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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory14 『GEARS OF DESTINY/再び立ちはだかる謎』



話はまとまったので、リーゼ達にも協力してもらって早速テスト……の前に、僕はアースラ内にある病室の一つへ向かう。



そのベッドには入院着を着たアルフが、憮然とした表情で窓の外――幾何学色に輝く次元の海を見ていた。





「気分はどうだ、アルフ」

「最悪だよ」

「だろうな。それで」

「分かってる。なのはには、あとでちゃんと謝る」

「……恭文とあむ達にもだ。相当失礼な事を言ったそうだからな」



だがアルフは舌打ちをして、自分へ近づく僕に『どうしてそうなる』という顔を見せる。

まぁ予想はしていたのだが、僕はベッドの脇に置いてある椅子に座りやや視線を厳しくした。



「アルフ」

「じゃあ、どうすればよかったんだよっ! お母さん、泣いてたんだっ! 悲しんでたんだっ! 苦しそうだったんだっ!
なんとかしたくてもできなくて、アイツのせいじゃないって思いたくてもそう思えないっ! 信じたくても信じられないっ!」



やっぱり母さんがナーバスになっているのが直接の原因か。レティ提督にも言われていた事だが、ここまで尾を引くとは。



「その上……未来から来たのに今となんの変化もなくて。それでどうしろとっ!?」

「だから君は未来の恭文が言った事を無視して、オーギュスト・クロエの欠片を倒そうとしたわけか」

「当たり前だろっ! アタシはそれでやれると思ったっ! だったらアイツもみんなもそう信じるべきなんだっ!
だってそれができないから、フェイトも悲しんでたんだっ! だからアタシは悪くないっ!
アタシはアイツがそうするところを見せて、みんなを安心させようとしたっ! 家族のためを思って行動したんだっ!」

「君は、救いようのないバカだな」



反論しかけたアルフを視線で押さえつけ、大きくため息を吐く。



「プレシア・テスタロッサ事件の時、僕は君とフェイトにこう言ったはずだ。
『家族をかばい過ぎるのも罪』と。あの事件は君達のそういう感情が事態を悪化させた。
特にアルフ、君だ。君に関してもそこはかなり言っていたはずだったが」

「……それは」

「今の今まで忘れていただろ」

「違うっ! それとこれとは違うだろっ!」

「いいや、同じだ。君はあの時僕達やフェイトと約束した罪の償いを放棄している。
しかも個人的感情で現場をかき乱した。君が撃墜されたのは自業自得。君は悪だ」




はっきりそう言い切ると、アルフは悔しげに唇を噛み締め涙を流し……正直泣く権利もないんだがな。

これは叱るだけでは恭文を逆恨みしかねないと思い、少し持ち上げる事にした。



「もちろん母さんの事をそこまで考えていてくれていたのは、実の息子としては嬉しい。もちろんフェイトの事もだ。
だがアルフ、君は『家族』のためと思うと暴走しやすい。現にあの事件の時も、それで状況を悪くし続けた。
それも君が持っている本当にいいところを簡単に消してしまうほどにだ。そこを変えないとまた、同じ事を繰り返すぞ」

「良いとこって、なんだよ」

「そうやってだれかれ構わず噛みつけるところだ」

「貶してるだろ、それ」

「いいや、違う」



残念ながらそれでは話の趣旨にそぐわないので、首を横に振って否定しておく。



「それは相手がどんなに偉くても、どんなに強くても、間違っていると言える勇気があるという事だ。
……ただ普段の君は、その勇気を使うタイミングと振りかざし方を決定的に間違えている。僕はそう思う」

「間違ってるって……ならどうすればいいんだ。家族のためを思うだけで、どうして駄目なんだ?
どうして間違うんだ? クロノ、アタシには分からない。大好きな家族を守る事が、どうして悪になるんだ」

「その答えはとっくに教えたはずだ」





厳しく一刀両断し、暗に『思い出せ』と突き放す。そうだ、アルフがその答えを知らないのはありえない。

アルフはPT事件中、家族のために犯罪行為と知りながらフェイトを止めなかった。それがフェイトのためだからだ。

そしてそのフェイトをいたぶり利用していたプレシア・テスタロッサの存在を知りながら、局になにも言わなかった。



フェイトの母親で、フェイトを傷つけるのを恐れたから。そう、アルフはこの事件の時も家族を理由に現状から逃げていた。

フェイトに対し手を伸ばそうとしていたなのはを跳ねのけたのは、筋違いも良いところだ。

アルフがPT事件を深刻化させた張本人と言ってもいい。アルフがうまく行動していれば、プレシア・テスタロッサも救えた。



実際に裁判の時、原告側からそこをツッコまれたんだ。僕もその可能性を否定できなかった。

もしもアルフやフェイトが家族である事を理由にせず局に投降ないし通報していたら、確実に出なかった被害もあるんだ。

現地住民に迷惑もかけているし、軽めと言えど次元震も起こしている。さすがにツッコまれないわけがない。



だが……それでも最後の最後でアルフは英断を下した。手遅れではあるが、それは事実。

例え恥知らずでもなのはや僕達に助けを求めたし、声をあげた。プレシア・テスタロッサも止めようとした。

アルフの中には勇気が確かにある。たださっきも言ったように、普段はその使い方を間違えている。



その使い方を誤らせているのが、アルフの中にある『家族を守りたい』という気持ちだ。

アルフが戦う原動力そのものが、アルフ本人の行動を著しく歪めている。それでもあの事件の時に修正はできた。

だがあれから少しばかり時間が経ち、フェイトも成長し頑張った成果が出始めたせいかもしれない。



それを守ろうとする余り、今俯くアルフはまた悪い癖を出し始めている。

だからもう一度、あの時伝えた事を思い出してもらうために……あの時と全く同じ事を言った。

僕の言葉は、きっとアルフに届いている。その確信が得られたので僕は、すっと立ち上がった。





「ただ覚えておいてほしい。家族以外の人達にも、君やフェイトと同じように世界がある。その重さはみんな等しい。
君やフェイトの世界をそんな人達に押しつけて従わせる事は、守るとは言わない。ただの支配だ。
……それで未来の恭文達を恨むような事はするな。いいな、君の判断も守り方も間違っているんだ」

「……分かった」

「よろしい」





本当に悔しそうな顔で俯くアルフが、もう少し落ち着いてくれる事を願いつつ医務室を出た。



さて……まずはカートリッジの試運転だ。僕もなのはの相手をしつつ、感触を確かめないとな。










魔法少女リリカルなのはVivid・Remix


とある魔導師と彼女の鮮烈な日常


Memory14 『GEARS OF DESTINY/再び立ちはだかる謎』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次元航行艦というのは、かなり長期間の単独行動も視野に入れた上で作られている。

衣食住だけではなくレクリエーション的な施設も豊富で、それは各世界を転送装置で回れる今でも同じ。

アースラはそれが普通になる前から動いてた船だし、余計にしっかりしている。



それは当然訓練場も同じで、魔法で空間湾曲した上で実際の尺度よりもかなり広く感じる。



ワイヤーフレームの空と陸地の中、僕とフェイトは空中に浮かんで対峙していた。





「で……シュテル、なんでいきなりフェイトと模擬戦?」

『特製カートリッジの扱いに慣れてもらうためです』



管制室でこちらの様子をモニターしているシュテルの声が、場に響く。



『提督やリーゼ女史達は他の方へ行っておられますので』

「空きがないと」

『そうとも言います。私も非殺傷設定での魔導行使は、不得手でして』



そういやレヴィの攻撃も殺傷設定だったよなぁ。そこはやっぱ、古代ベルカ云々が関係してるのかと一人納得した。



『フェイト・テスタロッサ、先ほど説明した通り本気でやっていただいて構いません。
ただし防御はしっかりと。古き鉄の魔力攻撃を受けてもらうのも仕事ですし』

「分かってる。……ヤスフミ、約束して。私が勝ったらみんなで戦うんだよ?
それでレアスキルの事も教えてほしい。詳しく調べれば私達も使えるかもしれないし」

”おい、マジで言ってるのかよ”

”マジに決まってるだろう。ショウタロス先輩、今までこのバカのなにを見ていたんだ”

”この時期のフェイトさんは厨二病真っ盛りですしね。後々後悔するんですけど”



全くだよ。しかもレアスキルって……いや、確かにあれだけ見たらそう見えるだろうけど。さすがに頭が痛くて左手を当てる。



「フェイト、あれはレアスキルじゃない。それで今のフェイトには絶対にあの『可能性』には触れられない。
てーか僕はなにも話すつもりはないし、今の弱いおのれらと戦うつもりもない。足手まといなのよ」

「そんな事ないよ。もしかしたら不安なのかもしれないけど、大丈夫だよ。母さんも言ってたよね。
組織や仲間に認められる行動を取って、みんなを信じる事で大人になれるって。
そうする事でみんなから信じられて、夢も叶えられるんだって。だからそういう大人になろうよ」

「……くっだらない」

「え」



そうだそうだ、すっかり忘れてた。フェイトの良いとこ全部覆い隠すような理屈が嫌だったなぁ。

でもここは過去……そこをしっかり踏まえつつ、左手を頭から話してフェイトに厳しい視線を送る。



「みんなから認められる誰かじゃなきゃ信じられない、信じようとしない。
フェイトもリンディさんも、自分から人を知っていこうとはしていない。
僕はそんな大人になんてなりたくない。そんな大人は、つまらない」

「ヤスフミ……どうして、そういう事言うのかな。そんな事言ったら母さんやみんなが悲しむよ。
アルフが必死なのは、そういう理由もあるの。だからお願い、協力して。一緒に戦って。
ヤスフミだって母さんが悲しむのは嫌だよね。だからね、私達みんなで頑張って母さんを安心させるの」

「自分から踏み出そうとしない臆病者がごちゃごちゃ抜かすな。
リンディさんが泣くのも悲しむのも結局は自業自得だ。
……適当にあしらおうかとも思ったけど、やめた。お前、叩き潰すわ」



右手をアルトの柄に当て、一気に引き抜く。その最中刀身の内部が泡立ち、一気に蒼へ染まった。



「いいよ、来て。それで見せてあげる。そういう大人になる事は必要で……そうするから強くなれるんだって。
みんなから信じられる事で人は強くなれるし、なんでもできるようになるんだって。必ず、伝えるから」

「それは無理だ。お前じゃ僕の強さにはついてこられない」

『お話はお済みですか? では』



続けて左手でベルトを取り出し、一気に腰に巻きつける。それから改めて取り出したパスを、バックルにセタッチ。



≪The song today is ”NEXT LEVEL”≫



流れる音楽は、実を言うとカブトのOPに使われたバージョンじゃない。十年祭でRIDER CHIPSさんがうたったバージョン。

ボーカルは剣の『覚醒』や『ELEMENTS』をうたったRickyさん。だから歓声が入っているのもライブであるせいなのよ。



「ジガン」

≪なのなのー♪ プログラムカートリッジ……えっと、メス犬ジガンと主様の絆を始動なのっ!≫

「黙れボケがっ!」





ジガンから予め入れておいたカートリッジをロード。これが例のカートリッジだね。

ガシャガシャと音がした瞬間、いつもとは違う重みのある魔力が僕の中に流れ込んでくる。

これは……シュテルが『扱いには気をつけてください』って言ってたのも分かる。



とにかくこれを僕の魔力と一緒に撃ち出して、相手にダメージを与えるんだね。うし、やるぞ。





『……そんな名前をつけた覚えはありませんが。アブソルートですよ、ジガン』





バルディッシュをこちらにかざし、フェイトはまずランサーを八発射出。それで僕は空中を踏み締め軽く跳躍した上で前進。

こちらへ迫るランサーに向かって、袈裟・逆袈裟と交互に刃を振るって全て斬り抜ける。

フェイトはそれを予想していたらしく、既に突撃……袈裟に戦斧形態のバルディッシュを打ち込み斬り抜け。



でも僕もそこは予想してる。アルトを逆手に持ち替え、自身とカートリッジの魔力をまとわせた上で右薙の斬撃。

フェイトの一撃を伏せて避けつつ、それで腹を薙いで魔力エネルギーを叩きつけた。

同時に振り返り、体勢を崩しながらもこちらへ向き直ろうとするフェイトに向かって左手を逆風に振るう。



フェイトのバリアジャケットは腹部分が一直線に裂け、その体勢も左へと流れながら崩れる。

それでもフェイトは側転しつつ体勢を整えた。でもそこに、僕が投擲したワイヤーが襲ってくる。

フェイトは顔面に迫るそれを反射的に左へ避けるけど、僕は手首を軽くスナップさせてすぐにそれを首へ巻きつける。



そこからワイヤーを掴んで電撃発生。これも二種類の魔力を交じり合わせて放ったもの。趣旨が趣旨だし、しっかり使う。

20メートルほど展開されたワイヤーを通じてフェイトに迫る。同時に僕もフェイトへ踏み込む。

フェイトは蒼い電撃に焼かれながらもバルディッシュを鎌形態に変化。下からワイヤーを断ち切ろうとする。



僕は左手を左に動かし、接近した事で緩んだワイヤーを跳ね上げその斬撃を回避させた。

それでもフェイトは刃を返し、身を時計回りに捻りながらワイヤーを追いかける。……気を取られ過ぎだ、ボケが。

今度は袈裟に振るわれた鎌を、順手に持ち替えたアルトを右薙に打ち込む事で払う。



フェイトは電撃に焼かれながら自分の目の前に迫った僕を見て、目を見開く。なお、電撃に焼かれながら普通にしている理由は簡単。



フィールド魔法で僕の電撃ダメージを半減してるのよ。でも動きは鈍くなってるし……適度にいたぶるか。それが仕事だ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



クロノから、みんなが使うカートリッジのテスト相手を頼まれた。まぁ手が足りないからなぁ。

クロノはなのはちゃん相手で、自分も保険用のプログラムを使ってなのはちゃんと調子を見合うらしい。

恭文君はフェイトちゃんがアレなので、実力を徹底的に示すため……クロノ本人も許可したらしい。



それで私達はというと、クロノと同じくカートリッジもないのに無茶するあの子の相手。





「……なんではやてちゃんまで」

「やっぱり闇の書の事はうちがなんとかしたいなと」

「そういう気負いからなら、アタシ達としては引く事をお薦めするよ?」

「それはリーゼさん達に言われたくありませんよ。その……失礼やけど」

「まぁねぇ。でも、アタシらもレティ提督に言われてるからこその言葉なのは知ってほしいね。





ロッテと顔を見合わせて苦笑するのは、かなりしつこく言われたせい。まぁそれも、しょうがないんだよ。



提督も私達の事情をよく知っている人だからさ。だからサポート役に徹すると決めてもいたりして……今は関係ないか。



大事なのははやてちゃんがマジだって事だよ。目を見ればそこはもう、一発で分かるから。





「まぁ言っても無駄っぽいし、ぱぱっと始めちゃおうか。えっと、この場合は」

「もちろんガチの殴り合い。システムU-Dの能力を考えると、固定砲台オンリーで考えるのも怖いし。
はやてちゃん、それでいいね。そこの辺りがちゃんとできないようなら、遠慮なくメンバーから外すよ?」

「お願いします。ほな……いきます」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なのははクロノ君と模擬戦開始……でもこう、ついていくのがやっとです。しかもこれで加減してるんだからなぁ。

クロノ君は失礼を承知で言わせてもらうと、なのはやフェイトちゃんより魔力資質が低い。これはリーゼさん達も言っていたところ。

でも戦い方が『巧い』。才能の不利を努力で埋めているクロノ君は、魔導師戦というカテゴリーであればなのは達以上。



そこについては同じく技巧派でヘイハチさんが『戦いの天才』とまで言う恭文君が、未だに勝てていないところからも分かると思う。



もうなのははクロノ君の調子を見るどころの騒ぎではなく、戦っている間ずっと驚かされっぱなし。だってクロノ君、提督業忙しいはずなのに。





「こ、この程度にしておくか」

「そ、そうだね」



その結果、二人してヒートアップ。なのは達はちょっとボロボロな感じになりました。でも……正直不安が強くなって、表情をしかめちゃう。



「うぅ、加減が難しい」

「だがよくやっているとは思う。コツも掴んでいるしな。僕の方はどうだろうか」

「……なのはの自信が粉々になるほどでした」

「それはよかった。ある意味最高の褒め言葉だよ」



うぅ、フォロー無しで笑っちゃいますか。なのはは冗談抜きなんですけど。だから今、ヘコんでますけど。



「あとは戦闘スキルがなぁ。うぅ、なのはも恭文君やクロノ君みたいな技巧派になれれば」

「十分なってるだろ。教導官がなにを言っている」

「なってないよー。教導隊でそういうの勉強するたびに思うんだ。なのははこう、戦いのセンスがないって。
本当に技巧派っていう人達は、戦い方がこう……綺麗というか立っているというか」



それが目の前のクロノ君なのは、もう言うまでもない。だから自分の技量と比べると……なぁ。



「なのはは砲撃・バインド・誘導弾の三点突破だし、ワンパで今ひとつそういうのがないし」

「その技巧派に入れられている身としては、少しこそばゆくなるんだが」



その言葉に嘘はないらしく、クロノ君は困った顔をしてる。それで左手の人差し指で、頬をかく。



「だが君はそれでいいんじゃないか? ワンパな三点突破でも、突き詰めれば必殺技だ」

「そうかな」

「あぁ。それに……君がヴィヴィオと戦っているところを映像で見させてもらったが、あの近距離でのカウンターは良かった。
あれこそ君がその三点突破を突き詰めた結果じゃないのか? 僕はそう感じた。
限定された技能を磨くという事は、その完成度は普通に磨くよりも格段に高くなるという事だからな。
必然的に技能への理解度も深くなるし、幅がない事にもある程度は対応できる。むしろ君はそっちが向いている」

「本当に?」

「あぁ。運動音痴がある程度解消されているのに、スポーツ関係が苦手なところを見る限りはな」





う、反論できない。確かになのはは……うん、そんなに器用な方じゃない。というか、それは総合格闘技とかでも言ってたなぁ。

テレビの解説さんがそれっぽい事を言って、空手から出てきた人を評価してたの。でも、そっか。

なのはは自分の武器を徹底的に磨いて、それに対するスペシャリストを目指すべきなのかな。元々そういう成長してたし。



それで理解を深くして、それだけじゃ埋まらない穴はちゃんと別方向で頑張って……うん、それでいこう。なのははレイジングハートを持って、ガッツポーズをする。





「納得してくれたか?」

「うん。クロノ君、ありがと。実はその、少し考えちゃってて」

「それでいいんじゃないか? 君はまだ子どもだ。少し考えて少し迷って……そうやって進めばいい」

「うん」





迷った理由は、今よりもずっと強くなっている今の恭文君。なのはが同い年の時、あれくらいできるかなぁと考えた。



自分の不器用さとかそういうので迷ったのかも。でも……今はストップ。迷ってお仕事できないのは駄目だもの。



今できる事を精一杯やって、少し考えて少し迷う時間に繋ぐ。それがなのはの仕事なんだから。よし、やるぞー!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



電撃から解放された後、私はザンバーやライオットも使ってヤスフミに自分の気持ちを伝えた。

信じてほしくて、もっと柔らかい態度を取ってほしくて……大人になってほしくて。でも、届かない。

どんなに戦っても、どんなに速く動いても、ヤスフミは私の動きを全て読んでいるかのような行動を取る。



もう真・ソニックまで出してるのに、全く届かない。ううん、そんなのは嘘だ。私はヤスフミより強い。

だって今はそうなんだもの。それに私の方が経験もあるし、みんなから認められてる。信じられてる。

それで……ヤスフミからもっともっと信じられるように、ちょっとずつ頑張ってる。なのにどうして?



だって母さんは正しい事をできるから強いって言ってたのに。どうしてそれができないヤスフミに負けるの?

駄目だ……こんなの嘘だ。私はヤスフミに信じられたい。もっともっと私の事を好きになってほしい。

だってそうじゃなきゃ、悲しい。もうひと月前みたいに役立たずなのは嫌なの。大事な時に助けられないのは嫌なの。



だから大人になると決めた。だから局員としても魔導師としても正しい形でもっと強くなると決めた。

それなのに未来のヤスフミにそれが理解されないなんて……私はまたヤスフミに蹴り飛ばされながら、そんな恐怖を感じていた。

それでは駄目だと痛む身体に鞭を打って、ヤスフミの前方100メートルほどのところで停止。



そうだ、そんなの嫌だ。未来でも私はヤスフミに信じられないの? 頼ってもらえないの?

不運で面倒な事に巻き込まれる事の多いあの子を、助けてあげられないの? そんなの嫌だよ。

それじゃあヤスフミの側にいられない。フィアッセさんや他の人みたいに、ヤスフミが必要としてくれない。



そんなの……絶対に嫌だっ! 私は……あの子に信じてほしいんだっ! 認めてほしいんだっ!



それでみんなで一緒に、母さんが言うみたいな正しい大人になるんだっ! そうじゃなきゃ、あの子と一緒にいられないっ!





「もういいかな」

≪コントロールのコツは掴めてきましたしね。これ以上やる必要はないでしょ≫

「ううん、あるよっ!」



私の自慢は速さだ。だから最大速度で突っ込んで、ヤスフミには見えないような速度で動いて斬れば、私が勝つ。

私はそのまま全速力で突っ込み、恭文との距離を一瞬で埋める。そうして刃を振りかざし。



「……鉄輝、一閃」





ヤスフミと一瞬の交差。でも私がライオットを打ち込む前に右薙に放たれた蒼の閃光によって、斬り裂かれてしまった。

私はそのままバランスを崩し、錐揉み回転しながら地上へ墜落。そのまま動けなくなってしまう。

嘘……どうして? 今のはヤスフミが反応できるはずがない。私の、掛け値なしの最大速度だったのに。



嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ。これじゃあヤスフミに信じてもらえない。一緒に大人になれない。嫌だ、負けたくない。



私はなんとか立ち上がろうとする。でも、今までのダメージもあって身体は動かない。





「はい、いっちょ終了と。シュテルー」

『データはしっかり取れました。……さすがです、古き鉄。
アブソルートのコントロールもしっかりしていたようですし』

「いや、まだまだだよ。結構くせがあって、ちょっと苦戦してる。というか、ピーキー?」

『確かに……序盤乱れていたところがありますね。でもこれだけできるなら十分です。
次に使う時までにしっかりとしたイメージトレーニングを積めば、完璧になっているでしょう』

「ま、まだ」



それでも顔だけ上げて、私に背中を向けるヤスフミを見上げた。



「まだだよ。ヤスフミ、私達と一緒に」

『それは無理ですよ、フェイト・テスタロッサ。あなたでは彼の強さにはついていけない。……お分かりでしょう?』





その言葉が胸を貫き、身体が震える。ううん、違う。それは違う。私達の強さは、みんなから認められているんだから。



それなのにどうして私は、あの子の言葉に反論できないの? どうして私は……涙が出てくるの?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



”もどかしそうですね”



フェイトの女々しい泣き声ガン無視で下に降りていると、シュテルからそんな念話が届いた。



”本当はもっと言葉をかけたい。本当はもっと手を伸ばして話し合いたい。そういう顔をしています”

”……見抜いてるんだったら、触れないで”

”やはり過去を変える事に、忌避感をお持ちですか。ですがそこまでして、今の彼女を放置する事に意味が?”

”変えられないからだよ”



地面を両足でしっかりと踏み締めてから、僕は横目でまだ泣きじゃくるフェイトを見た。



”今ここで言葉をかけても変えられない。シュテルなら気づいてるよね”

”……あなたやアムの話を統合して、導き出される答えですから”



やっぱりか、さすがはマテリアルの頭脳労働担当と言ったところだね。だからまぁ、声はかけない。

でもそれは単純に意味がないとかそういう事だけじゃない。左手の薬指にしている『絆』は、それほど軽くはない。



”それに大丈夫。フェイトはちゃんと乗り越えて、自分の夢を見つけ直すんだから。きっとそこは、変えちゃいけない”

”そうですか。信じておられるのですね、彼女ならそれができると”

”いや、むしろ不安でいっぱいだから、シュテルが言うみたいな顔をしてる”

”確かに……ですが、本当にお強い。できれば一度お手合わせしたいものです”



あははは、なにこのバトルマニア。すっごい楽しそうな声で言ってきたんですけど。あぁ、やっぱりなのはの血が混じってるのか。



”それはやめとこうよ。実働戦力がバシバシ暴れてたら大変だし”

”それもそうですね。ですが私達がただ破壊する闇から変われば、その機会はいくらでも作れるのでしょうか。
……いえ、無駄な願いですね。私達は闇……人とともにいる事など”

”天の道を往き、全てを司る人はこう言っていたよ”



僕はアルトを鞘に収めてから、右手で天を指差した。



”同じ道をゆくのはただの仲間にすぎない。別々の道を共に立ってゆけるのは……友達”

”我々は仲間にはなれなくても、友になれる。そう仰りたいんですね。古き鉄――いえ、ヤスフミ”

”なにかな”

”私はレヴィがなぜあそこまであなたに懐くのか、ようやく理解できました”





僕はどうしてシュテルがそんな事を言うのかが理解できない。でもシュテルの声は、今までの中で一番優しかった。



こうして僕のテストは終了。アブソルートは僕向きっぽいし、これならなんとかなるかな。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



リーゼさん達との模擬戦は……思いのほか押せていった。ただなぁ、これも勝ってるとか成長してるとかそういう感覚がない。

この模擬戦の目的は勝敗やのうて、実戦形式でやり合いつつ対策プログラムを上手く使う事にあるから。

リーゼさん達は二人ともうちの技量に合わせて、攻撃を受けたりしてくれてるし……多分呆れさせとるな。



それで開始からしばらくし、うちは息をぜーぜーと切らせながらリーゼさん達の前に立っていた。なお、リーゼさん達は普通。





「よし、ここまでだね」

「あ、ありがとうございました」

「ただまぁ、なんていうか……もうちょい鍛えようか。ほんとぎりぎりだから。
ぎりぎりアウトだから。いくら指揮官とはいえ、王様がこんな調子じゃみんなが大変だって」

「はやてちゃんは今まで長所を伸ばしてたわけだし、これからは短所を埋めるべきだね。
それだけでも大分変わってくると思う。まずは……苦手だろうけど、近接戦闘を頑張ろう」

「……はい」



あぁ、やっぱり呆れてる。アリアさんが困った顔しとるし、うちはやっぱダメなんや。

でも格闘戦はやっぱり苦手なんやけど……まぁシグナム達に付き合ってもらって、ちょっとずつ改善しよう。



「ねぇはやてちゃん」

「はい?」

「辛くないかな。闇の書事件の事で、あれこれ言う人も居るでしょ」

「そう、ですね。でも大丈夫です、リーゼさん達の駄目出しの方がキツいですし。良薬はなんとやらって感じですか?」

「お、言ってくれるねー」



少しおどけた言葉に乗ってくれるロッテさんに感謝しつつ、右手を胸に当てる。


「それにうちの生命は、みんなが助けてくれたものですから。だから決めてるんです。
この生命はみんなを助けて、守って……そうやって使っていこうって。だからもう、全然平気です。
闇の書の主としての罪が許されるかどうかは分からないけど、それでもみんなが笑って生きられるようにする」



瞳を閉じ、今年の春から続いた色んな事を思い出して……やっぱそれしかないなと、決意を改める。

それでリーゼさん達に、『それでも大丈夫』と安心させるように笑いかけた。



「もし闇の書の罪を背負って死ね言うんなら死ぬし、生きて人のために働けというなら懸命に働く。
そうやって許される範囲で、許される生き方をして……それがうちの、夜天の書の主としての務め」

「……それはお薦めしないよ」

「え?」

「うん、アタシも同感。てーかアンタ、みんながなんのためにアンタを助けたのか分かってないだろ」



あれ、なんでリーゼさん達は急に表情が険しくなるん? うち、なにも変な事は言ってないと思うんに。



「みんなはね、そんな自分を削るような恩返しなんて望んでない。みんなが望んでるのは……アンタの幸せだ。
アンタが友達や家族と楽しそうにしてたり、いつか恋をして好きな人と結ばれたり……そういう幸せなんだよ」

「いや、幸せになろうとはしてます。でも」

「そこで『でも』がつく事が、おかしいって話をしてるんだよっ!」

「ロッテ」



アリアさんがいきなり怒鳴ったロッテさんの背中を撫で始めた。それでロッテさんはうちから視線を逸らす。

でも分からん。なんで、そんな悲しげな顔をするんよ。イギリスのあれもあるし、やっぱり……それやのに。



「……ごめん」

「はやてちゃん、ロッテが怒鳴った気持ちも……分かってあげてほしい。それが一番に出るのは、余りに怖過ぎる。
はっきり言えば異常と言っていい。私達にはあなたが闇の書の事を理由に、幸せを諦めてるように見える。
そんなあなたの姿を父様や亡くなったご両親が見たらどう思うかな。きっと、凄く悲しむよ」

「いや、それ意味が分かりませんよ。うちはなんも諦めてない。
ただ罪との向き合い方を示しただけです。そうする事がうちの償いやから」

「分からないか」

「はい。だってそうせんと、またあんな事が起こる。もう嫌なんです」





リーゼさん達から目逸らしてしまうのも、許してほしい。だって……そうやないか。

あれでうちは理解した。罪は許されないし、消える事もない。でもうちは、そんなの嫌や。

みんなは確かに悪い事をした。どうしようもなかったとはいえ、人を傷つけ続けた。



でもそれを反省してやり直そうとしてる。そやから……そうや、うちはこの一件が起きてから決めたんや。

うちはもっともっと偉くなって強くなって、許されない罪が許されるようにしようって。

闇の書の主であるうちが偉くなれば、誰からも文句つけられんようにすれば、きっとみんなの道も開ける。



そうすればこんな事はもう起きんし、イギリスのあれこれみたいな事もなくなる。それで……そや、そのためやったら生命を賭ける。

世界のみんながうちの家族に死ね言うんなら、うちも一緒に死ぬ。みんなだけ寂しい思いはさせん。

みんなが生命を賭けて人を救い続けろと言われたら、うちもそうする。みんなだけに苦労はさせん。



うちは闇の書のマスターとして、そういう生き方をせんとアカン。そうしなかったら、みんなの道を開けん。



もう覚悟は決まった。もう二度とこんな事でうちの子達が未来を諦めんように……それやのにどうしてリーゼさん達は、悲しげな顔をする?





「なら……まず覚えておいてほしい事があるんだ。闇の書の罪を全部一人で背負う必要は、どこにもない。
あなたが背負う罪は、みんなが蒐集してるのに気づかなかった事。事件後もそう言われたんだよね」

「……はい」

「というかね、家族の罪も顔を見た事のない誰かの罪も全部背負おうなんて傲慢だよ」

「それはアカン」



そやからうちは揺らがず、首を横に振っていける。



「うちはそれを背負って償わなアカン。そうせんかったら、誰も納得なんてせん。
許される範囲を広げる事なんてできん。その言葉は、絶対に聞けません」

「……じゃあはやてちゃんに質問」

「なんでしょう」

「あなたの夢はなにかな。一体どんな人になりたいのかな」



アリアさんはやっぱり悲しげな顔で、そんな分かり切った事を聞いてきた。



「そやからうちは、みんなと一緒に罪を償って許される範囲で」

「それは夢とは言わない。許された範囲じゃなくて、あなたはどこに行きたい? どんな風に飛びたい?」

「……すみません」



うちはリーゼさん達から顔を背けて、そのまま地上へ降りる。



「リーゼさん達がなんでそんな事言うのか、やっぱり分かりません。失礼します」





そうや、理解できん。うちの夢は、一人ぼっちやったうちの『家族』を守る事。

みんなとこの先ずっと一緒にいる事。でもそれのためには、闇の書の罪を背負う必要がある。

背負って償って、そういう姿を見せてみんなから許しを得る。そのために人を助けていく。



そうせんかったら、うちらは罪もなにも忘れてただのんきにしてるアホどもと見られる。そやから……うちは間違ってない。



それやのにどうしてなんやろ。なんでうち、リーゼさん達から逃げてもうたんやろ。なんでうちは……泣いてるんや





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なんとも言えない気持ちを抱えながら、私とロッテも訓練場から出た。結果は……保険としては上々。

はやてちゃんは個人戦闘のスキルが著しく低いという欠点こそあるけど、楔としてならバッチリ。

今回守護騎士はアタッカーのフォローに回る形だし、問題はないと思う。ただ……なんだよなぁ。



私はフェイトちゃんをぶちのめした直後の恭文君を呼び出し、給湯室でやけ酒ならぬやけ紅茶。



それで大人なあの子についつい愚痴ってしまって……相当困った顔してるなぁ。でもごめん、吐き出す相手が他に居ないの。





「ねぇ恭文君、未来ではやてちゃんは」

「それが原因で大失敗します。リーゼさん達は知ってるか分かりませんけど、聖王教会にいる騎士さん絡みで」

「……もしかしてカリム・グラシア?」

「知ってるんですか?」

「知ってるもなにも」



ロッテはそこで紅茶をまた一口飲み、酒でも煽ったかのように息を吐く。



「クロ助から聞いたんだけど、今回の事も予言で出てたらしいんだよ。『運命を変革する者』とかなんとか言ってさ」

「クロノが今回少し出遅れたり、マテリアル達への協力要請に熱心なのはそこが理由。
騎士カリム率いる解読チームからの助言を受けてるっぽい」

「それでですか。そういやこの頃から知り合いだったなぁ」



でも予言絡み……大体の状況は察せた。予言に対処しようとして、それで痛いしっぺ返し食らったとか?

はやてちゃんは騎士カリムとも仲良しっぽいし、十分ありえる。……できればそんな事にならないようにと願っちゃうのは、余計なお世話かな。



「てゆうかやすっち、アンタそんな事話していいの? ほれ、未来どうこうって」

「これくらいなら心配ありませんよ。みんな、この一件の事は忘れるでしょうし」

「「はぁっ!?」」



なんかとんでもない事言い出したので驚いてると、恭文君は私達はガン無視で紅茶を一口。



「僕、前にも言いましたけど、未来のフェイト達からこんな事があったなんて聞いてないんですよ。
てーか知ってたらなにかしら反応するはず。オーギュストの時もフォン・レイメイの時も、みんな側にいるなり連絡を取ってましたから。
あむの事だって同じなんです。あむは今知り合ったわけじゃなくて、もう少し先で知り合う」

「でも察するに、未来のフェイトちゃん達はそこをスルー。そうすると」

「やすっちにも分からないように演技してたか、元々この事を『覚えてない』かのどっちかと」

「えぇ。それでフェイトのボケ具合を考えると、間違いなく後者です。
フェイトはそんな演技できないですから。大根もいいところだし」

「「あー、うん。言いたい事は分かる」」





さすがに付き合いの長い恭文君が言うと、説得力あるなぁ。なんのかんので12年とからしいし。



それで……左手の薬指にしている指輪を見るに、相当深い付き合いみたい。



でもこういうところでも、ちゃんと指輪してるんだなぁ。もしかしなくても、かなり愛妻家になってるとか?





「じゃあさ、やすっち」

「はやてに未来の事を教えて説得とか、絶対嫌ですから」

「まぁアンタの予測通りなら、アタシ達はこの事忘れちゃうし……つまり変わらないと」

「変わりませんね。というか、変えられませんよ」



恭文君は新しい紅茶を入れた上で、もう一口飲む。それからカップを置いて、私達が持っていた空のカップを回収。

それでなにも言わずに新しいのを入れてくれる。結構自然な仕草だったので、ロッテと一緒に驚いてしまった。



「今のはやては自分自身の夢や幸せ、仲間の信頼なんていらない。
みんなと家族が自分達を認めて、優しくしてくれる事を望んでるんですから。
しかもそれだけしか見えない。そのためにって……厨二病ですよ、厨二病」

「またキツい事を。アンタの目からはそう見えるの?」

「じゃあリーゼさん達の目からはどう見えるんですか。少なくとも良い形には見えないでしょ」

「まぁそれを言われると……ねぇ」



実際恭文君が言うような事をやりそうだったから、私達もちょっとお説教しちゃったわけだから。うん、反論できないわ。



「ま、バカの事は放置でいいでしょ。勝手に潰れて勝手に復活しますし」

「いやいや、父様への報告もあるからさすがにそれは」

「右に同じ。まぁ、そう言ってくれる事には感謝だけどさ」

「感謝ですか? 怒るとかじゃなくて?」

「うん、感謝でいいの」





だってこの子はさり気なく、はやてちゃんがこれで潰れてもまた立ち上がれるって教えてくれたんだから。

私達はこうやってお茶を飲んだ事も忘れちゃう公算が大きいから、きっとなにもできない。

または未来だとはやてちゃんが死ぬなり苦しむなりしていて、恭文君がそれを隠しているだけかもしれない。



でも……もし本当にそうなっているとしたら、私はとても嬉しい。だってあの子は、家族だから。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



リーゼさん達と紅茶を美味しく飲んだ後は、再び空へ飛び立つ。現状でシステムU-Dはまだ見つかっていない。

というか、どっちにしても王様が復活するまで僕達は奴に攻撃ができない。だからこそ……闇の欠片狩りだよ。

もちろんこれは、ただの時間潰じゃない。闇の欠片はシステムU-Dを目指して集結し、闇の書そのものになると予測されている。



その闇の欠片を掃討するという事は、闇の書の復活とシステムU-Dのパワーアップを防ぐ意味合いがある。



ただその欠片も、意図していないところとはいえ再生チート軍団の可能性がある。決して油断はできないね。





「それでクロノさん、まずは」

「ヴィヴィオとアインハルトの捜索もしつつ、警戒態勢の維持。
お前ももう分かっているだろうが、闇の欠片を掃討だ」

「なら僕は」



僕は少し日が傾いた空の中、みんなから背を向けて南南西の方角を見る。

あむはアースラで待ってるように言ってあるし、大丈夫でしょ。ここからは僕だけの喧嘩だ。



「蒼凪、行くのか」

「えぇ、奴を地獄へ送り返さなきゃいけないですから」

「……気をつけろ。あと、決して死ぬな。死なれると今のアイツとどう接していいのか、分からなくなる」

「気をつけます」

「あの、待ってっ!」



そのまま飛んでいこうとしたら、いきなり後ろから声がかかった。やっぱりこうなるのかと思いつつ、頭だけそちらへ振り向く。



「……あむ」

「あたしも行くっ! てゆうか、さすがに一人は危険じゃんっ!」

「駄目、邪魔なのよ」

「蒼にぃ」



そんなあむの脇に、黒服姿なトーマが現れる。それで僕に笑顔でプレッシャーをかけてきやがる。

てーかトーマも別行動予定だったのに、ついてくるつもりかい。僕は静かに息を吐き、視線を進行方向へ戻す。



「フォン・レイメイと遭遇したら直ちに退避。いいね?」

「うん」

「あむさんの事は俺達でもフォローするから、心配ない。それじゃあみなさん」

「ちょっと暴れてきますね」

「うん、気をつけてな」





やっぱりこの一団で出発……目的はフォン・レイメイの欠片を止める事。



それも早めに見つけて仕留めないと、重傷人がどんどん増える事になる。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



未来組はそれだけで行動かぁ。それがちょっと寂しくもあるけど、しょうがない事と納得しよう。



多分変に気を使わせちゃうしなぁ。てゆうか、これ以上使わせてるわけだしここは。





「待ってっ! 私も行くっ!」



フェイトちゃんが飛び立ったみんなの方へ向き直り、跳躍。

私はとっさに手を伸ばすけど、その前にフェイトちゃんが光に包まれ消える。



「フェイトちゃん、駄目だってっ!」

「待てー! ボクを忘れるなー!」

「レヴィー!?」



それでレヴィもフェイトちゃんを追いかけるように飛び去っていった。

二人はなのはと、闇の欠片退治のはず。それなのに……置いてけぼりだよっ!



「あぁもうっ!」

「クロノ君、どないしよ」

「トーマやあむに任せておこう。一応こうなる事も考えて、事前に相談していた」

「「そうなのっ!?」」





うわ、頷いちゃったしっ! あれですか、なのはじゃ押さえ切れないとか思われてたのっ!?



いや、事実だけどっ! 事実だったけどっ! 駄目だったけどっ!



……あ、まさかそういうのがあったからあむちゃんが外に出るのとか見逃してたのかなっ!





「あむとトーマ達が押さえるはずだ。いや、『押さえられる』と言った方がいい」

「二人ともそれなりに……か。でもレヴィは」

「あの子はむしろ恭文といた方が安全だろう」

『あー……うん』





レヴィは恭文君に懐いてるからなぁ。というか、わんこみたい。でも……ううん、やめよう。



あの子はあんな感じだからOKとしても、ディアーチェとシュテルの考えが今ひとつ読み切れない。



正直いつ裏切るかも分からないんだし、ここは油断しないように。それがなのは達の仕事だよ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



結局フェイトとレヴィもついてきた。正直一人の方が動きやすかったんだけど、これはしょうがないか。



もうそこは腹をくくって、早速闇の欠片掃討を開始。その結果僕とあむは、頭を抱えるはめになった。





「あれは」

「あぁもう、二度と見たくなかったのに」





僕達の目の前に現れた欠片は、青髪で額に白いハテナをつけた女の子。

分度器の翼に鉛筆型のミサイルを背負い、地球儀の腰パーツ……うん、あれティーチャー・ドリームだよ。

なぞたま事件の時にわかながキャラなりさせられたアレが、辺りをキョロキョロしていた。



僕とあむ、どっちかの記憶から再生されたな。まぁ危険度は低いだろうから安心した。





「よし、見てろっ! あんなのボクが一撃で仕留めるっ! 唸れバルニフィカス・ブレイバー!」



そしてレヴィはマントを羽ばたかせながら最大加速……それでなんでおのれは突っ込むんだよっ!

止める間もないっておかしいだろっ! 僕達の反応を見てなにかを察しろよっ!



「恭文っ!」

「あぁもう、あのバカは」



まぁあれなら大丈夫かなと思っている間に、今度はフェイトが……アイツもバカだろっ!



”ヤスフミ、しっかり見てて。私は強いんだから。ヤスフミが一人で戦う必要、ないんだから”

”ホントバカだよねっ! いい、それは”

”いいから見ててっ! この子もフォン・レイメイも私が止めるから……私を信じてっ! 一緒に戦ってっ!”





なんで泣きそうな声出すのよっ! 僕なにも悪い事してないよねっ! おのれらバカなだけだよねっ!



……とにかく最大加速で突っ込む二人に気づき、わかなはにこりと笑みを浮かべた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「前へならえっ!」



あの子は自分へ迫る私達を見て、そう声をあげながら左手で持った指し棒で私達を指す。

なにか攻撃が来るかと思って、私はレヴィとなにも言わずに左右へ散開。そのまま相手の両脇を取って。



「あ、あれっ!?」





取ろうとした時、急に身体が動かなくなった。それで私の意思とは逆に、空中をとたとたと歩きながらレヴィに再接近。

レヴィも私に近づいてから、バルニフィカスを手放し背を向けた上で両腰を当てる。

それで私はバルディッシュを手放しながら、レヴィに向かって両手を伸ばし……これ、学校で整列する時のあれっ!



地面に落ちていくバルディッシュ達を回収しようとしても、全然身体が動かない。

じゃあヤスフミ達に念話してどういう事か……あれ、念話ができないっ!

というかあの、私達なんか落ちていってないっ!? 身体が変な薄紫色の光に包まれてるしっ!



それで私達はそのままゆっくりと地上へ着地。しかも『前へならえ』の体勢だから、微妙に滑稽。





「休めっ!」



また勝手に身体が動いて、あの子に向き直りながら両手を後ろに回す。



「あれ……なんでだっ! なんで身体が動かないっ! なんかギチギチだー!」

「あの、私も同じ。これ……なに? 魔法じゃないし」

『二人とも、話を聞かないからそうなるんだよ』



レヴィと涙目になっていると、場にヤスフミの声が響いた。

これ……空気振動による、スピーカー魔法? 前に使ってたの見た覚えがある。



『その子は相手に『先生』として声をかける事で、自分の言う事を聞かせられるの。
だから不用意に近づいたら動き止められるよ? あと、異能力関係も使えなくなる』

「えぇっ! なんだそれっ!」

「ヤスフミ、そういう事は早く話してくれないかなっ! どうしてなにも言わなかったのっ!?」

『……説明する前に飛び出したのはおのれらだろうがっ! よく思い出せっ!
僕は話そうとしたよっ!? ついさっきの事だから分かるでしょうがっ!』

「「そうでしたー!」」

「こら、私語は慎みなさいっ!」





それで私達の口が一気に閉じられる。というかあの、苦しい。喋る権利すらないっていうの?

どうしよう、これじゃあ私達の生殺与奪権はあの子にあるも同然。

これじゃあヤスフミ達のフォローも期待できない。しかも魔法も使えないんじゃ……ううん、落ち着け。



この子が先生だっていうなら、私は大人として説得すればいいんだ。まずは話を合わせよう。いきなり攻撃するとも思えないし。





「そこのあなた、あなたの夢はなんですか?」

「夢……あの、夢ってなにかな」

「はい?」

「ボク、夢ってよく分かんない。人間じゃないし」





本気で分からないと言いたげなレヴィに、あの子が驚いた顔をする。……まぁそうだよね。

レヴィは闇の書でずっと眠ってたわけだし、私達のような大人としての夢があるとは思えない。

だから答えようがないのも分かる。でもそうなんだ、この子達はそういう夢すらもないんだ。



それは昔の私と同じ……胸がちくりと痛んでいる間に、『先生』は腕を組んでうーんと唸る。





「夢が分からない……そうですねぇ、夢というのは簡単に言えば『自分のやりたい事・なりたい自分』でしょうか。
人は夢を叶えるために努力し、未来へ近づいていくのです。だから夢は大事ですよ?」

「ふーん、そうなんだ。でもやりたい事に、『なりたい自分』……あ、『なりたい自分』はともかくやりたい事はある」

「なんでしょう」

「ヤスフミとデートッ! すっごく楽しいらしいんだっ! それで遊園地ってところに行きたいっ!」





レヴィは目をキラキラさせながらとんでもない事を……うん、とんでもない事だよ。イライラするくらいとんでもない事。

それは夢なんかじゃない。夢っていうのは、みんなから認められる大人になって、初めて叶えられるものを言うんだから。

私で言うなら執務官、なのはで言うなら教導官――そういうのが夢って言うんだ。



これは叱らなきゃ。それで教えなきゃ。そんなのは絶対夢じゃないって教えないと、イライラしてしょうがない。





「レヴィ、違うよ。デートは夢じゃ」

「素晴らしいっ! とても素敵な夢ですねっ!」

「えぇっ! ……あの、夢ってそういうのじゃないんじゃ。少しおかしいよ。もっとこう、どんな仕事に就きたいとか」

「いいえ、これでいいんです」

「ううん、違う。レヴィ、そんなのは」

「黙りなさいっ!」



先生の一喝で、自由を取り戻していたはずの口が動きを止める。というか、声すら出ない。

それで先生は戸惑っている私をつまらなそうに見てから、レヴィに対し優しく微笑みかける。



「夢の形は人それぞれ、千差万別。あなたにとってそれが本当にしたい事なら、夢なんです」

「これが夢……ボク、人間じゃないのに夢を持ってるの?」

「えぇ。だから自信を持ってください。あなたはヤスフミ――蒼凪君とのデートを楽しむ事が夢。
二人で遊園地に行く事が夢。例え小さくても、その輝きは本物だと先生は思いますよ」





蒼凪君? え、ちょっと待って。この子ヤスフミの友達なのかな。……そっか、だから能力を知ってたんだ。

じゃあこの子もレアスキルでこういう事ができるのかな。なのにこんな風にしか使えないなんて、悲し過ぎる。

それにこの子も夢を勘違いしている。そんなのは夢じゃない。母さんが教えてくれた事と違う。



そんな勘違いをなんとかしたいのに、それもできない。私はただ、笑顔のレヴィを見て苛立つしかなかった。





「そっか、これが夢なんだ。……なんかドキドキかもっ! 先生、ありがとっ!」

「いいえ。それではあなたには、はなまるをあげますね」

「はなまる?」

「『とってもよくできました』という、ご褒美ですよ」



先生は『ご褒美』という言葉に目を輝かせるレヴィの額に、右手で取り出したハンコをぽんと押す。

額に刻まれた赤い印は確かにはなまるで……それを受けた途端、レヴィが幸せそうな顔のまま目を閉じた。



「レヴィっ!」

「さて、あなたの夢はなんですか?」

「え……あの、離してっ! あなたは悪い夢を見ているだけなのっ! 私がすぐに眠らせてあげるからっ!
なによりあなたは勘違いしてるっ! レヴィの言った事は夢じゃないっ! 夢っていうのは」

「話を逸らさないでください。あなたの夢はなんですか?」





話を逸らしてるのはそっち……そう言おうとしたのに、声が出ない。まさか、またっ!?



これは、先生の言う事以外は話せないって事なのかなっ! こんなのいくらなんでもありえないよっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ヤスフミ、フェイトとレヴィがなにもしてないんだが」



僕達は十分に距離を取った上で、二人の様子を観察中。

ショウタロスは自分サイズの望遠鏡を覗き込みながら、こめかみを引きつらせる。



「できないんだよ。現にあむとりま達も同じくだったし」

「そうでしたね。この手の能力に耐性があるお兄様は自由でしたけど」

「全く、バカな奴らだ。調子に乗るからこうなる……はむ」



ヒカリ、そのクッキーはどこで調達した。もう僕真面目に聞きたいんだけど。

しかし……なぞキャラなりゆえの能力も完全再現か。こりゃキツいぞ。



「蒼にぃ、あれなんだ?」

「あたしと恭文の友達」

【「えぇっ!」】

「でもたまご関連の事件で、『学校の先生になりたい』って夢を暴走させられちゃって」

「なぞキャラなりと言うんですけどぉ、あの状態になっちゃうとみんなに自分の夢を押しつけちゃうんですぅ」





なぞたま編を見ていたみんななら分かるだろうけど、わかなの能力はレアスキルでもなんでもない。

先生になりたいという元々の夢が、なぞたま――ルルの夢が混入した事によって暴走した結果にすぎない。

ああいう形で暴走したのも、なぞたまが誰かにルルの夢を押しつけるものだったせい。



今わかなの欠片は、レヴィとフェイトに夢を押しつける事でそういう錯覚を起こしてるんだよ。





【押しつける……あぁ、だから動きを制限して、先生っぽく振る舞ってるんだね】

「しかも『なぞキャラなり』って一括りにするという事は、その状態の奴全員があんな力を?」

「使えるよー。それで夢を叶えたーって錯覚しちゃうんだー。でも」

「もうしばらく放置でよくないかな? さすがにボクもあれは」

「ここはわかな先生に叱ってもらった方がいいかも知れませんねぇ」





キャンディーズがやや引き気味になるのが、今のフェイトだよ。厨二病って恐ろしいねー。



それに欠片なわかなは、能力を除けば言っている事は至極全う。もう少し様子を見る事にした。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さぁ答えなさい。あなたの夢はなんですか?」

「私の夢は……あの、昔悲しい事があったんです。だから私と同じように悲しい事で、未来を諦める人を助けたくて」

「そういう事ができる人になりたいと……なんて素晴らしいっ!
自分の痛みから誰かの痛みを想像するっ! それはとても大切な事ですっ!」



よし、食いついた。この調子で説得して、拘束を解除させる方向に話を持っていく。

大丈夫、できる。母さんみたいに信じる事の大切さを説けばいいんだ。この子より私の方が大人なんだから。



「それでみんなに私の家族を信じてほしい。大事な人に、私の仲間と信じる組織をもっと信じてほしい。
そのためにはもっともっと頑張って、成長して……みんなから認められるようになる。
それが夢だよ。夢というのはみんなから正しいと認められる大人になって、初めて叶えられる。だからレヴィの夢は夢じゃない」

「……駄目ね」

「え」

「みんなから認められる事は確かに大事です。でもそれだけが目的になって、あなたは自分を見失っていませんか?
なによりあなた、それで本当にいいと思っているんですか。そうやって誰かの夢を否定し、嘲笑うのは楽しいんですか」

「嘲笑っているわけじゃない。ただ本当の事だから……母さんが言ってた。
夢はそういう大人になる事で叶えられる、社会的なものなんだって。
レヴィのは夢じゃなくて、ただの願望。それを夢と教えるあなたは間違ってるよ」



母さんから教わった通りにそう言ったのに、あの子は更に怪訝な顔をする。

というか……ちょっと待って。どうしてそんな悲しげな顔をするの? 私、間違った事は言っていない。



「そんなあなたへ先生から一つ質問です。もしあなたと同じように痛みに震え、未来を諦めた人がいるとする。
あなたはそれを助けたい。でもみんなは『絶対に助けては駄目』と言う。もちろんその人に非はない。
そうしたらあなたはどうしますか? みんなはあなたの考えを決して認めません。支持しません」

「それは……あの、認めてもらえるように訴えかければいい。そうしないと駄目だって母さんが言っていた。
組織や社会を信じ、みんなから認められる行動を取れば夢は叶えられるし大人になるって」

「その間にその人は死んでしまいます。今すぐ助けるか、見捨てるかを選ばないといけない。
そして勝手をすればあなたもその人と同じように否定される。さぁ、どうしますか?」

「だからあの、私はみんなを信じている。そういう人なら訴えかければきっと信じてくれる。
そうする事が正しい大人なんだ。どうしてそれが分からないの? 母さんが」

「それがダメだとなぜ気づかないんですっ!」



いきなり怒鳴りつけられ、私は身を竦ませる。その間に先生は私へ顔をぐいっと近づけた。



「いいですか、社会的に認められる事は大人になる事とは関係ありませんっ!
大人になるという事は、自分の意思で取捨選択をするという事ですっ!
あなたは自分の夢に嘘をついているっ! 夢より誰かに認められる事の方が大事になっているっ!」

「だからしているよね。みんなを信じて認められた行動を取るって」

「ではどうして先ほどからそれに対し、逐一『母さんが』と付け加えるんですかっ!
それはあなた自身が、そういう後押しがなければ『これが自分の考え』と胸を張る事すらできないからではありませんかっ!?
あなたのそれこそが夢ではありませんっ! ただの甘えであり依存っ! あなたは卑劣な人間ですっ!
自分の考えを自分自身のものとして伝える勇気もないくせに、レヴィさんの夢を嘲笑うっ! 本当に先生は悲しいっ!」

「そんな……違う。私は、母さんを信じてるだけなのに」

「いいえ、あなたは依存しているだけですっ! お母様を隠れ蓑にして、人と向き合おうともしない臆病者っ!
そんな事を言うのであれば、人の考えではなく自分の考えとして言いなさいっ! あなたみたいな情けない子には」



先生はすっと後ろへ下がって、指し棒で私を指す。でも、理解できない。その表情が悲しげなのが分からない。

むしろ悲しいのは私の方だよ。みんな私やアルフ、母さんを信じてくれない。それが嫌なのに、みんな傷ついてるのに。



「その弱く幼い心を鍛え直すために高速腕立て伏せ十万回っ! 始めっ!」

「え……えぇっ!」





でも悲しんでいる余裕なんて、全くなかった。私は一気に地面に伏せ、腕立て伏せ開始。

しかも……身体が高速で動いている。1秒に一回くらい腕立て伏せる感じかも。

というかあの、痛いっ! なんか呼吸が苦しくなり始めてるし、腕も痛み始めてるしっ!



だからこれはなにっ!? 私なにか間違った事言ったかなっ! 言ってないよねっ!





「無理……無理無理無理っ! 十万回なんて無理だよっ!」

「言い訳しないっ! どうしてそれが駄目だと」

「気づいてほしいんだけどねぇ」



その声が響いた瞬間、勝手に動いていた身体に再び私の意思が宿る。それで地面に思いっきり叩きつけられた。

その痛みに呻きながら顔を上げると、先生が膝をついて地面に崩れ落ちた。その背後には……アルトアイゼンを抜いたヤスフミがいた。



「悪いね、わかな。そこまでやられるとさすがに時間食い過ぎだから、ちょっと眠ってよ」

「蒼凪……君、どうして」

「大丈夫、これは悪い夢だから。目が覚めたらわかなは、もっと素敵な先生になれてるよ」

「それ、意味分からない。でも、もっと素敵な先生になれてるなら……それでもいいかなぁ」





あの子は笑いながらゆっくりと光の粒子へと分解されていく。どうもその、背後から襲いかかって仕留めたみたい。



私は荒く息を吐きながらもう一度地面に倒れ、寝返りを打った。た……助かった。さすがにあのペースで腕立ては死んじゃう。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



どうしてこんなところにいるのか分からないが、とにかくアジトに戻ろうとした。

だが……そんな意識より更に強い感情が私を蝕む。私は今、誰かに呼ばれている。

その正体が分からなくて首を傾げている間に、いくつかのガラクタと遭遇した。



ちょうど良いので苛立ち混じりに少し遊んで、壊してやろうかと思った。だがそこで妙な事が起こった。

倒したガラクタは私に陵辱を受ける事を拒否するかように、砕け散ってしまう。

そんな事を数度続けるうちに、気づいた事がある。まず私は……既に死んでいるという事。



次元転送しようとしても、あの妙な声のせいでうまくいかない事。そして……ここが過去だという事。

私自身もあの砕け散ったガラクタと同じだという事を、それとなく察した。

私の生命はあの蒼い光に食い潰され、砕け散った。私を殺したのは、当然あの粗悪品。



どうしてこんな事になったのかは分からない。だが私には、やらなければならない事ができた。



なんとなしだがこの近くに目的のものがあるように感じて、探索を開始したのだが。





「――寂しいっ! それは余りに寂し過ぎますっ! 先生はとても悲しいっ! どうしてそう考えてしまうんですかっ!」



一発目で眼鏡の少女に捕まり、壊そうとしたところで学校ごっこの開始だ。

夢はなにかと聞かれたので、正直に『人を踏みつけ殺して楽しむ事』と答えたところ、なぜか泣き出した。



「あなたは自分で自分の夢や願いを育てるという気持ちを忘れてしまっているっ! そんな事をしなくても夢は育てられますっ!
自分自身が変わろうとする気持ちをなくしてしまったから、そうなるんですっ!
この世界に生きとし生けるもの全ての人達は、あなたが壊して楽しむために存在しているのではありませんっ!」

「さて、これはどうしましょうかねぇ。魔法も一切使えなくなっていますし……だが、壊し甲斐はありそうだ」

「話を聞きなさいっ! ……分かりましたっ! 先生があなたの歪んだ人生観を必ず修正しますっ!」





歪んでいる? それは違う。どうもこの先生もどきは誤解をしているようだ。私達の世界ではこれが普通。

最高評議会がその最も足る例ではないか。奴らは自分以外の誰かを踏みつけ、悦に浸っている。

それは管理局員もそう。正しさを振りかざし、認められる事で幸せを感じ……そのために誰かを踏みつける。



それが私達の世界で敷かれているルール。……まぁ一部例外な物好きがいるのは認めるが。

私としてはそういう存在には一定の敬意は払っている。なぜならそんな方々を踏みつけるのは、楽しいのだから。

その希望が絶望へと変わる瞬間の表情が堪らない。それは正しさを笠に着て調子に乗っている愚図では得られない感覚。



そう、だからこそ私は……私を殺した粗悪品を殺さなくては。今度こそ奴を絶望の淵に追い込む。



全ての生命は、私に踏み潰され絶望するためにある。その瞬間、一瞬だけ強く燃え上がる焔を見せるために、生きているのだから。





(Memory15へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで闇の欠片掃討作戦が開始。でも……やっぱり出てきたチート。
しかも出てきた中では本当に緩めな相手なのに、フェイトとレヴィは一瞬で敗北」

フェイト「こうして見るとヤスフミ達ってドキたまで、能力特化なチートとかなりの数戦ってるんだよね。……あ、フェイト・T・蒼凪です」

恭文「蒼凪恭文です。特になぞたま編に入ってからはね。なぞキャラなり、なんだかんだで強敵だったから」



※みんなもしかしたら忘れているかもしれない、なぞキャラなりの恐ろしさ。

・一度説得して×たまへ変化させないと、浄化技が通用しない。どれだけ殴ろうと、そこをなんとかしないとだめ。

・自分の夢を相手に押しつける、強制力の強い能力を行使。
やり方はその人が持つ夢次第だが、影響を受けるとほぼ行動不能。
そうはならなくても魔法などの異能が使えなくなる事がある。



恭文「大ボスのルルに至ってはみんなの『夢を分からなく』して、完全にキャラなりを封じたしなぁ。
あれは大変だったよ。キセキ達もたまごに閉じ込められて、もうどうしようもないって状況だったし」

フェイト「……よく勝てたよね、みんな。特に異能関係が使えなくなるっていうところが恐ろしい」

恭文「作者も改めて驚いてるよ。まぁ色んな状況に助けられた事が大きかったけど」



(ただ異能関係が使えなくなるのは、『能力の影響で意識不明』というのも含まれています。
劇中で言うと……ドキたま/だっしゅ最終回辺りのなぎひことか、シンガー・ドリーム回のラン達とか)



フェイト「あ、そっか」

恭文「ある種接触致死型の能力だからなぁ。相当注意しないと」

フェイト「……過去の私の、バカ」

恭文「フェイト、大丈夫。作者の厨二病時代はもっと痛かったらしいから」

フェイト「そんな慰めいらないよっ! それはともかくヤスフミ、今週のバトスピ覇王でついに天剣の覇王が出るらしいけど」

恭文「出るよねー。実は作者も楽しみにしてるんだー」



(どんな効果かなー。個人的には単純なパワーアップじゃなくて、バゼルみたいな感じがいいけど)



フェイト「それはそれとして、31話でチヒロ君が」

恭文「……あぁ、あれね」



(そう、あの衝撃的なお話です。そして水沢史絵さんの力を思い知ったあれ)



恭文「よかったじゃないのさ、フェイト。一緒にプリキュア出来るよ」

フェイト「そういう問題っ!? というか、A's・Remixではチヒロ君にフラグを立てるっていうご意見が来てるんだけどっ!」

恭文君「大丈夫だよ、フェイト。それは全てA's・Remixの話。僕には関係ない」

フェイト「あ、そっか」



(『いやいや、関係あるからっ! てゆうか、あれで僕がバトルとか展開として駄目じゃねっ!?』)



恭文「というわけでフェイトの憂いもすっきりしたところで、今回はここまで。天剣の覇王、楽しみだよねー」

フェイト「そうだね。特にジーク・ヤマト・フリードが……あれだし」

恭文「……大丈夫、その分三枚積みしたキンタローグが良い仕事してるから」





(そして古き鉄のデッキは、古竜デッキと皇獣デッキの間の子となりました。
本日のEDsurface『焔の如く』)










※フェイトが説教から解放されていたその頃


初恋・ドリーム「う、うぅ……うぅ……真城さん、好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

なのは「にゃー! この子はなにー!? いきなり告白とかないからっ! それに真城さんって」



(ツッコんでいる間に、ハートマークが直撃)



なのは「……恭文君好きだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! なのは、本当はいじめられると嬉しいのっ!
構ってくれると幸せなのっ! だからいっぱいいじめてっ! なのはをもっと罵ってー!」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



はやて「なのはちゃん……ついに自分を認めたんやな」

テントモン(とまと)「まぁ意味ないですけどなぁ。この事もきっと忘れるんでしょうし」





(おしまい)




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あきゅろす。
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