小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第22話 『カブトの世界/世界を変える者→ネイティブ』
東京タワーの付近ってのは、ホントに工場や倉庫の類が多いらしい。おかげで戦う場所には困らない。
とにかくワームをそこに連れ込み、所有者には悪いがその内の一つに向かって突撃。
壁を砕きながら俺達は工場の中になだれ込み、そのまま土の地面を転がる。俺はワームを離して素早く起き上がる。
地面は土で周囲には木箱……どうやら工場っていうよりは、倉庫みたいだな。これなら誰か巻き込む心配はない。
納得しつつ立ち上がり、両手をパンパンと合わせ払う。そうして素早く伏せ、奴が打ち込んできた爪を避ける。
同時にカウンターでワームの腹を叩き、後ずさったところを狙って更に踏み込み顔に左・右・左と拳を叩き込む。
殴られてなお跳びかかろうとするワームの腹を右足で蹴り飛ばし、それでも袈裟に打ち込んでくる爪を反時計回りに身を捻って避ける。
爪が空振りに終わったところですかさず身を伏せ、引いていた右足を再度奴の足元に打ち込み転がしておく。
奴は素早く起き上がり、左右交互に腕を突き出し俺を叩こうとする。俺はバックステップを踏みながら両手でそれを払う。
突き出された爪や拳は全てが俺の脇を通り、まともに命中するものはない。
そして爪での数発目の刺突を右に避けながら懐に入り、右ボディブローを叩き込む。
すかさずその腕を右に振るい、こちらへ打ち込まれた左拳を右手刀で払って今度は左。
奴へ踏み込みながら左ボディブローを三発連続で叩き込み、がら空きになった頭部を右フックで叩く。
それから今度はストレートを胸元へ打ち込み、奴を再び地面に転がし距離を取ってもらう。
その間にライドブッカーからカードを取り出す。……ま、蒼チビのアドバイスには従っておくか。
いつ脱皮するかも分からないし、備えだけは取っておこう。俺はカードをバックルに入れ。
≪KAMEN RIDE≫
バックルの両側を押し込んでカードの効果を発動。……さて、ちょっと試すか。
≪KUUGA!≫
バックルから赤い光が放たれ、その中で俺はクウガ・マイティフォームへ変身。
蒼チビの話を思い出しながら両拳をスナップして構え、再びこっちに飛び込んできたワームの懐へ入り込みワンツーパンチ。
怯んだところで頭の角を両手で掴み、引き寄せながら数度膝蹴り。奴が両腕を俺に回し、しがみついて来たところで身を捻る。
反時計回りに回転しながら奴を投げ飛ばし、またまた別のカードを取り出しバックルに挿入。
≪FORM RIDE≫
3メートルほど転がって、土まみれになりながら起き上がったアイツは両腕を広げて叫びをあげる。
それにより体皮がドロドロに溶け、中から薄紫で黄色のラインが入ったクモっぽいのが出てきた。
≪KUUGA――PEGASUS!≫
その様子を見ながらフォームチェンジ――蒼チビのアドバイス通り、まずはペガサスフォームだ。
素早く左手でライドブッカーを手に取り銃形態へ変更した途端、奴は姿を消し……俺はなにかに跳ね飛ばされ宙を舞った。
身体に痛みが走り、続けて二撃・三撃と跳ねられながらも神経を集中。……見ようとはするな。
視覚でどうこうするのは蒼チビの話通りなら無理。なら奴が動いて出来た影響を感じ取るんだ。
例えば土の動き、例えば風の流れ、例えば足音――それを身体全体で掴むんだ。
それで動きは最小限。無駄なアクションがあれば逃げられる。俺は四撃目の跳ね飛ばしを食らいながら、左手に力を込める。
ライドブッカーはその瞬間姿を変え、銃とボウガンが合わさったような大型武器へ変化。
右手でグリップ上部のコックを引くと、銃身前方にある金色をした弓を模したパーツが後ろに倒れた。
あとは……チャンスを待つだけ。地面に倒れながら9時方向で『違和感』がしたので、銃口をそちらに向ける。
素早く最小限の動作で捉えた違和感を狙い、そちらを見ずにトリガーを引いた。
正直変化らしい変化は掴んでない。ほぼヤマカンに等しい。それでも矢は放たれ……違和感を貫く。
不可視の矢ってのが功を奏したのかも知れない。俺のすぐ間近で緑の爆発が起き、場に静けさが訪れる。
俺は灰色の光に包まれ、その中でクウガからディケイドの姿に戻りながら立ち上がる。
「意外とやれるもんだな。すっげー疲れるが」
とにかくユウスケと合流と思い、両手でスーツについた土を払っているとドタドタと足音が響いた。
5時方向――俺がここに入った時開けた穴から、ぞろぞろとゼクトルーパーとザビー、それにガタックが突入してきた。
「よう。ワームならもう退治したぞ」
変身を解除しようとバックルに両手をかけて……なんとなく嫌な予感がして動きを止める。
嫌な予感っていうか、殺気か? コイツら、俺に対して敵意向けてきやがる。
「アンタ……なんて事、してくれたんだ。これじゃあかばい切れない」
「はぁ? いや、ワームを倒しただけだが。ワームは人類の敵だろ」
「違うっ! あれはネイティブだっ!」
「……なに?」
アラタの言葉が信じられず、ついさっき倒したアイツが居た方を見る。
とりあえずアレは倒しちゃいけないものだったらしい。……キバの世界でもこんな事なかったか?
「ちょっと待て。まず……ネイティブってなんだ」
「知らないはずないだろっ! 現に恭文君は知ってたぞっ!」
「俺は蒼チビからなにも聞いていない」
アラタに視線を戻しながらそう言った。……という事にしておこう。そうしたら言い訳は立つだろ。
てーかアレだ、ちゃんとネイティブとかなんとかの事を言ってないアイツが悪い。
「いいか、俺はアイツに襲われたんだぞ。街歩いてたらいきなり」
「言い訳は聞かん」
だがザビーはそんな俺の素晴らしい理論を聞き流し、両拳をすっと構える。
「ZECTはワームの敵――そして人類とネイティブに仇成す者の敵だ。アラタ、行くぞ」
「……はいっ!」
おいおい、コイツらマジかよ。アラタの方まで構えやがったし。しょうがないので、俺はライドブッカーから新しいカードを取り出す。
「せっかくだ、新しい力を試すか」
俺はそのカードをバックルに入れ、発動。その瞬間ホームで流れる電車の到着を知らせるBGMっぽいのが流れる。
≪KAMEN RIDE――DEN-O!≫
赤い光の中でモモタロスが変身する電王に姿を変えながら、もう一枚カードをバックルに挿入。
≪ATTACK RIDE――ORE SANZYOU!≫
「俺」
俺は自然と右手親指で自分を指差し、両腕を広げていた。
「参上」
その瞬間場に嫌な沈黙が訪れた。俺の名乗りを聞いて奴らが困惑した様子で、顔を見合わせざわつき始める。
「……おい、それがどうした」
ザビーの声には答えず、勝手に動いた身体を恨めしく思いながら、もう一枚カードを取り出しバックルに挿入。
あれだ、さっきのはモモタロスが悪い。他の奴らなら少しはまともなの出るだろ。
≪ATTACK RIDE――KOTAEHA KIITENAI!≫
今度な紫の光に包まれ、リュウタロスが変身する電王にフォームチェンジ。光を振り払いながら俺はステップを踏む。
その場で踊っているかのように自然と身体をくねらせ、反時計回りに一回転しながら奴らを指差す。
「答えは聞いてない」
またしても場に沈黙が訪れ、奴らは俺をなにかこう……痛いものを見るかのような目をしてやがる。
全員ヘルメットとか仮面とかしてるが、視線の質で分かるんだよ。俺も思わず震えてしまう。
「お、おい。今なにか聞いたか?」
「いや、なにも」
「で……それがどうした」
「アンタなにやってんだっ!?」
アラタの声はスルーして、慌てて両手をライドブッカーにかける。それで電王関係のカードを全て出した。
えっと、『泣けるで』に『釣られて』……それを見て更に震えが止まらなくなる。
「あのアホ共は……!」
そうかそうか、ただ名乗るだけのカードってわけか。なのにアタックライドか。
アイツらは……俺は怒りをぶつけるように、ザビーとアラタ達を怒鳴りつける。
「俺に聞くなっ!」
≪≪CAST OFF≫≫
だがその間に奴らはキャストオフをして、こちらに突撃体勢を……あ、ヤバい。
≪≪CLOCK UP≫≫
奴らの声が消えたと思った瞬間、目には見えない衝撃で吹き飛ばされる。
10メートル以上の高さがある天井近くまで跳ね飛ばされながら、手に持ったカードを睨みつけていた。
「アイツら、今度会ったらぶっ飛ばしてやるっ!」
≪NAKERUDE!≫
≪TURARETEMIRU!?≫
「うるせぇよっ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
現在俺とマユちゃんは10体近くのネイティブに追い回され、人気のない工場・倉庫地帯に避難中。
さすがに街中に逃げて人を巻き込むとかは……おいおい、どんどん数増えていってるんだがっ!
今も目の前に五体プラスされたしよっ! これじゃあ恭文が姿教えてくれててもアウトだったぞっ!
とにかくマユちゃんの手を引いて、右にある倉庫と倉庫の間にある細い路地へ入り込む。
全速力でそこを抜けて左右を見渡し……あ、ヤバい。なんか左右から新しいのが四体、迫って来る。
「囲、まれた?」
俺にしがみついてくるマユちゃんをかばいながら、こちらへ迫ってくる奴らへ警戒の視線を送る。
おいおい、これはどうすんだよ。今はサナギ体だが、下手に変身して応戦したらキャストオフするんだよな?
なによりここでコイツらと戦ったら……いや、迷ってる暇はない。俺はみんなの笑顔を守るクウガだ。
恭文には後で謝り倒す事にしよう。俺は腰を落とし右腕を前に突き出し、左腕を引いて腰に添える。
奴らは俺がポーズを取った事で動きを止め、警戒の視線を向けてくる。俺は決意を込めて……あれ。
なんだ、コイツら俺じゃなくて俺の後ろを見てるような。てゆうかこう、背後から光が出てないか?
俺、バックライトに照らされたみたいに影濃くなってるし。俺はその光の方へ恐る恐る振り向く。
するとどういうわけか俺がかばっていたマユちゃんがうつろな目をして、ライムグリーンの光を身体から放っていた。
「マユちゃん……おい、どうしたんだっ!」
俺がマユちゃんに手を伸ばした瞬間、その光が弾け周囲の物を吹き飛ばす。
倉庫の壁も抉れ、コンクリの地面も穴を開け、ワームも俺も一緒くたになって光に潰されようとしていた。
マユちゃんはその光の中で、全身が緑色で細長い頭をした異形の姿へと変貌を遂げる。
薄いかげろうのような羽を四枚生やし、泣き顔なそれを見ながら俺の意識は途絶えた。
世界の破壊者・ディケイド――いくつもの世界を巡り、その先になにを見る。
『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説
とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路
第22話 『カブトの世界/世界を変える者→ネイティブ』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
さすがに二対一とか無理だった。ただただ跳ね飛ばされてピンボールみたいに空中を舞うだけだった。
だが、倉庫の壁を突き抜け外に出た事で状況は変わった。それで地面を転がった途端に爆発が起きたからだ。
1時方向で起こった爆発は工場や倉庫の合間をすり抜け、風となってここまで吹きつけてくる。
あの変な色の光を見るに300メートル以上は離れてるだろうに、ありえないだろ。
だがそれを気にするより先に、嫌な予感が走った。まさかマユが……俺は咄嗟に右腕でガード体勢を取る。
倉庫の中から飛び出してきたザビーが左フックを打ち込んで来たので、そのまま踏み込み肩で受ける。
続けて来た右フックを伏せて避け、カウンターで左ストレートを奴の胸元に叩き込んで後ずらせた。
右腕をスナップさせて腕に走るしびれを振り払いながら、周囲を警戒。……アラタの奴は居ないか。見えないだけかもだが。
「拍子抜けだな、ディケイド。クロックアップも出来ないお前に勝ち目はない」
「かもな」
なんて言いながらライドブッカーからカードを二枚取り出し、そのうちの一枚をバックルに挿入。
「とも、限らないぜ?」
≪KAMEN RIDE――FAIZ!≫
赤い光に包まれファイズに変身していく中で、もう一枚のカードをバックルに挿入。
≪FORM RIDE――FAIZ ACCEL!≫
蒼チビのアドバイス通りってのが納得いかないが、ここはこれだ。クウガじゃ二対一だとキツ過ぎるしな。
……ファイズの胸部装甲が展開し、赤のラインが銀色へ変化。俺は左腕の黒い時計に右人差し指で触れる。
「付き合ってやる。10秒間だけな」
そのまま時計中心部にある赤いスイッチを押し、超加速発動――俺は10秒間だけ速度を上げる。
≪Start Up≫
≪CLOCK UP≫
その瞬間、俺達は互いに超高速で突撃開始――そして思いっ切り跳ね飛ばされた。
それも奴の姿は俺には視認出来ずだよ。……くそ、やっぱりこれはだめかっ! てーか恥ずかしいぞっ!
ここまで派手に決めておいてダメでしたなんて、恥ずかし過ぎるっ! なんの恥辱プレイだよ、これはっ!
その間にもカウントダウンは続き……あぁもうめんどくせぇっ! 俺、いつまでこのままなんだよっ!
アクセルフォーム使ってるせいか、すっげーゆっくり落ちてるんだがっ! しかもその間カウント進行してるしよっ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あぁ、ディケイドがまた跳ね飛ばされ……俺はゼクトルーパー部隊からも離れて、その様子を倉庫の中で呆然と見ていた。
戦わなきゃいけないのは分かっている。だがディケイドはさっき、本当にネイティブの事を知らない様子だった。
それに襲って来たとも言っていた。……もしかしたら実際ネイティブを見た事がないから、勘違いしただけではないか。
もしかしたらそういうネイティブだったのかも知れない。そんな疑念が胸に渦巻いて、俺は戦えなくなっていた。
いや、それよりなにより……こんななぶり殺しのような真似をしているのは気分が悪い。だったら、やる事は一つだ。
「アラタ」
隊長を止めようとした時、背後から声がかかった。それにハッとしながら振り向くと、そこには厳しい顔つきをした背広姿の男性が居た。
ややもじゃもじゃっとした茶髪にメガネをかけたその人は、スラックスのポケットに親指だけを入れてこちらへ近づいてくる。
「三島さんっ! あの、なぜここにっ!」
この人は三島さん――ZECT総監に仕える側近。つまりとても偉い人だった。
普段から険しい表情が多い人だが、今日は特に怖い顔をしていた。その理由は……察しがつく。
「なぜお前は戦わない」
「そ、それは」
「これはZECTの命令だ。やれ」
「あの、待ってくださいっ! ディケイドはネイティブの事を知らなかったようですし、まずは話を」
「そうか。なら」
三島さんが右手をすっとこちらへ上げると、光沢のある深い紫色の触手が三島さんの両肩から生えた。
それは避ける間もなく俺の胸元を叩く。変身しているはずなのに凄まじい衝撃を加えられ、装甲から火花が滝のように迸る。
「が……!」
「死んでおけ」
三島さんが呪いの言葉を吐く様子を見ながら数十メートルは飛ばされ、俺は地面に転がり動けなくなってしまう。
荒く息を吐きながら顔だけを起こして、三島さんを見る。すると三島さんは笑いながら、その姿を変えていった。
両肩から生えた触手の根本は骸骨のようなアーマーで、全身はイナゴを感じさせるスリムなフォルム。
だが左腕に丸みを帯びた爪があり、緑色なはずの身体の各所は陽の光を浴びて虹色に輝いていた。
どう見ても、人間じゃない。というか、あの虫っぽい姿は……ワーム?
『残念だよ、アラタ。気難しいガタックゼクターの装着者だから目をかけてやったのに』
「三島、さん。それは」
『これか? 素晴らしいだろう』
三島さんは笑いながら、左手を挙げてそこから生える爪を見る。
その異形の姿が誇らしいと言わんばかりに笑って……それを見て寒気ばかり感じていた。
『ネイティブの力は素晴らしいものだ。これなら地球をネイティブに任せても問題はあるまい』
「それじゃあ、人類は」
『いらんよ、そんなクズはっ!』
三島さんが吠えると肩の触手が再び伸び、俺の首を締め上げゆっくりと持ち上げようとする。
俺は抵抗する事も出来ず足をばたつかせながら宙へ浮き、息苦しさで意識が遠のき始めた。
『ガタックゼクター、来い』
三島さんが右手をかざしてそう命令するが、ガタックゼクターは反応しない。……なにをしている?
その行動の意図がよく分からないが、三島さん的には不愉快らしく舌打ちをした。
『……ふん、ネイティブの言う事は聞けないというわけか。日下部博士達も余計な事を……それじゃあ本当に残念だが』
「どこの世界もZECTは同じか」
俺や三島さんとは違う声が場に響いた事で、俺達の視線は自然と周囲を見渡すように動いていた。
そんな中虹色の光を放ちながら赤いカブト虫が俺の前を横切り、三島さんから生えている触手をその角で叩く。
俺の身体は衝撃で左に揺れ、同時に触手での戒めから解除。そのまま吹き飛ばされるように地面を転がっていく。
一体なにが起きたんだと思っていると、倒れた俺の前に人の足が見えた。
「まさかお前の顔をもう一度見る事になるとは思ってなかったぞ、三島」
『誰だ、貴様』
咳き込みながら顔を上げると、そこには昨日も会ったあの男が居た。男は右手を挙げ、天を指差す。
その間にもカブト虫を戒めようと触手がうねり空間を薙ぎ払うが、カブト虫はその全てを角で弾き返し縦横無尽に飛び回る。
「天の道を往き、総てを司る」
そんなカブト虫は男が手をかざすと、すっとこちらへ近づき男の手の中へ収まった。
展開していた羽の装甲を収めたそれは、まるで木に留まって安心しているようにも見えた。
「天道、総司」
『そうか、お前が……もう一人のカブトかぁっ!』
「ほう、俺の事を知っているか。それは良い事だ。俺は全世界の宝だからな。……変身」
男――天道はカブト虫を腰に装着していたベルトのバックルへ、横向きに装着。
右側から頭部を突き出すように展開した瞬間、ベルトから薄い水色の光が展開。
≪HENSIN≫
その光はヘックスを形作りながら男の頭と足先に向かって広がっていき、銀色を基調としたアーマーと黒いスーツへ変化。
下はガタックとほぼ同じ黒色のスラックスだが、上は違う。胸元は角張っていて、中心には赤のカラーリング。
肩アーマーは丸みを帯び楕円形で、左肩前面にはZECTの文字。腕に拘束具のような装甲を身に着けている。
頭部はアメフトのヘルメットに近い形状で、顔の前面が青い水色のスクリーンに彩られていた。
額にはガンダムみたいな黒い二本角があるそれは、資料で見た事のあるカブト・マスクドフォームそのままだった。
「キャストオフ」
天道はそう宣言し、腰に装着したカブトゼクターの角を右手で跳ね上げる。
それにより上半身に身に着けている装甲がせり出した。三島さんがそうはさせまいと、こちらへ触手を伸ばす。
≪CAST OFF≫
だが天道がそのまま角を右に向かって折りたたむと、装甲がパージされ周囲に……いや。三島さんに向かって集中射出。
それは伸びていた触手を叩き跳ね除け、触手共々こちらへ飛び込んでいた三島さんをも打ち抜きその動きを止めた。
そうしてカブトは赤い薄手の装甲を纏う姿となり、顎から伸びている大きな角がゆっくりと動く。
顎の先にある回転基部によって大きな角は顔の前面へと装着され、不格好な一つ目だった顔が二つの大きな目になる。
その境となっていたのは、細まっている角の中核――角が完全にスクリーンにくっついた時、それが輝いた。
≪CHANGE――BEETLE!≫
『……貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
三島さんは叫びをあげながら、左手の爪を振り上げこちらへ突撃。数メートルという距離を一足飛びで詰めてきた。
左の爪で打ち込まれた袈裟の斬撃を、カブトは右手の裏拳で払って回避。それとほぼ同時に左拳を胸元へ叩き込む。
そうして三島さんが怯んだところでカブトは静かに懐に踏み込み、右・左・右のワンツーパンチ。
的確に三島さんの顔面を揺らしたかと思うと、すっと下がりつつ三島さんが打ち込んだ右拳を左の掌底で下に払う。
……いや、その腕を掴んで素早く身を時計回りに捻り、三島さんを8時方向へ投げ飛ばした。
三島さんは地面を転がり、数メートルの距離を取りながら起き上がって膝立ち状態になる。
その瞬間、三島さんの姿が消えた。それを見たカブトは即座に腰の右サイドにある押し込み型のスイッチを手の平で叩く。
「クロックアップ」
≪CLOCK UP≫
そうしてカブトの姿も消えて……クロックアップ、したのか。こうなると普通の状態では見えない。
俺もクロックアップしようとするが、身体が全然動かない。あの一撃でどれだけダメージ受けたんだよ、俺。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ここでクロックアップの仕組みについて、改めて説明しておこう。クロックアップはただの高速移動に非ず。
まずは脳内に二種類のベルトコンベアを想像してみよう。一つは普通の速さで、もう一つはそれよりもずっと速い。
普通の速度は回転寿司のレーンなどを想像すると分かりやすいだろう。このコンベアと速さが時間の流れと仮定する。
クロックアップは自分だけが普通のコンベアから、それより速いコンベアに移動する能力だと考えて欲しい。
実際に速く動いているというよりは、通常我々が過ごしている時間よりも流れが速い別世界に居る感覚に近い。
今カブトと三島が戦っているのもそんなコンベア――時間流の中。
ここは普通の時間流からは干渉出来ない別世界。普通の時間軸でどれだけ速く動こうと、ここでは無意味。
これはアラタがモノローグをしている間に起きた、一瞬の出来事である。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
奴が突き出す右の触手を右スウェーで避け、続けて来た左の触手も右のスウェーで回避。
だが左の触手はそこから俺を縛り上げようとするので、右の裏拳で横に跳ね飛ばしておく。
奴は触手を一瞬で肩に収納し、俺に向かって踏み込み左の爪を突き出してくる。
右の掌底を外側から打ち込みその軌道を逸らし、素早く顔面へ左ストレートを打ち込む。
それに怯んだ三島は流された爪を左薙に打ち込んで来るので、素早く下がって回避。
三島はこれを好機と勘違いしたのか、更に踏み込み爪を逆袈裟・左薙・刺突としつこく振るう。
二撃目までは下がって避けるが、最後の刺突を右の裏拳で横に払う。そのまま上半身を捻り、左ストレートを今度は胸元へ叩き込む。
動きが止まったところで今度は俺が奴に踏み込み、まずは右フックを顔面に一発。それから左腕を挙げる。
こちらへ打ち込まれた右フックをそれでガードしながら再び右ストレートを顔面に叩き込み、その拳を返して裏拳。
その勢いを活かしたまま左フックを奴が突き出してきた左爪へ打ち込み、軌道を横に逸らす。
続けてその拳を左薙に振るって裏拳。顔面を打ち抜き怯んだところで右・左・右・左・右と胸元へ連続ストレート。
反撃に逆袈裟で打ち込まれた爪を伏せて避け、奴のサイドを取りつつ左肘を背中に打ち込み地面に転がす。
振り返ると奴は右拳を打ち込んでおり、それを左の掌底で横へと払いつつ下がって追撃に対処。
二撃目……左爪で打ち込まれた右薙の斬撃も伏せて避け、頭に向かって打ち込まれた右ミドルキックも右に身を捻って回避。
右の掌底で強めに奴の右足を払い、体勢を崩したところで顔面に左フックを一発。奴を後ずらせ隙を作る。
再び踏み込みながら右・左と二発打ち込んだところで、左爪での刺突を左頬すれすれで避け、クロスカウンター。
奴の顔面を左拳で打ち抜き下がらせたところで身体を起こし、右親指でカブトゼクター上部のボタンを押す。
≪1≫
逆袈裟に打ち込まれた爪を再び右に動いて避けるが、その返しで左薙の斬撃が襲う。
それには左のエルボーを打ち込んで弾きつつ、続けて二つ目と三つ目のボタンを押す。
≪2・3≫
ゼクターの角――ゼクターホーンを両手を使って一度元の位置に戻し、俺から下がりながら再び放ってきた触手達での刺突を左へ避ける。
「ライダーキック」
続けてきた薙ぎ払いも身を伏せながら右に移動して避け、奴に早足で迫りながらゼクターホーンを再び倒す。
≪RIDER KICK≫
触手を収納し、距離を詰めてきた俺に両腕を広げて飛びかかってきた三島に……右回し蹴りを叩き込む。
青と白――いいや、虹色の火花と光に包まれた俺の右足は、閃光となり三島を横一文字に一刀両断。
奴は身体から白い火花を放ちながら悲鳴をあげ、衝撃に逆らえず地面に転がっていく。
≪――CLOCK OVER≫
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺から少し離れた位置に、ついさっき消えたはずのカブトと三島さんが現れた。
カブトは三島さんに背を向けながら身をやや屈み気味にして、三島さんは地面にうつ伏せに倒れていた。
壁際付近で身体から白い火花を放ちながら、もがいて震えている。それで顔を上げ、天道を睨みつけていた。
天道はそんな三島さんへ振り返りながら見下ろし、余裕と言いたげな空気を出す。
「随分丈夫だな。だが、弱い」
『弱い……この私が、弱いだとっ!』
「別世界のお前はもっと強かったぞ。……いや」
カブトは構えも取ってないのに隙を見せている様子もなく、ただ立ち続けるだけで三島さんを威圧していた。
三島さんは確か格闘術もめちゃくちゃ出来る強い人なのに……そうだ、圧倒しているんだ。
「俺が余りに強くなり過ぎたという事だろうか。おばあちゃんは言っていた。俺の進化は光よりも速い。
全宇宙の何者も、俺の進化にはついてこれないってな。……お前のように進化を諦めた負け犬ならなおさらだ」
「アンタ……は」
「お前は死なせるには惜しい」
天道は三島さんにかける声よりもずっと優しい声で俺にそう言って、仮面越しだが横目でこちらを見た。
「昨日も言ったが、お前は俺の友と同じ匂いがするからな。……少し休んでろ」
『カブトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!』
そうして左肩から触手を放ち……だがカブトはなんの迷いもなく踏み込んだ。
その右手にはいつの間にか逆手で短剣が持たれていて、カブトは三島さんへ踏み込みながら右薙に打ち込む。
次に刃を返し左薙――黄金色の刃が鋭い剣閃によって更に煌き、こちらへ迫っていた触手を中ほどから両断。
触手は斬られた衝撃で宙を舞い、三島さんがその痛みのせいか呻き声をあげる。
『く……!』
天道が更に踏み込もうとした瞬間、三島さんの姿がかき消えた。それから跳ね上げられた触手が地面に落ちる。
「逃したか。まぁよしとしよう。今は」
天道は興味なさ気に振り返り、俺へ近づき肩を貸してくれた。
「あの、三島さんの方を」
「いいから来い」
ベルトからガタックゼクターが離れた事で俺の変身は解除され、ふらつきながら生身で天道にもたれかかる。
「このままZECTに居ると危険だからな。安全なところまで運んでやる。
アイツを追った後でネイティブに襲われても敵わん」
「……すまない。だがマズい、早く三島さんを止めないと」
「どういう事だ」
「出動がかかる前、隊長が……カブト捕獲作戦の詳細を教えてくれたんだ」
三島さんはZECT総監の側近。そんな人があれなら、その作戦もとんでもないものになる。
俺は助かった喜びよりも恐怖を強く感じていた。そうだ、俺は今まで信じていた組織が怖くなっている。
どうして、こうなった。ZECTの理想は……天道はなにも言わず、俺に肩を貸しながらゆっくりと歩き始めた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ディケイドは自爆したっぽいので、気にせず爆発が起きた周辺へ移動。クロックアップならこの程度の距離は一瞬だ。
狙っていたものが近くに居る感覚が、どんどん強くなっている。ディケイドの始末も大事だが、こちらの方が重要。
俺はその感覚のままに足を進めた。そうして爆発箇所からさほど遠くない地域で、倒れている黒髪の少女を発見。
俺は変身を解除し、彼女に駆け寄る。……自然と喜びで口元が歪んでしまう。
「……マユ」
間違いない……マユだ。俺の中にある記憶が確かに覚えている。俺はマユを見て、笑いを抑えられなくなった。
これでカブトは釣れる。いや、それだけではない。彼女の力は『我々』からすればとても稀少なものだ。
人と同じ生まれ方をしたネイティブ――俺は彼女を両腕で抱きかかえ、ゆっくりとその場から離れる。
役立たずなガタックは三島さんが始末している事だろう。もうすぐ……もうすぐだ。もうすぐ世界は我々の物になる。
「ん……くぅ」
腕の中のマユがもがき薄く目を開く。そうして視線を泳がせ俺の顔を見て、ゆっくりと目を見開いた。
「うそ、おにい……ちゃん」
「そうだよ、マユ。さぁ、行こう」
「行こうって、どこへ」
「俺達の居場所さ。お前は人間ではない。だからもう今までの場所には居られない」
マユは俺の言葉にショックを受けた様子で、視線を左に逸らし涙を零し始める。
「でも大丈夫」
俺は笑いながら、そんなマユを慰めるために本当の姿を出す。なのにマユはどうしてか怯えた顔をした。
それが見せたのは丸みを帯びた黄金色の甲冑に、腕の側面から爪を生やした腕は素敵なのになぁ。
黒い斑点模様がついた身体はかなり美的だと思うし、その中で一番の自慢は側頭部の足だ。
ひょうたん型で耳みたいな形から生えている細かい毛が生えた細長い足は素晴らしいデザインだと思うんだが。
また笑いかけても、マユは怯えたまま俺から逃げようとする。
でも俺は力を込めてマユを抱きかかえてるから、それは無理だ。全く、お転婆だなぁ。
『俺も人間じゃないからな』
「や……やぁ」
『心配する事はない、マユ。ちょっとお前の力を借りて……この世界を俺達色に染めるだけだから』
向かうは都内某所にある電波タワー地下に作った、ZECTの前線基地。
そこで世界が変わる。俺達にとって生きやすく素晴らしい世界が……楽しみだなぁ、マユ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
もうすぐユウスケ達と合流という時、かなり近くでとんでもない爆発を感知。てゆうか、こっちまで爆風が届いていた。
僕はその中に足を進め、新しく生まれたクレーターと爆煙を突っ切り……ボロボロの姿で倒れているユウスケを見つけた。
慌てて駆け寄り、うつ伏せになっているユウスケを起こして身体を揺らす。
「ユウスケ、しっかりしてっ! ……ユウスケっ!」
≪あの、マズいですよ。今スキャンしたら……心臓が停まってます≫
その言葉に寒気を感じながらも、僕はユウスケの胸元に左耳を当てる。確かに心臓の鼓動が感じられない。
ついでに呼吸も止まってる。僕はその場にユウスケを寝かせ、ダガーを取り出し服の前を真っ直ぐに切り裂く。
多分普通の心臓マッサージや人工呼吸じゃ間に合わない。右手をユウスケの胸元に当て術式……待て。
今それをやっても大丈夫なの? いや、迷ってる暇はない。アマダムの力をアテにするのも危険。
僕は意を決して出力を調整した上で電撃を送り込む。蒼い電撃により、ユウスケの身体は震え……僕はすぐさま停止。
ユウスケは身体の震えを止めると同時に咳き込み、身体をくの字に折りながら寝返りを打つ。
「ユウスケ、大丈夫っ!?」
「あ……あぁ。姐さんに会いに行ってた」
「それガチにやばかったじゃないのさっ! ……マユちゃんは」
「そうだ」
ユウスケは慌てて身体を起こすけど、すぐに崩れ落ちてしまう。僕は咄嗟に両手でそれを支える。
「恭文、どういう事だよ。マユちゃんが……ワームに」
「……やっぱりか」
「お前、知ってたのか」
「ついさっきね。とにかく一旦写真館に戻るよ」
でもユウスケは首を横に振り、僕の方を真剣な顔で見る。
「俺は大丈夫だから、士とマユちゃんを」
「だめ。これじゃあ」
僕はユウスケから周囲に出来た惨状へと視線を移す。あっちこっちで炎が燃え、廃材が散乱しているこれは地獄絵図。
相当どでかく力を放出したのだと思い……同時に自分のミスを痛感し、表情が苦くなる。
「もやしもマユちゃんも探しようがない。ZECTも嗅ぎつけてくるだろうし、うろちょろしてたらすぐ捕まる。……ごめん」
「謝るなって。とにかく事情、聞かせてくれ」
「うん」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ある日の事……僕達六課フォワード四人は、リイン曹長とヴィヴィオとヒロリスさん達共々おじいさんに拉致された。
うん、言っている意味分からないよね。でもね、僕も分からないんだ。とにかく連れられて来たのはデンライナー。
なんていうか、あれだね。デンライナーってチケット無くても乗れるものなんだね。僕、びっくりしたよ。
いや、それよりなによりびっくりしたのは、六課の現状かかなり危ないという事。うん、もうあれだよね。
そういう話は……出来る限り最初の段階でして欲しかったんだけどっ!
ほら、キャロもポカーンとしてるし、リイン曹長も唖然として気絶しかけてるしっ!
スバルさんも泣きそうだし、ティアさんなんて事態が理解出来ないのか枝毛探し始めたよっ!
……あ、ヴィヴィオはナオミさんとハナさんに別室で見てもらってるのであしからず。さすがに聞かせられない話だから。
「おいクソジジイ、まぁまぁ事情は分かったけど……いきなりそれはないでしょっ! せめて事情説明してからじゃねっ!?」
もちろん驚いているのはヒロリスさんとサリエルさんも同じ。……相当キレてるなぁ。
「どうすんだよこれっ! ヘイハチ先生、分かってますっ!? アンタもうミッドに戻れないぞっ!
部隊長達以上に厄介な人間として局に目つけられますよっ! てゆうか重犯罪者でしょうがっ!」
「アンタ馬鹿だとは思ってたけど、予想上回ってくれたねっ!
これ、完全に六課は悪くないって結論出さなきゃ、誰も庇い立て出来ないし!」
「お前らカリカリするなぞい。てゆうかヒロリス、相変わらず色気ないのう。まな板じゃし」
その瞬間、ヒロリスさんの右拳がおじいさんの顔面に……わりと本気で入った。
ヒロリスさんが拳を引くと、おじいさんは鼻から血を流しながら涙目で頭を下げた。
「ごめんなさい」
「よろしい。で……どうすんのよ」
「どうするもなにも、しばらく避難するしかないじゃろ。ここじゃったら捕まる心配もないわい」
「それは困りますねぇ」
デカ長……じゃなかった。オーナーが車両後部の席に座って、この状況なのにチャーハン食べながらそう言って来た。
それが信じられなくてついジト目で見てしまうのも、許して欲しい。というか、おじいさんも困った顔してるし。
「オーナー、頼むぞい。さすがに子ども達にツケを払わせるのは忍びなくてのう。
ヒロリス達はどうでもえぇんじゃが、はやてちゃんから頼まれてしもうたから。
……あー、チケットはまた買うぞい。ヒロリスが金払ってくれるそうじゃし」
「私アテにすんなよ、この馬鹿っ!」
「そうではありません。このままここに居るとあなた達、元の世界に帰れなくなりますよ?」
「はぁ?」
今ひとつ言っている意味が分からないでおじいさんが首を傾げる。
するとずっと席に座って黙っていたモモタロスさんが立ち上がり、こちらへ近づいてくる。
「おいお姉様、正直に答えろ。今青坊主と付き合ってるの誰だ」
「はぁ? モモタン、アンタなに言ってんの。そんなのギンガちゃんに決まってるでしょうが」
「ですよね」
僕達の答えを聞いてモモタロスさんは足を止め、近くに居たウラタロスさん達とスクラムを組んだ。
「おいどうする」
「これはもう……いつものパターン?」
「なんや、まだあっちの方と線路繋がってたんかい。いつまでこの状態が続くんや」
「やっぱりスーパー大ショッカーっていうの倒してないせいかなー」
「おーい、いったいどうしたんぞーい。お前らこそこそせんとこっち向けー」
おじいさんの声で全員の視線がこちらへ向く。でもすぐにスクラムの中に頭が埋まった。
それでなんか全員揃って両手を使って、自分以外の背中をパンパンと叩き始めた。
そこから両足を踏ん張って力を入れてぶつかり合い、ラクビーかなにかみたいな行動を取り出す。
その結果輪から押し出されたウラタロスさんがこちらへたたらを踏みながら近づき、右手をくねくねさせながら視線を泳がせる。
「あーえっと……みんな、非常に言いにくいんだけど」
「なんぞい」
「僕達って、みんなが知ってる僕達じゃあないんだよねぇ」
『……はい?』
ウラタロスさんはかなり困った様子で事情説明をしてくれて。
『はぁっ!?』
結果僕達、信じられずに絶叫しました。いや、信じられるわけがない。さすがにそれはありえない。
この電車に乗ってたらフェイトさんが恭文とエロ甘になっている世界にレッツゴー!? どんな超展開かな、それっ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ボロボロのユウスケを連れ、ほぼ逃げ帰るように光写真館へ戻った。フェイトもギンガさん達もびっくりしてたっけ。
事情を話しながらユウスケを手当てしてソファーに寝かせ、どういう事かと詰め寄ってきた三人とお話開始。
お題は別世界だから確信が持てず、まず調べてからと思っていた……カブト最大級のネタバレだよ。
「――最初に言っておくと、原典カブトに出てきた天道総司には妹が二人居た」
「二人?」
「一人は日下部ひより。もう一人は天道樹花」
「え、ちょっと待って。ヤスフミ、どうして妹なのに苗字が違うの? おかしいよね」
「天道総司の旧名は日下部総司なんだよ。ただ二人の両親は、渋谷隕石前にネイティブに殺された。
それも日下部ひよりが生まれる前。天道っていうのは日下部家の親戚筋で、幼い日下部総司はそこに預けられた」
だから天道樹花とは義理の兄妹で、更に実の妹が居るという一部の方からすると羨ましい状況だったのよ。
ここがみんなに話せなかった理由の一つ。てゆうか、メタ過ぎてまずは実際をと考えちゃった。
「そのネイティブ達は二人を『そのまま』擬態してたけど、数年後の隕石騒ぎで死亡。
天道総司はその時の騒ぎに巻き込まれて、自分の父親に擬態していたネイティブからライダーベルトを託された」
「なぎ君、ちょっと待って。ネイティブがライダーベルトを自分達が殺した人達の息子に渡すっておかしいよ」
「普通ならね。ただ隕石騒ぎで死にかけたせいで、父親の意識がネイティブの中で目覚めたの。
ネイティブやワームってね、記憶や経験を取り込む事で極たまにだけど……取り込んだ存在の自我が表に出るの。
実際劇中でもそういうワームは居たのよ。そのワームは自分がワームという自覚さえなかった」
「じゃあその時だけはその、お父さんだった? だから天道さんにベルトを渡せた」
「そういう事」
通常擬態しているワームは、擬態対象の記憶とワーム自身の記憶を有している。
本来はワーム自身の自我が二つの記憶を制御して利用してるけど、極々たまに擬態対象に乗っ取られる。
例え本人が死んでいても記憶や経験――そこから生まれる性格は、本人そのものなんだ。
まずこの辺りは……みんな大丈夫みたい。フェイトが首傾げてるけど、いつもの事なのでスルー。
「じゃあ亡くなった妹さんがひより……ご両親が亡くなる前に名前つけてたんだね」
「いいや、日下部ひよりは生きている。劇中にもヒロインとして登場してた」
「ヤスフミ……それは意味が分からないよ。だって生まれる前に亡くなったんだよね」
「そうだよ。だからこう言えば分かるかな。……母親に擬態したネイティブは、当時お腹の中に居た日下部ひよりも含めて擬態した」
『はぁっ!?』
三人とも信じられない様子で……やっぱり驚くよなぁ。僕もテレビ見ててあれは驚いたから、その気持ちはよく分かる。
「その後ネイティブは日下部ひよりを出産。ネイティブから生まれた子だから、当然ネイティブ。
しかも擬態してどうこうじゃないから、本人にネイティブとしての自覚は全くなかった」
「じゃ、じゃあマユちゃんがネイティブなのは……そんなのありえるんですかっ!?」
「なぎ君、もう一度確認するけど、マユちゃん本人が殺されてどうこうじゃないんだよねっ!
本当に自分がネイティブって知らなくて、そのまま成長しただけっ!?」
「おばあさんが認めたから、間違いない。こっちの世界でも全く同じ経緯だった。これを確かめてたんだけど」
まさかそのままとは思ってなかったんだけど……あぁもう、しくった。
みんながマユちゃんを色眼鏡で見ても嫌だったし、話してなかったのが裏目に出るとは。
「それじゃあどうして天道さんのご両親は殺されたんですか?
だってネイティブは人間との共存を望んでたんですよね。襲う理由がありません」
「そうじゃない連中がZECTを裏から動かしていたから。日下部夫妻は、ライダーシステムの製作者だったのよ。
これが一番の理由なんだけど……日下部夫妻はネイティブがいつか敵になる事を予測して、爆弾を作ってた」
「爆弾?」
「ゼクターは基本ネイティブの命令には絶対服従。でも例外がある。
それが天道総司の持つカブトゼクターと、アラタさんが使っているガタックゼクター。
そして以前僕達を襲ってきたキックホッパーとパンチホッパー」
『キックホッパーとか誰?』という人は、クウガの世界で襲ってきたあのライダー達を思い出して欲しい。あれがキックホッパーとパンチホッパーだよ。
「日下部夫妻とZECT内でいつかネイティブが牙を剥くと考えていた人は、協力してこれらに爆弾を仕込んだ。
一つはネイティブを装着者として認めないシステム。ここはネイティブと接触した段階でホッパーゼクター以外の装着者を決める事で対処した」
「え、ホッパーっていうのは違うの?」
「ホッパーは後から作られたものだからね。カブトとガタックが特別なんだよ。
その装着者の名前は日下部総司と加賀美新(かがみ・あらた)。計画を練っていた当時は生まれてもいない二人だよ」
日下部夫妻と協力者――加賀美新の父親は、自分達の子どもがゼクターに選ばれるように細工を仕込んでいた。
もうそれしかなかったとも言える。でも三人が作った爆弾のメインは、実はこっちじゃない。
「もう一つは『赤い靴』と呼ばれる暴走スイッチ。赤い靴は装着者の意思を無視して、ワームやネイティブを延々倒し続けるシステムと考えればいい」
≪日下部夫妻はその動きをネイティブ側に察知され、邪魔になると判断され暗殺されたんです≫
「そういうネイティブに反旗を翻すシステムだから……ヤスフミ、私達が言った事は正解だったよねっ!
ネイティブも結局敵だよっ! なのにどうして昨日は倒すのだめとか言うのかなっ! おかしいよね、それっ!」
「だからマユちゃんも倒せと?」
さすがにありえないので視線を厳しくすると、フェイトがハッとしながら視線を泳がせ始める。
「あの子は自分がネイティブだとは気づいていなかった。おばあさんも天堂ソウジも教えてなかったのに。
あの子は人類の敵なんかじゃない。まだ誰かを自分の意思で襲って傷つけてもいないのに……それでいいわけ?」
「それは……そうだけど」
「フェイトさんが心配してる事は、分かる。でもそれはあの子次第じゃないかな」
ソファーに寝かせていたユウスケが、身体を震えながら起こし荒く息を吐く。
「あの子の心は、人間なんだよ。ワームやネイティブどうこうじゃない。
あの子がこの世界で生きたいと望むなら、その気持ちは守らなくちゃ」
「ユウスケ、乗ってくれるの?」
「あぁ。俺はあの子を見捨てられない。今俺達が手を引いたら、あの子は本当に怪物になるんだ。
身体が怪物でも、気持ちまでそれに引きずられたらもう救えなくなる。行くぞ、恭文」
立ち上がろうとしたユウスケに、夏みかんが慌てて駆け寄って止める。
「ユウスケ、無理しちゃだめですよっ! 大怪我してるんですからっ!」
「おのれは休んでろ。後は僕が始末をつける」
「悪いがそれは無理だ。俺も行く。俺も……戦う」
「一緒に行ってやれ」
この声は……僕は苦い顔で、写真室の入り口を見た。
そこには予想通りにあの男がムカつくくらいに自信満々な顔で立っていた。
「お前は今、真に選ばれし者になれるかどうか試されている。
だからお前がこの世界の未来を照らし出せ」
「……天道総司、今度はなに。麻婆豆腐でも作りに来たの?」
「お前達に教えておきたい事があってな。すまないがコイツの治療も頼む」
フェイトとギンガさんにそう声をかけてから、天道は一旦脇に引っ込む。
そうしてそちらに居た誰かに肩を貸しながら、改めて写真室へ……へ?
「アラタさんっ!」
「ここ……は」
「ZECTの事を考えたら、病院よりも安全な場所だ。しばらくじっとしていろ」
アラタさんはボロボロでユウスケと同レベルかというくらいに傷だらけで、天道に連れられそのままテーブルに着席。
力なくうなだれながらも必死に身体を起こし、僕達全員の顔を見る。
「聞いてくれ。ZECTは……とんでもない事を計画していた。カブトを捕まえるため……いや」
首を横に振ってからアラタさんは、右拳をテーブルに叩きつけた。
「全てのライダーを無力化するために、クロックダウンシステムを作ってたんだっ!」
「クロックダウンシステム?」
「ライダーシステムの特徴であるクロックアップを無効化するシステムだそうだ」
天道はそんなアラタさんを見て腕を組みながら、表情も変えずに僕達の疑問に答える。
「それでこの世界のカブトを捕まえ、用なしな他のライダーも駆逐。
そうしてZECT上層部に居るネイティブがこの世界を支配するわけだ」
「用なしって……あの、おかしいじゃないですかっ!
ヤスフミから話を聞きましたけど、ライダーにワームを倒させてたのにっ!」
「お前は本当にバカだな。ライダーをアテにする必要がなくなったからに決まっているだろう。
あの弟切ソウとか言う奴も計画に乗っているところを見ると、おそらくはネイティブだ。そしてその裏には」
「スーパー大ショッカーが居る」
フェイト達が驚きの声をあげるのは気にせずに、やっぱり表情を変えない天道をもう一度見る。
「奴らがアテにしているのは、スーパー大ショッカー。
交換条件としてライダーの駆逐を持ち出したとかなら話が繋がる」
「奴らは元々この世界をネイティブのものにしようとしていたからな。
それが出来るのであれば、ライダーがどうなろうと関係ないと言ったところだろう。
……罠とも知らずに、バカな奴らだ。三島はどこの世界でも三島か」
「三島っ!?」
聞き逃せない単語が飛び出たのに驚き、僕は天道につい詰め寄ってしまう。
「三島ってまさか、あの三島っ!? アイツも居たんかいっ!」
「なぎ君、三島って知ってる……当然か。原作のカブトに出てきた人だよね」
「うんっ! ZECT総監の側近っ!」
三島とは今言ったようにZECT総監の補佐役。フルネームは三島正人。もちろんこの世界ではどうかは知らない。
ZECT総監――加賀美新の父親はさっきフェイト達にも話したように、ネイティブ対策を採っていた善良な人だったけどコイツは違う。
ワームを倒して人々を守るという理念よりもZECTという組織そのものを守る事、その中で得られる権力にのみ固執している。
その上かなり冷酷な性格で、手段も選ばない。だから……終盤にネイティブ側に寝返りZECT総監を放逐。
自分がZECTのトップに立って、人間である事も捨ててネイティブへと変貌を遂げた。ようはラスボスなんだよ。
それで戦闘力はかなりのもの。天道も原典のガタックとタッグで挑んでようやく勝てたくらいだし。
「奴もネイティブだ。こっちでも力と権力欲に溺れて……本当に器の小さい奴だ」
「あの、ちょっと待って。罠ってなにかな」
「簡単だよ、フェイト。ワームは既にスーパー大ショッカーと繋がっている。だからライダーが駆逐された後は」
「ワームとスーパー大ショッカーが手の平返しで、ネイティブやZECTごとっ!?」
「そういう事か……!」
また写真室入り口から知ってる声がした。慌ててそっちを見ると、もやしが息を切らせて立っていた。
「もやしっ! おのれ今までどこ行ってたのよっ!」
「おいユウスケ、マユは」
「すまない。マユちゃんは」
「おそらくZECTの施設だ」
そんなもやしに天道総司が右手で、あるものをほうり投げた。なにかのメモ帳らしいそれをもやしは両手でキャッチ。
「これは」
「調べておいた。ZECTの連中はそのタワーの近くにかなりの数出入りしている。
何事かとは思っていたんだが、これで辻褄が合う。……行ってやれ」
「……助かったっ!」
もやしは笑顔を浮かべ、そのまま玄関に向かってダッシュ。
僕とユウスケも早足でその後を追い……僕は振り返り、フェイト達を右手で指差す。
「三人とも、アラタさんの事お願い。ユウスケ」
「止めるなよ」
「……行くよっ!」
「おうっ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ヤスフミ、ユウスケさんも待ってっ!」
「やめておけ」
さすがに三人だけでZECTの基地とかに乗り込むのは……そう思って止めようとしたのに、あの人がすっと私の前に出て邪魔をする。
「おばあちゃんはこう言っていた」
それでまた、そんな事を言って天を指差す。この人はこう、私の事をバカにしている感じがしてイライラするし好きになれない。
「帰れる場所があるからこそ、離れていられる時もある」
「どういう、意味ですか」
「お前はもう分かっているはずだ。自分が選ばれし者ではないと知った、今のお前ならばな」
そうだ、私は……分かってる。私に戦う事は出来ない。今一緒に行っても足手まといなだけ。
分かってたはずなのに、つい……両手で自分の頬をパンと強めに叩いてから、テーブルに着席。でもすぐ立ち上がった。
「アラタさん、とりあえずソファーで横に。すぐ傷の治療をします」
「……すまない」
私はアラタさんをソファーに寝かせ、回復魔法を発動。同時に回復結界も展開。
金色のドームでアラタさんを包み込むと、さっきまで辛そうな顔をしていたアラタさんは安堵の息を吐く。
「でもフェイトちゃん、誤解しちゃってるわねぇ」
それに安心していると、キバーラが私の前に来てくすくす笑い出した。
「なにが、かな」
「仮面ライダーが正義のヒーローかなにかと思ってない? 怪人だから倒してOKと思ってるっぽいし」
「……それなら勘違いじゃないよね。テレビではそうしてたし」
「それが勘違いよ。あなた、外見やスタイルはともかく中身はホント子どもねぇ。恭文ちゃんも女を見る目がないわぁ」
キバーラは更にクスクス笑って、私の8時方向にあるテーブル上へ移動。
「仮面ライダーはただの同族殺しよぉ? 自分と同じ力と身体を持った相手と戦い、それを殺す『悪魔』」
「同族? あなたなにを……ううん、騙されないっ! またワケの分からない事を言って混乱させるつもりなんだっ!」
「そう思うなら勝手に思っていればぁ? あなたがどう思おうと、事実は変わらないんだからぁ。
……例えば初代ショッカーに反旗を翻した仮面ライダー1号と2号は、元々ショッカーの改造人間。
戦っていた怪人達は、ライダー達と同じ改造人間だったわぁ。それはカブトも同じぃ」
キバーラはテーブルの上から飛び上がり、天道さんの周囲をひらひらと飛び回る。
「カブトだってワームという存在の力をコピーして出来ているものぉ。
電王もそう。イマジンの力を使って、イマジンを止めてる。
モモタロちゃん達だって同族を何人も何人も殺しちゃってるわけだしぃ」
「でもそれは、怪人やワームにイマジンが悪い事をしているからだよねっ!
なのにそんな言い方ないよっ! ……やっぱりあなたは信用出来ない」
「じゃあマユちゃんの事を聞いて、あなたはどうしてネイティブを倒す話を持ち出したのかしらぁ」
キバーラが天道さんに右手で振り払われながら言った言葉に、私の胸が強く震える。
「あの子がユウスケちゃんに怪我をさせたからぁ?」
「そう……だよ。あの子はユウスケさんを傷つけた。殺しかけた。だったら」
あの子は可哀想だけど倒さなきゃいけない。だってこれから誰かを傷つけるかも知れない。それで人が死んだらどうするの?
誰も責任が取れないのに……私はそれが正しい事だと感じた。なのにキバーラは私を見て更に嘲笑を深くする。
「やっぱり分かってないわねぇ。仮面ライダーは業が深いのよぉ? 同族を殺し、人ならざる者だから人間からも恐れられる。
それを知らずにあんな事を言うあなたは子どもで、恭文ちゃん達の足手まといに成り下がるしかない」
「どうして……あなたにそんな事を言われなきゃいけないのかな。
スパイのくせに偉そうな事を言わないで。不愉快だ」
「スパイだからこそ分かるのよぉ? 恭文ちゃんは今、その仮面ライダーと同じ道を歩いている。
業を背負い、守るべき人から恐れられたとしても正義を貫く道を――もちろん士ちゃんやユウスケも同じ。
そんなライダー達と戦ってきた組織の一員だから、分かるのよぉ? ライダーは厄介だってねぇ」
言っている意味が全く理解出来ない。スパイとしてみんなを裏切っていたくせに、私に説教をしているのが許せない。
こんな奴の話は聞く必要がないと頭で跳ねつけているのに、妙に引っかかる。それが更に苛立ちを助長させる。
「それに私、ギンガちゃんに言ったわよねぇ。グロンギもファンガイアもオルフェノクも……人間と同じだって」
「なにが同じなのかな。どれも人を襲って傷つける怪物だよね。それを倒すのが仮面ライダーだよね」
「……やっぱりあなたは魔法を使っておまわりさんごっこは出来るけど、本当の正義の味方にはなれないのねぇ」
おまわりさん……ごっこ? 私が10年間積み重ねた執務官としての経験を、ごっこ遊びだと言うの?
そんな事ないと私を嘲笑うコウモリに怒鳴りつけようとした。でも否定出来ない。言葉が……続きが出てこない。
「あなたは正義を貫く業を、そのために背負う苦しみを知らない。綺麗なところだけを見て満足してる。
今までもそういう綺麗な事だけしてればなんとかなるとか思ってたんじゃないの?
全部分かった顔しても業を貫く事で汚れる事を、傷つく事を嫌ってそういうところはずーっと人任せにしてた」
「それ……は」
「否定出来ないわよねぇ。あなた、自分がなんて言ったか覚えてないのぉ?
自分が戦うわけじゃないのに、恭文ちゃん達にワームを全部倒せとか言うんだもの」
続きが出てこないのは、嗚咽が深くなるのは当然だった。なにも分かっていなかったんだから。
そうだ、当然だ。私は自分が汚れないからあんな事を言えたんだ。私は……自然と瞳から涙が零れる。
「あーあー、泣いちゃったぁ。ほんとおか……あたっ!」
夏海さんが右手で張り手をかまし、キバーラの言葉を止めた。
キバーラは地面に墜落しかけるけど、すぐに浮き上がって恨めしそうに夏海さんを見る。
「キバーラ、言い過ぎです」
「あら、夏海ちゃんが肩持つなんて意外ねぇ」
「いいんです。私だって……旅を始めた時は色々戸惑っちゃいましたし。
というかキバーラ、もしかしてちょっと怒ってます?」
「あら、どうしてそう思うのぉ?」
「今の言い方、フェイトさんにお説教してるように見えました。士くん達に押しつけるな。怪物どうこうで物を言うなーって」
夏海さんが疑わしそうに視線を向けると、キバーラは部屋の天井近くへ飛んでいった。
「さぁねぇ。ただ私、覚悟のない女は嫌いなのぉ。女は覚悟を背負う事で美しくなるのよぉ?」
「そうですか。でも……ファイズの世界やキバの世界を見てなかったら、私だって同じ事考えてました。フェイトさんだけじゃありません」
「それは、私もかな。特にキバの世界は、衝撃的だったから。うん、だから分かる」
夏海さんの言葉に頷きながらギンガは、写真室入り口を見る。
「身体や生まれが違うだけで一緒に生きられないなんて……とても悲しい事なんだ」
その言葉が胸に突き刺さり、ギンガの生まれを忘れていた事も突きつけられた。
場の空気を取りなそうと明るく話を続ける夏海さんやギンガの声が、どんどん遠くなっていく。
正義の味方ごっこ……否定、出来ない。私はいつも中途半端で、場を振り回すばかり。
さっきだってヤスフミの事を振り回してた。私は戦えないって分かってたのに。これもヤスフミと戦えない理由なんだ。
私はここにくる時、ヤスフミと一緒に居ればすぐ戦えて、力になれると考えていた。怪人が相手だろうと倒すと考えていた。
それがどういう意味かも考えなかった。ギンガや夏海さん達の言う世界があるなんて、想像すらしていなかった。
私はごっこ遊びしかした事のない子ども。私の10年は……無意味なものだった。悔しい、私はどうして……こんなに弱いの?
「おい」
目の前からいきなり声をかけられ、泣きそうな顔をハッとしながら上げる。するとそこには、あの人が居た。
「ちょうど良い。少し手伝え」
「手伝えって……なにを」
「アラタとアイツらの食事だ」
あの人は私にそれだけ言うと、すたすたと台所の方へ向かっていく。
「この俺秘伝のレシピを直々に教えてやるから、感謝しろ。これは言うなら奇跡の時間だ。
お前はこれから、奴らが地獄に落ちようと帰って来たいと思う料理を作り続ける」
「どうして、ですか」
「その答えも知っているはずだが」
私は右手で涙を拭い、両手で頬をパンと叩く。それからあの人の後を追いかけた。
「なにを、すればいいんでしょうか」
「まずは下ごしらえだ。全ての基本であり極意――しっかり目に焼きつけておけ。
今お前がすべき事の全てが、これからの時間に存在している」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ここまでのあらすじ――僕達が乗っているデンライナーは、恭文がフェイトさんと付き合っている世界のものでした。
うん、意味が分からないよね。というかさ、いきなりディケイドとか平行世界とか……本気で意味が分からないんだけどっ!
「みんな、信じられないのは分かる。でも事実だよ」
「それもその……かなり本気」
車両前方から聴こえた声に僕達は全員身体を震わせ、慌てて振り返る。
「……恭文っ!」
「フェイトさんも……一体今までどこに」
でもそこに居たのは、黒のワンピースを着たツインテールの女の子と……恭文もなんかちっちゃい。
「あれ、なんかちっちゃいです」
「フェイトさん、ちびっ子達と同じくらいじゃ。てゆうかアンタもそれ、どうしたのよ」
「その、少し前に色々あってね? 私達は」
小さいフェイトさんは、さっきまでスクラムを組んでいたモモタロスさん達を困った顔で見た。
「モモタロスさん達が説明したように、みんなが知ってる私達じゃないの。これがその証拠、なのかな」
「僕達もディケイド関連のゴタゴタに巻き込まれてね。その影響でなんだよ。
……全然戻りやしねぇし。スーパー大ショッカー、マジでぶっ潰す」
そんなフェイトさんの隣の恭文は両手をわなわなさせて殺気を放出……どこの世界でもこういうのは変わらないんだなぁ。
「それでやっさん、小さくなったフェイトちゃんもだが……なんでここに」
「向こうの僕と知り合いなみんなが乗り込んできたってオーナーから連絡もらって、様子見に来たんですよ」
「多分混乱すると思って……というか、混乱してますよね」
「かなりね。しかしマジでどうなってんだよ」
サリエルさんもさすがにありえないと思っているのか、右手で頭をかきむしる。それで不謹慎だけど、安心してしまった。
「確かに六課がツッコミどころ多いのは認める。だがそれを今言って、ここまで大きく問題にするのが妙に引っかかる」
「どういう風にツッコまれたんですか?」
「あれじゃよ、お前さんが殺したフォン・レイメイっちゅう雑魚が最高評議会の手先。
それを捕縛しようとした六課やそれにうるさく言ったハラオウン家はその仲間とされとる。
リンディちゃんもアルフもお前さん方を謀殺したとして、逮捕されてもうたからなぁ」
「うわ、そりゃひどい。局員としてそこは僕批難で止めるべきだろうに。
ただ……理屈は分かります。いわゆる『再利用』するつもりで止めたと」
「そうじゃ」
ようは重犯罪者を囲うために……不愉快だ。六課のみんなも僕もそんな事するわけないのに。
やっぱりこじつけなんだと確信して、両拳を強く握り締め震わせる。
「それと私の事も問題になってるんです」
「ティアの事も? ……なにかあったのかな」
「あれです。私がその、無茶した時の」
「あ……あぁ」
フェイトさんが困った様子で視線を泳がせ、ティアさんに対して頭を下げる。
「……ようはフェイト達がかましたパワハラの類だと。そっちでも起こってたんだ」
「えぇ。それを内部で片づけて今まで報告もしてなかったから、本局組は調子に乗ってるって扱いみたい。次に」
ティアさんとヒロリスさんで僕やスバルさん、フェイトさんが事件に関わったのが問題視されている事。
あとはヴェートルの一件についても言いがかりをつけられている事を話すと、恭文とフェイトさんは更に困った顔をする。
でも僕達には負ける。だって本当に意味が分からないんだから。僕は現状が信じられず、夢を見ている気分だった。
(第23話へ続く)
あとがき
恭文「というわけで……みんな、言いたい事は分かる。この世界のカブトが一度も出ていない事を気にしてるんだよね」
フェイト「そ、そう言えば」
恭文「でも大丈夫、原作でもこんな感じだったから。それにもう出てるから。ほら、弟切ソウが」
フェイト「あの人ネイティブだったよねっ! 完全に偽物だったよねっ!」
(カブトの世界って不思議だなー)
フェイト「と、とにかくお相手はフェイト・T・蒼凪と」
恭文「フェイト共々またちょこっと登場した蒼凪恭文です。いやぁ、まさか原典通りの展開になるとは。
それに三島まで出るとは。作者は馬鹿だねぇ。これ、どうやって収拾つけるんだろ」
フェイト「ちょっとっ!? ……えっと、カブトでのラスボスさんだっけ」
恭文「うん。ちなみに三島役の弓削智久さんは仮面ライダー龍騎にも出演していた。
こちらはラスボスとかじゃなくて、善良かつ有能な秘書さんだったけど」
(このお話書く参考にYou Tubeの東映公式チャンネルでカブト見てて……思いついてしまった)
恭文「そしてそんなラスボス三島と戦ったのに、ライダーフォームで圧倒するカブト。……マジで進化してるんかい」
フェイト「パワーアップ形態使ってないんだよね。原作だとヤスフミが劇中で言ったみたいな感じなのに」
恭文「てゆうかアイツ……向こうの僕と戦ってた時、絶対本気出してなかったろっ! あれ見てるとそうとしか思えないんだけどっ!」
(『当然だ。俺を誰だと思っている。全人類推定人口60億人の中でもっとも優秀な存在だぞ?』)
恭文「うわぁ、ムカつくしっ! やっぱりムカつくしっ! 傍から見てるとかっこ良いけど、直に話すとこんなムカつくとはっ!」
フェイト「ヤスフミ、落ち着いてっ! 深呼吸深呼吸っ!」
(閃光の女神になだめられ、蒼い古き鉄は深呼吸……それでようやく落ち着いた)
恭文「えー、それでとまかのの方は近日中にアップします。ついこっちに熱が入っちゃって」
フェイト「ディケイドのカブト回見ながら、一日やそこらで次回まで書いちゃったんだよね」
恭文「うん。本当は今回で終わる予定だったけど、分量の問題で……てーかバトル含めたら分割せざるを得ない」
フェイト「密度濃いの?」
恭文「かなり」
(というわけでとまかのもお楽しみに。そして次回はいよいよカブトの世界とも……さようならー。
本日のED:吉川晃司『ONE WORLD』)
恭文「カブトの戦闘スタイルは知っての通り、相手の攻撃を捌きつつの的確なカウンター。
でもそれだけではなく、全体的に流れるように鋭く速い攻撃や防御も印象的」
フェイト「確かに原作見ると……打ち合いとか凄いよね」
恭文「特にクロックアップ中は、早回ししてるんじゃないかってレベルだしね。
なのでカブトやクロックアップ中の戦闘も作者は基本そこを意識しているらしい。
とにかくスピーディーさを意識して打ち合うわけだよ。書いてると楽しいって」
フェイト「というか、やっぱりとまとって能力戦よりこういう格闘戦……ちょっと待ってっ!
そう言えばそのクロックアップでの戦闘前にナレーター出てなかったっ!? ほら、バトスピクロスっ!」
ナレーター『あれ、知らないんですか? カブトでも初期はクロックアップ開始直後にナレーション入ってたんですよ』
フェイト「……あ、そう言えば第2話とかで解説あったっ!」
恭文「うん、だからあれのオマージュ。ちょっと迷ったけど、どうしてもやってみたかったんだってー」
ナレーター『というわけで、お邪魔しましたー』
フェイト「それ有りなのっ!?」
(おしまい)
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