小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 美希誕生日記念小説その6 『P、それは終わりと始まり/絶望の輝き 希望の輝き』 「お願いですから……そろそろ絶望して潰れてくださいよ。どうして私の贄になる事を、そこまで拒むんですか」 万策尽きたか? まさかツインマキシマムドライブでも駄目とは……タイミングもバッチリだったはずなのに。 やっぱ再生力が半端ないんだ。あれをなんとかできれば……! しかも音楽止まっちゃったしっ! 反撃されるフラグだよ、これっ! 「くそ……これでも駄目なのかよっ! 随分食べごたえのあるモーニングだなっ!」 「返品は利かないよ?」 「当然だっ!」 くそ、他になにか手は……まず人間状態でも、それなりの再生力はあるらしい。ドーパントになるとぶっちぎりだ。 翔太郎達、留守電聞いてないかなぁ。ここで撤退はないだろうし……美希の事を考えたら、絶対にここで止める。 「認めましょう。戦闘技能ではあなた達が上だ、確かに私では勝てない。だが」 奴はそう言って笑い、背中から炎の翼を広げる。その余波で周囲の地面が一気に焼けただれ、引きはがされていく。 余波が警官隊へと飛ぶものの、それもフェイトのフォークで奇麗に散らされる。ここはまぁ、安心だよ。 「私の炎は何人たりとも消せない。幾ら殴ろうと、倒せなければ……いずれ体力が尽きるでしょう。 さぁ、絶望してください。その時きっとあなたの命は、ひときわ美しく燃え上がる事でしょう。私はそれが見たい」 「それがお前のメインディッシュってわけか。……クソだな、てめぇ。どうする、やすっち」 「当然」 ダーグの声に答えながら、左手でサムズダウンを送る。 「こんな弱者に足を引っ張られるのもゴメンだし、諦めるわけないでしょ」 「私が弱者? どういう意味ですか」 「弱者だろ。お前は自分の存在確立を、人に依存している。だから弱者なんだよ、お前」 「……不愉快ですねぇ。私はこれほど強いというのに。現にあなた達は、手も足も出てないでしょう?」 「そういう台詞は、実力で僕達に勝ってから言え。チートに頼ってんじゃねぇよ、三流が」 そうだ、コイツ自身が認めた事だ。戦闘技能では僕達が絶対に勝つ。だから……まだやられる心配はない。 とにかくもうちょっと暴れて、打開策を……そう思っていると、僕の左側に黒い歪みが生まれる。 これは……まさかと思っている間に、その中から美希と貴音、タマモが出てきた。 「美希……タマモっ!? おいこら、なにやってるのっ!」 「すみません、説明は後ですっ! 美希、あなたのやりたい事……ぱぱっとやっちゃってくださいっ! フォローはしますからっ!」 「ほう、美しいですね。そこの偽善者を守るため、身を差し出しますか」 僕もそう思っていた。でも美希は僕達の考えを裏切るように、不死鳥へあっかんべーをする。 「なに勘違いしてるのかな、美希はそんな事しないよっ!」 「まさか、彼らが私を倒せるとでも? 冗談でしょ」 「できるよ」 そう言って美希は僕へ向き直り、そのまま飛び込んできた。 慌ててアルトを引いて、美希の身体を傷つけないようにしつつ受け止める。 「……美希?」 「美希、プロデューサーの事信じる。それでね、美希も約束。プロデューサーの言ってくれた事、嬉しかったんだ。 美希は竜宮小町じゃなくても、アイドルじゃなくても、美希はキラキラできるって……だから」 「……馬鹿」 美希がなにを気にしていたか分かって、左手でそっと頭を撫でてあげる。 それでも美希は僕から離れようとせず、力いっぱいに抱きつく。 「気にしなくていいのに。僕は死なないし、美希の事も……守りたかったんだから」 「気にするよ、しなきゃおかしいよ。……でも、もうやめるっ! 美希も戦うっ!」 美希は涙声を出しながら、更に力を強める。……その瞬間、胸の中で強い鼓動を感じた。 別に美希に抱きつかれて、嬉しいとかそういうのじゃない。もっと深くて、切なくなるような……でも温かい鼓動だ。 「美希は仮面ライダーでも忍者でもないけど……絶対諦めないっ! プロデューサーと同じ気持ちだからっ!」 美希の叫びが響いた瞬間、僕の視界は一瞬で暗くなる。 一体なにがと思い辺りを見ると、そこには美希も不死鳥も……誰もいなかった。 ただ闇と静寂だけが存在する世界で僕は、変身を解除した状態で佇んでいた。 美希誕生日記念小説その6 『P、それは終わりと始まり/絶望の輝き 希望の輝き』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 美希の叫びが響いた瞬間、僕の視界は一瞬で暗くなる。 一体なにがと思い辺りを見ると、そこには美希も不死鳥も……誰もいなかった。 ただ闇と静寂だけが存在する世界で僕は、変身を解除した状態で佇んでいた。 『そう、お前はこの時絶望した。なにもできない無力な自分に……鍛えても人を超えても、近しい人を守れなかった』 いきなり誰かの声が……これは、イビツ? 一体なにをと思っていると、その答えはすぐ示された。 だって闇は一瞬で砂だらけの世界へ変わったから。それで左の方に、膝をつく僕がいた。 僕の両わきには、今にも泣きそうになっている束とリンディさん。束は僕の腕に、携帯型の注射器を打ち込んでいた。 そんな僕達をじっと見ている人が、目の前にいる。それは赤い腕の悪魔――ううん、仮面ライダー2号。 それで変身を解除すると、そこにはベレー帽姿の男性が現れる。それは久々に見る、一文字さんの姿だった。 これは僕がお兄ちゃんの後を追って……違う。僕が、彼女達から逃げてきた時の記憶。 僕と束は社長や春香達に、幾つか嘘をついた。一つは赤い腕の悪魔――その正体。 この人は悪魔なんかじゃない。その昔ショッカーと戦っていた……仮面ライダーの一人だ。 今でもこの人は戦場カメラマンという立場を利用して、紛争地域で自分の戦いを続けていた。 赤い腕の悪魔の評判は、それによるもの。この人は自分の力で、人同士の戦いを止めようとしていたの。 一つは僕がこの時、雛見沢症候群を発症していた事。病気の事は知っていても、結局流された。 それでもう一つは……さっき言った通り。僕は彼女達から、逃げるためにここへ来たんだ。 お兄ちゃんの事だけじゃない。僕は自分が繋いだ絆に対し、強い疑いを持ってしまった。 『だからお前は全てをほうり出して逃げた。兄を探すためというのは、名目として使われた。 お前は怖くなったんだ。誰も守れないと悟るのが……自分のやってきた事を無意味だったと認めるのが。 彼女達が自分の父親や兄のように、いつか自分を利用するんじゃないかと信じられなくなった。 例え雛見沢症候群のせいだったとしても、それは変わらない。ここには確かな、絶望がある。少なくともお前はそれを罪と断じた』 「おのれは……なんでここにいる」 この声の主が誰かは、もう分かった。ソイツは僕の背後に立って、興味深そうにこちらをのぞき込んでいたから。 ちらりと後ろを見ると、奴――イビツは静かに笑いながら、僕の隣を取った。 「いや、それ以前にここはどこ?」 「言っただろ? 仕込んだってさ。それが構築する、瞬間的な回想ってやつだ。……この時のおまえは、あの子と同じだよ。 だから日下部チヒロや水瀬伊織にあれこれ言われても……だが水瀬伊織はもう、病気の事知ってるだろうに」 「魅音達がバラしてくれたしねぇ」 伊織の事とか聞いて、気を回してくれたんだよ。僕は言い訳するつもり、ないんだけどさ。 病気の事を知っていても、結局そういう風に流されたのは……僕の罪だと思うから。 「ほんと、僕はみんなにお世話されっぱなしだよ。守ってるつもりで、結局守られてる。この時だってそうだ」 目を細め、二人に抱かれながら泣いている僕の首筋を見る。その首筋には、くっきりとした引っかき後。 この時……ストレスが最大級に達して、末期症状寸前だった。あとちょっと遅れてたら、僕は死んでた。 それに気づいて、怖くなって泣いてるのよ。もうこれ、どうすりゃいいのよ。改めて見ると、一文字さん困ってるし。 「だが同時にこれは、再スタート――新しい始まりでもある」 「そうだよ。仮面ライダーみたいになれたらって、ずっと思ってた。それでこの時に、もう一度」 一文字さんが困りながら、泣いている僕の頭を撫でる。それで僕は顔を上げ……まず謝る。 そんな僕に対し一文字さんは首を振って、右手を差し出してくれた。その手を掴んで……右手を見て、感触を思い出す。 人ならざる者の手――でもそれは誰よりも温かく、力強かった。あの手には、確かな希望があった。 変わらないものがあったんだ。症候群に流されかけたけど、それでも変わらないものがあった。 一文字さん、病気の事とかも知ってたんだよ。それで、こう言ってくれた。……僕は流されてなんてないってさ。 本気で流されていたのなら、医療キャンプに僕が積んでいたのは死体だけになる。でもそうじゃない。 絶望しても譲れないものがきっと、僕の中にはあった。だから……もう一度それを信じてみればいい。 一人でそれが無理なら……あー、また泣いてるよ。もう恥ずかしくてしょうがないわ。 「一人だけなら無理でも、誰かと手を繋げば……リンディさんと束、一文字さんには一生頭上がらないわ。もちろん貴音も」 「病気の症状進行も、ギリギリのところで止めてもらったしな。 ……そうして進んだ結果、お前はなにを手にした」 「もちろん」 右手を一度強く握って、もう一度開いてみる。そこには……あの後手にした、メモリが存在していた。 そのメモリをイビツへ向き直りながら、しっかりと見せつけておく。 「希望だ。最初は怖かったけどね。でも今はこれも、希望だって言い切れる。 この日繋がった希望があるから、僕は絶望しないで前に進める。 それでもう、絶対に逃げない。僕は……みんなが大好きだから。みんなは、僕の希望なんだ」 「そうか。なら……そのメモリは大事にするといい」 そう言ってイビツは満足げに笑い、すっと後ずさる。それだけでその姿は闇に溶け、ゆっくりと消え始める。 『そのメモリも希望と信じられるなら、きっとお前に更なる力を与える。 孤独な不死鳥なんか、吹き飛ばせるくらいにな』 ”……っしょ、だから” その入れ替わりに、うっすらと美希の姿が現れた。半透明な美希はボロボロに泣いて、必死に声を絞り出していた。 『もう美希も、諦めないから。あんな事、絶対に言わないから。だから……お願い』 「うん、大丈夫だよ」 そんな美希を安心させるように、思いっきり抱きしめる。それで頭を撫でると、美希は安堵の息を吐いた。 「約束する、僕も……絶対に諦めない」 『……うん』 その瞬間、闇が光に染め上げられる。その光はまるで、プリズムのようなにじ色の煌めき。 僕は……いや、僕達は新しい力の目覚めを感じた。どうやら絆を繋ぐというのは、こういう事らしい。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 美希の叫びが響いた瞬間、やすっちのメモリが極光を放つ。 慌ててそれに対しフェニックスがハーケンを振り下ろし、遠距離から業火を投げつける。 だがその砲弾は極光に阻まれ、一瞬でかき消される。一体なにが……いや、ちょっと待て。 さっき感じたグリードっぽい気配……まさかやすっちに接触したっていうイビツが、なんかしやがったのかっ! 「なんですか、これは」 ≪Code Access――Prism Spirits!≫ その答えを示すかのように、極光が弾ける。するとウィザードのボディ各所に、フレッシュグリーンの縦ストライブが入る。 同時に腰の後ろにケープのようなものが生まれ、それが両足の後ろと側面を軽く覆う。 おい、待て。この力の高鳴り……まさかレベルアップかっ! だがなんでだっ! なんで同じ高鳴りを、美希から感じるんだっ! くそ、炎の匂いで軽く参ってんのかっ!? 「うぃざーどの姿が、変わった。これは」 「なにをしたかは知りませんが」 ち……その前に奴だ。俺はすぐさまやすっち達の前へ移動し、突撃してきたフェニックスに立ちふさがる。 奴はしつこくハーケンを燃やして振り下ろそうとするが。 「燃え尽きなさいっ!」 「Prism」 そこでにじ色に煌めく障壁が、俺の前に展開。ハーケンはそれによって受け止められる。 その瞬間、炎が揺らめきながら霧散。猛る炎の刃は、ただのツルハシもどきに逆戻り。 「な……!」 これは……まさかと思いながら、右足を上げて奴の腹をけり飛ばす。 その瞬間障壁も消えて、俺の蹴りは問題なく命中。奴は衝撃でそのまま転がった。 だがすぐに立ち上がり、再びハーケンに炎を宿す。そうして炎を凝固させ、二振りの大剣を作り出した。 「どういう、事ですか。私の炎が」 「一人ぼっちで、メモリの力と自分の欲にしか見えてないお前には分からないよ」 その声はやすっちのもの。やすっちは美希の腕をゆっくりと解き、そのままこっちへ近づいてくる。 どうやら形勢逆転らしい。なんでかは分からないがやすっちは今、プリズムの記憶を引き出してる。なら。 「やすっち、プリズムでマキシマムドライブだっ!」 「分かった。ダーグ、ちょっと下がってて」 「一人でやるつもりかよっ!」 「違う……僕達だ」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ この身体に溢れる力と、もう一つの意識――間違いない。僕、今美希と一つになってる。 それが不思議でたまらないけど、大丈夫だ。タマモと貴音は美希を連れて、すぐ下がってくれている。 それで美希も……うん、無理はしなくていい。これは僕のやりたい事だけど、美希のやりたい事じゃない。 そう念じた瞬間、美希の呆れた声が返ってきた。それでがんばろうと言ってくれた。 やりたい事は同じだから、一緒に……その言葉に感謝しつつ、僕は右手を軽くスナップさせる。 僕は一応、人を超えている自負がある。でも僕一人じゃどうにもならない事は、確かに存在している。 今だってそうだ。だから……美希、力を貸して。コイツはここで、僕達が止める。 「もちろんなのっ! プロデューサー、一緒にやるのっ!」 リアルで聴こえてきた声に苦笑しつつ、僕は左手を向け。 「仮面ライダーウィザード――プリズムスピリッツッ! It's」 ケープを揺らしながら一気に回転。そのまま指を二回鳴らす。 「ショータイムなのっ!」 ≪The song today is ”Just The Beginning”≫ 響く音楽は……やよいと一緒に買った、仮面ライダーGIRLSの新曲だ。……今にはぴったりすぎる。 僕はゆっくりと歩きながら、踏み込んでくる奴を迎え撃つ。 右刃での袈裟一閃を左に避け、返す刃は腕に左ミドルキックを打ち込み弾く。 すかさず二刀を振り上げ逆袈裟に打ち込んできたので、それを伏せて避けつつ……新魔法発動。 「Orga」 鬼の記憶を引き出した上で、奴の腹を射抜く。凄まじい衝撃に不死鳥は、ようやく苦しげな息を吐いた。 「ぐ……!」 奴が左刃で左薙に斬りつけてくるので、すかさず反時計回りに身を捻って右掌底。 奴の手首を打ち抜き、ハーケンから手を離してもらう。すかさずメモリを取り出しつつ、右刃での刺突を跳躍して回避。 そのまま身を縦に翻し、右回しげり――鬼の記憶によって上がった力を全て叩きつける。 後頭部を打ち抜かれた奴は、苦しげに息を吐きながら地面に倒れる。 そのまま後ろへ着地し、メモリをベルトのマキシマムスロットへ挿入。右の平手でパンと叩く。 ≪Wizard――Maximum Drive≫ 「コードアクセス――Prism」 すかさず立ち上がって、こちらへ振り返る奴に向かって……向き直りながら右回しげり。 「ビートスラップ」 蹴りはにじ色の閃光となり、奴の右肩から胸元にかけてを斬り裂く。 「プリズムエフェクトッ!」 その衝撃をまともに受け、不死鳥の身体は宙を舞う。そのまま近くのビルへと叩きつけられ、コンクリの中に身体が埋まった。 奴はなんとかそこからはい出て、嬉しげに笑う。どうやらまだ自分の状況が分かっていないらしい。 「く、くくく……まだ分かりませんか。不死鳥は死なない。いかなる傷からも」 「ならお前のそれはなに」 そう言って胸元を指差し、奴はその先を見て驚愕する。いや、正確には痛みだろうか。 だってさっきの蹴り……倒すまでには至ってないけど、しっかりと傷をつけているもの。 それで今までのように再生などはせず、奴に確かなダメージとして残っていた。 「馬鹿な……なぜだっ! なぜ再生しないっ!」 「Ninja」 いつの間にか鞘へ収めたままなアルトを抜き放ち、同時に左手をサッと伸ばす。 すると蒼い光が手の中で生まれ、それはおおぶりなダガーに変わった。それを躊躇いなく奴へ投てき。 数十メートルの空間を突き抜け、頭に命中したそれは爆発――奴に明確なダメージを刻み付ける。 「がぁ……! なんですか、これはっ!」 そう言って右手で炎を出してくるので、それを逆袈裟に切り捨て前進。 壁際に追い詰められている奴は致し方なしと言った様子で、僕へと踏み込んできた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「ご主人様、やっちゃえー! そんないけ好かない奴に負けるなー!」 タマモはすっげーテンションで応援してるが、それよりなにより……やすっちだ。一応事態は理解した。 イビツの奴がそのためのフラグをいろいろ用意してたのも、まぁまぁ理解した。 だがな……ありえねぇだろっ! ターミナルの副駅長としても、さすがにぶっ飛びすぎてて理解しがたいぞっ! 「ダーグ、あれは」 「Prism――水晶の記憶だ。ここは煌めきや輝きって言い方でもいいかもしれない。 この記憶は少し特殊でな、異なるメモリの力を一つにしたり、逆に力そのものを遮断する事ができる」 「では不死鳥の再生能力が……待ってください、水晶などどこにも。 それにおーが――鬼や忍者の記憶も、どこにも」 お姫ちんが驚くのも無理はない。てーか俺もさっきまで同じ疑問にぶち当たってた。 そう、やすっちはウィザードの制限ガン無視な戦い方してんだ。水晶も鬼も、忍者らしいものもない。 少なくとも『場』という条件を満たすようなものは一つも……ではそうでなければどうだ? そう考えた時、あの姿の意味もようやく理解できた。まだ半信半疑だがな。 「あるさ。それそのものじゃないが」 そう言って俺は、美希を指差す。美希本人は自覚があるらしいが、軽く首を傾げた。 次に俺は不死鳥と斬り合い中なやすっちを指す。それで二人は納得したらしく……だが同時に、まさかという顔をする。 「美希、なの? ねぇダーグ……これ、どうなってるのかな。美希、プロデューサーと戦ってるの。 ここにいるけど、プロデューサーと一つになってるの。美希、仮面ライダーじゃないのに……どうして」 「メモリは使用者との相性が存在し、レベルアップするもの。それは知ってるな」 「うん、インジャリーの時に聞いたの。……あ、もしかして」 「そうだ、あれはレベルアップだ。ウィザードはそのために、お前の記憶――魂を力とした。 もちろんやすっち自身の記憶も同じく。今のウィザードはメモリや土地だけでなく、人の記憶すらも引き出せる」 思い出してほしい。鬼も忍者も、全部やすっちに関連あるものだ。それで水晶は……この子の本質とでも言うべきか。 輝きたいと思う気持ち――その積み重ねからできた記憶を、ウィザードは引き出している。 だがそんなの、普通無理だぞ。個人の記憶なんて、地球のデータベースに比べたらちっぽけなものだ。 それをあんな風に力とするなんて……いや、片りんは確かに存在してた。ほれ、やすっちは音楽鳴らせるだろ。 俺は音というものが、あちらこちらに溢れているせいかと思ったんだが……もしそうじゃなかったとしたら? あれはウィザードメモリの力で、やすっちに刻まれた音撃――音の記憶を引き出していたとしたら。 イビツの奴はその力を更に解放する方向で、なんかしたという事になる。でもそれより気になるのは、美希の様子だ。 やすっちの感覚や心と、強くリンクしてやがる。あぁそうだ、確かに『僕達』だ。 あの姿はベクトルこそ違うが、噂のWと同じだ。二人を元にしての変身だからな。 「だからこそのすぴりっつ――今美希は、あなた様と魂を一つとしているのですね。 例え仮面らいだーになれなくとも、魂だけは共にある事で支え、希望で在り続ける」 「仮面ライダーじゃなくても……美希は、プロデューサーの希望になれてるんだね」 「あぁ。魂という、決して消えない輝きだ。諦めなければ、願い続ければ……絶対にな」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 振り下ろされるハーケンを右に避け、そのまま跳んで左後ろ回しげり。右側頭部をけり飛ばし、奴の体勢を崩す。 着地してすぐに突き出された刃を左へ払い、今度は逆袈裟・袈裟と斬りつける。 左手から放たれる炎の砲弾を伏せて避けつつ、次は腹へ右薙の斬撃。攻撃が当たるたびに不死鳥へ、消えない傷が刻まれる。 奴が振り返りながら打ち込んだ、ハーケンでの足払いは左足を上げて回避。 すかさず顔面をそのままけり飛ばし、地面へもう一度転がしておく。 なのに奴は諦め悪く立ち上がり、また身体から業火を放つ。 そうして炎を纏い、僕へ突撃。炎を翼に変え、周囲の物を薙ぎ払いながら飛翔する。 「……Sound」 左手を挙げ、軽く指を鳴らす。それにより音波を伴う衝撃波が発生。 奴はそれへ真正面から突っ込み、僕に対しハーケンを振りかぶる。でも進む毎に炎が音波によって散らされてしまう。 同時に突撃の勢いも殺され……僕は緩い速度で向かってくる奴に、右切上の斬撃を打ち込む。 それをまともに受け、奴は跳ね上げられながらまた宙を舞う。……これも僕の記憶。 鬼と忍者、そして音は全て僕に関連するものだ。もちろんプリズムも……大丈夫。 僕達は負けない。奴はみっともなく地面へ墜落し、震えながら僕を見上げた。 「なぜだ……なぜ、不死鳥が」 「さぁ、フィナーレだ」 たわ言には耳を貸さず、再びメモリをマキシマムスロットへ挿入。アルトを持ったまま、スロットをパンと叩く。 ≪Wizard――Maximum Drive≫ 「コードアクセス――Prism」 煌めきがアルトにまとわれる中、僕はそれを正面に構える。左手を峰に添え、ゆっくり深呼吸。 「まだです、まだ終わりません。私の、楽しみを」 奴はまた炎を身体から放ち、左側――警官隊の方へ放つ。でも僕は決して動かない。 そっちにはフェイトがいる。フェイトは巨大な業火を、フォークの一振りで消し去った。 その間に奴はこちらへ踏み込み、尖爪で僕の喉元を狙う。……お見通しだっつーのっ! 「ビートスラッシュ」 僕は一気に踏み込み、左手を柄に添えて。 「邪魔しないでもらえませんかっ!?」 ――壱(唐竹)・弐(袈裟)・参(左薙)・四(左切上)・伍(逆風)・陸(右切上)・漆(右薙)・捌(逆袈裟)・玖(刺突)っ! 「プリズムエフェクトッ!」 瞬間的に九つの斬撃を放つ。刃に生まれた極光の全てが刻まれ、奴はまた空中に跳ね上げられる。 僕はそのまま直進し、地面を滑りながら停止。そして……背後で大きな爆発音が響いた。 切っ先を下ろして振り返ると、爆炎の中から奴とメモリが飛び出る。 「邪魔じゃない。フィナーレっつったろうが」 奴は頭から地面へ落下し、うつ伏せのまま停止。メモリはそんな奴の前へ落ち、甲高い音を立てながら砕け散る。 「そんな、馬鹿な……私が、不死鳥が。これでは、楽しめない。私の、幸せ」 「知らねぇよ、お前の幸せなんざ。……今引導を渡してやる」 「私を、殺すというのですか。くく……彼女達の前で?」 「もちろん。有言実行が一応のモットーでねぇ」 その前に一旦変身を解除。さすがに美希と一緒にはやりたくない。……あー、いいからいいから。 ドライバーに手をかけた途端、奴が突然苦しみだす。何事かと身構えている間に、その身体から……んなあほな。 身体から発生したのは、フェニックスメモリの炎。奴はそれに焼かれながら、地面で身もだえている。 「なんですか、これは。消える……私が、ここから」 「それは違うよ、フォン・レイメイ」 そう言ってこっちに近づいてきたのは……ようやくやってきた探偵コンビだった。 それでフィリップは、やや気の毒そうな顔で奴を見下ろした。 「君という本体は、既に消失している。だから……もう消えている、そう言うのが正しい」 「なんです……って。ぐ……!」 奴が苦しみ胸を押さえると、炎の勢いがより強くなる。そうして奴の身体は、炎の中で塵と消える。 そのまま炎は静かに消え去り、後には灰もなにもなく……ただ奴が暴れた惨状だけが存在していた。 「……悪いな火野、遅れちまった」 「謝る必要はないよ。僕専属の探偵ってわけじゃないし。 来てくれた事だけでも有り難い。……でも、これは」 「火野恭文、君は不死鳥がどうやって生まれ変わるか……知っているかい」 「不死鳥は数百年に一度――寿命が近づくと自ら香木を積み重ね、火を付けた中へ飛び込むんだよね」 変身を解除しながらそう答えると、フィリップは満足そうに頷く。 ……翔太郎がバツの悪い顔をしたところを見るに、そっちは分からなかったんだね。 「その通りだ。そうして焼死し、灰となる。でもその灰の中から、再び幼鳥となって現れるんだ。さすがに君は翔太郎と違うね」 「ほっとけよっ!」 「え、ちょっと待って」 僕の言葉に首を傾げながら、美希達がこっちに近づいてくる。それで警官隊のみんなは……おー、派手に歓声あげてるねぇ。 まぁ今まで手を焼いてた奴が、見事に消え去ったんだもの。そりゃあ喜びたくもなるわ。 「プロデューサー、それおかしいの。不死鳥って死なない鳥じゃ」 「実は不死鳥の不死は、そういう意味じゃない。 例え死んだとしても、自分で生まれ変わる力を持っているからこそ。 ほら、バトスピの不死と同じだよ。あれも倒されても復活するでしょ」 「……あ、それなら分かるの。でもフィリップ、それがどうかしたの?」 「フェニックスメモリが内包している記憶は、不死の力なんて再現していない」 また妙な事を言い出したので、つい目を細めてしまう。 フィリップはそんな僕の視線を気にした様子もなく、壊れたメモリを見つめる。 「少なくとも星井美希……君がさっき言った意味での不死は、絶対にだ。それはメモリでできる領域を超えている」 「えっとその……死んでも生き返るとか、そういうのは駄目って事だよね。じゃあ」 「あの者は……どうして何度も何度も、復活していたのですか」 ……ちょっと待って。不死鳥は灰があるから、死んでも復活できる。ならアイツで言うところの灰はなに。 そこまで考えて、今まで出てきたワードが一気に繋がる。まさか、そういう事なの? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 後処理をゲンヤさん達に任せ、僕達は濃厚なモーニングをようやく終了。 事務所へ戻ってみんなに抱きつかれ、いろいろ大変な思いもしつつ……事のてん末を説明開始。 「――まず彼の肉体は、メモリ初使用時に消失する。文字通り燃やされるんだよ」 「……それが洗礼だね」 「あぁ。彼はメモリによる試練だと勘違いしていたようだが」 「な……それじゃあ死んじゃうじゃないかっ! それでどうやってしつこく復活してたんだっ!?」 「メモリにアイツの意識が取り込まれていたせいらしい。つまりだ、メモリがアイツの本体だったんだよ。 ここはラジコンとそのコントローラーを想像すればいい。だからマキシマムドライブが通用しない限り、奴は復活し続けた」 そう言って翔太郎は、軽くお手上げポーズを取った。あれ、なんかちょっと腹立つのはどうしてかな。 「さすがの火野も手こずるわけだ。なにせメモリ本体への攻撃手段が皆無だったんだしよ。 例え燃え尽きても灰――本体が無事なら、そのありえない再生能力で復活する。 人そのものではなく取り込んだ意識を、エネルギー体として再生してたわけだ」 「もしプリズムスピリッツ……だったね。ウィザードのフォームチェンジが成されなかった場合、押し負けていただろう。 なにせ再生能力だけは異常なメモリだ。そのためにミュージアムも生産どころか記憶に触れる事から禁じているらしい。 ……そんなメモリを大量生産して、使用者が問題を起こすとマズいしねぇ。作るものはあくまで」 「みゅーじあむの手に負えるものを中心に……財団えっくすなどと同じですね。 とにかくめもりが壊れた以上、不死鳥はもう復活しない」 「正解だ」 「では、あの者も一緒に」 フィリップは貴音の言葉に苦笑しつつ、なにも書かれていない本のページをさらっとめくる。 見ているのは本自体ではなく、自分の中にある記憶……まぁいつものパターンだね。 「それなんだが、一つ気になる項目を見つけた。メモリが破壊された時、内包されていた記憶はどうなるかというものだ。 そのまま消失するか、残留思念として周囲に漂うか――ミュージアムは後者だと考えていた。 実際風都の状態を観測したところ、それらしい数値が出たとか。 もしメモリがなくなっても意識が存在している場合、彼は死ぬよりも苦しい目に遭うだろう」 「苦しい目ー? えっと……真美達にももうちょい分かるような感じでお願いー」 「ようは再生を待ち続けながら、燃やされるんだよ。自分を取り込んだ記憶そのものにね。 既に自分を示す灰もなにもないから、永遠にだ。仮に新しいメモリが作られたとしても、彼は復活できない」 「ぶっちゃけ……搾りかすみたいなもんだからな。そんな記憶をわざわざ選んで、メモリを作ったりはしねぇよ」 その言葉で、全員が唖然とした。……美希達にも説明したけど、不死鳥は自ら命を落とす事で新しい命を授かる。 つまりよ、再生のたびに燃やされているのと同じなのよ。もちろん再生に必要なものは、全てなくなった。 だけどそんなのお構いなしで、記憶が再生のプロセスを踏んでいたとしたらどうなるのだろう。 答えは今フィリップが言った通りだ。奴は搾りかすみたいな記憶に燃やされ続け、消える事も許されない。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ なんですか、これは。なぜ私は、燃やされ続けるのですか。なぜ身体が再生しないのですか。 こんなはずはない。不死鳥は決して死なないメモリだ。こんなの、私は知らない。 どんな熱に苛まれようと、それを耐えた後には新しい力が漲る。このメモリは最強のメモリだ。 なぜです、それなのになぜ……私はまだ足りないんです。まだ壊し足りない。まだあの焔を見足りない。 こんなのは違う。燃やされるのは私ではなく、私に踏みつけられる虫けら達だ。力がある私には、その権利がある。 だから私は炎に願う。再生を――新しい命を、私に与えてくれと。だが炎はなにも答えない。 もがく事もできず私は、業火の中でただ熱に苛まれる。今私がいる世界には、誰も存在しない。 いや、感じ取る事ができない。視界も音も――痛覚以外の感覚全てが消えている。 そうだ、私に与えられた感覚は焼かれる苦しみと熱だけ。なぜだ、なぜこんな事になっている。 もう一度言う。私は……まだ壊し足りない。なのになぜ、炎は私を罰するかのように熱を放つんだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「じゃあ本望じゃないの?」 重くなった空気と奴へ下された罰を、僕は一刀両断にする。それでなぜか全員、僕へ驚きの視線を向けた。 「だって奴は望み通り、消える事がなくなったんだから」 「そうだね。ただ火野恭文、フェニックスの魔法は絶対使わないでくれ。 ウィザードメモリがレベルアップした以上、残留思念を引き出す可能性もある」 「分かってる。やばい感覚が最初からひしひししてたし、そこは厳守するよ」 「なら僕達からは以上だ」 フィリップ……ううん、翔太郎とダーグもこっちを見てくるので、まずはもう一度しっかりお礼。 「ありがと、あとでランチおごるよ。……それじゃあ美希」 僕は美希の背中をポンと叩き、『頑張って』とエールを送る。 それで美希は緊張気味に一歩前へ出て、みんなに思いっきり頭を下げた。 「あの……ごめんなさいなのっ! 美希、もうわけ分かんなくて、やる気なくなって……本当にごめんなのっ!」 「そこについては僕の責任もあるから、許してあげてくれない? 罰ゲームかましていいから。 僕がもっとはっきり『お前なんざ竜宮小町にいらないんだよ、糞虫が』って言えばよかったんだし」 「あー、なるほど。それは確かにプロデューサーさんが……って、駄目でしょそれっ!」 真向かいでみんなと一緒な春香は、すかさず右手を挙げ、僕に向かってビシっとツッコミを入れてくる。 もちろん距離的には届かないので、それはただの素振りと化す。 「余計に美希が傷つきますからっ! 余計にアイドル辞めたくなりますからっ!」 「じゃあ律子さんだよ。Mk-II作るの許してくれなかったから」 「あ、それは納得です」 春香はニコリと笑い、また閣下の目を律子さんへ向けた。軽く血涙流しているその様に、翔太郎が軽く引く。 「……私も海なのにっ! 私も天海春香なのにっ!」 「いや、私に責任転嫁されてもっ! あと春香、また閣下になってるからっ! その目はやめてっ!」 「律子さん、頑張ってください。元はと言えば律子さんが五人ユニットにしないから」 「そこまで遡って言われても困るわよっ! まとまりってあるんだからっ! こんな事予想外なんだからー!」 「あの……そういうの、もういいです」 そう言ったのは、やや呆れ気味な千早。千早はまっすぐに美希を見ていた。 だけど慌てた様子の春香に肩を掴まれ。強引に自分へと方向転換させられる。 「もういいっ!? 千早ちゃん、なに言ってるのっ! これは大事な話だよっ!」 「春香も落ち着いてっ! そこじゃないっ! 私が言いたいのはそこじゃないのっ!」 「なるほど、千早も律子さんに言ってやりたいと。 自分も月だから、潮の満ち引きに関係あるから竜宮小町いけると」 「そこでもありませんからー! よし、全員落ち着きましょうっ! まず私の話を聞いてっ! ……サボった事は怒ってる。でもそれについては、プロデューサーの不手際もあったみたいだし。 てゆうかはっきり言えばよかったのに。『竜宮小町の前に僕の彼女になれ』とか」 「なるほど、それは名案だね。火野恭文、駄目じゃないか」 「いやいや、駄目じゃねっ!? この子アイドルだぞっ!」 ほんとだよっ! 千早、それは最低だよっ! それは僕が言うのもアレだけど、最低なプロデューサーだからっ! 「とにかく千早としては、それよりも優先すべき事があるので気にしないと」 「えぇ。今はライブの準備を進めたいんです、絶対に成功させたいですから。もう……大丈夫なのよね」 そこで美希が全力で頷いたので、千早はようやく表情を緩めた。 「幸いな事に休みは三日だけだし、美希ならまだ取り返せるわ。でも美希、もうこんな事許さないから。 特に駄目なのがサボった事よりも、勝手な勘違いで勝手にやる気をなくした事。 それに……一人だけで考えて、勝手に諦めた事。そこを反省して、プロデューサーとみんなへちゃんと謝るように。 でも律子には謝らなくていいわ。そもそも律子が私と美希、春香を入れなかったのが問題なんですし」 「千早さんがサラッと自分を入れてますー!」 「あらあら、これはプロデューサーさん……本当にMk-IIを作らないといけないわねぇ。というか、姉妹ユニットかしらー」 「ふざけんじゃないわよっ! アンタ達、私が逐一ツッコむと思ったら勘違いだからねっ!? あとあずささん、Mk-IIだけはありませんからっ! Mk-IIだけはダサいですからっ!」 「もちろんなのっ! 千早さん、ありがとうなのー!」 そこで美希が千早へ飛び込んで、思いっきりハグ。みんなもそれに合わせて……これでようやく、一件落着かぁ。 でもあの現象は……いわゆる電波的なのですぐ理解はできたけど、一体どういう事だろう。 その辺りも少し試そうと思うけど、その前に美希の事だよ。僕は嬉しそうな美希に、優しく声をかけた。 「あ、そうだ美希」 「なんなの?」 「竜宮小町におめぇの席ねぇからっ!」 「それは嫌なのー! 分かってても聞きたくないのっ!」 「そう、だったら……おめぇの立ち位置ねぇからっ!」 「それももっと嫌なのー! ……そういう事言うなら、お返しなの」 美希は千早からすっと離れ、そのまま思い切り僕へ飛び込む。それで……唇のすぐ近くに、キスをしてきた。 まさかそう来るとは思ってなくて油断していた僕は、そのまま硬直。美希はそんな僕を見て、いたずらっぽく笑う。 でも他のみんなは……律子さんと翔太郎を筆頭に、口をあんぐりしながら目を丸くする。 「あは♪」 「ちょ……美希っ!? おのれなにしてるのっ!」 「助けてくれたお礼くらいしないと駄目なの。あ、でも」 美希はそのまま僕に抱きついて、なぜかすりすりしてくる。 それで美希の年不相応な胸が押し付けられ、やばい感触が身体中に伝わる。 こ、これはまさか……いや、待てっ! 僕は今回なにもしてないっ! フラグを立てるような事はしていないはずだっ! 確かに彼女にするとは言ったけど、それはまた違うしっ! 「美希的にはお礼だけじゃなくて、定期的にちゅーってしたいなー」 『はいっ!?』 「だって美希の事、彼女にしてくれるんだよね。だからえっと……ハニー♪」 『はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?』 春香達が声をあげると同時に、こちらへ悪魔の笑みを……や、やばい。ていうかあの、具体的に三人がやばい。 あずささんと貴音、それに律子さんが……待って律子さん、あなたの拳は死ぬから。それは死ぬからやめて。 「えっと……お嫁さん仲間増えちゃうのかな」 「くぅん」 「そうだね、嬉しいねー。美希ちゃん、改めてよろしくねー」 「よろしくなのー♪」 那美さんはほほ笑ましそうに挨拶し始めてるけど、タマモもやばい。 「ふ、ふふふ……私より先に、ほっぺに接吻? 私、まだ頭も撫でられてないし、ブラッシングだって……呪ってやるっ!」 「ブラッシングなら美希も一緒にやるよ?」 「ノーサンキューですっ! 私の尻尾はご主人様にしか……ご主人様ー! ちょっと話があるのでいいでしょうかー!」 だって笑顔で御札書き始めてるの。あの、それやめない? 僕に呪いとか通用しないの、知ってるよね。あと美希を呪ったら、さすがに説教するから。 でもまぁ、あれだよね。……誰も僕の事、助けようとか思ってくれないんだよねっ! おかしいなぁ、ホントっ! 「火野……やっぱお前」 「まぁこうなる事は検索するまでもなく、すぐ分かる事だからねぇ。そうそう、火野恭文」 「なにっ!? ねぇ、お願いだから助けてよっ! ランチでもディナーでもおごるから助けてよっ!」 「それは魅力的だが、その前に……彼女と話した方がいいと思うよ?」 「だなぁ。やすっち、骨は拾ってやるから頑張れ」 そう言って翔太郎とフィリップ、ダーグが右手で事務所の玄関を指さす。 そこにはフォークを持って、とってもいい笑顔のフェイトが……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 説教……されました。美希と先日なにをしたかとか吐かされて、説教されました。 フォークで軽く突かれ、ゲフって吐血しました。それでも菜緒さんとのデートは行きました。 お礼を言われて、ご飯を食べて……健全にまたお出かけしようと約束しました。 さすがにお礼のためにどうこうなんて僕には無理でした。ほら、そういうのって一種の負い目でもあるし。 とにかく今後も美希の事は、社員一同他のみんなと同じように支えていくと確約。 菜緒さん……やっぱり奇麗だったなぁ。次のデートが楽しみだよ、うん楽しみだ。 まぁそれはそれとしてその翌日、僕は登校日なので学校にやってきた。 それでまだしつこい真耶さんを納得させるため、職員室へ乗り込む。 ついでに弾にも来てもらって、フォン・レイメイが来るまでに仕上げた原稿用紙を突き出す。 「――僕の方で弁論大会の原稿は作ったので、今から練習すればなんとかなるでしょ。 弾ならバトスピ関係で英語詳しいですし、代役に立ててください。というわけで弾」 「あぁ、任せとけっ! ……あ、お前は共同制作者って事で名前出しとくからな」 「ペンネームはアオタロスでお願い」 「そんな……どうしてですかっ! もう原稿ができているなら、あとはスピーチの練習をするだけでいいのにっ!」 「だけでいい? ……アンタふざけてんのかっ!」 まだ馬鹿な事を言うこの人に対し、僕は自分を指差して反抗。……現在僕、包帯だらけです。 職員室にいる他の先生達も引き気味な格好が、なによりの証明。弁論大会なんて……出られるわけないしっ! 「今の僕がどんだけボロボロだとっ!? そんな余裕ないっつーのっ!」 「そう言えば仕事中に怪我をしたと言っていたな。労災はもらっておけよ?」 「もちろんですよっ!」 「だから、駄目ですっ! どうしてそんな事をしちゃうんですかっ! 火野くん、私達と一緒に頑張りましょうっ!? これをクリアすれば、火野くんの評価だって変わってくるんですっ! なのに」 「真耶さん、全く……いけない人ですねぇ」 律子さんからアドバイスをもらったので、僕は覚悟を決め……そっと真耶さんの両手を取る。 「ふぇっ!? ひ、火野くんっ!」 「そんなに寂しがらなくていいんですよ? 僕は真耶さんだけのものにはなれませんけど、真耶さんを大事にする気持ちはあります」 「な、なんの話をしてるんですかっ! 場を弁えてくださいっ! ここは職員室ですよっ!?」 「あれれー、おかしいなぁ。僕は真耶さんとの繋がりを大事にすると言っただけなのに」 いたずらっぽくそう言うと、真耶さんはぎょっとしながら後ずさろうとする。でも離さないー。 「ねぇ弾、恋愛関係の話を僕はしたー?」 「してないなぁ。織斑先生」 「全くしてないなぁ。山田先生、駄目だぞ」 「どうして私が悪いって事になるんですかっ!? だってその……ねぇっ!」 良い感じに真耶さんが狼狽し始めたので、クスリと笑ってそのまま引っ張っていく。 「真耶さん、ちょっと二人でお話をしましょう。まずはそこからです」 「いや、どこへ行くんですかっ!」 「というわけで先生方、ちょっと真耶さんお借りしますねー」 「好きにしろ。だがあまり派手にやるなよ?」 そう言ってくれる織斑先生に感謝しつつ、僕は真耶さんをずるずると引きずりながら職員室を出た。 「あの、ちょっと待ってくださいっ! 私なにされるんですかっ! あの、誰か助けてー!」 人をフォン・レイメイみたいに言わないでほしい。――律子さんのアドバイスは、至って簡単。 先生って事を気にしてアプローチし辛いみたいだから、僕から踏み込んで彼女にしろという……恐ろしいものだった。 まぁ彼女にするかどうかはともかく、迷ってるなら逆にそうした方がいいと背中を押してくれた。 そうだね、ここもかなり迷ってたよ。だって……それは先生の職を賭けろっていうのと同義語でもあるし。 だけどこのままもやっぱり嫌だ。だって僕、真耶さんの事もちゃんとしたくなったし。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 恭文の奴、平然と……残念だが抵抗は無意味だよなぁ。アイツ、ぶっちゃけ素の状態でも超人だしよ。 だが先生達がそれを看過したのはさすがに驚きで、軽く苦笑いしながら織斑先生を見た。 「先生方、止めなくていいんっすか?」 「問題ない。むしろ現状の方が問題だろう、山田先生は公私の区別もつかなくなってきてるからなぁ。 ……そこまで気に病む事はないと思うんだが。私自身経験はないが、教師だって人間だ。 生徒の一人と急接近して、場合によっては恋仲になる事だってそれはあるだろう」 「いや、山田先生にそこ要求は難しいんじゃ……ほら、あの人真面目ですから」 「だとは思う。だからな、火野の方から踏み込んでくれて正直助かったよ。それと教師陣は問題がない。なぜなら」 デスクに座ったままの織斑先生は、ちらりと職員室奥を見る。 そこには温和な表情で専用デスクに座っている、教頭先生がいた。 「教頭先生も山田先生と同じだからな。奥さんが元生徒だったそうだ」 「マジっすかっ!」 「ただまぁ、あまり触れ回るような事はするなよ? 火野がそういう解決法を選ぶかどうかも分からん」 「もちろんです。端に話して問題解決ってだけかもしれませんしね」 ――とか言って全員で笑っていたが、そんなのは勘違いだ。俺はこの時、確信していた。 アイツは先生を、間違いなく彼女にしてしまうと。それで現実は……予想通りに展開した。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 真耶さんの件は無事に解決――まぁあれだ、エロとかなしで誠心誠意話したら口説き落とせたわけだよ。 まぁその辺りの問題はとりあえず置いて、今日はいわゆる休養日。学校が終わった後に。 『かんぱーいっ!』 都内にある多国籍料理・クスクシエというお店で全員集まり、『まずはお疲れ様でした、これからも頑張りましょう』会が行われた。 美希のあれこれで忘れがちだけど、僕達……自分REST@RTを良い感じに仕上げて、一山越えてるのよ。 なのでその辺りのお祝いも兼ねてだね。こういうのもやらないと、みんなのテンションに関わるから。 特に……期末試験間近だから。こういうのに否定的な千早も、なぜか嬉しそうな顔で乾杯に加わる。 それに一安心しつつ、早速目の前の料理にかぶりつく。 もちろん那美さんと幼女形態な久遠……うん、久遠は人間形態になれるの。さっきみんなに見せたら、驚かれたなぁ。 あとは僕の隣にベッタリなタマモもいる。ほら、みんなには世話になったし、そのお礼も兼ねてね。 そうだ、料理の説明が抜けてたね。今回はイギリス料理――うちに通っているメイドの一人を思い出す。 ローストビーフは基本として、プディングやフィッシュアンドチップス。 マッシュポテトのパイ皮で包んだミートパイ――シェパーズパイに、ギネスビールで作ったギネスシチュー。 ラム、またはマトンにじゃがいもや玉ねぎを重ねて焼いた、ランカーシャー・ホットポット。 パイ生地で牛肉とじゃがいも、たまねぎなどを挟んだコーニッシュ・パスティ。……日本じゃあまり知られてないものもあるな。 でもどれもこれも良い感じで、僕もみんなもニコニコ。……いや、みんなはむしろ驚きか。 恐らくイギリス料理イコールまずいみたいな、そういう図式が頭にあったと思われる。 「兄ちゃん……真美、衝撃受けてるよ」 「え、イギリス料理ってまずいんじゃ」 「そう思う人も多いけど、実際食べてみるとまた違うでしょ」 「「うんうん」」 とか言いながら、僕もミートパイを一口……うん、いいお味だねー。日本人向けでありながら、本場の感じも出てる。 これでもイギリスには……ね? フィアッセさんやアイリーンさんがいるから、それはもうお世話になっているわけで。 「なんでも食べてみるものなのね。あの、私も亜美達と同じく衝撃を受けています」 「だよねー。私もね、千早ちゃんと同じ経験をした事が……久遠、美味しい?」 「うん、美味しい」 「……衝撃を受けているのは、久遠の変化もだけど。いや、今更なんだけど」 まぁ今更だよねー。でも千早、それで済ませられる千早は……結構一般人離れしてるよ? 僕のせいだけど。 あと千早がもう一つ気になっているのは……ダーグの食べっぷり。ダーグ、どこのギンガさんかってレベルでガツガツ食べてるのよ。 「いや、これ美味いわ。いや、マジで……イギリスぱねぇなぁ」 「……グリードって食事、するのね」 「あぁ。俺達新世代型はありがたい事に、味覚とかあるしな。てーか俺は消費が激しくてなぁ。 セルメダルだけじゃなくて、食事でもエネルギー補給しないとまずいんだよ」 「それって真美達みたいに、お腹グーグーだと力出ないって事ー?」 「正解だ。ちなみに俺、アカシア神っていう食の神様の信仰者。だから飯にはうるさいぞ?」 「……ダーグ、ちょっと待って。味覚とかあるしってなに?」 いきなりそこに触れるのが気になったので、僕もミートパイをかじりつつ聞いてみる。 するとダーグはいきなり真剣な顔をして、あれだけ忙しなく動かしていた箸を止めた。 「Jud――800年前に作られた先輩グリード達はな、五感に障害があるんだよ。物はよく見えないし、飯を食っても味をあまり感じない」 「えぇっ! どうしてですかぁっ!」 「ようは『満たされない』という状況を、慢性的に作ろうとしてるんだよ。それが欲望の核――コアメダルの力になる。 全く見えないし感じないんじゃ駄目なんだよ。中途半端だから、その先を望む」 ダーグは相変わらず自分から距離を取っている雪歩に、軽くお手上げポーズを返す。 「恐らく今暴れてる先輩達も、そのためにセルメダルや散失しているであろう他のコアメダルを探している。 九枚集めて完全体になれば、その先――自分の欲望をちゃんと満たせる身体になれると信じてな」 「なら……逆に集めてあげましょうよー。そうしたらみんな仲良しになれますー」 「やよいっちはいい子だなぁ。だがそれも無理だ、恐らくメダル全てが集まると……まぁこの話はまた今度だな。 今はやっぱ……飯だろ飯っ! なぁ、追加注文していいかっ!? ハギスとスコッチウイスキー!」 「……未成年者がいるんですけど。しかもまた癖の強いものを」 ハギスというのは、羊の腸に同じく羊の内臓系食材を詰め込んだもの。 香草などもたっぷり入っているため、実はかなり癖の強い食べ物になる。 茹でてばらして、ウィスキーなどと一緒に食べるのが通例なんだけど……みんなにはきついでしょ。 でもこの調子だと全部の料理がなくなりそうだし、追加注文は早めに済ませておこう。 「でも恭文君、本当によかったの?」 「律子、なんの話?」 「賞金の二億よ。恭文君、それを全部寄附しちゃったの」 『えぇっ!』 ちょ、やめてよっ! そういう話はっ! この人なにバラしてんのっ!? ほんと空気読めないしっ! 駄目だ……もう隠し切れない。正直恥ずかしいから話したくなかったのに。僕は軽く頭を撫で、大きくため息を吐く。 「……昔からお世話になっている人の実家がね、事件や事故で傷ついた人を支える基金を運営しているの。 フォン・レイメイは相当恨み買ってたし、せっかくだからそこに寄附したんだ。それでまぁ」 「美希や那美、ダーグも協力したからって、相談されたの。でも問題ないから、OKしちゃったの」 「で、でもよかったんですかっ!? 律子さんじゃなくても言いたくなりますよっ! 二億ですよ、二億っ! しかも昨日の今日で、即日ですよねっ!」 「まぁそれはねぇ、正直躊躇ったよ。はっきり言うけど僕、こういう賞金を受け取る事自体はためらいがないんだ」 「当然ですよ、ご主人様。賞金というのは、危険を冒して平和維持に協力した報酬なんですから」 タマモがミートパイをもぐもぐしながら言うように、正当な評価だもの。受け取らない理由はない。 殺した云々でそうしないなんて感傷を持ち合わせるほど、僕は緩くもない。ただ今回は……改めてみんなの顔を見渡す。 「でも今回は僕だけの力で勝ったわけじゃないしね。せっかくだし、みんながキラキラできる支えになったらいいかなって。 なにより奴は人を絶望させ、その様を見るのが楽しみな畜生。そんな奴の命でもらったお金で希望を作れば」 「最高の意趣返しになる……プロデューサーさんはもうっ! どうしてそうなんですかっ!」 「兄ちゃんカッコよすぎだよー!」 「一財産なのに……馬鹿ー!」 はははは……だから言いたくなかったのに。なんでコイツら、僕に生温かい視線を送るの? あと律子さん、してやったりって顔をするな。あとでちょっと説教してやる。あれか、僕の立場とかを気にしてか。 賞金を僕がどうしたのかとか、みんなが気にするからか。うん、そこも含めて説教だね。 それであれだ、お仕置きしてやる。メイド服着せて、お尻ペンペンとかしてやる。もちハリセンで。 「あのねハニー」 「なに?」 そうそう、それで美希は……結局ハニー呼びをやめてくれない。なんか僕はちょっと特別になったらしい。 あれ、でも……あれ? いや、僕は多分責任取るしかないんだろうなぁとは思ってるけど。 でもあずささんや貴音が怖い。それで……タマモ、お願いだから尻尾をピンと立てるのはやめてください。 「美希、分かったの。美希もフェニックスのおじさんと同じだったんだって。 あのおじさんはフェニックスメモリで、美希は竜宮小町。 結局キラキラやドキドキをゲットするために、自分以外のなにかに頼ってたの。でもそれ、違うんだ」 「うん」 「キラキラしたりドキドキするのは、美希の気持ちから。美希がそうしたいって思って頑張れば、きっとなんとかなるの。 だから美希、まずはみんなと一緒にライブを成功させる。ハニーのお嫁さんは、その後かな」 「……ごめんね、美希。中学生に本格的な手を出すと、いろいろ問題が」 「なのっ!? そ、それじゃあ美希はハニーと永遠に結ばれない運命なのっ!?」 「美希……あなた、正真正銘の馬鹿よね」 とりあえず美希も、空気が読めない律子さんには言われたくない。心からそう思ってしまった。 まぁそれはそれとして、僕達はテーブルの中心にそれぞれ手を伸ばす。それも極々自然に……そうして手を重ね、全員で笑ってしまう。 「不思議なの。こうやって手を繋げば……なんだってできそうな気がするの。だからみんなとも」 「うん。――それじゃあみんな、ライブ成功させるよ。あ、お店の迷惑にならないよう、静かにね」 「プロデューサーさん、大丈夫ですよー。礼儀正しく、そして楽しく……ですよねー。春香さん」 「うん。それじゃあ765プロ……!」 『ファイトッ!』 静かにかけ声を挙げて、揃って右手を挙げる。これで本当に一件落着――とはいかない。 だってね、期末試験が……まぁその前に英気を養う意味もあるので、がっつり食べていこう。 もうすぐ季節は夏真っ盛り。何気に僕の誕生日も近い中、僕達は楽しく食べて騒いでいった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 店長の知世子さんに買い出しを頼まれ、アンクの馬鹿を連れて早速お店へ急ぐ。 ……まぁそれも少し前の事。無事に買い物を済ませ、俺はクスクシエへ戻ってきた。 調理場へ繋がる裏口のドアを開け、大荷物を持ったまま慎重に中へ入る。 「すみません、今戻りましたっ!」 そんな俺を明るく出迎えてくれるのは、黒髪ロングの女性――店長の知世子さん。 俺やアンクみたいな怪しい奴を、住み込みで働かせてくれるとてもいい人だ。 「あ、映司君お帰りなさい。買い出しご苦労様ー」 「いえ。あ、これ頼まれてた材料です」 そう言って両手一杯の荷物を、キッチンの調理台へ置く。 続けて不満そうなアンクから荷物をひったくり、さっきと同じ量のそれを隣へ置く。 「ありがとう。じゃあ悪いんだけど、次は調理の方お願いね。さっきまで団体さん来てて、もう大変だったのよー」 「はい」 「あ、でも可愛かったなー。実はね」 「……おい映司っ!」 アンクはいきなり叫んだかと思うと、俺の手を引っ張って店内へ突入。 何事かと思っている間に、店の隅にある団体席へほうり出された。 「アンク、どうしたんだよ。俺今から仕事」 「おい、さっきまでここの席に誰かいただろっ!」 え、無視っ!? ……カウンターからこっちを見ていた知世子さんが、アンクの問いに頷きを返す。 「え、えぇ。十数名の団体さんが」 「どこの誰か分かるかっ!」 「待てって、アンクっ!」 店の営業中に、この勢いで食ってかかられるのはまずい。一旦アンクの肩を掴んで、がっしりスクラム。それから更に隅へ引っ込んだ。 「一体どうしたんだよ、いきなり。知世子さんに失礼だろ?」 「グリードの気配だっ!」 グリ……その言葉にハッとしながら、改めて団体席を見る。まさか……いや、そんな。 確かに俺達の顔とかはバッチリ見られちゃってたから、襲撃されても変ではない。 でも知世子さんの様子から、荒っぽい事になった感じはない。店の様子もいたって普通だ。 だったら本当に食事しに来た? いや、まさかそんなわけが……混乱しながらも、もう一度アンクに確認。 「どういう事だよ、まさかウヴァ達が」 「知るか。だがこの気配……ウヴァ達のものじゃない」 「ウヴァ達じゃない? おい、どういう事だよ。グリードはお前も入れて五体なんだよな」 「……実はな、お前がここで働かされてる間にあっちこっち見てるんだが」 「見てるな」 一つはヤミーの気配を探るため。アンクはセルメダルを集めるために、他のグリードが作ったヤミーを倒している。 というか……俺が倒しちゃってる? アンクからドライバーもらってから、そういう流れになった。 まぁ利用されている感じたっぷりではあるんだけど、俺もヤミーの事はほっとけないしさ。一応持ちつ持たれつって感じ。 「お前には黙っていたが……オレ達以外の気配を感じた事、今日だけじゃない」 「つまり」 「グリードは俺達以外にも、他にいるって事だ。最低でも三体以上」 そのうちの一体……いや、もしかしたら全員が、ここに座ってたって事か? でもどういう事だ。アンクの最初の話では、確かに五体だと言ってたのに。 「アンク」 「知るか、あの胡散臭い鴻上にでも聞け」 「……それしかないか」 ただその前に……俺はスクラムを解除し、カウンターからこっちを見ていた知世子さんへ駆け寄る。 「知世子さん、すみません。あそこの席にいたの、どうも俺達の知り合いみたいで」 「あら、そうなの? でも特になにか言ったりはなかったんだけど……アンクちゃん、よく分かったわね」 「鼻が利くんですよ、アイツ。そういう勘が強いって言うんですか? なので名前とか分かります? 連絡先とか」 「でも予約のお客さんじゃなかったから……あ、ちょっと待って」 知世子さんはハッとしながら、脇に置いてあった台帳を取る。 それは席が一杯の時、待ってくれるお客さんの名前を書き込むものだった。 知世子さんはそれを開き、人差し指でページをなぞりながら確認開始。 ただ知世子さんの指はすぐに止まり、軽く首を傾げる。そうして俺と台帳を交互に見比べた。 「知世子さん、どうしました」 「映司君、弟さんとかいる?」 「……え」 「だってここ」 知世子さんから見せてもらったリストには、火野恭文と……名前だけなら、まだ納得はできる。 珍しい名前ではあるけど、唯一無二ってわけじゃないだろうしさ。だけど字はそうじゃない。 この腹が立つくらいに読みやすい奇麗な字には、確かな見覚えがあった。そうだ、間違いない。 これを書いた奴は知世子さんが言う通り、俺の弟だった。……振り切ったはずなのに、胸が苦しくなる。 アイツなら喧嘩は俺より強いし、ぶっちゃけ素の状態でも仮面ライダーみたいなもんだしさ。 だから、大丈夫。俺がいなくなってもちゃんとやってる。アイツには彼女達だっているんだから。 そう思っていたのに……なんで、こんなとこで。 (『P、それは終わりと始まり』――おしまい) あとがき 恭文「というわけで、良い感じにネタ振りできたところで事件解決――なお、パワーアップは読者アイディアを元にしています」 フェイト「中身は少し違うけどね。あ、本日のお相手はフェイト・T・蒼凪と」 恭文「蒼凪恭文です」 (アイディア、ありがとうございます) 恭文「とりあえず去年からのお話は一つ終了して……フェイト、ソードアイズでアリサが」 フェイト「あ、出てたねー。久々に見る男の子役」 (祝、アニメバトルスピリッツソードアイズにくぎみー出演) 恭文「しかもそろそろ第三弾の宣伝期間へ突入するという。 ……でも僕はその前に、ツルギへ双光気弾と覇王爆炎撃をプレゼントし」 フェイト「どうやってっ!? いや、必要だと思うけどっ!」 恭文「あれだよ、ギャラクシーさんに渡せばなんとかなるでしょ」 フェイト「覇王のギャラクシーさんに渡しても駄目だよー!」 (『うんうん、その通りですよっ!』) 恭文「まぁこれでアリサもひーろーずの方で大活躍だね、デッキレシピそのまま使えばいいし」 フェイト「環境違うよっ!? 先取りしすぎだよっ! ……でもアリサは白デッキかぁ」 恭文「てっきり赤デッキだと思ってたんだけど。海鳴の燃える女だし」 (『違うわよっ! アンタ達、それどっか別の作品の話だからっ!』) 恭文「そして作者もあれですよ、今年初パック購入しましたよ。でも」 フェイト「でも?」 恭文「……光翼の神剣エンジェリック・フェザーとその他数枚という」 フェイト「……天霊デッキを組めというお達しじゃないかなぁ」 (パック三つで、Xレアが出た事は喜ぶべきか) 恭文「そんなバトスピですが、もうすぐ星座編12宮ブースターの後編が販売開始します」 フェイト「えっと、2月8日だね。自販機は四枚100円で、ブースタパックは人パック六枚で158円。 今回は某アスクレピオーズさんもあるし、あとは……禁止・制限関係のリメイクカードも入っていたり。 私ね、十字星竜サザンクロス・ドラゴンって気になってるんだー」 恭文「えっと、星竜・星魂のBPバンプと、アタック時にBP4000の焼き効果だね」 フェイト「うんうん。……召喚時にサザンクロスフレイムじゃなかったけど」 恭文「さすがにないかー。スピリット召喚できる分、上位互換になるしね」 (なるよねぇ) 恭文「それで僕はあれだよ、最近ジエンド・ドラゴニスを組み込んだ、マ・グーデッキを作ろうと画策していて」 フェイト「あぁ、あの……フォン・レイメイと同じ声のロングおじさんが使ってる」 恭文「それ。いや、これ見てさぁ」 (『http://www.cartoon.co.jp/battlespirits』) 恭文「最近始まった、バトスピの新しいネット配信番組で……ジャスティスさんが使っているデッキだよ。 ちなみにこれ、リニューアル前のものとは違って、バトル全部を放送したものもアップされています」 フェイト「実際のバトスピがどういう流れか、見て勉強もできるのはいいよね。 ……なるほど、マ・グーが入っているからなんだ」 恭文「正解ー。……でも、きっとすとらいかーずとかで使うのはダーグ」 フェイト「あぁ、本人気に入ってやる気になってるもんね」 (『ジエンド・ドラゴニス――来ませいっ!』 ……このように、本人はやる気です。 本日のED:仮面ライダーGIRLS『Just The Beginning』) 恭文「というわけで、ついに登場したウィザード・レベル2――スピリッツスタイルッ!」(適当に名付けたらしい) ダーグ「絆を結んだ相手の記憶を引き出し、力に変える能力だな。 ただ相手とやすっちの意識がリンクしているのが少し怖いが」 恭文「とりあえず今回はプリズム――水晶や煌めきの記憶だね、この効果はWのアレと同じ感じと」 美希「これなら向かうところ敵なしなのー。ハニーも自分の記憶を使って戦えるようになったし」 律子「スタイルを使わなくても、単純なパワーアップと捉えられるわよね。 ……でも美希、あんな無茶はもう駄目だから。今回はフォローしてくれるみんながいたけど」 美希「いや、美希に言われても困るよっ! 美希、貴音やタマモに引っ張られただけだよっ!?」 律子「……だったわよねー! 二人ともー、ちょっとお話ー!」 恭文「律子さん、魅音みたいだって言われません?」 律子「どういう意味よ」 恭文「空気が読めない」 律子「あなたにしか言われないわよっ!」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |