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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第21話 『カブトの世界/感じる絆』



恭文「前回のディケイドクロスは」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……美味い」





食べた時にまず口の中に広がるのは、鮮烈な辛さ。正直これはかなり辛い。

でもその後に来るのは、プリプリとしたエビの中から溢れる風味。

次に辛さだけではない複雑な旨みが襲いかかってくる。それでまた一口欲しくなる。



なので残っているもう半分を口の中に放り込んで……辛い。でもこの気持ちの良い辛さは、癖になるや。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文「というわけで、僕達はエビチリとおでんを極めてミスター味っ子との勝負に挑みます」

キバーラ「……毎度毎度思うけど、カオスよね。この前説」

恭文「大丈夫だよ、沢城みゆき。むしろとまとでそれは誉め言葉だから」

キバーラ「それもそうねぇ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



エビチリの基本的な作り方はまず、殻を剥いたエビに塩と片栗粉をつけてその状態で揉む。

そうして汚れを片栗粉に移すんだ。それから汚れが取れて水が透明になるまで、エビをしっかりとゆすぐ。

次にクッキングペーパーなどでしっかり水気を取ってから、卵白・酒・塩・コショウをまぶしよく混ぜる。



エビの下処理をしっかりとしないと、生臭くなったりしちゃうしね。でも、火の前に立つと早い。

中華料理は瞬間的に強烈な火力を通すというのが、基本パターンだから。なのでここからは鍋に向かい合う。

エビを油通し、または炒めて軽く火が通ったら器に分けておく。ここでは完全に火を通さない。



あくまでも……あ、油通しについても説明しないとだめか。まず油通しは、食材に熱を加える事が目的じゃない。

この時使う油の温度は130〜140度と比較的低め。その目的は複数あり、一つは食材を発色させる事。

火を通すと熱で色が変わる食材はあるでしょ? 材料の色が綺麗だと食欲がそそるの。



次に食材の味を良くするため。野菜の場合は含まれる水分が熱せられる事で野菜の外に出る。

その分本調理で熱を加えた時、調味料やスープの味が野菜に染み込みやすくなる。

肉や魚の場合は油通しによってその表面がさっと固まり、旨みが閉じ込められる。



結果素材の旨みが逃げなくなるんだ。中華料理の手法の中でも、重要な技法の一つだね。

その後はみじん切りにした生姜・にんにくと豆板醤を弱火で炒め、香りが出てきたらケチャップソースを投入。

ただし元祖の場合はケチャップはさっきも言ったように投入しない。あくまでも辛味を和らげるためのケチャップだから。



全体がプスプスと炒まったら、スープを加える。ここはご家庭なら、中華用の粉末スープでもよし。

その後は砂糖・酒・塩・コショウを混ぜて好みの味にする。それからいよいよエビを投入。

出来たソースに絡ませながら適度に火を通し、みじん切りの長ネギを加える。もちろんここは手早くだよ。



目指すはプリプリの食感。あんまりに火を通し過ぎるとパサパサするし、エビの旨みも逃げてしまう。



なので手早く合わせたら水溶き片栗粉でとろみをつけ、仕上げに酢とごま油をほんの少し足して風味付け――これで完成。





「出来ました」





フェイトが不満そうにしながらも、大皿二つに乗ったエビチリをテーブルの上に置く。

その色はやや黒みがかっていて、天道総司のエビチリを参考にしたのが伺える。

ただ……なんだこれ。てゆうか、調理時間がちょっと速過ぎない?



手順を考えると、もう10分くらいはかかっていいはずなのに……どうして。





「これでいいですよね。早くヤスフミのベルトを返してください」

「まずは食べてみるか」

「うん」





なんとなく嫌な予感がしつつもれんげでエビチリを取り分け、天道と期待の表情を浮かべるアラタさんに渡す。



当然僕の分も確保したので、箸でつまんでソースにほどよく絡んだエビをかじった。










世界の破壊者・ディケイド――いくつもの世界を巡り、その先になにを見る。



『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路


第21話 『カブトの世界/感じる絆』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なんとなく嫌な予感がしつつもれんげでエビチリを取り分け、天道と期待の表情を浮かべるアラタさんに渡す。

当然僕の分も確保したので、箸でつまんでソースにほどよく絡んだエビをかじった。……予想が当たって若干涙目になる。

アラタさんも怪訝な表情を浮かべ、天道に至っては箸を皿の上に怒りまじりに置いた。



明らかに見て取れる微妙な反応に、フェイトとギンガさんは首を傾げた。





「これじゃあだめだな」

「どうしてですかっ!? あなたが作ったのと同じですよねっ! ほら、色だってっ!」

「フェイト、ギンガさん、味見した?」



そこで二人は戸惑った様子で、首を横に振る。……やっぱりか。



「やっぱり。味見したならこんなの出すはずがないもの」

「こんなの……!?」

「なぎ君待ってっ! そんな言い方ないよっ! 私もお手伝いしてたから分かるけど、フェイトさん必死に作ってたのにっ!」

「なら食べてみて」



僕は小皿を差し出し、まだ残っているエビを二人に渡す。

二人は僕の箸を使って、そのエビを交互に食べて……刺激のあまり目を閉じた。



「なに、これ」

「な、なんか生臭……てゆうか辛過ぎる」

「下処理失敗してるんだよ。二人とも、エビの下処理ちゃんとした?」

「したよ。ちゃんと洗って」

「塩と片栗粉は?」



二人揃ってはっとした表情を浮かべるという事は、してないな。

調理時間が短かったの、そういう処理を抜いたせいか。ようやく納得したわ。



「あと豆板醤も入れ過ぎ。量としてはこの半分くらいでいいよ。
これじゃあ辛過ぎて食べられないし、エビやスープの風味も飛んでる。
火も通し過ぎだよ。エビもパサパサしてて口当たり悪いし」

「その通りだ。このエビチリはお前達の刺々しい気持ちばかりが出ている。人を感動させるようなものではない」

「じゃ、じゃあなんで生臭いの? 香辛料入ってしっかり火を通したなら」

「海鮮類は香辛料に頼るより、下処理をきっちりする方が大事なんだよ。
フェイトだって料理してるんだから、それくらい知ってるよね?」





食材の臭み消しでは、例え香辛料や香草などの香りのあるものを使うのがポピュラー。

でも一番重要なのは……下処理だよ。血やぬめりを取ったりアクを取ったり、そういう地味な仕事を丁寧にやる事。

片栗粉と塩を使っての下処理を抜いてしまった事で、エビの汚れがスープに溶け出して生臭さになってる。



さっき出された時、かすかにそういう臭いしてたからなぁ。口に入れたらもうだめ。ここまでヒドい失敗はあんま見た事ないかも。





「あと、油通ししてないでしょ。だからエビに旨みが残ってない」

「油通し? なにかなそれ……あぁっ!」

「そ、そうだっ! あぁもう、失敗したっ!」

「いや、俺はどっちも美味しいと思うんだけどっ! いや、ほんとほんとっ!」



アラタさんは落ち込む二人を見ながら必死にそんな事を言う。きっと空気を読んでるつもりなんだろう。

でもね……そう言いながらエビチリにこれ以上手をつけようとしないのが、なによりの証拠だよ。当然その事実は二人にも突き刺さる。



「……アラタは気にせずやり直しだな」



焦るアラタを見ながら天道がそう言うと、失敗作を作った二人は不満丸出しで天道に詰め寄る。



「あの、待ってくださいっ! これはなんのためにやるんですかっ!?
やっぱりベルトとなんの関係もありませんよねっ!」

「あ、そうですっ! 料理を作りながら事情聞きましたけど、無茶苦茶じゃないですかっ!
いきなり襲ってベルトを奪って、その上今度はこれなんて意味が」

「いいからやれ。だが俺達全員の腹も無限ではない。早くしないとチャンスをなくすぞ」



そこで当然のように二人の視線は僕に向いてしまう。



「ヤスフミっ!」

「なぎ君っ!」

「それは無理だわ、言って聞く人じゃないもの。力で押さえつけるのも当然無理」





そう言いながら、僕は右手で窓の外を指差す。二人は僕の背後にあるそこを見て、目を見開いた。

そこには赤い装甲を纏う手の平サイズなカブト虫型メカが居た。甲羅の後ろ半分を広げ、そこから虹色の光を放ちホバリング中。

天道の方を見てアピールするように身を震わせたそれは、カブトゼクター。さっきも腰の前についてたあれだよあれ。



この世界のライダーベルトに装着される事で、装着者をカブトへと変身させる意志を持つアイテム。

ゼクターはカブトゼクターに限らず全て意志を持っていて、自分が認めた装着者にだけ力を貸す。

カブトのライダーは全てゼクターに『選ばれし者』。もちろん天道もそれは同じで……僕の言いたい事が分かるかな。



もし二人が力尽くでベルトを取り戻そうとしたら、カブトを相手にする事になる。

カブトの能力がどれだけ恐ろしいかは、前々回のあれを見れば一目瞭然。というか、見ていたフェイトは顔を青くした。

ただ二人が『それでも』とか言い出さないうちに、僕の方からアドバイスを送る事にする。





「二人とも、悪いけどもう一度お願い。まず下処理をしっかりやるのと、加熱時間を減らす事。
もちろん油通しもきっちりやって。旨みがここまで抜けてるの、それが原因だから。
あと豆板醤の量を調節すればそれなりに良くなるはず。あ、もちろん味見は忘れずに」

「そんな……意味分からないのに、こんな事続けろっていうの?」

「いや、意味ならある」



戸惑う二人はあれだけど、なんとなく分かった。今のアドバイスやさっきの評価を邪魔しなかった時点でさ。

僕は太陽になり……二人がちゃんとエビチリを作れるようにする。そういう事らしい。僕は呼吸を整え、二人に改めてお願い。



「二人とも、僕は美味しいエビチリが食べたいの。もちろんアラタさんや天道だって同じ」

「あの、分かってるよ。今度は失敗しないようにする。それで絶対にベルト、取り戻すから」

「私もだよ。本当に意味が分からないけど、力になるし」

「……話聞いてた? 僕はね、ベルトの事はとりあえずどうでもいいの」



二人が驚くのも構わず、僕はやや困った顔をしながら目を細める。



「もう一度言うけど、僕は二人が作った美味しいエビチリが食べたいの。そこんとこ忘れないように」

「なぎ君、それこそ意味が分からないよ。だってベルトを取り戻すためには美味しくなきゃいけないよね。なのにどうでもいいなんて」

「本気でそう思ってるとしたら、二人には一生あのエビチリは越えられないよ。
……とにかくお願い。そこをちゃんとすればかなり良い線いくと思うから」

「「……うん」」





二人は皿を片づけた上で、渋々だけど台所に戻っていく。それで僕は……自然と天道を見ていた。

天道はやっぱりなにも言わず、腕を組み二人の背中を見ていた。……ごめん、僕もなに考えてるか読めない。

ただスーパー大ショッカーの存在が公になった事で、ライダー達の間でなにか変化が起こったのは理解出来る。



その変化の一つが天道総司のおせっかい。それで僕は、今は二人が美味しいエビチリを作ってくれるのを祈るしかない。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あの人、いったいなんなのっ!? ベルト返してくれないし、エビチリ作れって言うだけだしっ!」

「私に聞かれても……一体どうなってるのー!?」





あのね、本当に意味が分からないの。というかあの人、どうしてここに来たの?

ベルトを回収するのが目的なら、もう達成してる。姿を現す必要なんてどこにもない。

フェイトさんからどういう事なのかと話を聞いたけど……意味が分からないよっ!



戸惑う私達が悪いのかなっ!? でも戸惑うと思うんだっ! 普通戸惑うと思うんだっ!





「まぁまぁ、フェイトちゃんもギンガちゃんも落ち着いて」



私達の傍らに栄次郎さんがすっと現れ、そのまま前に来た。



「ほい、口開けて」



栄次郎さんに言われるがままにフェイトさん共々口を開けると、いきなりなにかを放り込まれた。

慌てて口を閉じている間に、優しい甘みがいっぱいに広がって……砂糖?



「あ、美味しい」

「ホントだ。凄く優しい味」

「だろう? 最近仕入れた三温糖。優しい甘みが素敵でねー。
というか、今日はどうしちゃったのかねぇ。カリカリし過ぎて大事な事を忘れてないかい?」

「カリカリって……当然じゃないですかっ! ヤスフミのベルト、私のせいで……取られちゃったのに」



フェイトさんは砂糖を一気に飲み込みつつそう言って、悔しげに両手を握り締め震える。



「強くなろうとしても、今からじゃ遅くて。もうなにもしないで苦しんでる方が助かるって……そんなの嫌なのに」

「私だって、怪我してる事を言い訳に外で大変ななぎ君の手伝いとか全然出来なくて。
その上足手まといって言われて……だから頑張らないと。なぎ君の力になりたいし。
なにより……あの人意味分からないんですけどっ! 疑問を持つのも当然じゃないですかっ!」

「……やっぱり忘れてるねぇ」



栄次郎さんは少し呆れた顔をしつつ、いそいそとオーブンに向かう。

それで蓋を開け、ようやく焼けたらしいケーキを見てにこりと笑った。



「そういう事じゃないと思うよ? 今二人は、なんのために料理をしてるんだろうねぇ」

「それは、なぎ君のベルトを取り戻すためで」

「そうです。それであの人の言う事を否定しなきゃ。私達だって、やれる事はあるはず」

「でもその気持ちでエビチリを作っても、彼もそうだしアラタくんにも届かなかった。もちろん恭文くんにも」



分厚いミトンを手につけ、オーブンから耐熱容器に入ったスポンジケーキを取り出しながら、栄次郎さんはそう言う。

その言葉が突き刺さって、私とフェイトさんはハッとしながら顔を上げた。



「なにより恭文くんは二人のエビチリを食べて、笑っていたかい?」



その問いかけに私達はなにも答えられない。また視線を落とす事しか、出来ない。



「ま、もうちょっと考えてみようか。誰のために、なんのために料理をするのかをね」





栄次郎さんはそう言って、テーブルに置いたまな板の上に容器に入ったケーキを置く。

その音とケーキが焼けた香ばしい匂いを嗅ぎながら私達は、さっきエビチリを作っていた時の気持ちを思い出していた。

私達はただエビチリを作って、ベルトを取り戻してなぎ君の助けになる事しか考えてなかった。



あとはミッドに戻る事もお願いするつもりで、だから早く……早く作らなきゃって、そればかり。

でもそんな気持ちじゃ、きっとだめだったんだ。さっきなぎ君はなんて言ってた?

私達が二人で作った、美味しいエビチリが食べたいって……きっとそれがヒントだったんだ。



美味しいってなんだろう。私達がなぎ君に出来る事はなに? 今私達に必要な気持ち――それは。





「フェイトさん」

「なに、かな」

「私、なぎ君の事が好きです」



改めてというか今更な私の告白に、フェイトさんが目を見開く。



「助けてもらって、受け入れてくれて……それから気になって、ずっとなぎ君の事を見てた。
フェイトさんが居ても私はやっぱりなぎ君の事が好きで、なぎ君のものになりたい」



自分で確認するように言葉を並べていって、私は思い出した。そうだ、キバーラの言葉に動揺する必要はなかった。

ヘコんでなにも見えなくなるくらいに落ち込む必要もなかった。それに気づいたら自然と笑顔になってしまう。



「フェイトさんは、どうですか?」

「……好きだよ。ヤスフミとはもう、離れられないって思ってる。それくらいに……好き」

「そうですよね。でも私だって……だから」





私は私の歌をうたえばいい。もし今までの中に失敗があったなら、それを踏まえた上でうたえばいい。

この状況で無理に背伸びしても、結局はなぎ君や士さん達に心配をかける。余計な負担をかける。

今日のフェイトさんが実際それで……私もただ自分の事だけ考えて、なぎ君の話全然聞いてなかった。



でももう違う。私達は同時に深呼吸して、それから笑って右手を差し出し握手。



気持ちを入れ替えて、今まで置いてけぼりにしたものを込めたエビチリを作る事にした。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「「出来ました」」



二人が明るい声で出して来たのは、赤いエビチリ……ケチャップ使ってるのかな。でも天道のエビチリとは違う。



「これは」



天道も僕もそれに訝しげにしながら、エビチリを更に取り分けアラタさんにも配膳。

さっきまでと違う感覚がするエビチリに首を傾げつつも、僕達は同時に口に入れ――頬をほころばせた。



「美味しい……さっきのよりすげー美味しいっ!」



アラタさんが『しまった』という顔をするのは気にしないで、もう一口エビをいただく。

この甘味と酸味はケチャップじゃないな。それよりも鮮烈且つ柔らか。口の中で吹き抜けるこの味わいは……そうか。



「この酸味や甘味……トマトを使ったな」



そう、トマトだ。生のトマトを調理段階で入れて、味を調節したんだ。フェイトとギンガさんの表情を見るに、それは正解らしい。



「はい。あなたが持ってきたボックスに入ってたので、そのまま崩して」

「試しに生で食べてみたら、本当に美味しかった。ヤスフミ、どうかな」

「これ、美味しいよ。アラタさんの言うように、さっきのよりずっと」

「「……良かった」」



二人が安心した表情で笑うのを見て、自然と目を逸らしてしまう。

お、落ち着け。なにドキドキしてるんだか。その……これくらいは普通だし。



「あ、ご飯も用意したんだ。これにエビチリをかけて食べてみて?」

「チャーハン?」



ギンガさんが一旦台所に戻り、中華皿に乗ったチャーハンを僕達の前に置く。

言われた通りにそれにエビチリをかけ、そのまま付属のレンゲですくって一口……その時僕達三人の顔に衝撃が走る。



「ん……凄い。更にエビチリの味が広がった」

「ホントだっ! 俺、こんなすげーエビチリ食べたの初めてかもっ!」

「トマトの効果だな」



天道も一口食べただけで味の秘密を見抜き、感心した表情を浮かべた。



「トマトの酸味がチャーハンの油気を中和し、エビチリもトマトの風味で味が柔らかで豊かになっている。
全く違う料理の架け橋を、トマトが担っているわけか。中々だ」

「前に友達から借りた中華料理の漫画でやってた手なんです。
試してみたら驚くほど美味しくて。あ、チャーハンはギンガが」

「なぎ君に前に教わった事そのままで、工夫とかは特にないんですけど」

「だが、これは俺が作ったエビチリとは違うな」



その言葉でフェイトとギンガさんの表情が硬くなるけど、それを解くように天道が二人に笑いかけた。

初めて天道が見せた穏やかな表情に驚き、二人が目を見開く。



「違うからこそ、超えている事を認めなくてはいけない」

「超えて……じゃあっ!」

「ベルト、返してくれるんですかっ!?」

「その前に一つ質問だ。お前達はなにを考えてこれを作った」



二人は顔を見合わせ、次に視線を僕に移して頬を赤く染めた。



「私は……なぎ君に喜んで欲しくて」

「私も、ヤスフミに美味しいエビチリを食べて欲しかった。さっきのは……悔しかったから」

「それでいい。おばあちゃんは言っていた」



天道は二人の様子を見ながら右手を挙げ、人差し指で天を指差す。



「どんな調味料にも食材にも勝るものがある。それは料理を作る人の愛情だ。
このエビチリとチャーハンには、お前達二人の愛情が詰まっている。
だからこんなにも優しく、俺やアラタの心すら揺らす味になった。そしてそれが」

「私達に……足りないもの」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「私は足手まといって言われた時、自分の事しか考えなかった。
自分の事だけ考えて、ただ塞ぎ込む事しかしなかった」

「私も、同じ。自分がそうじゃない事を、強くなる事だけを考えてた。
あのエビチリの味は、本当に私達の気持ちそのまま」





私はヤスフミの事なんて考えてなかった。周りに居る誰の事も見ていなかった。

ただ足手まといだという評価を覆す事だけ……ただそれだけだった。

身勝手に状況を悪くして、振り回して……ミッドに戻ろうとしたのだってそうだ。



自分からここに来ながらそんな事して、中途半端でいい加減……そんな気持ちが全部エビチリに出てた。



きっとこの人はそれを見抜いていた。そんな私達は、一緒に戦おうとするだけで迷惑極まりないから。





「それが分かっているならいい。お前達は選ばれし者ではない。だから戦う事など出来ない。だが」

「なぎ君を愛する事なら――それを伝えて、支える事なら出来る」

「信じていつでも帰って来られる場所になる事なら、今の私達にも出来る」

「そうだ」



あの人はエビチリとチャーハンを完食すると、すっと立ち上がってまた天を指差す。



「あとはコイツがお前達の屋根になれるかどうかだ。おばあちゃんはこうも言っていた。
『守(まもる)』という字には屋根がある。誰かを守るなら、大きく強い屋根であれ」

「え、あの……守るですよね? 守るは屋根とは関係ないですけど。読み方も『しゅ』とかそっちですし、勘違いじゃ」



あれ、どうして場の空気が固まったの? この人なんでなにも言わなくなったんだろう。

ギンガ共々首を傾げていると、ヤスフミが物凄く困った顔をして私の右肩をポンと叩いてきた。



「……フェイト、守るという字にはウ冠があるでしょうが。あれは屋根に覆われた家の象形なのよ」



あぁなるほど。だから守るに屋根――その事実に気づいた時、私は余りの衝撃に膝を抱え泣き出した。

ごめん、無理。もう立ち上がれない。というかね、ヤスフミも思いっ切り呆れた顔してるのが辛いの。



「そうそう、デルタのベルトより良いものを渡す約束だったな」

「いいよ別に。フェイトが天然で良いとこ潰したし」

「やっぱり私のせいっ!? あの、今のはごめんなさいっ!」

「人の話は最後まで聞くものだ。テーブルの下を見てみろ」





そう言われて私達はテーブルの下を見る。するとそこには、ZECTと書かれたジェラルミンケースが置かれていた。

慌てた様子でヤスフミは右手で持ち手を掴み、引き寄せた上でその中身を確認。

鍵をかけているわけではなかったので、すぐにジェラルミンケースは開く。中身は……ベルト?



銀色でちょっと丸みを帯びていて、バックル部分がなにかをはめ込むような形をしている。



それで私達から見て左側に赤い三角のマークがついてるんだけど、それを見てヤスフミが目を見開いた。





「これ……!」

「あとはお前次第だ。お前が本当に選ばれし者であるかどうか……それが分かる瞬間を楽しみにしてろ」



あの人はそう言って写真室のドアに手をかけ、出て行こうとしていた。



「あの、待ってっ! これなんですかっ!?」

「俺は7年待ったがな」



私が呼び止めるのも無視で、あの人は出ていった。私とギンガの視線は、驚いた表情を浮かべるヤスフミに向く。



「7年って、どういう事かな」

「あの人がこれを手に入れて、カブトになるまでの時間だよ。いずれ戦う時がくる――そのために7年努力し続けた。
だからあの人はあんなに強い。背負うものに負けないように、守りたいものを守れるように……ニートだったけど」

「「ニートッ!?」」

「でも問題ない」



いやいや、ニートは問題じゃ……でもそっちじゃなかった。

自信に満ちた顔をするヤスフミの視線は、ただベルトに向いていたんだから。



「僕は、その時が来るのを8年待ってる」



ヤスフミがなにを待っているのか、私には分からない。多分ギンガもそれは同じ。

ただそれがヤスフミにとって待ち遠しいものなのは、そのための努力を積み重ねているのは……写真室のドアがまた開いた。



「なんか良い匂いしますね」

「ただいま。お客さん連れて……どうした? 天道総司も居ないっぽいが」





ユウスケさん達、戻ってきたんだ。でも天道総司は……入れ違いになったんだと納得した。



それで三人の傍らに、見た事のない女の子が居るのを見つけた。とりあえずその、私とギンガはその子に向かってお辞儀。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



その子――マユちゃんが写真撮影をするというので、アラタさんにはエビチリとチャーハンと一緒に食卓へ移動してもらう。

アラタさん、私達のエビチリを本当に気に入ってくれて笑顔で許してくれたけど……ヤスフミがまた険しい顔をし始めた。

あの子の名字が『天堂』で、この世界のライダーに助けられたって聞いた辺りからかな。その理由が分からなくて、ギンガ共々首を捻る。



その視線は制服・チャイナドレス・私服・男装と次々に衣装を変えてモデルを続けるマユちゃんだけに向いていた。



とにかく士さんによる撮影は終わり、写真を現像――その出来をみんなで見ていたけど、なにこれ。





「やっぱり、かぁ」

「まぁ私は分かってました」





背景が東京タワーの絵だったせいか、それが映っているのはいい。

でもそれがメインで、両脇にマユちゃんの笑顔が配置というおかしい写真になってる。

ギンガやユウスケさん、あと栄次郎さんの表情を見るに、これは予測出来たっぽい。



士さんは微妙な表情の私達を見て、苦々しい顔でコーヒーを……お願いだから睨まないで欲しい。

だってこれ、ピンぼけとかそういうレベルの写真じゃないもの。どう考えても失敗作だし。

マユちゃんは写真室中央に置いた椅子に座って、士さんの写真を一枚一枚険しい表情で見ていた。





「せっかく良い被写体なのに」

「ギンガさんの言う通りです。これじゃあ可哀想ですよ」

「ごめんね、マユちゃん。士は……ちょっとアレで」

「素敵」



マユちゃんが明るい声でそう言ったのが信じられなくて、私達は目を見開く。

というか士さんもそれは同じなのか、いきなりコーヒーを噴き出した。



「芸術的――普通に撮った写真よりずっと良いっ!」

「だよねぇ。全く、三人とも見る目がないよ。こんなに良い写真撮れてるのに」

「ヤスフミ、失礼だけどそれはヤスフミじゃないかなっ! だってこれ……完全に失敗作だよねっ!」



そこでマユちゃんが驚いた様子でヤスフミを見て、目を輝かせ始めた。



「あなたもそう思う?」

「もちろん。もやしの写真の腕は、世界に誇れるものだと思ってるから」

「そう……だったらあなたは選ばれし者だよ。胸を張っていい」

「あの、二人共落ち着いてっ! それはセンスなさ過ぎるよっ!
これただの失敗作なのにっ! ピンぼけ通り越してなに写したいかも意味不明なのにっ!」



え、どうして私はそこでKYだと言わんばかりの目で見られるのかなっ!

マユちゃんもため息吐かないでー! 私はなにひとつ悪い事言ってないよねっ!



「そうなのかっ!?」



混乱していると、士さんが慌てた様子でこちらに近づいてきた。

マユちゃんはそんな士さんを見て自信満々な表情で頷き、立ち上がる。



「おばあちゃんは言ってた」



どこかデジャヴを感じさせる仕草を交えながら、あの子は東京タワーの背景へと近づく。

そうして天を右手で指したまま振り返り、また自信の表情を私達に見せつけた。



「真の才能は少ない。でも、その事に気づくのはもっと少ないって」

『真の才能っ!?』

「そうか」



士さんはマユちゃんの言葉を受け、不敵に笑いながらさっきまでマユちゃんが座っていた椅子に座る。

それで結構長めの足を大きく上げ、組んだ上でそこに頬杖をついた。



「才能……だったかっ!」

「やっぱりそうなんだよね」



ヤスフミもマユちゃんと同じように右手で天を指しながら、背景の方に近づいていく。



「僕は真の才能に気づく事が出来る……選ばれし者だったんだ」

「あの、それは絶対違うからっ! この写真どこがいいのっ!? 私さっぱり分からないんだけどっ!」

「「だからあなた(フェイト)は選ばれし者じゃないんだよ」」

「またそれっ!?」

「フェイト、知っている? 天の道を往き、総てを司る人のおばあちゃんはこう言っていた」



それであのワケ分からない人の顔が頭によぎり、涙目でパニック寸前な頭の中が一気に冷静になる。



「本物を知る者は、偽物には騙されないと」

「なにそれっ! 私達が騙されてるって言いたいのかなっ! 本物が分からないって言いたいのかなっ!」

「なぎ君、お願いだから冷静になってー! 大丈夫だよ、センスは直るからっ! 頑張れば直るからっ!」

「……さっきワームを庇ったのは誰かなー。偽物を中に入れたのは誰かなー」





そ、それを言われると……ううん、反論出来るからっ! それとこれとは別問題だからっ!



あれだよ、センスないで全て片づけられるんだからっ! 私達普通なんだからー!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



夕方――士と夏海ちゃん共々、マユちゃんを家まで送る事にした。もうすぐ暗くなるし、これくらいはな。



そんな中マユちゃんは士にベッタリ。士も士で嬉しそうだし……四人で橋を渡りながら、どうにも違和感がして仕方ない。





「士さんって、お兄ちゃんに似てるかも」

「なんだ、お前お兄ちゃんが居るのか。奇遇だな」



士はやっぱりキャラ崩壊な笑顔を浮かべ、傍らを歩くマユちゃんの手をそっと取る。

またどうしたのかと思ったら、そのまま車道側に出たんだよ。……おいおい、それはデートのテクニックだろ。



「俺も妹が居た気がする」



その言葉に俺は夏海ちゃんと顔を見合わせる。おいおい、なんからしくないと思ったら……そういう事かよ。

つまりこう、士のなくした記憶関連って事か? 妹ってのでなにか感じてるとか。



「気がする?」

「こっちの話だ。で、その兄さんってのはどんな奴だ? 俺に似てさぞかしカッコ良いんだろうな」

「もちろん。優しくて、強くて」



ヤバい、思わず夏海ちゃん共々噴き出しそうになった。

マユちゃん、かなり本気で言ってるのに……でも士は優しくない、よなぁ?



「私の言う事なんでも聞いてくれて」

「なるほど、確かに俺にそっくりだ」



嘘をつくな嘘をっ! お前ひねくれて優しさ見せる事も少ないだろうがっ!

ほら、一番の被害者である夏海ちゃんがうんうんって頷いてるぞっ!



「でも、仕事の事は教えてくれなかった」



マユちゃんの声のトーンがいきなり下がり、悲しげな表情を浮かべながら足を止める。

それで右側にある橋の手すりへ近づき、紅く染まる川を見ながら瞳から涙を一滴零す。



「お兄ちゃん、カブトに殺されたんです。私……カブトを許せない」





俺達は言葉を無くし、さっき店でマユちゃんが見せたあの表情を思い出していた。



それなら、納得かも知れない。だってカブトは、マユちゃんがあんなに慕っている兄を奪った仇なんだから。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



もやし達がマユちゃんを見送りに出かけた後、エビチリとデザートを堪能して幸せそうだったアラタさんが思い立ったように席を立った。



それで慌てて背広を着直し、写真室入り口にそそくさと足を進めていく。





「いや、すっかり長居してしまって……あ、エビチリ美味しかったです。
それとスーパー大ショッカーの事は、上にも報告しておきますので」

「ありがとうございます」



フェイトとギンガさんは、それが嬉しいのかガッツポーズ。まぁ普通なら『これで無駄な争いが避けられる』と思うからなぁ。

ただ……僕は天道総司の登場ですっかり忘れてた大事な質問を思い出し、慌てて聞く。



「アラタさん、帰る前に一つ質問を」

「なんだ?」

「ネイティブって聞いた事あります?」



そこでアラタさんの表情が一気に険しくなり、僕を見る目にも動揺が走る。……やっぱり知ってたか。



「君、どうしてその名前を」

「それでマスクドライダーシステムは、隕石落下前から存在してた。違いますか?」

「……俺も最近知った事だ。上層部のほとんどはネイティブらしい。だが」

「分かってます。ネイティブは人間との共存を望んでいる」

「あぁ。そのためのライダーシステムで、そのためのZECTだ」



アラタさんの目『には』嘘はない。少なくともアラタさんはそう信じているのがよく分かった。

ここであーだこーだ言うのも違うし、僕は納得した表情を浮かべ頷いた。



「納得しました。すみません、そこがどうにも気になってて」

「大丈夫だ。じゃあなにかあればすぐ相談してくれ。出来る限り力になる」

「頼みます」



そのまま笑顔で写真室を出るアラタさんに手を振り、場がやけに静かになった。というか……さっきまで色々あり過ぎなだけか。



「なぎ君、ネイティブってなに?」

「ワームの別種だよ」

「あぁそうなんだ。ワームの」



テーブルに戻りながらそう言うと、フェイトとギンガさんが信じられないと言いたげな顔をする。



「「はぁっ!?」」

「まぁもやし達が戻ってきてから話すよ。あとで説明するのめんどいし」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――ヤスフミ、どういう事かなっ! ZECTはワームを倒す組織だよねっ!」

「それがZECTを作ったってなんでっ!? おかし過ぎるよねっ!」



辺りがすっかり暗くなった頃にもやし達が戻って来るやいなや……ご覧の有様だよ。もうフェイトもギンガさんも待ちきれないという様子。

僕は東京タワーの背景前でその様子にため息を吐きながら、両腰に手を当てる。



「あのね、まずライダーシステムをどうやって作ったのかってとこからなんだよ」

「いや、だからワームを元にしたんだろ? お前そういう話してただろ」



みんなと一緒にテーブル着席中のユウスケはそこでなにか気づいたのか、ハッとした表情を浮かべ腕を組む。



「まさか」

「ユウスケのご推察通り、ワームはワームでも別種のネイティブを元にしてるんだよ。
ネイティブは渋谷壊滅よりずっと前に地球に来て、いずれワームが地球に来る事を予測。
一部の人間に正体を明かして、自分達の能力や技術を渡す代わりにライダーシステムを作らせた」

「なんのためにだ」

「自分達を守ってもらうためだよ。それで一部の人間はそれを受け入れた。まともに喧嘩しても勝てない事は明白だからね。
なによりワームが襲ってきたら、本当に地球が乗っ取られかねない。そこからライダーシステムが出来て」

≪渋谷に隕石が落ち、ネイティブの予測通りにワームが進行を開始。ZECTも活動を始めたわけです。
渋谷崩壊から対処を始めたわけじゃないんですよ。それより前の積み重ねがあったからこそ、ライダーが生まれた≫





原典カブトでは物語が始まる35年以上前にネイティブが人類と接触。一部の有識者と権力者に交渉を持ちかけた。

その結果はさっき言った通り。人類はワームに対抗する手段を得るためにも、そこに乗るしかなかった。

さて、ここで一つ疑問が出てくると思う。ライダーを作ったらネイティブはあっさり駆逐されるんじゃないの……と。


そこの答えも実はあったりするんだよねぇ。それもかなり重要な部分。





「でも恭文、ライダーシステムが人類の手にあったら、ネイティブも倒されるんじゃ」

「大丈夫なんだよ。ライダーシステム――各種ゼクターには、ネイティブに対して優先的に服従するプログラムがされている。
原典カブトでも本来選ばれなきゃ使えないはずのゼクターを使って、ネイティブが色んなライダーに変身してたし」

「反撃手段も潰して……ヤスフミ、それはただの侵略行動だよねっ!
しかも表に出ず人間だけに戦わせるなんて、卑怯過ぎるよっ!」

「人間だけってわけじゃないよ? ZECTの一般隊員にもネイティブは多数居るっぽい。
ネイティブの大多数は平和的で、人間を襲ってどうこうというのには反対なのよ。
あくまでも共存という形を取っているし、その上でならと……だからアラタさんも納得してる」



実際原典に出てきたガタックの装着者――加賀美新の上司がそれだった。

中々にナイスガイだと思ったら、実はネイティブでしたーで驚きだったよ。でもフェイトはそれではお気に召さない様子。



「でもワームなんだよねっ! 私はそんなの納得出来ないよっ! このままじゃいずれ乗っ取られるに決まってるっ!
ワームもネイティブも全部倒そうよっ! そうしなかったら、きっとこの世界はおかしいままだよっ!」

「私もフェイトさんに同意。そういう事情なら、なぎ君達のやるべき事は一つだよ。
ワームやネイティブを全員倒す――あの、私達も協力する。邪魔しないようにだけど」

「僕はそんなのゴメンだわ」

「「えぇっ!」」



左側――窓際にすっと近づき、そこから夜の闇に包まれた辺りを見てみる。うーん、見事に静かだ。



「人を襲ってどうこう侵略してどうこうって奴ならともかく、そういう事はしないで純粋に生きている人達まで倒すの?
ワームだからネイティブだからなんて理由で戦うのは、絶対嫌だし。ネイティブもワームも人間もないのよ」

「でもヤスフミ……ネイティブが居て、その背景通りなら他にやる事ないよね。そうとしか思えないよ」

「フェイトはやっぱりバカだねぇ。他にやる事ならあるじゃないのさ。カブトを探すのよ」

「いや、カブトなら今日会ったよね」

「本当にバカだねぇ。カブトならもう一人居るでしょうが」



うわぁ、そこで首傾げちゃうんだ。お願いだからそのKYって目はやめてよ。

KYは間違いなくおのれなのに。しょうがないので答えを教えておこう。



「この世界のカブトを探すのよ。手がかりはそれくらいしかないしさ」

「いつものお約束に乗っ取るわけですね。士くんともう一人のカブトが接触したら、なにか分かるかも知れない」

「うん」



今の段階で出来る事、やれる事と言ったらそれくらいしかない。

フェイトはようやくそこに気づいて、ハッとしながら何回も頷く。……遅いわ、ボケ。



「というわけで夏みかんもユウスケも、マユちゃんには注意を払ってて」

「恭文、どういう事だ」

「あの子、カブトの妹だよ。それでクロックアップであの子を助けたライダーも……カブト」

「「はぁっ!?」」

「もやしは……言う必要ないか」



もやしはさっきから話も聞かず、料理本と睨めっこしてる。あの調子なら大丈夫でしょ。

そう思っていると、ユウスケと夏みかんがありえないという顔をし始めた。



「いやいや、ちょっと待てよっ! 今日マユちゃんが言ってたんだが、お兄さんはカブトに殺されたって言ってたぞっ!」

「へ」



窓の外から視線を外し、慌ててユウスケと夏みかんの方へ向き直る。



「なにそれっ! カブトに殺されたっ!?」

「間違いないですっ! 私達、マユちゃんから聞きましたし……ね、ユウスケっ!」

「あぁっ!」



別世界だから、僕の知ってるカブトと事情が変わってる? 今までの世界みたいに……いや、まだ判断するのは早い。

そうかも知れないし……もう一つ予測出来る事がある。そこを踏まえておかないと痛い目を見る。



「まぁどっちにしてもカブトを見つけてからだよ。ほら、二人の言う通りだとしてもカブトが出てくるかもだし」

「兄を殺して、妹も……か?」

「でもそれなら、私達がこの世界に来る前にマユちゃんは……あの子は関係ないと思います。
それよりも聞き込みとかをして、カブトを探して行きましょう。そうすれば」

「あ、そうですね。あのヤスフミ、私も手伝うよ。聞き込みなら専門だし」

「私もやる。戦う以外の事なら、なんとか出来ると思うの。もちろん無茶はしないし」



おのれら、二人揃ってガッツポーズ取るな。大事な事を忘れてるようなので、ジト目でツッコんでおく。



「無駄だよ。三人共、この世界のカブトが常時クロックアップしてるっての忘れた?」

≪姿が見えないわけですから、聞き込みなんて無駄ですよ。そもそも他の人には見えないんですから≫



そこでガッツポーズを取った二人はハッとして、ゆっくりと両手で顔を覆って俯いた。……面白い。



「そう言えば……あれ、でもそれなら」

「夏みかん、どうしたの?」

「それならどうしてテレビのニュースでは、カブトが工場爆破させたのが分かったのかなーっと」

「あ、そっか」



フェイトは右手で口元を押さえ、なにかを確信したような顔をしながら何度も頷く。



「なにかこう……私達には分からない方法でカブトの仕業だって分かる方法があるんだ。
うん、それならやっぱり聞き込みしてみよう。私、早速明日街に出てみるよ。それで」

「フェイトはここでジッとしてて。そっちは僕が調べるから、絶対になにもしないように」

「あの、大丈夫だよ。もう今日みたいな無茶はしないし、危ないのもよく分かったし」

「いいからじっとしてて。邪魔だから」

「……うん、分かった」





とにかくマユちゃんの方はもやしとユウスケ達にお願いしよう。やっぱり気になるしなぁ。

でもそれだけってわけじゃない。僕の予測が正しければあの子は……とにかく鍵はあの子だ。

アラタさんはともかく、ZECTの上がどう動くかも分からない。ここはかなり注意しておかないと。



もしZECTを作ったネイティブの意図が原典のカブト通りなら、とんでもない事になると思う。うし、まずは調査だ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけでフェイトとギンガさんが揃ってお風呂に入っている間、僕は写真室のテーブルに座って空間モニターを展開。



今日ゲットしたゼクトルーパーの装備一式の中から通信関係を取り出し、それにオリジナル術式でアクセス。



その上で空間モニターのコンソールをカタカタと打っていた。あともう少し……アラタさんに迷惑かけるし、バレないようにしないと。





「恭文くん、なにしてるんだい?」

「ハッキングです。あ、コーヒーありがとうございます」

「いんや」



コーヒーを置いてくれた栄次郎さんにお礼を言って、またまたコンソールをカタカタ。



「アルトにサポートしてもらって、ZECTのホストコンピュータに」

「へぇ、それは凄いねぇ」

「おじいちゃん、感心しちゃだめですからっ! あなたなにさらっととんでもない事してるんですかっ!?」

「いやね、フェイトの言った侵略者っていうの、あながち外れてないんだよ」



フェイトとギンガさんがああいう答えに行き着くのも分かって、つい苦笑い。



「はっきり言ってZECTは信用出来ない」

「えぇっ! で、でもアラタさんは良い人ですよねっ!」

「アラタさんはね。でもZECTはワーム対策のせいで横の繋がりは気薄。入ってはいるけど上の事がさっぱりな人も多い。
上が悪い事を考えて命令を出しても、下がそれを察知出来ずにそのまま動いてしまうという悪癖がある」

「上の事がなにも分からないから、自然とって理屈だよな」

「ユウスケ正解」



もし悪い事を企んでいるとしたら、それはネイティブである可能性が高くなるわけだけど……とにかく術式も発動しつつコンソールを叩く。

術式を通して頭の中に入ってくる『錠』のデータを慎重に外し、僕はZECTという組織の一員になっていく。……データだけね。



「……うし、入れた。アルト」

≪察知はされてません。あなたの瞬間詠唱・処理能力、やっぱりハッキングに使うと凶悪ですね≫

「うん、自覚はしてる」

「え、これって魔法使ってやってんのか」

「うん。そういうハッキングプログラムを魔法で動かしてるんだ」





なにかに使う事があるかなぁと思い、組んでいた魔法。根っこは電子ロックとかを即時解除する魔法なんだけどね。

もちろんハッキングなんて犯罪だから、使う機会はほとんどなかった。まぁ今は、非常事態だしなぁ。

まず一番に調べたいのはカブトの事。というわけでデータバンクの中を明後日……一つの資料を見つけた。



それはZECTのエンブレムに白表紙の文書データ。トラップやセキュリティ関係に気をつけつつ、その中身を開く。





「えっとこれは……カブト捕縛計画?」

「なんだこれ」

「クロックアップしているカブトをなんとか通常空間に引きずり出して、捕まえようって計画だね。
まぁ話通りならカブトは世間の敵みたいな扱いだし、それも当然か。それで作戦内容は」



続けてデータを見ようとするけど、そこで注意書きのようなものが出てくる。

その中にはIDコードとパスワードの入力項目……なるほど、これを入れないとアウトと。



「一定以上の権限コードがないとアクセス不可か。アルト」

≪もうこれ以上はやめておいた方がいいでしょうね。おそらく誰がどういう形で確認したかのログも取られているでしょうし≫

「それからバレたら……まぁなぁ。それじゃあ後始末をして、終わろうか」



またコンソールを指で打ち、そのまま撤退……ちょっと待て。僕は撤退前に、もう一つ確認する事にした。

もちろん探す項目は『門矢士』――ディケイドと僕関連。それらしいデータがないかいくつも画面を呼び出して探していく。



「……引っかかる事は引っかかったけど」

≪だめですね≫



出てきた画面のどれにも中央にさっきと同じ入力項目があった。でも答えは出ているので、僕はその全てを閉じてハッキングを終了。



「結局なにも分からなかったんですね。無駄足です」

「だなぁ。カブトをZECTが捕まえようとしているのは分かったが、それだって現状を考えたら当たり前だし」

「いや、とりあえずZECTがもやしや僕を狙っているのは分かった」



がっかりと表情をしかめる二人にそう言いながら、僕は腕を組む。



「恭文、どういう事だよ。さっきもなにも見れなかったのに」

「見れなかったからこそだよ。ディケイドや僕関連でこれだけ見れない項目が多いのはおかしいでしょ」

「でもそれって、アラタさんに私達が色々話したせいじゃ」

「あれからまだ5時間も経ってないのに?」



二人はそこでハッとした顔をして、さっきまで画面が展開していた箇所を見る。



「考えられる可能性は一つ。ZECT上層部はディケイドと僕を悪魔として敵視してる。
だからこういう情報がゾクゾクと出てきた。間違いなく鳴滝のせいだね」

「前々から……か。だったら大丈夫だろ。アラタさんに事情説明したし、上司の人も良い人っぽかったし」

「そうですよ。ZECTに襲われたりする心配もありません。もう大丈夫です」





二人揃って笑顔で……楽観的だなぁ。しかも夏みかんは僕の事どうこうで言ってないでしょ。絶対もやし関連でしょ。

というか、僕の話を忘れてるでしょ。ZECTは横の繋がりどころか上の繋がりも極めて気薄。

もしZECTの目的に僕達の存在が邪魔になるのなら……アラタさんもきっと、それに従うだろうし。



それとも色んな事があり過ぎたせいで、僕が神経質になっているだけなのかな。僕は窓の外に浮かぶ月を見上げた。



――こうして色んな事があったカブトの世界・一日目は終了。明日……事態が動くはず。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



翌日――もやしが朝早くから天堂屋に向かったと聞いて、僕とユウスケも後を追う。今日も快晴で桜並木も綺麗。



東京タワーは天を指し……そんな中ユウスケの案内で天堂屋の中に入ると、もやしが厨房に立ってた。



しかも隣にはマユちゃんが居て、二人揃ってなにやら作っている最中だった。





「士、マユちゃんもなにしてるんだ?」

「見て分からないか? おでんを作ってんだよ」



まぁおでん屋だしなぁ。察するにもやしはそこを手伝ってる感じかな。なんかもやしの記憶に触れてるっぽいし。

一人胸の中で納得しつつどんなおでんかと思い厨房を覗き込もうとすると、店の奥から60代くらいのおばあさんが出てきた。



「あれ、アンタは」

「同じ事を二度言わせるな」



おばあさんは訝しげにしながらも二人の間に入り、火にかけられている鍋を見て目を見開く。

そうしてもやしを突き飛ばし、おたまでお鍋の具をすくう。



「なにやってんだいっ! ……これは」

「昆布巻きだ。もち巾着と牛すじ――静岡産の黒はんぺんも入れてみた」



もやしは突き飛ばされた事なんてなんのそのと言わんばかりに笑って、遠い目をする。

そんなもやしはガン無視でおばあさんは険しい顔のまま、鍋を両手で掴んで流し台へ移動。



「この俺が来たからにはこのおでん屋を世界一……いや、宇宙一に」



更にガン無視でおばあさんは、流し台にダシごとおでんを捨て始めた。

ダシがステンレスの流し台に叩きつけられる音を聞いて、もやしが慌てておばあちゃんに駆け寄り鍋を引ったくる。



「おま、なにすんだよっ!」

「マユっ!」

「俺の事は無視かっ!」



マユちゃんがおばあさんの視線と叱責を受け、身を竦ませながら頭を下げる。



「……ごめんなさい」

「タネを増やしたらツユの味が変わっちまうんだよっ!
うちはね、この場所で――このままで居る事が大切なんだっ!
この味は絶対に変えちゃいけないんだよっ! ……片づけなさい」





おばあさんは一息にそう言って、そのまま店の奥に引っ込んでいった。

場はさっきまでの荒々しさが一気に消え、痛いくらいに静かになる。……どうしよ。

僕達来たばっかだし、マユちゃん涙目でもやしもイライラしてるしさ。



本気でどうしたものかと思っているところ、もやしは捨てられたツユやまだ残っているおでんを見て苦々しい顔をする。





「なにも、捨てる事はないだろ」





まぁその通りなんだよねぇ。せっかく作ったものなのに……僕はそれがどうにも気になった。



なので予定を変え、おばあさんのおでんを堪能させてもらう事にする。もやしやユウスケとは別行動だね。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



今にも泣き出しそうなマユちゃんを引っ張って、俺と士は店の外に出た。

恭文は気になる事があるとかで店に残ったが……アイツ、ここに来てから大変だな。

ワームやZECTの事があるから、やり方を模索してる感じなんだろうが。



相当厄介な相手ではあるし、やっぱり……なんだよなぁ。恭文の事を気にしながらも、俺達は海沿いの道を歩く。



工場も多めだけどここから見える景色は中々に綺麗で、そんな風景に触れたおかげかマユちゃんもだいぶ落ち着いた。





「私が、悪いんです。前にみんなで決めたんです。家族の好きなものだけを入れようって」

「それがガンモに大根……たまご?」

「はい。おばあちゃんと私、それにお兄ちゃんの。おばあちゃん、信じてるのかも知れない。お兄ちゃんは生きてるって」





だから味を変えず、このまま……かぁ。家に帰って来た時、その味や約束が変わったらお兄さんが悲しむ。

そう考えたからあんなに必死で悲しげな顔をしてたんだな。士もようやく分かったのか、困った表情を浮かべる。

だが恭文の話通りなら、お兄さんがカブトなんだよな。でもお兄さんはカブトに殺された……どういう事だ?



そもそもカブトの正体が見えないと思っていると、10時方向から妙な唸り声が響いた。

そちらをハッとしながら見ると、昨日も見た緑の怪物がこちらに迫ってきていた。

えっと……サナギ体、だったな。脱皮する前のワーム。俺は咄嗟にマユちゃんの前に出て庇う。





「ユウスケ、マユを連れて店に戻れ」

「分かったっ! だが士」

「気をつけるさ」

≪KAMEN RIDE≫



士はとっくにドライバーを腰に装着し、右手でカードを持ってワームに突撃していた。

俺はマユちゃんの手を引いて、士に申し訳なくなりつつもその場から離れる。



≪DECADE!≫





本当はマユちゃんだけを逃がすのが有りなんだろうが、ワームの能力が能力だしなぁ。……あれ、ちょっと待て。



俺は逃げながらも士と殴り合いを始めたワームを見て、変な感じがした。ワームの頭にあんな大きな角、あったか?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



店に残った僕は、おばあさんに『おでんを食べに来た。そしてお兄さんの事で聞きたい事がある』と宣言。



驚いた様子のおばあさんはすぐさま準備を始め、僕はのんびり待たせてもらってた。





「騒がせちゃったねぇ」

「いえ。というかすみません、もやしが迷惑かけちゃって」

「いやいや。それで……アンタはソウジとはどういう関係で?」

「実は直接面識はないんです。ただ、どうしても会う必要があって」

「そうかい」



おばあさんは手を決して休まさず、改めて煮こまれていくおでんを真剣な表情で見ていた。

その匂いは……まぁもやしには申し訳ないけど、さっきよりも澄んでいてずっと良い匂いだった。



「ZECTやカブトの事は、どこまで知ってるんですか」

「さぁ、なんの事だろうね」

「ソウジさんがカブトの装着者だった事も?」

「私には分からないねぇ」



本気で分からないなら、そういうとぼけた言い方はやめて欲しい。それじゃあ知ってるって言ってるようなものだ。

どうやらこのおばあちゃん、全部の事情を理解しているらしい。なら……もっとツッコむか。ここからは原作知識フル回転だ。



「ソウジさんやマユさんのご両親は」

「渋谷隕石の時にね。なんだい、雑誌の取材かい? それならお断りだが」

「残念ながら違います。ここからは僕の一人言です。妄想が多分に含まれますから、適当に聞いてください。
……マユちゃん、ワームやネイティブ、ZECTに狙われてるんじゃないんですか? 原因はカブトの肉親だから」

「なんのことだかねぇ」

「じゃあ話を変えましょう。ソウジさんとマユちゃんのご両親」



ここからはかなり大事な話なので、一旦呼吸を入れ替え身構える。仮にダシがいきなりかけられても逃げられるようにしよう。



「渋谷隕石の時『以前』に死亡してますよね。それも……マユちゃんが生まれる前」



そこでおばあさんの手が止まり、僕へ厳しい視線を送る。でも僕はそれを真正面から受け止め、逆に見返した。



「おばあさん、僕はマユちゃんをどうこうするつもりはありません。僕は本当の事が知りたい。
カブトになにがあったのか、ZECTがなにをやろうとしているのか。ただそれだけです」

「……本当の事かい。なんのためにだい」

「本当の事を守りたいから。僕にはカブトが人類の敵とは……どうしても思えない」



おばあさんは僕を見定めるように更に視線を厳しくするけど、すぐに不敵に笑って表情を緩めた。



「それなら決まっている。あの子は私の孫で、ソウジの……妹さ」

「なら良いんです。僕の予測ですけど……ソウジさんは生きています。カブトに殺されてなんていない」

「それも決まっている」





胸を張って、笑いながら言い切るおばあさんに苦笑。……ではお兄さんは一体どうしたのか。

本来ならカブトがお兄さんを殺したで決着だと思う。その現場をマユちゃんが見ても居るしさ。

でも残念ながらここはカブトの世界。突然もう一人の自分がいつ現れておかしくないような世界。



なので僕はこう考えた。カブトが『ワームが擬態した天堂ソウジを倒した』んじゃないかってさ。

その現場をマユちゃんが見てしまったとしたら? それなら一応の辻褄は合う。

ではお兄さんは今どこに居るのか。ここは……あくまでもカブトが天堂ソウジならだけど。





「今ソウジさんはネイティブやワーム――ZECTとも戦っている。理由は妹に魔の手が伸びようとしているから。
だからたった一人で……世界を敵に回して。そのためには『死んだ』と思わせた方が都合が良かった。
ソウジさん、ZECTのメンバーだったんじゃ。マユちゃんには仕事の内容を一切教えてなかったみたいだし」

「お喋りはそこまでだよ。ほい、お待ち」



僕の前におでんが置かれ、『妄想』を垂れ流す時間は終了。僕はそれ以上食い下がらず、割り箸を右手で取って手を合わせる。



「いただきます」



それからガンモを掴んで、まずは一口。口の中にじゅわっと広がるおダシの味を感じながらも、はふはふと息を吐いた。



「……美味しいっ! このガンモ、どうやって作ってるんですかっ!?」

「おっと、無駄口は禁止だ」



おばあさんは不敵に笑い、僕の前に右手をかざす。



「食べ物は出された瞬間が一番美味しいんだからね。ささ、食べた食べた」

「はい」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――ごちそうさまでした。とっても美味しかったです」

「よかったよかった。あ、おかわりはどうだい? アンタは若いんだから、もっと食べないと」

「なら……いただきます」



素晴らしく美味しいおでんを堪能し、幸せな気持ちのまま二杯目を注文しようとすると……懐から着信音が鳴った。



「すみません、ちょっと外へ」

「はいよ」



普通に僕達の携帯とかが使えるようになってるのには驚いたなぁと、今更ながら振り返ってみたりする。

とにかく一旦外へ出て、電話を繋いだ。その途端に耳に荒い息が二つ聴こえてきた。



「はい、もしもし」

『恭文、今すぐこっち来てくれっ! ワームに襲われてるっ!』

「……もやしは」

『もやしは……じゃなかったっ! 士は最初に襲ってきたのと戦ってるっ!
俺達は店に向かおうとしたんだが、そうしたらまた別のが来てっ!』

「分かった。すぐに合流するからちょっと待ってて」



一旦電話を耳から離し、慌てて店内に戻る。



「すみませんっ! おかわりはなしでっ!」

「おや、急用かい?」

「……マユちゃんがワームに襲われてます」





驚くおばあさんはそれとして、電話を一旦テーブルに置いて財布を取り出す。



茶色で折りたたみ式のそれは、フェイトが今年のクリスマスプレゼントにくれたおニュー財布。



ネガタロス事件の時にもらったんだけど……とにかくそれから小銭を取り出し、テーブルの上に置く。





「すぐに助けに行くんで、待っててください。あ、お代ここに置いておくんで……失礼しましたっ!」



お辞儀して、携帯を再び持った上でお店から出て……ダッシュ。同時にサーチを全開にして捜索開始。

でもそれだけじゃ足りないから、ユウスケに今どの辺りに居るのか確認しないと。



『というか恭文、一つ質問なんだが』

「なに?」

『ワームに角ってあったっけ』



全力で街中を走りながら、荒い息混じりの言葉が妙に引っかかった。この状況でなぜ……相手の特徴がそれなのか。



『昨日のワームと違って、角があるんだよ』

「種類によってはそういうのも居るかもだけど、脱皮する前なら基本ないよ? サナギ体なら姿はみんな同じ」

『……ならあれ、なんだよ。脱皮する前なのに角があるんだが』



脱皮する前に……その言葉で一気に寒気が走り、僕は川沿いの道に出た途端に足を止めた。



「ユウスケ、最初に襲ってきたワームにも角があった?」

『あぁ、あったぞ』

「マズい……!」



くそ、ぬかったっ! 実際どうなのか確認してからなんて、悠長な事してる場合じゃなかったっ!

僕は先程よりも速度を上げて全力疾走再開。サーチもフルに行い、二人の居場所をなんとか掴む。



「ユウスケ、絶対に攻撃しちゃだめっ! 倒したらZECTと全面戦争するハメになるっ!」

『ちょっと待て。どういう事だ』

「ソイツらはネイティブだよっ! ネイティブのサナギ体は、ワームと違って角があるのっ!」

『……なんだってっ!』





多分今出てるネイティブは、ZECT関係者。マユちゃん襲うついでにこっちに圧力かけてきやがった。

もしこの状況でネイティブを――人間と共存しようとしている種を殺せばどうなる? ZECTは黙っていない。

それを理由に僕達に攻撃を仕掛けるつもりだ。こっちから攻撃を仕掛けてたら、更に理由を作ってしまう。



僕が今出てるネイティブがZECT関係者だって言える理由は、マユちゃんの出自だよ。

さっきのおばあさんとの会話で確信が得られた。あの子は……どちらにしてももうすぐ答えが出る。

もやしの事だからネイティブをどつき回してるはずだし、倒した直後にZECTが出てくるならもう確定。



僕達は早速ZECTと――ネイティブとライダー達と戦う事になってしまった。その結果は、推して知るべし。





(第22話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、今回はちょっと話が進んだカブトの世界編です。お相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむです。……恭文、マジどういう事? ネイティブとかなんとかワケ分かんないんだけど」

恭文「君は実にバカだな」



(ごすっ!)



恭文「……ごめんなさい、調子乗りました」

あむ「よろしい」



(現・魔法少女、そういえば蒼い古き鉄の影響で暴力的になっていた)



恭文「でも劇中で言った通りとしか説明出来ないよ? 原典カブトでは隕石に乗って30年以上前にネイティブが来襲。
でもネイティブはそこで今のワームみたいに人を襲ったりせず、人類と協力した上でワームに備えようとした」

あむ「それでカブトとかが作られたんだよね」

恭文「うん。劇中で天道総司は、渋谷隕石墜落騒動のどさくさでライダーベルトを手に入れた。
それから7年、いつかベルトを使う時が来ると信じて鍛え抜いてたの」



(なので天道総司はカブト開始冒頭でベルト『だけ』は持ってる状態でした)



恭文「その結果」

あむ「カブトになったんだね」

恭文「いや、史上最強のニートになった」

あむ「なにそれっ!」



(みんな、ニートやるならあの人レベルで鍛えよう。そうしたら生きていけるから)



あむ「いやいや、見習っちゃだめじゃんっ! ニートだしっ!」

恭文「でもね、あの人だけは許されるのよ。例えニートが絶対にだめだとしても、あの人だけは許されるの。
だってあの人は『明日本気出す』って言って、ほんとに本気出してなんとかしちゃうスペックだもの。
それだけで生きていける人だもの。なのであむ、あのレベルで鍛えようか」

あむ「嫌だしっ! あたしは将来的にはちゃんと働いて、親孝行するんだからっ!
ちゃんとやりたい仕事見つけるんだからっ! とにかく……カブトの事じゃん。
結局ネイティブって味方なんだよね。だったら最後のって」

恭文「そこはまた劇中で説明する。でも……マジで原典通りとは」



(ネイティブ出すって決まったらあとはさくっと)



恭文「ここから更に面倒な事になってくんだろうなぁ」

あむ「アンタ、勝ち続けるって言ってなかった?」

恭文「……うん。正直ZECTも信用出来ないし、遅かれ早かれこうなってた。
だからハッキングしたくらいだし……覚悟決めるしかないか。
というわけで次回はZECTと本格闘争開始。きっと死闘が繰り広げられる」

あむ「クロックアップ、チートだしなぁ。あたしもあれは無理」





(でも希望はある。そう……選ばれし者であるのなら。
本日のED:RIDER CHIPS『NEXT LEVEL(Ricky Ver)』)





恭文「ユウスケ、ごめんっ! もっと早く話しとけば……僕のバカー!」

ユウスケ『いや、そこはしょうがないだろ。お前が知ってるカブトと違うならちゃんと考えなきゃだし……で』

恭文「そのものズバリだよっ! もう原典のままっ! こうなったらZECTやワームと喧嘩するしかないっ!」

ユウスケ『やっぱりそうなるかぁ。それで今は』

恭文「もうすぐ合流するっ! 合流したら転送魔法使って逃げるから、マユちゃんから絶対離れないでっ!」

ユウスケ『分かったっ!』





(おしまい)





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