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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第31話 『Wの世界/Iに包まれて 魔導師、降臨』


恭文(OOO)「前回のディケイドクロスは」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「だってー、プロデューサーさんのお姫様抱っこ凄いのよー?
私は将来的にプロデューサーさんのお嫁さんだしー。甘えていいのー」

「はぁっ!?」

「なんと。二人の関係はそこまで進んでいたのですか」


いやいや、そんな事は……そんな事あったー! 僕、確かにそういう話してたっ!

家デートの時にしてたっ! 反論できる要因ないしっ! 確かに……え、ちょっと待って。

今のはその、OKって事? そういう感じでOKって……酔っ払ってるから、忘れようっと。


「いや、あの……ほら。立ちましょうね、それで」

「迷子になりますー」

「どんだけ方向音痴っ!? 目と鼻の先じゃないですかっ!」


とは言ったものの、この調子で話しててもしょうがない。僕はあずささんへ近づき、そのままリクエストに応える。


「うふふ」


あずささんは嬉しそうに笑って、僕にぎゅーっと抱きついてくる。

お風呂に入った後だから、石鹸とまた別の甘さが漂ってきて、かなりやばい。

が、我慢だ僕。竜宮小町が始動したこの段階で……何度も言うけど、律子さんがやばい。


「このままベッドに連れていかれると……今彼女になっちゃいますね」

「そ、それはマズいです。やっぱ僕ネカフェで」

「だから駄目ですって。私、迷っちゃいます」

「寝ながらどこへ行くつもりですかっ!」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文(OOO)「社長、すみません。かなりギリギリです。てーか最悪ゾーン過ぎる」

高木社長「まぁ若いからしょうがないとは思うが、結構踏ん張っているようだね」

恭文(OOO)「……さすがに、その」

高木社長「なんだね」

恭文(OOO)「一気に二人とかは……ちょっと。いや、エッチな事抜きの話なんです。
あずささんOKして貴音もOKとか、どう考えてもアレ過ぎて。
やっぱりこう、そういうのは一対一の時にお話して、その上で決めるべきかなと」

高木社長「……三人一緒の部屋で、逆に良かったのかもしれないねぇ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


前回のあらすじ――初めての旅m@sは、地獄でした。このまま二人と、添い寝くらいはしてOKだと思うのに。

ほっぺにちゅーくらいはOKだと思うのに。なのに……プロデューサー業、辛過ぎる。

そのせいか布団に入っても寝つけたりせず、悶々と二人に背を向け寝ていた。てゆうか、あっち見れない。


だってあっちには、仲睦まじく寝ている二人がいる。そんなの見たら僕、きっと泣いちゃう。てゆうかもう、泣きたい。


「プロデューサー」


それでも必死に眠ろうとしていると、貴音が声をかけてきた。


「なに?」


さすがに背中を向けたままも失礼なので、小さく返しながら寝返りを打つ。貴音はやや困った顔で、こっちを見ていた。


「寝苦しいです」

「……僕、床で寝ようか?」


ソファーでもあればそこで寝るんだけど、悲しいかなあるのはテーブルと椅子、冷蔵庫くらい。

一応床で寝るとも言ったんだけど、二人にそれは却下された。寝袋も常備してたんだけど。


「いえ、二人分だからではないのです。わたくし……ぱじゃまはふだん、使わないもので」

「そうなの。じゃあ」

「ねぐりじぇなどが多いです。あとは浴衣」

「耐えてください」

「いけずです」


ごめん、今ネグリジェとか見たらどうなるか分からない。僕のライフは0なの。


「てゆうか、それならどうしてパジャマ?」

「わたくしもまだまだ。そういう事です」

「動揺させてたかな」


おそらく事件の事とかで、つい……って感じだと思う。まぁ貴音は一般人だし、しょうがない。


「いえ、プロデューサーのせいではありません。わたくしが、ただ未熟なだけ」

「こういう状況では未熟でいいよ、貴音は一般人なんだし。
それで駄目なのは、首突っ込んでなんとかしようって人間だけだ」

「ありがとうございます。……やはり、寝つけません」


貴音は苦笑し、ゆっくりとベッドから起き上がる。


「少し散歩に出てきます。プロデューサーはそのまま」

「そうはいかないよ」


それに続いて僕も上半身を起こして、軽く伸び。


「旅先だし、さすがに一人は危ない。僕も行く」

「ですが」

「いいから。ついでに浴衣も調達しようか、ホテルの人に言えば多分」

「……ありがとうございます」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一旦服に着替えて、僕達は夜の散歩に出た。なお、あずささんが起きた時のために、書き置きも残している。

万が一に備えて『飲み過ぎないように』とも書き加えて、静かな京都の町を歩いていく。


「貴音は月を見るの、好きなんだよね」

「はい」

「なら残念だね」


駅の近くという事もあって、何気に街中は明るい。でも夜空で輝く満月は、とても綺麗に見える。

それを見上げながら僕は、左手にあるライトアップされた白いタワーを見た。

京都駅のすぐ近くにあって、ホテルも併設されている京都タワーだよ。もう閉まってるけど。


「ここから見たら、もっと月が近くなる」

「確かに。ですがこうして歩きながら見上げる月も、また格別」


貴音は吹き抜ける風に揺れる髪を、右手で抑えながら右隣の僕を見る。

そうしてほほ笑む貴音は、月の光に照らされて綺麗……ううん、神々しかった。


「プロデューサーと一緒だからでしょうか」

「そう言ってもらえると嬉しいかな。月、綺麗だね」

「えぇ」


そうして少しの間、静かな散歩を続ける。自然と手を繋いで、月を見上げ続けていた。

さすがの僕も、この状況で貴音を口説こうとは思わない。それは……あまりに野暮だもの。





世界の破壊者・ディケイド――幾つもの世界を巡り、その先になにを見る。


『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路


第31話 『Wの世界/Iに包まれて 魔導師、降臨』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そして翌日――ホテルのモーニングをしっかり食べ……訂正。貴音一人だけが異常に食べ、新幹線へ搭乗。

そこで貴音は駅弁を食べ、その様子にあずささんと呆れながらも東京へ戻る。東京駅から山手線で事務所へ戻り。


「ただいまー!」


みんなにこうやって、挨拶をするわけである。そんな僕達の両手には、おみやげがたっぷり。

すると応接室の方から、ハードボイルドルックな男と緑色のジャケット姿な男が出てくる。


「恭文君、おかえりなさい。……変な事しなかったでしょうね」

「律子、それはありませんよ。プロデューサーはとても真摯でした」

「えぇ、とっても。それでえっと」

「あ、プロデューサーさんにお客様です。えっと……探偵さんだって」

「うん、大丈夫」


知ってる人だと春香へ頷きを返し、そのままソファー近くまで進んで荷物を置く。


「翔太郎、フィリップ、久しぶり」

「あぁ」

「約束通り来たよ」


そうして二人とがっしりと握手をすると、翔太郎が早速分厚い封筒を渡してくる。


「これがまとめた資料だ。警察の方でも同じものを見るとは思うが」

「いやいや、助かるよ。ありがと」


それをさっと懐へ仕舞ってから、おみやげを改めてソファー手前のテーブルへ置く。


「律子さん、僕はまたすぐに出ますので」

「まぁ言っても無駄だとは思うんだけど……他の人に任せる事はできないの?
あなたはアイドル事務所のボディガード兼プロデューサーで、今は忍者じゃないわ」

「プロデューサー、私も律子と同意見です。なによりこれで事務所に被害が出たら」

「千早、被害ならもう出てるよ。……律子さん、IDOL BATTLEは打ち切りだそうです」

「えぇっ!」


いきなりそこをツツかれた律子さんは、驚いて椅子を倒しながら立ち上がる。


「元々IDOL BATTLEで、竜宮小町はデビューするはずだった。だから被害なら出てるのよ。
これで竜宮小町のデビューは遅れるだろうし、今更そこを議論する意味がない。
しかも亜美と真美、やよいも危うく殺されるような距離にいた。無関係では通せないのよ」

「それを言われると……でも律子、そうなの?」

「そうなっちゃう、わね。少なくとも出鼻はくじかれたし、縁起も悪い。
プロモーション計画も練り直しだろうから……でも恭文君、打ち切りの話はどこで」

「そこは情報網があるんで。スタッフが全員逃げ出しかねない状況ですし、致し方なしって感じです」


律子さん、ショック受けてるなぁ。初プロデュースでこれだし、まぁしょうがない。

ただ僕は気合いが入れ直せたので、コートの襟を両手でしっかり正す。


「なにより、千早はとんでもない勘違いをしてる」

「なんでしょうか」

「僕は連中のためになんて、動くつもりはない。連中は利用すべき駒であって、被害者でも依頼者でもないもの」


そう言いながら踵を返し、あずささんと貴音の脇を取って外を目指す。


「僕が動くのは、僕のためだ。……早めに止めないと、相当やばい事になるしね」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そのままプロデューサーさんは出ていって、フィリップさんが後を追い始める。


「翔太郎」

「あぁ。じゃあお邪魔しました」

「えー、翔太郎っちもう行っちゃうのー?」

「フィリップも検索もっとしてよー。遊んでよー」

「こら、袖を掴むなっ! 伸びるだろうがっ!」


翔太郎さんに亜美と真美が……私は慌てて二人を止め、頭を撫でてなだめる。


「悪いな」

「いえ。でも」

「君達の言いたい事は分かる。だがインジャリーメモリを止めるなら、彼に任せるべきだ。
おそらく僕達は誰が介入してきたとしても、ただのサポート役になるだろう」

「でも……ただ触れただけで死ぬかもしれないのに」

「だからさ」


不満そうな千早ちゃんに、フィリップさんがドアを開けつつそう返した。


「彼のメモリは相手が強力であればあるほど、力を発揮する」

「それ、どういう事ですか?」

「フィリップ。……大丈夫って事さ。まぁ任せてくれ」


そのまま二人は出ていって、後に残ったのはどこかもやもやした空気。だってプロデューサーさん、結局……だもの。

千早ちゃんも昨日あれだけ言ってこれなせいか、イライラしているようにも見える。

私はとりあえず千早ちゃんを座らせて、頭を撫でて落ち着かせた。……お願い、なにも起こらないで。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「やっくん、おまたせー!」

「束」


一階に下りた途端、姿を現した束に抱きつかれた。優しく頭を撫でると、束はぱっと離れてにこやかに笑った。


「ごめんねー、束さんが借りてなかったら」

「いいよ、こんなの予想外だし」


そうして差し出してくるロストドライバーを受け取り、こちらも懐へ収納。


「ところで、それは?」

「ふふー、よくぞ聞いてくれましたー」


束が背にしているのは、蒼のモタードバイク。流線型のフォルムがぶっちゃけカッコ良い。


「やっくんのために束さんが作った、スーパーマシンだよー! 名付けてウィザードサイクロンッ!
最高時速400キロで、ISの絶対障壁も搭載したまさに夢のバイクッ!」

「そんなのをこの狭い国で、どうやって乗り回せと」

「そこは段階を踏んでリミッター設定かけてるから、街乗りも楽々こなせるよー。
そのためにIS用のコアも搭載して……あ、これもがキーね」


束からキーを受け取り、ヘッドライト近くの鍵穴に挿入。それを回し、エンジンをかけると……おー、良い音してるなー。


「気をつけてね」


それでつい嬉しくなっていると、束が黒のフルフェイスヘルメットを渡してくる。それを受け取り、素早く頭にかぶる。


「それで絶対、帰ってくるように。束さんだけじゃなくて、みんな待ってるんだから」

「もちろん。てゆうか、知らないの? 僕は死なない」

「それ死亡フラグー」


束は笑って、僕に思いっきりハグ。それから少し離れ、手を振ってくれる。それに返してからバイクに跨り、まずは周囲の安全確認。

翔太郎達もスポーツレーサータイプのバイクに乗ったのを確認してから、ゆっくりとバイクを走らせた。


「行ってらっしゃーいっ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


まずは警視庁へ行き、受け付けを通してしばし待つ。そうして近くのソファーで腰を落ち着けていると。


「はい、恭文」


こっちへ白コート姿の女性が近づいてきた。髪は銀髪ショートで、ややつり目。

両手には黒皮の手袋を装着し、それをこちらへ差し出してくる。


「リスティさんっ!」


僕はすぐ立ち上がって、それに応える。それからすぐにリスティさんからハグを受けた。

リスティさんはやや小柄だけど、スタイルは悪くない。なのでちょっとドキドキしてしまう。


「できればこういうところじゃなくて、ホテルの方がいいんだけどね。いつもはそうして遊んでるから」

「確かに」


この人が噂のリスティさん。僕の彼女……の、つもりなんだけどなぁ。なぜか本人は現地妻と言っている。

デートもしてるしエッチだってかなりの回数……うぅ、遊んでるみたいで胸が痛いです。

でもリスティさんは『そういう関係の方が刺激的だし楽しい』って言って聞いてくれないし。


「ところでリスティさん、そろそろ現地妻ではなく彼女に」

「気が向いたらね。もちろん将来的には……責任取ってもらうよ? もう遊びで割り切れるほど、繋がり浅くないし」

「なら良かった。それでこっちが」


そこは一旦置いて、リスティさんから離れる。そうして右手で、同じように立ち上がっていた翔太郎達を指した。


「あぁ、例の探偵だね」

「どうも、左翔太郎です。こっちはフィリップ」


翔太郎はソフト帽を右手で外し、静かにお辞儀。慌ててフィリップにも倣わせる。


「リスティ・槙原です。……まぁ本来なら捜査関係者でもない君達に、資料を見せたりするのは駄目なんだけど」


そう言って苦笑しながらもリスティさんは踵を返し、スタスタと歩き出す。僕達もそれについていく。


「今回は完全にお手上げでね。例のメモリが絡んでる関係で、やっぱり立証も難しい。本人の証言が取れれば」

「それも難しいと」

「そう。まぁ君の事だから、なにか手は考えてるんだよね」

「もちろん。ただそれをやる前に、やっぱりしっかり現状確認かなと」

「うん、相変わらずだね」


リスティさんはボクへ振り向き、苦笑する。それがちょっと恥ずかしくて、照れ笑い。


「まぁボクの協力者って形にしておくから、なにか気になったらいつでも言ってよ」

「助かります。あと」

「分かってる。メモリの事は内密に……だろ? そこも信頼できる上司に頼んで、配慮してもらってるから」

「ありがとうございます」


リスティさんの『信頼できる』は、ガチに信頼できる人だから問題ない。ただ、少し申し訳なくもあるけど。

……まず検証すべきは、他に犯人がいる可能性だね。現場の方にも直接聞き込みして……長い一日になりそうだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


警察で資料や供述書、現場写真などを見せてもらった後は、四人で東亜テレビに向かう。

リスティさんとのタンデムは初めてで、なかなかに緊張したけど……それでも無事に到着。

局内に入り、なかなかに目立つ一団として廊下を歩く。そうしてまずは現場を一つずつ見せてもらった。


広がる染みやどことなく感じ取れる匂いに、僕達は静かに手を合わせた。そうして現場検証は、特に怪しいところもなく終了。

次は……殺された三人の関係者に、もう一度事情なんかを聞く事にする。


「リスティさん」

「例の人なら、既にこっちでマークしてる。今のところ怪しい行動はない」

「リスティさんの『見た感じ』では」

「ビンゴだね。ただどうやってやったのかって辺りが疑問で、そこで困ってたら」


僕達から連絡をもらったと。なら遠山奈津子で正解か。……実はリスティさんには、超能力がある。

ただしそれは人類の進化とか、そういうのじゃない。数十年前に発見された、遺伝子病が原因なんだ。

HGSと呼ばれる病気の影響で、リスティさんは読心能力やサイコキネシス、テレパシーが使える。


両手に革の手袋をずっとしているのも、下手に人の心を読まないようにするため。まぁエッチの時は外すけど。

それで読心を悪用して、僕に対して責めまくるのが……そういう茶目っ気が、リスティさんの魅力だけど。


「で、どうやって立証するの?」

「もう一度三人を殺してもらいます」

「……まさか」

「というわけで、連絡ですね」


早速みんなに連絡して、リスティさんにも戦闘場所を選んでくれるようにお願い。

かなり渋ってたけど、言っても無駄と考えたらしく納得してくれた。あとは……連中だな。

この局に近づいてから、妙な気配があっちこっちからしてる。どうやらもう来てるみたい。


あとは連中にバレないように処置をして……作戦開始だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そこはIDOL BATTLEの収録にも使われていた、局のスタジオ。広さはかなりあり、数百メートルと言ったところ。

この無駄な大きさも、全てはトーク・歌などのコーナー全てをここで賄うため。

天井も高く、照明などを吊るす二階部分が、壁を走る形で増設されている。そんな中に、女が一人やってきた。


肩までの黒髪に、つり目でやや肌が荒れている女。体型は……少々大きめ。でも太っているというほどではない。

白のジャケットにジーンズ姿で、首元から身分証を下げている女は怪訝な顔をしながら、周囲をキョロキョロと見渡す。

それで怪訝な顔をするのは当然だ。上司の名前でいきなり呼び出されて、誰もいないんだもの。


今は空のスタジオを照らすのは、最低限の照明。やや薄暗いその中を、女はジャケットの右ポケットに、手を入れたまま進む。

さて、それじゃあ……僕は軽く指を鳴らし、三人に合図を送る。すると女の真向かいから、突如人影が生まれた。

それは全て中年から壮年ほどの男性で、恨めしげに女を見てただそこに立っていた。


「な……!」


女が顔を青くして、右手をポケットにより深く突っ込む。そして瞳に、明らかな恐怖……違う。

まるで親の敵でも見るかのような目で、奴は『殺された三人』を見ていた。そして右手に、更なる力が入る。


「なんの真似っ! 誰かいるんでしょっ! これはなんのイタズラッ!」

イタズラじゃない



僕は二階部分から飛び降り、難なく着地。右手を挙げて軽く指を鳴らすと、三人は姿を消した。

女はその様子と、コートに仮面姿の僕を見て怒り心頭という顔をする。どうやらかなりキレやすいらしい。

あと声に関しては、正体がバレても困るので変えている。今の僕は男っぽいボイスだよ。


でも……指示通りで助かる。ちなみに今の、フェイト達だよ。一晩でフェイトに覚えてもらったのは、変身魔法と結界魔法。

被害者に変身してもらって、女――遠山奈津子をちょっと驚かせてもらったのよ。それで今は、結界魔法の中に引っ込んでもらった。


これは立派な調査だ。そうですよね

「もちろん」


そうして脇の入口から出てきたのは、リスティさんと翔太郎達。リスティさんは声を荒げようとする遠山に向かって、すかさず手帳を見せる。


「警視庁所属の、リスティ・槙原です。遠山奈津子さん、あなたに少し事情を伺いたいと思いまして」

「事情っ!? 話せる事なら全て話しましたけどっ!」

「それはないでしょう。例えば……どうして三人を殺したのかとか」

「はぁっ!?」

「既に三人がガイアメモリ――ドーパントの力によって殺された事は、判明しています。そしてメモリの名前はインジャリー」


遠山は動揺を顔に出し、瞳を泳がせ始めた。それでどうにかごまかそうと、必死に考えてるね。

そんなの無理なのに。リスティさんの読心能力で、既に答えは出てるのにさ。


「遠山奈津子さん、あなたがその所有者ですね」

「意味が分からないんだけどっ! なにこれ、ふざけるなっ!
お前達、名誉棄損で訴えてやるからなっ! 覚悟しとけっ!」

だったら、その右手で持っているものを出せ


僕は冷たくそう告げながら、ずっとポケットに突っ込んでいる右手を指差す。


さっきからずっと、お前はなにを持っている

「お前達には関係ないっ! とにかく私は帰るっ! まだ仕事が残ってるんだっ!」

それは無理だ


僕は左手でワイヤーベルトを投擲。鋭く空間を突き抜け、ワイヤーの先に結んだカラビナは遠山の顔へ迫る。

遠山はそれに目を開き、咄嗟に左腕でガードしようとする。が……ワイヤーの軌道はわずかに下がり、右手首に絡みつく。

そうして僕は強引に手を引っ張り、遠山を地面に転がした。その拍子で遠山の手はポケットから抜ける。


それだけではなくポケットからなにかが飛び出て、倒れた遠山の目の前に落ちた。

それは僕が持っているメモリよりも生物的で、フィンのようなパーツが敷き詰められている白いメモリ。

表面には痛々しい傷のような文字が刻まれていて、それはどう見ても英語の『I』だった。


遠山は慌ててメモリを拾い上げ、胸元で隠す。残念ながらそれは遅い、なのにご苦労な事だ。

だって髪が乱れたせいで、左の首筋が露出してるもの。そこにあったのは、黒い紋様。

線が幾つも重なって四角い形状を形作っているそれは、ガイアメモリの生体コネクタ。もう決定だ。


別にこれは、アンタを脅かすのが目的じゃない。あと、アンタが自分から変身するのを狙っていたわけじゃない。
今重要なのは……アンタがインジャリーのメモリを持っている。その事実だけだ。だからさぁ、絶対やると思ったよ


「これは君に異常を感知させて、メモリを手元に置いてもらうための作戦さ。
そもそも死んだ三人が出ただけで、もう一度殺すからメモリを使う……ちょっと不自然だしねぇ」

「こ、これは……拾ったんだっ! こんなもの、なんの証拠に」

「だったら君の首筋に出ているそれは、一体なにかな」


フィリップの指摘で遠山は、ハッとしながら自分の首筋を見て、慌ててメモリ共々左手で隠す。

……異常を感知し、いつでもメモリが使えるように起動させていた。だからコネクタが出てるのよ。

これも狙いの一つ。メモリに依存しているから、問題をメモリの力で解決しようとする。


人智を超えた力だからこそ、そういう行動を取ってしまうのよ。悲しいねぇ、力に囚われるってのはさ。


「……なにが悪いっ!」

≪Injury≫


遠山は再びメモリのスイッチを押し、そのままコネクタに挿入。僕のワイヤーを両手で掴み、一気に引き千切りながら怪物となる。

それはもう一人の僕が描いた(最初の)絵と全く同じ姿で、それを見て翔太郎が舌打ちをする。


「そうだ、私が三人を殺したっ! でもなにが悪いっ! いつまで経っても私を昇進させず、才能を認めないアイツらが悪いっ!
……そうだ、私は悪くない。悪いのは私を傷つけたアイツらだ。アイツらが私を傷つけるなら、傷つけるしかないじゃないか」

「なぁ、それは違うんじゃないのか?」


翔太郎がまた甘い事を……一歩前へ出て、ソフト帽を押さえながら沈痛な面持ちを浮かべる。


「確かにアンタは傷ついていたのかもしれない。だが……それは本当に、全部アンタ以外の誰かが悪いのか?」

「翔太郎、無駄だよ」

「もう一度止まって……よく考えてみろよっ! 今ならまだ、やり直せるかもしれないっ!
これ以上罪を重ねて、自分の傷の中へ逃げこんで……それで一体なんになるってんだっ!
アンタ、正真正銘の化け物になっちまうぞっ! だからもう、やめるんだっ!」

「分かってないねぇ。化け物は外見じゃない。心そのものだ」


奴は最大級のギャグを飛ばし、翔太郎の優しさを鼻で笑う。この場に千早がいたら、大笑いするだろう。


「奴らは人の優しさと理性をなくした、畜生同然」

「おいっ!」

「奴らは、死んで当然なんだっ! ふふふふ……ははははははははははっ!」


そうして奴は両手を振り上げ、僕達へ殺意を向けてくる。翔太郎とは正反対にフィリップは当然と言った顔で、右手をいじいじ。


「ほら、言った通りだ。彼女はもう、メモリの毒に侵されている。自分の傷しか見えない」

「くそ……!」

お前なんざ、正直殺した方が得だと思ってたけど……予定変更だ


僕は左手でロストドライバーを取り出し、腰前面に当てる。

するとドライバーの両側から、黒いベルトが展開。そのまま腰に巻きつく。


そんなに傷つく事が嫌なら、僕が安全な場所へ連れていってやる

≪Wizard≫

「火野、それは違うぜ」


右手で取り出したメモリのスイッチを押していると、翔太郎とフィリップも続いてくれる。

翔太郎は黒いJのメモリを、フィリップは緑のCメモリを取り出し、肩の高さで掲げる。


≪Cyclone≫

「そこは『俺達』が……だろ?」

≪Joker!≫

「それでは、ダブルのWといこうか。リスティ刑事、あとは」

「頼む」


リスティさんも、さっきの三人と同じく姿を消す。結界魔法で取り込んでもらったのよ。

ここも打ち合わせ通り。……やればできるのに、どうして今までやらなかったんだろうねぇ。僕には疑問だよ。……さて。


「「変身っ!」」


フィリップがC――サイクロンメモリを、ダブルドライバーの右側に挿入。すると翔太郎の腰にもあるドライバーへ、メモリが光となって移動。

ちなみにダブルドライバーは、ロストドライバーに左側のスロットがあるという形状。これは二人用となっている。

そうして翔太郎はそのサイクロンメモリを押し込んでから、自分のメモリを挿入。そのままドライバーを展開。


ドライバーはWを描き、フィリップは力なく床に倒れ伏した。そのまま翔太郎の身体へ、意識だけが同化する。


変……身っ!


僕はメモリをドライバーに入れ、横に展開。ドライバースロットが丸ごと斜めに倒れ、そこに蒼いWの文字が浮かぶ。


≪Cyclone……Joker!≫


翔太郎の足元から黒と緑の螺旋が生まれ、それが身体に纏わってより強い身体へと作り替える。

顔に縦のラインが二つ刻まれるけど、それも赤い大きな瞳と二色の体皮、白いツインアンテナによってすぐに消える。

そうして生まれたのは、まさしく半分こ怪人。右が緑で左が黒という、左右非対色の存在だった。


身体の形状自体は色と違って対称で、両肩に丸みを帯びた肩アーマーを装着。

両手と足首にはW型のアンクレット。ただ装飾らしいものはそれだけで、基本は肉体を思わせる作り。

胸筋的な部分もあり、そこにラインが入っている。ディケイドやカブトとかに比べると、かなりシンプル。


下手をすると鬼のあれこれよりもシンプルかも。まぁ、かくいう僕もそれは同じ。


≪Wizard≫


蒼の旋風に包み込まれ、僕の身体は魔導師という記憶を再現する依り代になる。

身体の作りはWと同じだけど、顔のラインが違う。瞳はやや明るい青で、口元は銀色のフェイスクラッシャー。

Wだと白いツインアンテナが生えていたけど、こっちは小さめな棒アンテナ二本。虫の触角みたいにも見える。


そうして右手には、蒼いとんがり帽子。物語の中で魔法使いがよくかぶっているそれを、そのまま頭に装着。

なお、倒れたフィリップはそのままにしておくと危ない。なのでこちらも結界に取り込んで……戦闘準備完了だ。


「お前達も、ドーパントだったのかっ!」

違う


今までならそうだと言っていた。だけど……背中を押してくれた貴音やみんなの姿を思い浮かべて、僕は一歩前へ出る。


ようやく覚悟が決まった。僕は仮面ライダー


そのまま時計回りに回転して、右手を横に伸ばしながらケープをなびかせる。


ウィザード

「そして俺達は、仮面ライダー」


翔太郎は左手を肩まで挙げ、軽くスナップさせる。


【「W」】


そうして左腕をそのまま前へ伸ばし、奴を指差した。


【「さぁ、お前の罪を……数えろっ!」】

「どうしてだ」


奴は首を横に振りながら、僕へと突撃してくる。


「どうして私の傷を、誰も理解しようとしないっ!」


それに右手をかざし、魔法発動――燃え盛る炎をイメージしながら指を鳴らす


Flame


その瞬間、鳴らした指先から火花が走り、奴は紅蓮の炎に包まれた。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


燃え盛る炎に包まれながら、奴はその場で転げ回って火を消そうともがく。


It's


その様子を見ながら右手と入れ替わりで左手を伸ばし、指を二回鳴らす。そうしてイメージするのは、鳴り響く音楽。


Show Time!

≪The music today is ”ショータイム”≫


虚空から突然大音量で流れだした音楽は、まさしく今にふさわしいBGM。それを聴いて、なぜかWがズッコける。


「おいおい、またかよっ!」

【本当に好きだね、君は】


黒い硝煙を身体から放ちながら、奴は起き上がる。そしてどこからともなく、黒服着用・縦じま模様の仮面を付けた連中が出てきた。

あれは……マスカレイドか。やっぱり出てきたね、ミュージアムの犬が。気配からとっくに気づいてたよ。


残念ですが、やらせるわけにはいきません


そうして頭上から飛び込んできた奴が、片刃の剣を唐竹に振り下ろしてくる。

すっと前に出て、鋭く打ち込まれたその刃を右手で掴み止める。


遅い

ほう、やりますね


僕の目の前に現れた襲撃者は、マフラー装備の蒼いドーパント。

空色の身体に金色の紋様が走り、筋肉隆々な身体に似合わず、顔は後ろに流れる形。とりあえず知り合いにはいない。


「お前は……!」

【やはり出てきたか、ナスカ】


……おのれらの知り合いかいっ! てーか昨日言ってたナスカって、コイツッ!?


会いたかったですよ、W


奴は刃を強引に引きながら後ろへ跳躍し、熱にもがくインジャリー・ドーパントをかばうように立ちはだかる。


「お前達は」

アフターサービスですよ、早く逃げなさい

……Ground


右手をかざすと、床に蒼い火花が迸る。そうしてコンクリの床の一部が、あっという間に片刃の日本刀へと変化。

もう一人の僕が使っていたブレイクハウトを参考に、今までの魔法にアレンジを加えた。使い捨てには十分すぎるでしょ。

突き立てられるような形で出てきたそれを、右手で掴んで抜きつつゆっくりと歩く。


W、あとは手はず通りに

「あぁ、行ってこいっ!」

残念ですが


ナスカとやらは白いマフラーをたなびかせ、地面を踏み砕きつつ超加速。


二人とも真っ二つですっ!

――Nasca


そう呟いた瞬間、魔法発動――僕の身体もナスカ以上の速度で動き出し、一気に奴の懐へ潜入。もちろん基本速度は同じ。

だけど体さばきや経験差、反応は僕の方がずっと速い。右薙に斬撃を打ち込み、振り上げられていた両ひじを斬り裂く。


が……!


動きを止めたところで袈裟・逆袈裟・右薙の斬撃を打ち込み、身を反時計回りに捻って背中へもう一撃。

その全てに全力の徹を込めたおかげか、奴は身体から火花を散らしながら床へ転がる。

そうしてこっちの行く手を阻むように出てきた奴らへ左手をかざし。


Thunder


指を鳴らす。その瞬間空中から雷撃が現れ、十数人のマスカレイド達を撃ち抜く。

生まれた蒼の閃光が消えないうちに、もう一度奴の名前を呟く。


Nasca


そうして身体は超加速。袈裟・逆袈裟の斬撃を交互に打ち込みつつ、十数人いたマスカレイド達を両断。

奴らを一人残らず地面に倒してから、逃げもせずに呆然とこちらを見ていたインジャリーへ迫る。


バカな、私と同じ力だとっ!?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なんかよく分からない間に、もう一人のヤスフミが怪物達を倒しちゃった。

その様子を別に展開した結界内から見ていた私達は、もう驚くやらなんやら。

……もう一度あっちのヤスフミへ斬りかかろうとした怪物が、半分こ怪人に止められる。


≪Heat……Metal!≫


赤と銀色の半分こ怪人はロッドみたいなのを取り出して、怪物が打ち込んだ袈裟の斬撃を受け止める。


どきなさいっ!

「悪いが、お前の相手は俺達だっ!」

【少々付き合ってくれ】


もう一人のヤスフミは立ち上がって右側から迫る、戦闘員みたいなのを袈裟に斬り捨てていた。

そうして身を時計回りに翻し、両肩から生えている蒼いケープをひらひらと揺らす。

反対側から殴りかかろうとしていた戦闘員を、逆袈裟に両断。また左手を挙げ。


Thunder


指を鳴らすと、周囲に雷撃が降り注ぐ。それに再び戦闘員が焼かれると、ヤスフミはもう一度指を鳴らしながら。


Flame


反時計回りに身を捻った。すると炎がその指先から生まれ、動きを止めた戦闘員達に放射。

渦を巻く炎は戦闘員達を焼き払い、ヤスフミはその中を平気な顔をして進んでいく。

立ちはだかる邪魔な戦闘員を袈裟に斬り伏せ、それでも殴りかかろうとした奴の腹を右薙に斬り裂く。


すると戦闘員達の半数は倒れ伏せ、地面に伏せたまま光の粒子になって消失……死んだっ!?

そ、そんなっ! メモリブレイクとかってどうしたのかなっ! ……でもこれ、結界使わなくていいの?

もう一人のヤスフミから、インジャリーと戦闘に入ったらこっちが見失わない限り、絶対に結界を使わないでって言われたけど。


「ヤスフミ、本当に大丈夫なのっ!? なんか変な人達も出てきたのにっ! 結界とか使って閉じ込めた方が」

『今更喚くな』


なお、ヤスフミは写真館からアドバイス中。私が余計な事しないように、監督するという事らしい。

うぅ、首輪つけられたからコレ? ……でも、駄目だ。これじゃあ言ってた事と違う。

ここは結界を展開して、もう一人のヤスフミをサポートしないと。これは逃がさないための処置だもの。


うん、余計な事じゃない。私はインジャリーへ迫るヤスフミを助けるために、もう一度結界魔法を詠唱。


『あと、結界は言われた通り絶対に展開しないで』

「へっ!? で、でも逃したら」

『フェイト、本当に馬鹿じゃないの?』

「馬鹿馬鹿言わないでよっ! だって私達、そのためにいるんだよねっ!」

『結界を展開したら、もう一人の僕は負ける可能性がある』


そっちが馬鹿だと思ってたけど、通信画面のヤスフミはとても真剣な顔だった。

とりあえずなにか根拠があるのは間違いなくて、それで詠唱を自然と止めていた。


『ガイアメモリは記憶の再現。ならウィザードが使う『魔法』には、地球の記憶というタネがある。
その場合、どういう形で魔法が発動して使われるのか、さっきのナスカとやらで分かった』

「あの、それってどういう」

『そこを今ので見抜けない事が、フェイトの実力なのよ。とにかく結界を展開しなきゃいいだけ。
あとは今話しても、理解できないだろうから話さない』


そ、そんな事ない。というかそういうの、ヤスフミの悪いくせだよ。全然話そうとしてくれないし。


『そう、変身アイテムを壊しまくったフェイトには』

「はうっ!」


でもそんな私の不満は、ヤスフミの一言であっという間に打ち砕かれた。……それで自然と、首元を触る。なんかもう、泣きたい。


「……なるほど、別世界のフェイトちゃんはポンコツなのか」

「初対面でポンコツ呼ばわりっ!? 私はそこまでなのかなっ!」

「ねぇもう一人の恭文、ちゃんと愛してあげてる? これは明らかに愛情不足だと思うんだよね。
いっつもボクや他の彼女達へしているみたいに、たっぷり愛してあげなよ。そうすれば」

『やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! お願いだから彼女たくさんいるって常識を疑ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


奴は後ろでナスカとW、残ったマスカレイドが殴り合っているのに、逃げようともしない。

どうやら僕に勝てるなどという、バカな事を考えているらしい。それは過信であり間違い。

強い力を持つが故に、それに踊らされる愚者の典型例。どうやら本当の力の使い方を、教える必要があるらしい。


もう一度左手をかざし、指を鳴らす。それによりまた奴は炎に包まれるけど、今度は熱に耐えてそのまま突撃。

突き出される拳を左に避け、奴の右足・太もも部分に向かって右薙の斬撃。奴は頭から地面に転がり倒れた。

それから僕に右手を伸ばそうとしてきたので、身を縦に翻しつつ後ろに跳躍――魔法発動。


次にイメージするのは、激しく吹き抜ける風。だから呼ぶ名前は、当然これ。


Wind


すると足元に風が吹き荒れ、僕の跳躍を更に後押し。一気にスタジオの壁に走る、細い通路へ乗り上げる。

その手すりに乗ったまま今度は風を刀にまとわせ、右薙に打ち込む。起き上がった奴との距離は、約30メートル。

本来なら届くはずがない斬撃。だけどその瞬間、振りぬいた刃から風が放たれ、不可視の刃へと変化。


それは真っすぐに飛び、奴の首元に命中。激しい火花を走らせながら、2メートル近い巨体を倒した。

いわゆる飛・纏飯綱くらいなら、メモリの力がなくてもできる。でもここは念押しで、メモリの力で傷つけておく。


「な、なにを」


起き上がった奴に向かって、今度は逆袈裟の斬撃。空気が斬り裂く音が響き、再び斬撃波が生まれる。

それにより胸元を斬り裂かれた奴は、たたらを踏みながら下がる。すかさず左薙に打ち込む。

今度の刃は奴の両ひざを斬り裂き、うつ伏せに倒した。てーか床に顔面が叩きつけられる。


それでも立ち上がるタフな奴に向かって、刀と左の手刀を逆風に打ち込む。そして二つの刃は、奴の両肩を斬り裂く。

でも両断はできず、あくまで浅い傷をつけるだけ。……一方的ないじめだねぇ。

まぁそれもしょうがない。戦闘経験もない素人相手なんだし、能力にさえ気をつければ楽勝だ。


奴は戸惑いながらも両手でガード体勢を取り。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


無意味な気合いの叫びを放ち跳躍――こちらへ突撃してきた。僕は左手の指を鳴らしながら、もう一度魔法を発動。


Ground


今度はせり上がる大地をイメージすると、一階部分の床が杭に変化。鋭く上へ射出されたそれが、奴の腹を打ち抜く。

それに押されて天井まで叩きつけられた奴に向かって、左手の指を何度も何度も鳴らす。


Flame


そのたびに炎が燃え上がり、奴はもがきながら熱によって傷を増やしていく。天井で燃え上がる炎は、戦場を照らす照明としても存在していた。

そして十メートル以上ある杭は、魅入られるほどに赤い炎の陵辱にも決して揺らがず耐え続ける。

奴はそんな中、両手を震わせながら杭に伸ばして掴む。その瞬間、杭が一瞬でひび割れ砕け散った。


杭に傷をつけて、それを壊したらしい。奴はそのまま地面に叩きつけられ、ふらふらと起き上がる。

そうして僕に畏怖の視線を向けながら、一気に左へ走り出した。そこには奴が入ってきた、スタジオの出入り口がある。

どうやらこの外へ出て、誰かしら人質にするつもりらしい。……残念だけど、それは無理。


Cockroach


正直あまり使いたくないんだけど……首元から丸みを帯びた二枚の『羽根』を生やし、僕は駆け出す。

その瞬間僕はどこぞのF1張りに加速し、手すりの上を滑るように走る。……やっぱりナスカより速いと思う。

この選択は正しかったらしく、ほんの1〜2秒で50メートル近くあった距離を埋め、奴の行き先を塞ぐ。


左手をかざし、また指を鳴らした。ぎょっとして身体を震わせた奴の足元から、再び杭が生まれる。

45度の角度で射出されたそれは、奴の腹を貫いて天井近くまで吹き飛ばす。そのままWやナスカ達を飛び越え、地面に墜落。


今更逃げるなんて、それはないでしょ


そして僕は再加速し、スタジオの床を駆け抜ける。決してはい回っているわけじゃない。

再び奴の行く手を塞ぐように回り込む。これもコックローチの能力ゆえ。

……コックローチとは、ゴキブリの英名。うん、この黒い羽はゴキブリなの。


これにより、ゴキブリレベルの高速移動が可能……ゴキブリどんだけだろう。


「く……この、化け物がっ!」

化け物はお前だ。どうした、弱い奴しか殺せないのか? 随分と弱い傷だな

「バカにするな」


素人だから、軽く挑発しただけで激高する。そうして奴は、無駄だと分かっているのに僕へ飛びかかってくる。


「私が……どれだけ苦しんできたと思ってるんだっ!」

知ったこっちゃないな。――Injury


指を鳴らしたその瞬間、奴の胸元が爆ぜた。強固なドーパントの肉体は、その中ほどから抉れる。

奴は衝撃と痛みによって、獣みたいな叫びをあげながら床に倒れる。


「な……なんだ、これはっ!」

どう? これがお前の与えた傷だ


もう一度指を鳴らすと、今度は右ひざが破裂。……これでもう、奴は歩く事もできない。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ! あ、あし……足足足足足足足足っ!」

存分に苦しめ


続けて指を二連続で鳴らすと今度は両肩が破裂。また混乱と恐怖の叫びが響いた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「な……!」

「な、なんですかあれっ! 今、インジャリーってっ!」


地面に倒れ、痛々しい叫びをあげるドーパント。もう一人のヤスフミは、冷酷にそれを見下ろしていた。

でもそれよりなにより、その様子があまりに衝撃で……身体の熱が、一気に吹き飛んでいた。


「魔法、だからですか? だからこう、インジャリーの力も再現できて」

『夏みかん、よく分かったねー。おそらくウィザードメモリの本質は……地球の記憶の再現。それが魔法のタネ』

「ヤスフミ、それ意味が分からないよ。だってガイアメモリがそれだって」

『違うよ。メモリに込められているもの以外の記憶を、能力として再現できるんだよ。
つまり……今もう一人の僕は、インジャリーメモリの力をコピーしていた』

「……え?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――ウィザードメモリは魔導師の記憶を内包した、『特殊能力特化型メモリ』。

魔法は時に夢を叶え、悪に鉄槌を下し、畏怖を受ける。それゆえにこのメモリは、様々な事ができる。

炎を出したり相手を凍らせたり、風を発生させたり地面を操作するくらいはお手の物。


場合によっては敵の攻撃を別のものにすり替え、無効化なんて真似もできる。

だけど強力な能力というのには、必ず制限がある。ウィザードメモリも、ご多分に漏れない。

それは使える能力がその場にある、『土地の記憶』そのものに左右される事。


例えば街中で人が暮らしている場所なら、火や電気くらいなら簡単に出せる。

水も水道管が張り巡らされているから、その事実によって水の操作能力が得られる。

風――空気だって全くない場所はないから、その操作能力も室内だって行使できる。地面に関しても同じ。


ゴキブリも地球上ではいない場所の方が少ないから、かなり楽に再現できる。

ガイアメモリの元となっている地球の記憶は、フィリップがあずささんへ説明していたように幅広い。

だからこその能力なんだけど、それゆえにこの場で極寒の吹雪を起こす事はできない。


それをやりたければ、雪山――実際に雪があり、吹雪が起こる場所へ行くしかない。

オーロラを出したければ、南極か北極近くへ行くしかない。水もない砂漠で、雨を降らせる事なんてできない。

便利なように見えて、何気に不便な能力なんだ。でもそんな条件を無視して、能力を使える時がある。


それは近くに、別のガイアメモリがある時。それも土地――地球の記憶。もうここまで言えば分かるでしょ。

僕は奴が使っている『傷』の記憶を用いて、付けた傷をより深くしたのよ。もちろんさっきのナスカも同じ。

そして僕がインジャリーの能力を行使する条件は、既に整っている。そう、僕は奴を傷つけた。


刀で斬ったのもそうだけど、攻撃に使ったのは全てウィザードメモリの力。そして今の僕は、メモリの記憶を身体で再現している。

だからこそ傷をつけた時点で、僕の勝利は確定だった。――これはドーパント、または仮面ライダー戦のためのメモリ。

特定能力に特化するのではなく、相手のメモリ能力をそのままカウンターとして使うためのメモリ。


それがこのウィザードメモリの本質。そう、これも魔法だ。相手の力が強ければ強いほど、こちらも強くなるんだから。

ただそういう再現・コピー能力に特化しているが故に、どつき合いだと一般的なドーパントより下になる。

つまり身体的スペックが低いのよ。もちろん僕なら、そこも鍛えた技でカバー可能だけど。


そこを抜いても今回は相手の技量と能力的な相性に、かなり助けられてるけど。僕は動けない奴を見下ろしながら、左手をかざす。


さてナスカ、ここで交渉だ


既に部下のマスカレイド達もいなくなり、孤軍奮闘を続けるナスカへ声をかける。

今の様子を見て事情を察したナスカが、僕とWに対して一歩距離を取る。

さて、さっきナスカは一体誰に斬撃を食らったでしょうか。……本当はやりたくないんだけど。


メモリの事がバレると面倒だけど、ここで乱戦になってもめんどい。なので交渉だ。


今ここでコイツを見捨てて、みっともなく生き延びるか。
または……これ以上無駄な抵抗を続け、死ぬか。さぁ、どっちがいい


「や……助け、て」

……ち


ナスカは当然、後者を選択。だってついさっき、自分が傷つけられた事を知っているもの。

だけど僕は当然それで許すわけがない。指を鳴らし、奴の傷を全て開いておく。


がぁっ!


みっともなく地面に転げた奴は、それでも超加速を続けて必死に逃げた。

……根性あるねぇ。それに感心しつつ、僕は刀を横へほうり投げる。それから右手を、胸元でかざす。


ウィザードマグナム


そうして出てきたのは、蒼色の銃。長方形型のそれは、翔太郎達も使う専用銃。

その銃身を中程から折り曲げ、ロストドライバーから抜き出したメモリを挿入。

折れ曲がる事で露出したスロットにメモリを収めたら、すぐ元に戻した。


≪Wizard――Maximum Drive≫

さぁ、フィナーレだ


動けない奴に銃口をかざし、一気にトリガーを引く。その瞬間、蒼色の弾丸が銃口から飛び出してきた。

それは回転しながら僕の胴体くらいはある巨大な砲弾となり、奴へ着弾。そして爆発。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


奴は蒼い爆炎に焼かれながら吹き飛ばされ、頭から向かい側の壁に叩きつけられる。

そうして地面に倒れると、変身が解除。同時に白いフィンパーツが大量についたメモリを身体から排出。

それは地面を滑るように転がり、血だらけになっている奴の前で砕け散った。


「たす……け」

お前はそう言った人間を、助けた事がある?


僕は静かにそう告げながら、マグナムからメモリを抜き出しドライバーへ戻す。

その間に僕の問いかけへ答える事もできたのに、奴はなにも言わず瞳を震わせるだけだった。


その様子じゃあないみたいだな

「い、いやっ! 許してっ! 死にたくないっ!」


腕も動かず、足も動かず、奴はそれでも涙を流して死から逃げようとする。その目には確かな言い訳が見えた。

自分は悪くない、自分はなにもしていない、悪いのは自分以外。だから……もう一度銃口を上げ、奴の頭を狙う。


ふざけるな


冷たい声でそう告げると、奴は顔を青くしてガタガタと震え出す。それが正解だと告げるために。


お前に殺された人達は……みんなそう思ってたんだよっ!


声を荒げ、引き金を引いた。


「おい、やめろっ!」


翔太郎が止めようと僕の右腕を掴んでくる。が……そこは既に予測済み。その前に弾丸は放たれる。

コンクリの壁すら貫く弾丸は、奴の後頭部を掠めて床に着弾。甲高い音を放った。

そして遠山の頭から、一筋の線と一緒に血が現れる。奴はその温もりを感じてか、また情けなく震える。


……大丈夫、殺しはしないよ。消えない傷を刻み込めただけで十分。それがハーフボイルドでしょ?

「……ハードボイルドだ」

それに手を下さなくても、コイツは死ぬ


脇まで来た翔太郎達にそう返しながら、僕は銃口を上げた。

もう撃たれる心配はないのに遠山は、信じられない様子で僕を見ていた。

いや、それは安心した様子の翔太郎も同じだった。変身していても、そこは分かる。


これだけやったんだ、死刑だろうね

「な……!」

【当然だよ、翔太郎。犯行の残虐さ、動機の身勝手さ、全てにおいて情状酌量の余地はない。
彼女は死を持ってその罪を償い、被害者遺族達へ詫びる事になる】

「そういう、事か」


翔太郎は苦々しい舌打ちをしながら、遠山から顔を背ける。……やっぱりハーフボイルドだ。

だけどその優しさは僕にないもので、羨ましくもある。少し胸が痛みながらも、僕は左手をドライバーにかけ、メモリを抜き出す。


良かったね、これから先は死ぬまで牢獄の中だ。もう誰もお前を傷つけない。……僕以外は


メモリを抜くと纏っていた蒼が螺旋となり、身体から剥がれていく。そうして元の黒コート姿に戻りながら、奴に背を向けた。


アンコールは、お前の絶望だ。観客が満足するまで、狂い続けてろ


最後についた小さな嘘は、遠山の身勝手な怒りの根を打ち砕く。それは消えない傷と合わさって、ひとつの事実を突きつける。

もし自分がなにかするようなら、その瞬間――だから奴は狂ったように笑い、涙を流すしかない。実につまらない終幕だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


プロデューサーさんが出かけてから数時間後――もう夕方になろうという時間なのに、誰一人その場から動こうとしない。

蒼凪さんや門矢さんが『全部終わった』って教えてくれたのに、無事だって教えてくれたのに、もう全然。

それで妙に空気が重苦しくて、私は作ってきたクッキーも食べずにソファーでそわそわしていた。


「はるるん、落ち着こうよー。ほら、兄ちゃん大丈夫ーって言ってたしー」

「そうだよー。翔太郎っちも怪我してないーって」

「お、落ち着いてるよ? 大丈夫だから」

「春香、声が上ずってるわよ。でも」


やっぱり千早ちゃんは不満があるらしく、私の隣でまた俯いてしまう。……ううん、違う。

きっと不安なんだ。このまま帰ってこなかったらって、怖がってる。私は自然と、千早ちゃんに身体をくっつけた。


「プロデューサーは、どうしてこんな事を。あんな事を言う人達のために、動く必要なんて」

「行かなければ死ぬ。そういう事ですよ」

「私には、分かりません」

「それはおかしいですね。千早、あなたにも歌という志が、あるではありませんか」


貴音さんに優しくそう言われて、千早ちゃんがハッとした顔をする。そんな千早ちゃんを見ながら、貴音さんは笑って窓の外を見た。


「それと同じ事です。泣いている人を助けたい――その志を守るために、命を賭ける人もいるのです。やはり、同じなのですね」


私達が見るのは、なぜか元気いっぱいな蒼凪さん。メモリが壊された関係で、傷も一気に治ったって言ってた。

今は……真と腕相撲している。あんまりに元気過ぎて、私達は呆れるしかなかった。

かく言う門矢さんも同じで、プロデューサーさんの席に座って窓の外ばっかり見てる。もしかして心配、してくれてるのかな。


うん、多分そうだ。だってユウスケさんやヒビキさんが、ちょっと呆れ気味に見てるもの。


「……それなら、少しだけ分かります。というか、すみません」

「いえ、あなたが優しいのは分かっていますから。プロデューサーが心配なのですね」

「千早さん、プロデューサーさんと仲良しですよねー。よくお話してますしー」

「あの、違うの。高槻さんが思っているほど話しているわけじゃないけど」


それは嘘だと思う。私達はなにも言わなかったけど、そこだけは共通意見だった。


「ただいまー」


事務所の玄関が開いて、そこからプロデューサーさんとフェイトさん達がどんどん入ってきた。


「「兄ちゃんー!」」


そんなプロデューサーさんに、亜美達が飛び込んで一気に抱きつく。プロデューサーさんは逃げず、しっかりと受け止めた。


「あー、今度は受け止めてくれたー!」

「兄ちゃん兄ちゃんー!」

「あぁもう、甘えん坊だなぁ。二人とも、どうした?」

「「だってー!」」


二人の頭を優しく撫でて、プロデューサーさんはまた足を進める。

私達は一斉にプロデューサーさんへ押しかけて、私はクッキーを差し出す。


「プロデューサーさん、クッキーどうぞっ!」

「ありがと」

「はいっ!」


差し出した箱からクッキーを一枚掴み、それを一口で食べる。プロデューサーさんはしっかり味わってくれながら、OKサインを出す。


「春香はいいお嫁さんになれるよ」

「えぇっ! そ、そんなー! ……ところで探偵さんは?」

「あー、実はねぇ」


首を傾げる私達に苦笑しながら、プロデューサーさんは両手で角のポーズを取った。


「一緒に来る予定だったんだけど、事務所の所長代理がカンカンでさぁ。
なんか『急いで帰ってこい』って言われて、警視庁で別れた」

「そうだったんですか。うぅ、お礼とか言いたかったのに」

「また来るそうだから、その時にでも言えばいいよ。みんなによろしくって」

「本当に、暴れてくれたわねぇ」


あれ、律子さんがなんか怒った顔をしてる。それについ一歩引いてると、律子さんはプロデューサーさんの机を指差す。

するとそこにはユウスケさん達……じゃなくて、高く積み上げられた書類があった。


「はいっ! あなたの仕事、溜まってるんだからっ! これ全部、明後日までに片づけてねっ!」

「や、やらせていただきます。というか、ありがとうございます」

「うん、よろしい。……おかえり」


律子さんが笑顔でそう言ったのに対し、私達は顔を見合わせる。それで笑って、まだ言ってなかった言葉を贈った。


『おかえりなさいっ! プロデューサー(さん)っ!』


そこで私達は一斉にプロデューサーさんへ押し寄せ、そのまま床に倒れこんでしまった。

だけど全員で自然と笑っていて……そんな私達に、門矢さんがカメラを向けていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なんかお邪魔しちゃマズい雰囲気だったので、僕達はそのまま静かに事務所を後にした。

それで夕飯……いやぁ、身体が完調だとご飯も美味しい。もう傷もなにもないから、全開で動ける。

ただ……今回はらしくなかった。やっぱ焦ってたのかなぁ。うぅ、もっと鍛えないと。


「うん、いい写真だね」


それはそれとして、またまたもやしが撮った写真の品評会。今回の題材は……みんなともう一人の僕。

それで僕の後ろに、うっすらとあのライダーの姿が映っていた。ただ、そこで鬼の姿もあったのがアレだけど。


「ですよね。それで士、恭文も体調は」

「言った通り、もうばっちりだ。どうもダメージ自体が『毒』って扱いだったみたいだな。
それが抜けたから、嘘みたいに全快だ。しかし」


もやしは写真を見ながら、腑に落ちないようで首を傾げていた。


「俺達、なんのために来たんだ?」

「前の世界に続いて……ですよね。でも、私は来てよかったと思います」


ただそんなもやしとは対称的に、夏みかんはすっきりした顔で写真をのぞき込んでくる。


「私達がやらなきゃいけない事、向き合わなきゃいけない事、それに守らないといけないもの。
その全てがここにはあった。きっと私達は、みんなを守るために旅をしているんです」

「アイドルのためってか」

「違います。みんなが自分の夢を描いて、自由に追いかけられるように頑張るんです。
みんなだけじゃなくて、他の世界の人達もそう。私はアイドル修行もやったりして、それが確かめられました。
スーパー大ショッカーが支配する世界では、きっとそれは……難しいんじゃないかなと」

「なるほどなぁ」


さすがにヒビキさんは分かるらしく、納得した表情で何度も頷いていた。


「つまりよ、初心忘れるべからずってやつだよ。俺達ライダーがなんのために戦うのか、再確認するための旅だった。
世界を救うためではなく、そうしてなにを守るかを確かめるためにここへ来た。だからなにかする必要はなかったんだよ」

「ただ俺達は、あそこで時間を過ごすだけで……良かったんですね。
そうしてみんなみたいな人達が、たくさんいる事を胸に刻む。その上で」

「そうです。そうして頑張る事は、私達自身の夢や憧れを守る事にも繋がる。だから必要なんです」

「夢が人を輝かせ、強くする」


栄次郎さんは何度も力強く頷きながら、空になったお茶のポットを持って立ち上がった。


「だから命と同じように、それも大切にしなきゃいけない。誰かの夢も、自分の夢も変わらずね。そうしないと」

「おじいちゃん、どうなるんですか?」

「誰かの夢を馬鹿にして踏みつける、つまらない大人になっちゃうんだよ。
私はそんな大人、なりたくないねぇ。だって悲しいじゃないか。うん、悲しい」


その言葉が突き刺さったのか、フェイトとギンガさんが俯く。最初のアレでやらかしたしねぇ。

だから結局みんなの信頼も得られなくて……そういう余裕がないと、駄目って事か。僕も突き刺さったよ。

とはいうものの、二人を鍛えてどうこうなんて時間はないしなぁ。事態はかなり切迫してる。


僕の予想通りだとしたら、ミッドはある程度大丈夫だ。少なくともいきなり侵略はされていない。

でもそれはある程度だ。やっぱり二人には変わらず、下がっててもらう事にしよう。

というか、ヒビキさんに任せよう。僕の仕事は……やっぱり勝ち続ける事だ。


「でも私ももう一花、咲かせられるかな」

「咲かせられるわよぉ、栄ちゃん頑張ってー」

「そう? んじゃあ頑張っちゃおうかなー! 私もこう、アイドル的な感じで」

『はぁっ!?』


一人決意を固めていると、栄次郎さんがとんでもない事を言い出し始めた。それであの背景近くで踊り始める。

ちょ、なんかステップ軽いっ! 動きは若干変だけど……あれ、なんか忘れているような。

なんかおかしいなぁと思っていると、栄次郎さんがバランスを崩し近くの柱へしがみつく。


「おぉっとっ!」

「栄次郎さんっ!」

「おじいちゃんっ!?」


それで柱に下がっている鎖が引かれ、別の絵が降りてくる。今度の絵は……三人の仮面ライダーが映っていた。

一人は右を向き、もう一人は反対方向を向いていて、それで三人目は炎の中を一人歩いていた。

左右二人の基本デザインは同じで、マスクにやや違いがあるだけだった。右のは深緑で、左のはそれより明るい緑。


真ん中に白のラインが入っているけど、口元に血の痕みたいなのが幾つも見える。それで重要なのは、その間の三人目。

マスクは明るい赤で彩られ、真ん中に線が幾つも入っている白のラインが走る。

対して身体も緑で、他の二人よりも明るい色合い。腰のベルトにはV字が刻まれていた。


そして他の二人が風車一つなのに対して、このライダーは二つ。しかもこの、鋲(びょう)装飾に、生の首が見えているのは……まさか。


「次の世界か。今度は……蒼チビ、分かるか」

「……分かる、んだけど」

「なんだ」

「これもしかして、仮面ライダーTHE FIRST!?」

≪デザインは……えぇ、間違いありませんよ。ですが真ん中のは≫


仮面ライダーFIRSTとは、カブトがやっていた時に劇場放映された映画作品。

初代仮面ライダーの現代版リメイクなんだけど……え、ちょっと待ってっ!

僕も劇場見たから分かるけど、確かV3は出てなかったはずっ! なんでV3が描いてるのっ!


(第32話へ続く)





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