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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第32話 『NEXTの世界/闇の中で』


恭文「前回のディケイドクロスは……火野恭文ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

ユウスケ「落ち着け落ち着けっ! ……恭文、愛の形は人それぞれじゃないのか?」

恭文「アレ愛って言うのかなっ! もはや帝国を作る勢いなんだけどっ!」

ユウスケ「た、確かに。じゃあお前はその」

恭文「……それは後だよ。今はスーパー大ショッカーだ、というかユウスケ」

ユウスケ「なんだ?」

恭文「海東、どこ行ったんだろ」

ユウスケ「……あれれ?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


仮面ライダーTHE FIRSTとは、前回も言った通り劇場作品。そのストーリーは、現代版仮面ライダー。

初代仮面ライダー自体が三十年以上前の作品なので、そのリメイクとして作られた。

そして脚本は僕も作者も大好きな、井上敏樹さん。とまと同人版があんなにドロドロしていたのは、そのせいとも言える。


同人版で悲恋やら水落ちやらやったのも、井上先生大好きなせいかもしれない。

それはさておき……城南大学に通う研究員だった本郷猛は、ある日突然その頭脳に目をつけられ、秘密結社ショッカーに誘拐される。

洗脳を受けショッカーの改造人間として活動していたけど、親しかった女性と任務中に遭遇。


それにより洗脳が解け、ショッカーに反旗を翻す。そんな本郷猛を狙って、仮面ライダー2号こと一文字隼人が襲来。

二人は当然戦う事になるんだけど、紆余曲折あって一文字隼人もショッカーから離反。

本郷猛と一文字隼人は協力し仮面ライダーとして、ショッカーの野望を止めるため戦う事になる。


「――というのが映画の基本話」


絵が変わってから夜の街へ出ると、なぜか僕は黒服タキシード。もやしはまたもスーツ姿だった。

なんかもう、やってられなくて首を傾げながらも、早速探索開始。なお……やっぱりフェイト達もついてきてる。

でもFIRSTという事は……時間がないかもしれない。急いでライダーを見つけないと。


「ただその映画だと、V3は出てないんだけど」

「V3? ヤスフミ、それって」

「……フェイト、説明するから写真館へ帰ってくれない? いやもう、ほんとお願い」

「ヤスフミ、それは駄目だよ。あの、ちゃんと教えて? 私達も力になりたいから」

「あのね、説明してる時間がないのっ! おのれの相手してる時間がないのっ!
あとで説明するから、今は言う通りにしてよっ!」

「まぁまぁ、恭文落ち着けって」


ち、ユウスケが普通に止めてくるし。それでもやしは……写真撮ってる場合じゃないよっ!?


「それでその、V3って誰だよ」

「……三人目のライダーだよ。あの炎の中を歩いている奴。変身者は――風見志郎」


TV版だと風見志郎は、デストロンに家族を殺された被害者だった。それで復讐のために、ライダー1号・2号に改造を依頼。

最初は二人ともそれをはねのけたんだけど、風見志郎はその後デストロンに襲われ、ひん死の重傷を負う。

それで命を助けるために、なにより風見志郎の願いを受けて、二人につぎ込まれた技術を結集。


そうして生まれたのが、力と技を併せ持つ三人目の仮面ライダー――V3だよ。


「ならその三人を見つければいいわけか。だが……ここに来て蒼チビの知識外が連続かよ。
知らないライダーがいるって事は、もしかしたら今の前提から全て変わってる可能性もあるわけだろ?」

「確かになぁ」

「三人、見つからないかもしれない。最悪一人だけの可能性もある」

「はぁ? 恭文、それどういう事だよ」

「なのでギンガさん、フェイトも写真館へ戻って」

「まぁまぁ、少年」


だからヒビキさんも止めるなっつーのっ! ああもう、どうしてこううまくいかないのっ!?

そもそもコイツら、僕達の帰りを待つって結論出したよねっ! それすっ飛ばすってなにっ!


「ほら、二人もさ……少年を心配してるわけだし。まだ病み上がりでもあるし、前の世界でも頑張ってたしさ」

「あぁ、そんなの……全くの無意味ですね。ヒビキさん、ちょっと黙っててもらえます?」

「ちょ、少年っ!?」

「時間がないって言ってるじゃないですか。事情説明してる時間も、二人を相手してる時間もないんですよ」

「なんか気になってるのか」

「えぇ。早めに本郷猛達を見つけないと」


もちろん今までの世界みたいに、前提そのものが……ってのも十分ありえる。でも、なぁ。

そこを抜いても、やっぱり時間がないかもしれない。できれば全部外れてほしいんだけど。


「それでもやし、おのれ……またあれか、弁護士とか?」

「どうも違うらしい。これを見ろ」


もやしが出してきたのは、一枚の名刺。それを受け取ったユウスケが首を傾げ、僕に見せてくる。


「エクサストリーム社……恭文、これに見覚えは」

「ない。確かFIRSTにも出てなかったと思うし。じゃあもやしのこれ、商社マンとか?」

「みたいだな。ならこの会社へ……いや、明日に回した方がいいかもな」

「確かにね。今の時間だと人もほとんどいないだろうし」


その瞬間、結構近くでドサッという音がした。方向はちょうど真ん前……これは。


「……嫌な運命力だよ、ほんと」

「はい?」


フェイトが首を傾げるのは気にせず、左手で高層マンションの玄関を指差す。

そこにはバスローブ姿で倒れた女の子と、それに駆け寄っているスーツ姿の男性。

あとはその傍らで立ち尽くし、息を飲む女の子。ピンク髪で、その一部を小さなサイドポニーにしている。


髪には×印のアクセサリーを付け、視線は倒れた子にくぎ付け。僕達は慌ててその三人へ駆け寄る。


「あの、どうしました?」

「あぁ、落下事故だ」

「た、大変っ! なぎ君、救急車っ!」

「……いや、この場合は警察だな」


そう言ってヒビキさんは倒れている子へ近づき、静かに手を合わせた。……つまり、もう手遅れと。

同じように手を合わせた男の人がゆっくりと立ち上がり、立ち尽くしていた女の子へ向き直る。

その時に黒髪が揺れ、今までよく見えなかったも顕になる。それを見て僕は、大きく息を飲んだ。


「本郷猛さんっ!」


思わず声をあげた僕に、その人――本郷さんは驚きの視線をぶつけた。


「そう、だが……どうして俺の名前を」


この人は……間違いない。FIRSTに出てくる本郷猛さんだ。……そこを気にしてる余裕はないか。

僕は九時方向から近づいてくる、ボンテージ姿の女へ向き直る。

その女は僕達を見て、軽く舌なめずり。胸の谷間もあらわだけど、全然魅惑的に見えない。


「ヒビキさん、ギンガさん達を連れて下がっててください。もやし達も一緒に」

「え、なぎ君……それって」


面倒なのでギンガさんの胸元をけり飛ばし、強引に距離を取らせる。


「おいおい恭文っ!」

「ちょっとっ! さすがにいきなり蹴るってどうなんですかっ!?」

「おのれらがいたら邪魔なんだよっ! とっとと消えろっ!」


もやし達はすぐに女の子と、邪魔極まりないギンガさん達をカバーしてくれる。

だって外見の美しさを覆い隠すレベルで、女の身体から殺気が放たれていたから。


「ふふふ、これは好都合」


女は軽く右手をスナップさせ、どこからともなくトカゲの顔っぽい仮面を取り出す。

それだけでなく、女の後ろからまた別の気配。数は……六人?


「まさか噂の悪魔と、我がショッカーを裏切ったホッパー1が一緒なんて」


ホッパー1……間違いない。コイツ、奴らの仲間だ。現に本郷さんが反応して、警戒してる。

女はトカゲのマスクを被り、心地よさそうに唸る。もう一度右手を振るって、一瞬でその腕をチェーンソーに変えた。

そしてその背後に、例の六人がようやく登場。その姿は恐らく、本郷さんも変身できる、初代仮面ライダー。


タレ目な複眼と二本角、筋肉を思わせる胸のアーマーは初代ライダーとほとんど変わらず。

でもそのかわり、グローブとブーツが黄色となっている。くそ、予想はしてたけど、ここで来るかっ!


「な、なにコイツらっ!」

「日奈森、その人達と一緒に逃げろっ! コイツら」

「ショッカーの改造人間だっ!」


僕の声を合図に、まずチェーンソー女……恐らくノコギリトカゲの親せきが、チェーンソーを振り上げ近づいてくる。

でも日奈森? それって……いや、ここは後だ。そこで女の腹を薙ぐようにして、右側から黒い閃光が走る。

それは大きくUターンし、次は走りだそうとしていたライダー達の胸元を斬る。


揃ってあお向けに倒れたので、その隙に閃光――ダブタロスを右手でキャッチ。


「変身っ!」

≪HENSIN≫


ダブタロスをベルトにセットして、走る光に身を包みながらダブトへ変身。その様を見て、本郷さんが驚いた顔をする。


「君は」

「別世界の仮面ライダーです。そして奴らは僕のお供」

『そうそう……おいっ!』

「ヤスフミ、どういう事っ!? この人達ライダーなんだよねっ! あの、待ってくださいっ!」


……なんで逃げてないのっ!? てーか前に入り込むなっ! なに普通に奴らの前へ出るのっ!


「私達、スーパー大ショッカーを倒すために旅しているんですっ!
ディケイドやヤスフミを倒さなきゃいけないって話は、全部奴らの」


当然そんなの聞くわけがない。ノコギリトカゲ……いや、チェーンソーリザードと言うべきか。

リザードはフェイトの言葉を鼻で笑いながら踏み込み、そのままチェーンソーを袈裟に振り下ろした。

僕は舌打ちしながら踏み込み、ゼクトアックスガンを取り出し右薙一閃。


女の両腕を斬り裂き、チェーンソーの刃をフェイトから遠ざける。でも両断は、無理か。

くそ、ただのスーツっぽく見えるけど、やっぱかなり硬い。

すかさずアックスガンを上へ軽く投げ、斧の基部――銃部分のグリップを持つ。


そうして腰だめに構え弾丸を連射すると、女はその場で回転。チェーンソーの刃で、僕の放った弾丸を切り裂いた。

そこで本郷さんが入り、左拳で腹にボディブロー。その重い一撃でリザードは吹き飛ぶけど、今度はしっかり着地。

それでも相手に距離は取らせたから、これで馬鹿に説教する余裕ができる。


「……この馬鹿っ! 逃げろって言ってるでしょうがっ!」

「だから駄目だよっ! この人達はライダーなんだよねっ! だったらお話して、協力してもらわないと」


しょうがないのでフェイトを抱え、そのまま脇へ軽くほうり投げる。もちろん全力で投げると大怪我なので、軽くにしておく。


「あーれー!?」


フェイトはそのまま大きく吹き飛び、みんなの前で墜落。

地面を滑ってちょっと痛そうだけど、それはきっと気のせいだ。


「もやし、その馬鹿しっかり抑えててっ! 伏兵いるかもだから、油断せず下がってっ!」

「ち……後でちゃんと説明しろよっ!」

「時間があればねっ!」

「あの……待ってっ! ヤスフミ、お願いだからやめてっ! ライダー同士で戦っちゃ駄目だよっ!」

「いいから黙れっ! 頭撃ち抜かれたいかっ!」


それでもフェイトは引きずられ、ようやく邪魔なのが全員逃げてくれた。それを合図に、本郷さんが一歩前へ出る。

それで上着の裾を掴み、さっと左へ広げる。するとその腹部に、車輪のついたベルトが出現。

その車輪が回転すると、本郷さんはあっという間に黒いライダースーツを装着。


傷だらけなスーツ――その右腕を動かし、どこからともなく取り出したヘルメットを装着。

左手でフェイスガードを装備すると、それはショッカーライダーと全く同じ姿となった。

違うところはスーツについている傷と、その色合い。僕が劇場で見たのより、ずっと暗い色合いだった。


それでも本郷さんは右手を左へと伸ばし、ポーズを取る。その瞬間、その瞳が赤く輝いた。

あぁ、やっぱりだ。この世界は……今までの世界とはまた趣が違う。ようやく実感が持てた。

だったら……更に急がなきゃ。状況次第では、本気で本郷さん一人だけってのもありえる。





世界の破壊者・ディケイド――幾つもの世界を巡り、その先になにを見る。

『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説

とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路

第32話 『NEXTの世界/闇の中で』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……信用して、いいんだな」

「とりあえず、コイツらの敵ですから」

「分かった」


というわけで僕もゆっくり歩きながら奴らの前へ出て。


「キャストオフ」

≪CAST OFF≫


ダブタロスのゼクターホーンを折り、本郷さんと駆け出しながら装甲パージ。それらは当然、全部ライダーとリザード達へ射出。

それを受けて奴らの足が止まり、また地面を転がる中――僕は右手で腰サイドのスイッチを押す。


「クロックアップ」

≪CLOCK UP≫


一気に駆け出しながら、ゼクトクナイガンを右手で取り出す。全ての動きがスローリーになる中、まずは左端にいるライダーを狙う。

右薙の斬り抜けでその首を断ち切り、飛び上がりながら身を時計回りに捻る。

続けてその横で倒れていた奴へ、唐竹の斬撃。狙うはやっぱりノーガードな首元。


実はこの世界の改造人間は、本郷さんもだけど首は生身が露出してるの。

だったら狙わない理由がないでしょ。そのまま着地してまた駆け出し、三人目を仕留める。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


本当によく分からないが、あの子は敵ではないらしい。装甲が弾けてすぐ消えたけど、きっと逃げてはいない。

まずは……トカゲ女だ。起き上がりながら足元へ振るわれるソーは、右足を挙げて回避。

そのまま起き上がりながら女は、袈裟に一撃。それを伏せながら右に動いて避けると、今度は右後ろ回しげり。


それを両腕でガードしてから、押しこむようにして弾く。女は勢いに逆らわず、そのまま地面を転がった。

その間にショッカーライダー達が、次々と首を跳ねられ消えていく。……あの子がやっているのだと、直感的に感じた。

女は起き上がり、飛び込みながらソーをまた袈裟に……俺は両手で女の腕を掴んで、動きを止める。


だがそこでソーが、予想に反して迫ってくる。コイツ……力が強い。今まで戦ってきた怪人と違う?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


最後のショッカーライダーの首を落とし、これで全員排除。後はあのチェーンソーリザードだけ。

……そう思っていたところで、白い影がこっちへ踏み込んでくる。

真正面から襲ってくる巨大な爪を伏せて避け、振り返りながら再度突き出される爪をクナイで弾く。


右薙に刃を振るいつつ敵の右サイドを取る。コイツ……ウカワーム、同型がまだいたか。

でもこれで間違いない。奴らはスーパー大ショッカーと繋がってる、ワームがいるのがその証拠だ。

返す爪が逆袈裟に振るわれるので、それを伏せて回避。左ボディブローを打ち込み、ウカワームを半歩下がらせる。


そこから身を時計回りに捻って下がり、カウンターで襲ってくる爪を回避。

突き出される爪は、クナイを唐竹に打ち込み再び払う。そうして跳躍し、左かかと落とし。

身を捻りながらの攻撃に、ウカワームの頭が打ちつけられて体勢が崩れる。


着地してすぐに胴体をけり飛ばし、ウカワームを転がした上でクナイ投てき。

黄金色の刃が闇を斬り裂く中、僕はダブタロスのスイッチを押していく。


≪1≫


そのまま踏み込むと、膝立ちで起き上がった奴の顔面にクナイが突き立てられる。

激しい火花を走らせ、クナイはこちらへ跳ね返るように戻ってくる。それをキャッチしながら、左手で二つ目のスイッチを押す。


≪2≫


ウカワームがいら立ちながらひと鳴きし、その爪に蒼い火花を走らせる。そのまま突撃し、まずは袈裟に一撃。

それを伏せて避け、返す爪――そのひざ下にクナイの切っ先を突き立て、一気に斬り裂く。

右薙の斬撃で火花が走り、奴の爪は大きく横へ逸れる。そこですかさず左ミドルキック。


もう一度奴を下がらせてから、左手で三つ目のスイッチを押す。


≪3≫


そしてクナイを再び投てき。


「ビートスラップ」


そのまま駆け出し、まずはゼクターホーンを元に戻す。

それから再度折っている間に、奴は爪でクナイを振り払う。


≪BEAT SLAP≫


僕は跳躍し、ベルトから走る火花を頭部の角へ集束。それは一気に右足へと走る。

黄色い火花は一瞬でにじ色となり、僕の足を包み込む。そして僕は。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


その足をウカワームへたたき込む。ウカワームは爪を払う事で、胴体ががら空き状態。

至近距離での跳躍と飛びげり――その二つに面食らったらしいウカワームは、動きを止めてしまっていた。

蹴りは問題なく胸元へ命中し、ウカワームは大きく吹き飛ぶ。そのまま胸元から火花を走らせつつ、爆散した。


僕はそのまま着地し、チェーンソーリザードへと向き直る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


組み合うのは不利と判断し、まずは右ローキック。それで体勢を崩してから、右の関節を決めて一気に投げ飛ばす。

だが女はそこで跳躍し、俺の投げに合わせて身を捻りながら着地。すかさず左回しげりが跳ぶ。

女の腕から離れ、まず右腕でガード。左薙に打ち込まれたソーを伏せて避け、返す刃も下がって回避。


胴ががら空きになったところで、右ストレート。女の胸元を……と思ったが、それは女の左腕でブロックされる。

女は俺の拳を弾いてから、眼前にソーを突き出してきた。身を反らしてそれを避けつつ、右ハイキックで腕を上へと弾く。

女の体勢が崩れたところで左ボディブローを一撃打ち込み、相手の左ローキックはこっちのローでしっかり潰す。


すかさず足を返し、その胸元へハイキック。女は思いっきり吹き飛び、そのまま近くの茂みへ落ちていった。

慌てて後を追いかけると、女がソーを突き出しながらこっちへ飛びかかってくる。

打ち込まれる左薙の斬撃を前転で避け、女と交差。再び向き直ったところで、女の身体が玄関側へ大きく吹き飛ぶ。


そのまま日奈森の友達だったものの近くへ倒れ、呻きながら立ち上がる。……なにがなんだか。

そう思っていたら、女の姿が一気にかき消えた。一体どこにと思い辺りをキョロキョロしていると。


≪CLOCK OVER≫


電子音声とともに、あの子の姿が現れる。それで舌打ちしながら、あの子はベルトに付いた虫を外す。

そうするとアーマーがどんどん粒子となっていき、元の姿へ戻った。


「大丈夫、なのか?」

「逃げられました。僕と同じような、加速できる奴が助けに来て」

「……そうか。まぁ助かったよ、俺一人だと七人はキツい。でも君達は」

「そこも道すがら説明します。僕も幾つか聞きたい事があるので」


確かに……まずは話を聞いて、それからって感じだな。何気に俺も、ワケ分かんない状況だし。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


しょうがないので警察に連絡し、到着を待つ。それで事情説明をした上で、写真館へ戻る。

もう辺りは大騒ぎになった。まぁ当然だよね、いきなり転落死で、現場検証とか始まるし。

でもあのトカゲにチェーンソー、やっぱりあれだよね。まぁまずは、本郷さんとお話してかな。


奴らも出てきてる以上、ここは最優先だ。本郷さんの力も借りたいし。

大方の事情説明を終えると、本郷さんはもう、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。

それでもお互い、写真館への道を急ぎ足で歩くのは変わらない。


「それはまた……悪夢なんだけど。いや、スーパー大ショッカーって」

「残念ながら事実です」

「だろうな。少なくともそれは、俺の知る改造人間とは違うし……ていうか、装甲服?」

「そんな感じです。それで本郷さん、一文字隼人さんは、今どうしていますか?
あと……風見志郎という名前に聞き覚えは」

「……一文字とはかれこれ二年近く会ってない。一文字と一緒に戦ってから、そのままだな」


そのまま? ちょっと待って、二年って……まさかこの世界、FIRSTからそれくらい時間が経ってる?


「ならその、決戦の後からずっと」

「あぁ。それと風見志郎という名前にも覚えが……どこからその名前が出たんだ」

「……本郷さん、一文字さんに続く三人目のライダーです。
元々のテレビ番組にも出てたんですけど、それと同じ姿の奴が絵に描かれてて」

「そういう事か」


しかし一文字さん……やっぱりあの人を探すところからか。予感的中、この世界はやっぱり修羅の国かも。


「じゃあ一文字さんのリジェクション、どうなってるんですか」

「……そこも知ってるんだ。ならはっきり言うけど一文字は、生きてるかどうかも」


ち、ここも予測通りか。しかもショッカーライダーまで出てるって事は……やばい。

もしかしたらショッカーは……あ、ここも確認しておこうか。


「じゃあ本郷さん、今なにしてるんですか。城南大学は」

「元々の研究所なら……辞めたよ。俺がいると危ないしね。
今はたまたま誘われる形で、聖夜学園ってところの中等部に入ってる」

「じゃあその、先生とか」

「あぁ。あの子――日奈森も生徒の一人でさ。……あれ、友達らしいんだ。
えっと、Chiharuっていう超人気アイドルでさ。連絡が取れなくて、心配してて」


それでなんだ。しかし友達が目の前で、転落死……またきつい。

本郷さんの表情が曇り、足が止まってしまったのもそのせいか。先生だって言ってたしね。


「なぁ、すまないが」

「まずはあの子を帰してからにしましょうか」

「ありがとう」

「でも先生でそれって……面倒見いいんですね」

「いや、たまたま通りがかってさ。三か月音信不通とか言ってたし、さすがに心配で」


そのまま僕達は駆け出し、写真館へ急ぐ。でも……ショッカーから逃げて、それでって事だよね。

多分一文字さんと連絡が取れなかったのも、そこが原因だろうし。……この人は戦いに巻き込みたくない。

下手をすれば今の職を追われる事だってありえる。それとなく、そういう話もしてみようか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


写真館へ戻ると、あの子――日奈森あむはコーヒーを飲んでいる最中だった。

なんか動揺してたから、落ち着いてもらおうって話みたい。

もやし達の方も、普通に襲撃があったらしいから。ここも予測通りか。


ワーム相手だったけど、クロックアップが可能な今なら余裕な相手。

こっちももやしとユウスケが、きっちり決めてくれた。なのでまぁ、あれだねぇ。


「ヤスフミ、どういう事っ!? ライダー同士で戦っちゃ駄目って分かってるよねっ!
悪いのはスーパー大ショッカーなのにっ! あの人達だって、説得すればきっと分かってくれたよっ!」


とかうるさい言うので、腹へひじ鉄をかましておく。それでフェイトはなぜか、涙目で崩れ落ちた。


「えっと」

「気にしないでください」

「おいおい恭文、いきなりホントどうしたっ! 頼むからちゃんと説明を」

「……時間がないって何度言わせりゃ気が済むんだよっ! いいから今は黙ってろっ! 頭吹き飛ばされたいかっ!」


うるさい連中は一喝して黙らせる。全く……あの場で本郷さんとすぐ会えたの、むしろ幸運だっつーのに。

今その幸運を無駄にするわけにはいかない。ショッカーライダーを思い出しながら、まずは……やっぱあの子の事か。


「それでおのれは」

「日奈森、あむ」


やっぱり……海東が言ってたのはこの子か。でも僕の事警戒してるみたい。

会ったのはまた別世界なのかな。なに、このご近所感覚な異世界探訪。


「ねぇ、マジなの? 別世界云々ってのはこの人達から聞かされたけど、そんなのありえないじゃん」

「ところがどっこい、ありえるんだよ。俺、一応城南大学の研究者だったんだけどさ、そういうのは聞いた事がある。
彼らの言うリセット理論についても、専門外ではあるけど……一応な」

「そうなのっ!? 城南大学ってめっちゃいいとこじゃんっ!
……じゃああたし達の世界が消えそうとか」

「マジらしいな。しかしショッカーより規模の大きいショッカー……ほんと、なんの冗談だか」

「冗談だったらよかったんですけど。……前提そのものが分かってるようだし、さくさく話を進めようか。まぁその、今日は大変だったね」


あの子に声をかけながら、ややしゃがんで視線を合わせる。あの子は丸っこい瞳で、僕の事をじっと見始めた。


「警察にも連絡したから、家へ帰ろうか。家、どこかな」

「……ここの隣」

「はぁっ!?」

「あ、だからあなた、あんなに慌ててたんですかっ!」


ちょっと、そこ確認してなかったのっ!? てーかそれならそれで帰してあげなよっ! 手間かかってるでしょうがっ!

……まぁそれならそれで好都合。この子はぱぱっと帰して、親御さんを安心させよう。


「あの、ちはるは」

「……そこも本郷さんから聞いてる。友達だったんだよね。連絡が取れなくなって」

「うん……三か月前から。あの、もしかしてあの変な奴らが」

「そこはほら、さっき言った通り、警察には連絡してるから。
なのでおのれはすぐ家に帰る事。それで……まずはゆっくり休もうか」


あむは僕の言葉に答えずひざ上へ崩れ落ち、嗚咽を漏らし始めた。……やっぱりまだ、混乱状態か。

目の前で友達があれだし、さすがになぁ。でもそうすると、本郷さんを狙ってだよね。

それにしては転落した直後――あそこへ二人が到着した途端ってのは、タイミングが良すぎるような。


うん、この子が言う事も分からなくはない。状況的になにか絡んで、それでってパターンもありえる。

まぁここはいいか。今一番に優先すべきは、行方の分からない一文字隼人さんだ。

――以前大和鉄騎に話した事を思い出してほしい。初代ショッカーは、ショッカーライダーというものを作り上げた。


ようは初代仮面ライダーの量産型だよ。ただし性能は初代と同レベルで、量産型って言うと語弊あるかもだけど。

あれはライダーを倒すためのライダー。そんなのを持ち出してきてる以上、一文字さんを早めに確保すべき。

普通なら無理なんだけど、そこは僕達の格好がある。もしかしたらだけど……よし、善は急げだ。


さっきので、手掛かりがひとつ出たしさ。なので改めて格好を確認し、両ポケットを探る。

すると左ポケットに、名刺らしきものが入っているのに気づいた。

それを取り出し確認すると、中身はクラブ――飲み屋のものだった。名前はCLUB グリーンリバー。


直訳すると緑川……また縁の深い名前だ。僕は本郷さんへ近づき、名刺を見せる。


「本郷さん、この店に覚えは」

「いや……だが、懐かしい名前だな。それは?」

「新しい世界に来ると、ライダーやその世界に関する格好へチェンジするんです。だからこれも」

「一文字と、その風見っていうのに繋がる証拠かもしれないと」

「多分ですけど」


本郷さんはそこで立ち上がるけど、すぐにあむの肩を叩く。


「日奈森、今日はもう遅いから……このまま送っていく。幸い家も隣だしな」


あむは静かに頷き、嗚咽を漏らしながらも立ち上がる。それで僕達は、そのまま写真室へ出る。


「ヤスフミ、待ってっ! あの、お願いだからちゃんと説明してっ!」

「そうだよっ! なぎ君、今までの事は謝るからっ! だから……置いてけぼりにしないでっ!」


当然ガン無視。僕達はそのまま写真館を出た。……この時間がないって時に、本当に。

早く一文字さんを見つけないと、マジでやばいのよ。とにかく僕達は、急ぎ足であむの家を目指す。


「だから待てってっ!」


当然ユウスケの静止もガン無視で、そのまま外へ。てーかコイツは……空気読めっつーのっ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「蒼チビの奴、どうしたんだ。さすがにアレすぎるだろ」

「確かに……こっちの世界へ来てから、いきなりですしね。あのギンガさん」

「……遅い、のかな」


蹴られたり無視されたりで、何気に心はズタズタ。痛みばかりが走って、涙をこぼしてしまう。


「私達が勝手な事ばっかり言ってたから、なぎ君……愛想つかしたのかな」

「……はぁ、あなた達はのんきねぇ」


そう言いながら私達のところへ飛んできたのは、やっぱりキバーラ。呆れた様子で、大きくため息を吐いた。


「この世界のライダー、一人は死んでるかもしれないのよ? のんびり説明してる暇なんてあるわけないじゃない」

「な……キバーラ、それどういう事ですかっ!」

「まずこの世界の怪人はね、今まで見てきた怪人とは全く違うの。はっきり言えば……改造人間」

「それ、あの人も言ってました。でもそれが怪人と違うって、どういう事ですか」

「ショッカーは優秀な人間をあっちこっちからさらって、改造手術を施す。
その上で洗脳処置を行い、自身の部下にするの。それが初代、そしてこの世界で暗躍するショッカーの手法」


その言葉でその、胸の奥が痛くなっていく。私も一応、人とは違う身体だから……ちょっと待って。

そこでキバーラの言いたい事が分かって、夏海さん達と『まさか』という顔をする。


「……でもそれ、変わりあるんですか? だってガイアメモリとかも、人間が使うものですし」

「ふふ、やっぱり夏海ちゃんはそう言うわよね。だけど当人にとっては、十分変わりがあるわぁ。
だって勝手に改造されて、兵隊みたいに使われるんですものぉ。しかもその力も半端ない」

「そういう苦しみがあるって事か。じゃああの彼も」

「えぇ、改造人間よぉ。これも業になるわねぇ」


そこでなぎ君が前に言っていた、グロンギの話を思い出す。そうだ、あの時もなぎ君はそういう話してた。

グロンギは人間とほぼ同じ存在で、ただ霊石と呼ばれるもので怪物化しているだけ。

もし違いがあるとすれば、それは考え方や文化だけ。なぎ君はそう言い切っていた。


グロンギの変身はクウガ――ユウスケさんと全く同じプロセス。じゃああの本郷さんも、そういう事なの?

今までの世界はこう、なんだかんだで新しい脅威と人間との戦いって感じだった。

例外としては……ファンガイアやオルフェノク? そちらは新人類という考えに近いだろうし。


あとは龍騎の世界だよね。あれは裁判という、全く違うものに変質していたけど。

やっぱり本郷さんも同じなんだ。改造人間の力で、同じ改造人間を倒す。それが仮面ライダー。

とにかくその……キバーラはいろいろ知ってるっぽいし、私からも質問してみよう。


「じゃあキバーラ、あのライダー達は? 本郷さんとどう違うのかな。……あ、ここは改造人間どうこう以外で」

「ショッカーライダーよぉ。あたしはその場にいなかったけど、恭文ちゃんが間違えるはずないもの。
……初代ショッカーにもね、そういう存在がいたのよぉ。ライダーを倒すためのライダーが。
ようは仮面ライダーが厄介だから、同じ『バッタ型改造人間』をぶつけて倒しちゃおうーって考えね」

「つまりその、仮面ライダーを量産? そんな事って」

「できるわよぉ。仮面ライダーは元々、ショッカーが作った改造人間だものぉ。
使われている技術自体がこう、ワンオフ的な感じじゃなければ、できない理由がないわよ」

「だから、なんだ」


ようするにその、ライダーを作ったのがショッカーだから、量産自体も可能って話だよ。

向こうはライダーというより、本当に自分達が作った『バッタ型改造人間』って意識なんだね。

しかもこう、その技術自体は特別なものじゃない。でも普通、ライダーがたくさんは思考に浮かばないよ。


特に私達は……あれ、なにか引っかかるような。ライダーがライダーを倒すって事だよね。

なにかもやもやしたものを感じてしまうけど、そこは一旦置いておく。今の話とは関係なさそうだし。


「だったら説得は」

「無理よ。さっきも言ったけど脳手術によって、個人の意思から消されているはずだから。
むしろそれに逆らった、本郷猛みたいなのが稀有なのよ。もう殺すしかないわねぇ」

「ねぇ、そんなはずないよねっ! ライダーだったらきっと協力してくれるはずだよっ!
お願いだから嘘をつかないでっ! きっとあの人達も、この世界を守るライダーなんだよっ!」

「ほんとフェイトちゃん、馬鹿よねぇ。外見だけで全部判断して、分かった気になっちゃってる。
それやるの、恭文ちゃん達だって分かって言ってるぅ?」

「当然だよっ! だから私も手伝うっ! 声をあげれば、きっと聞いてくれるっ! 戦う必要なんてないっ!」


でも、おそらくは無理だ。なぎ君が速攻で倒すって選択を取ってるもの。当然そこも知ってるだろうし。

あれ、やっぱりなにか引っかかる。うーん、なんだろう。なにかこう、喉の奥に詰まってる感じがする。


「なぁちょっと待てよ。それだとその一文字隼人は」

「ショッカーライダーが出ている以上、狙われている危険があるわね。でもそれだけじゃないわぁ。
リジェクション……恐らくこれが、恭文ちゃんがあれだけ焦ってる理由ねぇ」

「リジェクション? なんだそれ」

「まぁ又聞きの又聞きだから、理解しててね。というかヒビキ、あなたは知らないの?」


あ、そう言えば……ヒビキさんはこう、パラレルワールドの事も理解してるし、他世界のライダーについても知っている。

だったらヒビキさんだって……と思うけど、ヒビキさんの表情は芳しくなかった。


「あぁ、それは初耳だな。てーかこんな世界がある事も」

「そう。……この世界の改造人間はね、定期的な血液交換が必要なの。
それを行わないと改造部分に対する拒否反応が起きて、最悪命に関わる。それがリジェクションよぉ」


あぁ、それで……その辺りはその、戦闘機人のあれこれを考えればすぐ理解できる。

そもそも生身の身体に、無機質なものを埋め込むっていうのが無茶なの。ここは人工臓器などにも言える。

例えば有機的なものだと、自然治癒という自動メンテナンス機能が備わっている。でも機械にはそれがない。


だから身体の部品が異常を起こしたら、いちいち取り出したりしなくちゃいけない。

もちろん医学の進歩で、そういう問題を解決してきてはいるけど……実際私やスバル達がそれだしね。

でもこっちにはそこまでの事ができていない。だからリジェクションという拒否反応が……あれ。


ちょっと待ってっ! それだとショッカーから離反って、文字通り命がけっ!?

だったら抵抗して戦っちゃった本郷さん達は、一体どうなるのかなっ!


「その中でリジェクションが起きない改造人間が一人だけいて……それがあの本郷ちゃん。
こちらのショッカーはそれを、『唯一の成功例』と評していたらしいわぁ。
でも頭のいいやり方よねぇ。命の問題があるから改造人間は、嫌でもショッカーに従わなきゃいけないのぉ。
……フェイトちゃん、あなた説得するって言ったわよねぇ。それ、相手に『死ね』って言ってるのと同じよぉ?」

「そんな……だったらミッドへ行けばいいっ! ミッドの技術力なら――母さん達を助け出せればっ!」

「ほんと馬鹿ねぇ。結局あなた、自分ではなにもしようとしてないじゃない。いっつも人頼みで……ほんと薄い覚悟」

「うるさいっ! スパイなんかの言う事を誰が信じるかっ! 今の話、全部嘘だろっ!」

「フェイトちゃん、落ち着けって。キバーラもマジっぽいんだからさ。な?」

「ヒビキさんっ!」


フェイトさんはそれとして、私の中でどんどん疑問が強くなってきていた。

いや、リジェクションの事もあるんだけど……それなら一文字さんは?

しかもキバーラ、本郷さんは『唯一の成功例』とか言ってたし。だったら一緒に離反した一文字さんは。


「じゃあキバーラ、一文字さんという人はどうなってるのかな。一文字さんもそれが起きないとか」

「ギンガちゃん、唯一って言ったでしょお? つまりそういう事よ」

「その人は、リジェクションっていうのが起こってるんですね。士くん」

「……なるほどな、大体分かった。時間がないってのは、そういう意味か」


えっと……一文字という人はリジェクションの事もあるから、急いで保護しないと危ない?

しかもショッカーライダーっていうのが出てきてるから、狙われている危険もある。

そう言えば本郷さんも、二年近く会ってないって……やっぱり悔しさと情けなさがこみ上げてくる。


なぎ君にとって、そんな説明すら惜しむほどの状況だった。そこでフェイトさんが、軽く地団駄を踏む。


「みんな、こんなの信じる必要ないっ! コイツは私達を騙していたんだよっ!?
ヤスフミ……そうだ、ヤスフミに聞けば全部分かるっ! 後を追いかけて」

「やめておきなさい、あなた達がいても恭文ちゃんの邪魔よ」


キバーラがはっきり言い切ると、フェイトさんの身体が震える。

それで必死に頭を振るけど、キバーラの冷たい視線は消えない。


「ワームが襲ってきたらどうするのぉ? ファンガイアやオルフェノクなんていうのもいるわねぇ。
……分かってないでしょ、もう状況は、そんな余裕すら吹き飛ばしてるのよ。
恭文ちゃん達を本気で思うなら、ここでじっとしてなさい。出た瞬間に殺されるわよぉ」

「黙れっ! 私はお前の言う事なんて信じないっ!
いい加減な事を言って、これ以上ヤスフミやみんなを惑わせるなっ!」

「ああもう、やめろって」


そこでヒビキさんが呆れた様子で、フェイトさんにストップをかける。

それでもフェイトさんは止まらず、キバーラを睨みつけていた。


「ヒビキさん、ヒビキさんからもなんとか言ってくださいっ!
ヤスフミの後を追うんですっ! それで本当の事を教えてもらって、一緒に」

「今のフェイトちゃんがいても、少年の邪魔だ。前に言っただろ?
フェイトちゃん達は基本を忘れてるか、間違ってるって。
……自分の道すら決められない奴が、人の道を守れるわけがないんだよ」

「じゃあ放置するって言うんですかっ!? しかもコイツは、ライダーを――正義の味方を、同族殺しなんて馬鹿にするのにっ!
そんな奴の言う通りにするなんて、私は嫌ですっ! 私は忘れても間違ってもいませんっ! だから力があれば、戦えますっ!」

「それは無理だ。とにかくフェイトちゃんは、もっと地に足をつけろ。
なにをするにしても、少年やもやし達に守ってもらう立場なんだから……な?」

「おい、もやしはやめろっ! てーかお前までなんだっ!」


そう言っても、フェイトさんは納得しきれない。でもこの世界は、一体なんなの?

つまるところショッカーは、人間が作った組織なんだよね。私はその、ざっとだけどそういう印象を受けた。

それが人間を支配するために動いて、同じ人間を駒とするために改造している。


それじゃあまるで……どういう、事なんだろう。本当に仮面ライダーってなんなの?

私は良太郎さん達を知っているから、正義の味方だと単純に考えていた。でも、それも違うみたい。

キバーラとなぎ君は『ライダーは同族殺し』と言い切っていた。決して正義の味方ではないと。


そしてライダーは敵と同じ力を用い、相手を倒す業を背負っている。それはなんの因果か、どのライダーでも……あれ。

あの、やっぱりおかしい。またなにか引っかかってるの。そういう『業』は、否定できない。

例えばキバはそのままだし、龍騎もモンスターと契約して……らしいから、ここも適用される。


そこで鬼が若干疑問に残るけど、もしかしたら鬼と魔化魍の力は等しいって設定があるのかも。

カブトのクロックアップはワームの力で、良太郎さん達もイマジンの力を借りて、同じイマジンを止めてる。

ファイズも元々は……えっと、オルフェノクの王だっけ? それを守るためのベルトらしいから、ここも当てはまる。


なら……そこで自然と、士さんを見ていた。士さんは、どうなるんだろう。

もし士さんもそういう『業』を背負ってライダーになったのなら、その相手は――力の源は誰なの?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あむの家へは……なんとまぁ、本当に隣だった。さすがの本郷さんも驚いて、頬を軽く引きつらせる。

その家は二階建てで、色合いは全体的に明るい。実に一般的な家屋で、自然とあたたかみを感じていた。

てーかさ、表札に堂々と『日奈森』って書かれてるのよ。……なんで気づかないっ!? むしろそっちに驚いてるよっ!


「じゃ、じゃああむちゃん、今日はまぁ……ゆっくり休んで。な?」

「うん。でも先生、マジで仮面ライダーってやつなのかな」

「……そんなヒーローのつもりはないけど、一応そうなるのかな。結局俺は、人殺しだから」

「人殺しって」

「アイツらもさ、俺と同じで……きっと改造されて、あんな風になっちゃっただけだよ」


そう言って悲しげに笑う本郷さんを見て、強烈に胸が痛む。……確かに仮面ライダーは、一面だけ見れば正義の味方だ。

だから子ども達は憧れるし、正義を貫く姿にこうありたいとも思う。でもそれは、あくまでも一面。

ライダーは誰かを殴って、傷つけて……場合によっては命を奪う。それでも止まれない業を背負っている人でもある。


やっぱり、この人もそうだった。同時にそれが、妙な安心を覚える。だってこの人はそういう事に、言い訳をしない人だから。


「でもお前はもう、関わらない方が」

「そう、だね。じゃああの……あたし、風見志郎って聞いた事あるの」


そこで僕達は顔を見合わせ、ついあむに詰め寄ってしまう。あむは両手で僕達を止めつつ、少し困りながら本郷さんを見た。


「ちはるの名字って、風見なんだ」

「風見……ちはる? まさか」

「うん、ちはるのお兄さん、志郎って言うの。IT企業の社長してて……ほら、エクサストリーム社」

「そうだったのか。だがあそこは」

「ちょっと待てっ! エクサストリーム社ってホントかっ!」


ユウスケが確認すると、あむはやや驚きながら頷く。


「恭文、それって士がっ!」

「うん……やっぱり手掛かりだったんだ」

「君にも覚えが?」

「あの、さっきのグリーンリバーみたいに、もやしの奴が名刺持ってたんです」

≪間違いありませんね、ならそのエクサストリーム社に……そう言えばあむさん、その人は尋ねなかったんですか?≫

「……聞きに行けなかったんだよな」


本郷さんは気になる事を言って、僕に取り出した携帯を見せてくる。

それは既にネットに繋がれていて、一つの記事を写していた。


「エクサストリーム社、社長と社員全員が一斉失踪? え、なんですかこれ」

「ちょうど三か月前、話題になった事件だ。しかもこれは」

「ちはると、連絡取れなくなったのと同じ時期。最初はその、仕事が忙しいだけだと思ってた。でも話を知って」


三ヶ月ってラグはそこから発生したのか。それで連絡を取ろうとしたけどさっぱりで、今日に至ると。

しかも社長は失踪状態……臭い。その上名前が風見志郎だよ?

あとはあのチェーンソーリザードだ。なるほど……もやしじゃないけど、大体分かった。


「よし、明日この件について調べてみよう。本郷さん、すみませんが」

「手伝うよ。もしかするとショッカーに絡んでるかもだし」

「あの」


そこであむがなにかを言いかけるけど、すぐ言葉を止めて……首を振る。


「気をつけてね」

「あぁ」


言いかけた言葉がなにか、それは考えるまでもない。だからまぁ。


「本当の事が分かったら、必ず教えるよ」


自然と、こんな事を口走っていた。それであむが僕を見て、驚いた顔をし始める。


「それでいいかな」

「……ありがと」


僕達はあむと別れ、グリーンリバーを目指す。やっぱり通りすがりでも、関われるところはしっかり関わる。

そういう気持ちを抱えながら歩いていると、隣にすっとダブタロスが飛んでくる。

僕は左手でダブタロスを撫でながら、闇の中でほほ笑んだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


グリーンリバーは新宿の飲み屋街にある、そこそこ高級な店らしい。

裏路地などに入る事もなく、そういうお店が密集している地域のどまんなかにあった。

それでまぁ、この時間でも新宿は眠ってなくてねぇ。ネオンが昼間のような明るさで世界を照らし、人々はその中で笑う。


ここはちょっとだけ日常を忘れ、夢を見る場所だから。ただ夢を見るのには、それなりの代償も伴う。

しっかり割り切りつけないと、夢の中でずっと過ごそうとして……破滅するだろうから。


「それで恭文、あのチェーンソー女は覚えがないのか? ほれ、ショッカーの怪人なら」

「トカゲでチェーンソー――のこぎりの類っていうなら、覚えがある。ただそれは、ショッカーの怪人じゃなかったけど」

「どういう事だ」

「風見志郎――V3が戦っていたのは、デストロン。ショッカーが壊滅した後に出てきた組織なんだ。
でね、そこの改造人間にノコギリトカゲっていうのがいたの。だから」

「ショッカーとは別口? いや、テレビだとデストロンとして出てきた怪人が、ショッカーになってる?」


本郷さんに頷き、曲がり角を曲がる。酔っぱらいを避けると、なぜか褐色肌のお姉さんが、横から僕へ笑いかけてくる。

ギンガさん張りのスタイルで、胸元の開いたドレスを着たその人は……夜のお仕事中なのかな。

さっきタクシー、見送っていた様子だし。そんなお姉さんに軽く手を振り返し、そのまま道を急ぐ。


まぁあれだよ、外見年齢抜いても……僕未成年だしね。下手に仲良くすると、迷惑しちゃうから。


「まぁFIRST自体がリメイク作品だし、昔の怪人リメイクが出ても不思議じゃないけど」

「いや、それ俺としては不思議極まりなんだけど……じゃあ君でも弱点とかは」

「弱点もなにも、デザインからなにから変わってますから。僕の知識は役に立たないですよ」

「そうか……あ、それなら今まで会った怪人について教えてくれるか?
君達と一緒に行動するなら、俺もある程度知っておいた方がいいと思うし」

「あ、そうですね。なら後で」


僕達は白いビルへ入り、エレベーターで四階へ。少し経ってエレベーターを降りてから、豪華な木目調のドアを開く。

すると中は眩いばかりの白い世界。それに少し感心していると、黒い着物姿の女性がやってきた。

年のころは三十代後半だけど、つややかな黒髪がまた美しい。スタイルも着物の上から見るに、かなりいい。


「いらっしゃい……あら」


まぁそこで僕を怪訝な顔で見るのは、しょうがない。……やっぱりもっと身長が欲しい。

軽く泣きたくなっていると、すかさずユウスケ達がお辞儀。続けて本郷さんが名刺を出してくる。


「すみません、俺達友人を探していまして……一文字隼人という人なんですが。
あ、俺は聖夜学園・中等部で、教師をしている本郷猛というものです」

「隼人ちゃん……あらまぁ、隼人ちゃんの友達なんてまた珍しいっ! じゃあそっちの坊やもっ!?」

「まぁ、そんな感じです」


やっぱりここの常連みたい。女性は名刺を受け取りながら、やけに明るく笑い出した。


「あ、僕は一文字さんに会えたら、すぐお暇しますので。長居すると、ご迷惑かけちゃいますし」

「うふふ、ごめんなさいね。もうちょっと大人になったら、遊びに来てくれて構わないから」

「ありがとうございます」


そこで軽く頭を撫でるの、やめてほしい。僕、本気で子ども扱いされてるんだなぁ。

あとユウスケ、涙ぐまなくていい。僕も今回は、しっかりこらえるから。


「じゃあちょっと待っててね」


ひとしきり僕の頭を撫でてから、女性はお店の奥へ引っ込む。すると。


「あぁっ!? 俺に友達なんていねぇよっ! カタリだろ、それっ!」


うわぁ、間違いない。これは劇場版そのままの声だ。気配は……うん、バッチリだ。

でもなんだろう、これ。ちょっと弱々しいというか、無理してるような感じがする。


「じゃあ聖夜学園の本郷さん……聞き覚えないの?」

「……本郷っ!?」


声の主はドタドタと足音を響かせながら、こちらへやってくる。その人は白タキシードを着た、茶髪の男性。

肩までの髪を軽く後ろへなびかせて、首元には金色のネックレス。やや乱れた息を整えながら、僕達を一瞥。


「よ」

「お前……と、なんだ。そのチビは」


その瞬間、僕はこの失礼な男をけり飛ばした。いや、きっと許される。だって僕はちびじゃないし。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


お店に迷惑をかけないよう、引っ張りだしてから近くの歩道橋上へ。

その真ん中で止まり、手すりに体重を預けながら事情説明。

僕達の足元で幾つもの車が、光を放ちながら行き交う中、一文字さんは驚きながらも話を聞いてくれた。


ここは本郷さんの存在も大きい。どうやらこの二人、それなりのつながりはあるみたい。


「――別世界のライダー、ねぇ。で、俺にもそのスーパー大ショッカーを倒せってか」

「そうは言いませんよ。ただ僕達と一緒に来てください。戦えないでしょ、その身体じゃ」

「なに言ってやがる、お前みたいなガキをひねり殺すくらいはできるぞ?」

「リジェクション、かなりひどくなってるでしょ。あっちこっちから血の臭いがする」


それでライトアップに照らされたあの人の顔が、一瞬こわばる。……まぁ香水でごまかしてはいるけどね。

一般人はともかく、それなりに修羅場くぐってる人間からは丸分かり。


「だからさっきの言葉、そのまま返してあげますよ。アンタじゃ僕は殺せない」

「……け、リジェクションの事までご存知か。本郷」

「俺は話してない。まぁだから、言ってる事が本当だって思ったんだけど」

「ショッカーの奴らかもしれないぞ」

「それはないよ。会った事もないお前を本気で心配して、全速力で動いてくれたんだから」

「……相変わらず甘い野郎だ」


そう言いながらも、本郷さんの言葉は否定しない。もちろん僕の言葉もだ。

……この世界の改造人間は、定期的に血液の交換作業が必要なの。

やらないと命に関わり、肉体の拒絶反応が起こる。それがリジェクション。


リジェクションは洗脳抜きに、ショッカーへ従う理由にもなっている。

ただ本郷さんは、劇中でも説明されていたけどリジェクションが起きない。

これをショッカー首脳陣は『初めての成功例』と称していた。ただね、最初は首脳陣もその事を知らなかったの。


本郷さんがショッカーから離反した当初は、『放っておけば死ぬ』って高をくくっていた。

でも本郷さんにその兆候が全く見られず、結果リジェクションが起きないという結論に達した。

だけど……この人は違うの。立場的には、あのショッカーライダー達や他の同じだった。


だからリジェクションの手から逃れられず、今も苦しんでいる。

しかもリジェクションの間隔は、時間を経る毎に短くなっていく。

多分この人、態度には出さないだけで……相当ボロボロだよ。


「一文字、ショッカーの施設でそれっぽいのを見つけたら……必ず知らせるよ」


そんな一文字さんへ、本郷さんはそこそこ軽い調子でそう告げる。すると一文字さんは、その言葉を鼻で笑った。


「今の仕事ほうり出してかよ。聖夜学園って言ったら、マジでいいとこの学校だろうが」

「そうだな、環境は最高だ。子ども達はみんなキラキラしてて、俺みたいなダメ教師にもよくしてくれてさ。でも」

「駄目ですよ、本郷さんは動かないでください。僕がやりますから」

「それも駄目だ。放置はできないしさ」


あっさり言い切ったしっ! てーか笑うなー! 僕は割りと本気だよっ!? でも……目を見て分かった。

この人はそれでも、自分が正しいと思った事を貫こうとしている。その姿が美しくも見えて、同時に……とても胸が痛んだ。


「とにかくあれだよ、もしかしたらろ過装置も確保できるかもしれないし」

「無駄だ、もう俺やお前は旧式だ」

「……どういう事だ?」

「今奴らが怪人をどうやって生み出してるか、分かるか? ナノマシンだよ」


……いきなり妙な話が飛び出して、つい目を細める。

本郷さんやユウスケがこちらを見るけど、『知らない』と首を振る事しかできなかった。


「ナノマシンを体内に侵入させて、本人が知らないうちに改造する。そういう研究をしてんだ。
コイツは凄いぜ? リジェクションもない上に、身体能力は俺達より上。その上洗脳力まで強くなってやがる」

「お前……調べてたのか」

「勝手に向こうがちょっかい出してくるから、相手してるうちに分かっただけだ」

「なるほど、それでなのか。いや、今日交戦したトカゲ女、かなり強かったんだが」


正直ショッカーライダーはチート技で倒したから、僕にはなんとも言えない。

ただショッカーの怪人と真正面から戦っていた本郷さんが、そういう手ごたえを覚えている。

あれがそのナノマシン式――新型改造人間ってわけか。しかしナノマシンってのが恐ろしい。


基本視認は無理だし、テロ的に散布されたら偉い事になる。……あれ、なにこのフラグ。

でも待って。テロ的に散布……それでエクサストリーム社の社長は、風見志郎。

しかも現在ショッカーは、話を聞く限り完全にナノマシン型改造人間へシフトしている。


失踪事件は三か月前……まさか。いや、警察は来てくれたし、だったら問題ないはずなんだけど。

軽く混乱していると、一文字さんが本郷さんへ一枚のメモ用紙を差し出す。


「一応ジャーナリストってのが肩書きでなぁ。それっぽい事件は耳に入ってくるんだよ。
で、その中でもとびっきりなのがコイツだ。エクサストリーム社・社長と社員の一斉失踪、知ってるか?」

「ついさっき、その話をしたところだ。それで」

「社長である風見志郎は現在、軽井沢の別荘にいるらしい。……じゃあ死なない程度に頑張んな」


一文字さんは手すりから離れ、僕達に背を向け去ろうとする。なのでまぁ。


「だから待たんかいっ!」

「ふごっ!?」


後ろから背中をけり飛ばし、その動きを強制停止。一文字さんにはあお向けに倒れてもらう。

一文字さんは上半身だけをぱっと起こし、どうしてかこっちに怒りの視線をぶつけてくる。


「お前なにすんだっ!」

「君、見てたら結構過激だよなっ! いや、攻撃的っ!?」

「血液交換、なんとかしてみせます。なので一緒に来てください」

「ざけんなっ! どうするってんだっ!」

「簡単ですよ」


僕は胸をパンと叩き、夜の中で不敵な笑みを浮かべる。


「僕が装置を作ります。アルト、協力して」

≪しょうがありませんねぇ、やりますか≫

「「「えぇっ!」」」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


本郷さんにも協力してもらって、馬鹿を引っ張り写真館へ戻る。まぁこれがなかなかに大変だった。

その後は一文字さんをソファーへ寝かせ、まず身体のサーチを開始。それから人工血液のサンプルを取らせてもらう。

物質変換で新しい血液に直せるかもと思ったけど……いや、実際戻せたのよ。


構成成分から、『こんな感じかなー』ってやってさ。毒素らしきものを抜く事には成功した。

ただね、それをそのまま入れるってのも躊躇われるわけよ。下手したら強烈な拒絶反応とか起こるかもだし。

なので一文字さんの身体に合った、ろ過装置を考え組む事にした。まぁ、最初に言った通りだね。


それが無理でも、もしかするとミッドの技術力なら……そういう打算もなくはない。

ようは応急処置しかできなかったとしても、ミッドへ連れていって治療してもらうのよ。

お願いだから、他力本願とは言わないでほしい。僕もナノマシンの話が出るまで、本郷さんと同じ考えだった。


でもまさか、生産体制まで丸々変わってるとは……二年でどんだけ頑張ったんだよ、ショッカー。

ただそこで名乗りを上げたのが、我らが本郷さん。アルトにも手伝ってもらった結果、ろ過装置の図面が早速できてしまった。

え、なにこれ。もしかしなくても、この人本当の天才ってやつなの? さすがに衝撃的すぎて、撮影室でぼう然とする。


「――図面はこんな感じかな」

≪えぇ。ですが本郷さん……凄いですね、たった一時間程度でこれだけのものを≫

「いや、元々考えてはいたからさ。ただ各部パーツの詳細データ、俺の身体を調べても取れなくて。
だからほんと君達には助かってるよ。……デバイスって凄いなー。超小型の高性能パソコン、持ち歩いてるようなもんだよ」

≪恐縮です。それでパーツは≫

「僕が作るよ」


図面ができたのなら、あとは作成だけ。胸を張ってそう言い切り……というか、もうこれしかできないかもしれない。

だって肝心なところ、本郷さんが頑張ったんだもの。あははは、ちょっと悲しいかも。


「僕、物質変換の魔法が使えるんで」

「へぇ、そりゃ凄い。……うん、これならできる。一文字の身体データと、シミュが可能な演算装置があれば」

「おい、お前ら……マジか」

「マジだよ。なにもしなくても死ぬなら、まず頑張ってみようよ」

「いや、それは俺が言うべき台詞だろっ! 他人にだけは言われたくねぇっ!
あとな……この縄はなんだっ! 全然外れないんだがっ!」


ソファー上の一文字さんは、どうしてか僕がかけたバインドにご不満らしい。それが不思議で、小首を傾げる。


「逃げられても困るので、エスコートです」

「お前一度言葉勉強してこいよっ! これエスコートじゃねぇよっ! これはな、拘束って言うんだよっ!」

「じゃあ地獄へエスコートされる方がお好みですか?」

「くそ、完全にイカれてやがるっ! おい本郷、なんとかしろっ!」

「いいじゃないか、これで死なずに済むかもしれないんだから」

「俺の自由がひん死状態だろうがっ! あとな、『かも』はいらねぇっ! 言い切れよっ!」


いやー、一文字さんも喜んでくれてなによりだ。それじゃあもうちょっと機構を煮詰めて。


「あの……ヤスフミ」


そう思っていると、眠ったはずのフェイトが撮影室へ入ってくる。

それでパジャマ姿のまま、僕に引きつった笑いを送り始めた。


「仮面ライダーって、正義の味方でいいんじゃないのかな。
ヤスフミだって士さんだって、みんなのために戦うヒーローなんだよ?
なのに同族殺しとか……キバーラみたいな事を言う必要ないんだよ」

「フェイト、おのれマジで学習してないね。前の世界でもその話、したはずでしょうが」

「だからね、そういう考えを変えてほしいんだ。それに関係ないなんて言うのも駄目だよ。
私達も協力するから、一緒に頑張っていこうよ。ほら、この人達だって正義の味方なんだよね。みんなを守るために戦って」

「……は、奇麗な割に、めでたい嬢ちゃんだな。頭はお花畑ってか」


フェイトのたわ言をはねのけたのは、当のご本人。一文字さんは呆れ気味に吐き捨て、身体をもう一度ソファーへ横たえる。


「俺達は正義の味方なんかじゃねぇよ。ただの人殺しで、化け物だ」

「違いますっ! 仮面ライダーはみんなを助ける、正義の味方なんですっ!
私達の世界ではそうなんですっ! あの、お願いですからそういう事を言わないでくださいっ!
キバーラ――スーパー大ショッカーはそうやって、あなた達を貶めているんですっ!」

「貶める? むしろ正当な評価だろ。……お前さん、処女だろ」

「はぁっ!?」

「言っとくがシモじゃねぇぞ? 人を殺した事がない……そういう意味だ」


そう言われて、顔を真っ赤にしたフェイトが硬直する。フェイトは否定も肯定もできず、ただ押し黙る事しかしない。

そんなフェイトに対し、一文字さんはつまらなそうな顔をする。


「俺達にそんなクチ叩きたいなら、改造人間の一人でも殺してみろよ。
もちろん身体も改造されて、人を抱きしめるだけで死なせかける身体になってくれよ?
その上で正義の味方名乗れって言うなら、遠慮なく聞いてやる」

「一文字」

「残念ながら俺達はそんな根性がない。なのでお前さんが改造人間を殺して、手本を示してくれ。
自分は正しい、自分は正義の味方だ、自分はみんなを守るために……人を殺し続けるってな」

「だから言い過ぎだぞ。あの、あんまり気にしないでください。コイツはその」


フェイトは涙をこぼしながら、そのままドタドタと部屋を飛び出した。

僕は静かにため息を吐きつつ、また図面へ向き直る。


「いいのか、放置で」

「いいんですよ、だって実際その通りだし。……すみません」

「謝らなくていいよ、俺達は気にしてないし……一文字」

「へいへい」


本郷さんにたしなめられ、一文字さんは縛られながら僕達に背を向ける。ただ……その途端に、顔だけこっちへ向けた。


「やっぱお前、行ってやれ」

「ヘコませといていいですよ、今は時間が惜しい。
……後で寝付いたところをたたき起こして、泣かせてやりますから。
それで一晩中正座させ、次は頭を踏んづけながら土下座させ」

「お前鬼かっ! あとその笑いやめろっ!」

「そうだよっ! 君、相当怖い笑い浮かべてるからっ! ていうかドS!? ドSなのかなっ!」


馬鹿な彼女候補を持つと、本当に苦労する。そこに頭を痛めながらも、作業継続。

そうしながら気になるのは、やっぱり風見兄妹の事。二人は同時期に失踪して、なおかつエクサストリーム社の社員もある。

その上一文字さんは、それを『ぶっちぎり』と言っていた。ショッカーが絡んでいるなら……つまり、そういう事だよ。


もちろん警察はちゃんと来てくれたけど、相手は社会の深層に入り込んでいる秘密結社。

なにが起こってもおかしくはない。なんにしても明日……まずは風見志郎に会ってからだ。


(第33話へ続く)








あとがき


恭文「……晴人のアンダーワールドがー! ドラゴンがー!」

フェイト「いきなりだねっ! ……あ、今週のウィザードか」

恭文「奇しくも同人版ドキたまと同じ展開」

フェイト「同じじゃないよっ!? ヤスフミは裏技いろいろあるよねっ!」


(いろいろあります、古き鉄の技)


フェイト「でもインフィニティースタイルのテーマソング、楽しみかも」

恭文「オールドラゴンのalterationがタジャドル感満載だったから、次はプトティラだね」

フェイト「いや、そこはないんじゃないかなっ! ……というわけでフェイト・T・蒼凪と」

恭文「蒼凪恭文です。なんだかんだでちょこちょこ書いてたこっちが、記念小説より先にできるとは」


(人生って不思議)


恭文「それでNEXTに関してですが、まぁあんな感じですね。いろいろ変わってるところも多いですけど」

フェイト「ちはるちゃん絡みで、怪奇事件が起きているのとかだね。劇中だとその二軸だったんだけど」

恭文「ここはまぁ、カット? いや、やってもやらなくても特に問題ないし。主軸はやっぱりショッカーとの対決に」

フェイト「でもリジェクションやらなんやらって……ハードすぎな」

恭文「劇場だし、NEXTだとR指定もかけられてたから。
そしてこの映画は、アクションが半端ない。確か牙狼のスタッフが関わっていたはず」


(うろ覚え、違っていたらめんご)


恭文「あと特徴としては、技の1号と力の2号が逆転している事」

フェイト「技?」

恭文「ようは戦闘スタイル。原典の初代仮面ライダーだと、そういうキャラになってたのよ。
ほら、外見基本同じだからさ。変身ポーズとグローブ・シューズ、カラーリング以外は同じだから」

フェイト「また凄い事をっ! じゃあえっと、力の1号と技の2号?」

恭文「うん。戦闘シーンはそこを意識して、本郷さんは重い一撃を撃ち込んでいくイメージで」


(……NEXT見て、がんばろうっと。特にアクションシーン)


フェイト「なるほど……あ、それとあむがっ! それに聖夜学園もっ!」

恭文「まぁラン達はいないけどね。これもオリジナル要素ってわけで……それで次回は」

フェイト「この続きで、軽井沢?」

恭文「うん。フェイトは留守番だね、邪魔だから」

フェイト「フォークが……フォークがあればー!」


(いや、その理屈はおかしい。
本日のED:NEW JACK拓郎『五星戦隊ダイレンジャー』)



恭文「こまけぇことはいいんだよっ!」

フェイト「あんた、いきなりどうしたのっ!?」

恭文「いや、ダイレンジャーのみ放題を見ていて……やっぱいいなー。
キリンレンジャーの真似、今でもできるよ?」(しゅるしゅるー)

フェイト「……でも冒頭、長渕剛さんなんだね」

恭文「衝撃的でしょ? 古き良き時代だよ。でも……やっぱカッコいいなー!」

フェイト「それに映像も奇麗……あれかな、動画データが向上したせい?」


(おしまい)





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あきゅろす。
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