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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory11 『GEARS OF DESTINY/時を超える記憶』



――蒼にぃはこう言っていた。『人生にはなにがあるか分からない。だからこそご飯は食べられる時に食べよう』。

フッケバインの三人をどつきながら普通にマルゲリータ食べてるチートが言うと、妙に説得力がある言葉だ。

あとは俺自身がここ半月の間に経験した事からも、なにがあるか分からないという点だけは同意出来る。



が……森の中を逃げ回っていたところから、いきなり夜空へ放り出されたらそりゃあビビる。てゆうか、理解出来ない。



そんなわけで俺ことトーマ・アヴェニュールと、相方になっているリリィ・シュトロゼックは現在……自由落下中。





「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」



リリィは白いワンピースの裾を右手で押さえ、俺は俺で羽織っているダッフルコートをはためかせながら落下中。

もう対処どうこうの前に、この状況が意味分からなくてひたすらに混乱している。



「ト……トーマッ! トーマッ! なんか堕ちてるっ! や、見ないでー!」

「なにをっ!? てーかここどこっ! とりあえず……リリィっ!」

「うんっ! 銀十字、リアクトいくよっ!」





その言葉でクリーム色の髪を揺らめかせていたリリィが白い光となり、俺の中へ吸い込まれる。

身体に強烈な力が漲る中、俺は身を翻し両足で空中を踏み締め停止。同時に身体を黒い光が包み込んだ。

その中で身に着けるのは黒いレザーっぽいノースリーブ・へそ出し上着とロングパンツ。



同時に俺の暗めな瞳も翡翠色に代わり、髪の色も灰色に変化。そして両腕や顔に赤い文様が刻まれる。

左腕側面には刃が外側に付いたラウンドシールドっぽいものを装着し、右手には馬鹿でかい銃剣を装備。

リボルバーを仕込んだそれは1メートル以上あり、全体的に刺々しい。とにかく変身完了。



これはリアクト……まぁ諸事情あって出来るようになった、ユニゾンの亜種みたいな感じだな。





【トーマ】

「分かってる」





忘れちゃいけない防護策――左手でやっぱり刺々しいヘッドホンを取り出し、それを頭に装着。

後ろに向かって伸びているアンテナがメカっぽくてかっこ良い、俺のお気に入りだ。

そこから緩やかにヴァイオリンの音色が響く。それでなんというかこう、呼吸が楽になるのを感じた。



周囲の音や声を阻害しない程度の小さな音色だけど、この中には全てを委ねても良いと思うほどに大きなものがある。





【うーん、今でも信じられないかも。エクリプスの暴走がヴァイオリンの演奏一つで抑えられるなんて】

「そうか? 俺は信じられるけどな。この音は俺達の『こころ』そのものに訴えかけているんだよ。
俺達は身体の作りがちょっと変わっただけで、みんなと同じこころを持った人間だってさ」

【こころ、かぁ。だったら嬉しいな、わたしもしゅごキャラが見えるし。
……あ、今はその話じゃなかったね。銀十字、来て】



目の前に茶色の表紙で、銀十字のレリーフが刻まれた分厚い本が現れた。

当然のように俺はコイツをジト目で見るわけだ。てゆうか、コイツのせいでこの間も大変だったし。



「銀十字、またお前の仕業じゃ」

【違うみたい。銀十字は誰かに呼ばれたって言ってる。というか、引き込まれた?】

「呼ばれたって、まさかフッケバインか? なんのかんので俺達にちょっかい出しつつも助けてくれてるし」

【それも違う……トーマ、誰か来るっ! 9時方向、数は二人っ!】



反射的にリリィが指示した方を見ると、そこからマントとマフラーをなびかせながら誰かがやってくる。

小さめな剣士とピンク髪でローラーブーツ履いている子は、俺達から20メートルほどの距離を取って目を細めた。



「あれ」

「恭文、あれなにっ!? なんか変なのが来てるっ!」



なんか二人は驚いてるっぽいけど、俺とリリィはもう感激で頬が緩む。だってこの二人は、知った顔だったんだから。



「蒼にぃっ! それにあむさんも……どうしてここにっ! あ、あむさんとは初めましてっ!
俺はトーマ・アヴェニールですっ! あむさんの事は蒼にぃと幾斗さんから写真でっ!」

「幾斗、蒼にぃ……イクトっ!? アンタ、イクトや恭文と知り合いなんだっ!」

「いや、あいにくこんな厨二病丸出しファッションしてるのは、僕の知り合いにはサリさんくらいしか居ない」

「厨二病って言うなよっ! 何気に気にしてるんだからっ!」



あぁ、でも間違いないっ! この感じは蒼にぃだっ! 蒼にぃとあむさんの側にもしゅごキャラ居るしっ!

空気を読まずにボケるのもツッコむのも蒼にぃだっ! よし、これで状況把握が出来るっ!



「シオン達も居るんだなっ! 俺だよ俺っ! トーマだよっ!」

【リリィだよー! みんな、わたし達の事分かるよねっ!】

「残念ながら私の記憶に、あなたのような厨二病は」

【「もうそれはいいからっ!」】

「ちょっと待てよ。……おいヤスフミ」



ショウタロウが怪訝な表情を浮かべながら、腕を組み横目で蒼にぃを見る。



「ここは2002年だぞ。なんでお前やあむ、幾斗の知り合いが居るんだよ。闇の欠片だとしてもおかしいだろ」

「確かに。この方は10年前の日奈森さんや月詠兄よりは年上。それでさん付けも違う」

「腹が減って幻覚でも見てるんだろう。私も見えるぞ、満漢全席の幻覚が」

「お前は黙ってろよっ! そういう話はしてねぇんだからなっ!?」



そうそうっ! あとヒカリ、お腹の音うるさいぞっ! なんでまた腹ペコキャラなんだよっ!

てゆうか……2002年? え、それって12年も前だよな。地球暦だとそう呼ぶって教わったけど。



「……ごめん、ちょっと待っててっ! あむ、キャンディーズ、相談があるっ!」

「同じくっ! なんかこれ、妙な感じしてるしっ!」



そこで蒼にぃとあむさんは俺達に背を向け、こそこそ相談……数秒後一気にこちらへ振り向いた。



「僕ははっきり言うけど、今のおのれの事を知らない」

「いや、知らないって事はないだろっ!」

【そうですよっ! ちょっとだけでも、一緒に旅した仲なのにー!】

「いいから聞いて。そこで質問なんだけど、今年は何年? 新暦でも地球暦でも良いから答えて」



質問の意図が分からないけど、二人の様子が真剣な事から見て……必要な事っぽい。

まぁこれが蒼にぃやあむさんなのは間違いないし、ここは正直に答えておこう。



「今年は……新暦81年だろ? 地球暦だと、2014年」

【でもそれがどうしたんですか?】

「「――やっぱりっ!」」

【「やっぱり?」】





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――えぇっ! じゃ、じゃあ俺達タイムスリップしてるのかっ!? しかも蒼にぃとあむさんもっ!」

【それも、2年前からっ!】





蒼にぃとあむさんの話を要約すると、そういう事らしい。ここが過去なのは蒼にぃが確かめている。

というか、証拠映像としてこの時間のフェイト執務官を見せてもらった。確かに……色々と小さかった。

あとはこう、雰囲気か? 俺の知ってる執務官は、かなり母性的でありながら強い雰囲気だった。



ドゥビル相手でも全然余裕だったし、そういう芯の強さがはっきりと前に出ていた。

でも映像の執務官は違うんだよ。こう、俺が知っているのよりずっと危うい感じがする。

それもなにかしらの事でちょっと崩れて動けなくなるような……そんな脆い感じだった。





「それなら……俺の事も知らなくて当然だ。俺が蒼にぃと初めて会ったの、リリィやアイシスと変わらないタイミングだし」

【そう言えばスゥさんから写真を見せてもらって、それでーって言ってたよね】

「とにかくえっと……リリィだっけ? トーマの中に居る、リアクトしてるの」

【はい】

「トーマ、リリィ、事情は今話した通り。それなりに戦闘は出来るんだよね」



蒼にぃの言う事を翻訳すると『マテリアル達をぶっ飛ばすから、力を貸せ』って事だ。

今度の質問はバッチリ理解出来たので、俺は力強く頷く。



「もちろん協力するよ。俺もさっき話した通り状態だしさ、魔導師戦なら遅れは取らない。
エクリプスの力で魔法にも耐性はあるし、撃たれ強いし」

【トーマ……それなんだけど、今話を聞きながら状態をサーチしたの。
ちょっとトーマとのリアクトに違和感があって。そうしたらその】

「どうした?」



というか、リリィの声がか細くなってる。何気にハキハキ喋る方なのに……それに嫌な予感がした。



【ゼロエフェクトや身体強化、あと諸々の機能……使えなくなってる】

「はぁっ!?」

【ごめん、わたしにも原因が分からないの】

「え、ちょっと待って。アンタ達……さっき言ってたエクリプスってウィルスの力、だめになってるの?」

【はい】



リリィの言葉に蒼にぃとあむさんは顔を見合わせ、俺と同じく困った顔をする。



「恭文、それってアンタのパスと同じ」

「だね。だから元の時代にも戻れないし……トーマ達もなにか影響受けてるのか」

【え、ちょっと待って。今サラッととんでもないワードが飛び出たような】

「とにかく」



蒼にぃはリリィのツッコミは無視で、沖合いに視線を向けた。



「連中の巣穴までもうすぐだ。このメンバーで襲撃をかけるよ」

「でもヴィヴィオやその友達な子は」

「放置」

「蒼にぃ、それでいいのかっ!?」

「いいも悪いもないよ。ヴィヴィオ達もタイムスリップしているという確証がないんだよ? 探しても徒労に終わる可能性が高い」



あ、そっか。通信が繋がらないって言ってたし、二人がタイムスリップしていないとするなら納得がいく。

とにかく今は自分達の事を最優先……と。まぁ話は分かったので、ここは蒼にぃの言う通りにしよう。



「分かった。なら……リリィ、基本機動は問題ないんだよな」

【うん。ゼロエフェクトや身体の急速再生は使えないから……ようは普通の状態と同じ】

「だったら十分だ」





というわけで俺達は、とにかく手当たり次第に異常と思しきものを潰す方向で動く。



もう文明人のやる事じゃないなぁと思いつつも、俺は蒼にぃ達の隣を飛ぶ。










魔法少女リリカルなのはVivid・Remix


とある魔導師と彼女の鮮烈な日常


Memory11 『GEARS OF DESTINY/時を超える記憶』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



海鳴の沖合い……転送魔法で追っ手を撒きつつ、なんとかここまで来た。もう気分は犯罪者だよ。

それで暗い空の下、なにやら空間モニターやコンソールを設置している奴らが居た。

しかも遮蔽物もなにもない海上のど真ん中だから、堂々とし過ぎて奇襲もかけられないと来ている。



そんな奴らから500メートルほど離れたところで僕は一旦停止し、右隣に居るあむを見た。





「あむはここで待ってて。トーマ、行くよ」

「いや、一人にされても困るしっ! てゆうか、二人だけでどうにかするつもりっ!? なんか仲間居るっぽいのにっ!」

「……つまり」

「あたしも一緒に行く」



やっぱりと思いつつ僕は左手で、痛む頭を押さえる。てーかキャンディーズもガッツポーズするな。

もう言っても無駄っぽいから、僕はなにも言わずに奴らに接近。あむとキャンディーズ、トーマもそれに倣う。



「随分と楽しげだね、王様」



そうして500メートルの距離をすぐに埋めて、僕は奴らの後ろから声をかけた。

こちらへ振り向く奴らはさして驚いた様子もなく、僕をただ普通の目で見る。



「はやてとフェイトそっくりだね。あと一人は」

「髪の長さが違いますし、似てませんね」



なのはのそっくりさん――シュテルは右手で自分の髪を弄りながら、やや曖昧に笑う。

そんなシュテルを見て僕は首を横に振り、安心させるように笑顔を浮かべた。



「ううん、魔王っぽさが消えて本人より素敵だよ。いっそすり替わらない? 世界平和のために」

「ありがとうございます」

「だからアンタはくどくなっ! もう結婚してるからだめじゃんっ!」

【……恭文さん、2年前からこれなんだ。アルナージにも同じような事言ってたし】



別に僕は、今スカートを両手でつまんでお辞儀してきた子を口説いてるわけじゃないのに……あむはお年頃だなぁ。

あとリリィのツッコミは聞かなかった事にする。ほら、未来の事をあんま知ったらだめだし。



「ふん、来たか古き鉄。あと……また(うったわれるーものー♪)か。それに厨二病」

「アンタ初対面でいきなりなにっ! あたしそんなキャラじゃないしっ!」

「だから厨二病って言うなよっ! てーか現代社会にこんなピンポイントな厨二病はないだろっ!」

「あー、ピンクは(俺達うったわれるーものー♪)だと。うん、その認識間違ってるから。リアルに持ち出してんじゃないよ」

「蒼にぃなに分かってるのっ!? あと、ついででいいから俺の事もツッコんでくれよっ!」



あむやトーマはお年頃なのに、こういう事が分からないらしくプリプリしている。

それで王様はそんなあむや僕達を見て、不敵に笑った。



「とにかく、お前なら首を突っ込んでくると思ったぞ」

「わざわざ挑発した甲斐がありました」

「残念ながら僕は連中には呼ばれてないよ。別行動してたしねぇ」



しかも今頃昔の僕は……まぁそこはさて置き、サラリと尋問タイムに入るとするか。



「で、どういう事よ。フェイト達の話しぶりからするに、闇の書関係者でもシステムU-Dってのに心当たりはないっぽいけど」

「それは当然よ。我らや砕け得ぬ闇は、元々守護騎士達や夜天の書の管制プログラムとは別扱い。
もちろん子鴉の管制下にも入ってしまわぬよう作られている。存在を知らなくても無理はない」

「私達は夜天の書を乗っ取り、その力を制御するための存在でしたから」



そこであむやトーマだけじゃなく、僕までポカーンとしてしまう。いや、だって……分かんないとこも多いし。

僕、その一件はスルー気味だったし。そんな僕達を見て、シュテルは訝しげにする。



「……夜天の書というのは、ロストロギアです。あらゆる魔法を蒐集して記録する辞典のようなものだったんです。
ですがそれは歴代の主によってより強力になるよう調整を受け……闇の書が誕生した。
あなた達がマテリアルと呼ぶこの身も、そんな主の一人によって作られたもの。だからこそ闇の書の闇足りえる」

「「「なぜ詳しく説明っ!? いや、分かってるっ! それくらいは分かってるからっ!」」」

【みんな、説得力ないよ。わたしだってポカーンとしちゃったし】



ヤバい、なんか見抜かれてるっ! いや、確かにそれでよく分かったけど……恥ずかしいっ! なんかもう、恥ずかしいっ!



「本来なら先程話した形で、我々が夜天の書を支配するはずだった。ですがそのまま休眠状態に入ってしまいました。
私達が作られた時より後に混入され、異形の成長を遂げた防衛システムによって」

≪ミイラ取りが別のミイラ取りに潰されてしまったと≫

「古き鉄、あなたが聞いているであろう闇の書がその形に変化した原因がそれです」

「永く永く……我らは不遇の時を過ごした。我も、シュテルも、レヴィもな。だからこそ」



王様は笑みを深くし、左手を掲げた。それをすぐに強く握り締め、拳にする。



「我が覇道は誰にも邪魔はさせぬっ!」

「……バカじゃん?」



そんな王様に冷水をぶっかけたのは、当然現・魔法少女。いつものツンとした瞳で王様を見ていた。



「もうそんな戦争とかしてる時代は終わった。あたしだってそれくらい知ってる。アンタはバカだ。
アンタ達が生まれた目的なんて、もうどうでもいい。大事なのはそんな事する必要はどこにもない。それだけなんだから」

「黙れっ!」

「黙らないよ。アンタ達がそんな事しないなら、誰もアンタ達の敵にならない。
アンタ、王様ならそれくらい分かりなよ。ここにはアンタ達を生み出した人も、戦争もないんだ」

「黙れと言っているっ! その減らず口、今から黙らせてやるっ!」



王様が右手の杖をあむに向けてくるので、僕は咄嗟に前に出てあむをガード。

でもそんな僕と同様に前に出て、王様をガードする影があった。



「王、あなたはシステムU-Dを制御しうるただ一人の存在。古き鉄とは戦わせられません」

「シュテル」

「なのでこの私が、お相手しましょう」



それで王をかばったシュテルは、左手で持っていたレイジングハート似の杖を構え、両手で持つ。



「やっぱ、そうなるか」

「えぇ、そうなります。三人一緒で構いませんよ、ただし」



僕も素早くナナタロスをセットアップさせ、カードを挿入。



「死を覚悟してもらいますが」

「コードドライブ」

≪Z Mode Quanta――Ignition≫



アルトはナナタロスごと光に包まれ、ホルスターと六本の剣に分離。それが次々と背中に装着されていく。

シュテルも周囲に九発の赤い魔力弾を展開し、こちらを牽制。……魔力弾の表面に炎が迸ってる。炎熱変換か。



「あむ」

「いや、あたしもやる。コイツらの言い草ムカつくし」

「あむさんは俺がフォローする。蒼にぃは思いっきりやってくれ」

「残念ながらその必要はないよ」





僕は交戦体勢を整えたシュテルではなく、あのピンク髪の方を見る。あそこから、猛烈に嫌な予感がする。



そして次の瞬間、その前方に血のように赤い魔力の光が生まれた。それも……途方もなく大きい。



光は周囲に暴風として吹き荒れ、あむや僕にシュテル達の髪や服がその風で激しく揺れる。





「もう遅いから」

「その通りです。闇が目覚めるまで、ほんの少しだけ時間が足りなかった」



シュテルは揺れる髪を右手で押さえ、あの光を嬉しそうに見る。



「少し危険な賭けでしたが、正解でした。ここならば逆に堂々と襲ってくるしかないから。
仮に長距離砲撃を撃たれても、局の魔導師隊に襲われても、私とレヴィで防ぐ手段はある。危惧するべきは突然の奇襲。
例えば……瞬間詠唱・処理能力を持った人間による、転送魔法を用いた奇襲」

「ま、まさか今恭文とあたし達にしてた話とか全部……時間稼ぎっ!?」

「最初から警戒していたのは蒼にぃだけだったと? 随分と調子に乗ってるな」

「いえ、最大限の警戒です。彼は魔導殺し――我々に対するカウンターなのですから」



トーマの声にもシュテルが軽く返している間に、王様は高笑いを始めた。



「ふははははははははっ! バカめっ! まんまと引っかかりおってっ! そこの桃色、準備はいいかっ!」

「はいはーい。強制起動システム正常、リンクユニットフル稼働」



光が更に強くなり、同時に僕の中で嫌な予感がどんどん膨れ上がる。

そうだ、あれは目覚めさせちゃいけない。いや……それとは違う。ならなに、この予感は。



”恭文、砲撃でどがーんとぶっ飛ばせないっ!?”

”おのれ、本当に魔法学院の生徒っ!? 今そんな真似したら出力を上げている魔力が相互反応起こして、大爆発を起こしかねないっ!
起動寸前まで追い込まれた時点でこっちの負けだっ! このまま目覚めさせるしかないっ!”

”そんなー!”

「さぁ蘇るぞっ! 無限の力――砕け得ぬ闇っ! 我の記憶が確かなら、その姿は大いなる翼っ!
名前からして戦船か、体外強化装備か……いずれにせよ手にした我らに負けはないっ!」



高笑いする王様の頭上に、でっかい空間モニターが展開。そこにこう……おみやげ屋にあるようなブリキ人形が映った。



「うーん、こんな感じかしらー?」

「おぉ、カッコ良いではないかっ!」

「確かに……これは欲しい」



この昔懐かしな色合いに、角張ったデザイン。その素晴らしさゆえに、僕は目をキラキラとさせてしまう。



「むしろ僕にください」

「このうつけがっ! これは我らのものぞっ!」

「アンタ達バカじゃんっ!? これおみやげ屋とかにあるやつだしっ! カッコ良いとかそういうレベルじゃないしっ!」

【「やっぱりセンスないっ! いや、銀十字にギンタロスって名付けようとした時点で分かってたけどっ!」】

「そやそやっ! そこのバカ二人、そのイメージにはツッコまんかいっ!」



僕達が意見を合わせていると、後ろの方から慌てた様子でユニゾンしているはやてが文字通り飛んできた。

するとなぜかトーマが怯えた表情を浮かべ、僕の影に隠れて顔を背ける。……乙女か、おのれは。



「てゆうかアンタなにしてるのっ! なんで戻って来てるんっ!?」

【ですですっ! しかも女の子連れって……まさかベトナムでまたフラグ立てたですかっ!
リインというものがありながらー! リインにはチューもしてくれないのにー!】
 
「当たり前やアホっ! アンタまだ年齢5歳未満やろっ! それは人としてしたらアカンっ!
それでそこの厨二病は誰っ! アンタの友達かっ!? また派手な格好やなっ!」

「あぁ、すみませんすみませんっ! でもお願いだから俺の事は気にせずにっ!」

【そこにある木かなにかと思ってくれていいのでっ! お願いだから触れないでー!】

「ふはははははっ! さぁ目覚めよっ!」



はやてと漫才をしている余裕はない。それよりもあの……血のように赤い光だ。

ワインレッドとかそういう色かな。その光がスターライトみたいに集束し、一つの形を取り始めた。



「アカン、なんか向こうは向こうで盛り上がっとるっ!」

「忌まわしき無限連環機構っ! システムU-D――砕け得ぬ闇っ!」

――システム起動、無限連環機構動作開始





そうして姿を現したのは、ピンクの文様が刻まれた白い上着とフードを身に着けた女の子。

髪と瞳は金色で、へそ出し……年のころはあむと同い年くらい。その子はうつろな瞳で周囲を見る。

下はダボダブで大きめなスラックスで、色は紫色。これは……人型の魔導端末?



あむとキャンディーズは風がやみ始める中、今見えている光景が信じられないのか口を大きく開けていた。





「システム、アンブレイカブル・ダーク――正常作動」

「お……おぉぉぉぉ?」

「はい?」

「ちょ、これって……王様っ! システムU-Dが人型してるなんて、わたし聞いてないんですけどっ!」

「むぅ、おかしい。我の記憶では人の姿を取っているとは……いや、そもそも我らも同じか」



どうやら人型を取っているのは、反応から見て王様達にとっても予想外のものらしい。



「お兄様、もしや」

「アイツらもシステムU-Dにとやらの事、あまり詳しくないのか?」

「いやいや、そんなはずねぇだろ。よく分からないものを目覚めさせるわけが」



よく分からな……その言葉に強烈な寒気を感じ、僕は傍らで怪訝そうな顔をするシオン達を見る。



「三人とも、キャンディーズを連れてすぐ不可思議空間に入ってっ!」

「ヤスフミ、お前いきなり」

「いいから早くっ!」



だめだ、嫌な予感がどんどん強くなる。目覚めさせた事どうこうじゃない。もっと別の……強烈な予感だ。

三人がキャンディーズ達と一緒に消えている間に、システムU-Dははやてに視線を定めた。



「視界内に夜天の書……の残滓確認。管制プログラムは既に破損しているものと思われる」

「あの、アンタ……うちの事分かるか? その残滓の所有者、八神はやてや」

「待てっ! うぬらなんたる横入りっ! 起動させたのは我ぞっ!」

「起動させたのはわたしですっ!」

「そやけど夜天の書の主はうちやから」



王様と言い争いをしているはやての前に出て、その動きを押さえつつ一鉄アルトを引き抜く。



「状況不安定。駆体の安全確保のため、周辺の危険因子を」

「王様、シュテル、レヴィ、そこのピンクっ! 死にたくなかったらソイツから離れろっ!」

「ふん、誰がお前の言う事など聞くかっ!」

「排除します」





そして僕の予想通りに、血の色をした二つの魔力スフィアがシステムU-Dの両肩上に形成。

それはまるで悪魔の目。赤く鈍い輝きは、殺意という言葉で表現するのは生やさしいレベルのなにかを秘めていた。

その光は一瞬で赤い翼となり、その翼の先が細まり五つの刃となる。



それらは一瞬で僕達を襲い来る鎌となった。……僕は素早く前に出て、右薙の斬撃でそれを払う。

僕が弾いた鎌は一瞬で粉々に砕かれ、システムU-Dの方へその根元も一緒に弾き飛ばされる。

それで残り四つの鎌は、思いっきり油断していたあの四人に襲いかかった。まず刃は三人の胸元を残酷に貫く。





「レヴィ」

「が……ぁ」

「シュテル」

「これ、は」

「ディアーチェ」

「なぜ……なぜだ」



そしてもう一人は咄嗟に敵意に気づいて右に避けるものの、完全には回避出来ずに刃をその身に食らう。

刃はピンク色の髪の一部と右腕を斬り裂いた。斬られた当人の腕から、青い火花が迸る。



「ごめんなさい」

「U-D!」

「ぐ……そんな」

「誰もが私を制御しようとした」




システムU-Dは貫かれながら声をあげる王様達にも、左手で傷口を押さえながら距離を取るピンク髪にも興味を示さない。

もちろん唖然としているはやてやリインにあむとトーマ、警戒の視線を緩めない僕にもだ。それでただ言葉を続ける。



「でも誰も出来なかった。だから私は私という存在を闇の書からも、夜天の書からも消し去り、新しいプログラムで上書きした。
沈む事なき黒い太陽、影を落とす月――ゆえにアンブレイカブル・ダーク。砕け得ぬ闇」

「新しいプログラムで上書き……じゃあこの子が」

≪闇の書・防衛プログラムの生みの親――闇の書事件の根幹を生み出した存在ですか≫

≪ちょっと待つのっ! それならこの子は、その防衛プログラムより強くて力があるって理屈になるのっ!
だってだって、自分が居るよりそっちの方が安全って理屈になるのっ! だから大丈夫なプログラムを作ったって話なのっ!≫

【そ、そうですっ! そういう理屈じゃなかったら、ただのバカなのですっ!】





ジガンとリインの言う通りだ。そうか、だからこそこの魔力量か。みんなが言葉を失っている要因は、もう一つある。



それは……コイツがみんなを襲った瞬間から発せられている、途方もない魔力量。一般人が持てるそれを確実に超えてる。



こんなの、下手したらどっかの魔力動力炉10機分……ううん、それ以上はあるぞ。やっぱロストロギアだけはあるか。





「そう、私が全てを生み出した。そうして誰にも気づかれる事なく、消えるはずだった。
でも、あなたが私達を呼び起こした。あなたがあんな事をしなければ……どうして?」



そこでなぜか僕に視線を向けてくる。それも悲しげに……涙を零しながらだ。



「どうして私達を、ここに呼んだの? もう消えるべきだった私達を、どうして?」

「僕のせいにされても困るんだけどねぇ。あれは完全な事故だし」

「それにどうしてあなた達はこの時間に来たの? 私を殺すため?
でももう遅い。時を超えた魔導殺しが二人――あなた達に出来る事はなにもない」



そう言って涙を流していたあの子は、ワインレッドの光に包まれ一瞬で消えた。同時に王様達も黒い粒子となって消える。

辺りに残ったのは僕達と、あの強烈な魔力の残滓だけ。僕は……苦い顔をしながら、ホルスターにアルトを収めた。



「居なく、なった。それにあのピンク髪も消えたし。まさかあん子達」

【いえ、駆体維持出来なくなったので一時的に姿を消しただけです。
復旧作業が進めば復活すると思うですけど、時間はかかるです】

「そうか。ならシステムU-Dは」

【ダメです。かなり遠くに逃げたみたいで……ピンク髪も同じくです】



はやてはリインの言葉になにも返さず、少し困った様子で僕を見た。

僕は……その視線は気にせず、ショックを受けているあむへ近づく。



「恭文、その……気にせんでえぇよ。あれはアンタのせいやない。てゆうか、アンタのせいにする方がおかしいわ」

「気にしてないよ。ただ。この一件に関わる理由、見つけちゃったなと思っただけ。僕はあの子に、言いたい事が出来た」

「……とにかくアンタはうちらと来てもらうで」

【ですです。というか、その子誰ですか? どうして】





というわけで、再び転送魔法発動。あむ達と一緒にこの場から急速離脱。……なんのために来たのか、かぁ。



そんなのこっちが聞きたい。でも、目的なら出来た。あとはオーナーに怒られる覚悟だけ、決めておこう。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ちょ……アイツらどこ行ったんよっ! リインッ!」

【だめですっ! 連続転送――速過ぎてサーチ出来ないですっ!】



くそ、味方にすると微妙やけど敵にするとここまで厄介な能力かっ! マジRPGの中ボスみたいな奴やしっ!

……あれ、緊急通信? うちは苛立ちは一旦引っ込めてモニターを展開。そうしたら画面の中に、慌てた様子のエイミィさんが出てきた。



『はやてちゃん、大変っ! あっちこっちで闇の欠片が異常発生してるっ! これ、前の時以上だよっ!』

「なんですってっ! ……あ、まさか」

【システムU-Dが起動した影響ですかっ!】

『システムU-D?』

「後で説明します。そこはまぁ、道すがら? とにかくうちらは改めて闇の欠片を」



前回みたいに欠片集めて、闇の書復活とかされたらかなわん。欠片の排除は優先事項でもある。

そやから早速と思うとると、画面の中でエイミィさんが首を横に振った。



『それはちょっと待って。はやてちゃん達にはそれよりも別の仕事をして欲しいから、闇の欠片はシグナム達に対処してもらう』

「別の仕事?」

『今レティ提督から連絡があって……恭文くんもおかしな事になってるみたい。
信じられないかも知れないけど、落ち着いて聞いて。恭文くんはまだベトナムに居る』

「はぁっ!? いやいや、今うちらアイツと会話しましたよっ!?」

『それは私も。ただしこっちはベトナムの宿で泊まってる恭文くんとね。もう幸せそうだったよ。
……今恭文くんは生春巻きの作り方を、現地のお姉さんに教わってるんだって。
それもめちゃくちゃ美人だよー? 写真見せてもらったら、黒髪褐色肌で、スタイル抜群の巨乳さん』



そやからアイツはマジなにやっとるんよっ! てーか本命フェイトちゃんのはずやのに、なんでそうなるっ!

……あ、あかん。なんかうちの中からとんでもない瘴気が出始めたんやけど。てーかリインが出してるんやけど。



【やっぱりフラグ立ててたですかっ! むむ、腹立つですー!】

「リイン、気にするとこそこちゃうって。ならあっちの恭文は」





エイミィさんがこの状況で嘘つくわけがない。でもうちらが見た恭文も本物。



闇の欠片って線は、どう考えてもない。なら……そうや、さっきの会話で答えが出てたやんか。



うちはなんでもっと早く気づけなかったのかと、通信中やのに舌打ちしてもうた。





「……リイン、さっきシステムU-Dは恭文を指して『この時間に来たの?』って聞いてたよな。あと時を超えた魔導殺しって」

【聞いてたですけど、それがなにか】

「ようやっと分かった。アイツはうちらの知ってる恭文やけど、今の恭文と違うんよ。
あと、あのあむちゃんって子や厨二病もや。なによりアイツ……なんか身長が伸びてたよな」

【はぁ? それってどういう……まさか】

「そうや。それならフェイトちゃんがあっちの恭文を見て、『いきなり、ずっと強くなってる』って言うた理由も分かる。
アルトアイゼンがうちらが見た事のない形状変換しとるのも、バリアジャケット変わってるのも分かる」



そうやそうや、どうして気づかなかったんよ。たった三日ではありえん変化が、アイツからは大量に感じられたやんか。

さっきもジガンスクードっぽいデバイス喋ってたし……そやからまぁ、妄想の域を出ないのは承知で言うと。



【あれは未来の……えっと、今よりもっと強くなってる恭文さんっ!?】

「そうなる」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



数度の転送を繰り返して完全に向こうの追撃を振り切った上で、僕達は海鳴繁華街の一角に着陸。

変身やリアクトを解除した上で僕達はビルから降り、人で賑わう繁華街を歩く。

ただあむや僕は訓練着なので、別の服を用意。僕は常備している黒コートを着用し、あむはいつものややゴスロリチックな服装。



ミニスカを翻しているあむはやや疲れた様子で……やっぱこれ以上の追撃は無理か。今は午前0時近くだもんなぁ。





「システムU-Dって子を止めないとあたし達、帰れないかもね」

「うん」

「だったらやる事は一つじゃん。やろうよ」

「いいの?」

「いいよ。だってやらなきゃ帰れないんだし、選択肢ないじゃん」



そう言い切ったあむや僕達の視線が、左隣を歩くトーマとリリィに向くのはしょうがない。



「俺もやるよ、リリィ」

「うん」

「てゆうかあの子、泣いてた。それで諦めて閉じこもって……ふざけるなっ!」



いきなり大きな声を怒りの表情で吐き出すので、僕やあむだけでなく周囲の人も何事かと見る。

そんなトーマを慰めるようにリリィは右手を伸ばし、そっと背中を撫でる。



「トーマ」

「あ……ごめん。というかその、ちょっと前の俺を思い出して」

「アンタを? どういう事かな」

「まぁこの身体になってから、色々とあったって感じ? だから放っておけない。
ううん、放っておけるわけがない。泣きっぱなしは、誰だって辛いから」



トーマが決意の表情を浮かべている間に、叫び声で止まっていた場の空気がすぐに動き出す。

人は歩き、ざわめき、ネオンは光り輝く――街の中では人の声は、とてもちっぽけなものみたい。



「でも恭文、一つ質問」

「なにかな」

「どうしてアンタのせいでこんな事が起こったって話になってるのかな。
アルフって人もあの子も……どう考えてもおかしいじゃん」

「……理由はガイアメモリだよ」

「ガイアメモリッ!? あの、それって」



あむがなにを連想したのかはすぐ分かるので、僕は首を横に振った。



「仮面ライダーWに出てくるあれじゃない。ロストロギアにね、同名のものがあったんだ。このひと月前に全部始まった。
それを密輸してた犯罪者を海鳴でぶちのめしたんだけど、そのどさくさでそれが暴走しちゃったの」

≪それはこの人が少し無茶をして封印したんですけど……それが原因ですね。
ガイアメモリは『土地の記憶』と呼ばれるものを呼び起こすロストロギアでした≫

「土地の記憶?」

「いわゆる土地に住み着く神様の記憶にアクセスして、それを引き出すメモリだね。
その結果海鳴で起きた事件の記憶が呼び起こされて、あの子達が目覚めた。
引き出された記憶の中には、そういう『力』の類も含まれるみたい。だからなんだよ」



あむ達はさっぱりという顔をしているけど、とにかく原因がそこだと伝わればいい。

僕は足を進めながら周囲に気を配り、ネオンの輝きのせいで目を細める。



「僕がソイツをもっと早くぶちのめして止めてれば、あんな事は起きなかった。だから僕のせい」

「そんな……ヒド過ぎるよそれっ!」

「そうですぅっ! 恭文さんが闇の書さんを作ったわけでもなんでもないのに、あんまりですぅっ!」

「八つ当たりもいいところだよね。……恭文」

「大丈夫だよ」



心配そうに僕を見るキャンディーズや、他のみんなにお手上げポーズを返す。



「そんな戯言を気にするほど、神経緩くないし。そもそも犯罪者を止めたのだってそう。
みんなが出遅れたおかげでソロを強いられたんだもの。それでなんで僕の責任になるのよ」

「そっか。それは……よくないな。余計にヒドいし」

「全くだ。でも蒼にぃ、これからどうするんだ? 目的もなしでうろちょろしたって」

「当然、寝床を探すんだよ。さすがにこれ以上の活動はキツい」

「ですよねー」



なんだかんだでぶっ続けだし、このまま一晩明かすのは無理。さっきも言ったけどあむの体力が持たないもの。

あとはトーマとリリィもなんかこう、逃走中だったらしくて何気に疲れてるしさ。だからここは必須。



「でもヘタにうろちょろしたら見つかるんじゃ」

「だからこそ街中に紛れるのよ。今捜索の手は、空の上や海上に集中してる。
まさか僕達が街中で普通に寝てるとは思わない。というか」

「ここは管理外世界だから、管理局が大手を振って捜査出来ない? だから見つかりにくいと」

「そういう事」





だから管理局組が街中で僕達を探すなら、方法は二つ。知り合いに尋ねるか自力で探すしかない。

ここでの『自力』は、当然組織の権力や人員を用いない方向。ガチに個人の力で捜索。

でもなんの手がかりもなしでそれは、かなり難しい。しかも権力が使えないから、強引な手を使えば不利なのは自分達。



当然行動には慎重にならざるを得ないし、その分捜査の手も緩まる。だからこそこれだよ。



あ、もちろんサーチどうこうに備えて防護策は整える。そうしたら問題はない。……でもこれ、ガチ逃亡犯だよなぁ。





「でもお金はどうすれば……ほら、未来の口座とか使えないし」

「俺もリリィも、管理世界のお金しか持ってないしなぁ。それもちょっとだけ。
大事なとこは全部アイシス――あー、一緒に旅してる仲間に預けてるし」

「あたしもお金とかないよ?」

「大丈夫。今の時間の僕が使ってる口座があるから。この時使ってる暗証番号も覚えてるし、すぐ引き出せるよ」

『いやいや、それはマズいでしょっ!』





そんなジョークもかましつつ、僕はあむ達を引っ張って海鳴の繁華街へごー。……実を言うと、現金はちゃんと用意してある。



こういう事もあろうかと思って、アルトやジガンに一定額収納してるのよ。なので四人が泊まるくらいならOK。



さすがに口座引き出すのはマズいだろうしなぁ。うん、それくらいはまぁ分かってるよ? さすがにやらないって。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まだ夜も明け切れないうち……というか、草木も眠る丑三つ時ってやつか。

仕事疲れも吹っ飛ぶようなバッドニュースのおかげで、アタシ達守護騎士は海鳴上空へ集合。

しかもワケ分かんない話になっているせいで、吹っ飛んだはずの疲れが倍増しだ。



未来って……タイムトラベルって、意味分からねぇし。でもそうでも考えないと納得出来ないのは、承知してる。





「闇の欠片……また面倒な事になってきたな」

「あぁ。しかも蒼凪の事がある」

「未来から来た、だよなぁ。アイツ、もしかしてドラえもんと友達にでもなったか?」

「だったらとっとと帰ればいいだけだろうが。チューリップ型のタイムマシンに乗ってな」

「シグナム、そりゃドラミちゃんだ。ドラえもんは平たい板みたいなのだよ」



もう『三人』揃って戦う前からうんざりって顔するのは、しょうがないんだよ。

てーかこんな顔くらいさせてくれ。いくらなんでも非常識過ぎる。



「てゆうか、いっそバカ弟子呼び戻した方がよくね? 事件の事話してさ」

「だが……なぁ」



さっき『三人』と言ったのは、約一名がどす黒い瘴気を出してるせいだ。それで話に加わってないせいだ。

その約一名は両手をわなわなとさせながら、なぜか自分の胸を揉んでいる。ぶっちゃけ不気味だ。



「恭文くんは黒髪・褐色肌でスタイル抜群なお姉さんと仲良くなってるのよね。私の胸、飽きちゃったのかしら。
それでアジアンな匂いのする女性と一緒に生春巻き食べてるのよね。えぇ、本当に許せないわ。
きっとお風呂にも入って、バストタッチもして、ほっぺにチューとかもして……悔しいっ! 私というものがありながらー!」

「……シャマルは放置するか」

「だな。とにかく未来のアイツと交戦する事になったら注意しとこうぜ。
いつの時代のアイツか分からないが、戦闘映像を見る限り相当腕を上げてる」

「もうお前を追い越しているやも知れんな」

「バカ、アタシは簡単には負けねぇよ。あとはこっちの奴らだな」



バカ弟子の連れてる連中も、どうも魔導師っぽい。そこも映像で確認した。てーか今改めて確認してる。



「実力は未知数だが、バカ弟子があの場に連れてきてんだ。油断は禁物……というかこう」

「ヴィータ、お前も気づいたか」

「あぁ。このピンク髪、なんか凄腕ってオーラがすんだよな。
アタシの勘が『油断するな』って言ってる。コイツ、間違いなくオーバーS級だぞ」

「私も同感だ。この佇まいと空気感……相当な猛者なのだろう。一度剣を交えてみたいものだが」

「やめろよタコっ! この状況でバトルマニア出されたら迷惑なんだよっ!」



コイツ、前回クロノとやり合った事とか完全にすっ飛ばしてやがる。マジで気をつけねぇと、また同士討ちだ。

しかもなんでちょっと残念そうな顔するんだよ。おかしいだろうが、お前やっぱバカだろ。



「それじゃあ行くか。とにかくアタシらは闇の欠片を倒しまくる……で、いいんだよな」

「そうだ。大元はアースラスタッフが探してくれている。我らは現状対処だ。
朝までに闇の欠片を一掃するぞ。それで主はやて達に繋げる」

「了解」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかくうちらは一旦アースラへ帰還して、休憩に入る。システムU-Dの事も直に報告せんとアカンしなぁ。



うちはあの場から離脱してから、別行動してたなのはちゃん達と合流。情報交換しつつ夜の海を飛んでいた。





「でも未来のヤスフミなんて……その、信じられないかも」

「そうだよ。そもそも未来って事はアイツは大人だろ? それでアタシ達にあの態度はありえない。
それじゃあ大人なのにガキのまんまじゃないか。お母さんの言う通りにしてないなんておかしい」

「そうだよ。それじゃあ私達、家族でも仲間でもないみたい。私達を信じてくれないなんて……悲しいよ」



よし、アホな事言い出してるフェイトちゃんとアルフさんは無視や。

それで気になるのは……さっきから黙りこくってるなのはちゃんやな。



「……ねぇ、なのは思ったんだけど」

「闇の欠片ってのはないよ」

「先を取られたっ!?」

「うちもそれは考えた。でもそれならそれで、システムU-Dやあん子達がはっきり言うはずや。
なにより戦闘力が今の恭文を超えている理由が説明出来んやろ。
なのはちゃんも知っての通り、あれらは闇の書事件関係者の記憶を元に生まれる。つまり」

「でも恭文君の闇の欠片は……ううん、そうじゃないんだよね。
『現在を超える形での再生はありえない』。そう言いたいんだよね」



正解なのでなのはちゃんに頷きを返す。もちろん恭文が連れてるあむちゃんと、あの厨二病も同じや。

仮にそうなるにしても、そういう形での再生が起こったきっかけが存在するはずや。それも普通の事やないと思う。



「なのでタイムトラベルや。確かに突拍子ないと思うけど、多分確定や。
恭文達もその話をされた時、驚いたような反応を見せてた。あれが嘘やとは思えんのよ」

「あむちゃんって子もあの男の子も、みんな未来から。恭文君のお友達かなにかかな」

「どっちにしてもあむちゃんは、アイツがフラグ立てた女の子なのは間違いないな。それに」



うちは飛行しながら右手を挙げ、空間モニターを展開。それでなのはちゃんからもらった女の子二人の映像を出す。



「この二人もなぁ」

「……あれ、まさかはやてちゃん」

「なのはちゃん、思い出してみてよ。全員遭遇してすぐに今の年代を確認。
それでこっちが答えたら慌てて逃亡生活スタートや。止めようとしても振り払われる。
恭文一人だけならともかく、同じ行動するのがまた別に居るってのがなぁ」

「だからみんな未来から来た? でもどうして」

「さぁな。そやからこそのお仕事や」



右手でモニターの右上をちょんと叩いて、展開していたそれを一瞬で消す。



「今は一旦休憩に入るけど、それ終わったらうちらは」

「未来の恭文君とあむちゃんを確保……だね」

「そうや。恭文が条件付きでもシステムU-Dのカウンターになりえるんは、マテリアル達の様子から見て確定。
もちろんそこはシステムU-Dも認知しとるやろうし、安全と戦力確保のために一度こっちに来てもらわなアカン」

「でもはやてちゃん、出来るの?」

「無理やな。多分恭文は街中に紛れ込んどる。ほれ、そうしたら空飛んでうろちょろするより、うちらが探しにくくなるから」



さすがになのはちゃんも理解は出来るらしく、困った顔をし出した。ただ、同時に首も傾げる。



「でもどこに行くの? この子や恭文君がこんな時間に彷徨いてたら、警察や周りの大人だって気にするよ。
それに海鳴は恭文君が暮らしてるところでもあるし、知り合いに見つかったら」

「この時間なら、その知り合いに見つかる可能性も低い。気にされても言い訳は出来る。
例えば外国から来て、泊まるとこ見つからなかった……とかな。
まぁその裏をかいてって感じで空を逃げ回っている可能性も捨て切れんけど」

「なのは達の行動は無駄じゃないと。じゃあえっと……見つかったとしてどうやって引き止める?」

「それも考えてる。逃げた理由にも察しがついたからな。これはちょお賭けになるけど、勝てる公算はあるよ」



それでうちは、ちらりとあの二人を見て申し訳なくなってまう。



「まぁフェイトちゃんとアルフさんには聞いても無駄やろうから省くけど」

「え、どうして私だけのけ者?」

「そうだぞっ! アンタ、アタシらをなんだと思ってるんだっ!」

「なのはちゃんなら分かるやろ。過去に介入して歴史を変えると、とんでもない事になるかもーってアレ」

「……あ、なるほど」



やっぱりなのはちゃんは一発で分かってくれた。風に髪をなびかせながら、合点がいったような顔をする。



「だから恭文君は……ううん、他のみんなも行動がかぶってる。そういう過去への介入を避けてるから。
確かに恭文君ならありえる。なのは達と同じでそういうSFもちょっとかじってるわけだし、そのお友達も」

「やろ? でもうちらがそういう事情を察しているって伝えたら、今までと反応は変わるはずや」





なんでそんな異常事態で身内を頼らんのかという疑問は……実は疑問を持つ事すらおこがましい話やった。

バック・トゥ・ザ・フューチャーやらドラえもんやら、世の中には時間渡航をテーマにした色んな作品がある。

そんな作品の中ではちょっと過去が変わっただけで、未来の人間関係や立ち位置が激しく変化する事があった。



変化によって、いわゆるIFストーリーに突入する感じやな。そやからこそ大体の作品で過去は変えたらアカンとなっている。

未来を知るがゆえに、うちらとの接触によって自分の時間が変わったら……そういう恐れがあるんよ。

というか、自分に置き換えてみると話しにくいのは納得した。ちょっとそういう話知ってるのなら、多分反応は同じや。





「とにかくあれよ、そういう話は出来る限り避けるから、事態解決に協力して欲しいとお願いしようか。
タイミング的に考えても関係ないとは思えんし、システムU-D相手に戦力は必要やし。
そのかわりうちらは元の時代に帰れるように、出来る限り力を貸す。寝床を提供するだけでも大分違うやろ」

「ギブ・アンド・テイクってわけだね。でも確証はまだないんだよね」

「そやからこその賭けよ。まずはこの線でツッコんで、反応を見る。納得してくれた?」

「そういう事なら……うん、納得」



いやぁ、なのはちゃんはやっぱり理解が早い。何気にオタクなとこあるから、こういう時は強いなぁ。おかげで助かるわ。



「アンタら、バカか? なんでそんなめんどくさい話しなきゃいけないんだよ」



で……予想通りに呆れたというかワケ分かんないって顔をしとるのが二人居るけど。



「アタシ達は家族で仲間だから信じろって言えば済む話じゃないか。
それで信じないなら、殴ってでも信じさせる。それが正しい事だって教えるんだ。
お母さんだって言ってるだろ。みんなを信じて自分を預けて、初めて大人だって」

「アルフ、殴るのはだめだよ。……でも、殴る以外ならアルフの言う通りだ。
未来のヤスフミならきっと分かってくれる。ヤスフミは大人になってるんだから。
きっと母さんや私達みたいな、正しくて強い大人に。だから信じてって言えば」

「はやてちゃん、本当に言っても無駄だったね」

「そやろ? そういう話とちゃうんに……これやから素人さんは嫌やわ」

「なのは達、マイノリティなのかなぁ」





とりあえずあれよ、このバカ二人にはこれからバック・トゥ・ザ・フューチャー三部作を見せとこうか。



それで過去を変えると、とんでもない事になるってのをしっかり教えよう。それで分かってくれるはずや。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なんとかホテルが見つかり、僕達は同じ部屋で寝泊まり……うん、ありえないよね。女の子居るのに。

でも他ホテルにもこのホテルにも空きがないのでしょうがない。ちなみに部屋はベッド二つでそこそこ広め。

僕とトーマはそのベッドに腰掛けながら、女の子二人がお風呂に入っている間に作戦会議だよ。



ただ現状が余りに孤立無援で途方もない状況で、正直どこから手をつけるべきかと頭を悩ませている。





「でもヤスフミ、明日からどうすんだ?」

「モーニング食べてから考える。ここのはバイキング形式で美味しいらしいよ?」

「うぉいっ!?」

「ははは、蒼にぃ達はやっぱ相変わらずだな。でも」



笑っていたトーマはそこで表情を引き締め、軽く握った右手を口元に当てる。



「やる事は決まってる。とにかく闇の欠片っていうのを追いかけるしかない。
現にこっちに戻ってくるまでも、それっぽい反応が多数あったわけだし。
蒼にぃ、さっきの話をまとめると……欠片が集まって闇の書が復活だよな」

「うん」

「システムU-Dが目覚めてからこれだし、蒼にぃや八神司令達が遭遇した『前回』と同じ現象が起きてると思う。
いや、この場合は悪化って言うべきかな。システムU-Dの覚醒が、闇の書復活の最終段階って感じか?」

≪このまま放置すれば、欠片達が集結……今度のコアは王様達ではなく、あのシステムU-Dなのでしょうね≫



だから欠片を追えば、自然とシステムU-Dに辿り着ける。トーマがそう言いたいのはすぐに分かった。

確かにそれが妥当かなと思っていると、トーマが申し訳なさげに右手で頭をかき出した。



「でもなんか悪いな。全額出してもらって……しかも結構な額」

「いいよ。まぁあれだ、元の時代に帰ったら2年後の僕に返してあげてよ。
お金が無理なら、なにかするでもいいし。それも無理なら、誰か別の人に優しくするでもいいし」

「情けは人のためならず。だからこそ連鎖し、広がっていくもの……うん、分かる。
スゥちゃんがそう教えてくれた。それであと気になるのは」

「あのピンク髪だね」



実はあのキリエっていう奴の事で、一つ気づいた事がある。それで今の深刻そうな表情を見るに、トーマも気づいてるっぽい。



「蒼にぃ」

「トーマも見えたんだね」

「あぁ。あの子が貫かれた腕からこう」



トーマは左手で自分の腕を――あの子が傷つけられた箇所を押さえた。



「金属片や火花みたいなのが、飛び出してた。というか銀十字がサーチしたら……人間じゃないって」

「こっちも同じ。どうも向こうも向こうで、事情があるっぽいね。かなり深い傷なのに、それでも逃げたんだし」

「あのキリエって子も追うか?」

「手がかりになるのは間違いないし、見かけたら捕まえるって感じでいこうか。
とにかくお風呂入ったら、今日はもう休もう。まずはしっかり休養を取る」

「あぁ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



夜が明けて、あたしはもう……かなりぐっすりと眠らせてもらった。でも恭文やトーマには少し悪いかも。

だって二人とも、あたし達に遠慮して床で毛布に包まって寝てたから。あたしとリリィはふかふかお布団でぐっすり。

それで今は午前7時。もう時差というかそういうのバラけてるけど、それでもあたし達は朝ご飯。



恭文とトーマ達はみんなで中華粥や点心……というか、バイキング形式のご飯を元気よくいただいている。





「蒼にぃ、ここのモーニングマジで美味しいなっ! 特にこの中華粥とか最高っ!」

「あっさりとしていながらボリュームもあって、優しい味。わたし、この味好きかも。
地球なんて初めて来たけど、こんな美味しいご飯ばかりなんですか?」

「そうだよー。地球はいいところなんだから。でも、僕もこれは予想外。結構本格的だわ」

「アンタ達……がっつき過ぎだから。もうちょい落ち着きなって」



他の人達の目もあるのに……てゆうかコイツら、神経図太過ぎ。あたしはお粥をすすりながら、そこを強く思う。



「そう言いながらあむちゃんもー」

「かなりがっつり食べてるよね」

「食いしん坊さんですぅ」

「これじゃあ大食い対決ね」

「アンタ達もうっさいしっ! これはその、しょうがないじゃんっ! 昨日は大変だったんだからっ! ……で、どうしようか」



当然システムU-Dやあの子達の事なんだけど……それをすぐに分かってくれた恭文とトーマ達は、箸を動かしながらこっちを見る。



「もちろん上がって欠片を追いかける。昨日話した通りだよ」

「それであの子、見つかる?」

「少なくとも手がかりは手に入るよ。レヴィ達も一旦消えちゃったから、蒼にぃのベルトでどうこうも無理」

「地道に行くしかないんだよね。あむさん、頑張りましょう」

「ん、分かった。それじゃあ頑張ろうか」





というわけで、あたしも恭文達や何気に一番食べてるヒカリに負けないように、バイキングを楽しむ。



これはその、みんなとは違う理由。食べられる時にしっかり食べるのが、元気で過ごすコツ。ママもそう言ってたんだから。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



夜空を飛び回りながら、遭遇した闇の欠片を潰すだけの簡単なお仕事……あぁ、簡単だな。

油断さえしなきゃなんとかなる。一撃クリーンヒットさせたらすぐに自壊するって特性も、前回同様。

だから大怪我したりとかもないんだよ。幸いな事に知り合いばっかだから、戦い方も分かるし。



問題は心の方だ。遭遇したのをアイゼンで殴り飛ばす毎に、心の中で積み重なるものがある。

それもめちゃくちゃ重い。だってアイツら、消える時にいちいち恨み言というか悲しそうな顔するんだよ。

それも全員が全員顔見知りだっていうのがキツい。前回の時はまださほどじゃなかったが……そうか。



前回はあんまりに突然始まって突然終わったから、アタシ自身も余裕が全くなかったんだ。

だから疲れとかそういうのをあまり感じなかった。今回は慣れた分、そういうのが襲ってくるって事か。

なんというか皮肉だわ。でも、今まで分かんなかったとこが分かったおかげか、不思議か気が晴れた。



アタシはまたシグナムの欠片を……もうこれで20体目だぞっ! なんで連続してんだっ!? てーかしつこいっ!

いつぞやのバカ弟子みたいな状況に辟易してると、目の前から二人飛んでくる。

思わず身構えるけど、すぐに驚いたせいで構えを解いちまった。だってその二人は顔見知り。



それも、本来ならここに居るはずのない二人だ。相手もアタシを見て、めちゃくちゃ驚いた顔してる。



ヤバい、徹夜したせいで幻覚でも見てるのか? そうじゃなければ……うし、潰すか。





「リーゼさん達……くそ、バカ弟子の記憶から再生されたのかっ!」

「待て待てっ! アタシ達は欠片じゃないからっ! ほれっ!」



二人していきなりバンザイをして、こっちに対して攻撃しないという意思表示をしてくる。

でも信じられないので、アタシはアイゼンを振りかぶり左手で鉄球を出すわけだ。



「じゃあなんでここに居るんだよっ! アンタらは闇の書事件には関わってないだろっ!」

「あー、驚くわよね。私達は引退組だし。てゆうか、エイミィから聞いてないんだ。
私達も今回の件、手伝う事になった。レティ提督にヘルプ頼まれたんだ。目的は異世界渡航者の保護」

「それって」

「呼ばれたのは今回の件と別口だったんだけど……まぁそのまま?
ちょっとエイミィに確認してみてよ。それまでこうしてるから」

「……アイゼン」



目を見る限りは嘘ではないらしい。アタシは警戒を解かずに、アースラに連絡開始。

それですぐに空間モニターが展開して、そこにエイミィの顔が出てきた。



『はいはい、こちらアースラ。ヴィータ、どうした?』

「ヴィータです。今リーゼさん達と遭遇したんですけど……なんか今回の事に協力してるって」

『うん、協力してるよー』

「聞いてねぇよっ! てーかそういう事はちゃんと話しとけ、このバカっ!」

『え、なに? なんでいきなり怒ってるのかな。ヴィータどうし』



通信を叩き切って、鉄球も一度収納。それでまぁ……まずは頭を下げた。



「……すみません、マジ勘違いだったっぽいです」

「いやいや、大丈夫だから。理由も分かるし」





頭を上げると、二人ともしょうがないって顔をして苦笑いしてた。

ただその笑いがこう、無駄に引きつってるのが……やっぱ気にしてるよなぁ。

あぁもう、マジ落ち着こう。いくらヤンデレシグナムと連続遭遇したからって、苛立ち過ぎだ。



こんなんじゃ本物の身内と合流した時、いつぞやの炎熱バカと黒のみたいにバトらなきゃいけなくなる。



というわけで、リーゼさん達の前だけど深呼吸。一回それやったら、大分気持ちが和らいだ。





「とにかく……アタシ達の目的は、はやてちゃん達と変わらないんだ。直接そっちを手伝う感じではないけど」

「あ、いえ。大丈夫です。でも気をつけてくださいね。闇の欠片、あっちこっちに出てるし」

「うん、もう遭遇してる。でも腕は鈍ってないし、なんとかなってるよ。そっちも気をつけてね」

「はい」



その瞬間、アイゼンからアラートがけたたましくなる。アタシらはお互いに後ろに飛んで距離を離した。

反射的な行動だったが、それで正解だった。だってアタシ達を飲み込もうという大きさの黒い砲撃が、いきなり放たれたんだから。



「ちょ、なんだっ!」

「頭が、痛い。苦しい……苦しい。なぜですか、私はどうしてここに」





4時方向・距離20メートルのところに、さっきまで存在していなかった黒い光が生まれる。

それはすぐに結晶化し、銀髪ロングで牧師みたいな格好をした男へと変化した。

右手には大剣で、澱んだ黒色の瞳をこっちに向けて笑いかけてくる。それですげぇ寒気がした。



なんだ、あの目。いや、それ以前にコイツ誰だ。今のアタシはこんな、イカれた目をした奴は知り合いに居ない。





「あぁ、これは見目麗しいお嬢さん方だ。壊し甲斐がありそうだ」

「おい……アンタ達の知り合いか? とりあえずアタシの知り合いには居ないんだが」

「私達も同じ……ちょっと待ってっ! コイツはっ!」





とりあえず欠片っぽいな。それでアイツの周囲に……なんだよ、あれ。

魔力弾が10、20、30、40、50……まだ増えるっ!? なんだよ、コイツっ!

そして合計80の魔力弾が、アタシ達に向かって一斉発射。



アタシは正面に三角形の赤いシールドを展開したまま、弾幕の中に突っ込んだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



美味しくご飯を頂いた後、僕達はホテルの部屋をそのままにした上で捜索。しばらくはここが拠点だよ。

人様に迷惑をかけないように上空へ上がり、近辺を捜索――その結果新しく生まれた欠片を発見。

まずはと思い欠片が展開した結界に突入し、その中央に存在する黒い光へ近づいていく。



場所は海鳴の住宅街上空。てーか結界を展開してなかったら、マジで天災レベルだな。逐一排除していかないと。



そう思っている間に光は人の形を取り、青い騎士服を身に纏う赤髪の女性へと変化した。……ちょっと待って。





「おいおい、コイツは」

「なぜだ……なぜ私はここに居る」



まだこちらに気づいていない様子のあの女を見て、急激に寒気がしてくる。

腰に携える片刃のサーベルに隻眼……間違いない。てゆうか、忘れるわけがない。



”あむ、トーマ、転送で地上に降りるよ”

”いや、あたし大丈夫だけど”

”いいからっ! コイツは早め早めに行動しないとヤバいっ!”



あむの抗議は無視で転送魔法発動……僕達は100メートル下にあるビルの屋上に着地。



「トーマ、あむのフォローお願いっ! あと、絶対に魔法関係は使わないでっ! 事情は後で説明するっ!」

「わ、分かったっ!」



前に早足で歩きながら声をあげ、奴を見上げる。それで今まで周囲をキョロキョロしていた奴は、視線を下げた。

それで赤髪を揺らしながらこちらを見た女は、驚いた表情を浮かべゆっくりと下降してくる。



「お前は……古き鉄。なぜお前がここに……いや、それ以前にここがどこだ。
なぜ私はこんな所に居る。公女はどこだ? 確か私達は、月に居たはず」





その女の名はオーギュスト・クロエ。『5年前』に起こったカラバ・ヴェートル間での事件で会った騎士。

仕える主のために世界を敵に回し、支配しようとしたコイツが……待て、どうしてコイツがここに居る。

コイツは今の段階ではカラバで普通に騎士やってるはずだ。しかもオーギュストは隻眼。



オーギュストはクーデターの際、その首謀者である実の兄に目を傷つけられて隻眼になった。



でもクーデターが起こるまでには、まだ3年以上ある。だからコイツが隻眼である理由が。





「まさか」



いや、一つ理由がある。オーギュストが隻眼状態で出てくる理由……どうやら僕達がここに居るのは、本当にアウトみたい。



≪どうやらリアルタイムであなたの記憶も引き出されているようですね≫

「やっぱり、そうなるよね」

≪なりますね。しかもあなた、今までチートとしか戦ってませんしねぇ。他のみんなが遭遇したら死にますよ≫





オーギュスト・クロエと戦ってから5年――僕は普通の魔導師だったら戦わないような奴らとやり合う事が多かった。

例えばフォン・レイメイ、例えばネガタロス、例えば鬼達、例えばキャラなりした連中、例えば巨大×たま。

もしそんなのが僕の記憶を元に闇の欠片として再生したとしたら? アルトはそういう話をしている。



てーか……なんなの、この展開っ! あれですかっ! 再生ショッカー軍団とか、そういうノリですかっ!





(Memory12へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、トーマとリリィ登場です。なおとまとなForce編では、みなさんのアイディアを参考に進んでいます。
僕はともかく猫男の事をトーマが知っているのも、以前に出した初期案ゆえ。
ちょうど僕は猫男とシュライヤと三人で次元世界中を旅している頃だったり」

アルナージ「アタシ達フッケバインが義賊的な次元海賊やってたりとかだな。
というか、フッケバイン・バンガード。てーか原作みたいに特務六課に入らないんだな」

恭文「入る予定ないね。だって局員になったら出番作りにくいし、動きにくいし」

アルナージ「……どんだけ疫病神ポストなんだよ、局員」



(だってああいう位置は、基本事件がないと話作りにくいでしょ。
それかこち亀みたいな路線じゃないと……でもどっちにしても身内話か)



恭文「というわけで今回のお相手は蒼凪恭文と」

アルナージ「現地妻10号のアルナージです。ちなみにフッケバインジャーのピンクです」

恭文「ちょっとっ!? なに本編に登場もしてないのにそんな位置決めてるのさっ!」

アルナージ「うっさいしっ! アンタがアタシの事セクハラしまくるからだろうがっ!
だから負けないように現地妻として、逆セクハラしてやるんだよっ! 分かったかっ!」

恭文「分かるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



(『ヤスフミ、お話だから。その……うん、お話。フォーク使うよ?』)



恭文「とにかく今回はシステムU-Dが本編初登場。拍手にはちょろっと出たけど」

アルナージ「それで声は阿澄佳奈……あのちびランと同じだっけ」

恭文「そうだよ」



(『カナさんはすっごい巨乳でスタイルいいんですっ! 毎回触らせてもらってますっ!』
『ちょ、こらカナメっ! お前やめろっ! てゆうか、マジウザいぞっ!』
『大丈夫ですっ! 私の胸も触っていいですからっ! 等価交換ですからっ!』
『そういう問題じゃねぇよっ! お前の胸を触ってあたしになんの得がっ!?』)



アルナージ「……ね、なんかアンタの中の人なキャラが喧嘩してるんだけど。カナ・アスミスにセクハラしてんだけど」

恭文「気にしないでいいよ。ユキノ・カナメはいつもこんな感じだから。
そしてシステムU-D、ゲームをやった方なら分かるでしょうけど……チートです」

アルナージ「闇の書の闇が人型でうろちょろしてるって感じなんだよな」

恭文「いや、あむとキャラなり出来るところが」

アルナージ「それ違う奴じゃねぇかっ! 声同じだからって混同してんじゃないよっ!」

恭文「まぁゲーム中でもチートなんだよね。戦闘に入るとこう、条件満たさないとダメージ入らないから」

アルナージ「いわゆる倒し方が決まっているボスと」

恭文「そういう感じ。まぁそんなのはどうでもいいから、デュエルしようぜ」

アルナージ「いやいや、どうでもよくないでしょうがっ! マジでこの世界無軌道よねっ!」



(それがとまと)



恭文「まずドキたま第4巻を書き出しました。それで本編は一話を残して下書き終わって、書き下ろし2話ももうすぐ完了」

アルナージ「じゃあかなり順調?」

恭文「迷ってたとこは振り切ったしね。それでアルナージは出ません」

アルナージ「当たり前の事をさも重要っぽく言うなっ! むしろ出たら驚愕だわっ!」

恭文「それで作者はついに……あのカードに手を出した」

アルナージ「バトスピ? てーかあのカードって」

恭文「PENDORAGON」

アルナージ「なんで英語で言ったっ!? いや、英語ですらないっ! 日本語読みだしっ!」

恭文「いや、やっぱりアーサーにはペンドラゴンかなって。意味はググレカス」

アルナージ「アンタはいちいちムカつくわねっ! ……そんなにアタシの事、嫌い?」



(フッケバインピンク、ちょっと身を乗り出して瞳をぱちぱちさせる)



アルナージ「てゆうかさ、現地妻10号なのも承知して欲しいな。もう、あれよ?
アタシは確かにアンタの奥さん達みたいに、綺麗な身体してるわけじゃない。
まぁ、あれよ。アウトロー社会で生きてきたから、それなりに……ね。
でもさ、ああいう事言われて意識しないほど男に慣れてるわけでもないの」

恭文「……アルナージ」



(更に目がぱちぱち。あと口元が歪んでる)



アルナージ「そういうとこは、きっちり覚えておいて欲しい。アタシはアンタが思ってるよりずっと、本気なんだから」

恭文「そういう事言うなら口元歪めるのやめろ。笑ってるでしょうが。あと表情が不自然」



(それによりフッケバインピンク、硬直。そこからわなわなと震え出す)



アルナージ「……うっさいうっさいうっさいっ! アンタマジムカつくっ! いいから騙されろっ!」

恭文「おのれはどこのくぎみー!? あと、そんな大根演技で騙されるバカはいないからっ!」

アルナージ「誰が大根だってっ!?」





(大根って、美味しいよねー。煮物な大根の素晴らしさって言ったらもう
本日のED:May'n『Chase the world』)









恭文「というわけで、アクセル・ワールド第1話を見たけど……トーマが出てた」

トーマ「あぁ、出てるな。こう、丸っこい感じで」

恭文「それで銀色戦闘員になっていた。でもあの主人公、いいよねー。こう……分かる」

トーマ「ニコ動のコメントでもそういうの多かったなぁ。やっぱああいうの、分かる人多いんだ」

恭文「いや、むしろほとんどの人が分かると思うよ? よっぽどリア充で人生満ち溢れているならともかく」

トーマ「そ、そういうものなのか」

恭文「そういうものだよ」





(おしまい)




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