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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory17 『GEARS OF DESTINY/触れてはならぬ物』


前回のあらすじ――馬鹿の世話で手いっぱいになっている間に、どん詰まりな状況へ陥りました。

あとはラスボス戦まで静かに待機という状況で、僕はクロノさんと合流。でもすぐに別れ、あの二人をそれぞれ止めに行く。

暗い廊下の中、ピンク髪を揺らしながら歩くソイツは、突然進行方向に現れた僕を見て忌々しげな顔をする。


「なによ、デートのお誘いなら後にしたいんだけど」

「邪魔しに来た」

「……そう、全部お見通しってわけ」

「お前、自分が重要警戒人物だってちゃんと自覚した方がいいよ。監視されてるに決まってるでしょうが」


ピンク髪――キリエは自嘲の笑みを浮かべながら、両手であの銃剣デバイスを取り出す。今はガンモードのまま、僕に銃口を向けた。


「ロッテさん達だって言ってたでしょうが、配慮するってさ。
危険がなければ、そのままお前へ譲渡する流れでもいい」

「悪いけど、そんなの信じられない。どいて、じゃないと……本気で撃つ」

「それは無理だ」

「駄目じゃなくて、無理……随分自信があるみたいねぇ」

「当然でしょ」


奴は舌打ちしながらトリガーを引き、廊下内で連続的な発砲音が響く。そうしながらも奴は最大加速。

自分で放った弾丸を抜き去り、一気に僕の背後を取りながら銃をソードモードへと変形。


≪Riese FormU≫


僕はセットアップしながらアルトを一気に抜き放ち、前方へ剣圧を送る。

それは空間を圧迫する見えない爆発となり、十数発の弾丸を一瞬で押しとどめ爆散させる。


「な……!」


そのまま振り返り、キリエが唐竹に打ち込んだ二刀を弾き、がら空きな胴体へ逆手に持った鞘をたたき込む。

でも奴は剣を弾かれながらも転がるように後ろへ飛び、そのまま僕から距離を取る。

数メートル下がった上でキリエは膝立ちになりながら再び銃を構え、僕と後ろでいまだ渦巻く爆風を見比べた。


「アンタ、ほんとに人間? 今の、魔法もなにも使ってないでしょ。
剣圧だけで弾丸を潰すって……しかも私の機動についてこられるなんて」

「本当にお前らみたいなタイプは、どうしてこう隙が大きいのか」

「なんですって」

「ちょっと強い身体してるからって調子のりすぎ」


右手でアルトをくるりと回転させると、奴はそれを警戒してか更に固く身構える。


「僕は人間だよ? まぁ……人間超えるくらいには鍛えてるつもりだけど」

「そう。でも、だからってギアーズが止められるとでも?」

「二人相手だろうと負けるつもりはないね。……てーかあれか、そんなにアースラ組が信用できないか」

「できないしないじゃなくて、する必要がないのよ」

「そう。じゃあ連中が作る機動六課の事も、特に関係ないんだ」


試しに吹っかけたところ、キリエが明らかに表情をしかめる。……ドンピシャか。

僕が疑問に思ったのは、キリエ達の知識量。まず闇の書の消滅タイミングは知らなかった。

でも僕の事は知っていて……なのでここは、計画に必要な事は細かいところまで知っていると見ていい。


ならそれ以外は? その知識量は最初にはやてが襲われた件を鑑みても、さほど多くない。

ここまでなら信頼どうこうの話には結びつかないけど、ここからが問題。

まずこの姉妹には、目的は正反対と言えど確かな共通点が存在している。


それは自分達の力だけで、今回の事を解決しようとしている事。比較的こちらよりだったアミタも、そこは変わらない。

僕達に迷惑をかけないためとか言ってたけど……そうじゃないんだよ。ぶっちゃけそれは建前、本心はそれと逆にある。

自分達が『フェイト達に』迷惑をかけられたくないから、かけると分かっているから、僕達と距離を取ろうとしていた。


そう考えると、ここまで頑固なのも頷ける。それも大まかだろうと、すぐ分かるような事だ。

しかもシステムU-Dを手に入れる場合、一番の障害となるもの。それは……JS事件。

確かにJS事件はもう少し後の一件だけど、世界を揺るがせた大事件だもの。


そしてその裏には一体なにがあったか……正直知っているかどうかは根拠がなかったから、半分は賭け。

単純にただ強情な奴って可能性もあったんだよ。でもそうじゃなかった。

キリエは諦めた様子でため息を吐くけど、警戒の姿勢だけは崩さない。


「えぇ、そうよ。信じられるわけがないじゃない。彼女達は結局、自分達の力で真実には至れなかった。
わたしから見れば彼女達は、組織の都合に合わせて動いていただけ。それなのに世界を救った顔して笑っている馬鹿どもよ」

「なるほど、そりゃ納得だ。ねぇ、それならあむ達の事も」

「悪いけど知らないわ。私の目的はあくまでもシステムU-Dで、歴史探訪じゃないもの。
この場合やっぱり管理局がネックだなーって思って少し調べたら……ほんと、とんでもない組織ね」

「そう」


やっぱり予想通りだったか。機動六課は嘘っぱちの英雄――キリエの言う通りだよ。

だって機動六課の力だけじゃ、最高評議会へは行き着かなかった。

下手をすれば、スカリエッティの始末をしただけで終わっていたかもしれないんだから。


まぁ僕は勝手しまくってたからアレとしても、最高評議会へメスを入れたのはサリさんだ。

マダマのアジト崩落を止めたのはヒロさんだし、もし二人がいなかったらどうなってた?

結局機動六課はゆりかごを止め、局にとって恥部であるマダマを始末――それでおしまいだ。


うん、始末だよ? だって軌道拘置所に閉じ込めて、余計な事をしないよう抹殺するんだから。

そうなったら後に残った人間は、局にとって都合のいい真実ばかりを残すはず。だからこそ、機動六課は偽物の英雄。

今泣いている人のためではなく、局のためにだけ動いた汚い掃除屋――それがキリエ達の印象なんでしょ。


それでそんな未来を形作るのは、現アースラメンバーだ。今その形は、少しずつだけど見えてきている。

だから僕はアルトを逆手に持ち替えながら、自分を親指で指す。


「なら僕を信じろ」

「……なんですって?」

「なんにしても流れは、おのれが当初描いていた通りになりつつある。未来から来たからよく分かるよ。
僕は今回の件が起こっていた事、全く知らなかった。もちろんレヴィ達が復活していた事もだ。つまり」

「システムU-Dがどうなるにしても私達やマテリアル達は、この世界にはいられない。そう言いたいのね」

「いちゃいけないとも言えるけどね。システムU-Dがいたら、確実に最高評議会が目をつける」


キリエの目が細まったので、これで念押し。やっぱりフローリアン姉妹は局――最高評議会を一番警戒している。

現に最高評議会は自分達のエゴを満たすために、ゆりかごというロストロギアを保有していた。

そんな奴らが現存している状態で、どうして局を信用できる? 無理に決まってるでしょ、そんなの。


後々の歴史を知っているなら、余計にそうなる。改めて思うけどフェイトとかは、無茶苦茶な事言ってるよねぇ。

でもここで光明が差し込む。それはみんなの存在を、僕やあむ達が知らない事。

もし評議会に利用されているなら、JS事件解決から4年経っている間に露見しているはず。


だって事件当時、すべてのデータはサリさんの手でクロノさん達に流されたんだから。

そこにも引っかかっていないのなら、みんなの未来は……二つに一つしかない。


「なら……これから繋がるべき未来は、私達の死か生存」

「それが本来繋がっている、歴史の線路じゃないかな。……僕はこの時間を守る。
例え繋がっているのが偽物の栄光だとしても、決して歪めたりしない」

「また殊勝な心がけね。あなたは偽物達の被害者なのに」

「それを変えるのは、僕が今暮らしている時間でだ。ここで変えるべき事じゃない」


キリエは僕を見定めるようにしながら数秒の間、沈黙を守る。

その間に爆炎の残滓はすっかり消え去り、場は痛いくらいの静寂によって支配される。

数秒の時がとても長く感じられる中、キリエは静かに息を吐いて銃口を上げる。


「局は信用できない」


そう言い切ったかと思うと銃を両手でくるりと一回転させ、両腰のホルダーへと素早く収納。


「でも……あなたは信用してもいいかも」

「どうしてそう思う」

「あなたは時の意味を、ちゃんと知っているもの。でも、本当にいいのね? 変えられるかもしれないのに」

「二度も言わせないでよ、恥ずかしい」

「……あなた、ちょっといい男ね。今のはわたしの胸に、ビビって響いちゃったわー」


キリエがクスリと笑いながら右手人差し指で、自分の右頬を擦る。僕は思わず後ずさり、アルトを構えてしまった。


「なによ、どうしてそんなに引くわけー? 一応言っておくけどわたし達ギアーズは、男性との生殖行為もできるんだから」


聞いてないっ! 誰もそんな事聞いてないっ! おのれ、なぜそんな爽やかな顔で言えちゃうのっ!?


「博士が無駄に凝り性でねー。そういうのOKなように作ってくれたの」

「僕は結婚してるんですけどっ! 双子の子持ちだしっ! あといきなりそんな話するなボケっ!」

「お兄様、やっぱりですか」

「最近男が上がってるな。あのやり取りだけで落とすとは……はむ」

「いや、からかわれてるだけじゃねっ!? コイツ、からかってきてるだけじゃねっ!?」


そうだ、ショウタロスの言う通りだっ! でも……過去のあれこれを考えると、やっぱり嫌な予感しかしないー!


「あら、浮気は男の甲斐性よ? というか、自分を信じろって言ったんだから、惚れられる可能性くらいは考慮しないと」

「なんでじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


からかわれてるだけなのでしっかりツッコみつつ、ついでにハリセンでしばいて馬鹿一名を確保。


「ちょ、ちょっと待って」

「なに、殴られたい?」

「違うわよ。……ありがと。あの子もだけど、あなたにも……心から感謝してる」

「別にいいよ」


次は……クロノさんか。こっちは半死半生って感じだけど、手負いの獣だからこそ恐ろしいとも言うしなぁ。

キリエも納得してくれたようだし、ここは早めに合流するか。状況が状況だし、決して油断せずだ。



魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory17 『GEARS OF DESTINY/触れてはならぬ物』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


妙な動きをしていた二人のうち一人は、ジャケット着用で壁にもたれかかりながら必死に歩いていた。

その姿を見ると痛々しくてもう……少し様子を見ようかとも思ったが、すっと彼女の前へ立ちはだかる。


「どこへ行くつもりだ、アミタ・フローリアン……いや、アミティエだったか」

「クロノ執務官……どいてください。もう、これ以上みなさんにご迷惑はかけられません。
システムU-Dは私が、命に代えても止めてみせます。それで、全部終わりです」

「君だけでは無理だ。……頼む、その気持ちがあるなら一緒に戦ってほしい。悔しいが、僕達だけでも無理なんだ」

「だからこそ……私が止めるんですっ! 妹の不始末は、この私がっ!
ギアーズの定めに従って、必ずこの時間を守りぬいてみせるっ!
すみませんが、あなたのお心遣いには甘えられませんっ! 私には守るべき使命が」

「酷いなぁ、お姉ちゃん」


すると彼女の後ろに人影が二つ――そのうち一つが、蒼い刃をアミタの首元に突きつける。

彼女の激高も動きもそれで停止し、恐る恐る後ろへ振り返る。……そっちはなんとかなったようだな。


「キリエ、あなた……! それに古き鉄もっ!」

「不始末なのは認めるけど、そのために死ねとはさすがに言わないわよ?
というか、わたし決めたから。古き鉄に協力してもらって」


キリエ・フローリアンのウィンクに蒼い刃の主――恭文が苦い顔をしながら、アルトアイゼンを引く。

それでアミタはようやく解放されるが、もう逃げようとはしない。いや、逃げ切れないと言った方が正解か。


「ここのみんなとアレを止めるから」

「えぇっ! で、でも」

「大丈夫よ、未来から来た彼は信用できる。局は無理だけどね」


軽くお手上げポーズでキリエがそう言うと、恭文がこっちに向かって右手を軽く挙げてきた。

いわゆる謝罪のポーズなんだが……なるほど、そういう事か。彼女達の無茶な行動は、僕達と局に原因があると。

それも恐らく今の話ではなく、僕達の未来に関するところ……僕達は今後、相当馬鹿な事をやるらしい。


恭文はその辺りの事を知っていて、だったらというわけか。……非常に複雑だ。しかしそれだと情報量がチグハグにならないか?

いや、そこは問題ないのかもしれない。システムU-Dや局関連の事だけに話を絞って……それで問題が明るみに出るのなら。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「どうやら未来の事情が絡んでいるようだな、僕はいない方がいいか?」


クロノさんは本当に察しがいい。事態を理解したらしく、困り気味でそう聞いてきた。


「大丈夫よ、どうせあなたはこの事を覚えられない。全部終わったら、わたし達があなた達の記憶を封印しちゃうから」

「そんな事できるのかっ!」

「技術的には可能よ。そうしないと、不都合ありまくりでしょ?」

「……確かにな」


なるほど、そこが原因か。突発的な事故じゃなく、ちゃんと事後にそういう処置を受けると。

でも馬鹿をやると確定しているクロノさんは複雑らしく、右手で軽く頭をかいた。


「では君達がここまで僕達との行動を拒んでいる理由は」

「局がね、とんでもない大うそつきだからよ。詳しく言うとあれだけど……そうね。
あなた達の組織は、ただの犯罪集団よ。それも普通の汚職なんて、ものともしないレベルでね。
しかもあなた達はこの先、その暗部に迎合する道を選ぶ。正義のあれこれより、組織の都合を選んだのよ」

「それは……事実なんだな」


キリエはその言葉に、硬い表情のまま頷いた。それに対してアミタは軽く目を伏せ、申し訳なさげにするだけ。

でもそれだけで十分だった。二人は自分達のこだわりや事情だけでなく、局への不信を募らせている。

そのどうしようもない疑いを察したクロノさんは、やっぱり困り顔で頭をかいた。


「だから君達は、僕達が信用できない……いや、違うか。それは一面にすぎない。
ようは僕達がなにを言っても、その暗部がシステムU-Dを放置するとは思えない」

「正解。だからアミタも」


そこでキリエは左手で、アミタの背中を軽めに叩く。ポンという感じの接触で、アミタは思いっきり顔をしかめた。


「あたっ! ……キ、キリエー!」

「こんな身体なのに、無茶してるのよ」

「分かった。教えてくれてありがとう、改めて情報は厳守する事を約束する。いや、それだけでは足りないな」


クロノさんは右手で口元を押さえ、少し唸ってから両手をパンと叩く。


「ではこうしよう。記憶封印の事は、みんなには内緒にしておく。その上ですべてが終わったら処置を行うんだ」

「不意打ちでやるって事かしら」

「そうだ。だが時間移動ができるメンバーは」

「問題ないわ。そもそも記憶処置、古き鉄には通用しないだろうし」


え、そこでどうして僕……まさかコイツら、特異点云々についても知ってるとか?

まさかとは思うけど、なんかにやりと笑いかけられると……ねぇ?


「時系列的な問題も大丈夫なんだな。それなら僕もそちらに合わせて動こう」

「りょーかーい。そういうわけでアミタ」

「で、でも……やっぱりそういう事とは関係なく、私達ギアーズだけで解決するべきだと思うんです。
……そう、私達が気合いと根性を熱く燃やせば、システムU-Dの一人や二人っ!」

「駄目」


まだゴネるアミタの言葉を、キリエがピシャリと止める。


「お姉ちゃんだって分かってるでしょ? わたし達二人がかりで負けたんだから。
……そんなこだわりに流されてたら、本当に時間が守れなくなる。
わたしが言う権利ないけど、もう無理なのよ。今は迷惑をかけてでも、力を借りるしかない」

「だからそれは……やっぱり根性ですっ! というわけで、お世話になりましたっ! 私、早速システムU-Dを」


とか言うので、アミタの側頭部を掴んで壁に押しつける。

それにより頭が壁に埋まったような気がしなくもないけど、それは大した事じゃない。


「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉっ! 人のお姉ちゃんになにしてくれてるのっ!」

「大丈夫、僕のお姉ちゃんじゃないから」

「理由になってないぞっ! お前、ホントなんでもありだなっ! 逃げられると困るが、これはないだろっ!」


そこから三人で改めてこの脳筋をボコり、しっかり説教。それでアミタはようやく納得してくれた。

それもこれも僕が心を込めて、『縛りあげて海に沈める』と言ったおかげ。

やっぱり誠意ある説得は、人の心を動かしていくんだね。僕、やっぱり成長してるかも。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


会議室で馬鹿フェイトとその使い魔、それに馬鹿姉と八神家以外の全員が集まり、またまた会議開始。

キリエ達の説得が完了したという報告も兼ねてなんだけど……みんなが僕の右隣を、微妙な顔で見ている。


「――というわけで、フローリアン姉妹もなんとか説得が完了した」

「まぁお姉ちゃんは本調子じゃないから、決戦直前で一気に投入という感じだけど、一応よろしくー♪」

「よ、よろしくお願いします。それでその、えっと」

「横馬、お願いだから触れないで。絶対触れないで。触れたらぶっ飛ばす」

「なんて理不尽なっ!」

「あ、わたしの事はお気になさらず〜♪ 別に変な事はなくて……ただ」


キリエは妙に色っぽい目をしながら、僕へクスリと笑いかけてくる。あ、やばい……なんかまた寒気が。


「彼に『僕を信じろっ! 僕の妾になれっ!』って言われただけだもの。
もう衝撃的よー。まさかあんな直線的に、愛人として誘われるとは」

「後半嘘でしょうがっ! なんで息するようにとんでもない事が言えるのっ!」

「恭文、アンタまた……これは報告しないと」

「ヴィヴィオもさすがに見過ごせないなー。まず先輩なヴィヴィオに挨拶を」

「やめてー! 嘘なの、そんな事言ってないのっ! コイツ、ただからかってきてるだけなのー!」


くそー! コイツら僕をなんだと思ってるっ! なにもしてないからねっ!? 僕は本気でなにもしてないからっ!


「まぁわたしは古き鉄と一緒に行動していくので、あしからず。もちろんここはうちの馬鹿姉もね?
……アミタ、まだ自分だけで止められたらとか痛い妄想をこじらせてるから」

「キリエ、それあたしが思うに……アンタが言う権利ないよ。だってアンタも」

「そうね。でもわたしはもう無理だって割り切りつけたから。
それでクロノ提督、これからわたし達はどう動けば」

「それなんだが……実は君達を止めたあと、シュテルから報告を受けてな」


そこでクロノさんの隣で立っていたシュテルとレヴィが頷き、一歩前へ出た。


「朗報です。王の修復が間もなく完了いたします」

「ホントにっ!? じゃああたし達、システムU-Dを止められるんだっ!」

「えぇ、これで攻勢の準備は整いました。……ただし問題点が二つ」

「王様の説得、まだなのかな」

「うん、でもそれだけじゃないんだ。まずみんなも知っての通り、闇の欠片達は現在も展開中」


シュテルがさっと右手を開くと、海鳴近辺の地図が展開。会場上空に黒い光点が点滅し、そこが目的地だと知らせる。

アースラの現在地からすると……北東の方角に、50キロ前後か。


「もう奴らはボク達とかみんなとか関係なく襲ってくるだろうし、下手をすると復旧直後に破損する」

「あ、そっか。もしまたなぞキャラなりとか出てきたら」

「王一人では間違いなく対抗できません。王も話を聞かない人ですし。
そこでまず我々で、王の安全保護を行います。ヤスフミ」

「僕達が行くんだね」


まぁそれしかないなぁ。シュテルはやや申し訳無さげに、頷きを返してくれる。


「危険が伴いますが、あなた達にはナノハの言う再生怪人軍団補正があります」

「え、そこ基準っ!? なのは、さすがに冗談だったのにっ!」

「そうでしょうか、私は実に合理的な理論だと考えています。ようは相手に対しての知識があるわけですから」

「……あ、そっか。補正ってメタだけど、そう言われると納得かも。
ようはあたし達は相手を知ってるから、やりやすいって話だよね」

「そうです」


補正どうこうって話をするとメタだけど、知識からの対応力向上と考えればどうだろう。

ようは相手の手が見えた状態で戦うわけだから、その場の対応に困る事も少なくなる。

そう、実のところ補正というのは、こういうところからきている。


もちろんレヴィ達みたいに新能力が追加されている場合もあるので、油断はできないんだけど。

それでも欠片達の基本攻撃は、僕達の記憶を元にしているから大体が同じ。補正は十分効果を発揮している。


「もちろん私達も出て、王を直接的に説得いたします。
場合によっては、交戦して止める事も考えなくては」

「た、大変ですっ!」


そこで部屋の入り口から、リインが慌てた様子で飛び込んできた。……でもおかしい。

飛び込んできたのは、あくまでも『リインだけ』なんだよ。


「リイン、どうした。というか遅いぞ、緊急集合だと」

「こっちも緊急事態なのですっ! はやてちゃん達がいなくなってるですっ!」

「……まさかあの馬鹿どもっ!」


クロノさんが慌てて立ち上がるのに合わせて、僕も続く。それを見て、あむもはっとしながら立ち上がった。


「恭文、すまないがあむ達とすぐ出てくれっ! 僕達は脇を押さえるっ!」

「分かりました。でも、大丈夫なんですか?」

「なんとかするっ!」


その言葉を信じて、僕はみんなを連れて会議室を出る。てーかそれしかできない。

……毎度毎度の事ながら、やっぱり僕の戦いは辛いものだ。しかしあの馬鹿ども、どうして……とは言うまでもないか。


「恭文、はやてさん達勝手に飛び出したって事だよねー! でもどうしてー!」

「理由なら思いつく。……はやてね、一度謀殺されかけた事があるんだ。それも2002年の春に」

「謀殺っ!? でもどうしてっ!」

≪闇の書ですよ≫


急ぐ僕の代わりに、戸惑うランとミキへそう答えたのは……アルトだった。

当然のように呆れているというか、疲れた様子の声だった。


≪闇の書ははやてさんが主となる前、相当派手に暴れてましてねぇ。その被害者、局の中にも多数いるんです。
特に高官なんてそうですよ。闇の書で苦い思いをさせられた人が、そのまま出世していましたから≫

「じゃあ、そういう人達がぁ……ひどいですぅっ! はやてさんはなにもしてなかったんですよねぇっ!」

「ところがどっこい、そうでもない。まぁそこは行きながら説明するよ」


のんびり説明も違うしねぇ。とにかくあれだ、はやてが完全に悪じゃないかと言われると……それもまた違う。

残酷なようだけど、はやては確かに闇の書の主と同じ事をしてしまった。だからこそ、焦っているんだと思う。

そういう評価を覆すために、もう同じ事を起こさないために――それが嘘っぱちの栄光へ繋がるとも知らずに。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


集合がかけられた直後、うちのみんなが妙な感覚を覚えた。力が高まるというか、集まるというか……そういうものや。

結構あやふややったけど、今までの状況を鑑みた結果、うちらは街を飛び出していた。

ちなみにシグナムは……未だにレヴァンティンが見つからないんで、もう動けない。マジヘコみしとるから。


みんなの感覚に従い海鳴の沖合100キロの地点――黒い歪みが、そこには生まれていた。

今にも膨れ上がりそうなそれは、ややオレンジがかった空の中で気持ち悪く蠢いていた。


「――ここか」

「はい。マテリアルの反応、確かに。ですが主、よろしいのですか」

「えぇよ。……マテリアル達は危険な存在や、なにがなんでも今のうちに潰しておかんと。みんなかて分かってるやろ」

「あぁ」


ヴィータは気合いを入れつつ、アイゼンを両手で握り締める。若干フラストレーション溜まっているのはしゃあない。

フォン・レイメイに一蹴されて、ようやく復活やからなぁ。いや、復旧作業が早く済んでよかったわ。

でも……うちもヴィータ達もよう感じとる。その復旧は、以前なら瞬きしとる間にできた事や。


リインフォースがいなくなった影響で、みんなの守護騎士としてのプログラムは徐々に崩壊しとる。

そのせいで守護騎士時代にできた事が、今はできなくなりつつある。復旧もそのうちの一つっちゅうわけや。

それも含めて、うちらにとってこの数時間は……地獄と言う他なかった。


魔法の効果が薄かったり、接触致死な遠距離攻撃とかかます奴らとバトル――それも連戦。

募るのはただの焦り。未来組に頼らんと、欠片一つ倒すのも命がけなうちら自身への怒り。

これは、駄目なんや。この事件はうちらの力で解決せんと……みんなの立場だってどうなるか。


このままやと、また今年の春みたいに謀殺騒ぎが起きてまう。そうなってもおかしくないんよ。

そんなの絶対にアカン。ここまで頑張ってきたのが、あんな奴らのせいでなしになる?

それだけは絶対に避ける。そやからこそうちらは……もう、これしかない。これ以上、あの子の意思を侮辱させん。


夢はもう終わったんや。ここにいる全員、気持ちは同じや。

最悪でもあの子をボコって、制御方法を吐き出させる。それが無理なら……厨二病には消えてもらう。

そやからこそみんなには付き合ってもらった。正直勝てる自信ないけど、やるしかない。


クロノ君達は怒ってるやろうか。でも許してほしいわ、だってこれが正しい事なんやから。

そうや、あの子には消えてもらわなアカン。闇はあの時、全部終わったんや。今目覚められても、困るんよ。

うちを侮蔑するならしたければえぇ。でもな、やっぱり……これしかないんよ。


あの子にもシステムU-Dにも、もう消えてもらう。それしか、ないんや。

何度もそう言い聞かせている間に、歪みが一気に広がる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


時間がないので、それっぽい反応の場所へ連続転送中――こういう時、恭文がいるとほんと助かる。

連続なのは、一気に移動するといろいろ危ないから。ようは恭文の直感で、欠片の発生を避けつつ移動してるの。

連続でこんな事して大丈夫かなと思うけど、デンライナーもいるし……だったらって事みたい。


何度目かの転送が終わって、一息つく。恭文は険しい表情のまま周囲を見渡し、警戒中。

それで次の行き先を定めている間、レヴィに一つ質問してみる事にした。


「ねぇレヴィ、一つ確認なんだけど」

「なに、あんみつ」

「あむだからっ! ていうか、さっきまで普通に呼んでたじゃんっ!」

「分かってる、本当に主達でシステムU-Dを制御できないのか……でしょ?」


そうそう、そこなの。はやてさん達はそういうの、できるって踏んだ上で先行したみたいだし。

あたしもね、よく考えたら……なんでできないのかって分からないの。

だって闇の書の管理権限だっけ? それを全部持っているのが、はやてさん達のはずなのに。


確かにあの子は『誰もが制御しようとして、誰もできなかった』って言ってた。

それでその、存在そのものを消し去った。だからね、みんなが知らなかった理由は納得できる。

でも……制御できない本当の理由っていうのが、今ひとつなんだ。


あたしも魔法使えるようになってるから分かるけど、なんかちゃんとした理由があるのかなって思うの。

もしかしたらはやてさん達を止めるのに必要かもだから、このタイミングで聞いてる。


「確かに闇の書の主は、その権限によって闇の書の改変すらも思い通りだ。
そういう性質のせいでボク達や守護騎士は生まれたし、暴走にも繋がった。
……でもそうして作り上げた物の中に、絶対に触れてはいけないものが生まれてしまった」

「それがあの子――システムU-Dなのね。でも主としての権限があるなら、なんとかなると思うのだけど」

「うん、だからこう言えば分かるかな。ボク達を作った当時の主と王様――その二人だけが自由にできる」


なるほど、それなら納得できるかも。まずそういう制限をつけたのは、他の人が強い力を使えないようにするため。

多分改ざんするって辺りから、なにもできないようにしてたんじゃないかな。

でもそれ、おかしくないかな。嫌な感じではあるけど、ようは他の人が使って危ない事にならないよう……でしょ?


そう考えると納得できなくは……いや、違う。そうだ、大事な事を忘れてた。


「……そういうシステムを作った人、自分が死ぬ事とか考えてなかったのかな」

「正解。闇の書の主と言えど、不老不死になれるわけじゃないからね。
結果制御者は、ボク達の王様一人だけになってしまった」

「それ、すっごい間抜けじゃんっ! あとはその……前にあの子が言ってた通り?」

「うん」


納得した。それなら……いや、困ってるけど。今あたし達、そのせいでかなり困ってるけど。


「それでシュテルがデータベースから見つけてくれたんだけど……システムU-Dにはもうひとつ意味がある」

「もう一つ? 砕かれぬなんちゃら以外って事だよね」

「うん。システムU-Dの『U』は――アンタッチャブルって意味もあるんだって」


アンタッチャブル――これでも中学生なので、一気にそのワードを思い出す。

うん、これ授業で習った。あとはその、映画でもそういうタイトルのがあったじゃん。


「つまりアンタッチャブル・ダーグ――触れられぬ闇」

「シュテルは『触れてはいけない闇』とも言ってたけど」

「……まさしくその通りだったわね。わたしが言う権利ないけど」


まぁアンタが来たせいでこれみたいだしなぁ。とにかく話は分かった、やっぱり無理なんだ。

でも……それで納得、してくれるかなぁ。恭文からも細かい事情は聞いたけど、どうも一蹴されそうな気が。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


歪みの侵食は1メートル前後の大きさで停止し、そこから再集束。それは一瞬で姿を取った。


「ふっかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつっ!」


あのムカつくつり目をシュベルトクロイツで指し。


「攻撃開始やっ!」


号令をかける。それと同時に詠唱開始――ヴィータとザフィーラが前に出て、シャマルがうちの横につく。

それに気づいた奴が、斜め上にいるうちらを見上げて舌打ちする。


「えぇい、子鴉かっ! いきなり奇襲とは……やはり貴様らなど信用できんっ!」

「それはこっちの台詞やっ! システムU-Dの制御方法、教えてもらうでっ!」

「馬鹿を抜かせっ! アレは我にしか御しきれんっ!」

「嘘ついてんじゃねぇっ!」


ヴィータが奴の懐へ踏み込み、グラーフアイゼンを唐竹に打ち込む。それに対しあの子は左手をかざし、黒い障壁を展開。

アイゼンは火花を走らせながら障壁を押し込むけど、あの子は一向に下る気配がない。


「テメェができるなら、闇の書の主であるはやてでもできるだろっ!」

「無理なものは無理だっ! その権限を持っていた主は、既に亡くなっているっ!」

「悪いが今のお前は、信用できねぇんだよっ! もし本当なら、その物騒な考えを今すぐ変えろっ!
もう誰も戦争も殺りくも、望んでなんていないんだっ! それはお前一人の願望だっ!」

「ならばよいではないかっ! それこそが我らの生まれた意味――そして悲願っ!」

「……哀れやな」


感じていたいら立ちの正体に気づいてまう。でももう遅い。うちらはみんなのために、こうすると決めた。

あの子がヴィータ達と同じで、他の道を知らん事なんて……もう理由にならん。助けたいなんて、思うたらあかん。

うちらにはうちらの道がある。この感情は、それを踏みつぶす選択や。そんな事、絶対にできん。


念じるようにそう思いながら、吐き出した言葉はとてもシンプル。

でもそれはまるで杭のように、王様の心を抉ったらしい。こっちに殺気向けてきたもん。


「生まれた意味に縛られて、今ここにいる意味と目的を探そうともせん。アンタは王様とちゃうわ」

「なんだとっ! 子鴉の分際で偉そうな事をっ!」

「黙れ」


固い声で王様の侮蔑を一蹴し、杖を振り上げる。そこに宿るのは白い魔力光。既に詠唱は完了や。


「アンタこそ、うちのコピーなくせして……偉そうな顔するな。アンタ達もシステムU-Dも、消えなアカンのや」

「ごめんなさい、恨むというのなら恨んでくれて構わないわ」

「だがもう夢は終わった。いや、終わってなければならない。だからこそ、我らはお前達を消し去る」


こぼれ落ちる涙を必死に堪らえようと、力を入れる。でも駄目や……なんでよ。これが闇の書の一部やからか?

うちのコピーやないって知ってるからか? いや、考えるな。今のうちらには、守らなアカンもんがある。

組織での立場、みんなの風評、局員としての平和――そしてなにより、あの子の想い。


リインフォース、大丈夫や。アンタが消えた事を無駄になんてせん。あの時闇の書の夢は、全部終わった。

そやから全部消さなアカン。みんなも同じ気持ちや。アンタは……アンタは無駄死になんかやないんやっ!

なのにコイツらがいたら、アンタはなんのために死んだのかも分からんっ! だから消す……それが正しい道やっ!


そうや、そのためやったらうちは悪魔にでもなるっ! もう絶対に迷わんっ!

うちらの今と過去を壊すような奴、生かしておけんのやっ! ……うちはその決意を込め。


「アンタなんていらん。アンタなんて――アンタらなんてこの世界から」


シュベルトクロイツを振り下ろし、奴へ砲撃を放つ。ヴィータはすぐさま退避し、砲撃の効果範囲内から離脱。


「消えてしまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


放たれた砲撃は空を切り裂き、超高速で奴へ迫る。ヴィータの離脱タイミングもばっちりやし……これでまず一撃。

そう思うとると、奴は左手で魔導書を取り出し展開。白紙のページを砲撃へ向け。


「甘いわっ!」


そのまま書で砲撃を受け止めた。魔導書の中へと白い砲撃は吸い込まれ、あっという間に全てが消え去る。


「へ……!?」


驚きながらもまずいと思ったうちは、とっさに身を後ろに逸らす。すると次の瞬間、吸い込まれた砲撃が書からあふれ出す。

まるで跳ね返るかのような一撃はうちの眼前を通り過ぎ、あかね色の空へと突き抜けていく。

……相手の攻撃に対する反射っ!? アイツ、こんな事までできるんかいっ!


「シャマルっ!」

「はいっ!」


それならリンカーコアや。プログラム体であるみんなにも、一応リンカーコアは存在している。

砲撃反射でどや顔しとるところに、シャマルが右手を伸ばす。

シャマルのクラールヴィントが展開し、リングと宝石――その間を繋ぐワイヤーが円となる。


シャマルがそこに向かって右手を突っ込み、王様のリンカーコアをしっかり掴む。


「甘いわっ!」

でも王様はすっと身をずらし、シャマルの『手』を回避。リンカーコアはなにも掴まず、王様の右肩から飛び出した。

すかさず王様は左手でシャマルの手を掴み……アカンッ!


「シャマル、手を引いてっ!」


でも遅かった。王様の手に魔力が宿り、そのまま爆発――シャマルの手を魔力と、その熱によって焼き払う。

シャマルは苦もんの表情を浮かべながら手を引き、軽くよろめいた。

その手はつい嗚咽が漏れるほど、ボロボロやった。あの白い肌が焼け焦げて……糸が切れるのを感じた。


終わったはずの事で家族が傷つけられる。その理不尽で怒りが震え、もう一度王様を睨みつける。


「ふん、この程度かっ!」

「ならでかいの一発……! ザフィーラッ!」

「了解しました」


もう一度杖を振り上げた瞬間、背中に衝撃が走る。それで杖が滑るように、うちの手から離れた。

なにが起こったのかと思うとる間に、うちの側頭部にまた別の衝撃。うちの意識は、そこで断たれた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文ははやてさんの背後へ転送し、鉄輝一閃でバリアジャケットごとはやてさんを斬る。

それから身をひねりつつ、右後ろ回しげり。はやてさんは側頭部を吹き飛ばされ、そのまま海へ落下していく。

一応手はずとしては、この場でアースラ側による転送が行われる事になってる。だから回収も問題ないらしい。


「主っ! 蒼凪……貴様っ!」


とか言っているザフィーラさんの前へ回り込み、右拳を握って……全力のフック。

ザフィーラさんはそれを両腕でガードし、そのまま滑るようにして吹き飛ぶ。……めちゃくちゃ硬いし。

その間に恭文は、シャマルさんへバインド。そこから転送で背後に回って、袈裟の一閃で斬り捨てた。


やっぱり容赦ないなぁ。魔法を使うようになって分かったけど、恭文の能力はその中だけで見ると確かに脅威。

だって普通の魔法じゃあできない事、一部でもできちゃうんだから。

ただあたしは……なぁ。あの能力より、ぶっちゃけなぞキャラなりとかの方が凄いと思う。


まぁ恭文は大丈夫か。他のみんなも、王様の方に回って確保してくれている。あたしは……ザフィーラさんとちょっと喧嘩だ。


「日奈森あむ、貴様まで」

「ふざけんなっ! みんなで力を合わせなきゃ、システムU-Dは止められないって何度も言ってるじゃんっ!」

「いいや、できる。奴らの力を借りたところで、新たな脅威が生まれるだけだ。
システムU-Dもろとも、マテリアルどもは消し去らねばならん。さぁ、分かったらそこをどけ」

「絶対にどかないっ! そんなの、アンタ達の頭の中だけで考えた答えだっ!
なにより……アンタ達だって元々は、あの子達と同じだったじゃんっ!」


その言葉で衝撃を受けたらしく、ザフィーラさんは目を大きく見開き、尻尾をピンと立てた。


「……聞いたのか」

「聞いたよ、恭文から全部……ザフィーラさん、どうしちゃったの? それ、絶対違うよ」


あたしの知ってるザフィーラさんと、今のザフィーラさんは全然違う。ザフィーラさん、思いっきり必死になってるの。

なにかが怖くて、怯えてるって言ってもいい。そういう雰囲気を感じて、目を細める。


「あたしの知ってるザフィーラさんは物静かだけど、めちゃくちゃ優しかった。
あたしが馬鹿やっても絶対見捨てないで、立ち上がれるまで支えてくれた。
拳を握る強さも、手を開く強さも――両方あるって教えてくれたの、ザフィーラさんじゃん」

「……未来の我の話か」

「そうだよ。ザフィーラさんはこう言ってた。拳を握る事が強さなら、手を開く事も強さ。
手を開いて、初めて守れるものもあるって。だから……あたしはこんなの、絶対認めない。
あたしはみんな、助けたいんだ。三人の事も、泣きながら仲間を傷つけていた……あの子の事も」

「そうだな、それが理想だ。夢物語ならば、お前が正しいのだろう。だが」


そう言葉を続け、ザフィーラさんは構えを取る。ザフィーラさんは手を開かず、拳を作ってしまった。


「世界は夢物語のように優しくなどない。我らは拳を握り、闇の書を今度こそ永遠に葬りさらねばならん。
日奈森、大人になれ。時として人は、なにかを切り捨てなくては前に進めない時がある。今がその時だ」


その言葉は、イースターとやり合ってた時にイクトが言っていた事。これと全く同じじゃないけど、似たような事を何度も言っていた。

大人になれ。たまごなんて助けても無意味。みんな夢なんて……あたしの中で、確かに糸が切れた。


「そんな大人になんて、あたしはなりたくないわ。
それが大人だって言うなら、あたしはザフィーラさん達みたいになりたくない」

「……なんだと」

「そんな言い訳して、見捨てる事が正しいなんて顔をする馬鹿になんざ……あたしは絶対にならないっ!」

「仕方あるまい。ならば……力ずくでどいてもらおうっ!」


そのままザフィーラさんは吠えて、あたしに向かって突撃。それを見て舌打ち。


「この、分からず屋がっ!」

≪Royal≫


ロイヤルのスイッチを入れて、まずはシールドを展開。それで打ち込まれた拳を防ぐ。


「なんだと。これが、お前の力か」

「違うっ! ……バーストッ!」


障壁を爆破させて、ザフィーラさんを吹き飛ばす。続けてジェットのスイッチを、クラウンスイッチに入れ替える。


≪Clown≫


そのままスイッチを入れ、左足にレッグパーツ装着。そこからピン型魔力弾を大量発射。

体勢の崩れたザフィーラさんはくるりと身を反転させ、一気に白い障壁を展開。

それで次々と襲ってくるあたしの弾丸を防いでくる。あたしとザフィーラさんの間で、爆炎が発生。


そんな中、あたしは……あれ、なんか落下してるっ!? あ、そっかっ! 片方だけじゃウィングロード維持できないんだっ!

でもそれで良かったのかもしれない。だってあたしがそれまでいた場所を、白いバインドが思いっきり締めつけたから。

そ、そう言えばザフィーラさん、この手の攻撃得意なんだけ。だったら……あたしは落下しながら深呼吸して、右手をかざす。


そうして金色の光を発生させ、大きな翼に変える。それを羽ばたかせて、一気に急上昇。


≪……ぴよぴよっ!≫


だがしかし、なにも起こらなかった……ですよねー。更に羽ばたかせてみるけど、やっぱり駄目だった。


「あむちゃんなにやってるのー!」

「さすがにそれじゃあ無理だって」

「うっかりさんは相変わらずですぅ」

「あむちゃん、キャラなりする?」

「いや、必要ないっ! ていうか、うっかり言うなしっ!」


ルティがひと鳴きすると、勝手にアルカイックスイッチ発動。その意味を察して、あたしは落下しながら上を見る。

するとザフィーラさんがこっちへ突撃しながら、拳を振りかぶっていた。


「落ちろ」


身を一気に翻し、襲ってきた右拳へ回しげり。そのまま足を振り切り、ザフィーラさんの腕を弾く。

……まずあたしじゃ、ザフィーラさんに勝つのは難しい。でも時間稼ぎならできる。

キリエ達も王様確保に走ってるし、あとは……時間との勝負っ! こっちが王様を確保すれば、この勝負は勝ちだっ!


その前に落下対策は必要だけどねっ! というわけで、スイッチをジェットとマッハへ戻して……と。


≪Jet≫

≪Mach≫


展開したローラーブーツで空を踏みしめ、急加速。そのままザフィーラさんから距離を取る。

とにかくあれだ、ザフィーラさんは格闘能力を除くと、攻撃関係は少々弱め。

防御とバインドなどによる補助……そこに気をつけつつ、攻撃を捌いていこう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


シャマルさんの馬鹿も両断したところ。


「シャマルっ!」


落下するシャマルさんはガン無視で、こっちに師匠がアイゼンを打ち込んでくる。

7時方向から襲いくる唐竹の一撃を、向き直りながら回避。続けてアイゼンの先で刺突が放たれる。

それをアルトの腹で受け止め、そのまま左へ流す。そうして峰で師匠の顔面へ右薙一閃。


師匠は慌ててそれを伏せて避け、僕達はそのまま交差。師匠は勢い任せに僕から距離を取り。


「バカ弟子……テメェっ!」


左手で四個の鉄球を取り出し、退避しながら投てき。それは一瞬で巨大な鉄球へ変化し、赤い魔力に包まれる。

師匠がアイゼンを左薙に振るうと、それらは螺旋を描くようにして射出。そこに向かって飛び込みながら、右薙・唐竹の連撃。

刃は空を斬りながら、不可視の斬撃波を放つ。いわゆる飛飯綱だね。こういう時には実に便利。


弾丸がそれによって霧散する中、転送魔法発動。その対象は……当然師匠。

逃げる師匠を転送によって捕捉し、一気にこちらへ引き寄せる。瞬間的な転送は、こういう真似もできる。

そこで右切上の斬撃を打ち込むと、師匠は慌ててアイゼンをかざし防御。そこですかさず、術式発動。


「ちっ!」


でも発動前に師匠は僕から離れ、アイゼンをラケーテンフォルムへ形状変換。ブースターを加速させ、駒のように回転する。

そのまま僕に迫ってくるので意識を集中し、術式発動――結構前に思いついた、禁呪の一つを発動する。


「うぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

≪Connect≫


目の前と師匠の後方に空間の歪みを展開し、それでアイゼンの一撃を受け止める。否……受け流す。

目の前の歪みにアイゼンが吸い込まれ、その先が後方の歪みに現れる。

それは師匠の腕の動きに合わせ、左薙に振るわれている。だからこそ……師匠の側頭部を打ち抜く。


「が……!?」


師匠はそのまま体勢を崩し、横に倒れる。そうしてアイゼンも手放し、白目を剥いてしまう。なので。


「鉄輝一閃」


胴体へ鉄輝一閃を打ち込み、バリアジャケットごと細い胴体を斬り裂く。師匠はそのまま吹き飛ばされ、海へ落下していく。

――コネクトはシャマルさんの旅の鏡をアレンジした魔法。いわゆる通り抜けフーブを展開するのよ。

一応出入り口の設定は自由で、離れた物を直接引き寄せたり、今みたいに攻撃を防御したりもできる。


ただ……ねぇ、旅の鏡を元にしている関係で、ちょっと魔力消費が大きいのよ。

それに引き寄せるだけなら転送魔法でもOKなわけで、結果禁呪というかネタ魔法に。

こんな形で師匠越えはしたくなかったんだけど……しょうがないかぁ。


僕は感じた殺気――4時半方向へ向き直り、逆袈裟一閃。それにより、襲ってきた黒い砲撃を斬り裂く。

それからアルトを逆手に持ち替え、発生した爆発を唐竹の斬撃で一気に振り払う。そうして斜め上を見上げ、目を細める。

そこにいたのは……やっぱり奴だったから。奴は僕を見下ろしながら、楽しげに笑った。


「やれやれ……探しましたよ、粗悪」

≪Connect≫


――術式発動。背後に歪みを発生させ、逆手に持ったアルトの切っ先をそこへ突き立てる。

その瞬間、奴の背中が蒼い刃に貫かれ、その笑顔を凍りつかせた。


「これ、は」

「とりあえず消えろ」


更に術式を発動し、奴を構築するプログラムに対し干渉――そして徹底破壊。

奴は身を逸らしながら、そのまま声をあげる事もなく粒子と化した。僕は歪みからアルトを引き抜き、順手に持ち替える。


≪……あっさりですねぇ。ていうか、プログラム介入をここでやりますか≫

「時間がないもの」


バッサリ斬り捨ててから、あむの方を見る。あっちは……大丈夫そうだね。


”あむ”

”大丈夫、やれるっ! アンタは王様のところへっ!”

”分かった。もうエイミィさんが転送準備進めてるから、場合によってはぱぱっと逃げちゃって”

”了解っ!”


というわけで、王様と逃げたみんなのところへ急いで移動。当然使うのは転送魔法。

ザフィーラさん、残念ながらあむは自分の弱点もちゃんと分かっている。

だから目の曇った、今の守護騎士なら……問題なく瞬殺できる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今の手ごたえは……蒼凪の鉄輝一閃か。以前回しげりで喰らった事があるから、よく分かる。

なるほど、あれが日奈森の魔法か。恐らくスイッチに対応したここの魔法を、状況に応じて使い分けている。

だとするとスイッチの分だけ、魔法があると見ていいが……だがそれが欠点でもある。


スイッチのスロットは見る限り四つのみ。そしてそこには、飛行魔法も含まれている。

しかも両足のスイッチ二つを使い発動するもの。よって両手のスイッチ以外には注意を払う必要がない。

ようするに……状況によっては、戦略の幅が非常に狭くなる。それがスイッチ式魔法(仮)の欠点。


資質は悪くないが、スイッチに頼っているうちは、負ける事などない。

我は逃げる日奈森を追いかけつつ、右手をかざす。

ベルカ式魔法陣からチェーンバインドを展開し、日奈森の背中を狙う。


日奈森はスラロームしつつ、迫るバインドをなんとか避けようとする。だが無駄だ。

バインドは次々と射出され、大きく左回りに動く日奈森を追い立てる。そこで日奈森は舌打ちし、バインドへ振り返る。

雨のように襲いかかる鎖に対し、右腕を振りかぶり右薙に振るう。


「ロワイヤルソードッ!」


すると右手から金色の光が展開し、それが巨大な斬撃波となる。

我のバインドはそれにをまともに喰らい、その全てが砕け散る。……このような事もできるのか。

やや驚きながらも日奈森へ飛び込む。すると日奈森は我へ向き直りながら加速し、展開した光を甲剣へ変える。


我が打ち込んだ拳に対し右薙の斬撃を放ち……無駄だ。そのような技など。


「バインドっ!」


日奈森はそのまま腕を振り切り、我の拳を金色の光で絡めとる。我は慌てて拳を引き、その場から上昇離脱。

同時に拳には魔力をまとわせ、一気に放出――その勢いで向こうの光を吹き飛ばす。

だが日奈森は腕を逆風に振るい、更に光を展開。いや、周囲へ放出した。


それが一気に収束し、我の身体を絡みとる網へ変化した。この強度は……くそ、油断したか。


「やっぱ……恭文頼みってのもあれだしね」


日奈森は軽く息を吐き、更に光を展開。我をがんじがらめにし、動きを完全に奪い去る。

駄目だ、解除できん。ただのバインドならなんとかなるが、これはどちらかというと……攻撃魔法の類だ。

応用力がある故に、バインド的な扱いもできるという事か。完全に油断していた。


「これでチェックだよ、ザフィーラさん」

「……これが貴様の戦い方か、日奈森」

「違う」


必死にもがいている間にも日奈森は力を強め、左拳を握って突き出してくる。


「みんなの戦い方だ。アンタ達みたいに切り捨てなんて嫌だから、必死に手を伸ばして……掴んできたみんなの力だ」

「言ったはずだ、世界は夢物語のように優しくない」

「そうだよ。だからあたし達で変えるんだ」


日奈森は我の言葉を一蹴し、ゆっくりと腕を下げる。だがその瞳は厳しく、我を追い詰めるかのような眼光に満たされていた。


「自分の事からしかできないけど、まずはそこから……優しくない事を、自分が汚くなる言い訳にしてんじゃないっ!
アンタ達はただ逃げてるだけだっ! 自分可愛さで臆病になって、本当にやらなくちゃいけない事から逃げてるだけじゃんっ!」


我はなにも言い返せなかった。いや、言い返したとしても、恐らく奴は……間違っていたのか、我は。

だが守らなくてはいけないものがある。奴らに手を伸ばせばそれは……いや、もうやめよう。我はこの非力な少女に、負けたのだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


蒼にぃ達だけで連中相手はやばい気がするけど、そこはなんとかなるだろうと後を任せた。

とにかく王様をどついたり首絞めたりしつつ引っ張り、安全区域まで退避完了。

あとはアースラ側からの転送ゲート発動で、一気にアースラへ戻る寸法だ。


「主、大丈夫ですか?」

「お前らふざけるなっ! それは殴ったり蹴ったりした人間に言う事じゃないだろっ!」


とか言ってるところで、ヴィヴィオがハイキック。王様の顔面に命中し、その言葉を止める。


「……って、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!? 一体なにやってんだっ!」

「いや、うるさいからー。それにほら、お話し合いはアースラに戻ってからだよ」

「ヴィヴィオさん、そういう問題ではないかと……生きてますか、王様」


アインハルトが軽く揺らすけど、王様は目を回すだけ。こうしてると……あ、やばい。寒気してきた、ちょい距離取らないと。


「というか豆腐にりんりん」

「トーマだからなっ!」

【わたしもリリィだからっ! レヴィ、なに自然に間違えるのっ!?】

「それよりもさ、なんでそんなに離れてるの?」


レヴィにそう言われて、俺達は言葉に詰まる。そう、現在俺達は、王様から3メートルほど離れている。

いや、だってなぁ。ほら、王様って八神司令に似てるし。駄目なんだ、近づきたくないんだ。

だから更に4メートルほど距離を取る。みんな、頼むからそんな微妙な顔をしないでくれ。


これはしょうがないんだ。これはその、駄目なんだ。弱い俺達を許してくれ。


「……アンタ達、ホントあのたぬき司令になにされたの?
似た顔でもその怯えようって、おかしいわよ。あれかな、殺されかけたとか」

「いや、その」


キリエの言葉に言いよどんでいると、身体に強烈な寒気が走る。これは……いや、王様の顔どうこうじゃない。

てーかこの寒気がするほどに馬鹿でかい魔力は……舌打ちしながら、俺達は揃って南南東の方角を見る。

そこで俺達全員の脇に、通信画面が展開。慌てた様子のエイミィさんが出てくる。


『みんな、どうしよ……そっちに膨大な魔力反応が近づいてるっ!』

「こっちでも感知しました。……遠くからでも分かる、禍々しい魔力。リミエッタ補佐官、転送は」

『ごめん、まだ準備中っ! あむちゃん達の回収やらなんやらもあって……しかもU-Dの影響で、座標が定まらないのー!』


とか言っている間に、赤い閃光が迫ってくる。それは砲撃どうこうではなく、血のような翼を広げる少女。

翼は宝石のようにカットされ、歪な形を放つ。だが……どうする、一体どうする。

まだカートリッジは持ってきてない。当然この場での撃破と制御も無理。……だからきたのか?


このタイミングで王様を倒されれば、確実に……俺はそこまで考えて、深呼吸。ディバイダーを持ったまま突撃していた。


「トーマっ!?」

「俺達で時間を稼ぐっ! エイミィさん、転送準備頼んだっ!」

『え、あの……ちょっとっ!』

「あ、ボク達も」

「来るなっ!」


王様もそうだが、レヴィ達もやられると面倒だ。どっちにしたって負け戦――なら、俺がやる。

U-Dがこっちに気づき、急停止。翼を羽ばたかせ、そこから赤いレーザーを数十発放つ。

回避行動……と思ったが、身体からゾクッとする力が出てくる。これは、まさか。


【トーマ、少しだけど……力が戻ってきてるっ!】

「なら、こうだっ!」


突撃しながらディバイダーの切っ先をかざし、障壁展開――俺達に迫る魔力弾を打ち消しながら、その弾幕を突破。

よし、ゼロエフェクトによる魔力結合解除もできる。これなら、まだなんとか。

そのままU-Dへ迫り、袈裟に一閃。U-Dは左の翼でそれを防ぎ、一気に振り払ってくる。


その勢いに逆らわずに下がってから、切っ先を向けて砲撃連射。

黒い奔流のラッシュでU-Dをメッタ撃ちにしつつ、停止して急上昇。

こっちの攻撃をかき消すように放たれた赤い砲撃を飛び越え、そのままシステムU-Dの頭上を取る。


右の翼が左薙に打ち込まれるのを、ディバイダーで弾きつつU-Dの背後へ回る。そこから右薙一閃。

でもU-Dは振り向きつつ、左の翼でこっちの攻撃を受け止める。そこで赤と刃がせめぎ合い、激しい火花を生み出す。


「なぜ抗うの? 私はその宿命に従って……あなた達も殺さないといけないのに」

「……ざけるなっ!」


強引に翼での一撃を払うと、右の翼が巨大な手となって迫る。それをディバイダーで防ぎ、軽く息を吐く。

なんだ、この衝撃は。ゼロエフェクトで魔力を消しているはずなのに、全然消えない。消える端から魔力をつぎ込んでるってか。


”リリィッ!”

”駄目……これ以上の展開は無理っ! まだ本調子じゃないっ!”


くそ、魔法そのものが封じられたら、なんとかなりそうなんだが……いや、喜ぶべきだ。

もう一度言うが、これはこの場で勝つための戦いじゃない。この先で勝つための戦いだ。

時間が稼げるだけの力があればいい。俺は手を振り払い、続けて突き出される左の翼――いや、拳に刃を打ち込む。


そうして巨大な拳での連撃を、なんとか弾きつつ徐々に押されていく。


「なにが……宿命だっ!」


左拳の下をかいくぐり、U-Dに肉薄。そのまま右薙にディバイダーを打ち込むが、ノーモーションで発生した障壁に防がれる。

その障壁が弾け、俺達はその勢いのままに吹き飛ばされる。そこで拳は翼に変わり、再び羽ばたく。

体勢を整え、振るわれる右拳をディバイダーで受け止める。なにもない虚空を踏みしめ、なんとかその衝撃に耐えた。


「結局それに流される道を選んでいるのは、お前自身じゃないかっ!」

【その宿命は変えられるのっ! あなたが手を伸ばせば、その願いを声に出せば……だからっ!】

「無駄」

【「無駄じゃないっ!」】


リリィと声を合わせ、拳を強引に振り払う。続けて左手をかざし、銀十字を取り出す。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「トーマ……あわわわわ、どうしようっ!」

「……駄目よっ!」


ヴィヴィオが思わず飛び出そうとすると、キリエが手を掴んで止めてくる。


「今わたし達が入っても、絶対に勝てないっ!」

「でも」

「その通りですよ、ヴィヴィオ」


こ、今度はシュテルッ!? なんかヴィヴィオの肩、がっしり掴んできたしっ!


「トーマは我々が生き残るのに、一番可能性の高い道を選んでくれたんです。
その覚悟、決して裏切ってはいけません。我々は王様を守った上で、五体満足で戻らなくてはいけない」

「……うぅ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


U-Dから距離を取りつつそのページをまき散らし、ディバイダーの切っ先をもう一度U-Dへ向ける。

するとページが黒く輝き、そこから弾幕発生。雨のように迫る黒に対し、U-Dは左の翼をひと薙ぎ。

それにより赤い輝きが生まれ、放たれる。その数は……こっちの放った弾幕の倍。


一瞬でこっちの攻撃は打ち消され、残りが迫ってくる。エフェクトによりそれを打ち消しつつ、もう一度奴へ接近。

それに合わせて打ち込まれた左拳を避けつつ、身を翻しながらU-Dの背後で急停止。一気に右薙の斬撃を放つ。

だが……くそ、本当にどうすりゃいいんだっ! またあっさり防がれたぞっ!


「あなた達だって同じなのに、どうしてそんな事を考えるの? あなた達の身体も、殺りくのために作られたもの」

「あぁ、そうだなっ! だがこの身体も力も、今は俺達のものだっ! だから」


一旦距離を取り、もう一度切っ先から砲撃発射。だが……ぶっちゃけていいか? もう打つ手がないっ!

だがなにも言わないでくれっ! 俺は元々一般人なんだぞっ! ただの旅人なんだぞっ!?

蒼にぃみたいな戦いの天才とかじゃないんだっ! 二千の技とか持ってたりしないんだっ!


それでU-Dは砲撃を自分の左手で受け止め、そのまま握りつぶした。おいおい……ホントにあんなの、どうすりゃいいんだよ。

どうあがいても絶望っぽいが、それでも俺達は奴に向かって吠える。

とりあえずあれだ、時間が稼げればいいんだ。だから吠えればいいんだ。


「俺達が使いたいように使うっ! それは可能だって教えてくれた奴らがいるっ!
そのために、俺達が人間だって伝えてくれる音楽があるっ!」

【だからそんな宿命なんて知らないっ! わたしはトーマと出会って、それに抗う勇気をもらったっ!】

「俺だって、蒼にぃやフッケバイン・バンガード――なによりリリィと出会えて、自分の道を見つけたっ!
だからお前、腹立つんだよっ! 完全に諦めてるならいいっ! でもお前は」


これは時間稼ぎのための叫び。でもそこに気持ちがこもってしまうのは、アイツの顔があるせいだ。

アイツは……アイツの頬は、ずっと濡れていたんだ。こちらを力で責め立てながら、ずっとだ。


「力を振るいながら、泣いてるじゃないかっ!」

「言いたい事は、終わった?」


うわ、抑揚もなく言い切りやがったしっ! なんか俺達が恥ずかしい奴みたいだから、そういう反応やめろよっ!

……とか思っていると、赤い縄が突然俺達の周囲に発生。それが思いっきり締めあげてきて、つい息が漏れる。


【トーマ……しまった、時間稼ぎを利用されたっ!】

「くそ……がぁっ!」


なんだ、これ……骨が、軋む。ただのバインドじゃない。

俺達を絞め殺そうと……そして両腕から激しい破砕音が響き、口から血が漏れた。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「宿命は、歯車にも似ている」


俺達を見下ろしながら奴は急上昇。50メートルほどの高さまで上がってから、右手をかざす。

そうして翼を広げ、その先――構築する魔力が解かれ、糸のように展開。

それが編み上げられ、巨大ななにかを作り上げる。あれは……やばい、魔力を思いっきり凝縮させてやがる。


「目覚めさせたのはあなた達。私はずっと眠っていたかったのに……だから、許して」


そうして構築されたのは、10メートルほどの巨大な両刃剣。禍々しい血の色は空すらも染め上げ、周囲に死の世界が広がる。

天をつくように現れたそれは、くるりと回転。その切っ先をこちらに向け、U-Dはまた涙を流す。


「歯車のように、宿命に従う私を……許して」


そして奴が腕を振り下ろすと、刃が落下――俺達に向かってくる。こりゃ……駄目、かな。

リリィ、アイシス、みんな、ごめん。……ちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!


≪――Connect≫


そう思っていた俺達の目の前に、蒼い歪みが大きく展開。それがこちらへ出てきた剣を、そのまま飲み込む。

そして同じ歪みがU-Dの背後に生まれ、そのまま奴は剣に貫かれた。


「が……!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


コネクトであの剣を飲み込むけど……結構キツい。剣自体の魔力圧力もあるから、維持だけでも力を食われる。

それでも必死に維持――これ、何度も使えないな。やっぱり失敗作かも。

でもそれがここで役に立つんだから、本当に人生ってのはどうなるか分からない。


トーマはバインドされてるから、転送でどうにかってのもちょっと難しかった。

なので一か八かで仕掛けた大技は、奴に大きな穴を開け……そのまま海へ落としていく。

さすがに自分の攻撃相手だから、無効化は無理か。でもあれで倒せるとも思えない。


奴が離れたのを確認してから、すぐにトーマへ接近。締め上げているバインドに触れて、ぱぱっと解除。


「蒼にぃ……!」

【あの、あむちゃんは】

「もうはやて達と回収されてる。僕達も逃げるよ。……ヴィヴィオ、みんなもっ!」


そして僕達がアースラ側の転送によって消え去った後、大爆発が起こる。それは血のように赤く、世界を染め上げる悪意の色。

なにはともあれ――一応ミッションコンプリート。相手に大打撃を与えられたはずだし、戦果は上々だと思う。


(第18話へ続く)










あとがき


恭文「というわけで、久々なVivid編。トーマが頑張って……時間を稼ぎました」

フェイト「またざっくりなっ! あ、それとドキたま/だっしゅ第3巻、ご購入してくださったみなさん、ありがとうございます」

恭文「ありがとうございます」


(ありがとうございます)


恭文「今回のお相手は、蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……えっと、新魔法が」

恭文「実は旅の鏡の応用だから、そこまで特別じゃないんだけどね」


(むしろ旅の鏡がチートという話ですね)


恭文「そうそう、まぁそんな事はどうでもいいんだけど」

フェイト「ちょっとっ!?」

恭文「なにも言わず、みんなにはこれを見てほしい。あ、アドレスから分かると思うけど、怪しいサイトなどではないので」


(『http://batspi.com/index.php?%E4%BC%9D%E8%AA%AC%E3%83%BB%E7%A9%B6%E6%A5%B5%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88』)


フェイト「えっと……あれ、これってバトスピの制限だよね。伝説や究極の」

恭文「そうそう。3月23日から施行される新制限……伝説なスピリット欄を見てほしい」

フェイト「こ、これは……!」

恭文「そう、セイリュービが伝説入りするそうです」


(つまり禁止ですね。さ、デッキから抜かないと)


恭文「……作者は安いの探したけど、三枚セット5000円近くしてたなぁ。
てーか桃園の誓いってどうするんだろう。セイリュービ載ってるんだけど」

フェイト「これはまた……OOO・Remixでやった通りになるとは」

恭文「ありがとう、セイリュービ。そして静かに眠れ」


(『ぎゃおーんっ!』)


恭文「さて、大事な報告もしたところで……本編に戻ろうか。そしてやっぱり出てきた、六課の話」

フェイト「う、うぅ……心苦しいです」

恭文「そして最高評議会があるからなぁ。その事知ってたら、そりゃあ信用できないよ」


(むしろ信用したら驚きだ)


恭文「そしてシステムU-D、その性質上……本気でどうしようもない感じに」

フェイト「実際ゲームでもあれだよね、最初はダメージ与えられないんだっけ」

恭文「そうそう。その辺りを再現した結果、本当にどうしようもない感じに」

フェイト「二回言ったっ!?」


(本当にどうしようもない感じに)


恭文「そして出てきたのに、一蹴されたフォン・レイメイ」

フェイト「ホント邪魔だから早々って感じだよね。最初は相当強かったはずなのに」

恭文「僕はあれより、ぶっちゃけファンシー・ドリームの方が怖い」

フェイト「あれフォン・レイメイ以上っ!?」


(ドキたまで接触致死って意味では、相当な相手ばっかり出てきたから。
本日のED:仮面ライダーGIRLS『Just the Beginning』)






恭文「というわけで、ドラゴン四スタイルのテーマソングである新曲、発売中です」

フェイト「あ、じゃ……beginningだねっ!」

恭文「……フェイト、本当に魔導師? ミッド語は英語と似てるのに」

フェイト「うぅ、だって……でもいい曲だよね。作者も最初な仮面ライダーGIRLS、少し首をかしげてたそうだけど」

恭文「フォーゼから右肩上がりだよねぇ。RIDER CHIPSもいいけど、GIRLSだからこその良さもあるし。
しかも今度出る、オールドラゴンのテーマソングらしい曲もいいんだよねー。というわけで、サウンドベルトに入れてっと」

千早「なら私のArcadiaも」

フェイト「千早ちゃんが押してきたっ!?」


(おしまい)







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あきゅろす。
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