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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第23話 『カブトの世界/未来をこの手に→選ばれし者』



「と、とにかく総括すると『六課隊長陣は最高評議会に褒められ調子に乗って、問題を起こしまくった』って流れなんだよね」



涙目で恭文を睨みつけるスバルさんをなだめながらフェイトさんは、自嘲というか申し訳なさげな顔をする。



「うぅ、元隊長陣としては耳が痛い。というか、自分でもどうしてツッコまれなかったのかと疑問だよ」

「そんなの、神輿にケチつけて組織改革が滞ったら意味ないって思ってるからでしょ。見逃されてたのよ。
ガチに癒着なりしていたって証拠があるならともかく、そうじゃないなら……局がやりそうな事だ」

「やっぱり、そういう理屈かぁ。……あれ、ちょっと待って」



フェイトさんは恭文共々腕を組み、僕達を一瞥。それで隣の恭文と顔を見合わせる。



「ヤスフミ、それならこの状況でツッコまれた理由があるよね。その神輿をその、こき下ろす理由」

「……あ、そっか。六課があんまりにアホ過ぎて、失念してた」

「俺もフェイトちゃんと同感だ。どう考えても今それをやる理由が見当たらないんだよ」



サリエルさんはヒロリスさんやおじいさんと顔を見合わせて、困りながら右手で頭をかく。



「元々内偵が進んでいて、ある程度容疑が確定的になったとかならまだ分かるが」

「確かに……話がいきなりだったのは、母さんやクロノ達が局の中で権力強めだから?
もしくはみんなが知らないところで本当に癒着が行われていたせい」

「そんなっ! ありえませんっ! フェイトさんだってリンディさんがどういう人かは知ってますよねっ!」

「クロノさんだって同じですっ! いくらなんでもそんな言い方ありませんよっ!」

「うん、知ってるよ。だからこそ母さんが意識しないところでそういう関係に『させられていた』可能性もある」



厳しい表情で僕とキャロの言葉を一蹴したフェイトさんに驚き……ちょっと待って。

させられていた? フェイトさんは妙に気になる言い方をした。



「母さんは局に対して愛着があるし、明らかな不正と分かっている事に手を貸す人ではない。
でもそういう感情を利用して本来の目的を隠し、『局のため』という名目をつけたら?」

「だから……『させられていた』。でもフェイトさん、それならリンディさん達は僕が思うにただ利用されていただけじゃ」

「利用される事そのものを問題視していたなら、話は分かるんだ。それは自分で考えて行動していない証拠でもある。
あとは……みんなの知っている私達が母さん達に謀殺されたんじゃないかって話にもなってるんだよね」

「……あ、そっか。キャロ」

「うん。私もそれを忘れてた」





その疑いがあるからアルフも逮捕されて……そうだそうだ。部隊どうこうだけの問題じゃなくなってるんだ。

そういう疑いがあるなら、局員としては拘束せざるを得ない。それは六課メンバーも同じ。

隊長達も僕達も最高評議会と手を組んでいたって話になっているわけだし、疑われないわけがない。



しかもその最高評議会が居なくなった後にこれだよ? 追及が厳しくなるのも当然。



もしかしたら二代目最高評議会と思われて……僕、抜けてた。ちょっと考えれば分かる事なのに。





「もちろん利用されていたとしても不正を許してはいけない。母さんやみんなにはしっかりとした処罰が必要になる。
エリオもキャロも知ってるよね。局は犯罪者の更生に力を入れているけどそれは」

「しっかりとした罪の償いをした上で」

「そうだよ。だから追及自体はおかしくないの」

「フェイトさんまで……どうしてなんですかっ! 私達はなにも悪い事してないのにっ!
……あ、そうだっ! それなら私達の世界に来てくださいっ! 恭文もそれでいいよねっ!
そうしたら無事だって分かってもらえるっ! みんなにおかしい事なんてなにもないって信じてもらえるっ!」

「いけません」



僕も一瞬それならと思ったけど、オーナーは厳しい声でスバルさんの考えを一蹴する。



「彼らは本来あなた達の世界と関わる事のない人間ですよ?
それを引っ張っていけばどんな影響が出るか分かったものではない」

「黙っててくださいっ! ちょっとだけなんだからいいじゃないですかっ!
なのはさん達がピンチなのに、どうしてそんなにみんな冷たいんですかっ!
私達はなにも悪い事はしてないのに……どうして助けてくれないのっ!」

「ダメです。なにより局が納得するまで彼らの生活はどうするつもりですか。また居なくなれば結局元の木阿弥ですよ?」



更に鋭い視線を向けられ、スバルさんが涙目で首を横に振る。でもそれ以上なにも言えず、俯いて泣き始めた。

スバルさんはそのままリュウタロスさんとモモタロスさんに引っ張られ、近くの席に座らされる。



「で、どないするんや。替え玉もだめ、まともに話してもだめじゃどないにもならんやろ」

「確かにね。あとは向こうの恭文とフェイトさん、ギンガさん達をミッドに戻すしかないけど……オーナー」

「私達だけではどうしようもありませんねぇ。今彼らがどこの世界に居るかも分かりませんし」

「恭文、なんとかならないかな。僕達ももう……いきなり失踪とかワケ分からなくて」



答えは分かっていたけど一応聞いてみた。でも恭文は、やっぱり険しい顔で首を横に振った。



「無理だよ。それにワケ分からないのはありえない。不干渉の事はエリオ、おのれにも責任がある。
生まれを考えたらアウトになるのは分かり切ってたわけだしさ。自分から引かなかった時点でこじつけとか言う権利ない」

「でも、僕達六課が頑張らなかったら事件は解決しなかった。
スカリエッティだってきっと捕まらなかった。それなのに今更言われても」

「そういう奢りがつけ入る隙を与えてんだよ。そんな事も分からないわけ?」

「……うん」





そう思い事実を述べる事そのものがアウト……確かに反論は出来ない



でも恭文が隊長達やリンディさん達だけじゃなくて、僕達それぞれにも責任がある。そう言いたいんだ。



どうして、こんな事になったんだろう。僕達はともかく部隊長達が……僕は苦しさのせいで、うまく呼吸出来なくなっていた。





「それに関してはもう少しだけ待ってもらえませんか?」





ここに居る誰でもない声が車両後部から聴こえて、僕はハッとしながらそちらを見る。

ドアのところに黒っぽい服を来た細身な男性が居た。年の頃は……恭文と同じくらい?

その男性の隣に、結構がっしりした顔立ちで黒髪短髪な男の人が居た。服装は……黒の上下か。



ラフそうに見えるけど、紳士服としても成り立つような格好をしていた。デンライナーの乗客なのかな。





「今彼らが旅をやめるわけにはいかないんです。僕達にはディケイドと彼らの力が必要。もちろんあなた達の力も」

「なのでアンタ達の世界は俺達で調べる。あんまり直接的にどうこうは無理だが……少し待っててくれ」

「……あなた達は」

『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』



モモタロスさん達と恭文にヒロリスさんとサリエルさんが大声を出して、あの人達を指差した。

あんまりに大きな声だったので、僕はフェイトさんやおじいさん達共々両手で耳を押さえる。



「ちょ、アンタ達うるさいっ! てゆうかヒロリスさん達もどうしたのっ!?」

「ヤスフミもモモタロスさん達も、もしかして知り合い?」

「知り合いもなにもこの人」



恭文は手を震わせながら、すたすたとあの人へ近づいていく。



「紅渡さんだよっ! 仮面ライダーキバッ!」

「仮面ライダー……え、仮面ライダーってあの仮面ライダー!?」

「えっと……イマジンのみなさんはご無沙汰してます」



礼儀正しい人らしく、静かにお辞儀してきたあの人の懐へ恭文が入り込んだ。

あの人はそれに驚いて怯えた表情を浮かべながら、ドアに背を当てる。



「あの、サインくださいっ!」

「え……サインッ!? いきなりどうしたんですかっ!」

「ヤスフミ、落ち着いてっ! まずこの人達について説明してー!」



それでも恭文は止まる事なく、今度は短髪の人に踏み込む。

それに驚いて短髪の人も……もう一人の人と同じ反応だね。



「それにこっちは城戸真司さんですよねっ! 仮面ライダー龍騎のっ!」

「あ、あぁ。え、やっぱ俺の事も知ってるのか」

「当然でしょー! ……あれ、でもどうして龍騎に? だって最終回だと」

「まぁ一時的に復帰って感じだ。もうおっさんなのになぁ」





短髪の人は曖昧な言い方をして、笑みを深くした。……あの、ちょっと待って。

この人達も良太郎さんと同じって事なのかな。なんでそんな人達が出てくるの?

ううん、それ以前にこの人達はフェイトさん達をまだミッドに帰せないみたいな事を言った。



それが妙に腹立たしく感じる。だって今恭文やフェイトさんが戻れば、問題の全ては解決するはずなのに。










世界の破壊者・ディケイド――いくつもの世界を巡り、その先になにを見る。



『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路


第23話 『カブトの世界/未来をこの手に→選ばれし者』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



地下施設に連れてきたマユの四肢を拘束し、先にここへ運び込んでいた石の近くへ張りつけにする。



これで……準備よしっと。俺はここに苛立ち気味にやってきた三島さんの方を見て、笑顔を送る。



三島さんは薄暗い施設の中でサプリメントをボリボリと噛み砕いていた。……ああいう風に食べるものじゃないんだが。





「離し……離してっ! お兄ちゃん、どうしてっ!? どうして居なくなったのっ! せっかく会えたのに……どうしてっ!」

「弟切、お前の妹はバカだな」

「そうですね」



無駄なのに四肢をばたつかせるマユを見て、俺達も近くに居るゼクトルーパー達も笑う。



「俺はお前の兄なんかじゃないのに」

「……え」

「俺はお前の兄に擬態した、ネイティブだ。しかし前は危なかったなぁ」



あの時の痛みと屈辱を思い出し、怒りのあまり顔を歪める。だがマユを怖がらせてはいけないと思い、笑いかけてみる。

右の眼帯を押さえながら笑う俺を見てマユは、また怯えた顔をする。そんな顔をする意味が分からないので、今度は三島さんへ視線を向けた。



「擬態がバレて、危うく殺されかけた。三島さんには感謝ですよ」

「代償は高かったがな。すぐに崩れると思ったが、カブトはしつこくこちらの邪魔をしてくる」

「どういう、事なの。あなた達、お兄ちゃんになにを」

「簡単だよ」



三島さんは顔を青く……あぁ、照明が青いからそう見えるだけか。とにかく顔を青くしているらしいマユを見て笑った。



「カブトのクロックアップシステムに介入して、暴走させたんだ。
結果奴はクロックアップ状態から抜け出せず、変身すら解けなくなっている」

「普通なら狂うと思うんだがなぁ。誰からも見えず、声も届かない世界に一人きりなんだから」

「それじゃあ、お兄ちゃんは」

「死んではいない。だが」



この大部屋の入り口がいきなり弾け飛んだ。それを見て取った三島さんが、近くにある端末のスイッチを押す。



「それももう終わりだ」





その瞬間、マユの近くに置いてあるアンテナが作動。緑の光を放ち部屋に雷撃として撒き散らされた。

ここからでは見えないが外でも変化は起こっている。それよりも大事なのは今だ。

撒き散らされた雷撃は侵入者を捉え、その動きを戒め張りつけにする。その侵入者の名は、カブト。



忌々しい俺のオリジナル――俺はまた笑いながら戒められている奴へ近づき、右足で蹴り飛ばす。





「やはり来たか、カブト」



三島さんが言葉をかけてもカブトは返事をせず、そのまま情けなく床に転がった。

そして変身が解除され、暖色系の上着にジーンズ姿な奴が出てきた。



「お兄ちゃんっ! どうして……!」



マユは俺じゃなくコイツをお兄ちゃんと呼び、ボロボロと涙を流す。それに対しこの男は余裕があるような笑いを浮かべた。



「お前を、助けにな」

「バカな奴だ」



それが苛立ってネイティブの姿へ戻り、奴を罵りながら右足で胸元を踏みつける。

すると奴はとても苦しそうな顔をして……おぉおぉ、ようやくその偉そうな顔をやめてくれたか。実に嬉しいよ。



「お兄ちゃんっ!」

『もうおしまいだ。喜べ、お前は妹と同じネイティブになる』

「どういう事だ」

「まさか我々がただお前を捕まえるためだけに、こんな事をしたと思っているのか?」



三島さんはコイツが余りに無知なのがおかしくて、笑いながらメガネを正す。



「ライダーシステムが無効化すると、戦力が低下するからな。ワームが居る現状でそれはマズい」

『なので全世界の人間に、ネイティブへと『進化』してもらう事にした。天堂、これがなにか分かるか?』



俺は奴から足を離し、脇腹を蹴り飛ばしまた転がしてからマユの近くにある石に近づく。

それで右手で淡く緑色に輝く石にいとおしさを込めて触り、三島さん共々笑った。



『これはな、渋谷隕石の欠片だ。ここにはとんでもない量のエネルギーが蓄えられている。
三島さんもそのおかげでネイティブへと進化を遂げられた。そうでしょう、三島さん』

「あぁ。天堂、もうZECTに――いや」



三島さんは更に笑いを深くしながら、両腕を広げ俺の近くへ――天堂へと近づいてくる。



「世界にお前の居場所はないっ! なぜなら俺がZECTの総監――世界の頂点に立つ男だからなっ!」

「……まさか、お前」

「あぁ殺したさっ! 生ぬるいZECT総監も、面倒なネイティブも全員だっ!
お前がそんな小娘一人にかまけている間になっ! バカな奴だっ!
ワームにも情報を流して妹の身辺を危険にしたら、ずっとそっちについてたんだからなっ!」

『俺達が情報操作でどんどんお前の動きを封じている間にもだ。ほんと、シスコンもここまで来れば病気だ』





妹妹妹……もううんざりだ。コイツの記憶には家族の事しか頭がない。だから分かる、コイツが如何にくだらないか分かる。



家族や人間などという弱くくだらない存在のために生命を賭けるコイツは、俺達を悔し気に見上げてきた。



それが愉快っ! それが至福っ! それが絶頂っ! ……俺達の笑いと優越感は最高潮に達していた。





『悔しいかぁ? 天堂ソウジ。だがな、それは仕方ないんだよ。お前は人間だ。人間は踏みつけられて当然なんだ。
身体も力も弱いくせにネイティブに逆らおうとするからいけないんだ。だから俺達が進化させてやる』

「そう、進化だ。クロックダウンシステムはただの布石だよ。システムを用いれば、人類はすぐにでも進化出来る。
喜べ、天堂。もうお前は一人ぼっちじゃないぞ? 俺達がお前を救ってやったんだ。感謝しろ」

『三島さんの仰る通りだ。さぁ、感謝しろ。……さぁっ!』

「図に乗ってんじゃねぇよ」





俺達の至福の時間を邪魔するかのように、この場に声が響く。

だがこの声は……俺達は一気に警戒態勢に突入し、周囲を見渡す。

それで俺達は隕石の上に乗ったあのチビを見つけた。だが格好が違う。



奴は黒コートで腰に刀を携え、俺達を憐れむような顔をしていた。





「もやし、ユウスケー」

「こっちはばっちりだ」

「同じくっ! ……大丈夫ですか?」



また別の声がしたので、俺と三島さんは慌てて入り口の方を見る。

そこにはなぜかマユと天堂ソウジが……まさかと思い、またあのチビを見た。



「貴様ぁっ!」

『一体なにをしたっ!』

「そのくだらない計画」





言葉は無視で踏み込み、右の爪で我々の夢を踏みつけている足を断ち切ろうと左薙に振るう。



奴は跳躍し俺の頭上を取りながらそれを避けた。だが目で奴を追うより先に、信じられない光景を見て動きが止まってしまう。



隕石が――我々の夢が、突然粉々に砕けただの砂へと変わってしまったからだ。





『な……!』

「隕石がっ!」

「止めさせてもらうよ」





その瞬間、背中から凄まじい衝撃が伝わった。俺は前のめりに吹き飛び、隕石だったものの中に突っ込み砂まみれになる。



俺達の夢が砂となって部屋の中で舞い上がり撒き散らされていく。それと同時に、奴への怒りがこみ上げてきた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



蒼チビにこういう事をさせたら本当に楽だな。転送魔法で二人を助けて、物質変換で石も破壊だ。

途中のセキュリティとかも全部床を壊して通り抜けだったしなぁ。まぁおかげで間に合ったからいいが。

だがクロックダウンシステムは発動中。奴らを止めるのにカブトはアテに出来ない。……ま、なんとかするさ。



俺は目をぱちくりさせているマユを見て、怪我がないかどうかを確かめてから立ち上がった。





「士さん……ユウスケさんも。あの、私」

「なにも言うな。お前はおとなしく助けられてればいい」

「マユちゃんがここに居たいと思うなら、俺達はそれを守る。大丈夫だ、すぐに終わらせるからな」





ユウスケが頭を撫でてもマユは不安げな表情を崩さない。その間に蒼チビが背後から弟切ネイティブに斬りかかる。

右薙の斬撃を喰らい、奴は背中から火花を散らしながら砂の中へ突っ込む。

奴は怒りのオーラを出しながら起き上がろうとするが、その前に周囲の地面が変化。弟切ネイティブを戒める縄となる。



砂も含めた太い縄に弟切ネイティブは床に這いつくばった状態を継続するしかなかった。



だが蒼チビはそれ以上手を出さない。三島って奴を警戒しているのか。アイツもネイティブらしいしな。





「マユ」



俺がマユに視線を戻すと、ユウスケの代わりに別の男がマユの頭を撫でていた。

この世界のカブト――ようやく会えた。だがソイツの感心はやっぱり俺達よりマユに向いている。



「ごめんな、心配かけて。まぁ……時間もないからこれだけは言っておく。
俺やおばあちゃんにとって大事なのは、お前が俺達の家族って事だけだ」

「家族?」

「あぁ。俺はお前の兄で、お前は俺の妹。大事なのはそこだけだ。違うか?」





マユはその言葉に安心したのか、右手で目元を拭って頷いた。



俺はその光景を見てなんとなく胸が痛くなり、そのまま蒼チビの方へ歩いていく。



やっぱり本物が良いに、決まってるよな。俺は所詮……代理って事か。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『ディケイド……貴様ら、よくもっ!』

「我々の偉大な計画を邪魔して、ただで済むと思ってるのかっ!」



三島が吠えながらその姿をワームのそれに変化させる。……マジでラスボス形態かい。

三島が変身したのはコオロギをモチーフとした、グリラスワーム。三島は腰を落とし、両腕を構えこちらを威嚇する。



『お前達は愚行を犯したっ! 人類の進化を止めたっ! ネイティブの素晴らしさを否定したんだっ!』

「言いたい事はそれだけか、愚図共が。それは進化じゃない。お前達の限界だ。
天の道を往き、総てを司る人はこう言っていた。……人は変われる」



左手でZERONOSベルトを取り出し、腰に巻きつけ一瞬で装着。



「人間もネイティブもない。この世界に生きているみんなの生命は等しいんだ。お前達も僕も天堂さん達も……みんなだ。
そんな世界を守るために自分を信じ、変えていけるのが人間だ。自分のために世界を変えるんじゃない。
自分が信じた夢と未来のために、大事な人達のために、自分自身を変えていく。そうしていけば世界は変わる」



心の中に妙な高ぶりを感じながらも僕は、右手を挙げて天を指差す。



「それが天の道」

『ほざけっ! そんなのは夢物語だっ! ネイティブはネイティブ……そして人間は人間っ!
決して相容れないっ! そして人間はネイティブに駆逐される定めっ!』

「もう一度言う。それがお前達の限界だ。そして」

「お前達の限界は、あの家族が居る限りこの世界には必要ない」



僕の言葉をひったくり、右側からもやしがユウスケと一緒にやって来る。

それから少し遅れて天堂さんもやってきた。……ようやく登場かぁ。大人っぽい人だな。



「たった一人で――世界を敵に回してでもその道を守ろうとした奴が居る」

「その道にあるのはとても重くて、大事な真実だ。あの人達は自分を変えて、みんなと生きていける道を進んでいる。
無理をしているわけじゃない。合わせているわけじゃない。ただ大事にしたい事があるだけだ。……悪いが倒されてくれ」



僕の隣に来ると二人は、腰にベルトを装着。ユウスケは構えを取り、もやしはディケイドのカードを右手で取り出す。



「お前達がこの世界を自分色に変えようとするのなんて、俺達には見過ごせない」

『貴様ら』



僕が構築した岩盤を砕きながら弟切は起き上がり、こちらを振り向き身体についた破片を振り払う。



『何者だっ!』

『通りすがりの仮面ライダーだっ! 覚えておけっ!』



僕も右手でゼロノスの変身カードを取り出し、天堂さんもこっちへやってきたカブトゼクターを右手で掴む。



『変身っ!』



声をあげながら僕ともやしはカードを挿入し、ユウスケはベルトのスイッチを左腕で押す。

天堂さんもカブトゼクターをベルトバックルにセット。



≪KAMEN RIDE――DECADE!≫

≪HENSIN≫

≪Charge and Up≫



それぞれの身体を光が包み、薄暗い大部屋の中で変身完了。

僕は右手でデネビックバスターを持ち上げ、左手で奴らを指差す。



「最初に言っておくっ! 僕達はかーなーりー……強いっ!」

『抜かせ、人間がっ!』







三島と弟切がこちらに駆け出してくるので、僕達四人はコンビに分かれて二人に対処。

僕はユウスケと三島に組みつき、そのままズルズルと押し込まれながらも……魔法発動。

蒼い光が一瞬瞬いたかと思うと、僕達は電波塔のふもとに転送魔法によって移動。



位置で言うとさっきまでの場所の真上――屋上に位置するところ。空はあいにくのくもり空だった。

三島の押し込みがそれに驚いたせいか、一瞬弱まった。その隙を狙って僕とユウスケは同時に身を後ろに倒す。

そうしながらも僕は左足、ユウスケは右足で三島の腹を蹴り飛ばして巴投げ。



3メートルほど転がっていく三島を見ながら起き上がり、膝立ちでデネビックバスターのトリガーを引く。



ばら撒かれていくオレンジ色の弾丸達によって奴を牽制し、足を止めた上で。





「ユウスケっ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





ユウスケが突撃。左に回り込みつつまずは右フック・左ボディブローと連撃。三島はユウスケに向き直りつつ両腕でそれをガード。

続けてユウスケが右ストレートを打ち込むと、それを左腕でガードしながら腰を落とし右の正拳突き。

ユウスケの胸元にそれが打ち込まれる様を見ながら僕は突撃。たたらを踏むユウスケと入れ替わる。



僕に向かって打ち込まれる右の裏拳を伏せて避け、左手で鋼糸のリールを取り出し投擲。

それを奴が気にしないような位置――右の足首に巻きつけ、続けて放たれる左ボディブローも右に避ける。

鋼糸をブレイクハウトで途中から切り、顔面に向かって飛んでくる右正拳を左に避ける。



それからすぐに右足で奴の腹を蹴り飛ばした。でも三島はすっと下がって左腕でガードした。ち……反応が速い。

そこを狙って踏み込んだユウスケの左ストレートも下がりながらの右フックで払う。

僕はユウスケ共々踏み込みながら左のジャブで牽制し、ユウスケは左右のストレートを交互に打ち込む。



でもそれを奴はバックステップを踏みつつ両腕を忙しなく動かしガード。僕達の拳は一発も入らない。

そうかと思うと拳を腕で弾き、自分の両拳を僕達の胸元へと打ち込む。

僕達はそれを外側に逃げてすれすれで避け、反撃しようとすると奴が踏み込み腕を広げてきた。



そこから放たれたエルボーをまともに喰らい、胸元から火花を走らせながらたたらを踏む。骨は……なんとかなってる。

奴は僕が動きを止めている間に自分の左側に居るユウスケに向き直り、ユウスケが打ち込んだ右ストレートを左フックで払う。

続けて打ち込まれた右ミドルキックを右に身を捻って回避した上で、今度は右フックでユウスケの胸元を打ち抜き倒した。



自分へと踏み込んでいた僕へ向き直りながら、左ミドルキック……僕はそれを右に回避。

でも奴は足を返し、それで僕の左脇腹を打ち抜き身を反時計回りに捻る。

ユウスケと同じ方向へ吹き飛ばされた僕は地面を転がり……起き上がっている間に奴が迫ってきていた。



なのでユウスケとタイミングを合わせて、カウンターとしてミドルキックを打ち込む。

でもそれを奴は両腕で難なく受け止める。そうかと思うとその腕を一気に広げ、僕達の体勢を崩しにかかった。

足から伝わる凄まじい力に吹き飛ばされている間に、奴の姿がかき消えた。



そして次の瞬間……僕達の胸元から激しい火花が迸り、空中へ10メートル近く跳ね上げられた。





『分かったかっ! それが人間の限界だっ! 弱い……弱い弱い弱いっ!』





それだけ叫んでから三島は再加速。再び僕達とは違う時間の流れに突入。



くそ……やっぱ奥の手を使うしか無いか。出来ればやりたくないんだけど。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



蒼チビ達が転送魔法で三島ってのを引き離したので……俺達はこっちだ。

ライドブッカーで袈裟・逆袈裟と交互に切りつけつつ弟切を奥へと追い込んでいく。

奴は両腕でそれを防御しながら下がり、七撃目を左に身を捻って回避。



そこから奴が打ち込んできた右フックを伏せて避けつつ交差。奴の背中を右薙に斬りつけそのまま一回転。

アーマー装着状態のカブトが背中から火花を走らせながらも前に押された奴を待ち受け、まず顔面に右フックを一発。

結構重い一撃をまともに食らった奴は、お返しにとばかりに右の爪で首元を狙う。



それを左腕でガードし、走る火花に構わずカブトは踏み込みつつ右フックを二発放つ。

まともに食らった奴が圧されているところへ再び踏み込み、袈裟・逆袈裟の連撃。

背中から襲う斬撃に対し奴は右の爪をこちらへ回しガードしてくるが、その隙にカブトが奴の左腕を取る。



身体を反時計回りに捻って奴を振り回し、壁に叩きつけて胸元へ両拳でのラッシュをかける。



重い一撃が数発叩き込まれ、とどめは顔面への左フック。奴はそれを受けて床に転がった。






『ぐ……ではこれでどうだっ!』



奴が膝立ちになったところで、俺は一枚のカードを取り出しバックルに挿入。



≪KAMEN RIDE――KIVA!≫





奴の姿が消えるのは構わず、蒼チビからこっち来るまでに『思い出した』と言っていた対処法を実践。もう一枚カードを挿入。

キバの姿に変わった途端にカブトはなにかに弾き飛ばされ、左側の壁に身体を叩きつけられる。

というか、俺も右側の壁に叩きつけられた。その痛みに呻き、床に崩れ落ちながらも左を見る。



すると5メートルほど先に消えたはずの奴が居た。余裕は……あるな。よし、反撃行くぞ。





≪FORM RIDE――KIVA BASSHAA!≫





キバ状態である俺の右腕に鎖が巻きつき、それが光沢のある鎧に変化。

緑色に輝く腕でライドブッカーを銃形態に戻すと、それは銃身中央にプロペラがついた円筒形の銃へと変化。

確かバッシャーマグナムだったっけな。ついでに黄色がかった目も緑の複眼へ変化だ。



マグナムを右手でしっかり持ち、左手でどこからともなくもう一枚カードを取り出す。

奴が鼻でこっちを笑うのは構わず、バックルにカードを挿入。カブトもなにかやるのか、ゼクターの角を右手で軽く跳ね上げた。

俺は俺で意識を集中して力を発動……俺の足元から水が生まれ、それが一気に床一面へ広がっていく。





『ふんっ! なにをするつもりか知らんが』



奴はその水で自分の足元が濡れているのも構わず、腰を落としこちらへ駆け出す。



『クロックアップ出来ないライダーなど敵ではないっ!』

≪ATTACK RIDE≫



再び姿が消えた奴をコイツで撃ち抜くのは無理。だが、方法がないわけじゃない。

俺は展開していたバックルを左手で閉じてから、銃口を上に向ける。



≪BASSHAA BITE!≫





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



跳ね上げられてから更に横から殴られ、連続で襲い来る痛みと衝撃に顔をしかめつつ必死に耐える。

でも耐えた結果はとても残酷なものだった。僕はユウスケ共々コンクリの地面に叩きつけられ、同時に変身解除。

僕は生身がさらけ出されて……咄嗟にアルトを再セットアップしつつ、神速発動。



クロックアップを視認したりは無理だけど、出来る限り身体の動きを速くしておく。

灰色の景色の中、ゆっくりとしか動かない自分の身体をもどかしく感じながらも起き上がる。

アルトを再セットアップさせ、刃を3時方向に突き出し術式発動。同時に感じた予感に従い身をやや左に捻る。



その全ての行動がゆっくり……そう、ゆっくりだ。刀身に蒼い火花が走るのも、左頬に鋭い傷が生まれるのも全てゆっくり。

僕の頬に傷をつけたのは、当然奴が突き出した左腕。僕の頭をその爪で切り裂くつもりだったみたい。

僕の感じた予感通りに奴はその方向から襲ってきていた。そしてアルトの刃は奴の胸元を捉える。



でもそれだけでなく、触れた箇所に火花が走って奴の腹に大きな穴が空いた。





『な……!』





奴は一瞬僕に向かって左腕を振り上げるけど、奴の爪は僕の頭上で空振りするだけ。

アルトの切っ先を胸元に食らったせいで、勢い余って奴は後ろに倒れていた。

僕は更に術式――ブレイクハウトによる物質分解を再発動。穴を更に広げておく。



触媒はさっき右足に巻きつけた鋼糸。奴の身体は後ろに飛び退きながら上半身と下半身に分解。



下半身はそのまま倒れ、重さもあり上にあった上半身はそれより更に遠くに跳ぶ。





『がぁっ!』



地面に倒れた三島は、顔を上げて自分の下半身だったものを見た。

ワームの顔前に薄いもやのようなものが生まれ、そこに三島の人間としての顔が浮かんだ。



『な……これ、は』

「悪いね、実はピンチでもなんでもなかったのよ。この姿でどこまでやれるか試してただけ」

『ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』





僕が痛む身体を起こしていると、奴は両肩から二本の触手を射出……術式発動。

でもそれは僕の身体に触れた途端に砂に還り、傷一つつけない。

しかしコイツ、丈夫過ぎる。胴体真っ二つにされてるのにまだ生きてるのか。



こりゃ、しっかりとどめを刺さないと大怪我するな。僕は警戒は怠らず、奴に一歩ずつ近づく。





『見下すな……人間如きが、俺を見下すなっ!』





三島は両肩から更に触手を伸ばし、それを地面に当てて……え、嘘。胴体からも触手が十数本展開。

それらを編み込んで太い柱にしたかと思うと、それは一瞬で一つにまとまり下半身となる。

新しい下半身が現れた瞬間、元のちぎれたところは用済みとばかりに爆散。



そうして奴は再び起き上がり、震える腕で構えを取った。……どこのピッコロ?

しぶと過ぎる……いくらなんでもこれは予想外だ。でも僕の胸には、恐怖もなにもなかった。

もちろん驚きこそしていたけど、もうコイツを恐れる理由がない。僕は自然と笑っていた。





『勝者のつもりかっ! 自分の方が強いと勘違いを起こすか、人間っ!
見ろ、俺の姿をっ! お前がなにをしようと何度でも蘇るっ! これが力だっ!』

「お前の弱さにみんなを巻き込んでんじゃねぇぞ、負け犬。お前の考えに未来はない。未来をこの手に掴んでいるのは」





僕はアルトを左手に持ち替え、右手をゆっくりと挙げて天を指差す。

その先にあるのは太陽……その時、ずっとかかっていた雲が晴れた。

すると雲と雲との間に僅かな隙間が生まれ、そこから太陽の光が漏れる。



その光に照らされながら、僕はこの手に未来を掴んでいる事を実感した。





「僕だ。なぜなら僕は天の道を進む、選ばれし者――太陽だからな」

『意味の分からない事を……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』



奴は両肩から触手を生やし、また僕とユウスケに向かって襲ってくる。

無駄だと思い術式を発動しようとすると……僕の前を黒と虹色の閃光が横切った。



『ぐ……!』





黒の閃光は三島の触手をその角で全て真っ二つに斬り裂き、お尻の辺りから虹色の粒子を放ちながら三島の胸元へ直進。

奴は右ストレートでそれを打ち砕こうとするけど、黒の閃光は三島の腕にまとわりつくような螺旋軌道を描き回避。

そのまま三島の胸元を捉えて地面に転がした。そして黒の閃光はぐるりと右回りに方向転換。



僕の方へ近づいてくるそれがなにかようやく察して、右手を伸ばした。そして無事に黒の閃光をキャッチ。





「……ありがと」





僕が右手で掴んだものは未来――そして証明。僕が選ばれし者である証明が、この手の中に収まった。

僕が手で掴んだのは、黒いカブトゼクター。天道のカブトゼクターと違う点は、やっぱり色。

まず全体は黒のカラーリングで、身体上部の中央も赤色となっている。元の色は半透明のスモークなんだ。



アルトのセットアップを解除した上で左手で天道からもらったベルトをどこからともなく取り出し、素早く腰に装着。





「変身」

≪HENSIN≫



ゼクターを装着したベルトから発せられたのはやや暗めで、青いヘックス型の光。それが僕の身を包み、アーマーへと変化。

その姿はカブトのマスクドフォームとほぼ同じ。でも全体的な色合いが暗めで、ゴーグル部分も黄色になっている。



『バカな……カブト、だとぉっ!?』



そう、この姿はカブト。でもカブトであってカブトじゃない。その名は。



「仮面ライダー……ダークカブト」





原作カブトには天道に擬態したネイティブが変身するダークカブトというのが存在する。

カブトとほぼ同スペックなそれは後半のライバルキャラで、日下部ひよりとも深く繋がりがあった。

あのベルトを使うのはカブトとガタック、そしてこのダークカブトだけだから予想はしてたけど……天道には感謝だ。



ううん、僕を装着者に選んでくれたダークカブトゼクターに感謝。僕は掴んだ未来を身に纏い、太陽に照らされながら右足を。





「恭文」



踏み出そうとするとふらふらとしながらユウスケがこちらに来て、左手でサムズアップをしてきた。

僕はそれに返してから、改めて奴に近づく。そうしながらも右手をスナップさせ、奴を指差した。



「さぁ、お前の罪を……数えろ」

≪では、私も空気を読みましょうか≫



あれ、アルトの声が……まぁいつもの事だから納得するかー。



≪The song today is ”孤独をふみつぶせ”≫





アルトが流し始めたと思われる音楽は、最近RIDER CHIPSが出したCDに入っている曲。



どこかの番組とタイアップしているわけじゃないけど名曲で……それが大音量で流れる中、僕は速度を上げた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪BASSHAA BITE!≫



銃のプロペラが回転し、俺の身体を水流が包み込む。その水流は銃口の先へ集まり、緑の砲弾へと変化。

マグナムのトリガーを引いてそれを天井へと放った。普通なら当たらないんだろうが……これでいいらしい。



「キャストオフ」

≪CAST OFF≫



それと同時にカブトが身に着けていたアーマーをパージ。部屋を埋め尽くすように分割された装甲が四方八方に射出された。

だがクロックアップ中の奴には、これすらも止まって見えているはず。おそらくはすり抜けていってるだろう。



≪CHANGE――BEETLE!≫





床に広がっている水から奴の動きを見て取るのは……無理か。水面に波紋が出てたり、足音がしたりもない。

蒼チビもクロックアップ中にやった行動の影響は、それを解かないと出ないって言ってたからな。

だがすり抜けていっているのは、こっちも同じ。緑色の砲弾は天井に命中する直前で軌道変更。



一気に降りて来て、かなりの速度でアーマーの合間をすり抜け俺達には見えないなにかを追っていく。

それはアーマーをすり抜けた後も同じで、俺とカブトの間を蛇のようにくねっていく。

そうしてうろちょろしながらも速度をどんどん上げていき、ついには目で追う事すら出来ない速さに到達。



いつまでも続くかと思われた追撃と速度上昇だが、奴が俺達の間で再び姿を現した事でついに終了。



目で追う事すら出来ない砲弾は奴を背中から撃ち抜き、奴の身体から大きな火花を走らせた。





『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』





奴は大きく吹き飛び、この部屋の入口近くに叩きつけられる。俺達は水を跳ね飛ばしながら奴へ踏み込む。

バッシャーマグナムで牽制程度に射撃をすると、奴はクロックアップする事なくそれをガード下両腕で受けた。

その間にカブトは奴へ踏み込み、まず迎撃で顔に打ち込まれた右爪を伏せて避けながら右ストレート。



続けてフックで襲ってきた左爪をバックステップで避け、次にきた右ストレートも身を時計回りに捻りながら回避。

そのまま奴の背中へ右エルボーを打ち込み、俺の方へ押し込んきた。俺はバッシャーマグナムで奴を狙い撃つ。

明らかに動きが鈍くなった奴は攻撃を避ける事も出来ず、身体で放たれる弾丸を受け続ける。



俺はそのまま身体を右に傾けると……おー、ホントに出来た。俺は直立姿勢のまま、水の上を滑り始めた。

そうして奴の周囲を反時計回りに動きながら、奴を狙って全方位からの射撃。

攻撃を受けるしかない奴は再びクロックアップ……いや、その前にカブトが後ろから左ミドルキックを打ち込んだ。



奴は俺の左脇を通り過ぎながら床を転がり、その身体を水浸しにする。……ここまで効果があるとは。

蒼チビが思い出したクロックアップ攻略法は、これだ。クロックアップ中ではなく直後を狙う。

そのためのキバ・バッシャーフォームだ。コイツの攻撃は基本回避不能で、命中するまで相手をどこまでも追う。



あとはこの水だ。この水は敵の動きを鈍くして、自分の能力を上げる効果があるらしい。

あの天道も自分より速いクロックアップに対抗して、同じような手を使ったって言ってたな。

出来ればもっと早く思い出せよと胸の中で悪態をついている間に、奴は荒く息を吐きながら膝立ちになる。





『く……こうなったらっ!』



奴は急に飛び上がり、背中から身体と同じ色の翼を生やす。それを羽ばたかせそのまま天井を砕いて……逃げやがった。



「……逃げたか」

「冷静に言っている場合か。おい、後を追うぞ」



今ここで逃がすのも面倒だと思っていると、俺の姿は突然キバからディケイドに変化。

そして右手で持った銃形態のライドブッカーから、三枚のカードが飛び出す。慌てて左手でそれをキャッチ。



「……これは」



どうやら俺がこの世界でやるべき事は、これで正しかったらしい。俺はそのうちの一枚をバックルに挿入。



≪FINAL FORM RIDE≫



そのままカブトの背後に回り、特に動じた様子もない奴の背中に両手を当て……一気に広げる。



「ちょっとくすぐったいぞ」

≪KA・KA・KA――KABUTO!≫




すると奴の身体は前倒しになり、両手足が折りたたまれる。

背中から展開した赤い装甲がそれらを包み込み、奴は巨大なカブトゼクターへと変化。

俺がその尻を右手でパンと叩くと、カブトゼクターは翼を広げ上昇。



虹色の粒子を撒き散らしながら、弟切の後を追っていった。俺は両手を胸元で二度叩き合わせてから跳躍。

弟切が開け、天堂が大きくした穴を抜けて屋上部分に到達。そこで着地すると、天堂は既に元の姿で着地していた。

肝心の弟切はというと、背中から虹色の羽を忙しなく動かしながら巨大タワーの近くに浮かんでいた。



蒼チビとユウスケの方は……なんかカブトがもう一人増えてるが、気にするのはやめておくか。

今重要なのは奴が俺達を見下し、果ては上司であるはずの三島がフルボッコされてるのも哂ってる事だ。

いや、それだけじゃないな。奴は横目で右側に建っている20メートルほどの電波塔を見た。





『このクロックダウンシステムがある限り、世界はネイティブのものだっ!
三島さんが役に立たないというのなら、俺がZECTのトップとなるっ!』

「遠慮無く乗っ取るのかよ。見切り早いな」





だがシステムの基盤というか大元は今ので大体分かった。



あれを壊せばシステムは止まる。そう、壊せばな。ただし今は……だめだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ユウスケと一緒に奴へ駆け出し、僕はまず右拳を打ち込む。ユウスケはそれに合わせ左ストレート。

それを奴は両腕でガードするけど、その瞬間ユウスケ――クウガの手首に金色の火花が走る。

その発生箇所は、クウガの手首にある赤い宝玉。その途端に奴はたたらを踏み、後ろへ下がった。



あれはまさか……それは一旦置いておくとして、僕達は奴に踏み込みつつ更に両拳でのストレートを打ち込み続ける。

奴はそれを両腕でガードするけど、特に反撃は来ない。もちろんクロックアップもなし。

どうやらあの無茶な再生で体力を相当消耗しているらしい。動きも鈍くなっているし……これはチャンス。



僕は右拳を打ち込んでからそれをガードした奴の右腕を取り、アームロックを仕掛ける。

反撃で打ち込まれた左の爪はユウスケが組みついて止めてくれたので、一気に身体を前に倒す。

そうして奴を仰向けに倒し、同時に体重を全て乗せて右のエルボーを顔面に叩き込んだ。



金属製の肘とコンクリに板挟みとなった頭から火花が迸るのには構わず、僕とユウスケは前転しながら奴から離れる。



振り向きつつダークカブトゼクターのゼクターホーンを跳ね上げると、上半身に身に着けている装甲がせり上がる。





「キャストオフ」



奴が起き上がり肩から触手を出すのに合わせて、ゼクターホーンを右へと折り曲げる。



≪CAST OFF≫





パージされた装甲は全て前方へと射出され、それが迫っていた触手を叩き奴の方へと押し戻す。

僕の姿はカブトのライダーフォームとほぼ同デザインとなる……でも色が違う。

カブトでは赤だったところは黒となり、その瞳も当然黄色の複眼となっていた。



そして頭部以外の黒――胴体や肩アーマー上部には赤いパネルラインが走っており、メカニカルな印象を見るものに与える。





≪CHANGE――DARK BEETLE!≫





僕はユウスケと一緒に再び踏み込み、奴が突き出してきた右爪を左の手刀で横に捌きつつ胸元へ右ストレートを打ち込む。

ライダーフォームはパワーで言うとマスクドフォームより下。なので流れるように素早く攻撃していく。

そこについてはDVDで見たブルース・リーなどの中国拳法を基本にして……一瞬で頭の中で戦術を構築。



袈裟に襲う左爪を伏せて避け、奴の左サイドを抜けて背後に回る。そうして左足を挙げて背中を蹴り飛ばした。

前のめりにたたらを踏む奴に向かってユウスケが踏み込み、まず顔面へ右フックを一発。

次は左・右ボディブロー・左ストレート――至近距離で奴の顔面と胸元へ乱撃。





「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」





奴は体力の消耗ゆえか……それともユウスケの拳から走る火花ゆえか、その乱撃に押されながら後ろへ下がる。

カウンターに打ち込まれた左フックをユウスケは右腕でガードし、更に踏み込みながら左ボディブロー。

それを打ち込んでから右足を上げ、奴の胸元を蹴り飛ばす。そうして下がったところでまたまた僕が踏み込む。



まずは奴がこちらへ振り返りつつ打ち込んだ右の裏拳を伏せて避け、左右のストレートを胸元へ打ち込む。

そうして打ち込み下がった顔面を右アッパーで打ち抜き、それでもと反撃で来た左右の拳は掌底で下へ軌道を逸らし回避。

更にしつこく襲ってきた左フックを伏せて避けつつ、左ストレートでのカウンターを打ち込み怯ませる。



素早く両腕を挙げて、僕の首元を掴もうとする左腕の肘辺りに両の手刀を叩き込んで軌道を横へ逸らす。

そのまま身を反時計回りに捻り左の裏拳を左頬に打ち込んでから、更に回転を続け右回し蹴りを同箇所に打ち込む。

二連続で頭を攻撃されて体勢を崩した奴は、右足に力を込めてなんとか踏ん張る。



自分に背中を見せようとした僕に対し左拳を打ち込むけど、僕は足をそのまま振り切らず横へ引き戻す。

そうして後ろ回し蹴りを打ち込み、奴の左腕を裏から叩いて左の方へと弾き飛ばす。

そのまま右足を地面につけつつ回転の勢いを決して殺さず胸元へ左ストレートを打ち込み、そのまま横へエルボー。



また内側から奴の腕をエルボーで叩いて軌道を逸らし、今度は右ストレートで顔面を叩く。

そこから右・左・右・右とストレートを胸元へ打ち込んでから左フックで横面を殴り飛ばし身を捻る。

反時計回りに身を伏せながら回転し、奴の左爪でのフックを避けつつ……もう一度身体を起こす。



そのまま右足を奴の腹に叩きつけ後ろに下がらせると、ユウスケが左フックで奴の左脇腹を穿つ。



また手首から火花が走り、それがユウスケのパワーを更に上げた。





「ふんっ!」



奴はユウスケが拳を振り抜くと身体をくの字に折り曲げ、数メートル吹き飛ばされて地面を転がる。

僕はそれに構わず隣に来たユウスケと頷き合いながら、右手親指をゼクター上部にかける。



≪1・2・3≫



折りたたんでいたゼクターホーンを右手で元の位置に戻し。



「ライダーキック……いや」



再び右側へ折りたたむ。ダークカブトは必殺技の発動アクションもカブトと同じ。

だから余裕でその行動をこなしつつ、僕は仮面の下で口元を歪めた。



「ビートスラップッ!」



するとゼクター中央が赤く輝き、黄色い火花がそこから生まれ僕の頭頂部へと移動。



≪――BEAT SLAP≫

『死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』





空気を読んでくれたダークカブトゼクターに感謝し、僕はユウスケと同時に三島へ駆け出す。

僕の右足にゼクターから走る黄色い火花が伝わり、それは一瞬で虹色の輝きとなる。

ユウスケの右足も一歩踏み締める毎に足首の宝玉から炎と火花が走って大きくなり、結果足首は完全に炎に包まれた。



三島は起き上がってこちらへ迫る僕達を見て、両肩の触手をまたもしつこく伸ばそうとしているので牽制に一撃。

奴が動く前に僕はカブトが使うのと同じ短剣を左手から取り出し、腕を逆風に振るって投擲。

触手を射出するために動きを止めていた三島の顔面にそれは命中し、激しい火花を走らせる。



顔面にそんなものを食らった三島は苦悶の声をあげながらたたらを踏み、右手で傷つけらた箇所を押さえた。

僕の投擲を食らったんだからそれも当然。僕達は空高く飛び上がり、身体を縦に回転。

僕達は三島へ飛び込みながら、虹色と炎の蹴りを奴の胸元へ叩き込む。





「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



二つの蹴りは奴の胸元を捉え、激しい火花と衝撃を辺りに撒き散らす。

奴はそれによって大きく吹き飛びながら、元の姿……人間へと変わる。



「進化、を」



僕達は三島が吹き飛ぶ様を見ながら膝をつく形で着地。そんな僕達に対し三島は、絶望と死への恐怖から表情を歪めた。



「俺は……進化をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」





そして奴の身体は巨大な爆炎へと変化し、周囲に吹き拔ける強い風を生んだ。

あとは……弟切ソウか。あっちの方はもやしと天堂さんがなんとかすると信じよう。

でも今気にするべきはそこじゃない。僕達や電波塔付近まで広がった爆発の方だ。



明らかに大き過ぎるのよ。多分原因は僕だ。その証拠にユウスケの手首や足首に、ちょくちょく火花が走っていた。



でもまさかグロンギ以外でもこれなんて……これはユウスケに説明しないと、マズいよな。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ならそのシステム、破壊するだけだ」



『今は壊せない。せめて天堂が元の状態に戻るまでは』と思っていると、天堂はなんの迷いもなくそう言い切った。



「おいちょっと待ってっ! 今壊したらお前はまた永遠の孤独に戻るんだぞっ!」

「あぁ」



また俺の問いかけにあっさりとそう答えながら、アイツは天を指差す。

するとくもり空の隙間から太陽の光が差し込み、天堂を照らし出す。



「いつでも帰れる場所がある。だから俺は、離れていられるんだ」





俺はそれ以上はなにも言えず、妙な敗北感を噛み締めつつ右手でカードを取り出す。あぁそうだな、敗北感だ。

俺には帰る場所もなく、信頼出来る家族も居るわけじゃない。いや、居てもここまで言い切れるか?

家族が居るなら、恋人や友人が居るなら離れがたいはずだ。姉さんやギンガマンを見ていれば分かる。



だがコイツらは……決して揺るがないものは、いくら俺でも破壊し切れない。ただただ敬服するだけだ。





「……それがアンタ達の絆か」

『世界は俺が支配するのだっ! あははははははははははははははっ!』

「……この一家が居る限り、それは不可能だ」

≪FINAL ATTACK RIDE≫



カードを挿入し、展開していたバックルを両手で閉じ直す。



≪KA・KA・KA――KABUTO!≫



すると天堂はまたカブトゼクターへと変形し、弟切に向かってすくい上げるような軌道を描きつつ突撃。

40メートルほどの距離を一気に詰め、空中でぼさっとしている弟切の腹を角で射抜く。



『ぐっ!?』





なんとか逃げようともがく弟切は気にせず天堂は直進し、電波塔の脇を通り過ぎてからUターン。



そのまま弟切ごと電波塔へ突撃し、その中腹を射抜いてこちらへ戻ってくる。



その様子を見ながら駆け出していた。天堂は俺と交差しつつ元の姿に戻って着地。





≪1・2・3≫



弟切は中程が射抜かれた事でゆっくりと崩れていく電波塔付近から天堂の方へと落下していった。

俺はそんな弟切の背後を取るように跳躍……その瞬間、世界で動く全てのものが静止状態に陥る。



≪RIDER KICK≫





電波塔中程から発生している硝煙や崩れ落ちるそれ自体もそうだし、周囲に撒き散らされる破片も同じ。

その中で俺と天堂だけはいつもの動きが出来て、ゆっくりと落下する弟切の背後をなんなく取れた。

そこから身を縦に一回転させて右足を突き出し、その背中を捉える。飛び蹴りが命中した瞬間、俺の身体は前へと加速。



周囲に立ち込める煙や破片を砕きつつ天堂へとかなりの速度で迫っていく。





「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





そして俺と天堂は交差――その瞬間、こちらへ背を向けていた天堂は右足で回し蹴り。

虹色の閃光で弟切の身体を打ち据え、両断した。その瞬間弟切の身体は爆散。

俺はその爆炎を突っ切り地面へ着地し、数メートル滑ってようやく停止。……これで、終わりか。



蒼チビ達の方も終わったらしく、なんかでかい爆発を背にしながらこっちに来る。



それで俺と天堂は変身解除。妙に清々しい気持ちを感じながら、二人で空を見上げた。空はもう……曇ってなんていなかった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



二つの爆発のせいか、はたまた倒れて炎が上がっている電波塔のせいか……空から雲が消え去った。



僕とユウスケは昨日今日と受けたダメージのせいでややフラつきながらも変身を解除し、もやしと天堂さんに近づく。





「なにかあの凄いばあちゃんに伝える事は?」



もやしの問いかけに天堂さんは爽やかな笑みを浮かべながら、首を横に振り天を見る。



「ないな。おばあちゃんは全部分かってる」

「そうだな」





短い問答が終わると、徐々にあの人の姿にもやがかかって消えていく。

それでもあの人はやっぱり笑顔で……でもその目が見開かれ、僕達の後方へ集中。

なにがあったのかと思い振り返ると、僕達の10メートルほど後ろにマユちゃんが居た。



涙を零しながら自分を見ているマユちゃんに天堂さんは、笑いかけながら頷きを返す。



そうしてあの人は太陽に照らされながら再びカブトへと姿を変え……僕達とは違う時間の流れに消えていった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



マユちゃんを連れて天堂屋まで戻る頃には、もう夕方。マユちゃんは明るい表情こそ鳴りを潜めてるけど、素直について来てくれた。



短い間だったけど、お兄さんと再会したのが良い影響を及ぼしているらしい。そんなマユちゃんを見て、もやしは安心した表情を浮かべていた。



それで僕達はのれんをくぐり、夕焼けに染まる店内へ入る。おばあさんは静かにカウンターを拭いていた。





「ただいま」



マユちゃんが少し緊張気味にそう言うと、おばあさんはこっちを見て表情を変えずに店の奥へ下がる。



「おかえり」





それだけ言ってカウンターへそそくさと戻り、またカウンターの方へ出てくる。その両手には……おでんが入ったお椀。

ガンモと大根にたまご――みんなが好きなものだけを入れている。ユウスケから聞いた。

そのおでんをテーブルの上に置くと、おばあさんは戸惑った表情のマユちゃんに笑いかける。



マユちゃんは瞳に浮かんでいた涙を右手の指で拭うと、おばあさんに笑いを返しながらカウンターに座る。





「お兄ちゃんも、いつか帰って来れるかな」

「ソウジは、いつだってここに居るよ。私達が変わらない限りね」





おでんを食べ始めたマユちゃんとその傍らで笑うおばあさんの姿を、もやしは嬉しそうな顔をしながら写真に収める。



僕はというとおばあさんがこっちに笑いかけてきたので……静かにお辞儀を返した。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



天道さんは私に丁寧に下ごしらえの手順を教えてくれた。結果かなり多めに料理が出来上がった。

私はこう……今までやった事のないような調理もやらされて、正直疲労困憊。

そんな私を見ながら天道さんは両手をタオルで拭き、テーブルに載せられた中華料理の山を見る。



うん、中華料理なの。最初にヤスフミの好きなものはなにかって聞かれて、中華料理だって答えたからこれみたい。



エビチリはもちろんあって、酢豚に八宝菜と麻婆豆腐に中華風サラダ……とにかくたくさん。





「へぇ、美味しそうねぇ。覚悟がなくても料理だけは出来るんだぁ」

「キバーラ、失礼ですよ。でも……うぅ、早く食べちゃいたいです」

「一口……一口だけ。一口だけなら」

「ギンガちゃん、やっぱ君は食いしん坊だねぇ」

「もう少し待ってやれ。奴らもすぐに帰ってくる」



確かにそう連絡が来たけど、それはついさっきの話。これまであの人はその確証もなくこれだけの料理を作ってた。

ううん、確証は持っていた。ただ私達には分からないところで……あの人の視線が私に移る。



「今お前に出来る事はほとんどない。お前はまだ下ごしらえの最中だ。
お前は自分の弱さに気づき、それを変えたいと願った。だがいきなり強くなる事などは不可能だ。
時間をかけ、思いを費やし、少しずつ人も世界も変わっていく。お前は高望みし過ぎだ」

「……私は10年、自分なりの努力をしてきました。仕事の中で成長したという手応えもあった」





そうだ、私は努力をしていた。魔導師という枠の中だけど、その中で努力をして……だから執務官になった。

色々な現場にも立ち会ってきたし、それなりに成果も出した。みんなから認められもした。

正直もうだめかなと思う時もあったし、汚いものだって見てきた。その全てが私の自信だった。



だから答えは分かっているのにそう聞いてしまう。それであの人は……表情を変えずに首を横に振る。





「それは勘違いだ。お前はあのコウモリの言うように、自分の正義――業を貫く事から逃げた。
綺麗事だけでどうにかしようとし、そうなる現状に甘えていた。正義とは残酷なものだ。
誰からも認められる正義などは存在しないし、それは俺達だって同じ。だがお前は……違うか?」

「……違いません」





今なら天道さんとキバーラの言いたい事が分かる。どうしてヤスフミが私を邪魔だと思ったのかも分かる。

私はいつだって自分の正義が認められて当然のものだと思っていた。だって母さんやみんなはそうだったから。

私が大人であれば、みんなと仲間であれば、自然と私の正義は認められる。背中を押してくれる。



でもそれは違う。正義が残酷なのは正しいからじゃない。残酷なのは……それが身勝手なものだからだ。

自分が正しいと決めたルールで誰かを殴って止める事は、身勝手なんだ。例えそれがどんなに最悪な相手だとしても同じ。

身勝手なルールを誰かに押しつけ止めるから、残酷。正義という言葉を使ってそれを正当化するから、残酷。



私はその身勝手さを自覚する事もなく、ただ認められる事に甘えていた。身勝手を貫く覚悟すらしなかった。

だから私の積み重ねは全てが無駄になる。ヤスフミや士さん達について行く事すら出来ない。

よくよく考えたら、この世界に来てからの私はその一言で全てが説明出来るのかも知れない。



私は自分がしている事が身勝手だという自覚がなかった。正しい事はみんなから認められるとしか考えてなかった。



でもそんな考えの元でなにかを行なっても、結局歪んで失敗する。昨日も今日も……私は目を伏せてしまう。





「その結果、お前は少ない時間も無駄遣いした。周囲の人間の足を引っ張ってな。だが」



あの人が『だが』と言葉を続けたので視線を上げると……驚いた。あの人はとても優しい表情で私を見ていた。



「まだほんの少しだけ時間はある。まずはその時間を使って、自分を鍛え上げてみろ」

「なにを、すればいいんでしょうか」

「お前は本当にバカだな。昨日も言っただろうが。奴らに美味い飯を作ってやれ」



あんまりにあっさりと、そして軽く答えが提示されたので、私は拍子抜けというか唖然としてしまって口を大きく開ける。



「幸いな事にお前の料理は悪くない。心さえ込めれば人を感動させるものを作れる。だから作れ。
奴らが例え戦いに負けて地獄へ落ちたとしても、お前の飯目当てで立ち上がれるくらいのものを……毎日な」



それだけ言って、あの人は私の脇を通り過ぎてそのまま写真室から出た。

後に残されたのはたくさんの料理と……私の中に生まれた一つの感情だけ。



「あの、フェイトさん」

「私、悔しい」



右手を挙げると、その手はどうしてか震えていた。それで手の平に小さな雫がいくつも零れる。



「強く、なりたい。どうして私は……こんなに弱いんだろう」





そうだ、これだけでよかった。私は悔しくて悔しくて……自分が情けない。それを認めるだけで良かった。

認めた上で今出来る事をやれば良かった。昨日そう気づいたはずなのに、まだちゃんと分かってなかった。

でもそれは当然だ。私はまだ自分の弱さを認めてなかったんだから。まだ逃げてたんだから。



私は弱い。残酷な正義を貫く覚悟すら置いてけぼりでここまで来た。そんな情けないのが私。



私はようやく自分の弱さと向き合って、認めて……ヤスフミ達が帰ってくるまで、ずっと泣いていた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



僕達が帰ってくると……とんでもない量の中華料理が待ち受けていた。そのいくつかをタッパーに詰めてアラタさんに渡す。

フェイトの回復魔法がバッチリ効いたアラタさんはもう元気バリバリで、僕達から経緯を聞いて一つの決意をした上で帰還。

明日改めてマユちゃんとおばあちゃんのところに行くって言ってたな。というわけで僕達、祝勝会も兼ねて食事中です。



それで今のつまみはもやしが天堂屋で撮った写真。その中を見て、栄次郎さんが唸る。



だって夕日の中で笑顔を浮かべる二人の後ろに……カブトが居たんだから。





「――うん、中々良い写真だ」

「でさ……みんな、この料理はなに。満漢全席?」

「えっと、私が天道さんを手伝って……みんなに振舞えって言って。レシピまでくれて」

「結局あの人、なにがしたかったんでしょう。色々教えてはくれましたけど、一緒に戦ったわけではありませんし」

「いやいや、それなら分かるだろう? 天道くんはみんなを導いたんだよ。なんたって」



栄次郎さんは夏みかんに『なにを言っているんだ』という顔を向けながら、笑って右手で天を指差す。



「選ばれし者だからねぇ」

「いい覚悟と強さだったわよねー。フェイトちゃんと違ってー」

「……結局」



そこで大きなため息が聴こえ、僕は慌てて左へ振り向く。だってこの声は今の今までどこにもなかったんだから。

するとなぜかソイツは八宝菜のキャベツとうずらのたまごを噛み締めてから、大きくため息を吐いた。



「この世界でのお宝は手に入らなかった」

「ちょ、海東っ!? おのれ今までどこ行ってたのよっ!」

「お前、今更のこのこ出てきてなんだっ! てーかいつ輪に加わったっ!」

「聞いてくれっ! 士、少年君っ!」



それで僕達の疑問を完全無視な海東は、涙目でこっちに顔を近づけてくる。



「聞くも涙語るも涙……僕はこの世界についてから、ずっとクロックアップシステムを探してたんだよっ!
それもカブトのクロックアップシステムだっ! だが肝心要のカブトはどこにも居ないし、出てくる条件もさっぱりっ!
ようやく彼の妹らしき少女が絡んでいると分かったと思ったら、もう全部終わって次の世界に行かなきゃいけないときたっ!」

「……つまりおのれは今の今まで、あっちこっちうろつき回ってただけと」

「まぁイタリア語で言うなら、そうなる」

「日本語でもそうなるんだよっ! このバカがっ! そんなにお宝欲しいなら、おのれはこれでも持っていけっ!」



そう言って海東に置いたのは、黒い粒がびっしり詰まった小瓶。ずっと机の上にあったそれを見て、海東が首を傾げる。



「少年君、これはなんだい?」

「それはね、大航海時代のお宝だよ」

「あ、俺も知ってるぞ」



あ、なんかもやしが乗っかってきた。しかも僕の意図が分かったのか、中華サラダを食べる手を止めてニヤニヤし出す。



「蒼チビの言うように大航海時代――食料を長期保存するためのものとして珍重されたスパイスだ。
インドへの航路が見つかるまではヨーロッパでも珍重されていてな。取り引きには金と同重量で交換されたらしい」

「金と同重量っ!?」

「もやし、よく知ってるねー。でもそれだけじゃないよ。このスパイスにはその希少価値ゆえに、こんな逸話もある。
……ゲルマン部族はローマ帝国に侵略を控える代わりに、金と銀と一緒に貢ぎ物としてこれを要求したそうだよ」

「侵略の交換条件にもなるなんて……それは凄いお宝じゃないかっ!」



海東はそこでチラチラと僕達の様子を窺うように視線を動かす。しょうがないので僕が頷くと、海東の手が素早く動いた。

右手で小瓶を掴み、そそくさと立ち上がり平然を装いながら早足で写真室から出る。



「……よしっ!」



でも出た途端に声が……ありゃ相当喜んでるなぁ。僕はもやし共々海東の反応が面白くて、そこで爆笑してしまう。



「あのヤスフミ、士さんも……あれただの胡椒だよね。金と同重量なんてありえないよ」

「姉さん、お前は人の話を聞いてたかっ!? 昔はそうだったんだよっ! なぁ、蒼チビっ!」



大笑いしながらもやしに頷くけど、重大な事に気づいて僕は表情を険しくする。



「てゆうかフェイト……ここは中学で習うところだよっ!? なんで分かってないのっ!
聖祥大付属は勉強進んでる方だよねっ! 絶対やってるよねっ! どうして知らないのっ!」

「そ、それはその……あ、それよりこの世界のカブトだよ。どうにかならないのかな」

「どうにもならないよ。フェイトの知識量と天然具合と同じで」



フェイトの背中になにかが突き刺さったけど、気にしない。僕はそこで大きくため息を吐く。



「なんとかしたかったけど、その前にクロックダウンシステム壊しちゃったからなぁ」

「俺が悪いとか言うなよ?」

「さすがにそれはないよ。ソウジさんが言い出した理由も分かるし」

「あ、そこが分からないの。どうしてなのかな、ダウンした状態なら変身も解除出来たんだよね。
ずっとそのままならなんとかなったはずだよ。家にも帰れたのに、どうして」

≪結果ワームやネイティブに対処出来なくなるわけですね≫





そこでフェイトが……ううん、ギンガさんもハッとしながら息を飲んだ。だから天堂さんは即決した。

ネイティブの方は三島が暴走した関係で結果的に問題なくなったとしても、ワームは違う。

ネイティブと同質のワームにあのシステムが通用するとは思えないし、万が一察知されたらもう手のつけようがない。



早急にあのシステムを破壊する必要はあった。でも即決した事は脅威以外の何物でもないけど。



僕でさえそう思うんだけど、一緒に戦ってなにか感じるものがあったらしいもやしは右手で天を指差す。





「帰れる場所があるから、離れていられる――アイツはそう言ってた。
ま、アラタも仲間集めて近いうちに絶対なんとかするって言ってたし大丈夫だろ」



アラタさんがした決意は、今もやしが言ったそれになる。クロックダウンシステムを天堂さんにだけかけられればと話してた。

その様子を思い出しているのか、フェイトは神妙な顔で俯いてしまう。



「……帰れる、場所」

「だったらマユちゃんも同じだな。あの子は天堂さんの帰れる場所になるって、腹をくくったんだから。
そうしてネイティブである自分も変えていく――あの子もまた、選ばれし者なんだ」



ユウスケはそう言って僕に笑顔を向け、左手で頭を撫でてくる。フェイトはその様子を見て、また俯いてしまった。

……おかしい。フェイト、ヘコみ気味だ。なにかあったのかと思いギンガさんと夏みかんを見ると、二人はなんか苦笑い。



「私知ーらないー。だって間違った事は言ってないしー」



そうか、おのれが原因か。ちょっと問い詰めてやろうかと思っていると、そんなキバーラに黒いカブト虫が近づき角でツツく。



「きゃっ! ちょ……なによー!」



突然部屋に現れたそれはつんつんと優しい感じでキバーラをツツくけど、それでも身体の小さいキバーラには辛いらしい。

キバーラは慌てた様子で部屋の中を飛び回り、それを追いかけてくる黒いカブト虫から逃げる。



「近寄らないでー! 私デリケートなのよー!?」

「ダブタロスー、良い機会だからツツいてこうかー。主にキバーラの黒い腹の辺りを」

「やめてー! あなたこの子のパートナーなんだから止めてよー!」

「いやいや、ちょっと待ってっ! なぎ君、タブタロスってなにっ!? それ以前にあれはなにっ!」



そんな事も分からない……って、当然かー。ギンガさんはカブト見てないんだし。

ただそんな中、フェイトはキバーラと仲睦まじく飛び回るダブタロスを見てハッとした表情を浮かべた。



「……あれ、あのカブト虫って昨日天道さんが連れていたのに似てる」

「当たり前だよ。あれは正式名称ダークカブトゼクター……ダークカブトに変身するための必須アイテムだから」

「えぇっ! じゃ、じゃあヤスフミ……まさかダブタロスって」

「もちろんあの子の名前だよ。正式名称だと長いし、略したんだ」

『センス無っ!』



みんながあまりにおかしい事を言うので、僕はつい鼻で笑ってしまった。



「みんな、僕の才能に嫉妬するのは分かるけど少し落ち着こうか。そんな事をしても選ばれし者にはなれないよ?
あぁ、でもしょうがないか。真の才能に気づく人間は一握りだけなんだし」

「なんで私達が悪いって話になってるのっ!? ヤスフミ、お願いだからそれはやめてあげようよっ!」

「そうだよっ! なぎ君のそれは才能じゃないからっ! それは違うんだからー!」

「ちょっとー! そんなドン引きセンスよりこっちの事よー! なんとかしてー! ……きゃっ!」





失礼な事を言っていたキバーラは喚きながらも背景を入れ替えるための鎖に激突。ダブタロスもそれに続く。



結果二人の身体や角に引っかかった鎖は引っ張られ、新しい背景が降りてきた。背景には深い森林と和太鼓が描かれていた。



森林の中にぽつんと存在している和太鼓の表面には、三つの角ばった勾玉みたいな紋様が三つ描かれていた。





「太鼓にこの紋様は……まぁ考えるまでもないか」

≪ついに最後の世界ですね。そして私が楽しむ世界です≫

「響鬼の世界、だな」





響鬼の世界――これもカブトの世界レベルで厄介だからなぁ。しかも今は爆弾も多いし。



とにかくここは正念場だ。僕は太陽として更に輝く事を決め、天を指差した。





(第24話へ続く)















あとがき



恭文「というわけでカブトの世界は終了。次回はアルトの大好きな響鬼の世界――そして最後の世界」

あむ「八つの世界だし、そうなるんだよね。あ、日奈森あむです」

恭文「蒼凪恭文です。今回は三島と弟切とのバトル。弟切とは原作通りで」

あむ「三島の方はアンタとユウスケさんだね。でも……しぶと過ぎる。てゆうかグロい」

恭文「あれは予想外だった。きっとスーパー大ショッカーに……あれだね、キャスター(Zero)とか居るんだよ」

あむ「やめてー! アンタに録画したビデオ見せられてトラウマなんだからっ!」



(ガクガクブルブル)



あむ「でも恭文、なんか火花どうこう爆発どうこう言ってたけどあれは」

恭文「そこに関しても次回以降だね。それよりも大事なのは……ダブタロスがうちに来た事だよー!」



(『よろしく〜』という顔をしている)



あむ「いや、その名前やめたげないっ!? もうちょっと良い名前あるでしょっ!」

恭文「あむ……自分を恥じる事はないよ。マユちゃんも言ってたでしょ? 真の才能に気づくものは」



(ばきっ!)



あむ「……言う事は? あたしもそうだしフェイトさんやギンガさんに言う事は?」

恭文「ごめんなさい」

あむ「よろしい。そういや響鬼ってどういう話なの?」

恭文「響鬼はね……昭和ライダーへの原点回帰を目指した作品で、平成唯一の改造人間が主進行なんだ」

あむ「え、マジっ!?」

恭文「マジマジ。孤独に悪の組織と戦うライダーを目指したんだけど、とにかく暗い。
しかも主人公の改造は不完全で、戦えば戦うだけ身体に負荷がかかってボロボロになってさ」

あむ「……うん」

恭文「その上周囲の人には化け物扱いされて、助けても感謝の言葉一つ述べずに蔑まれる。
それでも負けずに戦っていくんだけど……ラストが衝撃的過ぎて言葉に出来ないんだよな」

あむ「ど、どんなラストなの?」

恭文「敵の首領を倒した後に警察と自衛隊に囲まれ……あー、言えないっ! これ以上は言えないー!」

あむ「いやいや、そこまで言ったら話そうよっ! 余計気になるじゃんっ!」





(そう言えば今日は……4月1日だったなぁ。ちなみに仮面ライダー響鬼はニコニコチャンネル内の東映チャンネルで配信中。
毎週日曜朝8時半に最新話が更新されているので、興味がある方はどうぞ。
ちなみに今は第3話なので、まだ入れます。まだ余裕を持って入れます。
仮面ライダーカブトも現在22話とかですけど、YouTubeの公式チャンネル内で配信中。こっちも全開……やっぱ面白いなぁ。
本日のED:RIDER CHIPS『孤独をふみつぶせ』)










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



夜――ライトアップされていた東京タワーの根本近くで奴と待ち合わせ。相手は当然あの男だ。



今回好き勝手やってくれた奴はさしてそれを気にしている様子もなく、普通にこの場所にやってきた。





「本当に……好きにやってくれたな。勝手に光写真館のみんなと話すわ、戦うわ、料理するわ」

「言ったはずだ。俺は世界の中心だとな」

「言ってないからな、それっ!」

「だが大して問題はあるまい。いずれにせよ説明しなければならなかった事だ」



悪びれた様子もなくそう言われて、反論出来ずに右手で頭をかく。



「それはまぁ、そうだが。しかし意外だったよ」

「なにがだ」

「彼にライダーベルトを渡した事だ。しかもあれは君の」

「間違えただけだ。本来なら俺秘蔵の包丁と料理本を渡すはずだったんだが」



……コイツ、本気か? いや、照れ隠しという事も……そんな考えは彼の目を見て吹き飛んだ。

これは本気だ。本気で間違えたんだ。弘法も筆の誤りとかそっち方向だ。少なくとも照れ隠しには見えない。



「それで、アイツらの世界はどうなってる。スーパー大ショッカーが侵攻する理由は」

「そっちの方は紅と城戸が調べるらしい。ただ表立って姿を現しているわけじゃないし、時間はかかりそうだ」

「相変わらず動きが遅い。もうちょっとシャキッとしたらどうだ」

「主にお前のせいだって自覚しろよっ! 持ち場勝手に離れてるから、みんな大変なんだぞっ!」

「なるほど」



彼がいきなり表情を緩めたので、俺は納得してくれたのかと。



「全く、人気者は辛いな。だがそれも当然の事か。俺の才能は余りにも大き過ぎる」



そんなのは勘違いだった。コイツは……どうしてこう自信過剰なんだっ!?

てゆうか俺褒めたかっ!? 褒めてないよなっ! なんだこれっ! 会話になってないぞっ!



「それと剣崎」

「なんだ?」

「アイツに渡したいものがあるなら、早くしろ。いつまで迷っているつもりだ」



いきなり核心を突かれ、一気に苛立ちというか呆れが吹き飛ぶ。

コイツのこういうところは凄いと思い、苦笑いして懐からバックルを出す。



「そうだな、迷っている。これを渡す事が本当に正しい事なのかと……かなりな。それにもし彼が俺と同じ道を進んだらと思うと」

「だとしたら勘違いだ。奴はお前とは違う。自分を犠牲になどしない」

「そうか」





その言葉に安心してしまう俺は……もちろん選択を後悔なんてしていない。これでよかったと胸を張っている。



なのに迷ってしまうのは、どうしてなんだろうか。俺は光り輝く東京タワーを見上げながら、そればかり考えてしまった。





(おしまい)




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あきゅろす。
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