのが本物かどうかは別としても、Chiharuの替え玉がいるのは間違いない。
なので今活動しているChiharuをツツいて、その辺りを調べようか。……フェイトー」


フォークで遊んでたフェイトが、こっちを見て力いっぱいガッツポーズ。


「あの、テレビに映っていたあの子は偽物だよ。フォーク占いでは間違いないって出てるし」

「なに馬鹿みたいな新能力身につけてるのっ!?」

「え、だって……フォークが語りかけてくるから。私をこう使えーって。
あの……今まで、ごめん。私馬鹿だったよね。……不安だったの。
いろんな事が飛び出す前から一気に変わって、それで頭がこんがらがって」


なんか急にしおらしくなったっ!? てーか浮いているフォークがシュンって感じで折れ曲がったんだけどっ!

……ねぇ、みんなこっち見ないでよっ! 僕にこの常識外をなんとかしろとっ!? 無理だからね、それっ!


「分かったかヒビキ、コイツに必要なのは優しさじゃない。フォークだ」

「ごめん、それは予想外だわっ! なぁ、少年。なんというか、あれだよ」

≪あなたの彼女でしょ、なんとかしてくださいよ≫

「無理っ! これは無理っ! ……ギンガさん、夏みかん、なんとかしてっ!」


元はと言えばおのれらが渡したからこれだよっ!? なんとかしてよっ! 僕だって被害者なんだよっ!


「私達も無理ですっ! いや、確かに渡したの私達ですけどっ!」

「フェイトさんの電波を止められないのー! なぎ君、ごめんっ!」

「だが断るっ!」


そんな感じで問答は続くけど、それが終わったら即行動。風見ちはるの事をなんとかしていこうと思う。

でもフェイトは無理。いやもう、ほんと無理だから。お願いなのでその、助けて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


765プロを出て、早速士達の後を追う。そうしてやってきた世界は……また物騒だねぇ。

ショッカーが現代に存在する世界か。ここでのお宝はどうしたものか。そう思いながら街を歩く。

まぁ狙いとしてはやっぱり、新開発されたっていう改造人間かな。持ち帰るのが大変そうだけど。


本当にそれくらいしかないんだよ、この世界には。だが逆に燃えてくる部分もある。

だってもしかしたら、僕が知らないだけで凄いお宝が眠っているかもしれないだろ?

それを手にした時の感動……もちろん探している時のドキドキも含めて、僕の胸は高鳴っていた。


それで軽く笑いながらレール下の通路を歩いていると、突然黒い影が現れる。早速ショッカーかと思ったが、どうも違う。

その姿は黒いカブト……しかもハイパー化しているものだった。

なるほど、これがヒビキの世界で出てきたっていう、ハイパーダークカブトか。またいきなりな登場だね。


「僕になんの用だい? お宝ゲットを邪魔するっていうなら」


そう言ってディエンドライバーを回転させながら、パッと取り出す。でも彼はなにも答えず、こちらになにかを投げてきた。

それを慌てて受け取り、中身を確認。これは……データディスク? しかもショッカーのエンブレムが刻まれている。


それをディケイド達に渡せ

「断る。自分で渡せばいいだろう」

それは無理だ。そういうルールでね


どういうルールなのだろう。軽く疑問に思っていると、彼は左腰のハイパーゼクターに手をかけ、ホーンを折る。


≪HYPER CLOCK UP≫


すると胸部装甲と肩、両手両足外側と、背中の装甲が一気に展開。

両手と両足からは角のようなパーツが広がり、内蔵されていた金色のプレートが出現。

横開きに開いた胸部装甲と、跳ね上がった肩の装甲も同じものが現れる。


そして開いた背中から、タキオン粒子で構築されたにじ色の翼が生まれる。

かと思うと奴はすぐに姿を消し、僕の目には映らない場所へ飛んでいった。

……僕はディスクを上げ、軽く手の中で暴れさせる。僕を使いっ走りにするなんざ、いい度胸だよ。屈辱だね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

さてさて……僕は身体も元に戻らないのに、なにやってるんだろう。まぁ実質休業状態だからいいんだけどさ。

今日もデンライナーへ乗り込み、馬鹿どもの世界をどう救おうかと対策会議だよ。ただ。


「主はやて、今すぐにミッドへ乗り込み、スーパー大ショッカーを駆逐するべきですっ!
奴らに全てが支配される前に、信頼できる同志を集め」

「だからそれ無理や言うてるやろっ! ダブトがいる言う事は、間違いなくワーム辺りも絡んでるでっ!
というか、下手したら歴代ライダー達の敵がわんさかやっ! うちらだけで対抗できんっ!」

「なにを言っているのですかっ! 野上殿達の協力もあれば、なんとかなりますっ!
イマジンやネガタロス達も強敵でしたが、力を合わせる事で勝利しましたっ!」

「イマジンとはまた違うチートがいるんよっ! 特にワームはほんまどうしようもないっ!」

「高速移動ならば、シスター・シャッハやエリオがいますっ! こちらのテスタロッサもいるなら、盤石ですっ!」

「そやからそれよりずっと速く動ける言うたやろっ! なんで理解してないんよっ!」


……ご覧の通り、会議は難航中です。ぶっちゃけハイパーダークカブトがいるなら、奴一人でいいとも思う。

ただ現時点で敵か味方かも分からないし、ほんとどうしようもないのがなぁ。ねぇ、僕泣いていいかな。


「あの、恭文……本当に僕達じゃ駄目なの? フェイトさんには負けるけど、スピードなら」

「クロックアップの事を言っているなら、どうしようもない。てーかそれだけで全滅しかねない。
クロックアップは、僕達が使う高速移動の類じゃないのよ。例えば」


エリオもそうだし、キャロやティアナもさっぱり。なのでスケッチブックを取り出し、サラサラとベルトコンベアを描く。

あ、数は二つね? それからそこに矢印を書いて、『時間の流れ』と指す。


「まず右のが、僕達が通常過ごしている時間流。それで左が、それよりずっと速い時間流。
クロックアップはタキオン粒子の力を借りて、右から左のコンベアに乗り換える事なの。
そうしたらほら、僕達がせかせか動かなくても、速く移動できるでしょ?」

「あ、うん。理屈としては分かるけど……それなら移動魔法とかでも」

「駄目。一番の特徴はタキオン粒子に接触していないと、別の時間流にいる存在を認識できない事。
クロックアップしている相手は、こっちもクロックアップを使わないと見る事すらできないの。
高速魔法で追いつこうとしても、無駄なんだよ。そもそもいるフィールドそのものが違う」

「ようは右のコンベア上でどれだけ速く走っても、左のコンベアの流れには絶対追いつけないって話よね」

「正解」


しかもさっき言った通り、視認どころか察知もできなくなるからなぁ。

エリオやティアナ達もようやく理解したのか、困惑した様子で顔を見合わせる。


「完全にチートじゃない。あぁ、だから部隊長もあそこまで言ってるんだ」

「……っけっ! そんなのクロックムッシュってやつが終わったら、ボコボコにすりゃいいだろっ! そうだろ、青坊主っ!」

「先輩、クロックムッシュじゃなくてクロックアップだから。どうして間違えちゃうの」

「駄目です」


モモタロスさんの言う事はもっともだけど、それをアテにされても困る。なのでしっかり駄目だしすると、思いっきり崩れ落ちた。


「なんでだよっ! 亀の時だって、勝手に終わったぞっ!」

「確かにクロックアップは、使用者の体感時間で一分ほどの制限はあります。でも連発が可能なんですよ。
そこはワーム、ライダーともに同じです。だから隙を突くとなると、かなり接近してないと」

「離れてたら近づいてる間にまた使われ、遠距離攻撃もクロックアップしてる間はたやすく避けられるっちゅうわけやな。
……まぁ桃の字の考えそうな事は、とっくに誰かが対策してて当然か」

「だよねー。モモタロス馬鹿だしー」

「うっせぇっ! 誰が馬鹿だっ!」


みんな、相変わらず仲良しだなぁ。取っ組み合って車両が揺れてるし。まぁここはハナさんが止めるからいいか。

問題は……シグナムさんだよ。六課もどうなるか分からなくなってるから、完全に暴走してる。


「――高速移動でないのなら、エリオ達でもなんとかなるでしょうっ!
主はやて、わけが分かりませんっ! 速く動いているわけでないのならば、捉えられるはずですっ!
我らはこういう時のために、日ごろから鍛えていますっ! なぜ信じてくれないのですかっ!」

「そやから無理なんやってっ! クロックアップはタキオン粒子がないと、見る事も感じる事もできんのやからっ!
これは心の目うんぬんやなくて、科学の話やからっ! それくらい理解してよっ!」

「ではそのタキオンなんちゃらを使えるようになればいいのですねっ!
この身に代えてもそれを手にし、我らの居場所を取り戻しますっ!」

「それも無理なんよっ! カブトに出てくるライダーは、みんな変身アイテムに選ばれた資格者やっ!
それ以外の人間は絶対ライダーになれんし、同じワームでもない限り対抗策が取れんっ!
あとそんなもん、こっちの世界にあるかどうかも分からんっ! どうしようもないんよっ!」


それでも納得しきれないらしく、シグナムさんは地団駄を踏み続ける。

その上こっち側で味方だと確定しているのは、天道さん一人だけだしなぁ。

あの人からゼクター奪ってどうこうも絶対無理だし、そんな真似しても資格者になれるかどうかも分からない。


なのでクロックアップ対策は、やっぱり他人任せ……実に後ろ向きだね、これ。

苦笑いしてると、師匠が大きくため息を吐いた。


「シグナム、もう黙ってろ。てーかあれだ、カブトのDVD貸すから全部見ろ」

「ヴィータ、お前までなにを言っているっ! 今すぐ戦わなければ、我らの世界がどうなるか分からないのだぞっ!」

「戦ったら確実に負けるって話をしてんだよっ! それくらい分かれ、タコっ!」


よし、後は師匠に任せよう。僕はあれだ、ティアナ達の方についておこう。

でも……敵役連合軍って、改めて考えると厄介な。しかも平成ライダーだと、いろいろ出てるしなぁ。

そこもあれだ、どうしたものかと困り果てている渡さんと真司さんに聞いておこう。


「二人とも、一つ質問が」

「なんでしょう。というかあちらの方々は」

「そっちはいいんですよ。それより……アンデットや魔化魍とかは」


これはどっちも平成ライダーの敵役で、かなり厄介な能力持ち。

アンデットは絶対死なない、不死の存在。ラウズカードと呼ばれるものに、封印しないと止められない。

魔化魍も鬼に変身して、音撃を打ち込まないと止められない。ようは止め方に手順があるのよ。


そんなのが協力してたら、それだけで詰む。あとは……以前士さんに聞いた事がある。

なので聞いてみたところ、二人が困り顔をし始めた。


「まず魔化魍に関しては、こちらで協力体制の確認は取れていません。
元々正体不明な存在ですし、スーパー大ショッカーに乗っかるとも思えません。ただ」

「ただ?」

「アンデットは以前、龍騎の世界――城戸さんがいた世界とは別世界なんですけど、そこで出て暴れた事が」

「鎌田……ですよね。そこは以前、士さんと関わった時に聞きました。
それで士さんは、どういうわけかブレイドのカメンライドができないそうなんですけど」

「多分ブレイド関連の世界が、ただ一つを除いてみんな消えてるせいだ。
しかもそこのアンデットは、二体を除いて全て封印状態。
いったいどっからそんなもんが出てきたのかって、俺達みんな首を傾げててな。
……あ、もちろんここは、消えた世界のどれかにいたアンデットが、スーパー大ショッカーと絡んで生き残ったって線もある」


やっぱり渡さん側から見ても、鎌田は正体不明のアンデットか。ついでにブレイドのカードがない理由もさっぱりって。

でも残っているのは一つだけで、アンデットは二体を除いて全て封印? どう考えても、あの人だよね。

それしか思いつかない。あ、だけどこれで八枚しかないカメンライドカードの謎、解けるかも。


ようは本家ブレイドの世界しか存在してないから、一枚欠けた状態なのよ。

他のとこは全部、リ・イマジネーションの世界を回って復活させていくものだし。

逆を言えばパラレルワールドがない世界は、そういう風になってしまう。


これなら一応は納得できる。……かなり無理矢理だけどさ。


「だからこそ、僕達も今ディケイドといる君に目をつけたんですが」

「どういう事ですか、それ」

「……僕達は彼に、新しいブレイドになってもらおうと思ったんです」


いきなり凄い話に飛んだので、軽く目を細める。その言葉は僕だけじゃなく、モモタロスさん達やはやて達の動きまで止めた。


「ただここは、アンデット対策とはまた別の意図で。特異点に近い存在である彼が、新しいライダーになる。
それも世界の名前を冠するほどに、存在あるライダーに。それは新しいライダー世界の誕生にも繋がります。
その衝撃で、今まで消えた世界を一気に再生させられるのではないかと」

「あれ、でもそれなら士さんを謀殺なんていう、外道鬼畜の所業は必要ないんじゃ」


あ、なんか頭に突き刺さった。やっぱり自分達でも、そこは否定できないのかー。


「そ、そこと合わせての計画でした。とにかく世界を元通りにしたかったので、衝撃が必要だと思って。
……新しいライダーである彼に、門矢士を倒してもらうのはどうかとも考えていまして」

「そんな……どうしてですかっ! それ、どう考えても正義の味方がする事じゃありませんっ!」

「そうですっ! なぎさんに全部押し付けて、人殺しをさせようなんてっ!」

「なにも言えません。そこはもう、頭を下げるしか。僕達も迂闊でした」


エリオとキャロの声に、二人はそうとしか言えない。その場で深々と頭を下げてしまう。

スーパー大ショッカーの存在に気づかず、同士討ちをやらかそうとしていたもんなぁ。

ただ逆に気になるけど。士さんは記憶喪失で、どうしてディケイドに変身できるかも分からない。なので。


「じゃあどうしてそこまでの事をしようって考えたんですか」


当然ツツくしかないわけだよ。それで二人は顔を上げ、困り果てた様子で視線を泳がせ始めた。

なるほど、相当に根が深い問題があるわけか。しかも……僕はその辺り、かなり簡単に想像がつく。


「お二人とも、この際隠し事はなしにしましょう」


そこで固い声を突きつけてきたのは、後部座席でチャーハンを食べているオーナー。この騒ぎでも、オーナーはいつもどおりだった。


「我々も協力している以上、知る権利があります。これは全ての世界に関する問題なのですから。
なにより……恭文くんはもう、気づいていますよ?」

「な……マジかっ!」

「仮面ライダー大好きですから、大体の事は。……門矢士は、スーパー大ショッカーの一員なんですね」


もう答えは、聞くまでもなかった。だって二人とも痛いところを突かれた様子で、押し黙っちゃったんだもの。

それなら、あっさり納得できるんだ。しかも……相当高い位置にいると思われる。じゃなきゃここまでしないよ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


お昼を食べた後は、ちょっとネットで調べてChiharuの動向を追う。ただし接触するのは、僕とフェイトのみ。

……Chiharuは芸能事務所『トライスタープロモーション』に所属している。

その事務所主催のライブが、ちょうど今日行われるのよ。しかもニコ動とかでも、生中継する凄いやつ。


既に客入りは始まっており、ネット中継も繋がり始めている。なので会場へ潜入し、ゲスト用のワッペンをコピー。

犯罪とは言う事なかれ。巨悪を止めるために、多少の犠牲がやむを得ない場合もあるのよ。

とにかくそれをつけた上で、楽屋へノックした上で入る。そこには白いドレスを着た、黒髪ロングの少女がいた。


「ちはるちゃんー!」


そこでフォークによりインテル入ったフェイトが、笑顔のまま抱きつく。当然あの子は目をぱちくりさせるわけで。


「わぁ、大きくなったねー。ほんの一〜二年でも、随分変わるんだなー」

「え、あの」

「あ、覚えてないかな」


フェイトは離れ、やや申し訳なさげに笑う。……でもフォークは離してもらった方がいいかもしれない。ちょっと怖い。


「えっと……前にお兄さんの会社で働かせてもらってた、アリア・ベネロップです」

「あ……あー! アリアさんっ!? あの、お久しぶりですっ! いや、久々すぎてほんと……ねぇっ!」


そこであの子は、慌てた様子で笑顔を振りまく。……アルト。


”改造されている形跡はありませんね。ただ”

”ただ?”

”整形の痕が見られます”


それは改造でしょ。もちろん本郷さん達とは違うけどさ。でも予測通りに替え玉か。

……じゃあ、ちょっと遊んでいこうかな。フェイトがこっちを見るので、静かに頷く。


「でもその、またどうして」

「その、久々にこっちへ来て……そうしたらエクサストリーム社が大変な事になったって聞いて、心配に。
事務所の社長さん達に連絡して、少しだけお話させてもらえる事になったんだ」

「それで……あの、わざわざありがとうございます」

「そうそう、それでね」


そこでフェイトは携帯を取り出し、さっき撮ったばかりの写メを見せる。それは当然、あむだよ。


「この子の事、分かるかな」

「……えっと、あむちゃんですよね」

「うん。この子も心配してて……でもほら、職場へ行くってのも無理でしょ?
ちはるちゃんと連絡取れないとも言ってたから、できればメールしてあげてほしいな」

「あ、はい。あの、ごめんなさい。もうほんと……お兄ちゃん失踪してから、もうごちゃごちゃしてて」

「そっか。それでその」


フェイトが携帯をしまいつつこっちを見るので、そろそろ僕の出番。まずは小さく頷く。


「こ、こんにちは。えっと……あなたは」

「……ちはる、ひどいなぁ。彼氏を忘れるなんて」

「か……!」


おー、驚いた驚いた。なのでにこやかに笑って、そのまま思いっきりハグ。

戸惑った様子のこの子へ、思いっきり優しい抱擁を与える。


「でもしょうがないか。お兄さん達があんな事になって、大変だったしね」

「う、うん。あの……ごめん。もうほんと、疲れてて」

「大丈夫、怒ってないから」


それだけ言って、離れてから頭を撫でてあげる。それであの子は、顔を青くしながら頷きだけを返した。

そんなのには構わず、どこからともなく花とCDを取り出し手渡す。


「こっちはあむから。風見さんが心配だからって……お見舞品と、借りてたCD。
あむ、言ってたよ? 風見さんがデスメタル好きとは思わなかったって。
でも楽しんでたそうだから、安心していいよ」

「う、うん。あの……ありがと。あむちゃんにもその、必ず連絡するから」

「……風見ちはるは、あむの事は呼び捨てらしいよ」

「え?」

「なんでもあむが意地っ張りで友達作るのも下手だから、距離を作らないようにって事らしい。
デスメタルのCDを貸してもらった覚えもない。それで僕は……風見ちはるとは面識がない」


そこでChiharuらしきものは、僕達からバッと距離を取った。それですがるような視線をフェイトに向ける。


「もちろんこっちの天然もだよ、さっきの全部嘘っぱち」

「嘘……!?」

「おのれ、一体誰だ。その顔、整形なんだよね」


おー、また分かりやすい。更に顔を青くして、両手で顔押さえてきたよ。

それで僕達の脇を抜けようとするので、すかさず胸元へラリアット。床へ倒しておく。


「なんなの……社長っ! マネージャー!」

「二人とも、既に確保してる。逃げ場はないよ」


ようやく偽物は、理解したらしい。自分達が詰まれている事をさ。でも残念ながら、まだ絶望は続く。

ショッカーが絡んでいる可能性もあるから、爆弾を用意してるんだよねー。ここからが本番だよ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


黒髪眼鏡な社長と、馬面なマネージャー、それに偽物ちはるを大部屋へほうり込む。

当然三人は僕とフェイト、合流したもやし達を見て怯えた表情。

まぁ僕達、ぱっと見なら犯罪者だしねー。あ、夏みかんとギンガさんは当然写真館待機。じゃないと危ないから。


「なによ……私達が一体、なにをしたっていうのよっ! アンタ達、なにっ! 警察呼ぶわよっ!」

「その通りだっ! これは一体、なんの了見があっての事かねっ!」

「呼ばれて困るのはそっちじゃないの? さて……そっちの女、お前の名前は」

「なにを言っているんだっ! 彼女はChiharuだっ!」


それで馬面マネージャーが、偽物をかばうように前へ出る。既にネタがバレてるってのに、馬鹿だねぇ。


「私は……戸塚、尚子」

「Chiharuっ!」

「だってコイツら、もう知ってるっ! それに」


そこで怯えた様子を浮かべながら、戸塚とやらが風見を見る。実の兄がいるし、言い訳できないって思ってるんでしょ。

それで社長達も言葉を失い、ぼう然としながら首を振る。そこは構わず、ネット検索……出てきた。


「トライスタープロモーションに所属してる、新人アイドルだね。風見」

「名前だけなら、聞いた事は。ですがなんでそれが、ちはるの顔を」

「……あの子が全部悪いに決まってるじゃないっ!」


逆切れ同然に戸塚尚子はそう答え、首を横に振る。


「同期の私達置いてけぼりで、売れちゃってさっ! ……そうよ、自業自得よっ!」

「そんな事は聞いてない。一体、なにをした」

「なにもしてないわよっ! ただ警告のつもりで、スタジオの階段から突き飛ばしただけだしっ!」

「な……!」

「そうしたらあの子が勝手に、壁の配電盤にぶつかっただけよっ! そうよ、それで……ほんと無様だったわっ!
顔が焼けただれて、高圧電流のせいか化け物みたいな顔になってさっ! 整形手術しても無駄だったっ!
それで勝手に自殺して、私達がその代わりってわけっ! 由加理は怯えてたけど、私は大笑いよっ!」


それであむが息を飲み、両手で口元を押さえる。ゆかり……事務所のタレント名鑑を検索。

お、あった。谷口由香里――コイツと同期っぽい女性アイドルだ。でもコイツとこの子で、代わりか。

どうやら逆切れかましてる馬鹿共々、整形で替え玉になってたらしいね。


つまりよ、昨日死んでいたあの子は……この谷口由香里だよ。コイツはそれを引き継いだって感じかな。

……待って。ならあの転落事故はなに? 現段階だと、ショッカーが絡んでいるように見えないけど。


「そうよ、バチが当たったのよっ! 私達を内心馬鹿にしてたはずなんだからっ!
私達は天罰を下しただけっ! アンタの妹が最悪だから、こうなっただけよっ!」

「はずって、ちはるがそんな事言ったの?」

「言ってないけど、アイツムカつくのよっ! だから……そうよ、天罰よっ!
もう一度言うけど、これは天罰っ! 私達は悪くないっ!
それに問題ないじゃないっ! もう私がChiharuなんだからっ!」

「そうだ……なぁ、もういいだろうっ!? Chiharuはここにいるんだっ!」


社長とマネージャーが、慌てて逆切れ女をかばう。


「Chiharuは決して滅びてはいけないアイドルなんだっ! だから私達はそれを守ったっ!」

「それのなにがいけないんだっ! 現にChiharuは……なぁ、Chiharu。
お前がChiharuなんだ。あんな醜くなった豚じゃなく、お前がChiharuなんだ」

「そうよ、私がChiharuよっ! アイツが死んでくれて、ほんとせいせいしたわっ!
だってこの位置には本来、私が立ってなきゃいけないんだものっ! さぁ、分かったらどいてっ!」

「貴様ら……!」


飛び出そうとした風見を左手で制し、当然という顔をする馬鹿どもへ侮蔑の笑いを送る。


「はい、ありがとー。いやー、よく『自白』してくれたねー。じゃあ警察行こうか」

「はぁっ!? アンタ馬鹿じゃないのっ! 証拠もなにもないじゃないっ!」

「そうだね。残念ながら証拠もなにもない。たださぁ、もうChiharuは終わりだと思うな。
だって今の会話、全部会場に流してるんだもの」


笑顔でそう言うと、場の空気が固まった。社長とマネージャー、戸塚尚子がありえないという顔で震え始める。

というか、それはもやし達もだよ。風見もまさかそう来るとは思ってなかったらしく、ぎょっとした顔で僕を見た。


「ほら、巨大モニターあったでしょ? あれで今のお前達をばーんと」

「う、嘘だ……カメラなんてどこにもっ!」

「分からないようにするのは当たり前だよ、あったらそこまでバラしてくれないでしょ? ほら、聴こえてこない」


耳を澄ませてみよう。ほら……どこからか怒りに満ちあふれた声が響いてる。

それでよーく聴いてみると、『人殺しがっ!』とか『最低っ!』という叫びもある。

ようやく現実を察した三人は、発狂したかのように叫びながら床へ倒れた。


……装置にハッキングして、アルトが撮影した映像を回している。会場は今大騒ぎだよ。

試しに携帯でニコ動に繋いで、生放送確認。おー、書き込みが凄い事になってるよ。

なんの対策もなしで自白大会なんて、するわけないでしょうが。そう、僕が考えた手段はこれ。


相手は社会の闇に巣くう巨大組織。その場合必要なのは、電撃的な攻撃。それにより、話を一気に広げるのよ。

ショッカーという闇が覆い隠せないほどに、大きく深く――でもその心配はなかったみたい。

生放送が継続してるって事は、これはショッカー絡みじゃない。


恐らく死亡事故が広まらなかったのも、アイドルのたまごって事で処理したから。

ただまぁ、風見とあむにとっては関係ない話だけど。妹、そして親友が既に死んでいる事は……変わらない。


「いやぁ、いい事をすると気持ちがいいねぇ。愉悦愉悦」

「少年、それは……なんか違うだろ。愉悦って」

「蒼チビははガチで悪魔呼ばわりされてもしょうがないな。だよな、天道」

「……知るか」

「恭文、それいいのかっ!? さすがにやりすぎじゃっ!」

「いいのよ。それじゃあユウスケはこのままあむが、コイツらを殺してた方がいいって言うの?」


そこでユウスケはハッとしながら、あむを見る。あむは今こそあっ気に取られてるけど、さっきまでひどかった。

コイツらに対して、明確な殺意を向けていたもの。それでも我慢に我慢を重ね、なにも言わなかった。

葛藤を示すようにあむの手は、痛々しいくらいに強く握られている。それに気づいたユウスケが、そっと手を解く。


「あむちゃん」

「あたし」

「君の知ってるちはるちゃんは、復しゅうなんてやって喜ぶ子か?」

「違う。ちはる……口下手で、友達作るのが下手なあたしにも、めちゃくちゃ優しくしてくれて」

「だったらそれでいいんじゃないかな。あむちゃん、よく……頑張ったな」


そこでユウスケの胸に、あむが号泣しながら飛び込む。そんなあむを、ユウスケが優しく抱きしめた。

……あとは任せても大丈夫か。僕は風見の胸元を、左裏拳でどんと叩く。


「なにをするんですか」

「手を出すなよ。……あむが必死に堪えてるんだ。兄貴のお前が、その踏ん張りを無駄にするのか」

「そんな事、できるわけありません。彼女は……ちはるが初めて紹介してくれた、親友なんです」

「そう」


やっぱり人の心――美しいものが分かるらしい。その返事に、妙な安心を覚えた。

本郷さんも同じらしく、険しい表情ながら風見の肩をポンと叩いた。


「ただこのままにはしておけません。もしかするとこの件にショッカーが絡んでいる可能性も」

「……確かにな。少なくとも俺と蒼凪君は、警察にちはるちゃんの事は伝えてある。それももみ消されているわけだし」

≪まぁここは風見志郎、あなたが裏切らないよう情報操作しただけとも考えられますが≫


やっぱり妹の事を知ったら……だしね。そこも精神的にもぶっ壊れたコイツらを、徹底的に尋問かな。

……いや、その前にやる事があるか。部屋の入り口へ振り返ると、そこに見知った顔が入ってきた。


「やっと見つけたよ、少年君……っと、カブトまでいるのか」

「海東、お前なにしてんだっ! いや、一体いつこっち来たっ!」

「……働いていたさっ! 君達が僕を置いていったおかげでねっ!」


そこで悔しげに海東は唸り、なぜか僕達に恨めしげな視線をぶつける。……あー、そういや完全に忘れてた。

コイツ、高木社長に使われてたんだっけ。時間泥棒されてたんだっけ。

でもほら、コイツはコイツで勝手にしてるわけだし、忘れられてもしょうがないと思うんだけど。


「だが良かったよ。僕はあれから数日向こうにいたんだけど、君達にすぐ追いつけた……いや、やはり悪いのかな」


……ちょっと待って。数日? 僕達がこっちに来てから、まだ二日と経ってないのに。


「どういう事だよ、それ。別の世界に寄り道してたわけじゃないんだよな」

「あぁ。恐らくこれは」

「……時間がおかしくなってるんだね」

「さすがは少年君、その通りだ。各世界は様々な差異があれど、時間だけは同一のものとして進んでいた。
でもここに来て、それが思いっきり崩れてきている。……リセット現象の影響だね」


例えばありえない僕がいた世界は、六月くらいだった。あとはフェイトが乗り込んだ、別の僕の世界も五月。

デンライナーのあれこれから言われてた事ではあるけど、その影響がここに来て進んでいるのかも。

だって今までほぼ一緒だった海東が、数日というラグを経た上でこっちに来てる。


しかもただ合流するんじゃなくて、こっちに来て二日目な僕達に追いついて……いや、逆行してだよ。

海東はタイムスリップしたと言えなくもない。予測通りにもう、旅を楽しむ余裕はないかも。

つい苦い顔をしていると、海東がどこからともなくディスクケースを取り出す。そこに入っているのは……Blu-ray?


「まぁそこはともかく、これを」

「海東、なんだそれ」

「この世界に到着した直後、ハイパーダークカブトが渡してくれた」

「おのれ、直接接触したのっ!? 話とかはっ!」

「なにも。とにかく見てくれ」


海東が取り出したのは、ノートパソコン……ほんとどっから持ってきたのか。

とにかくパソコンを立ち上げ、ディスクを挿入。パスワードを打ち込み、中のデータを確認。

そこにはなかなか奇麗に整えられた、書式データが入っていた。しかもご丁寧に画像つきだよ。


その表紙にはこう書かれていた。『ナノマシン全国散布計画』と。


「ナノマシン、全国散布計画……!? おいおい、これってっ!」

「例のナノマシン、全国へまき散らすつもりなのか。そんな事になったら」

「ど、どうなっちゃうの?」

「大多数の人間が死ぬ。風見の話だと、ナノマシンに適合する人間はかなり少ないそうだから。
仮に適合されても洗脳処置を施されて、ショッカーに忠実な怪人が何人も生まれる」

「じゃあパパとママ、あみ達も……! ううん、唯世くん達だってっ!」

「あむ、心配するところそこじゃないよ」


計画内容を確認しながら、あむの勘違いを正す。えっと……計画実行日、明日になってるじゃないのさっ!

海外の秘密基地で大量に生産したナノマシンを、日本中に散布。それで日本を制圧する作戦だよ。

でもこれが分かってるなら、ハイパーダブトが止めればいいのに。ハイパークロックアップなら余裕でしょ。


あれか、僕達がやらなきゃいけない事だから、干渉するなとか言われてるの? 歴史変わるから駄目とかなら、まだ分かるけど。


「そこじゃないってどういう事かな」

「ハイパーダークカブトってのはね、そんな奴らが千人いようと勝てない。全員返り討ちにあって死ぬ」

「な……! ねぇ、それさっき言ってた奴だよねっ! アンタ達の仲間とかじゃないのっ!?」

「残念ながら、今のところ不明だよ。説得しようとしても、ハイパークロックアップされたら逃げられちゃうし」

「クロックアップよりも速いんだったよな。しかし……大体分かったか。これが俺達の、この世界でやるべき事なのか」


もやしが言う事も分かるけど、やっぱりハイパークロックアップ……まぁいいか。

元々僕達の旅だ。未来どうこうはともかくとしても、僕達でなんとかしなきゃいけない事。

とはいえ、不思議な気分だよ。ほんとこれはあれだね、ドラえもんの劇場版第三作だよ。


「海東、もらったものは」

「これだけだ。ただこれを渡してきたという事は」

「これは僕達でなんとかしろ、そういう事だろうね。……やるしかないか」

「待ちなさい。あなた達はまさか……無謀だっ! ショッカーを相手に勝てるはずがないっ!」

「誰がそんな事決めた」


相変わらず馬鹿な奴を両断し、鼻で笑ってやる。


「臆病風に吹かれたって言うのなら、そのままじっとしてろ。それを責めたりはしないよ」

「いや、今言葉の端々に刺を込めたでしょ。十分責めてるでしょ。……ホッパー1、あなたも」

「戦うよ」


本郷さんはそこで、あむの頭を優しく撫でてあげる。あむが驚いた様子で、安心させるように笑う本郷さんを見上げた。


「うちの生徒やその家族の事、守らなきゃいけないしな」

「先生」

「でも……できればお前とは、戦いたくないな」


それが誰に向けられた言葉かなんて、言うまでもない。それを受けた奴は、困り顔で俯いた。


「……本郷、お前は蒼チビと一緒にちょっと居残りしとけ」

「なんだよ、また急に」

「一文字の馬鹿、助けるんだろうが。……ここで戦って死なれても目覚めが悪い。まずアイツ助けて、それからこっちへ来い」

「そうだな、それまでは俺達でなんとかする」


確かにあの人なら……まずはそっちが先決か。でもプランは立ててるけど、部品関係を用意できてない。

しかもテストもなしで、ぶっつけ本番だ。一文字さんを実験に使うって言われても否定できない。

予定ではそれなりにテストして、安全を確保した上でやるつもりだったんだけど。


「そうそう、もらったデータはもう一つある」


どうしようかと思ってたら、海東がまた別のディスクを取り出し渡してくる。


「既に破棄された、血液交換装置の設計図らしい」

「本当にっ!? 本郷さんっ!」

「あぁ、これなら……すぐに準備に入ろうっ! ……あの」

「よしたまえ」


お礼を言おうとした僕や本郷さんを、海東は右手を挙げて止める。


「僕は君達のためにやったわけじゃない。では頑張りたまえ」


それだけ言って、海東はそそくさと部屋を出た。……相変わらず自由な奴だ。

でもそこに構っているほど、時間もない。ぱぱっと準備を整えて、一文字さんを助けないと。

ちなみに未だに発狂してる馬鹿三人は、ファンに殺されないようこの後警察へ突き出しました。


まぁ人生オワタ式スタートになるだろうけど、ぜひ頑張ってほしい。僕達はもう知らないけど。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あの馬鹿どもを警察へ送ってから、数時間後――深夜〇時過ぎ、ようやく装置は完成。

……え、早過ぎる? 当然だよ、だって僕達、急ピッチで仕上げたもの。それはもうテンション高くだよ。

パーツ作って、すり合わせて……その成果が写真室を占領する勢いで、どんと置かれている。


これ持ち運びとかどうするんだろうとか、そういう話は抜き。既に人工血液も生成しているから、あとは始動させるだけ。

ただまぁ、その前にテスト動作も必要なので、ここからはまた調整調整また調整だよ。間違いなく完徹だね。


「おま……マジで作りやがって」

「忘れた? 俺、一応科学者だぞ。それに蒼凪君がパーツ作ってくれたおかげだし」

「いえいえ、僕なんてもう。それじゃあ一文字さん」


ソファーで寝ている一文字さんへ笑いかけると、なぜか縛られた状態の一文字さんが身を引いた。あれ、どうしてだろう。


「お前ら笑いが怖ぇよっ! マジでマッドサイエンティストの笑いだろうがっ!」

「すみません、テンション任せで一気に仕上げたので。まぁテストしてからやるし、危ない場合はすぐ止めますので」

「……今やってくれて構わないんだがな。分の悪い駆けも楽しそうだ」

「駄目だ。それで死んだら元も子もないだろ? できる限り、慎重にだ」


さすがは科学者。科学者がそう言うと説得力たっぷり。一文字さんも鼻を鳴らして、興味なさげに寝転がるしかない。

そんなわけで僕達、さっき言ったかもだけど完徹コースです。はっきり言おう、最終決戦前にやる事じゃない。


「あなた方は本気で、ショッカーと戦うつもりですか」


そんなテンションがおかしい僕達にそう言ってきたのは、床に寝かせている風見志郎。一応人質なので、扱いは雑です。


「ホッパー2、あなたも止めなさい。ショッカーに歯向かう愚かさは、よく知っているでしょう」

「……お前は昔の俺と同じだな」

「会話になってませんよ」

「自分ってもんがない。空っぽで薄っぺらい――そういう奴だって話だ」


その言葉に衝撃を受けたらしく、奴は舌打ちしながら顔を背けた。

……しょうがない、本当は見せるつもりなかったんだけど。

実はあのナノマシン散布計画、資料の後にとんでもない話があった。なので風見を起こし、椅子へ乱暴に座らせる。


「なんですか、一体」

「風見志郎、そんなにショッカーが偉大か」

「当然でしょう。ショッカーほど崇高な組織は、世の中に存在しない」

「例えそのせいで、お前の妹が殺人犯になったとしてもか」


馬鹿な事をと言いたげな顔をしていた風見が、頬を強ばらせる。それで縛られたまま、僕へ詰め寄った。


「どういう事ですか、ちはるがなにを……なにをしたと言うんですっ!」

「……実は例の計画書、続きがある。あむに見せるとショック受けるだろうから、黙ってたんだけど」


海東が持ってきたノートパソコンを取り出し、電源を入れる。それからディスクを入れ、資料データを展開。

既に読んでいるところは飛ばして、こっちに戻ってから見つけた部分を見せた。

そこにはでかでかと、風見ちはるの名前が書いてある。本郷さんがなにも言わないのは、僕と一緒に資料を見たから。


それで……あむには黙っていようという話になった。必死に我慢したあむの行動が、無駄だと分かるから。


「重要追記……Version3の妹:風見ちはるについて? なんですか、これは。どうしてちはるの事が」

「読んでみろ」

「……風見ちはるは偉大なる実験の直前、エクサストリーム社を退出。
その後所属事務所の同僚二名により、顔に重傷を負う。
その際……吸収していたナノマシンが、暴走っ!? 馬鹿なっ! ちはるは関係ないはずだっ!」

「実は関係あったんだよ。お前が言っていた体調不良は、多分ナノマシンを吸い込んだせいだ。
それでほら、ナノマシンって体内電気とかも使って動くタイプがあるだろ?
顔から配線板に突っ込んだせいで、影響受けちゃったんだと思う」

「続きは……そのせいで整形手術に失敗し、なぜか自殺。
だが辛うじて生存していたため、ショッカーが回収したとあるね」


それでページを進めていくと、どこから入手したのか……手術後の写真が載せてあった。

顔半分が焼けただれ、メイクなどでは隠せないほどに歪んでいる。その様を見て、風見が目を逸らした。

この顔を突きつけられたら、そりゃあ……アイドルは続けられないし、それでって事だね。


ここまでは事務所の馬鹿どもが言っていた事そのまま。問題はその後――死にきれなかった事と、回収された事だよ。

ショッカーは約束を守るつもりなんてなかった。もしかしたら改造人間として使えるかもしれないから、追跡調査してたのよ。

これはその結果浮かび上がったナノマシンの問題点や、風見ちはるの現状について触れていた。


明日運び込まれるナノマシンは、そう言った点を解決している最新型。ほんとうに、ろくでもない奴らだよ。


「ちはるが回収された後は……なんですか、これ」

「自殺の影響で精神がおかしくなり、結果廃棄とあるね。でも問題は次だよ」

「……だが廃棄後しばらくして、風見ちはるは自身の精神体を実体化。
それを用い、トライスタープロモーションの谷口由香里を襲撃。転落死に至らしめる。
谷口由香里の遺体は、精神体のデータ収集を目的として回収」

「昨日の事が騒ぎにならなかったの、このせいらしいな。警察から横流しされたんだよ」

「そんな、ちはるは」


生きてはいる。でもこれが事実なら、復しゅうに走る化け物と化している。これで転落事件の謎が解けた。

もちろんリザード達がいたのも、本当にようやく。でもその事件だって、一昨日起きたばかりのもの。

このデータ、かなり最新のものだよね。そんなもの、ほんとどっから入手してきたのか。


……これはあむには見せられない。どんな形であれ風見ちはるは、復しゅうを望み実行した可能性が高い。

それでどれだけの衝撃を受けるか、もう察せない方がおかしい。せめて思い出の中くらいは、奇麗なままでしておきたい。


「今ごろになって、復しゅうに走り出した。そういう事だろうね」

「どこにいるんですか、ちはるはっ! 今も生きているんですよねっ!」

「資料でもそこは触れられてない。多分基地の一つだと思うけど。……風見、どうするよ」


ノートパソコンを閉じ、僕は改めて風見に問いかける。風見は妹の現状を突きつけられ、首を振るしかない。


「これでもまだ、ショッカーを崇高とか言う? 妹が全部を失って、変わり果てたのに……素晴らしいとか言っちゃうのかな」

「私に、どうしろと言うんですか」

「どうもしない。だからお前が決めろ。……お前はこの子の兄なんだろうが。
だったら嘘でもなんでも、誇れる兄でいろ。あの子がいなくなっても、変わらずにだ」


風見はなにも答えず、閉じられたノートパソコンを見つめ続ける。もう僕達に、かけられる言葉はなかった。

……後で風見ちはるは、探さないと駄目かな。なんにしても明日、全部終わらせてからだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


都心からやや離れた湾岸地帯に、一台の船が停泊する。ただそれはあまり大きくなく、小さなものだ。

そこに乗っていた、黒スーツにガスマスクを着用した戦闘員から、黒いトランクケースを預かる。

それを持ち、ヒョウ柄のスーツとえりまきを軽く撫でながら闊歩。先ほどまで待機していた倉庫へと入る。


そこには既に二台のトラックが入れられており、一つは黒いワゴンタイプのトラック。

宅配便などが使っているのとよく似ている。もう一つは屋根などもない、荷台だけをつけたタイプ。

そちらには円筒形の装置を積んでいる。私はそれを見上げ、鼻で笑いながら黒髪を整える。


それから一緒に待っていた戦闘員へ、トランクを慎重に渡す。

私の部下である彼はすぐに頷き、仲間とともに装置脇にあるはしごを登る。その上で装置のフタを開け、トランクも展開。

中に入っているカートリッジ状のケースを取り出し、慎重に装置へ入れる。


「いいかっ! これから向かう店まで、その装置を死ぬ気で守り通せっ!
活性化装置でナノマシンの動きを最大限強め、地下基地から日本中へ散布するっ!」


私は入れられていくケース――ナノマシン達を見て、笑いながら両手を広げた。


「偉大なるショッカーのためにっ!」

『偉大なるショッカーのためにっ!』


装置のフタが閉じられたら、早速出発だ。戦闘員達はトラック二台へ乗り込む。

ただうち数名はそのガードも兼ねて、黒いオフロードバイクを与えた。私も運転手代わりの奴と一緒にハマーへ乗車。

トラックを先導するように、まずバイク二台が倉庫を出る。その後を追いかけるように、ハマーとトラックも出陣。


そのまま慎重に倉庫街を抜けたら、飲食店に偽装した秘密基地へ向かう。しかしどうだろうか。

噂に聞く悪魔やらなんやらがいる状況ではあるが、全員きびきびとした動きをする。実に素晴らしい。

これも偉大なるショッカーを崇拝するが故だ。ショッカーの世界征服は、もはや当然の事だ。


そして日本国民は、我々に感謝するだろう。その全てが、偉大なるショッカーに試され、そして選ばれるのだからな。

高笑いしている間に、コンテナが積まれた曲がり角を、先導中のバイクが曲がる。

すると突如、爆発が発生。思わず助手席から身を乗り出している間に。


≪ATTACK RIDE――CLOCK UP!≫


後ろの方で激しい衝突音が発生。慌てて振り返ると、トラックの上には金色のカブトムシもどき。

そしてなぜか地面に倒れている、ピンクの縦線化け物……あれは報告のあったディケイドか。

ふん、なるほど。前の奴らを倒している間に、こちらをというわけか。だが甘かったなぁ。


偉大なるショッカーを崇める同志は、別世界にも存在していたのだよ。貴様らの緩い考えなど……毛ほどの価値もないっ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


クロックアップして、まず前の奴らを蹴散らす。その後で荷物を積んでるっぽいトラックを殲滅……予定だったんだがな。

トラックに乗り移った瞬間、いきなり横っ面を殴られた。そのまま地面を転がり、俺は置いてけぼりだ。

それで俺の代わりに現れたのは、金色の仮面ライダー。……コーカサスってやつか。


なるほど、あれがハイパークロックアップか。まさかマジでクロックアップより速いとは思わなかった。

だが……俺も諦めが悪くてね。すぐに起き上がり、後ろから飛んできたユウスケへ振り返る。


「士、乗れっ!」


ユウスケのバイクにそのまま飛び乗り、俺達は後を追う。運転はユウスケに任せ、ブッカーをガンモードへ変形。

まずはトラックのタイヤを狙って数発撃つが、奴らはスラロームしながらそれを回避。

地面に着弾を知らせる火花が、幾つも走るだけだった。コーカサスは……動かないな。


余裕ぶっこいてんのか? だったらそれが勘違いだって知らせてやる。


「ユウスケ、もっと近づけろっ!」

「分かったっ!」


ユウスケが速度を上げると、黒いワゴンタイプのトラックがスピードダウン。こっちは円筒形の荷物が載ってない方だ。

それで俺達にトランク部分をぶつけようとするので、ユウスケが慌てて左へ回避。だがそこを狙って、トラックが一気にハンドルを切る。

壁際に追い込まれながらもユウスケはハンドルを捻り、その体当たりを寸前で回避。


俺達は黒トラックの前に出た。それで黒トラックは、脇に置かれているドラム缶や木材を跳ね飛ばしながら壁へ衝突。

そんなのには構わずブッカーをソードモードに変え、同じように迫ってくるオフロードバイクへ右薙斬り抜け。

突き出される足を伏せて避けながら、バイクを一刀両断する。


乗っていた戦闘員っぽい奴は後へ吹き飛び、追ってきた黒トラックに跳ねられる。


「士、跳べっ!」

「あぁっ!」


ユウスケに言われるまでもなく、そのまま後部座席から大きくジャンプ。装置つきのトラックへ乗り込みながら、袈裟の斬撃。

だがそれはすっと前に出たコーカサスによって、あっさり防がれる。奴は左手で刃を掴み、着地した俺へ右ボディブロー。

ずっしりとした一撃に呻いていると、そのまま顔へ右ストレート。そこで刃が離されたので、一旦離れてから袈裟一閃。


続けて右薙に打ちこむが、奴は伏せてそれを避け、俺の懐へ入り込んで左右の連打。

連撃を食らったかと思うと、今度は側頭部に左回しげり。なんとか荷台の端に掴まって、落下だけは避ける。


「ハイパークロックアップとやらは、使わないのか」

「……バラの花言葉を知っていますか? 愛です」


そこで奴はバラの花を取り出し、そっとその香りをかぐ。てーか青いバラなんざ、初めて見たぞ。


「愛に散りなさい、ディケイド」


わけ分からん事を……そう思いながら、奴の腹へ刺突。だが奴はバラを持ったままそれをすっと避け、右裏拳。

顔面にそれを食らい、フラつきながらも刃を縦にかざす。そうしてバラをほうり投げてから打ち込まれた、右ストレートをガード。

だがそこで右ローが飛び、俺の身体は金属製の床へ横倒しになる。すかさず奴は、顔面へ向かって左ストレート。


顔を右に動かしなんとかかわしてから、奴のわき腹へ膝を入れる。そうして距離を離し、素早く起き上がる。

それから勢い任せに踏み込み、袈裟・逆袈裟と交互に連撃を打ち込む。

だが奴は下がりながらスウェーで全てかわし、端まで追い詰めたかと思うと右ストレート。


腹に一発食らっただけで俺はたたらを踏み、装置にもたれかかる。

が……それを許さず奴が一気に踏み込んで、俺の首を掴んできた。


「天道総司を呼んだらどうですか。彼ならば私に対抗できるかもしれません」

「そりゃ無理だ。アイツは、料理教室で大変だからよ」


だがコイツ、強い、ハイパークロックアップだけじゃない。空手みたいな動きで、遠慮なく潰しにきやがる。

……剣は逆に不利か。そう思いながらブッカーをガンモードに変え、至近距離で連射。

だが奴は内側から左裏拳を打ち込んで、銃口を逸らす。俺が放った弾丸は、全て脇の道路に命中。


俺がこの有様で、ユウスケがバイク連中と四苦八苦している間に、もう倉庫街を抜けきっていた。

大きめの海道をひた走るトラック上で、俺はまた胸元にやたらと重い拳を受け吹き飛んだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「士っ!」


バイクで近づいてくる黒服をけり飛ばし、俺も飛び移ろうとする。だがそれより速く、脇を黒トラックが通り過ぎる。

やや接触したためにバランスが崩れたので、慌ててそれを立て直す。その間にトラックは、士が乗っている方のトラックへ急接近。

それでコーカサスは吹き飛び倒れた士を踏みつけ、そのまま頭だけが落ちるように押しこむ。


士の後頭部がコンクリの地面に接触し、激しく火花を走らせる。

なんとか抜けだそうとするが、それもできない。待て、あのままだと……くそっ!

アイツら、士の頭を潰すつもりかっ! あんな真似したら、仮面ライダーと言えどぺしゃんこになりかねないぞっ!


「スーパー大ショッカーに盾突いたその罪、惨めな死で償いなさい。……さようなら、元首領」


すぐにカバーしようと思ったが、奴の呟いた一言で動きが止まる。どういう、事だ。

いや……今はいい。とにかくトラックの前に回りこんで、士を助ける。だが復活した時にはもう遅かった。

士とトラックとの距離は、目と鼻の先。もう俺じゃ、どうやっても追いつけない。


「……士っ!」


(第35話へ続く)







あとがき


恭文「はい、ついに最終決戦。早速コーカサス出現でやばい事になっています。
ちなみに戦闘スタイルは空手が基本。ここは武蔵さん的な動きを想像して」


(というか、調べたらニコニコ大百科に書いてた)


恭文「本日のお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。えっと……今回はちはるちゃんの件を大体でも解決して」

恭文「でもそれで終わらなかった件。……まぁ察して?」


(アクションに酔えっ! 怪奇に震えろっ! これがNEXTエンタテインメントだっ!)


恭文「ちなみに上はキャッチコピーです。そして劇場版だとクライマックス。
ここでようやく出てきたヒョウ柄の改造人間が率いる、ナノマシン運搬部隊襲撃」

フェイト「でもそこにコーカサスが加わって、本郷さん達はまだ到着してなくて……どうすればいいの、これっ!
もうコーカサス出てる時点でどうしようもない気がするんだけどっ!」

恭文「もやし、コンプリートフォームもなしになってるしねー」


(蒼い古き鉄、あっさりです)


恭文「とりあえずあれだ、またバッシャーがんばろうか。狭くて無理だけど」

フェイト「意味ないよー! ……あとはえっと、最後にとんでもない爆弾が」

恭文「……まぁほら、あと二つか三つでラスト世界だから。そろそろ最後に向かって……ねぇ」


(ブレイド関連の話も出したので、そろそろ締めです。その前にとまかのだけど)


恭文「あと……フェイトにはツッコまない。いや、絶対ツッコまない」

フェイト「え、どうして? ほら、フォークの力は偉大だし」

恭文「それはおかしいよっ!」


(もう今さらだけど、ツッコむ旦那様だった。
本日のED:DA PUMP『Bright! our Future』)





フェイト「私は気づいたっ! フォークを持って変身すればいけるってっ!」

ふぇー「ふぇー?」

恭文「ふぇーは駄目だよ。また大変な事になるから」

セシリア「ではわたくしはスプーンでっ!」

恭文「やめてー! なんで食器持ってパワーアップって運びになったのっ!? むしろフォークはシャマルさんー!」

フィアッセ「私はお箸だよ―」

恭文「行儀悪いから駄目っ!」

ふぇー「ふぇー♪」(フォークブンブン)


(おしまい)







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