小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第19話 『カブトの世界/古き鉄VS最強』
恭文「前回のディケイドクロスは」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「天の道を往き、総てを司る――どこまでも我が道を往き貫く。それが仮面ライダーカブト――天道総司。
……いいよねー! カブト変身したいなー! てーかここのライダーシステム一ついただくかっ!」
「そ、そうか。でもお前、ちょっと語り過ぎだからな。ほら、俺達置いてけぼりだし。あと泥棒はやめろ」
「いや、泥棒じゃないよ。スーパー大ショッカー打倒のためにちょっと借りるだけだって。
大丈夫大丈夫、返せるようなら返すから。無理なら家宝にするから」
「後半ありえないぞっ! あとそれほぼ返せない事前提で話進めてるよなっ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
恭文「というわけで僕、キャッツアイになります」
ユウスケ「何一つ理解出来ないわっ! というか泥棒だめだろっ!」
恭文「……じゃあどうしろって言うのっ!? マジクロックアップチートなんだからっ!
しかも今後スーパー大ショッカーの一味としてワーム出るかも知れないのにっ!」
ユウスケ「それは分かるが……あぁもう泣くなよっ! たしかにそうだよな、見る事すらNGとかありえないよなっ!」
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突然捜査員が来て、アルフを逮捕していった。意味が分からないよね、私も同じくだよ。
しかもそれはお母さんも同じで六課のみんなも、近いうちにそうなるみたい。
だから私は慌ててクロノ君に通信をかけて事情確認して……現状が信じられなくて寒気しかしない。
「クロノ君、お母さん達を助けてっ! これはどう考えてもおかしいよっ! ありえないよっ!」
『それは無理だ』
「どうしてっ!」
『僕も六課後見人として……出頭命令が出ている。おそらく逮捕されるだろう』
もうこれ以上はないと思っていたほどに冷たい感覚が、更に温度を落とした。
ど、どうしよ。私……今にも意識飛びそう。そんな自分を振り払いたくて、更に声をあげる。
「罪状はっ!? いくらなんでもありえないよっ!」
『拘束理由なら存在している。一つは僕達が全員揃って最高評議会と繋がっていた疑い。
一つはそれを理由にはやて達が行った問題のある部隊運営への指導を怠った事。
しかもそれは母さんが局の威信やフェイト達の名誉のために尽力した事で説得力を持ってしまっている』
そこでクロノ君はなぜか私の方を見て、とても優しい顔をした。
でもそれでまた寒気が強くなって、私は続きが聞きたくなくて首を横に振る。
『君が休職中で良かった。君やカレル達だけは巻き添えにならずに済む』
「そん……な」
私は……そこで崩れ落ち、床に膝をついて涙を零す。というか、それしか出来ない。それしか……それしか分からない。
「どうして……どうして。恭文くん達の行方も分からないし、一体どうしてこんな事に」
『分からない。僕にも、分からないんだ……!』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「出して……お願いだから出してっ!」
声をあげながら鉄格子を何度も右手で叩く。でも誰も答えてくれない。誰も私を信じてくれない。
私はそれが悲しくて今日どれだけ流したか分からない涙をまた零しながら、更に嗚咽を漏らす。
「なぜ、なぜなの」
私は間違った事はしていない。ヴェートルの件だってそうよ。あれは局を守るために必要だった。
局が今の世界を守っている組織なのよ? その権威が落ちる事は治安維持の妨げにもなる。
そのためにGPOと恭文君から成果を奪ったのは正しい事だった。それは必要で心を痛める事も馬鹿馬鹿しい当然の犠牲。
今の世界はそういう形だもの。世界には管理局が――フェイト達のような『英雄』が必要だもの。
それで彼らは不必要なのよ。だって彼らのせいで私の愛する局の威信が貶められた。
彼らがEMPで余計な事をしなければ、あの事件はいつも通りに私達で解決出来ていた。出来ない理由がないもの。
私達はお互いを信じ認め合い、そうする事で世界を守って来た。それが出来ない人間に負けるわけがない。
でも大丈夫。犠牲になりたくないなら局に入ればいい。それが悔しいなら私達を信じ、大人になればいい。
ただそれだけで道は開ける。私達はいつでもそれを歓迎するわ。なのにそうしないのだから、しょうがない。
そうしないのだから踏みつけられても仕方ない。そうしないのだから奪い取るしかない。それは当然の事。
だって私達にはその権利がある。そうしなくてはいけない道理があるわ。私達は正しいし、正しくなくてはいけない。
正義とは残酷なものよ。それでも貫かなければ世界は守れない。正しさは壊れてしまう。
だからこそ恭文君にもそうなって欲しかった。私が愛する組織から認められる大人になって欲しかった。
局に入り同じ道を進めば、きっとあの子は幸せになれる。不幸な自分を振り払ってようやく前に進めるの。
なのに……私の母親としての愛情すら否定される。私の全てが否定され、踏みつけられる。
クライドや仲間達から渡されたバトンを新しい世代に伝えたいだけなのに、私の……私の人生が否定されていく。
なぜなの、なぜ正しい事をしたのに否定されるの。私はみんなを幸せにしたかっただけなのに。
「意味が分からない。いいえ、分かりたくない。私は間違ってない……間違っているはずがないのよっ!」
もう一度私は世界に正しさを説く。本当に正しい真実を伝えるために声をあげる。
そのためにどんなに手が痛くても、声が嗄れても、必死に叫び続ける。みんなの幸せのために抗い続ける。
「私が間違っているなら世界全てが間違っているのと同じよっ!? そんな事はありえないし、あってはいけないのよっ!
だから信じてっ! 私を信じてっ! 私を信じてくれなきゃ私が可哀想じゃないっ!
ここまで頑張って必死になった私が間違ってたなんて、私が可哀想過ぎるじゃないっ! だから信じてっ!」
私は本当に狂いそうな衝撃の中、ただ泣き続けながらドアを叩く。私を信じてと声をあげる。
正しい道を世界に語り続ける。お願い、助けて。このままじゃ私、壊れちゃう。自分が信じられなくて壊れるしかなくなっちゃう。
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本当にワケが分からない。いきなりうちに捜査官が来て逮捕されて牢屋に入れられて……ありえない。
しかもアタシが言う事聞かない恭文やフェイト達を殺したとか言うんだぞ? そんなのありえないだろ。
確かにアイツに対して不満もあった。厳しい事を言ったりもした。でもそれはアイツに幸せになって欲しいからだ。
使い魔として家族の幸せを願って……それでやり過ぎた事があるのは認めるけど、殺そうとなんてしてない。
今はアイツが局を嫌いなのは、もうしょうがないし、働いてるみんなを過度に傷つけないのなら、それでもいいと思ってる。
なのに……アタシは、気づくのが遅かったのか? だから恭文もフェイトも、なんかあと一人も消えた。
アタシがもっと早くそれに気づいてたらこんな事には……アタシは無力感に打ちのめされ、ドアの前で膝をつく。
それで笑ってしまう。だってもう、笑うしかないじゃないか。アタシは使い魔失格っぽいんだから。
アタシは家族を守れなかった。守ろうとすらしなかった。だからここに入った。これは……罰なんだ。
フェイト、恭文、クロノにエイミィ――みんなもごめん。アタシが使い魔じゃなければ、こんな事にはならなかったんだ。
リニス……ごめん。アタシ、アンタとの約束守れなかった。アタシは、アンタみたいな凄い使い魔になれなかったよ。
世界の破壊者・ディケイド――いくつもの世界を巡り、その先になにを見る。
『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説
とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路
第19話 『カブトの世界/古き鉄VS最強』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
うちらにはもう、絶望しか残されていなかった。でも……まだ素直に従うわけにはいかない。
もしあの人が来てくれなかったら、こんな考えは浮かばなかった。まずは呼吸を整え、なのはちゃんをもう一度見る。
「なのはちゃん」
「なに、かな」
「もし自分の将来や身の安全を賭ける覚悟があるなら、ヴィヴィオは逃がそう」
なのはちゃんは涙をボロボロ流しながら驚いた顔して、目をめっちゃ見開いた。
「実はヘイハチさんが少し前にこっちに来てな、警告してくれたんよ。
局上層部の動きがかなりきな臭くなってるって。もしかしたらこれは」
「その関係でって……事かな」
「そや。しかもヴィヴィオはアンタも知っての通りゆりかごの鍵。なによりまだ小さな子どもや。
うちらの不手際に巻き込むわけにはいかん。ただそれやると……アンタの現状は相当厳しい事になる」
「いいよ、それで」
それでなのはちゃんは震えて涙また流しながらも、笑顔でそう言い切った。
「ヴィヴィオが守れるなら……私はそれでいい」
「そうか。でもあとはどこに逃すか」
「お兄ちゃんのところに預けるよ。お兄ちゃんならきっと」
「それはアカン。一番に疑われてエラい事になる場所やで?」
「それならワシに任せい」
その瞬間うちらはハッとしながら、その声が聴こえた部隊長室入り口を見た。
するとつい最近修理したばかりのドアが派手に吹き飛び、なのはちゃん達の足元に落ちる。
「きゃあっ!」
「な、なんだっ!」
「てーかこの声は」
なぜか硝煙渦巻くそこから出て来たのは……着流し着てヘラヘラ笑っとるあのスケベじじいやった。
「ヘイハチさんっ!」
「おーっす。また遊びに来たぞーい」
「アンタ、いちいちドア壊さんと気がすまんのかいっ!」
「とにかくオビビはワシが預かるわ。さすがに可哀想じゃからのう」
それでうちのツッコミ無視……ちょお待ってっ! この人めっちゃ助かる事言うてくれとるでっ!
呆気に取られてた他のみんなもそれに気づいて、唖然とした顔しながらヘイハチさんを見る。
「い、いいんですかっ!?」
「おう。ただし……お前さん方もこれから牢屋入るわけじゃし、少し反省せい」
それで浮かれそうになってたうちらに、ヘイハチさんは呆れた様子でそう言って冷水をぶっかける。
「全部お前さん方の身から出たサビ。本来なら手助けなどされず綺麗に滅びるのが世のためじゃ」
「なんですか、それっ! 私達はなにも悪い事なんてしてませんよねっ!
局の上がなにかしてるなら、結局その人達が悪いんじゃないですかっ!」
「いくらあなたでもそれは聞き捨てならないっ! 我々は自分に胸を張れる行動を取り続けたっ!
皆で見た夢を叶えるために尽力し続けたっ! それなのになぜ、そこまで言われなければいけないのですかっ!」
「いいや、悪い。お前さん方は悪じゃ。そうやってツッコミどころしかないやり方しとるから、こうなるんじゃよ。
夢にはな、叶え方があるんじゃよ。もう一度振り返ってみんかい。全員揃って必要な事をなにもしとらんじゃろ」
「……黙れっ!」
シグナムがその言葉を聞いてキレたのか、胸元のレヴァンティンに右手をかける。なのはちゃんもレイジングハートを。
「文句があるならワシ、このまま帰るけど」
うちが止める前にヘイハチさんはそう言って、二人の動きを止めた。
でも二人は怒り心頭という顔のままセットアップ……このバカどもはっ!
「帰れっ! 貴様のような裏切り者の力など借りんっ! ヴィヴィオの事も六課の事も、この私の手でなんとかしてみせるっ!」
「そうだよっ! 私達は間違った事なんてしてないっ! ここは私達の夢の部隊なのっ!
それを悪く言う人達はみんな悪いのっ! あなただって同じだよっ! ……謝ってっ!
私達の夢を否定した事を謝ってっ! 悪くない……私達はなにも悪くなんてないっ!」
「そうだ、謝れっ! さもなければレヴァンティンの錆に」
「二人共やめんかいっ!」
本気でヘイハチさんを攻撃しかねんバカ共は一喝して止めた上で、うちは……ヘイハチさんに頭を深く下げる。
「……ヴィヴィオの事、お願いします。あと、出来ればリインとヒロリスさん達の事も」
「しょうがないのお。そこのバカ共は知ったこっちゃないが、子どもを巻き込むのは……それじゃあ早速連れてくからの」
「今すぐですかっ!? あの、ヴィヴィオにはうちから改めて話を」
「それはだめじゃ。だってワシ、オビビを誘拐するしのぅ」
なんか信じられん事を言うた上でヘイハチさんは踏み込み、どこからともなく取り出した木刀でシグナムの左肩を打ち抜く。
バリアジャケット装備しているはずの肩はそれであっけなく砕け、続けざまにヘイハチさんはシグナムの足元を一閃。
そうして両足をへし折った上でシグナムの頭に逆袈裟の斬撃を打ち込み、完全に沈めた。
「……弱くなったのう。この程度、ハ王でも見切って防げるぞい」
「シグナムさんっ!? あなたいきなりなにを」
次の瞬間、なのはちゃんは口から血を吐き出しながら窓近くの壁に叩きつけられた。
衝撃音が部屋に響き、なのはちゃんの身体は完全に壁に埋まる。
「なのはっ!」
とか言うてる間にヴィータにも刺突が入れられ、小さな体が赤毛揺らしながら右側の壁に埋まる。
「ヴィータッ! ちょ、アンタっ!」
「しょうがないじゃろ。こうでもしないとお前さん達が言い訳立たん」
ヘイハチさんは木刀を右肩に背負って、左手を腰に当てて軽く伸びをしながらそう言った。
「適当なの数人蹴散らしていくから、話が上手くいったらフォローよろしく頼むぞい」
「……あ」
なるほど。このままヴィヴィオや関係者が行方を眩ませたら、当然のようにうちらへの追求が厳しくなる。
特にヴィヴィオは名指しで差し出せって言われとるし。なのでヘイハチさんが誘拐しようと。
その言い訳が出来るようになのはちゃん達を痛めつけ、六課隊舎から……ちょお待ってよっ!
うちはヘイハチさんがやろうとしてる事に気づいて、慌てて立ち上がりあの人に詰め寄る。
でもヘイハチさんはすかさずうちの胸元にも木刀を叩きつけ……骨が折れる感触と痛みを感じ、うちはその場で崩れ落ちた。
「残念じゃのう。出来ればその素敵なおっぱいには木刀じゃなくて、ワシのエクスカリバー突き立てたかったんじゃが」
「アンタのなんて、ひのきの棒やろ。てーか……やめ、うちらのせいでそんな」
「まぁ牢屋の臭い飯でもしばらく味わっておけ」
そのままヘイハチさんは素知らぬ顔で踵を返し、すたすたと部隊長室を出ようとする。
「あれもあれで思い出になるからのぅ。ワシはもうごめんじゃから、必死に逃げるが」
「待て……だめ、それは」
右手を伸ばしても全然届かん。身体の痛みが強くて、立ち上がる事すら出来ん。
うちはそのまま地面に伏せ、折れたところを圧迫せんように寝返り打つだけで精一杯やった。
「あのクソジジイ、自分まで逮捕されるつもりかよ」
「い、痛い。凄く……痛い」
「復活、早いな」
「加減してくれてたおかげでな。でも……ご丁寧にアバラ折れてるし」
「なぜ、ですか」
そこで二人のすすり泣く声が響く。誰が泣いてるかとかは、もう言うまでもないやろ。
「なぜ我々がこんな目に遭うのですか。これまで身を粉にして任務に向かっていたというのに」
「そんなの簡単よ」
痛みのせいで薄れていた苦しみが一気に噴き出し、うちはまた涙を流す。
「ヘイハチさんの言う通り、うちらが間違ってたからや。
うちら……夢なんて見なければ良かった。ただそれだけの事や」
「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!」
シグナムは天井を見上げながら何度も叫び、首を横に振る。でもそれを認めてくれる人は誰も居ない。
うちらの現状がそれを証明してしまっている。もう誰にも、覆したりは出来ん。
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前回のあらすじ――フェイトのバカが突撃してくれたおかげで、計画全部飛んでしまった。
とにかく袈裟に振るわれたワームの右爪というか右触手というか……とにかく爪でいいか。
左の掌底をややフック気味に払ってから相手の右サイドに回り、そのまま後頭部を右の裏拳で打ち抜く。
続けて左のローキックで側面からワームの右膝を打ち抜き体勢を崩す。
それからすぐに足を引いて反時計回りに身を捻り、こちらへ向き直りながら突き出された左手を避け。
「遅いっ!」
がら空きだった左頬を左後ろ回し蹴りで打ち抜き奴を地面に転がす。
ワームはそのまま僕から2メートルほどの距離を取りながら起き上がる。
またこちらに近づき打ち込んできた左拳を右のエルボーで払い、次に来た爪も右の掌底で逸らす。
続けて懐に踏み込んでさっき腕を払った肘を奴の胸元に叩きつけ、すぐさま身を伏せながら左足で後ろ回し蹴り。
奴のがら空きな足を払って転がした上で起き上がり、右足で腹を蹴りまた転がしておく。
今のやり取りを見ても分かる通り、最初ワームは緑色で丸っこい幼虫のような姿をしている。
でもそれが脱皮する事で別形態へと進化して、クロックアップが可能となる。こうなると手がつけられない。
それに対抗するライダーも最初はマスクドフォームと呼ばれる重装甲・パワー重視の形態になる。
それからキャストオフ――脱皮する事で俊敏性が上昇し、同時にクロックアップが可能になるの。
こう言うとマスクドフォームの存在意義が少ないように感じるけど、実はそうでもない。
マスクドフォームはさっきも言ったけど重装甲・パワー重視の形態。なのでそれが求められる時には有効。
実際カブトもプットオンって言ってキャストオフ後に今パージした装甲の一部を呼び戻して装着。
敵の攻撃を受け止めつつカウンターなんて真似をやったりしていたから、使い分けが大事なの。
ともかく……まだしつこくこっちに飛び込んで来たワームが、右の爪を僕の胸元へ突き出す。
それを左に避け奴の腕にエルボーを叩き込み、追撃の薙ぎ払いを防いだ上でその腕を両手で取る。
関節を捻り上げた上で右膝を叩き込み、すぐさま足を引いて奴の脛に向かってローキック。
体勢が崩れたところを強引に引きずり、倉庫の上手に向かって投擲。すぐさまそちらへ走りながらデルタムーバーを取る。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
やっぱりヤスフミ、私が知っている時よりずっと強くなってる。あんな怪人相手に肉弾戦で引けを取ってない。
私は……だめだ、ジッとしてられない。失敗したなら取り返さなきゃ、そのために頑張らなきゃ。
なによりヤスフミが戦ってるのに、なにもしないなんてだめだ。ここは私がなんとかする。
私がワームを倒せば、きっとそういう誤解も解けるはずなんだ。まずは……深呼吸。電王の世界でも結局なにも出来なかった。
でももうそんな事はない。大丈夫、やれる。私の今までの経験とそれで培った感覚をフル回転――そうだ、きっと出来る。
ヤスフミだって魔導師なのにライダーや怪人と戦って勝ってる。私も気持ちひとつで、きっと出来るようになる。ううん、やらなくちゃいけない。
ゼクトルーパーっていう人達がこちらに視線を向け銃口を向けたのを横目で見つつ、その視界から消えるために一気に加速。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
やっぱこれ、アリかも。今までと違って多少攻撃を受けても大丈夫という安心感……これはまぁマイナス部分でもある。
あと身体能力もスーツのおかげで上がっているから、今まで出来なかった戦法とかも使える。
もっと試す必要はあるかなと思いながら奴に近づきつつ、まずはデルタムーバーのグリップを口元に近づける。
それから変身した時と同じようにトリガーを引いて、まずは音声入力でスイッチを入れて……と。
「Fire」
≪Burst Mode≫
それから起き上がろうとしていた奴に狙いを定め、改めてトリガーを引いて白い閃光で狙い撃つ。
奴はこちらに飛び込もうとしていた出鼻をくじかれ動きを止め……この隙にと、左手をベルトのバックルにかける。
「はぁっ!」
≪Impulse Form――Riot Form≫
なのに右の方から飛び込み、ワームの背中を狙って右薙に斬り抜けしたバカが出現。
それにより僕の必殺技は出せない状況になる。だってもし誤射したら、バカが無防備になるし。
「私も一緒に戦うっ!」
そう言ってそのバカはツインテールを揺らしながらUターン。もちろんそのバカの名前はフェイト。
自分に向き直ったワームに袈裟・逆袈裟・右薙の三連撃を打ち込みすぐ懐から離脱。
ワームの両手を大きく広げての抱きつき攻撃をそうして避けた上で僕の左隣に来て、自信満々に笑う。
「大丈夫、任せてっ! クロックアップっていうのをするまでに倒しちゃえばいいんだからっ!」
「……バカっ! それを今僕がやろうとしてたのよっ! いいから下がってっ!」
フェイトは僕が止める間もなくまた突撃。ワームに対し袈裟に斬り抜けた上で背後に周り……嫌な予感が身体を走った。
「フェイト、下がってっ!」
でもフェイトは下がらない。昔から人の話聞かない上に、危機感が薄いからなぁ。
だから突然弾けたワームの体皮の一部分を胸元にまともに喰らい、吹き飛ばされて地面を転がる。
ゲホゲホと咳き込みながらフェイトは、驚いた様子でその下から出てきたワームを見て目を見開いた。
そのワームはさっき出てきた奴とは色違いで、黒の身体に赤のラインが入っている個体だった。
これもカブトの初期に出てきたタイプだね。つーかこのバカは……!
「脱皮……どうしてっ!」
「当たり前じゃボケっ!」
おのれが超高速で動き回るから、ワームがそれについていくために脱皮したんだよっ!
だから僕もあんまちょこまか動かず手早く片づけようしてたのに……いや、今はそこはいいっ!
「バルディッシュ、全方位に防御障壁っ! 早くっ!」
フェイトの周囲が金色でドーム形状の魔力障壁が展開したのと、あのワームが姿を消したのはほぼ同時だった。
ここでまず一つミス――僕は背後から襲ってきたなにかに弾き飛ばされ、宙を舞ってしまう。
「ぐ……!」
「ヤスフミっ!」
これ……間違いない、抜き打ち的に殴られた。でも全然知覚出来てない。
予想通りな状況に舌打ちしつつ、ベルトの前面にバックルに挿入されているミッションメモリーを取り出す。
ファイズと同じく同様にデルタの仮面を模した装飾のそれをムーバーの銃身上部にセット。
それにより銃身に収納されていた円筒形の銃口がせり出したのを確認しつつ、グリップを口元に近づけて声をあげる。
「チェックッ!」
≪Exceed Charge≫
改めて気配察知……だめだ、気配が捉えられない。なにかがせわしなく動いてる感じはするけど、それだけ。
なおこれは全く役に立たない。僕がクロックアップの事詳しいから、そういうイメージしてるだけだと思う。
つまり実際に感覚で捉えてるわけじゃないって事。ワームは今、今完全に僕達とは違う時間軸に居るからなぁ。
僕がフェイトやギンガさんに夏みかんを置いていきたかった理由、現状を見てもらえれば分かると思う。
フェイトにも言ったけど、この世界だとなにかあっても守り切れる自信がないのよ。
もちろんフェイト達の自衛を期待する事も出来ない。クロックアップの前では僕達は動かない的同然。
僕達とは違う超光速とも言うべき速さで動いている連中には手出し出来ない。
そんな中ライダー知識が今ひとつなフェイトとギンガさん、夏みかんのフォロー?
しかもライダーにもなれず防御力に不安があるのに……出来るわけがないでしょうがっ!
しかも説明したらしたで『今のうちなら』とか考えて勝手するしさっ! こうなるのが分かってたから言いたくなかったのよっ!
なのにもやしもユウスケも『それはない』とかって空気出すしっ! くそ、マジで空気読まな……がは。
地面まで1メートルを切った所でいきなり腹に衝撃を与えられ、身体がそれに圧されて一気に吹き飛ぶ。
それで僕は近くの鉄柱に背中から叩きつけられ、一気に地面に叩きつけられた。
「ヤスフミっ! ……バルディッシュっ!」
≪無理です。反応が捉えられない。動いている形跡すらも……なんですか、これは≫
くそ、ライダーに変身した僕から狙い撃ちに来たか。まぁフェイトは向こうからすると正体不明な障壁張ってるし、そうくるわなぁ。
あとは多分だけど、ワームもフェイトを敵かどうか判断に迷ってる。さっき庇ったのが、フェイトを守ってるのよ。
でも僕は守ってくれない。なので地面に倒れながらも、神経を研ぎ澄ませていく。
視覚や感覚で捉えようとしてもだめだ。そんなのはマジ無理ゲー。
なので奴がクロックアップから抜け出たところを狙う。というかもう、それしか出来ないのよ。
僕の武器は良い言い方をすれば第六感。悪い言い方をすればただのヤマカンだけ。
でも僕はその勘に何度も助けられてきた。だから……その瞬間、嫌な予感がした。
てーか柱に叩きつけられたのはラッキーだった。おかげで背後は取られずに済むんだから。
その予感に従い手首だけを動かしデルタムーバーの銃口を2時半方向に素早く向け、トリガーを引く。
そこから放たれた白い閃光は僕の10数メートルほど前に居た今まで目に見えなかった奴を捉える。
そしてそのまま数メートル押し込み、閃光は回転しながらワームを捉える三角錐のスフィアに変化。
「まずは……一体」
狙いばっちりなのにちょっと感動しつつも起き上がり、右手首をスナップ。
スフィアによって動きを止められもがくワームに向かって走り出し、そのまま跳躍。
「はいだらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
白く輝く右足を突き出しながらスフィアに飛び込むと、三角錐のそれは高速回転を始める。
それはドリルのようにワームの身体を捉え貫き、更に震わせ……そして貫通。僕の身体も一緒にワームの身体の中に吸い込まれた。
でもそれは一瞬で、僕はスフィアと同じ光を纏いながらワームの背後に着地。
振り返ると奴は背中に青い『Δ』マークを刻まれ、震えながら膝を突き爆散。緑色の爆炎の中に姿を消した。
≪……なんではいだらですか≫
「いや、もうやってらんなくて」
そこで膝をつき、荒く息を吐いてしまう。そんな僕に展開した結界の中からフェイトが駆け寄ってくる。
あとは倉庫の外からユウスケが慌てた様子で、フェイトと同じく僕の方へ近づいて来た。
「ヤスフミっ!」
「おい、しっかりしろっ! 悪い、フォロー遅れたっ!」
でも僕は二人の声に答えられない。それは痛みどうこうじゃなくて、今のがマジでラッキーによる勝利だから。
クロックアップしている相手はクロックアップしている奴にしか知覚出来ないのは分かってた。
でも実際に戦うとここまでとは予想外過ぎた。もし相手の攻撃力が更に上だったら、ホントどうしようもなかった。
そうだ、だからラッキーなんだ。そこまで強いワームじゃなかったから……僕は負けたも同然だった。
「だから、言ったでしょうが。無理だって。写真館で待っててって」
こうなる事は覚悟してた。予想してた。それで話もしたのに……僕は素早く起き上がってフェイトに詰め寄る。
「もういいっ!」
でもすぐに手を引いた。今は変身中だし、まだまだ慣れていない状況。
下手にフェイトに詰め寄って怪我でもさせたら……そう考えて冷静になった。
もうちょっとちゃんと説明しておくべきだったと、自分のミスを痛感しまくってしまう。
「ヤスフミ……ごめん。あの、次はちゃんと出来るようにする。私なりにクロックアップ対策も考えるし」
「もう黙れっ! てーか今はそれどころじゃ」
「「がぁっ!」」
とか言っている間に、姿が消えたはずのザビーとガタックが地面を転がりながら僕達が居る倉庫内部になだれ込む。
というかクロックアップ終了……ちょっとちょっとっ! なんかやられるの早っ! てゆうか思いっきり押し込まれてたんかいっ!
「ない……よなぁっ! ユウスケ、フェイトをお願いっ!」
「俺も……って、そうはいかないか」
「そういう事っ!」
正直今のフェイトを一人にしておくのは不安があり過ぎる。……それと釘を刺しておこう。
「あとフェイト、これ以上余計な事するなっ! いいねっ!」
クロックアップ終了で出てくるワームの気配を捉えようと再度意識を集中。もちろんさっきと同じくヤマカンだよ。
何度も言うけど発動中の個体を全く認識出来ないんだから、どうしようもない。
とにかくもう一度チェックと音声入力しようと瞬間、突然ザビー達の目の前で火花が上がる。
それは立て続けにその真向かいに居る僕から見て左に流れるように何度も発生し、倉庫の壁に直進。
そうして凄まじい音と共により大きな火花が走り、あのワームが壁に叩きつけられ呻く。
「カブトっ!?」
ガタックが起き上がりながらそう叫ぶと同時に、火花の発生はストップ。
「おばあちゃんは言っていた」
てーかワームの前にそのカブトが現れた。青く丸い瞳に大きな角と流線型で薄手のアーマーはテレビで見たまま。
カブトはもちろんカブトムシをモチーフとしていて……あれ、でもこの声は。てーかあのカブト、僕を見ている。
「男がやってはいけない事が二つある。女の子を泣かせる事と、食べ物を粗末にする事だ」
その瞬間また猛烈に嫌な予感がして、僕は両手でポンと押すような感じでフェイトとユウスケを突き飛ばし、両腕でガード。
その直後にカブトの姿が消えたと思うと、僕の懐に入り込み右足で蹴りを打ち込んで来た。
「ぐ……!」
ガードしたはずの長い足が伸び切り、それに押され数メートル吹き飛び地面を転がる。
スーツの上から伝わる痺れにまた息が荒くなりそうになっていると、カブトはゆっくりと僕の方に歩いてくる。
「立て」
「一体、なんの用だよ。僕、お前とは知り合いじゃないと思うんだけど」
言われた通りにするのが癪だけど起き上がり、まずは膝立ち状態になる。それでカブトは……なんだコイツ。
ワームや他のライダーとは空気が違う。身体中から半端ない覇気が出てきて、とっても大きく見える。
「もしかして僕が悪魔だって聞いてるわけですか」
「違う」
その瞬間またカブトが踏み込んで来たので、まず左手で打ち込まれた右拳を受け止め脇に逸らす。
でもその拳がすぐに裏拳として右薙に打ち込まれたので伏せて避けると、すぐさま右足での蹴りが顔面に向かって飛んでくる。
それを左の側転で避けつつ距離を取ってもカブトは踏み込み、両拳を左右交互に振るってくる。
その重く鋭い突きをなんとか左右の掌底で払いつつ下がり、数発目の右の掌底を防いだ直後にカブトの右脇腹に向かって回し蹴り。
でもそれをカブトはバックステップですれすれに避けると、今度は逆に僕の胸元を狙って右足を叩き込む。
素早く伸び切った足を縮めて太ももの辺りを盾に蹴りを受け止め……僕はまた吹き飛ばされた。
それでも倒れる空中で身を捻って着地。すると目の前にはやっぱりカブトが居て、僕に対し右拳を打ち下ろしてくる。
その拳を左手で受け止めながら懐へと踏み込み、カブトの顔面を右拳で狙い打つ。
「お前があまりにバカで見過ごせなくなった」
でも奴は余裕綽々と言った様子で僕の拳を左手で受け止めていて、僕達は組みつくような形になっていた。
「意味分からんわっ!」
でもこの覇気に自信たっぷりな物言い……なによりこの声。僕は反射的に相手が誰か分かって、後ろに飛び退いた。
それにより打ち込まれていたローキックを避け、3メートルほどの距離を取る。もし僕の予想通りなら『このカブト』は、あの人だ。
≪Sonic Move≫
「……待ってっ!」
どうしたものかと思っていると、フェイトが金色の光を纏いながら僕とあの人の前に割り込んで来た。
「フェイト、どいてっ!」
「嫌だっ! どかない……今度こそっ!」
「ふざけんなボケっ! おのれの自己満足に僕を付き合わせるなっ!」
「嫌だって言ってるよねっ! ……ヤスフミだけ戦わせるなんて嫌なのっ!
私もヤスフミと一緒に戦いたい――戦いたいのっ! ううん、私だけじゃないよっ!
ギンガだって同じっ! もうキバーラにも誰にもあんな事言わせないっ!」
フェイトの嗚咽混じりで、ボロボロと泣きながら発する言葉に胸が震えた。ううん、胸が痛んだ。
さっきもフェイトは必死な顔を……ううん、写真館を出る前から同じ顔をしていた。……キバーラのあれが原因だったのか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そうだ、私はヤスフミと一緒に戦わなくちゃいけない。それでヤスフミと同じように怪人を倒したりしなくちゃいけない。
ヤスフミにただ守られてるだけじゃ、だめなんだ。それじゃあキバーラが言ったように足手まといになる。
それでギンガの分もそうしなきゃいけない。だってギンガは今、戦ったり出来ないんだから。その分私が頑張るの。
どんなに失敗しようがヤスフミになにを言われようが、絶対に引いちゃいけない。ヤスフミだけに押しつけちゃいけない。
私は戦う。それで私達がヤスフミの足手まといじゃないって証明するんだ。大丈夫……きっと出来る。今度こそ出来る。
「違います……この子は悪魔じゃないっ!」
まずはこの人を説得して、それを証明する。気を引き締めろ、私。スーパー大ショッカーの事を言えば止まってくれるはず。
「全部」
「スーパー大ショッカーが俺達ライダーを同士討ちさせようとしていた」
「そうですっ! スーパー大ショッカーが……え」
ちょっと待って。この人どうしてそれを知ってるの? スーパー大ショッカーの事は、ヤスフミや士さん達でさえ知らなかったのに。
「そんな事はとうに知っている。俺は」
私の驚きの視線に構わず、あの人は右手を上げゆっくりと天を指す。
「選ばれし者だからな。他の連中の目はともかく、この俺の目は誤魔化せない。大方世界崩壊の原因も連中だろう」
「だったらどうしてヤスフミをっ! 戦う必要はないのにっ!」
「ある。コイツはお前を守れなかった。巻き込んだ者を置いていき迷子にした。
今もお前が迷子になったせいでこの有様だ。そんな奴に世界は救えない」
その言葉が突き刺さって、私は首を横に振る。それは……『足手まとい』という事だから。
キバーラの言っていた事と同じだと感じたから。だから私は首を横に振って、その言葉を否定する。
「それは私が弱いからっ! ヤスフミのせいじゃないっ! でも強くなるっ!
強くなって変われば、私達だってヤスフミと一緒に戦えるっ! あなた達と同じになれるっ!」
「それは絶対にない」
はっきりそう言い切られて、決意が揺らぎそうになる。ううん、迷うな。矛盾があるのは分かってる。
でも止まってなんていられないって、私は決めたはず。だったら絶対に迷っちゃいけない。
「まさかお前達が強くなる事を期待しろと? その間俺達やコイツに我慢していろと? 無理だな。
本気でそう思っているのだとしたら、強くなるわけがない。お前達は永遠に弱いまま――ただの足手まといだ」
「違うっ! 私は――私達は足手まといなんかじゃないっ! 私達でも出来る事があるっ! ヤスフミや士さん達の役に」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
本来はライダー変身中に使うのは空気読めてないけど、転送魔法を詠唱――発動。
フェイトは蒼い光に包まれながら、再び10数メートル離れているユウスケの隣に戻った。
「え……まさか転送っ!?」
「邪魔だから下がってて。ユウスケ、フェイトのガードよろしく」
「だめっ! 私がやるっ! 今までだめだった分、ここで頑張って」
「いいから下がってろっ! お前が居たら邪魔なんだよっ!」
怒鳴りつけるとフェイトはようやく動きを止めた。それに安心しつつ僕は、仮面の下で呼吸を整える。
「アンタの言う通りだ。僕は巻き込んだ二人を置いてけぼりにした。
こんな面倒な世界に関わらせたくなかったから。でも……きっと遅い」
「そうだ、お前はもう巻き込んでいる。そしてコイツらが強くなる事を期待している余裕はない」
それで僕はその責任から逃げていた。だからフェイトがあんなバカしかやらかさなかった。
フェイトやギンガさんが行く道を拓き、導くのが僕の責務――どうもカブトはそう言いたいらしい。
でも責務を果たすという事は、今のフェイトの叫びと相反する部分がある。それでも……やれと。
もう一度呼吸を整え、目の前のドデカイ壁を打ち抜くために腰を落とし半身に構える。
左半身を奴に向け、右手をスナップさせて腰の辺りまで落とす。左手はやや湾曲気味に伸ばし拳にする。
「言いたい事は分かった。でも僕にも言い分はあってね」
「なんだ」
「……僕より年上で鉄火場の経験もあるのに、そこまでしなきゃいけないわけですか」
「当然だ。お前はそうしなくてはいけない理由を知っていたはずだからな」
それを言われると、弱い。二人が『足手まとい』と言われてどう思うか、予測はついていたはずだ。
ついていたのに放置したから、僕のせいになるわけか。全部を守りたいなら、そこも僕が教えて改善しろと……ムカつくけど正論だ。
「納得したわ。なら、始めようか」
「あぁ」
きっとこの戦いに意味なんてない。正義か悪かって言われたら、間違いなく悪だと思う。
それでもこれは必要な事――僕はそう感じたからこそ踏み込み、奴に拳を打ち込む。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「く……!」
≪RIDER STING≫
恭文とカブトが殴り合いを始めている間に、この世界のライダー達も立ち上がり始めていた。
ガタックより早く起き上がったザビーが動きを止めているワームに飛び込み、右手でゼクター中心部のスイッチを押し。
「ライダースティングッ!」
20メートルほどの距離を一気に走り抜け壁に寄りかかっていたワームの腹に左拳を――ゼクターの針を叩き込んだ。
蜂の針が黄色い閃光となりワームを貫き、緑色の爆発が起きワームはその中に姿を消した。
まずはワームを倒してからザビーはそのまま恭文となんでか殴り合いしてるカブトっていうライダー……カブトっ!?
ようやく今の状況の異常さに気づいた。それでザビーが数十メートルの距離を埋めるように走り、左拳を振りかぶる。
「カブトッ!」
だがカブトは恭文を左足で蹴り飛ばし距離を取った上でザビーに向き直り、まず左手でザビーの拳を受け止める。
「邪魔をするな」
それから反時計回りに身を捻りながらいつの間にか右手で持っていたハンドガード付きの短剣を振るう。
ややオレンジがかった刃が右薙に打ち込まれ、それがザビーの胸元を斬り裂き衝撃も加える。
「がぁっ!」
ザビーはそのまま恭文が開けた穴付近まで吹き飛び、呻きながら胸元を押さえカブトから距離を取る。
「く……ゼクトルーパー隊っ! 奴らを撃てっ!」
「だめっ!」
俺は慌ててフェイトさんの両肩を掴んで止める。てーかヤバい、アイツらこっちに気づいて銃口向けてくるし。
どうしたものかと思っていると、ザビーやゼクトルーパー達が全員姿を消した。てゆうか、一瞬で姿が消えた。
「これは」
≪彼が結界を使ったようですね≫
カブトはそれを一切気にせず両拳を打ち込んできた恭文と再び対峙していて、殴り合いを再開。
だが……恭文が振るう拳達を両手で払いながら、なんなく下がっていってる。おいおい、余裕綽々だな。
「クロックアップ……だっけ」
その声にハッとしながら2時方向を見ると、ゼクトルーパー達が消えたところに士とガタックが……お前なにやってんだっ!
てーか普通に写真撮るなよっ! お前、この状況見てなんとかしようとか思わないわけですかっ!
俺はフェイトさん居るから無理だし、お前が頼みなんだよっ! 頼むからアクセルフォームでもなんでもやってくれっ!
「アンタらの戦いも俺の目には見えなかったが」
「誰だお前っ!」
「だから、いろいろ聞きたいんだけどな。特に」
それで士は俺のツッコミとかガタックの声とか無視で、写真をまた一枚……コイツ、改めて思うがすげーマイペースだよな。
「今蒼チビと戦ってる奴の事関連で。アレがカブトなんだよな」
「あぁ……いや違うっ! そのはずはないっ! 奴が普通に姿を現すなど、ありえないっ!」
「……どういう事だ」
「お前が『どういう事だ』だろっ! いい加減恭文の加勢くらいしろよっ!」
それで士がこっちを見て……おいおい、なにため息吐いてんだよっ! なに呆れた顔してんだよっ!
俺が悪いってかっ! まともな事言ってるはずの俺が悪いってかっ!? なぁ、そうなのかっ!
「ユウスケさん、離してくださいっ! 私が止めますっ!」
「だからだめだってっ! それこそ恭文の邪魔だろっ! ……士っ!」
「嫌だね。蒼チビが売られたケンカだろ。なんで俺が関わらなくちゃいけないんだ」
「確かにその通りだが……一体どうなってんだよ、これっ! もうワケ分かんねぇしっ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
振るった右拳を避けられ、カウンターに前傾姿勢での右拳での拳を受けたたらを踏み後ろに下がる。
こちらに迫りながら左・左・右と振るわれる拳達を両腕でガードし、最後の右を左に避け左腕を下から回し絡め取る。
素早く腹目掛けて徹も込みで三発殴り、素早く腕を解放し距離を取りながら奴のワンツーパンチを両の手刀で払う。
右の手刀で三発目の拳を払ってから、次に来た左拳は右肘を叩き込んで弾き飛ばす。
続けて左肘を振るった勢いを活かし、左の手刀を軽く拳にした上で袈裟に打ち込む。
カブトはそれを右腕で受け止め、素早く踏み込みお返しとばかりに僕の腹に三発叩き込んできた。
その衝撃によりスーツから火花が走りたたらを踏んで下がると、またワンツーパンチの応酬。
それを冷静に捌き四発目を弾いて、すぐ右前足で蹴りを放ち奴の腹を蹴り飛ばす。でも奴は咄嗟に身を左に捻り、僕の足を両腕で取る。
僕はその勢いに逆らえず投げ飛ばされ地面を転がり、起き上がろうとしたところで右足でのスタンプが襲ってくる。
両手と左肩を使って起き上がりながらそれをあえて受け止め、今度は僕が奴の右足を持って捻り上げ転がす。
僕も右サイドに転がった奴に向かって踏み込みつつ、右足を上げ顔面を蹴り飛ばした。
その蹴りは両手でガードこそされたけど、奴に反撃の体勢を与えないための一撃にはなった。
更に踏み込みミドル・ロー・ハイを一発ずつ打ち込み、それを奴が下がりながら捌いていくのは構わず跳躍し左後ろ回し蹴り。
奴の首元を狙った蹴りは後ろに避けられてしまい、すかさず奴が赤いボディを煌めかせながら踏み込む。
でもそこに僕の右の掌底が飛び、回し蹴りの勢いを殺さず打ち込んだそれはカブトの左頬を叩いた。
掌底により体勢が崩れ動きが止まったところで、今度は僕の方から踏み込み左のボディを三発打ち込む。
奴はそれを受けて僕から距離を取るために、右膝を真横から叩きつけて来た。
咄嗟に両足を踏み締めその膝はあえて受け、肩と腕全体でガード。僕のスーツの上から激しい火花が走った。
身体を襲う衝撃には構わずに右足を踏み込み、奴の左足を押さえようとした。でもその前に奴は動く。
跳躍してあの長い足を動かし、鋭く僕の顎を下から打ち抜きにかかった。一瞬意識が飛びそうになるけど、なんとか耐える。
でもその間に奴は再び打ち込んだ鋭いワンツーで僕の顔を殴りつけ……ヤバい、強い。
反撃で右拳を叩き込んだけど、すぐさま腕を掴まれる。
「この程度か」
そのまま奴によって僕はもう一度投げ飛ばされ、地面に背中から叩きつけられた。でもおかげで意識が一気に定まる。
続けて来た奴のキックを転がって避け身体を起こし、そこから踏み込みつつ左のミドルキックを打ち込む。
カブトは素早く下がり右手で下に払う。そこを狙って飛び上がり、さっきまで軸足にしていた右の足で回し蹴りを打ち込む。
「抜かせっ!」
カブトは僕の蹴りを左腕でガードしつつ、カウンターのために素早く右足を上げる。
僕は次の瞬間に放たれた蹴りをカブト同様に左腕でガード。二つの蹴りが同時にぶつかり合った事で鈍い音が倉庫内に響く。
すぐに着地して、再び襲いかかる左右の連撃を掌底で払い下がっていく。もちろん反撃のチャンスは……来た。
襲い来る右拳を右頬すれすれに避けて奴の右サイドを取り、左拳をその脇腹に叩き込む。
でもカブトは僕の拳を避けるために時計回りに回転しながら、右の裏拳を打ち込みカウンター。
それに右腕で受け止めながら、同じ側の足で奴の膝の裏側を打ち抜き体勢を崩す。
同時には腕を捻り上げ奴の背後を取る。捻り上げた右腕を左手で持って、右拳で脇腹を連続で叩く。
そこから奴は左足で僕の足の脛を蹴り飛ばし、続けて強引に身体を捻りながら左肘を背後の僕の左側頭部に叩き込む。
そうして僕の体勢を崩して拘束を解除。振り向き右足を胸元に叩き込んで来た。
それを受けて被弾箇所から火花を走らせながら吹き飛び、たたらを踏んで再度奴と対峙。
すかさず一歩踏み込みまた右足での蹴りが……伏せて避け、右半身を突き出すようにして踏み込む。
カブトの長い足が僕の頭部目指して打ち下ろされるけど、それを右に動いてすれすれで避けた上で、胸元に右拳を打ち込む。
同時に踏み込んだ右足でカブトの左足を踏み、動きを戒める。それで打ち込んだ右拳は……奴の左腕で止められた。
すかさず襲ってきた右フックを左腕で防ぎ、腕を素早く捻り奴の手をしっかりと掴む。
次の瞬間に掴んだ手を引き寄せその顔面に頭突きし、両足に力を込めて跳躍。
打ち下ろした右足での足払いをそれで避け、体勢が崩れた奴の胸元を両足で蹴り飛ばす。
僕はそのまま宙返りして地面に着地。今の手応えと打ち合いを糧に自分の中の鎖を噛み砕く。
カブトは胸元のアーマーから火花を散らしながら地面に倒れた。
でも動きを止めずにそのまま後ろに転がり、僕から距離を取って起き上がる。
当然僕は踏み込み、カブトの顔面に右足で蹴りを入れる。でもそれは奴の両手で阻まれてしまう。
すかさず足を下げて地面を蹴り、奴の背後を取ってその首元に右腕を回す。
それから身体を反時計回りに回転させ、首を締めつけながらも思いっ切り投げつける。
すると奴は身を捻りながら器用に両足で地面に着地し、僕の腕の拘束も外す。
その上ですかさず右足で僕の胸元に蹴りを打ち込んでくる。でも……遅い。
再び地面を蹴り奴の左サイドを取り、右拳を振りかぶる。奴は次の瞬間僕が放ったフックを左腕でガード。
僕は手応えを感じた瞬間に拳を開いて奴の腕を掴み、右足で左足へのロー・脇腹へのミドルと連続で蹴りを打ち込み。
「はぁっ!」
そのまま飛び上がりながら右足で回し蹴りを放ち、奴の背中を蹴り飛ばして再び地面に転がす。
また10メートル程度の距離が空いたところで僕は呼吸を整え、カブトはゆっくりと起き上がりこちらを見る。
「この程度?」
「調子に乗るな」
奴は起き上がり、右親指で装着状態のカブトゼクター上部にあるボタンを左から押す。
≪1≫
僕も腰に戻していたデルタムーバーを右手に取り、トリガーを引いた上で音声入力。
≪2≫
「チェックッ!」
≪Exceed Charge≫
三つ横並びになっているボタンは左から右に順番で押されていき、三つ目のボタンを押したカブトはゼクターの角を右に動かす。
その角はすぐさま元の位置に戻され、ゼクターから青い火花が迸る。
それは身体中央に走る黒いラインを通り、カブトの大きく赤い角に走った。……来る。
≪3――RIDER KICK≫
僕達は動きを止め、互いに飛び込むタイミングを図る。場の空気が途端に静かになり、空気も張り詰めていく。
一瞬とも永遠とも取れる沈黙が続き、その時間が長くなるにつれ僕達の集中力も上がっていく。
それは、なにか重い物が落ちる音が突然響いた事で崩れ去った。僕達はほぼ同時に駆け出し相手に狙いを定める。
今スフィアを撃ち出しても、きっと避けられる。だから狙うは……零距離。
奴との距離が3メートルを切ったので、すかさずムーバーをかざし奴を狙う。
でも奴は動じた様子もなく、右足に角に走っていたものと同じ色の火花を纏わせる。
そうして身を伏せこちらに飛び込もうとしていたけど、僕は構わず更に接近。距離は1メートルを切った。
奴は跳躍する事もなく身体を伸ばし、青く揺らめく光に包まれた足を右薙に打ち込んで来た。
でもその瞬間に神速発動――まず脳内のリミッターを切った関係で、世界から色が消える。
その中で僕と奴の速度が一気に遅くなりながらも、確かな差が生まれる。その差は僕にとって有利な差。
打ち込まれていく足の射程内に入り込み、左腕を上げ奴の蹴りを受け止める体勢を作る。
ただし受け止めるのは光に包まれている足先ではなく、膝上――太ももの辺り。直感に従い右半身を更に踏み込む。
そうして奴が軸足にしている左足を踏みつけ、その胸元にゆっくりとした動きの中ムーバーを突きつける。
その瞬間神速が解除。視界に色が戻っていくのと同時に、ゆっくりとした動きになっていた右足が急激に元の速度を戻す。
左腕に加わる鈍い衝撃に両足を踏ん張りなんとか耐え、攻撃直後で隙だらけな奴へトリガーを。
≪CLOCK UP≫
でも奴の姿が一瞬で掻き消え、左腕に感じていた足の圧力も無くなる。
ほぼ反射的に身を右に捻った瞬間、腹部に凄まじい衝撃と青の閃光が迸った。
僕はそれに逆らう事も出来ず数十メートルという距離を吹き飛び、倉庫内に積まれた木箱達に突撃した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ヤスフミっ!」
ユウスケさんの腕を振り払ってヤスフミが吹き飛んだ方へ近づくと、そこからいきなり爆発が起こった。
それによりまき散らされる爆風や箱とその中身の破片の勢いに圧され私は足を止め……その場に崩れ落ちる。
「どう、して」
私はどうしようもない喪失感のままに、あの赤いライダーを睨みつけていた。
「どうして……こんな事をっ!?」
「お前のせいだ。お前が弱く愚かだからこんな事になった。
だから奴が弱いお前達を導く責務を背負う事になった」
「強くなるって言ったっ! 私は強くなって、そんな責務からヤスフミを解放するっ!」
「無駄だ。お前はそのためのチャンスを尽く棒に振っている」
そう言われて、頭の中が真っ白になる。……否定、出来ない。出来るわけがない。
ヴェートルの時もJS事件の時もその後も今も、私は自分の弱さのためにヤスフミにずっと苦労を押しつけてたんだから。
「お前がやるべき事は無力な自分を見つめ、旅の中で悔しさを噛み締める事だ。
そうして『戦いが終わった後で』強くなるために苦しむ事だ。お前は今、アイツと戦う事など出来ない」
「黙れ」
そんな事は分かってる。でもそれじゃあだめなんだ。それじゃあ私達は足手まといのままなんだ。
だから今変わらなくちゃいけない。今強くならなくちゃいけない。そのために……胸の中にどんどん怒りが湧き上がる。
きっとその怒りは自分自身に対してのもの。今更虫のいい考えを持ち出してる自分に怒ってる。
でも分からない。だったら私達はどうすればいいの? こうしなかったら私達は。
「その過程を抜くからこんな事になる。今奴が倒されたのは、奴が弱いからではない。お前のせいだ。
お前が自分の弱さを、醜さを埋める努力を、それが必要だと認める事すら怠っていたからだ。全てお前の」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
私はカブトに飛びかかろうとした。でもそれは、白い三角錐のスフィアが出現した事によって阻まれる。
出現した私の身長よりも大きなスフィアの先は、カブトの胸元を貫いてるようにも見えた。
「これは」
「残念だったな」
シャッター音と感心なさそうな士さんの声が響き、全員の視線がそちらに向く。
「蒼チビがトリガーを引いたのは、お前がクロックアップした後だ。直前で察して攻撃のタイミングをズラしたんだよ。
……なにが目的かは知らないが、蒼チビはお前が思ってるよりしぶとい。そうだろ?」
「もち」
大好きな人の声が聴こえて、私はもう一度爆発が起こったところを見る。
まだくすぶる炎と硝煙の中からふらふらと、くすんだアーマーの仮面ライダーが現れた。
「ろんっ!」
「恭文……お前っ!」
黒と白のスーツの身体が立ち上がる事で、周囲の炎と破片が道を譲るように弾ける。
満身創痍だけどまだ諦めていないのが、まだ勝つつもりなのが手に取るように分かった。
「フェイト」
声をかけられて思わず近づこうとするけど、更に弾け続ける炎に圧されて一歩も近づけない。
「黙って後ろから僕が勝つのを――僕の強さを、信じろっ! 僕は誰にも負けないっ!」
その乱暴だけど力強い言葉で、真っ白だった頭と心に別の温かい感情が生まれる。
それにどう返事をしたものかと迷っている間に、あの子は駆け出した。
「絶対に……絶対に負けないっ!」
カブトに近づきながら10メートル以上跳躍して、そのまま右足を突き出す。
「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
スフィアに飛び込んだ。スフィアはそれでドリルみたいに回転し、あの赤いライダーを貫く。
ヤスフミもスフィアと同化してライダーを貫いてその背後に現れ、着地したと同時に膝をついた。
それでライダーの身体に青い『Δ』のマークが刻まれて、また爆発が起こった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
背後で爆発が起こった事で僕はもろにその爆風を受けて吹き飛び、地面を転がる。
その途中でベルトが外れ、デルタへの変身を解除。呻きながらも身体を起こし、荒く息を吐いた。
≪あなた、大丈夫ですか≫
「直撃は避けたから……なんとか。あとはこれのおかげで」
右手を装甲に当て、アルトを安心させるように笑う。……幸いな事に、今の僕はゼクトルーパー。
おかげで変身が解除してからもあんまりダメージは入ってなかった。……変身中に受けたのが問題だけど。
「そうだ、それでいい」
とりあえずダウンはさせられたかと思ったけど、それはとんでもない勘違いだった。
僕は背後からかかった声と生まれた気配に、ホラーめいた寒気を感じてしまう。
ヤバい……さすがにもう戦えない。魔法を使ってもクロックアップに対抗出来ないのは、フェイトで証明済み。
……でも僕は、一瞬弱気になった自分を恥じもう一度気持ちを奮い立たせる。そこで一気に意識を高め。
「迷うな」
「え?」
「お前が迷えば、太陽を追いかけた者達も迷う。そうして今日のような事が繰り返される。
だが太陽が常に輝き道を示すのなら、誰も迷う事はない。お前は、お前が巻き込んだ者達の太陽になれ」
でもその寒気は、続いた優しい言葉で一気に吹き飛んだ。僕の背後に居る男にはもう、敵意もなにもなかった。
フェイトやギンガさんを蝕む感情を否定したいなら、もっと強くあれと背中を押してくれる。
「そのためにお前がやるべき事は一つだけだ」
「それは、なに」
「勝ち続けろ――誰が相手だろうと決して恐れず、未来を掴み続けろ。
今俺を叩き伏せようとした時の気持ち、決して忘れるな」
≪CLOCK UP≫
そこで背後に生まれた気配が消えた。僕はゆっくりと後ろへ振り向くけど、もう誰も居ない。
ただ僕達の周囲に、ひたすらにワケ分かんない理由で殴り合った痕跡が残っているだけだった。
「やっぱりあれは」
≪えぇ。私達の知っているあの人かどうかは知りませんけど≫
「天道、総司」
天道総司――そうだ、あの声や立ち居振る舞いは間違いない。
僕の知っているのと同一人物かどうかはともかく、あれが天道総司なのは確定。
でもどういう事だろう。天道総司がこの世界の仮面ライダーなのかな。
だったら僕に対して……やっぱワケ分かんないと思いつつも、改めて周囲を見て気づいた。
僕がさっき転がって落としたはずの銀色のベルトが、どこにもない。
「あれ……デルタのベルトがないっ!」
≪察するに天道総司、ですか?≫
ワケ分かんない事がまた増えた。まずこの世界に天道総司が居るという事実。
あと……奴にデルタのベルト取られた事だよっ! くそ、ふざけんじゃないよっ!
なんだかんだであれ、一回しか使ってないんだよっ!? それなのに……それなのにー!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あの倉庫から少し離れた裏路地――白い皮ジャンにジーンズ姿なあの人の足取りは、いつも通り。
僕達は親指をジーンズの両ポケットに突っ込んで歩いて来ていたあの人の前に立ち塞がり、険しい表情を浮かべる。
「ちょっと待ってください」
「……なんの用だ」
「それはこっちの台詞だ。どうしてあんな真似を?」
「そのベルトの回収などはお願いしていないはずですが」
「おばあちゃんは言っていた」
あの人は僕達の事などガン無視で、右手を上げて天を指差す。
「正義とは俺自身――俺が正義だ」
「いやいや、それ答えになってませんからねっ! なに勝手な事してるんですかっ!」
「しかも攻撃したのは門矢士ではなく彼の方……いや、門矢士もだめなんだが」
僕達がスーパー大ショッカーに踊らされていたのは間違いないし、そういう流れになっている。
でもちゃんと訂正してくれて良かった。これでそのまま話進めようとしてたら、止めなきゃいけなかった。
「彼はただ巻き込まれただけだぞ」
「違う、奴は巻き込んだんだ」
硬い声であの人はそう言い切り、右手をまた腰に添える。
「だからこそ奴は、巻き込んだ者達の太陽にならなくてはいけない。
道を迷わぬように、間違えぬように輝かなくてはいけない。違うか?」
「……それは」
「俺は俺で勝手をさせてもらう」
そのままあの人は僕達に近づき、割って入るようにして道を開いた。
同時に左手を上げ、どこからともなく取り出したデルタのベルトを僕に手渡ししてくる。
「ここは『俺の世界』だからな。何人たりとも俺の邪魔は出来ない」
そのまますたすたと歩き出して……僕達は止める事も出来ず、困りながら顔を見合わせてしまう。
「どうしましょう」
「いや、どうしようと言われても……スーパー大ショッカーの事もあるし、内輪もめはかなり困るんだが」
「あの人の事ですから、なにか考えがあるとは思いたいんですけど」
でもこれはさすがになぁ。そう思いながら渡されたデルタのベルトを見て、目を見開いた。
「……デルタのベルトが」
ベルトの中心部の装甲が剥げ、そこを始点に決して浅くはない亀裂がベルト全体に入っていた。
変身装置であるデルタムーバーとフォンの方もぼろぼろで、まともに使える状態には見えなかった。
「まさかあのキックで」
「みたい……ですね」
僕達はあの人が去った方向を見た。もしかして回収し……ちょっと待ってっ!
なんかサラっと『返しておいてくれ』って感じで渡されたけど、僕達にどうしろとっ!?
「あの、これを僕に預けられても困るんですけどっ! これ直せますっ!?」
「いや、俺は無理だっ! 機械はどうも……そうだ、君はどうだっ!」
「僕も無理ですよっ! ヴァイオリンが専門なんですからっ!」
「だからその技術を活かしてだな」
「どうやってですかっ!」
そこからしばらく、どうやってベルトを直すかという無駄な議論が延々に続く事になった。
その会議の結果――あの人は今度会った時、しっかり説教してやろうと二人で結論を出した。
(第20話へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、カブトの世界第2話……全く進んでないんですけどっ! てゆうかなんでそこカブト出てきたっ!」
歌唄「恭文、それは当たり前の事よ。というか、原典のカブトよね」
恭文「だねぇ。ゴーカイジャー見てて、原典のキャラ出したくなったんだよねー。やり方は模索中だけど」
(そして遅過ぎだけど。まぁ今まではスーパー大ショッカーのせいで敵対関係だったからなかったーって事にしとけばいいか)
恭文「本日のお相手は蒼凪恭文と」
歌唄「月詠歌唄よ。……結構久々に出番だわ」
恭文「ドキたまも終わって落ち着いてるしねー」
歌唄「誕生日にエッチした小説もなかったしね」
(殺し屋の目はやめてー! 一応書いてみたけどなんかあれでお蔵入りになってるだけなのー)
歌唄「とにかく今回は……ねぇ、キバーラのせいで足並み乱れてない?」
恭文「だね。正体バレてもさり気なくスパイとして仕事をしているという罠」
歌唄「……こっちの恭文、やっぱりバカよね。そんなに私とアンタが付き合ってる事、衝撃的だったのかしら」
恭文「歌唄は微塵も姿出てないよねっ! 名前すら出てないよねっ!」
歌唄「でも恭文、あのカブトってそんなに強いの? アンタ相当苦戦してたけど」
恭文「強い。ぶっちゃけ勝てるイメージ出ないレベルで」
(原典カブトの強さはクロックアップに依存したものではありません。
天道総司が『いつか来る時のため』に訓練しまくってたおかげで、格闘・射撃戦もばっちり。
カブトへの変身自体は初回のあれが初めてなのに、それ以後圧倒的な戦闘力を発揮し続けます)
恭文「まぁ劇中では当初、働きもしなければ学校にも行かないニートなんだけどね」
歌唄「……それだめじゃないのよ」
恭文「しょうがないのよ。渋谷が隕石騒ぎで壊滅した直後から、ライダーとしての訓練積んでたから。それも自力」
歌唄「そこはきっかけがあるのよね」
恭文「ある。それもかなり重要なところで、触れたらネタバレになる話」
(そして天道本人にとっては、7年間の全てを強くなるために費やすほどに重要なところ……そこはぜひ本編をご覧に)
恭文「戦闘スタイルは相手の攻撃にカウンターを取るタイプで、劇中でもなにかしらの事情や不確定要因が絡まないと基本負けなかった」
歌唄「で、アンタと格闘戦でタメ張れると。てゆうか、魔法使えば良かったのに」
恭文「……そんな事したら空気読めてないでしょうがっ!」
歌唄「アンタのそのこだわり、やっぱ意味分からないわっ! 両方使えばありじゃないっ!?」
(アリじゃないのが蒼い古き鉄)
恭文「それでぶっちゃけ僕達よりも、ミッドの世界の方が話進んでるわけで」
(許して欲しい。カブトは電王に次いで好きな作品だから、色々書きたい事が増えちゃって。
まずは料理、水落ち、ザビーゼクターの浮気)
恭文「最後絶対無理だよねっ! てゆうか、前半二つは井上脚本の特徴でしょうがっ!
……でも、料理は分かる。カブトは料理や食事シーンが本当に多いしね」
歌唄「そうなの?」
恭文「うん。天道総司自体が家事関係完璧に出来るから、その関係で。
他のキャラも料理するシーンが多いし、カブトの特徴の一つとなっている」
(美味しい料理一杯出てきたなー)
恭文「とにかくミッドの方は、先生がまたまた登場して……あの人なにやってるのっ!?
あんな事したら結局ヴィヴィオ達危なくなるのにっ! ほんとやる事ぶっ飛んでるねっ!」
歌唄「それでも逃げ切れる場所があるとか? ほら、デンライナーとか」
恭文「いや、先生のチケットはフェイトが持ってるよ? だから乗れない……はず」
歌唄「なんでそこ言い切れないのよ」
恭文「言い切れないのよ、チートだから」
(最近拍手でハイパー・クロックアップが出来るようになったと判明したヘイハチ・トウゴウ――現在彼女募集中。
本日のED:RIDER CHIPS『FULL FORCE』)
恭文「デルタのベルトが……一回だけしか変身してないのにー」
あむ「いや、むしろベルト一本で済んで良かったじゃん。あんなガチチート相手にさ」
唯世「でもあむちゃん、そのガチチートがあの世界だと沢山居るよ?」
あむ「……そう言えばっ!」
恭文「どうしようか、これ。フェイトのあれを見て分かる通り、生身でクロックアップ相手はほんと危険なのよ。
ゼクトルーパーも武装しているとは言え、基本雑魚扱い。ゼロノス2号でもどこまで対抗出来るか……いや、いい」
あむ「あ、やる気だ」
恭文「勝ち続けるって決めたしね。僕は……太陽へと進化するのよ」(すっと右手を上げ天を指差す)
(おしまい)
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