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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第24話 『響鬼の世界/サボる鬼』



恭文「前回のディケイドクロスは」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……ありがと」





僕が右手で掴んだものは未来――そして証明。僕が選ばれし者である証明が、この手の中に収まった。

僕が手で掴んだのは、黒いカブトゼクター。天道のカブトゼクターと違う点は、やっぱり色。

まず全体は黒のカラーリングで、身体上部の中央も赤色となっている。元の色は半透明のスモークなんだ。



アルトのセットアップを解除した上で左手で天道からもらったベルトをどこからともなく取り出し、素早く腰に装着。





「変身」

≪HENSIN≫



ゼクターを装着したベルトから発せられたのはやや暗めで、青いヘックス型の光。それが僕の身を包み、アーマーへと変化。

その姿はカブトのマスクドフォームとほぼ同じ。でも全体的な色合いが暗めで、ゴーグル部分も黄色になっている。



『バカな……カブト、だとぉっ!?』



そう、この姿はカブト。でもカブトであってカブトじゃない。その名は。



「仮面ライダー……ダークカブト」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文「というわけで、僕がダークカブトになって無双します。さー、クロックアップしまくるぞー」

ユウスケ「た、楽しそうだな。でも恭文、ダブタロスはやめてやろう?」

恭文「なんで?」

ユウスケ「いや、可哀想だろっ! さすがにその名前はないだろっ!」

ダブタロス(なんだか楽しそうに飛び回っている)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――どうする?」

「どうすると、言われましても」

「正直僕達にはどうしようもない問題に発展してます……よね」



前回のあらすじ――妙な怒りを感じていた僕はその後、自分がとんでもない勘違いをしていたと突きつけられた。

だって全員着席した上で紅さん達から事情説明を受けて、出た結論は困惑しかなかったんだから。



「こうなると単純に向こうの僕達が戻ってどうこうは無理だね」

「ですです」

「恭文、リインちゃん、それってどうしてー? とりあえず向こうの恭文達を殺したーって話はなくなるよねー」

「リュウタ、そういう単純な話でもなくなったんだよ。普通に疑われてるならそれで解決した。
でもそうじゃなくて……これはスーパー大ショッカーによる圧力の可能性が高いもの。
スーパー大ショッカーがなのはさん達を狙ったのは、別の世界の僕達と関わったからだし」



やっぱりそういう結論に……達しちゃうよね。局の上がきな臭いという話とも合致するし。

おじいさんとヒロリスさん達も同じくで、三人揃ってうんうんと頷いていた。



「それが別の恭文だって、向こうからするとバレバレ。仕立ててもきっと利用されちゃうよ。
でも僕、ちょっと信じられないんだよねぇ。どうやって連中は管理局に取り入ったの?」

「考えられる手ならいろいろあるわい。例えば戦力不足を解消するとか、改革を手伝うとか……そういう甘言で釣る。
局の上は基本バカ揃いだしのう。ちょっとそれらしい餌を見せれば引っかかるわ。もしくは」

≪スーパー大ショッカーの正体を知った上で、世界を管理するとか妄想をこじらせたか≫

「そんなの、本当にあり得るんでしょうか。だって管理局は悪い組織じゃありません。
僕やキャロだって助けられたし、スバルさんやギンガさんだって……なのに」

「残念ながらその質問は無意味じゃのう」



信じられない僕達を見て、おじいさんは困った顔でそんな事を言う。



「大人になって偉くなるとのう、人によっては昔から描いてた夢や理想より大事なものができる事があるんじゃよ。
体面や権力、金……そういう世間から評価されやすいものを欲しがる。
そうして夢や理想、それを描いた過去の自分を裏切って、社会の闇に迎合してまう」

「そういう人が管理局にもいる。そう仰りたいんですか?」

「そんなの嘘ですっ! 私達の組織が――私やギン姉を助けてくれたみんながそんな事するわけないっ!
どうしてそんなヒドい事を言うんですかっ! 現になのはさん達はそんな人達じゃないのにっ!
あなたはなのはさん達とも長い付き合いなんだから、知ってますよねっ! そうじゃないってっ!」

「残念ながら、それには過去形がつく。なのはちゃん達も同じじゃよ」

「嘘だっ! 私はそんな話、絶対に信じないっ! ……そうだ、この事をみんなに教えるんだっ!
そうすれば助けられるっ! 私達みんなの夢を守れるっ! 私、ミッドに戻って」





立ち上がろうとしたスバルさんの顔面に、突然重く鋭い右フックが入る。

スバルさんはそれで鼻を砕かれ、白目を剥いて後ろの席に頭から落ちた。

どうやら椅子とテーブルの合間に身体が入ったらしく、ゴツンという音も響いてくる。



僕達が唖然としていると、スバルさんを殴り飛ばした人がその右足を片手で掴み、ズルズルと車両前方へ引きずり出した。





「フェイト、僕はこのバカ縛り上げて適当なとこにほうり込んでおくから、紅さん達にサインもらっておいて」

「ほうり込むって……駄目だよっ! というか、どうしていきなり殴っちゃうのっ!?」

「じゃあ今コイツが暴走してミッドで騒いでいいって言うの? それこそ大火事になるでしょうが」

「それならちゃんと話せば」

「無理だね。フェイトだって分かってるでしょ」



フェイトさんは困った顔で、白目を剥いたスバルさんを見た。恭文の言葉を否定できないみたい。

恭文はそのままスバルさんを引きずりながら車両前方へ消えて……止める事ができなかった僕とキャロは、ティアさんの方を見る。



「ティアさん」

「いいのよ。アンタ達も今スバルが言うみたいな事をしたらどうなるか分からないの?」

「それは……やっぱり信じてくれないし、謀殺されますよね」

「いきなり仮面ライダーが実在して、ショッカーもいるなんて……病気だと思われるレベルだものね」

「えぇ。連中は表に出ずに局の権力を使ってもいいし、分が悪過ぎるわよ。でもこのままは」



ティアさんは困り果てた様子で右手を口元に当て、視線を泳がせる。



「というか、取り入るだけでここまでできるのかな。誰かしら疑問に思う可能性だってあるのに」

「できるだろうな。連中が取り入った高官の隙を突いて、殺してしまえばいい。それで別の奴にすり替わらせる」

「相手は悪の組織じゃからのう。そういうのはお手の物じゃろ」

「だったら」



そこからティアさんはぶつぶつと呟き始め、数秒後に手を離してハッとした表情を浮かべた。



「……そうだ。なのはさん達もデンライナーに連れてくれば」

「そうですよっ! もう普通に疑われてどうこうって話じゃないんですしっ!」

「一旦避難して、事態を解決してから戻れば……それならどうでしょうっ!」



僕達三人は慌てて紅さん達の方を見る。パッと見だけど二人に困った様子や嫌がっている感じがない事に、内心ほっとしてしまう。



「そういう事なら」

「俺も賛成だ。てゆうか、反対する理由はないだろ」

「ありがとうございますっ! ティアさんっ!」

「決定ね。なら早速ミッドに戻って」

「遅いわい」



さっきとは意味合いが違う帰郷のはずなのに、おじいさんは重い表情で首を横に振る。

でもさすがに納得できない。だってほら、僕達をここに連れてきた時とは事情が変わってるし。



「はやてちゃん達はもう局に出頭しとるはずじゃ」

『はぁっ!?』

「ワシがお前さん方を誘拐もしたし、それではさすがに日は空けられんじゃろ。
事情説明も込みで六課――最低でも隊長陣だけは本局の管轄下に置かれとるわ」





確かに……僕達はおじいさんに誘拐されたという話になっている。そのために隊長達にちょっと怪我もさせたらしい。

ヴィヴィオに関してはこう、名指しで『引き渡せ』みたいな命令も出ていたんだよね。

そんな状況で誘拐なんだから、隊長達が報告しないわけがない。てゆうか、しなかったら立場が更に悪くなる。



だから連絡して……そうしたら本局はどうする? 当然調査に乗り出して、関係者も確保する。



そうだそうだ、僕達の確保が狙いならそうしない理由がない。だって誘拐という立派な介入理由ができたんだもの。





「じゃあおじいさんが僕達を誘拐したのって、逆効果だったんじゃっ!」

「少年、それは言わんでくれ。……あぁもう、失敗したわ。それならそれで手を打ってたんじゃが」

「てゆうかヤバいじゃないですかっ! 管理局、悪の組織に乗っ取られてるかもしれないのにっ!」

「サリ」

「今の俺達じゃ手出しはできない。俺達は目をつけられてるし、下手に動けば高町教導官達の安否にも差し障る。……そうなると」



混乱寸前な僕達とサリエルさんの視線は、自然と紅さん達に向く。



「やっぱ俺達だよな」

「それ、いいんでしょうか」



さすがに心配になって、ついそんな事を言ってしまう。



「だって目をつけられているのはライダーであるあなた達も同じですよね。それなら」

「僕達はまだやりようがありますから。怪人相手も慣れていると言えば慣れていますし」

「それに向こうは俺達の足取りを完全には掴めてない。なんとかなるだろ。だが紅、急ぐぞ」

「えぇ、まだ謎も残ってますし、六課のみなさんの安否もあります」

「お願いします」



なにかできればと思った。でも今僕が動いて足を引っ張っても……そう考えて結局、頭を下げるしかなかった。

でもそこで一つ気づいて、慌てて顔を上げてもう一つ質問する。



「あの、謎ってなんでしょう」

「どうしてスーパー大ショッカーがあの世界を狙ったか。そこが分からないんです。
しかも侵略具合から鑑みるに、それなりに本気を出していますから」

「そこも含めて調べるつもりだ。とにかく連中がデカい事考えているのは、間違いないしな」





なのはさん、八神部隊長に副隊長達も……今どうしてるんだろう。他のみんなだって同じだ。



現状があまりにもどかしくて僕は、知らず知らずのうちに唇を噛み切っていた。










世界の破壊者・ディケイド――いくつもの世界を巡り、その先になにを見る。



『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路


第24話 『響鬼の世界/サボる鬼』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



新しい世界に来たのはいい。直接捜索を行うのは明日からなので、それもいい。でも問題はある。それは……ユウスケの事。



みんなが寝静まった後に今日死にかけたユウスケと、これから起こりうる事についてのディスカッションを行う。





「ごめん、ユウスケ。僕のせいだ」

「おいおい、やぶから棒にいきなりなんだよ。マユちゃんにぶっ飛ばされた事はもういいって。原典通りって考える方が危ないんだし」

「違う、そっちじゃない。ユウスケの身体は今、とんでもない変化を迎えようとしてる」

「変化?」

「僕は今日ユウスケが心停止した時、電気ショックで蘇生させた。それが原因だよ」



どう話そうかと考え、まずは分かりやすい変化からツツいてく事にした。



「今日三島と戦ってた時、手首や足首から火花が走ってたよね」

「あぁ……そう言えば」

「その時、なにか感じなかった?」

「いや、特には。でもいつもよりちょっと力出てたような」



やっぱり……もう変化が出てるんだ。これ、後で後でなんて言わなくてよかった。僕は内心ホっとしていた。



「ユウスケ、はっきり言うけどクウガは生体兵器だ。古代の人間がグロンギに対抗するために作ったシステム。
アマダムを埋め込んだ人間はその力によって、人を超えた――グロンギと等しい力を手に入れる」

「それについては知ってる。姐さんにクウガだってバレた時、医者に無理矢理引っ張られてな。
アマダムから伸びてる神経みたいな触手が脳に到達すると、かなりヤバいとも言われた」

「そう」

「だがそれとこれと一体なんの関係が」

「ちょっと待ってくださいっ!」



突然写真室のドアが開かれ、そこにパジャマ姿な夏みかん……いつの間にっ! 気配が察知できなかったんですけどっ!

僕の驚きは無視で、夏みかんは怒り心頭という顔をしながらこちらへ迫ってくる。



「ユウスケが生体兵器って……グロンギと同じってどういう事ですかっ!
いくらなんでもヒドいですよねっ! ユウスケはクウガですよっ!?」

「夏海ちゃんっ! あれ、寝てたんじゃっ!」

「それよりも今の、なんですかっ! ユウスケに謝ってくださいっ!」

「あぁもう騒ぐなバカっ! みんなが起きたらどうすんのよっ!」

「騒ぐしかないじゃないですかっ! ユウスケに……仲間に対して言う事じゃありませんっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――結果、みんな起きちゃったわけだよっ! このバカがっ!」



フェイトやギンガさん、栄次郎さんとおまけのもやしまで起きて……僕は右拳で夏みかんの頭頂部にげんこつをかます。

テーブルに着席していた夏みかんは、前のめりに倒れかけるけど慌てて体勢を整える。両手で頭頂部を押さえながら、僕を睨みつけてきた。



「なにするんですかっ!?」

「当たり前でしょうがっ! ほんと空気を読まないねっ!」

「なぎ君、落ち着いて。……というか、話を聞いたけど私も納得できない。ユウスケさんはクウガだよね」

「そうだよ。クウガは仮面ライダーで、怪人と同じなわけがないのに。
しかも生体兵器なんて……ヤスフミ、ユウスケさんに謝るべきだよ」

「恭文ちゃん、心中察するわ」



どうしようかと頭を抱えていると、キバーラがフェイト達をせせら笑いながらこっちへ近づいてきた。



「揃いも揃ってバカなんだもの」

「その優しさに今だけは甘えたい。……みんな、ここから僕が話し終えるまで口を挟まないで。
そうじゃないと朝まで説明しなきゃいけなくなるから。まず、クウガはグロンギと同質」

「だからどうしてそういう事を言うんですかっ! ユウスケがグロンギみたいな怪物になるとでも言うつもりですかっ!?」



夏みかんの口を右手で掴み、力ずくで黙らせる。もう本気で早く寝たいから、邪魔されるのはかなり苛立つのよ。



「口を挟むなっつったよねぇ。夏みかん、お願いだから話くらいは聞いてよ。あと……その質問には『その通り』と答えるしかない」

「な……!」

「ユウスケの身体はクウガに変身するたびに……ううん、今この瞬間も人ではないものに変わっている」



そう言いながら、夏みかんの口から手を離す。



「クウガというのは、対グロンギ用の生体兵器。アマダムは人の身体をそれに作り替える装置なんだよ」

「アマ……なんですか、それ」

「クウガのベルトに入っている霊石だよ。アマダムは人の身体に埋め込まれてから、神経にも似た触手をその体内で伸ばしていく。
それの進行によってクウガの変身者――この場合ユウスケは、素の状態でも人間の領域から逸脱していく。
例えば身体能力、例えば耐久力、例えば治癒力……そうやってグロンギへ近づいていく」

「ヤスフミ、ちょっと待ってっ! どうしてそうなるのっ!? ベルトだったら外せばいいよねっ!
ほら、ヤスフミや士さんだってベルトは取り外ししてるし、デルタだってっ!」

「これは外せないんだよ。アマダムはユウスケの身体と完全に一体化しているから。
ちなみに外科的手術も無理。下手に外そうとしたら、ユウスケは死ぬ」



はっきり宣言した事により、三人の顔に青いものが浮かぶ。それで困った様子のユウスケを見始めた。



「てゆうか夏みかんもギンガさんもフェイトさんも、疑問に思わなかったの?
ユウスケ、怪我を負っても次の日にはケロっとしてるじゃないのさ。
もやしにとんでもない傷物にされても、しばらくしたらいつもの調子に戻った」

「そう言えば……キバの世界から移動する時は重傷だったのに、翌日には元気でした」

「で、でもそれは回復魔法や薬とかがあったからだよね」



フェイトがそう言ってなにを恐れているか、すぐに察した。

それでフェイトは、自分を納得させるように何度も何度も頷く。



「ヤスフミ、そうだよね。クウガとは関係なく治った……うん、そうだよ。だからこの話はここで終わりに」

「いや、アマダムのおかげで治癒能力が高まってたからだよ。だから大怪我してもすぐに復活できる」

「だからこの話は終わりだよっ! あの、もういいよねっ! そんな話しなくても」

「……今しなくちゃいけない話に首突っ込んだのはお前らだろうがっ! 邪魔せずに最後まで聞いてろっ!」



あんまりに勝手な事を言うので怒鳴りつけると、フェイトとギンガさん、夏みかんは身を竦ませ戸惑った顔をする。

それがあまりに腹立たしく感じたので、とりあえず見せしめにフェイトの頭は叩いておく。それから改めて、ユウスケの方を見る。



「ユウスケ、グロンギは人間とほとんど同じ種族って知ってる?」

「……は?」

「グロンギと人間が同じ……そ、そんなのありえないですよねっ! グロンギは怪物じゃないですかっ!」

「いいや、違う。奴らは怪人に『変身』しているだけだ」



この話はユウスケも知らなかったらしく、呆然とした顔をする。でも他の三人よりは、幾分落ち着いた様子でもあるので安心。



「奴らは霊石の力で、身体を分子・原子レベルで急激に変化させているだけ。それが怪人体なんだよ。
それはクウガも同じ。みんな、クウガの身体がなにかの鎧だと思ってない? それ勘違いだから」

「じゃあ、なんですか」

「あれはユウスケの生身だよ。もちろんグロンギも同じ。どちらも霊石の力で身体を作り替えている。
その結果、通常の人間では考えられないような能力を持った存在へと変化。それがクウガであり、グロンギ」

≪補足を加えるなら、だからこそユウスケさんのお尻は傷物になったんですよ。アーマーを突き破ったとかじゃないんです≫





電王の世界で貫かれたあれは、本当にユウスケのお尻にぐさって刺さってた……あ、みんな想像して目を伏せた。

それでクウガは辺りにあるものを武器に変えられるよね。それもこの能力の一つなのよ。

そのフォームごとの専用武器を連想させるものを持つと、物質変換が起こって武器になる。



もちろんグロンギも同じ能力を持ってる。だからこそグロンギとクウガは、等しい存在となる。





≪そして今この人に起こっている力の生成――自己進化能力も、グロンギは保持しています≫

「自己進化?」

「僕がやった電撃がトリガーになってる。原典のクウガもね、一度仮死状態になった事があるんだ。
その時は敵の攻撃に対応するため、アマダムが一時的に行なった処置だった。
でもそれを知らなかった周囲の人達は大慌てで、原典のクウガに電気ショックを施し……結果クウガがパワーアップした」

≪電気ショックによる電撃の力を受けて、アマダムがそれを用いた更なる力を生み出したんです。
いわば現代限定のスペシャルフォームだったんですよ。古代のクウガにはそんな形態はありませんでした≫

「じゃああのビリビリは」



パワーアップの兆し――ユウスケが考えている通りなので頷くと、その表情が明るいものになった。

でも残念ながら、僕はそこに水を差さないといけない。胸が痛くなりつつも補足を加える。



「ユウスケ、それはただのパワーアップじゃないのよ。ユウスケのクウガは、ユウスケが思っている以上の力が出せる。
……原典のクウガがその形態を使って敵を倒す時、周囲三キロに広がる爆発を起こすようになった」

「はぁっ!?」

「そして今日、三島を倒す時にもその兆候が見られた。あの爆炎、大き過ぎたと思わない?」





ユウスケがハッとした表情を浮かべた。……そう、あの爆発にはそのパワーアップが絡んでる。

パワーアップ状態になると必殺技に込めるエネルギーというのも、当然大きくなる。

それがそのままグロンギなり怪人を倒した時の影響を大きくするのよ。ここは原典クウガでも問題になった。



僕があの時電気ショックを躊躇ったのは、ここが理由だよ。もしって考えたら……結果半日でその通りになったわけだよ。





「でもこれは序の口。問題はクウガの最強形態にある。
ユウスケ、鳴滝がユウスケをクウガにした本当の狙いはそこだ」

「俺がそれになるのを、期待して……か。そうなった俺に、ディケイドや他のライダー達を倒させようとした」

「間違いなくね。そこはキバーラも認めた」

「えぇ。はっきり言うけど『究極の闇』をもたらす者――凄まじき戦士になったら、今の恭文ちゃんやディケイドじゃあ絶対勝てないわぁ。
それくらいスペックが驚異的なの。例えば……近づいただけで発火現象が起きて燃やされるとか?」

「なんだよ、そのチート。それじゃあ俺、彼女作るのも難しくなるじゃないか」



それはきっと、ユウスケなりの精一杯な冗談。それに対し僕は、曖昧な笑いしか返せなかった。



「でもグロンギのボスだったダグバも、それくらいのチートだった。だからグロンギを倒すなら」

「グロンギと同じにならなくちゃいけなかった。それがクウガ……か」

「あの、なぎ君……もうやめようよ。ユウスケさんにやっぱり失礼だし、こんな話してどうなるのかな。
ユウスケさんに人間じゃないって突きつけて楽しいの? そんなのおかし過ぎるよ」

「ホントバカよねぇ」



フェイトと同じものを気にしているギンガさんを見て、キバーラも呆れた様子。ため息混じりにそう口にした。



「昼間に言ったでしょ? 仮面ライダーは『同族殺し』。クウガも例外じゃないというだけ。
グロンギと同質の力を用い、自らを闇に墜としてまでも戦い殺す……ホント笑っちゃうわぁ。
どうしてまだ理解してないのぉ? あなた、ここまで旅をしてきてなにを見てたのかしらぁ」

「全くもってその通りだよ。ギンガさん、ほんと説明めんどくさくなるから口挟まないでよ」

「あー、その辺りにしておけ。話逸れそうだし。……なぁ、凄まじき戦士ってのには必ずなっちまうものなのか? いや、なったらどうなるんだ」

「ちょうどそこを話そうと思ってた。……まず究極の闇は怒りや憎しみ、そう言った負の感情によって変身する。
そうした場合、ユウスケは人としての心を全てなくす。それが凄まじき戦士――アルティメットフォームだよ。
あと、クウガの力が強化されるたびにアマダムの神経も発達するから、そこまでいくと正真正銘の」

「生体、兵器」





その通りなので、なぜかキバーラ共々ユウスケに頷いた。……究極の闇はグロンギの長と等しき者。



その姿は『黒き闇・究極の闇をもたらす者・凄まじき戦士』と形容される。



それだけのスペックと超常能力を操るチート戦士で……それが優しさ0で暴れるんだから、そりゃあキバーラが勝てないと言うのも分かる。





「それでね、今ユウスケの身に起こっている事は……その力が発現しかかってるのが原因。
もう一度言うけど、単なるパワーアップじゃないんだよ。ここは謝るしかない」

「それは別にいいさ。お前が助けてくれなかったら、俺死んでたかもだしさ。……それで」

「凄まじき戦士のアイデンティティワードは、『聖なる泉枯れ果てし時 凄まじき戦士雷鳴の如く出で 太陽は闇に葬られん』。
泉というのは優しさ。太陽というのは人間性――これは警告だよ。
クウガがそんな状態になったら困るから、『変身するな』って文面になってる。ユウスケ、ワードの事は」

「姐さんのおかげでなんとかな。それっぽいのがあるってのは」





このワードは簡単に言えば、クウガの各形態を示す文面だよ。クウガに変身した後、ベルトにも刻まれている。

例えば基本となるマイティフォームなら『邪悪なる者あらば 希望の霊石を身に付け 炎の如く邪悪を打ち倒す戦士あり』。

ドラゴンフォームなら『邪悪なる者あらば その技を無に帰し 流水の如く邪悪を薙ぎ払う戦士あり』。



このように各形態の能力や得意とする戦い方をワードが示しているのよ。クウガではここも面白さの一つだった。

まだまだ未開拓な古代文明……その戦士であるクウガの情報は、初期の頃だとほとんどなかった。

そこをクウガの友人である考古学者がひも解き、それをクウガに伝えて更なる強さを得ていく。



クウガは決して孤独な戦士ではなく、そういう周りの人達に支えられて戦い続けていたの。





「でもそれ、絶望しかないワードだな」

「確かにね。でも希望もあるよ。ユウスケ、ここまでの危険性を踏まえた上で聞いて。
……アルティメットフォームは人間性や優しさを失う事なく、変身する事ができる」



途方に暮れていた表情のユウスケが、驚いた様子で目を見開く。というか、すっと立ち上がってこっちに近づいてきた。



「本当かっ!?」

「うん。原典のクウガでも最終的にこの形態に変身したんだけど、究極の闇をもたらす者にはならなかった。
ワードは『清らかなる戦士 心の力を極めて戦い邪悪を葬りし時 汝自らの邪悪を除きて究極の闇を消し去らん』。
……憎しみじゃなくてユウスケが持ってる優しい気持ちで変身すれば、アルティメットフォームは制御できる」

「そう、なのか。……なんだよっ! だったら脅かすなよっ!」

「脅かしてないよ」



笑って僕の背中を叩こうとしていたユウスケの手が、ピタリと止まった。僕がかなりマジな顔とトーンでそう言ったせいだと思う。



「スーパー大ショッカーがそこを狙って、ユウスケへ直接的にちょっかい出してくる可能性だってある。
はっきり言ってこのままはヤバい。だからこの話は必要。危険性も踏まえずアルティメットフォームになろうとしたら」

「その時点で俺は……究極の闇に早変わりか」

「そうだよ。それだけじゃなくて、人間でいられるかどうかも怪しい。力の強化はアマダムの強化だから。
だからユウスケ、アルティメットフォームには――黒い究極のクウガにはならないで。
憎しみや怒りがトリガーになるから、戦いの時には冷静に。それが無理ならもう下がって」

「下がって意味があるのか? スーパー大ショッカーが俺を狙うかもしれないのに」

「……確かにね」



もう引くに引けない状況なのは変わらない。苦笑いしているユウスケは言うなら、いつ爆発するかも分からない爆弾。

それも一日で万単位の人間を殺せる爆弾だ。実際アルティメットフォームと等しいダグバは、それをやってのけていた。



「まぁなろうとしたらアマダムが警告するはずだし、その時は従うように」

「警告? ……そういや装着者がグロンギみたいになると困るって言ってたよな。だからこその警告か」

「そうそう。まぁ今日はもう遅いしまた改めて」

「あの、待ってっ!」



改めて話そうと思ったのに、まだ口を挟むか。僕は右手で頭をかきながら、KYどもを見る。



「そのベルト、本当に外せないのっ!? ほら、ヤスフミの物質変換ならっ!」

「そうだよ……なぎ君、なんとかならないかなっ! こんなのおかし過ぎるよっ!
それが無理ならミッドに戻るのっ! ミッドの技術力ならきっとなんとかなるっ!」

「無理だよ。アマダムから伸びている神経は、ユウスケの体組織そのものと一体化している。
下手にアマダムを傷つけたり外そうとしたら、ユウスケは死ぬ」





神経組織の大元だから、それを叩けば当然……という理屈。実際クウガがグロンギを倒す時もその描写が見られる。

クウガが大技を決めると、グロンギのベルトにそのエネルギーが走って亀裂を入れるのよ。

それでグロンギの霊石へダメージを入れて、身体へ走っている神経そのものをズタズタにするのよ。



これは神経断裂とも言うかな。実際同じような役割を担う弾丸を作れるようになったら、人間でもグロンギを倒せるようになった。



だからフェイトが言うような手は絶対に取れない。アマダムをユウスケから取り外す事はできないの。





「あと……物質変換や物質分解の類は、ユウスケには通用しない事も考えられる」

「えぇっ!」

「話聞いてた? クウガやグロンギは、自分の身体そのものを原子レベルから作り替えて変身してるって言ったでしょうが」



フェイトはそこでハッとした表情を浮かべ、右手で口元を押さえる。



「そうか……『変身』はヤスフミの物質変換と同じ。ううん、それよりももっと高度。
あぁもう、もっと早く考えるべきだった。そうだよそうだよ、それじゃあ無理だ。
……じゃあヤスフミ、それを使って究極の闇になったユウスケさんを止めるのも」

「ライダーだろうが魔法だろうが無理だよ。そもそも近づく事もできず燃やされる。
……あとギンガさん、ミッドに戻ってもそんな事はできない。
今僕達の世界は、スーパー大ショッカーの侵略を受けてる。そんなとこには行けない」

「だからそれは……私達で倒せばいいんだよっ! 父さん達にも協力してもらうのっ!
その上でなら問題ないよっ! ミッドは私達の世界だし、どうとにでもなるっ!」

「それも無理。多分ゲンヤさんも機動六課関係者も、スーパー大ショッカーに狙われてるだろうから」



天道との話で気づいた事をそのまま告げると、ギンガさんとフェイトが息を飲みながら更に顔を青くした。

僕は二人の動揺には構わず、軽くお手上げポーズを取る。



「僕達、電王と関わってるしね。鳴滝がポカやるまで、天道達も正体を掴めなかったくらいだもの。
でもそこで機動六課関係者が、スーパー大ショッカーの事を知って良太郎さん達に話したら?」

「計画が潰れるから……みんな」

「そういう事。下手をすれば既に拘束されている危険もあるね。だからミッドに戻るのは敵地に乗り込むも同然」

「どうしてそんなに、冷静なのかな」



ギンガさんはそう言って僕を睨みつけ、一気に立ち上がって泣きそうな顔で詰め寄ってきた。



「どうして……みんながピンチなのにっ! ユウスケさんがそんな事になってるのに、冷静でいられるのかなっ!
なぎ君、全部分かってたんだよねっ! クウガがどういう存在なのかも……それなのにどうしてっ!?」



本気でうるさいので、僕は右手を挙げてギンガさんに思いっきりデコピン。

それでギンガさんは両手で頭を押さえ、僕を恨めしそうに見た。



「今は駄目だよ。もやしが全部のカードを使えるようになってからじゃないと。
……その理由は、明日実際に外へ出て説明する。だから今日はもう寝ろ」

「でも」

「寝ろ」

「……分かった」





こうして話は無事に終了。フェイトとギンガさんも納得したようなので、そこは問題なし。でも……いや、駄目だ。



僕は太陽――誰が相手でも勝ち続けると、道を選んだ。でも対処できない相手もいる。



だから響鬼の世界を超えないうちは、ミッドに戻るなんて選択は絶対にない。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして翌日――ここで今回やってきた響鬼の世界について説明しようと思う。

仮面ライダー響鬼――カブトの1年前に放映された平成ライダー六番目の作品。そしてアルトが一番気に入ってるライダー。

日本には古来、人間でありながら超人的な能力を持つ『鬼』と呼ばれる者達がいた。



その者達は魔化魍(まかもう)と呼ばれる妖怪の類から人々を守り続けていた。それは現代に至っても同じ。

そして鬼をサポートする人々の体系は組織へと発展し、猛士(たけし)と呼ばれるようになった。

仮面ライダー響鬼はそんな鬼の一人であるヒビキと、少年・明日夢の出会いから始まる成長物語である。



元々はライダーではない深夜にやる特撮物企画だったそうだけど、これがどういうわけかライダーになった。

平成版アマゾンを謳い、マジョーラカラーな響鬼は動くだけでも美しい。そして俳優陣も豪華。

ベテランや演技派を中心に集め、主役であるヒビキにはなんと細川茂樹さんが起用。



もう最初のワクワク感と屋久島での撮影、その後も自然の中での丁寧な撮影描写ととても良い作品だった。

……が、途中で予算を使い過ぎたかなんかでプロデューサーが交代し、路線変更を余儀なくされた。

それが同じ作品のファンを二分する大騒ぎの始まり。結果響鬼は平成ライダーの中でも、特殊な立ち位置となった。



そこを思い出すともう、朝から黄昏ちゃうわけですよ。響鬼のEDみたいな切なさが胸を襲うわけですよ。





「――(うったわれるーものー♪ 俺達うったわれるーものー♪ へへいへーい♪ ららんらーん♪)で」

「よし、その話やめようなっ! なんでお前そんなダウナーになるんだよっ!」

≪しょうがないんですよ。この人、貯金全額東映に寄附しようかと本気で悩んでましたし。
私はあれはあれで面白かったからいいんですけど≫

「ユウスケ、特撮ってお金かかるんだよ? だからなんだ。もっとお金があればロケもできてCGもバシバシ使えて人員も」

「ほんとこの話やめようかっ! てゆうかこう、シュール過ぎるわっ! その話題を俺達に振るのはシュール過ぎるからなっ!?」





まぁそんな響鬼だけど、間違いなく名作の部類には入ると思う。ちょっと悲しい時間があっただけなのよ。

そんな世界観設定を深い森の中を歩きながらみんなにしながら……でもなんですか、この格好は。

僕達揃って、ピンク色の着物を着ているのよ。でもこの姿の意味が分からなくて、首を傾げるばっか。



写真館の外見は響鬼の舞台でもある茶屋だったのに、僕達の格好はこれなのよ。



うーん、何度思い返しても見た覚えがない。見逃した回でやってたとかかな。





「とにかく鬼達は音撃という特殊な波長を持った攻撃を行う事で魔化魍を倒していくんだ」

「音撃? 恭文、それなんだ」

「清めの音を放つ攻撃。逆を言えば魔化魍を音撃以外の攻撃で倒す事はできない」

「……またその類か。クロックアップでもう腹いっぱいなんだが」

「じゃあ魔法でも……無理、なんだよね」



ついてきてくれているフェイトの方へ振り向き、後ろ歩きしながら頷く。

フェイトは隣を歩くギンガさんを気にしながらも、相当困った顔をしていた。



「無理だね。だからフェイトもギンガさん、絶対余計な事しないでね。
魔化魍や童子と姫に捕まると本当に厄介だから」

「具体的には」

「接触した時点で殺されて、死体を餌にされる。普通の人間にとっては接触致死な攻撃すると思ってて。
……だから昨日言ったでしょうが。『今は無理』だって。魔化魍は対処法が限られるし、ここは絶対に越えないと」





そこでギンガさんがハッとした表情を浮かべる。そう、昨日『今は駄目』と言った理由がこれだよ。



ライダーの敵というのは、ワームみたいに対処法が限られている相手がかなり多い。



そういう奴がスーパー大ショッカーに与してたらどうなる? 当然今の僕達だと……負けるよ。





「二人とも、納得してくれたかな」

「「……死ぬ気で気をつけます」」

「よろしい」

「それで蒼チビ、まずはどうするんだ」

「基本通りに探検だよ。でも行動にはホントに注意しててよ?
今魔化魍に襲われても倒せないし……魔化魍を育ててる童子と姫ならまだ」



そう考えると今回もキツい世界になる。正直非戦闘要員はじっとしててほしいレベルだよ。

ほんとに注意しようと気持ちを引き締めていると、もやしが僕の隣を歩きながら首を傾げた。



「育ててる? そういやさっきもその名前言ってたが、なんだそりゃ」

「魔化魍は童子と姫という、二人一組の妖かしが育てるんだ。あ、ふだんは人間の姿をしてるから油断しないでね?
童子と姫は人間を捕まえ魔化魍に食わせる。人間の髪の毛や血は魔化魍の成長に必要不可欠だから」

「だからさっき姉さんが餌になると言ったわけか。で、大きくなったらソイツらの力を借りなくても襲うと」



正解なので頷きを返した。そうなる前に鬼達は目撃情報や今まで蓄積されたデータを元に魔化魍の出現地域を探索。

童子と姫を倒し、それが育てている魔化魍も音撃で清めるわけだよ。



「じゃあなぎ君、鬼って言うのにはどうやってなるの? やっぱりベルトかな」

「違う。変身道具は手の平サイズの音叉とか笛とか……そういう楽器系だから」



右手を挙げ、軽く手の平をギンガさん達に見せながら小さく握る。そうして指や手の平の合間で、音叉の大きさを示す。



「それを使って特殊な音波を浴びて鬼になるんだけど、ただ浴びるだけじゃ駄目。
心身ともに鍛え上げ、強くなる事で初めて変身能力を体得できるようになる」

「鍛え上げ……じゃあヤスフミ、一応聞いてみるけど私が鬼になったりはできないのかな。
音叉があって、それなりに鍛えてさえいればOKなんだよね」

「フェイトじゃ無理だよ。だってフェイトは」



僕は足を止め、右手で天を指差す。すると木々の合間から太陽の光が差し込み、僕だけを照らし出した。



「真の才能を理解できないんだから。選ばれし者じゃないんだから」

「それ関係ないよねっ!」

「確かにな」



そして左隣のもやしも天を指差し……む、なんかもやしの方まで自然のライトアップがされてる。



「ライダーになりたいんだったら、まず俺の才能を認めるとこからだろ。
己を鍛えに鍛え抜いて、そのゴールを目指して直進するんだ。分かったか?」

「そこがライダーになるゴールって嫌ですよっ!
というか、それならユウスケさんはどうなるんですかっ!
ユウスケさん普通ですしっ! 私達と同じですしっ!」

「だよなっ! お前らもうそれ引きずるのやめようなっ!?
あれ才能じゃないからっ! なんか得体の知れない全く別なものだからっ!」






そんなユウスケはガン無視でまた前へ……と思ったけど急停止。僕ともやしは左右に分かれ展開。

そうして僕は3時方向から襲ってきた女の腹を、もやしは9時方向から飛びかかってきた男の胸元を蹴り飛ばし吹き飛ばす。

てーか殺気出し過ぎだわ。あれじゃあ気づいてくれと言ってるようなものだよ。……でも、なにこの殺気。



驚いているフェイト達はそれとして、僕はコイツらが出している殺気の質に首を傾げるばかりだった。

まるで獣……しかもソイツらは色鮮やかな和服を纏った上で、地面を四つんばいに這ってるし。

いや、男の方だけなんか木の表面に張りついてるな。間違いない、コイツら……このパターン多過ぎるぞ。





「餌」



女の方が紫色の唇を小さく動かしそう呟くと、その口からなぜか男の声が出てきた。



「餌、生きのいい……餌」



そして男の方からは女の声。黒く長い髪を揺らしながらコイツらは、猛きん類のような目で僕達を見ている。



「なにこの人達っ! 声が気持ち悪いっ!」

「やっぱり童子と姫か」

「これがっ!? でもヤスフミ、この人達人間だよっ!?」

「バカっ! さっき言ったでしょうがっ! コイツらは」





そしてソイツらは着ている服ごと姿を変え、茶色で毛むくじゃらの獣人となる。

でもなんだろ、これ。顔に足みたいな装飾が生えてるし、口元も獣っていうよりは……虫?

童子と姫は僕達を値踏みするように目を泳がせてから、一気に飛び込んでくる。



でもそこにどこからともなく現れたダブタロスが突撃。まずは木から下りて、僕達の頭上を取った童子の脇腹を叩く。

童子が僕から見て4時方向に吹き飛ぶのも構わず、今度は姫の胸元へ入り込み角で叩いた。

姫がそれでたたらを踏んでいる間にダブタロスはこちらへ来たので、僕は右手でダブタロスを掴む。



もちろんベルトは既に装着済み。まぁカブト系ライダーの基本だね。





「人の姿を取っているだけだってっ! ユウスケ、フェイト達をお願いっ! もやし、行くよっ!」

「お前が仕切るなっ! ……まぁ行くがな」

≪KAMEN RIDE≫



ユウスケが三人をかばいながら僕達から離れるのに安心しつつ、僕はダブタロスを腰のベルトに装着。



『変身っ!』

≪DECADE!≫

≪HENSIN≫

「待ってくださいっ!」



ダブタロスから放たれる光がアーマーに変化する中、9時方向からやや高めな声が響いた。

自然と僕ともやし、それに童子と姫の視線もそちらへ向く。



「あなた達は下がってっ! コイツらは僕が退治しますっ!」





大体50メートル先には、銀色の皮膚に白色な装飾が張りついた異形の身体を持つ……子どもがいた。

首から下だけそういう筋肉隆々な身体で、頭は普通の人間。その子はほどよく整えられた黒髪を揺らしながらこちらへ突撃してくる。

あれたしか……そうだよそうだよっ! 最終回に出てきた京介の鬼形態っ! じゃああの子、鬼なんだっ!



それを察知した童子と姫も変身した僕達には見向きもせず、そのまま地面を両手両足で蹴ってあの子を迎え撃つ。





「おい、アレが」

「違う。あれは……でも鬼の関係者だね」





なんて言っている間にあの子は鬼に組みつかれ、地面に押し倒されて殴る蹴るのフルボッコ……って、弱っ!

倒すどころか反撃すらできずにやられ放題なんですけどっ! あぁもう、しょうがないっ!

僕はゆっくりとあの子に歩み寄りながら、右手でゼクトクナイガンを取り出し狙いを定める。



ゼクトクナイガンとは、ライダー用に作られた遠近両用の武器。えっと、イオン光弾を連続発射だっけ。

形状は丸みを帯びた銃で、円筒形の銃身下部にハンドガードのような装甲がある。

逆三角形に設置されたレーザーサイトの中央に銃口があり……そこから弾丸を発射。



三連レーザーサイトでしっかりと狙った上で引き金を引き、奴らの背中を狙い撃つ。



それにより火花が走り、同じ姿をした童子と姫はこちらへ振り向き威嚇の唸り声をあげ……飛び込んできた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ヤスフミが自分に向かって飛び込んできた二体の怪物に近づきながら、あの銃を軽く上へほうり投げる。

そうしてどうしてか銀色の銃身を持って、一体が打ち込んできた左拳を左に避けながらブリップ下をその腹へ打ち込む。

すると曲線を描いて手の下を守るような形状だったグリップ下が、いきなり大きくなった。



銀色のそれはまるで斧の刃みたいになって、一体の腹を薙いでたくさんの火花を散らす。

それに構わずヤスフミはそのまま前へ進んだ。あ、あの……あれはなに? 普通に使ってるんだけど。

腹を斬られて地面に転がった一体には、そのまま士さんが組みついて左の方へ押し込み私達から遠ざける。



それで右拳を二発連続で顔に打ち込み、カウンターで自分に迫ってきた右フックは左腕でガード。

そこでもう一度右フックを顔に叩き込み、踏み込みながら左のボディーブローを三発叩き込んでから右足を上げた。

そのまま胸元を蹴り飛ばし、左腰の銃とか剣とかに変わるのからカードを取り出した。……ヤスフミの方はどうだろう。



苦戦してるなら援護しなきゃと思ったけど、こっちも問題なかった。だってヤスフミも普通にあれを斬りまくってるんだもの。

でもどうしよ、私見てるだけでいいのかな。童子や姫なら魔法で倒せるかもだし……よし。

というかその、さすがにこのまま見ているだけとかは辛過ぎる。外に出ている間くらいはなにかしら手伝いたい。



いや、前の世界で感じた事とかと違うんだけど……でも無理なのっ! 足手まといどうこうじゃなくて無理なのっ!

だって一応戦闘能力あるのに、なにもしないんだよっ!? 見てるだけなんだよっ!? 辛過ぎるよっ!

いや、これを噛み締めなきゃいけないとは思う。でもやっぱり……一発だけならいいんじゃないかな。



それでヤスフミに袈裟の斬撃を食らった怪人は背中から木に叩きつけられ、ふらふらと起き上がる。

またヤスフミが斬撃を打ち込もうとすると、怪人は身を縮め一気に飛び上がった。

そうして自分が背にしていた木の上に足をつけて、跳躍。そのまま木々の合間を素早く跳ね回り始める。



私の目でも追うのがやっとの速さで、木々が足場にされたために響いている甲高い音だけが私達の耳を突く。



……よし、これで援護射撃だ。上に向かってランサーを射出して動きを止め。





「フェイト」



ヤスフミが飛び上がって木々の合間を跳ね回る怪人には目も向けず、私に声をかけてきた。というか、ドキッとした。

それでヤスフミがこっちへ向き直り、右手で持っている斧をまたほうり投げ……銃のグリップに持ち帰る。



「余計な事はしないように」





その言葉にドキッとしている間にヤスフミはこちらへ銃口を向け……それをちょっと上げた。

そしてまた銃声が響いたかと思うと私の頭上で激しい火花が散って、なにかが元々進もうとしていた方向へ吹き飛ばされた。

慌ててそちらへ振り返ると、そこには呻きながら地面に倒れている怪人がいた。



えっと、もしかして上から襲われそうになってて、それをヤスフミが止めた?



ヤスフミは大きくため息を吐きながらこっちに近づいてきて……なんか辛いっ! というか、どうして分かっちゃったのっ!?





「ブツブツ呟いてたら、嫌でも分かる」



すれ違いざまにそう言われて、私の顔は一気に赤くなる。

ぶつぶつって……余計に辛いのっ! 嫌だ、ギンガ達と顔を合わせられないっ!



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

≪FINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE――DECADE!≫





恥ずかしさのあまり両手で顔を覆っていると、左の方から爆発音が響いた。

慌てて手を顔から離しそちらを見ると、士さんが爆発の前で両手をパンパンと合わせ払っていた。

というか、今度はヤスフミと怪人その2がいる方からも爆発音が発生。



そっちを見ると、既に消え始めている爆炎に背を向けながらヤスフミが変身を解除していた。

……あぁ、ヤスフミの視線が痛い。というか私、なんか駄目だ。二人の戦いに全然ついていけてない。

特にヤスフミはダークカブトっていうのに変身できるようになったの、昨日のはずなのに。



悔しさを噛み締め、料理を作り続ける。それしかできない……かぁ。今更だけど、キツ過ぎる。



もっと早くに気づいていれば、もっと早くから積み重ねていれば……静けさが戻っていく森の中で、そればかり考えていた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



フェイトのアホが手出しするのを止められたのは、本当に良かった。これで童子達逃してもあれだし。



とにかく僕は急いで倒れたままのあの子に駆け寄って、左手を差し出す。





「大丈夫?」

「はい。あの……ありがとうございます」

「ううん」



その子は僕の左手を取り、まずは上半身だけを起こす。でもこうして見ると、ちっちゃいな。僕より低いくらいだし。



「なるほど、お前が響鬼か」

「もやし、おのれ……さっき説明しなかった?」



背後からシャッター音とともに聴こえてきた声に、ついため息を吐いてしまう。



「この子は響鬼じゃないよ。そうでしょ?」

「はい。ヒビキは僕の師匠で、僕はアスム――響鬼流師範・ヒビキさんの弟子です」





アスム……安達明日夢だね。やっぱりこの世界の響鬼と関係がある子だったか。



童子と姫の事は気になるけど、これはさい先が良い。僕達は事情説明もしつつヒビキさんに会わせてもらう事にした。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ヒビキさんは近くの河原でキャンプをしているらしく、僕達はそこまで案内してもらう事にした。

アスムはディケイドの話とかで驚いていたけど、僕達が『スーパー大ショッカー打倒』を目的にしてる事を話すと納得してくれた。

……これ便利だよなぁ。スーパー大ショッカーの話を持ち出すのって、交渉材料としてばっちりだわ。



とにかく10数分足を進めていると、僕達の耳にも川のせせらぎとフェイトと夏みかん、ギンガさんの荒い息遣いが聴こえてきた。



……情けない。紺色の道義姿に戻ったアスムは元気いっぱいだと言うのに。





「――じゃあアスム君は鬼の修行中なんだな」

「はい、響鬼流をやらせてもらっています」

「響鬼流?」

「鬼……というか、音撃道には流派があるんです。響鬼流と威吹鬼流、そして斬鬼流」

「アスム、それってどういう事? 鬼に流派って」



僕の知ってる響鬼ではそういうのはなかったので、これはこの世界独自の設定というか流れなのは明白。

なのでそこについて聞いた途端、アスムの表情が暗いものになった。というか、歩きながらちょっと俯いた。



「みんなで協力して……一緒に退治するんじゃないのかな。あの、ヤスフミがそう言ってたんだけど」

「武術の流派と同じと思ってもらえればいいです。昔は一つだったそうですけど、今の形になってしまって。
流派同士の確執みたいなものもあります。まぁうちはあんまり関係ないんですけど」

「残り二つが衝突していると」





どうやら今頷きを返してくれたアスムの表情が暗くなった原因は、そこにあるらしい。

とにかくもう少し足を進め、僕達は川沿いに設置されているテント小屋までやってきた。

そこにはチェアーに寝っ転がる30代後半くらいの男性がいた。服装は一般的な紳士服かな。



クロノスラックスに赤と白のチェックシャツ。あと白の上着を羽織り、顔の辺りに同じ色のソフト帽をかけている。



そんな人にアスムは小走りで近づき、呆れた様子で声をかける。





「起きてください、ヒビキさん。お客様です」

「……オレは誰とも会いたくない。追い返せ」

「もうそこに来ていますっ!」

「あぁ?」



その人は気だるげに視線を向け、左手でソフト帽を頭から取る。その下にまた、黒のサングラスを着用していた。



「お前がヒビキか」

「おぉ」



自分の名前を呼ぶもやしに気だるげな声を返しながらも、ヒビキはチェアーから身を起こしてサングラスも外す。



「その薄紅色の道着は、音撃道・伝説の師匠が着ていたもの」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



そこでフェイトはいきなり大きな声をあげ、何事かと注目を浴びているにも関わらず僕を揺らしてくる。



「ヤスフミ、私この人見た事あるっ! えっとえっと……ラーメン屋さんっ!」

「……なんだそりゃ。あいにくラーメン屋を始めた覚えはないんだが」

「すみません、あなたに似た人をラーメン屋さんで見たみたいで」





フェイト……中途半端に知識あるなぁ。フェイトがラーメン屋と言ったのには、ちゃんとした理由がある。

今首を傾げているあの人は、デビット伊東さんにそっくりなのよ。あ、ここで説明が必要か。

デビット伊東さんというのは元々お笑い芸人としてデビューしていたんだけど、ある番組の企画で人生が一変。



『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』という番組で、タレントとして伸び悩んでいたデビットさんの再生企画が発足。

その結果福岡にある一風堂さんに修行に出され、結果芸能界を引退してラーメン屋さんを始めた。

結果現在『でびっと』という名前になっているお店は、チェーン展開も行うくらいに成功。見事再生しちゃったのよ。



フェイトも多分、どこかで店長としてのデビットさんを知ったんでしょ。

ちなみにラーメン屋発足後もちょくちょくテレビに出てたりしていて、芸能事務所にも所属している。

それでも本業はラーメン屋らしく、ふだんは本店の二階でスープの研究をしているとか。





「あの、待ってください。なぎ君と士さんの道着が……音撃道の伝説?」

「そうそう、その通りっ!」

「つまり僕達、音撃道の頂点に立つと。……もやし、その道着脱げ」

「なに言ってんだ。お前こそ脱げ。頂点は俺にこそふさわしい」



それで士はディケイドライバーを取り出し、僕を小ばかにしたような笑いを浮かべる。



「いや、僕だから。僕が頂点に立たずしてなんと」

「なぎ君も士さんもストップッ! そう言いながら変身しようとするのやめようよっ!」

「――ヒビキさんっ!」



僕ともやしがギンガさん無視で火花を散らしていると、今まで黙っていたアスムが携帯片手に慌て出した。



「魔化魍が現れたそうですっ! それも市街地に化け猫がっ!」

「おぉそうか。それでは早速よろしくお願いします」



デビット伊東さんは僕達に深々とお辞儀をし。



「大師匠達」



そのままチェアーに戻ろうと……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ! なにやってんのっ!?

僕はアスム共々慌ててヒビキさんに近づき、その両手を掴む。



「ちょ、ヒビキさんは行かないんですかっ!?」

「そうですよっ! それに僕達鬼じゃないしっ! 音撃とか使えないしっ!」

「オレは寝るのが忙しいんだよ。あと……あれだ、ラーメン屋始めるから。仕込みがあるから」

「「そんな分かりやすい嘘つかないでくださいっ!」」



とにかく現場まで引っ張っていこうとするけど、ヒビキさんが両手を軽く回すと、僕とアスムの手はあっさりと外された。

……え、なにこれ。今めっちゃ簡単に外れたんですけど。いやいや、僕達それなりに力入れてたはずなのに。



「それじゃあよろしくー」

「ヒビキさんっ! ……あぁもう」

「アスム」

「あの、お願いします」





アスムに頭を下げられてしまった以上、僕ももやし達も動かないわけないはいかない。



というわけで僕達は急ぎ市街地へ降り、魔化魍退治としゃれ込む事となった。でも……どうしよう。



しかも出てるの化け猫なんだよね? それじゃあ僕達、できる事ほとんどないかも。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



市街地へ降り、アスムの案内で現場である臨海公園へと到着。そこには確かに、三匹の猫達がいた。



一人は白、一人は黒、それでもう一人は三毛猫の怪物――間違いない。化け猫だ。あぁもう、よりにもよってこれとは。



照り返す海の輝きを目にしながら僕は、右手で頭を抱えるしかなかった。





「あれが魔化魍? 思っていたよりも小さいね。あれならなんとかなるんじゃ」

「ならない。あとアレは、本当に小さい種別なんだよ」

「その通りです。魔化魍は基本巨大サイズなんですが、時折ああいう人型サイズのものが出ます。しかも大量に」





僕が見ていた響鬼でも、そういう特殊な出現条件の魔化魍は存在していた。あれはかなり厄介だよ。

さっきも言ったように、魔化魍は音撃でしかとどめを刺せない。それが複数出るんだから、その厄介さは推して知るべし。

フェイトが表情を緩めてるのは、勘違いなのよ。しかも僕達、アスム以外はそういうのさっぱりだし。



ただ、どういう事? 今は大体3月くらいのはずなのに……そこもちょっと確認するか。





「アスム、今って」

「3月上旬です。だからおかしいんです。あのタイプは夏ごろから冬にかけてだけ出るはずなのに」





やっぱりか。僕の知っている響鬼も、あのタイプが出るのは夏からだった。魔化魍は無秩序に出るわけじゃない。

時期や気象学などの様々な条件が相まって、出現するタイプが決まる。

猛士もこれまで蓄積したデータからそこを予測して、出る魔化魍と相性の良い鬼を現場に派遣するのよ。



そこはここでも変わらないみたい。アスムが戸惑ってる顔してるのが、その証拠だよ。





「お前ら、考えるのは後にしろ」



もやしは僕達の言葉を止め、右手でディケイドライバーを装着する。

……しゃくだけどその通りなので、僕も身体の前で右手をかざした。



「確かにね。アスム、僕達がサポートするからとどめはお願い」



こちらに気づいて踏み込んでくる化け猫達の胸元を、黒い閃光が一閃。

そうして奴らを弾き飛ばした後に閃光――ダブタロスは僕の右手に収まる。それでアスムも腰の音叉を取り出し展開。



「分かりました」

『待て待て待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!』



僕達が変身しようとすると、右側から白い道着姿な男達が出てきた。……あれ、ちょっと待って。

あの先頭にいる黒髪短髪でガタイの良いお兄さんは……轟鬼(とどろき)じゃないのさっ! 原典響鬼にも出てた鬼っ!



「音撃道斬鬼流・師範――ザンキさんのお出ましだぁっ!」



そして数人の男達は左右に分かれ、人の道を作る。その合間を黒い道着を着て、数珠を身体中に巻きつけている男が通る。

その男は左手に鬼の顔を模した金色のブレスレットを装着していて、髪は黒髪でややチリチリ……アレも知ってる。



「鬼だ」





男は左手をかざし、鬼の顔を上にスライド。そこから出た弦を、右手の指で勢い良くかき鳴らした。

そこから溢れ出した黒い波動を、腕を動かして額に近づける。するとその額に鬼の紋様が浮かぶ。

そして男が左手をそのまま上へ突き出すと、どこからともなく青い雷撃が降り注ぎ男を焼く。



その中で男は暗めな緑色をした鬼へと変わっていく。……間違いない。あれは斬鬼――轟鬼の師匠だった鬼だ。

特徴的なのは左肩から帯を担いでいるようにも見える、銀色の装飾。そして腰前面についている弦付きバックル。

顔についている装飾と角は胴色で、その姿を見たフェイトとギンガさんが息を飲んだ。





「音撃真弦――烈斬」





轟鬼は右手で持っていた黒いギターのようなものを差し出すと、斬鬼がそれを受け取り矛のように持つ。

あのギターっぽい武器はギターだと丸まっている部分が細く、斬撃武器として使用できる。

それを両手で持って斬鬼は突撃し、黒猫へと袈裟に斬りかかる。それから自分に近づいてきた白猫の腹へ刺突を一発。



それから自分の三時方向から飛びかかってきた三毛猫の突撃を下がって避け、右薙に烈斬を打ち込み腹を斬り裂く。





「音撃道……あ、それってアスム君が言ってた」

「じゃああの人達も、鬼なの?」

「はい」

「音撃道」





今度は左側から声と気配が生まれる。そちらを見ると、白い道着に身を包んだ女性数人。

でも僕はそのうちの一人に視線がくぎ付けになった。……また見た事のある人がいる。

黒髪ロングを後ろで束ね、両手でラッパにも似た形状の銃を持っている。間違いない、僕はあの子を知っている。



あの子は天海あきら。劇中に出てくるある鬼の弟子だ。そしてその鬼が、僕の予想通りならこれから出てくる。





「イブキさんです」





また人の道ができ、その中を黒髪で品の良さそうな男が通る。その男は道着の上にきらびやかな羽織を身にまとっていた。

そして鬼の顔を模した笛を右手で取り出し、それを口につけて一吹きしてから額に当てる。

額に鬼の紋様が浮かんでから男は右手を振りかぶり、笛を持ったまま左薙に振るう。それにより青い旋風が発生。



それが男の身を包み、その姿を変化させていく。そして男は右手を挙げ、手刀を唐竹に打ち込み旋風を切り裂いた。

Vの字に変化し、消えていく旋風の中から斬鬼とは別の鬼が現れた。

マスクの縁取りと腕の色は青で、その体色は黒。身体の各所には、パイプにも似た金色の装飾が着けられている。



あれは威吹鬼――ちょっとちょっと、もしかして本人登場ってやつっ!? いや、世界観とか全然違うけどっ!





「音撃管、烈風っ!」



威吹鬼の声に応え、天海あきらが手に持っていたトランペット型の銃を渡す。

それを左手で受け取ると威吹鬼は、化け猫と殴り合っている斬鬼へと近づきながら引き金を引く。



「ヤスフミ、銃撃ってるよ銃っ! やっぱり魔法とかでどうにかなるんじゃっ!」

「ならないっつってるでしょうがっ! あれは特殊な銃なのよっ!」





鬼というのは使う武器によって、戦い方が変わってくる。威吹鬼――笛の鬼は遠距離攻撃が得意。

今化け猫の身体に打ち込まれ、火花が走る原因となっているのは鬼石と呼ばれるもの。

笛の鬼は鬼石を魔化魍に打ち込む事で、遠距離から音撃を叩き込む事ができるの。



だから劇中でも笛の鬼は、空を飛ぶ魔化魍相手の事が多かった。そういう相手には近接攻撃使えないしね。



でも問題はそれよりなにより、威吹鬼の射撃に化け猫と一緒に晒された斬鬼。斬鬼は黒猫を蹴り飛ばしつつ、威吹鬼へ近づく。





「おい、危ないだろっ!」

「邪魔しないでください。化け猫は僕達威吹鬼流で倒します」



そう言って威吹鬼は自分に近づく三毛猫の腹に、右ミドルキックを打ち込む。

それから三毛猫へ近づきつつ右ミドルを三発打ち込み、怯んだところで至近距離から鬼石連射。



「邪魔はそっちだろうがっ! 軟弱者は消えろっ!」

「アスム、やっぱりあの二人って仲悪い?」

「かなり」

「じゃあ変身して」



僕は右手でずっと持っていたダブタロスを、バックルに装着。そこからお決まりな光が展開。



「僕の予測通りなら……二人はすぐにどつき合いの喧嘩を始める」

「えぇっ!」

≪HENSIN≫



さて、ここで問題です。化け猫は全部で三体。もうすぐ威吹鬼も斬鬼も、一体ずつ倒すと思われる。

そうして残った一体を、二人は協力して倒そうとするでしょうか。……答えはノーだよ。だから僕は変身し、すぐにゼクターホーンを折りたたむ。



「キャストオフ」

≪CAST OFF≫





(第25話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、今回は響鬼の世界……の前に、ユウスケが持つ爆弾の説明」

フェイト「かなりマズい状況なんだよね」

恭文「鳴滝がきっかけてクウガになったしね。そしてユウスケの扱いが更に良くなる罠」



(『……俺、原作でももっと活躍したかった』)



恭文「というわけでお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。でもヤスフミ、響鬼の世界って独特……だよね。妖怪退治だし」

恭文「まぁ平成ライダーの中だと異色なのは認める。ちなみにどんな話かというのは、現在ニコニコチャンネルで配信中のものを見てもらえれば」



(評価は分かれますが、名作だと思います)



恭文「この後にカブトがスタートするわけだよ。それでカブトからはカメラというか映像の質も一新。
どこがどう違うのかとかは見てもらった方が早いんですけど、そういう部分でも響鬼は印象深い作品だね」

フェイト「とりあえず思い入れがあるのは分かったけど……私やギンガが鬼になるのは駄目なの? ほら、音叉ちーんって」

恭文「……やりたいならやってもいいけど、苦労するよ?」

フェイト「え、どうしてかな」

恭文「まず変身する度に、身に着けている服が全て消失する」

フェイト「……え」



(マジです)



フェイト「そ、それじゃあ変身解除したら」

恭文「真っ裸だよ。頭だけ変身解除もできるけど、それができなかったら真っ裸だよ」

フェイト「真っ裸……駄目ー! そ、そういうの駄目っ! ヤスフミの変態っ!」

恭文「え、なんで僕が悪いって話になってるのっ!?」



(閃光の女神、顔を真っ赤にしながらぷるぷると横に振る)



フェイト「は、裸は駄目。ヤスフミにしか見せたくないんだから……駄目」

恭文「フェイト、それ意味分かんないんですけどっ! 鬼に変身するとそうなるって説明しただけだよねっ!」

フェイト「……じゃあ原作だとどうするの? ほら、変身解除する時」

恭文「響鬼は前半山間部や海みたいな場所で戦ってたから、中継基地替わりのテントに入って?
それで予備の服に着替えてーとか。まぁディケイドだとそういう描写ないんだけど」

フェイト「じゃあ服用意しないと駄目なんだ。ならバリアジャケットでいけるかな。それなら」

恭文「……フェイト、諦めなよ。てーか鍛え方足りないって。
てーかフェイトはドジだから、バリアジャケット展開するの忘れて裸晒すって」

フェイト「そんなにドジじゃないよっ! 私、結婚してからしっかりしてきてるんだからー!
そ、そうだよ。そんなドジしないよ? 男の人で私の裸を見ていいのはヤスフミだけなんだから」

恭文「しょうがない。だったらこれで納得して」



(すっとフォークを差し出す)



恭文「フェイトはフォークを持つと超常的な力を発揮するんだから、劇中で音叉持とうとしてドジでこれを持って、それで魔化魍倒せば」

フェイト「ドジってところがいらないよっ! うぅ、ヤスフミのバカー!
私のどこがどうドジなのかちゃんと答えてっ!? それでお話だからっ!」





(それは全てと言う他ない。ここまでの歴史がそれを証明している。
本日のED:布施明『少年よ』)










恭文「フェイトがドジだと無自覚で辛い」

白ぱんにゃ「うりゅー」

黒ぱんにゃ「うりゅ……?」

フェイト「だからドジじゃないのにっ! ……よし、私ここでライダーに変身するからっ!
必ず音叉を手に入れて頑張るっ! それで見返すんだからっ!」

恭文「だから鬼は無理だって。フェイト、響鬼の第7話を見返そうか。あの鍛え方ができないと無理だよ」





(おしまい)



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