[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Battle21 『Lが見えない/龍熊、相まみえる』



――たーららーたららたーたらー♪ たーららーたららたーたらー♪
たーらーらーらーららーらー♪ らーららーらーーーーー♪


「みなさん、やっほらわっしょい♪ キマリの部屋です。さて、今回はゲストにみんなの愛すべき店長・ミカさんに来ていただきました」

「みんなー、やっほらわっしょいー」

「さて、早速ですが前回行った陽昇ハジメ選手と仁霧コブシ選手の試合ですが」


右手をサッと挙げると、モニターが展開して試合の様子が映し出される。

今画面内で暴れているのは、覇王爆炎撃……あれ、なにかが違う。


「ハジメ選手は手札事故を起こし、逆にコブシ選手はデッキが回る回る。
グラント・ベンケイとドルクス・ウシワカのコンビによって、かなり追い詰めたのですが」

「最後はロードドラゴンとの一騎打ちで、まさかの逆転……バトスピはなにが起こるか、本当に分からないわねー」


覇王爆炎撃が消えたら、そのロードドラゴン対ドルクス・ウシワカの一騎打ち。いやぁ、このバトルも熱かったー。


「このバトル、ミカさんはどう見ますか」

「そうねー。バトル内容ではハジメ君が勝っていたかしら」

「え、コブシ選手ではなく?」

「確かに前半ではコブシ選手が圧倒していたわ、そこは認めます。
でも後半はそこも逆転している。なにより会場をプレイで沸かせたのは、ハジメ選手。
コブシ選手はロード・ドラゴンを意識し過ぎて、幾つか小さなミスをしてたのが痛い」


ウシワカが撃破されたところで、また画面が切り替わった。今度はあたし達が観戦していた時ね。

ハジメのプレイングと合わせて二画面で映し出されているそれは、見事にハジメのプレイと連動している。

ハジメが勢いづけば会場も沸き立ち、ハジメがバカをやれば呆れたり不安げな空気が出ている。


「キマリちゃんも言っていたわよね、これからは見るバトスピから魅せるバトスピへって」

「あ、はい」

「ハジメ君のバトルは、確かに拙いところも多いわ。コブシ選手や他の選手とは、見劣りする部分もあるかもしれない。
だけどね、あの子のバトルには魅せられるものがあるわ。会場は彼のプレイで一喜一憂する。
これって凄い事だと思わない? ハジメ君がバトルすると、会場全体が一つになっていくの」


確かに……この二画面を見ると、それも分かる。コブシ選手のターンだと、そういう部分は失礼だけど見受けられない。

こう、感心はするのよ。凄いとも思うのよ。でもそれだけで、ハジメみたいな移入していく感覚はないかも。


「ここは現チャンピオンにも言える事ね。チャンピオンのバトルは、一種のエンターテイメント。
これからのバトスピは技量云々だけでなく、そういう部分も必要になってくる」

「本当に魅せるバトスピへ……おっしゃー!」


もうあたしは嬉しくなって、右足でテーブルを踏み締めガッツポーズッ! それで一気に高笑い。


「それってあたしの先見性が立派って事よねー! これで世界征服に一歩近づいたわー!」

「そういう事じゃないんだけど……あ、もちろんコブシ選手も素晴らしかったわ。練習の成果が出ていたし……実は」

「なんでしょ」

「ここで一つ、こぼれ話があるの。コブシ君というより、テガマル組?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あれは大会前の事――コブシ君は連日恭文くんと一緒に特訓。何気にコブシ君がテガマル組以外で、誰かと仲良くしているのは珍しい。

その様子を、店長として微笑ましく見ている毎日。でもだからと言ってテガマル組との友情が消えたわけでもない。

恭文くんが学園寮に戻った後は、チヒロ君と閉店間際までバトル。その日も二階のデスクで、何回も何回もやっていた。


そんな二人の様子を、テガマルはなにも言わずに一階から見上げ、牛乳を飲んでいた。


「アドバイス、してあげないのー?」


私はバトスピタワー近くにいるあの子に、そっと声をかけてみる。


「己で経験し、学んだ事だけが本当の血肉になる」

「ふーん、冷たいんだ−」


そうは言っても、理屈は分かっている。私だって元カードバトラーですから。

それで本当に冷たいわけじゃない。冷たい人は、じっと二人の事を見ないだろうから。


「コブシもチヒロも、日々腕を上げている」

「へぇ、二人の事ちゃんと見てるんだー。いいとこあるじゃないー」


笑っておでこをツンツンしても、テガマル君はやっぱり二人だけを見ている。……なんか、いいな。

ただくっついたりベタベタするだけじゃなくて、離れてても側にいる。ちゃんと繋がっているし、繋がる努力を怠らない。

いい関係だなぁ、テガマル組。これは今度の赤ブロック予選、三人が全国出場もありえるかなー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――そんな事が」

「えぇ」

「テガマル組の絆、ここにありという感じですね。でも」


あたしは上げていた足でもう一度テーブルを踏み、不敵に高笑い。


「そんなのどうでもいいわー! 今大事なのは、あたしの世界征服ー!」

「いや、それ違くないっ!? 司会として駄目でしょっ!」

「あたし、やっぱりそれができる器だったのねっ! おーほほほほほー!
みんなー! 巽キマリをよろしくー! 目指すは世界征服よー!」

「え、えっと……コブシ選手も、良いバトルだったわー。また来年頑張ってねー」

――たーららーたららたーたらー♪ たーららーたららたーたらー♪
たーらーらーらーららーらー♪ らーららーらーーーーー♪






バトルスピリッツ――通称バトスピ。それは世界中を熱狂させているカードホビー。

バトスピは今、新時代を迎えようとしていた。世界中のカードバトラーが目指すのは、世界最強の覇王(ヒーロー)。

その称号を夢見たカードバトラー達が、今日もまたバトルフィールドで激闘を繰り広げる。


聴こえてこないか? 君を呼ぶスピリットの叫びが。見えてこないか? 君を待つ夢の輝きが。

この物語はバトスピで繋がった少年少女達が、それぞれの夢に向かって正面突破を続けていく一大叙事詩である。



『とまとシリーズ』×『バトルスピリッツ覇王』 クロス小説


とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/ひーろーず


Battle21 『Lが見えない/龍熊、相まみえる』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――キマリ、自重しろよ。アバンで本編と関係ないからって、アレはないだろうが」

「なによ、別にいいじゃない」

「そう思ってるのはお姉ちゃんだけだよ。確実に好感度落としてるよ」


準決勝の全試合が終わって、キマリ達と一旦会場の外を目指して歩く。まぁコイツはそれとして……なぁ。


「というかハジメ、どうしたのよ。せっかく勝ったのに辛気臭いわね」

「勝つには勝ったけど、バトル内容がなぁ」

「そうね……アンタ、ホントポーカーフェイスとかできないしねっ! もうちょっと隠してバトルしなさいよっ!」

「こら、くっつくなっ! 暑苦しいだろうがっ!」

「コブシッ!」


細い通路を出た直後、テガマルの声が場に響いた。てーかデカい声だなぁと思い、左を見る。

するとテガマルはカラフルななにかを一気に飲み、同じ物をコブシへと差し出した。


「良いバトルだったぞっ! 胸を張れっ!」

「兄貴……!」


コブシは涙目でそれを受け取り、同じように一気飲みした。でもあれ、なんだ?

手の平サイズで、長方形で……ジュース? いや、今『牛乳』って見えた。


「あー! あれ、フルーツ牛乳だよっ!」


カラフルな牛乳とかあったかなと思ってたら、コウタが。答えをくれた。そっか、あのカラフルはフルーツか。

あれ、でもフルーツ牛乳って特別な時に……そこであの行動な意味が、胸に突き刺さった。


「Xレア並みのお宝シーンッ!」

「なにかいい事、あったのかしらね」


そんなの、もう言うまでもない。アイツはコブシにフルーツ牛乳を差し出してる。

それはつまり……苦々しい気持ちに苛まれてると、テガマルが気づいたらしくこっちを見た。


「ハチマキ」

「テガマル」

「分かっているな、今日のバトル……どちらが優っていたか」

「……あぁ」


バトルには勝っても、中身が負けてる。デッキ構築やプレイ内容――全てだ。

オレがコブシに勝てたのは、運が良かったから。実力で勝ったわけじゃない。その事実が、肩にのしかかる。


『――決勝戦の組み合わせを、お知らせします。第一試合は陽昇ハジメ選手対棚志テガマル選手』


そこでいきなりスピーカーからアナウンスが響く。……え、もう組み合わせ決まったのかっ!?

あ、そういやそこを決めるのやってたっけっ! 試合内容があれだったから、完全にスルーしてたっ!


「ハジメ、やったじゃないっ! 改めて挑戦する必要、なくなったわよっ!」

「兄ちゃん、ファイトッ!」


……今のまま、テガマルと勝負。そのプレッシャーがさっきのアレと合わさって、オレを押しつぶそうとのしかかる。

でも、負けるか。オレだって勝って勝って勝ち続けて……必ず覇王(ヒーロー)になるんだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ハジメがシリアスしていた頃、こっちはこっちで大変な状況になっていた。その原因は、決勝戦の組み合わせだよ。


『――そして決勝戦・第四試合っ! この予選の締めとなるのは試合は……残ったこの二人っ!』

『八神恭文選手と、五反田弾選手だよっ!』


僕の相手は、圧倒的な強さを誇るリアル弾。実際今僕の隣で不敵に笑う奴は、楽々勝ち上がっていた。

自然と高ぶるものを感じながら、僕は五反田弾と苦笑し合ってしまう。


「まぁ、そうなるよねー。身内ばっかだし」

「だよなー。まぁ、良いバトルにしようぜ?」

「うん、もちろん勝たせてもらうけど」

「それはこっちのセリフだ」


とか言いながら握手してしまう辺り、僕達は余裕があると思う。ただ……そうじゃない奴もいた。

それはあのバトルで、会場中を振り回していた台風っ子。この時の僕は、そんな事知る由もなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『さぁさぁっ! いよいよ決勝戦だっ! 熱いバトルを期待しているぜっ! セクシー!? NO!』

ギャラクシー!

『さぁさぁさぁっ! 決勝戦最初のバトル――選手の登場だっ!』


そうして少しの休憩時間を経て、決勝戦開始。壇上にハジメとテガマルが上がる……でも、それを見て眉を顰めた。


「なぁヤスフミ、ハジメの奴」

「気づいた?」

「あぁ」

「ハジメさん、表情が冴えませんね」


テガマルとバトルしたがってたから、緊張してるって事? いや、それとはまた違う感じがする。……なんかきな臭いなぁ。


『それでは第一試合は、棚志テガマル選手対陽昇ハジメ選手っ! 二人とも、コールよろしくっ!』

「「ゲートオープン、界放っ!」」


そうして二人は光に包まれ、あのフィールドへと降り立つ。

でもそんな中、いつも楽しそうにバトルしているハジメは……なにかあった?

思いつく事と言えば、さっきのバトルで事故った事くらいだけど。


でもそういう時もあるし、あんま気にするのもなぁ。僕の場合、大体事故だしさ。


『棚志テガマル――やっとお前と戦えるぜっ!』

『コブシに勝ったからって、良い気になるな。さっきも言ったはずだ、あのバトル……どちらが優っていたかは明白』


なるほど、心理フェイズをかましていたわけですか。でもテガマル、それは勘違いだよ。どっこいどっこいもいいとこでしょ。

会場を沸かせるバトルをしたのはハジメだ。キマリが前に言ってたみたいに魅せるバトルがありなら、ハジメに軍配が揚がる。

でもコブシ……残念だったな。あんなに勝ちたがっていたのに。これもトーナメントの性とはいえ、中々キツい。


『……なってねぇよ。オレだって分かってる、コブシに勝ったのはラッキーだったからだ。コブシは強かった』

「ラッキー……ねぇ」

「おいおい、大丈夫かよ」

「陽昇さん、棚志テガマルに飲まれていませんか?」


まぁ否定はしないし、一緒に特訓してた身としてはコブシを評価してくれるのは嬉しい。……試しにコブシの方を見てみる。

コブシは嬉しげな顔で、画面内のハジメを見ていた。でもこれ、大丈夫かな。

五反田弾もハジメの様子がさっきまでと違う事に気づいたのか、怪訝な顔をし始める。


『おまえとずっと戦いたかったっ! だからこのバトル……上げてくぜっ! 行くぜ、オレのヒーロー達っ!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ハジメの先攻で始まったバトル――第1ターンは、オードランをノーコスト・レベル2で召喚。

ここでターンエンドとなった。なお会場がバーストをセットしなかった事で、『もしや』という空気に包まれた。……難儀だなぁ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN01→02


ハジメ

ライフ×5 リザーブ×1 トラッシュ(コア)×0 コア総数×4

手札:四枚 デッキ:35枚

スピリット:オードラン・レベル2(コア×3)


テガマル

ライフ×5 リザーブ×4 トラッシュ(コア)×0 コア総数×4

手札:四枚 デッキ:36枚
                 ↓
                 ↓
TURN02メインステップ開始時

ライフ×5 リザーブ×5 トラッシュ(コア)×0 コア総数×5

手札:五枚 デッキ:35枚


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


第2ターン――テガマルはカキューソをコスト1・レベル2で召喚。そのままアタックさせた。

カキューソ・レベル2はBP4000。BP3000のオードラン・レベル2では返り討ちに遭うため、ハジメはライフで受ける。

ここでターンエンド。お互いにスピリットを一体召喚しただけの、静かな立ち上がりとなった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN02→03


ハジメ

ライフ×4 リザーブ×2 トラッシュ(コア)×0 コア総数×5

手札:四枚 デッキ:35枚

スピリット:オードラン・レベル2(コア×3)
                 ↓
                 ↓
TURN03メインステップ開始時

ライフ×4 リザーブ×3 トラッシュ(コア)×0 コア総数×6

手札:五枚 デッキ:34枚

スピリット:オードラン・レベル2(コア×3)


テガマル

ライフ×5 リザーブ×2 トラッシュ(コア)×1 コア総数×5

手札:四枚 デッキ:35枚

スピリット:カキューソ・レベル2(コア×2 疲労中)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――アタックステップッ! オードランをレベル1にダウンし、ドス・モンキをコスト3・レベル1で召喚っ!」


赤コアが場に生まれて、それが砕け散ってドス・モンキに変化。

フィールドに降りたドス・モンキは、胸元を両手で叩く。……猿じゃなくてゴリラじゃね?


「更にバーストセットッ!」


これでオレの手札は三枚。さて、テガマルはノーガードだし……ここは一気に削るっ!


「アタックステップッ! ドス・モンキの効果により、オードランとドス・モンキはBPプラス3000!
BP4000のオードランでアタックッ! オードラン、頼んだぞっ!」


オードランは駆け出し、フレイル付きの尻尾を揺らしながらテガマルへ迫る。


「ライフで受ける」


その宣言を受けて跳躍し、身を反時計回りに捻りながらフレイルを振るう。

左薙に打ち込まれたフレイルが、展開した赤い障壁――テガマルのライフを打ち砕いた。


「続けてBP6000のドス・モンキ、いけっ!」


ドス・モンキはこっちを見て頷いてくれてから、四足でノシノシと駆け出す。その時こっちへ戻ってくるオードランと交差。

オードランは元の位置に戻ってから、荒く息を吐きながら地面に寝そべる。


「ライフだ」


ドス・モンキは飛び上がり、展開した赤い障壁を袈裟に斬り裂く。

障壁の粒子がテガマルの周りで舞い散るけど、奴は微動だにしない。


「やっぱ、仁王立ちか。ターンエンド」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN03→04


ハジメ

ライフ×4 リザーブ×1 トラッシュ(コア)×3 コア総数×6

バースト×1

手札:三枚 デッキ:34枚

スピリット:オードラン・レベル1(コア×1 疲労中) ドス・モンキ・レベル1(コア×1 疲労中)


テガマル

ライフ×3 リザーブ×4 トラッシュ(コア)×1 コア総数×7

手札:四枚 デッキ:35枚

スピリット:カキューソ・レベル2(コア×2 疲労中)
                 ↓
                 ↓
TURN04メインステップ開始時

ライフ×3 リザーブ×6 トラッシュ(コア)×0 コア総数×8

手札:五枚 デッキ:34枚

スピリット:カキューソ・レベル2(コア×2)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あ、ハジメ君が押してますね」

「……いけませんわね」

「あぁ」

「え、オルコットさんもボーデヴィッヒさんも、どうしたんですかっ!」


山田先生、わたくし達だけではありません。ゲームにまだまだ詳しくないフェイトさんも、表情をしかめてます。


『陽昇選手、ここで怒涛のフルアタックだー!』

『でもこれ……大丈夫なの? バーストなに張ってるかって、バレバレよね?』

『あー、確かにね。この陣形だと、間違いなくライフ減少時が発動条件。
この場合来るのは……英雄龍ロード・ドラゴンッ! 陽昇選手のキースピリットッ!』

「……というわけなのです」

「な、なるほど」


しかもハジメさん、嬉しそうですから。間違いなくあれはロード・ドラゴンと思われます。

まぁそれで沸き立つものがあるのが、彼の『花』だと思いますけど。


「ただ、ここでフルアタックしたのは必ずしも悪手ではないと思うな」

「だよな。オレもヒカリちゃんに賛成」

「お二人とも、それはどういう事でしょう」

「ロード・ドラゴンだよ。あれはバーストを破棄する事で、連続攻撃が可能になる。
だからロード・ドラゴンを召喚するまで、ライフを削れるだけ削るに越した事はない」


あぁ、なるほど。ついバーストの事ばかりに目を向けていましたけど、後々を考えるとアリなのですね。

実際先ほどのバトルも、とどめはロード・ドラゴンによる連続攻撃。わたくしとした事が、失念していましたわ。


「てーか格上相手で守りに入ったら、あっという間にペース握られるからな。
少々無茶してでも強気で攻めるのは、決してミスじゃねぇよ。それより問題は」

「ハジメ君の手札に、その無茶をフォローするカードがあるかどうか、だね」

「あぁ。ペースを握っても、それを維持する札がなきゃ結局負ける。なのでここからだ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「メインステップ――カキューソをノーコスト・レベル2」


コアの輝きがテガマルの場に生まれ、カキューソが登場。コアがリザーブから二個載せられ、その残りは四個。続けて。


「ヒノシシをコスト1・レベル2で召喚」


トラッシュへ一個、現れたヒノシシ上へコア三個が置かれる。召喚時効果は……なしか。


「バーストをセット」


テガマルがカードを伏せた事で、手札は残り二枚。……なにを仕掛けた?


「ではアタックステップ。カキューソ、行け」


カキューソの一体が、背から炎を放ちながら駆け出してくる。


「ライフで受けるっ!」


宣言によって赤い障壁が展開し、カキューソは跳躍。燃え盛る背を逸らし、一気に顔をこちらへ付き出してきた。

鋭い牙が並ぶ口から炎が吐き出され、それは障壁を直撃。

障壁――オレのライフはあっという間に砕かれ、粒子に変わる。でも……これが狙いっ!


「バースト発動っ!」


浮かび上がったバーストを右手でキャッチし、プレイ板へ奥。すると空に暗雲が生まれ、あっという間に広がる。

その黒い雲に突然穴が開き、そこから10メートル台の桃がゆっくりと降りてきた。

桃に次々と閃光が走ったかと思うとその果肉が弾けて、中から絵柄通りの赤い龍が膝立ち状態で現れる。


「現れよ――英雄龍ロード・ドラゴンッ! レベル1で召喚っ!」


唯一残った葉が地面についた瞬間、ロード・ドラゴンの足場となっていた葉も果肉同様に弾けた。

それは無数の葉となり、螺旋を描きながら周囲へとまき散らされる。

同時にロード・ドラゴンが畳んでいた翼を広げると、そこから赤い炎の羽も同じように舞い散る。


赤と緑が描く螺旋の中、オレの相棒はくりくりとしながらも細い瞳を見開き咆哮。


「……ターンエンド」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「テガマルの奴、余裕だな」

「バーストの中身が分かっていたのでしょうね」


ハジメも分かりやすい顔してたしなぁ。そりゃあバレもするさ。しかしテガマル、楽しそうだなぁ。

なんだかんだ言いながら、相手のキースピリットと戦える喜びがあるんでしょ。僕もそれは分かる。


「これが覇王爆炎撃だったら、スピリット全滅でやりたい放題だったんでしょうけど」

「確かになぁ。ヤスフミ、お前はどう見る」

「テガマルが優勢って感じかな。テガマルは今までのバトルを見るに、相手のキースピを潰した上で叩くから」

「今のところは狙い通り……か」


狙い通りだからこそ、次の手も考えている。しかもバーストがあるからなぁ。

スピリットも残してるから、発動条件も絞り切れない。少しやりにくい状況なのは確かだね。さて、どうするハジメ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN04→05


ハジメ

ライフ×3 リザーブ×1 トラッシュ(コア)×3 コア総数×7

手札:三枚 デッキ:34枚

スピリット:オードラン・レベル1(コア×1 疲労中) ドス・モンキ・レベル1(コア×1 疲労中)

ロード・ドラゴン・レベル1(コア×1)
                 ↓
                 ↓
TURN05メインステップ開始時

ライフ×3 リザーブ×5 トラッシュ(コア)×0 コア総数×8

手札:四枚 デッキ:33枚

スピリット:オードラン・レベル1(コア×1) ドス・モンキ・レベル1(コア×1)

ロード・ドラゴン・レベル1(コア×1)


テガマル

ライフ×3 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×1 コア総数×8

バースト×1

手札:二枚 デッキ:34枚

スピリット:カキューソ・レベル2(コア×2 疲労中) カキューソ・レベル2(コア×2) ヒノシシ・レベル2(コア×3)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「メインステップッ! オードラン・レベル1をもう一体召喚っ! 英雄龍ロード・ドラゴンをレベル3へアップっ!」


赤いコアからオードランが出てきて、続けてロード・ドラゴンへコア四個がリザーブから移動。

それによりロード・ドラゴンが一瞬だけ赤い輝きを放ち、唸り声をあげる。オレは残り三枚の手札を確認。

今来ているバーストは、覇王爆炎撃と爆烈十紋刃。そしてネクサス:英雄皇の神剣。


セットするべきバーストは……どっちだ? ちゃんと考えろ。テガマルはきっと、キンタローグ・ベアーで勝負をかけてくる。

それも恐らくはレベル3だ。BP9000でアタックすれば、アタック時効果でロード・ドラゴンは破壊される。

そうすればバースト発動時に発生する、ロード・ドラゴンの焼き効果は排除できる。連続攻撃の恐れもない。


覇王爆炎撃だと、テガマルのアタックは回避できない。だったら……答えはひとつしかなかった。


「バーストをセットッ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ハジメさん、随分長く悩んでいましたわね」

「確かに……今までのバトルではなかった表情だ」


ハジメさん、ご自分では気づいていらっしゃらないかもしれませんけど……かなり焦った顔をしていました。

それこそ篠ノ之さんが仰られたように、今までのバトルではなかった表情。それで少しだけ、不安が募ります。


「あそこでなにをセットしたかで、勝負が決まるな」

「うん。ハジメ君の残りライフも3だし、テガマル君の場にはスピリットが三体。
ここでキンタローグなんて引いたら更に……うぅ、ぼくもこんな感じだった」

「アンタ、ガンスリンガーでやられたんだっけ。なら次のターンで答え合わせって感じかしら」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「アタックステップ――ここでドス・モンキの効果発動っ!」


バーストから出てきた波動が、プレイ板上のドス・モンキに伝わる。

それによりフィールド上のドス・モンキがぴょんぴょんと跳ね回り、他のみんなが楽しげに声をあげる。


「ブレイヴしていないスピリット全ては、BP+3000! ……BP12000のロード・ドラゴンでアタックッ!」


炎の翼を広げ、ロード・ドラゴンは地面すれすれを滑空。そうして左腰に下げている刀へ、右手を伸ばす。


「ヒノシシ、ブロックだ」


ヒノシシは尻尾を揺らしながらこちらへ突撃し、ロード・ドラゴンと交差。

ロード・ドラゴンはその瞬間刀を抜き放ち、ヒノシシの巨体を真一文字に両断。爆散させた。


「おっしゃー!」

「……この瞬間を待っていた」

「へ?」


ロード・ドラゴンが地面を滑り着地している間に、テガマルのバーストが赤の光を放って浮かび上がる。


「バースト発動っ! 双光気弾っ!」

「なにっ!」

「デッキから二枚ドロー!」


テガマルは手札を増やすが、表情は全く変わらない。なにを……なにを引いたっ! まさかキンタローグかっ!?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ハジメ、テガマルのバーストを全く警戒していなかったな」

「だよなぁ。てーかアイツ、どうしたんだ? 今までの試合とは内容違い過ぎだろ」

『く……まだだっ! BP6000のドス・モンキでアタックッ!』


ドス・モンキは四足でフィールドを蹴り出し、テガマルの場へ跳躍した。


「ショウタロス、そこに関しての答えなら、今のアタックで出たよ」

「どういう事だ」

「今場に残っているスピリットは、全てBP4000以下のものばかり。オードランに至ってはBP1000」

「……あ」

『ライフだ』


そうして飛び上がり、カキューソ達を飛び越えながら両手で連続ひっかき。それを受け止めた赤の障壁は、一瞬で砕け散った。


「オードラン、いけっ!」


ドス・モンキが着地して後ろへ大きく跳躍すると、今度はオードランが突撃。口元に炎を溜め。


『ライフで受ける』


背中に生えている小さな翼を必死に羽ばたかせ、飛翔。口の炎を一気に吐き出し、テガマルへ火炎放射。

またも発生した赤い障壁を砕き、そのライフを残り一つとした。オードランはそのまま翼の動きを止め、地面へ着地。

……あの翼のパタパタ〜って動き、可愛いなー。今度ブレイドラの代わりに、オードランを入れようかなぁ。


とにかくライフは削れたけど……その分テガマルのコアは溜まっていて、次のターンでキンタローグを二回くらい召喚できる数となった。


「なるほど、陽昇さんが警戒しているのは……キンタローグ・ベアー。
そして場にいるのは、全て皇獣スピリット。レベル2以上で出た時点で、ノーガードも同じ」

改めて説明しようっ! キンタローグ・ベアーは、レベル2以上で系統:皇獣に焼き効果を与える。
例えば低コストスピリットなカキューソでも、アタックした時にBP4000以下のスピリットを焼き払えるのだ


「だからアイツ、あんなアタックしてるのかよっ! おいおい、オードラン一体だけじゃ守り切れないよなっ!」

「だからバーストが鍵なんだよ。でも」


テガマルのライフは残り一つで、ブロックできるのはカキューソ・レベル2のみ。

そう、だからあと一回アタックすれば……召喚を許さずに倒せたかもしれない。

だから今ハジメが取った行動が、どうにもこうにも不可解で仕方ない。


「どうした?」

「いや、今のアタック……ロード・ドラゴンの連続攻撃は使わなかったなと」

「……あ」

「防御マジックがないと考えるのが、妥当でしょうか。
ですがそれなら……これは嫌な流れになってきましたね」


あのバーストが、絶甲氷盾とかならいい。それならまだ持たせられると思う。

でもそうじゃなかったら……ハジメが妙に焦った顔してるのも、不安を募らせる。

てーかどうした? 幾らなんでも警戒……あ、そうか。チヒロとのバトルがあったな。


ハジメは前に、テガマルのデッキを使ってバトルしている。もしかしてそれで、キンタローグを警戒し過ぎてる?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN05→06


ハジメ

ライフ×3 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×0 コア総数×8

バースト×1

手札:二枚 デッキ:33枚

スピリット:オードラン・レベル1(コア×1) ドス・モンキ・レベル1(コア×1 疲労中)

ロード・ドラゴン・レベル3(コア×5 疲労中) オードラン・レベル1(コア×1 疲労中)


テガマル

ライフ×1 リザーブ×5 トラッシュ(コア)×1 コア総数×10

手札:四枚 デッキ:32枚

スピリット:カキューソ・レベル2(コア×2 疲労中) カキューソ・レベル2(コア×2)
                 ↓
                 ↓
TURN06メインステップ開始時

ライフ×1 リザーブ×7 トラッシュ(コア)×0 コア総数×11

手札:五枚 デッキ:31枚

スピリット:カキューソ・レベル2(コア×2) カキューソ・レベル2(コア×2)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「メインステップッ! カキューソ二体をレベル1に下げ、三体目のカキューソを召喚っ!」


二体のカキューソがうなだれている間に、フィールドに生まれた赤コアが砕け散る。

その粒子がカキューソへと変化して、身を翻しながら三体目の……フル軽減か。しかもコアを外したって事は。


「行くぞっ!」


やっぱり来たっ! ……テガマルの眼前にコアが生まれ、赤い輝きの代わりに荒ぶる炎を放つ。

それが柱となって周囲を赤く照らす中、一つの影が生まれる。

柱の中で影は足を踏み出す影は、黒い毛並みを揺らし、円輪をカラカラと回しながら外へと飛び出す。


「牙を研げ――俺の覇王(ヒーロー)っ!」


鈍く輝く斧と爪に赤い炎の色を映し、優しき鬼神は鈍い咆哮を場に響かせた。


「皇牙獣キンタローグ・ベアー、コスト3・レベル3でスタンバイッ! そして召喚時効果発動っ!」


キンタローグ・ベアーが背にしている円輪が、時計回りに回転。するとどこからともなく炎が生まれ、業火と化す。


「BP4000以下のスピリット二体を破壊っ! 回復状態のオードランとドス・モンキ、燃え尽きろっ!」


その業火は、キンタローグ・ベアーの叫びとともに撃ち出される。円輪から離れ、螺旋となった炎は再び円となって空間へ広がる。

二体はその熱に押され、地面を転がりながら宣言通りに燃え尽きる。でも……狙い通りだっ!


「待ってたぜ……キンタローグ・ベアー! バースト発動っ!」


オレは浮かび上がった赤のバーストを掴み取り、まずは右薙に一閃。するとカードの軌道が、そのまま炎の線となった。


「マジック・爆烈十紋刃ッ! BP6000以下のスピリット一体と、合体スピリットのブレイヴとネクサスを破壊っ!」


今度は逆風に振るって炎の十字を作り、カードを頭上でかざす。

爆烈十紋刃のカードが赤の輝きを放つと、オレの作った十字がそのまま直進。


「カキューソ・レベル1、お前も燃え尽きろっ!」


時計回りに回転しながら高速で飛び、一番右端のカキューソを撃ち抜き粒子に戻した。でもこれで終わりじゃない。


「まだまだ行くぜっ! ロード・ドラゴン、レベル1・2・3の効果発動っ! 自分のコスト5以下のバーストが発動した時」


膝立ち状態だったロード・ドラゴンが立ち上がり、口を大きく開けて咆哮。

するとうっすらと赤い円形の衝撃波が、口から放たれた。


「BP9000以下のスピリット一体を破壊っ! キンタローグ・ベアー・レベル3を破壊するぞっ!」


その衝撃波がキンタローグを撃ち抜き、奴は巨体をあお向けに倒しながら派手に爆発。

赤い爆炎が舞い散る中、オレは勝利を確信した。そうして右手で、奴を指差す。


「お前のキンタローグ、食ってやったぜっ! これで勝ったぞ、テガマルッ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※TURN06メインステップ途中


ハジメ

ライフ×3 リザーブ×2 トラッシュ(コア)×0 コア総数×8

手札:二枚 デッキ:33枚

スピリット:オードラン・レベル1(コア×1 疲労中) ロード・ドラゴン・レベル3(コア×5 疲労中)


テガマル

ライフ×1 リザーブ×6 トラッシュ(コア)×3 コア総数×11

手札:三枚 デッキ:31枚

スピリット:カキューソ・レベル1(コア×1) カキューソ・レベル1(コア×1)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『陽昇ハジメ選手、バーストとロード・ドラゴンのコンボで、キンタローグを召喚した途端に討ち取ったー!』

『なるほど、キンタローグにアタックさせず、皇獣の焼き効果も発揮させない作戦だったのね。これなら……ちょっと待って』


歌唄もどうやら気づいたらしく、画面内のテガマルを見て怪訝そうな顔をする。


『歌唄さん、どうしたの?』

『棚志選手、笑ってない?』

『え』


そう、テガマルは笑っていた。キースピリットが目の前で、ほぼなにもできずに焼き熊になったのに……笑っていた。

それに気づいていないハジメは、勝利を確信した笑みを浮かべていた。……それが勘違いだと思い知らされる事も知らずに。


『……ヒノシシをコスト1・レベル1で召喚』

『へ?』


赤コアから生まれた円輪をくぐり抜け、二体目のヒノシシが召喚された。この時点でテガマルの手札は二枚。

そしてリザーブのコアは残り四個。……ここから導き出される答えは、一つしかなかった。


『ヒノシシの召喚時効果、発動』


ハジメの表情がそこでこわ張り、テガマルが右手を伸ばした先――トラッシュへ恐れも混じった視線を向ける。


『トラッシュにあるコスト4以下のスピリットカード、またはバースト効果を持つスピリットカードを手札に加える。キンタローグ……戻って来いっ!』

『な……なんだってっ!』


トラッシュへ送られたキンタローグは、赤い輝きとともに出現。それを掴み取ったテガマルは、カードを頭上へかざす。


『そしてキンタローグをコスト3・レベル1で再召喚っ!』


再び赤のコアから炎の柱が生まれ、そこから消えたはずの皇牙獣が出現。

そうして背中の滑車を回し、周囲にある炎をそこに巻き込み。


『召喚時効果発動っ! オードラン一体を焼き払えっ!』


咆哮とともにフィールド全体へ放った。それは赤い衝撃波となってフィールドの地面を舐め、ハジメのオードランを吹き飛ばし爆散させる。


『これは……テガマル選手、もう終わりかと思われたが大逆転だっ! 場には四体のスピリットが勢揃いっ!』

『キースピリットを1ターンに二度も召喚って、また乱暴な……でも凄い』


歌唄がやや呆れながらも、感嘆の表情でテガマルを見ていた。……それにちょっと胸が痛んだのは、僕が悪いんだと思う。


『まるで陽昇選手の手が、最初から分かっていたみたい。キンタローグが狙われている事も、そこにだけ網を張っていた事も』

『さすがは噂のゴッドハンドだねー! さぁさぁ、陽昇選手はどうするっ!?』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「行くぞ、ハチマキ」


テガマルがカキューソのカードに手をかける。……オレの手札は、覇王爆炎撃と英雄皇の神剣。

バーストもない今、このアタックは受けるしかない。オレは必死に悔しさを堪えながら、胸を張った。


「……来いっ!」

「カキューソ、やれっ!」

「ライフで受けるっ!」


突撃してくるカキューソに声を張り上げると、奴は跳躍し縦に回転。炎の車輪となって、三つ目のライフを砕いてくれる。


「カキューソでアタックッ!」


そうかと思うと、もう次の奴が飛び出して……もう一度、悔しさを紛らわせるために叫ぶ。


「ライフで受けるっ!」


跳躍からの奔流攻撃を受け止め、敗北へのカウントダウンが刻まれていく。……嫌だ、怖い。

全国大会、世界大会――父ちゃんと母ちゃんが作ったフィールドで、チャンピオンと戦いたかったのに。

それでも泣き叫ぶ事もできなくて、そんなの情けなくて……オレはテガマルの視線を受け止め、片意地張るしかできなかった。


「さぁ、俺のスピリットと踊りなっ! キンタローグ、やれっ!」


キンタローグがこちらへ駆け出し、滑車を回しながら斧を空高くほうり投げる。

そうして開いた両手を腰に添え、腕を通じて滑車の炎をそこへ蓄積していく。


「……ライフだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


その様子に恐怖を抱きながらも、抱えてるもやもやを全部吹き飛ばすために……思いっきり叫んだ。

その瞬間、キンタローグが両手を振り上げ手の中で渦を作る。それを俺に向け、一気に放った。

炎……いや、既に光へと昇華されたそれに俺はライフもろとも飲み込まれ、凄まじい衝撃とともに吹き飛ばされた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


決勝戦はテガマルの勝利で終わった。ハジメはステージに戻ってきても呆然としていて、そのまま膝をつき崩れ落ちた。

それでもすぐ立ち上がり、会場から出て……さすがに気になって僕は後を追いかけた。

そこで自然とコウタと大泉兄弟、セシリアと織斑一夏が加わるのが素晴らしい。なお、キマリは試合があるので無理だった。


そうしてみんなでハジメを探して……見つけたのは、会場外に設置されている休憩用のベンチ。

円形のそこに座って、ハジメはじっとロード・ドラゴンのカードを見ていた。


「ハジメさん」


そうして一番に声をかけたのは、セシリアだった。やや心配そうな顔をしながら声をかけると、ハジメがこっちを見た。


「みんな」

「惜しかったな、良いバトルだったんだが」

「へ、負けた負けたー。やっぱテガマル、強いな」


ハジメは僕達から顔を背けつつ、両手を頭の後ろに置いて海の方を見た。


「なんだ、意外とダメージ受けてない感じか?」

「あぁ。アイツは良いところでキンタローグを引いた。運が良かったんだ」

「……ハジメ、それは違うと思うぞ。お前だってロードラ引いただろ」


やや呆れ気味に織斑一夏がツッコむと、ハジメは苦々しい顔をしながら俯いた。

どうやらあれは強がりみたい。僕達の前だから、泣くに泣けないんだよ。


「オレ、もしかしなくても空気読んでなかったか?」

「いえ、大丈夫ですよ。ボクも同意見ですし。……さて」

「ハジメ、やっぱり負けたのがショックだったんだよね。おれ、あんなハジメ初めて見たよ」


学友でもある大泉兄弟もこれはどうしたものかと渋い顔をしていると、こっちに近づいてくる気配が生まれた。

そちらを見ると、ベンチの影からやたらデカいアフロ頭が出現。……てーかなに、この派手な格好は。


「やぁハジメ君」

「……アフロさんっ!」

「ハジメさん、知り合いですの?」

「あ、うん。ロード・ドラゴンを引いた時にその、ちょっと」

「決勝戦、見させてもらったよ。残念だったね」


やや恥ずかしげに笑うハジメはともかく、僕はこの人……どっかで見た事がある。

てーかアフロにやや隠れている、あの額のばってん傷は……ま、まさかこの人っ!


「お兄様、あれ……チャンピオンでは」

「てーか体型そのままじゃね?」

「やっぱり、だよね」

”一応サーチしたら、そのままですよ。あれ、変装してるつもりですよ”

”でもセンスないの。主様の絵みたいなの”


失礼な事を言うジガンにデコピンをかまし、僕は事態を見守る事にした。

グラサンには隠れているけど、あの人の眼差しは厳しいものに感じた。なにか言いたい事があるらしい。


「君はなぜ負けたか、分かっているのか?」

「……オレが、負けたのは」


ハジメはそこで笑いを消し、苦々しい顔をしてまた俯く。


「アイツの、キンタローグが強かったから」

「……敗北という真実から目を逸らし、そこからなにも学び取らないカードバトラーは強くなれない――決して強くなれないぞっ!」


いきなりな怒号で、ハジメが身体を震わせ両拳を握り締める。茶色のグローブに包まれた手から、ぎゅっという音が響いた。


「ちょっとあなた、いきなりなんですのっ! 少し失礼ではありません事っ!?」

「事実を言っているだけさ。君もカードバトラーなら、分かるはずだ」

「そういう事ではありませんっ! まず」

「セシリア、ストップ」


セシリアを右手で制してから、ちょっとこのアフロさんを……いじめる事にした。


「アフロさん、言いたい事は分かるので……まずはグラサン取りましょう」

「……え」


あ、慌て始めた。やっぱり素顔を知られると、問題があるらしいねぇ。じゃあもうちょっとツツく事にしよう。


「真剣な話するのに、その格好はないでしょう? まずはそこから」

「あの……それは勘弁してもらえると」

「なるほど、殴られて外される方がお好みと。セシリア、もう止めないから一緒にやろうかー」

「分かりましたわ。わたくしが英国式礼儀作法を、きっちり教えて差し上げます」

「いやいや、暴力反対っ! これには深い事情が……そうだ、ハジメ君っ!
君は第5ターンで迷ってたよねっ! あの時なに考えてたのかなっ!」


話を逸らしやがった。でも拳をバキバキ鳴らして、いつでもいけるとアピールはしておこう。


「えっと……覇王爆炎撃と、爆烈十紋刃のどっちをバーストセットしようか、迷ってて」

「手札の残り一枚はなにかな」

「英雄皇の、神剣」

「なるほど」


その手札で爆烈十紋刃を配置したのか。完全にキンタローグ狙い撃ち体勢じゃないのさ。

そこが一番の問題だと、アフロさんも気づいたらしい。腕を組み、やや困った様子で唸り始めた。


「俺なら英雄皇の神剣を配置し、覇王爆炎撃をセットしていたかな」

「えぇっ! そ、それじゃあキンタローグに」

「そこだっ!」


アフロさんはまた声を張り上げ、ハジメを鋭く指差す。


「今回の君の敗因はそこだっ!」

「え……どういう、事ですか」

「まだ分かっていないのかっ!? 最後のターン、君の四つ目と三つ目のライフを削った誰だっ!?
いずれもBP2000のカキューソだっ! キンタローグが三つも四つもライフを削ったわけじゃないっ!」

「あ……!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


それでは不詳私が、チャンピ……もとい、アフローヌさんに代わって解説しよう。

説明へ入る前に、キンタローグを召喚した時点の場を振り返っておこう。



※TURN06・メインステップ途中 キンタローグ召喚時効果発揮後

ハジメ

バースト×1

ライフ×3 リザーブ×2 トラッシュ(コア)×0 コア総数×8

手札:二枚 デッキ:33枚

スピリット:オードラン・レベル1(コア×1 疲労中) ロード・ドラゴン・レベル3(コア×5 疲労中)


テガマル

ライフ×1 リザーブ×0 トラッシュ(コア)×3 コア総数×11

手札:三枚 デッキ:31枚

スピリット:カキューソ・レベル1(コア×1) カキューソ・レベル1(コア×1)

カキューソ・レベル1(コア×1) キンタローグ・ベアー・レベル3(コア×5)


爆烈十紋刃をセットしていた場合は、先ほどの試合を振り返れば分かるので省略させてもらう。

ここでは覇王爆炎撃をセットしていたと仮定して、話を進めるのであしからず。

さて、この場合テガマルは十中八九、キンタローグで最初のアタックを行う。その原因はロード・ドラゴン。


ロード・ドラゴンが残った状態でバーストが発動した場合、キンタローグは破壊対象となってしまう。

もちろんアタックステップ中なので、再召喚という真似もできない。なのでレベル3でアタックし、効果を発動。

BP9000のロード・ドラゴンを破壊し、バーストによるカウンターを確実に防ぐのだ。もうハジメはライフで受けるしかない。


だがここでバースト・覇王爆炎撃が発動。BP4000以下のスピリット三体――場にいるカキューソ全てを破壊する。

テガマルはそれ以上の攻撃ができず、ターンエンドとなる。その場合、盤面はこうなっていた。



※TURN06終了時

ハジメ

ライフ×3 リザーブ×7 トラッシュ(コア)×0 コア総数×8

手札:二枚 デッキ:33枚

スピリット:オードラン・レベル1(コア×1 疲労中)


テガマル

ライフ×1 リザーブ×3 トラッシュ(コア)×3 コア総数×11

手札:三枚 デッキ:31枚

スピリット:キンタローグ・ベアー・レベル3(コア×5 疲労中)


もうお分かりだろう。次のターン、テガマルはノーガード。しかもライフは残り一つ。

次のターンで場のオードラン、またはドローしたスピリットで攻撃すれば、ハジメは勝てたかもしれないのだ。

そしてこの可能性は、手札の残り一枚――英雄皇の神剣を絡ませる事で、更に上昇する事を忘れてはいけない。


英雄皇の神剣レベル1・2効果で、バーストをセットして一枚ドローできる。もしこの一枚が、絶甲氷盾だったら?

例えそのターンは役に立たなくても、次のターンで使えるカードなどだったら? ハジメのミスはここにもある。

キンタローグを意識するがあまり、他のスピリットや手札にデッキの事が一切見えていなかった。


この勝負は決して、テガマルの圧勝ではない。ハジメのプレイング次第で、十分勝てた試合なのだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「もちろんこれはあくまでもIF――仮定の話だ。テガマル君が防御マジックなり、焼きマジックを使うかもしれなかった。でもその可能性は高かったんだ」

「攻撃役が足りないなら、爆烈十紋刃を使うって方法がありますよね。あれはトラッシュのバーストカードを拾えるから」

「うん、その通りだ。……たった一枚のカードが勝敗を分ける。それがバトスピの醍醐味だ。
今回君が負けたのは、運でもなんでもない。ただ君が、そのレベルに達していないだけの事」


ハジメは抑え込んでいた悔しさが吹き出したのか、顔を歪ませ拳をわなわなと震わせる。

それは自分自身への憤りも当然込みで、僕達がかけられる言葉など……一つもなかった。


「……ですから、そういう話をするのであればサングラスを」


そして怒りに震えているのは、セシリアも同じだった。セシリア、お嬢様だからなぁ。何気に気にするんでしょ。


「そういえばその問題があったね。よし、一緒にやろう」

「ちょ、許してっ! オレの素顔は、バーストの中身以上のトップシークレットッ!」

「なら僕達のアタックで発動しましょう」

「ぼ、防御マジックはどこだっ!? デルタバリアをー!」

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」


どうやってセシリアの留飲を下げようかと思っていると、突如コウタが泣き出した。

声をあげ、瞳からボロボロと涙をこぼすコウタに、ハジメも驚いて向き直る。


「コウタッ!? おい、どうしたんだっ!」

「勝てたのに……ハジメあんちゃん、勝てたのにっ! 全国大会だって、世界大会だって……夢じゃなかったのにっ!」


そのまま声にならない声を漏らし続けるコウタを見て、ハジメが瞳から涙をこぼす。

たった一筋流れたそれを拭う事もなく、ハジメはコウタへ近づき……全力で抱き締めた。


「泣くな、コウタっ! オレが負けたのは……弱かったからだっ! でも、もっと強くなるっ! だから泣くなっ!」

「あんちゃん……!」


そのまま二人は声を揃えて泣き……もう大丈夫そうなので、ほっと一息。

でもその間に例のアフロは姿を消し、それに気づいたセシリアが慌て始めた。


「……あれ、アフロさんどこですのっ!? さっきまでそこにっ!」

「仕事でもあるんじゃない? 社会人っぽいし。……これでハジメは大丈夫だね」

「そうですわね。でもあの方、何者なんでしょう。明らかにその……変質者でしたけど」

「だよなぁ。オレ、あんな格好してる人今まで見た事ないぞ」


織斑一夏は疑問を口にしながらも、さして気にしていない様子で僕を見る。


「いよいよお前とマナブの番だな。……弾はかなり強いぞ?」

「知ってる。でも大丈夫、負けるつもりはないから」


軽くお手上げポーズを取ってから、僕は泣き続けるハジメをもう一度見た。

ハジメが悔しいのは、バトルフィールドを自分の両親や親しい人達が作ったから。

その中で戦って、勝ち上がって、覇王(ヒーロー)になる事を夢見ていたから。


本当にやりたい事をやって、それに全力でぶつかって……ハジメの姿を見ていると、締め付けられるものがある。

そう、ハジメも踏ん張っていた。夢に向かって手を伸ばし、背伸びして、必死に走って踏ん張っていた。……だから。


「負けたくない理由が、たった今できた」


僕が覇王(ヒーロー)になるため、どうして踏ん張りたいのか。その意味が少しだけ変わった。

最初は単なる憧れだった。その称号が欲しくて……もちろんハジメの敵討ちとか、代わりなんて言うつもりはない。

ただ僕が今本当にやりたい事はなにかと考えて、今の自分が不抜けている事に気づいた。そう、ただそれだけだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そんな話をしている間に、キマリは勝ち上がっていた。……実にソツがない。てーかセイメイ様が大活躍かい。

マツリさんが喜ぶなぁと思いながら、僕達はそんなキマリと合流。そしてハジメは。


「キマリ、おめでとうなっ! それで会長も恭文さんも、頑張ってくれっ! オレめっちゃ応援してるからっ!」


カラ元気ってレベルで、テンションが高かった。そして無駄に声が大きくて、全員耳を軽く塞いでいた。


「おいおい、コイツ幾らなんでもテンションおかしいだろっ! 少し落ち着けよっ!」

「ショウタロス、無駄です。ほら、カラ元気も元気のうちと言いますし」

「みなさん」


ハジメのテンションにやや引いていると、左横から恰幅のいい男性が、優しく声をかけてきた。

頭頂部は失礼だけどはげ上がっていて、側頭部に残っている髪と眉は白髪。茶色のスーツに身を包んだその人は、ハジメ達を見て優しく笑っていた。


「あ、校長先生」

「校長?」

「えぇ。ボク達門出中の柴門校長です」

「初めまして、ご紹介に与りました柴門です。……大泉マナブ君、巽キマリさん、決勝戦進出おめでとう」

「「ありがとうございますっ!」」


キマリ達が元気よくお辞儀をしてきたので、僕達も同じようにする。いや、まぁ……挨拶込みでね?

でもおかしいな、初対面のはずなのにどっかで見たような……てーか柴門って、聞き覚えがあるんですけど。


「巽さんは既に勝ち上がっているので、ダブルでおめでとうですね。よく頑張りました」

「はーい、ありがとうございまーすっ!」

「大泉君も期待していますからね、頑張ってください。決して、悔いが残らないように」

「門出中の威信にかけて、勝ち上がってみせます」


その返事に満足したのか、校長は笑ってその場を去っていった。その姿を見送りながら、織斑一夏が感嘆の息を漏らす。


「驚きましたわ、校長がこんなところにいらっしゃるなんて」

「それだけバトスピの影響力が強いって事だろうな。世界的ホビーだしよ。
……なぁセシリア、まさかと思うが千冬姉とか来てないよな? 学園長とか」

「まさか。来ているのは山田先生と、フェイトさんに本宮さんのお友達くらいで」

「来ているが、なにか?」


僕達は背後からかかった声に寒気を感じつつ、一気に振り向く。するとそこには、白の上着にジーンズ姿な織斑先生がいた。


「「織斑先生っ!?」」

「千冬姉、なにしてるんだよっ!」


その瞬間、織斑先生のげんこつがふやけたパスタを打ち抜いた。


「織斑先生だ。たまたま近くに用事があってな、様子を見に来た。
……八神、上の連中から聞いたぞ。決勝戦まで勝ち残ったそうだな。よくやった」

「あ、ありがとうございます」

「これで休み明け、お前はクラス……いや、学校中からバトスピ勝負を申し込まれるわけだ」

「それは嫌ですよっ!」


……そうだった、ここまで派手に勝ち上がったら当然……でもいいや。なんかこう、さっきのハジメを見てキレちゃったし。

今の僕はモチベーション最高潮……なんだけど、身内だけで話しててもアレ。僕は右手で織斑先生を丁寧に指し。


「あー、この人は」

「ブリュンヒルデ――織斑千冬さん、ですね。雑誌でお見かけした事があります」


さすがに知っている人がいたか。マナブの言葉を受けて、ハジメとコウタが驚いた顔をする。


「え、この人が世界一強いIS操縦者なのかっ!? すげー! チャンピオンだー!」

「なるほど、世界征服しちゃったわけね。……でも、今この世界はあたしのものだからっ!」

「そこは黙ってろよっ! てーか世界征服じゃないしっ!」

「よくは分からんが……織斑達の友人とお見受けする。うちの生徒達が世話になっているな」

『あ、いえいえ』


そこでハジメ達は、改まってお辞儀。さすがに年上相手だから、礼儀正しいなぁ。……だがキマリ、おのれは駄目だ。

などと胸の中でツッコんでいると、会場の方から試合開始を知らせるアラームが鳴り響いた。


「あ、次の決勝戦始まるみたいだな。それじゃあ会長、恭文さん」

「えぇ。行きましょうか」

「それじゃあみんな、またね。織斑先生も、また……あー、それと試合が終わったら少しお話が」

「分かった」


察してくれたらしい先生に感謝しつつ、僕は会場への通路を力強く歩いていく。


「恭文さんっ!」


そのまま振り返らず右手を軽く振って応え……するといきなり後ろから、セシリアが駆け寄って抱き締めてきた。


「え、えっと……セシリア?」

「楽しんでくれれば、よろしいのですよ? あまり気負わず、楽しんでくれれば……それだけでわたくしは十分です」

「それ、さっきも言わなかった?」

「改めてですから、当然ですわ」


軽く振り返ると、セシリアは誇らしげに笑っていた。それに僕も笑いで返し、そっと左手で頬を撫でる。


「ありがと。セシリアのおかげで腹が決まった」

「え」

「実はちょっと迷ってたんだけど……うん、やってみるわ。それじゃあね」


セシリアの甘い抱擁を解除し、向き直りながらそっと引き寄せ……そのまま唇近くにキス。


『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』


そのまま離れて、少し早足でステージへと急ぐ。


「ちょ……不意打ちとかズルいですっ! わたくしもお返しをー!」


楽しむため――僕がやりたいと思う事をやるため、あそこへ行く。だからもう、迷いはない。

実は今のデッキに、一枚加えたいカードがある。元々サイドデッキに入れてたんだけど……やろう。

やりたいと思う事をやるため、努力を惜しまない。今僕がやりたい事に、あの子は必要だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「八神の奴……あとで説教だな」

「いや、それよりセシリアをどう引っ張ってくんだよ。めっちゃ世界変わってね?」


二人は――勝ち上がった二人は、全国大会目指してステージへと進んでいく。もう、オレにはできない事。

オレにはもう、あの先へ行く事ができない。来年まで待たないと……それがたまらなく悔しい。

もっと強かったらと考えて考えて、自分に腹が立って仕方ない。もう一度バトル前に戻れればと……そんなの無駄なのに。


「悔しいか」

「えっ!?」


いきなり織斑先生から声をかけられ、驚きながら先生を見上げる。

それで先生は、少し申し訳なさそうな顔をした。あんまり表情は変わってないけど、そういう感じがしてるんだ。


「すまないな。君の顔を見ていたら、昔の自分を思い出した。察するに負けたのだろう」

「え……はい。でも先生って世界チャンピオン、ですよね」

「最初からそうだったわけじゃない。それはどの種目のチャンピオンにも、言える事だ。
おそらくバトスピにもな。悔しいなら、今のうちに徹底的に悔しがればいい」


先生は天井を見上げ、両手を腰に添えながら遠い目をした。でもその目は、なんでかめちゃくちゃキラキラしているように見えた。


「人は高く飛ぶ時身を縮めて、苦しみながら力を溜めるものだ。そこで変に言い訳をすると、目指している空へ飛び立てない。
だから悔しがれ。悔しがって悔しがって、自分がどこを目指しているのか見定めつつ苦しんで、次に飛び立つための力を溜めろ」

「力を」

「前に先輩が教えてくれたよ。諦めなければ、力は溜まっていくものだと。
……すまない、初対面なのに余計な事を言ってしまった。忘れてくれ」

「織斑先生……あの、ありがとうございますっ! 全然余計な事なんかじゃ、ないですっ!」


オレはなんか吹っ切れて、先生に深くお辞儀。……そうだ、悔しがっていいんだ。さっきのオレは思いっきりズレてた。

悔しいのは、オレが弱い事を受け入れたからだ。弱い事が悔しくて悔しくて、苦しいからだ。

それがもし、次に高く飛ぶための力になるなら……諦めるか。今年が駄目なら、来年までに強くなればいい。


一回負けたくらいで覇王(ヒーロー)になる夢は、チャンピオンとバトルフィールドで戦う夢は……諦められるわけがないっ!

おっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! アガってきたぜっ! 二人の応援、しっかりやるぞっ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『――さぁっ! いよいよ決勝戦も後半戦っ! いよいよ盛り上がってきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

『まずは……大泉マナブ選手。ライジング・アポロドラゴンをキーとして、ここまで順当に勝ち上がってきたわ』

『イケイケスタイルなバトルが今回も発揮されるか、期待だねー!』


歓声とともに、壇上の下手からマナブが登場。今までのように、余裕しゃくしゃくでお辞儀をしてくる。


『続いては今回最高齢のカードバトラー! 柴門ケイスケ選手っ!』


そうして出てきたのは、角刈りに黒スーツとサングラス姿の男性。しかも右手には、鍔のない竹刀を携えている。

それを肩に担ぎながら……え、ちょっと待ってっ! 柴門って……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

壇上のマナブもようやく気づいたのか、自分にドヤ顔向けてくる黒スーツを見て、動揺の表情を浮かべる。


『ま、まさかあなたは……! あぁそうだっ! なぜ今まで気づかなかったんだっ!』

『あれ、あなた達どうしたの? もしかしなくても顔見知り?』

『知っていて当然だっ! 自分は門出中・校長の柴門だっ!』


やっぱりっ! あの人、さっきの温厚そうな校長先生だよっ! しかもしゃべり方も全然違うしっ!

声色から違って、今は覇気全開だしっ! これなんでっ!? てーかどうしてハジメ達は気づかなかったっ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』


応援席へ戻ったわたくし達は、先ほどの姿を思い出しながら……叫ぶしかありませんでした。

だ、だってその……全然違う人なんですよっ!? そもそも服から違うって、なんですかっ! あと髪はっ!?


「おいおい、お前らなんで今まで気づかなかったんだよっ! 知ってる奴だよなっ!」

「うっさいっ! 言われても困るわよっ! ふだんの校長と全然違うしっ! 一夏、アンタだって見てたでしょっ!?」

「確かに……だがあの頭、どうしたんだ? あの人は確かさっき」

「だよなっ! だから気づかなかったくらいだしっ!」

「かつらでしょ、間違いなく」


……確かに、いきなりあれだけ増毛はおかしい。しかもよく見ると、髪型が整いすぎているようにも見える。

あとは眉毛が白なのに、髪だけ黒なんです。そういうところからキマリさんも、見抜いてきたと思われます。


「あの、織斑くんも陽昇くん達もどうしたんですか? あの方がなにか」

「あれ、オレ達の校長先生っ! しかもオレ達、今気づいたのっ!」

「わたくし達も先ほどご挨拶させてもらったのですけど、その……全然違うんですっ!
頭頂部がこうピカーっとしてて、温和そうな方でしたのにっ! まさしくキャラチェンジですっ!」

「えぇっ! せ、先生がこんな大会に出ていいんですかっ!?
しかも校長先生って……あの方、どう見ても私達の倍以上のお年がっ!」

「問題はないだろう。我々教員の基本規約に、違反しているわけではないしな。
……で、察するに大泉マナブもそこを知らなかったというわけか」


ステージ上もわたくし達と同じく、騒然としているというか唖然としているというか。

それでギャラクシーさんが恐る恐る、校長の顔をのぞき込む。


『え……校長先生? え、マジで? 大泉選手、そこは』

『ボ、ボクも今まで気づきませんでした。そもそもなんというかその、キャラが違うので』

『だがフィールドに立てば、そんな事は関係ない。一人のカードバトラーとして』


柴門校長は竹刀を振り上げ、その切っ先を驚くマナブさんへ突きつけます。


『自分は全力で行くまでだっ!』

『いや、関係あるんじゃない? 少なくとも大泉選手にとっては』

『だよねー。大泉選手、この挑戦をどう受けますかー?』


桜井さんにマイクを向けられたマナブさんは、不敵に笑いながらどこからともなくシャンパングラスを取り出す。

そこにペットボトルの水を注ぎ込み……って、ステージ上でなにしてますのっ! いや、竹刀からしてアウトですけどっ!


『いやぁ、校長先生だろうが最高齢だろうが、ボクのおもてなしは変わらない。これは全力でいかないと失礼というものだよね』


その水を一息で飲み干すと、右手で持ったままのペットボトルを柴門校長へ突きつけます。


『海洋深層水――気合い十分って感じ?』

『おー、やる気だー! いいねいいねー、熱いバトルが見られそうー!』

「あんちゃん、しっかりー!」


カタルさんの声援が聴こえたのか、マナブさんはこちらへグラスをかざして応えてくれる。

まぁギャラクシーさんやわたくし達は未だ戸惑っていますけど、二人の間に問題はないようです。


『それじゃあギャラクシー、お願い』

『は……はいっ! それでは注目の対決、勝ち上がるのはどちらかっ! 二人とも、よろしくー!』

「「――ゲートオープン、界放っ!」」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今日の一枚――覇王爆炎撃。ライフ減少時に発動するバーストだ。

BP4000以下のスピリット三体を破壊し、コスト6・赤軽減3で合体スピリットを破壊するフラッシュ効果を発動。

バースト効果・フラッシュ効果ともに強力ではあるものの、高コストなためおいそれと使えない。


しかもバースト効果はウィニーには突き刺さるが、高コスト・高BPスピリットが並びやすい中・後半戦ではやや腐りやすい面もある。

もちろん装甲、または重装甲:赤には弱い。だがそこを踏まえても、攻防ともに役立つマジックなのは間違いない。



(BATTLE22へ続く)










あとがき


恭文「というわけで、アニメの第9話――ハジメの初敗北です。バトルスピリッツ覇王の中でも、好きなエピソードだね」

フェイト「敗北と向き合って、そこから立ち上がる……うぅ、胸が痛い」

恭文「ならマッサージしてあげるよ」

フェイト「そういう事じゃないよっ! そ、その……ヤスフミの変態。ヤスフミ、胸好きだものね。
いっぱい触るし、胸で毎回エッチな事するし……でも駄目。あの、そういうのは今夜」

恭文「……フェイトはエロいなー」

フェイト「エロくないよっ! 今のはヤスフミが悪いんだよねっ!」


(ぽかぽかぽかぽかー!)


恭文「というわけで、お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……でもヤスフミ、英雄皇の神剣ってアニメに出てた?」

恭文「出てた。覇王爆炎撃の影に隠れてるけど、うっすらとだけどカードが見えてた。
まぁそこについての考察は、劇中通りだね。実際ヒノシシがなくても、テガマルの攻撃は止められなかったかもだし」

フェイト「というと?」

恭文「爆烈十紋刃発動時点で、スピリットは二体。テガマルの手札はまだ残ってて、なおかつバーストセットはしていなかった。つまり」

フェイト「する必要がなかったか……できなかった? ようはその、スピリットカードばかり」

恭文「その可能性もある。それでキンタローグに当てていたコアを使って、召喚すればいいだけだし。
そこでフルアタックを仕掛ければ、手札が覇王爆炎撃と英雄皇の神剣じゃあどうしようもない。しかもそれに必要なのが、残り一体だから」

フェイト「本当に紙一重というか、ギリギリのところだったんだね。……ハジメ君、これでリタイアかぁ」

恭文「斬新だよね、バトスピ覇王。これで来年の大会に話が飛ぶんだから」

フェイト「飛ばないよっ!?」


(もうちょっとだけ続くんじゃ)


フェイト「それで次は記念小説でも名前だけ出ていた、柴門校長とマナブ君のバトルだよね」

恭文「ちなみに柴門校長のCVは、ゲンヤさんの中の人でもある大川透さん。よってゲンヤさんもバトスピできます」

フェイト「いつの間にそんな設定が追加にっ!」


(『あれだ、デッキも二つ持ってるぞ』)


恭文「でもゲンヤさんはかつらじゃありません。かつらはクロノさんです」

フェイト「やめてあげてー! それは違うからー! ……それでその、同人版StS・Remixの第4巻、書き上がったんだよね」

恭文「校正と、おまけでつけるイラスト……という名の練習絵作成中です。
練習絵はねー、凄いよー。なにが凄いって、技量的な問題が凄いよー」

フェイト「でも一応形にはなってるんだよね」

恭文「形の基礎の基礎の基礎くらいには。まぁこれから同人版ではそんな感じで、話に関係ある形の絵を載せられれば……いいなぁ」

フェイト「なぜ疑問形っ!?」

恭文「いや、作者が無軌道だから」


(それがとまと……というわけで、次はなに描こうかなー。やっぱブレイドラだよなー。
本日のED:水樹奈々『Bring it on!』)





恭文「ブレイドラ、あぁ可愛いよブレイドラ」

カルノリュータス「カルカルー♪」

カスモシールドン「カスカス−♪」

ブレイドラ「くきゅ? ……くきゅー♪」

恭文「これで不足コストがいつでも支払える」

ブレイドラ「くきゅー!? くきゅくきゅっ!」(首ふるふる)

フェイト「いじめちゃ駄目だよっ! ……てゆうか、いつの間にっ!?」

白ぱんにゃ「うりゅー♪」

黒ぱんにゃ「うりゅ……♪」


(おしまい)




[*前へ][次へ#]

24/29ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!