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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory10 『GEARS OF DESTINY/システムU-D』



「ほ……砲撃斬り!? そんな、どうして!」





ヤスフミはまだあんな技使えないはずなのに……まさかまた星花一閃を使った?

ううん、集束系を使っている様子はなかった。私は空中に大きく発生した爆煙を見ながら、ただ戸惑う事しかできない。

というかおかしい。私はあのヤスフミを見て、違和感しか感じない。アルトアイゼンもおかしいもの。



アルトアイゼンの刃は銀色……それなのに今の刃は蒼色だよ? いつの間に改修なんてしたんだろう。





「くそ……フェイト、手伝ってくれ! これを外す!」

「あ、うん」





アルフに促されて、慌てて駆け寄り両手をヤスフミのバインドに当てる。

バインドを解析して細かく組み上がっている構築を解いて……うぅ、これは無理かも。

ヤスフミは自分のバインドがこういう形で外されるのを見越して、かなり複雑にプログラムを組んでるから。



外すなら力尽くか、そういう特化したプログラムを作って対応するしかない。でもどっちも私にはできない。

というか、力尽くは特に駄目だよ。ストラグルバインドは強化魔法関係をキャンセルしちゃうし。

アルフは魔法生物だから、どうしてもそこに頼っちゃうもの。この手の魔法をかけられたら、もうなぁ。





「くそ、なんなんだアイツ! 毎度毎度勝手な事ばかり……こんな事が起こったのも全部アイツのせいだってのに!」

「アルフ、そんな言い方ないよ。あれはヤスフミのせいじゃ」

「いいや、アイツのせいだ! アイツが一人で無茶しなきゃこんな事にならなかった!
お母さんだってあのあとそう言ってたんだ! それが悲しいって言ってた!
やっぱり自分達を信じてくれれば大丈夫だったって言ってたんだ! アタシもそれが悲しかったのに!」

「母さんが……そんな事を」





ガイアメモリの事とか、納得してくれていると思っていたのに。また喧嘩とかになっちゃうのかな。

どうしてなんだろう。家族なんだから仲良くしなきゃいけないのに、どうしてそうなるんだろう。

ううん、原因なら分かっている。私がちゃんとできなかったから、ヤスフミにしわ寄せが来てるんだ。



私がもっとしっかりしてれば……やっぱり私は今のままじゃ駄目なんだ。

局員として、魔導師としてもっともっと成長しなきゃ、ヤスフミが私達を信じてくれない。

こんな事ばかり言う私達を信じてくれるわけがない。それは……嫌なのに。





「スプライト」



その声にハッとしてレヴィに視線を向けると、かなり遠くに移動したあの子がヤスフミに突撃。



「ゴー!」





でもその姿がおかしい。あれは……真・ソニックだった。そんな、アレまで使えるなんて。

それでレヴィは交差した瞬間、ライオットでヤスフミに十数撃の斬撃を打ち込んだ。

その全てが的確に命中したせいか、ヤスフミの周囲に水色の雷撃が弾けた。



色が変わってるアルトアイゼンを前にかざして防御しようとしたけど、それで間に合うわけがない。



レヴィはその体勢のまま動きを止めたヤスフミから五十メートルほど距離を取り、空中を滑りながら停止した。





「……ヤスフミ!」

「ほら、あれが答えだ」



アルフは攻撃を受けたヤスフミを見ながら、悲しげな顔でため息を吐いた。



「自分一人で勝手ばっかするから、あんな風に負けるんだ。
アタシ達を信じて、お母さんの言う通りの大人になれば……あんな事にならないのに。
アタシ達はそんなアイツなら認めて背中を押すのに。ほんとに、バカな奴だ」

「バカはアンタじゃん」



そう思っていると、ピンク髪の子が呆れたようにそう言ってきた。当然アルフはあの子を睨みつける。



「なんだと! お前、何様だ! 部外者が口出しするな!」

「黙れ!」



ピンク髪の子は心底怒っているという表情でアルフを睨みつけ、声を荒げる。

その余りの剣幕にアルフが縛られながら身を竦ませ、軽く震え出した。



「助けてもらってお礼も言えないような奴に、そんな事言われる筋合いない!
さっきだってワケ分かんない理由でいきなり襲ってきて……ただの八つ当たりじゃん!」

「な、なんでそこまで言われなくちゃいけないんだ! あたしは家族を思っているだけなのに! それなのになんで!」

「いいや、アンタは誰の事も思ってない! 自分の我がままが通用しなくて、ダダをごねてるだけのきかん坊だ!」

「な……!」

「アルフ、そんな話してる場合じゃないから。あの、あなたも落ち着いて。それより今はヤスフミを」

「それなら大丈夫だよ」



あの子は突き飛ばすようにアルフの頭を離してから、ヤスフミの方を見て不敵に笑う。



「恭文は攻撃を一発も受けてない。フェイトさん、付き合い長いのに分かんなかったの?」

「一発もって……そんなわけないよ。真・ソニックの攻撃は速いのに」



そうだ、そんなワケがない。あの子は以前映像で見た時よりパワーアップしている。

今のヤスフミじゃ勝ち目は薄い。でもそれは……勘違いだった。



「凄い凄い!」



レヴィは振り向き、目をキラキラさせながらヤスフミの方を見る。



「ボクのスプライトフォームからの斬撃、全部防御しちゃうなんて!」

「ま……ギリギリだったけどね」





ヤスフミはレヴィへ振り向き、さしてダメージを受けた様子も見せずに首を回す。

ジャケットに傷は……ない。そんな、まさか本当に全部防御したの?

正直信じられない。アルフも同じくらしく、あり得ないって首を横に振りまくっていた。



でもレヴィの笑顔がそれを否定している。レヴィは攻撃した当人だし……それなら間違いない。





「でもレヴィ、それはやめといた方がいいよ? エロくなるから」

「でもこれ、動きやすいよー? まぁデザインは……確かにセンスないけど」





あれ、なにかが突き刺さる。というかあの、二人とも戦ってるんだよね? 攻撃し合ってるんだよね?

なのにどうして私に精神攻撃してくるのかな。どうして仲良さげなのかな。なんだか……もやもやする。

だって二人とも戦っているというよりは、久々に会った友達同士が仲良く話しているように見える。



だからこう、攻撃に苛烈さがない? 二人の間には殺し合いとかそういう暗いものがない。

二人揃って『自分はこんな事ができるようになった』ーって見せ合いっこしている感じ。

約束がどうとかって言ってたから、そのせいなのかな。嫌だ、私おかしい。やっぱりもやもやしてくる。





「うーん、それじゃあこうしようー」



レヴィは笑顔を浮かべながら左手を挙げ、ジャケットを再構築。水色の光に包まれながら服装が変化していく。

二の足が出ていた真・ソニックは一瞬でロングパンツルックとなり、露出が控えられる形になった。



「よし、これならどうだー」

「うん、いい感じかも。やっぱレオタードはないよねー」

「だよねー。ボクのオリジナル、なに考えてたんだろー」





二人はそこで顔を見合わせ大きく笑う……二人とも、私の事嫌いなのかな! さっきから攻撃してくるし!

というか、おかしいところないし! あれくらいは普通なのにー! ……レヴィは笑ってから、左手を前にかざす。

するとその手にもう一本ライオットが生まれ、レヴィの武装は二刀流へ変化。



その柄尻は水色のエネルギーケーブルで繋がれ……本当にライオットそのままだ。



ヤスフミの記憶というベースがあったとはいえ、まさかこんな事までできるなんて。もしかしたらレヴィは……今の私以上?





「さて、二本に増えたよ。だから今度は防げない。キミがボクに勝つなら、瞬間詠唱・処理能力を使ってどうこうが一番良い」

「そんな事しないよ。僕はおのれを倒す事が目的じゃないから」



いきなりとんでもない事を言い出したヤスフミに、私とアルフは驚きの余り声をあげる。というか、信じられない。

だってあの子達は闇の欠片で……闇の書になっちゃうのに。ヤスフミもそういうのは分かってるはずなのに。



「お前……なに言ってやがんだ! ソイツはフェイトの劣化コピーだぞ!
偽物なんてとっとと消すべきなんだ! なのになんでそんな事を言うんだ!」





そう、私の……その言葉が胸を貫き、身体が震える。コピーは……消すべき。なら私は?

そこに結論を出す事は、ヤスフミがこちらを睨みつけた事で止められた。

視線はアルフに向けられ、『それ以上言うなら殺す』と言わんばかりの目で威圧していた。



かなり遠くにいるはずなのに、アルフはヤスフミの視線に顔を青くし、ガタガタ震え始めた。





「ねーヤスフミ、アイツ殺しちゃった方がよくない? なんかうざいし」

「確かにねぇ。僕も助けた事を後悔してるわ。恩知らずってレベルじゃないし。
ま、邪魔するなら再起不能にすればいいでしょ」



サラっと恐ろしい事を言ってヤスフミはお手上げポーズを取り、アルトアイゼンを鞘に収める。



「ね、ヤスフミはボクの事コピーだと思う?」

「レヴィはフェイトと全然違うのに? これを見てどうしてコピーと思うのかが分からない」

「だよねー」





……ヤスフミがそう言ってくれたのが嬉しかった。ヤスフミは、そうなんだよね。

コピーとかそういうところで人を見ていない。それは私もそうだし、レヴィに対しても同じ。

そう、同じなんだ。だからレヴィは、そんなヤスフミを見て嬉しそうにしているのかな。



そういう気持ち、私にも分かる。ヤスフミのそういう優しさというか強さは、素敵だと思うから。





「ボクもね、ヤスフミと殺し合うのとかは嫌になってるんだ。なのに……空気読まないなぁ。
この間はなんか寝ぼけてる感じでちょっとおかしかったし、だからやり直ししてるのに」

「寝ぼけてる?」

「ううん、こっちの話。ね、もっともっと凄いところ見せてよ。ボクも見せるからさ」

「だね。……ナナタロス、セットアップ」





そうしてヤスフミ……というか、アルトアイゼンの姿が変わっていく。あれ、なに。



あんなの私は知らない。どうしてヤスフミはちょっと会わない間に、私の知らないところをいっぱい持っているの?










魔法少女リリカルなのはVivid・Remix


とある魔導師と彼女の鮮烈な日常


Memory10 『GEARS OF DESTINY/システムU-D』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なんだかんだでヴィヴィオ達もピンチです。どうやらタイムスリップしたらしいし……事情説明する?

いや、駄目だ。話しても理解してくれるとは思えない。むしろ病院に行く事を薦められる。

ヴィヴィオ達が質問した意図が分からないのか、二人揃って首を傾げまくってる。あははは、これどうしよ。



あ、そうだ。恭文とあむさんに連絡取れるかも。よし、今のうちに確認だ。





”クリス、恭文とあむさん達に連絡”



あれ、そこで首を振っちゃうんだ。もしかして……通信できない!? なんで!

あれかな、過去に跳ばされたせいかな! でもデンライナーでタイムトラベルした時とかは平気なのに!



”ヴィヴィオさん、どうしましょう。ここは事情説明を”

”それは駄目! 過去に干渉したら、歴史が変わっちゃう! ヴィヴィオ達は本当ならここにいるはずがないんですよ!?”

”でもこのままであの方達が納得するとは”

”……逃げましょう”

”えぇ!”



ヴィヴィオはアインハルトさんの左手を掴み、百八十度方向転換した上で急速離脱。出せる限りの最高速を出してママ達から逃げる。



「あ……ちょっと待って!」

「君達、どこへ行くんだ!」

「ごめんなさい! 諸事情あるので逃げさせてもらいます!」



夜空を切り裂くようにとにかく全力で飛ぶ。アインハルトさんも戸惑いながらだけど合わせてくれるので、そこは感謝。

えっとえっと……とにかくママ達を振り切って、恭文達を探そう。うん、まずそこからだ。もしかしたらヴィヴィオ達と。



「待てー!」





遠くから聴こえたママの叫びに嫌な予感がして、ヴィヴィオはアインハルトさんと手を離し左右に分かれる。

というか、右手でアインハルトさんをちょっと突き飛ばした。そして次の瞬間、桜色の奔流がヴィヴィオ達の間を突き抜けた。

一撃食らったら間違いなく落とされるという威力のそれを間近で見て、ヴィヴィオはアインハルトさんと頬を引きつらせる。



て、てゆうか……ちょっと待って! ママ、『待て』と言いながら砲撃撃ったよ!? 攻撃したよ!?



ヴィヴィオ達は必死にママ達から遠ざかりながら振り向き、既に百メートル以上離れているママを見る。





「話を……聞いてってば! 逃げたら怪しいって言ってるようなものですよね!」



いやいやいやいや! 言ってる事おかしいから! しかもちょっと振り向いたら、第二射準備してるし!

なんなの、あの魔王! 言ってる事と行動がおかしいよ! あれにふさわしい言葉は『待て』じゃなくて『死ね』だよね!



「その通りだよ!」



しかもそこのユーノ君はツッコミがなってない。空気も読まずに結界を展開。

空が幾何学色になるのを見て、ヴィヴィオ達は慌てて足を止めてママ達へ向き直る。



「やましいところがないならまず止まって! それで事情を話して!」

「そうすれば管理局はちゃんと力になるんだから!」





それ嘘だよね! JS事件とか最高評議会とか起こしてるくせになにフカシこいてるの!?

てゆうかそこのユーノ君はやっぱツッコミがなってない! そんなんだから振られるんだよ!

……でもどうしよう。結界を張られたらさすがに逃げ場がない。もちろん事情説明も無理。



もし話して歴史が変わったら……その一点がヴィヴィオをアホにさせているのかも。



でも、しょうがないよね。ヴィヴィオはこちらへ迫るママとイエスマンを見据えつつ、腰を落とし両拳を構えた。





「ヴィヴィオさん、まさか」

「アインハルトさんはユーノ君……あっちの男の子をお願いします。それで全力でボコってください
ユーノ君は防御やバインド系が得意なんで、本気でやっていいです。てゆうか、幾らなんでもツッコミ駄目過ぎだし」

「よろしいんですか? やはり事情を話して協力を頼めば」

「それは駄目です! 本当に不用意な行動は取れないんですから!」

「これも十分不用意かと」



それでも構えを取るアインハルトさんは素晴らしい。ヴィヴィオ達はそこで深呼吸して。



「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」





ヴィヴィオ達はもう脳筋としか思えない行動を取るしかなかった。とにかく最優先は生き残る事。



それでこの場から離脱する事。そのチャンスさえ掴めれば……うし、いくぞ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「アルト、行くよ」

≪えぇ。待望の新モードです≫



セットアップされたナナタロスに、右手で取り出したカードを挿入。そのままホルダーを閉じ。



「コード・ドライブ!」

≪Z Mode――Quanta Ignition≫





発動を宣言。アルトはナナタロスとともに蒼い光となり、それは二つに分かれる。

そのうちの一つは黒い大型のホルダーへと姿を変えて、僕の背中に装着。

もう一つの蒼い光は更に六つに分かれ、それらは全て剣へと変身を遂げていく。



そして先に装着されたホルダーにその六降りの剣が収められていく。まず二本の片刃の短剣――六鉄に五鉄。

同じく二本で、峰の方に大きめのギザギザが刻まれた片刃の直剣――三鉄に三鉄。

次は片刃で持ち手が刃に埋め込まれている形の直刀――二鉄。



そして最後に、両刃で二股のようになっている剣である一鉄が挿入される。

一鉄の四角い鍔の部分には、大きめの蒼い宝石が埋め込まれていて、これがアルト本体となる。

……とまぁここまでは今まで通り。でも違う点がある。それは今までなら鋼色だった刀身。



魔剣Xに換装した影響からか、その全てがクリアカラーとなっていた。ここは前に発動した時に確認済み。

僕は右手で一鉄アルトを引き抜き、その切っ先をレヴィに向ける。すると透明だった刀身の中で蒼色の泡が生まれた。

二又(ふたまた)の刃の中で泡は色と一緒に一気に広がり、刀身を染め上げる。





「わ、凄い! ヤスフミの方が剣多くなっちゃった! ずるいずるいー!」

「残念ながらずるくない。それじゃあ」

「うん、第二ラウンド……開始ー!」



僕は左手でベルトを取り出し、レヴィが右のライオットで打ち込んだ袈裟の斬撃を伏せて避け。



≪The song today is ”Ride a firstway”≫





ベルトを巻きつけ素早く取り出したパスでセタッチ。流れ出した音楽に身を任せ、振り返りながら一鉄アルトで右薙一閃。

レヴィが打ち込んできた両の刃をそれで払い、素早く左手で六鉄を逆手に取り出し右薙斬り抜け。

レヴィは慌てた様子でそれを上に跳躍して避け、僕を飛び越え距離を取りながらランサーを連射。



逆さ状態で後退しつつ放たれたそれへ向き直り、一鉄アルトを袈裟・逆袈裟と交互に振るい十数発の攻撃を全て斬り払う。

ランサーが小さくも無数に広がる雷撃と青い粒子となって暗い空に散る中、レヴィは水色のせん光となって加速。

僕を惑わすようにジグザグの軌道を描きながら最接近。……僕は感じた予感に従い、八時方向に六鉄をかざす。



そして次の瞬間、水色の刃と蒼色の刃が衝突し、再び衝撃と火花が走る。

レヴィは一度僕の頭上を取り、素早く背中へ回り込み右薙の斬撃を放ってきた。

力任せにたたき込まれた両の刃から伝わる衝撃に、地面を踏み締めながらなんとか耐える。



でもそれはほんの一瞬だけ。すぐさま身を右に捻ってレヴィの左サイドへ回り込みながら、一鉄アルトの切っ先を打ち込む。





「わわ!」





僕の反撃をやっぱり高速移動で回避し、レヴィは再び背後に回り込んで唐竹に刃を打ち込む。

振り返りまず一鉄アルトを右薙に打ち込み、その刃を横に払って機動を逸らす。

そのまま鋭く一回転し、レヴィの脇を取って右後ろ回し蹴りでレヴィの背中に向かって放つ。



僕のかかとに背中を打ち抜かれたレヴィは目を見開き、身体をくの時に折りながら近くのビルへと勢い良く吹き飛ぶ。

でも素早く宙返りし、再び水色の光に包まれながらビルの壁に足をつける。

そして……壁を蹴って再加速。コンクリが爆ぜる音が響き、破片も重力に従い下に落ちていく。



そこを狙って非殺傷設定の魔力でコーティングした上で、六鉄を投てき。蒼い刃はレヴィに向かって直進。

レヴィは左の刃を左薙に打ち込んで、自分に迫る六鉄を払う。払われた六鉄は火花と一緒に宙へ放り出された。

その間に当然僕は踏み込み、がら空きになった胴を狙って一鉄アルトで再び刺突を打ち込む。



それにレヴィは素早く対処。まず右の刃で刺突を放ち、それを右に動いて避けた僕目掛けて左の刃で袈裟の一閃。

それを伏せて避けながら僕は時計回りに回転し、すくい上げるように右薙の斬撃を放つ。

レヴィは咄嗟に下がりながら両の刃でそれを防ぎ、刃から走る火花と一緒にほんの十数センチ移動。



すかさずこちらへ踏み込み斬撃を放った直後の僕に再び斬りかかってくる……当然読んでる。

逆手に持った二鉄を引き抜き、二刀の斬撃に向かって右薙一閃――レティの斬撃を初撃から吹き飛ばした。

それでも唐竹に打ち込まれた右の刃を、一鉄アルトの二又になっている刃中央で受け止める。



スリットに刃が挟まってから跳躍し、足元へ右薙に打ち込まれた左の刃を避けつつ身を捻る。

僕の動きに合わせて反物質化した刃は捻られ、その勢いに逆らえなかったレヴィの右手からこぼれ落ちる。

僕はそのままレヴィの左サイドへ着地し、レヴィはそんな僕を見て咄嗟に左の刃を逆手に持ち替える。



そうして切っ先を僕の右頬へ突き立てるように振るってくるので、身を伏せて頭すれすれでそれを回避。

でもレヴィはそこで素早く後退。真・ソニックの加速力ゆえか、その速度は短い距離だと瞬間移動レベルだった。

今度はいまだ振るわれる腕の動きに合わせて、エネルギーケーブルで繋がれている右のライオットが襲ってくる。



しかもご丁寧に腕をやや下げ、伏せて避けた僕に合わせた攻撃を仕掛けてきてる。

二鉄を盾にして刃を防ぐと、また青い火花がバチバチと接触点から走ってライオットは横へ弾かれる。

そこでレヴィは加速し、僕の右サイドを取るように接近。同時にたわんだエネルギーケーブルが僕の視界を覆う。



レヴィの左手が動き、逆手に持たれたライオットが順手に……僕は一気に身を伏せ、腹に向かって放たれた刺突を避ける。

同時に身を捻って突き出された刃を背にし、頭を狙って下からすくい上げるように左後回し蹴りを放つ。

レヴィはそれを左頬に瞬間発生させたオートバリアで防ぎ、再び逆手に持った左の刃を僕へ突き出してくる。



僕はオートバリアに防がれた左足に力を込め、身を縮めながら飛び上がりその刺突を回避。

同時に一鉄アルトと二鉄を手首のスナップのみで上へと放り投げた。

レヴィの目は突然視界で移動を始めた蒼い剣達を一瞬だけ追いかけてしまい、それで隙ができる。



その間にフリーになった両手でレヴィの左手を取って関節を決め、重力に逆らわないように下へ引っ張る。

レヴィが視界を外していた一瞬の間にその体勢を前のめりにさせた上で、今後は右膝をレヴィの後頭部にたたき込んだ。

鋭く振るわれた僕の右膝……オートバリアでは防がれず、レヴィの後頭部を打ち抜き鈍い音を響かせた。



レヴィがオートバリアで防ぐのは分かっていた。なので左後ろ回し蹴りはただの囮。

狙いはレヴィにカウンターを取らせて、その隙を突く事。密着状態で死角ならオートバリアも反応が遅れるし。

これで意識は奪えたかと思ったけど、レヴィは唸りながら身を反時計回りに捻って僕を振り払う。



僕は放物線を描きながら放り出され、十数メートルほど距離を取った上で空中を踏み締め停止。

頭をブンブンと振りながらこちらを見るレヴィを狙って、新機能使用。

同時に上から落ちてきた一鉄アルトと二鉄を、両手でしっかりとキャッチ。



意識を集中して三鉄と四鉄、五鉄六鉄に命令。三本の刃はホルスターからひとりでに射出。

そうして吹き飛んだレヴィに向かって切っ先を向け、時間差をつけた上で真っすぐに飛ぶ。

レヴィは舌打ちしながら空中を踏み締め、一気に右に移動。でもそこに蒼いせん光が走る。



それは先ほど投てきした六鉄。自分の行く先を邪魔し、突撃してくる六鉄を左に身を捻って避ける。

でも合間を置かずレヴィの九時方向から三鉄が襲い、レヴィは右の刃を右薙に打ち込みそれを払う。

続けてくる五鉄を左の刃の右薙一閃で弾き、六鉄を瞬間生成したランサーで撃ち落とそうと射出。



ランサーは真正面から六鉄を撃ち抜き、その進行を止める……はずだった。でもそれは無理。

ランサーの直撃を食らい爆炎に包まれても六鉄の勢いは止まらず、レヴィに迫る。

レヴィは舌打ちしつつもまた光に包まれ高速移動。六鉄はそれまでレヴィがいた空間をただ突き抜けるのみ。



上に跳躍した上で動きを止めていたこちらへ踏み込もうと顔を向け……至近距離で僕と目が合う。



レヴィは先回りして踏み込んでいた僕を見てまたも目を見開き、回避行動に移ろうとする。でもそれはちょっと遅い。





「鉄輝」



レヴィの四肢に瞬間詠唱で設置型バインドをかけ、その動きを戒め一気に踏み込む。



「繚乱!」





鉄輝に打ち上げられた一鉄アルトと二鉄での乱撃・斬り抜けが放たれた瞬間、闇を斬り裂く幾重ものせん光が生まれた。

レヴィはジャケットの一部をビリビリに破かれ、その場で膝をついた。そして背中のホルスターに三鉄達が近づき、収められていく。

……これがクアンタに進化した事で得られた新能力。いわゆるソードビット的な使い方ができるようになった。



まだまだコントロールの練習中なのであれだけど、不意打ち程度に使うには十分。これで……音楽も戦闘も終わりだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



斜め上からの強襲に対し、ママはまず速射系の砲撃をけん制に一発。それを右に動いて避けつつ更に直進。



それからママは即座に魔力弾を生成。十数発のそれをヴィヴィオに向かって発射。



ヴィヴィオもそれに合わせて魔力弾を同じ数生成し、前方に向かって射出。





「シューター……ゴー!」





虹色のそれらが弾幕となってヴィヴィオの前に展開され、こちらへ迫っていたママのシューターを撃ち抜き爆散させる。

それにより生まれた爆煙を突っ切って迫ってきた魔力弾を、ジグザグに飛びつつ避けていく。

まずはこちらの射程距離まで詰めて……現在の距離、ようやく三十メートル。これなら一足飛びに行ける。



ママは当然迎撃のためにショートバスターを一発。速射されたヴィヴィオの胴体くらいはあるそれを左に跳んで回避。



それで左手の平の上にシューターを形成し、腕を逆風に振るってママに向かって投てき――別の術式を詠唱。





≪Sonic Move≫





ママがヴィヴィオの魔力弾に対処している間に、ソニックムーブでママの右サイドへ回り込むように移動。

するとヴィヴィオの機動を読み切ったかのように、背後から桜色の魔力弾数発が襲ってくる。

これはさっき避けた誘導弾だね。あのショートバスターはただの囮だよ。本命はこれで頭を撃ち抜いてノックアウト。



もしくは足や腕を撃ち抜き動きを止めるってところかな。でもそれはソニックムーブによって急加速したヴィヴィオには当たらない。



ヴィヴィオはそのままママへ接近し、その背後を取って左拳を後頭部に向かって一発。





≪Round Shield≫





でもママはこっちを見ずに桜色のシールドを展開し、ヴィヴィオの拳を受け止めた。

ヴィヴィオは追撃せず、空中でバク転を繰り返しママから距離を取る。

そしてヴィヴィオの右側からシューターが連続で襲ってきて……くそ、厄介な。



さっきのシールドも岩かなにかって思うくらい硬かったし。ママの戦闘スタイルは使い古されてる形だけど、その分堅実。

崩すのはキツいなと思いつつ、ヴィヴィオはまた速射型のシューターを四発生成。

それで方向転換してこっちに放たれるママのシューターを撃ち落としつつ、右に移動。



ママはこちらへ向き直りつつヴィヴィオに狙いを定め、レイジングハートの矛先に魔力スフィアを形成。

ヴィヴィオの機動を先読みして、連続で三発のショートバスターをそこから放つ。

一発目はヴィヴィオの行く先を遮るように放ち……ヴィヴィオはしょうがないので右足で空中を踏み締め停止。



そのまま二時方向に跳んで二発目のショートバスターを右すれすれで避け、真正面にまで迫っていた三発目は飛び越える。





「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」





空中で身を縦に捻り、右足に魔力を込めてママへ飛び込みながらかかと落とし。

ママは素早く右手を自分に襲ってくるかかとへかざし、シールドを展開。

ヴィヴィオのかかと落としはママの頭上を守るシールドに阻まれてしまう。



接触点から虹色と桜色の火花が走る中、ママはレイジングハートを片手でかざそうとする。

でも……甘い! ママとは本気の勝負も模擬戦も何度もしてるから、行動パターンは読めてる!

ヴィヴィオはすかさず同じく魔力を纏わせた左のかかとをシールドに叩きつけた。



突如襲ってきた二撃目にシールドには耐えられず、音を立てて砕け散る。

そしてヴィヴィオは舞い散る桜色の粒子に構わず左足を振り切り、ママのレイジングハートを上から蹴り飛ばす。

放たれようとしていた砲撃はヴィヴィオの真下を通過し、結界内のビルを撃ち抜き砕く。



驚くママに足を振り切った勢いを殺さず迫り、左手を伸ばしてかざしたままだった右手を取って一気に捻り上げる。



今顔をしかめて動きを止めたママ相手に、長期戦は不利。なので。





「ごめん!」





右の掌底をママの腹にたたき込み、そのまま気絶させる……なのにヴィヴィオの左手は宙を切った。

ママは咄嗟に足首に生えていたウィングロードを羽ばたかせ、右腕が折れない程度に身体を上げてヴィヴィオの掌底を避けていた。

そして腰だめに構えたレイジングハートの切っ先を向け、瞬間的にスフィアを形成して砲撃を放つ。



ヴィヴィオは慌てて右手を引きながら身を捻り、至近距離で放たれた砲撃を避ける。

砲撃は胸元すれすれを通り過ぎ、風圧でヴィヴィオの素敵でおっきいおっぱいを揺らした。

でもそれに驚いている暇はなかった。ヴィヴィオはやや逆立ち気味な体勢から魔力スフィアを八発形成。



ヴィヴィオはママの右手を離して慌てて下がりながら両手に魔力を纏わせ、速射で放たれた魔力弾を左右のフックで打ち落としていく。

ママの魔力弾を殴り散らしている間にまた距離がどんどん開く、ママは安心した表情で宙返りし体勢を元に戻す。

く……さすがにあれは予想外過ぎる。さすがはママ、腐っても戦闘能力だけは高い。



てゆうか、千載一遇のチャンスだったかもなのに……ママの戦術も戦い方もぶっちゃけ古臭い。

恭文みたいにトリックスターができるわけじゃない。堅実に防御し、堅実に射撃でけん制。

堅実にバインドで防御し、堅実に砲撃で堅実に砲撃で仕留める……ママができる事はこれくらいだよ。



でもその堅実な事を一つ一つ高いレベルで行っているから、ママは魔法戦に限ってはめちゃくちゃ強い。

『誘導弾・バインド・砲撃』のワンパ三点突破なんて恭文は言ってたけど、むしろ褒め言葉だよ。

技術を限定するのは他の技術に対応しにくくなる可能性があるけど、逆に限定する事で完成度が高くなる場合もある。



ママの場合はそれだよ。自分の得意技を徹底的に磨き上げて、必殺の武器にしてる。

でもあの反応は予想外過ぎる。まさか……ヤバい、ヴィヴィオの動きは読まれてる。

多分ママはヴィヴィオがあそこでシールドを破ろうとする事も読んでいた。そうじゃなきゃあれは速過ぎる。



同時にヴィヴィオの戦闘スタイルも確かめたんだ。これでヴィヴィオは近接よりだってバレちゃった。



ガンナーフォームがあればもうちょい楽できたんだろうけど……ここはアインハルトさん頼み?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



飛行魔法の応用で空中を踏み締めながら、私はスクライア司書に接近。

スクライア司書は私に左手をかざし、そこから展開する翡翠色の魔法陣を介して数本の鎖を射出。

ヴィヴィオさんが言っていた事を思い出しつつ更に加速し、その鎖の合間を抜けていく。



そして両拳を構え更に踏み込み、私の動きを目で追っていたスクライア司書の左サイドを取る。

いまだ鎖を射出している司書の背中に向かって、右半身を踏み込みつつフックを放つ。

スクライア司書は素早く振り向き、バインドを解除して防御魔法を展開。円形のシールドで私の拳を防ぐ。



私は深追いはせず素早く拳を引きつつ、また司書の右サイドを取って両足を踏め締めつつ右ストレート。

司書は慌てた様子で右手をかざし……また拳を引き、その勢いも加味して左半身ごと踏み込み左フック。

かざされた手からシールドは生まれるけど、真横から放たれた拳には無意味。私の拳は司書の手首を打ち抜き横に逸らす。



……なんだ、この妙な違和感は。私は体勢を崩した司書の懐へ入り、覇王流の基本通りに『地面』を蹴って右ボディブロー。

それをまともに食らって司書は身体をくの字に折り、口元から透明な液を吐き出す。

それでも私に視線を向け、後ろへ下がりながら両手で印を組んで……させない。私はまた再加速。



司書との距離を決して空けず、まずは右アッパーで印を下から打ち崩す。

司書の腕は弾かれ大きくバンザイをするように跳ね上げられた。それで司書の口元が歪んだ。

私は感じた予感に従い歩法を用いて司書の右サイドへ素早く移動。



次の瞬間、私がいた空間に突如現れた緑色の縄が、なにもないその場所を絞めつけた。

もう一度背中目掛けて左フックを打ち込み、それで身体が固まったところに腹へ右フック。

それから素早く右手を挙げ、攻撃により降りてきていた司書の右腕を掴み捻り上げる。



そしてその腕を引っ張りつつも左半身を踏み込み、司書の右脇腹へストレート。

拳を始点に確かな手応えと衝撃が爆ぜ、司書が目を見開き身体を震わせた。

……捕縛魔法の使い手との戦闘には、少しコツがいる。それは相手に詠唱の隙を与えない事。



捕縛魔法というのは詠唱するのにそれなりの時間がかかるもの。それがデフォ。

それがないのは瞬間詠唱・処理能力持ちの恭文さんやコロナさんくらいのもの。

だからこそバインド系には空間設置などの様々なタイプが存在している。



詠唱時間をゼロにできないからこそ、先読みなどのプレイングスキルでそれを補える種別を作った。

でもそれもこれも、そういうのを冷静に使える状況であればの話。だからラッシュでその冷静さを奪う。

もちろんあえて押し込まれて隙を作っているだけかもしれないので、冷静に相手の行動を見つつ危ないなら引く。



これもインクヴァルトから受け継いだ戦技の記憶……でもこれは、それ以前の問題だ。



私はようやく違和感の正体に気づいた。でも加減は一切せず、右手を離して拳を作る。





「覇王」



なにもないはずの空中――それすらも砕くイメージで両足に力を込めながら、こちらへ向き直る司書へ右拳を打ち込む。



「断空拳」



だがその瞬間、打ちのめされたはずの司書の目がかっと開く。そして私の身体に緑色のバインドがかかった。

腕が、足が、腰が、胸が、首が――身体の至る所が戒められ、私の拳は止められる。



「捕縛……完」





そう、止められるはずだった。でも私はつい先ほど感じたあの感覚を思い出しつつ、身体をそのまま動かす。

すると鎖は私の動きを殺し切れずに粉砕され、拳も勝利を掴んだ確信ゆえに動きを止めた司書の腹へ届いた。

そして先ほどよりも大きな衝撃が弾け、司書が目を見開き身体を前倒しにする。



私は咄嗟に司書が吹き飛んで怪我をしないように、左手を伸ばしてその右腕を掴んでいた。





「な……ぜ」

「それは当然です」



力なく崩れ落ち、私にもたれかかりながら気を失った司書に……苦い表情しか向けられなかった。



「あなた、戦闘訓練を怠っていましたね。それも長期間」





はっきり言えばこの方は、術の使い方や足運びが余りに下手だった。でも技量は驚異的。

バインドも防御魔法も少し見た限りではあるけど、一級品だと思う。私も見習うべきところが多かった。

でも戦い方はそれとは不釣り合いなほどにレベルが低い。これはいったいどういう事か。



答えは今言った通り。だからこそ自らの力を戦いの中で扱う術が磨かれていない。

もし魔法の技量と見合う形でこの方が鍛えあげていたとしたら、負けていたのは私の方だ。

それだけは……最後のバインドを抜いたとしても言い切れる。私はこの方を見て、困った顔をしてしまう。





「出来れば自らを鍛えていた頃のあなたと、拳を合わせたかった。
あなたは決して弱くはない。でも……それだけの差ですから」





そう言い終わると、幾何学色の空が元の闇を取り戻していく。意識を奪った事で、結界が解除された?



私は慌てて近くの高層ビルへ移動し、その屋上へ司書を降ろす。あとは……離脱するのみ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「え……結界が切れた!?」



なのはは慌てて周囲を見渡し、近くのビルで倒れているユーノ君を見つけた。

まさか……やられた!? 嘘、ユーノ君はバインド使えばすっごく強いのに!



「ユーノ君!」





次になのははあのツインテールの子を探す。でもその子の姿はない。というか……しまった。

ユーノ君に視線を向けている間に、あのサイドポニーの子までいなくなってる。今空を飛んでいるのは、なのは一人。

つまりその……逃げられた!? うぅ、ユーノ君がやられるなんて予想外過ぎるよ!



とにかくなのは一人じゃ結界なんて作れない。なのはは慌ててユーノ君のところへ降りた。





「ユーノ君……ユーノ君!」



名前を呼びながらレイジングハートを脇に置いて両手でユーノ君を揺らすと、ユーノ君はゆっくりと目を開いた。



「なの……は。あの子達は」

「その、逃げちゃったみたい」

「そうか。ごめん、僕が」

「ううん、なのはもフォローが遅れたし。でも……あのツインテールの子、そんなに強かったの?」



今後のためにも確認しておきたかったんだけど、ユーノ君はそこで悔しげに唇をかみ締めた。



「違う。僕が、弱かったんだ。相手の動きに全然ついていけなかった」

「それは強いって事じゃ」

「ううん、弱いんだ。司書の仕事ばっかで……戦闘訓練とかサボってたから、かなぁ。もうさっぱり」





自嘲するユーノ君を見ているとなんだか悲しくて、なのはは左手でその頭を撫でてあげた。

でも、それしかできなかった。実際戦ってないから『そんな事ない』とも言えず、ただそれだけ。

えっと……とりあえずアースラに連絡した方がいいよね。ユーノ君の状態も見なきゃいけないし。



というかあの子達は結局……なのはは夜空を見上げながら、首を傾げるばかりだった。あれも闇の欠片、なのかな。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ヤスフミがあの子に突撃して交差したかと思うと、あの子は空中で膝をついた。



ジャケットもあちらこちらがビリビリに避け、頭から軽く血を流しながらもあの子はヤスフミの方へ振り返る。



でも動きはそれだけ。あとに続いたのは、足場として展開した水色なベルカ式魔法陣だけだった。





「う、うぅ……悔しいー! また負けたー! てゆうか」






あの子はふらふらと立ち上がり、また水色の光に包まれる。

高速移動するのかと思ったけど、その光の中であの子は元のマント姿に戻っただけだった。

それとバルディッシュに似たデバイス……バルニフィカス、だっけ? それも戦斧形態になる。



姿が元に戻った事で弾けた光の粒子に構わずあの子は、左手で後頭部を押さえて頭を横に振る。



それから悔しげにうーって唸りながら、ヤスフミと元の日本刀に戻っているアルトアイゼンへ恨めしそうな視線を向けた。





「ずるいずるいずるいー! ヤスフミもボクと戦った時よりずっと強くなってる!」

「それはしょうがないよ。僕の進化は光よりも速いんだから」

「速い……それってボクよりも? ボクよりもずっと速いの?」

「当然」

「わぁ、なんか凄い! というか」



レヴィはそこで表情を明るいものに変え、ヤスフミが腰につけているあのベルトを見た。



「そのベルト欲しい! 音楽ばーってばーって……いいなー!」



ヤスフミはその言葉を受けて少し考え込むような表情を浮かべてから、レヴィに近づいていく。

それでレヴィの目の前に来て、左手でベルトを外してそのまま差し出した。



「予備が一本あるし、なんなら使う?」

「いいの!?」

「壊さないように大事にしてくれるならね」

「うんうん、大事にする! ありがとー! ヤスフミ大好きー!」





レヴィは嬉しそうな顔をしてベルトを受け取り、それを自分の腰に巻く。

そうしてまた目をキラキラさせながら、デバイスを待機状態に戻してヤスフミに抱きついた。

……なんだろう、もやもやする。ヤスフミも『よしよし』ってレヴィの頭撫でてるし。



蚊帳の外なのがイライラする。なんで私、こんなに心穏やかじゃないんだろう。

というか、ヤスフミもヤスフミだよ。レヴィのスタイルが良いからって抱きつかれて嬉しそうだし。

やっぱりシャマルさんとかフィアッセさんとか……胸の大きい女の人が好きなのかな。



フィアッセさんとハグしてる時も嬉しそうだったし、シャマルさんもなんだかんだで拒絶しないし。



でも私だって、これからなんだから。というか、レヴィにあれっていうのはちょっと。





”フェイト、なんかこう……レヴィが好きそうなもの持ってない?”

”ふぇ!? い、いきなりどうしたのかな”

”なに言ってるのよ。どうして復活したのかとかなに企んでるのかとか、聞くチャンスでしょうが”





突然届いた念話にドキドキしていた胸が、その言葉で一気に静まる。……あ、そうか。



確かに今回の件は不明点が多い。もしかしてそういうのを聞き出すためにこれなの?



じゃあ今ヤスフミがレヴィと仲良くしてるのもその、鼻の下伸ばしてるとかじゃないんだ。念のために確認しておこう。





”ヤスフミ、もしかして今あの子を倒したりしないのは”

”やらなきゃいけないにしても、情報収集は必要でしょうが。
まだ被害も出てない今だからこそよ。ほら、そうすれば二次被害も防げるかもだし”

”納得した”



ヤスフミ、そういうのを考えた上でまず話そうとしてたんだ。……私、駄目かも。さっきも変な事考えてたし。



”でもその子が喜びそうなものってなにがあるだろ”

”お菓子とかは?”

”さすがに仕事中にお菓子は”





確かにレヴィは見ていると精神年齢が低そうだし、お菓子とかなら喜んでくれるとは思う。



でもさすがに仕事中にお菓子はなぁ。でも確か……私は慌てて懐を探り始めた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あ、あの」

「ん……なに、オリジナル。言っておくけどキミとは戦わないよ? つまらないから」



こっちへあむ達と一緒に近づいてきたフェイトは、首を横に振りながら水色でまんまるな飴をレヴィに差し出す。



「そうじゃないよ。あの、これもどうかな。ソーダ飴なんだけど……昨日商店街でもらったの、そのまま持ってたんだ」

「そーだあめ?」

「食べ物。甘くて美味しいよ」



いわゆるぺろぺろキャンディなそれは既に包装を外されていて、レヴィは訝しげにしながらもそれを受け取り一口。

その途端レヴィは目を見開き表情を変え、一心不乱にソーダ飴に貪りつく。



「むむ……マズくはないい! これは決してマズくはないぞ!」



どうやら好評だったっぽいので、フェイトは一安心したのかほっと胸をなで下ろす。とにかくいい雰囲気なので、ここでツッコむか。



「……で、おのれらはなんで復活したのよ。てーかシステムU-Dってなに」

「んー、ぐるぐるやベルトもらったし、ヤスフミにだったら教えてあげてもいいかな」



その言葉に内申ガッツポーズ。フェイトも目が鋭くなるけど、慌てて表情を緩め出した。まぁレヴィを威嚇しても駄目だしなぁ。



「あのね、復活した理由……細かいところは分かんない。とにかくいきなりだったから。
でもシュテるん曰く『とても大きなエネルギーの影響』。その原因はピンクみたい」

”はやてが言っていたキリエ……だね。ヤスフミ、どういう事かな。まさかあの子がガイアメモリを?”

”それじゃあレヴィ達がパワーアップしてる理由や、システムU-Dの事が説明できないよ。もう少し話を聞いてみよう”

”うん”



とにかくそのピンク髪がなにかして、そのせいでこれなのは確かみたい。

本人に自覚があるかどうかはともかく、話を聞いた方がいいかな。



「それで元々ボクらマテリアルは闇の書の構築プログラムなんだけど」

「知ってるよ。だからおのれらが核になって、闇の書を復活させようとしてた」

「うん。でも闇の書にはその根源たるプログラムがあるんだ。あ、ここは夜天の書の管制プログラムどうこうとは別」

「リインフォースとは別? それってどういう事かな」



僕には今ひとつ分からないところだけど、フェイト的には思い当たるところがあるらしくハッとした表情を浮かべた。



「あ、まさか」

「そう。キミの言うリインフォースに近い存在が闇の書には存在した。
それがシステムU-D――『アンブレイカブル・ダーク』。特定魔導力の無限連環機構。
神聖古代(エンシャント)ベルカの狂気と戦乱が生み出した破滅の遺産さ」

「それが砕け得ぬ闇? どうしてそんな名前になったのかな」

「フェイト……アンブレイカブルは、『砕けない』とかそういう意味があるんだよ。中学で勉強してないの?」



フェイトはそこで恥ずかしげに俯き、両手で顔を覆う。

飴を舐めながらレヴィは、可哀想なものを見るような視線をフェイトに向けた。



「ねね、もしかしてボクのオリジナルってバカ? ボクだってこれくらいは知ってるのに」

「残念ながらバカだよ。で、それをどうして手に入れたいのよ」

「ボク達がちょー強くなるから。誰にも邪魔されず、閉じ込められずに自由に生きられる」

「で……どうしてそこで僕が出てくるのよ」

「ヤスフミの能力が僕達みたいなプログラム体には天敵だからさ。同時にワクチンでもある。
シュテるんの提案なんだ。もしもシステムU-Dに不具合があったら、ヤスフミに直してもらえばいいって。
知識量をボク達がサポートして、ヤスフミの能力でシステムU-Dを書き換えちゃうの。だから保険」





またシュテルか。どうもシュテルが三人のブレーンで、王様を補佐しレヴィを良い感じで使っている図式っぽい。

実際レヴィの知識量はかなりしっかりしてるし、相当丁寧に教えていると思われる。

前回は三人バラバラだったし、こういう関係性は見えてなかったんだよなぁ。でも、これではっきりした。



マテリアルDは単純に闇の書が復活するための核ってだけじゃない。なにかもっと、別の存在理由がある。



なお、あむが今の今まで発言していないのはしょうがない。だってついていける要素ないし。ぽかーんとしてるし。





「まぁそのためには一度王様がシステムU-Dを管制下に置いて、ヤスフミがアクセスする許可を与えないと駄目なんだけど」

「無理に干渉しようとしたら?」

「システムU-Dが拒否反応を起こして暴走するかもーってシュテるんが言ってた」

「じゃああの挑発は、ヤスフミを呼び戻すため!?」

「そうっぽい。まぁ実際、今のボク達はオリジナルを超えてるから……うん、美味しかった」



レヴィは飴を食べ終え、残ったプラスチックの棒をフェイトに手渡して僕達から距離を取る。



「ごちそうさまー。やっぱり水色に悪いものはないな、うん」

「あの、待って!」

「僕は連れていかなくていいわけ?」

「うーん、負けちゃったから今はいい。それにベルトと『まんまる水色』ももらったし。
あ、またまんまる水色くれるなら、いろいろ教えてあげてもいいよ? じゃあねー」



また光に包まれ真・ソニックになったかと思うと、超高速離脱。笑顔を浮かべて手を振り……すっかり懐(なつ)かれたなぁ。



「行っちゃった」

「フェイト、見逃してよかったの?」

「情報源の確保はできたし、ちょっと躊躇っちゃって。
……あの子が『自由になりたい』みたいな事を言った時、考えたんだ。
ヤスフミはもう気づいているだろうけど、シグナム達も同じだったから」

「……うん」



僕も全く同じ。あの子の呟きに、あの人の姿が見えた。ただ……いや、やめよう。

とにかく楔は打ち込んだし、次の行動に移ろう。そう思っていると、フェイトが真剣な顔で僕をじっと見つめ始めた。



「ヤスフミ」

「なに」

「アースラに戻ろうか。ほら、みんな待ってるし……あむちゃんの事も聞きたいし」



すっと手を伸ばしてくるフェイトから後ずさりながら、ぽかーんとしてしているあむを右手で抱きかかえる。



「え、ヤスフミ?」

「フェイト、ごめんね。今ちょっと捕まるわけにはいかないんだ」

「え、それってどういう」





返事はせずに転送魔法発動。あむとキャンディーズごとこの場から離脱。



追尾されないように連続転送を行いつつ、僕達はフェイトのいる場から逃げました。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「恭文、アンタフェイトさんから逃げて良かったわけ!? ほら、なんか安全なとこ連れてってくれるっぽいし!」



そして逃げ延びた直後、ぽかーんとしてたあむは復活。いきなりこんな事を仰るわけですよ。

ここはとあるビルの屋上。僕達はそこに出入りするためのドアの前に立っていた。あー、でも夜景奇麗だなー。



「そうですよぉ。お話して、助けてもらいましょお? 大変な事になってるっぽいですしぃ」

「駄目だよ。僕達がタイムスリップしてきたなんてバレたらどうなるか。それに」

「それに?」

「下手に関わったら歴史が変わるかもだし」



結構真剣なトーンでそう言うと、あむとキャンディーズも『あー』という声を漏らす。



「……うん、分かった。変に過去を変えたら、オーナーに怒られちゃうしね」

「現時点で怒られる事してるけどねぇ。あははは、覚悟しとこうっと」



そう、現時点でかなりヤバい。もうどうしようもなかったとはいえ、いろいろやらかしてるし。

だからこそとっとと戻らなくちゃいけない。事件はあれだ、きっとフェイト達が解決するでしょ。



「でも恭文、ヴィヴィオちゃん達は」

「デンライナーを拠点に探すしかないでしょ。まずはこの時間から調べてくけど」

「それもあたし達の安全を確保してから?」

「そういう事。二十一時二十一分……よし、いい感じ」



というわけで、既に解錠しておいたドアを手にかけ……二十一秒待つ。

そして二十一時二十一分二十一秒というゾロ目になった瞬間を狙って、アルミとすりガラスでできたドアを開ける。



「あれ」



本来ならそこには虹色の空が広がる、砂漠と岩山の世界があるはずだった。

でも僕達の目の前に広がっているのは、薄暗い通路の壁のみ。予想と全然違う状況に、今度は僕がぽかーんとする番だった。



「……アルトー!? パ、パパ……パスが! パスがあるのに!」

≪どうしてデンライナーに乗れないの!? 時間もぴったりなはずなの!≫

≪おかしいですね、これでOKだったんですけど。……あ、まさか≫

「なにか思い当たるフシでも?」

≪もしもあなたやあむさんがタイムスリップしたのに、なにか大きな力の影響があるとしたらどうでしょう≫



……そうだ、それがあった。さっきレヴィも自分達の復活にはそれの影響があるって言ってた。

もしそれがタイムスリップの原因なら、デンライナーに乗れないのも……僕とあむは顔から血の気が引いてしまう。



「じゃあそれをなんとかしないとあたし達……帰れないって事かな!」

「いやいや、それは絶対マズいって! 下手に介入したら過去が変わるし!」

≪でも主様、あむちゃん、ジガン達が干渉する事が『元々起きていた事』だったら話は別なの≫

「「その保証は!? 幾らなんでも今ガチに関わるのは無理だって! 駄目だって!」」



駄目だ、あむと声をハモらせたり頭抱えててもしょうがない。まずは開けっ放しだったドアを閉じてから、あむに向き直る。



「あむ、少し付き合って」

「まぁどっちにしても戻れないからいいけど……どうするの?」

「レヴィ達を追う。システムU-Dってのが鍵っぽいし、それをなんとかすれば帰れるようになるかも」

「でもあの子、逃げちゃったじゃん。今どこにいるのかとかは」

「そこに関しては問題ない」





というわけで端末を開いて、フェイト達が仕掛けているであろうサーチャーにバレないようにハッキング。

というか、正規ルートで堂々と介入する。この時間のIDとパスワードは……うし、これでOK。

なお裏の手口を使わないのは、フェイト達もレヴィ達の後を追えるように仕向けるため。うん、バレてもいいのよ。



レヴィがあの強さだと、さすがに三人相手はキツいしさ。例え格下でも数は欲しいし、むしろ追ってきてもらわないとマズい。



とにかくサーチャーにあるデータを入力。ここから三十キロ近く離れてる海域上空に向かう、一つの反応を確認。





「おし、探知はバッチリ」

「アンタ、なにしてるの?」

「レヴィに渡したベルトの反応を追ってる。あれ、なくした時のために発信機を仕込んでるんだ」

「マジですか!」



あむに頷きを返しつつ、画面の中で動く光点をもう一度見る。さっき入力したデータは、発信機のもの。

前回のあれこれも鑑みていけるかなと思ったけど、ばっちりだ。ちゃんとかなり遠くの海域にもサーチャーばら撒いてたし。



「……あ、まさかそのためにベルト渡したの?」

「そういう事。さすがに懐かせるためだけに渡したりはしないって。それじゃあ行きますか」





ヴィヴィオ達の事も心配だけど、時間移動ができず拠点がない以上長々と捜索してる時間はない。



僕とあむはまた空へ駆け出し、目立たないようにしながら海鳴置きを目指した。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はいはい、ちょっと止まってねー」



というわけで海上をのんびり進んでいたところ……突然黒服ミニスカなお姉さん達が前に出てきた。

猫耳猫尻尾を生やして同じ色の髪を揺らすその二人は、僕の知り合いだった。



「げ……ロッテさん。てーかアリアさんまで、なんで」

「あー、アンタの言いたい事は分かる。引退組なアタシらがどうしたって言いたいんでしょ?」

「そうですそうです」

”恭文、この人達知り合いなの?”

”はやての後見人でグレアムさんっていう人がいたんだけど、その使い魔だよ。
ちなみになのはと同じく教導隊で仕事してた関係で、かなり強い”



少し懐かしい気持ちになりつつも、僕は呼吸を整えそういう気持ちを封印。

とりあえず明るい話題のためにここにいるんじゃないのは、二人の表情から分かったもの。



「レティ提督から少し仕事頼まれてね。クロノも出張中だし、どうしてもってさ。
それでアンタ、ベトナムで生春巻きはどうしたのよ」

「いやぁ、そこは無事に終わったんですけど……ちょっと諸事情絡んでまして」

「できればその事情、私達に聞かせてもらえないかな。というか、リンディ提督がお冠なんだよ。
アルフを一方的かつこてんぱんに叩きのめして、怪我させたってね。アンタ捕まえて説教するって息巻いてるし」

「はぁ!?」



あの甘党……やっぱそれかい! くそ、ホントに調子こいてるね! 説教の一つでもしてやりたいわ!

明らかに曲解だし! てーか僕に対してなんか恨みでもあるんかい!



「ちょ、それ恭文のせいじゃないじゃん! あの人が襲ってきただけだし!」

「襲ってきた? またなんで」

「どうもマテリアル達が僕と比較してフェイト達をこき下ろしたせいっぽいですね。
あとフェイトの話だと、フェイトの母親と家庭教師な闇の欠片に遭遇して相当いら立ってたとか。
てーか文句言われても困りますよ。こっちの話も聞かず闇の欠片扱いされたんですよ?」

「そうだよ! それどころかレヴィってのに返り討ちにされそうになったところを恭文が助けたくらいだし!
それなのにお礼も言わず、謝りもせず好き勝手に偉そうな事ばっか言ってさ! 悪いのアイツじゃん!」



僕とあむが揃ってうんうんと頷くと、リーゼさん達はあっさり引いて困った様子で顔を見合わせる。



「なるほどね、こっちには大体の話を聞かせてたわけか。アリア」

「レティ提督には伝えておく。で……なんで逃げちゃったの。それが余計に疑いを深くしてるよ?」

「すみませんねぇ、今フェイト達に関わるわけにはいかないんですよ。見逃してもらえると助かるんですけど」

「そうはいかない。アンタの能力がシステムU-Dってやつを止められるかもしれないんだし、ふらふらされても困る。ここは」

「ごめんなさい」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文のバカがあの女の子共々、蒼い光に包まれて一瞬で消えた。



アタシ達は当然慌てて周囲をキョロキョロしつつ、サーチで状態確認……なんも引っかからないし!





「アリア、転移先は」

「駄目、連続で転送してるせいで、反応が追えない」

「もしかしてアタシ達」

「時間稼ぎされたっぽいね。あぁもう、失敗した」





アタシ達と話しながらも、転送準備してたってわけか。くそ、やっぱ抜け目ないし。

さすがにあの詠唱速度で連続発動されたら、追うのはちょっと難しい。力の使い方、しっかり分かってるじゃん。

……そんな事言ってる場合じゃないか。確かにまぁ、やすっちが頑張っているのは分かった。



しばらく会わない間にまた成長している事を嬉しく思う気持ちもあるけど、やっぱり腹立たしい。



てーかアイツ、逃げるなよ! あれか、まだアタシとのお風呂が嫌ってか!? さすがに傷つくわ!





「でもアリア、どうしてやすっち逃げるの? アタシそんな魅力ないかな」

「それは違うから。というか、ベトナム行ったのって三日前とかそれくらいでしょ?
とんぼ返りも良いとこだし、なんかおかしくないかな」

「まさか本当に生春巻きだけ食べて帰ってきたのはないだろうし。
それで現地の女の子を嫁にしたくて連れてきたって感じでもないだろうし」

「それこそまさかだよ。あの子は日本人だったもの。言葉も流ちょうで」



そういや外国の人には見えなかったなぁと思っていると、端末から着信音が響いた。

アリアが懐に右手を突っ込み、それを取り出して通信画面を展開。そこにアタシ達の雇い主が映った。



「はい、リーゼです」

『アリア、ロッテ、恭文君は見つかった?』

「見つかったんですけど……すみません、逃げられました。あと」

「アルフがフルボッコにされたの、どうも自業自得っぽい。アタシも聞いて呆れたよ。
いきなり襲いかかってきたんだって。それも話を聞かずに。
原因はプレシア・テスタロッサやリニスの闇の欠片と遭遇した事」

「あと、マテリアルと交戦して返り討ちになりそうになったんだって。
なのにお礼も言わず謝りもせず……こりゃどう考えてもアルフが悪いって」



もちろんあの子達の言う事が本当だったとしたら……だけど。でもそんな嘘ついたってすぐバレる事は明白。

やすっちやあの子の反応で嘘はないっぽいとは思う。それについては雇い主――レティ提督も同じくみたい。顔を見れば分かる。



『そう……まぁ恭文君に不満たらたらだったし、信じてはなかったけど』

「不満あったの?」

『あの子が単独でガイアメモリを封印したせいで闇の欠片事件が起きたって言ってたのよ。
自分達を信じて待っていれば、あんな事は起きなかったって……もう呆れたわよ』

「実際はどうだったんですか」



アタシ達は現場にいなかったから、まずそこを確認しないと話にならない。なので聞いてみた。




『あの子が単独で封印しなかったら、更に被害が大きくなっていた可能性があるわ。
海鳴はジュエルシード事件の舞台にもなっているし、それまで呼び起こされたらもう』

「……それもあったんだよなぁ」

「よく考えたら海鳴って、凄いとこかも」



とにかくやすっちの判断は間違ってなかった。なのにリンディ提督がそれっぽい事言って批判している。

困った顔のレティ提督を見るに、相当勢いが強いのはよく分かったよ。



『マテリアルの事も無駄な感情移入をして、自分の言う事を聞いてくれなかったとも言ってた。
あれはフェイトちゃん達のコピーだから気にするなって言ったのに、反論されたって。
そういうちょっとした事で自分を信じてくれていない事が伝わって悲しいって……泣くのよ』

「それはまた……ヒドいなぁ」

『私もそう言ったんだけど、譲らなくて。とにかく自分が正しい。自分は間違ってないって意地を張る。
フェイトちゃんが中学卒業後は自分の望み通り局員一本で進むって決めたから、余計に目がつくみたいね。
あとは……単純に闇の書絡みの事だからナーバスになっている。本人的にはちゃんと区切りをつけた事だし』

「あぁ、それでか」

「なのに二度も復活したから、もう八つ当たりでもしないとやってられないと」





そういう気持ちなら分からなくはない。アタシらだってあの書には煮え湯飲まされたし。

クライド君の事を本気で思っていた提督からすると、闇の書絡みで事件が起きるのはそりゃ辛いでしょ。

だからそのきっかけになっているやすっちに八つ当たり……いや、ここだけは同意できないって。



やすっちがガイアメモリっていうの使って、事件を起こしたならともかく……そうじゃないし。やすっちも災難だよ。

とにかくリンディ提督が話を大きくして、やすっちが悪者みたいに伝えた理由もよく分かった。

正直アタシらがやった事を考えれば同じ穴のムジナだけど、だからこそしっかり止めないと。レティ提督もそこは同じなので安心。





『あー、ごめんね。話が逸れたわ。実はその恭文君と連絡が取れたの』

「「えぇ!」」

『そうしたら彼、まだベトナムにいるって言うのよ』

「「はぁ!?」」

『通信映像でも確認したから、間違いない。少なくとも日本や管理世界にはいないわ』



アタシはアリアと顔を見合わせてから、やすっちとあの子がさっきまでいた場所を見る。



「いやいや、それはないでしょ! やすっちとは今さっき会ったばっかりなのに!」

「そうですよ! あの、恭文君に事件の事は」

『リンディがアレだった事もあるし、伏せてるわ。私の感触では嘘を言っている感じではない』



レティ提督の目は困惑しながらも、しっかりしていた。だったら……アタシはまたアリアと顔を見合わせた。



「アリア、どういう事よこれ」

「どういう事って、恭文君が二人いるとしか言いようがないよ。そうでもないと説明できない」

「じゃあ闇の欠片……いや、そんな感じじゃなかったよね」

「意識ははっきりしてるしね。それなら、あの子達は誰の記憶から再生されたの?」





そうだ、それはないはず。まずやすっちはアルフとのゴタゴタについてちゃんと答えていた。それも今さっきの話だよ。



だからこの事件が起きて再生されてーって記憶ではないはず。現にやすっちはベトナムにいるわけだし。



ならあのやすっちは……あぁもう、ワケ分かんないって! アイツはまず誰!? それでアタシ達はなにと話したんだよ!





(Memory11へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで今回はGOD編第二話。ようやく本編に登場したセブンモード・クアンタ。そしてあっさりやられたユーノ先生」

フェイト「……ブランクって、怖いね」

恭文「ここで一念発起して頑張ってれば未来は変わったのに。本日のお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。それでヤスフミ、今回はバトル中心だけど一応重要な話も」

恭文「出てるねー。システムU-Dの詳細……てゆうか、概要?」



(そう、概要。そして話はあんまり進んでいない罠)



恭文「そしてヴィヴィオとアインハルトが……アイツらなにしてる!? 犯罪者と負われても文句言えないだろうに!」

フェイト「いや、それはアルフを蹴り飛ばしたヤスフミが言えた事じゃ」

恭文「だっていきなりさっき全開で襲ってくるもの。しょうがないじゃないのさ」



(『ヴィヴィオだってしょうがないのにー。だっていきなり魔王の砲撃だしー』
『あの砲撃には確かな殺意が込められていました』
『魔王じゃないよー! あと殺意なんて込めてないから! 込めてるのは対話の思いだよ! なのはだってクアンタだよ!』)



恭文「というわけで本編の方は実はそんなに語る事もなく……まぁあとはリンディさんがナーバスになってるくらい」

フェイト「ひと月経たずにこれだし、気持ちは分かるけど」

恭文「でもそんなのはどうでもいいので、バトスピの話をしようか。
最近作者はラウラ用に紫の無魔デッキを組んでいたり」

フェイト「無魔? またどうして」



(理由は実に簡単。うちにある使ってない紫のカードを見たところ、系統:無魔が一番多かった)



フェイト「単純にリアルプールの問題!?」

恭文「だってリアルにカードがないと、テストできないし。とりあえず防御力は高いデッキになった。
一枚だけのセイメイや太骨望と二枚だけの打神鞭を使うとそれはもう……マ・グーデッキの主力達が尽く灰にされる」

フェイト「あ、それは凄いね。じゃあ強いデッキに?」

恭文「いや、決め手がなくて長期戦になった上で倒されて終わる」

フェイト「それ駄目じゃないかな!」

恭文「まだ調整中だしね。太骨望三枚詰みとかならいけるんだけど」



(ラウラのデッキだからやっぱりキースピリットはピン差し基本だよなぁとか考えつつ……なかなか難しい)



恭文「まぁそんな感じで今まで触れていなかった色のデッキも組みつつ楽しんでいるわけで……次は緑だね」

フェイト「緑のデッキは組んでないの?」

恭文「実は。ソウソーデッキのためにも練習しておきたいんだけど」





(そして目指すは『俺は何色でもない』……あれは無理か。
本日のED:JAM Project『LIMIT BREAK』)





恭文「く……追って欲しいとは思ったけど、ちょっとやり過ぎたかな。適度じゃないと困るし」

あむ「マジどうしよ! これじゃああたし達犯罪者みたいだし!」

ミキ「恭文、いっそ話すのも手じゃない?」

恭文「できれば自分からはやめたいなぁ。絶対に面倒だし、拘束されても困る」

ラン「そう言えばさっきも言いがかりつけられてたよねー」

ダイヤ「というか、あのワンちゃん目が淀んでいたわ。関わるとまた喧嘩売られるかも」

スゥ「家族なのに争うなんて……悲しいですぅ」

恭文「……とにかく今はレヴィ達だ。くそ、逃がすんじゃなかったよ。さっきはとっとと帰るつもりだったからアレだけど」

あむ「確かに……失敗だったね。というか、あんなのが三人って。それじゃあ簡単には勝てないじゃん」





(おしまい)





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あきゅろす。
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