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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory16 『GEARS OF DESTINY/まだ混乱は続き』



あむ達の状態を確認した上で、墜落したヘドロ付近へと着地。奴は既に、見慣れた姿を取っていた。

あの逆立った髪に小柄かつ細身な体型、健康的とは真逆の肌色――5年前に見た奴そのものだった。


「レヴィ、ちょっと僕一人でやらせてもらっていいかな」

「ボクなら大丈夫だよ? 魔力刃なら物質吸収の対象外だろうし」

「ううん、違う。あむ達の方に行ってほしいの。多分、もう一人も生きてる」

「……特徴は」


そこですぐに納得してくれるレヴィには、ほんと感謝。僕は奴から目を逸らさず、簡潔に説明開始。


「かなりのパワータイプ。見切りも難しい突撃とかしてくるから、気をつけて。
あとはいきなり重機とか爆弾とかに変わるかもだから、そこも」

「分かった。でも、負けないでね」


明るくそう言って飛び去っていくレヴィに感謝して、僕は一歩ずつ前に歩む。それからジガンの装着を解除。

物質吸収能力は、もう周知のようにデバイスも対象内。それならジガンはかなりヤバい。

もちろんアルトも同じく。例えセブンモードでもヤバい。……こういうところでいろいろ裏目に出てるわけだよ。


僕は完全に素手だけど、問題はない。この5年の間に僕は……また新しい領域へ昇ったんだから。

ダンケルクは自分へ約20メートルというところで足を止めた僕へ向き直り、不敵に笑って身を縮める。


「古き鉄……早速やってくれるじゃねぇか。まだ俺の邪魔をするか」

「その必要はないよ。もう公女は局が逮捕した。親和力の事もバレて、全部片づいてる」

「嘘ついてんじゃねぇっ!」


まぁ信じるわけないよなぁ。見慣れた憎悪を瞳の奥で燃え上がらせながら、ダンケルクは両手を鋭く広げる。


「ここはどこだっ! それで公女と公子はどこいったっ! 俺達はアイツらを殺さなきゃいけないんだよっ!」


そして広げた両手が、一瞬で両刃の剣へ変化。僕が覚えている通りの光景に、目を細めてしまう。


「全てはマクシム様のため――そしてカラバと世界のためっ! いいから答えやがれっ!」

「お前は悪い夢を見てる。だから今すぐ僕が寝かせてやる。感謝しろ、三流」

「見下してんじゃ」


奴は身を伏せ、逆立った髪が後ろに反れるほどの速度で突撃。僕の顔面に向かって右刃で刺突を打ち込む。


「ねぇっ!」


僕は身を伏せながら一気に踏み込み。


「凍華、一閃」


右薙の抜きを放つ。そして僕とダンケルクは交差――ダンケルクの胴体は、僕の斬撃によって一刀両断されていた。

振り返ると奴は目と口を見開き、両断された箇所から、徐々に粒子へと還っていく。

……一度戦った上に『差』ができてるから、これくらいはなぁ。むしろできなきゃ、僕の5年間が疑われる。


「お前が『死んで』から5年――僕もそれなりに修羅場をくぐってねぇ」

「俺が、死んだだと。馬鹿な、なら俺はどうして……世界は、あの化け物どもに支配されたのか」

「それをお前が知る権利はない。化け物はお前だろうが」


僕は奴を見下ろしながら、そのまま空へ飛び上がる。……あむ達と合流しないと。その間にも奴は粒子へ戻る。


「怒りに駆られ、憎しみを正当化し、たくさんの人達を殺して笑っていた。お前は……十分化け物だ。
アレクや公女が化け物なら、お前らはそれ以上だ。もうそんなのはいいから、おとなしく死んでろ」

「あは、あははは……あははははははははははっ!」


その言葉を最後に、奴は完全に消え去った。それに合わせてか、結界も消滅していく。

これは……そう思っていると、僕の左側に空間モニターが展開した。


『恭文、大丈夫っ!?』

「あむ、そっちは」

『うん、こっちもなんとか。あっちのヘリにいたのは消えたみたい』

「そう。だったら早くフェイトを回収するよ。それでアースラへ強制送還だ」


……でもこれ、キツいな。もちろんここは精神的にどうこうじゃなくて、ペース的にだよ。

このペースは作戦前に想定していたのよりずっと下。この調子で時間稼ぎされたら、ほんとに闇の書復活かも。





魔法少女リリカルなのはVivid・Remix


とある魔導師と彼女の鮮烈な日常


Memory16 『GEARS OF DESTINY/まだ混乱は続き』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ようやく目的の結界に入った僕達を待ち受けていたのは、海面に浮かぶフェイトと……それを見下ろすフェイト。

二人のフェイトにあむとトーマ達が息を飲む中、僕はゆっくりと見下ろす方のフェイトへ近づく。


「あ、ヤスフミ」

「……フェイト本人じゃ、ないね」

「やっぱり気づいちゃうんだ。うん、そうだよ。私は欠片。
過去の私があまりにバカだったから、ちょっとお仕置きしちゃった」


そう言って笑うフェイトは、いつも通りに見える。でも……なに、この違和感は。

ううん、この正体に関しては前の事件の時に聞いてる。――術式詠唱。


「ヤスフミは、私の知ってる『今』のヤスフミだよね」

「そうだよ。一応聞くけど、殺しては」

「いないよ。でも、危なかった。心の中でね、じわじわと降り積もるものがあるの」


そう言ってフェイトの目に妖しい光が宿った瞬間、術式発動。フェイトの四肢を蒼いリング型バインドが戒める。

フェイトはそれに動揺した素振りを見せる事なく、僕を見て苦笑する。


「うん、それでいいよ。私、昔の私に殺意を持ちかけてた。多分……欠片である影響」

「巨大×たまと同じだね」

「あれと?」

「そういう衝動に駆られるのは、きっとみんながこころの小箱に閉まっている悲しい事も引き出されてるからだよ」

「あ、なるほど」


闇の欠片は、単純に記憶を再生しただけじゃない。理由もなく破壊衝動に苛まれている場合も多い。

最初に遭遇した師匠もそれと言えるし、その原因はその後の調査でも不明だった。

でも、巨大×たまとの一戦を経験した今の僕なら……分かる。ううん、ようやく分かった。


悲しい気持ちでいっぱいだった時の記憶が再生されると、その感情が暴走していくんだよ。

前の事件で遭遇したヤンデレ師匠もそうだし、フェイトが遭遇した僕の欠片もそう。

もちろん今回のオーギュストやアイアンサイズも……やめよう。自分で言っててなんか突き刺さる。


「でもおかしいんだ。私、この事を覚えてないの。こんな事があったら、絶対忘れないのに」

「多分忘れてるんだよ。僕もそうとしか結論が出なかった」

「だよね。結局私は、未来を変えられないんだね」


フェイトはまた海面に浮かぶ過去の自分を見下ろし、首を横に振る。


「ううん、それは当然か。私はなにかを変えようとは考えていなかった。過去も今も……未来さえも。ねぇ、ヤスフミ」

「なに?」

「私、ヤスフミと一緒にいられてるかな。記憶……メガーヌさん達のところでオフトレしてた辺りから、先がないの」


不安げにそんな事を言うので、僕は右手を口元で押さえながら噴き出す。


「だったら大丈夫。第二戦始まろうってところで、僕もあむもこっちに跳ばされたから」

「そうなんだ。だったら安心だね、最新の私だし」

「うん。だから」


前に踏み込み、アルトで抜き打ち一戦。真一文字の蒼い閃光がフェイトを斬り裂いた。

それにフェイトは目を見開き、その身体を粒子へと戻していく。


「また会おうね、フェイト。……すぐに戻るから、ちょっと待ってて」

「斬りながら言うセリフじゃないよ、それ。しかも私は欠片なのに。でも……ん、了解」


笑顔で消えていくフェイトを、僕も笑顔を返しながら見送る。それで……さほど経たずに欠片は消滅。

未来へ戻る気持ちをしっかりと固めた上で、僕はまず『今』のフェイトを連れて陸まで戻る事にした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「このバカがっ!」


海鳴の臨海公園辺りに戻って、フェイトを起こして一発目にやった事……それはグーで殴る事だった。


「ちょ、恭文っ!」

「おのれはバカかっ! あむに攻撃しかけるわ、勝手してやられるわ……だから言っただろうがっ!
今のお前なんざ信用できないんだよっ! 結局自分の事しか考えてない臆病者なだけだろっ!」

「全くだっ! キミが勝手な行動を取ったせいで、ボク達も大変だったんだぞっ!? 特にアムだっ!」

「え、あたしっ!?」

「アムは戦闘も不慣れっぽいのに、強い奴に絡まれても必死に頑張ってたんだっ!
それなのにキミはなんだっ! それでボクのオリジナルなんて情けないっ!」


それでもフェイトはなにも言わず、ただ泣き続けるだけ。……やっぱアースラに戻した方がいいな。ぶっちゃけ邪魔だ。

それにこれだけ場を乱されたら、もう連れていくのは無理だよ。さっきも言ったように、討伐ペースも落ちてるし。


「黙ってないでなにか言ったらどうだっ!」


レヴィが右手を伸ばしてフェイトの襟首を掴んでも、反応はない。そうこうしている間に、時間が来た。

フェイトの足元に青いミッド式魔法陣が展開。それを見てフェイトは、大きく目を見開く。


「フェイト、アースラでじっとしてろ」

「そんな……嫌、見捨てないで。私を、捨てないで」

「捨てるんじゃない、置いてい」

「ヤスフミ」


そこで僕の前へ出てきたのは、険しい顔のショウタロスだった。


「なぁ、難しいのは分かるけど……このまま連れて行こうぜ?」

「それは駄目。このバカに構っている暇はない。ショウタロスだって分かってるでしょ?
このバカは僕達が動いている前提を、全てすっ飛ばしてる。自分の事だけしか見てない」

「いや、というより」


ショウタロスがやや困った顔をしながら、なぜか左側を見た。


「多分送ってる間にアレ、こっちを撃ってくるぞ」


……余裕こいている場合じゃなかった。その瞬間猛烈に嫌な予感が身体を襲う。

僕はその予感に従って、8時方向・200メートルほど先に生まれた黒い点――歪みを凝視する。


【トーマ、この近く……というか、ここに結界発生っ! 反応から見て、闇の欠片っ!】

「なんだってっ!」


そして僕達を覆うように、結界が展開。青かった空は一瞬で幾何学色に染まる。

その発生源は、徐々に大きさを増していくあの光だ。


「おいおい蒼にぃ、これって」

「さっきと同じパターンだね。どうやら僕達、狙い撃ちされまくってるみたい」


そして光は、金色の装飾を身にまとう女の姿へと変ぼうする。各所に輝く宝石は濃い紫色で、髪は水色。

その姿は……僕とあむは、またしても揃って顔を青くするハメになった。


≪なのっ!?≫

≪あれは≫

「「ありえないしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」」


黒い光は、ルル・ド・モルセール・山本――ドリーム・ドリームへと変化した。

その衝撃のあまり、僕とあむも顔を青くして両手で頭を抱える。よ、よりにもよってコイツは……!


「……なんだみゃあ、お前ら」

≪レヴィさん、すぐに避難してください。トーマさんもこのバカを連れて……早く≫

「え……分かったっ!」

「あらま、蒼凪恭文と日奈森あむかぁ。ほんなら」


みんなが避難しようとするけど、それじゃあ遅かった。奴は右手を挙げ……僕は心を強く持ち、両手を身体の前で構える。

あむも同じようにした瞬間、薄紫色の衝撃波が空間を突き抜け、結界いっぱいに広がった。


「きゃっ!」

「あうっ!」

「痛っ!」

「えっ!?」


衝撃波で髪やマントを揺らす中、後ろでとても嫌な声がした。キャラ持ちじゃないみんながそれって……嫌な予感しかしない。

でも心配している余裕はない。僕とあむはそれぞれのしゅごキャラ達の方を見る。


「アンタ達、大丈夫っ!?」

「な、なんとか。シオン達は」

「問題ありません」

「食らうのも三度目だからな、さすがに慣れる。……はんむ」


バームクーヘンをひとかじりしながらだけど、ヒカリの言葉には僕もあむも安心。

うし、これなら以前みたいな状況は避けられる。あむが動けるだけでも大分違うでしょ。


「あむ、あれは僕がやる。みんなの事お願い」

「……分かった」

「あぁもう、めちゃくちゃ頭痛いわぁ。なんでアンタらここにいるん?
ほんまよう分からんわぁ。てゆうか、くだらんわぁ」


ルルは右手をかざし、周囲に12個の宝石を精製。それは当然、さっき放たれた光と同じ色だった。


「どうせ誰も彼も夢を大事になんてしてないし、なにが夢かすら分からん。
そんなもんでぐだぐだ意地張るのも馬鹿らしかぁ」

「全員、必死に逃げてっ!」


指示を飛ばした上で、僕は10時方向にダッシュ。あむ達も路面を蹴ってルルから遠ざかる。

その瞬間、ルルが精製した宝石から光弾が放たれ……僕達へ襲ってくる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! ど、どうなってんだこれっ!」

「どうしてリアクトが使えないのっ!? しかもしかも、魔法もさっぱりだしー! レヴィ、あなたは」

「ボクも同じくっ! ほら、オリジナルしっかりしろっ! 蜂の巣になりたいのかっ!」


とにかくあたし達は、砂浜へと降りる階段を飛び越える。

それから階段の根本――コンクリの壁に背中を当て、荒く息を吐きながら頭上を通り過ぎていく弾丸を見た。


「アム、なんだあれっ! あれもキミ達の知り合いなんだろっ!?」

「ドリーム・ドリームっていうのっ! さっきのなぞキャラなりのえっと……親玉っ!
アイツ、みんなの夢を分からなくする能力が使えるっ!
それで前戦った時は、キャラなりが封じられてめちゃくちゃピンチだったっ!」

「でもそれ、キャラなりだよねっ! なんでわたし達の魔法やリアクトまで使えないのっ!?」

「そんなの分かんないよっ!」

「……いや、待てよ」


もうあたしも混乱しまくっている状況で、トーマは冷静な顔をしていた。


「もしかしたらだけど、システムU-Dの影響じゃ。ほら、闇の欠片は俺達の邪魔をする形で動いてる」

「なるほど、それで奴に魔法やキミ達のリアクトも含めた、徹底的な無効化能力が付与されたと」

「それはもう記憶の再生じゃないしっ! どんだけアンタの仲間は本気出してるわけっ!?」

「ボクに言われても困るっ! ボクだってこんな事になるとは思ってなかったんだっ! それより……ヤスフミはっ!」

「ヤスフミ」


また飛び出そうとしていたフェイトさんを、あたしは必死に押さえ込む。


「こら、駄目っ!」

「離して。戦って、勝たなきゃ。そうしなきゃヤスフミが信じてくれない。
ヤスフミから捨てられちゃう。そうだ、勝てばいいんだ。勝てば信じて」

「このバカがっ! てゆうかバルディッシュ、アンタなんでフェイトさんを止めないのっ!」

≪……Sirとともに戦うため、私はいます≫

「あぁもう、マスターがバカならデバイスもバカだしっ!」


まだ抵抗しようとするから、トーマやリリィ、レヴィも手伝ってくれる。


「その通りだっ! 例え勝ったってキミの事なんて、絶対信じないぞっ! キミは大事な事を忘れてるじゃないかっ!」

「忘れてない。私は大人になって」

「それが忘れてるんだっ! キミ達がシステムU-Dや欠片を止めたいのは、みんなが困らないためだろうがっ!
大人になるためでも、自分のためでもないっ! キミ達はそのためにこの間も、ボク達と戦ったんだろうっ!?」


レヴィがはっきりそう言い切ると、フェイトさんが顔を背けて泣き出す。……あぁもう、なんて面倒臭い。どうしてこうなるわけ?


「もういい、キミはそうやって泣いていろ。自分の殻に閉じこもって、自分の事しか考えず。
……でもボクは嫌だ。ボクはそんな冷たくて寂しい自分には、なりたくない」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「やっぱり邪魔、するんかぁ。ほんま……うっとおしかっ!」


よーし、あむ達は上手く逃げた。あとは僕の方へと引きつけて、一気に倒すのみだ。

ただ魔法やリアクトも解除されたし、ここは慎重に……でも一気に叩き潰す。


「うちはただママを幸せにしたいだけっ! それなのになんで邪魔するんっ!?」

「違うだろうが。お前は自分勝手な妄想を押しつけてるだけ。かおるさんにもなぞたまにしたみんなにも……それで臆病なだけだ。
でももう違う。ルル、ちゃんと思い出せ。お前はもう、誰かにハテナをつける必要はない。お前の中にはナナって強さがあるんだ」

「うるさいっ!」


あー、うん、やっぱそうなるよね。そういうの分かる前の記憶だもんね。だからこう、たくさん弾丸を精製してるもんね。


「うちはママの輝きを取り戻すっ! それがママの幸せっ! 私の幸せっ!」

「やっぱだめか。……シオン、ヒカリ、ショウタロスッ! いくよっ!」

「おうっ!」

「久々のてんこなり、手早く済ませるぞ」

「一度勝った相手に負けるというのも、しゃくですしね」


即答してくれるのに感謝していると、奴は宝石の弾丸を一斉発射。


「僕のこころ、アン」


『解錠(アンロック)』


「ロックッ!」


僕はそれを真正面から受け止めるように、鍵を開けた。その瞬間、緑と黒と紫の螺旋が僕を包む。

その螺旋が弾丸達を全て弾いていく中、三つのたまごは僕の胸元へと吸い込まれていく。

そして螺旋が弾けた時、僕はもうすっかりおなじみになった出で立ちでそこにいた。


唯一違うのは、首元にマフラーがある事。それは黒に近い紫色で、ショウタロスの色を示している。


【【【「キャラなり――リインフォース・ライナー!」】】】

「――あー! やっぱり恭文だー!」


右手をスナップさせて飛び出そうとすると、左側から声がする。

そっちを見ると、結構遠くからこちらへ駆け寄ってくる二人がいた。


「ヴィヴィオっ!? それにアインハルトもっ!」

「よかったー! 見かけて追いかけてきたんだー!」

「ちょ、待ってっ! 今は近づくなっ! 今はヤバいっ!」

「またうるさいのが……せからしかぁ」


二人に狙いを定めようとしたところで踏み込み、ルルの左頬を右拳で殴り飛ばす。

そうしてルルを転がしてから、アルトガッシャーを両手で掴み組み立て開始。

今回は銃形態にした上で、起き上がったルルに向かって引き金を引く。ルルも宝石の弾丸を生成・大量発射。


連射された二種の弾丸は僕達の間で正面衝突し、激しく火花を走らせた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


もう単独で捜索するのは無理と踏んで、なのはと合流した上で欠片退治だ。それで……アースラに戻ってきた。

もうな、あれはおかしい。なんでこう、真・ソニックみたいなシグナムと戦うハメになるとは。あれはいったいなんだ。

言っている事がイミフに思うだろうが、許してほしい。僕もなのはも、未だに混乱している。


そんな僕達は現在、医務室で手当てを受けている最中だ。それでエイミィから、いろいろと報告を受けている。

シグナムはレヴァンティンが行方不明になったため、自室に引きこもっている。

例のロケットの子は、連絡を受けて僕が不意打ちで止めたんだが……もうめちゃくちゃだ。


というかもう、アレだな。僕は自分の経験とかそういうのが吹き飛びそうで、まさに『頭痛が痛い』状態だ。


『でもクロノ君、これマズいよ。出てくる欠片のタイプや発生タイミング――予想通りみたい』

「欠片の発生は偶発的なものではなく、意図的なもの。闇の書が僕達を邪魔しにかかっている」

『うん。今も恭文くん達が、ラスボスっぽいのと戦ってるらしいから』


フォン・レイメイを出した時点で序の口。そう言ったところか。正直に言おうか、僕は現状を甘く見ていた。

以前対処した安心感というのもあるが、まさかここまで強敵ばかり出てくるとは思わなかった。


「……エイミィ、君の意見を聞かせてくれ。このまま掃討を継続する事は」

『現戦力では無理だと思う』

「ではアースラの予備人員も用いる。または増援を外から呼ぶ」

『一人倒すだけで、全員エンプティだよ。ううん、相手にされず一蹴される事だって』

「だよなぁ」


とにかく特異能力持ちが多いんだ。言ったらアレだが、普通の武装局員が対応できると思えない。

当然オーバーSやなんかやんやも駄目で……右手で口元を押さえながら、どうしたものかと唸ってしまう。


「でもクロノ君、対再生軍団補正がついている恭文君達だけじゃ」

「それは絶対に避ける。ねらい撃ちされている以上、一番危険なのは彼らだ。
……しょうがない。エイミィ、全員をアースラへ帰投させてくれ」

『どうするの?』


なんとか現状を打破できないかとあれこれ考えてみたが、結局僕はこう言うしかなかった。


「どうもしない」

『「……は?」』

「どうもしないんだ。悔しいがこのまま連戦になったら、システムU-Dと戦う前に全員ダウンだ。
僕もエイミィと同じく、現状戦力で闇の欠片掃討は不可能だと判断する」

「じゃ、じゃあどうするのっ!? このまま欠片がシステムU-Dに吸収されたらっ!」


そう、吸収による性能復旧は止められない。しかもシステムU-Dは、あの防衛プログラムよりも凶悪。

それを少しでも弱体化させるための掃討なので、その目的が達成されない場合……なのはは気づいたらしく、小さく息を飲んだ。


「……まさか」

「そうだ。システムU-Dが欠片を吸収しきったところで襲撃し、停止させる」

『それ、かなり危険だよね。フルパワーな相手と戦うって事だし』

「このまま戦い続けて、完全な状態でないままやり合うよりはマシ……なはずだ」


自信が持てないのは許してほしい。だが間違いでもないはずなんだ。僕達が避けなければいけないのは、全滅。

そして本格稼働したシステムU-Dを止められない事だ。戦力の温存は、少なくとも現状での全滅は避けられるはず。


「もちろん欠片がその前になんらかの災害を起こす可能性もある。
観測は徹底継続した上で、もしもの場合は対処するが」

「基本はなにもせず……だね」

「そうなる。辛いとは思うが、納得してほしい」

「ん、分かったよ。災害が起きても見過ごすんじゃないなら……納得する」

『ならその方向でみんなに通達しておくね。あとは……例の厨二病な王様待ちかぁ』


この方針を打ち立てた理由の一つに、ディアーチェの事がある。

彼女や他のマテリアルがいれば、制御という形でシステムU-Dを止める事ができる。

そのための準備も進めているし、真っ向勝負で完全殲滅という無理コースは避けられる。


だが……これでいよいよ後がなくなったな。僕はこの件が終わったら、修行し直そうと強く決意を固めた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――恭文、後ろっ!」


あむの声に従い振り返ると、そこにはあの黒い歪みが発生していた。

そうして出てくるのは、鈍い銀色の鬼。つーかあれは。


「ミミヒコ……!」


ちょっとちょっと、ルルはまだ倒してないよっ!? それでなんでこうなるのよっ!


「あぁ? なんだここは。つーかお前……ははーん、あの時のチビか。
だがなんか大きくないか? ……まぁいい。なんかイライラするからお前、潰してやるよ」

「いかんなぁ、ミミヒコ」


そうして隣にまた歪みが生まれ、それは金色の鬼となる……って、クチヒコまでっ!

でも驚いている暇はなかった。クチヒコは錫杖をこちらに向け、炎の砲弾を発射。

それを右の側転で回避すると、砲弾は地面を砕き爆炎に変化。すかさずミミヒコがこちらへ走り込む。


起き上がりながら左拳を握り締め、唐竹に振るわれる金棒に打ちつける。すると衝撃が弾け、金棒が上へはね飛ぶ。


「……っとっ!」


奴はその勢いに逆らわず一歩下がり、そのまま一回転して右薙の打撃。

それを跳躍して避けると、再び炎の砲弾が飛んでくる。

アルトガッシャーでそれを撃ち落としつつ、突き出された金棒を右足で蹴ってはじき返す。


今度は追撃する事なく、ミミヒコは後ろへ跳んでクチヒコと並び立つ。


「ここは二人でだ。抜け駆けは許さんぞ」

「だなっ!」

「ふん……増援みたいだみゃあ。くくく……悪い事ばっかしてるから、バチが当たったんだみゃあ」


ち、さり気なく協力体制と取るか。さすがに三人……ちょっとキツいか? それでルルは僕を笑いながら、宝石での射撃体勢を整える。


「うちの夢を邪魔するからだ。うちは……ただママに、昔の輝きを取り戻してほしいだけなのにっ!」

「ふざけんじゃないよ、お前はかおるさんの事も誰も見ていない」

「恭文さんっ!」


げ、アインハルトが突撃し……ちょ、駄目っ! ソイツらは本当にヤバいからっ!

でもアインハルトはそれが分かるわけもなく、ミミヒコへ踏み込み。


「覇王」


両足で地面を踏み砕きながら、左ストレートを打ち込む。


「断空拳っ!」


その鋭い拳は、ミミヒコの腹を撃ち抜くはずだった。でもミミヒコは素早く金棒を動かし、アインハルトの拳を受け止める。

本来ならとても重い拳はただ動きを止められ、金棒を砕く事も揺らす事もできなかった。


「な……!」

「お前、なんだ。まぁいい」


ミミヒコは金棒を押し込み、アインハルトの体勢を崩してから。


「潰れろっ!」


驚くあの子の頭目がけて、金棒を電光石火の如く打ち込む。

でもアインハルトはそれに反応し、左側――僕がいる方へ転がって打撃を回避。

そのまま転がり続けて奴との距離を取って起き上がると、アインハルトの目の前に炎の砲弾。


当然クチヒコが撃ってきたそれ目がけて、アルトガッシャーのトリガーを引いて撃ち抜く。

砲弾はアインハルトの目の前で爆発し、炎のカーテンへ変化した。それからガッシャーを右薙に振るいつつ分解。

分割されたガッシャーは火花で繋がりながら、ロッドモードへ変化。それを9時方向へ振り向きながら回転させる。


僕の前で回転するガッシャーが、こちらへ放たれた宝石弾達を全てはじき飛ばした。


「アインハルトっ!」

「大丈夫です」

「ちょっとちょっと、三人揃ってはキツいよー!」

「この人達、お知り合いですか」

「まぁその……以前恭文とヴィヴィオ達の仲間が、倒した鬼」


さて、どうする。ここは分断してどうこうってのが一番だ。実際以前もそれで勝てた。

正直真正面からの勝負は、今の段階でも勝てるかどうか……あの時も超てんこ盛り使ったしなぁ。

その上ルルの能力だ。僕には効き目がないけど……どうしたものかと思っていると、遠くから聞き覚えのある汽笛が響く。


僕はハッとしながら、周囲を見渡した。すると右側の空を駆ける、白い列車が見える。

虹色の歪みから出てきたそれは、あっという間にこちらへ近づいてきた。

そのまま僕達の目の前を通り過ぎたかと思うと、列車の後に見慣れた人影がいくつも出てきた。


「増援登場ですー!」

「待たせたな、恭文っ!」

「リイン、アギトっ! それに」


リインとアギトはともかく、その両隣には見慣れた金髪と紫髪の子までがいた。その子達はこっちを見て、優しく笑いかけてくる。


「お久しぶりです、おじいさま」

「またまた来ちゃいましたっ!」

「咲耶とリースまで、なにしてんのっ!」

「話は後ですっ! 恭文さん、これっ!」


リインが両手で差し出してきた物を見て、頷きながらガッシャーをほうり投げる。

するとガッシャーは分割され、腰のベルトに再装着。それからすぐに、僕のパスを取り出しスロット展開。

左手でみんなのユニゾンカードを取り出した上で、意識を集中――それによりカードは融合。


久々登場な超クライマックスフォーム用の変身カードを、そのままスロットに挿入してパスを閉じる。


≪Fusion Ride 超・Climax Set up≫


それからリインが差し出してきた物――ユニゾウルブレードを受け取り、パスを刃のスロットへ挿入。

峰側にあるそれに入れたパスを一度ぐいっと押し込むと、リイン達は光となってユニゾウルブレードへ吸い込まれる。

そうしてクリアカラーだった刃は中心から、紫・金・赤、蒼の四色に色分けされて染まっていく。


≪エンチャントユニゾン、完了ですー!≫

≪久々に全力バトルだっ! 恭文、行くぜっ!≫

【それでは私達という最強】

【クライマックスに突入だっ!】

「うんっ!」


僕は左手を挙げ、まずはルルへ迫りながら指を鳴らす。


≪The song today is ”Climax Jump the final”≫

【お、EXTREME DREAMじゃないんだな】

≪やっぱ根っこはこれですよねー!≫

≪まぁファイナルじゃないけどなっ! ここからがスタートだぜっ!≫


……ヤバい、テンション上がってきた。結構危機的状況だったのに、それを楽しんでる。

これもまた冒険なんだろうね。そう……だから恐れるものなんてなにもない。

ちゃんとみんなと繋がって、一緒に戦ってるんだから。僕は一人なんかじゃないから。


「ヴィヴィオ、アインハルトと下がっててっ!」

「分かったっ!」

「なんだなんだ、そんなこけおどしが」


ミミヒコが5時方向から飛び出してきたので、ブレードをかざし四色の障壁を展開。


「通用するわけねぇだろっ!」


それに向かって金棒が打ち込まれると、ミミヒコの身体を氷と炎、雷撃と風が戒める。

四色の力は交じり合い虹色の火花となって、ミミヒコを痛めつけ思いっきり吹き飛ばす。


「ぬぉ……!?」

「ミミヒコっ!」

≪馬鹿かっ! コイツはな、アタシ達みんなの力が宿ってんだっ!≫

≪そんな攻撃じゃあ傷一つ付きませんっ! 通用しないのはあなた達の方ですっ!≫


ゆっくりと歩きながら、5時方向から飛びかかってきたミミヒコをけり飛ばす。

入れ替わりで迫ってくる砲弾数発に向かって、ブレードを右薙に打ち込み。


≪邪魔するなですっ!≫


ユニゾウルブレード内のリインが、斬撃に合わせて魔法を発動。

放たれる蒼い波動が砲弾と地面を凍りつかせ、破砕していく。

鬼達が波動を腕でガードして受け止めると、その腕までが凍りつく。


ただ凍りついたのはそれだけでなく、奴らの足元も白い氷に覆われていた。


「く、冷てぇ……てーか兄ちゃん、足っ!」

「ぬおっ!」


奴らの動きを止めている間にルルへ接近していくと、ルルは周囲に宝石弾を生成。

……僕はグリップレバーを引いて、ブレードのクローバーマークを回転。アギトに主導権を渡す。


≪次はアタシだっ!≫


するとブレードに炎が灯るので、合計30発のそれに対し袈裟に打ち込む。

炎は巨大な斬撃波となって、弾丸を飲み込みながらルルに迫る。


「えぇっ! ……くっ!」


ルルは両手をかざし障壁を展開し、炎の衝撃を防ぐ。でも障壁はそれに耐え切れず、粉々になって燃やし尽くされた。

ルルもその煽りをまともにくらい、地面へ倒れてしまう。もう一度グリップレバーを引き、今度は咲耶。


≪あなた達、倒してもいいですわよね≫

「このっ!」

≪答えは聞いていませんが≫


その瞬間僕の身体は金色の光に包まれ、氷を砕きながらこっちへ迫ろうとする鬼達へ向かう。


「行くぜ行くぜ行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


奴らの懐へ入り込み、二人の胴体目がけて右薙の斬撃。刃は金色の雷撃を放ちながら、奴らの身体を切り裂き吹き飛ばす。

すぐさまグリップを引き、今度はリースの力を借りる。そのまま後ろへ大きく跳躍すると、足元から紫の旋風が生まれる。

そうして宙返りすると、さっきまで僕達がいた場所を紫色の奔流が突き抜ける。当然それを放ったのはルル。


宝石のように煌めくそれを飛び越えながら地面に着地し、右手で持ったブレードを引く。


≪嵐華≫


正面へと切っ先を向け、再び放たれた砲撃へ向かって突き出す。


≪一閃っ!≫


切っ先から紫の旋風が生まれ、それは螺旋を描きながら射出。

小さく細い弾丸だった風は一気に展開し、地面空間を斬り裂く巨大な嵐となった。

ルルの砲撃と正面衝突し一瞬せめぎ合うも、風はエネルギーすらも微塵に切り裂く。


紫の粒子によって、それよりも明るい色の紫は粒子となって辺りに舞い散っていく。


「え……嘘だみゃあっ!」


ルルはそれから跳んで逃げようとするけど、そんなのじゃあどうにもならない。風がルルの背中を貫き、その身体を切り裂く。


「嫌……うちには、ママの夢がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


叫びと風の音が交じり合い、ルルの身体も破片となって風の中へ消えていく。……うし、まずは一人。


「この……ちょこざいなっ!」


こっちへ飛び込みながら唐竹に打ち込まれる、クチヒコの錫杖を右薙に払う。

続けて後ろに回っていたミミヒコが、金棒を僕の背中へと突き出す。

振り返りながら逆袈裟にブレードを打ち込み、それをブレードで受け止める。


弾ける衝撃には構わずアルトガッシャー・四番パーツを、左手で逆手に持ち出す。

僕のイメージに従ってパーツは火花で繋がり、一瞬でロッドモードに変化。

それは再度僕へ踏み込もうとしていたクチヒコの胴体を貫き、そのまま吹き飛ばして地面へ転がす。


「兄ちゃんっ!」

「言っている暇」


ガッシャーの柄を手元で回転させながら、再びパーツを分割。今度はガンモードとして合体。

その銃口をミミヒコの腹へ向け、トリガーを引く。そうして乱射された弾丸が、ミミヒコの装甲を叩き火花を走らせる。


「ないと思うけどっ!」

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」


奴が後ずさったところでガッシャーを分割――もう一度ロッドモードにして、奴の腹を射抜いて吹き飛ばしておく。

それから反時計回りに回転して、こっちへ近づいてきたクチヒコの胸元に右薙の斬撃。

一撃目は風をまとったブレードで斬り裂き、二撃目は腰だめに構えたガッシャーで一閃。


そのままクチヒコへ踏み込み、たたらを踏んでいる奴に向かって連続突き。

クチヒコがそれを右に避けたら、すかさずわき腹に右薙の一撃を加える。奴はそれを掴んで僕の動きを止め。


「ミミヒコォォォォォォォォォォォォォォッ!」


とか言ってくれるので、両足で地面を踏み砕きながらその場で回転。その勢いに押され、クチヒコの身体が浮かびあがる。


「うぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


時計回りに振り向きながら、こっちへ飛び込んできたミミヒコに向かってクチヒコを投げつける。

クチヒコは僕の動きを止める事ができず、そのままミミヒコと正面衝突。二人はもみ合うように地面へ転げた。

すかさずガッシャーを上へと投げ、分割させておく。パーツに分かれたガッシャーは腰へ再装着された。


「お前ら、言わなかった? 僕達は最初から」


開いた左手でグリップを引く。またリインに戻した上で、グリップを四回連続で引く。


「クライマックスだってさっ!」


それからグリップを奥へ押し込み、必殺技発動。


「抜かせっ!」


奴らは大きく飛びのいて、100メートルほどの距離を取った。

それから錫杖と金棒を頭上へ突き出し、そこに力を収束される。……でもちょっと遅い。

既に切っ先から虹色のレールが展開し、僕の周囲を回りながら背後に伸びている。


それは汽笛を鳴らしながら更に伸び、僕の脇を通っていく。僕はその場で跳躍しレールへ乗っかり、二人へと突撃。

刃に刻まれた四色が溶け合い、レールと同じ色へ変化。そうしてより強い輝きを放つ。


「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」


その間に二人は力を収束させ、あの時見たエネルギーの砲弾を構築。

でもそれを発射する前に、二人の足元をレールが通過。その瞬間、レールの先が螺旋を描き二人を包み込む。

そうして五つのリングに変化し、二人の動きを完全に戒めた。


「必殺――僕達の必殺技っ!」

「兄ちゃんっ!」

「えぇい、構うなっ! ……死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


二人はそのまま声を張り上げながら、動きを止められたまま砲弾を射出。


≪な……抵抗したですかっ!≫

≪こっちも構うこたぁねぇっ! このまま突っ込むぞっ!≫

≪えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!≫

≪いつもの事ですね≫


身体をレールと同じ色の光が包み、それがデンライナーの形状となる。それと砲弾が正面衝突し、巨大な爆炎となる。

その中でもデンライナーは砕けたりせず、僕はレールの上を直進――自然と口元を歪めながら爆炎を突っ切り、奴らの眼前へと飛び出る。


「な……!」

「馬鹿なっ!」


虹色に輝く刃を振りかぶり。


「てんこ斬りっ!」

≪≪……ダサっ!≫≫


奴らを右薙一閃――それにより極光が生まれ、奴らの身体を一刀両断にする。

そのまま二人の間を突き抜けていくと、レールが少しずつ消えていく。

それだけではなく軌道もやや下がっていき、僕は地面へと滑りながら着地した。


刃を下ろして振り返ると、奴らは動きを止めたまま身体を破片へと変え始めていた。


「伝説が……嘘、だろ」

「ミミヒコぉ」

「兄ちゃん……!」


二人は恨めしげな声だけを残し、そのまま他の欠片と同じように消えていった。僕は静かに息を吐きながら、キャラなり解除。


≪なぁ恭文……てんこ斬りはないだろ≫

≪おじいさん、なんというかその……ダサいです≫

「いや、カッコいいでしょ。これ使いたかったんだよねー」

「いやいや、なに言っちゃってるわけっ!?」


あ、あむ達が慌ててやってくる。それに遅れて、フェイトも首を傾げながらついてくる。


「アンタホントダサいからっ! 頼むからセンス直してよっ! アイリと恭介が可哀想じゃんっ!」

「ねね、それカッコよかったっ! ボクもやるー!」

「レヴィ、駄目だからっ! 蒼にぃ、この頃から……うぅ」

「トーマ、泣いちゃ駄目。いや、気持ちは分かるけど」

「恭文さん、スゥと一緒に頑張りましょうねぇ。スゥ、現地妻7号として協力しますぅ」


なんでそこの二人は涙ぐむのよ。スゥもスゥでそのネーミング、本当にやめて。ほら、僕はもう結婚してるから。


「ところでその剣は」

「後で説明する。早めに移動しないと、また集中攻撃を」

「恭文ー♪」


こっちに飛び込んで抱きついてくるヴィヴィオの頭を、左手で軽く撫でた。

大人モードなせいで、100センチクラスの胸がまともに押しつけられる。

……でも10歳だからなぁ。究極の偽乳と分かっているので、特に感じたりはしない。


ちなみに年ごろになったら、本気で自重させます。ほら、なのはと同じ道を行きかねないから。


「二人もやっぱ跳ばされてたんだ。……ちなみにここは」

「過去というのは、ヴィヴィオさんから。でも合流できてよかったです」

≪ならここは一旦、アースラへ戻るの。ちょうど今クロノさんから連絡が来て、すぐに戻ってきてほしいそうなの≫


確かに僕もリイン達から事情を聞きたいし、ジガンが言うように腰を落ちつけた方がいいね。

なんだかんだで連戦続きだったから、あむやトーマも疲労してる。……ただ一つ気になった事が。


「なんだ、事態が動いたか?」

「いや、動きまくってはいるけどよ。……ヤスフミ」

「ここで飛び出しても孤立無援状態だし、指示通りに戻ろうか」


でも……コイツくっつきすぎ。軽くどついて離れてもらってから、僕達はアースラへ帰投。

そんな中フェイトは俯き、ただ嗚咽を漏らすだけだった。……このまま動けないようにしてもらおうっと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――まずは全員、本当にご苦労だった」


ミーティングルームでクロノさんはそう始めてから、僕達を一瞥。

それから疲労困憊と言った表情のはやてやシャマルさん達を見た。


「それで早速だが、今後の方針に関して説明する。……現状戦力での掃討作戦は、遺憾ながら不可能と判断する。
なのでここからは、欠片が海鳴市街に対してなんらかの被害を出さない限り、事態を傍観する事とする」

「え、それヤバいじゃんっ! だって欠片を止めて、あの子を弱らせようって話だったのにっ!」

「その作戦そのものが遂行不可能だからな。もちろん君達を責めているわけではない。
むしろ……修行不足とかそっち方向に考えている。いやもうほんと、苦労していたんだな」


クロノさん、そう言いながら疲れた顔をしないで。ほら、さすがにちょっと気にしてるんだから。


「なのでここからは戦力を温存し、システムU-D一本に狙いを絞る。
かなりギャンブル性の高い作戦になるが、このまま全滅するよりはマシだと判断した」

「でもクロノ君、それできるん? フルスペックのシステムU-Dと戦う事になるのに」

「勝算はある。そもそも僕達はシステムU-Dを破壊するのではなく、管理下に置く事を前提としていた。
ただ……そのためにマテリアル達の協力が、必須になってしまったわけだが。あとはこちらへの恭順だ」


そこではやての表情が一気に不愉快なものへ変わる。それはシャマルさんやザフィーラさん達もか。

やっぱり破壊なり封印って方向で考えているわけか。まぁ下手したらあの厨二病が攻撃してくるかもだし、それはなぁ。


「それで……その、もう一人リインがいるとか、フェイトが騒いでいたんだが」

「僕の時間のリインと、友達や知り合いなユニゾンデバイスです。
みんなはまぁ、秘密基地みたいなところで待機に。で……一つ報告が」

「なんだ」

「みんなが来てくれたおかげで、僕とあむは問題なく帰れるようになりました」

「ホントかっ!」


クロノさんもさすがに驚いたらしく、席をいきなり立ち上がり声をあげた。

それからハッとして、やや恥ずかしげにせき払い。改めて着席し、まじまじとこちらを見てくる。


「それだけじゃなくて、こっちに来ている未来組も一緒に送ってもらおうと思います」

「蒼にぃ、それ本当かっ!」

「うん。……あ、でも移動手段については内緒だよ?
局とかにバレるとめんどいし、僕の大事な友達たちにも迷惑かけちゃうから」

「分かった。リリィ」

「これで一安心だね、トーマ」


嬉しそうに笑う二人と一緒に、あむも安堵の息を吐く。……でもどうしていきなり?

しかも咲耶とリースまでいるってのがなぁ。あとでデンライナー行って、確認しておかないと。


「だがその」

「ここで放置はしませんよ、最後まで協力しますから」

「……ありがとう。それじゃあ話を対策に戻すが」

「王については、私とレヴィで説得したいと思います。
少し思うところもできたゆえ、あの調子で暴れられても迷惑です」

「ボクもボクもー!」


レヴィが元気よく手を挙げると、やっぱり守護騎士メンバーが訝しげな顔をし始める。


「なんでよ。それがアンタらの望みやろうが」

「ヤスフミやアムといろんな欠片と戦って、なんかこう……胸の中がモヤモヤーってしてきたんだ。
もし戦争や殺戮なんてする必要がないなら、システムU-Dを手に入れて大暴れなんてイミフかなって」

「私もです。我々は違う道に進むとしても、きっと友になれる」


そこでレヴィは僕をちらりと見て、小さく笑いかけてきた。


「その可能性を消す事は、あまりに愚策……この短い時間でそう感じてしまいました。
まさかレヴィも同じだとは思いませんでしたが。この子は単純ですし」

「むー、ヒドいよシュテるんー!」

「……うちは反対や。クロノ君、もう一度言うけどこの子達は封印・破壊するべきや。
王様ともどもいつ寝返るか分かったもんやない。ここで戦力を削るのが定石やろ」

「駄目だ。それは僕達の戦力も削られる事を意味する。はやて、君だって分かってるはずだ」

「分かってるよ。コイツらが信用できんのはな」


なんてバカな事を言うはやてに、ワイヤーベルトを投擲。額にカラビナを思いっきりぶつけてやる。

はやては呻きながらあお向けに倒れるけど、それは無視でベルトをそのまま回収。


「アンタなにするんっ! てーか未来でもダイナミックツッコミかっ!」


あ、すぐ復活した。さすがたぬき、汚いたぬき。


「はやて、おのれはあむが言ってた事を理解してないの?
現状で戦力カツカツなのに、身内で争ってるんじゃないよ。しかも個人的感情で」

「身内ちゃうやろっ! それに個人的感情でもないっ! あと戦力なら、アンタの友達がいるやろっ!」

「なにそれ怖い、どこの徴兵制度? てゆうか、間違いなく個人的感情でしょ。あと、もう僕にとってレヴィもシュテルも身内だ」


はっきりそう言い切って、隣に座るレヴィの頭を優しく撫でてあげる。


「手を出すなら、僕と殺し合いするって事を覚えとけ。相手がシャマルさん達だろうが、絶対に容赦しない」

「ヤスフミ……ありがとー!」


またレヴィが抱きついてくるので大丈夫と頭を撫でてあげると、なぜかあむとヴィヴィオとアインハルトが凄い目をし始めた。


「恭文、フェイトさんに報告だから」

「だねぇ。フェイトママとか歌唄さんとかどうするのかなぁ。うぅ、ヴィヴィオは胸が痛いよ」

「その、浮気は駄目かと。……いえ、浮気ではなく一夫多妻制ならば、問題はないでしょうけど」

「え、なんでそうなるっ! アインハルトも誤解してるからっ! 浮気とかじゃないからっ! あとそういう本気でもないっ!」

「……ちょっと待てっ! フェイトママっ!?」


ほらー! クロノさんがすっごい驚いた顔してるしー! みんなまで食いついてきたしー!


「あー、違います違います。フェイトが一時期後見人をしてた事があって……あれですよ、エリオみたいな感じで」

≪その時にママ呼びが染みついたんですよ≫

「あぁ、それでか。驚かさないでくれ、僕はてっきり」

「そうだよー。ヴィヴィオは子どもじゃないよ? 恭文の愛人なんだから」


そこで僕はすかさずヴィヴィオに向かって、涙目で拳を振り下ろしてしまった。

暴力とか言わないでほしい。この場でバカな事を言う子に、軽めの教育をしただけなんだ。


「……ごめんなさい。この子は最近早めの厨二病をこじらせてしまって。
ただならぬ恋とかを、かっこ良いとか思ってるんです。優しい目で見てあげてください」

「厨二病じゃないよー。ヴィヴィオは将来的に恭文の愛人として頑張るんだから。
ヴィヴィオ、バスト100センチオーバーは確定だよ? 恭文巨乳好きだし」

「だから愛人とかやめてよっ! せめて妻を目指さないっ!? 普通妻だよねっ!」

「ううん、愛人でいいよ? ヴィヴィオ、恭文を縛ったり家庭を壊すつもりはないから。
ただ時々、ヴィヴィオも恭文とくっついたりラブラブできたらなーって思うだけだから。
それに原作よりはいいと思うんだ。原作だと百合路線まっしぐらだし。
なんかこう……未来に希望が持てないっていうのかな。ヴィヴィオだってあむさんみたいに」

「「なんかそれ違うっ! 愛人って名乗る時点で家庭が壊れちゃうからっ!
あとあむ(あたし)は愛人じゃないからっ! ホントそれやめようかっ!」」


もう一発げんこつを食らわせてから、僕達はせき払いをしてにっこり笑う。でも……全員の視線が厳しいのは変わらなかった。


「……恭文、その子とはまたちゃんと話した方がいい。お前がなにかこう、やったのはよく分かった」

「恭文くん、そんな小さな子にまで……それなら私も現地妻にしてよっ! ううん、なっているのよねっ!
私は正真正銘恭文くんの現地妻として、時々でも愛し合っているのよねっ! ねぇ、そうよねっ!」

「すみません、未来の事には口チャックで」

「いいえ、答えてっ! それが無理なら今ここで私を……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ! 屈辱だわっ! 屈辱過ぎるっ!」


泣き出したシャマルさんはガン無視で、僕はクロノさんの方を見る。


「それでクロノさん、システムU-Dの居場所は……というか、あの厨二病の居場所は」

「そうだな、まずはディアーチェの確保だ。どうしたものかと思っていたんだが、シュテル達が協力してくれるなら助かる。
シュテル、レヴィ、ディアーチェの復旧状況はどうだろうか。君達は彼女とリンクしているし、その辺りも」

「もうすぐと言ったところです。なのでみなさんが出発してから、私の方で説得を続けています」

「そうなのか。……状況は」

「全く納得しません。元々王は気位が高い……というか意地っ張りなので、自分が間違っているようで辛いみたいです」


そこでヴィヴィオとアインハルト以外の全員がため息を吐くのは、あの様子を見て納得してしまうから。下手すると、欠片達より強敵かも。


「ですが継続して説得していこうと思います。レヴィ、あなたも手伝ってください」

「もちろんだよ。あのね、ボク『夢』を見つけたんだ」

「夢?」

「ヤスフミの友達……の欠片が、教えてくれた。夢はどんなに小さくても、自分がやりたいと思う事。
ボク達でも夢を持って、それを叶えるために頑張っていけるんだって」

「そうですか。それは素晴らしい事です」


シュテルは本心からそう思っているらしく、優しい笑顔を浮かべる。その様子を見て、八神家は居心地悪そうな顔をする。

まぁそこも自業自得なので……さて、どうするかな。状況はかなり最悪だけど。とにかく今は、身体を休めようか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……そんな事を考えていた僕は、きっと甘ちゃんだった。だってデンライナーへ乗り込む仕事、残ってたもの。

あむを連れて、アースラのドアからデンライナーへ乗り込む。そうして車両前方から食堂車へ入り。


「みんな、来てくれてありがとうっ!」

「マジ助かったよっ!」

「恭文ー!」


リュウタがこっちへ飛び込んでくるので、受け止めてその場で一回転。あぁ、このハグが心地良い。

それでモモタロスさん達やハナさんも、リュウタに続いてこっちへ来てくれた。


「全くよぉ……青坊主、テメェは運悪すぎだろっ! 俺達が来なかったらどうするつもりだったんだよっ!」

「ホントだよねぇ」

「恭文さんー!」


そこでリインが飛び出し抱きついてくるので、しっかり受け止め頭を撫でる。

……この感触で安心する僕は、やっぱりリインを振りきれないのかもしれない。


「うぅ、良かったのですー! ようやく見つけられたのですー! あむさん達も無事でなによりですー!」

「あっちこっち回ったしなぁ。……で、一体どういう事なんだよ」

「俺らもお前に用があって、呼びに行ったらこれやしなぁ」

「用?」

「ヒーロー大戦だよ」


そう言ってきたのは、未だに契約中なカブタロス。どういうわけか隣の白子と、困った様子で顔を見合わせていた。


「む……シルフィーちゃんパンチッ!」


いきなりシルフィーが右ストレートを打ち込んできたので、すっと左に避けておく。


「なにをするっ!」

「今恭文くん、また私の事白子とか言ったでしょっ! てゆうか避けるなー!」

「だから地の文を読むなっ! ……で、ヒーロー大戦ってなに」

「あの馬鹿もやしのせいだよー! アイツがヒーロー大戦起こしてくれちゃったのっ!」

「はぁっ!?」


あの人絡んでたんかいっ! ちょっとちょっと、そのライダー大戦の二の舞チックなのはなにっ!

あの人どうしてそういう役回りしかしないのっ! 世界の破壊者だからですかっ!


「あの馬鹿、戦隊の連中と派手にドンパチしやがったんだよ。しかも他の世界のライダーまで連れてな。
……まぁ目的ありのマッチポンプだったけどなっ! アイツ、また世界中振り回しやがったんだよっ!」

「こらこらカブちゃん? 君はまたじゃないでしょ、また振り回されたのは僕達」

「だよねー。あ、そっちは空海達にも手伝ってもらって、解決したよー」

「アイツら引っ張ってきたんかいっ! ……えっと、どういう事?」

「つまりね、まず私達はそういう戦いが起きたって分かって、止めようとしたの。それで恭文君達に協力をお願いしたかった」


まぁディケイド関連では、相当問題続きだったしねぇ。しかも戦隊対ライダーでしょ?

規模も大きいし、それを止めようと思ったら……そりゃあなぁ。


「でもお前んとこ行ったら、お前とあんみつ達が揃って消えたって話になっててよ。
オーナーのおっさんが時間の歪みがあるっつってたから、跳ばされたってのはすぐ分かったんだが」

「ただこっちも緊急事態だし、すぐに探すのは無理だったの。
それを見かねて、空海君とりまちゃんが協力してくれて……そっちは無事に解決したわ」

「じゃあその上で、あたし達の事を探しに来てくれたの? だったらリース達がいるのはなんでかな」

「あむ、それ聞く必要ある?」

「……ですよねー」


姿は見えないけど、幸太郎と恭太郎も呼びつけたんでしょ。当然二人もついてくるから……って理屈だね。

なるほど、デンライナーに乗れなかったのはこのせいか。ディケイドに関わってる最中なら、そりゃあなぁ。


「じゃあ良太郎さんと幸太郎達は」

「あぁ……それならターミナルや。駅長と一緒に、あの馬鹿もやしとマーベラスに説教かましとるで」

「……マーベラスっ!? まさか、キャプテン・マーベラスですかっ!」

「それや。本人はそのまま大団円にしようとしたんやけど……ほれ、ディケイドと一緒におったもう一人の恭文」

「あれが事後に二人を捕まえて、説教コースに持っていっちゃったの。可哀想にねぇ」


キャプテン・マーベラスというのは、海賊戦隊ゴーカイジャーのゴーカイレッド。宇宙海賊の船長なんだ。

でもまさか、そこで説教って……マッチポンプとやらに協力したとか? なんでそんな事になったんだろう。


「……でも」

「どうした、青坊主」

「ヒーロー大戦って事は、もしかしてヒーロー勢揃い? ライダーも戦隊も、最後には一丸となって暴れたりとか」

「暴れたねぇ。もう誰が誰だかって感じだったよ、もはや軍隊の域だし」

「なんて羨ましいっ!」


ねぇ、それ見たかったんだけどっ! なのにどうして僕は今、再生チート軍団とバトルッ!?

おかしいよね、これっ! 現状があまりにおかしい……あれ、みんながそっぽ向いてため息吐いた。


「だよな、お前青坊主だもんな。そうだよな」

「僕達、かなり苦労したんだけどねぇ。まぁ空海は楽しそうだったけど」

「まぁ元気そうでよかったわ。ほなとっとと帰るか」

「だよねー。恭文達も見つけたしー」

「あー、それなんだけど」

「それは困りますねぇ」


車両後方からそう言いながら入ってきたのは、もちろんあの人。ステッキを突きながら、指定席にすっと座る。


『オーナー!』

「恭文くん、君達が今戻ると……彼らは負けてしまいますよ?」

「……ですよねー」

「オーナー、どういう事ー? 恭文が戻るの困るって、駄目だよー。恭介くんやアイリちゃんだって寂しがるのにー」

「その二人が生まれてこないかもしれない。そう言えばどうでしょう」


ナオミさんはすかさずカウンターへ戻り、チャーハンが盛られた皿とスプーンをオーナーの前へ置く。


「ねぇ恭文、オーナー共々納得って感じだけど、僕達はそこの辺りさっぱりなんだよねぇ」

「だよな。お前が戻るの駄目って、どういう事だよ」

「わたし達に説明プリーズー! というかそれだと、フェイトちゃんが不幸だから駄目ー!」

「……実はさ、かなり面倒な事になってて」


ここからは『かくかくしかじか』で説明。それでみんなは納得したらしく、やや困りながら『あー』と声を揃えた。


「直接的責任はないけど、僕達の記憶で強敵がぞろぞろ出まくっているのは確かだから」

「恭文くんがこれまで戦い、なんとか勝利してきた相手ばかり……ですからねぇ」


オーナーはスプーンでチャーハンの山を崩し、そっと口に入れる――いつものアレだね。


「しかも今回は、ルルさんやクチヒコ・ミミヒコまで出てきました。その強さは……本物とほぼ同じ」

「実はわたくし、見た時動揺しておりました。幽霊かと思いましたし」

「そりゃ怖い。この調子だとネガタロスとかも出るんじゃないの? 王様イマジンとかもさ」

「かもね。それでね、あたし達以外のみんなは……そういうの無理じゃん?
あたし達はなんかこう、もう一度戦ってるからーって補正かかってるけど。
特に厄介なのが、キャラなりしてる相手なんだ。特殊能力が強いのばっかで」

「このままじゃ全員揃って負けて、今が変わるっちゅうわけか。また面倒な」


あむも何気に動揺しているのは、自分達がそれを乗り越えた経験があるから。

だから一般ピーポーからすると、あそこまで苦戦するものって意識がなかったみたい。

まぁどれもこれも対峙した時は、基本緩い感じだったしなぁ。それもシチュが変わればって事か。


「うー、でもそれ、恭文やあむちゃん達悪くないじゃんー」

「でも放っておくわけにもいかないから。まぁそういうわけで」

「うっし、オレ達も協力するぜっ!」


そう言ってカブタロスは笑って、僕の頭頂部に左ひじを載せてくる。


「まぁ仕方ありませんね。ですがこの時間のみなさんに、デンライナーやイマジンの事がバレても面倒です。
恭文くんの話通り記憶封鎖が行われるとしても、基本協力はリインさん達が行う方向で」

「分かってるって。それじゃあ恭文、必要ならいつでも呼んでくれ。変身するからよ」

「あ、わたしもわたしもー!」

「二人とも……ありがと」


僕はそう返しながら、右ひじでカブタロスの腹をどついておく。カブタロスは衝撃で呻き、そのまま崩れ落ちた。


「ぐふぅっ! ……げ、解せぬ」

「僕をみじんこのように扱うからだ」

「いや、そもそもみじんこじゃあ肘乗せられ」


そんな事を言うカブタロスの顔面に、右足で軽く蹴りを打ち込む。


「ぎゃあっ!」

「カブちゃん、相変わらず迂闊だねぇ」

「ほんまやなぁ。それで恭文、これからどないするんや」

「まずは一旦休憩です。その間に次の戦闘準備をって感じで」


とにかく来てくれたのは本当にありがたい。重々お礼を言った上で、トーマ達の送り迎えもお願いする。

オーナーも快く了承してくれたので、僕達は意気揚々とアースラへ戻った。……なんだろう、希望が見えてきたよ。

でもヒーロー大戦に参加できなかったのは絶望した。僕、やっぱり運悪いのかなー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


それからすぐにトーマとリリィを訪ね、ヴィヴィオとアインハルトも呼び寄せた上で事情説明。

デンライナーの事もちゃんと話しておかなきゃだし、ここは抜く事ができない。


「――まるで意味が分からないぞっ!」


その結果、トーマは割り当てられた部屋で頭を抱えた。


「トーマ、わたし……もう意味が分からない。なに、このカオス」

「ぴよぴよー」


ルティはトーマと同じく困惑した様子のリリィへ近づき、その頭にちょこんと乗る。


「こらルティ、駄目じゃん」

「ううん、いいよ。ありがとうルティ」

「リリィ、カオスなのはいつもの事だよ。これが僕の日常だよ」

「そ、そうか。まぁ俺達も……なぁ?」


二人が顔を見合わせ苦笑いするのは、身体の事とかがあるせいだと思う。ウィルスに感染して……だしねぇ。


「……あの」

「なに、アインハルト」

「その列車を使えば、過去へ行けるのでしょうか。例えば」

「過去を変える事はできないよ」


アインハルトの言いたい事はすぐ分かったので、時の運行に関わる先輩として真っ向否定しておく。

それでアインハルトは息を飲み、苦しげに右手で胸を押さえる。


「過去を変えれば、それに基づく形で歴史が修正される。
場合によっては小さく見える事が、未来に大きな影響を及ぼす事だってある。
だから変えちゃ駄目なんだよ、特に聖王を助けるなんて事はさ」

「そう、ですか」

「もうおのれの手は聖王に届かない。だから……今届かせたい人にちゃんと伸ばせ」


アインハルトは悲しげな顔をしながらも、小さく頷く。納得はしてくれたようなので、一安心。


「でも恭文、どうするの?」

「どうするもなにも、クロノさん達と一緒にやるしかないでしょうが。僕達だけでも欠片殲滅は無理だ」

「だよねー。鬼達やなぞキャラなりまで出てきてるんじゃ、もうお手上げだよー」


ランの言葉に頷くあむへ手を伸ばし、頭を撫でてからすっと立ち上がり背伸び。


「ちょっと出てくるわ。あむ、トーマ達と休憩してて」

「いやいや、どこ行くわけっ!?」

「クロノさんのところだよ。実は『そろそろ動きそう』って教えてもらっててさ」

「動きそうって、誰が……あ、フォン・レイメイっ!」

「いや、違う」


軽く笑って、みんなに背を向けて部屋のドアへ歩き出す。


「あの馬鹿二人だよ」

「……まさか、蒼にぃっ!」

「そういう事っ!?」

「うん」


クロノさんはやっぱり優秀だねぇ。この状況でも、ちゃんと二手三手先まで読んでくれる。

しかも僕を頼ってくれるのがまた嬉しい。僕はみんなに手を振り返しながら、部屋から出た。


(Memory17へ続く)










あとがき


恭文「というわけで、A's・Remixの代わりにこっちが先に書けたVivid編です。久しぶりだねー」

フェイト「そうだね。あ、フェイト・T・蒼凪です」

恭文「蒼凪恭文です。そんなワケで拍手の話も交えつつ話も後半」


(そして後半はやっぱり大変な事に)


恭文「……ゲームでも総力戦だしなぁ」

フェイト「そういう扱いでようやくだしね。それでヤスフミ、幕間の方がもう6話仕上がったとか」

恭文「うん。とまかのも込みだし、なんとかね。それで今回はこんな感じです」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『――さて、次は天海春香さんです』


点けっぱなしにしていたテレビはちょうど、ゴールデンの音楽番組を放送中。

その中でいっぱいの笑顔をこっちに届けてくるのは、栗色の髪を揺らす女の子。

軽快なデザインをした、ピンク色の衣装がその笑顔の明るさを強めている。


『春香ちゃん、久しぶりだねー』

『はい、お久しぶりですっ! またこちらの番組に出られて光栄ですっ!』

『ありがとー。でも髪、少し伸びた? てゆうかまた大人っぽくなってー』

『あははは、どうもー』


ヤスフミはその子が出ると、テレビに注目して嬉しそうな表情を浮かべた。それを見て、私はクスリと笑う。


「ヤスフミ、天海春香ちゃん好き?」

「え?」


というか、765プロ所属のアイドルさん達かな。実は前々から気になってたんだよね。

どういうわけかヤスフミ、みんなのCDを集めたりしてるし。それでヤスフミは、苦笑しながら頭をかく。


「まぁ好きというか……昔なじみだしねぇ、そりゃあ気になるよ」

「そっか、昔なじみ」


ヤスフミの表情が可愛らしかったから、そのまま流しかけた。

でも違和感に気づいて私は、また前かがみになってヤスフミに詰め寄る。


「はぁっ!? ヤスフミ、それどういう事かなっ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


フェイト「えっと、これは」

恭文「僕の誕生日記念小説でやった、本編軸な765プロメンバーとのお話だね。ちょっと書いています」

フェイト「あぁ、あの話だね。二週間の間だけっていうの」

恭文「そうそう。それで他には」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


さて、ドキたま第7巻を最後まで読んでいるみんなは……分かるでしょ。一つとんでもないオチがついたのを。

それは空海とダイチだよ。二人はどういうわけか、時間改変の影響を受けていなかった。

その話を帰ってから聞かされ、驚いた僕達は緊急会議を開催。結果全て話す事にした。


まぁ空海達なら大丈夫だろうと思い、今日は早速その実行日。ゾロ目な時間にあむと空海を連れて、ドアを開ける。

そうして虹色の空が広がる、岩と砂の世界へ突入。空海は僕の後をついていきながら、驚いた様子でキョロキョロしていた。


「す、すげぇ……おい、これマジかっ! マジであれなのかっ!」

「じゃあ目の前で止まってる電車ってあれかっ! あれなのかっ!」

「あれだよー。空海がどうして時間改変でも無事だったのかは……オーナーに聞いてみようか」

「てゆうか……空海、少し落ち着きなよ」

「あむちゃん、それは言う権利ないよー。あむちゃんだって慌ててたしー」


それであむが唸るのは気にせず、停車しているデンライナーへ乗車。食堂車前方の入り口から。


「みんな、やっほー! またまた来たよー!」

≪どうも、私です≫

≪今日はお客さんを連れてきたのー!≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文「空海がデンライナーと初めて関わったお話もやります。こっちはまた別の要素も絡むけど」

フェイト「ドキたま第7巻から、直接続いてる感じかな」

恭文「そうそう。それでとまかのの方ですが、実は……前に載せたパイロット版からパワーアップしております」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


まず私達がやった事は、隊舎との連絡。ロングアーチのサポートを受けて、襲撃に対処って感じだね。

でも……その通信はノイズ混じりで、明らかに異常なものだった。それで聴こえた単語は、『戦闘機人に襲撃された』。

それで全員の顔が一気に青くなる。この場合、優先するべきは……私は軽く舌打ちする。


「ギン姉……ギン姉っ!」


でもそれでいら立つ前に、トラブル発生みたい。ギンガが更に顔を青くして、いきなり声を張り上げた。


「スバル、どうしたの?」

「ギン姉と通信が通じないんですっ! ブリッツキャリバーもっ!」

「……二手に別れようっ! スターズはギンガの救援っ! ライトニングは六課隊舎の方へっ!」

「……いや」


その言葉に首を振り、私は頭の中で状況を整理。それで指示すべき事をいくつか出した上で。


「私は六課隊舎へは行かない」


みんなに向かって、はっきりと宣言していた。というか、なのはが言い出した以上こうするしかない。


「な……フェイト隊長っ!」

「六課隊舎へはなのは隊長とキャロ、エリオで行くの。それでキャロ、緊急事態だから転送魔法で移動して」

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フェイト「あ、これは中央本部襲撃だね。でも本編だと」

恭文「この辺りの話はなかったね。崩壊ルートとかはあるけど、僕が関わってたし。
なので新規描き下ろしです。書き下ろし部分は他にもあって」


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「ゆりかご?」

『……恭文がユーノ君の方、手伝ってくれたおかげで分かった。データ送るから見て』

≪確かに受け取りました≫


それで別のモニターが展開すると、戦艦みたいなのが出てきた。というか、その設計図っぽいの?

ただこれ……なに? なんか大きさを示す単位が、キロとかになってるんだけど。


『古代ベルカ時代に聖王が保有し、戦乱の世を治めた決戦兵器――『聖王のゆりかご』や。
どうもヴィヴィオが攫われたのとか、今回のクーデターを企んだのとか、全部ここに集約されるっぽい』

「どういう事?」

『まずこれは現存していた時代から、既にロストロギア扱いを受けていた最強の質量兵器。
この手のは全部秘匿級の扱いやけど、どうもこのゆりかごはブッチギリっぽいんよ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


フェイト「あれ、また私のシーンだ」

恭文「まぁこれだけで分かると思いますが、今回のとまかのはJS事件をやります。
ただそっちはStS・Remixやミッション話でやってるので、展開をかなり変えています」

フェイト「いわゆるダイジェスト?」

恭文「そうそう。その中でフェイトは主人公張りの活躍を……見せるはず」

フェイト「なんでそんなにあやふやなのかなっ!」


(だってまだ途中だから。それでは幕間第7巻、ぜひお手に取ってみていただければと思います。イラストもまたつけていきますので。
本日のED:AAA『Climax Jump』)









春香「またまた同人版に登場ですっ!」

フェイト「春香ちゃん、楽しそうだね」

春香「はいっ!」

フェイト「でもそうなると、誰かにフラグ立てるのかな。ヤスフミ、モテるし」(そわそわ)

春香「え、えっと……そういう話じゃないような」


(おしまい)





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あきゅろす。
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