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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第30話 『Wの世界/Iに包まれて 京都へおこしやすぅ』



恭文(OOO)「前回のディケイドクロスは」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『あの、プロデューサーさん……三浦あずさです。お疲れ様です』

「お疲れ様です。どうしたんですか? 今ちょうどお話してて」

『いえ、実はその……今日そちらへ伺うのが難しくなって。というかその』


あれ、妙に歯切れ悪いな。というかあずささんの声に、雑音がかなり混じってる。もしかして駅にいる?


『迎えに来て……いただけませんか? 一人だと、帰れる自信がなくて』

「は? あの、まさか」

『はい、迷ってしまいました』

「それであの、今はどこに」


あずささん……お願いだからそこで黙らないでっ! ものすごい不安になってくるのっ!

ほら、軽く横浜とかさいたまとかでいいからっ! お願いだから無言はやめてっ!


『お、驚かないでくださいね?』

「どこ、なんですか」

『えっと、京都……です』

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文(OOO)「というわけで、京都に行ってきます」

律子「いやいや、おかしいからっ! 殺人事件どうしたっ!?」

恭文(OOO)「警察に任せましょう」

律子「今更一般市民みたいな事言ってるしっ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そうだ、京都に行こう――京都というのはそう決めて行くものだと思っていた時期が、僕にもありました。

現在僕は律子さんや社長の許可を取り、最寄り駅から京都に向かって……新幹線に乗っています。どうしてこうなった。

東京から京都までは東京駅発の新幹線に乗って、2時間半から3時間前後の旅。


なお、料金は往復自由席で2万円弱。ぶっちゃけあずささんが、どうして京都まで行けたのかが不思議でならない。

普通乗車チケットのチェックとかないかな。現に今はあったよ? 今はされちゃったよ?

それで肝心のあずささんは京都駅で駅員さんに事情を話して、保護してもらってる。


下手にうろつかれると、今度は北海道とか飛ぶかもしれないし。でもチケット……すぐ取れてよかったなぁ。

もう一人の僕が満足に動けたら、転送魔法っていうのですぐ行けたらしいんだけど。やっぱ魔法を覚えたいかも。

ほんと、どうしてこうなった。前回ラストでカッコよく決めたのに、もう台なしだもの。


まぁ例の二人にはメールしてるし、あとは連絡が来るのを待って……僕は改めて、社長が調達してくれたチケットを見る。

帰りの新幹線、実は翌日の日付だったりする。あのね、帰りの席が取れなかったの。無理だったの。

つまり僕達は『三人で泊まり』……律子さんが行くって言ったんだけど、別の外せない仕事があるため無理。


もうなんか、おかしい。どうして殺人事件がいきなり旅m@sになるのさ。どう考えてもありえない。


「プロデューサー、駅弁を買ってまいりました」


現状がイミフ過ぎて泣きそうになっていると、貴音がお弁当箱を三つくらい持って戻ってきた。

それで僕の前を通り、窓際の席に着席。……うん、貴音も一緒に来てるの。もうね、意味分からないよね。

でもね、読者より僕が意味分からないの。だってこの女、普通に僕についてきて普通にチケット買って、普通に乗ったし。


もうなにが普通なのか分からなくなるくらいに、奴は自然だった。四条貴音……恐るべし。





世界の破壊者・ディケイド――いくつもの世界を巡り、その先になにを見る。


『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路


第30話 『Wの世界/Iに包まれて 京都へおこしやすぅ』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あの子……貴音やあずささんに、変な事しないわよね。てゆうか、デートはどうしたのよ。
あずささんも担当プロデューサーは私になったんだから、あの子じゃなくて」

「律子くん、ヤキモチかね?」

「はぁっ!?」

「若いってのはいいねぇ」


そう言って栄次郎さんが私達の前に、新しいお茶を置いてくれる。

この方はこの写真館の主……らしい。でもこの異常事態でも、相当落ち着いているのは凄い。


「あ、これはどうも」

「いえいえ」

「すみません、長居しちゃって。あの、すぐにお暇を」

「いやいや、大丈夫。今ね、優しい味のポトフを作ってるから。せっかくだし二人とも食べてください」


さすがに悪いと思って、社長と立ち上がろうとする。でも右手で制され、動きを止めてしまう。

そのまま栄次郎さんは私達に背を向け、再びキッチンへ戻っていく。入れ替わるように、小さな白いコウモリがこっちへ来た。


「栄ちゃんのポトフはとっても美味しいわよー? というか、お料理は全部ステキだもの。ねー」

「ねー」


そうして喋るコウモリは笑って、栄次郎さんの後を追う。どうやらその、頂くしかないらしい。

社長と顔を見合わせ苦笑いして、私はゆっくりお茶を頂く。そうしながら見るのは、ソファーに座ってヘコむ二人。


「光くん、ナカジマ君、そろそろ元気を出したまえ」

「まぁうちのプロデューサーに、全部押しつけられても極めて困るんだけどね。
でもあなた達がそれを当然としていないのは、よく分かったから。
千早と伊織も言い方はきつかったけど……根に持つ子達じゃないし」

「私、自分が情けないです」


一応の慰めも通用しないらしく、二人は悔しげに嗚咽を漏らす。


「士くんやあの人は基本自信家で、大抵の相手には勝ってきました。
だから、負けるのなんて想像した事がなかった。それがこんなに怖いなんて、知らなかった。
二人やユウスケが戦えなくなった時、自分がこんなにも無力だなんて……考えなかった」

「私が、もっと強かったら。戦う力があったら……どうして、私はこんなに」

「今できない事を悔やんでも、しょうがないわよ。そんなのただ甘えてるだけよ」


こういう事には基本素人と思っていたけど、ライダーとアイドルには意外と共通点も多いらしい。

なのでまぁ、ちょっと分かった顔をしながら説教しちゃうわけで。


「そうだな。二人とも、栄次郎氏を見習ってみてはどうかね」

「おじいちゃんを?」

「こんな事が続いているのに、あの方はどっしり構えてやるべき事をやっている。
衣食住を守り、危険に飛び込むみんなを支えている。素晴らしいじゃないか」

「いや、それは買いかぶりすぎでは。おじいちゃんはいつもあんな感じで」

「なら余計に素晴らしい。いつもやっている事を、どんな状況でもいつも通りにでき、それで人を支える。
それがどれだけ難しいかは、今の君達自身を振り返れば分かるはずだ。
……君達若い者は前に出る事ばかり考えるが、それを支える人も立派だとは思わないかね?」


社長がなにを言いたいか悟った二人は、顔を見合わせてから両手で頬をパンと叩く。そうして立ち上がって。


「栄次郎さん、料理手伝いますっ! なぎ君と士さんに、栄養つけてもらわないとっ!」

「あ、私もやります」


慌てて台所へ走り出した。その様子が少しおかしくて、私は笑ってしまう。


「社長、ありがとうございます」

「なに、ちょっと説教臭かったかな。あとは」

「フェイトさんですね。こっちは前に出る事だけしか見ようとしていない」

「うむ。ただまぁ、若いうちはあれくらい血気盛んでいいのかもしれないね。
その分多く躓き迷うし、迷惑もたくさんかける。だがそれが後々、大きな支えになるんだよ」


社長はゆっくりとお茶を飲み、静かに息を吐いた。


「多分彼女は、一人で転んだ事がないんだろうね。自分一人の力でなにかをやろうとし、躓いた事がない。
彼女の周りには組織や仲間が必ずいて、誰かが転ぶ前に支えてくれた。転んでもすぐ起こしてくれた。
だから分からないんだよ。転んで自力で起き上がるしかない時、どうすればいいのかをね。
今回の事は、誰かが手を伸ばして解決する事でもない。彼女自身の割り切りというか受け止め方次第だ」

「それは、社長ご自身の経験からでしょうか」

「まぁ私も若い頃はね? 一人になって初めて、今まで支えがあって起き上がっていた事に気づく。そういうものだよ」


どこか寂しげな社長にそれ以上なにも言えず、私もお茶を一口。でもあの年でそれは、かなり問題じゃ。

でも元の世界だと優秀な警察官みたいな人だったそうだし、それもしょうがないのかな。転び方……かぁ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ダブタロス、来てっ!」


夕飯までゆっくり休む……はずだったのに、自室で現在フェイトが、右手をかざしてダブタロスを呼んでいる。

なおダブタロスは僕を心配してくれているのか、枕元でずっとスリスリしてくれてる。当然フェイトの声には無反応。


「……お願いだから来てっ! 私がヤスフミの代わりに変身するからっ!
そうすれば私もライダーになれて、ドーパントも倒せるっ!」

「あぁもううるさいっ!」


全然休めないので痛む身体を起こし、フェイトを睨みつけながら怒鳴りつける。


「お願いだから静かに寝かせといてもらえますっ!? なんでいちいち人の部屋で騒ぐのっ!」

「ヤスフミ、ヤスフミからもダブタロスに言ってっ! 私と一緒に戦ってってっ!」

「無理。前に説明したでしょうが、ゼクターは資格者を選ぶって。フェイトは選ばれし者じゃないのよ」


それでダブタロスが少し浮かび上がり、僕の右肩に乗ってうんうんと頷く。


「ほら、ダブタロスは僕に懐いてるし。てゆうかフェイト、そもそもの問題を忘れてない?」

「なにかな」

「フェイト、変身グッズ壊すじゃないのさ。音叉みたいに」

「はうっ!」


フェイトはまたボロボロと泣きながら、崩れ落ちる。……僕はベッドから抜け出し、近くにかけていたコートを取って羽織る。


「ヒビキさんの音叉、どうしようか。ずっと壊れたままなんだよねぇ」

「そ、それは」

「だからダブタロスも近づきたくないのよ、壊されたら嫌だもの。ねぇ、ダブタロス」


ほら、全力で頷いてるし。なんか警戒してるのか、翼バサバサさせてるし。


「でもあの、私だって練習すればきっと」

「バカじゃないのっ!? それで虎の子のベルトやゼクターが壊れたらどうするのよっ!
てーか練習前に壊したよねっ! 練習とかそういう話の前に壊したよねっ! このドジっ子がっ!」

「言わないでー! わ、私はドジっ子じゃないよっ! しっかりしてるんだからー!」

「してないでしょうがっ! 文句言うなら今すぐおもちゃ屋行って、変身グッズ買って練習した上で言えっつーのっ!」


駄目だ、きっと『カッコよく変身できる』とか思ってるし。しょうがないので、ここは実践する事にしよう。


「よし、じゃあ実際にやってみようか」

「え?」

「ここでも特撮のグッズくらいはあるでしょ。今からおもちゃ屋行って、変身ベルトとか買いあさるよ」

「えぇっ!」


僕はベッドから出てフェイトの首根っこを掴み、そのまま引きずっていく。まぁ気晴らしくらいにはなるでしょ。

フェイトはフラストレーション溜まっているようだし、こういうところで発散させないと……彼女にはしないからっ!

そ、そういうのはアレなのっ! 駄目なのっ! 数十人とか絶対に無理だしっ! なに、あれっ!


「ちょ、ヤスフミ引きずらないでっ! 私立てるっ! 立てるからっ!」

「やかましいっ! おのれなどよちよち歩きの赤ん坊と同じだっ! 首輪つけて引きずってやるっ!」

「それは嫌ー!」

「しょうがない、それじゃあこの問題に答えられたらやめてあげよう。フェイト、1+1は?」

「えっと……あ、引っ掛けようとしても駄目だよっ!? 11だからっ!」


アホな事を自信満々に言い出したので、一旦首を離して頭を叩く。それからまた引きずっていく。


「答えは2だよ。はい、首輪決定。これくらい分からないようじゃあ駄目だよ」

「えぇっ! そ、そんなのズルいよっ!」

「普通に2って答えたら正解にするつもりだったのに……バカだねぇ」

「嘘だよー!」

「しょうがない、じゃあもう一つ問題。キャストオフはどうやる?」


ここは何度か見ているので、分からないはずがない。特徴的な動作だし、今回の場合は使えないと話に。


「えっとあの、スイッチを押すんだよね。腰のをパーンって」


その瞬間、僕はまたフェイトの頭を叩いていた。


「アホかっ! それはクロックアップだっつーのっ! ……はーい、首輪決定ね」

「それは嫌だー! ……ちょ、ダブタロス痛いっ! 頭ツツかないでー!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――というわけで、ちょっと出てくるから。夕飯までには戻る」

「そ、そうか。だが蒼チビ、お前……それなんだ。その姉さんの首についてる、黒いのは」

「首輪」


……うわ、言い切りやがったし。じゃああれか、その鎖とかもデフォ装備なのか。なんだそれ。


「まぁさすがにこれをつけたままは危ないので……フェイト」

「……うん」


姉さんは首輪を涙目で外し、蒼チビに渡す。すると首輪の下から、黒いチョーカーが現れた。


「それ、なんだ」

「首輪二号」


そこで直球勝負かよ。そこでチョーカーとか言わないのかよ。なんだよ、二号って。パチもんの間違いだろ。


「フェイトは自分が守られる立場だと理解していないようなので、これでマーキング。
フェイト、フェイトは僕のものだから。ちゃんと言う事を聞くんだよ?」

「……うん」

「いや、それなんか違うだろ。なんでそんな明後日の方向に飛ぶんだよ」

「フェイト、お手」

「うん」


そこでお手するのかよっ! 涙目になるならやるなよっ! 一体なにがあってこうなったっ!


「フェイト、これがエロ同人誌じゃなくてよかったね。エロ同人誌だったら」

「なんの話だよっ! そもそも首輪って段階でアウトだろっ!」

「さ、行こうか。ちゃんと僕についてくるんだよ?」

「うん」

「おい、それはもうやめてやれっ! さすがに気の毒だっ!」


おいおい、アイツら普通に出ていったぞっ! 外見まともだが、関係性がまともじゃないぞっ!

正直止めたいが、こっちも身体があまり言う事を聞かない。てーかアイツ、どんだけタフなんだよ。


「……いいなぁ」


そこで誰かが小さくなにかを呟いたような気がしたが、俺は一切気にしない事にした。

てーか……流していい。この呟きは絶対に流していい。そうじゃなきゃホント、泣きそうだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……貴音、東京駅でかつサンド買わなかった?」

「アレでは足りません」

「二人前だよっ!? 結構分量あったよっ!? で……なんでついてきたのよ」

「プロデューサー、知らないのですか?」


うん、知らないよ。事件とは別問題だし、別にあずささんとゆりゆりな関係でもなんでもないよね。

ぶっちゃけここにいる事自体が違和感の原因だよ。なのにどうしてにこやかに笑えるのさ。


「京らあめんは凶料理――雅と風情とは正反対な京都らあめん屋が」

「知らないよっ! あの、あずささん迎えに行くって趣旨を忘れてないっ!?
なんで京都ラーメン食べに行くみたいな話になってるのっ!
しかもそのドヤ顔やめろっ! なんかムカつくんだよっ! 無性にムカついてくるんだよっ!」

「プロデューサーも同じ気持ちなのですね、お腹が空くとどうしても気が立ってしまいますから。
ですが大丈夫です。プロデューサーもきっと満足いただけるらあめんとの出会いが」

「僕がいつの間にか同意したみたいに言うなっ! あぁもう、コミュニケーションって難しいなぁっ!」

「それでプロデューサー、頼れる二人というのは」


そこでいきなりシリアス話に戻すんかい。貴音も何気にマイペースだなと思いつつ、僕はため息を吐いた。


「留守にしてるみたい。まぁ探偵だし、他の仕事もあるから。一応メールしといたから、遅くとも明日までには」

「そうですか。ですがなぜ、今回の件でその二人に?」

「専門家なんだよ。そこの街では、メモリ絡みの事件がよく起きるから。
なので今出ている情報を使えば、メモリの正体も多分掴める」

「それは心強いですね。ですが」


貴音はかつサンドをまた一口かじり、疑問の表情を浮かべる。


「やはり、めもりのせいなのでしょうか」

「違うよ。メモリはあくまでも増幅させているだけ。そうして選んで、行動しているのは……使用者本人だ」

「だからこそ、早く止めて罪を突きつけなければならない」

「うん」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そんな話をしている間に、京都駅へ到着。早速駅事務室に向かって、あずささんと合流。

あずささんの分のチケット代金もそこで支払って、無事に……最大目標を達成できた。

そう、あずささんと迷う事なく合流が、最大目標。駅事務室を出た僕は、うーんと伸びをしてその解放感を満喫する。


「プロデューサーさん、貴音ちゃんも……わざわざ来てもらっちゃって、ごめんなさい」

「いいですよ、貴音は楽しんでましたし」

「あら、そうなの?」


あずささんの視線に、貴音はいつもの笑みを浮かべて頷く。


「えぇ。京都らあめんがわたくしを待っておりますので」

「――などと意味不明な供述を」

「いけずです」

「うふふ、二人とも随分仲良しさんになったみたい。やっぱり……事件絡み?」


おいおい、なんで知ってるのよっ! その話僕はしてないよっ!?

思わず貴音を見上げるけど、貴音も驚いたようで首を降っていた。


「実は律子さんからメールで、大体の事は。まぁその話をここでするのもあれですけど……これからどうしましょう」

「既に宿は取ってます。そこは社長の計らいで」

「そして店もピックアップしております。さぁ、急ぎましょう」

「うん、関係ない話をさも当然のように交えてくれるね。てーかラーメンは決定かい」


ホントに凶料理を体感する事になるのかと思いつつ、僕は二人を連れて駅構内を進む。

帰宅ラッシュを少し過ぎているとはいえ、さすがに京都府の中心駅だから人通りも多い。

あずささんとはぐれないよう気をつけて……あれ、おかしい。僕、あずささんと手を繋いでる。


気をつけているのは別にいいんだけど、手を繋いでしまっている。


「あの、あずささん」

「迷わないように……いいですよね」

「では私も」


それで貴音も繋ぐのっ!? いや、これおかしいからっ! なんか僕、宇宙人みたいになってるしっ!

くそー! こういう時身長差が……あれ、着信? 僕は一旦貴音に解放してもらって、携帯を取り出す。


「はいもしもし」

『アンタ、まさか連中のために、命を賭けるつもりじゃないわよね』

「……伊織、せめて挨拶くらいはしようか」

『いいから答えなさいよ』

「賭けるよ」


誤魔化しは利かないと判断して、即決で答える。


「夏みかんもギンガさんも、力がなくて困っている人だもの。それに泣いてたしね。
もちろん事務所やみんなに迷惑をかけるつもりはないよ。そこはうまくやる」

『バカじゃないのっ!? アイツら、ただ押しつけてるだけじゃないっ!
てゆうか、なんであんな奴らのために、アンタが苦労するのよっ!』

伊織、舌打ちしないで。僕の性格はよく分かってるでしょうが。


「てゆうか、分かってないねぇ」

『なにがよ』

「もう一人の僕はなんだかんだ言いながら、焦ってたみたいで不覚を取ったけど」


もう一人の僕までやられたのは、おそらく油断していたか……焦っていたかのどちらか。

うん、フェイトやギンガさん達と同じだよ。冷静を装っていても、どうなるか分からなくて不安だったのよ。

そうじゃなきゃ、あんな凡ミスしないでしょ。ただ僕は幸いな事に他人で、より冷静に動ける。


それが少しおかしくて、笑ってしまった。


「僕が同じ轍を踏むと? 一番強いのは僕だって、知ってるでしょ」

『なんで、アイツらのためにそこまでするのよ』

「罵倒されてもあそこまで一生懸命頭を下げられるって、なかなかできる事じゃないよ。
それくらいは見れば分かるもの。それに光夏海……いいよねー。東京に戻ったら口説き」

『アンタバカでしょっ! ……もう知らないからっ! 勝手にやってなさいっ!』

「もちろん勝手に誘うよ。あの長い艶やかな髪に、抜群のスタイル――もう僕の胸はドキドキだよ」


あれ、電話切れちゃった。それが今ひとつ不思議になりつつ、携帯を懐に入れた。


「伊織はツンデレだなぁ」

「プロデューサーさん」

「プロデューサー」

「はい、なん……あれ。二人とも、どうしてそんな怖い顔をするの?」

「さぁ、どうしてでしょうね」


そのまま怖い二人に引っ張られつつ、僕は京都駅を……ちょ、怖いっ! 二人とも怖いからっ!

てゆうか手が痛いっ! お願いだからもうちょっと力を抜いてー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


結局貴音の言う通りになってしまった。が……その前に宿を確保である。さすがに女性連れでネカフェもない。

社長が近場のビジネスホテルを取ってくれたので、まずはそこで直行。……結構作りが立派で驚いたけど。

二人を連れてフロントへ行き、名前を伝え、身元確認を開始。それで部屋のカードキーが渡される。


ただそれは……二部屋取っていたはずなのに、一枚だけだった。しかもフロントのお兄さんは、申し訳なさそうに頭を下げてきた。

え、なに? これ以上なにかあるとか嫌なんですけど。お願いだからそういうのはほんと、やめてよ。


「申し訳ありません。実はご予約いただいたお部屋なんですが、一つにヒドい水漏れが発生してしまって」

「え、使えないんですか?」

「はい。それで他の部屋をご用意できないかと思ったのですが、そちらも無理で……ご用意できるのは、一部屋だけに」

「いやいや、それは困りますってっ!」


やばい、律子さんに殺される未来が見えた。さ、さすがに……どうする。別のホテルを探す?

京都には何度か来た事あるし、ツテがないわけじゃない。できないわけじゃない。

でもそのために二人を連れてはさすがに……もし見つからなかったら、野宿になっちゃうしなぁ。


もちろん東京に戻るのも無理。いや、僕だけネカフェって方法もあるな。よし、それで。


「ならしょうがないわね」

「えぇ。今日は一つ屋根の下で、一夜を明かしましょう」

「よし、それで……はいっ!?」

「ありがとうございます。ではこちら、カードキーです」

「はい」


あずささん、なんで素直に受け取るんですかっ! いや、おかしいっ! 絶対それはおかしい。

あと僕の腕を取って引っ張らないでっ! なんであなた、そんな嬉しそうなんですかっ!


「さ、お部屋に荷物を置きましょう……って、ほとんどないんだけど」

「わたくし、一応着替えを用意して参りました。あずさとは体型も似ているので、大丈夫かと」

「あら、貴音ちゃんありがとう」

「いや、おのれら待てっ! 僕は男っ! それで泊まるとか無理だからっ! なにを考えてるっ!」


歩きながら器用に首を傾げるなっ! 僕は間違った事、一つも言ってないよっ!?


「よし、僕はネカフェに行きますっ! それで」

「「駄目です」」

「なんでじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


そうして二人は僕を連れてエレベーター前へ移動し、上昇ボタンを押す。なお、部屋は5階。


「だってプロデューサーさんがいないと、ホテルの中で迷子になっちゃいますもの」

「貴音はっ!?」


そう聞いても貴音は口元に立てた人差し指を当てて。


「とっぷしーくれっとです」

「その返しはイミフすぎるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


そして死刑宣告の如く、エレベーターが到着。……僕は、無力だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


部屋は幸いな事に、ツインベッドだった。これなら間違いが起きる心配もない。

部屋の設備を一通り確認した上で、貴音お望みのラーメンを食べに向かう。……が。


「あの、貴音さん」

「なんでしょうか、プロデューサー」

「……なんで天下一品っ!?」


僕達がやってきたのは、天下一品というラーメン屋さん。ここは京都が本店のチェーン店で、東京にもお店はある。

ドロドロスープのこってり味で、おそらく看板を目にした人も多いと思われる。


「プロデューサー、あなたほどの人ならご存知のはずですよ? 天下一品の総本山はここ」

「うん、知ってる」

「てゆうか、堂々と書いてるわよ?」

「京都に来て一軒目……やはりここを攻め落とさなければ」

「一軒目っ!? なに、はしごするつもりですかっ! アイドルなのにバカじゃないのっ!?」


とか言っても貴音は止まらず、僕達は連れられる形でそのまま和風の店内へ突入。

やばい、事件の前に貴音の食生活を解決しなきゃ。社長達に進言して、人間ドックを受けさせよう。

ここのラーメンは、『こってり』と『あっさり』の二種類が基本。当然貴音は。


「こってり三つ、お願いいたします」

「なぜ僕達の分まで決めてるっ!?」

「あらあら、貴音ちゃん燃えてるわね」


やばい、貴音が暴走してる。てーか完全にラーメン食べに来た人だよ。でも僕には止められない。

内心不安になっている間に、ラーメンは出来上がり到着。……味が濃そうだなぁ。

ややオレンジがかったとろみのあるスープと麺が、赤い丼の中でめっちゃ自己主張していた。


まぁ貴音の勢いはあれだけど、実際食べてみるとやっぱり美味しい。こう、癖になる味なんだよね。

毎日じゃなくても、ふと思い出して食べたくなる味。しかも本店という事もあってか、いつもより美味しい気がする。

貴音は実に幸せそうでなによりだけど……まぁあずささんも楽しそうだから、あんまり言わないでおこう。


そうしてラーメンを頂きスープを飲んでいくと、丼に刻まれた文字が浮かび上がる。

そこには『明日もお待ちしてます。』と書かれていて……これを毎日食べるのは、貴音くらいだと心の中でツッコんだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「天下一品の総本山……実に味わい深かったです。さて、次のお店は」

「だからラーメンのはしごをするなっつーのっ!」


外に出てから、貴音の頭をハリセンでどついて止めておく。コイツ、自分がアイドルだって自覚が絶対ない。


「てーかあずささんの事も考えてよっ! 竜宮小町で衣装も発注するのにっ!」

「確かに……あれもヘビーだったから」

「二人とも、それは本気ですか?」


貴音は笑って、目の前にあるお店を指差した。


「既に次の店へ来ているというのに」

「「……ですよねー」」


ごめんなさい、なんだかんだで僕達、あれじゃあ足りなかった。もう一杯は食べられそうだった。

あずささんも新幹線に乗ったり道に迷ったりで、お腹空いてたっぽいのよ。だからもう一杯いけちゃうのよ。

一応ツッコんだけど、その権利そのものがなかった。というわけで、僕達はそのまま店内へ入る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


三人は今ごろ京都かぁ。しかも社長も太っ腹よねぇ。一晩の事とはいえ、旅費とか全部持っちゃうんだもの。

まぁそういう器の大きいところが素敵だと、事務所の留守を預かる私は思うわけで。

でもお泊まりなわけだし、なにかあるわよね。むしろなかったら駄目よね? ホテルはリバーサイドよリバーサイド。


例えば……突然のトラブルで、一緒の部屋で泊まる事になる。そうして解放される欲望っ!


『プ、プロデューサー』

『そんな……まだ、私は心の準備が』

『ごめんなさい、無理です』


二人をベッドに押し倒し、そっと抱き締める。甘えるようにすりつく恭文くんへ、二人はなにもできない。

いわゆるなんやかんやで母性本能なのよっ! なんやかんやでビーストモードなのよっ!

……いや、これはやや強引かもしれないわね。私とした事が失敗したわ。むしろ逆の方が美味しいわよね。


理性を保とうと必死な恭文くんに気づいて、二人はそっと押し倒すの。


『あ、あずささん……てーか貴音も、駄目』

『プロデューサーさん、我慢……しなくていいんですよ?』

『その通りです。わたくし達はちゃんと、覚悟を持ってここにいます』


二人の手がそっと恭文くんの首元に伸び、服を脱がしていく。そうして揃ってキス。

首筋に優しい口づけを受けた恭文くんが、身体をピクンと震わせる。……やっぱりこっちよっ!

二対一だから、さしもの恭文くんも最初は押されるっ! そうして後は……そのギャップがいいっ!


『今日はなにも考えず、ずっと一緒にいましょうね』

『プロデューサー、お情けを……頂戴します』

「そうしてそのまま」

「音無くん?」

「ふぇっ!?」


後ろからかかった声で、私の固有結界は一気に破壊。


「しゃ、社長っ! どうなさったんですかっ!」

「いや、光写真館のオーナーが夕飯をごちそうしてくれる事になってね。もし誰か残っているならと思って、来てみたんだが」

「そ、そうですか。ならあの、書類を片づけてすぐ向かいますので」

「あぁ、分かった。それじゃあ早めに頼むよ」

「はい」


そのまま社長は事務所を出て……私は机に突っ伏した。駄目っ! 駄目よ――小鳥ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


京都ラーメンは恐ろしかった。一乗寺近辺はラーメン屋が多いとは知っていたけど、予想外だった。

出てきたタワーラーメンを平然と貴音が平らげ、僕達は小盛りなのに大盛り気分を味わえた。

そしてあずささんはその様子を見て『貴音ちゃんは、グルメ番組に出られるわね』と呟いた。


腹ごなしにゆっくりと歩いてホテルに戻り……二人は部屋のお風呂開始。

かく言う僕はベッド上であぐらを組み、社長からかかってきた電話を受けたところだった。


「もしもし、火野です。社長、お疲れ様です」

『火野くん、お疲れ様。どうだね、京都の夜は』

「……最悪ですよっ! かくかくしかじかって感じでっ!」

『なんとそんな事が……まぁその、律子くんには内緒で』

「そ、そうしてくれると助かります」


社長ですら、今の律子さんに話すのは躊躇うか。まぁ知ったら……刃物が飛び出すだろうしなぁ。


『それで事件についてだが』

「社長は動く必要ありませんよ。既にこっちで手を回しています」

『だと思ったよ。なので小野寺くん達にはああ言ったが、実は動いていない』

「ちょっとっ!?」

『私にできるのは、君がどう動いてもサポートする事だと思ったしね』


軽く笑いながらそう返した社長に、深々とお辞儀を返す。

この人無茶苦茶だけど……その分、懐が深いんだと実感した。


『それで』

「知り合いの警察関係者に頼んで、事件の資料を見せてもらえるよう交渉しました。明日早速行ってきます」

『信用できるのかね』

「ばっちりです。メモリが絡んでる事も説明したので、最優先で情報を回してくれます。それで」


枕元に置いてある手帳を開き、ここへ来る前に教えてもらった事を再確認。

とは言っても、被害者の名前や殺された状況……そういう基本的なところばかりだけど。


「さすがに三人も殺られてますしね、もう隠さず事実を公表するらしいです。
局は内密にと強く言ったそうですけど、今回は殺された現場が現場。もうどうしようもない」

『確か廊下のど真ん中で、だったね』

「えぇ」


今までは室内とかだったのに、いきなりお披露目だよ。

明らかにやり方が変わってるのは、事件が隠蔽されたせいなのかもしれない。


「それで今日殺されたのは」

『今までの被害者の上司』

「そこは知ってたんですか」

『まぁね。……昔、一緒に仕事をした仲でね。何度か飲んだ事もある』

「そうですか」


そういう事情から、社長に話が伝わったのはよく分かった。左手で頭をかき、どうにも面倒な重さを払う。


「犯人は必ず見つけます」

『いや、無理はしないでくれたまえ。これは私の問題だ、君は君のために動けばいい』

「はい。それで……今日の事で、スタッフは完全にビビっているみたいですね。ただ」

『ただ?』

「警察は番組関係者――三人に恨みのある人間に、疑いを持っている。
今もその方向で調査してますけど、普通の方法で立証はかなり難しいです」


元々不可能犯罪だしねぇ。今日の事も、今まで通り『一人になった数分の間に』って事らしいから。

確かにミキシングマシンを持ち込んで、被害者を頭から突っ込まない限りは無理だよ。


「そこの問題も相談して解決しますから、多分なんとかなります。あとは」

『君が言っていた、メモリの正体かね? だが犯人が分かれば』

「そのまま止められれば、いいんですけどね。……これだけ派手にやってると、ミュージアムが感づいてもおかしくない」

『その場合、なにかあるのかね』

「もしメモリがミュージアムご謹製なら、連中が出てくる可能性があります」


別のページを開くと、例の二人と絡んだ時に書き込んだものが出てくる。それが少し懐かしくて、笑ってしまう。


「メモリ購入者はリスト化されていますし、どうも高額購入者にはそういう『サービス』があるそうです」

『つまりメモリ所有者をガードするために……プロデューサー、大丈夫なのかね』

「そこも考えて行動します。とにかく複数戦に備える形で。というわけで社長」

『じっとしていた方がよさそうだね。君の邪魔をしてしまいそうだ』

「ありがとうございます。まぁこんな感じなので」


手帳を閉じ、僕は後ろから聴こえる水音に目を細め……ベッドに倒れ込む。


「……今日僕は、ネカフェを探したいと思います」

『まぁお互い合意の上なら……君達は若いわけだし、竜宮小町の事も気にしなくていいから』

「社長、そこは止めましょうよっ!」

『ははは、それもそうだね。だが私は、うちのアイドル達に不誠実な態度を取らなければ構わんよ?』


思わずツッコみそうになったけど、社長の声色が真剣なので自重する。

言葉は簡単だけど重いものを感じて、素早く起き上がり背筋を伸ばす。


『プロデューサーとしても、人間としてもだ。そこだけはしっかり頼む。では、お疲れ様』

「お疲れ様でした。社長、ご連絡ありがとうございます」


そこで電話は終了……ちょっと待て。一つやる事があった。


「社長、今って夏みかんはいます? ギンガさんやフェイト、もう一人の僕は」

『あぁ。光くんとナカジマくんは後片付けの最中だが。蒼凪くんはソファーで疲れ果てた顔をしている』

「……なにがあったんですか」

『……ハラオウンくんがライダーに変身すると言い出したので、特撮などの変身グッズを買いあさってきたんだ。
それを全部試したんだが……尽く壊してくれてね。なのでフェイトくんは、その脇で正座中だ』


なにやってんの、もう一人の僕っ!てゆうか、それで納得させたんかいっ!


「よく納得しましたね」

『おもちゃではあるが、ディケイドやダークカブトより変身シークエンスが複雑でな。
もう大変だったよ、レバーを折ったりカードを曲げたり。なにか用事かね』

「えぇまぁ。すぐ折り返すので」

『おーいっ! 光くんとナカジマくん、蒼凪くん達も来てくれっ! プロデューサーから話があるそうだっ!』

「ちょ、社長っ!」


さすがに社長の電話を使うわけにはいかないから、折り返して写真館へかけようと思った。

なのに突然そう言われて、部下として慌ててしまい声を荒げる。


「いや、すぐ折り返しますからっ! お気遣いなくっ!」

『いやいや、これくらいは構わんよ。大事な用みたいだしねぇ……あ、今替わるよ。みんなにも君の声は聴こえるようにしておく』

『――もしもし、替わりました』


替わっちゃったしっ! あぁもう、社長へのおみやげはめっちゃ豪華にしよう。あれだ、凶ラーメンでも再現しよう。


「……夏みかん? 早速だけど……おのれ、戦えるなら戦うって言ったよね。ギンガさんも」

『はい。でも私』

「その覚悟が本気なら、少し手伝ってほしい事がある。というわけでフェイト、もう一人の僕、一つ質問。
魔法の中で姿を変えられるものってある? こう……変身しちゃうの。三人だから、ちょうどいいんだよね」

『それはあるけど……ちょっと、まさかっ!』

「よく分かったねー。さすがはもう一人の僕」


まぁ本決定じゃないけど、これが一番かなと思う。無関係な人間は巻き込めないし、それならねー。


『いや、駄目だからっ! それでなにかあったら……三人とも戦闘は無理なんだよっ!?』

「伊織と千早にあれだけ言われて、『なにもしませんでした』でいいわけないでしょうが」


もう一人の僕は随分甘い事を言うので、鼻で笑ってしまう。


「これはフェイトとギンガさんが、僕達に言った事だ。だから自分達でまず、その姿勢を示せ。
戦えない? そんなの関係ないよ。例え指差し一つで死ぬ身体だったとしても、まず自分の命を賭けるのが筋ってもんだ」

『その対価を、死んでも払えと』

「それくらいしなきゃ、みんなの中で三人は嘘つきで汚い大人のままだ。まぁそれでもいいなら、無理は言わないけど」

『……分かりました』


軽く挑発気味に言ったおかげか、夏みかんが狙い通りに食いついてきた。


『戦ったりは難しいですけど、私達にもできる事があるんですよね。あなた任せにはならないんですよね』

『なぎ君、なにをすればいいのかな』


うし、これで二人は確保。あとは……なんか嗚咽漏らしてるフェイトか。こっちもうまく説得しよう。


「あとフェイト、おのれは本当に前線で戦っていたプロ?
ここに来てからそれなりに時間が経ってるのに、改善の兆しが見えないってどういう事よ」

『私だって……一生懸命』

「バカじゃないの? それが一生懸命っていうなら、ニートだって壮絶に生きてるよ」


まぁニートはニートで精神状態が壮絶だろうから、そこは気にしない事にする。大事なのは『ニート以下』と言っている事。

このまま腐らせても後が面倒だろうから、こっちで方向性を定めておく。

どうももう一人の僕、そこが下手みたいだしねぇ。いっそ落としてみんな彼女にすればいいと思うのに。


僕の見立てではこのフェイト、そうすれば良妻賢母になって安定するだろうし。……まぁそのためにっていうのは最低だけど。


「本気でなんとかしたいと思うなら、改善すべきところがあるでしょうが。
なのにそれから目を背け続けてる。それは一生懸命じゃないよ」

『私に……できる事なんて、もうないよ。おもちゃのアイテムすら、満足に使えず……!』

「いいから聞いて。もう一人の僕が動けない以上、おのれが鍵なんだから。まず」


ここはかくかくしかじかで説明すると、電話の向こうで三人が驚いた声を漏らす。


「というわけで――今日の間になんとかして」

『なんとかって、そんなの無理だよ。私は、どうせ』

「ふざけるな。……今もう一人の僕はかなり困ってる。おのれがバカなせいで焦って、らしくもない怪我をした」


責任転嫁ではあるけど、こうでも言わないと使えないだろうから煽っておく。

それで向こうのフェイトが、小さく息を飲んだのに気がついた。


「おのれが自分の強さを持っていれば、そのために鍛えていれば、こんな事には絶対ならなかった。
なのにその責任からも逃げるつもりか。これからはともかく、今は死んででも戦って、その穴を埋めなくちゃいけないんだよ。
そもそもそれを望んでたくせに、今更泣き言抜かすな。いいな、絶対にやれ。……というわけでもう一人の僕」

『できれば、やめてほしいんだけど』

「無理だ。僕なら、分かってるでしょうが」

『確かにね。フェイト、やるよ。それが望んでた事でしょうが。……社長に返す』

「……社長、長話しちゃってすみません」


まずは社員として、頭を下げてお詫びする。いやもう、予定外の事だしここはちゃんとしないと。


『いや、大丈夫だ。プロデューサー、それで大丈夫なのかね?』

「知りませんよ。三人が死んだとしても、それは自分の言葉に殉じただけの話。僕達が負う責任じゃない」

『そうか。……もしかして最初のあれこれ、かなり怒っているのかい?』

「どうでしょ。それじゃあ社長、今度こそ……ありがとうございました。おみやげは期待していてください」

『あぁ、楽しみにしているよ』


ようやく電話は終了し、僕は一息。そうして懐から、常備しているバトスピのデッキを取り出す。

戦術なんかを考える時、デッキをいじるのがくせになってる。しかし……社長はツボを心得ている。

めちゃめちゃな行動が多いから忘れがちだけど、人生経験豊富な大人。


ああ言えば、僕が逆に手出ししにくくなるって……分かってるのかな。

ふだんの行動を考えると、なんか違う気がしなくもない。まぁそこはいいか。

まず直接戦闘は無理。傷をつけられた瞬間、こっちは死亡確定だ。


でもそこはウィザードメモリ。むしろ中距離戦が得意なメモリだし、やりようはいくらでもある。

あとは……戦うフィールドか。デッキの中に入っているネクサスを取り出し、軽く唸ってしまう。

魔導師には、それなりのフィールドが必要になる。もちろん街中で使える『魔法』でも、やれるだろうけど。


不安なのは相手の腕っ節とかが未知数なところ。クロックアップとやらで殴ってたから、そこがなぁ。

もし速い相手とかなら……できれば、あれは使いたくない。とりあえず魔法の種類、書きだしておくか。

デッキをケースに戻して仕舞ってから、手帳の空白ページを開いて書き書き。


「ふぅ、いいお風呂でしたぁ」

「プロデューサー、お先に失礼しました」


後ろから音がしたので、風呂場の方へ振り返る。するとそこには、ピンクのパジャマを着た二人がいた。

僕は思わず顔を背け、震える手でページに適当な文字を書きなぐる。やばい、ドキドキしてくる。

二人ともお風呂上がりだから頬が赤くて、妙に色っぽい。やばい、口説きたい。添い寝くらいしたい。


で、でも我慢だ。特にあずささんは……もしそんな事したら、間違いなく殺される。

誰かさんがそのレベルでキレる。第一種忍者だけど、そうしたら負ける。

第一種忍者だけど、あれは勝てない。……そうだ、いい手があるじゃないのさ。


「あ、そうだ。僕はやっぱりネカフェに」

『駄目です』

「お願いだから察してっ! この状況でなにもするなとか、生殺しもいいとこだしっ!」

「あらあら、プロデューサーさんは正直ですね。普通隠しますよ?」


しょうがないでしょうがっ! 僕はもう自分の欲望に気づいてるしー! ……だ、駄目だ。

本気で我慢できる自信がない。このまま……いやいやいやっ! 駄目だからっ! 絶対駄目だからっ!


「だったら」


頭を抱えベッドの上でもだえ苦しんでいると、頭の上にぽんと手が乗った。

それで顔を上げると、あずささんが優しく笑っていた。


「口説いてもいいから、側にいてください。じゃないと私、また迷子になっちゃいますよ?」

「……はい」


……しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! つ、つい言ってしまったっ! やばい、死亡フラグが立ったっ!

律子さんが鬼になるのを想像してガタガタ震えていると、携帯が鳴り出す。これは……僕は慌てて携帯の通話ボタンを押した。


『あー、鳴海探偵事務所の左翔太郎です。……火野、久しぶりだな』

「翔太郎、待ってたよっ! もうグッドタイミングっ!」

『なんだなんだ、事件に進展でもあったか』

「いや、僕の理性が砕けるところだった」

『お前なにしてんだっ!?』


あずささんと貴音は察してくれたらしく、首を傾げながらも隣のベッドへ移動。

僕はというと手帳を取り出し、早速準備開始。……これが『頼れる二人』の一人。

風都という地方都市で探偵をしていて、ドーパント絡みの事件に関わる事も多い。


翔太郎とは日本に戻ってから、社長にスカウトされる前に知り合った仲。何気にツーカーなのよ。


『それでメールを見させてもらったが』

「うん」

『お前……なんで度々厄介事に首突っ込んでんだっ! おかしいだろうがっ!』

「やかましい。最悪ゾーン入ったんだから、しょうがないでしょうが。……それで」

『来ていた情報を元に軽く検索をかけたが、特にヒットはなしだ』


おぉ、さすがに動きが速い。手間が省けて実に素晴らしいよ。


『それで、他に情報は』

「いろいろ掴めたよ。現場には明日、実際に行ってみるつもり」


それもこれも、警察関係者なリスティさんのおかげ。……あ、僕が昔からお世話になってるお姉さんなんだ。

遺伝上の問題で超能力が使えるリスティさんは、警察の捜査に協力している。

しかも今回の件にも絡んでいて……おかげでかなり詳しい情報が聞き出せた。うぅ、またお礼をしないと。


「まず被害者は三人。東亜テレビ・IDOL BATTLEディレクターの小岩井良辻(よつじ)、34歳・男。
その後釜にと選ばれたのが吉永健児、36歳・男。こっちが二人目の犠牲者だね。
それで今日殺されたのが、総責任者の岩本博嗣(ひろつぐ)、57歳・男」

『交友関係は』

「警察の調べによると、交友関係で問題はないみたい。生き馬の目を抜くテレビ業界で、結構人望もあった。
だから事件の事を知った関係者は、どうしてこんな殺され方をって一様に首を傾げてる」

『怨恨の線はないわけか』

「ないねぇ。ただ……この手の善良キャラは、逆恨みされやすい部分もあるけど」


悲しいかな善意というのは、時として誤解や中傷の種を生む事もある。

無自覚に悪意となって、誰かを傷つける場合だってある。お兄ちゃんの事があるから余計にそう思う。

この三人の殺しに怨恨が絡んでいるとしたら、そういう方向かなと推測される。


実際警察もそういう方向で動いて、今周囲の人間関係を徹底して洗っている。

ここは出演したアイドルや、事務所関係も同じ。もしかしたら収録中にトラブルがあったかもしれないし。

そちらは出演した事で業界受けが悪くなったり……とか? でも結構難航してるみたい。


とにかくね、被害者に対して異常な執着を抱いているのは確かだよ。だって……これは最大の辱めだよ?

二目と見られない肉片に変えられ、衆人環視の元にさらされるんだもの。メモリの事を抜いても、そうなる。

死者への冒涜と言ってもいい。あれを見た遺族や関係者は、名前を聞くたびにミンチを思い出すわけだよ。


『それで傷を広げて……あー、今フィリップとも話せるようにする』

「お願い」

『……火野恭文、久しぶりだね』

「フィリップ、久しぶり」


そしてこれが二人目。左翔太郎が探偵の身体とするなら、フィリップはその頭脳を担当している。

フィリップは『地球(ほし)の本棚』と呼ばれる巨大データベースを、自信の体内に持っている。

おそらくはそのアクセス権と言った方が、正しいのかもしれない。実際のところは僕にもよく分からないけど。


そこには人・物・事象と言った、ありとあらゆる情報が内包されていて、『検索』を行う事で引き出せる。

……もうここまで言えば分かるでしょ。フィリップに検索してもらって、犯人とメモリの情報を引き出すのよ。

ただそのためには、キーワードを出して情報を絞りこまないといけないんだけど。なのでここからが、腕の見せ所。


「それで早速なんだけど」

『分かっている。しかし君は、またこういう事によく関わるね。実に興味深い』

「僕は普通にしているんだけどねぇ。……まずは被害者三人の名前で」

『そうそう、そこにアイドル達がいるんだよね。ぜひ話をさせてくれ』

「なんでっ!?」


……駄目だ。こうなったら言う事聞かないと、てこでも動かなくなる。

僕は携帯のタッチパネルを操作し、二人とも会話できるようにする。


『やぁ初めまして。三浦あずさと四条貴音……かな』

「え、あの……初めまして」

「プロデューサー、こちらの方は」

「……頼れる二人の片割れ。なんでか二人の事も知ってる」

『検索したからね。特に四条貴音、君の出自は実に興味深い。久々にゾクゾクしたよ』


貴音が怪訝な顔をしたので、軽く事情説明。二人は驚いた顔をしながら、僕の携帯を見ていた。


「フィリップ、貴音のあれこれは『とっぷしーくれっと』らしいから、黙っててね」

『あぁ、分かってる。もう興味もないしね。それでは――検索を始めよう。被害者三人の名前からだったね』

「うん」


まずは調子を見る感じでお願いしたけど、これでどうにかなるとはさすがに思っていない。


『出てきた』

「え、マジッ!? それで」

『残念ながらメモリや犯人に関する事ではない。IDOL BATTLEは、打ち切りになるようだ」

「あらら、そうなの」

『スタッフも事件に怯えていて、局がそれを隠していた影響もある。
その上犯人が捕まらないのでは、致し方なしと言ったところだろうね』


絶対テレビ局も批判対象になるだろうし、大変だなぁ。潰れなきゃいいけど。


「じゃあ竜宮小町のデビュー、どうなるのかしら」

「律子さんの判断次第だけど、デビュー場所がなくなるから……延期かと。
じゃあもう一度検索お願い。一つ目は怨恨、二つ目は傷、三つ目はIDOL BATTLE」

『残念だが、そのワードは既に検索している。絞り切れなかったよ』

「それはまた……前もって動いてくれて、ありがと。なら」


今出ている情報で効果的なのは……手帳の中身を見て、考えを纏めていく。

……改めて殺され方などを見て、一つ気づいた。当たっている可能性は低いんだけど、駄目で元々だ。


「一つ目と三つ目を変更」

『了解。どうする?』

「一つ目は風都、三つ目は……女」

『検索してみよう――これは驚いた、絞り込めたよ』


僕は指を鳴らし、軽くガッツポーズ。うし、ヤマカンだったけど当たった。


『だが三つ目はなぜだい? 現在メモリは風都を中心に出回っているから、一つ目は分かるんだが』

「確かに。プロデューサー、それはなぜ」

「簡単な理由だよ。女性が事件を起こした場合、惨殺事件になりやすいから。
一応言っておくけど、女性の方が凶暴とか差別してるとか、そうじゃないよ?」


その女性がすぐ近くにいるので、一応フォローも入れておく。


「女性の方が基本力も弱いって話」

『あー、そういや聞いた事があるな』

「えっと、どういう事ですか?」

『例えば死体を運ぼうとするだろ? でも平均的な成人男性は、60キロ前後はある。
女性だとしても40〜50。人間って考えればあれだが、単純な物として考えると重いだろ』

「確かに……私や貴音ちゃんもそれくらいですし、持ち上げるのは無理かも」


そこであずささんが僕を見るのは、以前お姫様抱っこしたからだよ。まぁ僕は例外なので、省いてほしい。


『しかも死体ってのは、生きている人間よりも持ち上げにくい。だからな、運ぶ時に切断するケースが多いそうだ。
あとは殺害する時にも同じ事が言える。力が弱いために、殺し切れているかどうか分からない。だから徹底的に攻撃してしまう』

「惨殺事件とかが起きた場合、異常性云々の前に合理的な理由を考えるんです。
そうすると犯人像が多少なりとも見えてきますから。つまり……そうする事でのメリット」


被害者は全員男性で、女性が犯人なら殺すのも運ぶのも簡単には無理。

複数犯ならともかく、今回の場合は当てはまらないと思うので外しておく。

だから強力かつあっさり相手を殺せるメモリを購入して、なんとかしようとした。


なので女性ないし、腕力に乏しい男性かなと考えたの。あくまでも第一候補としてね。


「でもプロデューサーさん、力の強い方がそういうメモリを欲した可能性も」

「もちろんそれもありました。でもここで、怨恨の話が絡む。あの殺し方は、メモリの副作用を抜いても異常すぎる。
ああいう殺し方をするという事は、恨みを持つ状況がそれなりに続いていた事の証明」

「えっと」

「つまり被害者達から、なんらかの抑圧を受けていた。それが恨みの元。
そうされるという事は社会的ないし肉体的に、被害者達よりも弱い人物」

「正解。もちろん偽装かもしれないから、半分はヤマカンだけど」


あずささんも納得してくれたようなので……でも意外と理解早いな。

推理小説とか読んでるから? 前に部屋へ上がった時、それらしいのが何冊かあったし。


「それでフィリップ、検索の結果は」

『インジャリーメモリだね』

「インジャリー」


左手で持ったままの手帳に、『Injury』と書き込む。すると貴音とあずささんが立ち上がって、僕の両隣に……やめて。理性が飛ぶ。


「プロデューサーさん、これは」

「簡単に言えば『怪我』。スポーツ用語にもあるんです。
サッカーやラグビーなどの最中、怪我や治療のために中断した時間を指す」

『ロスタイムとほぼ同意義の言葉だ。怪我――傷ついた事を指すメモリだからこそ、そんな能力が使えるみたいだね』

「あの……一ついいですか?」


あずささんがそっと右手を挙げ、僕を見ながら首を傾げた。でもあの、その前に離れてほしい。腕に胸が……!


「つまり怪我の怪人ですよね。私、怪人っていうから生き物だと思っていたんです。傷が広がるから、毒を持ったクモとか」

『残念ながら、その疑問は無意味だ。ガイアメモリは元々、地球の記憶を再現する装置。
記憶にあるものであれば、生物に限らずメモリは精製できるのさ。
実際僕達はタブーやナスカというドーパントと、戦った事がある。そういうものなんだよ』

「えっと、タブーは禁忌で、ナスカはナスカ文明とかですよね。なんだか凄いですね』

『フィリップ、犯人も』

『メモリの名前が特定されたんだ、当然できる。さて、ワードはどうする?』


ここまで来たら、キーワード群は一つしかなかった。さっきのにインジャリーを加えて。


『一つ目はインジャリー、二つ目は』

「女性……ですね」

「ちょ、あずさんっ!?」

「三つ目は、風都とやらでしょうか」


貴音も勝手に言わないでー! せっかくの締めなのにー!


『出たよ』


それで答え絞られちゃったしっ! どうすんの、これっ!


『遠山奈津子――東亜テレビの社員で、IDOL BATTLEのADもやっている。
彼女はふた月前、別番組のヘルプとして駆り出され、風都の取材に同行しているようだ。
その時にミュージアムのエージェントと接触。インジャリーのメモリを購入した』

「最初の事件と時期も一致していますね。でもどうして、こんな恐ろしい事を」

『遠山は一人目と二人目の被害者とは、同年代……というか同期だった。
でもいろいろと評判が悪く、出世には恵まれなかった。なのでディレクターを殺害し』

『でも思い通りにならず、二人目三人目……か。そう考えれば、一度目の事件から間が開いたのも分かるな』


ようは『アイツさえいなければ、自分がディレクターになれる』って感じで殺したんだよ。

でも実際にはそうならず、別の人間が選ばれた。だからその人間と、それを選んだ上司を殺害。

なんて短絡的な……まぁ人が人を殺す理由なんて、そんなものか。もうよく知ってるよ。


『あとは彼女がメモリを持っていると立証できれば、この件は解決だ。
すぐに資料をまとめ、そちらへ持っていく。そうだよね、翔太郎』

『あぁ、ミュージアムが絡む可能性もある。放ってはおけないだろ』

「……本気? マジで命がけだけど」

『いつもの事さ。それと……一つ気になる事がある。
遠山奈津子が使っているメモリは、レベル2以上である可能性が高い』

「……レベル2?」


なんとかなると思ったんだけど、聞きなれない単語が飛び出て目を細めてしまう。

二人がこっちを見るので、首を振って『知らない』とサインを送った。


『ドーパント――ガイアメモリには、使用者との相性に応じたレベルが存在する。
君も使用を続けていく事でメモリとの適合率が上昇し、力が増していく事は知っているだろう?
だがある一定段階でそれは、それまでとは全く別物になる。そう、まさにレベルアップさ』

「じゃあもしかして」

『あぁ。傷を広げる能力は、レベルが上がった事で発現したようだ。
おそらく遠山奈津子は、逆恨みという『傷』からメモリの力を引き出している』

「逆恨みでも傷は傷。傷に対する執着や恨みで……それ、やばくない?」

『やばいね。このまま使用を続ければ更にレベルが上がり、もう手がつけられなくなる。
……そうそう、報酬は歌舞伎揚げが欲しいな』


いきなり声が弾んだものになり、明るく笑っている姿が想像できた。そのためか、思わずズッコけそうになる。


『美味しいものがあるなら、ぜひ紹介してくれ』

「それはいいけど、どうして歌舞伎揚げ?」

『……さっきまでそれ関連を検索しまくってたんだよ』


翔太郎、やたら疲れた風に……いや、疲れてるんだね。もしかして昼間に連絡取れなかったの、このせい?

それは十分ありえそうで、翔太郎に同情の念を送った。


「分かった。あ、それならレシピも渡すよ。揚げたては美味しいよー?
例えば古くなったパンとかを使ってもいいし、意外と簡単なの」

『本当かい? なら楽しみにしているよ。ではまた明日』

「うん、明日」


携帯のタッチパネルをポンと押して、通話終了。そこで僕は息を吐き、手帳を静かに閉じる。


「犯人、意外と早く見つかっちゃいましたねぇ。しかも取り調べとかもなしに」

「安楽椅子探偵の亜種でしょうか。プロデューサーが『頼れる』と言った意味、今なら分かります」

「まぁフィリップが安楽椅子探偵なのは、否定しない。あとは証拠固めだね。
検索に間違いはないだろうけど、現場や証言も確認しておかないと」


でも実際の証拠がなきゃ、警察も遠山を逮捕できない。だからこそ三人を引っ張りだすのよ。

この手のタイプなら必ず引っかかる罠を、僕はいくつか知っている。それでなんとかなるはず。

でも全ては明日の話。ここは京都で、今できる事は休む事とリスティさんへの連絡くらいだし。


「それじゃあ僕もお風呂に」

「はい」

「いってらっしゃいませ」


ベッドから立ち上がって、ようやく二人から離れられた。それに安堵して、僕はお風呂へ急ぐ。

な、なんというか……電話が終わったら、一気にこみ上げてきた。お風呂でリフレッシュしよう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そして――20分後。


「うふふ〜、プロデューサーさんお帰りなさーい」


リフレッシュしてすっきりしたのに、戻ってきたら絶望が待ってました。

あずささんが備えつけのチェアに腰かけ、顔を真っ赤にしながらグラスをかざす。……なんでビールッ!?


「冷蔵庫に入ってましたー。今日は飲みましょうねー。さぁ、貴音ちゃんもかんぱーい♪」


それで貴音が持っているオレンジジュースに、自分の缶を合わせる。酔っ払ったあずささんは、めっちゃハイテンションだった。


「あずさ、五回目です」

「いいのー。プロデューサーさんが戻ってきたんだからー。さ、かんぱーい♪」

「……領収書、切れるかなぁ」


心配しつつも、酔っ払ったあずささんをなんとかなだめ寝る事にした。

てーかこれ以上起こしておくと、抱きついたりしかねない。それは本当に駄目。


「あずささん、もう寝ますよー。明日は早いんですから」

「えー、もうちょっとー」

「駄目です」

「じゃあ……お姫様抱っこー」


なんの要求っ!? こっちに両手を伸ばしてアピールしないでっ! ほら、貴音も笑ってるしっ!


「あずさは酔うと甘えん坊になるのですね。知りませんでした」

「だってー、プロデューサーさんのお姫様抱っこ凄いのよー?
私は将来的にプロデューサーさんのお嫁さんだしー。甘えていいのー」

「はぁっ!?」

「なんと。二人の関係はそこまで進んでいたのですか」


いやいや、そんな事は……そんな事あったー! 僕、確かにそういう話してたっ!

家デートの時にしてたっ! 反論できる要因ないしっ! 確かに……え、ちょっと待って。

今のはその、OKって事? そういう感じでOKって……酔っ払ってるから、忘れようっと。


「いや、あの……ほら。立ちましょうね、それで」

「迷子になりますー」

「どんだけ方向音痴っ!? 目と鼻の先じゃないですかっ!」


とは言ったものの、この調子で話しててもしょうがない。僕はあずささんへ近づき、そのままリクエストに応える。


「うふふ」


あずささんは嬉しそうに笑って、僕にぎゅーっと抱きついてくる。

お風呂に入った後だから、石鹸とまた別の甘さが漂ってきて、かなりやばい。

が、我慢だ僕。竜宮小町が始動したこの段階で……何度も言うけど、律子さんがやばい。


「このままベッドに連れていかれると……今彼女になっちゃいますね」

「そ、それはマズいです。やっぱ僕ネカフェで」

「だから駄目ですって。私、迷っちゃいます」

「寝ながらどこへ行くつもりですかっ!」


窓側のベッドにあずささんを寝かせると、あずささんは甘い吐息を吐きつつ離してくれた。


「貴音ー! やっぱ僕がここにいるのはマズいってっ! 絶対マズいってっ!」

「プロデューサー、わたくしも……お姫様抱っこというのはできるのでしょうか」

「なにを気にしてるんじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


こうして京都の夜は更けていく。貴音はあずささんと同じベッド……ごめんなさい。

もうなんていうか、酔っ払って抱きついている様子を見るともうねぇ。

でも僕が一緒に寝るわけにはいかないの。そんな事したら、多分理性が飛ぶ。


今あずささんを彼女にしたくなる。あの家デート以上に、現在の状況は危ない。やばい、こっちの方が大事件だ。

もちろん事件の方も、放置はしない。寝る前にリスティさんへ連絡しておく。……明日で決着できればいいけど。


(第31話へ続く)









あとがき


恭文「はい。同人版StS・Remix第4巻が、販売開始しております。皆様、ぜひお手に取ってみてください」

フェイト「今回から、イラストもあるんだよね」

恭文「うん。まだまだ練習途中だけど、いろいろ書いていこうとやってるところ。なお、現在はアルトを書き上げた」


(腕前はお察しください)


恭文「将来的には挿絵を入れて、修羅の門張りの戦闘シーンを前編に渡って」

フェイト「それ漫画だよっ!」

恭文「そうだったそうだった。とにかく今回のお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。今回は……あれ、事件の話進んでない? 現場検証もしてないし」

恭文「安楽椅子探偵って、こんなんだっけ」


(多分違う)


恭文「それで問題は」

フェイト「問題は?」

恭文「ウィザードの武器はどうしようか」

フェイト「……武器ってアリなの?」


(アリかもしれないー)


フェイト「でもヤスフミ、向こうのヤスフミはこう」

恭文「言うなっ! 奴はそのうち爆ぜて存在そのものから消えるんだから、言うなっ!」

フェイト「消えないよっ!? ……やっぱりヤスフミ、胸の大きい人が好きなのかな。
私の胸もよくいじめてくるし、フィアッセさんやシルビィさんも大きいし」


(閃光の女神、赤くなってもじもじ)


フェイト「うん、いじめるよね。それでその……胸でするの、好きだよね。毎回頑張っちゃうし」

恭文「フェイト、いきなりなに言ってるのっ!? 発情してるでしょっ!」

フェイト「し、してないよっ! してるのはいっつもエッチなヤスフミなんだからっ!」


(どっちもどっち)


フェイト「それで……フォーゼが終わったね」

恭文「終わったねぇ。実はあのラスト、作者はなんとなく予測してた」

フェイト「えぇっ!」

恭文「いや、どんどん友達増やしてくからさ。ラスボスとかも友達になるのかなと。
特にジェイクの回があったから。ひん曲がったところも含めてダチになるーって」

フェイト「あぁ、それで」


(本当にやるとは思ってなかったけど)


フェイト「でも改めて振り返ると、良い作品だったよね。アクションも凄いし」

恭文「坂本監督、スタッフ・キャストの皆さん、お疲れ様でした。
いやもう、ホント楽しませてもらいました。MOVIE大戦楽しみだなー。僕も出るし」

フェイト「そうそう……出ないよっ!? ウィザード違いだからっ!」


(というわけで、仮面ライダーウィザードもよろしく。そして……ありがとう、仮面ライダーフォーゼ。
本日のED:土屋アンナ『Switch On!』)





恭文(OOO)「さて、これで準備は整った。あとはしっかり証拠を固めて、罠を仕掛けるだけ」

あずさ「でもプロデューサー、それうまくいくんですか? 三人にも危険が」

恭文(OOO)「えぇ、危険に晒されてもらいます。
そしてフェイトには一番危険で、一番負担のかかる役を任せます」

貴音「自分の望み通りの仕事を、させるわけですね。……それはともかく」

恭文(OOO)「なに?」

貴音「お姫様抱っこを」

恭文(OOO)「……ごめんなさい、許して」(崩れ落ちる)


(おしまい)





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