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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory13 『GEARS OF DESTINY/最強の定義』



――アタシは正面に三角形の赤いシールドを展開したまま、弾幕の中に突っ込んだ。

シールドはアタシの前に来た弾幕を受け止め、その表面で次々と起こる爆発を受けながらも道を開く。

最大加速もしているおかげか、アタシは一瞬で弾幕を突っ切った。ヤバい……コイツはヤバい。



早めに倒して、ぶっ潰しておかないと。クリーンヒット一撃打ち込んで、早く終わらせるぞ。

アイゼンのカートリッジを三発ロード。そのままラケーテンフォルムへ変化させ、ハンマーヘッド後部のブースターを点火。

奴との距離を10メートル以内に縮めたところでシールドを解除し、ブースターの勢いのままに回転。



時計回りに高速回転しながら、奴の懐へ一気に入り込む。





「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「ダメだヴィータっ! 下がってっ!」





杭のようなハンマーヘッド全部を右薙に打ち込むと、奴はさして動揺した様子もなくその切っ先を大剣の腹で受け止める。

その瞬間接触点から火花が滝のように迸り、ヘッド後部のブースターが更に火を噴き大剣ごと奴を打ち抜こうとする。

いや……撃ち抜こうと『した』。だが接触した瞬間、男が口元を歪めたと思ったらとんでもない衝撃が両手に伝わる。



そしてアイゼンのヘッドと柄が中から裂けたようにひしゃげ、破裂し、その破片がアタシの身体を襲った。

身体の各所に破片が突き刺さる痛みより、アタシの腕と両手からの痛みへと意識は向く。

アタシの手は皮膚が裂け、骨が砕け……もう見ていられないような状態になった。なんだ、これ。



なんでいきなりアイゼンが砕けんだよっ! コイツ、一体なにをしやがったっ!





「甘いですよ」



奴がそんなアタシに向かって笑いながら、逆手に持った大剣の切っ先を突き出してきた。

もう避けられない……そう思った瞬間、左横から突撃してきた白い閃光にアタシの身体はさらわれ、なんとかその場から逃げる。



「アンタ、大丈夫かいっ!?」



顔を上げると、慌てた様子のロッテさんがすぐ近く……てーかアタシの事抱きかかえてた。そうか、助けてくれたのか。

ロッテさんはそのまま奴から距離を取って、100メートル以上離れてから停止。振り返ってやつを睨みつける。



「な、なんとか。これでも打たれ強い方なんで。でも今の、なんですか」

「加減されてたみたいだけど、ブレイクインパルスだね」



そう言ったのは、そんなロッテさんの横に現れたアリアさん……ちょっと待てっ! 今なんて言ったっ!



「はぁっ!? いやいや、あの術はこんな詠唱速くないでしょっ!」





ブレイクインパルスは、クロノやバカ弟子が使う魔法だからよく知ってる。あれは発動にラグがある。

プロセスを説明すると、接触した物質を破砕する固有振動数を計測。

それから魔力を用いて計測結果に合わせた振動破砕を、対象に送り込むんだ。



クロノ提督なら三秒前後は物質に触れてないといけないから、あんな瞬間発動なんて無理。

まぁバカ弟子は……どうしてすぐに思い出さなかったんだ。そうだ、例外中の例外が居るじゃねぇか。

そうか、だからアリアさんはすぐに分かったんだ。クロノの師匠で、恭文の事も知ってるから。





「コイツはフォン・レイメイ――局の人間も一般市民も、相当数手にかけてる重犯罪者だ。
でも納得した。恭文君と同じ能力を持っているなら、そりゃあ普通の魔導師は返り討ちだわ」

「しかも今の見るに、資質はやすっち以上だしなぁ。多分能力をフルに使いこなせてる」

「そんな奴がどうしてここにっ! いや、さっきのを見るに」

「分からない」





あれは闇の欠片……そう言おうとした時、アタシの声に奴が答えた。



奴は本当にワケが分からないという様子だったけど、どこか楽しげでもあった。



自分の身体にかかった血を――アタシの手や腕から噴き出した血を、右人差し指ですくい取る。





「どうして私は……ここに居る? いや、どうでもいい。私は壊せればそれでいい」



それをぺろりと口に咥え、愛おしそうに舐め始めた。思わず寒気がして、ロッテさんに抱かれながら身を引いちまう。



「生命という焔を握り潰した時の快楽があれば……そうだ、それだけでいい。さぁ、始めましょうか。
楽しい楽しい殺し合いを。あなた方の生命――焔を私に踏み潰される崇高なる儀式を」



無理だ。アタシも手がこんなになって、アイゼンも粉々。リーゼさん達はアタシを抱えて戦えるわけがない。

なによりあれにどうやって一撃を……アタシ達三人が迷っていると、奴は途端につまらなそうな顔をする。



「つまらない。なぜ向かってこないのですか。あなた方は局の魔導師でしょう?
私という悪に対し、その矜持を貫こうとは思わないのですか。……嘆かわしい」

「随分、好き勝手な事言ってくれるね。アンタをぶちのめす作戦を考え中とか、そうは考えないわけですか」

「目を見れば分かりますから。そんな焔では踏みつけても楽しくない。焔は抗っているその時、激しく燃え上がるのだから」



全く意味が分からない捨てセリフを残して、奴は黒い光に包まれ姿を消した。



「あ、逃げたっ!」

「瞬間転送だね。恭文君の時と反応が同じだ。でもロッテ」

「……分かってる。今、後を追うのは無理だ」



ロッテさんは悔し気に頷いてから、深呼吸。腕の中に居るアタシを見て、安心させるように笑った。



「ヴィータ、すぐアースラに運ぶから……もうちょい我慢しろ」

「すみま、せん」

「バカ、気にするなって。こういう時はお互い様さ。……あ、そうだ。
そのかわりアタシ達が危なくなったら颯爽と助けてくれよー? はやてちゃんでもOKだし」

「……はい」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



前回のあらすじ――再生怪人軍団ならぬ再生チート軍団の出現フラグが立ちました。……意味分かんないっ!

もうね、異常事態とかそういうの慣れたと思ってたけど、勘違いだったわっ! ほんと意味分かんないからっ!

あー、まぁいいや。幸いな事に再生軍団は、世界の法則的に一度目の登場より弱くなるもの。



なので一人倒すのにまた1話丸ごと使うとかそういうのはないでしょ。ここは僕が出て、ぱぱっと倒して。





「あ、見つけたっ! あの、恭文君逃げないでっ! 少しお話を」



なのに余計な奴らの声が聴こえた。ソイツらはオーギュストの後ろからこちらに近づいて……なんでそんな位置から来ちゃうのっ!

あの位置じゃあ僕はフォロー出来ない。舌打ちしつつもマンション屋上の縁から跳び、別のマンション屋上へと向かう。



「バカっ! 近づくなっ!」

「エース・オブ・エースに閃光の女神。そうか、お前達……公女に歯向かうのか」



そうしてマンションからマンションへ飛び移っている間に、オーギュストは振り向きあのバカ共に敵意を向ける。

え、飛行魔法を使え? それはダメだよ、アイツの前では『魔法』なんて無意味。とにかくえっと……念話。



”みんな、今すぐ地上に降りてっ!”

”念……アンタ、いきなりどうしたんよ”

”いいから降りろっ! ソイツは闇の欠片だっ! それで”





だからどうしてそこで魔王はデバイスを構えるっ! フェイトもバルディッシュを振りかぶるなっ!



そしてフェイトが突撃し……あのアホがっ! こっちの説明聞かずに飛び出したしっ!










魔法少女リリカルなのはVivid・Remix


とある魔導師と彼女の鮮烈な日常


Memory12 『GEARS OF DESTINY/最強の定義』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

”ソイツはこちらが使用する魔法の詠唱とその性質を見抜いてくるっ!”





フェイトが30メートルほどの距離を一瞬で埋め、袈裟に戦斧を打ち込んでいる間にも、僕は念話で事情説明。

なおフェイトの突撃に対してオーギュストは左にすっと身を捻り、難なく避けた。

フェイトはその直後に光に包まれ、瞬間的にオーギュストの上を取って四発のランサースフィアを生成。



それを瞬間的に打ち出すけど、オーギュストはそちらに目を向けずにやっぱり左右へのスウェーだけで射撃を避けた。





”魔法を使っても先読みで内容全部バレて、簡単に避けられるのっ!
空中に居たらどれだけ速く動こうと魔法で飛ぶ限り、先の先を取られるっ!”

”はぁっ!? いやいや、そんなんあるわけがないやろっ!”

”そうだっ! お前、ふざけた事言ってんじゃないっ! そうやってみんなを戸惑わせて楽しいのかっ!
アタシ達は正しい事をしているっ! お前はそんなアタシ達の邪魔をしているっ! 恥を知れっ!”



アルフさんがバカ言っている間にオーギュストはサーベルを右手で抜き、逆手で持ったそれを背後へ突き出した。

そこには射撃したのと同時に背後へ回り込んだフェイトが居た。刃の切っ先はフェイトの胸元を……間に合えっ!



「フェイトちゃんっ!」





この間にも距離を詰めていた僕は、術式詠唱――即発動。それによりフェイトの姿が空から消えた。



同時に僕が足をつけていたマンション屋上に、消えたはずのフェイトがぺたんと尻餅をつく。



あ、転送でこっちに引き寄せたんだ。それでオーギュストの刺突は、なにもない空間を突き抜けるだけで終わった。





「あれ、私」

「このバカっ! 話聞く前に突撃ってありえないでしょうがっ! 今の死んでたよっ!」

「く……このっ!」





横馬がデバイスを構えようとすると、オーギュストは空を飛び横馬へ直進。

当然横馬はそんなオーギュストに対し、魔力弾を十数発生成して発射。



”横馬っ!”

”なのはが下まで引きつけるから、みんなを転送魔法で回収してっ!”

”人任せかいっ!”

”しょうがないでしょっ!? 地上まで逃げる時間はないんだからっ!”





確かに……なのはが引きつけてくれてるおかげで、みんなへの注意が逸れてる。

今のうちならはやてもアルフさんも下へ逃げられる。ここは横馬に従うか。

……本来なら相手を惑わせ的確に急所を撃ち抜く魔力弾は、そのどれもがオーギュストを捉える事が出来ない。



オーギュストは空中で身を捻り、刃を振るい、魔力弾を避けるか斬り払うかして一気に横馬へと距離を詰める。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



アクセルシューターを撃ち出して、赤髪さんの突撃を止めようとした。まずは前面に展開して行く先を塞ぐ。



でも打ち出した瞬間に赤髪さんは右に方向転換して、急加速……弾幕の範囲外へ逃げた。





”アルフさん、はやてちゃん、今のうちに地上へ降りてっ! ここはなのはがっ!”



慌ててシューターの半数を赤髪さんの移動先に置くイメージで射出。でも赤髪さんはその途端に急停止。



”でもなのはちゃんっ!”

”いいからっ!”





はやてちゃんや魔法生物であるアルフさんじゃ、この人の相手は無理。だからもう、半分怒鳴りつけてしまう。

その間にシューターは赤髪さんの前を通り過ぎるだけ……ううん、まだ。三発を背後に向かって射出。

それから三発を下から打ち上げるようにして、二発を右に。残り一発は全部を避けた後で後頭部を狙って……と。



まず三発が背後に放たれるけど、赤髪さんは振り返りサーベルを右薙に振るって全部斬り払う。

そうしつつも身体の軸を元居た方向にズラし、下から放たれた三発を回避。

それから右に向き直って刺突の二連撃を打ち込み、魔力弾を爆散。



とどめの一発も頭を右に動かされてあっさり避けられた。な……なにこれっ!

いくらなんでも回避と迎撃が速過ぎるっ! 本当になのはの操作がバレてるみたいだしっ!

これは予想通り、下へ逃げてる間に墜とされちゃう。だったらもっと引きつけないと。



とにかく距離を取ろうとしている間に、あの人はこちらへ踏み込み一直線に加速。

なのははあの人から遠ざかりながらバスターのスフィアを生成……でもその瞬間、あの人が赤色の光に包まれた。

それで素早くなのはの背後に回り込み……それは予測済み。なので慌てずラウンドシールドを展開。



襲ってくる斬撃をそれで防ごうとしたけど、なのはが予想していたのと違って攻撃は来なかった。

あの人は隙だらけな背後には目もくれず、なのはの前へ……シールドの展開を読んでいたっ!?

なのははレイジングハートをかざし、身体を後ろに倒した上であの人が打ち込んだ唐竹の斬撃を防御。



そのまま勢いには逆らわず、下へ吹き飛ばされた。これは、だめだ。魔法に頼らない格闘戦NGな私じゃ、この人には勝てない。



でもまだなんとかなる。あの人は追撃してきてるけど、さっきのフェイトちゃんみたいに恭文君が拾ってくれる。





”恭文君っ!”

”はやては回収完了っ!”





うん、さすがは恭文君。未来だったとしてもこういう時はきっちりやってくれる。これならいける。



恭文君も絶対に地上からは動かないだろうし、あっちをなんとかするにしてもなのはをなんとかするにしても、下へ誘い込める。



でもこの人はどうして……ううん、考えるまでもない。あの恭文君が知っているなら、答えはひとつだ。





「このぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

”……バカ、止まれっ!”



大丈夫と思っていたのに、右側からアルフさんが右拳を振りかぶりながら突撃してくる。当然……飛行魔法を使って。




”アルフさん、だめっ!”

”いいから黙って見てろっ! これがアタシの……いや”



狙いはなのはへと踏み込み刺突を打ち込もうとしていた赤髪さん。なのはは自由落下に身を任せながら、思いっきり叫ぶ。



「アタシ達の強さだっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



アルフさんが突撃し、横馬へ迫るオーギュストを止めようとする。でも当然そんなのは読まれている。

オーギュストはすっと身を伏せてアルフさんの右拳を避けつつ、刃でその胸元を貫いた。

それと同時にオーギュストは光に包まれ急速上昇……くそっ! こっちの転送魔法の範囲から逃げやがったっ!



距離を詰めるには飛ぶしかないけど、そんな真似したら確実に狙い撃ちっ!



キャラなり……えぇい、能力バレを恐れてる場合じゃないっ! さすがに見捨てられないっ!





「おいおい……ヤスフミ、どうすんだよっ!」

「やるしかないでしょっ! ヒカリ、いくよっ!」

「分かった」

「アルフっ!」



慌ててフェイトが飛び出そうと……いや、さっき回収したはやてが止めてくれた。

それに感謝しつつ僕は両手を胸元まで挙げ、素早く動かして鍵を開ける。



「僕のこころ、アン」



『解錠(アンロック)』



「ロックッ!」





その瞬間僕は黒い光に包まれ、たまごの状態に戻ったヒカリを胸元へ受け入れる。

そうする事で僕とヒカリはひとつになり、一瞬で銀髪をなびかせる女性の姿へと変身。

後ろでフェイトとはやてが息を飲む中、『ヒカリ』は光の中で右腕を横に振るい、それを払う。



そして黒い翼を広げ、自分の斜め上に黒いスフィアを形成。





【「キャラなり」】



そのスフィアに右手をかざし、名乗りと一緒にトリガーを引いて奴を狙い撃つ。



【「ライトガードナー!」】





放たれる砲弾はすくい上げるような軌道を描き、奴とアルフさんの間に入り込もうとする。

そうしながらもヒカリは翼を羽ばたかせて飛び上がり、二人に接近……間に合え。これならまだいけるはずだ。

僕達が飛べるのはどうしてか。それは……飛行魔法を使っているからだよ。そう、魔法なんだよ。



フェイトやなのはの攻撃がことごとく避けられたのは、二人の行動があらかじめ分かっていたから。

もちろんアルフさんの突撃があっさり読まれてたのも同じ理由。空中で魔法を使って留まる以上、こっちに勝ち目はない。

くそ、サードムーンの時は地上戦オンリーだったから気づかなかった。



まさか空中戦だと圧倒的な能力とは……アルフさんに関しては、処置が間に合うかどうかの問題だけだ。どっちにしても遅い。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



どうして、だ。アタシは……アタシ達は強いはずなのに。それなのになんで、こんなあっさり。



いや、まだだ。ようやくコイツを捕まえられた。アタシは両手を伸ばし。





「弱い」



コイツの首根っこを掴もうとした瞬間、身体を貫いていた冷たい感触が消えた。それで同時にアタシの腕が下から斬られた。

伸ばしていた両腕は血に塗れた刃に中ほどまで斬り裂かれ、また血が噴き出す。アタシは痛みのあまり叫んだ。



「弱……ふざけるなっ!」



斬られた事でだらしなく下がった両手をもう一度伸ばそうとすると、アイツはまたアタシの胸元へ刃を突き立てた。

腕……動かない。アタシは痛みと屈辱に負けないために、コイツを睨みつけてやる。その間に術式詠唱。



「アタシ達は、強いっ! アタシ達は正しい……みんなを信じて、認められてるっ!
だから強いんだっ! 正しい事をするっていうのは、強い証拠なんだっ!」





そうだ、アタシ達は強い。もう昔みたいな犯罪者じゃない。アタシ達は変わって、強くなったんだ。

フェイトだって執務官になって、可哀想な子達を助けてる。それでみんなから閃光の女神って二つ名までもらった。

そうやって認められる度にフェイトは輝いて、もっともっと強くなる。本当にお母さんの言う通りじゃないか。



だから……アタシは詠唱していたバインドを発動。自分ごと一気に縛りつけてやる。



でも奴はバインドを発動した途端に刃ごとすっと下がって、その範囲内から逃げた。





「がぁっ!」



結果アタシはアタシのバインドで思いっきり縛りつけられ……なんでだよ。なんで、こうなる。

キツ目に設定した事で、アタシの両腕と胸元の傷口から更に血が噴き出す。ダメ……意識、切れる。



「この目を見ろ」



なのにアイツはアタシの顔面をサーベルガードで殴りつけ、この地獄をもっと味わえと責め立てる。

それでアタシの頭を左手で掴み、ぐいっと顔を近づけた。



「この目は、実の兄に抉られたものだ。私には仕えるべき国があった。仕えるべき主があった。
だがそれは兄によって全て壊された。私がそれまで信じていた強さも正しさも、意味がない。
私は弱かったから、なにも守れなかった。そう、正しさではなにも守れない。正しいから強い?」



アイツは鼻でアタシを笑ってから、刃をアタシの左肩に当て。



「ふざけるなっ!」





一気に袈裟に振り下ろし……いや、振り下ろそうとしたのに、すぐに離れた。

それでアタシとアイツの間に黒い砲弾が通り過ぎ、その余波でバインドは粉々に砕ける。

オレンジ色の粒子が舞い散る中、アタシの身体は下に堕ちて……意識も手放していく。



あのバカ女はそんなアタシに踏み込んで刃を振りかぶるけど、またアタシ達の間に黒い影が現れる。

それは黒い三角形のシールドを展開し、馬鹿女の斬撃を受け止めた。……どうだ、これがアタシ達の強さだ。

お母さんは言っていた。正しい事を貫くから強いんだって。だから管理局は凄い組織なんだって。



そんなお母さんが、こんな事件が起きたせいで悲しそうだった。そりゃそうだ、闇の書でお父さんを亡くしてるんだから。

いくらお母さんが大人だからって、心中穏やかで居られるわけがない。それなのにアイツもコイツも、勝手な事ばかり。

こういう時こそアタシ達は一致団結して、お母さんが望む大人としての姿を持って事件を解決するべきだった。



それでアタシはそうしようとした。だからぎりぎりの状況でも生き残れる。お前に勝てる。

アタシは地面に堕ちながら笑いが止まらなかった。あぁ、止まらないんだ。

なのにどうしてか涙まで出てくるんだ。なんでアタシ、泣いてるんだ? アタシの正しさは証明された。



アタシ達は信じ合って認め合って、そうして強くなる。正しい事を続ける。だからこそ出た結果なのに、どうして泣くんだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



地面に落下していくアルフさんに近づきつつ、なのははレイジングハードを落下ポイントに向ける。

それで素早く魔力のクッションを構築。アルフさんの身体は1メートル近くある分厚い桜色のクッションに受け止められ、軽く跳ねた。

もう一度クッションの上に落ちたのを確認してから、なのはは術式を解除。同時にアルフさんにまた別の術式もかける。



飛行魔法の応用でゆっくり降りるものなんだけど、それでアルフさんを地面に……これでよし。



なのはも動きを止めていたフェイトちゃん達も素早くアルフさんに駆け寄って、状態を見る。





「アルフ、しっかりして……アルフっ!」



でもアルフさんはなにも答えない。お腹や腕から血が止めどなく流れて……まずは止血だよね。

なのははツインテールを結んでいたリボンを解いて、アルフさんの上腕にきつく結びつける。それで腕を上げて……とりあえずこれでよし。



「待っててっ! 今回復魔法を」

「アカンっ!」



右手をかざしたフェイトちゃんを、はやてちゃんが必死な顔で止める。



「はやて、離してっ! アルフが死んでもいいのっ!?」

「アイツの能力忘れたんかっ! 回復魔法使ったら隙を狙われるっ!」

「そんなの関係ないよっ! 私はアルフを助けるっ! アルフまで居なくなったら」



はやてちゃんは取り乱すフェイトちゃんに右手を振り上げ、それで左頬を思いっきり叩いた。

かなり良い音が響いて、叩かれたフェイトちゃんは呆然としながらはやてちゃんを見る。



「ちゃんと状況見んかい、このボケがっ! 今は」





そう言ってはやてちゃんは視線を上げ、あのリインフォースそっくりな姿に変身した恭文君を追って地上に降りてきた赤髪さんを見る。



赤髪さんはなのは達から100メートルも離れてない。場合によっては一足飛びで踏み込まれてアウトだよ。



てゆうかあの、アレなにっ!? 魔力反応もなにもないし、なにやってるのかさっぱりなんだけどっ!





「貴様、なにをした。私の『眼』の対象外……なにかのレアスキルか」

「さぁな。お前に話す義理立てはない」



しかも声までそっくりってどういう事かなっ! もう更に意味分からないんだけどっ!



「まぁいい、とっとと死んでもらうぞ。公女に仇成す者は死なねばならん。そのために私は最強の力を手にした」

「最強……か。どうする、シオン。お前と同じで最強などと言う奴が居るが」



リインフォースさんの声でそんな事を言ったかと思うと、恭文君の身体が翠色の光に包まれた。

その中で今度はシスター服っぽい格好に変わって、光と同じ色の髪を右手でかき上げる。



「もちろん……そんなのが勘違いだと教えなくては。最強という称号は、この私とお兄様にこそふさわしい言葉ですから」

【きゃー! やめてー! フェイト達の前なのにキャラなりとか……死ねるっ! 楽に死ねるっ!】



その仕草で光がパンと弾け、変わった姿を私達の前に晒した。

だ、だからあれはなにっ! 今度は知らない女の人になっちゃったしっ!



【「キャラなり――セイントブレイカー!」】

「女装趣味なら他でやれ。ふざけているのか」

「オーギュスト・クロエ、あなたの事は存じています。お兄様の中から見ていましたから。
欠片とは言え、あなたは余りに見苦しい。そして余りに世界が小さい。でも安心してください」



恭文君は右手をすっと挙げて、天を指差した。



「そして私に感謝しなさい。太陽が偉大なのは、塵すらも輝かせるから」

「どこまでもふざけるのが好きなようだな。……死ね」





あの赤髪さんは踏み込み、恭文君の胸元へ刃を突き立てる。

でも……次の瞬間、恭文君の右拳があの人の顔面に叩き込まれた。

あの人は信じられない様子で近くの外壁に叩きつけられ、その中に埋まる。



い、今のなに? 拳の出だしとかモーションとか全く見えなかったんだけど。





「ふざけている? いいえ、これは純然たる事実。だって私は最強であり、太陽そのもの。
もう一度言います。感謝しなさい――塵であるあなたが、私のおかげで輝ける事を」





恭文君は不敵に笑いながらまた右手で髪をかき上げ、壁からはい出た赤髪さんへすたすたと近づく。



ごめん、もうなのはは理解する事を放棄したいと思います。というかこう……ノリだけでいいんじゃないかな。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




オーギュストが踏み込みながら打ち込んだ突きの三連撃を、シオンは左右のスウェーで余裕を持って回避。

追撃で来た左薙の斬撃を伏せて避けつつ、懐へ踏み込んで左右交互にボディブロー。

そんな自分に対して打ち下ろされるサーベルに向かって左フックを打ち込み……いや、違う。



シオンはオーギュストの手首に狙いを定めて拳を放ち、打ち込まれた刃を腕ごと外へ弾いた。

それから左拳を引きつつ胸元へ右ストレートを放ってから、更に踏み込み再び打ち込まれた右薙の斬撃を伏せて避けつつ左フック。

オーギュストの右脇腹を捉えたそれはとても重く、奴の身体をくの字に追って横へと吹き飛ばした。



地面を転がるオーギュストは起き上がりながらも、再度こちらへ突撃。また鋭い刺突を打ち込む。

シオンはそれを右に動いて避け……それを予測していたオーギュストが刃を返し左薙の斬撃を打ち込む。

でもその前にシオンは奴の懐へ入り込み、振り抜かれようとしていたオーギュストの右腕を左腕で掴む。



それから右足で奴の左足を踏みつけ……零距離で右ボディブローを三発連続で打ち込む。

次に顔面を右フックで殴り飛ばしながら反時計回りに身を捻り、一本背負いの体勢に入る。

同時に両手で戒めた奴の右腕を極め、そのまま投げ飛ばす。これは……僕も使う雷だね。



欠片と言えど関節とかの関係はしっかりしているのか、オーギュストの右腕からバキボキと嫌な音が響く。

そのままシオンも飛び上がるようにして身を回転させ……オーギュストを頭からコンクリの地面に叩きつけた。

シオン本人はそのまま仰向けに倒れるオーギュストの上を転がり、素早く距離を取る。



すぐに起き上がってオーギュストの方へ振り向きながら、シオンは素知らぬ顔でまた髪をかき上げる。

そうしながらもいつの間にかくすねていたオーギュストのサーベルを、左手で地面に突き立て……そこに左足で蹴り。

見事に鍔元からへし折って、相手の得物を奪い去った。また徹底してる事で。



それでオーギュストは身体を起こしながらこちらへ向き直り、憎悪の視線を向けてくる。





「殺して、やる」



そんなオーギュストに対してシオンは無警戒に歩き……あれ、これってまさか。



【シオン、変わってっ! コイツっ!】

「私が人を捨ててまで得た強さを否定するなら」





オーギュストの肌が赤くなり、瞳は先程までとは違う色に……くそ、やっぱこのモードも健在かっ!

……オーギュストが魔法の発動や性質を先んじて見抜けるのは、コイツが受けた無茶な生体改造のせい。

でもその改造で得られた能力はそれだけじゃない。リミッターを解除する事で、いわゆる感覚増加も出来る。



身体中の感覚を倍加させる事で反応速度を上げ、相手の先の先を取り続けるという脅威のモード。

これに関しては対決した時、最初は僕もやられたい放題で……物質変換にも頼れなかったからかなり手こずった。

しかもしかも……なんか予備のサーベル取り出してやがるし。く、闇の欠片だから武器破壊は意味なしってか?





「問題ありませんよ、お兄様」



シオンは変貌するオーギュストにも動じた様子はなく、右手を挙げて指を鳴らす。



殺してやるっ!

≪Trial!≫





オーギュストが踏み込んだ瞬間、コンクリの地面が爆ぜてその姿が掻き消える。

でも同時にシオンの身体を翠色の光が包んで……その光が一瞬で破裂。

それが周囲に熱を伴う強い風となり吹き荒れ、同時にシオンのシスター服を弾き飛ばす。



その結果薄手な黒色半袖シャツにキュロットスカートという出で立ち……いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ! なんかすっごい薄くなってるっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なのはには見えないような速度で恭文君の背後に回っていた赤髪さんが、翠色の風に吹き飛ばされた。



それで数メートル後ろに着地……また地面を踏み砕きながら恭文君に突撃。その姿が一気に消える。



そうかと思うと姿が変わった恭文君が自分の左へと振り向き……え、なに?





がぁっ!



なんか振り向いたと思ったら、赤髪さんがまた吹き飛んで地面に転がった。

えっと……恭文君はなにもしてないよね。なら今のは。



≪The song today is ”Leave all Behind”≫



それでなんか音楽鳴り出したんだけどっ! これはなにっ!? どこから流れてるのかなっ!



【シ、シオン……参考までに聞くけど、これは】

「聖なる破壊は進化するもの」





また踏み込んだ赤髪さんの姿が消えて……あ、また吹き飛んだ。でも、今は見えた。

見えたのはちょっとだけになるけど、間違いない。恭文君の両拳が赤髪さんの胸元へ、凄い勢いで五発打ち込まれてた。

でも打ち込む前にやっぱりなのはにはよく見えなかった刺突を避け……うん、つまりそういう事。



一見すると間抜けなやり取りに見えるこれは、なのは達の目では捉えられないほどの超高速の攻防。



それも魔法もなにも使わずにだよ。これは、お兄ちゃん達レベルのチートかも。





「お兄様が自らを鍛えより強く生まれ変わるように、私という太陽も更に輝く。でも進化のためには挑戦が必要。
挑戦とはおのれの弱さと限界に向き合い、打ちのめされながらも諦めない事。だからこそ生まれる可能性がある。そう、この姿は」



また恭文君は右手で髪をかき上げ、フラつきながらも呆然とする赤髪さんを見下ろす。



「限界に挑戦し、それを破壊する太陽――セイントブレイカー・トライアルシャイン」

【だからって露出の限界に挑戦する必要はないよねっ!
この僕の心を痛めつけるだけのモードはいつから使えるようになったっ!
前触れなさ過ぎだろっ! パーフェクトゼクター張りに前触れないだろっ!】

「私という最強、その身に刻み込みなさい」

【無視するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!】





そしてまた赤髪さん……ううん、今度は恭文君の姿も消えた。それでまた破裂音のような音が響いて、赤髪さんが頭を後ろに逸らした。



そうかと思うと左右に振りまくって……あの、目が慣れたせいか残像は見える。見えるけど……早過ぎないっ!?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



シオンはリミッター解除状態なオーギュストの刺突をあっさり避け、左ストレートを顔面に連続三発叩き込む。

こちらの筋肉や骨が発する音や空気の動きを完全察知して、先の先を取り続けるオーギュストはなにも出来ず……マジかい。

さすがの僕もこれが自分の可能性だっていうのは信じられないぞ。あの時相当苦労したし。



ただこの形態、スピードはともかくパワーがない。いつものシオンなら、こんなに連打しなくても沈められるはず。

オーギュストは再び凄い勢いで横に跳び……シオンはすっと左に動いたかと思うと、反時計回りに身を捻る。

そうして背後から突き出された刃を避けつつ、それを打ち込んだオーギュストの左頬を蹴り飛ばす。



それからすぐに足は返され、跳ね返るように後ろ回し蹴りを叩き込む。オーギュストはそれに右頬を蹴り抜かれた。

シオンはそのまま身を伏せ、カウンターで襲ってきた左薙の斬撃を頭上すれすれに回避。

そこから懐へ踏み込みつつ右のジャブを瞬間的に五発叩き込み、すぐに下がって奴が打ち込んだ逆袈裟の斬撃を回避。



そこからオーギュストがまたまた地面を蹴り砕きながら踏み込み、連続的に刺突を打ち込む。

でもその全てをシオンは左右のスウェーで避け、空気を切り裂く音をさせながら素早く後退。

それでもしつこく迫るオーギュストへ、刺突を一発避ける毎に右拳を三発ずつ顔面に叩き込む。



オーギュストはそれに表情を険しくしながらまた刺突を打ち込み……素早く刃を返して右足を狙って逆袈裟の斬撃。

かなり急角度なそれをシオンは左へのステップであっさりと避けた。というか、瞬間的に背後に回り込んだ。

オーギュストの刃は地面すれすれで跳ね返り、シオンを追いかけるように時計回りに打ち込まれる。



当然これもかなりの速度で……なのにシオンは急に左足で地面を踏み締め止まったかと思うと、一気に跳躍。

鋭い音を響かせながら迫る刃を飛び越え、オーギュストの顔面を両足で蹴り飛ばした。

そうして宙返りして数メートル後退し、難なく着地。オーギュストの方は蹴りの衝撃のためか仰向けに倒れた。



……やっぱり肉体の痛みじゃ止まらないか。いや、あれは闇の欠片なんだからクリーンヒットさえ決めればOKか。

それに全く効いてないわけじゃない。あの形態は以前も思った通り、防御力に欠ける。

だからかなり打たれ弱いのよ。現に立ち上がるオーギュストはかなりふらふらとしてる。



もうこうなったらシオンに任せるしかないので、僕はなにも言わない。それで……二人は再び踏み込んだ。

最大速度で打ち込まれる刺突をシオンは右に避け、素早く右足を打ち上げる。狙う先は、オーギュストの左腕。

刺突により伸び切ったところを狙った蹴りにより、オーギュストの手からサーベルが零れ落ちる。



それでシオンは素早く身を翻し、右後ろ回し蹴り。そうかと思うと右回し・かかと落とし・右後回し――そのまま連続的な蹴りを続けていく。



シオンの足に翠色の閃光が灯り、それは蹴りを打ち込む毎に熱を帯びた焔へと変わる。





が……がぁ

【「ビートスラップ」】





顔面が幾度となく揺らされ、シオンを捕まえようとする腕も蹴られて外側へ弾かれる。

オーギュストが逃げようとすると上から軸足を踏み抜き、地面に崩れ落とす。

そうしてオーギュストは流星のような蹴りを浴びながら、自分から膝をつく形となった。



その姿はさながら太陽の光に感動して拝む者のよう。もしくは神や王に敬意を表して膝をつく者のよう。

それでもシオンの蹴りは決して止まらず、オーギュストはTの字を描く翠の焔に身体を揺らされていく。

ううん、同時に焼かれていく。そしてそれは、シオンが側頭部へ勢い良く右回し蹴りを叩き込んだ事で止まった。





「はぁっ!」



シオンがオーギュストに打ち込んだ足を振り抜き、そのまま背を向けて停止した瞬間……刻まれたTの字が爆発。

オーギュストは翠色の焔と蹴りにより蓄積されたエネルギーにその身を焼かれながら、仰向けに倒れた。



【「――トライアルエフェクト」】

「なぜ……だ。なぜ、私がお前などに。私は人を捨て」

「捨てた結果、あなたは一度の負けで砕ける弱さを手に入れた。それだけの事です」



シオンは泣き言を言うオーギュストには目もくれず、身体を起こして右手を挙げた。



「未来と限界に挑戦し、それを超える気持ちをなくしたあなたに……最強を語る資格はない」



やっぱりその手で、乱れた髪をかき上げる。同時に身体の周囲で翠色の粒子が生まれ、それがシオンの身体を包む。

粒子は一瞬で元のシスター服に戻り、シオンのかき上げられた髪もその上に収まった。



「絶望に埋もれて消えなさい、最弱」

「そん、な。では私は」





そして背後から『パリン』となにかが砕ける音が響いた。これで……どうも終了らしい。

そう思った瞬間、身体の感覚が一気に戻ってくる。僕はそのまま元の姿に戻った。

でも……やばい、フェイト達にキャラなり姿見られた。見られたくないって、思ってたのに。



特にこの時間では……いや、そこはガン無視だ。触れたら僕が死ぬ。なので素知らぬ顔で、みんなに近づいていった。



そうしたらどういうわけかあむとトーマ、リリィまでそこに居た。なんかアルフさん囲んで……治療してるっぽいね。





「あむ、リリィ、その駄犬は」

「駄犬って……とにかく大丈夫、傷はふさがったっぽい」

「でもすぐにちゃんとしたところで見てもらわないと、危ないかと」

「そう」



まぁこれで死なれても僕がめんどいだけなので、そこは良かった。ヒカリとショウタロスも安堵の息を吐いてるし。



「ちゅうか恭文、あれは」

「というわけで僕達はやる事あるから。んじゃ、またねー」



あれに関しては一切触れられたくないので、そのまま三人を引っ張ってその場から離れようとする。

なお、三人はやや抵抗したものの僕の力がめっちゃ強いので……素直に従ってくれた。



「未来でアンタが戦った犯罪者かなにかやろ」



それなのにはやての指摘が実に素晴らしいところを突いていたせいで、僕は固まってしまった。それで、背後からため息が聴こえた。



「……やっぱりそうなんやな。アンタは今の恭文とちゃう。今よりずっと後の恭文や。そっちのあむちゃん達も未来から来た。
で、察するにあの姿変わって魔法とちゃう戦い方する技も、修行なり冒険した結果身に着けたスキルやな」

「え……ちょ、恭文っ! なんかバレてるんだけどっ!」

”おのれもあっさり認めるなボケっ! あとみんな、キャラなりの事は死んでも隠し通すよっ! 今のみんなに話しても面倒だしっ!”

”いやいや、使ったの蒼にぃ……てーかヒカリとシオンじゃねっ!? 俺達関係なくねっ!?”



トーマは意外とツッコミキツいなぁと思いつつも、僕は冷静を装ってはやて達の方は見ずにお手上げポーズを取る。……詠唱開始。



「で、どうしようって言うのよ。まさか『レアスキル』だからみんなに教えろと? 悪いけどごめんだわ」

「それはせんよ。てーかさせん。ただ……アースラに来てもらえるか? そこでならえぇように出来ると思うし」

「悪いけど信用出来ない」



特にキャラなり使っちゃったしねっ! そこツッコまれても嫌だから、今は退避するしかないのよっ! ……うし、ルート構築完了。



「あの、ヤスフミ待ってっ! 本当に私達の知ってるヤスフミなんだよねっ!
だったらそういう答えは出ないよっ! アースラのみんなは仲間なのにっ!」

「また闇の欠片扱いされても困る。てゆうか、そんな足手まといと戦ってたら、こっちの生命が足りない」

「あの、アルフをそんな風に言わないで。アルフだって頑張ってたの、見てたよね。
アルフは足手まといなんかじゃない。頑張って戦った、私達の仲間で家族だよ。
どうしてそういう頑張りを認めて、優しい言葉をかけてあげられないの? 母さんだって」

「このバカがなのはの頑張りを無駄にした」



あんまりにアホな事を言うので、そう言ってフェイトのバカを叩き切る。



「なのはは自分じゃ不利なのは分かった上で相手してたんだ。アルフさんやはやてが無事に降りられるようにってさ。
それで今の僕じゃない僕の事も信じてくれた。そんな頑張りをダメにしたのは誰? ……全部ソイツだろうがっ!
下手したらなのはだってソイツのせいで死んでたんだぞっ! そんな奴を認める理由なんざないっ!」

「ヤスフミ、落ち着いてっ! そういう話じゃないのっ! 私、どうしてそうなるのか分からないよっ!」

「あの……恭文君、なのはの事は大丈夫だから。確かにちょっと怖かったけど」

「僕に来て欲しかったら、その駄犬をなのはに土下座させろ。まずはそれからだ」





それだけ言って転送魔法を発動。その場から一気に離脱した。……ヤバい、どんどん追い込まれてる。



てーか自業自得とは言え、キャラなり使ったのが痛かった。こりゃマジで警戒しないと。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ヤスフミっ! ……どうして、逃げちゃうのかな。そんなの違うよ。家族だから信じて欲しくて、ただそれだけなのに」

「リイン、転送は」

【無理です。やっぱり速い……はやてちゃん、どうしましょう】

「まずはアルフさんをアースラへ運ぶ。あの子達が治療してフェイトちゃんがバックアップかけたとは言え、重傷やもん。でもマズいなぁ」



さっきのあれを思い出して、あの恭文の強さと戦ってきた相手のレベルを改めて痛感する。

てーか……キツ過ぎて眉間にシワ寄せてまう。なのはちゃんも同じ顔しとるわ。



「もしまたあんなチートが出てきたら」

「私達じゃ……勝てない? あの、大丈夫だよ。母さんだって言ってたよね? 仲間と組織を信じて戦えば」

「じゃあアンタはなんでさっきなにも出来なかったんよ」

「というかあの、ごめん。なのはは匙投げたい」





そやそや、あのなのはちゃんでさえ無理って顔してるもん。現にさっきも防戦一方やったし……いや、そうやないか。

なのはちゃんは攻撃手段が魔法オンリーな子やから、その分さっきのあれで脅威を感じまくってるんよ。

しかも早々に撤退したうちと違って、直にやり合ってる。そういうのもあるから……それでなのはちゃんの判断は正しい。



フェイトちゃんが言うみたいな集団の和でなんとかなるなら、恭文だけに戦わせたりせんで済んだし。





「あの魔法を見抜くのはまだいいの。でも最後の……超移動というか超反応?
フェイトちゃんだって動き追えなかったよね。なのはも残像がちらっと見えるだけだったし。
あとね、アルフさんが迷惑だったっていうのも同意見。結局自業自得でこれだもの」

「なのは……なのはまでどうしてそんな事言うの? アルフは頑張ったのに」

「まぁまぁ、その話は後でもえぇやんか。でも……間違いなくヤムチャ視点やったからなぁ。
てーかアイツ、どんだけチートなのと戦ってたんよ。ありえんやろ」

「足手まとい……だぁ?」



そこで寝転がってるアルフさんから、苛立ち気味な声が……あれ、なんかめっちゃ嫌な予感がする。



「アルフ、良かった。もう大丈夫だよ? すぐに救護班が来るから」

「ふざけるなっ!」



アルフさんは予想通りに起き上がろうとして、顔をしかめながらまた地面に倒れ込んだ。



「アルフ、だめ。暴れたら傷が開く」

「許さない……アタシは、アイツを絶対に許さないっ! みんなの正しさをバカにしたアイツは、アタシ達の敵だっ!
アイツの言う事なんて嘘だっ! 正しい奴が勝つっ! そして強いっ! だから……アタシ達は強いはずなんだっ!
なのは、お前までなんだっ! アタシが自業自得で迷惑っ!? そんなわけあるかっ!」

「アルフ、落ち着いて」

「お前らがそういう態度ばかり取ってたらお母さんやフェイトが傷つくって分からないなら、死んだ方がマシだっ!
お前ら全員ぶっ潰すっ! ぶっ潰してアタシ達が正しいって認めさせて……這いつくばらせてやるっ!
それで必ず大人にしてやるっ! アタシはもう、ガキの勝手で家族が傷つけられるのは嫌なんだっ!」

「……いい加減にしてくださいっ!」



それでなのはちゃんキレてもうたしっ! めっちゃ怒った顔でアルフさん睨みつけとるわっ!



「確かに恭文君が色々勝手してて心配だったり怒ってるのは分かりますけど、今のは絶対アルフさんが悪いっ!
現にアルフさんが突っ込んだせいでなのはや恭文君のプランはめちゃくちゃっ!
そんな怪我する必要だってなかったっ! それなのにどうして自分が間違えた事、認めないんですかっ!」

「黙れっ! それはアンタ達がアタシ達を疑ったからだっ! だからあんな事になったっ!
みんなが一丸となって『出来る』って思えば、アタシはこんな怪我せずに済んだっ!」

「違いますよねっ! それを言えばアルフさんだって恭文君やなのはの言葉を信じなかったっ!」

「お前達が間違ってるからだろうがっ! だからお前達のせいだっ!
そんな真似したら……またお母さんが泣くだろうがっ!」



アルフさんはフェイトちゃんを振り切り、ボロボロ泣きながらなのはちゃんを睨みつけながら顔を近づける。



「お母さんは闇の欠片がまた目覚めたって知って、悲しそうだったんだぞっ! 辛そうだったんだぞっ!
だったらアタシ達がそれを止めなきゃいけないだろうがっ! それが家族だろうがっ!
お母さんを信じて、お母さんの言う大人としてこんな事件を解決しなきゃいけないだろうがっ!
だから勝手をするなって言ってなにが悪いっ! 家族だから、仲間だから、一つになろうと言ってなにが悪いっ!」

「言い訳しないでくださいっ! そんなのアルフさんがミスした事とは関係ないっ!」

「ミスなんてしていないっ! アタシはお母さんの言う大人として戦おうとしたんだっ! なのは……見損なったぞっ!
散々世話になっておきながら、今傷ついているあの人を気遣えないのかっ! この恥知らずがっ!
お前なんてフェイトの友達でもアタシ達の仲間でもないっ! 今すぐ縁を切れっ! お前が居ると、フェイトまで腐るっ!」

「どうしてそんな話になるんですかっ! アルフさん、いくらなんでもおかし過ぎますっ!」

「あぁもうやめやめっ! アルフさんもなのはちゃんもやめっ! 今はアースラ戻る方が先やろっ!」





もう嫌や。なんでこの人……いや、今ので事情は分かった。アルフさんが変な意地張ってるのも納得や。

リンディさん、闇の書関連の事件がまた起きたせいで心中穏やかじゃないと。

なら……うん、その気持ちはよう分かる。うちかてワケ分からんし頭痛くてしゃあない。ぶっちゃけ泣きたくもあるよ。



リインフォースが自分から消えていったのとか、みんなで頑張ったのとか無駄やったのかなって打ちのめされかけとる。

それをアルフさんは気にしてて、リンディさんが見ていて喜ぶ事件解決コースを進もうとしてると。

多分フェイトちゃんがプレシアさんやリニスさんの欠片と戦って、少なからずダメージ受けたのも影響しとるんやなぁ。



でもこれはアカンわ。フェイトちゃんはいつもの天然で済ませられるけど、この人のこれは邪魔や。

今は出張中のクロノ君なりレティ提督なり引っ張りださんと……そう思うた途端、うちら全員の身体が震えた。

それでアルフさんは放置で、うちはなのはちゃんとフェイトちゃんと顔を見合わせた。





「なにこれっ!」

「私も感じたっ! 物凄い魔力……ううん、エネルギー反応っ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



海鳴海上近辺で、突如として巨大な爆発が起きた。幸いな事に結界内だったので被害はなさそうだが……いや、それでもだめか。



今私達の前方1キロの地点で生まれた爆煙は、まるで核かなにかでも落ちたのではないかという大きさだったのだから。





「なんだ、あれは」

「トリプルブレイカーと同等の攻撃……いいえ、それ以上っ!?」

「熱と物理破壊も込み。生物があの付近に居るなら、生きているとは思えない……だが」

「普通じゃないだろうな」





ザフィーラの言葉に答えながらも、私は背筋が冷たくなっていた。

騎士として培った勘が言っている。あれは……近づいてはいけない。いや、近づきたくない。

そうだ、私はあのエネルギー反応の中心に、『アレ』があると感じている。



一応私も闇の書が生み出したシステムの一部。あの爆発の中でもアレが生きていると感じ取っているのだろう。

それはシャマルとザフィーラも同じだ。それでも我らは……慎重に、言葉もなく爆発が起きた地域へ近づく。

我らが1キロという距離を詰めている間に爆煙は晴れ、中心地に居る三人の人影を見つけた。



一人はあのキリエとか言う少女。もう一人は……左腕が中程からもげた状態のアミタ。

最後の一人はそのアミタを両肩上にあるエネルギースフィアから生えた赤い腕で摘んでいる、システムU-Dだった。

だがあの少女の姿、映像で確認したものと違うぞ。主はやてが接触したシステムU-Dの服は白だったはずだ。



今の少女は赤色――あのエネルギースフィアと同じく、血のような色をした服をまとっていた。



一瞬返り血かなにかかと思ったが、そういうわけでもないようだ。それにしては全身に綺麗に塗られている。





「武器をも破損する極大砲撃……確かに少し、痛かった。でもそれだけ」



そう呟いてシステムU-Dは興味なさ気に、アミタという少女を海へ投げ捨てた。

彼女は腕から火花を走らせながら落下し……だが、近づけない。今近づけばどうなるかは、一目瞭然だ。



「魔力量が……なんだ、これは」



一応データで確認はしていた。だが今のシステムは、それ以上だ。我らはただ、威圧されて寒気だけを感じていた。

これは……そうだ、間違いない。闇の書の闇以上だ。もちろんそれはザフィーラとシャマルも感じ取っている。



「我らが束になってかかっても勝ち目はないぞ」

「でもやらないわけには、いかないわよね」

「あぁ」





今戦っても勝つ事は本当に難しいだろう。だがけが人を放っておくわけにはいかない。

せめて彼女達を救助するまで……そう思っていると、システムU-Dがこちらに視線を向けた。

三人揃って攻撃が来るかと身構えると、彼女は我々を見て悲しげな顔をした。



その表情に面食らっている間に、システムは赤い光に包まれ……その場から姿を消した。





「消えたっ!?」

「シャマル」

「分かってるっ! 転送先を追うわっ! シグナムはあの子の回収をっ!」

「了解した」

「みんな、遅くなってすまないっ!」



すぐに海面へ向かおうとすると、4時方向から声がかかった。

私は一旦足を止めそちらへ振り向き、慌てた様子の男性に視線を向ける。



「クロノ提督っ! あの」

「状況は理解している。とにかくこの場での処理を終えたら、みんな休んでくれ」

「休んでって……でも」

「大丈夫、伊達に遅れてきたわけじゃない。それなりの準備はしてきたからな」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



どでかいエネルギー反応を感じた直後、シグナムと合流したクロノ君から通信をもらった。

それで全員揃って一度アースラへ帰投……そこで面倒な事が別のとこでも起きてると知る事になった。

もうマジワケ分からん事ばっかなので、うちらも休憩に入る前にクロノ君と会議開始や。



場所は当然アースラのブリーフィングルーム。やや薄暗い照明な部屋にも、大分慣れたと思う。





『――闇の欠片も守護騎士達のおかげで、今のところは落ち着いている。
一晩かけての掃討作戦が効いているようだ。これならもうしばらくは持つだろう』



ちなみにクロノ君は『遅れた分きっちり働く』言うて、うちらの仕事を全部引き受けてくれた。なので外や。



「あの、キリエっていう子は」

『そちらは僕達がてんやわんやとしている間に……逃走だ。
それで保護したはアミタの方だが、アルフとヴィータ共々落ち着いている。
技術班と医療班が総力を挙げて対処しているので、問題はない』

「ならクロノ君、あの場にその二人が居た理由は」

『片方は逃走し、もう片方は今も意識不明だからな。今のところさっぱりだ。だが』



そこでうちらの目の前に別のモニターが展開して、そこに五人の人物が写る。



『目下の問題はそこではない。マテリアル達とシステムU-D、そしてフォン・レイメイだ』

「フォン・レイメイは相当凶悪な犯罪者……やったな。クロノ君、その本人は」

『もしかしたらと思いこちらで調べてみたが、本人は未だに捕まっていない。死亡したという報告もない。
ただヴィータ達の証言とその時のデータを見るに、欠片なのは間違いないだろう。
もちろん彼が闇の書事件に関わったというデータもない。となれば当然のように疑うべきは』

「未来から来た恭文、あと他の子達の記憶から再生……か。あのオーギュストっていうのと同じやな」

『あぁ。彼らからすると、少々重い話にもなってきた』



確かになぁ。アイツ意外とヘタレやし、『自分がタイムスリップしたせいで』とか考えそうやし。

それならそれでしっかりフォローしとこう。でも記憶再生してアイツ生き残ってるって事は……そういう事なんか。



『とにかく欠片と言えどその能力は圧倒的と言わざるを得ない。普通に戦えば大怪我は免れないだろう』

「私達で必ず止めるよ。闇の欠片なら一撃与えさえすれば止まるし」

『だめだ。フェイト、はやて、奴と遭遇したら君達は撤退するんだ。絶対に交戦してはいけない。
君達にはこちらをなんとかして欲しいからな。怪我をされても困るんだ』



それで五人の姿を映したモニターに変化が現れる。一旦みんなの姿が消えて、一人の女の子が改めて出てきた。

その子はうちも昨日見た子で……でも次に出たもう一枚の写真のその子は、血みたいな真っ赤な服を着ていた。



「システムU-D……やな」

『あぁ。詳しい事は分からないが、いずれの観測状況でも凶悪な戦闘能力を発揮している。
シグナム達が遠目から見た彼女は色が違っているので、二体居るか……またはフォームチェンジ?』



ようは色が変わったのは、そういう別形態になったからって話やな。出来ればそっちでお願いしたいわ。

闇の書の闇以上なチートがもう一人やなんて、さすがに笑えん。



『そのスペックは闇の書の闇と同等以上……これはシグナム達が間違いないと証言している。
まずこちらで調査も兼ねて対策を考える。その間君達は休んでてくれ。
あとはデバイスの再調整を。ここからはかなり苛烈な戦いが予想されるからな。今のうちにというやつだ』

「でもクロノやリーゼさん達だけでなんて……大丈夫だよ。闇の書の闇と同じなら、前と同じ方法で倒せる」

『それも無理だ。システムU-Dは人型だし、あの時と同じ戦法は通用しない。
なによりトリプルブレイカー級の爆発にも耐えている。それは自殺行為だ』

「だから大丈夫だって言ってるよね。とにかく私も現場に出るよ。フォン・レイメイも私が必ず止める。
仮にヤスフミが倒したとするなら、私にも出来るよ。だってヤスフミより私の方が強いんだから」

『だめだ。……恭文の事は僕達でなんとかする。だから君はアルフを少し落ち着かせろ。正直今のアルフは邪魔だ』





フェイトちゃんがさっきからしつこい感じやったのは、やっぱりそこっぽい。

フォン・レイメイとかシステムU-Dとかが出てる状況で、恭文がぶらぶらしとるのが辛いみたいや。

そやから探して説得して、なんとか引き込んで……考え見え見えやて。



図星を突かれたフェイトちゃんはやや慌てた顔をするけど、すぐに俯いてしまう。





「……なぁクロノ君、恭文をベトナムから呼び出した方が早くないか? 転送魔法ならいけるやろ」

『僕もそこを考えて連絡した』



おぉ、クロノ君はやっぱさすがやなぁ。こういう手回しがすっと出来ると出世するんやな。うちも真似しようっと。



『だがその』

「なんや」

『女の人がバスタオル一枚で出て……ベトナム語で『今忙しいから後で』と言われて切られた。
その後またかけたんだが、通信が繋がらなくなってるんだ。メールもしたが返事がない』

「そやからアイツはなにしてるんよっ!」

『僕にもさっぱりだ。とりあえず修羅場なのは間違いないようだが』





その修羅場の内容はめっちゃ気になるんやけどっ! てーか現地の人が通信出るっておかしいやろっ!

しかもバスタオル一枚っ!? 褐色肌で巨乳なお姉さん……よし、帰ってきたらマジ問い詰めたろっ!

それでちらりとフェイトちゃんを見ると、なんや頬膨らませてブツブツ呟き始めとった。



もしかして……いやいや、まさかなぁ。とにかく恭文を呼び戻すのは難しそうと。





『ベトナムに出向いて連絡の取れない恭文を探している時間もおそらくはない。だからこれが一番早い方法だ』

「でもどうするんよ。うちらやたら警戒されてるし、普通には納得せんやろ」

『とりあえず未来の事を深く聞かない事を約束してみようと思う。あとは……感触次第だな。
彼らが逃げ続ける理由が過去――僕達への干渉や未来情報漏洩への危惧。
そして恭文が使ったという妙な変身と魔法とは違う戦闘能力が原因なら』

「そこを深くツッコまん事でなんとか出来るかも……うん、うちも同じ考えや」



でもクロノ君、優しいなぁ。女装で戦った事とかは一切無視してるし。

まぁあれや、うちもあそこには触れたくないから……フェイトちゃんにも釘刺しとこうっと。



「それじゃあクロノ君、うちらが休んでいる間はお願いな。……フェイトちゃんもそれでえぇな」

「あの、未来の事を聞かないっていうのはないんじゃないかな。ちゃんと話して信じてもらおうよ。
それに能力の事もちゃんとしないと。改めて考えると凄いレアスキルがヤスフミに発現してるんだよ?
もしかしたらそれが原因で……だからね、私達でお願いするの。もっとみんなを信じてって」

「フェイトちゃん、それやめてあげようよっ! そないにガッツポーズせんでえぇんよっ!」

「そうだよっ! あのね、それに関してだけは無視してあげよっ!? 絶対触れちゃだめっ!」

「そうすればきっと上手くいくし、アルフだってあんな事言わなくなる」



それでやっぱり無視かー! うん、今までのパターンから分かってたわっ! 女装どうこうとかすっ飛ばしてるもんなっ!



「うん、絶対そうしよう。それがヤスフミのためだよ。そんな簡単な事が出来ずに仲違いなんて、悲しいよ」

『だめだ。フェイト、頼むからここは納得してくれ。このままだと僕達は恭文とも戦う事になりかねない』

「嫌だよ。クロノ、お願いだから私を信じて。ヤスフミは話せばきっと分かってくれる。
私はヤスフミを信じてるの。だからヤスフミにも信じて欲しい。それのなにがだめなのかな」

『聞けないのなら君は現場対処から外す。例えリンディ提督に泣きついてもだめだ。君は……アルフと同じく邪魔だ』

「……何度も言わせないで」



そう言われてもフェイトちゃんは納得し切れないのか、首を横に振って涙目になるだけ。



「嫌だ、そんなの絶対に嫌だ。ヤスフミが私を信じてくれないなんて、側に居ないなんて嫌だ」

『フェイト』



クロノ君が困った様子で声をかけても、ただ首を横に振るだけ。だめや、頑固なのが裏目に出とる。

そんなフェイトちゃんを見てクロノ君はため息を吐いて、画面の中からうちを見た。もうここは放置するらしい。



『とにかく君達は守護騎士共々待機と休憩。今は僕とリーゼ達が受け持つ』

「うん、お願いな」





フェイトちゃんは……だめやなぁ。多分未来の恭文と今の恭文を同じように考えてるんよ。



そやから距離感とか発言とかが今と違ってると、不安に思ってなんとかしようとする。でもそれはアカンやろ。



フェイトちゃんやアルフさんがこれやと……恭文をこっちに引き込むのは相当難しいかも。マジどうしよ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とりあえず諸々の指示は済ませた。追跡隊も別に編成しているから、システムU-Dやキリエ・フローリアンもすぐ見つかるだろう。

もちろん今は姿を消しているマテリアル達もだ。彼女達があのまま消えているとはどうしても思えない。

目的がシステムU-Dの確保である以上、最低でも一回は出てくるはず。そこを狙って接触出来ればいいんだが。



それで目下の問題は……フェイトとアルフだな。二人はあの恭文が嫌っている事を狙っているかのように踏んでいる。



というか、未来の恭文だろうと今の恭文だろうと関係なしか? 本当にもう、頭が痛い。





「フェイトとアルフにも困ったものだ。もう少し落ち着いてくれるといいんだが」

「まぁそう言うなって。犬っ子はともかくフェイトちゃんはやすっちに避けられてるみたいで、ショック受けてるんだよ」

「今と未来じゃ事情も違うと言っても、無理だろうしね。というか、普通区別つけるのが難しいって」



空中でため息を吐く僕に、二人の人影が近づいてきた。もう声だけで誰か分かる。というか、それくらいの付き合いはある。



「リーゼ達……来てくれたか。体調はどうだ?」

「まだまだ元気いっぱいだよー」



明るい返事が返ってきた事に、内心ホッとする。二人はヴィータ共々フォン・レイメイと接触したからな、やはり不安な面はあった。



「それでクロ助、どうするの?」

「クロ助言うな。……まず僕達だけでシステムU-Dを止めるのは無理だ」





はやてが接触した時のデータと、ほんの少し前にシグナム達が遠目からだが接触した時のデータを思い出す。

魔力量やその能力に耐久値……闇の書の闇以上だとすると、その結論は簡単に出る。

しかも人型というのがなぁ。防衛プログラムの時のようにでかい的みたいなのだったら、まだ良かったんだが。



簡潔に言うと『そんな化け物スペックの人型と空中戦など演じたら、確実に死ぬ』という事だな。



リーゼ達もそこは納得してくれているようなので、話を次に進める。





「それでフォン・レイメイの欠片を倒すのも……かなり難しいと思われる。
恭文と同じ能力でありながら、魔力資質はより潤沢。タチが悪過ぎる」

「うん、妥当な判断だ。それに未来のやすっちとかも勝ってるかどうか分からないってのがなぁ」

「……やはり君もそう思うか」

「そりゃそうだよ。今出てるのは記憶だけだし」

「私も同意見。安易にこっちの恭文君を頼るのも、今の段階では危険だよ」





もう言うまでもない事だが、闇の欠片は僕達の記憶を元に再生された立体映像のようなものだ。

まぁそのわりには自由に動くし、結構はた迷惑なんだが……ここで重要な事がひとつ。

恭文なり未来の人間がフォン・レイメイに接触した事があるとして、それはどういうシチュだったのかという点。



普通に戦って勝ったのならいい。今話が出たように、それが出来る人間――同じ能力を持った恭文に頼るのも手だ。

ここは単純な戦力としてだけではなく、戦う場合のコツなどを伝授してもらったりしてもいい。

だがもしそうでないのなら? 例えば戦って負けていたり、単純に接触だけで戦闘などに発展していなかったら?



その場合、今言ったような事は一切出来なくなる。なので今僕達がこれらに対して出来る事はほとんどない。

現状は考えうる限り最悪だ。システムU-Dや未来組の記憶から再生された闇の欠片達――厄介過ぎるだろ。

今の僕達では対処しにくい相手がかなりの数出ている。だからこそ、まずは可能性に賭けるわけだが。



それは恭文やあむという少女、それに融合騎を連れた黒騎士……あぁ、未来組の確保が今僕達に出来る事だ。



もちろんそれだけじゃない。戦力も情報も足りない今、僕はバラバラな力を束ねる事に尽力する。……さて、準備開始だ。





(Memory13へ続く)



















あとがき



恭文「というわけで……いやぁ、僕の天翔龍閃もどき凄かったねぇ。オーギュストを一刀両断だよ」

あむ「え、ちょっと待って。アンタそんなの使ってなかったよね」

恭文「やっぱり5年という積み重ねがあるからなぁ。僕は確実に進化してるんだよ」

あむ「いや、だからアンタはシオンとキャラなり」



(その瞬間、現・魔法少女は蒼い古き鉄に凄い勢いで睨まれた)



あむ「……すごかったねー、天翔龍閃もどき」

恭文「でしょー?」



(話を合わせる事にしたらしい)



恭文「というわけで天翔龍閃って凄いなぁと思う蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむです。それで……アルフさんがバカだ」

恭文「バカっていうか、空回りしてるね。まぁそんな事よりバトルしようぜ」

あむ「あれをスルーですかっ!」

恭文「とにかく今回でクロノさんも本格登場。やっぱり書いてて楽しい活躍シーン」



(もっと活躍させたいなー。でも艦長とか邪魔だなー。よし、局はクビだ)



あむ「その理論おかしいからっ!」

恭文「あむ、それはしょうがないよ。だって局員になると出番も減るし扱いにくくもなるし」

あむ「マジで地雷認定ですかっ!」



(まぁ局が絡まない事件が多いしなー、とまとは)



恭文「それで……話は変わるけど八神恭文、苦労しています」

あむ「なんで?」

恭文「火野恭文の影がどんどん濃くなるから」

あむ「だからアンタ達はアイツを気にし過ぎだってっ! なんでどんな真顔っ!?」

恭文「あとはヤマトとマ・グーが制限になったから。まぁこっちは別にいいよね」

あむ「良くないじゃんっ! ISバトスピクロスマジでどうするっ!?」

恭文「そんなわけで現在デッキを調整中。今はこんな感じに」



(蒼い古き鉄デッキVer7『http://www.battlespirits.com/mydeck/decksrc/201204/1334872754.html』)



あむ「あ、出来てるじゃん」

恭文「一応ね。中々バランスが難しいけど……もうちょっとコスト0か1スピリット増やしたいと本人は唸っていた」

あむ「じゃあここからまた調整と」

恭文「だねぇ。やっぱり全体的に軽くする方向で?」



(……やっぱりジーク・ヤマト・フリードとマ・グーフル投入の方が火力はある点について)



恭文「気にしてはいけない。とにかく次回は……いよいよ事件の真相に迫る?」

あむ「アミタって子は捕まえられたし、なんとかなりそうだよね。でも……あの子影薄いよね」

恭文「しょうがないよ。だって主役はあの子じゃないし」

あむ「じゃあ誰が主役っ!? ……あ、まさかなのはさんとかっ!」

恭文「実はそうなんだよ。あれは空気読まないしねぇ」




(『ひどいよー! 今回なのはは空気読みまくってるのにっ!』
本日のED:如月千早(CV:今井麻美)『蒼い鳥』)










千早「……プロデューサー、向こうのプロデューサーはなんだか大変そうですけど」

恭文(OOO)「気にしなくていいよ。というか、触れないであげて」

千早「そう、ですね」

恭文(OOO)「それよりも……どうしたものか」(事務所でデッキ調整中)

律子「恭文君はもうすぐ大会だっけ」

恭文(OOO)「えぇ。今度こそチャンピオン(薬師寺アラタ)にリベンジするんで……あ、そうだ」

律子「なに?」

恭文(OOO)「それ関連で、今度オーディションやるそうなんですよ。
あれですよ、イメージガール的な感じで。明日資料もらってきますので」

律子「あ、そうなんだ。それってバトスピ関係者から?」

恭文(OOO)「はい。これでもそれなりに顔は売れてるんで。
あ、千早も合格すればうたえるよ? イメージソングも作るらしいし」

千早「ほんとですか? なら……よし、頑張ろう」





(おしまい)




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