[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第20話 『カブトの世界/おばあちゃんは言っていた』



幸か不幸か、僕がカブトと徹底抗戦した事であのあと結界から解放したZECTメンバーの誤解は解けた。

ザビーだった眼帯男――弟切ソウも、フェイトがワームを庇った事も許してくれた。まぁそれはいい。

問題はフェイトの介入のせいで、もうワケ分かんない状況になった事。なので帰り道にフェイトにはしっかり説教。



……と思ってたのに、フェイトがヘコみ気味な上にぐずぐず泣いてたせいで、それも出来なかった。

どうも天道総司に『自分が失敗しても全て僕のせいになる』と言われた事が突き刺さったらしい。

あとは『今のままじゃ絶対に強くなれない・今それをやろうとしても迷惑だし無駄』と言われた事だね。



とりあえずフェイトやギンガさん関係はもうちょっと力を入れる事にする。具体的には……ちゃんと話すか。



どうもそれしか無いっぽい。とにかく僕は回復魔法かけつつ、食卓の椅子に座って一息ついていた。





「アラタさん、ありがとうございます。わざわざ送ってもらっちゃって」

「ほんと助かりました。てゆうか良かったんですか? ZECTのお仕事中じゃ」

「いや、さすがに見てられなかったしさ。それに俺は下っ端で、結構自由利くから」



そう言って照れた様子で笑うスーツ姿の男性は、アラタ――ガタックの装着者。

原典で言うところの『加賀美新』だね。この人はいわゆる体育会系で好青年なイメージだった。



「だが本当なのか? さっき言っていた別の世界から来たってのは」

「そうなんです。ここみたいにライダーの居る世界を回っていて」

「それでどこの世界もさっき話したように、スーパー大ショッカーっていう連中が手を出していました。
しかも各世界の悪の組織というか怪人というか、とにかくその手の奴らをどんどん取り込んでいる。
俺達、それをなんとか止めたくて……でも他のライダーの協力が絶対に必要で」

「なるほど、だから君達は世界を回って協力者を募っているわけか」

「「え、えぇ……まぁ」」



ユウスケと夏みかんが二人揃って、しどろもどろに視線を泳がせるのもしょうがない。

だってここまでそういう目的なかったんだもの。今出来たばっかりなんだもの。



「とりあえずあなた達のライダーの能力やZECTという組織にワームの事は」



そこでユウスケは笑顔を浮かべながら、僕の左肩をポンと叩く。



「この俺達のチーム随一なライダー博士が居てくれるので、大体の事は理解してるんです」

「だったら俺に聞く必要なくないか?」

「いや、それがコイツの知っているライダーの世界と実際に回ってる世界にはいくつも差異があるんです。
パラレルワールドって言うんですか? だからちゃんと確認していかないと、どうにもならなくて」

「それでか。だが……大体の事はそのライダー博士が知っている通りだ。7年前、隕石によって渋谷が崩壊。
それを機にワームという宇宙生命体があちらこちらで出るようになった。それに対抗するためにライダーシステムが作られた」



ライダーシステムの基本設定は僕の知っている通りか。ここは……よし、ちょっとツッコんでおこう。



「それじゃあ僕から質問を。さっきカブトが出てきた事でかなり驚いてたそうですけど、どうしてですか?」

「……カブトはZECTの作成したライダーシステムの一つだが、異質なんだ」

「異質? ZECT以外の人間が使ってるとか」





原典だとそうなのよ。カブトに出てくるライダーはさっき見てもらった通り、ベルトに該当するものとゼクターの二つで変身する。

カブトの方式はアラタさんが変身したガタックと同じだね。それで天道総司は隕石衝突の際、そのベルトを手にした。

それから7年後にカブトゼクターが来てカブトに変身出来るようになるんだけど、その時点で天道総司はZECTの人間じゃない。



もしかしたらと思ったんだけど……アラタさんは首を横に振った。





「そういう意味じゃないんだ。君はクロックアップについては」

「タキオン粒子を身体に充満させる事で時間流を操作する能力ですよね。
でも高速移動による攻撃力の増加とかはないとは聞いてます」

「……その理由は?」

「クロックアップ中に静止に近い状態になった対象は、クロックアップしているライダーよりも硬度や重量が増すから。
だからそれを上回る力がないなら避ける必要があるし、クロックアップも出来る限りその状態の物体には触れないようにする」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ユウスケ、フェイトさん、あの人がなに言ってるのかとかは」

「さっぱり」

「わ、私もライダーに詳しくないので」





私がここに出る前に言ってた事なのは分かるけど、ヤスフミはそれよりもかなり詳しく話してる。



とりあえず時間操作の能力で、だからあんなに凄くなるっていうのは分かった。



でも今も続いている話の内容はさっぱり。私、こういうところでもヤスフミについていけない。





「――これは、信じるしかないようだな。クロックアップの詳細はZECTの中でもトップシークレットだというのに」



でもアラタさんには分かるらしく、納得した表情を浮かべていた。

どうもヤスフミにそこを聞いたのは、私達が本当に外の世界の人間かどうか確かめる意味もあったみたい。



「まず君の言う通りクロックアップには制限があるんだが、カブトはそれを無視して常時クロックアップ状態になれる」

「その能力を駆使してカブトは、さっきみたいにZECTの作戦行動に介入を続けてる?」

「あぁ。だからZECT上層部はカブトを危険視している。今回のように姿を見せたのは初めて」

「「またこんな写真ばかり」」



私達は自然と写真質の左奥を見る。窓際に置かれた緑のソファーには、二人の士さんが並んで座っていた。

それで帰って来てすぐ現像した写真を眺めて、どうにも苦い顔をしている……二人っ!?



「「ここも俺の世界じゃないって事か」」

「……うぉーいっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「もやし、おのれなにやってるのっ! 増えてるっ! おのれ増えてるからっ!」

「「そう言えば」」



僕が痛む身体に鞭打ち立ち上がってツッコむと、あのバカどもはなぜか驚いた顔をして互いを見る。



「「なんか変だと思ったら」」

「おのれら気づいてなかったんかいっ! つーか気づけよっ! おのれらは一番に気づけよっ!」



それで僕の視線は、自然と今まで空気状態で写真室の方に居たギンガさんに向く。

ギンガさんも今気づいたと言わんばかりの顔をしていて、慌てた様子で僕に近づいてくる。



「なぎ君、あの……これどうしようっ! 士さんが二人居るんだけどっ!」

「いつから居たっ! コイツいったいいつから居たっ! ギンガさんが入れたのっ!?」

「う、うん。なぎ君達が出ていってからすぐに戻って来たから」

「ばかっ!」



多分ここはちゃんと説明していたはずなので怒鳴りつけると、ギンガさんがビクッと身を震わせる。



「それ間違いなくワームだよっ! 擬態するから注意するように言ったよねっ!
ワームがスーパー大ショッカーと手組んでたらどうするのよっ!」

「擬態って……え、なにかな」

「……話くらい聞いとけ、このバカっ!」

「あの、どうして怒ってるのっ!? 私なにかしたかなっ! まずはちゃんと話を」

「いいから黙れっ! あとで嫌になるくらい説明してあげるから、今だけは黙ってっ! そんな暇ないのっ!」



くそ、これ全部僕のせいはもはや拷問だぞ。とにかく時間が空いた時に説明……そういやキバーラの尋問もあったな。

まぁユウスケ達が許すとは思えないけど、それも忘れていたのには舌打ちしつつ夏みかんを見る。



「夏みかん、まさかおのれまで話聞いてなかったとか」

「さすがにそれはありませんよ。私はさっきまで、おじいちゃんと物置の掃除をしてましたし」

「それは良かった。で……どうしようか、これ」

「あなたにも分からないんですよね」

「分かるんだったらあんなしつこく話さない」



お互いを威圧するように睨み合ってるもやしどもを見ていると、カブトに襲われた事なんかもう……すっ飛んだよ。

それは他の面々も同じくらしく、全員が困った顔でもやしどもを見ていた。



「あ、サーチで調べようよ。バルディッシュ、早速お願い」

「完全擬態してるって言ったでしょ」



冷たくツッコむと、フェイトが固まった。それでもとバルディッシュを必死な目で見る。



「だ、大丈夫だよ。外見が同じだけだよ? 中身までは」

≪……解析した結果、全くの同一人物。二人とも人間としか出ません≫

「そんなー!」



だろうね。てーかちょっとした身体調査で分かるんだったら、ワーム追うのに苦労したりしないよ。



「だ……だったら士くんにしか分からない質問をしていって、不正解だった方が」

「だめだ夏海ちゃん、まずその質問は誰がするんだ?
第一擬態されてる時は、記憶もコピーされてるから」

「質問してもアウト? あぁ、そうですよね。だったらこれどうすれば」

「騒々しいな」



質問関係は無駄――そう言おうとしたら、写真室入り口に気配が生まれた。

木造りのドアを開けてずかずかと入ってくる男を見て、僕は目を見開く。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



右肩に大きめのクーラーボックスを下げるその男は、平然とした顔で僕やもやし達を見ていた。



「あの、あなた誰ですか?」

「て、天道総司っ!」

「え、ヤスフミ知り合い……あれ、その名前聞き覚えある」

「さっき話したでしょうがっ! 僕の知ってるカブトの装着者だよっ! 原典のカブトッ!」

『……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』










世界の破壊者・ディケイド――いくつもの世界を巡り、その先になにを見る。



『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路


第20話 『カブトの世界/おばあちゃんは言っていた』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「カブト……お前がカブトなのかっ!」

「勘違いをするな。俺はお前達の世界のカブトじゃない」



詰め寄ろうとするアラタさんをさらっとかわし、天道総司はそのまま台所へ行く。



「俺はあくまでソイツの知っているカブトというだけの話だ」

「つ、つまり?」

≪つまり今、この人も含めてこの世界にはカブトは二人居るんですよ。
あなた方ZECTのお目当てはこの人じゃありません≫

「だからさっきカブトが普通に姿を現したのも当然なんですよ。だって別人なんだから」



納得した様子のアラタさんと入れ替わる形で、僕は天道総司に近づく。

なのに奴は普通に肩から下げていたクーラーボックスを床に下ろし、蓋を開け……無視かいっ!



「おい、デルタのベルト返せっ! つーかまだ一回しか変身してないのにこれはないでしょうがっ!」

「うるさい奴だな。それよりお前の仲間はいいのか」





そうだったー! そっちもあったよっ! く、どうしてこうも厄介な事しか起きないのよっ!



相変わらずお互いを睨み合っているもやしどもと天道総司を交互に見て、頭が痛くなってしまう。



その間に天道総司は、不思議そうな顔をしていた栄次郎さんに視線を向ける。





「館長、少し台所を借りるぞ」

「あ、はいはい。今ケーキ焼いてるからオーブンは使えないけど」

「充分だ」



アンタなんでそこ貸しちゃうのっ! 明らかにコイツ不審者でしょうがっ! この人器大き過ぎだからー!



「あの、なぎ君……この人は? というか士さんどうして二人に増えちゃったのかな」

「ブリッツキャリバーに聞いてっ! ブリッツキャリバー、おのれはちゃんと説明聞いてるよねっ!」

≪えぇ≫

「だったらギンガさんに説明っ! こっちはこっちでやる事あるからっ!」



うし、これで問題なし。というか、最初からこうすればよかったわ。それ……あ、そうだ。

まずは有識者を頼ろう。僕は戸惑った様子で天道総司を見ていたアラタさんに一つ質問。



「アラタさん、見分ける方法は」

「ない。ZECTも基本は暴れているワームの反応を追っている形で、擬態状態となると」

「そんなー! このままじゃ士くん二人のままですよっ!? 二人はディケイドですよっ!?」



恐ろしい事を言いながら両手で頭を抱えた夏みかんはハッとした表情を浮かべ、両手で柏手を打った。



「そうだっ! なにか質問をして士くんらしい答えを出した方が本物……それさっき私が言ったのにー!」

「夏海ちゃん、落ち着けっ! こういう時こそ冷静になっ! でも……ほんとどうすりゃいいんだよ、これっ!」

「「お前ら情けないな。本物である俺の方が男度は上だろ」」

「うるさいよっ! 俺達にはバカ度とうぬぼれ度が対等だって事しか分からないんだよっ!
てーかいつもの大体分かったでなんとかしてくれよ、ディケイドなんだしよっ!」

「……さっき言った? ディケイド?」



自然とその一言で、さっきの夏みかんと今のユウスケの発言を頭の中でリピート。その中にあったヒントを見つけて、僕も両手で柏手を打つ。



「そうだ、その手があった」

「あなた、なにか思いついたんですかっ!」

「もうばっちり。夏みかん、おのれもたまには空気読むね。ユウスケ共々良いヒントくれたよ」

「はい?」

「もやしー」



首を傾げる夏みかんとユウスケはそれとして、僕は二人のもやしに呼びかけながら一足飛びで踏み込める距離まで詰める。



「ディケイドに変身して偽物は倒しちゃおうよー」

「「それだっ!」」



二人のもやしはしてやったりという顔をして、ソファーから立ち上がり右手を懐に入れる。

既に黒の上着にスラックスというデフォな格好に戻っているもやしの懐から、ディケイドライバーが取り出された。



≪KAMEN RIDE≫

「変身」

≪DECADE!≫



そうして異例だけど写真館の中で変身――ただしディケイドになったのは、左側に居たもやしだけ。

右側――写真室の入り口側に居たもやしは、そのままの姿で焦った顔をする。僕はすかさずそのもやしを指差した。



「うし、こっちが偽物だ」

「それでいいんですかっ!? ディケイドに変身出来ただけ……あ、そっか」

「あぁ、これでいいっ! 士がディケイドに変身出来るのは『記憶・経験』の類じゃないっ!」

「そういう事」





さっきの夏みかんの『二人はディケイド』発言で気づいたの。本物のもやしとワームの差異はなにかってさ。

それは……ディケイドである事。もうちょっと言うとディケイドライバーを持っているかどうかってところ。

ワームは記憶と経験、それに基づく能力は擬態するけど、持ち物どうこうまではどうにもならない。



服装はなんとかなるとしても、それが目には見えない持ち物のたぐいだったら?



しかもそれが基本二つとない貴重なものだったら? 正解はもう一人の焦った顔を見れば一目稜線。





「ヤスフミ待ってっ! こっちの士さ」





そこで邪魔をするフェイトに肘打ちをして黙らせておく。……当然そこも考えているに決まってるでしょうが。

今腹に肘を食らって崩れ落ちたフェイトは、『偽物がディケイドに変身してるかも』と言おうとした。

悪いけど今そんな事言われたら、僕の計画は全部パーだよ。あのね、偽物がディケイドに変身してるのは、この際問題じゃないの。



大事なのは偽物だと断定されたこっちのもやしが、これからどういう反応をするかだよ。さて、どうする?



更にゴネてフェイトと同じ事を言い出す? それとも……それで僕の予測通り、右のもやしの表情が変わった。





「ふ、バレたか。だが」



ワームもやしは表情を歪めながら、ディケイドに飛びかかる。……ビンゴッ! 自分で偽物と認めたっ!



「自分で自分を、殴れないだろっ!」



中々に素晴らしいアイディアの元に襲いかかったワームもやしを、ディケイドは容赦無く右拳で殴り飛ばした。



「げへっ!?」



驚きとありえないと言いたげな悲鳴を漏らしたワームもやしの頭頂部を、ディケイドは右の平手でバシバシと叩く。

それに怯んで慌てて下がったワームもやしは、疑問一杯な顔で僕達とディケイドを交互に見た。



「だめだよー。ソイツ性格悪いから。あと厨二病入ってるから」

「あー、あれだな。自分で自分が嫌いとかそういうのだな? 俺も分かる分かる」



腕を組んでうんうん頷いていたユウスケは、ディケイドへサムズアップした。もちろん笑顔のオプション付き。



「士……安心しろ、お前は独りじゃない」

「お前らもう黙れよっ! 一体どっちの味方なんだよっ!」



もやしは不満そうだけど、これくらいは許して欲しい。いやぁ、自分で認めてくれて良かったよ。

フェイトが話続けてたら、間違いなくそれに便乗されたしなぁ。ここで大事なのは、偽物が一番にリアクションを取る事。もう狙い通りだ。



「な、なら……!」



そこで僕達に視線を向け、飛びかかってくるか。なるほど、味方は殴れないって理屈か。

なので僕はためらいなく踏み込み、ワームもやしの顎に向かって右足で蹴り。



「がっ!?」



ワームもやしはそのまま吹き飛び、写真室入り口近くに転がった。



「あ、ごめん。殴るのはあれだけど蹴るのはOKだったわ」

「おま……なんでだ」

「残念だったわねぇ」



僕の隣にキバーラがやってきて、くすりと笑いながら……違う。ワームもやしを明確に嘲笑う。



「恭文ちゃんは鬼畜外道だから仲間を殴ったり蹴ったりする事くらいは楽勝よぉ。
てゆうか、士ちゃんの記憶持ってるならそれくらいは分かっておきましょうよぉ」

「黙れ沢城みゆき、スパイとして裏切りも平気なおのれに言われたくないわ」

「あらぁ、これはやぶ蛇だったかしらぁ」

「そうそう、後で尋問するから。そうだねぇ、縛りつけて目の前で夕飯を美味しく食べてやろうか。一週間くらい」

「な、なんて恐ろしい事をっ! 本当に鬼畜ねぇっ!」



でももやしの記憶保持……コイツ、もやしがなくしてる記憶も知ってたりするのかな。

そんな事を考えている間にワームもやしは立ち上がり、僕を睨みつけながらも後ずさる。



「く……この悪魔がっ!」



そのまま写真室のドアを勢い良く開け、外へ逃げていった。その様を見てどうしてかユウスケと夏みかんがうんうんと頷く。



「もっともな意見ですね」

「恭文、悪いがそこ否定出来ないわ」

「否定しなくていいから追うよっ! また擬態されても困るっ!」

「あ、そっかっ!」

「待て」



駆け出そうとすると、いつの間にか背後に回った天道総司が僕の首の後ろを掴んで引き止めた。



「ディケイドはどうでもいいが、お前とそこの二人」



それから僕を捕まえたまま、フェイトとギンガさんを見る。



「三人ともここに残れ」

「はぁっ!? てゆうかまずお前なによっ! ご覧の有様なんだけとっ! めっちゃ立て込んでるんだけどっ!」

「え、えっと……俺達は行くな?」

「あとはお任せしますので」

「待ってっ!」



夏みかん共々申し訳なさそうなユウスケに、首元のアルトを外して投擲。ユウスケは慌ててそれを両手でキャッチした。



「アルトアイゼン……いいのか?」

「道案内くらいは出来るでしょ。アルト、なにかあったら連絡。すぐに転送で跳ぶから」

≪分かりました≫



そのままディケイドもやし共々ユウスケ達は出て行った。

もうしょうがないので力を抜くと、天道総司が僕の首元から手を離した。



「あ、あの」



台所――食卓の方から困った声がしたのでそちらを見ると、アラタさんが栄次郎さんに凄い勢いで引き止められていた。



「俺もワームを追わないといけなくてですね」

「いいからちょっと待って。今コーヒーに合うケーキ用意してるから」

「丁度いい、お前も食べていけ」

「はぁっ!?」

「お前は俺の友と同じ匂いがする。今日は俺のごちそうだ、食っていけ」





結局アラタさんもついでと言わんばかりに引き止められ、僕達は……なんですかこれは。



てゆうかコイツの出番はもう終わったんじゃないの? なんでまた出てくる。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ディケイドに変身した状態の士と夏海ちゃん共々写真館から出て、川沿いの桜並木を必死に走りワーム士を追う。

だが奴も足が速く……マズいな。クロックアップなんてされる前に、捕まえておきたいんだが。

そう思っていると、士がライドブッカーを銃形態にした上でトリガーを引いた。次の瞬間、奴の周囲に火花が散る。



その着弾音と派手に散った火花のせいで奴の足が止まった。……おいおい、コイツなにしてんだよっ!



ここ普通の街中だぞっ!? てーか自分と同じ顔の奴をためらいなく撃ちやがったしっ!





「お、お前……平然となに撃ってんだっ!」



俺と全く同じ事を、足を止めたワーム士も考えていたらしい。……ですよねー。



「いや、その顔攻撃しやすいんだよ」

「なんでだっ!? お前本人だよなっ! ならこれでっ!」



ワームはそこで不敵な笑みを浮かべ、今度は今の夏海ちゃんそっくりに擬態した。



「え、今度は私っ!?」

「どう、これなら無理」



そう思っていた時期が俺にもありました。士は素早く踏み込み、ワーム夏海ちゃんに右のストレートを打ち込んで吹き飛ばす。



「ぎゃあっ!」



ワームは地面を転がり、左手で殴られた左頬を押さえながら士を信じられない様子で見る。



「な、なんでっ!?」

「残念だったな。その顔は見てるとムカつくから更に殴りやすい」

「士くんっ!?」

「てゆうかお前、バカだろ。既に偽物って分かってんだから、どんな顔しようが殴れるんだよ」



思わず夏海ちゃんと顔を見合わせて、両手をポンと叩いて納得。あー、そうだよな。

既にあれが偽物だと確定してたら……いやいや、それでももうちょっと躊躇えよっ! お前ホントに遠慮ないだろうがっ!



「こうなったらっ!」





ワームは俺達から距離を取りながら立ち上がり、その姿をえっと……幼虫かサナギ体だったな。

緑色の姿に変わって、11時方向へ走り出す。どうしたのかと思ってそちらを見ると、そこに人影があった。

顔は見えないが肩までの黒髪の女の子。服装はピンクのセーターに白のスパッツ……やばいっ!



人質を取ろうとしいてるのに気づいて、俺達は全力駆け出しワームを止めようとする。

だがワームが爪を彼女に伸ばそうとした瞬間、突然ワームが右の方へ弾かれた。

それから空中に浮いた状態で後ろ・前と跳ねるように移動し、緑色の爆炎をあげながら消える。





「きゃあっ!」



その爆発に驚いたのか、あの女の子が声をあげて倒れてしまう。俺達はその光景を見て、固まってしまった。



「士くん、ユウスケ、今のなんですかっ!?」

「多分だけど、クロックアップ」



多分ってつけるのは、恭文やアラタさんの説明通りクロックアップ出来る奴じゃないとあれが見えないせいだ。

実際俺もさっきのや今のも全く見えなかった。……実は人間やめてるような状態だから、いけるかなと思ってたんだが。



「あ、それより」



まずはあの倒れた子を助ける方が先。急いで駆けよろうとしたんだが、それは遅かった。



「おい、大丈夫か」

「は、はい。ありがとうございます」



だって、士の奴が変身解除した上でとっくに手を貸してたんだから。しかもかなり素早く動いてた。

士の右手を取って起き上がるあの子と、それを見て表情を緩める士――俺と夏海ちゃんは目の前の光景が信じられず、唖然としてしまった。



「……士が一番に行った。また珍しい」

「確かに」





というわけで、俺達は迷惑をかけたその子を家まで送る事になった。しかも提案者は士だ。



士からあんな事言い出すなんて……本当に珍しい。コイツ、一体どうしたんだ?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あれからしばらくして……まだ調理してます。なんかすっごい良い匂いがしてます。でも僕は頭が痛い。

スーパー大ショッカーの事にもっと早く気づいてれば、こんな土壇場に頭悩ませなくても済んだのに。

現状で噴出した爆弾は四つある。それに関してももやし達には話しておかないと、だめだろうなぁ。



特にフェイト達にはだよ。今日みたいな事をやられたらその爆弾が暴発しかねない。

マジでギンガさんの事だけに構え過ぎてたみたい。実際そこを二の次にしたら、ある程度見えて来たもの。

まず爆弾の一つはスーパー大ショッカーの事。ここはまぁ、言うまでもないところだね。



二つ目はもやしと写真館メンバーに旅に出る事を促した、紅渡さん達仮面ライダー。その行動もかなり怪しくなる。

多分ライダー達はスーパー大ショッカーの事、元々知らなかったなんだろうね。同士討ち作戦に気づいてはいなかった。

仮にスーパー大ショッカーの事を知っていてそうしたとしたら、疑問点が出るのよ。あんな旅の誘い方はしないでしょ。



どうしてそこをもやしに話していなかったの? 同士討ちされても困るんだから、一言くらい言うって。しかも言い方も抽象的。



なのでここではさっき言ったようにライダー達がそこの辺りの情報に乏しかったと考えられる。あとは……確認だね。





「ねぇ、天道総司」



写真室の窓際のテーブルに座りつつ、現在料理中の天道総司に声をかける。

まぁなんで来たのかとかさっぱりだけど、丁度いい機会だし色々質問しよう。



「天道でいい」



あ、結構あっさり返事が返って来たな。それに良い感触を覚えたので、ツッコんでいく。



「なら天道、紅渡さんがもやしを旅に出るように促したのは……あれをライダー達で謀殺するためだね」

「いいや、違う」



うわ、答え返ってきたし。それも全く悪びれもなくだよ。フェイトとギンガさんは……推して知るべし。



「当初の計画では、奴に八つの世界のライダーを全て倒してもらうつもりだった」

「……それが破壊?」

「そうだ。ライダーが居る世界が一番に引き寄せられていったからな。他の世界もその影響を受けていた。
お前達が今回っている世界達は、今にも消滅しそうな世界ばかりだ」



つまり……ライダー同士が磁石的な役割をしているせいで、世界が一つになろうとしていた。それを解消する手段は、ライダーを除去する事。

……あれ、それだとスーパー大ショッカーがなにもしなくても、ライダーで同士討ちしてたんじゃ。



「なので奴にライダーを『破壊』してもらい、世界が一つになる現象を止める。
その上で再構築――ここは特異点のあれこれを考えれば分かるだろう。奴にはその力も備わっていた」

「そういう話ですか。で、その後は?」

「破壊者に物語は必要ない――あとは分かるだろう」

「うん、分かった」



破壊して再構築した後は、原因と思われるもやしを揃って抹殺。間違いなく正義の味方の……いや、ちょっと待て。

もやしはそれくらいしなきゃいけない存在だったって事? ここも後でツッコむか。



「そんな……あんまりじゃないですかっ! なにも言わず記憶もない人に対しての仕打ちじゃありませんっ!」

「ギンガさん、黙ってて」

「でもなぎ君、これはないよっ!」

「黙ってて」



軽く睨みつけると、ギンガさんは不満ありありな表情を浮かべた。でも黙ってくれたので……念話で念押しするか。



”お願い、今は僕に任せて。このチャンス、逃すわけにはいかないの”

”チャンスって……あ、そっか”





そう、このチャンスを絶対に逃すわけにはいかないのよ。天道総司はもやしの知ってる紅渡の関係者。

そんな人間が自分からここに来て、ペラペラと話してくれるのよ? それがチャンスじゃなくてなにになるのよ。

腑抜けてた分、疑問を出来る限り解かないと。いつ消えるか分かったもんじゃないし。



ギンガさんもそこが分かったから、納得してくれた様子。うし、これで。





「ギンガ、黙っちゃだめだよっ! こんな事絶対に許されないっ!
というか、正義の味方のする事じゃないっ! あなた達、自分が恥ずかしくないんですかっ!?」

「おのれも黙ってろっ! ギンガさん、フェイト押さえててっ! 本気で邪魔だからっ!」

「わ、分かったっ!」

「……じゃあ天道、次の質問」



ギンガさんにフェイトを任せて、僕は天道に更に質問。天道は……気にした様子もなく調理を続けている。



「で、その計画から結局どう変わったのよ」

「簡単な事だ。俺はともかく、その計画を立てた連中はそもそものきっかけを勘違いしていた。
……全ての原因はスーパー大ショッカーだ。奴らが本来別々だった世界を一つにした」



やっぱりスーパー大ショッカーが全世界を征服しようとしたのが原因か。本来は繋がりようのない世界に同時に関わったから、そのせいでって事?



「奴らは枝分かれした世界の根本――樹の幹を蝕もうとする害虫と言ってもいい。
お前達には理解の及ばないほどに大きな樹木は、一度全ての枝葉を落とす事にした」

「自分を守るために、だね。じゃあ世界が一つになって消えようとしているのは」

「そもそもその考え自体がおかしいのだろうな。これは……リセット現象だ。
最初からディケイド一人や俺達ライダーを破壊して済む話ではなかったんだ」



害虫そのものを駆除しないと、その樹木も安心出来ない。だから……確かに勘違いも良いところだよなぁ。

でもこれで目的ははっきりした。害虫――スーパー大ショッカーを倒せば、リセット現象は止まるんだから。



「あの、ちょっと待って。そういう組織が暴れてるから世界が壊れる? 征服じゃなくて……理解出来ません。
そもそもそういう話ならあなたがここに居るのだってアウトだし、良太郎さん達が前に助けてくれたのだって」

「ギンガさん、そこと比べるのは大違いだよ。規模と数、行動の影響が違うんだから。……時空並行理論って知ってる?」

「……ううん」

「いわゆるIF・パラレルワールドがあるーって話だね。それは今も時間が進む毎に凄い勢いで枝分かれしていってる。
ただね、それらは無限に枝分かれするわけじゃない。僕達からすると膨大な数になるけど、限界があるの」





前にそれっぽい論文を読んだ事があるのよ。枝分かれしていったIFの時間軸――世界があまりに多過ぎると、それを受け入れる器がパンクする。



その場合その流れは一度余分な世界を消去して、規定数内に戻そうとする。



もしくはたくさんある世界を一つのものとして統合……うん、さっき天道が言っていた話通りなんだよ。





「なのにスーパー大ショッカーという一つの存在が、それら全てに干渉しようとバカをやった。
そのせいで枝分かれのペースが、とんでもない加速をしてしまったんだよ。
だから樹木が膨れ上がる枝葉の重さに耐えられなくなって、リセット現象が起き始めてる」

「あの……ごめん。せっかく説明してくれてるのに、チンプンカンプン。というかあの、私の理解の範疇を超えてるの」

「そう? これくらいちょっとSFかじってれば分かる話だけど」



いわゆる世界の補正力ってやつの話だけど……まぁギンガさんはしょうがないか。本気で分かんないらしく、困った顔してるし。

まぁこの話はやめとこう。ようは『スーパー大ショッカーの大本を倒さないと、世界崩壊は止まらない』って考えでOKなんだし。



「天道、その事スーパー大ショッカー達は」

「知っているだろうな。だから門矢士を狙う」

「……なんつうタチの悪い。なら次の質問。僕とギンガさんがもやし達のところに――クウガの世界に跳ばされたのはどうして」

「それは私が教えてあげるわぁ」



これに関しては明確に答えを求めていなかった。ただ気にはなっていたので、聞いてみただけ。

でも、その答えはまたまた僕の左隣にやってきたキバーラが知っているらしい。これは、ちょっと予想外かも。



「まずあなた達をあのオーロラに取り込んだのは、スーパー大ショッカーよぉ」

「それはどうして」

「簡単よぉ。あなたがあの世界での分岐点となる存在かも知れなかったからぁ」



分岐点――ハナさんと同じ? じゃあ僕が電王のパス使えたりしたのは、そのせいなのか。

それで今フェイトが慌てたような顔したところを見ると、フェイトも知ってた話っぽいね。オーナーとかから聞いてたのかな。



「スーパー大ショッカーの計画だったのよぉ。ギンガちゃんはぶっちゃけおまけぇ。
本来は二人揃って捕縛して、本部に連行してなぶり殺しにするはずだったんだけどぉ」



キバーラは何気に恐ろしい事を言いながら、大きくため息を吐いた。



「そこで『悪魔』と旅をするっていう分岐が出来ちゃったのよねぇ。
それであなたはギンガちゃんと一緒にクウガの世界に来た」

「じゃあ僕達が跳ばされたのは、本当に偶然?」

「えぇ。でもそれで確証が得られたわぁ。あなたはあの世界における分岐点。
それと同時に……あなたが居る事でスーパー大ショッカーの理想にそぐわない未来が生まれる。
だからあなたは悪魔なのよぉ? 世間はどうかは知らないけど、スーパー大ショッカーにとっては悪魔」

「あなた……いい加減にしてっ! ヤスフミは悪魔なんかじゃないっ! またそんな事言って」



そんな事言って激昂するフェイトには、右の裏拳をお見舞い。

それで顔面を軽く叩かれたフェイトは、言葉を止めて両手で鼻先を押さえる。



「黙ってろっつっただろうが。そんな事より重要な事があるのよ。……キバーラ、どうして僕を排除しようとしたの」

「なぎ君、悪いけど私も黙れないよ」

「……あのねぇ」

「あ、違うの。なぎ君が悪魔どうこうじゃなくて」



ギンガさんが慌てた様子で首を横に振ってから、困り果てたような顔をする。



「多分……気にしてる事はなぎ君と同じ。どうしてなぎ君に対してそんな事をしたのか分からないもの」

「……なんだよねぇ」





鼻先を押さえていたフェイトがハッとした表情を浮かべる。……ようやく気づいたか。

僕は僕が狙われたと聞いた時から、もしやと思ってたのに。そう、そこまでする理由がないのよ。

僕達の世界にライダーは居ない。良太郎さん達電王が来た事はあるけど、また別世界っぽいからここは除く。



そんな世界に住む分岐点である僕を、どうしてスーパー大ショッカーが狙うのかが分からないのよ。

だって同士討ちさせようとした件から見ても、スーパー大ショッカーが最優先で片づけるべきはライダーだ。

いずれ全ての世界を征服するにしても、僕達の世界はその優先順位が低いはずなんだ。



多分その答えをキバーラは知っているので……自然と僕達の視線は、キバーラに向いた。





「キバーラ、ちゃんと答えて。そうじゃないと……そう言えば今日の夕飯はクリームシチューって言ってたなぁ」

「それで脅し成り立たせようっておかしくない? でも……まぁいいわぁ。
だけど恭文ちゃん、私はただ単にあなた達を振り回したくて嘘ついてるかもよぉ?」

「だろうね。さっきも散々やらかしてくれたし。あれ、僕に自分を斬らせる事で追撃の糸口を消そうとしたんでしょ」



軽くそう言うと、キバーラは目を細めからかうような笑い声を口元から漏らす。



「正解。ユウスケ達に感謝しなきゃねぇ。それがなかったら、あなたは狙われる理由もさっぱりだったんだから」

「そうだねぇ。でも一つ勘違いしてるから訂正しておこうか」

「なぁにぃ?」

「僕は……ユウスケと夏みかん、栄次郎さんなら確実に止めると思ったからあの場でやった」





キバーラが目を見開く様を見て、僕は不敵に笑う。そう、最初から狙ってた。

あの時あっさり斬られようとしたところから見るに、コイツは貸し借りはきっちりするタイプ。

だから組織に対しての義理立ても込みで、ああいう事を言った。でもそれは覆された。



もうこれでユウスケ達を裏切ったりは出来ないでしょ。おそらくそれは……コイツのプライドが許さない。

今僕達に対してペラペラ自分から喋ってるのだってそう。あれを恩義に感じているのよ。

もちろん警戒はしてるけど……キバーラは苦虫を噛み潰したような顔をして、軽く舌打ちをする。





「……ホント、悪趣味ね。スーパー大ショッカーじゃなくても悪魔って言いたくなるわぁ」

「ありがとう、最高の褒め言葉だわ。で、どういう事なのよ」

「結論から言えば、スーパー大ショッカーはあなた達の世界への征服計画を実行中よぉ」



予想通りの答えだったので、僕は特に動揺したりはしない。

でもフェイトやギンガさんは信じられないという表情を浮かべた。



「私達の世界が……!?」

「そんな、どうしてっ!」

「残念ながら、私もさっぱりぃ」

「嘘つかないでっ! あなた、スーパー大ショッカーの一員なんだよねっ!? 知らないはずがないよねっ!」

「ホントよぉ。私、はっきり言えばいつでも切り捨て出来る使い捨ての駒だものぉ。
今更組織に戻ってもきっと消されるだけの駒。私の価値なんてその程度よぉ」



自嘲の言葉を受けて二人は、なにを言っていいか分からなくなったのか視線を泳がせ始める。

アラタさんは……ごめんなさい、置いてけぼりで。でもポカーンとした顔しないでください。あなたにも関係あるとこだから。



「だからどうしてあなた達の世界をスーパー大ショッカーが狙うのかとかぁ、本当に分からない」





それもわざわざ僕をピンポイントで狙って……だしなぁ。キバーラが首を傾げるのも分かる。

スーパー大ショッカーは、明確な意志と計画を持って僕達の世界にちょっかい出して来てるのよ。

でもさっきも言ったように僕達の世界にはライダーも居ないし、そんな事をする理由が分からない。



なお、僕が分岐点だからっていうのは理由にならない。今の話だと僕が狙われたのは、あくまでもちょっかいを出すのに邪魔だから。



なので僕の存在どうこうじゃないのよ。でもなにか……そう、なにか理由があるんだ。スーパー大ショッカーがそれだけの事をする理由が。




「ここは士ちゃん――ディケイドがスーパー大ショッカーから悪魔扱いされてる理由もよぉ。
私はただ単にあなた達のスパイをして、情報を仕入れてくる事だけがお仕事だったからぁ」

「鳴滝からもなにも聞いてないんだね」

「えぇ。ただ悪魔悪魔言うだけだったからぁ。実際にどういう手で侵攻してるかも、さっぱりぃ」



ディケイド――もやしの記憶喪失とかそういうのにも迫れると思ったけど、しょうがないか。

多分キバーラはもうこれ以上は話さない。これは知っていれば……だけどさ。でも僕は甘くないので、念押しはしておく。



「まぁそこについては一週間飯抜きした上で真偽を確かめるとして」

「ちょ、それひどくないっ!? 正直に話してるのにぃっ!」

「こっちを遠慮無く振り回した悪女の正直なんて、ヘリウムガスより軽く感じるのよ。
……キバーラ、自分の言葉を信じて欲しいなら生命を賭けようか。等価交換だよ、等価交換」

「死ぬわよねっ! 私そんな事されたら死んじゃうわよぉっ! 鬼ー! コウモリ殺しー!」





僕は鬼なので、キバーラの言う事は無視。とにかく……そういう方向だよなぁ。

まず紅渡さん達は別にいいか。リセット現象を止めるって目的が出来たから。

スーパー大ショッカーの方は、正直なにも出来ないんだよなぁ。だけど警戒だけはしておかなきゃ。



そこについても、慌てた顔してるギンガさんとフェイトには話しておかないとだめか。勝手されても困るし。





「ヤスフミ、どうしようっ! さすがに怪人とかライダーとかが大量に出現したらどうしようもないよっ!」

「……そうだっ! キバーラ、ユウスケさんをキバの世界に連れていったよねっ! だったら」

「無理よぉ。あれは鳴滝様が開けたゲートに、ユウスケを誘い込んだのが私って話。
私には単独で世界を渡る手段はないわぁ。残念だったわねぇ」

「だったらなんであんな紛らわしい事言っちゃったのっ!?」



ギンガさん、それさっき話に出た。確実に自分を邪魔者にするためだよ。そうして排除されるために、ハッタリかましたんでしょ。



「じゃ、じゃあスーパー大ショッカーでそういう事が出来る人に連絡を取ってっ! それでその人を利用して」

「嫌よー。そんな事したら私、結果を問わず消されちゃうわぁ。というかギンガちゃん、それはもう支離滅裂よぉ?」





よし、この三人の事は後にしよう。……多分スーパー大ショッカーは、僕だけを狙ってるわけじゃない。

連中の目的が僕達の世界征服なら、間違いなくもう一つ押さえにかかってる。

あの世界にはライダーと関わりを持って、スーパー大ショッカーの事も自然に受け入れそうな部隊があるから。



その部隊の名は――機動六課。僕の予測ではみんなにもスーパー大ショッカーの手が伸びてると見ていい。

ここはみんなを脅威と思っているとかじゃなくて、みんなを通じて僕達の知る良太郎さんが来るのを恐れてる。

そう思う理由は、もちろんスーパー大ショッカーは今まで存在をひた隠しにしていた事。



そこを考えたら、それくらいはやりそうなんだよなぁ。ライダーにバレるのを嫌うのはすぐ予測出来るし。

問題が起こらないように接触手段を持っていると思われるみんなを押さえようとするのは、自然な流れでしょ。

でもここでもう一つ厄介な事がある。それは……既に僕達にスーパー大ショッカーの事がバレちゃってる事。



鳴滝がもやしともう一人の僕と仲良しな良太郎さん達に倒された事で、そこは察していると見ていい。

その影響はないのかな? でも……だめだ、ここは情報が少な過ぎる。一旦置いておこう。

それで三つ目の爆弾は……僕達が残る響鬼の世界を超えた時、なにが起こるか分からないという事。



ただここは、マジでライダー大戦が勃発する流れではなくなった。スーパー大ショッカーの事がバレたしね。

ライダー同士で争っている場合じゃないけど、もやしの立ち位置によっては……三つ巴かぁ。

今ライダー達がこっちに対して味方みたいに流れになっているのは、あくまでもスーパー大ショッカーの存在があるから。



奴らがディケイドを使ってライダーの同士討ちを狙っていたから。でも、もしスーパー大ショッカーを止めてもリセット現象が止まらなかったら?

もしその原因が本当にもやしにあったら、ライダー達はためらいなくこっちを潰しにかかるはずだ。

そして四つ目の爆弾は小野寺ユウスケ――仮面ライダークウガ。ここがあるから、僕はさっきアルトをユウスケに貸したのよ。



今ユウスケの状態から目を離すわけにはいかないしさ。ユウスケには無茶はさせられない。



そこも本来気づくべきところだった。原典との最大の差異だったのに……自分が情けなくて情けなくて、唇を強く噛み締める。





「天道、次の質問。門矢士は――ディケイドは一体何者?」

「おばあちゃんは言っていた。宝探しは探している時が一番楽しいってな」

「……自分達で答えを探せと」

「そうだ。お前の想像している通り、俺達は門矢士が何者か知っている。
だがそれは今のお前達にも、門矢士にも意味の無い事だ。わざわざ言う必要はない」

「確かにそうみたいだね。てゆうか、今までの話からだいたい分かったわ」





まずもやしは、フェイトも言うように正義の味方がそうとは思えない所業を行なって当然と思うような存在。

ここはただ単に世界崩壊の原因ってだけじゃないように思える。つまり……そうだな。

もやしの存在がライダー達にとってもっとも忌むべきもので、すぐにでも消えて欲しいものだったから?



例えば……仮面ライダーという存在が持つ法則やあれこれを考えると、なんとなく正体が見えてきた。

それにスーパー大ショッカーの存在もあるからなぁ。それならもやしが鳴滝に『悪魔』扱いされるのも分かる。

でも僕は天道の言葉に納得出来ない部分があるので、やっぱり食い下がっていこうと思う。





「でも天道、意味がないっていうのは違うわ。少なくとももやしには意味がある」

「なぜそう思う」

「あのバカは自分の事を知りたがっているから。だからきっと、もやしにだけは意味があるんだ」

「そうか」



ギンガさんが記憶をなくして戸惑う様を見ているから、さすがにね。そこで乗る事は出来ないわ。

それで天道総司は僕の言葉になにも答えず、鍋を振るい続けている。……これ以上は無駄か。



「じゃあキバーラ、次の質問」



質問の矛先を再度キバーラに変えると、このコウモリはうんざりと言いたげな顔をする。



「なにぃ、まだ私に聞きたい事があるのぉ?」

「あるね。それで最も重要な質問だ。……小野寺ユウスケをクウガにしたのは、一体なんのため」



キバーラは眉をひそめ、僕を怪訝そうに見る。というか、若干呆れてるように見えた。



「今更ぁ? 恭文ちゃんならもう分かってると思ってたけどぉ」

「やっぱり……ユウスケが『究極の闇をもたらす者』になるのを期待してか」

「そうよぉ。少なくとも鳴滝様はそう考えてた。クウガが持つポテンシャルは圧倒的だものぉ」

「究極の、闇? え、ちょっと待って」



ギンガさんはその名前に聞き覚えがあるので、意味が分からないと言いたげに首を傾げる。



「それってクウガの世界でなぎ君が士さんとユウスケさんと倒したあれだよね? それにユウスケさんがなるって、どういう事かな」

「……フェイト、僕がフェイトに今日なにもして欲しくなかったのは、ユウスケの事が一番の理由だよ」

「え?」

「ユウスケはお人好しだから、フェイトの身勝手な感情にも笑って付き合う。
でもそれで無茶させたくなかった。クウガってね、グロンギとほぼ同質の存在なんだ」



驚く二人はそれとして、僕は腕を組み脳内の知識をフルロード。出来る限り二人にも分かりやすい形で説明しておく。



「クウガは元々」

「話はそこまでにしておけ。……出来たぞ」



台所から天道がそう言いながら、黒いお盆を持ってこちらに来る。

それを見てギンガさんとフェイトが駆け寄り……話はまた今度か。



「あの、今の話聞いてましたよねっ! 私達をすぐ元の世界に戻してくださいっ!
士さん達の事を追っていたあなた達仮面ライダーなら、出来ますよねっ!」

「まぁ落ち着け。腹が減っているからそうカリカリする」





やっぱりあの人はマイペースにこちらへ近づき、お盆に載っていた皿を二つ、テーブルの上に置く。

皿の中身は、やや黒味がかったソースに絡んでいる美味しそうなエビだった。その横には取り分けるためのレンゲも付属。

それで……このスパイシーな匂いが食欲をそそる。嗅いでいるだけでよだれ出てくるもの。



一緒に重ねられた小皿と箸が置かれる。うーん、鮮やかな白がソースとマッチしてて見た目からバッチグー。





「まずはこれを食べろ」

「エビチリ……って、そんな場合じゃないですよねっ!」

「いいから食え。おばあちゃんは言っていた。料理は出された瞬間が一番美味しいってな。アラタ、お前もだ」

「いや、だから俺ワーム……てーか仕事っ! そうだよ、なんかぽけーっと聞いてたけどワームっ!」

「ワームならもう倒されたそうですよ?」



さっき念話でアルトに教えてもらった事を報告すると、アラタさんが驚いた顔をする。

……そういやその話、してなかったな。天道総司の事とかで頭一杯だったし。



「さっき連絡が来ました。なのでそっちは心配ないです」

「そ、そうなの?」

「そうらしいぞ。とにかく食え」



やっぱり言っても無駄らしい。僕はレンゲを手に取り、大きめな皿と一緒に置かれた小皿を確保。

それにレンゲですくったエビチリを入れてから、箸で掴んでかじりつく食べる。



「ヤスフミ、話聞いてるっ!? 今はこんな事してる場合じゃないんだからっ!」

「……美味い」





食べた時にまず口の中に広がるのは、鮮烈な辛さ。正直これはかなり辛い。

でもその後に来るのは、プリプリとしたエビの中から溢れる風味。

次に辛さだけではない複雑な旨みが襲いかかってくる。それでまた一口欲しくなる。



なので残っているもう半分を口の中に放り込んで……辛い。でもこの気持ちの良い辛さは、癖になるや。





「こんな美味しいエビチリ、食べた事ない」

「辛っ! でも……美味いっ! めちゃくちゃご飯欲しくなってくるっ!」

「そう言うと思って用意してある」



さり気なく今まで持ってすらいなかったお茶碗を取り出し、差し出すのが凄い。

それを受け取ってアラタさんは、子どもみたいな顔で笑う。



「ありがとうございますっ!」

「礼なら館長に言え。……ほら、そこの二人もバカみたいに立ってないで座って食べろ」

「だからそんな場合じゃないって言ってますよねっ! なぎ君、なぎ君からもなんとか言ってっ!」

「二人とも、いいからとっとと座って食べて。そうしないと話進まないから」



それはもう決定事項らしい。だって僕はもう既に三尾目に入ってるのに、コイツなにも言わないんだもの。

フェイトとギンガさんはお互いの顔を見合わせ、渋々席についた。それから小皿にエビを取って箸でつまみ食べ。



「……辛っ! な、なにこれ……辛いっ! 凄い辛いっ!」

「けほけほ……辛過ぎるよ、これっ! いくらなんでも」



むせた。……まぁこの辛さは初体験だと強烈だろうなぁ。僕は『二度目』だから問題ないけど。

でもそれは最初のうちだけ。これはありえないと言いたげだった二人の表情が、見る見るうちに驚いたものに変わっていく。



「あれ、なにこれっ! ご飯……ご飯はどこっ!? なんか凄くお腹空いてきたっ!」



そこでまたご飯が差し出されたので、ギンガさんは嬉しそうな顔をしてお礼を……さっきまでの事が一瞬で吹き飛んでる。

ギンガさん、どんだけ食にこだわってるんだろう。それでまたエビを取り分けてご飯と一緒にかき込んでるし。



「凄く辛いのに、美味しい。辛さが気持ち良く後に引いて、逆に爽快なくらい。なに、これ。私こんなエビチリ食べた事ない」

「それが本来のエビチリなんだよ」



やっぱりフェイトやギンガさんは知らなかったっぽいので、僕は一旦箸を起き右手の指をビッと立てる。



「元々の名前は四川料理の『乾焼蝦仁(カンシャオシャーレン)』。
それでね、一般的なエビチリは日本生まれなんだ」

「日本って……ヤスフミ、それおかしいよね、エビチリは中国料理だし」

「いいや、ソイツの言う通りだ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「エビチリは元々陳建民が日本で中華料理店を営むにあたって、アレンジされたものになる。
乾焼蝦仁はエビを薬味と豆板醤で炒めたもので、今食べてもらったように辛味が強い。
……お前は一度、本場の乾焼蝦仁を食べた事があるな? だから普通に受け入れた」

「うん。香港で食べたけど……でもあの時はフェイトやギンガさんと同じく驚いたなぁ。全然違う味だったし」

「一般的なエビチリには豆板醤の代わりにケチャップソースを用いる事で、日本人向けに辛味を抑えている。
一番のキモの部分が変わっているわけだから、違う味になるのも当然だ」



確かに普通のエビチリは甘みもあるし、ここまで徹底していながらも癖になる辛さはない。

どっちが良いとかじゃなくて、私にはこれが全然別の料理のように思える。うん、二人の言う通りだ。



「でもどうしてそんな事を? 本場とは全然違うのに」

「アレンジした当時は日本人が豆板醤の辛味に慣れていなかった。そしてその豆板醤を手に入れにくかった。
だからこそ日本人向けの味を作ったわけだ。……その味をよく覚えておけ」



そこで天道総司の視線が厳しくなった。その視線を向けられているのは、私とギンガ。



「エビチリの中には、その改革を行った陳建民の心には、今のお前達にはないものがある」

「どういう意味ですか、それは」

「今度はお前達の番だ」



それから視線を台所の方に移す。その意図が分からなくて、私は首を傾げてしまう。



「まずそれを全部食べろ。その後でお前達二人でこれより美味いものを作れ。
材料はたっぷり用意してあるから、どれでも好きなものを使って良い」

「はぁっ!? あの、意味が分からないんですけどっ!
というか、そんな事よりヤスフミのベルトを返してくださいっ!」

「俺がやれと言っている。もしそれが出来たらデルタのベルトより良いものをやる」

「関係ないですよねっ! いいからベルトを返してくださいっ! あの、お願いしますっ!
ベルトはヤスフミに必要なものなんですっ! 私のせいでこうなったなら、謝りますからっ!
それで協力してくださいっ! 私達は……ミッドに戻ってみんなを助けなきゃいけないんですっ!」

「無駄な頼みだな」



私のお願いを一切無視で、あの人はヤスフミの左隣に座って腕を組む。



「お前達が戻っても、結局はなにも出来ない」

「そんな事ありませんっ! ミッドには仲間が居ますっ! 私達の知る電王も……一緒に戦えばきっとっ!」

「お前はどう思う」



本当に私の事は無視で、ヤスフミに視線を向ける。ヤスフミはエビチリのせいか汗をかきながら、困った顔をした。



「僕は……今は帰りたくない」

「ヤスフミっ!」

「まだここと響鬼の世界を回ってない。もやしのカードも全部の力を取り戻せてない。今戻ってもきっと押し潰される」

「決まったな。……そうそう、お前達に聞いておこう。そうやって前に出て戦うのは誰だ? 少なくともお前達ではないだろう」



ヤスフミに呆れたようにそう言われて、私とギンガは言葉を失ってしまう。

そうだ、そうやって戦うのは……士さんやユウスケさん、それにヤスフミ。ううん、違う。



「いいえ、私は戦いますっ! ギンガの分まで戦うから……だから」

「そろそろ自覚したらどうだ。お前達は今、守られる事しか出来ない。
この状況で強くなろうなどと思うのはおこがましい。お前達は」



あの人はゆっくりと右手を挙げ、天井を指差した。



「決して選ばれし者にはなれない」

「意味が……分かりません。そんなのは嫌です。私は……私は戦いたいのにっ!」



私はヤスフミの助けになりたくてここに来た。なのに見てる事しかしないなんて、嫌だよ。

私だって戦いたい。戦って助けに……悔しげに拳を握り締めても、あの人はさして気にした様子も浮かべない。



「とにかく俺はお前達がエビチリを作るまでは、ここを一歩も動かない。
どうしてもと言うのなら、ベルトの話もなしだ」

「……分かりました、エビチリを作ればいいんですよね。ギンガ、手伝って」

「はいっ!」





本当に意味が分からないけど、エビチリを作ればいいのなら作る。そうだ、それで証明するんだ。



私達は……足手まといなんかじゃない。出来る事があるんだって、ヤスフミと一緒に戦えるんだって証明する。



私はギンガと一緒にガッツポーズを取って、気合いを入れる。よし、やるぞ。エビチリくらいなんとかなる。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで俺達があの子を送ってやって来たのは『天堂屋』というおでん屋さん。

……あれ、なんかこのパターンはすげー覚えがある。てゆうか、天堂って聞き覚えが。

とにかく数席のカウンターにテーブル席があるそのお店は、結構狭めで内装もそこまで凝ってない。



ただ美味しそうなおでんの匂いが店の中に広がってて……そういやお昼まだだったよなぁ。





「さっきはありがとうございます」



そう言ってあの子――マユちゃんは玄関近くのテーブル席に横並びで座った俺達の前に、水を置いていく。



「いや、別にいいさ。困った人を助けるのは……仕事みたいなもんだからな」



おい、コイツホントどうした。夏海ちゃんも今のお前が薄気味悪いのか震えてるぞ。俺もちょっと近づきたくないくらいのオーラ出してんだが。

てーか士、そのドヤ顔やめろ。お前そんなキャラじゃないだろうが。マユちゃんの受けはよくても俺達には最悪だぞ。



「ふふ、面白い人ですね。あ、うちのおでんは最高なので、ぜひ食べていってください」

「メニューは?」

「言ったでしょ。うちのメニューはおでん――それだけ」



マユちゃんは不敵に笑って、俺達の真向かいにあるカウンターへ足音も立てず駆け寄る。



「おばあちゃん、おでん三人前」

「あいよ」



やや灰色がかった割烹着を羽織って白い髪を後ろに一つまとめにしているおばあちゃんは、結構元気のある声でそう返事をした。



『速報です』



その途端に、店の置くにある古い型のダイヤルテレビから、慌てたようなアナウンサーの声が響く。



『渋谷区で原因不明の爆発事故が発生し、当局はカブトによって引き起こされた可能性があると示俊しています』

「あの、カブトって」

「あぁ」

『クロックアップによって我々と異なる時間に居るというカブト。
目で見る事も出来ないため、その目的も正体も不明のままです』



ここはアラタさんが説明してた通りだな。だからこそ、天道総司が変身したカブトにめちゃくちゃ驚いてた。

まぁそりゃあ……驚くよなぁ。姿も視認出来ないのがいきなり現れて、正体不明だった恭文とどつき合いしたんだから。



「士くん、ユウスケ、まさか」



夏海ちゃんが小声で話しかけてきたので、俺と士は首を横に振る。もう言いたい事すぐ分かったしな。

夏海ちゃんは、俺達がさっき会ったカブトが爆発事故の犯人じゃないかって言ってるんだよ。



「それはないだろ。アイツは写真館に居るんだしな」

「そうそう。それに姿が見えないって言ってたんだろ? だからない」

「……確かに」





ならこの世界のカブトが……でもなんのためにだよ。これ完全に犯罪者の所業だし。

ただ、別のところでも疑問がある。マユちゃんがテレビ見て固まってるんだ。

ちょうどカブトの名前が出てきた時だな。しかもその表情には、確かな怒りが浮かんでいた。



右拳もぎゅって握り締めてるし、士も夏海ちゃんも気づいて首を傾げる。





「世の中には、慌てて飲み込んじゃいけないものが二つある」



だがそんなマユちゃんと俺達は、突然かかった力強い声にハッとする。



「テレビの言う事と……お正月のおもちだ」



それはカウンターからお盆を持って出てきたマユちゃんのおばあちゃん……で、いいよな?

その人はこちらへ近づきながら声を出して笑ってから、右手をお盆の上の器にかける。



「はい、お待ちどうさま」



そうして俺達の前に置かれたのは、品のいい茶色の丼に入っているおでん。

具は……がんもと大根とたまご? あれ、三つだけなのか。



「あの」



夏海ちゃんがなにか言おうとした瞬間、おばあちゃんは右手を挙げてそれを制止。



「無駄口聞くんじゃないよ。食べ物は、出てきた瞬間が一番美味しいんだ」



やたら真剣な顔してそう言うので、俺達は顔を見合わせながらも机の上に置かれた割り箸を手に取る。

おばあちゃんはその様子を見て笑顔で頷いてから、カウンターに戻っていった。



「い、いただきます」

「いただきます」

「おい、具はこれだけか?」



まずは大根と思い箸をつけていると、士がおばあちゃんに不満気にそう聞く。

するとカウンターに戻ろうとしていたおばあちゃんがこちらへ振り向き、また真剣な顔を向けてくる。



「うちのおでんはね、がんもに大根とたまごと決まってんだよ。文句があるならよそに行っといで」



それだけ言ってそそくさとカウンターに戻る。その間に大根が箸で切れたので、そのまま口に入れた。



「凄いばあちゃんだな」

「確かに……今時珍しいかも」

「……いや、そうでもないぞ」



大根を飲み込んだ俺は、衝撃のあまり二人にそう言ってしまった。

二人はなんで俺がそんな事言うのか分からなくて、首を傾げる。



「ユウスケ、どういう事ですか?」

「とにかく二人とも食べてみろって。そうすりゃ分かるから」



二人は俺に促されるままにおでんに箸をつける。夏海ちゃんはたまご、士はがんもだな。

それで二人は箸で掴んだおでんを一口食べ、一旦残りを器に戻しつつ目を見開いた。



「「……美味しい」」

「だろ?」





俺の大根も相当レベル高かった。とにかくこう……ダシが良いんだよ。それで大根も本当に柔らかい。

ただダシの味だけするかと言われると、そうじゃない。そこがダシの良さでもあるんだよな。

ちゃんと大根の風味や食感が残ってて、それをダシが引き立ててるイメージだ。……がんももいただこう。



箸で掴んで……ん、これも美味しい。ふわふわしてて汁をたっぷり吸い込んでるから、めちゃくちゃジューシーだ。

たまごも……お、これ凄い。おでんのたまごってパサパサで美味しくないと思ってたんだが、これは違う。

ダシの風味が中までしっかり染みていて、それが食欲をそそる。この完熟具合も汁をつけながらならいけるいける。



俺達がたった三品しかないおでんの美味さに驚愕していると、マユちゃんが士の右隣にちょこんと座ってきた。





「士さんって、カメラマンなんですか?」



興味津々なマユちゃんの視線は、士が胸元からぶら下げてるあのトイカメラに向けられていた。

……なるほど、それでいきなりこんな質問したわけか。それで士はドヤ顔で頷きを返す。



「まぁな」

「……マユちゃん、騙されちゃいけませんよ?」

「そうだぞ。確かにコイツは写真を撮るのが好きだが」

「カッコ良いっ!」

「えぇっ!」



おいおい、なんでこの子こんなに憧れの視線向けてくるんだよっ! あと士、お前もまた頷くなよっ!

お前カメラマンじゃないだろっ! 自分の撮った写真を思い出せよっ!



「私、撮ってもらってもいいですかっ!?」

「おいおい、やめとけマユちゃんっ!」

「そうですよっ! 士君の写真はですね」

「そうだなぁ」



俺達を左手でさり気なく制した上で士は、やっぱりドヤ顔を浮かべ右手を口元に当てる。

そうしていわゆる『出来る奴』なオーラを出しに出しまくって、マユちゃんを安心させるように笑う。



「まずはおでん食べてからだな。一番美味しい時を」



そうしつつ右手をおでんの器にかけ、マユちゃんにアピール。



「逃がしたらお前やお前のばあちゃんに悪い」

「はいっ! もうどんどん食べてくださいっ! おかわりも用意しますしっ!」





俺と夏海ちゃんはドヤ顔な士と、憧れの視線を士に向け続けるマユちゃんをただ見ている事しか出来なかった。



いや、唯一出来る事があったか。俺達は揃ってお手上げポーズを取ったんだから。





(第21話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで……また出てきたし、あの男っ!」

あむ「なんというか、自由だよね。……あ、日奈森あむです」

恭文「蒼凪恭文です。今回はあんまり話が進んでいないカブトの世界。でも……色々分かってきたり」

あむ「世界崩壊の理由とかだね。えっと、とにかくスーパー大ショッカーを止めればOK?
それでディケイドや他のライダー達倒してどうこうという話じゃなくなってる」

恭文「正解」



(よく分からない人は、そういう事なんだで納得しよう)



恭文「そしていよいよディケイド・カブトの世界の重要登場人物であるマユとおばあちゃんが登場」

あむ「そういやあのお店、天堂屋だっけ。でもカブトが破壊活動って」

恭文「あむ、世の中には慌てて飲み込んじゃいけないものがあるんだよ?」

あむ「うん、分かってるっ! さっきお話の中で言ってたしねっ! ……でも普通は」

恭文「普通はね。だけど……この世界にZECTやワームが絡んでいる以上、こういう話は信用しちゃいけない」

あむ「え、なんでZECT? だって悪いワームやっつける良い人達じゃん」

恭文「アラタさんとかはね。でも、そうじゃないのも居るって事」



(実はZECT……この辺りはまた次回に)



恭文「あとはあっちの僕とフェイト達の世界の危機がバレたり」

あむ「……マジでなにがあるの、あっちのミッド」

恭文「そこは既に構想中。結構楽しい事になるとは思う」



(……多分)



恭文「そういやあむ、なんか聞くところによると最近準所属から正式所属になったらしいね」

あむ「へ? アンタなんの話を」

恭文「いやだなぁ、青二だよ青二。ほら、青二はあむの事務所だし」

あむ「それ、もしかしなくてもあたしの中の人関連かなっ! あたし事務所とか入ってないしっ!」



(またまたー)



恭文「というわけで、僕の方でお祝いを用意している」

あむ「お祝いっ!? ……いや、なんか悪いよ。あたしの事じゃないし」

恭文「大丈夫。これをネタにどんちゃん騒ぎしたいだけだから」

あむ「それ完全にアンタの事情じゃんっ!」

恭文「というわけで、お祝いの歌を」

あむ「なんでそこうたうのかなっ! 必要ないじゃんっ! ……ま、まぁありがと。一応聞いてあげてもいいけど」

恭文「では早速……あむあむあむー♪ 魔法少女あむちゃんー♪ クール&スパイシー♪ だけどヘタレなー魔法少女あむちゃんー♪」

あむ「うん、そういう歌だって分かってたっ! でも黙れっ!」



(バキっ!)



恭文「ブラジラっ!?」





(……人の心って、伝わりにくいよね。
本日のED:伊藤かな恵『いじわるな恋』)










鈴「いや、あれは伝わらなくて当然だと思うけど。殴られて当然だと思うけど」

恭文「いやぁ、あむをからかうのはやっぱやめられないね。新鮮だし」

鈴「やっぱりこっちの教官も教官だしっ! ……で、どうするのよ。あの自由な男は」

恭文「美味しいエビチリごちそうになったし、大丈夫じゃないかな」

フェイト「大丈夫じゃないよねっ! 本当にあの人なにしに来たのっ!?」

恭文「エビチリ作りに来たんだよ。フェイトは実にバカだなぁ」

フェイト・鈴「「バカはヤスフミ(教官)だからっ! それで納得はバカだからっ!」」





(おしまい)






[*前へ][次へ#]

27/34ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!