[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory09 『GEARS OF DESTINY/二〇〇二年・十一月、海鳴にて』



わたし――アミティエ・フローリアンは、きょうから日記をつける事にしました。

妹のキリエも、自分の日記をつけます。わたし達はエルトリアの片隅にある小さな家に、三人で住んでいます。

わたし達のお父さん――グランツ・フローリアンはかせは学者さんです。



わたしはまだ小さいのであんまり難しい事はよく分かりませんが……はかせはすごいです。

『世界のために』色んな事を調べて、研究しているそうです。悲しい思いをしている大地を救ってあげるための研究。

はかせは自分の研究をいつもそう言っています。だから私達はお父さんではなく、尊敬を込めてはかせと呼びます。



はかせは世界のため、エルトリアの大地のために頑張ってお仕事中。毎日毎日夜遅くまで頑張っています。

ちょっと寂しい事もあるけど、わたしは大きくなって色んな事を覚えてはかせをお手伝いしようと夢見てます。

それでそれで、どんどん遠くに進んで……『ししょくのもり』の向こうにだって行っちゃうんです。えっへんです。



やさしいはかせと妹のキリエ……三人と一緒で、私はとっても幸せだと思います。



こんな毎日がずーーっと……いつまでも続いたらいいなって、思います。




「――ずっとずっと続けばいいって、本当にそう思ってたんです」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「というわけで今回は僕達大人組な模擬戦。ここで基本ルールをおさらいしておくよー」



なんだかんだで場を仕切る事が多くなった恭文君が……なんだか昔を考えると新鮮だなー。

前はこういうの適当にして一人で動く印象があったのに。特になのは達とお仕事してる時とかはかなり。



「まずカートリッジは一ダース。それでフルドライブと飛行魔法は禁止。なのは、それでいいね?」

「なぜなのはに確認……って、当然か」



なのはの戦闘スタイル的に走り回ってどうこうはないからなぁ。飛べないとなると本当に固定砲台扱いだと思う。



「あとチャージ三回のフリーエントリーだね」

「チャージ三回フリーエントリー……って、それ違うよね! それカブトボーグだよね!」

「いや、最近ニコ動で見てハマっちゃって。いいよねー、あのカオス具合」

「ゲームに関係ないから! ほら、ティアナとかぽかーんとしてるから!」



やっぱり変わってないなぁと思いつつ、なのはは大きくため息を吐く。うぅ、きっとなのはは一生振り回されるんだ。



「でも恭文君、普通に模擬戦もちょっとつまらなくない? それはヴィヴィオ達がやってたし」

「つまり魔王的には蹂躙したいと」

「違うよ! ……なのでここは」



私は左手を挙げ、人差し指を立てながら左目でウィンク。すると恭文君が気持ち悪そうな顔を……なんて失礼な!



「ちょっと勝利条件を変えてみようか。お互いのチームの大将を決めて、その人に攻撃が一発でもヒットしたら負けでどうかな。
それ以外の人もクリーンヒットしたら一旦退場で、キャロやルーテシアの回復魔法をかけた上で一定時間後に復活」

「いや、それだと後衛にした方が有利……なるほど、そういう事か」

「うん」




多分全員でドンパチしたら、本当に長い時間をかけた消耗戦になる。でもそれじゃあ見てる方も楽しくない。

なので前衛はあくまでも後衛である大将を守るブロッカーの位置。その前衛が崩されるという事は戦況が崩れるという事。

いかに相手の戦況を上手く崩し、一旦退場したのが復活する前に大将に迫れるか……結構面白いと思う。



実際恭文君も乗ってきたらしく、ワクワクした顔をし始めたし。





「横馬、それいいわ。面白そう」

「でしょでしょ? 実は最近教導隊で始めた訓練なんだよねー。
というわけでみんな、そういうルールでやるけど大丈夫?」

『問題なーし』

「うん、いいお返事だ。だったらこの調子で……どーんと行ってみよー」



大人も子どもも交じって全員で右手を空に向かって突き出し……そんな時だった。



「……あむ、ヴィヴィオ、アインハルトッ! なにそれ!」

『え』



今恭文君が名前を挙げた三人の身体が、虹色の粒子に包まれ始めたのは。

みんなは両手を胸元まで挙げて驚いた様子で自分の身体を見る。



「これは」

「なになに!?」

「ちょ、なにこれ! てゆうか恭文、アンタも!」



あむさんの言うように、恭文君も同じ光に包まれていた。それで目を見開き。



「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



なぜか松田優作さんなセリフを発言……いや、お決まりだけど! お決まりだけどもっと言う事あるんじゃないかな!



「ヤスフミ、みんな!」

「あむちゃん!」

「ヴィヴィオッ!」




フェイトちゃんが恭文君に、唯世君があむさんに、私がヴィヴィオにそれぞれ手を伸ばす。



でもその手がみんなに触れる事はなく……四人は一瞬でこの場から姿を消した。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



前に国語の時間で、ある小説について勉強した事がある。その時『トンネルをくぐれば雪国だった』みたいなフレーズがあるって知った。



今あたしが置かれている状況を例えるなら……光に包まれたらいきなり夜の空に投げ出されたって感じ?



……ありえないしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!





「ちょ、なにこれ! ちょっとアンタ達!」

「私達じゃないよー! ……でも」

「なんだろう、これ。誰かが……呼んでる」

「悲しそうな声が、聴こえますぅ」

「この感覚、流星ゾーンの時と似てるかも」



じゃあ流星ゾーンかなにかのせいで……ならまだ安心かも。それならみんなと合流すればなんとかなるじゃん。

……って、そんな場合じゃないし! 今はとにもかくにもこれなんとかしないと! うし、キャラなり。



「あむ!」



キャラなりしようと思っていると、いきなり背後から腕が回った。それであたしの落下速度は急激に低下。

慌てて後ろを見ると、リーゼフォーム姿な恭文があたしの事抱えてた。その周囲にはシオン達もいる。



「大丈夫!?」

「ラン達も無事だったか!」

「あ、うん。なんとか。あの、変な光に包まれたと思ったらいきなりこれで」

「僕達も同じ」

「突然これなので、私とした事が軽く混乱しました」



シオン、大丈夫。アタシもマジ混乱してる。超展開とかそんなレベルじゃないし。てゆうかこれはなに?

とにかくあたしは恭文と合流できたわけだし……まずは状況整理からだね。あたしは腕の中で一度深呼吸。



「恭文、ヴィヴィオちゃんとアインハルトは……というか他のみんなは」

「今のところ見てない。それよりあむ、ちょうど良い機会だし自力で飛んでみようか」

「飛ぶって……いやいや、あたし飛行魔法覚えてないし!」

「ルティ、マイスター権限で許す。あむをセットアップさせて」

『ぴよぴよー♪』



恭文がそう言うと、あたしの身体はピンク色に包まれてバリアジャケットを装着……って、なんか勝手にやられてる!?



「あむ、マッハとジェットスイッチを取り出してを取り出して。名前を呼べば出してくれるから」

「分かった。えっと……マッハスイッチとジェットスイッチ」



名前を呼ぶと、左手に青と赤の光と一緒に確かにスイッチが出てきた。

これは……上部のローラーを動かすタイプか。



「マッハを右足――クローバーのソケットへ、ジェットは左足――ダイヤのソケットに挿入」

「こう、だね」



言われた通りにソケットへ二つのスイッチを入れてから、両手でスイッチ上部のローラーを回転。



≪Mach≫

≪Jet≫



するとあたしの両足にスイッチと同じ色の光が生まれて、それがローラーブーツに変化した。

同時にローラー部分にこう、ピンク色の足場みたいなのができて、あたしは自然とそこに体重をかけていた。



「手を離すね」

「うん」





恭文があたしの身体から腕をどけて……あ、ホントにあたし空に浮いてる。

それでもしやと思い、その道の上で意識を前に向けてみる。そうしたらスーッとその道が前に伸びた。

それにこの色違いのローラーブーツ、スバルさんが使うマッハキャリバーに似てる。



もしかしてと思い恭文の方へ振り向くと、アイツは両手を腰に当てて胸を張った。





「それはスバルとノーヴェの能力を宿したスイッチだよ。
簡易型だけどウィングロードを展開して、自由に空を移動できるの」

「それでなんだ。恭文、ありがと。これならなんとかなるかも」

「ううん。あ、もしウィングロードから落ちて危なくなったら」

「ロワイヤルのスイッチでしょ? 分かってるって」

「よろしい」





唯世くんがホーリークラウンでやってたみたいなクッションで着地もできるって話だね。

でもこれは便利かも。アミュレットハートでハートキャリバー使う時と感覚似てるだろうし。

とにかく……これで落ち着いてこのワケ分かんない状況について考えられる。



さすがにずっと恭文に抱かれてるのもなぁ。ほら、あたしだって……一応さ。





「……まずあたし達は変な光に包まれて、いきなり夜の空でスカイダイブだよね」

「恭文ー、ダイヤが流星ゾーンの時と似てるって言ってるんだけど……なにか関係あるかなー」

「あれと? まさか突然発生したそれに巻き込まれたのか」



ヒカリはそう言って恭文達と一緒に、下に広がる夜景を見下ろす。

しばらくの間黙って夜景を見ていた恭文は、いきなり不敵に笑い始めた。



「あむ、僕達は運が良いかもしれないよ」

「どういう事かな」

「ここがどこか分かった。ここ……海鳴だ」

「海鳴……アンタやフェイトさんの田舎!?」

「そういう事」



でもあたしには見覚えがない。ほら、前に来た事はあるし……って、当たり前か。

あの時は夜景は見てなかったなぁと思い出していた。あの時はウェディングケーキ作ってたしなぁ。



「ここなら知り合いも多いし、ただ場所だけ転送されたならフェイト達とも連絡が取れる」

「そっか、それは安心。でも……なんでいきなり? あたしは次元転送なんて使えないし」

「しかも四人同時だしなぁ。誰かがいたずらしたとも思えない」



恭文がいきなりはっとした表情を浮かべ、五時方向へ振り向いた。



「恭文、どうした?」

「……誰か来る。数は二人?」

「二人って……こっちにだよね。でもあたし達空の上なのに」

≪というか待ってください。この魔力反応は≫





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ヴィヴィオの身体をいきなり変な光が包んだかと思ったら、辺りの景色が急に真っ暗になった。

それでそれで、下に夜景が広がってどんどん落ちてって……ちょっとまって! これはなに!

確か今は昼間で、なおかつヴィヴィオは陸地にいたと思うんだけど! さすがにありえないよね!



しかもしかも、左隣を見るとアインハルトさんが頭から落ちながらパニック起こしてた。あ、でも涙目なのは可愛いかも。





「……って、そんな場合じゃない! クリス、行くよ!」



ヴィヴィオは急いで左手でSEI-Oベルトを取り出し、腰に巻きつける。

横目で一緒に跳ばされたっぽいクリスが敬礼してるのも確認しつつ、取り出したパスを右手で握り。



「変身!」



バックルにセタッチ。



≪Plat Form≫





虹色の光に包まれ、ヴィヴィオは大人体型へ変身。そのまま落下してくアインハルトさんに左手を伸ばす。

でもアインハルトさんの身体も光に包まれおっきくなって、そのまま宙返り。

足元に三角形で光と同じ色のベルカ式魔法陣を展開し、その上に着地した。



その瞬間光が弾け、武装形態なアインハルトさんが姿を現す。



ヴィヴィオは出していた手を引っ込めてバツが悪くて……とりあえず二回ほどフックの素振り。





「ヴィヴィオさん、ありがとうございます」

「い、いやぁ」



気づいてたんだー。でもアインハルトさん、そこはツッコんで欲しくなかったなぁ。

ヴィヴィオ、居心地悪いし。苦笑いしかできなくなっちゃうし。



「でもここは、どこでしょう。いったいなにが」

「恭文がヴィヴィオ達に仕掛けたドッキリ……はないよなぁ」





幾らなんでも下手したら死んじゃうようなのはやらないはず。ほら、アインハルトさんが飛べるかどうか分からないし。

ヴィヴィオはまぁ、聖王やった時にママ達の魔法パクったからなんとかOKだけど。

さて、とにもかくにも恭文やなのはママ達と連絡取らないと……あれ、クリスがなんか慌ててる。



両手をバタバタさせて、ヴィヴィオ達の八時方向を何度も指差してるし。……あ、まさか。





「アインハルトさん、空戦の方はできます?」

「一応ひと通りは」

「それは良かったです」

「でも、なぜそんな事を?」





どうやらすんなり連絡取って解決というわけにはいかないっぽい。ヴィヴィオはクリスが指差してる方を見る。

えっと、まだ遠いけど夜の闇でもはっきり見える白ジャケットなお姉さんと、民族風なジャケットを着た男の子が近づいてきてた。

女の子はツインテールで見慣れたデバイスを持ってて、男の子の方は……裸眼?



その二人に見覚えがあるのと同時に、猛烈に嫌な予感がして……ヴィヴィオは頬を引きつらせる。





「あれは……ヴィヴィオさんのお母様。迎えに来てくれたのでしょうか」

「いや、多分違うと思います」

「え」

「確かにママのバリアジャケット姿だけど……ママ、髪型はサイドポニーにしてるんです」





いや、それでもまさか……そう思っている間に二人はヴィヴィオ達の前方十メートル程度のところで停止。

そこまで近づくとさすがのアインハルトさんも違和感に気づいたらしく、怪訝な表情を浮かべる。

うん、当然だよね。だって今のママはツインテールで体型も違ってるし。あのね、今のママよりちっちゃいの。



今こっちを安心させるように笑っているママのお胸は小さくなってるし、顔立ちも幼い。



なによりなぎひこさんと出会ってから身に着けた乙女属性が消え去っている。そう、今のママは魔王だ。





「あの、こちらは時空管理局・本局所属の高町なのはです。初めまして」

「えっと……無限書庫司書のユーノ・スクライアです」

「初めまして? あの、そちらの司書さんはともかく高町教導官とは先日」



ヴィヴィオは慌ててアインハルトさんの口を両手で押さえながら、更に違和感を強くする。

あっちがユーノ君なのは分かってたけど……司書!? ユーノ君いつ降格したのかな!



「あー、そうですね! 初めましてですよね! ははははー!」



とりあえず愛想笑いで取り繕い、うーうー唸っているアインハルトさんに念話。



”アインハルトさん、ヴィヴィオに話を合わせてください!”

”それは構いませんが……ヴィヴィオさんは、この事態に心当たりでも”

”……実はかなり”



そう、ヴィヴィオには心当たりがある。具体的には小さいママ達を見た辺りから、なんかデジャヴ感じまくってた。

その正体を確かめるためには……そうだ、まずは確認作業からだよ。うんうん。



「あの、ここは管理外世界です。異世界渡航や魔法の使用は基本禁止で……許可証などお持ちですか?」

「えっと……すみません、司書さんの質問にお答えする前にこちらから二〜三質問が」

「なんでしょう」

「いや、難しい事じゃないんです」



警戒させたっぽいので、更に笑ってみる。でも……ごめん、うまく笑えてる自信がない。それでも話は進めるけど。



「ただ今ってこっちの暦だといつか教えてもらえれば」

「こっちの? えっと、地球の暦だと二〇〇二年の十一月ですけど……そうだよね、なのは」

「うん」



そんな答えが平然と出てきたので、ヴィヴィオはつい顔を青くしてしまう。



”あのヴィヴィオさん、暦がどうかしたんですか?”

”……今って地球だと『二〇一二年五月』のハズなんです。新暦だと七八とか九ですけど”

”え……あの、ちょっと待ってください。それでは”

”そうです”





平然と十年近く前の暦を『今』って答えちゃったんだよ、この二人。なんかすっごい頷いてるしさ。



さて、これはどういう事かなぁ。二人の様子を見るに、嘘とかそういうのじゃないらしいし。いや、答え出てるんだけど。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あたしは空の上を少しだけ走って、恭文が振り向いた方角を確認。

するとそっちから金色ツインテールなお姉さんと、赤毛で露出度高めなお姉さんがこっちに飛んできていた。

というかあれ、フェイトさんじゃん! あともう一人は分かんないけど、フェイトさんだって!



それでこっちに凄い勢いですっ飛んでいたフェイトさんともう一人は、あたし達から十メートル程度離れた位置で停止。





「あの、こちらは時空管理局・本局所属のフェイト……って、ヤスフミ!?
どうしてここに! ほら、ベトナムに行ってたんじゃ! 生春巻き!」

「くそ、闇の欠片か! またフェイトにヒドい事を言うつもりなんだな! それに見た事のない奴がいるし!
アンタが関わるといつもこうだ! さっきもリニスやプレシア……もうたくさんだ! お前、いい加減にしろ!」

「ベトナム……生春巻き、闇の欠片?」

「この間もアンタがアタシ達を信じないで勝手したせいでガイアメモリなんてもんが目覚めたのに、まだ懲りないのか!
あれは全部お前のせいだ! どうしてアタシ達の言う通りにできないんだ!
そんな身勝手なお前の手なんて必要ないから、とっとと消えろ! もしそうしないのなら」



赤毛の人はいきなり恭文を睨みつけて、敵意全開でこちらへ飛びかかってくる。



「アタシが消してやる!」

「アルフ、駄目!」



右拳を大きく振りかぶり殴りかかってきたその人に向かって、恭文が一歩前に踏み込む。

そして恭文の右拳が素早くあの人の顔面を打ち抜き、突撃が一気に止められた。



「が……ぁ」



それからあの人の腹が右足で蹴り飛ばされて、赤毛さんはフェイトさんの脇へ吹き飛ばされる。

フェイトさんはそのまま消えていく赤毛の人を見て驚いた顔をしていたけど、すぐに恭文へ批難の視線を向ける。



「ヤスフミ、なにもそこまでする必要ないよね! 家族なのに!」

「降りかかった火の粉を払っただけだし。なにか問題ある?
てーかいきなり襲うなんてどういう了見よ。それこそ『家族なのに』が適応されるわ」

「でも……あぁもういい。この事はあとでちゃんと話そう? 今のはヤスフミが悪いよ。
アルフは言い過ぎたかもしれないけど、ヤスフミがアルフを信じてちゃんと話そうとすれば分かってくれた。
母さんだっていつも言ってるよね。みんなを信じて認められる行動を取る事が大人だって」

「いやいや、それ意味分かんないし! いきなり襲ってこられたら普通応戦するよね!
話そうとしている間に怪我でもしたらどうするわけ!? あの人本気だったじゃん!」





ふだんのフェイトさんからは信じられない発言だったので、思わず声を荒げた。



フェイトさんの視線がこっちに向くので内心しまったと思ったけど、フェイトさんはあたしを見て不思議そうに首を傾げた。



……あれ、なんか反応が違う。怒っているとかそういうのじゃなくて……なんだろ、あの視線は。





「ヤスフミ、その子は? 見た事ない子だけど。それにバリアジャケットもいつものじゃないよね」

「え、ちょっと待って。フェイトさん、それありえないじゃん。もう二年以上の付き合いだし」





あれ、おかしい。確かに格好はフェイトさんだけど……フェイトさん、身長縮んでない? あたしとそんな変わらないし。

あと胸も服のせいかもだけど、なんか小さく感じる。そうだ、恭文が言うように違和感ありまくりだし。

恭文もそれを感じているのか、軽く頬を引きつらせてる。というか……そうだ、さっきからおかしかった。



なんか恭文、顔青くしてるもの。えっと、ベトナムがどうとか言ってた辺りからかな。





「フェイト、参考までに聞くけど今って何年だっけ」

「今?」

「いや、時差ボケひどくてさぁ。まだ正確な日時も時間もちゃんと身体に戻ってないのよ。だから……ね?」

「あ、そうなんだ。えっと、今は二〇〇二年の十一月だよ?」



そこで恭文の顔が更に青くなったかと思うと、同じく『まさか』って顔してたあたしの肩を抱いてくる。

それでフェイトさんに背を向けて、急にスクラムを組み始めた。ヤバい、話聞きたくない。もうどういう事か分かったし。



「……あむ」

「な、なにかな。あたし、超展開過ぎてもうついていけないんだけど。
なんとなく嫌な予感がするんだけど。それも猛烈に」

「あむ、成長したね。その予感は正解だよ」

「日奈森さんはもう一般人の枠を超えていますから、当然ですね」



いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

それは外れてほしかったのに! いや、恭文が珍しく顔真っ青だから、もう確定なんだけど!



「それでね」

「いや、聞きたくない! お願いだからやめて!」

「僕、確かに二〇〇二年の十一月にベトナム行ったわ。生春巻き食べに行ったわ」




それで恭文が言いたい事が分かった。てゆうかヤバい、寒気しかしない。現実を否定したい。



「という事は」

「まさか」

「ヤスフミがいきなりその話し出すって事は」

「生春巻き……食べたくなってきた。香草の香りがまた良くてなぁ」

「そっちじゃねぇよ! お前なにこの状況で食う事しか考えられないわけ!?」



なのにラン達がぶつぶつと……やめて、お願いだからやめて。勘違いで終わらせたいんだからやめてよ。

今なら笑い話にできるんだから。今ならそれが適応されるんだから。ホントやめて。



「スゥ達……タイムスリップしたですかぁ!?」

「そうみたいね」



なのにスゥが口を開いたために、そういうの全部すっ飛んでしまった。当然あたしは。



「ありえないしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」





叫ぶしかなかった。どうも模擬戦どうこうなんてすっ飛ばして、あたし達は突然二〇〇二年の十一月に跳ばされたらしい。



もう意味が分からないあたしの叫びは、冬の空に響いていく。でも……誰もその声に答えてくれない。うん、当然だけどね。










魔法少女リリカルなのはVivid・Remix


とある魔導師と彼女の鮮烈な日常


Memory09 『GEARS OF DESTINY/二〇〇二年・十一月、海鳴にて』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……なんだこれは! なぜいきなり家臣達はタイムスリップなどしたのだ!」

「あ、おなじみなメタ空間からでち。まぁそこについては」

「ちょこっとだけ前の話をしなきゃいけないんだよねー?」

「クスクスの言う通りでち。というわけで恭文とあむ達がタイムスリップする一日前へ戻るでち。全部の始まりはここからでちから」

「むむ……一体なにが起こったというのだ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それは恭文がまたまた好き勝手に旅に出た直後の事――今度の目的地はベトナムや。

きっかけはフェイトちゃんが『生春巻きは揚げる前の春巻き』って勘違いをした事や。

恭文は生春巻きがなんたるかを教えたんやけど、フェイトちゃんは頑として聞かんかった。



ベトナム料理にそういうのがあるって知らんかったとはいえ……そこでまた喧嘩発生や。

それで恭文は『本場の生春巻きをごちそうする』と啖呵を切って、少ない荷物片手にベトナムへごー。

その後フェイトちゃんがヤフった結果、生春巻きが実在すると知ってどう反応したかは察してほしい。



自分もベトナムに行くって言い出したけど、学校もあるし一人で海外行ったら危険やからみんなで止めた。

特にフェイトちゃんはアレ……やしなぁ。とにかくその直後にある異変に遭遇。

きっかけはフェイトちゃんが気晴らしにと、アルフさん連れて某無人世界へ訓練しに行った時の事。



そこでフェイトちゃんとアルフさんはある女の子と遭遇した。それを聞いた直後……まぁ突然やけどごめんな。



現在うち、ピンクのロング髪でミニスカジャケット着ている、二丁ピストル型デバイス持ってる奴に……銃口突きつけられてます。





「アンタ……そういや名前、聞いてへんかったなぁ」

「あら、時間稼ぎぃ? 悪いけど無駄よ。こっちも時間がないの」

「えぇやんか。どうしてうちを襲ってきたのかとか、いろいろ聞きたいしなぁ」



ここは海鳴近海の上空――今日は休みという事で、海を見ながらリインと魔法の訓練しとったんよ。

そうしたらこの子がいきなり出てきてドンパチや。ほんま、これはどうなってんのよ。



【はやてちゃん!】

「動かないでね、融合騎。大丈夫、殺しはしないわ」

「殺さんけどさらってどうこうか?」

「いいえ、あなたに興味はないわ。あなたが持っている闇の書――その中にあるシステムを、ちょこっと貸してほしいのよ」

【「はぁ!?」】



闇……ピンク髪の言うてる事があんまりにもアレで、うちはリイン共々疑問の叫びをあげた。



「……残念ながら、渡せんなぁ」

「力尽く……上等です♪」

「ちゃうよ、話を聞け! まず……闇の書はもうない」

「またまたー。あなたが闇の書を持ってないはずがない」

【本当です! 闇の書は『五年』近く前に消滅しました!】



あれは一九九七年のクリスマスやったから……うん、五年やな。なんのかんのでそれくらいの時間は経ってる。

そやからこそうちとリインは『今更なに言うてんの、コイツ』と言うしかないわけで。



【はやてちゃんの中にあるシステムは、闇の書が持っていた術式と守護騎士プログラムだけです! 闇の書そのものはもう消えてるです!】

「それも譲れるもんやないし、譲るつもりはない。から」

「だから、嘘をついても駄目よー? あなたは闇統べる王――ロード・オブ・ディアーチェなのに、それはありえないわー」



もしかしたら闇の書が消滅した事を知らんでつけ狙ってるアホかとも思うた。でもそうやない。

うちはピンク髪から飛び出した名前を聞いて……一瞬であのパチモン王様の姿を思い出したんやから。



「……え、ちょっと待って。うちは八神はやてやけど」

「は? なに言ってるの、そんなたぬきっぽい偽名を使ってもだーめー。
あなたはシステムU-Dを制御し得るただ一人の人物。
制御方法もちょいちょい吐いてしまいましょうねー。嫌なら力尽くで吐いてね」

「うちの名前のどこがたぬきっぽい!? いや、マジやから!
てーかソイツはひと月ほど前にうちと守護騎士達でぶっ飛ばしたし!」

【ですです! ロードなんとかっていうのは言ってなかったですけど!】



うちの真剣な目とリインの声で、不敵な笑みをずっと浮かべていたピンク髪はようやく動揺した顔をする。

それですっと後ずさって、うちに突きつけていた銃口を空に向けた。



「え、ちょっと待って。あなた……本当に闇統べる王じゃない? 闇の書も消滅してる?」

「さっきからそう言うてるやろ! うちの中にあるそれ関連のもんは、リインが言うた通りや!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ちょ、ちょっと待って……どういう事よ! ありえないわよ、それ!
この時間この場所なら、システムU-D――砕け得ぬ闇が手に入る確率は一番高かったのに!」

「砕け得ぬ……ちょお待った!」

【その名前、確かマテリアルD達も言ってたです!】





よし、状況整理や。つまりコイツは闇の書は闇の書でも、あの王様を探していた?

うちが襲われたのは、あくまでもあの王様がうちの姿を模していたせいで……ちょお待ってよ。

あの一件は闇の書事件が残しとる遺恨を鑑みて、秘匿事項になっとるはずやで。



そもそもあの子達は、散らばった状態で呼び起こされた防衛プログラムが再結集しようとしただけ。その時にうちらの姿を模しただけ。

その防衛プログラムの破片が闇の欠片で、あの子達はその核になるだけの存在。そういう話やったはずや。

それなのになんで正式名称みたいなんが出てくるんよ。あれは単純に強い欠片で、核の類やなかったって事か?



今までワケ分かんない事ばっかやったけど、そこを解くためにうちもコイツに聞きたい事ができた。

なので戸惑っているコイツに話を聞こうと思った瞬間……場にとんでもない威圧感が広がった。

空気そのものが震えて、なおかつ重力が増したようなこの威圧感……前に感じた事があった。





「空間振動! それに魔力集束!?」

【というかこの魔力反応は……マジですか!?】

『ふふふふふふ』





予想通りの声が響き、それはうちの十時方向・三十メートルほど先に現れる。

その辺りから黒いもやが生まれて、それが人の形を取っていく。その姿は……うちそっくり。

これでも一応Cはある胸や髪型も、装着しているバリアジャケットもそっくり。



ただ違うのはくすんだ灰色の髪と翡翠色の瞳、そしてうちが着けている帽子を奴はスルーしている事だけ。



……あれ、なんか胸と体型がうちよりちょお大きい。Cどころかあれは……Eや! 揉み応えたっぷりや!





「はーはははははははははははははは!」



そんなアホな事に注目してる場合やなかった。ソイツは両手を広げ、身体から黒い魔力の波動をまき散らしながら声をあげる。

うちはその威圧感に押され、両足で空中を踏み締め辺りに吹き抜ける黒色の暴風になんとか耐える。



「黒点に座す闇統べる王――復! 活!」



その風の中心部でソイツは広げた両手を握り締め、更に身体から波動をまき散らす。



「漲るぞパワー! 溢れるぞ魔力! 震えるほど……暗黒!」

「ジョジョファンに謝れ! なに正義側の決め台詞をしれっと改訂しとるんや!」

【はやてちゃん、きっとそれはあの子がはやてちゃんの姿だからですよ】

「やかましいわ!」



風が吹き抜けるとあの王様は、大きく声をあげたうちらを見て鼻で笑う。



「む……小鴉、貴様か。それにチンマイ融合騎……あとなんだ、その頭の悪い上に腰の軽そうな奴は」

「えぇ! もしかしてわたしの事!?」

「お前以外に誰がいる。ほれ、ピンク髪は(うったわれるーものー♪)と言うだろうが」



いきなり飛び出た禁止用語に驚がくし、うちとピンク髪は空中で器用にずっこける。



「うるさいわよ! それ一体どこの知識!? こう見えてもわたし、純潔保ってるんです!」

【……間違いなくはやてちゃんの血が混じってるです】

「アホ、うちは三次元に対してあんな直接は言わんわ。人種差別に取られかねんし」

「生まれ変わって手に入れた、この身の無限力……早速披露してやるとするぞ! ……跪け!」



そんなツッコミをしてる場合やなかった。あの王様が右手をすっとかざすと、うちらの四肢に黒いバインドがかけられた。



「バインドッ!?」

【以前はこんなの使ってなかったです!】

「ふん、生まれ変わったと言っておろうが! 固定砲台だからと言い訳している貴様と一緒にするな!」

「やかましいわボケ! うちは効率厨なだけや! 長所を徹底的に伸ばして短所を補ってるだけや!」

【はやてちゃん、それ自慢になってないですー!】





とにかく手足をじたばたさせつつ術式解除を行い……全然駄目やー! もう自力で解ける感じがせぇへん!

ごめん、うちただのサボり魔やった! てゆうかコイツ、なんでいきなり復活した上にパワーアップしてるんよ!

ガイアメモリは本局の方で厳重に保管してるんやで!? 別なのが見つかったって話も聞いてないし!



つまり……コイツがまた出てくる理由がない! いや、出てくるのはともかくパワーアップした意味が分からん! 特に胸囲や胸囲!





「あの、王様……初めましてー。わたしは」

「アンタ、縛られてるくせによく擦り寄れるな! むしろ感心するわ!
あれか、マジで(俺達うったわれるーものー♪)か!」

「うるさいわよ、たぬき! わたしはこれでも純潔保ってるって言ってるわよね!
てゆうか今擦り寄らなくていつ擦り寄るのよ! チャンスはここしかないのに!」



てかこれ、どないしよ。遠近両用の高速バインドは厄介やなぁ。恭文が入れば楽勝やったんやけど。

しかもあの王様、右手でシュベルトクロイツのパチモン取り出して、こっちに向けてきてるし。



「さて貴様ら……先日我が胸を貫いてくれたあの時の痛みと恨み、今ここで千兆倍にして返してくれる!」

「いやぁ、あれやったのはうちの子やし、うちに言われてもちょお困るなぁ。そういうのはうちやのうてそっちに言うて」

【その言い訳最低ですよ!】



分かっとるわ! なにがなんでもバインド解除する時間稼がなアカンから、言うてるだけやし! てーかマジ解けんし!

力尽く……うちか弱い女の子やから無理やし! ……ヤバいヤバいヤバい! なんや魔力チャージし始めたし!



「待ちなさい!」





そんな時、青いせん光とともにうちらと王様の間に一人の女の子が割り込んできた。

蒼を貴重としたミニスカジャケット……(へへーいへーい♪)キャラの子と服装も装備も似ている。

違うのは赤みがかった長髪を二つの三つ編みにしている事と、頭頂部に服と同じ色のヘアバンドを着けている事か。



その子は三つ編みを揺らしながら、あの子も持ってた銃を王様に向けた。





「アミタ! アンタどうしてここに……ウィルスは!」

「気合いで治しました! この胸のエンジンが燃える限り私は」



あれ、この子確か……フェイトちゃんが見つけた異世界渡航者(仮)やないか!

映像で確認したから分かるわ! ちょっと待って、まさかあのピンクの仲間かい!



「この胸のエンジンが燃える限り私は」

「うるさい!」



その瞬間、あの子は両手両足を黒いバインドで縛られて一気に動きを封じられた。

そんなあの子を見て、王様は激怒したような顔をする。



「お前、いきなり出てきて我より目立つな! 死にたいか! あと二度も言うな!」

「ご……ごめんなさい」

「ちょ、アンタなに! ここはさっ爽とうちら助けるとこやろうが! なんで極々自然に捕まってるんよ!」

「それについてもごめんなさいー!」

「お前らまとめて塵芥にし……む」



杖を振り上げようとした王様の動きが、いきなり止まった。てーか苦しげに左手で胸を押さえ始める。

するとうちらにかかっていバインドが一瞬で消えて、身体の自由が戻ってきた。



「あれ、バインドが」

「解けちゃったわね」

「なんだこれは。急激に力が」



なんやよう分からんけど、これはチャンスっぽい。うちは口元をにやりと歪めて、シュベルトクロイツの切っ先を奴に向ける。

とにかくあれや、今のうちに倒してもう二度と目覚めんようになってもらおう。それで。



『まてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!』



その声に寒気がし、回避行動を取ろうとする。でも次の瞬間、うちの身体は水色の雷撃に撃ち抜かれ動きを止めていた。

一瞬の雷撃によって声も出ずにしびれと魔力ダメージが遅い、うちは空中でよろめき膝をつく。



【はやてちゃん!】





リインが咄嗟に魔法陣のテンプレートを展開してくれたおかげで、そのまま落ちる事だけは避けられた。

でもヤバい、しびれのせいで身体が上手く動かん。てーかこの雷撃は……うちは王様の方を見た。

すると王様を守るように黒いもやが生まれ、それが一瞬で女の子二人に変化した。



一人はフェイトちゃんそっくりな水色髪の子で、もう一人はなのはちゃんそっくりでショートカットの子。

あの色違いなバリアジャケットに風貌……どっちも映像でやけど確認しとる。

うちはテンプレートの上で膝をつきながら、舌打ちしてもうた。そうや、あれは。





「はーはははははははははははははは! 王様だけ復活してボク達が蘇らない道理などない!」

「ロード・ディアーチェ、この姿でお目にかかるのはお初になります」

「貴様ら……『シュテル(理)』と『レヴィ(力)』か!」

「そうなります」

「ボク達そんな名前だっけ。でもカッコ良いー♪」





王様と同じマテリアルD――闇の書の残滓や。ひと月前の事件で、連中はガイアメモリによって魔力ごと復活。

周囲に現れた闇の欠片を集めて、闇の書の防衛プログラムを復活させようとした。

アイツらの姿が今のうちらよりなのは、ガイアメモリ発動の時に恭文もいたのが原因や。



恭文の記憶からうちらの姿をコピーして……もう会う事もないと、思うてたんやけどなぁ。

でもどないしよ。手負いな上に第三勢力っぽい二人と、今のうちらとほぼ同じ能力持ちな三人。

どう考えてもうちとリインだけでなんとかなるレベルやない。シグナム達も今は仕事やし……詰みやないか、これ。





「……ちょっと待て」



そうかと思うてたら、王様が怪訝そうな表情を浮かべて自分の前にいる二人を一べつする。



「お前達、実体化するのにここらの魔力をかなり食い散らかしただろ」

「うん!」

「美味しく頂きました」

「そうかそうか……お前らのせいか! 我の力が急に弱まったのは! 我の魔力まで使っただろ!」



二人は王様が怒りの表情を浮かべたのを見て、顔を見合わせて首を傾げた。……なんや揉めとる?

この隙にと思い、うちはこっそり術式詠唱。とりあえずでかいの一発ぶちかましておこうと思う。



「そーなの?」

「そうなりますか」

「アホか貴様ら! 復活するなら時と場所を考えんか!」

「知らないよ! 僕達だって好きで復活したわけじゃないし!」

「まるで何者かに呼ばれたような……そんな感じがしました」



そのまま揉めとれと思うてると、こっちを見ずになのはちゃんのパチモンがデバイスを向ける。

レイジングハートそっくりなそれから赤い弾丸が三発速射され、うちの左肩と三つ編みの腹をあっさりと撃ち抜いた。



「な……!」

「きゃあ!」



そして三発目はあのピンク髪の顔面に放たれるけど。



「……おっと!」





ピンク髪は咄嗟に左に身を反らし、自分に迫ってきた炎の弾丸をすれすれで避ける。

でも三つ編みは空中で膝をつき、うちは痛みと『熱さ』ゆえに魔法陣の上に倒れてもうた。

熱……熱い? なんや、これ。炎熱系の変換が入っとるやないか。どういう、事よ。



アイツらはあくまでもうちらのコピー。使う技も技量もうちら準拠やったはずや。

そやから炎熱系なんて使うはずがない。なのはちゃんが使えんもんを、どうしてコイツが使えるんよ。

……ちょお待て。アイツらも体型大きくなっとる。おっぱいも……って、そこちゃうし。



とりあえず分かったわ。コイツらはうちらが倒した時よりパワーアップしとる。その原因は……多分砕け得ぬ闇がどうとかっていうのや。

どうやら闇の書にはうちやシグナム達も知らんなにかがあるらしい。今うちを見下してくれとる三人は、それを手に入れるために闇の書の復活を狙った。

くそ、リインフォースがいたらなんか分かったかも知れんのに……てゆうか、そういうのはもっと早く教えてほしいわ。





「変な気は起こさないように。あなたでは私達には勝てない。私達は以前よりも深く、そして強くなっている。
勝ちたいというのなら古き鉄――彼を連れてくる事です。彼の能力ならば、私達を塵に返す事もたやすいでしょう」

「あ、それいいな! ボクももう一度ヤスフミと戦いたいし! ほらほら、連れてこい連れてこい!」

「あいにくそれは、無理よ」



とりあえず今までと同じ調子じゃない事はよう分かった。うちは肩を手で押さえながら、顔だけを上げて奴らを睨みつける。



「アイツは生春巻き食べに行っててなぁ、戻ってくるには時間かかる。
恨むならフェイトちゃん恨んでよ。アイツをベトナムに行かせた原因やし」

「なんだ、つまんないのー。じゃあいいや、オリジナルにはお仕置きとして死んでもらうから」

「おい、お前ら我を無視して勝手にぺちゃくちゃ喋るな!」

「ホントよ。てゆうか、今のはちょっと危なかったわー」



あのピンク髪……いつの間に王様の横に回ってるんよ。てーかその笑いとウィンクやめろ、ムカつくわ。



「あのね王様、ちょっとだけわたしのお話、聞いてみない?
あ、私はキリエ・フローリアンよ。よろしくー」

「失せろ。下郎と話す舌は持ち合わせておらぬ」

「それがシステムU-D――砕け得ぬ闇の事だったとしても?」



またその名前……どうやらピンク髪の目的はそこに集約されるっぽい。

ここはマテリアル達と同じやな。そやから全員がピンク髪に興味を持ち始めた。



「……砕け得ぬ闇」

「それって、ボクらがずっと探してた大いなる力。キミ、知ってるの?
砕け得ぬ闇の目覚めさせ方。闇の書が闇の書たる所以(ゆえん)」

「よさぬかレヴィ」



王様が前に出て、ピンク髪に近づこうとしたフェイトちゃんのパチモンを左手で制する。

それでやっぱり腹の底が読めないピンク髪に対し、敵意にも似た視線を送った。



「こやつは得体が知れぬ」

「あらーん、そんな事言わないでー♪」

「得体が知れないのは同感ですが、話だけは聞きましょう」

「シュテル、なぜそう思う」

「聞くだけならタダです」



なのはちゃんのパチモンが無表情にそう言うと、王様は少しの間黙る。

それからうちらに背を向け、なんかゆっくりと飛び始めた。



「では行くとするか」

「はい。活動拠点の目星はつけておりますので、急ぎましょう」

「シュテるんさすがー♪」

「えっへん。……というわけで」



なのはちゃんのパチモンはこっちを見て、無表情のまま両手でスカートを摘み軽く上げてからお辞儀。



「皆様に近いうち改めて、ご挨拶に伺います。その時はより深い闘争を期待しています。
……でもあなたや守護騎士達ではもう、私達の相手はできないでしょう。もちろん私とレヴィのオリジナルも同じく。
なのでもし我々を倒したいと言うのなら、古き鉄を呼び戻す事ですね。それも早急に。でなければ、死にますよ?」

「古き鉄……あ、瞬間詠唱・処理能力の保持者! 天然の魔導殺し!」

「ご存じですか」

「まぁね。……そっかそっか、やっぱりこの時間で正解だったんだ。というわけでアミタも、バイバーイ♪」



そうして王様達は動けないうちらを残してかなりの速度で飛行開始。そのまま離脱していった。



「キリエ! あの子は本当に……待ちなさい!」



それをあの三つ編みの子が追う。てーかなんでもう復活してるんよ。うちは肩やられて、動けん感じなんに。

……そうや、動けんかった。このまま首落とされてもおかしくなかった。それやのに……胸の中で悔しさが募る。



【はやてちゃん】

「生命が助かったと考えるべきか、見逃されたと考えるべきか」



うちは右拳を振り上げ、それを魔法陣に思いっきり叩きつけた。



「恭文恭文……マジでうっさいし! なんやの、アイツら!」

「それはしょうがないですよ。多分マテリアル達は」

「……分かっとる」





連中は別に恭文が強いとかそういう話はしてない。恭文の瞬間詠唱・処理能力の事を言ってるんよ。

恭文の能力、プログラムが物質化した存在に対しては、チートな効果を発揮するからなぁ。

うちの見立てではマテリアルD達にも、それは適応されたはず。アイツがやらんかっただけでな。



ここは能力がとんでもない演算能力を持ったスーパーコンピュータとも考えられるせい。

それの前ではプログラムで構築された魔法・物質は簡単に解析されるっちゅうわけや。

攻撃関係は干渉するのが難しいけど、防御魔法や半物質化した連中なら楽勝やろ。



そやけど……見下しまくって殺すまでもないって見逃されて、さすがにうちもイライラしとる。





「リイン、恭文にはこの事内緒や」

「いいですか?」

「えぇよ。今回の旅行は前の事件での傷を癒す意味もあるし。
てーか……さすがに腹立つやろ! あの言い草!」

「確かにそうですね。だからリベンジですか」

「当然や!」





こうしてうちらは復活した闇の欠片達を相手取って、本気の喧嘩をする事が決定。

ただ……悲しいかなクロノ君達やうちの子達は別の仕事してるから、戦力が足らん。

それでも事件を追う事はしっかりせんとアカンので、うちはなのはちゃんとフェイトちゃんを招集した。



うちとリインがマテリアルを、なのはちゃんとユーノ君が『アミタ』と呼ばれた青い子を。

ちょお心配やけど、フェイトちゃんとアルフさんが『キリエ』と呼ばれたピンクの子を追跡。

もちろんみんなには連中がうちらを見下して、恭文じゃないと張り合いがないと言ってた事も伝えた。



その言葉にアルフさんは憤慨し、フェイトちゃんは『だったら』と気合いを入れた。……さて、うちらのリベンジ開始や。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――それでその、今は海鳴近辺に潜伏してるマテリアルや渡航者を探してる最中なんだ。
闇の欠片も出ているし、放置もできなくて。アルフがいら立ってたのも……それが理由なの」

「そ、そうなんだ。へぇ、それはその……大変だったね」

「うん」

「……なんて言うと思ったの!? このボケどもが!」



右手でフェイトにげんこつを食らわし、僕は怒りの余り両手をわなわなとさせ始める。



「なにそれ! 僕、全然関係ないじゃないのさ! それで八つ当たりされても困るんですけど!
そんな事する連中信じろって無理だし! 家族と思えって無理だし!
むしろ疫病神でしょうが! 今すぐ縁を切ってさようなら宣言したくなるっつーの!」

「ご、ごめん。アルフには私からも言っておくし……私もちょっと冷静じゃなかった」

「知るか疫病神!」



そう言ってどこからともなく取り出した白いつぶてを、フェイトに投げつけていく。



「塩投げつけるぞ! ほれ……ほれ!」

「やめてー! なんかしょっぱいよー!」

「やめてあげなって! なんか事情があるっぽいし、反省してるんだし! てゆうかその塩はどっから取り出した!?」



あむが必死に止めてくるので、僕は両手をパンパンと合わせて塩まみれなフェイトを睨みつける。

なんでかフェイトが涙目だけど、気にしてはいけない。これはフェイトの疫病神気質を落とすための儀式なのだから。



「というか、どうしたのかな。あの……ごめん。生春巻きの事はYahooで調べて納得してる」

「そう。だったら塩を食べて反省しようか。ほらほら」

「それはやめてー!」

「恭文」



あむがくいくいと腕を引いてくるので、再びスクラム形勢。それであむはやっぱり、信じられないと言いたげな顔をしている。



「マジ!? マジであたし達タイムスリップしちゃってるのかな!」

「残念ながらマジだよ」

「アンタ、この事は」

「初耳だよ。まさかそんな事になってるとは思ってなかった」



てーか知ってたら驚かないって。驚くわけがないって。未来の僕が今に来てるなんてまさに燃えるシチュなのに。

一緒に『変身!』とかできるシチュなのに。フェイトからも聞いてなかったし……一体どうなってんだろ。



「連絡とか取ってなかったの?」

「……生春巻き食べるのに夢中で」

「フィアッセさんみたいにフラグ立てたんだ。現地の女の子かお姉さんと仲良くなったんだ。
アンタ、それで忘れてたんでしょ。どうせフィアッセさんといる時みたいにぼーっとしてたんでしょ」

「いや、立ててはない。ただその、ちょっと仲良くなっただけだから」

「立ててるじゃん! 覚えあるじゃん!」



なぜだろう、あむの勘が鋭くなっている気がする。僕はただ顔を背けただけなのに、どうしてそういうのが分かるんだろ。



「アンタ、本命がいるのになにやってるの!? マジ浮気者だし!」

「言わないでー! てゆうかあむにそれ言われたくないし! nice boat事件とか起こしたくせに!
僕はおのれみたいな事だけはしてないよ! nice boatだけは避けるように頑張ってるよ!?」

「それ言わないでよ! マジあの時の事は反省してるんだから! ……で、でもどうしよ」



マジで反省しているらしいあむは、困り果てた様子で僕の顔をのぞき込む。



「このままあたし達、元の時代に戻れないのかな」

「それは大丈夫。パスはちゃんと持ってるから」

「パス……あ、そっか」



そう、みなさまおなじみデンライナーのパスは常備している。

なのでゾロ目な時間にデンライナーに乗り込めば、元の時間に帰れるわけだよ。



「それなら」

「そういう事。この場は適当に話を合わせて、とっとと帰るよ」

「恭文さん、それでいいんですかぁ? みんな困っているのにぃ」

「スゥさん、それが妥当ですよ。そうじゃないと」



そうじゃないと……その瞬間僕とシオン、ヒカリは二時半方向・上空に違和感を察知。

感じたものに従って僕はあむとしゅごキャラーズを両腕で抱え、フェイトに向かって突撃。



「え……きゃ!」





フェイトに体当たりをかまし、そちらから放たれた水色の砲撃をなんとか回避。

砲撃は僕の身長よりも大きく、表面にバチバチと雷撃の火花が迸っていた。

砲撃は幾何学色の空間を突き抜け、繁華街ど真ん中のデパートに直撃。



壁や窓ガラスを粉砕し、大きな爆発を生み出した。……結果の中じゃなかったら、さすがにやばかったぞ。





「な……砲撃!?」

「この砲撃……というか、魔力の色は」



僕はそちらから既に迫ってきている脅威を見ながら、あむの腕を取ってフェイトに押しつける。



「フェイト、あむの事お願い」

「え、お願いって」

「あむ、フェイトの言う事を聞いてじっとしてて。キャンディーズも危ないから、あむの側を離れないように」




あむとフェイトから離れている間に脅威は僕を見て、かなりの速度で飛びながら笑いかけてきた。



「わー、いたいたー! おーい、ヤスフミー!」



ソイツは僕から二十メートルほど距離を取った上で停止。

フェイトとは色違いのジャケットでも目立つ胸を張り、人懐っこい表情を浮かべた。



「雷刃の襲撃者……おのれがまさかこの時間で復活してるとは思わなかったわ。
しかもまた大人っぽくなっちゃって。牛乳がぶ飲みでもしたー?」

「うー、もう雷刃のじゃないよー。ボクの名前、本当はレヴィ・ザ・スラッシャーって言うっぽいんだー」

「へぇ……それは良かった。名前も知らなきゃ耳元で愛を囁く事すらできない」



そこまで言って、僕は軽く笑いながらお手上げポーズを取る。



「ま、これは僕の兄弟子の台詞だけど」

「相変わらず面白いなぁ。あ、そう言えばキミが勝ったらデートするって約束したよね」

「したねぇ」

「アンタなんの約束してる!? フェイトさんどうした!」

「てゆうか、その約束をしたひと月後にベトナムであれなんだー」



あむとランのツッコミは聴こえない。てゆうか、言われても困るって。

十年前の話で、まだスルー真っ最中だったのに。それよりも今は……コイツの事だ。



「あの時ボクは消えるしかなかったけど、今はもう違う。
ね、デートしようよ。よく分かんないけど、楽しい事なんだよね」

「楽しいよー。遊園地とかなら、雷刃……レヴィも気に入るだろうし」



レヴィは楽しそうに笑いながら、バルディッシュによく似たデバイスを両手で持ち、その切っ先を僕に向けてくる。



「で……そう言いながらなんでおのれはデバイスを構えるのよ」

「そんなの当たり前じゃん。その前にボクともう一勝負してほしいから。
ボク、パワーアップしたから絶対負けないよ? もっともっと強くなってるんだから」

「だろうね」





さっきのフェイトの話では、なのはとそっくりな子も炎熱変換使えたりしたそうだしなぁ。

そうなったら当然レヴィも……まさか十年前の約束がこんなところで果たせるなんて思わなかった。

きっと引く方が得策だ。僕はここからあむと一緒にとんずらした方が良いと思う。



だってここは過去なんだから。でも……この状況で逃げられるとは思えない。現にレヴィに隙はない。

僕はマントを風にはためかせながら覚悟を決め、あの子に向かって頷きを返す。

レヴィはその意味が分かったのか、また笑みを深くして何度も頷いてくれた。





「待って! ヤスフミ、その子とは私が戦う!」

「オリジナルは下がっててよー。ボク、キミには興味がないんだー。
だってキミ、戦ってもつまんなそうなんだもん」

「つまんな……! どういう意味だ、それは!」

「言葉通りの意味だよー。闇の欠片にちょっとトラウマツツかれたくらいで動けなくなるひ弱っ子に、用はないの。
……それにシステムU-D制御の保険として、ヤスフミの力が必要になるかもしれないし。
シュテるんがそう言ってた。だからヤスフミは一度倒して、王様のところへ連れていかなきゃいけないんだ」





システムU-D……フェイトの話にもあった、『砕け得ぬ闇』の正式名称だね。でも僕が必要?

シュテルって、確かなのはの姿をした子だよね。あぁなるほど、僕が持ち上げられたのはそういう理由か。

目覚めた段階でシュテルは、僕の能力が必要だと算段をつけていた。でも肝心の僕はこの場にいない。



なので徹底的に挑発して力を見せつけ、僕がいないとどうしようもないという話に持ってこうとしたと。

結果的には失敗だったけど……どういう事よ。僕もこの件は初耳だから、正直かなり戸惑ってる。

システムU-Dなんて名前、前回のあれこれでは出てなかった。もちろんレヴィ達の正式名称もだ。



それにフェイトやはやてからもこんな事があったなんて聞いてない。復活してたのも初耳だし。

レヴィ達は本当にただのコピーとかじゃないって事? じゃあレヴィ達は何者なのよ。

あれこれ考えているとレヴィはため息を吐いてから右手に力を込め、自身の背後から襲い来る殺気に備えた。



というか……無粋な。人があれこれ考察しつつ時間を稼いでいたのに、全部パーにしてくれやがるか。





「この偽物が……アイツごと消えろ!」





殺気の主はついさっき僕が蹴り飛ばしたアルフさん。アルフさんは右拳に魔力を纏わせ、大きく振りかぶっていた。

でもそんな拳じゃレヴィには届かない。レヴィはデバイスを鎌形態に変化させ、アルフさんに殺意を向ける。

アルフさんは頭に来ているからそれに気づかず、反撃に鎌で胴体を一刀両断……されるはずだった。



レヴィが振り向き右薙の斬撃を打ち込む直前に、僕は転送魔法を発動。フェイトの隣にアルフさんを跳ばしておく。



それによりレヴィが振るった水色の刃は空を切り裂き、アルフさんも突如景色が変わった事で動きを止める。





「「……あれ」」

「おのれの相手は僕だよ、レヴィ」

≪Struggle Bind≫



そこですかさず右手を九時方向にかざし、術式詠唱――発動。邪魔されても面倒なので止まってもらう。

アルフさんの足元で生まれた蒼いベルカ式魔法陣から縄達が生まれ、アルフさんを一気に縛り上げる。



「なんだこりゃ!」

「アルフさん、ちょっと下がっててください。邪魔だから」

「な……邪魔はアンタだ! もうこれ以上余計な事をするな!
アンタがバカをやるたびにフェイトやみんなが傷ついてるのが……くそ、外れろ!」



もがいているアルフさんは無視で、僕はゆっくりと左に移動してフェイトとあむから離れる。

レヴィもそれに合わせてくれるのに感謝しつつ、呼吸を整え一気に気を引き締める。



「シオン、ヒカリ、ショウタロス」

「分かってるよ。だがヤスフミ、いいのか? ここは」

「いいんだよ。お願い、僕に約束を守らせて」

「……分かった。んじゃあ、楽しんでこい」





そう言って僕の側から不可思議空間へ移動する三人に感謝しつつ……身を左に捻りながらかがめる。

そうしてレヴィが笑顔で打ち込んできた袈裟の斬り抜けを避け、すぐさま八時方向へ振り向く。

レヴィが僕の脇ですぐに足を止め、打ち込んでいた右薙の斬撃を後ろに下がって避ける。次は……また袈裟か。



そこから逆袈裟・左薙と打ち込まれる斬撃を下がりつつ身を左右に捻ってすれすれで避ける。

三発目の右切上も回避したところで、レヴィが踏み込みデバイスの柄尻を向けて突撃してきた。

それを右に身を捻って避けつつ、腹に向かって左ストレート。レヴィの動きが止まったところですかさず踏み込み左右のワンツー。



胸元を叩く拳にレヴィは顔をしかめ、一気に数十メートル下がりつつ自分の周囲に四発のプラズマランサーを生成。

水色のそれはかなりの速度で射出され……でも僕はその場から一歩も動かない。

雷撃を伴う槍は僕の両脇を高速で通り過ぎ、それにより生まれた風圧で髪やマントがはためく。



僕はアルトの柄に右手を添え、両足で空中を踏み締め……背後に向かって振り向きながら抜きを放つ。

振り向くとそこにはいつの間にか後ろに回り込んでいたレヴィが、水色の鎌を唐竹に打ち込む姿が見えた。

さっきのランサーはただの囮。こっちが回避なり防御なりした隙を狙うために、高速移動で背後を取ったのよ。



でも少し単純過ぎ。徹を込めた上で右薙に打ち込まれた蒼い刃とそれは交差・激突。

鎌は僕の斬撃に押されて、火花を散らしながら大きく上に弾かれる。

すかさず左手で逆手に持った鞘を右薙に打ち込むと、レヴィはそれを水色の防御魔法(ディフェンサー)で防御。



自分の胴体を砕こうとする鞘を防いだ事でレヴィはまた鎌を振り上げるけど、そんなのじゃこれは止まらない。

鞘をディフェンサーが防いだのはほんの一瞬……ディフェンサーはバキンと音を立てて砕け散った。

水色の粒子が舞い散る様を見て、レヴィはソニックムーブを発動し慌てた様子で後ろに下がる。



僕の鞘は奴の腹を掠めた程度で、空振りに終わる。そして僕達は十数メートルの距離を取って対じ。





「飛天御剣流……双龍閃もどき」



だったんだけど、ジャブにすらなってないらしい。レヴィはただ楽しげに僕とアルトを見るだけだし。



「へぇ、デバイス変えたんだ! 色がボクとお揃いだ!」

「変わってないよ、より強くなっただけ」

≪正式名称はアルトアイゼン・アルカイック――今の私は最強ですよ≫

≪そしてジガンはジガンスクード・ドゥロなのー。主様にご奉仕するメス犬……はぁはぁなの≫

「この状況で発情するなバカ! ……しかし、今のは避けられると思わなかったんだけどねぇ」





前だったら確実に命中してエンドコースだよ。こりゃ、本当にパワーアップしてるな。それも相当。

まずこの時間のフェイト以上なのは間違いなくて、JS事件当時のフェイトに匹敵?

勘違いしちゃいけないけど、決してこの時間のフェイトやなのはが弱いわけじゃない。あれらも一般レベル超えてるし。



そんなフェイト達の姿や能力をコピーして、そこになにかが上乗せされたためにそういう力関係になってるんだよ。

それでレヴィが強化されてるのは……そのパワーだ。今のも徹を込めてなかったら押し負けてた可能性がある。

こりゃ今のフェイトやアルフさんじゃあ二人がかりでも負けるな。もちろん僕も油断したらアウト。



レヴィはこっちの警戒を察しているのか、頬を緩めてまた人懐っこい笑みを浮かべる。





「へぇ、カッコ良いなー! でも」



そこでレヴィは笑ってその場で時計回りに回転しながら、デバイスを鎌形態から大剣――ザンバーへと変化。

レヴィは手元に一瞬で生まれた水色の刃を振りかぶり、こちらへ突撃してくる。……速い。



「ボクのバルニフィカスだって負けてない!」





打ち込まれた右薙の斬り抜けを下に移動する事で避け、すぐさまUターンして僕の背後を取るレヴィに振り返る。

向き直りつつ左に移動し唐竹の斬撃を避け、返す刃での右切上はその場で跳躍し、飛び越えるようにして回避。

レヴィには笑いながら更に身を捻り、自分の六時方向・斜め上にいる僕に向かって袈裟に刃を打ち込む。



陸に向かって頭を向けた状態でアルトを左薙に打ち込み、その斬撃を払おうとするも……刃と刃が接触してきっ抗。



水色の火花を周囲に大きく散らす事になった。やっぱパワーは半端ないっぽい。





「それ!」





レヴィはそのまま力任せに刃を振り抜き、僕を繁華街の方へ吹き飛ばす。

僕は一気に百メートル以上下降しながら身を捻り、空中を踏み締め滑りながら停止。

左手をかざすレヴィの方を見上げながら左に飛行し、あれが仕掛けた空間バインドをすれすれで回避。



続けて打ち込まれる十数発の速射型ランサーを回避……それらは下にあるビル達に次々と命中し、その一部を粉砕する。

そうかと思うと左手に魔力スフィアを形成し、バルニフィカスのカートリッジを三発ロード。



僕をあっさり飲み込めるほどに巨大な砲撃を放ってきた。僕はアルトに魔力を込め、一気に研ぎ澄ます。





「鉄輝」



空中を左足で踏み締め停止してから、逆袈裟に斬撃を打ち込む。



「一閃!」





雷撃を伴う水色の斬撃を、僕が放った鉄輝という名のせん光が真っ二つに斬り裂き爆散させる。

空中を突き抜け軌道を描いていた奔流は一気に膨れ上がり、炎へと変化。

同時に水色の雷撃もはじけ飛ぶ。暗い夜の闇を一瞬だけ、幾重もの雷撃が水色に染め上げた。



でもまだ油断はできない。その爆煙と雷撃を高速で突っ切る殺気を感知……方角は前方・六十度。

僕は襲い来る襲撃者の足元をかいくぐるように、前方へ移動。

でも襲撃者はそれを読んでいたらしく、更に加速。水色の光に包まれながら僕の眼前に現れた。



その姿は水色レオタードでボディラインも出て……色違いな真・ソニックッ!?



きゃー! フェイトのエロさまでコピーしちゃってるし! こんなのアリ!?





「スプライト」



でも驚いてる場合じゃなかった。レヴィはザンバーを更に変形させ、一瞬で片刃の刀剣――ライオットとする。

右手に持ったそれを振り上げながら超加速し、レヴィは僕と交差しつつライオットで乱撃を打ち込む。



「ゴー!」





(Memory10へ続く)




















あとがき



恭文「はい、というわけでリクエストにお答えかなり久々なVivid編。そしてGOD編です。お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……突然過ぎない!?」

恭文「大丈夫、基本身内視点だから」

フェイト「そういう話でいいわけですか!」



(いいんです)



恭文「とにかく今回は……かなり最初の方だね。ゲームでヴィヴィオ達が跳ばされたくらいの頃。
なぜか僕が知らなかったレヴィ達の復活と謎の二人を追って、事件は進展してきます」

フェイト「ヤスフミ、そう言えばトーマ達って」

恭文「……ぶっちゃけ奴ら別に出さなくてもいいんだよね」

フェイト「えぇ!」

恭文「Force編がどうなるか不透明だし、なにより……ほら。ゲームでの主役は奴らじゃないから」

フェイト「……そう言えば」



(そう、奴らじゃない。ぶっちゃけヴィヴィオとアインハルトも出なくていいレベルな罠)



恭文「まぁこっちもちょくちょく書いてく感じなんで……それはともかくフェイト」

フェイト「なにかな」

恭文「マ・グーデッキにバラガンを二枚入れたんだけど……良い仕事してくれるよ。
というか、使ってて作者は『カッコ良い』って気に入っちゃった」

フェイト「気に入っちゃったの!?」



(イラストアドがね、あるから。イラストがかっこ良いから。バウンス関係なく出すだけで楽しいの)



フェイト「でもそれなら三枚じゃ」

恭文「他のとの兼ね合いもあるし、バースト条件の問題もあるからこれくらいがベストなんだよね。
段々とハイランダー的な構築になりつつあるのは怖いところ。そして作者は余ったバラガンを白緑デッキに投入」

フェイト「あ、前に作ってたのだね」



(それで一夏のデッキを作ってる最中……でも難しい。いっそバラガンをもう二枚買った方が早いんじゃないかとさえ思う)



恭文「ストライクヴルム・レオも居るし、ブレイヴも必要だしねー。いっそバーストブレイヴでも投入したらどうだろう」

フェイト「なのはは嬉々として突っ込んでたけど」



(だってだってー。これでなのはのストライク・アポロは更にパワーアップするんだものー。混色ブレイヴさいこー)



フェイト「そう言えばヤスフミ、覇王編第四弾に出るえっと……ジーク・ヤマト・フリードのパワーアップしたのが」

恭文「あ、もうイラスト出てるよね。天剣の覇王ジーク・スサノ・フリードだっけ。
あとは白っぽいアーサー王モチーフなスピリット」

フェイト「騎士の覇王ソーディアス・アーサー……だったね。ネットで見ただけだから、正確じゃないかもだけど」



(セイバー、セイバー・オルタ、セイバー・リリィ――揃って立ち上がる)



恭文「でもバーストブレイヴ、やっぱ剣になるのかなー。楽しみだなー」

フェイト「……私としてはスサノ・フリードがどうなるのかが心配だけど。あれよりパワーアップしたら」

恭文「全く別方向の能力持ちかもしれないよ? ほら、ロード・ドラゴンとロード・ドラゴン・バゼルみたいに。
どっちにしても僕のキースピリットもパワーアップするわけだし、こりゃあ楽しみだねー」



(……いや、能力によっては使わない方向で。ほら、あんまりに強いと……ね?)



恭文「なんで!?」

フェイト「アニメに出るの、楽しみだよね。もう4月中にはアーサー出るらしいし」

恭文「あ、まずはそこ見てからだしね。わくわくだー」





(どんな能力なんだろう……てゆうか、アーサー出たか。セイバーズがスタンバり始めたし。
本日のED:水樹奈々『ROMANCERS'NEO』)










ディア「というわけで」

シュテル「実は私と王は本編に初出場です。おまけでは出ましたけど」

恭文「そして三人そろってパワーアップ。二〇〇二年時点のフェイト達よりは確実に強い」

シュテル「そして私達はあなたの嫁になるのですね。もしくはメイドでしょうか」

恭文「ならな……なるかもしれないねー」

あむ「アンタ、そこどうして認めちゃうの!? いつもみたいに否定すればいいのに!」

恭文「できないんだよ! だってそんな発言したら『ネタバレ?』って思われるかもしれないし!」

あむ「……あ、それでか」

シュテル「くすくす」(分かっていて話を振ったらしい)

ディア「我としては嫁より下僕の方がいいのだが」

あむ「そっちはそっちでとんでもない事言うな!」

恭文「そうだ。それなら手本としてまずおのれが僕の下僕になれ」

あむ「アンタも黙れ!」





(おしまい)





[*前へ][次へ#]

9/26ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!