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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第27話 『響鬼の世界/明日の夢』



ギンガ「前回のディケイドクロスは」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……僕やフェイトの魔法でも、修理無理だったしなぁ」

≪特殊な音波を出す器具ですし、作りが複雑なんでしょ。どうするんですか、そんなものを壊して≫

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」


謝っても既に遅いので、フェイトの頭を叩いておく。


「とりあえず僕は、あれですね。どうしてあなたがあそこまで言ったのかよく分かりました」

「私も……でもどうしてこの調子で、フェイトさんはクビにならなかったんだろ。というか、JS事件の時はしっかりしてたのに」

「なんでだろうねぇ。多分リンディさんがフォローしてたんじゃないの? 権力で」

「あ、それなら納得……しちゃ駄目だよねっ! 権力でフォローって、完全にアウトだよねっ!」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文「というわけでみんな、権力を持とう。権力を持てば、なんでも許されるんだよ?」

ギンガ「夢がなさすぎるよっ! いや、否定はできないとこもあるけどっ!」

恭文「てゆうか、海東相手に馬鹿もやってるし……どうするのこれ。僕は面倒見切れないよ?」

ギンガ「ご、ごめんなさい」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「では一つ聞かせろ。お前はなんのために、アスムのために巻物を欲する」

「決まっている」


海東は銃口を下げ、ディエンドライバーを懐へしまう。それから右手を挙げ、銃を撃つ仕草を取る。


「お宝を手に入れ、守るためだ。お宝は……決して失われてはいけない」


数秒――時が止まったかのように、場が静まり返る。そんな中ザンキは、懐から巻物を取り出し投擲。


「持っていけ」


それを海東は受け取り、少し意外そうな顔をしながらも笑みを零す。


「おい、いいのかよっ!」

「ザンキさん、なにやってるっすかっ!」

「この人泥棒なんですよっ! こんな人にどうして渡すんですかっ!」

「構わん」


俺とトドロキ、夏みかんの声をザンキは一蹴。マジで渡しちまっていいらしい。

……いや、決闘はどうすんだよ。肝心のものがないと、成り立たないだろ。


「だが、イブキにはどう説明する」

「大丈夫、ありのままを説明するさ。それと……士、急いだ方がいい」

「なにがだ?」

「スーパー大ショッカーが、こちらのヒビキを狙っている」


あのラーメン屋志望が……一瞬嘘かなにかと思ったが、すぐにその必要がないのに気づいた。

奴は目的の物を手にしている。だったらそんな事したって、意味がないだろ。

そういうのは俺達が慌ててる間に巻物を奪うとか、とにかく騙すためにやるはずだ。


「向こうも巻物を探している上に、彼はこの世界を代表するライダーだ。
それを潰して、世界征服に拍車をかけようとしている。もちろん主導は大和鉄騎」

「マジかよっ! 話通りだとアイツ、もう鬼になれないんだよなっ!」

「あぁ、だから急ぎたまえ。僕はまだ、やる事があるからね」


海東は夏みかんや門下生達の脇を抜けて、そのまま道場の外へ出た。

俺も海東の後を追うように、道場の玄関を目指して歩いていく。


「悪いな、おっさん」

「構わん」


だがそんな俺の後をザンキが、着物の襟を正しながら追ってきた。


「俺達も行くからな」

「なんだと」

「ヒビキとはそれなりの付き合いがある。見殺しにはできん。……行くぞ、お前らっ!」

『――押忍っ!』


そこで一斉に声をあげるのが、凄いというかなんというか。だが、心強くはあるな。

俺達はそのまま道場を出て、ヒビキのキャンプ地を目指す。あー、ついでに蒼チビへ連絡しとくか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


道場内でイブキさんとあきらと一緒に、朝のトレーニングを頑張っていると……玄関先に人影が生まれた。

それは道着姿のアスムで、どこか硬い表情のあの子はそのままこちらへ来て、イブキさんに頭を下げてきた。


「お願いしますっ! 巻物を貸してもらえないでしょうかっ!」


……ご覧の有様だよ。いきなりな発言に、僕達三人は面食らってしまった。


「あの、あなたいきなりなんですかっ! いくらなんでも」

「あきら」


それでもイブキさんはアスムを威圧する事なく、静かにしゃがみ込みアスムと視線を合わせる。


「それは、ヒビキさんの命令ですか?」

「違います、僕個人の意思です」

「ではどうして巻物を欲するんですか。大師匠の宝が欲しいからですか」

「違います。……僕は流派同士が争っていて、とても辛かった」


アスムは頭を下げたまま、絞り出すような声でそう口にする。


「だって同じ僕達は音撃道を進む仲間で、魔化魍を倒してみんなを守るのが仕事。
なのに、身内同士で争うなんてありえない。ずっとそう思っていた。
ヒビキさんはそういうのスルーだったけど、現場で衝突して魔化魍を逃しかける事もあって……被害が出る事もあって」

「……えぇ」

「だから決めたんです。そんな今を変えるために、まず宝がなにかをしっかり見据える。それで……壊す。
宝があって争ってしまうなら、そんなものない方がいい。僕はみんなが争う理由を、壊したいんです」

「本気ですか。あなたが壊そうとしているのは、大師匠が我々に遺した宝です。それは音撃道に対する冒涜だ」

「失礼を承知で言います」


アスムはそこで頭を上げ、自分を見定めるような視線のイブキさんをじっと見つめる。


「その宝を巡って、いつまでも流派同士で争う――そちらの方が、冒涜ではないでしょうか」


イブキさんは納得した様子で頷き、静かに立ち上がってこっちを見た。


「大師匠、どうなされますか?」

「え、僕に判断丸投げっ!? それは駄目でしょっ!」

「やっぱりですか。では……あきら」

「でも」

「お願い」


あきらは戸惑いながらも頷いて、訓練場から出ていく。


「あの」

「条件があります。壊す前に私にもその宝を、見せてもらえませんか? さすがに気になるんですよね」

「……はい」


アスムはイブキさんの優しい言葉に、もう一度頭を下げて返した。


「ありがとうございます」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


それから巻物はアスムの手に渡り、アスムは斬鬼流のところへ行くと言って、出ていった。

僕達は道場からそれを見送った。でもあきらはそんな中、やっぱり疑問があるらしくイブキさんを見上げる。


「イブキさん、良かったんですか」

「なに、あきらは不満?」

「いえ、アスム君の言いたい事は分かりますから。ですがその、決闘」


イブキさんは一瞬固まり、いきなり笑い出してあらぬ方向へ目を向ける。


「……ま、まぁザンキさんのところへも行くでしょうし、大丈夫ですよ」

「忘れてましたね」

「間違いなく忘れてたでしょ、あなた」

「いや、そんな事ありませんよ。僕はその、音撃道の未来を守るためにね?」


どこか抜けているお師匠様を見て、あきらは呆れながらも笑って僕を見る。

それにお手上げポーズを返していると、携帯が鳴り響いた。僕は右手でそれを取り出し、通話ボタンを押す。


「はい、もしもし」

『蒼チビ、今どこだっ!』

「イブキさんと朝練中だけど」

『だったらすぐに来いっ! こっちのヒビキがスーパー大ショッカーに狙われているらしいっ!』


……やっぱり巻物関係か。だとするとマズいな、僕達はこっちにいるから、ヒビキさんへはガードが薄い。

一応防護策は整えてある……てーか自主的に動いているけど、救援は必要か。いや、待てよ。

もしかしたらヒビキさんを狙う事で、一網打尽って可能性もある。そこだけは注意しとくか。


『ザンキ達と奴のところへ向かってるが、魔法を使えばお前の方が早いだろっ! 先に行っとけっ!』

「……分かった。でももやし」

『分かってるっ! こっちを一網打尽って作戦かもしれないから、注意しとけ……だろっ!?』

「正解。じゃあ僕達は先行するね」


電話を切ってから、僕は険しい表情になっているイブキさんを見上げる。


「イブキさん」

「聴こえてました。決闘は中止ですね、行きましょう。あきら、準備を」

「分かりました」

「ありがとうございます」


即答でそう言ってくれる事に、心から感謝をする。それじゃあ準備ができ次第、早速出発だ。

転送魔法でのルートを決めつつ、ありえる可能性を考慮して……うし、やるぞ。





世界の破壊者・ディケイド――幾つもの世界を巡り、その先になにを見る。


『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路


第27話 『響鬼の世界/明日の夢』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「そうそう、名乗るのが遅れたな。俺の名は大和鉄騎」

≪HENSIN≫


ゼクターをアイツは、右腕そのものを回転させながら一気にはめ込む。

そうして銅色の装甲を纏い、更に殺気を強めた。


「またの名を――仮面ライダーケタロス。スーパー大ショッカーの鬼だ」

≪CHANGE――BEETLE!≫


そのまま駆け出すアイツを見ながら、俺は左脇から突撃し。


「変身っ!」


走りながら変身ポーズを取って、現れたベルト・左サイドのスイッチを腕で押す。

そうして赤のクウガに早変わりしながら、奴へと右拳を振りかぶって叩きつける。


「うぉりゃあっ!」


奴は咄嗟に停止し、それを下がって避けた。俺は右サイドにいる奴へと向き直りながら、左ストレート。

だが奴の右足が動き、下から打ち上げるようにして拳を蹴り飛ばす。それで俺の腕は思いっきい跳ね上げられた。

すかさず奴が踏み込み、俺の胸へ左右のワンツーを合計三発打ち込む。


その衝撃に埋めきながらたたらを踏むと、右足が奴のローキックで踏み抜かれる。

俺はバランスを崩し、膝立ち状態へ移行。そのまま右足は再び打ち上げられ、今度は俺の顎を打ち抜く。

俺は意識がやや遠ざかるのを感じながら、そのまま砂利だらけの河原を転がった。……おいおい、マジかよ。


子どもがじゃれてるのとは、ワケが違うんだぞ。なのにどうして同レベルで、コイツはあしらってくるんだ。

俺はその場で立ち上がり、荒く息を吐きながら構えを取る。だが、勝てる気が全くしない。

コイツが出している殺気というか覇気は、それほどに威圧的だった。正直、立っているだけで震えが走る。


「弱いなぁ、クウガ。クロックアップを使うまでもない」

「逃げ、て」


それでも腹から声を絞り出し、ヒビキさんに逃走を促す。それでアイツへタックルをかまし、抱きついて動きを止めた。


「早くっ!」


そのまま押し倒そうとするが、奴は両足を踏ん張って耐える。

岩みたいな存在感に戦々恐々としながら、俺は更にやつを押し込んだ。


「しょうがないなぁ」


だがその瞬間、首筋に鋭い衝撃が走る。変身していなかったらまず耐えられない痛みに呻き、俺は再び地面を転がった。

なにが起こったのかと思うと、奴は肘を振り下ろしていた。……確かに首は、隙だらけだよなぁ。

横目で後ろを見て、ヒビキさんが逃げてくれているのを確認。それに一安心しながら、また立ち上がる。


奴は追撃する事もなく、クロックアップもせず、ただ俺の事を見ているだけだった。……遊んでやがる。


「クロックアップすればすぐ終わる事だが、お前の状態も見ておかなければならない。奴は部下に任せよう」


くそ、やっぱ仲間がいるのか。変身できなくてもあの人は強いし、普通の相手なら大丈夫と思いたいが……ワームとかなら最悪だ。

助けにも行きたいが、それは無理だ。その瞬間俺は、構えすら取っていないコイツに殺される。間違いない。


「本来人間であるお前は、鬼である俺の前に立つ事など許されないのだが」

「俺が、人間か」

「身体の事ではない」


奴は俺の言いたい事などお見通しと言わんばかりに、鼻で笑ってきた。


「お前の心根そのものが、人間だと言っている。お前は俺や奴のように、人の枠を超える事ができない」

「そうか、そりゃあ……嬉しい事だなぁ」


呼吸を整えながら腰を落とし、右足を踏み出して半身に構える。両手は脱力しながらも前に出し、手は開いておく。


「俺は仲間のためにも、究極の闇なんかにはならないと決めた。
俺が人間ってのは、それを守っているなによりの証拠だ」

「それでは鬼には勝てないぞ、人間。今のままでは、鬼の前に立つ資格はない」

「知ったこっちゃないなっ!」


もう一度奴へ踏み込み、右ストレートを打ち込む。奴はそれを右へ避け、スナップさせるような右ジャブを打つ。

それと顔面へ食らった俺は動きを止められ、その隙に奴は左右のストレートを連続で放つ。……瞬殺されるかもしれない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヒビキさんとの訓練は、まずストレッチから始まった。でも……おかしい。明らかに過剰なレベルでストレッチしてるの。

まるで全身の筋肉を解すというより、たたき起こしているイメージ。それに私とフェイトさんも戸惑いを隠せなかった。

ちなみに私はけが人という事もあって、軽くで終わらせた。だって、あんまりやるとなぎ君が……うぅ。


それでもなんとか終えると、次はキロ単位でのランニング。それもかなりのハイペース。

スバルだってこんな速度で走ったりしない。私達は息も絶え絶えでついていき……ごめんなさい。

私は自転車でした。でも自転車でやっとな速度だったの。それから休む間もなく次の訓練。


今度は神社へ続く、長い階段の登り降り。それもダッシュでだよ。

ヒビキさんは玉のような汗を流し、息を少しだけ乱しつつ全力疾走。

私達は戸惑いながらもそれについていき……更にごめんなさい。


私は中ほどで休憩です。もうふらふらなフェイトさんの様子に、ハラハラしっぱなしです。


「ちょ、ちょっとま」

「んー?」


ハラハラはもう終わりらしい。フェイトさんがダウンし、ぜーぜーと息を吐く。


「あの、まさか毎日……これ?」

「まぁそうだな、休養も挟むが基本は」

「身体壊しますよっ!? いや、私達が駄目なのは分かりますけど、それすら通り過ぎてますよっ!」

「いやいや、これくらいしないとなぁ」


私、なぎ君のジープ訓練より苛烈な人……初めて見たかも。それで笑ってる人も、初めて見た。

もう少し科学的にトレーニングするべきだと思うけど……もしかしてこれくらいしないと、鬼になれないの?

もしそうなら、確かになぎ君の言う通り鬼にはなれない。現に私、これを毎日ってだけで……もう。


「まぁでもさ、これくらいしないと無理じゃないかな」

「鬼になるのが、でしょうか」

「違う。自分を変えて、その道を進むってのはさ」


ヒビキさんはこちらへ戻ってから、フェイトさんの隣へ腰を落とす。それでここから見える、河原の煌めきを見つめ始めた。


「鬼ってのはまぁ……師匠がいて、弟子がいてが基本。それはもう分かるよな」

「は、はい」

「でも俺には師匠がいなかった」

「……え」

「自力で訓練して、鬼になったんだよ。それがまぁ、俺の自信? 自分で言うのもあれだけどさ」


こっちを見て笑うヒビキさんの表情は、確かに自信に満ちあふれていた。

そこには私やフェイトさんにはない、軸みたいなものを感じる。


「自分を変えようとする時、そこにはデカい壁がある。もうなんでもいいんだよ、なんだってさ。
嫌いなものを食べようとするのでもいいし、自分の悪いところを直そうとするのでもいいし。
それはめちゃくちゃ大変で、やる意味も分からなくなるくらい苦しくて……でも鍛えるんだ」

「なんの、ためにでしょうか」

「その壁を超えて、目指している自分になるため。俺にとってそれは、鬼だった。
困っている誰かを助ける事が夢で、夢を叶え続けるために鍛える……まぁ、あれだな」


ヒビキさんは照れたように笑って、右手で頭をかく。それから私達に、真剣な表情を向ける。


「二人が方向音痴気味なのは、超えようとする壁を見定めてないからじゃないのか?
つまりは自分の道を決めていない。だから壁を超えた奴らに追いつけない。
壁を超えて、どう変わりたいのか、どう強くなりたいのかが分からない。だから海東にも負ける」

「……あの人より、私達の方が下だっていうんですか? あの人はただの泥棒です、ヒビキさんも見ていましたよね」

「フェイトちゃん、それは見る目がないな。アイツはこう、泥棒だけど……悪い奴ではないんだよな。
ひと目見て分かったよ。アイツは壁を越えようと、必死にもがいている。お宝を探す事で、自分自身を鍛えてるんだよ」


私も素直に聞けなかった。だって泥棒なんだよ? そんなの嘘に決まっている。

でも……ヒビキさんの目は、そうだとは言っていない。本気でそう思っている。それがどうしても、理解できなかった。


「それでさ、天道が言った事は、壁を超える事の重要性だと思うんだ。
俺の場合は……壁の先を考える必要性?」

「壁の、先?」

「簡単な言い方をすれば、夢だな。二人とも、壁の先を――夢を持とうか。
今までも見ていてこれなら、それは基本を忘れているか間違っていたか、そのどちらかだ。
そうすりゃ自然と、超えるための道筋も見える。それに正直でさえいればな」


私達に夢はない。そう言いたいのかな。でも……そうだ、私にはある。

やっぱりあの男の子といられる自分になりたくて……それだけじゃ、駄目なのかな。

間違っていないけど、基本ではないのかな。私は青い空を見上げ、そればかりを考えていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「少年、どこへ行くんだい」


先を急ぐ少年の前に、すっと出て笑いかける。息を切らせながら走っていた少年は、僕を見て肩を揺らす。


「海東さん、あの」

「探し物はこれかい?」


右手で巻物二本を出すと、少年は驚いた顔をする。それが少しおかしくて、笑いながら巻物をほうり投げた。


「え」


少年はそれを慌てて、抱えるようにキャッチする。


「あの」

「それは君のものだ。ただし条件がある」


右手を挙げ、少年を撃つポーズを取る。それに少年が驚いた顔をするので、また笑いを返した。


「そのお宝、僕にも見せてくれ。その後は保証しないけど」

「ありがとうございますっ!」

「じゃあ早速行こうか」


少年に背を向け、僕はそそくさと歩き出す。……ここで少年を見つけられたのは、幸運だ。

無駄な寄り道せずに済むし、お宝が消えるのを直に止められるかもしれない。僕は自然と足早に歩いていた。


「え、行くってどこへ」

「ヒビキという人が危ない」

「……え」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ユウスケに促される形で、森の中を全力疾走。変身できなくなっているとはいえ、自然というのは鬼にとって庭同然。

離れるだけならお茶の子さいさい……だと思っていたんだが、木々の合間から黒いタイツ姿が幾つも出てくる。

ドクロのマスクをかぶった十数人のそれは、ナイフを持って俺を囲んでくる。……これがスーパー大ショッカーとやらか。


「おいおい、俺はさっきも言ったが」


――7時方向から切りかかってきた奴の顔面へ、左ひじをたたき込む。ソイツは面白いように吹き飛び、木に埋まって動きを止めた。

そうして爆発し、木を中ほどまで抉る。……なるほど、やられると自爆するわけか。どこの悪の組織……あぁ、悪の組織だったな。


「ただのラーメン屋志望の親父だ。それでもやるか」


背後から飛びかかってきた奴の腹へ、右ミドルキックを打ち込む。それから飛び上がりつつ、0時方向から来た奴の膝を踏み抜く。

顔面を蹴り飛ばしてから、3時方向から突き出されたナイフを避け、背骨をへし折らんばかりの右フック。

ソイツを吹き飛ばすと、残っている奴らが俺の周囲を再度囲んで突撃してきた。俺は一瞬深くしゃがみ込み、跳躍。


周囲から襲ってくる刃を飛び越え、身を縦に捻りながら木の幹に着地。

そこを足場に再度跳躍し、奴らがこちらへ向く前に右飛び蹴りを打ち込む。

こちらへ背中を向けていた奴を蹴り飛ばし、そこから反転し地面へ着地。


奴らはこけた表紙にお互いを刺し合ったようで、ふらふらと起き上がろうとするも爆散した。

これで片づいたと思い、更に逃げようとするが……またどこからともなく、殺気が生まれた。

赤いイモリみたいな連中が刀を持って、銀色のオーロラから飛び出してきやがる。


しかもさっきより数が……こりゃやばいなと思い、つい右手を腰に当てる。それで自嘲の笑みを浮かべた。

あぁそうだ、俺はもう響鬼じゃない。その名はアイツへ託したはずだ。ここにいるのは、ただのラーメン屋の親父。

できれば厨房で死にたかったところだが、そうもいかないらしい。というわけで。


「もうちょっと、あがくとするか」


アスムが来るまでは、持たせられるだろう。真正面からバカみたいに、唐竹の斬撃が打ち込まれる。

それを両手で挟んで掴み、白刃取り。刃を横に寝かせ、右回し蹴りで地面に倒す。

そうしながら刀を奪い取り、背後へ振り向きつつ袈裟・右へ刺突・左へ逆袈裟の斬撃を打ち込み、奴らを斬り倒す。


そうして背中から打ち込まれた刀を振り向き受け止め……そのまま押し込まれ、動きが止まってしまう。

そんな俺の背後に残りの奴らが回り込み、刃を振り上げ。


「鉄輝繚乱っ!」


俺に向かって突き出そうとした瞬間、蒼い閃光が走り奴らを斬り裂く。

そうして地面を滑りながら、刀を持った少年が現れた。


≪Stinger Snipe≫


それだけではなく蒼く細い光が現れ、俺の周囲を縦横無尽に走る。

まるで絵を描くように走ったそれは、残っている奴らの頭や胸を撃ち抜き、炎に変えた。

それは俺にのしかかっていた奴も同じで……後ずさりながら息を吐き、地面に腰を落とす。


「ヒビキさん、大丈夫ですかっ!」


そんな俺に、イブキとその弟子が駆け寄ってくる。それに左手を挙げ、軽く答えた。


「あぁ、なんとかな。だがイブキ、お前……喧嘩なら後にしてくれ」

「冗談が言えるのなら、安心ですね。ヒビキさん、これから安全なところまで離脱させます。とりあえず威吹鬼流の道場へ」

「待ってくれ。俺をかばって」

「そっちも僕達でなんとかします。とにかく待っててください」


すると俺の視界が蒼い光で歪み、気がつくとピカピカな道場にいた。……なんだこれは、意味が分からないぞ。

だがとりあえず、助かりはしたらしい。俺は息を吐き、その場に寝そべった。さすがに……キツい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヒビキさんを救出した後、再び転送魔法を発動させてキャンプ地へ移動。するとケタロスが、クウガをフルボッコにしていた。

突き出された右ストレートを左手で受け止め、軽く首を傾げながらも払う。そうして側頭部を狙う右フック。

それを受けても倒れなかったクウガの懐へ入り込み、ワンツー……僕は突撃しつつ、術式発動。


クウガを転送魔法でこちらへ跳ばす。ついてきてくれたダブタロスは僕の脇を抜け、ケタロスの胸元目がけて角を突き立てる。

それは後ろに下がって回避されるけど、動きは止められた。僕はこっちに戻ってくるダブタロスを右手でキャッチ。


「ユウスケ、大丈夫?」

「いや、良いタイミングだ。もうちょっと続けてたら、やばかった」


そう言ってユウスケは地面に倒れ込み、目を閉じる。そっちはイブキさん達に任せ、僕は奴へと近づく。


「蒼凪恭文……やっぱり来たかぁ。また会えて嬉しいぞ」

「僕もだよ、大和鉄騎。じゃあ決着をつけようか」

「いや」


奴は両手を挙げ、こっちを止めてくる。そうしつつ一歩後ろに下がり、背後で銀色のオーロラを展開。


「それはやめておこう」

「……なんでだよ」

「下っ端ゆえに、忙しい身でなぁ。ヒビキとクウガだけなら、次の仕事に間に合うと思ったんだが……お前がいては無理だ」


銀色のオーロラから、幾つもの影が出てきた。奴の脇を通り、白いトゲトゲ装甲のワームが出現。

そのついでに、十数体のモールイマジンも出現。……数に任せてフルボッコか。


「だから済まないが、全員で挑ませてもらう。おそらくディケイドも来るだろうから」


奴が仮面の中で笑ったのを感じた。狙いが読めて、僕も自然と口元を歪める。


「これで俺とお前を邪魔するものは、いなくなる」

「それは、素晴らしい事だねぇ」


でも……ウカワームか。奴の白く丸い甲羅は、棘に覆われ強固な強度を誇る。

得物は右手に装備している、巨大な丸いハサミ。色は黄色となっている。

鉤爪のように先が丸まっているそれは、力をまとわせる事でライダーすら一撃で倒す。


しかも左手は盾に変化する。あれはカブトの中でもボスキャラなワームだ。……相手としては十分ってか?


「イブキさん、あのもぐら達は任せてもいいですか?
白い奴は超高速移動をするので、僕じゃないとついていけない」

「分かりました。では」

「えぇ、いきましょう」


イブキさんは変身笛を展開し、口元に寄せて吹き上げる。それにより風が生まれ、イブキさんの身体を包み始めた。


「変身っ!」

≪HENSIN≫


僕はカブタロスをベルトに装着し、そのまま黒い装甲に包まれる。イブキさんも風を振り払い、鬼としての姿へ変わる。

僕達は顔を見合わせ頷きあってから、奴らに向かって一歩踏み出す。が……その時右側から、猛烈に嫌な予感が走った。

思わずガード体勢を整えている間に、イマジン達とウカワームが吹き飛ばされて宙を舞う。


激しく走る火花と衝撃音に目を丸くしていると、奴らが空中で爆発を起こす。

その有様に僕達も大和鉄騎も、動きを止めてしまう。


「……へ?」

「あれ、倒されちゃい……ましたよね」


幾つもの爆炎が頭上を照らす中、奴らがそれまでいた場所に黒い影が現れた。それは……ライダーだった。

特徴的なのは黒く大きな角と、顔のほとんどを覆うほどに大きな、黄色の複眼。腰には黒いカブトムシ型バックル。

胸元はV字型の赤い増加装甲に包まれ、肩と僅かに見える背中にも増加装甲が存在する。


ただしこちらは銀と黒を基調としていて、左腰には見慣れないグリップ付きの装飾……ちょっと待て。


「ハイパーカブトッ!?」

「恭文君、それは」

「カブトのパワーアップ形態ですっ! つー事は天道、また」


……いや、違う。天道のハイパーカブトは、角が赤い。瞳だって青色だ。装甲各所の色も、微妙に違う。


「なんだ、お前は。俺達の邪魔を」


とか言っている間に、奴はまた姿を消す。それでケタロスが右へと大きく吹き飛ばされ、胸元から火花を吹き出しながら地面を転がる。


「が……!」


それでまた黒いハイパーカブトは姿を現し、奴を無機質な表情で見下ろす。大和鉄騎は変身を解除され、ふらふらと立ち上がった。


「どうやら、決着はまた後らしいなぁ。すまない、ダークカブト」


奴の背後に、再び銀色のオーロラが現れる。それでそのまま奴を包み込み、その姿を消し去る。


『だがお前との契り、決して忘れん。次の世界で会おう』


ただその声だけを残し、場は一気に静まった。……僕達はなにも言わず、変身を解除。

ただイブキさんがそれをやると、全裸になってしまう。なので首だけ元の状態に戻った。


「彼は、仲間ですか?」

「分かりません。でも、どういう事」


なんで……ダークカブトがハイパー化してるんだよっ! あんなの、原作では出てないぞっ!

……うん、あれはダークカブトなんだよ。黒い角に黄色い瞳は、ダークカブトの特徴。

そして左腰にあったのは、ハイパーカブトへ変身するための必須アイテム『ハイパーゼクター』。


あれはダークカブトがハイパーゼクターによって、パワーアップした姿だ。

でも僕はここにいる。だから意味が分からなくて、首を傾げるしかなかった。


≪ダークカブトはあなたですしね。もしかして、未来のあなたとか≫

「天道みたいに? そんなはずは、ないでしょ」


僕だったら、大和鉄騎との戦いを邪魔するはずがない。あの鬼と戦う事を、止めるはずがない。

なにより……IFのライダーが無数にいる状況で、それを鵜呑みにするのはアウト。

今回はたまたまってだけで、次は敵かもしれない。……あれ、もしかしなくてもまたフラグ?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


消化不良でもやもやしている間に、ザンキさんともやしが到着。その結果、みんなももやもやした。

それで各々が河原に腰かけながら、どうにも微妙な顔を向け合っていた。

僕はというと、その間にヒビキさんを回収してこちらへ戻していた。ヒビキさんは再び鍋に向き合い、なにやら作業中。


「……なぁ、一体なんだったんだよ。慌ててこっちへ来た俺達は、なんだったんだよ」

「知らないよ。それより」

「ダークカブトがもう一人、ですよね。というか私、疑問があります。
どうしてそのハイパー化をしたのが、未来のあなただって分かるんですか?
そんなのタイムスリップでもしなければ、不可能なはずです。ありえません」

「夏みかん、よく分かったね。ハイパーカブトは時間移動すらできるのよ」

「「はぁっ!?」」

「ハイパー化するとハイパークロックアップっていう、クロックアップの数十倍速く活動できる能力が使えるんだ。
それを用いれば、現在・過去・未来へ思いのままに行き来できる。
実際天道がそれをやって、ワームにやられた仲間を助けてる。ようは過去を変えたんだよ」


もう説明するまでもないけど、クロックアップは単なる超高速移動じゃない。

時間の流れそのものを乗り換えて、普通の人より速く行動できるにすぎない。

ハイパークロックアップはそれをより強化して、自分で流れを操作する。


その結果マジな時間移動が可能になったという、デンライナー涙目なチートなのよ。


「だからハイパーゼクターっていうのがあるなら……なんですか、そのチートッ!
……あ、じゃあもし士くんがそのハイパーなんちゃらになれたら」

「デンライナーのオーナーに怒られるだろ、それ。てゆうかやっぱおかしいだろ。
それならユウスケがフルボッコされる前に来いよ。なんでお前が来た後に助けてんだ」

「なんだよねぇ。ちなみに時間だけじゃなくて、大気中や真空――宇宙も自由飛行ができる」

「マジチートじゃねぇかよ。お前、ホントそういうのになるのはやめとけよ? みんなが迷惑だ」

「どういう意味だよ」


確かにあれを僕とするには、疑問点も多い。やっぱ敵として認識……でもチートなのに。

ハイパークロックアップの前では、クロックアップなどスローモーションレベルだし。……なに、このインフレ。


「それより……なぁ」

「なんだよ、ユウスケ。俺達は今、チートの恐ろしさについて」

「それよりみんなの方だろっ! どうすんだよ、この空気っ!」


ユウスケが気にしているのは、明らかに微妙な場の空気。平然としているのは、ヒビキさんだけだよ。

もう肩透かしで異常事態が終わったから、そういうのもあるんだと思う。特にザンキさんはイライラしてるし。


「いや、どうするったって……決闘?」

「やるしかないよなぁ。まぁライダーに変身もしないから、平和的にやろうぜ。ババ抜きでどうだ」

「士くん、それ本気で言ってます? ほら、巻物ないのに」

「……え、おのれらも渡したんだ」


それは少し意外だった。いや、イブキさん達と同じ感じだったらそれもありえるか。アスム、頑張ったんだなぁ。


「なんだよ、お前も海東に渡したのか。まぁイブキってのは押しに弱そうだしなぁ」

「海東? いやいや、僕達はアスムに渡したけど」

「え、ちょっと待ってくださいっ! アスム君は来てませんよっ!?」

「……マジ?」


二人が必死に頷くので、ここは確定っぽい。つまりえっと……あ、そうだよね。

連絡貰ったのは、アスムが出てってからだ。あの時点で、もうもやし達はこっちに向かっていた。

だったらアスムからもらえるはずがない。じゃあ……巻物は今どこに。


「もちろんここさ」


僕の疑問に答えるため……かどうかは知らないけど、左側に人の気配が二つ生まれる。

そちらを見ると、森の方から海東とアスムが早足でやってきた。


「やれやれ、急いできたつもりだったんだけど……もう終わっているとはね」

「海東、お前なにしに来たっ!」

「もちろん」

「ヒビキさんっ!」


海東が答える前に、アスムがヒビキさんへ駆け寄っていく。


「なんだ、少年。お前は破門したはずだぞ」

「ごめんなさいっ!」

「おいおい、どうして謝る。謝っても破門は」

「全部……海東さんから聞きました」


そこで飄々としたヒビキさんの表情が、初めて変わった。やや困りながら、こちらへ近づいてくる海東を見る。


「おい」

「いいじゃないか、それに君には彼の道を見届ける義務がある。ちょうど役者も揃っているし、種明かしといこうか」


海東は懐から三つの巻物を取り出し、それを近くのキャンプ用テーブルに置く。


「それは」

「おい、どういう事だっ! 貴様、どこの誰とも分からない奴に巻物を渡したのかっ!」

「それはザンキさんでしょっ!? 僕はちゃんと顔見知りですっ!」

「いや、俺もアスムのためだと聞いて……なぁっ!」

「まぁそんな事はどうでもいいじゃないか」

「「よくないからっ!」」


二人のツッコミを無視で海東は巻物を三つ、重ねた上で広げていく。


「それよりもこれを見てくれたまえ」


そう言われて僕達は全員……いや、ヒビキさんを除いたみんなが机に集まる。

重ねられた巻物はそれぞれの絵や文面が透けていて、中央に描かれている紋章が見た事のない図形を描いている。

これは太鼓と笛、弦の紋章で描かれている。三つの紋章が重なる事で、新しいものを……新しいもの?


紋章の横や上にある変な図形も、重ねられる事で解読可能な漢文となっている。

それを軽く読むと王、三つ、音撃道――あれ、これって。


「まさかこれ」

「さすがは少年君、よく気づいたね。僕と少年も、初めて見た時は驚いたよ。
というわけで、これは君達に返す。もう中身は分かったからね」

「あの、意味が分からないんですが。アスム君、宝はどうしたんですか」

「それならもう、この場に揃っています」

「どういう事だ」


本当に分からないらしいみんなが注目する中、アスムは文面の一つを指差す。そこは『音撃道』と書かれていた。

でも巻物一つだけでは、決してこうは読めない。三つの巻物を重ねて読む事で、初めて解読可能。


「まず僕達は、勘違いをしていたんです。凄い秘宝や兵器などは、どこにも存在していない。
これを三つ揃えて、初めて読める文面がある。その中身自体が宝だったんです」

「ここには簡単に言えば、こう書かれている。音撃道に三つの道あり。まぁここは、太鼓と笛と弦だね。
だがどれも本道であり王道。それゆえに違いを重ね、束ねれば……どんな闇も恐るる事なし」

「つ、つまり……どういう事っすかっ! もっと分かりやすく説明してくださいっすっ!」

「ようはみんな仲良くしろって事さ。大師匠は流派同士で別れて争う事を、多分予測していたんだろうね」


海東はやや呆れた顔をしながら、テーブル近くの椅子へ腰を落とす。


「だからこういうイタズラを仕掛けた」

『イタズラっ!?』

「だってそうだろう? これが三つ集まって中身を知る頃には、他の流派はなくなっている。
唯一残った流派は、自分達がどれだけバカだったかを思い知るのさ。
大師匠が望んだ事は、こんな馬鹿馬鹿しい争いを続ける事じゃないのにね。最高のイタズラだろう」


最高のイタズラっていうか、相当底意地悪いでしょ。静まり返るみんなが、そのなによりの証拠。

三つの巻物を用意している時点で、仲間割れするの期待していたようなもんだし。


「そうそう、ヒビキ」


海東はそんな中、いつもの調子で笑ってなにかを投げる。


「これは返しておく」

「おい」


それをキャッチしたヒビキさんは、明らかに嫌そうな顔をした。それに構わずアスムは、両手で巻物を優しく撫でた。


「みなさん、聞いてください。僕は……音撃道を一つにしたいんです。イブキさんにはお話しましたけど」

「えぇ」

「僕達は魔化魍で困っている人達を、助けるために鬼の道を進みました。
でも同じ鬼同士で争って、それができない時もあった。だからもう、終わらせましょう。
この巻物みたいに、僕達も重なって……もっと大きな事ができるように」

「ふん、今更そんな事できるか」


イブキさんはアスムの言葉を遮って、川辺に移動して座り込む。アスムはやや落ち込んだ顔をするけど、僕は気づいた。

ザンキさん、笑ってるのよ。バカにしてるとかそういうのじゃなくて、どこか嬉しそう。


「おいトドロキ」

「はいっすっ! ザンキさんの言う通りっすっ! 今更三つを一つになんて、無理っすよっ!」

「お前、ソイツと一緒に新しい音撃道の師匠になれ」

「はいっす……はぁっ!?」

「俺は鬼を引退する」


石を投げながら放たれた引退宣言に、斬鬼流の面々が驚愕の声をあげる。しかもやたらデカいから、耳に響いた。


「元々そうしようと決めていたからな。だから……俺にはそんな事できない。だが、お前ならできる。
アスム、流派を一つにしたきゃソイツとやれ。俺やヒビキ、イブキみたいな頑固な年寄りを頼るな」

「いや……無理っ! 無理っすよっ! こう、ザンキさんあっての俺っていうか、俺が師匠なんてっ!」

「いいだろうが。それならお前、威吹鬼流のあきら……だっけか? 堂々と付き合えるぞ」

「はうっ!?」


トドロキさん、分かりやすいなぁ。思いっきり顔真っ赤で……え、ちょっと待ってっ! 二人ともそういう関係なのっ!?

あー! あきらまで照れてるしっ! なんですか、この意外なカップリングッ!


「お前、連絡取り合ってたのに気づかないと思ってたのか。バレバレなんだよ」

「いや、違うっすっ! これはその、音撃道の未来のためにっ!」

「だったら問題ないよな。未来のために師匠をやれ」

「えぇっ! いや、無理っすよっ! ザンキさんみたいにはなれないっすっ!」

「バカ。お前流でいいんだよ、そう教えただろうが」


ザンキさんはやっぱり笑いながら、また石を投擲。それはゆっくりと川の中へ沈み込んだ。

それとは正反対に、トドロキさんのテンションは上がりっぱなし。それを見て、失礼だけど笑ってしまう。


「なるほど。では……あきら、後は任せました」

「えぇっ! あ、あの……イブキさん、誤解してませんかっ!?
あくまでもお友達なんですっ! 友人として、相談しあってただけでっ!」

「いえ、僕も正直やってられないんですよね。ここからは若い人達に任せるという事で。僕も年寄りみたいですし」

「イブキさん、まだ20代前半ですよねっ!」


そんなツッコミを無視して、イブキさんもザンキさんの隣に座り込む。それをザンキさんは、鼻で軽く笑った。


「なんだ、お前は続けていいんだぞ? それで大師匠のイタズラに引っかかってやれ」

「あいにく、そういう趣味はないんですよね。あー、しかしお腹空きましたね。
ヒビキさん、ラーメンまだですか? 必死に作っているの、それなんですよね」

「こっちは無駄に走らされて、疲れてんだ。ほら、早くしろ」

「お前ら……だったら手伝えよ。この人数分は、さすがに想定してなかったんだぞ?」

「全く、しょうがないな」


二人は立ち上がって、そのまま響鬼さんと一緒に鍋へ向き合う。なお、調理用具は勝手にかっさらう。


「大体お前は昔っから無計画なんだよ。山嵐退治した時だってそうだったろ。弦の俺達に任せときゃいいのに、勝手に飛び込んでよ」

「ザンキさんもそれやられたんですか? 僕もですよ。
うぶめに飛び乗って太鼓を叩いていた時は、もう血の気が引きましたし」

「いや、それは……ほら、たまたまな? 頑張らないといけない時だったわけだよ」

「頑張り過ぎた結果、変身できなくなったんだろうが。やっぱ無計画じゃねぇか」

「全くです」


なぜか話しながら調理を続ける二人を見て、もやしがやや引き気味の顔をする。


「おい蒼チビ、なんだアレ」

「もしかして元々、仲良かったんですか? 喧嘩してたのに」

「夏みかん、分かってないねぇ。喧嘩するほどなんとやらって言うでしょ?」

「あぁ、なるほど」

「だったら素直に話してろっつーの、人騒がせなんだよ」


やっぱり同じ音撃道を進む者同士、通じ合う部分や積み重ねがあるらしい。

巻物にこだわる理由がなくなった以上、率先して態度を変える。人によっては汚く見えるだろう。

でもこれは、三人が大人だからできる事。大人だからこそ、まず自分達から姿勢を示す。


大人だからこそ、過去は過去の事として流す事ができる。大人だからこそ、今を中心に考える。

忘れたわけでもなんでもないけど、それが足を引っ張るならあっさり捨てられる。

これが絶対の正解なわけじゃないけど、それでも……あ、そうだ。一つお願いをしておこう。


「ヒビキさん、三人追加でお願いしますー。多分お腹空かせてるでしょうから」

「あぁもう、何人でも来てくれっ! もう大歓迎だっ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


それで『三人』を呼び出し、ここへ来るように厳命。それからしばらくして、元気な一人とヘロヘロな二人が到着。

元気な一人はテンション高く、漂っている良い匂いを感じ取って笑っていた。


「なに、ラーメン? 俺、ラーメンはうるさいよー? 家電と同じレベルでうるさいね」

「ヒ、ヒビキさん……意味が分かりません」

「というか私、食欲が……出てきた」

「……うん、知ってた。ギンガはブレないもんね。ご飯大好きだもんね」


でもフェイト……うん、フェイトね? ギンガさんは訓練とか許さないから。けが人だしさ。

フェイト、どんな訓練したんだろう。てーか半端にやられると……大丈夫かなぁ。


「さ、できた。ヒビキラーメンの試作だ」


心配になっていると、全員にラーメンが配膳されていく。しかもそれをやっているのが、元師匠達だもの。

お礼を言いつつ受け取ると、中身はポピュラーな醤油ラーメン。でも……香りが良いなぁ。

外でラーメンなんて初体験だから、心躍らせながら麺をすする。すると感じ取れる芳醇な味わいに、目を開いた。


「ん……これ美味いっすっ!」

「本当。複雑な味なんだけど、どこか懐かしい」

「凄いです、ヒビキさんっ! 初めて作ったとは思えませんっ!」

「だろ?」


新師匠三人に褒められ、響鬼さんはご満悦。他のみんなも同じような反応で、ギンガさんは……お察しください。

そりゃあヒビキさんも引き気味な顔をするよ。なんかもう、台なしだよ。


「とんこつ……でもそれだけじゃない。魚介類が入ってる。
煮干しとかそっち? だけどもう一つ、別の味わいがある」

「別の? それ、どういう事ですか」

「これ、トリプルスープなんだよ」


夏みかんの疑問に答えつつ、また麺をすする。


「ラーメンのダシの基本は、魚介と畜肉――例えば煮干しやとんこつなんかがこれに入る。
でね、そのスープを混ぜ合わせたダブルスープっていうのがあるの。ただこれはもう一つ」

「別なのが入っていて、だからこんなに美味しいって事?」

「フェイト、天然なのによく分かったね」

「天然って関係なくないかなっ!」

「お、お前さん分かるか。実はな、これなんだよ」


それでヒビキさんが、かごに入った大量のきのこを見せてきた。


「きのこ?」

「もちろん毒性はないぞ? きのこは加熱すると、旨みをたっぷり出してくれるからな、試しに入れてみた」

「あぁ、それで。この香りは確かにきのこ」


それを確かめるためにもう一度スープをすすると、贅沢な香りが口いっぱいに広がる。


「いやぁ、最高です。でも強いて改善点を言うなら」

「いいね、忌憚ない意見を頼む」

「麺の長さを変えてみたらどうでしょう。もう少し長く……1センチか、それより下でもいいんですけど。
そうしたらすすった時、この香りがもっと長く味わえていいかなと。この香りも美味しさですから」

「なるほど、香りか。よし、ならちょっと試してみよう。いやぁ、大師匠は頼りになるな」


ラーメンと音撃道の大師匠と、どう関係があるんだろう。僕にはよく分からないから、チャーシューも頂く。

うん、チャーシューの味もなかなか。ラーメンの香りを邪魔しない控えめな作りだけど、それでもしっかり味わいがある。


「悪くはないな。てーか、三つの味が一つになっているわけか」

「まるでこれからの音撃道みたいだな」

「なるほど」


ユウスケの言葉に頷きつつ、ヒビキさんは腕を組んでラーメンを見た。


「なら音撃道ラーメンにするか?」

「おい、ダサいぞ」

「シンプル且つ今時の名前にしましょうよ。英名……いや、駄目か。
このラーメンにはもっとこう、王道な名前が似合うと思います。
音撃道ラーメンよりも一般向けで、誰でも親しみやすい名前」

「ならさ、明日夢ラーメンってのはどうよ」


そう言ったのは、家電オタクなヒビキさん。それでこっちのヒビキさんと明日夢が、驚いた顔をして吹き出しかける。


「アスム?」

「そう。明日の夢と書いて、明日夢。ほら、今日こうやってみんながラーメン食べてるのも、アスムがきっかけだしさ。
なにかこう、縁があるんじゃないかな。三つを一つにするってところから、いろいろ?」


……それはあっちのヒビキさんが知る、『アスム』の名前。漢字で書くと、そういう名前になるのよ。

確かに響きもいいし、このラーメンにはぴったりって感じがする。でも本人的には思うところがあるらしく、首を横に振っていた。


「あの、それはやめていただけると……さすがに恥ずかしいです。
というか、きっかけで言えばスーパー大ショッカーですし、それだと」

「スーパー大ショッカーラーメン? うわ、長いなぁ。だったら明日夢ラーメンだって」

「いやいや、さすがに」

「それアリだな」

「えぇっ!」


ヒビキさんが目をやると、イブキさんとザンキさんがニコニコしながら頷く。それで決定らしく、ヒビキさんはアスムへ近づく。


「よし少年、今日からお前はラーメンだ」

「その言い方はやめてくださいっ! もっと良い例えがありますよねっ!」

「まぁ細かい事は気にするな」

「気にしますよっ!」

「そう言うな。お前にはその代わり、これをやる」


それでヒビキさんが差し出してきたのは、変身音叉だった。それを見て、慌てていたアスムの表情が一気に引き締まる。


「これ」

「俺はもうヒビキじゃない」


やや寂しげな言葉に、アスムは頷きを返す。今ヒビキさん……いや、あの人は名を渡そうとしている。

弟子が自分の道を、例えあやふやでも決めたから。それなら大丈夫と思ったから。僕は自然と海東を見る。

今笑いながらラーメンを食べている海東は、もしかしたらこのために音叉を渡したのかもしれない。


「今日からお前が……いや、これは言うまい。少年、お前の道はなんだ」

「僕は」


アスムは一旦呼吸を整え、真っすぐにヒビキさんを見上げた。


「みんなと一緒に、この世界を守りたいです。鬼もそうじゃない人も、みんなが明日の夢を――安心して見られるように」

「そのために、これは必要か?」

「必要です。だって僕が守りたい夢は、音撃道という道にもある。だから」


アスムは震える手でゆっくりと音叉へ手を伸ばし、しっかりと掴み取る。

強く、確かめるように音叉を握り締めてから、出したのよりもずっと遅い速度で手を引いた。


「頼むぞ、響鬼」

「……はいっ!」


元気よく返事を返したアスムの頭を、あの人が優しく撫でる。その様子を他の師匠と弟子達も温かく見守っていた。

もやしはその様子をそっとカメラに収め……あれ、いきなり腰からカードが飛び出してきた。もやしはそれを、慌ててキャッチ。


「士くん、それ」

「出番なしって事らしい。だがまぁ」


カードの中身は、もう言うまでもない。もやしは苦笑しながらカメラとカードを置き、麺をすすった。


「ラーメンに免じて許してやる」

「素直じゃありませんね」

「よし、トドロキっ!」

「なんだ、まだなにかあるのか」


もやし、あるらしいよ? トドロキさんも、体育会系的に敬礼返してきたし。


「はいっすっ! なんっすか、ザンキさんっ!」

「お前、景気づけに『ヒビキ』とあきらとアレをやれ。ほれ、お前がやってるアレだ」


それでザンキさんが、両手でギターを弾くふりをする。その様子を見てトドロキさんは、顔を真っ赤にしてうろたえ始めた。


「ちょ……やめてくださいっすよ、ザンキさんっ! 恥ずかしいっすっ!」

「いいからやれ。それで新音撃道はここにありと、年寄りな俺達に見せつけろ」

「それはいいですね。ではあきら」

「私もですかっ!? いや、さすがに……変身すると服が」

「用意してます」

「私、女の子なんですけどっ! いつの間に用意したんですかっ!」


なにが始まるのだろうと思っていた僕達を待っていたのは、新師匠三人によるセッション。

変身した三人は太鼓を叩き、笛を吹き、弦をかき鳴らして場を清めていく。これはある意味では、決意表明。

これからは今流れている激しくも優しい音のように、お互いの違いを重ね合わせるんだから。


僕達はみんなでラーメンをすすりながら、川のせせらぎも吹き飛ぶくらいに騒いでいた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


それからみんなに別れを告げ、僕達はお昼ごろ写真館へ戻ってきた。早速やる事は、やっぱり写真の現像。

それは演奏を終えて、汗だくになりながら笑い合う新師匠の三人。それを上から見守るように、ヒビキさんが写っていた。


「――うん、これもいい写真だねー。道を進む弟子と、それを後押しする師匠……士くんも腕を上げたね」

「当然だ」


もやしの腕は、ここで急上昇。そりゃあコーヒーを飲みながら、鼻も伸びるってもんだ。


「でもなぎ君、これだとその、私達が来る意味なかったんじゃ」

「それは言わないでよ。僕も今回、なにもしてない感じだし」

「あ、でも最初に遭遇した童子と姫は? ほら、魔化魍」

「そっちはアスム達がやってくれるそうだ。新音撃道、一発目の相手としてな」


僕も心配になったから、そこは確認してる。そうしたらみんな気合い入れてたよ。

……魔化魍出るかと思ったけど、さっぱりだったしなぁ。あれ、関係なかったのかな。


「アスム君、大丈夫でしょうか」

「大丈夫だろ。三本の矢じゃないが、三つに重なったんだ。そうそうバラバラにはならないさ。それより」

「それより……いや、言いたい事は分かりますけど」


夏みかんが困り気味に見るのは、平然とコーヒーを飲んでいる泥棒と家電オタク。

そりゃああそこからここまで一緒だし、疑問に思ってしまうのも分かる。


「それもあるが、俺は一つ気になってる。……なんで師匠三人は、平然とラーメン屋やろうとしてんだよっ!」

「あぁ、それもありますよね。やっぱり三人とも、仲良いんじゃないですか。
それでどうして喧嘩しちゃうのか、私には理解できません。というかですね」


夏みかんはミルクたっぷりのコーヒーを一口飲んでから、苦笑してしまう。どうしたんだろう、また気持ちの悪い。


「私、最初からお互い嫌ってないのかもと思ってたんです。あくまでも、ほんのちょっとですけど」

「そうだったのか。でも夏海ちゃん、俺達には分からない積み重ねってやつがあったんだと思うぞ?」

「それ、士くんも言ってました。だったら逆に分からないんです。それなら私達がいなくても、素直になれたはずで」

「やっぱりアスム達の事が大きいんだろう。引退したから、喧嘩もストップって感じか?
それより……あの、海東さん? あなたなんでここにいるんですか。また胡椒が欲しいとか」

「まさか。僕はちゃんとお宝を手にしたよ」


海東は不敵に笑い、コーヒーカップを軽く掲げる。


「音撃道の未来と、三つの味を一つにした明日夢ラーメン――素晴らしいお宝だった」


それを見て怪訝な顔をしながらユウスケが、僕ともやしへ顔を近づけてくる。


「なぁ、この人なんでもいいのか? なんでも大事にする人なのか?」

「知るか。それで……そっちの家電オタクなヒビキ、お前もなんでいる」

「いや、少年の言う通り半端な事をしても、駄目かってさ。このままついていくわ」

「マジですかっ!」

「マジです」


うわ、本気っぽいし。なに『自分に任せろ』って顔で笑うのさっ! ……あれ、フェイトが怯えてる。

どうしたっていうの? 望み通りなのに。てーかギンガさんまで手を合わせにきてる。


「それに……俺的にもその、ハイパーダークカブトだっけ? ちょっと気になるからさ。
未来の少年かもしれないし、別の誰かかもしれない。正体不明なわけだし」

「なんですよね。まぁこの調子だと次の世界でも出てきそうだけど」

「次の世界……でも士くんの旅は、もう終わってます。ヒビキの世界が最後ですから」

「だよなぁ。士のカードも、全部元に戻ってる」

「本当ならこれで世界は救われ……ないですよね」


夏みかんもさすがに分かっていたらしく、ため息を吐いてヒビキさんを見た。

そう、終わらない。だって肝心の原因が消えてないんだから。

僕達が世界を救うために行動しているのなら、これで終わるはずがないのよ。


「だが最終目的地は決まってるぞ。紅達も、そのために動いている」

「それはどこですか? もしかして士くんの世界とか」

「すまないが、俺達にもそれがどこかは分からない」


直感的に嘘だと思った。もし僕の予測通りなら、みんなはそれがどこかを知っている。

でも今そこに触れても荒れそうなので、ここは後々折を見て聞く事にする。


「じゃあ、私達の最終目的地はどこなんでしょう」

「……少年達の世界だ」


ヒビキさんの言葉で、フェイトとギンガさんが期待の視線を向けながら背筋を伸ばす。


「そこでのスーパー大ショッカーの動き方は、これまでの世界とはまた違うものだ。
どちらにしても戻って、計画を止めなきゃいけない……って、紅達がな」

「……こりゃ、響鬼の世界だけで終わらないっぽいね。もやしや夏みかんの世界は、後回しか」

「今更ですよ。こうなったらどんと来いです」

「スーパー大ショッカーを倒さなきゃ、どっちにしろなにも変わらない。
まぁそれが分かっただけでも、旅してきた意味はあるだろ。心配すんなって」


ユウスケが背中をポンと叩いてくれるのが、実に心強い。フェイトとギンガさんも落ち着いたみたいだし、僕は安心して頷く。


「よし、じゃあ早速やるか。じいさん、アレやってくれ」

「アレだね? よし、任せておくれ」


もやしにほほ笑みながら頷き、栄次郎さんはあの幕の脇にある、鎖へ手を伸ばす。


「あ、私も手伝う〜」

「キバーラちゃん、ありがとう」


二人は笑顔を届け合ってから、それぞれの方法で鎖を掴み。


「「せ〜のっ!」」


一気に引き下ろした。それで幕が降り、響鬼の世界と別れを告げた。代わりに出てきたのは、青いライダーの姿。

ケープを両肩に身に着け、魔法使いの帽子をかぶったそれは、俯き気味に自分の手を見ていた。

腰には左右非対称の赤いバックルを装備し、周囲に色とりどりのUSBメモリが舞い散っていた。


それでその背後にうっすらとだけど、左右別々の色をしたライダーがいる。あとは、もう一人か。

こっちは翼を広げた鳥みたいな顔をして、胴体が黄色で足は緑の三色ライダー。どうもこれが、この世界のライダー達らしい。


「なぎ君、これはなんの世界かな」

「赤いバックルにベルトで……シンプルなデザインだよね。でも帽子をかぶってる」

「知らない」

『え?』


みんなが驚き、ダブタロスが僕へすりすりしてくる中、僕はただ首を横に振るしかなかった。


「僕、こんなライダー知らない。これ、見た事がない」

「はぁっ!? おい、ちょっと待てよっ! 蒼チビ、どういう事だっ!」

「あなたも知らないライダーがいる、世界っ!?
単純にチェックしてないとかじゃないんですよねっ!」

「違う。本当に見た事がないの」


そこで僕も含めた全員が、ヒビキさんを見るのもしょうがない。でもヒビキさんも、必死に手を振ってきた。


「いや、俺も知らないって。少なくとも紅達じゃない」

≪まぁそのメンバーのIF人物は、ブレイドを除いて全員会ってますから、当然ですよね≫

「マジかよ。こりゃ」


ユウスケは苦々しい顔をしながら、もう一度メモリとライダー達が写る絵を見る。


「今度の世界も、一筋縄じゃいかなそうだな」

「ユウスケちゃん、なに言ってるのよぉ。そんなのいつもの事でしょお?」

「確かにな……って、お前が言うな。スパイしてたくせによ」

「あら、またやぶ蛇しちゃったぁ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


みなさんが戻ってから、僕達は師匠達と別れて威吹鬼流の道場へ向かう。

今日はもう暗くなるし、さすがに危険と判断して会議だけに留める事にした。

洋風の会議室で地図を広げ、資料も持ち込み、初仕事にそれぞれが気持ちを高めていく。


「――土蜘蛛っすか」

「はい。あのタイプの童子達は見た事があるので、間違いないかと」

「太鼓の鬼がメインですね。でも」

「スーパー大ショッカーがいるっすからね、やっぱり団体行動っすよ」


本当はかなり怖い。これからは自分だけの問題じゃなくなる。でも……これが僕の決めた道。

胸を張って進むために、弱気な気持ちを吹き飛ばすために、深呼吸をしてからガッツポーズを取る。


「それじゃあトドロキさん、あきらさん、すみませんが」

「任せてくださいっすっ! 自分、腹くくりましたからっ!」

「私もです。師匠のいたずらになんてもう引っかからない、本当の音撃道を作っていきましょうね」

「はい」


師匠、見ていてください。宣言した通り僕は、自分の道を進みます。

僕の守りたいものの中には、師匠もいますから。それが……僕が響鬼をやる理由。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


テガマルとマナブのバトルを見た帰り、バトスピショップへ寄ってから、約束のお食事タイムとなった。

みんなは派手に食べてくれたおかげで、なかなかの出費となった。一番食べたのが誰かは、言うまでもない。

ただそれもなんか心地よくて、僕は良い気分で事務所近辺まで戻ってきた。


『――プロデューサー、ごちそうさまでしたっ!』

「いやいや、気に入ってもらえたならよかったよ。あー、そうそう。春香、千早、貴音、響」

『はい』

「明日、うちのメイドさん達が修行つけてくれるから。
事務所には来なくていいから、うちに来て一日家事しててね」

『はぁっ!?』


みんなを先導しながら曲がり角を左へ行くと……おー、事務所が見えてきたぞー。もう少しだ。


「プロデューサー、それなんだっ! 一体どういう事だっ!?」

「あの、私は歌のレッスン」

「あははは、嫌だなぁ千早。そんなのキャンセルしてるに決まってるじゃないのさ」

「明るく言う事じゃないと思うんですけど。というか、家事って」

「明後日のゲロゲロキッチンで、失敗しないためだよ」


そう言うと、四人はハッとした顔をする。……おい、まさか忘れていたとかじゃないだろうね。今のすっごい不安だったんですけど。

あと千早はテンションを下げないでよ。そういうのはホント辛いから、やめてほしいんだけど。


「家事と言っても、みんなが練習するのは料理関係。
本当は対策する暇はなかったんだけど、響が頑張ってくれたおかげで余裕ができた」

「え、自分のおかげか?」

「響、良かったですね。でも……なにか問題があるのでしょうか」

「うーん、別に大した理由じゃないよ。ただいきなりやって、怪我でもしたら大変だしさ。
どういう組み合わせになるかも、今のところは分からない。だから慣れておくのよ。
四人には話したけど、ゲロゲロキッチンは出世番組でもあるしさ。ここでみんなの顔が売れるように、できる限り支援もしたい」

「でも、なにを作るかも分からないのに練習は」

「大丈夫」


千早のツッコミは、残念ながら無意味。携帯を取り出し、一枚のメールを見せる。


「料理テーマだけは届いている」

「え、でもそういうのはいきなり聞かされるものでは」

「それで番組にならなかったら、大問題だもの。予め聞かされるんだよ。
あれだよ、笑点のお題だってそうだよ? これがテレビの基本」

「ゆ、夢がないぞ。てゆうか自分、なんかショックだぞ」

「私も……夢を見ていたわけじゃないけど、なにか辛い」


響、春香、頑張ってね。それを乗り越える事が、きっと大人になるという事だから。

ただ今回は助かったよ。夢がないのは事実だけど、これなら料理未経験の千早も、なんとか対応できるし。


「……あれ?」

「むむむ、変なの」

「雪歩、美希、どうした」

「プロデューサー、ここにこんなお店、ありましたっけ」

「確かここ、美容室だったように感じるの」


そう言われてみると……なんだ、この明治ちっくな建物は。てーか光写真館?

こんなところに写真館とか、なかったはずだよね。一気に閉店したってわけじゃないだろうし、どういう事だろう。

というか、なに? このなんとも言えない妙な予感は。ここから目を離す事ができない。


全員で首を傾げながらお店を見ていると、そこの玄関がバッと開いた。


「蒼チビ、ここはどこ……って、また格好変わってやがるしっ! なんでスーツ姿なんだよっ!」

「弁護士バッジはない。じゃあ警察とかでもなくて……あれ、ここって都内じゃ」


そこからスーツ姿の男と男の子が出てくる。言い方を変えるのは、それくらい身長差があるから。

それで僕は男の子の方に、ずっと釘付けだった。だって……顔と声が、暗がりでも分かるくらいにそっくりだから。


「え……嘘っ! プロデューサーさんっ!?」

「わぁ、兄ちゃんだー! え、でもなになにっ!」

「兄ちゃんが二人だー!」

「へ」


それでスーツ姿の『僕』はこちらを見て、信じられないものを見るかのような顔をする。でもそれは僕も同じで。


「「――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」


僕達は同時に、驚愕の声をあげていた。……なしか。


(第28話へ続く)










あとがき


恭文「というわけで、響鬼の世界は特に戦闘もなく終了。いやぁ、穏やかに終わったね」

フェイト「……どこがっ!? 怪しいところたくさんあったよねっ! ほら、ハイパーダークカブトとかっ!」

恭文「気にしてはいけません。それで最後の最後で、OOO・Remixの世界へゴー。そんなわけで今回のお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……ヤスフミ、ハジメ君が」

恭文「あの斬新過ぎる話、どう畳むんだろう。僕は二年目いくしか、選択肢が思いつかないよ」


(詳しくはWebで)


フェイト「今回は結局ラーメンでまとめた感じだね」

恭文「まとまっちゃったね。魔化魍退治も明日夢達にまかせて……と、斬新な方向で」

フェイト「これは斬新じゃないと思うなっ!」


(詳しくはWebで)


フェイト「これがWebだよっ! でも、ハイパークロックアップってそんなに強いの? クロックアップでもチートなのに」

恭文「強い。タイム・トラベルすら可能な、超絶能力だもの。純粋な速度で言っても、クロックアップの数十倍。
使えたらそれこそ、対応できる奴らは少ないって。まぁ描写を作るとお金がかかるので、あまり使用しない方向」

フェイト「その話はいいからー!」


(お金って大事だね)


恭文「それでみんな、コミケお疲れ様でした。多分行った人もいるだろうけど」

フェイト「ただ今日は……というか、最近少し涼しくなったから、まだ大丈夫かな」

恭文「いや、人の熱気もあるから、一概にそうとは言えないよ。外はまだ大丈夫だったけど」


(それでも汗はかくレベル)


恭文「あとはやては……おさっしください」

フェイト「いつもの事とは言え、酷いね」

恭文「子作りとか、どうしたんだろう」


(それでも頑張るのが、たぬきクオリティ。
本日のED:布施明『少年よ』)






あむ「……これで八つの世界は全て回ったのかぁ。でも……あの世界じゃないのっ!?」

恭文「実は違ったりする。さぁ、ここからはオリジナルのアレが出たりで、大変な事になるよ」

あむ「な、なんか嫌な予感が。容赦ない能力とか出るし」

恭文「アレは特にそういうタイプが出やすいし、注意しないとね」


(おしまい)





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あきゅろす。
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