[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory15 『GEARS OF DESTINY/謎と死の使いと閃光の女神』



ハンコのせいで眠ったような状態だったレヴィもすぐに目覚め、私は息を整えながらヤスフミ達と上空へ上がる。



でも……妙に気まずい。だってトーマ君やあむちゃんの私達を見る目が、本当に微妙だもの。





「ヤスフミ、さっきはよくもハメたなっ! 仕返ししてやるっ!」

「いやいや、それ逆ギレじゃんっ! ちゃんと話そうとしたのにっ! てゆうかアンタ、褒められて嬉しそうだったしっ!」

「う……それを言われると弱い。まぁその、夢が見つかったのは嬉しいけど」





それでレヴィはまたヤスフミに抱きついて、すりすり……それを見てイライラが募る。

あれは夢じゃないって言おうとしたのに、さっきあの子に言われた言葉が胸に突き刺さっている。

母さんを信じて、その通りにする……それのなにがいけないんだろう。もちろん昔とは違う。



だって母さんは局員として、社会人としてみんなから認められている。それで同じ道を示してくれている。

なのに……ううん、これからだ。次こそは絶対に私がなんとかする。それでヤスフミに信じてもらうんだ。

私はヤスフミの強さについていけるし、ヤスフミより強いって証明する。絶対にそうしなきゃいけない。



だってそうしなかったら、母さんやアルフがまた悲しむ。またヤスフミを嫌う。絶対に阻止しなきゃ。



ただ私達を信じて同じように頑張るだけでいい。そんな簡単な事ができないなんて、ありえないもの。





「でもヤスフミ、あの子なんなの? あんな変な能力、古代ベルカでもないし」

「元々持っていた教師になりたいって夢を、暴走させられたんだよ。ううん、夢が分からなくなってた」

「夢が分からなく?」

「あれはあの子自身の夢であって、夢じゃない。とあるバカが自分の夢をあの子に押しつけたんだ。
まぁ次のとこ行こうか。その道すがら説明するから……なので離れて。飛びにくい」

「分かったー」





私達はヤスフミから話を聞きながら、また空を飛ぶ。それで説明を受けた私は……なにかが胸に突き刺さっていた。



ううん、違う。私は違う。母さんも違う。母さんはそんな事をする人じゃないし、それを信じている私もそんな事はしていない。



なのに否定できない自分がいて……それが本当に嫌で、一人バカみたいに落ち込んでいた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



みんなと別れてから、僕は見知った顔の欠片を蹴散らしていく。ここは運に感謝するほかない。



下手に強敵と遭遇して消耗していっては、本来の目的が達成できなくなる。が……それもここまで。



慌てた様子のエイミィがかけてきた通信で、僕達は更なる困難に立ち向かう必要が出てきた。





『クロノ君、大変っ! みんながこう、なんとかドリームっていうのと遭遇して大苦戦してるっ!』

「はぁ? なんだそれは」

『よく分かんないよっ! とにかく見た事ないのだから恭文くんに確認しても、要領を得ないのっ!
相手に自分の夢を押しつけて、言う事聞かせて自分の夢を叶えるとかなんとかってっ!』

「落ち着け」



これは駄目だ。おそらくそのドリームなんちゃらが相当強いせいだろうが、エイミィも混乱している。

細かい状況は後で恭文にも確認するとして、まずエイミィを落ち着かせるところから始めよう。



「とにかくあれか、そのドリームとつく欠片が出ていると。複数なのか?」

『報告から察するに、複数『種』だね。しかもかなり厄介だよ。
能力の影響受けちゃうと魔法が使えなくなって、最悪意識がなくなる。
しかも相手によっては距離を問わず広範囲で能力をまき散らすとか』

「……正真正銘のチートだな」





アイツ、一体どういう相手と戦ってきたんだ。普通そんなのとはやり合わないだろ。



とにかくそういう接触致死型の能力持ち……ちょっと待て。なにか引っかかる。



なにが引っかかっているんだろうと思い少し視線を泳がせ、思考の中で違和感の正体を確かめていく。





「だが」

『なにかな』

「このタイミングで全員揃っていきなりというのが、どうも引っかかる。
エイミィ、前の時もそれっぽい事がなかったか?」

『それっぽい事って……いや、こんなチートは』

「そうじゃない」



チートどうこうの話ではないので、僕は画面に向かって首を横に振る。そうだ、ようやく分かった。

この違和感は前回の事件からあったじゃないか。なぜ今の今まで気づかなかったんだ。



「例えば恭文がヴィータの欠片と数十回連続遭遇したり、フェイトが対処を始めた途端に恭文の欠片が出ただろう」

『あ……うん』

「前回の事を思い出してみると、僕達の動きをいい形で阻害するように欠片は出ていた。
今回だってそうだ。オーギュストの欠片もフォン・レイメイの欠片も、なのは達や恭文を待ち受けたかのように発生した。
その上ドリームなんちゃらも、僕達が対策を見つけて欠片掃討を始めた途端に一斉出現」

『そう言えば……え、ちょっと待ってっ! それってどの記憶をどこで再生するか、コントロールされてるって事っ!?』



画面の中で顔を青くしたエイミィに、頷きを返す。



「ありえない話ではない。元々欠片は闇の書の断片なんだからな」

『……あ、そっか。それを私達が壊そうとしているわけだから、断片をそれに負けない形で精製していてもおかしくない。
というかその、防衛プログラムの機能なのかな。あれは自己修復・自己再生が基本だし』

「おそらくな」





もちろん闇の書本体は破壊されているわけだから、防衛プログラムが意識してやっている事ではない。

人間で言うなら無意識レベル――本能とも言うべき話だと思う。ここまでくると単なる偶然とは思えない。

ここは欠片の出現パターンだけじゃない。マテリアル達が恭文の記憶を元に姿を構築した事も入る。



当然だが事件解決から魔導師として更に訓練を積んだ今のフェイト達は、闇の書事件当時よりは強い。

だからこそマテリアル達は事件当時のフェイト達ではなく、今のフェイト達を選んだ。

核がより強い自衛能力確保のために、それを望んだんだ。もちろん恭文の記憶があったからこそだが。



今回も同じだ。だがその苛烈さは前回より上。欠片は積極的に未来メンバーの記憶を引き出しにきている。

前回に比べて徹底した形になっているのは、おそらくシステムU-Dの覚醒が原因だ。

本来の核となる彼女が目覚めた事で、そういう本能がより強い形で発現したのだろう。しかも……腹立たしいぞ。



そういう形にしているという事は、そうすれば僕達が勝てないと結論づけているも同然だ。





『クロノ君、どうしようっ! それだと欠片退治も命がけだよっ!?』

「あぁ。これから先、一秒たりとも油断できないぞ。エイミィ、みんなに連絡を。
僕も恭文からそのなんちゃらドリームについて聞いてみる」

『了解っ!』










魔法少女リリカルなのはVivid・Remix


とある魔導師と彼女の鮮烈な日常


Memory15 『GEARS OF DESTINY/謎と死の使いと閃光の女神』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「もう嫌だ」

「あたしも……キツい」



欠片掃討を再開したのはいい。でも問題がまた出てきた。次に遭遇したのはは白とピンクのワンピースを身に着け、黒い音符型の翼を羽ばたかせている女の子だった。

うん、シンガードリームだね。あれにはあむが迷っていた事もあっていろいろ苦い思いをさせられたし……てーかタチ悪いのが続けてかいっ!



「あむ、キャラなり」

「いいの?」

「他に手がないでしょうが。シオン、キャンディーズ達を連れて不可思議空間へ」

「分かっております」



ダイヤを残して即座に避難してくれるみんなには感謝。

僕はともかく、あむもキャンディーズも歌を聴いたらアウトだしなぁ。



「ダイヤ、いくよ」

「えぇ」

「あたしのこころ、アン」



『解錠(アンロック)』



「ロックッ!」

「トーマ、ヘッドホンの音量最大にしといて。そこの二人はなにもせず両手を耳で押さえ」

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」



あむがキャラなりしたのと同時に、あのバカ二人はシンガードリームに向かって突撃した。

止める間もなく最高速度まで加速しやがった。その光景に、僕達は唖然とする。



「蒼にぃ、また二人がっ!」

「おのれらは本当に学習能力がないなっ!」





なんでアイツら、ついさっきあれで遠慮なく飛び出せるのっ!? てーかマジ猪突猛進なとこはそっくりだしっ!



それでシンガー・ドリームは自分の8時方向から来るフェイト達へ振り返り、笑顔を浮かべながらマイクを口元に当てる。



僕は舌打ちしつつ、トーマとキャラなり完了直前なあむを置いて二人を追いかける。





「レヴィ、合わせてっ!」

「いいや、僕が先だっ! 今回こそ」

「あなた達なに? まぁいいや、私の歌を聴いて」



もう会話成り立ってないのとかツッコむ前に、シンガー・ドリームは深呼吸。

そしてフェイト達が斬り抜けのために戦斧を振りかぶるのと、うたい始めたのはほぼ同時。



あーたらしーいーわたーしーにー♪ うまーれかわーるー♪



それならフェイト達が勝てる要因はない。それなりに距離を取っている僕にも、覚えのあるプレッシャーが心の中にのしかかってきた。

それはシンガー・ドリームの目前に迫っていたフェイト達も同じで、フラつきながらあお向けに倒れ始めた。



ゆうーきーをー出してー♪

「あ……れ」

「力が……抜ける」

はーずかしーがーらーなーいでー♪





頭から地面へ落下したバカどもは……放置ー。既にあむとトーマがフォローに回っているので、僕はそのまま直進。



左手を鞘の鍔元に当て、更に加速しこちらを驚いた様子で見ていたシンガー・ドリームへ肉薄。……そして閃光が放たれた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



一度倒してるし、説得も必要ないからサクサク進む。いや、これは本当に素晴らしい。

やっぱり再生怪人軍団っていうのは、弱体化しているのが世の常なんだね。

こう、パワーバランス的な意味合いじゃなくて、世界の摂理的に。マーフィの法則的に。



だからこのまま余裕で、ガシガシと叩き潰していけるわけだよ。……うん、僕達だけならね。



移動中にも関わらずぷりぷりしているレヴィと、不満そうなフェイトがいなきゃ……どうしてこうなった。





「悔しいー! なんか負けまくってるー! 力のマテリアルなのにー!」

「レヴィ、とりあえず……人の話を聞こう。まずそこからだって」

「あたしも全く同感。アンタ猪突猛進過ぎだって」

「ぶー」

「膨れるなバカっ! お願いだからほんと学習してよっ!
戦うなとは言わないから、せめて能力確認してよっ! 直進とかやめてよっ!」



くそ、レヴィは僕で押さえるしかないか。言って聞かない子じゃないし、多分なんとかなる。問題は。



「フェイト」



こっちだよ。なんでガッツポーズするんだよ。あれか、反省してないってか。ほんとこの頃のフェイトはバカ過ぎる。



「今度こそ、私がなんとかする。だからヤスフミには見ててほしいんだ」

「もうなにもするな。いちいちフォローするこっちの身にもなれっつーの。
お願いだから、まずは僕達に確認をしてよ。戦うなとは言わないから」

「嫌だよっ!」

「なんでそこでその返事が返ってくるのよっ! おかしいでしょうがっ!」



ねぇ、僕おかしい事言ってないよね。今のは至極全うな話だよね。なのになんで拒否するのよ。



「……ヤスフミは私が弱いと思ってるんだよね。だから信じてくれないんだよね。
だから自分がいなきゃ私はなにもできないって思ってるんだよね。でもそうじゃないって伝えるから。
ヤスフミやあむちゃんが初見で倒せたなら、私にだってできる。できない理由はなにもないよ」

「話聞いてもらえますっ!? それで二度も負けてるだろうがっ! そろそろ改善していこうよっ!」

「私、頑張ってヤスフミが大人になれるように手伝うよ。だから次も私に任せてほしいんだ」

「いい加減にしてもらえるかなっ! おのれは事件を止めに来てるって事忘れてるだろうがっ!」



ねぇ、どうして悲しげな顔するの? どうして僕を責めるように頬を膨らませるの? さすがにありえないでしょうが。



「どうして……そんな事言うの?」



それはこっちのセリフなんだけどっ! お願いだから学習してよっ! 僕なんか間違ってるっ!?

さすがに二回もやられたら考えるでしょうがっ! 考えないはずがないでしょうがっ!



「母さんやみんなを悲しませて、なにが楽しいのかな。お願いだから……私と戦って。
家族を信じるという簡単な事が、どうしてできないのかな。ヤスフミは子どもだよ。
みんなヤスフミに心を開いて、頼ってほしいと思っている。でもそうしない。だから力を示すしかないよね。
なのにそれすらも駄目なら、私達はどうやってヤスフミに信じてもらえばいいの? おかしいよ」

「うわぁ、バカ過ぎる。同情の余地がないくらいにバカ過ぎる」

「ショウタロス先輩、今更なにを言っているんですか」

「フェイトがバカなのは決定事項だろ……はむ」



ヒカリがなぜかホットドッグを食べている間に、フェイトは泣きながらあむ達を見る。



「あなた達もそうだよ。どうしてそうなるの? レアスキルの事も教えてくれないし、信じてもくれない」

「えぇっ!」

【トーマ、フェイトさん理解してなかったのっ!?】

「教えられるわけないじゃんっ! 未来の事教えちゃったら歴史変わるじゃんっ!」



あむ、おのれがそれを言う権利はない。確かに正しいけど、言う権利はない。

おのれだって……デンライナーの事バラしただろうがっ! あれで僕がどんだけキモ冷やしたとっ!?



「それを教えてみんなで強くなっていこうとする気持ちを持たないのは駄目だよ。
お願いだからちゃんと教えて。私達にも使える能力なんだよね。
現にレアスキルもなにもないヤスフミが使えている。だからちゃんと私達を信じて」

「だから無理だって言ってるじゃんっ! てゆうか、アンタみたいなバカには使えないしっ!」

「そんなわけないよ。私は局員として、魔導師として訓練を積んでいる。ヤスフミに使えて私が使えない理由はないよ」



うわ、なにそれっ! なんかムカつくんですけどっ! 僕やあむが苦労してるのとか、すっ飛ばしてやがるしっ!



「いや、だから無理ですってっ! これだってあれですよっ!? 大変ですよっ!? 髪の色変わるしっ!」

【そうそうっ! それにちゃんとコントロールしないと、殺人衝動とか出ちゃうしっ!】

「……本当にいい加減にして。そんな事じゃあなた達はみんなから嫌われる。みんな認めてくれない。
あなた達が社会に認められる大人になるためには、局と私達を信じなきゃだめ。
母さんだって言ってたよ? それができるのが正しい大人だって。それなのに……どうして」



右手でフェイトの後頭部をどついて、言葉を止めた上で首根っこを掴み一気に加速。



「ちょ……恭文っ!?」

「みんな、無視でいいっ! このバカに付き合ってたら時間がいくらあっても足りないっ!」

「ヤスフミ、お願いだからちゃんと答えてっ! 私達の事、どうして信じてくれないのっ!?」

「信じられるわけないでしょうがっ! おのれは本当に学習能力がないねっ!」



とにかく次の結界へ突入。今度こそ普通の欠片が出ますようにと願った。てーかあれだ、普通の欠片をフェイトに倒させてこの場は収めよう。

もうね、楽なのがいいな。シャマルさんとか戦闘向きのスキルほとんどないから楽だなーと思い、僕は結界の中身を見る。



「またかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「もうさすがに嫌なんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! てゆうか、さすがにあれはないじゃんっ!」



そして僕とあむは両手で頭を抱え、約200メートルほど前にいるアイツから目を背けて叫んでしまう。

いや、前っていうか斜め下か。僕達空を飛んでいるわけだし……そこには絶望しかなかった。



「え、あれもっ!? あれもそうなのかっ!」

【……さすがになぞキャラなり出すぎじゃ】

「いいえ、あれはなぞキャラなりじゃないですぅっ!」

「それよりももっと厄介ね」

【「えぇっ!」】





スゥとダイヤの言う通り。路上にぽつんと立っている黒コートに猫耳の男は、右手で銀の大鎌を持ったままぴくりとも動かない。

あれは……デスレーベルだ。月詠幾人が父親のヴァイオリンの中にあったたまごと、強制的にキャラなりさせられた姿。

イースターとの最終決戦当時、あれには随分手を焼かされた。ザフィーラさんもなぎひこも、唯世も一度負けてる。



最終的にあむが猫男にされていた洗脳を解除した事で止められたけど……くそ、これはマジでヤバい。



でもあれと戦った事のある僕達が遭遇したのは、幸運かも。他に出てたらアウトだけど、とりあえずこれだけはなんとかできる。





「ヤスフミ、よく見ててっ! 私は今のあなたよりずっと」

「やめんかいバカっ!」



飛び出そうとしたフェイトへ向き直り、右の平手で後頭部にビンタ。

それでフェイトは動きを止め、ハッとしながら僕を見る。



「不用意に飛び出したらまたやられるだろうがっ!」

「大丈夫だよっ! なんとかする……なんとかするからっ!」

「いいから動くなっ! お前じゃ絶対に勝てないっ! レヴィ、おのれもじっとしてろっ!」

「ぶー、分かってるよー」



慌てて声をかけると、レヴィは腕を組んで僕に不満そうな視線を向けていた。……よかった、レヴィは冷静だ。



「でもヤスフミ、あれも変な能力使うの?」

「さっきほど変じゃない。ただし……半端なく強い」

≪鎌に黒い光が灯ったら要注意なの。基本その状態では、どんなものでもスパスパなの。
それで斬撃波とか撃ってくるの。あとあと、光を風に変えてばーって撃ってもくるの≫

「風?」

≪それに触れたら基本行動不能です。この人とはタイプが違いますけど、接触致死型の能力持ちなんですよ。
しかし……本当に厄介なのが出てきますね。完全にこっちを殺しにかかってるじゃないですか≫



アルトの言う通りだよ。本当に、どうしてこう上手くいかないのか。でも救いはある。それはあれが欠片だという事。

一撃気持ち良いのを決めれば、それで終われる可能性は高い。なら……やる事はひとつ。



「トーマ、例のディバイドや硬化能力ってまだ」

「駄目だ。逐一状態確認はしてるんだが」

「……じゃあしゃあないか」



やっぱシステムU-Dをなんとかしないとって事か。

次にあの時の事を思い出しているせいで、辛そうな顔をするあむを見た。



「あむ、万が一の時は『お直し』お願いね。レヴィもあむとトーマ、そこのバカをお願い。あれは僕がやるから」

「分かったー」

「アンタ、気をつけてね」

「うん」



擦り寄るレヴィの頭を撫でつつ、デスレーベルに向かって下降開始。それで気持ちをしっかりと整える。



「ヤスフミ、待ってっ! お願いだから私に任せてっ! 私は」

「お前は来るなっ!」





上を見ずに一喝して、そのまま下降。奴に近づくような放物線軌道を描きつつ、50メートル手前で着地。

すると……うわぁ、あのヤンデレアイズを見ると、決戦時のドタバタ思い出して辛いなぁ。軽く苦笑いしてると、奴の身体が沈み込む。

僕は素早く伏せながら前転し、次の瞬間襲ってきた左薙の斬撃をなんとか回避。僕達は振り向き再び対峙。



すかさず前へ踏み出し、アルトを抜き放ち右に一閃――それで奴が打ち込んだ唐竹の斬撃を僕から見て右側に弾く。

でも弾かれた刃はすぐに返り、今度は逆袈裟一閃。銀色の鎌は瞬間的に閃光と化す。

僕が右に飛び退いた瞬間、僕がそれまで足をつけていた地面が綺麗に斬り裂かれ、同時に斬撃の衝撃で砕け散った。



ち、細身なくせになんてパワーだよ。そして奴はこちらへ向き直り、再び左薙の斬撃を放つ。



僕はアルトを唐竹に打ち込んでそれを迎え撃ち……結果、蒼と銀の斬撃が衝突。周囲に火花と衝撃が撒き散らされた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さ、さっきはひどい目にあった。なんかこう……告白させられたの。それもその、とんでもない事を。

しかもあの男の子も告白しまくっていて、魔法も使えなくなっちゃうしもうどうしようもなかった。

ただそんな時、レイジングハートから連絡をもらってシグナムさんが駆けつけてきて……あの男の子を一刀両断。



やや苦しげに消えていった姿を見て胸が痛んだけど、それでもなのはは元気を出して再び空を飛びます。





「うぅ、シグナムさんごめんなさい」

「いや、いい。だが……ここからは単独行動を避けた方がよさそうだな」

「ですね」





広範囲に展開する接触致死レベルな攻撃……うん、あれは攻撃だよ。

なのは、魔法も使えなくなっちゃうし身体の自由も完全に奪われちゃったもの。

他のみんなも同じようなのに遭遇している関係で、かなり苦戦してる。



しかもクロノ君の推測によると、闇の書の防衛プログラムが本能的にそういうの出してるっぽい。



どうしよう。これだと闇の欠片掃討もかなり難しいかも。恭文君達はともかく、なのは達にとっては十分チートだよ。





「うぅ、こういうのは普通サクサク倒せるものなんだけど」

「そうなのか?」

「えぇ。再生怪人軍団とかは、基本十把一絡げですから。……一度戦っている相手限定ですけど」



なのは達にとっては脅威のチート軍団襲来だよ。戦って一度倒してるなら世界の法則的に勝てちゃうけど、今は無理だよ。

これはもしかしたら、全員揃って恭文君と合流した方がいいんじゃないのかな。それくらいになのはの心は、告白によってブロウクンハートしていた。



「だが蒼凪が強くなった理由、よく分かるな。あの面妖な能力持ちと戦っていたのなら、自然と強くなるはずだ」

「ですよね。特異的過ぎますし」



二人で困り果てながら、住宅街上空に展開した別の結界に突入。さっきのあれがあるから、ほんと慎重に……あれれ。

今度は背中にロケットを背負って、宇宙飛行士っぽい格好の子がいた。それで額には白いハテナマーク。



「ハテナ……シグナムさんっ!」

「あぁ」



エイミィさんから聞いた、『なぞキャラなり』っていうのだ。なのはが遭遇した告白させちゃう子も、同じ能力者だったっぽい。

でも能力は人それぞれで……うぅ、やっぱり恭文君達と一緒じゃないと駄目だってっ! 初見殺しもいいところだしっ!



「なのは、速攻で決めるぞ」

「は、はいっ! ……ディバイン」



なのははレイジングハートを腰だめに構え、音叉型に変形させて魔力スフィア形成。

ちょっと卑怯だけどあの子を狙って……あれ、こっち向いた。



「バスタァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」



放たれたなのはの身長よりも大きい奔流を見て、あの子は笑って背中のロケットを点火。



「打ち上げ用意……発射っ!」





そして一気に急上昇。なのはの奔流を飛び越え……こっちに迫ってくるかと思い、シグナムさん共々警戒する。

でもあの子はなのは達を気にした様子もなく、広い結界の中をぐるぐると楽しげに飛ぶだけ。

なにかの攻撃かなとも思ったけど、特になにもない。頭に装着されているリングを両手で撫でながら、ただ飛ぶ。



そう、ただ飛ぶだけ。なのはやシグナムさん達に興味を持った様子はない。





「……接近して仕留めるぞ。援護を」

「は、はいっ!」

≪Axel Shooter≫





周囲に30発の魔力弾を生成し、なのははそれを発射。空中を縦横無尽に飛び交うあの子をそれで追う。

あの子はそれに気づいて舌打ちしつつ、飛びながら自分の後ろへ振り返り額からビームを放つ。

薄紫色のキラキラと輝くビーム……というか光線? ぎざぎざとした軌道を描くそれに、私のシューターは全て撃ち抜かれ爆散。



でもその間にシグナムさんがあの子の前に回り込み、炎に包まれたレヴァンティンを袈裟に打ち込む。

あの子はシグナムさんの方は見ず、背中のロケットで上昇。そうして襲い掛かる刃を避けた。

それからシグナムさんの頭上を取って向き直り、後退しつつあの光線を撃つ。シグナムさんは慌てて左方向へ飛ぶ。



そのままあの子が反時計回りに身を捻って、光線で空間を薙いできた。それでシグナムさんはレヴァンティンを蛇腹剣に変形。

炎に包まれた刃をうねらせ右薙に振るい、光線ごとあの子を断ち切ろうとする。

でもその時、下から『ゴゴゴゴゴゴゴゴ』という音が響いた。何事かと思い、なのははちらっと視線を向ける。



それからすぐにシグナムさんへ視線を戻したけど、一瞬見た光景があまりにもあり得なくて二度見する。



そこには……スペースシャトルかなにかみたいに炎を吹き上げながら、空へ飛び立つ一軒家やマンションがあった。



それも複数。えっとえっと、ようするに……普通の家が発射してるのっ! それもたくさんっ! あれどういう事っ!?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



下から響く轟音は気にせず、刃を右薙に打ち込み空間を薙ぐ。光線の類も一緒に斬り払おうとするが、それは無理だった。

光線と衝突した瞬間、私の刃は弾かれまとっていた炎が消えてしまう。……能力と相殺された?

だが向こうの光線も弾けて消滅したので、おあいこだ。私は斜め上にいる奴に向かって再加速。



迎撃のために光線が放たれた瞬間、左側面にベルカ式魔法陣を展開。それを蹴って横飛びし、奴の背後を取る。





「紫電」



レヴァンティンのカートリッジをロードし、再び紅蓮の炎をまとわせる。……やはり戦闘技能は稚拙。

能力特化型ではあるが、油断さえしなければ怖い相手ではない。私は奴が振り向く前に。



「一せ」





刃を打ち込もうとしたが、その瞬間下からなにかが迫ってくるのを感じた。慌てて後ろに下がると、私の眼前を電柱が通り過ぎた。

そう、電柱だ。道に立てられている、電気を通すためのあれ。あれがなぜか、根っこから炎を吐きながら上昇していく。

その光景に目を見開き動きが止まっていると、更に下から轟音が……私は舌打ちしつつ、視線をそちらに向けた。



するとどういう事だろう。私の眼前には、いくつもの炎の光が見えた。

住宅街に立てられている家やマンション、道の傍らに生えている木やガードレールなどが同じように飛び上がってくる。

私は更に下がり、ジグザグに飛びつつ家や木とガードレールを避けていく。だが……邪魔過ぎる。



避けている間に相手を見失ってはならないと思い、レヴァンティンをシュランゲフォルムへ変化。

右薙に振るいながら一回転し、蛇腹剣を更に展開。空間そのものを斬り裂き、焼きつくす螺旋とさせる。

それがマンションの外壁を抉り、家を粉砕し、木々などを炎に包む。



私の螺旋に触れたものは、衝撃ゆえに外側へ弾き飛ばされ墜落。轟音を立てながら地面に叩きつけられ、粉砕される。



少し派手にやり過ぎたか? まぁ結界の中だから問題は。





「打ち上げ用意ー!」





その声にハッとして上を見ると、約30メートルほどのところに光線をこちらへ放つ奴がいた。

私は後ろに下がり光線の軌道から離れつつ、右手を逆風に振るって蛇腹剣を奴に打ち込む。

もう一度相殺して……だがこの時、私はミスを一つ犯した。それは蛇腹剣の状態を確かめなかった事。



先程派手な攻撃をした事で、刃に宿っていた炎は既に消えていた。そしてレヴァンティンは素の状態で光に直撃。

その瞬間100メートル以上は展開している刃全てが、光線と同じ色の光に包まれる。

そして柄尻から炎が噴き出し、レヴァンティンは私の手からすっぽ抜け刃と一緒に上へ飛び去っていった。



私はそのあまりの光景に呆然とし、固まってしまった。レヴァンティンはさっきのマンションや家と……レヴァンティン。





「……レヴァンティィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!」





どんなに声をかけても、レヴァンティンは戻ってこない。柄尻から本来は出る事のない炎を放ち、空へと昇っていく。



その間に奴は私の周囲へ光線を撃ちまくり……また下から、轟音が響く。でもその音は、私の心には全く届いていなかった。



今私の心を占めるのは、共に戦ってきた相棒が文字通り手の届かない場所へ行った衝撃。ただそれだけだった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あたし達の下で恭文はあの時のイクトと斬り合っていく。でも、全然目が追いつかない。

ううん、あの時に比べたらまだ分かる。そこであたしなりの積み重ね、無駄じゃなかったと実感した。

それでもこう、なにしてるのかとかよく分からないの。あたしにはただ二人がくっついて腕を動かしてるように見える。



二人はかなりの速度で離れたり近づいたりを繰り返し、接近するたびに鎌とアルトアイゼンを振るい続ける。

というか、恭文もさすがに本気出してるはずなのに互角って……あの時よりあたしもアイツも、強くなってる。

そこだけは間違いないのに、それで互角? しかもデスレーベルはまだ技を使ってない。



ヤバい、ザフィーラさんやなぎひこが総がかりでやられた時の事、思い出しちゃった。寒気してくるし。

……あたしは両頬を叩いて、その寒気を追い出しちゃう。今弱気になったって意味ないじゃん。

でもどうしてこんな不安になるんだろう。恭文が負けると思ってるの? 違う、なにか引っかかってるんだけど。



そうだ、恭文が勝つ事に不安はない。負けそうになったら、多分遠慮なく逃げるだろうし。なのに、どうして。





「おいおい、蒼にぃと互角って」

【かなり強いね。あむさん、あのデスレーベルっていうの、どうやって倒したの?】



リリィの言葉で胸が震えて、呼吸が上手くできなくなる。……そうだ、そうだったんだ。あたし、マジでバカだ。



「倒してない」

【え?】

「説得して止めたから、直接的に倒してない。それまではあたしもザフィーラさんも、他のみんなも良いようにやられっぱなしだった」

「えぇっ!」

【そんなに強いのっ!?】





また至近距離で斬り合いを始めた恭文達を見て、なにが引っかかったのかにようやく気づいた。

そうだ、あたし達は直接対決でデスレーベルを止めた事、一度もないんだ。

ダメージを与えた事はあっても、倒してはいない。その前にあたしがダイヤとキャラなりして、イクトを止めたから。



だからこんなに不安なんだ。負けてばかりで、まだ誰も……アイツに勝ってないから。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



奴が地面を踏み砕きながら左に跳び、その姿を消す。僕はすかさず背後へ振り向きながら、反時計回りに身を捻る。

すると背後へ回り込んでいた奴の鎌が、僕の頭上から襲ってきていた。刃はそのまま地面へ突き立てられる。

すかさず右足で刃を踏み、地面へ埋めた上で袈裟に一撃を叩き込む。でも奴は身を伏せてそれを避け、強引に鎌を抜く。



僕はすぐに足を鎌からどけ、奴の左脇を抜けながら向き直る。すると奴は鎌を振り上げながらこちらを見て。





「ダークナイト」



刃に黒い光を灯らせる。僕は更に後ろへ飛び退きながら術式詠唱――ブレイクハウト発動。



「ストーム」





その瞬間、袈裟に振り下ろされた刃から光が弾け、それは一瞬で黒い暴風へと変化。僕へと襲いかかる。

でもほぼ同時に前面の地面から、蒼い火花と一緒に長方形の壁がせり出す。

それが暴風から僕を守り、風を遮る。黒い風は壁を境に二つに分かれ、周囲へと吹き荒れる。



でも壁の影にいる僕へは届かない。それで風が止むか否かという瞬間、僕は壁から離れた。

すると壁は鋭い音がしたかと思うと、微塵に斬り砕かれた。もちろんやったのは、瓦礫の合間に見える猫男。

猫男は地面へ落ちようとしている瓦礫を飛び越え、鎌を頭上で一回転させてから唐竹に打ち下ろす。



僕は左に飛び退きながら、ジガンの左ワイヤーを投擲。狙うは猫男の右手首。



でも猫男はこちらへ振り向きながら、右切上に一閃。ワイヤーをカラビナごと両断し、また身を沈めて踏み込む。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「おぉ……ヤスフミ、頑張れっ! そこだそこだっ! もっと攻めろっ!」



ただそんな気持ちも、レヴィを見てたら一瞬で吹き飛ぶ。てゆうか、コイツはもう敵って感じがしない。

だって今、目をキラキラさせながら両拳をぶんぶんと突き出して恭文を応援してるんだから。……やっぱフラグ立てたな。



「ヤスフミっ!」



飛び出そうとしたフェイトさんの左手を、慌てて掴んで引き止める。それでフェイトさんはこっちを不満気に見た。



「ちょ、フェイトさんストップッ!」

「離してっ! お願いだから私の邪魔をしないでっ! どうして信じてくれないのっ!? 母さんは言ってたっ!
仲間を信じて自分を預けて、そうして初めて人は大人になれるっ! そう私達を導いてくれるっ!
夢も叶えられるし強くもなれる――それなのに未来から来たあなた達が、どうして分からないのっ!」

「そんなの分かるわけないじゃんっ! そんなの押しつけてるだけだっ!
全部自分の事だけ考えて、自分に優しくしてほしいだけっ! 甘えてるだけじゃんっ!」

「違うっ!」





もうこの時のフェイトさんはバカ過ぎだと思っていると、あたしの両手に金色の雷撃が迸る。

でもあたしは絶対に手を離さない。フェイトさんがそれに驚いてるので、不敵に笑ってやった。

フェイトさんが電撃魔法得意なのは、あたしの中では既に常識。念の為にフィールド魔法で耐性持たせたんだ。



フェイトさんの性格からしてあの鬼畜外道みたいにいきなり全力攻撃するとは思えないし、防げる確率は高かったの。





「それが甘えてるんだよっ! 一緒に戦おうって言いながら、話聞こうともしないっ!」

「なに言ってるのっ!? あなた達はなにも 話そうとしないよねっ! それで聞くも聞かないもないよっ!」

「聞いてないじゃんっ! クロノさんやなのはさんがこっちに気使ってくれてるのに、アンタやあのバカ犬は全然っ!
みんな未来の事とか今の事とか一生懸命考えてるのに、アンタ達は全然じゃんっ! それでなにを信じろとっ!?」

「信じられないはずがないよねっ! 私達は仲間なのにっ!
仲間の言う事を信じて預けられないなんておかしいっ!
母さんは言ってたっ! それは不幸だってっ! 悲しい事だってっ!」

「そうやって自分達にとって都合の良い事だけで、話を済ませようとしてるじゃんっ! それ以外の事は無視してるじゃんっ!
アンタはただ、自分偉くて凄いんだってみんなから褒められて、安心したいだけじゃんっ!
いちいちお母さんの事持ち出すのだってそうっ! お母さんが自分の事そういう風に褒めてくれるからっ!
それで事件の事も迷惑してる人の事もなにも見てないっ! そんな奴、信じられるわけがないっ!」

「違う……違う、のに。そうじゃない」





……だから泣くなっつーのっ! もうこの人バカ過ぎじゃんっ! 全然人の話聞かないしっ!



過去のフェイトさんって、どうしてこう……いっそ今恭文が口説き落として篭絡するべきじゃないかとか、思ってしまった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ。ヤスフミが頼ってくれないのは嫌だ。信じてくれないのは嫌だ。

未来のヤスフミなら、未来の私を見て大人になってくれているはず。だから、信じてくれないのは嘘だ。

それなら未来の私は大人じゃないって事になる。そんなの、絶対にあっちゃいけないんだ。



それなら私は、失敗ばっかりで情けない自分を変えられない事になる。

ヤスフミを守ってあげられる強い人になれていない事になる。それは絶対に嫌なの。

私はそのために局員一本で動くと決めた。だからヤスフミが未来のヤスフミだって分かった時、嬉しかった。



だって未来のヤスフミなら、今とは違って私達と同じものを見て大人になっているはずなんだから。

それで私はそんなヤスフミの側にいて、辛い事も一緒に乗り越えてるはずなんだ。

なのに……どうしてこんな事を言われなくちゃいけないの? 違うのに、私はちゃんと考えてる。



考えた上でみんなでやろうって言っているのに、どうして……もう嫌だ。この子達と一緒になんていたくない。

ううん、この子達がヤスフミをおかしくしてる。こんな子達といるから、ヤスフミは私を見てくれない。

だったら……私はバルディッシュを握り締め、更に涙を流した。それで一気に切っ先を突き出し、あの子の腹を突く。



あの子は咄嗟にそれに気づいて、ようやく私の手を離し距離を取った。バルディッシュは当たらないけど、そこはいい。



今は驚いたあの子達へのお仕置きの方が大事。私は……涙を流しながら声を荒げる。





「あなた達のせいだっ! あなた達がヤスフミを子どもにしているっ!
あなた達がヤスフミをおかしくしているっ! ヤスフミは私と一緒に、母さんやみんなの言う大人になればいいのっ!
それが幸せなのっ! 現に私は幸せで、母さんやなのは達も幸せっ! だから」

「だから、あたし達に攻撃するのっ!? それが押しつけじゃんっ!」

「押しつけるしかないよねっ! だってこうしなかったら」



あの子のバカな話を鼻で笑い、私は更に泣く。泣いて泣いて……また声を荒げる。



「ヤスフミは私の側にいてくれないっ! 母さんやアルフはヤスフミをいらない子として扱うっ!
そんなの嫌だ……絶対に嫌だっ! そんな事になったら、ヤスフミから離れるしかないっ!
あなた達だってそうだよっ! だから信じてっ! そうしなきゃ……『あなた達なんていらない』と言うしかないんだっ!」

「ふざけるなっ! おいオリジナル、お前いい加減に」





私はそのまま結界から飛び出し、逃げる。……そうだ、あの子達から逃げるんだ。だって私の言葉は通用しないから。

どうしてなの? こうするしかないのに。こうするしか、ヤスフミと一緒にいられる方法はないのに。

母さんがそういう人間を必要としないという事は、社会全体で必要とされないという事。それならこうするしかない。



なのに……もうワケが分からなくて、あの子達と一緒にいたくなかった。もう嫌だ、本当に嫌だよ。



必要とされて、信じてほしいのに。家族だからそうして当然だと母さんは言っていたのに、どうしてそうしてくれないの?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



僕はステップを踏みながら、奴が放った左薙の斬撃をしゃがんで避ける。そのまま奴は回転を止めず、今度は左切上。

バク転でそれを飛び越えるように避けると、奴はすかさず距離を詰める。

返された刃は逆袈裟に振るわれ、それを左に身を捻って回避。今度は僕が踏み込み、袈裟に刃を打ち込む。



奴は僕から距離を取りながら斬撃を……その瞬間強烈な寒気がして、地面へ一気にしゃがみ込む。

そして僕の頭上を後方から迫っていた刃が通り過ぎる。その刃は黒い光を宿していた。

危なかった。斬撃を避けつつ鎌の刃で首を刈り取るつもりだったか。でもこれで終わらない。



奴は鎌を振り上げ、地面に伏せた僕を上から叩き潰そうとする。……僕は前へ踏み込んだ。

同時に神速発動――世界が色をなくしていく。そんな中、瞬間的に打ち込まれたはずの斬撃はゆっくりとした速度になる。

僕の移動速度も落ちているけど、奴の斬撃よりは速い。僕は振り下ろされる刃の内側へと侵入。



鎌というのは、刃で斬ったり刈ったりする武器。しかも長物だから、内側というのは死角になる。

もちろん刈られたらアウトなんだけど……僕は頭へ打ち込まれようとしている柄を右に避け、左肩で受け止める。

同時に鉄輝を打ち上げ、アルトを奴の腹に突き立てた。そして左手で打ち込まれた柄をしっかりと掴む。



そこで神速終了――世界が色を取り戻していく中、奴は目を見開き衝撃ゆえに身体を震わせる。





「グラキエス」



ジガンのカートリッジを三発ロードし、前面に魔力スフィアを形成。奴はそれをやっぱり生気のない瞳で見る。

瞬間的に柄を引いて僕を刈り取ろうとするけど、力は僕の方が上。柄はぴくりとも動かない。



「クレイモア」





そんな押し問答をしている間に氷結属性を付与した散弾が、奴の胸元と顔面に襲いかかる。

奴はその衝撃に押され、身を後ろに逸らした。そして奴の手が、ようやく柄から離れる。

そのまま不格好に身をのけ反らせながら、あお向けに倒れたデスレーベルを見て……息を吐く。



奪いとった形になった鎌を頭上へ持ち上げ、順手持ちに変更。でもその行動に意味はなかった。

刃はガラスの破片にも似た粒子へと変化し、その切っ先から少しずつ姿を消し始めたから。

同時に奴の身体にも、つま先から同様の変化が現れる。そうしてさほど経たずに、デスレーベルは消滅。



泣き言もなにも言わず、そのままか。潔いと言うべきかなんというか。





「きゃあっ!」



上からあむの悲鳴が聴こえてきて、僕は息をつく暇もなく空を見上げる。あむとトーマ達も同じようにこちらを見ていた。



「恭文、どうしよっ! フェイトさん逃げちゃったっ!」

「はぁっ!? なんでっ!」

「俺達も知らないよっ! あむさんが説教したら、凄い勢いで飛び去ってっ!」

「あのバカは……!」





普通なら放置でいい。でも今はマズい。今そんな真似をすれば、出現しまくっているチート相手に死ぬ可能性だってある。



現にさっきもクロノさんの連絡で、僕達未来組の記憶が優先的に使われているフシがあるとも言っていた。



このままではフェイトは……僕はマントを羽ばたかせながら上昇し、一気にあむ達と合流。





「すぐに追いかけるよっ! リリィ、レヴィ、悪いけど」

【既にサーチで居場所は掴んでいますっ! 恭文さんの転送なら先回りできるっ!】

「あぁもう、ボクのオリジナルはどうしてああめんどくさいんだ。ボクも叱ってやるっ!」

「そうしてっ! てーかもう一度ぶん殴ってやるっ!」





僕達は早速リリィの案内で移動を開始……もうホント面倒事とか許してよっ! こっちの気苦労を察してよっ!



あんまりそういうの話すのも駄目なんだよっ!? コミュニケーション取り辛いんだよっ!? ほんとガキなんだからっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



もう嫌。あんなおかしい子達から、ヤスフミを取り返さなくちゃいけない。そのために必要な事はなに?

それは私が大人として、局員として、正しい形でこの事件を解決する事。私が闇の欠片もシステムU-Dも止める事。

だって……悲しいの。ヤスフミが側にいないのは悲しい。一緒にいられないのに、ヤスフミはどんどん遠くへ行っちゃう。



そんなの嫌だ。だからまず、私だけで闇の欠片を倒すんだ。そう思い、新しくできた結界に突撃。

その中心部にある闇に向かって8時方向・45度の角度で突っ込む。ここは……海上か。いつの間にか沖まで出てきたんだ。

最高速度で中心部まで迫るけど、そこにいる闇の姿を見つけた途端に身体が震える。私は驚きのあまり『彼女』の目の前で停止。



金色の髪はセミロングで、体型は私よりも大人っぽい。それで……デバイスの色はクリアグリーン。



彼女は赤い瞳で、私を驚いた様子で見ていた。嘘、あの……どうして? ううん、考えるまでもない。





「うそ、私?」

「あ……あぁ」





目の前にいたのは、私そのものだった。でも体型の違いから、あれが未来の私だとすぐに分かった。



私達は髪の色も瞳の色も、バリアジャケットもほぼ同じ。ただバリアジャケットはミニスカじゃなくて、なぜかスラックスになってるけど。



彼女は私を見て……本当に驚いた顔をしていた。というか、私も全く同じ顔をしてしまう。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



フェイトを追いかけえんやこら……そのはずが、途中で新しくできた結界に巻き込まれてしまった。



本当ならスルーしちゃおうかとも思ってたけど、そうはいかなくなった。だって、欠片が欠片だから。





「恭文……あれ」

「お願い、なにも言わないで」

「アンタの知り合いなんだね」

「……うん」





今はきっと、こういう時間なんだ。……出ていた欠片は、アイアンサイズだった。

しかもさ……なんでか奴ら、戦闘ヘリと合体してるんだよっ! ヘリのコクピットに顔が浮かんでるんだよっ!

ぶっちゃけ怖いよっ! あの青白い顔が出てたら怖いよっ! でもこれ、どういう事っ!?



僕はコイツらがこんな事してるのに遭遇した覚えは……ちょっと待って。そうだ、直接遭遇はしてないけど、見てはいる。

親和力事件の時、アイアンサイズの話を聞いてからシルビィ達に頼んだのよ。それで戦闘記録を分署で見てる。

その中でコイツらは、今みたいにヘリと合体して戦ってた。くそ、そういう直接接触のない記憶も再生されるの?



いや、アイアンサイズ自体には接触して、能力を使うところも見ている。だからって事も考えられるか。



こうなると……これは本当に放置できないぞ。あの時の苦戦を思い出して、表情が苦くなる。





「みんな、あれに物質的な攻撃はしないで。デバイスでの接触も禁止」

「ヤスフミ、それってどういう」



レヴィの質問に答えようとしたところ、奴らがこちらに気づいて向き直り……あ、ヤバい。



「散開っ!」




僕はレヴィを、トーマはあむの手を引いて左右に散開。そしてそこへ向かって、ヘリからガトリング砲が放たれる。

回転する銃身から放たれる弾丸をなんとか避けたけど、こっちへはダンケルクのヘリが接近……あぁもうっ!



”それで蒼にぃ、どういう事だよっ! 物質的な攻撃ってっ!”

”アイツらは無機物を吸収し、自分の一部とする能力を持ってるっ! それの応用で傷の再生もできるのよっ!”



言いながらも結構な速度で追ってきたヘリに視線を向け、レヴィとらせん状の軌道を描く。

そうして放たれる弾丸を避けつつ、左手で奴を指差す。次の瞬間放たれたミサイルを。



≪Stinger Ray≫



スティンガーの連射で撃ち落とし、爆散。ヘリは眼前に生まれた爆炎を突っ切り、こちらへ迫る。



”だからデバイスで殴ったり蹴ったりしたら、そのデバイスごと吸収されるっ!
でも魔法攻撃にも耐性があるから、物理的に吸収されない形で攻撃しないとっ!”

”なに、そのチートッ! アンタマジそういうのと遭遇し過ぎじゃんっ!”

”それはおのれに言われたくないっ! 言っておくけどキャラなりとかだって、十分チートなんだからねっ!?”

”そうでしたー!”



くそ、闇の欠片だから再生能力は大丈夫としても、この能力は厄介過ぎるぞっ! もう二度と会いたくなかったのにっ!

ただ愚痴っていてもしょうがない。僕と同じく右往左往しながら放たれ続ける弾丸を避けるレヴィと顔を見合わせ、頷き合う。



「「せーのっ!」」

≪≪Sonic Move≫≫






僕とレヴィは足を止め振り返り、蒼と水色の閃光に包まれ加速――上昇。

放たれる弾丸とミサイルの雨を飛び越え、ヘリの真上を取った。僕は左手をかざし魔力スフィア形成。

これでダンケルクを仕留められるかどうかの自信は全くない。なので術式を少しアレンジ。



物理・魔力ダメージよりも凍結能力の方に比率を置いて、爆弾も一つ仕込んで……そこっ!





≪Icicle Cannon≫

「ファイアッ!」





放たれた砲弾はヘリのローターに直撃し、冷気を伴った爆発が起こる。回転するローターが白いつぶてに覆われた。

そこで左手の指を鳴らし、今も回り続けるローターを中心にブレイクハウトを応用した空間凍結発動。

ヘリは僕の身長よりも大きい氷を背負う形となり、ローターはその中に閉じ込められて動きを止めた。



いや、例え動きを止めていなくてもあの重量では空中機動は崩れる。ヘリは動きを止め、ゆっくりと転覆。





「雷光一閃っ!」



そこで待ってましたと言わんばかりにレヴィが突撃し、腹を見せて落下しそうになっているヘリの腹へ。



「バルニフィカス・ブレイバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」





水色のザンバーを叩き込み、ヘリを中ほどから一刀両断した。同時に僕が作った氷も真っ二つ。

そのままヘリは地面に落ちていき、破片のような形となる。でもそんな中、灰色のスライムっぽいものがコクピット辺りから飛び出した。

それはヘリから離れつつ地面へ落ち……くそ、このままじゃ行かないか。僕はレヴィ共々それを追う。



この状態で時間をかけるとマズい。とにかくヘリを撃墜して……あむとトーマの方も状態確認必要かな。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「無理……無理無理無理っ! あれは無理っ! デバイスで攻撃全NGって、あたしにはどうしようもないー!」



トーマにサポートされながら空を走るあたしは、もう半狂乱状態。頭抱えて涙目にもそりゃあなる。



【あむさん、落ち着いてっ! それなら射砲撃でなんとかするのっ!】

「でも魔法にも耐性あるってっ!」

「大丈夫、俺とリリィの力は魔法じゃないっ!」





トーマがあのいかつい銃剣の先をヘリに向けながら、黒い円形の障壁を展開。それでガトリング砲を受け止める。

もちろんそのまま後退しつつで……そっか。あたしがサポートして、トーマ達が攻撃できるようにすればいいんだ。

でも、あの様子だと恭文も相当苦戦したっぽいのに。ううん、落ち着け。まずは逃げながら一度深呼吸。



ヘリって事もあるだろうけど、物凄い速く動いたりするわけじゃない。動き自体はあたし達の方が速い。

防御もホーリークラウンとかでなんとかなりそうで……そうだ、気持ち固めろ。

あたしは足手まといになるためについて来たんじゃない。アイツだけに任せるなんて嫌だから来たんだ。



だってあたしは仲間だから。ガーディアンじゃなくなっても、大事な友達だと思ってるから。



だから……あたしは半狂乱になりかけた自分を恥じ、気持ちを確かめるように拳を握る。





「ルティっ! 両足用以外でトーマ達の力になれそうなスイッチ、ないっ!?」

≪ぴよぴよ……ぴよっ!≫





突然あたしの目の前に、銀色のスイッチが出てきた。あたしは慌てて左手を伸ばし、それを掴む。



なんだろ、これ。スイッチ部分がナイフみたいな形になってて……とにかく使おう。



今は迷ったりしてる時間も惜しいじゃん。あたしは左手のスロットにそれを挿入し、スイッチをつまんで引く。





≪Stinger≫



するとあたしの左腕の外側に、分厚くて先が尖ったナイフの先が出ている装甲が出てきて装着された。

恭文に確認してる暇はないし……まぁいいや。あたしは逃げながら左手をヘリに向け。



「ルティ、これどうやって使うのっ!?」

≪ぴよっ!≫



叫ぶと、装甲の中にあったっぽいピンク色のナイフが、次々と射出される。

あたしとトーマ達はスラロームしながらただただ驚くばっかり。



「え、なにこれっ!」

「あむさん、それなにっ!」

「あたしのセリフ聞いてたっ!? 分かるわけないじゃんっ!」





てーかこれだと役に立たないじゃんっ! 無機物って事は、ナイフとかも受け止めて吸収しちゃうだろうしっ!



ヘリの中にいるのもそれに気づいているのか、自分の顔の近くやボディにナイフが突き刺さるのに、全然気にしてない。



てゆうか、今額に突き刺さったっ! 窓にある女の人の額に……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!





≪ぴよぴよっ!≫

「あむちゃん、ルティが大丈夫だーってっ!」

「ブレイクって言ってみてっ!」

「早くしてくださいー!」

「ブレ……ブレイクッ!?」





肩に掴まってるラン達に返事をしたんだけど、それでOKだったみたい。あたしが叫んだ瞬間、ナイフがいきなり赤くなって大爆発を起こす。

その爆発に押されてヘリがバランスを崩して、腹の辺りとか翼とかを抉られた。

それでヘリは転覆……で合ってるのかな。とにかく下の方を空に向けながら、地面へ落ちていく。



そのまま光の粒子に還っていって、さほど経たずに全て消えた。えっと……終わった?



いや、終わったのはいい。今はもっと気にしなきゃいけない事があるので、トーマ達と一緒に叫んじゃう。





「な……なにあれっ!」

『あむ、トーマ、そっちは大丈夫っ!?』



急に展開した空間モニターから、慌てた様子の恭文が顔を出す。……あ、ちょうどいい。聞いてみようっと。



「恭文、なんかあの……爆発したんだけどっ! スティンガーってスイッチ使ったら、ナイフドバドバーって出てっ!」

『スティンガー……え、あれ使っちゃったのっ!? どうやってっ!』

「いや、ルティに役に立つのないかって聞いたら……どういうスイッチなの?」

『見た通りだよ。魔力エネルギーを半物質化したナイフを射出して、対象に突き刺した上で爆発させる。チンクさんのISを元にしたんだ』

「なに危ないスイッチ作ってるのっ!?」



これ完全に殺す気満々じゃんっ! てーかルティもこれいきなり使うとかありえないしっ! あたし、ちょっと怖かったしっ!



『だからプロテクトかけて使えないようにして、あむがリンクスイッチに慣れたところで説明するつもりだったんだよ。
その上でプロテクトは解除ってわけ。でも……ルティが勝手にプロテクト解いちゃったみたいだね』

「えぇっ!」

≪ぴよぴよー≫



楽しげにするなバカっ! 一応親な恭文の意向無視ってなにっ!? アンタどんだけ有能なのかなっ!



『あ、一応非殺傷設定もできるよ。その場合は魔力ダメージを伴う衝撃波になる』

「そうなんだ。じゃあ今のは」

『ルティの判断で物理設定も込みにしたんだろうね。そうじゃなきゃ爆発はしないはずだし』

「……ルティっ!?」

≪ぴよー♪≫





だから明るく鳴くなバカっ! てーかあたしのバカっ! やっぱスイッチの中身確認しないで使うとか、ありえなかったしっ!



よし、どのスイッチも一度テストしてから使おうっ! そうじゃないと事故とか起きそうでほんと怖いわっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



突然出てきた私に驚いてしまったけど、とにかく一旦落ち着いて事情説明。……あれ、私は欠片になにを。



ただいきなり襲ってくるとか、破壊衝動に苛まれているという感じでもない。だから自然と、かな。





「闇の欠片……そっか、いきなりこんな場所にいる理由がようやく分かった」



少し髪が短くなっている私は左手でマントを掴んで身を捻り、自分の姿を困った様子で見る。



「しかも勝手にセットアップもしてるし……私、これからみんなと一緒に模擬戦だったのになぁ」

「信じて、くれるの?」

「私の知っている闇の欠片のあれこれと符合するしね。
でもま、いいか。オリジナルの私はちゃんと元の時代にいるだろうし」

「ねぇ、あなたは今も局員なんだよね。それで母さんの言う大人になっている」

「ううん」



頷くと思っていた私の予想と反して、未来の私は首を横に振った。



「私は局を辞めたよ」

「え……どうしてっ!? だって私の夢は」

「その夢を守るために、局員を辞めたの。あと母さんの言う大人にもなっていない。
それが間違いだって分かったんだ。私はただ、弱くて臆病だっただけなの」



信じられなかった。その言葉は私が願っていた事への裏切り。そして今の私が敗北した事を示す。

私や母さんの言葉が、あの子達の言う嘘に負けた……違うと言い聞かせながら、首を横に振る。



「じゃあ私の夢は……ヤスフミと一緒に大人になるという願いは」

「それは願いじゃなくて、ただの束縛だよ。……あぁそうだ、この時の私はこういう感じだった。
というかどうしてこの事覚えて……いや、予測はできる。ね、昔の私」

「ねぇ、どうしてっ! どうして局員を辞めちゃったのっ!? 母さんの言う大人じゃないよっ! 私は」

「ヤスフミを危ない目に遭わせたくなくて、守りたくて……だから局員一本に絞った。
それで母さんの言う大人になれば大丈夫と考えて、自分からその姿勢を貫こうとした」

「そうだよっ!」





なぜか困った様子でこちらを見る未来の私へ、私は詰め寄ってまた声を荒げた。

さっきも叫んだせいか、声がちょっとガラガラ。でもそんなの気にしてる余裕はない。

それよりなにより、未来の私が今の私を否定する生き方をしているのが悲しい。


母さんを信じていない様子なのが、本当に悲しい。だからもっと……もっと声を荒げて責め立てる。





「それなのに、どうしてっ! まさか忘れちゃったのっ!? 闇の欠片事件の時の悔しい気持ちっ!
その前のガイアメモリ事件のあれこれっ! そういう悔しさを変えようって、考えてたよねっ!」

「それは言い訳だよ。ヤスフミにずっと前から恋してる事への、言い訳」



でも私の勢いは、その静かな言葉で止められた。それで身体が震え、空中を踏んで数歩後ずさる。



「違う、私は家族だから。家族として」

「それは嘘だよ。あなたは最初からヤスフミを家族としてなんて見ていない。
なのはやはやて達とは違う絆の深め方をしたあの子に、恋をしている。
旅と冒険が好きで、誰かへ真っ直ぐに手を伸ばせるあの子の、キラキラな瞳の輝きが好き」



違う……私はまた首を横に振って、そんな考えを叩き出す。私はそんな事、考えていないんだから。

ヤスフミは家族なの。家族だから離れたくない。家族だから……ただそれだけなのに。



「でも気持ちを伝える事に臆病で、もし『側にいて』と言って断られたらどうしようと怯えている。
だから正しくあろうとして、あの子が自分の側にしかいられないように仕向けてる。
あなたは怯えてるだけだよ。自分の気持ちを自分のものとして、ヤスフミへ伝える事から逃げてる」

「違うっ!」



感じた悪寒を振り払うように後ろに跳んで、一気に10メートルほどの距離を取る。そのまま未来の私を睨みつけた。……どうやら勘違いだったみたい。

欠片は欠片。これは前に出たヤスフミの欠片と同じだ。私を動揺させようと嘘を言っている。信じるに値しない。だから。



「もういい」



動揺する気持ちを抑えつけるように呼吸を整え、バルディッシュを右に振りかぶる。それでハーケンフォームへ変化。

バルディッシュの刃が跳ね上がり、それにより展開された噴射口から金色の刃が生まれる。



「闇の欠片なんかに聞いた私がバカだった。あなたは私が倒す。それで、ヤスフミに信じてもらえるように証を立てる」

「やっぱり昔の私はバカだ。でもそういう事なら」



それで彼女はクリアグリーンのバルディッシュを両手で持ち、私と同じように構える。

さっきまで困った様子だった顔が一気に引き締まり、目が細まる。



「相手になるよ。そんな理由で事件に関わって戦うなんて、バカげてるから。
あなた、後悔するよ? あなたは今目の前で起こっている事を、なにも見ようとしていない」

「黙れっ! 私はちゃんと見ているっ! 母さんの言う大人になろうとしているっ!」

「それも全部自分のため――あなたの正義は偽物。本当に欲しいものはたった一つだけ。そのために嘘をつく。
嘘の正義を貫き、嘘の理想を語り、その嘘を誰かに押しつける。そんなに誰かに否定されるのが怖いの?」



それはついさっき、あむちゃんから言われた事。私達を信じて、レアスキルの事を教えようとももしない子どもの理屈。

それを大人である私が言った事が悲しくて腹立たしくて……一気に加速。さっき嫌悪感から開けた距離を、再び詰める。



「欠片風情が、偉そうにっ!」

「うん、そうだね」



鎌を袈裟に振り下ろし、一撃で仕留めようとした。でも欠片の姿が目の前から消える。

飛行魔法で逃げたんだと思った瞬間、腹に凄まじい衝撃が加わって私の身体は錐揉み回転しながら落ちていく。



「がぁ……!」

「私はただの欠片」



今のは……痛みに呻きながら欠片を見ると、欠片はバルディッシュの偽物を左薙に打ち込んでいた。

まさか、一瞬で斬られたの? そんな……どうして。高速移動もなにもしてないのに。



≪Plasma Lancer≫

「でも今のあなたは、その欠片以下だ」





そうかと思うと、斜め下へと落ちていく私に向かってプラズマランサーが四発射出。



私は空中で身を捻り急停止し、左手をかざしてバリアを展開。それでランサーを防ごうとした。



なのにランサーはバリアの上下左右をスレスレでかわしてしまう。……フェイント?





「ターン」





でも未来の私がそう呟いた瞬間、私の側面を取っていたランサーが急停止。輪状魔法陣に包まれ方向転換。

私はバリアを解除して咄嗟に下がり、次の瞬間射出されたランサーを避けようとした。

なのにランサーは方向転換途中で止まり、後退している私に向かって高速射出。それに驚いている間に、身体へ衝撃が走る。



右肩、左腕、右わき腹、左足にランサーが一発ずつ命中し、爆散。私は衝撃に押されながら、また落下していく。

そんな、こっちの回避機動を読んだ上で、ランサーを方向転換させたっ!?

いや、その前にバリアを展開しても一発として当たらず……そんな、ありえない。



というか、信じられなかった。これだけ強くなっているのに、どうして局員を辞める必要がある?



強くなっているなら、みんなから認められる。みんなから褒められる。そういう大人になって、目的を達成できるのに。





「いくよ、バルディッシュ・ドリフェンダー」

≪Yes Sir≫

「無駄だけど、今この瞬間だけは」



それで欠片はまたバルディッシュを振りかぶり、私に向かって突撃。身体に走る痺れを気にせず、私は水平方向へ急加速。

まずは距離を取ってどうこうと思ったのに、目の前に金色の閃光が走って彼女の険しい瞳が私を捉える。



「あなたの嘘を、打ち砕くっ!」





そして私に、袈裟に戦斧が振り降ろされる。それは防ぐ事も避ける事もできない、鮮烈な一撃。



それを左の肩口に喰らい、私は衝撃で呻きながら海面へと落下していった。





(Memory16へ続く)




















あとがき



恭文「……これも最後で成長フラグをへし折られるんだろうなぁ。みんな揃って」

フェイト「う、うぅ……突き刺さります」

恭文「フェイトのせいじゃないから、気にしなくていいよ。というわけでみなさん、GWいかがお過ごしでしょうか。
今回はGOD編の第15話。そしてガチに大変な事になってきている……レヴァンティンに黙祷」

フェイト「黙祷」



(『黙祷するなっ! レヴァンティン……レヴァンティンっ!』)



恭文「というわけでお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……ヤスフミ、ラスボスレベルなデスレーベルが」

恭文「欠片だからクリーンヒット一発でなんとかなるからねぇ。モノホンだったら僕もただじゃすまなかったと思う。
でもシンガー・ドリームにデスレーベルにスペース・ドリーム……改めて考えるとチートばっか」

フェイト「ねぇヤスフミ、作者さんが『どうやって勝てたんだろ』って顔してるんだけど。
自分でアニメ見ながら書いていたくせに、凄い顔してるんだけど。首傾げてるんだけど」

恭文「オリジナル能力とか以外は、基本アニメ見て書いてたしねぇ。気づかないうちにインフレしてたんだよ」



(インフレ、気をつけてたんだけどなぁ)



恭文「そして実はとまとでやるのは初めてな、アイアンサイズinヘリッ! でも瞬殺っ!」

フェイト「ゲームだと強いんだよね」

恭文「ボスキャラだしね。でもほら、基本性能変わるとかじゃないから。特性も変わらないから。同人版でもやったとこだけど」

フェイト「しかもクリーンヒットで沈んじゃうから……もしかして合体しない方が強い?」

恭文「残念ながら」



(でもヘリに比べて魔導師がチートという罠)



フェイト「それでその、ヤスフミ」

恭文「なに?」

フェイト「こういう拍手が来たんだけど」



(恭文、フェイトさんと夜の営みをする時に晒し台は使ってるの? よかったら、どういう風に使っているか教えてほしいんだが(ゆかなさんのグッズをちらつかせながら))



恭文「……使ってるわけないでしょうがっ! なに考えてるのっ!?
というか、そういう拘束プレイはリボンで緩めに両手絞るとかだけだからっ!」

フェイト「あ、やっぱり意味分かるんだ。あの、晒し台ってなにかな」

恭文「えっと……あのね」



(良い子は検索しちゃだめだよ♪)



フェイト「……変態っ! ヤスフミ、変態だよっ! そんな事したいのっ!?」

恭文「違うしっ! してるのかって話なんだけどっ! そういう話されたんだけどっ!」

フェイト「あ、そっか。でもあの……興味あるの? こういう風に聞くって事は、一般的で」

恭文「一般的じゃないからっ! というかその、フェイトはきつく縛られたりとか嫌でしょ?」

フェイト「うん。あの、両手をきゅってされるくらいならいいけど」

恭文「これはきつくだし、アブノーマルだし……さすがにないよ。僕はフェイトにもいっぱい幸せになってほしいから」



(両手を伸ばしてぎゅー)



フェイト「ふぁ……ん、ありがと」



(すりすり)



フェイト「ヤスフミが優しくしてくれるから、とっても嬉しい。いつもいっぱい幸せにしてもらってるよ」

恭文「なら良かった。フェイト、愛してるよ」

フェイト「ん、私も愛してる。じゃ、じゃあ今日は偶数日だし……ね?」

恭文「うん。それでいっぱいいじめてあげるね」

フェイト「優しく、いじめてね」





(そして二人の様子を見ていたみんなは、口から砂糖を吐き出す。
本日のED:羽多野渉『Wake_Up!_My_Heart!!』)





ハジメ「……なんか口の中が甘ったるい」

キマリ「ハジメ、気にするのやめましょう。というかほら、お知らせよお知らせ」

ハジメ「あ、そうだった。実は……オレ達が出ているアニメ『バトルスピリッツ覇王』のOPが変わりましたっ!
てーかチャンピオン(薬師寺アラタ CV:羽多野渉)がうたってるんだっ! バゼルやアシュライガーも出てるぜー!」

キマリ「やっぱり世界大会直前で、気合い入れろーって事よね。うーん、これでキマリ♪」

恭文(A's・Remix)「そしてオリカもゾクゾク登場……でもオリカって扱い難しいのかな。
作者は遊戯王のアニメとか見てて、OCGでは出てないカードも結構あったから抵抗ないけど」

ハジメ「あー、アニメオリジナル効果ーみたいなやつ?」

恭文(A's・Remix)「そうそう。最近出るミラクル・コンタクトも、もう遊戯王GX終わって久しいからオリカ扱いだったし」

キマリ「でもそういうのって、たまに産廃ができない? なんとかサメがアレだって聞いてるけど」

恭文(A's・Remix)「……シャークさんの事は触れないであげて。あれは泣くしかないから」





(おしまい)





[*前へ][次へ#]

15/26ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!