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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory13 『GEARS OF DESTINY/歯車の宿命』



前回のあらすじ――改めて現状を振り返り、恭文が教えてくれた『どうあがいても絶望』という言葉が頭をよぎった。



さすがにタチが悪過ぎる。恭文を捕まえたら『一体どんな人生送っているんだ』と少し問い詰めよう。これはありえない。





「それでクロ助、システムU-Dもフォン・レイメイも総力戦なのはよしとして……具体的にはどうするのさ」

「ここは目的を捜索に絞ろうと思う。現状では戦力も少ないし、それが妥当だ。
対象はアミタ・フローリアンの妹、キリエ・フローリアンとマテリアル達だ」

「マジで妥当なとこだね。クロノ、確認だけど二人はあそこにいた理由は分からないんだよね」

「アミタ・フローリアンは現在も眠っているからな。だが予測はしている。
例えばキリエ・フローリアンを追いかけて、アミタ・フローリアンもシステムU-Dと接触。
はやての話から考えても、彼女はキリエを止めたがっていたのは間違いない」

「そのキリエ某がシステムU-D目当てだから、あの子も自然と追いかけていた。でもやられちゃった……ありえるね」



本当に僕達は出遅れている。だがそれもここまでだ。大元の事情を知っている参考人を、歓迎できない事態からとはいえ労せず確保できたからな。

すんなりと話が聞けるとありがたいんだが……だからこそ、それができていない今の僕達には探索しかやる事がないわけで。



「あ、それとマテリアル達は」

「消えているな。なのでそこは『できれば』という条件がつく」

「でもクロノ的には、あの子達の力を借りたい感じ?」

「もちろんだ」

「……もちろんと言い切っちゃうか」



やはり闇の書事件の事があるからなのか、リーゼ達の反応は芳しくない。

だが僕としても譲るつもりはないので、右手を挙げてモニターに彼女達の姿を出す。



「ねぇクロノ、一応言ってみるけど……無限書庫に調査を頼むのは」

「そうだよー。アタシ達が被害者だって事を抜きにしても、それは賛成できないって。
現にマテリアルの王様は厨二病全開で、時代錯誤な破壊願望持ってるんでしょ?
情報が足りないからこその『もちろん』なのは分かるけど、ここはあの子頼った方がいいんじゃ」

「それは恐らく無理だ。もちろん無限書庫に調査は依頼しているが、有益な情報は出てこないだろう」

「理由は?」

「今回は闇の書事件や他の事件と違って、はやてや守護騎士達ですら知らなかった存在が相手だ。
恐らく無限書庫を調べたとしても、情報が出る可能性は低い。というか、あるなら事件当時にユーノが引き出している」





これでも僕はユーノの能力を信頼している。これは闇の書関連の情報でもあるし、絶対に引き出せたはずなんだ。

それに闇の書事件の時だけではなく、ひと月前の事件でも報告書作成のために調査を依頼している。

つまりユーノが二度もそれ関連の調査をしているのに、今の今までシステムU-Dの事は出ていなかったんだ。



リーゼ達もそこは察してくれたらしく、困った様子で顔を見合わせ始めた。できればこれで納得してくれると嬉しい。





「まぁそういう事なら、アタシは納得だ。アリア」

「私も同じく」

「納得してくれるか」

「私達は引退組だしね。現場指揮はクロノ提督だから、その判断には従うよ」

「そうそう。それにここでクライド君や今はナーバス突入なリンディ提督の事を言い出すのも違うしね。でも、成長したねー」



ロッテはそこで表情を崩し、右手で僕の頭を思いっきり撫でてくる。それで思わず目を閉じてしまった。



「闇の書事件の時、アタシらと父様に啖呵切った時より大きくなってる。うん、その調子ならクライド君超えも間近だね」

「よしてくれ。あと、頭を撫でるな。僕はもう大人だぞ? とにかく……マテリアル達との接触は必須。
だが今どうしているかは不明だ。それなら優先すべきはやはり」

「未来のやすっちやあむちゃん達になるか」



その通りなので、リーゼ達に頷きを返した。できればギブアンドテイクでなんとかしたいものだが……フェイトとアルフがなぁ。



「しかしやすっち、敵に回すとここまで厄介とは」

「まだ敵じゃないよ」

「味方でもないよ。その妙なスキルやらなんやらの問題もあるなら、すんなりとついてきてくれるとは思えないし」

「現にそのまま……だしなぁ。でもさ、気持ちは分かるんだよ」



リーゼ達は腕を組みながら、やたらと疲れた表情を浮かべた。



「女装だしね」

「女装だったからなぁ」

「女装じゃあな」





そこなんだよなぁ。恐らくはやてとなのはも全く同じ理由で同意していると思われる。分かっていないのはフェイトだけだ。



というか、アイツはバカか。普通そこツッコむだろ。それで空気読むだろ。どうしてそれができないんだ?



改めて疑問に思っていると、リーゼ達は腕組みを解除して腰に両手を当てて伸びをする。





「とにかく分かった。さっきの話は通信で聞いてたから、アタシらも遭遇したら説得する」

「それでフォン・レイメイの事も聞いてみるよ。能力の事を考えると、あれは恭文君の記憶から出てるだろうから」

「よろしく頼む。あ、もちろん他も同様だ。どういう経緯でここに来たのかは確認したい」

「「了解」」





それでは捜索開始だ。僕はリーゼ達と分かれて適当にうろついてみる。



ここは無目的というわけではなく、到着したばかりなので現場の状況を直に見る意味合いもある。



それで闇の欠片も倒しつつ……あとは本当に運良く接触できる事を祈るだけだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なんとか逃げられたのはいい。闇の欠片を追いつつ順当に潰していくのもいい。



どでかいエネルギー反応を掴んで、なにか手がかりがないかと追っているのも良い。ただ問題がひとつ。



空を移動している俺達が気になっている事は……蒼にぃのテンションが異常に低いって事だ。





「もう嫌だ」

「恭文、アンタしっかりしなって」

「くそ……どうしてこうなにもかも上手くいかないんだ」

「いや、それアンタにとってはいつもの事じゃん。……今回はぶっちぎりだけど」



あむさん、手馴れてるなぁ。俺とリリィは蒼にぃが出してる瘴気にやや圧され気味なのに。

とにかく夜はとっくに明けて、もうすぐお昼。そろそろお腹も空いてくる頃だが。



【トーマ、そろそろお昼にしない? ほら、ホテルで色々仕入れたし】

「そりゃいいな。蒼にぃ、あむさん」

「あー、いいね。ほら恭文」

「そうだね、ご飯食べて嫌な事なんて忘れようか。それとシオン、戻ったらしばらくメザシ地獄だから」

「お兄様、それは八つ当たりというものです。私、悲しい。……しくしくしく」



ほぼ棒読みなしくしく攻撃にも蒼にぃの瘴気にも耐えつつ、俺達は飛行速度を上げた。

もちろんお昼を気持ちよく食べられる場所を目指してだよ。さー、腹いっぱい食うぞー。



≪ぴよ? ……ぴよぴよっ!≫

「ルティ、どうしたの? てーかベルトからぴよぴよって鳴き声がすると違和感が」

≪むむむ……主様、お昼は後なのっ! サーチの端の端だけど、あのピンクちゃんの反応キャッチなのっ!≫

「ほんとにっ!?」

【うん、わたしも感じたっ! 結構速度が速いけど、もう追尾はしてるから……今なら捕まえられるっ!】



なんという偶然……いや、もしかしたら不運かも知れない。マテリアル達が復活してる可能性だってあるんだから。

でも放置はできない。俺達は正体もバレてる上に、情報も少ない。俺は気持ちを固めて蒼にぃ達を見た。



「蒼にぃ、あむさん、行こうっ!」

「当然っ! 恭文、それでいいよねっ!」

「当たり前でしょっ! みんな、道案内頼むよっ!」

≪【了解(なの)っ!】≫

≪ぴよぴよー♪≫










魔法少女リリカルなのはVivid・Remix


とある魔導師と彼女の鮮烈な日常


Memory13 『GEARS OF DESTINY/歯車の宿命』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



リーゼ達と分かれてから数分後――妙な反応を掴んで、早速海鳴のセンター街上空へ移動。



それはひと月前の事件でも見た、彼女達が現れる時の反応に酷使していた。……どうやら風向きが変わったらしい。



確かにそれを感じつつも結界に突入し、僕はその中心にいる水色ツインテールな女性に近づいた。





「マテリアルの一人、レヴィ・ザ・スラッシャーだな」



警戒させないように、できるだけ優しく声をかけた。それでどこか呆けた顔をした彼女はハッとする。

一度周囲をキョロキョロとしたが、すぐに10メートルほどの距離を取った僕を見つけて目を見開く。



「む……キミはえっと、ハゲ助っ!」

「クロノだっ! 誰がハゲだ、誰がっ! ……復活できたんだな、良かった」

「うん。なんか外から復旧かけるなら、力持ちなボクが一番いいって。それで……なにかな」

「待ってくれ。僕は戦いに来たんじゃない」



いきなり交戦しても困るので、デュランダルを一度待機状態に戻す。

それから両手を挙げてバンザイをすると、彼女は驚いた様子で目を見開いた。



「……なにか良い事あった?」

「違うっ! 戦わないという意思表示だっ! むしろ悪い事続きだぞ、僕はっ!」



一旦言葉を止め、呼吸を整える。……落ち着け、これは大事な交渉だ。

もちろんこうしつつも警戒は解いてないが、それで彼女を威圧してもマズい。ここは冷静に。



「君は難しい話は苦手なようだし、単刀直入に言う。取り引きしよう」

「取り引き?」

「僕達はシステムU-D――砕け得ぬ闇に対処したい。君達もそれが欲しい。だから取り引きだ。
はっきり言えば君達が持っている砕け得ぬ闇の情報が欲しい。それでこちらも」

「断る。ボク達は闇の住人だもの。破壊と混沌をもたらし、永遠の闇に住む住人。
キミ達はそうやってボク達の自由を踏みにじろうとするんだろう? でもそうはいかない。
王様とシュテるんが復活したらキミ達如き塵芥、ボクらの雷と炎でコッゲコゲに……へ?」



彼女は言葉を止め、左手で側頭部を押さえながら驚いた表情を浮かべた。

それはさっき僕を見つけた時とは違う、意外というかそういう顔だった。



「どうした」

「シュテるんが取り引きしろって言ってる。あ、王様が反対してるけど……言い負かした」



だが目だけを動かして周囲を見ても、王様やシュテルの姿は見当たらない。

……どこかで身体の修復中か。それで回線だけがレヴィと繋がっているんだな。



「レヴィ、彼女達は今どうしているんだ? 姿が見えないが」

「プログラムの修復中。それで力持ちなボクが一番に出て、二人が直るのに後押ししてるんだ。
ボクが支援するのが一番速いって言って……リソースを回してくれた」

「じゃあ大丈夫なんだな」

「分からないよ。壊され方が普通と全然違うし」



とりあえずここは……安堵するべきか。今にも泣きそうな顔をするレヴィを見るに、状態は芳しくないだろうが。

ただこの子は、ころころと表情が変わるな。それで純粋というか素直。だから裏を読む必要がないのは助かる。こっちも交渉がやりやすいしな。



「それでえっと、砕け得ぬ闇を倒す方法を教えるって。でも条件がある」

「まぁ取り引きだから当然だな。それで条件は?」

「砕け得ぬ闇を壊さない事」



やはりそう来るか。できれば破壊してどうこうに持ち込みたかったところだが……まぁ仕方ない。

だが向こうから取り引きに乗ってくれるのは助かった。まずは協力を取りつける事に尽力しよう。



「それはこちらの条件を飲んだ上でだな。そうでなければ認められない」

「なにかな」

「君達がその力で、人を傷つけたり殺したりしない事。もちろん君達自身も、一方的な殺戮や暴力を振るわない事。
もうベルカ時代の戦争は終わっている。君達がそれを理由に戦う必要はないんだ。だから」

「え、ちょっと待って」



レヴィは僕の言葉を止め、三度驚いた顔をしていた。



「それ、あむって子も言ってた」

「あむ……恭文と一緒にいた女の子か」

「うん。ボク達がそうしないのなら、誰も敵にならないって。
それで戦争とかそういうのも、全部終わってる。まんまあむが言ってた事だ」

「そうか。まぁそういう事だ」



恭文と一緒にいた子が……良い友達を持っているものだと安心しつつ、僕も表情を緩める。



「僕達が前回君達と戦い倒していたのは、そういう行動に出ようとしていたからだ。
でもそうじゃないのなら僕達としても少し考える。君達も色々事情がありそうだしな」

「ふーん、なんかめんどくさいのー」

「社会というのはめんどくさいものなんだ、察してくれ。なら」

「うん、協力はいいって。条件も飲む。あー、でもボクからもう一つ条件」



一体なにが飛び出るかと一瞬身構えるが、彼女はそこで思いっきり表情を崩して甘い声を出す。



「あのまんまる水色ちょうだい♪ また食べたくなったんだー」

「……はい?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「見つけたよ、桃色」





飛行する事しばらくして……ようやく追いついた桃色の前に回り込み、その行く手を阻む。

桃色は驚いた様子で僕を見てすぐに下がろうとするけど、甘い。その瞬間、桃色の四肢がバインドで戒められ十字状態になる。

前に出た瞬間にバインドを設置しておいたの。それで念押しとして、桃色の後方をあむとトーマが取る。



完全に囲まれた状態でも桃色は余裕の表情を浮かべ、不敵に笑った。





「あら……古き鉄、女の子連れとは余裕ねぇ。なんの用かしら」

「おのれは誰。なんのために砕け得ぬ闇を狙ってる」

「答える必要はないわぁ」



そんな事を言うのですっと踏み込み、桃色の右腕に向かって右ストレートを打ち込む。

その瞬間桃色の苦しげな声が響き、腕の外側から青い火花が迸った。同時に桃色の右腕から嫌な音が響く。



「ちょ……女の子にはもう少し、優しくしない? 今の、折れたわよ」

「あいにく手負いの獣に加減するほど、ぬるい生活は送ってないんでね。
だから選べ。このまま適度に痛めつけられて吐くか、今すぐ吐くか」

「嫌よ。やる気?」

「はいはい、そこまで」



僕達とは別の声が響いた瞬間、すっと右に動いて発生した白いバインドを避ける。

この魔力色は……まぁ気配で捉えてたから分かってた。後ろの方に視線を向けると、そこにはリーゼさん達がいた。



「全く……まさか同じ対象を追っているとは思わなかったわ」

「恭文君もあなた達も、今度こそ逃げないでね」

「失礼な、僕達が逃げ回っているみたいな言い方はやめてください」

「「いやいや、逃げ回っている以外の何物でもないでしょっ!」」



言っている意味がよく分からないので首を傾げると、ロッテさんが拳を握って震わせ始めた。うーん、どうしてだろう。



「というかさ、アンタに確認したい事もあるんだよ。……フォン・レイメイって知ってる?」



でもそうやって話を逸らすのもここまで。ロッテさんの口から飛び出た名前で、僕は一気に血の気が引いた。



「知ってるんだね」

「……自分が殺した相手の名前ですから、さすがに忘れませんって」



もちろんこの時間だと奴は無駄に元気だよ。でもそんな奴の名前を今、僕に対して出した理由……一つしかない。



「だったらアタシがどうしてその名前を出したか、分かるよね」

「闇の欠片で……出てるんですね」

「そうだよ。アタシ達とヴィータが交戦して、ヴィータがやられた」

「ヴィータさんがっ!? あ、あの……それで」

「死んではいない。でもアイゼンも大破して、両腕もぐちゃぐちゃ。
だから協力して。情けない話だけど……同じ能力を持ったアンタの力が必要だ」



物凄いストレートに用件を言われて、一瞬迷ってしまう。でも……僕は次の瞬間にはため息を吐き、右手で頭をかいていた。



「分かりました。でもあんまり細かい事は聞かないでくださいよ?
今の僕にこの事話すのもなしだし、他のみんなにアイツの相手をさせるのもだめ」

「フェイトちゃんやなのはちゃんでも、勝ち目ないんだね」

「だったら聞きます。今の時間で生きている奴に遭遇したのは、勝ってるんですか?」



答えが分かり切っているかなり意地悪な質問をすると、二人は納得した様子。

そう、居るわけがない。居るのであれば僕と戦うわけがない。とっくに局が捕まえてるよ。



「了解。ただ、あんま気負うのなしだよ? アンタも巻き込まれてこれみたいだし」

「戻る手段もないみたいだし、さすがにそれで責めるバカは居ないよ。
ちゃんと元の時代に帰りたいなら、そこの線引きはしっかりする事」

「分かってますって。そういうわけだからトーマ、あむ」



二人の方を見ると、異論はないらしくすぐに頷いてくれた。まぁあむが少々心配そうな顔してるけど、そこはフォローしようと思う。



「さて、話もまとまったところで……こっちの方だね。一体どういう事さ」

「いいから離しなさい。あなた達に迷惑かけるつもりはないから。こっちの目的を達成したら、とっとと帰る」



そんな事を言うので、右フックで桃色の顔をぶっ飛ばす。口から血が出るのには構わず、そのまま頭を掴む。



「話せ。それが無理ならここで死ね。もう一人のに事情を聞けばいいだけだし」

「ちょ、恭文っ! いくらなんでもやり過ぎだってっ!」

「いいのよ。コイツはこうでもしないと吐かない」

「ふん、無駄な脅しはやめる事ね。そんな事できるわけないじゃない。
わたしを殺したらシステムU-Dは止められないわよ? それでも」

「嘘ついてんじゃないよ。あれをなんとかできるのは、あの厨二病の王様だけだろうが」





なんでそこで桃色が舌打ちするのかが理解できない。昨日の夜、シュテルは言っていたじゃないのさ。

『王、あなたはシステムU-Dを制御しうるただ一人の存在』……ってさ。だからコイツの言う事は嘘。

あの時のシュテルは時間稼ぎが目的だった。でもそれなら、王様相手でも問題はないはず。



というか、王様と一緒に戦えばOKだった。そうしたら更に時間が稼げたはずだし、三対一よりは有利。

そう、シュテルはあの時戦力として活用できる王様を下がらせたのよ。なお、レヴィは僕とやり合った直後なので数から外した。

それはどうして? シュテルの言葉が真実だからだよ。シュテルはあの時、万が一にも王様が傷つく事を恐れたんだ。



王様とあの時起動のためにあれこれしていたコイツを、僕達と戦わせる事はできなかった。だから三対一という分の悪い勝負に出た。



今コイツが見せた反応で、それは念押しされた。なので僕は頭から手を離し、顔面にもう一発拳を叩き込んでおく。





「あー、アンタも……やすっち本気だから話しとけ? てーかこの状況で逃げるのは無理でしょ」

「顔がボコボコにならないうちにさ。ほら、早く」

「……わたしとアミタの生まれ故郷は今、滅びの道を進んでいるの。
エルトリアっていう世界なんだけど、その大地は死滅しかけている」



ようやく話し始めたか。それで僕を忌々しく睨むのはやめて欲しい。僕は悪い事なにもしてないのに。



≪死滅って、どういう事なの?≫

「環境破壊よ。死食と呼ばれる有害且つ危険な生物や植物が住む森が広がっている。
そのせいであと数世代後にエルトリアは、人が住めない土地になるわ」



コイツが住んでいる世界は、そういう毒素に侵食されてるわけか。RPGやアニメとかではよくある設定なので、容易に想像できた。



「ただまぁ、唯一の救いというかなんというか……近くに移住できる星があってね。
そこへの移住計画も進んでいて、星が死ぬ前には全ての住人が移住を完了できる。
それでも残っている人は居るけど、そういう人達は本当にエルトリアが好きな人なの」

「それでもこっちに来たって事は、相応の理由があるのかねぇ」

「……博士も、そういう人だった。博士はエルトリアの大地を蘇らせる研究をしていたの。
私達はね、その過程で生み出された人型の作業用機械――ギアーズ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



アミタちゃんはようやく目を覚ました。まぁ早々で悪いんだけど、私はアースラに来てくれたマリーさんと事情聴取開始。



最初はかなり渋って『ご迷惑はもうおかけしないので、任せてください』って言いまくってたんだけど……そこをなんとか説得。



現時点で迷惑をこうむりまくっているという事実をしっかり伝えて、アミタちゃんの重い口を開いた。





「私達ギアーズは、死食の森や危険地帯での活動を想定して作られたものなんです。
ただ……博士はちょくちょく失敗をする人で、私達の人格形成を細かくやり過ぎました。
それで私達はこう、人間として育てた方が良いと考えて」

「素敵な人なのね」

「はい」



正直博士の人物像に関しては想像するしかないけど、少なくともアミタちゃんにとっては本当に大好きな人みたい。

青い入院着と三つ編みを解いた事で解放されている赤い髪を揺らしながら、素敵な笑顔で頷いてくれた。



「私もキリエも博士が大好きで、博士の研究を手伝いたいってずっと思ってました。
ギアーズである事もそれができるならと、特に悩んだりもなかったです。
この身体は私達にとって誇り。私達がギアーズだからこそできる事があるから。でも」

「でも?」

「できない事もある。一つは博士の研究が思うように進まなかった事。
まぁ星一つを治すわけですから、難しいのは当然なんですけど。
それでもう一つは……博士が不治の病に冒されていると分かった事」

「……じゃあ博士は」

「まだ生きています。でも、もう長くはない。それで妹は考えたんです。
博士が生きているうちに、エルトリアの大地が蘇ったところを見せようって。
でも私達だけじゃあいきなり星の病気を治すなんて無理だった」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「そう、無理だった。だから寝る間も惜しんで調べに調べて、可能性を見つけたの。
それがシステムU-Dの核となっている無限連環機構――エグザミア。
エグザミアの力があれば、博士の研究を大きく後押しする事ができる」

「だからあなたは闇の書があったこの時間、この時代にやってきたと」

「そうよ。まさか肝心の闇の書が消滅してるとは思わなかったけど」

「あれ、ちょっと待って」



桃色――キリエの予想外に同意していると、あむがなにか気になったのかハッとした表情を浮かべる。



「ようするにアンタ、タイムマシンみたいなの持ってたって事だよね。
それならエルトリアの病気が治った時代に、その人連れてくのはだめなの?
もしくはその人の病気が治せる時代に跳ぶとか。ほら、そういうのあるじゃん」

「だめよ。まずお察しの通り、私達には時間転送を可能とする装置があるわ。博士が見つけたの。
……それにはデメリットもあってね、転送時に凄まじい衝撃が身体を襲うの。人の身じゃ耐えられない。
わたし達ギアーズでもかなりの負担がかかるのよ。ましてや病気療養中でボロボロな博士には」

「だったら……あの、あたしと恭文はタイムマシンっていうか、時を超える列車に乗れるんだ」

『えぇっ!』



おいおい、なにサラッとバラしてんだよっ! ほら、リーゼさん達がこっちにまで視線向けてくるしっ!



”あむー!? なにとんでもないネタバレしてるのっ! オーナーにこれ以上怒られたくないからやめてよっ!”

”いや、今更じゃん。それに……ほら、それで問題解決するなら厄介な事もないだろうし”

”解決しても僕達怒られるよっ!? 更に厄介な事になるよっ!? 僕達死ぬほど怒られるって気づいてよっ!”



コイツはまた……まぁこういうお人好しというか優しいところが、あむの良さだとは思っている。不用意過ぎるとは思うけど。

それにこういうところに歌唄やルル、あの猫男に優亜が惹かれて、その心を開いてるからなぁ。現に桃色もあむがなにを言いたいのか分かって、瞳を揺らしてる。



「それなら身体に負担とかないし、チケットがある事前提だけど……なんとかなるかも」

「あなた、名前は」

「あむ――日奈森あむ」

「そう。あむ……ありがと。でもね、それは無理よ。……博士自身がそれを拒否しているの。
タイムマシンなんて使わない。今あむが言ったような事はしたくないって」



あむの突拍子もない提案が嬉しかったのらしく、キリエは少し笑いながら首を横に振る。



「それはどうしてだい? 越えられないならともかく、超える方法が今提示されたのに」

「博士は意外とロマンチストなのよ。人は運命に逆らうべからずって……ホント、バカなんだから」





ようは『病気も運命だから、死を受け入れる』と。確かにロマンチストだわ。

ただ末期患者が余生を穏やかに過ごせるように、延命治療をあえて施さない選択もあるからなぁ。

うん、博士の言っている事はそれと同じだよ。どっちが良いという話ではなく、それもアリって話。



あむも意味を察したのか、自分の言葉が浅はかだったんじゃないかと後悔するような顔をする。



トーマがすっと脇によって、左手でそんなあむの背中を撫で始めた。





「でもおのれは押し切ってこの時代に来た。察するにもう一人の子も反対していたのにだ」

「そうよ。だって……納得できないじゃない。あんなに頑張ってた博士の努力が、報われない内に死んじゃうなんて。
死ぬ運命は変えられなくても、せめて博士のやっていた事が無駄じゃないって教えてあげたい。
博士が生きているうちに、確かな形を見せてあげたい。だから私は、この時代に来たの」



悔し気な表情を浮かべるキリエは、博士やもう一人の子とは反対に抗う事を選んだ。どっちが正しいではなく、さっきも言ったようにどっちも『アリ』。

でも親とその娘は納得するわけもなく……段々と図式が見えてきたね。それでリーゼさん達がキリエに対し、とても優しい目をし始めたのに気づいた。



「じゃあ確認。おのれがこの時間に来たのは、エグザミアが手に入るって分かったからだよね。
でもこの時間では闇の書そのものが消滅してる。それでなんで」

「わたしにも分からないわよ。そんな事になってるなんてシミュレーションでは出なかったし。それで手に入れるためのキーは二つ」

「それはなに?」

「一つはあなたのご推察通り、ロード・オブ・ディアーチェ。システムU-Dの完全制御には、あの王様が必須だから。そしてもう一つは天然の魔導殺し」



そこでキリエは視線を僕に定め、なぜか悔し気な顔をする。



「瞬間詠唱・処理能力を持つ魔導師――古き鉄。ま、こっちは起動・制御後に使う保険ってノリだったけど」

「じゃあ今やすっちが居ても」

「今言ったように王様の完全制御を前提に置いた保険よ? 現状ではただのブタよ」

「じゃあもうひとつ質問。魔導殺しってなにさ。そんな呼び名、アタシ達は聞いた事ない」

「分からない? 瞬間詠唱・処理能力は、一般の魔導師を大きく超える能力よ。ヘタなレアスキルより強力。
だってその力は魔導を使用する前提のいくつかを、粉微塵に破壊しちゃうんだもの。
だから魔導殺し。その子は魔導の原則や限界を殺す……自然発生した歪なバグよ」



歪なバグ……はっきり言ってくれるね。キリエの言葉を受けて僕は、なにか胸に落ちたような感覚を覚えた。



「なるほど、つまり……『スキル:限界突破(リミットブレイク)』か。悪くないね」

≪瞬間詠唱・処理能力って、呼びにくかったんですよね。今後はこれでいきましょう≫

「蒼にぃ、アルトアイゼンも気にするとこ違う」

「ねぇ、もしかしてその子バカ?」

≪否定はできないの≫





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それであなたは、どうしてあそこに居たの?」



病室での事情聴取は継続中。次は一番気になっていた、あそこにいた理由について聞いてみる。

するとアミタちゃんの表情が一気に暗くなった。どうもここの辺りは、彼女的には辛いものが絡んでるみたい。



「システムU-Dにお願いしたんです。あなたが持っているエグザミアを渡さないようにって。
キリエが目的を達成するという事は、『運命の観測者であれ』というギアーズの宿命を破る事になる。
だからエグザミアを渡さないで。それができないように、私もあなたを守るからと」

「……無茶よ。そんな事したら、妹さん以外でシステムU-Dをなんとかしたい人とも戦う事になる。当然局とも」

「もちろんずっとじゃありません。妹を確保したら、すぐに戻るつもりでした。
そうすればもうこちらの時間にお邪魔する事もありませんし、ご迷惑もおかけしません」

「その結果、妹さん共々システムU-Dに敵として認識されたわけよね」



少し口調を厳しくしてそう言うと、アミタちゃんは渋々頷く。



「というか、それで戻られても迷惑よ。既にシステムU-Dは目覚めている。そのまま放置されて、私達はどうするの?」

「そうだよ。妹さんを止めたかったのは分かるけど、いくらなんでも行動が短絡的過ぎる。
ううん、無謀過ぎる。私達としてはシステムU-Dが目覚めた時点で、こっちに頼って欲しかった」

「それは……すみません」



それでまた渋々……まぁここは触れないでおこう。未来の恭文くん達もあれだしなぁ。

ヘタに関わってこの時間を変えたらという危惧があったんだろうし、そこは考慮しよう。



「それでアミタちゃん、エグザミアに関してシステムU-Dは」

「渡すもなにも、手放せるようなものではないと言っていました。エグザミアは自分の核だから……と」

「ならエグザミアを手に入れるなら、システムU-Dごと?」

「そうみたいです。だから妹も彼女ごと確保しようとした。でも結局……あの、私もう行きます。お世話になりました」

「だめよっ!」



あぁもう、考慮とかやっぱり無しにしたい。私はとんでもない事を言い出して立ち上がろうとしたアミタちゃんの両肩を掴み、動きを止める。



「一体なに考えてるのっ!? あなた死にかけたのにっ! まだ動ける状態じゃないわよっ!」

「でもこうしてる間にもキリエは……私が止めなきゃいけないんです。システムU-Dの事も絶対になんとかします。
それがギアーズの宿命ですから。この時間のみなさんの平和も、私が全力で守り抜きます」

「だからだめっ! まずは傷を治してから」

「どいてくださいっ! そんな余裕はないんですっ! 私にも……もちろんキリエにもっ!」

「博士の事が気になるのは分かるけど、それでもだめよっ!」



でもアミタちゃんは私の両手を掴みながら必死に首を横に振り、涙を零し始めた。



「違うんですっ! 私達ギアーズはこの世界だと……活動限界があるんですっ!」

「活動、限界?」

「……簡単に言うと、エネルギー源の補給ができないんです。だからそう遠くないうちに私もキリエも」



活動、停止……その言葉の意味と、どうして彼女がそこまで必死になるのかをようやく理解した。

ヘタをすればキリエちゃんももう動けなくなると。慌てて驚いた様子のマリーさんを見る。



「マリーさん、そのエネルギー源って」

「精製可能としても、時間がかかると思います。彼女達は私達の世界に対する知識が豊富ですから。
闇の書の事もそうですけど、大体の事を知った上で補給ができないと言っている。そうよね」

「……はい。なによりキリエは、それでもと必死になってる。あの子は私じゃなきゃ止められない。これがラストチャンスだから」

「どういう事?」

「私達が使った転移装置は、先程も話したように遺跡から出土したものです。
博士も私達もその原理や中身を完全に理解しているわけではない。なので」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「タイムマシン、何回使えるか分からないのよ。わたしが一回に、あのバカアミタが一回使っている。
だから後一回使えるかどうか……ラストチャンスっていうのはそういう意味よ。わたしにはもう、今この時間しかないの」

「じゃあ次に質問。実はやすっちとあむちゃん達以外にも、未来から来たと思われる子達がいる。心当たりは」

「え、あたし達以外も……あの、映像見せてくださいっ! もしかしたらだけど知り合いかもっ!」

「うん、いいよ」



トーマとあむがこちらに寄ってきてから、リーゼさん達がモニターを展開。

僕もキリエを警戒しつつ中身を確認し、そこに映っていた二人の姿を見て安堵した。



「やっぱり、ヴィヴィオちゃんとアインハルトだっ!」

「君達の知り合いで間違いないね」

「えぇ。……とりあえず無事だったか。でもマズい」

≪フォン・レイメイの闇の欠片が出ている状況ですしね。もし遭遇したら……しかも通信もできないときている≫



今のヴィヴィオ達なら確実に負ける。まぁ闇の欠片だから再生能力とかはないはず……だよね?

とにかく居ると分かったなら、そこも目的に追加……さて、それじゃあ尋問再開だ。



「で、どうして僕達はこっち跳ばされてきたのよ。そもそものきっかけはおのれだから、なにか知ってるよね」

「わたしはなにもしてないわよ。もしかしたら時空転移の影響を色んな時代に撒き散らしちゃった可能性はあるけど。
消滅していた欠片達を呼び起こすくらいのエネルギーだったっぽいし……それくらいはね」

「いやいや、それ十分じゃんっ! あたし達マジ大変だったのに、なにしてくれてるわけっ!?」

「そう言われても困るわよ。わたしにも予想外だったんだし」



そんな事を言うバカに右フックを叩き込み、黙らせた。てーか……これくらいはいいよねっ!

僕達が昨日からどんだけキモ冷やしてたとっ!? それでこの言い草はありえないだろっ!



「今わたし、どうして殴られたの?」



なに呆然とした表情を浮かべてるんだろう。これは当然の権利なのに。



「いや、当然だろ。……まぁ大体の事情は飲み込めた。それじゃあアタシらと一緒に来てもらおうか」

「嫌よ。わたしは早くエグザミアを手に入れるの。わたしだけの力で……これ以上迷惑をかけるつもりはないから、離して」

「もう遅いよ、ボケが」



アホな事をまた言い出したので、今度はアッパーで顎を打ち抜く。



「いいからこっちに来い」

「いや、だからどうして二発目? しかも今、一瞬お花畑見えたんだけど」

「だから当然だって」

「やすっち、さすがにそれは当然じゃないからやめときなっ! ……てーかアンタ一人じゃ絶対に無理だよ。
正直未来から来たなんて信じられない。でもなんだろうが対処して、みんなの幸せを守るのが管理局だ」

「少なくとも私達の現役時代はそうだった。てゆうか、あなたはあれでしょ?
ようは親を助けるためにここまで来た子で……だったら個人的にも、できる限り力になるよ。
私達は使い魔なんだけど、父様って呼んで慕っている人が居るんだ」



アリアさんが落ち着かせるように言葉をかけると、キリエが少し驚いた様子で目を見開いた。

……そうか、だから二人ともキリエを優しい目で見ていたのか。自分と重ねていたと。



「だからあなたの気持ちは分かる。父様は今のところ元気いっぱいだけど、年が年。
多分10年も経たずに……まぁ私達は使い魔だし、一緒にだね」

「だから分かるよ。生きている間に綺麗なものや楽しい気持ち、いっぱい感じて欲しいって願いはさ。
そういう気持ちから無茶しちゃう事もある。だからね、アタシもアンタの事を悪いようにするつもりは本当にない。
まぁ信じてくれとは言わないよ。とりあえず身体を休めて力を蓄える手伝いはするから……ね?」

「……分かった」





こうして僕達のお昼はアースラの食堂に決定した。キリエも『自分達も同じ』と声をかけたリーゼさん達に従い、そのまま確保。



……あぁ、オーナーに怒られる。今更だけどオーナーに怒られるだろうなと、僕とあむ達は戦々恐々としながらお昼を食べた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



トーマとリリィに心配されつつもお昼を食べたあと、アースラのブリーフィングルームへゴー。

実は次元航行艦は初めてなあむとキャンディーズ達は、一息ついた後だからか結構慌ただしくキョロキョロしていた。

その様子に安心しつつも、僕は一人気合いを入れまくっていた。フォン・レイメイ……か。



能力的に油断だけは絶対できない相手だ。僕もアイツも、接触致死型の能力保持者。



あむは関わらせたくないなと思いながら、僕達は過去のみんなと顔を合わせる。





「ようやく来てくれたか。えっと、あむちゃんにトーマ……リリィやっけか?」

「は、はい」

「その……どうも」



トーマとリリィの声がやや小さいのは、挨拶しようとしたはやてからかなり距離を取ってるから。

なお、物理的に。それで訝しげにするはやてとは絶対に目を合わせないようにしている。



「なぁ、なんであの子達はうちから距離を取るんよ」

「僕も聞いてない。いや、さすがに気になったんだけど答えてくれないのよ。
ただまぁ……なにかやらかしたんだろうね。二人を威圧するレベルで」

「未来のうちはマジでなにをしてるっ!? ……あ、もしかして年下の男の子相手に恋を」

「「それだけは絶対にありません。というか……気持ち悪いっ! 本当にそういう事言うのやめてくださいっ!」」

「なんでやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! そやから未来のうちは一体なにしたんよっ!
二人揃って目逸らさんとちゃんと答えんかいっ! さすがに気になるわっ!」



こりゃ相当な事やられたんだなぁ。凄いハモリだったし、半分キレかかってたし。

……やっぱり僕も気になるから、もう一度聞いておこうかな。



「でも恭文君、どうして急に?」

「まぁアレだよ。意図していないところだけど、フォン・レイメイまで出てきてるなら単独行動は無理だもの。
どうせみんなの力じゃ勝てないだろうし、ここは僕が気張るしかない。トーマとリリィも本調子じゃないしさ」

≪アイツ、まさかもう一度出てくるとは思いませんでしたね。
そのまま地獄で置いてけぼりを食らってると良かったんですけど≫

「だねぇ」



アルトの言葉に肩を竦めながら、両拳をばきぼきと鳴らす。



「なのでもう一回、地獄へ堕ちてもらおうか」

「あの、待って。まさかヤスフミ……一人で戦うの? そんなの無理だよ。相手は凶悪犯なんだよ?
しかもヤスフミよりも資質があって、能力の使い方も心得てる。私も一緒にやるよ。そうすれば確実に勝てる」

「邪魔だから関わらないで。てーか前に一人で倒してるんだから、問題ない」



てーか一人の方が楽なのよ。相手はさっきも言ったけど、接触致死型の能力者。現に師匠もそれでやられてる。

はっきり言って他のが居るとフォローしたりで大変だし……なのにフェイトは不満気な顔で、僕に詰め寄ってくる。



「ヤスフミ、お願いだから信じてくれないかな。私達は家族で友達だよね。だったら物凄く簡単なはずだよ。
私はヤスフミに、今のみんなの事も未来のみんなの事も信じて欲しい。それはあなた達も同じだよ」

「いやいや、あたし達までって意味分からないしっ! というか、どうしてそうなるっ!?」

「だってあなた達も、なにも話してくれないよね。でもそういうのはだめだよ。
局を――私達を信じて大人になって欲しい。私の母さんもそう言ってたんだ。
未来でなにかあるなら、その問題も解決しなきゃいけない。そうしたらね、きっと」



あほな事言うフェイトは左手でアイアンクローをかまし、軽めに握り締める。



「痛い……痛い痛い痛いー! ヤスフミ痛いー!」

「フェイト、厨二病なのはよーく知ってるけど自重しようか。出直してこい」



それで軽めに突き飛ばし、涙目なフェイトは無視でクロノさんの方を見る。



「君達、本当にすまない。フェイトには僕からよく言っておく」

「お願いします。いや、わりと本気で」

「昔のフェイトさん、ホントバカだったんだなぁ」

「……今の発言は聞き逃しておく。あと」



クロノさんは僕やあむの方を見ながら、困った顔をし始める。



「事故でこちらに跳ばされてきたわけだしな。戻る手段もないわけで」

「……一応あるにはあるんですけど」

「本当かっ!?」

「でも、使えないんですよ。多分事件が解決しないと」

「そうか。それなら気にしなくていい。しかしタイムスリップトラベルできるとは……それも冒険した結果か?」



僕は苦笑いするあむに合わせて、お手上げポーズで軽く返す。



「まぁ深くは聞くまい。あとアルフの事なんだが」

「とりあえず土下座させてください。僕じゃなくてなのはに。
それでクロノさん、まずどうするんですか? 欠片対処は当然として」

「ヴィヴィオとアインハルト……だったな。彼女達の保護からだろうか。
こちらも接触したらしっかりと事情を説明する。それでシステムU-Dについては」



クロノさんは言葉を止め、不意に視線をミーティングルーム入り口へ向ける。



「レヴィ、シュテル」

「はい」

「おーっすっ!」



するとドアが開いて、かなり見知った水色髪とショートカットがバリアジャケット姿で入ってきた。



「あー! レヴィにシュテルも……どうしてここにっ!」

「なんとか復活できたんだー。まだ本調子じゃないけど」

「私も戦闘は無理ですが、実体化だけならなんとか。ここへは提督に導いてもらいました」

「ヤスフミー♪」



レヴィが八重歯を見せてこっちに飛び込んでくるので、僕はもう親か親戚のおじさん気分でレヴィを受け止め頭を撫でる。

その様子を見てあむとキャンディーズも呆れているというか、軽く苦笑い。多分レヴィが子どもっぽいせいだと思う。



「あー、よしよし。無事で良かったね、また約束反故かと思って内心ビクビクだったし」

「ボクもー」

「彼女達とは取り引きをして、砕け得ぬ闇へは一緒に対処する」

「一緒にって……クロノ君、それはどうして? だってこの子達は」



なのはの言いたい事もまぁ分かる。今まで『闇・破壊と殺戮』とか言いまくってた厨二病キャラだもの。

それで世間に迷惑をかけてたわけだから、そりゃあ疑問に思わない方がおかしい。



「簡単だ。今の僕達にはシステムU-Dに対抗する手段も知識もない。
現状のままではこの件を解決する事は不可能と言っていい」

「そして私達は実働戦力が欠けている。だからこその取り引きです。
今回、クロノ提督のご提案で協力させていただく事になりました」

「取り引きの条件は、ボク達が砕け得ぬ闇を使って悪さをしない事。
えっと……暴れて人に迷惑をかけちゃだめなんだよね」

「レヴィ、正解です。そこはあの強い瞳の彼女を信じて」



レヴィと僕を微笑ましそうに見ていたシュテルは、あむに視線を移して笑みを深くする。

それであむは気恥ずかしかったのか、驚いた顔をした後にそっぽを向いて腕を組んだ。



「あ、あたしのってどういう意味かな」

「あむちゃん、声上ずってるー」

「かなり動揺してるね」

「あむちゃん、相変わらず緊張しやすいですねぇ」

「あぁもう、アンタ達うっさいしっ! ダイヤもにこにこしないのっ!」



あむ、キャンディーズ達にツッコむのなしだって。ほら、みんな首傾げてるし。



「私達が誰も傷つけなければ、世界も誰も私達の敵にはならない。そう言いましたよね」

「……言った。じゃあ、マジでそうするって事?」

「そうなります。まぁナノハ達には信用されてないようですが」

「あぁ、信用できんな」

「クロノ提督、私も同感です。その手はあまりにも危険過ぎる」



そう言ったのははやてとシグナムさん。二人に対して明らかな警戒と敵意の視線をぶつけてきてる。

フェイトもまた微妙な顔してるし、なのはは少々困り気味。……まぁひと月前に散々やり合ってるからなぁ。すぐは無理か。



「アンタらはともかく、アンタらの王様は厨二病真っ盛りやないか。
システムU-Dを奪取したら平然と裏切る公算が大きい。クロノ君、うちは反対や。
この子達は今すぐ捕まえて封印処理を行うべきやと思う」

「それは無理だ。以前に二度も闇の書関連で大調査を行なってこれだからな。
僕はシステムU-Dに対抗するためには、シュテル達の力と知識が必要だと考えている」

「だったら……情報吐き出させて封印しようか。その方がえぇわ」

「バカじゃん?」

「なにこの狸、なんか怖いー!」



うわ、またあむがやらかしてるしっ! 止めようと思うけど……レヴィ、首決まってるっ! なんかすっごい苦しいっ!



「誰が狸やっ! あとな、怖くなるのも当然やからなっ!
アンタら自分が前回なにやらかしたか忘れたんかっ!
……それとあむちゃん、バカっちゅうのはどういう意味や」

「だってシステムU-Dはあたし達やここのみんなだけじゃどうしようもないんでしょ?
なのになんでそんな突っぱねるかな。バカバカしいじゃん、そんなの」

「アンタ、分かってないようやな。コイツらはあんな物騒なもん目覚めさせて、この状況引き起こした張本人やで?
そんな奴は信用できない。とっとと消えてもらうのが普通や。アンタかてコイツらのせいでこれやのに」

「いいや、やっぱりバカだ。だってアンタは今のレヴィやシュテル達の事、見てないじゃん。
悪い事したからずっと悪い奴だって決めつけてる。そんなのアルフさんとかと同じじゃん」



はやてが言葉を失うのは、至極当然。実際本当にどうしようもないのが現状だし、決めつけなのも事実。シグナムさんも言葉を失った。

そしてあむは憮然とした態度で……でも内心では頭抱えてるんだろうなぁ。あぁ、やっぱりこういうところは変わらない。



「……それで早速本題に入りますが、システムU-Dに真正面から立ち向かうのは無理です。
例え相手が古き鉄でも同じ。システムU-Dの本質は、私の想像以上でしたから」

≪ならなら、どうするの?≫

「我々の切り札は王になります。ですが現段階ではそれもまた難しい。
なので今できる事は王が目覚める前に、システムU-Dとの戦闘対策を整える事です。
まずどうしてそのような事になっているのかについて、説明したいと思います」



シュテルがすっと右手を挙げると、全員の目の前に空間モニターが展開。そこにシュテル達とシステムU-Dの姿が映る。



「まぁ簡潔に言うと……我々三人とシステムU-Dは、元々一つの存在でした」

「一つ……じゃあリインフォースさんやシグナムさん達と同じ」

「いえ、狸さんと守護騎士達と同じになります」

「アンタまで狸扱いかっ!」

「だからこそ王は王足りえる。力ではシステムU-Dが上ですが、それを管理する権限が王にはある。
……まぁここについてはまた後ほどとして、実際の対策について説明します」



シュテルの言葉を受けて四人の姿が消え、赤色の球体とデフォルメされたシステムU-Dの姿が出てきた。



「復活するまでの間にデータを掘り起こして、システムU-Dに対抗する手段を見つけました。
いわゆるワクチン・ウィルスに近いプログラムを打ち込んで、一時的に弱体化させるんです」



画面内の球体がSDなシステムU-Dにぶつかり、元気そうだったシステムU-Dが手足をじたばたさせ始めた。

するとそれまで球体があった場所に、SDフェイトやなのは達が登場。みんなで一斉攻撃。



「システムU-Dとの戦闘ではまずそれを用いた上で、相手の防御を緩め叩く」

「ある程度叩いて動きを止めてから、王様がシステムU-Dを制御下に置くって作戦だね」





まだ僕にくっついてるレヴィがそう言うと、画面の中に八重歯が特徴的なSD王様が出現。



へろへろなシステムU-Dに向かって両手をかざし、黒いビームを射出。



するとシステムは身体を震わせ、瞳をハートマークにして王様へとすりすり……いや、これは違うような。





「でもシステムU-Dはめちゃんこ強いから、ボク達一人一人でどうこうは無理」

「そこについてはマリエル技官とユーノが全力で動いてくれている。サポート体制はばっちりだ」

「それでシュテル、そのプログラムはどうやって打ち込むの」

「当然」



シュテルは左手を挙げ、銃を撃つ仕草を見せた。それを見て質問者であるなのはは、納得した表情を浮かべる。



「魔法で攻撃して直接……また分かりやすいー。ならそれの作成からかな」

「ナノハ、その必要はありません。技術スタッフのみなさんと今名前の出たお二方のおかげで、既に出来上がっています」

『早っ!』

「と言っても弾数がありませんけど」



手を下げて懐に突っ込んだと思うと、シュテルはそこから結構大きめなカートリッジ数発を僕に見せた。



「カートリッジ?」

「はい。これを使って術式を込めた魔力を撃ち出し、システムU-Dの防御を破ります。
少し調整が難しいので、王が復活するまでにどれだけ作れるかが鍵になります」

「ユーノが手伝っているのも、その関係だ。彼の魔導師としてのスキルと知識は、作成の大きな手助けになる。
もちろんはやてやシグナムが危惧したように、これ自体がトラップである可能性も探っているわけだが」



クロノさんはそう言って、不満気な二人に『ぐだぐだ抜かす』なと念押し。それが分かった二人の表情が曇った。



「あのフェレット君は凄いよー。シュテルの難しい話、一瞬で理解しちゃうし。
……あ、それと当然だけどこれ、カートリッジっ子にしか使えないから要注意だね」

「この中でカートリッジデバイスの使い手は……私となのは、ヤスフミとシグナムにヴィータだね」

「ヴィータはだめだ。フォン・レイメイにアイゼンがやられたからな。
修復もはやてがバックアップをかけているが、間に合うかどうかは微妙だ」

「そう、だったね。……ヤスフミ、やっぱりだめだよ。私達と一緒に」

「フェイト、頼むから黙っててくれ。それで恭文達に質問だが」



クロノさんがなにを確認したいのかはすぐ分かったので、僕は首を横に振る。



「まずあむはだめですよ。あむのデバイス――フォルティアは僕が作ったんだけど」

『えぇっ!』

「ぴよぴよー♪」



あむの近くにいたフォルティアが翼を羽ばたかせ、驚いた顔をするみんなにアピール。

でもみんな、そこ驚くんだ。まぁ今の僕からそれは連想できないしなぁ。



「カートリッジは搭載してない。なによりあむは技量的にまだまだですし、システムU-Dの前に立つのは」

「……蒼凪、なにを言っている。彼女はオーバーSクラスの魔導師だろう? 今更隠す必要もないだろう」

「「はぁっ!?」」

「そやそや。ヴィータも言ってたで? できるオーラ出まくりやから、絶対油断したらアカンってな」

「いやいや、あたしそんなんじゃないしっ! マジ初心者だからっ! 恭文やフェイトさんみたいに強くないからっ!」



うわ、なにコイツらっ! なんで『またまたー』って顔してるのっ!? ……まさかあむの外キャラ発動っ!? でもきっかけはなにっ!

はやてはともかくシグナムさんや師匠とは直接接触してないのにっ! それであむ、こっち涙目で見るなっ! 僕も意味分からないんだよっ!



「なにかこう、見解の相違があるようだな。まぁそこはともかく……トーマ、君達はどうだろう」

「いや、俺のはデバイスっていうのとはちょっと違いますから、カートリッジは」

「使えないよね」

「……それで僕のカートリッジもジガンを改修した関係で、大型化してるんです。
なのはのエクシードと口径が同じですから、それを元に作ってもらえれば」

「あ、そうなんだ。ならなら、なのはがデータを渡せば……そうなんだぁ」



なのはが妙に嬉しそうなのがムカつく。よし、元の時代に戻ったらちょっといたぶってやろう。なぎひこが鬼にならない程度に。



「とにかくヴィータちゃんを除いて四人だね。二人とも、数が少ないって事は持てる人間にも限りはあるよね」

「当然あります。おそらくは二人が限度かと。ただ、一人目はヤスフミで決定ですが」

「僕も賛成だ。恭文の魔力コントロールは能力ゆえに桁外れの練度。
瞬間詠唱・処理能力との相性も良いだろうし、君にはアタッカーとして頑張ってもらいたい」

「分かりました。あ、それともう瞬間詠唱・処理能力じゃなくて、リミットブレイクというスキル名に」

『はぁっ!?』



その瞬間、僕の後頭部にあむの張り手が炸裂。僕は机に対し前のめりに倒れた。



「そこはもういいじゃんっ! なんでこだわるっ!? ……ごめんなさい、このバカは無視していいんで話続けてください」

「そうさせてもらう。それであと一人だが」

「私がやろう」



真っ先に言い出したのは、やっぱり不満気なシグナムさんだった。



「元々闇の書は私達の領分。ならば私が妥当だろう。仮にカートリッジが罠でも、対処しようはある」

「ぶー、疑り深いのー」

「当然だ。お前達、前回自分達がなにをしたのか」

「それはさっき狸さんから聞きました。ツッコミがかぶってますよ? 烈火の騎士。ワンパターンです」

「そういう問題ではなかろうっ! 私が言いたいのはお前達が如何に……話を聞けっ! なぜ私から目を逸らすっ!」



それはシグナムさんがくどいせいだと思う。あむもなぜか納得した表情だし。ただそんな中、なのはは少し困った顔でシグナムさんを見ていた。



「いやいや、シグナムさんはだめですって」

「……なのは、それはなぜだ。言っておくが別に気負っているとかではないぞ?」

「あ、そういう理由からじゃありません」



なのはは右手を横に振ってから、人差し指をビッと立てる。



「まずカートリッジを持つ人はアタッカーとしての力量が要求されます。
でもだからと言って、初撃を当てるまで攻撃の全てをアタッカー任せにはできない。
当然そのフォローが必要ですし……シグナムさんの技量ならそっちがいいかなと。
シグナムさんは近接・広範囲型中距離・遠距離と、攻撃レンジも広いですから」

「……フォロー役だからこそ、より経験がある私と。まぁ言いたい事は分かるが」

「なので二人目は私です。私なら恭文君とスキル的に相性もばっちりだし、遠距離攻撃で安全に楔を打ち込める。
アタッカー役は、みんなの攻撃を通す起点にもなりますから、遠距離攻撃重視な魔導師は絶対必要です」





こっちを見てニコニコしてくるのはあれとしても、なのはの理屈にはシグナムさんもそうだしみんなも納得。

今もなのはが言ったけど、対策プログラムは楔も同然。使用者はその楔を打ち込む攻撃の起点。

ここは起爆剤とも言えるね。とにかく僕達アタッカーが初撃を打ち込んで、そこからみんなで畳み掛けるの作戦だから。



でも肝心要の攻撃が命中しなかったり防がれたら、その時点でアウト。圧倒的能力差で確実に押し潰される。

なので火力があって遠距離攻撃も得意な横馬がアタッカー役なのは、僕も賛成。

シグナムさんは基本近づいて斬る人だし、スタイル的にレンジが固定されてしまうと起点になりにくい。



しかも一人は僕だよ? シグナムさんとレンジどんがぶりなわけだし、ここは得意レンジを分けた方がいいでしょ。





「シグナム、僕も同感だ。恭文も同意見のようだしな」

「……分かりました。確かに私と蒼凪とでは得意レンジもかぶっていますし、では二人目は」

「なのはに決定だねー。よし、やるぞー」

「なのはもだめ」



話がまとまりかけていたのにダメ出しされた事で、なのはは机に突っ伏してしまう。でもすぐに起き上がり、なぜか不満気なフェイトを見る。



「どうしてー!?」

「ヤスフミとの連携戦なら、私の方がいいよ。だからヤスフミ、私とお話だよ?
それで未来の事とかあのレアスキルの事も教えて欲しいな。お願いだから私を信じて?
レアスキルが使えるようになったからって不安に思う必要はないよ」



その発言のバカさ加減と、ガッツポーズも絡ませた力具合ゆえに……僕達は全員机に頭をぶつけてしまう。



「だからそれだめだって言ってるよねっ! フェイトちゃんは恭文君とコンビするの禁止っ!
あとあれに関しては触れないであげようよっ! 家族なら優しさ必要だからっ!」

「だめだよ。それに私達も使えるようなスキルなら、それをヤスフミから教えてもらうんだ。そうしたら戦力強化に繋がるし」

「それもだめっ! 恭文君、絶対教えなくていいからねっ! なのはも今回は空気読んでるからっ!」

「うん、知ってるっ! 横馬、今回のおのれはホントできる子だわっ! 僕はよく知ってるよっ!」



ほんとこの時期のフェイト、いくらなんでもバカ過ぎないっ!? 厨二病過ぎるでしょうがっ!

てーか未来どうこうの話って……僕は呆れた様子のトーマ達はそれとして、クロノさんに厳しい視線を送ってしまう。



「恭文、本当にすまない。どうもフェイトは今と未来を混同しているようで……いや、もちろん説明した。
未来が変わる可能性もあるし、あれこれ聞くのもだめだと言ったんだ。だがこの調子で」

「再起不能にしていいですか?」

「それはやめてもらえると助かります。実働戦力は多いに越した事はありませんから。
とにかくあと一人はナノハで決定ですね。空気を読んでくれているようなので」

「でも魔王はできればラストダンジョンに戻って欲しいのに……やっぱ最悪ゾーンか」

「一体どこのっ!? というかというか、未来までなのはを魔王扱いってひどいよー!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



”なぁクロノ君”

”なんだ”



フェイトのバカはどうしたものかと思っていると、不満気なはやてから念話が届いた。

一瞬あのバカ絡みかとも思ったが、今の様子から察するにそれはないと考えた。



”そのプログラム、うちにも使えるようにできんかなぁ”

”僕も……実は同じ事を考えていた。デュランダルに魔力蓄積システムもあるし、なんとかとな。君もそれか?”

”いやな、やっぱ闇の書の事やしうちがなんとか”

”……そういう妙な気負いが理由なら、やめろと言うしかないぞ”



予想通りだよ。母さんやアルフと同じで、はやても今回の件でナーバスになっているらしい。

念話ではあるが言葉の端々に重さというか苛立ちというか、そういう乱れた感情を感じ取った。



”そもそも君達が今回の事に関わるのもかなりアウトなんだからな?”

”それは……分かるけど。でもそれはクロノ君かて同じやろ”

”実はもう今回はなにもせず下がるべきではないかと迷っている”

”でも下がらない。いや、下がれない言うた方が正解か”

”……あぁ”





どうやら局の上は『関係者だからこそ』と考えているようだ。戦力補充を打診しているんだが、かなり渋られてる。

まず闇の書への因縁は抜きに考えて欲しい。僕達は闇の書事件の時も前回の欠片騒動も、その場の流れで対処している。

だからこそ局は今回の件で対処する人間を新しく引き入れるのに消極的になっている。次に能力の問題がある。



相手が相手だし、それなりに力のある魔導師が必要になる。だが局は慢性的な戦力不足。

貴重なエース・ストライカー級魔導師をほいほいと動かせるほど余裕はない。しかもその魔導師にも事情説明が必要。

事態は一刻を争うかも知れないのに、そんな未経験者を引き入れて事情説明している余裕があるのだろうか。



上はそう考えてあくまでも例外的に、このメンバーでの対処を見逃しているのだろう。

あとは……それをやって、もしも新規メンバーが闇の書事件の被害者ないしその関係者だったらと危惧している。

当然だが新規メンバーにはシグナム達の出自やはやてが主だった事も話す必要が出てくる。



いや、例え隠そうとしてもバレるに決まっている。マテリアル達の事もあるしな。

事前に調査している余裕もないだろうし、ここは賭けに等しい状況になる。それでもし、春先のような事が起こったら?

あれで局の上も聖王教会もかなりゴタついたし、事件の火種になるような行動は避けたいんだろう。



ただ……今のはやてやアルフとフェイトの様子を見ると、それも失敗と言うしかない。もう一度打診はしておくか。



それではやての提案は……まぁ元々考えてもいたし、乗っかるとしよう。





”シュテルに聞くだけ聞いてみるか”

”うん、そうしようか。というわけでシュテルー”

”なんでしょうか”

”あんな、かくかくしかじかなんやけど……どうやろ”

”……時間がないと言ったはずですが? なにより私達を信用できないのにそんな事を頼むなんて”



シュテルは僕達に見えるように、大きくため息を吐いた。だがフェイトが未だバカなので、それがはやてに対してのものだとは誰も気づかない。



”恥知らずな狸ですね。これが我らが王のオリジナルかと思うと、泣けてきます”

”うっさいわボケっ! アンタらがバカやった時の保険替わりやっ!”

”だとしてもお勧めはしません。普通のプログラムとはまた趣が違いますし、身体やデバイスへの負担も大きい。
……なので実戦で使えるのは一回限り。あくまでも保険役になります。
それで使った場合に起こる身体・デバイスへの影響は一切保証しません。そこだけはご了承を”

”それは罠張ってるからか”

”いいえ、カートリッジという器による安全確保が図れないからです”



はやてはシュテルを値踏みするように見ていたが、彼女はそれをさして気にした様子もない。

それで根負けしたのか、はやては大きくため息を吐いた。それでちらりとこちらを見てくる。



”分かった。クロノ君”

”まずは準備だな。それで……シュテル、既に物はできているんだったな。
なら一度テストしておきたいんだが。さすがにぶっつけ本番で使うのは怖い”

”ではヤスフミからですね。口径の調整を済ませてからになりますが……相手は誰がいいでしょう。
システムU-Dが人型である事を考えると、模擬戦形式の方が有効かと思われます”

”それなら適任がいる。ちょうど良い機会だし、肌で実力を感じてもらおう”





僕は恭文に対して悲しげな視線を送る彼女を見る。まぁ、少し荒療治ではあるな。

だが彼女――フェイトがああまで言うのは、恭文を『庇護すべき対象』と認識しているせいだ。

その認識を打ち砕くには、今の恭文がどれだけ強いかを見せる事が一つの手だろう。



実際問題、朝方も『自分の方が未来の恭文より強い』と言っていたしな。……だがこれで大分前進した。



もちろんシュテル達も含めて問題は山積みだが、前進は前進だ。よし、この調子でいこう。





(Memory14へ続く)

















あとがき



恭文「というわけで……GOD編も中盤に突入。『どうあがいても絶望』がキーワードになっているわけですが」

あむ「……チートがここから続々登場だしね。マジで再生チート軍団なノリだし。あ、日奈森あむです」

恭文「蒼凪恭文です」

あむ「でも恭文、マジで戦闘とか最小限なんだね」

恭文「そうじゃないと30話超える勢いだから。まぁ前回と同じだね」



(だってゲームがゲームだから。戦闘するのがメインだから)



恭文「そしてレヴィとシュテルもなんとか復活。システムU-D対策もちょっとずつ整えて」

あむ「あとはアミタとキリエだよね。まぁあの二人も……そういや恭文っ!」

恭文「うん、なに?」

あむ「あたし、ニコニコ動画で仮面ライダー響鬼みたけど……全然違うじゃんっ!」



(そう言えば嘘を教えたなぁと思い出した蒼い古き鉄であった)



恭文「あむ、それはしょうがないんだよ。あの時の僕はあむをからかいたかったから」

あむ「なに言ってるっ!?」

恭文「いや、最近あむに構ってなかったなぁと思って」

あむ「ふんっ!」



(ごすっ!)



恭文「……なにすんじゃボケっ!」



(ハリセンでパンっ!)



あむ「アンタこそなにしてるっ!?」

恭文「逆切れするなボケっ!」

あむ「それこっちのセリフじゃんっ! あたしに嘘ついた事については謝罪なしですかっ!」

恭文「あむ、それは違うよ。僕はあむに驚きを持って新鮮な気持ちで響鬼を見て欲しかっただけなんだ。
嘘とは人聞きの悪い。実際あむはそういう気持ちで響鬼を見たでしょ? それできっと夢中になったはずだよ」

あむ「それとこれとは違うしっ! よし、もう一発殴るわっ! 最近アンタ調子に乗ってるしっ!」

恭文「それはこっちのセリフだ」

あむ「あたしのセリフで合ってるんですけどっ!? アンタそのボケ好きだよねっ!」





(『プロデューサー、どうしたー? 自分なにかしたかー?』
本日のED:JAM Project『NOAH』)










恭文「ねぇあむ」

あむ「なに? てゆうか、響鬼の件はマジ説教だから」

恭文「いやさ、思ったんだけど……システムU-Dは僕がゲキビースト出して潰せば」

あむ「ダメに決まってるじゃんっ! そうだね、そういやこの時点で使える設定だったよねっ! でもダメだからっ!」

恭文「あむは怒りん坊だな」

あむ「アンタがバカなだけじゃんっ!」





(おしまい)




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あきゅろす。
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