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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第18話 『カブトの世界/天の道を探して』



「前回までのディケイドクロスは……はぁ」

「お前なに連載再開なのにテンション下がってんだよっ!」

「士くん、発言ちょっとメタですっ! いや、確かに久々ですけどっ!」



というわけで前回までのディケイドクロス――電王の世界からようやく出ていよいよ新しい世界に来たわけだよ。

でもさ、もうテンションダダ下がりだよ。ユウスケはもう普通の椅子にも座れるようになったけどさ。



「それでもやし、外に出る前に確認なんだけど、さっきまでの話マジ?」

「スーパー大ショッカーで鳴滝という人がその幹部って……さすがに信じられません。
そんな悪の組織が実在してるなんて、ありえないですよ。私達の世界とは違うし」

「ギンガマン、それ当たり前だろ。お前達の世界とは違うとこが発端なんだからな」



そう言いながらもやしもうんざりという顔をしながら、いつも持っている二眼レフでギンガさんを撮影。

それで次はフェイトをファインダーに収め、右の指でピントを合わせる。



「でもまぁ、それなら納得だわ」



でもフェイトを撮っていいのは僕だけなので、素早くもやしからカメラをふんだくり。



「……って、おいっ!」



カメラを奪い返そうとしたもやしをファインダーに収めて、素早くシャッターを切る。それからすぐにもやしにカメラを返した。



「鳴滝が僕達を敵視してた理由も、ディケイド――もやしを破壊者と呼んだ理由も。あと僕も同類として扱われた理由も」

「向こうの蒼チビも全く同じ事言ってたぞ。お前が居るとライダー同士の同士討ちが邪魔されるかもってさ」

「でもそれって買いかぶり過ぎじゃ」

「いやフェイトさん、そうでもないですよ」



もうすっかり傷も癒えたユウスケが、栄次郎さんの入れてくれた



「例えばキバの世界だ。俺が先んじてあの世界に来ていた関係で、士が変にやり過ぎるのを止められた」

「変にって……お前なぁ。ただそれも向こうの蒼チビが言ってた。
ようは俺達と色んな世界のライダーの事を知っている人間が邪魔って感じだな。
実際向こうの蒼チビも鬼達が電王を『仮面ライダー』って言ってるので気づいた」

「電王を仮面ライダー? あの、それ普通の事じゃ。電王は仮面ライダーですし」

「……フェイト、それ勘違い。電王は劇中では誰も彼も仮面ライダーの名前は出してない。もちろん良太郎さん達もだよ。
思い出してみてよ。僕達があった良太郎さんやモモタロスさん達……一度でも自分を仮面ライダーって言った?」



フェイトは首を傾げてたけど、改めて思い出してない事に気づいたらしくハッとした表情を浮かべた。



「だから向こうの僕は気づいたんだよ。スーパー大ショッカーも同じ。
そんなちょっとした事で疑問を持たれて自分達の組織の事に気づかれたらマズい」

「そういう事っぽい。それで蒼チビ、向こうの蒼チビから伝言だ」

「伝言?」

「この腑抜けが……だそうだ。あっちの蒼チビ、お前の事相当呆れてたぞ。ブレイドの世界がない事にも気づかなかったしな」



ヤバい、その言葉が凄い突き刺さる。てーかよく考えたらその通りなんだよ。よく考えなくてもその通り。

僕が気づける要素はたくさんあった。それなのに……苛立つ気持ちを抑えながら、僕は息を吐く。



「でも残念ながら、気づいた事もあるんだよね」

「なんだ」

「ねぇ沢城みゆき、そろそろバラした方がいいんじゃないかなぁ」



それで僕が視線を送るのは、写真室左手の調理場近くで栄次郎さんと話してたキバーラ。

キバーラは僕の方へ向き直り、やや遅めの速度で徐々に近づいてくる。



「なにぃ? お願いだからそろそろちゃんと名前覚えて欲しいんだけどぉ」

「おのれ、スーパー大ショッカーとやらの一員だろ」

『はぁっ!?』

「ちょ、恭文ちゃんなに言ってるのよぉ。一体なんの冗談?」



まぁとぼけるのは分かってたので、僕はその言葉を鼻で笑いながらちょっと吹っかけてみる。



「実は前に鳴滝と一緒に居るとこ、見かけたんだよねぇ」

「嘘っ! そんな事あるわけないわぁっ! 私ちゃんと気をつけ」



そこでキバーラは言葉を止め、視線を泳がせながら僕達から背を向けた。



「やっぱりか」

「……引っ掛けたわね」

「でも確信はあった。だって前にファイズの世界に行く時、おのれ……ブレイドの世界が抜けていた事を知っていたような事話してたし」



あの時に気づくべきだったよ。てーか今までもやしにカード見せてもらってなかったのもアウトだった。

そうすればとっくに気づいて、それを知ってるキバーラの正体にも気づけたのに。



「あの段階でそれを知ってたのは……スーパー大ショッカー、そして鳴滝くらいしか居ない」

「だが恭文、スーパー大ショッカー以外の奴らがそれを知ってた可能性だってあるだろっ!? ほら、仮面ライダーとかっ!」

「だったらどうしてそれを僕達に黙ってたのよ。それでなにもしなかったのよ。
なによりそれでもキバーラの目的が黒いものである事には変わらない。
だって今まで仮面ライダー達はスーパー大ショッカーの手の平の上で同士討ちしかけてたんだから」





ユウスケが言う方向だったとしても、そこは変わらないのよ。ようは悪魔・ディケイドを倒すための布石になるしさ。

少なくともライダー達が好意的な意味合いでキバーラを寄越すはずがない。それはありえないのよ。

最初から自分の目的を明かす事なくここまで一緒に居た事そのものがその証明になってしまっている。



もちろんそれはスーパー大ショッカーや他の組織でも同じ。ここまで黙ってた事そのものがありえないのよ。





「だからコイツが僕達になにかしらの悪意を持って近づいた事だけは確か。そうだよね、キバーラ」

「やっと名前を呼んでくれたのに、嬉しくないわぁ」



地の文では何度も呼んでると思っている間に写真室の奥へゆっくり移動していたキバーラは、くるりとこちらへ向き直る。



「そうよぉ、私は鳴滝様の協力者――大ショッカーの一員よぉ。
あと、ユウスケちゃんをキバの世界に連れていったのも私」

「俺もっ!?」

「任務の内容は僕達の監視ってところかな。ようはスパイ」

「キバーラ、本当なんですかっ!? ……どうしてっ!」

「どうしてぇ? 夏海ちゃん、悪の組織の一員にそこ聞くのはちょっとズレてないかしらぁ。ホント、失敗したわぁ」



それでキバーラは翼を羽ばたかせながら口元を歪め、視線をギンガさんに向ける。



「楽にいくと思ってたのに。だってあなた達、私の事あっさり信じちゃうんだものぉ。
一番の懸念事項だった恭文ちゃんも、足手まといなギンガちゃんの事とかで精一杯。
私の方まで見てなかったし、最後までなんとかなると思ってたのにぃ」

「足手……!」

「あなたちょっと待ってっ! ギンガの一体どこが足手まといなのかなっ!」

「本当の事でしょお。戦えもしないあなたが居なければ恭文ちゃんはとっくに私達の事にも気づいてたわよぉ?
でもあなたがそれを邪魔している。あなたはこの子の弱点よぉ。あなた、分かってるぅ?
オルフェノクやファンガイア、グロンギも基本人間よぉ。そんな連中と恭文ちゃんが戦っている間、あなたはどうしてたのかしらぁ」





ギンガさんが呆然とした顔をしながら俯き、首を横に振るのは無視。確かにそれは否定出来ないもの。

足手まといどうこうじゃなくて……ギンガさんの事気にする余り気づかなきゃいけない事に気づいてなかったのは事実。

ただ早く元の世界に帰る事、ただギンガさんを帰す事だけを考えて……それは僕の不手際だ。



だから僕にはなにも言えない。キバーラの言う通りの状況を僕が作ってしまったんだから、言えるわけがない。



例えここで『ギンガさんのせいじゃない』と言っても、それは無意味な事なんだ。





「それで、どうするぅ?」



キバーラは微笑みながらギンガさんにつまらなそうな視線を一度送ってから、僕の方を見る。



「悪の組織の一員だから斬っちゃうのかしらぁ」

「そうだね、そうしようか」



僕は立ち上がり、素早くセットアップ。その姿はもう一人の僕がくれた防弾・防刃仕様な黒コートに変わっていた。

アルトのメンテナンスもしてくれた上にこんなものやカートリッジの予備までくれて……もうお世話になりっぱなしだよ。



「お前を生かしておいても厄介だ。ここで始末する方が得策でしょ」

「そうなるわよねぇ」

「命乞いしないんだ」



キバーラにゆっくり近づきながらそう言うと、アイツはまたおかしそうに笑う。



「するわけないわぁ。第一、しても信じてくれないでしょお。あなた……正義の味方だものぉ」

「それはちょっと違うね。僕はお前達と同類だよ。ただ、同類だから悪党が嫌いだってだけの話だ。
でもキバーラ、良い覚悟だね。今初めておのれを魅力的だと思ったわ」

「ありがとぉ。私もあなたのそういうところ、実は結構好きよぉ。自分の正義とか信念とかにギラギラなところ。
だからこそ最後のアドバイス。ギンガちゃんはとっとと捨てちゃいなさい? あなたには合わないわぁ」



それでまた余計な事を言うか。でも僕はなにも言わずに、ゆっくりとアルトを抜き放つ。



「もう分かってるわよね、その子は甘過ぎるし卑怯よぉ。
この旅の中でもただ守られるだけの自分に甘んじてるものぉ」

「それもしょうがないと知って欲しいんだけど。ギンガさんリハビリ中だし」

「覚悟がないって言ってるのよぉ。私達悪党にも劣る覚悟で局員さんっていうのも、笑っちゃうわよねぇ。
そうしなかったら……あなた、また同じ失敗を繰り返すわよぉ。スーパー大ショッカーは強大なんだからぁ」

「覚えとくよ。確かにお前の言う通りみたいだしさ。僕は……甘かった」





魔力を纏わせ、そんな甘さを斬るために刃を振りかぶる。それでもキバーラは決して怯えなどは見せない。



悪党は悪党なりに覚悟――それで躊躇いそうになった自分を恥じながら、僕は刃を唐竹に振るう。



でもその刃はキバーラに届くにはあまりに遠い距離で止まった。でも位置的には、僕達の間に入り込んだ二つの影の目の前すれすれ。





「……ユウスケ、夏みかん」

「恭文、頼む。コイツは殺さないでくれ」

「こんなの……こんなのだめですっ!」



二人が声をあげている間に調理場に居た栄次郎さんが走り込み、二人の背後に居たキバーラを抱きかかえて窓際に行く。



「ぼ、ぼぼぼぼぼぼ……暴力反対っ! 恭文君、さすがに私はこれは許せないよっ!」

「栄ちゃん、いいのよぉ。私みんなを騙してたしぃ」

「いいやだめだっ! キバーラちゃんは私が必ず守るからねっ!」



あれじゃあ栄次郎さんごと斬るしかない。僕は刃を下ろし鉄輝を解除。



「まぁ栄次郎さんはあれとして、そっちの二人がかばう理由は」

「そんなの決まってますっ! キバーラは私達の旅の仲間ですっ!」

「その通りだ。それにコイツのおかげで、俺はまたお前達と会えた。それじゃあ不足か?」

「不足だね。ソイツはスーパー大ショッカーの一員だ。連中とまだ繋がってるかも知れない。
そんな奴を仲間だと本気で思ってるなら甘過ぎ。ソイツはおのれらを裏切ってたんだよ?」



僕はまぁいいよ。でも目の前の二人はそういう裏切られた人間だ。だから庇う理由がないと思われる。

しかもご丁寧にそうする理由をキバーラはギンガさんを罵倒する事で壊した。それなのに二人の目には、一切迷いがなかった。



「それにユウスケ、おのれの場合特に意味合いが深い。おのれがクウガになったのは」

「だったら余計に殺すのはだめなはずだ。コイツがそのデカい組織との繋がりだ。
それを不用意に切ったら奴らを追えなくなるかも知れない」

「私達はどけと言われても、絶対にどきませんっ! なにを言っても無駄ですからっ!」

「……条件が一つ」



マジでなにを言っても無駄っぽいので、アルトを鞘に収めた。



「もしソイツがこれ以上なにかするなら……その時は容赦しない。それでいいね」

「あぁ、それでいい」



二人はそれで栄次郎さんの手から抜け出したキバーラの方に駆け寄っていく。しかも……笑顔でだよ。



「余計な事、してくれちゃって。礼は言わないわよ?」

「いいさ、俺達が勝手にやった事だからな。な、夏海ちゃん」

「その通りです。でもキバーラ、出来ればそんな人達とはサヨナラしてください」

「……さぁねー。私、コウモリだからまた裏切っちゃうかもー」

「それはだめですっ! というか、おじいちゃんが泣くからやめてくださいっ!」



その様子を見ていた僕は、いきなりもやしに右手を引かれて台所の方に連れ込まれた。それで一気にスクラム形成。



「蒼チビ、お前……どうすんだよ」

「キバーラの事なら二人に任せる。放置してても現状とさほど変わらないしね。
それに鳴滝はもやしが倒しちゃったんでしょ? つまり連鎖的にキバーラも」

「連中からするともう用なしと。まぁ正体バレたスパイなんてむしろ邪魔なだけだしなぁ。
だがアイツの方からスーパー大ショッカーに擦り寄ろうとしたらどうする」

「仮に擦り寄ろうとしても最終的に連中に利用されるだけ。
いずれにしろこのままじゃ末路は決まっているよ」





もしかしたらこっちに懐柔されたかもと考えるだろうし、そのまま再就職する可能性は低い。



少なくともキバーラから接触してどうこうっていうのはないよ。リスクが高過ぎるし。



もしあるとしたら……そっちの可能性も考えておくか。どっちにしてもキバーラは要監視だ。





「それでギンガさんの事なら放置」

「おいっ!」

「キバーラの言う事は、間違ってない」

「そこは否定していいんじゃないのか? じゃないとギンガマンがやり切れないだろ」

「……なに言えっつーのよ。確かに僕は甘かったのに」



それで僕はもやしとのスクラムを解除して、写真室奥の絵に視線を向ける。

その絵は既にデンライナーではなく、東京タワーと天を指す右手に変わっていた。



「フェイト」

「あ……うん」

「ギンガさんと夏みかん共々絶対にここから出ないで。一歩たりともだからね?
あと僕達はこれから外に出るけど、戻って来ても不用意に近づかないように」



そこでフェイトと夏みかんが目を見開き、僕に疑問の視線をぶつけてくる。



「むしろこの世界から出るまでは知り合い連中と遭遇しても敵って意識でいいから」

「え、ちょっと待って。ヤスフミ、なに言ってるの?」

「そうですよ、いきなり過ぎます。それにギンガさんの事は」

「いいから聞いて。この世界の怪人は……今の僕達だと勝てるかどうか分からないんだから」










世界の破壊者・ディケイド――いくつもの世界を巡り、その先になにを見る。



『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路


第18話 『カブトの世界/天の道を探して』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけでまず、仮面ライダーカブトという作品について少し解説しておこう。

舞台は2006年――その七年前の1999年10月19日に全てが始まった。

その日渋谷に隕石が墜落。それにより渋谷という街とその周辺地域は壊滅的打撃を受けた。



ただ……その隕石はとんでもないおまけを乗せていた。隕石に潜んでいた宇宙生命体が居たの。

その名は『ワーム』。人間を殺害しその人間の記憶や能力を含めた全てを擬態する怪物。

しかもワームは『脱皮』をする事で超高速移動能力まで獲得出来た。まさしく人類にとって脅威だよ。



そんなワームに対抗するため人類は秘密組織ZECTを結成し、マスクドライダーシステムを開発。

そしてその7年後、そのライダーシステムの一つであるカブトを天道総司が手にした事で伝説は始まった。

コンセプトはプロデューサー曰く原点回帰ではなく、仮面ライダーの限界・頂点に挑む事。



そのためにモチーフに初代と同じ昆虫や変身のかけ声の復活――あ、前年にやってた響鬼ではなかったのよ。

あとキックの必殺技やライダー自身による技名の呼称など懐かしい要素も盛り込まれた名作。

特に水嶋ヒロさん演じる天道総司は……めちゃくちゃカッコ良いんだよなぁ。いわゆるオレ様系キャラなんだけどね。



とにかく強くカッコ良い。僕は思わずそのカブトの中に出てくる料理店の趣になっている写真館の前で天を指す。



天道総司達がほぼ入り浸ってる感じの料理店はこじんまりとしていて暖色系の壁が印象的な温かいお店。でも中身写真館だけどね?





「天の道を往き、総てを司る――どこまでも我が道を往き貫く。それが仮面ライダーカブト――天道総司。
……いいよねー! カブト変身したいなー! てーかここのライダーシステム一ついただくかっ!」

「そ、そうか。でもお前、ちょっと語り過ぎだからな。ほら、俺達置いてけぼりだし。あと泥棒はやめろ」

「いや、泥棒じゃないよ。スーパー大ショッカー打倒のためにちょっと借りるだけだって。
大丈夫大丈夫、返せるようなら返すから。無理なら家宝にするから」

「後半ありえないぞっ! あとそれほぼ返せない事前提で話進めてるよなっ!」



ユウスケ、お尻が凄い速さで完治したせいか元気にツッコミするなぁ。……そうなんだよね、完治してるんだ。

あれ、多分2年くらい連載休載しないと回復しないって怪我だったのに。主に心の方の問題で。



「さて、なにもらうかなー。やっぱりサソード? 出番激減なドレイク? もしくはホッパーとか」

「だから泥棒はほんとやめろっ! お前大事なものなくすぞっ!?」

「ユウスケ、それは違うよ。僕は大事なものをなくさないためにこの世界の力を借りたいだけなんだ。あと海東をリスペクトしただけなんだ」

「あの人リスペクトだけはするなっ! てゆうか返せないんだから借りるのとかマジやめようなっ! なっ!?」



涙目なユウスケとうんざりという顔のもやしはそれとして、僕はやっぱりワクワクしていたわけですよ。

いいなー、やっぱなんだかんだでこの旅楽しいなー。……面倒な懸念事項さえなければもっと楽しめるのに。



「しかし恭文、お前がそこまで言うって事はワームは相当強いのか」

「強い。クロックアップされたら間違いなく手出し出来なくなる。
しかもそれに対抗するためにライダーシステムが作られたって設定だから」

「この世界のライダー達もそのクロックアップが使える。だから……か」

「あの、それなら大丈夫だよ。私速さには自信があるし、きっと役に立てると思うな」



それで写真館の中に色って言ってるのに一人言う事聞かずに飛び出したバカが居ます。なので僕は。



「だめ」



優しい言葉をかけてあげるのよ。なのにそのバカはガッツポーズ取るし。



「だめじゃないよ。ヤスフミ、一緒に戦おう? ヤスフミだけに戦わせるのは嫌なんだ。
あんな怪我もうさせたくないし、頑張りたいの。少しだけでいいから頼って欲しいな」

「頼っても無駄だからだめ。フェイト一人居たって意味ないのよ。
てーかフェイトも写真館に残っててよ、邪魔だから」

「邪魔になんてならないよ。私、頑張るから」

「現時点で邪魔になってるって気づいて欲しいんだけど? いいからとっとと家の中に戻れ」

「恭文」





ユウスケが『ちゃんと説明しろ』って視線厳しくしながら合図送ってくる。……正直嫌なんですけど。



ここでフェイトにそれを説明したらどうなるかが予想出来て、非常に頭が痛い。



それでもまぁ、ユウスケの顔を立てて説明開始。ただししっかり保険はかける事にする。





「説明してもいいけど一つ約束。聞いたら絶対に納得してもらう。
現状でフェイトが僕達と一緒に居る事そのものが迷惑だし足手まといなの。OK?」

「それは聞けないよ。ヤスフミ、私前に言ったよね。約束……守りたいんだ」

「そうだぞ。せっかくここまで来てくれたフェイトさんにそんな言い方はないだろ」

「なら今すぐ殴り飛ばして動けないようになってもらう。あとユウスケ、ここは絶対に変えないから」



ここで有無を言わせるつもりはないので、やや睨み気味にそう言うと二人が軽く後ろに下がった。

それでフェイトは視線を泳がせ、不満はあるようだけどそれでも頷いた。



「……分かった」

「よろしい。まずフェイトは勘違いしてる。クロックアップはフェイトの真・ソニックよりずっと速いの。
というか……速さの次元が違う。神速とかと同系列の能力でそれより速いって言えば分かる?」

「し、神速以上っ!?」



フェイトもなんで僕がそこまで言うのかようやく理解してくれたらしい。てゆうか理解しなかったら怒る。



「だからとっとと帰れつってるのよ。ライダーに変身出来る僕達ならともかく、生身なフェイトが居ると本気で邪魔」

「いや、だからお前もうちょっと言い方をな? てーか今日どうしたんだよ」

「普通だよ。ただフェイトが頭悪いからこう言うしかないだけ」

「いやいや、だからそれだめだろっ!」

「ユウスケ、ちょっと黙れ。……なら蒼チビ、そのライダーに対抗する手段は」



慌てるユウスケを制し、もやしは今の自分の姿を怪訝そうに見ながらそう聞いてきた。



「いくつかある……はず」

「はず? また弱気だな。察するにユウスケの疑問の答えはそこか」

「そうだよ。あのね、本気で今の僕達じゃ対処出来ないのよ。だから今から話す対処法も全部成功する確率は低い。
もちろん戦っても勝ち目はほとんどない。フェイトが居るとその危険度が更に上がる。非常にやり辛いし邪魔なのよ」



もやしはやっぱり『大体分かった』が特技なのか話が早い。でも正直話すのも……まぁいいか。

ここはフェイトに無理矢理にでも納得させようと、語気を更に強める。



「細かい説明は省くけどクロックアップしている対象への干渉が本当に難しい。
クロックアップはタキオン粒子を身体に充満させ、時間流を操作しての高速移動だから」

「「じ、じか……はい?」」

「特別なエネルギーを用いた高速移動って考えればいい。クロックアップの厄介なところはそこなんだよ。
そのエネルギーを扱う術がないと、そもそもクロックアップ中の相手を認識する事も出来ない」



なんかそういう設定っぽいんだよねぇ。ウィキペディアに書いてたの。

だからこそクロックアップに対抗するにはクロックアップが一番になるわけだよ。



「それで使用者から見ると自分以外の存在はクロックアップを使っていない限りは静止状態に近い。
その分動きの止まっている対象は普段より重量なんかが増加してる関係で、通常時より防御力が高くなりがちなの。つまり」

「防御を固めればクロックアップしてる奴の攻撃にも耐えられるのか」

「うん。あとは制限時間もある。使用者の体感で1分前後――僕達なら数秒だね。
その使用時間終了直後は無防備になりがちだから、そこを狙い撃つ」



実際カブト初回では初変身を遂げた天道総司がそれに近い方法でクロックアップしたワームを倒している。

クロックアップ中の攻撃に耐えられる防御力と、クロックアップ終了後の隙が狙えるならそれもありなのよ。



「でもクロックアップは基本連続使用出来るから、無防備な時間も極僅か。
一番いいのはこっちもクロックアップする事。それ以外なら……ファイズ・アクセルフォーム」

「おいおい、またそれかよ。もう鬼退治の時に活用したから十分なんだが」

「それだね。超感覚がつくクウガ・ペガサスフォームも使えるかもだけど、さっき言ったようにどちらも『はず』っていうのがつく。
アクセルフォームは上手くいけばシステムが違う関係で相手の上を取れるかもだけど、ヘタをすれば」

「こっちの世界のライダーとワームに上を取られ続ける……か。
それもお前がさっき言ったみたいに相手を見る事も出来ずに」

「うん。あともう一つの方法は……海東を味方につける事」



ユウスケはそれとして、もやしとフェイトが『それはない』と言いたげな顔をする。

特にフェイトは電王の世界で言い合いになったからか、嫌悪感出てるし。



「海東が呼び出せるライダーの中にクロックアップ出来るのが居るなら」

「居るぞ」

「だったら海東を上手い事使って戦力にする。『戦って勝つ』というのに限ればそれくらいしかない。
ぶっちゃけ今の僕達やフェイトと海東一人を比べたら、海東一人の方がずっと生存率高いよ。
それも無理なら……海東じゃなくてこっちの世界のライダーを味方につけるのが一番の近道かな」



もうそれが一番確実且つ素晴らしい対処方法になるわけだよ。

さっきゼクター確保出来たらって言ったのもそれが理由。その方が早いしさ。



「幸いな事に僕達の格好が格好だし、仲間どうこうはともかく接触は難しくはないはず」

「……ようやくそこに触れたか」





もやしが困った顔なのは、例によって僕達の格好が変わっているから。まず格好は黒のジャケット上下がベース。

そこにスジ彫りの入った具足と肘までのあるロンググローブ、ノースリーブのチョッキを装着。なお色は全て黒。

しかもご丁寧な事に大きく黒い楕円形の瞳が特徴的なフルフェイスヘルメットとマシンガンまである。



フルフェイスマスクはアリを模しており、口元は白くアリのくちばしをやや角ばった形で再現。額部分には短めな触覚もあったりする。

マシンガンは蜂の尾のような形状で、銃後部にある穴に手を入れて保持する埋め込みタイプ。

銃身は細くその下に収納式のブレードがあり、近接・射撃両用。これは右手用で、左側には精密射撃用のグリップもある。





「なぁ、これなんだよ。なんかの戦闘員っぽいんだが」

「さっき話したZECTの戦闘員――ゼクトルーパーだよ。これも結構良い装備なんだから」





マシンガンブレードはゼクトルーパー共通装備で、装弾数3000発のホローポイント弾を内蔵するマズル銃。

トリガーを引く際に任意で発射弾数を変える可変バースト機能があって、通常はえっと……あぁそうだそうだ。

毎分600発となっている。それで最大射程は2000M。もちろん鉄鋼・炸薬・焼夷弾を選択する事も可能。



白兵戦時にはさっき説明したウーツ鋼鉄製格闘専用ブレードを展開出来る。それにこのボディアーマーも強力。



鋼鉄の10倍の強度を持っていて、刃物・ライフル・鉄鋼弾にも対処出来る優れ物。うーん、いい貰い物……そうだ。





「フェイト、どうしても戦いたいならサイズ調整した上で装備一式渡すから、これで戦って」

「えっ!? で、でも私魔導師だし……それに銃とかは質量兵器だし」

「ならなにもしないで。それで絶対にさっき言った通りにしてもらう。とっとと家に戻って」

「ヤスフミ待ってっ! そんな危険なライダーや怪物が居るのに三人だけで行動なんてだめだよっ!
しかもスーパー大ショッカーのせいでヤスフミともやしさんは悪魔だって言われてるのにっ!
……お願いだから私も一緒に行かせて。私、せっかく来たのにこのままなんて嫌だよ。絶対力になるから」

「……何度も言わせないでよ。フェイトが居ると逆に困るの。フェイトが今僕達の力になれる事はなにもない。
これ以上ごちゃごちゃ抜かすならすぐに元の世界に帰って。本当に邪魔だから」





涙目なフェイトはガン無視。胸に痛みが走るけど、今は堪える。僕には本気でどうしようもない。

フェイトの気持ち、嬉しくないって言ったら嘘になる。でも下手に甘い顔したらフェイトは絶対についてくる。

前だったら局員どうこうでなんとかなったけど、ここは旅先。今のフェイトにその理屈は通用しないと思われる。



だから……こうするしかない。それに今そんな隙を作る事は、危険を冒す事は出来ない。

ここにはユウスケやもやしも居る。特にユウスケが……とにかく冷徹な顔を装い改めてもやしを見る。

もやしは僕がなにを言いたいか既に分かっているような顔をしていた。





「とにかく大体分かった。俺達がこの世界でまずやるべき事は」

「そうだよ。ZECTと接触する」

「ならZECTの本部に乗り込むか。同じ格好してる奴ら見つけたらなんとかなるだろ」

「それは多分無理だよ。ZECTはワーム対策の組織である関係で、本部や他の部隊との繋がりが気薄なんだ。
中に居る人間も組織の上の事や他の人員の事をほとんど知らない」

「はぁ?」





ここは隊員がワームによって殺害・擬態されて一気に本丸を攻め落とされないため。

ワームの擬態能力はそういう潜入・工作に用いられるとかなり厄介だからね。自然とそういう組織体制が出来た。

だから原典のカブトでもZECT隊員なのに総帥が誰かとか他の部隊のどうこうとかさっぱりな事が多かった。



そういう情報が少なければ、上が占領される危険も少ないしね。もうそうするしかないのよ。





「おいおい、だったらどうすんだよ。警察署みたいな分かりやすいとこあるわけじゃないんだよな」

「ちょっと待ってくれ。恭文、今までの世界みたいにその前提が成り立たない場合は考えられないか?
ほら、キバの世界みたいにワームと人間が共存している事だって」

「大丈夫だよ。その場合の対策も既に構築済み。てゆうかもやしもユウスケも分かってないね。
僕がこんな玄関前で動きもせず、ただ長々と解説しているのはどうしてだと思う?」

『――ZECT隊員客員に通達っ!』



もちろんとユウスケに不敵に笑ったところで、僕ともやしが脇に抱えていたヘルメットから知らない男性の声が響き渡った。……ビンゴ。



『港区の倉庫街にワーム出現っ! 近隣のZECT隊員は武装した上で現場に急行せよっ! ポイントは』

「このようにヘルメットにつけられた通信機能で情報はダダ漏れ。ついでに現状確認もばっちりってわけだよ。
ZECTがワーム関係なのは見えてたし、もしかしたらと思ってたんだけど」

「狙いはばっちりってわけか」



今もなお続く通信の様子から察するに、ワームはZECTにとって駆逐しなきゃいけない敵って扱いなのは間違いない。

この格好で動き回って面倒になってもあれだから、僕はZECTの方から動きがあるまで待ってたのよ。その狙いはバッチリだった。



「それじゃあ急ぐか、港区と言ったらこの近辺だろ」

「うん。というわけでフェイト、写真館から一歩も出ないように。それが僕達にとって最大の助けになるんだから」





フェイトには『待っているように』と厳命した上で僕はもやしとユウスケ共々港区の倉庫街を目指した。



幸いな事にこの近辺は僕も観光で何度か訪れている場所。



さほど地理は変わっていなかったので、すぐに該当の場所を見つけられた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



分かってる。私はライダーでもないしクロックアップっていうのも出来ないし……でも我慢出来ない。

私はここに、ヤスフミに手を伸ばしに来たんだ。なのになにもしないままなんて嫌だ。

それで私は何度も後悔した。フィアッセさんのコンサートの時もそうだし、あの時やその時……去年の時も。



私は私なりの覚悟がある。命を賭けたって全然惜しくない覚悟が……だから私はヤスフミ達を追って走り出した。



なにも出来ないなんていじける前に、まず動く。ごちゃごちゃ考えるのは後だよ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



該当の場所につくと倉庫の一角に黒いハマーが何台も止まっていた。しかも白いZECTのロゴ入りだから分かりやすい。



そこから出てきたと思われるゼクトルーパー達がマシンガンブレードを構えながら倉庫の壁に背を当てる男達を威嚇する。



大体20代の茶髪ロングで今どきな若者な二人は、身を寄せ合って怯えた表情で自分達に向けられた銃口を見ていた。





「あ……あぁぁぁぁぁっ! やめて……助けてくれっ!」

「俺達がなにしたってんだっ!」



なるほど、察するにあれが……それで僕の隣のもやしが写真を一枚パチリと撮る。



「おいおい、あれ助けなくていいのかっ!? 明らかに襲ってるだろっ!」

「いいよ。ユウスケも今はなにもしないで。まずはZECTに任せて」

「あの人達なにを」



その信じられないと言いたげな声に寒気がした。その声の方を見るまでもなく、金色の閃光が走った。



「だめっ!」

≪Sonic Move≫



僕の右脇を通り過ぎた閃光はゼクトルーパー達の包囲網を突っ切り、二人を庇うように停止。

その光の中から閃光と同じ色の髪を揺らしながら、フェイトが……あのバカはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!



「あなた達なにをしているんですかっ! よってたかって一般市民に銃を向けるなんて……ありえませんっ!」





今の状況であれを庇うなんてありえない。僕は舌打ちしつつ踏み込み術式詠唱。

ゼクトルーパー達がフェイトも仲間だと思いマシンガンブレードを撃とうとした所、変化が起きる。

それは……フェイトがかばった背後の二人が、緑色で身体ふとましくてさなぎや幼虫のようにも見える怪物に変身した事。



その姿は緑色で、右手に大きな二本の爪を持っていた。フェイトもその変化に気づいて目を丸くする。





「え……えぇっ!」

≪Sonic Move≫





先程のフェイトと同様にソニックムーブを使用し、蒼い閃光をまとって一団に突撃。

それでゼクトルーパーの一斉射撃が始まる前になんとかフェイトに接近し、お姫様抱っこして飛び上がる。

下でサナギ形態なワームに向かって弾丸が発射され……それに対しワームの一体がその緑色の殻を破る。



弾けた体皮の下から縞模様で肩から触手っぽいのを出した細身な怪物が出現した。

あれ、確かカブトの最初の方に出てきたアラクネアワーム・ニグリティアだ。くそ、もう脱皮したのか。

あっちはもうZECTに任せるしかない。とにかく僕は素早く着地し更に距離を10メートル近く離した上で停止。





「あ、ヤスフミ」

「……このバカっ!」



フェイトが腕の中に居るのとかが嬉しいけど、そういうのすっ飛ばしてまずは怒鳴りつけた。フェイトはそれで目を閉じ身を竦ませる。



「ワームは人間に擬態するって話したでしょうがっ! なに聞いてたのっ!」

「で、でもしょうがないよねっ! どっからどう見ても人間だったんだからっ! 普通助けないっ!?」

「それが擬態だってどうして理解してないのっ! あぁもう、だからジッとしてて欲しかったのにっ!」



僕はフェイトを下ろし、素早く銀色なデルタのベルトをどこからともなく取り出して両手で持った上で腰に装着。

それから右手でグリップ型な携帯電話・デルタフォンを取り出して、口元に当ててからトリガーを引く。



≪Standing By≫

「フェイト、ゼクトルーパーに襲われたら全力で逃げて。連中容赦無く撃ってくるから」





今のところゼクトルーパー達は脱皮してクロックアップした一体に殴られたのか次々と弾かれてる。

でもフェイトが思いっきり前に出たし、絶対に放ってはおかない。くそ……計画全部パーかいっ!

あんな事したらワームの仲間だって思われるに決まってる。だから不用意な干渉はやめたかった。



とにかくZECTの中に紛れ込んで情報収集って思ってたのに。さっきも言ったけど全部パー。

このままだとフェイトを助けた僕、僕と距離の近かったユウスケやもやしまでワーム扱いだよ。

そうならないためには、僕はなにがなんでもZECTの敵でもなければワームでもないと証を立てる必要がある。だからそのために。





「変身っ!」



デルタフォンを長方形なデジタルカメラ型のウェポン・デルタムーバーに挿入・接続。

それによりフォンとムーバーは白く無骨な銃身を持つ拳銃となった。



≪Complete≫





同時に僕の身体を囲むように白いラインがいくつも走り、それが真正面から見て逆三角形のアーマーとなる。

白以外は全て黒で、顔前面のほとんどを覆う形の瞳はオレンジ。そして頭部にはこれまた逆三角形をイメージさせるアンテナと装飾。

これが仮面ライダーデルタ――ファイズに出てくる三番目の仮面ライダー。



アーマーに走る白のラインはライフストリームと呼び、ファイズのライダーのエネルギー源であるフォトンブラッドが走っている。



その色によりパワーが違うんだけど、デルタのそれはファイズやカイザよりも強め。ただその分武装少ないんだけど。





「仮面ライダー……デルタ」



右手を肩まで上げて軽くスナップ。



「撃ってって……どうしてっ! ZECTってワームを倒す組織だよねっ! 私人間なのにっ!」

「当たり前でしょうがっ! あんな事したら『私は人間じゃなくてワームです』って言ってるようなもんだよっ! それくら分かっとけっ!」





フェイトを一喝して飛び込み、ゼクトルーパーの生き残りを蹴り飛ばしていたサナギ体の奴に組みついて右に飛ぶ。

僕の予想以上にパワーが出て、僕達は倉庫の壁を突き破りながら中へ転がっていく。

そのまま右足で奴の腹を蹴り飛ばして、奴は倉庫の奥へ吹き飛ばしておく。その間に僕は起き上がった。



ワームと5メートルほどの距離を取りながら、素早く起き上がってこちらを警戒する奴と視線を合わせる。





「お前、二人して人襲ってたんだってね。通信で聞いたよ。
そんな事しなきゃ見つからないってのに……なんでだよ」

『当たり前だろうがっ! ワームの世界を作るのに、人間は邪魔なんだよっ!
弱いくせに偉そうにしている劣等種どもは、少しずつでも駆逐しなきゃなっ!』

「そう、だったら遠慮はいらないかな。……さぁ」



僕はまた右手をスナップさせ、奴を指差し。



「お前の罪を、数えろ」





そのまま突撃すると奴も踏み込む。僕は打ち込まれた右の爪での袈裟の斬撃を伏せて避けてから、右足で脇腹を蹴り飛ばす。



それで奴がたたらを踏んでいる間に向き直り、もう一度踏み込んで右拳を振るう。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



……すっかり出遅れてしまった。だってその、信じられない光景が広がってたからどうしてもなぁ。

あのゼクトルーパーっていうのが、ワームの一体が脱皮した瞬間に空中へ弾き飛ばされたんだよ。

しかも10数人は居たはずなのにそれが一瞬でだぞ? もう面白いくらいに飛んでったからそれが衝撃だった。



それで恭文が交戦してるのとは別のもう一体のワームが、ハマーの方へ近づいてくる。

だがそのワームに向かって金と青の閃光が突撃。その横っ面を叩いて体勢を崩す。

その閃光の正体は、手の平サイズの青いクワガタとスズメバチ。ただそれは生物じゃない。



機械的に作られたもので……あれは。





「なんだありゃっ!」



それで改めて俺の両脇を背広姿な二人が横切ってワームに近づいていく。

逆立った黒髪短髪の方に青いクワガタが、右目に眼帯を着けて髪を整えている男の方にスズメバチが飛来。



「「変身」」



二人はそれを手に取り、短髪は腰のベルトにクワガタの腹を沿わせるようにして装着。

眼帯の方は左手首に装着してるブレスレットにスズメバチを装着。



≪≪HENSIN≫≫





それで装着されたクワガタとスズメバチを始点になにかこう、ヘックス型の光が二人を包みその姿を変えていく。

短髪が青い装甲に赤い瞳のライダーで、黄色いのが黒い瞳で蜂の巣みたいな目してた。

青いのの方にはキャノンがあって、二人共下半身は黒のロングパンツに銀色のラインっぽいアーマーと薄手。


なのに上半身だけはやたらと重武装なんだよ。そのアンバランスさが妙に気になった。





「これがもしかして、この世界の仮面ライダー」

「らしいな」



士は恭文が介入したのにのんきに写真を撮ってそんな事を言う。



「黄色がザビーで、青いのがガタックだったか」





えっと、名前も恭文から教えてもらったんだよ。まず黄色い蜂モチーフがザビー。それで青くてクワガタっぽいのがガタック。



ザビーは蜂の折りたたまれた羽を右の指で前に展開。ガタックもゼクターっていうやつの角を右に動かす。



それにより二人の装甲から青い火花が走る。仮面の目の部分などが前にせり出し……あ、やば。





「「キャストオフッ!」」

≪≪CAST OFF≫≫





ザビーがゼクターを装着したまま一回転して、手の先の方へゼクターの針を向ける。

ガタックはそのまま右に開きかけていた角を折り、身体に沿うようにする。それにより装甲がパージ。

装甲達は戦闘員の頭上を通り過ぎ、その一部が姿の見えなかったワームの身体を捉え動きを止める。



ザビーがガタックも先ほどよりスマートな体型となっていた。印象的なのは薄手の逆三角形のアーマーに蜂の顔の仮面。

ガタックは今のゼクターと同じ形で折りたたまれていた二本の角を展開し装着。

薄手で撫で肩のアーマーとなっていて、その両方には反り返った青いシミターを装着。



ザビーの黒に近いオレンジの瞳とガタックの明るい赤の瞳が輝き、二人はそれぞれ腰を落とし構えを取った。





≪CHANGE――WASP≫

≪CHANGE――STAG BEETLE≫



それからすぐにザビーは左腰のスライドスイッチを動かし、ガタックも右腰にある押し込み方のスイッチを右手の平で叩く。



「「クロックアップッ!」」

≪CLOCK UP≫





その瞬間二人はワーム共々姿を消す。一瞬驚いて声をあげそうになったが、すぐにやめた。

さっき恭文が言ってたクロックアップ――なるほど、これでなのか。今超高速でワームとライダーが戦っているわけか。

……って、ここでぼーっとしてる場合じゃない。早く恭文の援護に行かないと。というかアイツ今日おかしいぞ。



やたらとフェイトさんやギンガちゃんを遠ざけようとするし、ギンガちゃんに至っては一切フォロー無しだ。

フェイトさんと付き合っていた自分を見た事で、ギンガちゃんの事好きじゃなくなった?

いや、それならフェイトさんにあれはない。ならそういうの以外で……そうだ、あるじゃないか。



それ以外でアイツが神経質になる理由。それもいくつも……その一つは多分俺だ。



あのバカ、またなにも言わないってどういう事だよ。そういうとこ士にそっくり過ぎるぞ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文に続いてフェイトちゃんも失踪状態になって……リンディさんは相当キレてしまった。

あの子は将来局を背負って立つ人間なのにと嘆き悲しみ、必死に行方を捜す。

ただうちも今ディケイドの事とか話すのは躊躇われて、知らぬ存ぜぬを通すしかなかった。



それでそんなリンディさんは現在、本局内部で相当追い込まれている――訂正。

リンディさんを筆頭とした機動六課面々と言えばえぇやろうか。キーワードはフォン・レイメイとフェイトちゃんとリンディ提督。

一つはJS事件時にリンディさんやアルフさんがフォン・レイメイを倒した恭文を批判した事。



次にフェイトちゃんやエリオ達にスバルが事件に関わってしまった事。そしてあともう一つの事が原因や。



全てのきっかけはフェイトちゃん失踪直後に出た、JS事件の事後調査をしとった部署からの報告。





「というわけでみんな、集まってもらったわけやけど」



隊長室に役に立たんなのはちゃんも含めた隊長陣全員集めて……もう頭痛い。

この頭痛、部隊設立してから何度感じてたやろ。でもまぁ、多分これでおしまいやと思う。



「かなりマズい話になった。うちら機動六課は後見人も含めて最高評議会の眷属と思われてるらしい」

「は……どういう事だよ、それっ!」

「我らが最高評議会の眷属っ!? なぜですかっ!」

「一つ一つ説明する。まずフォン・レイメイやけどな、とんでもない事が分かった。あれ……最高評議会に雇われてたそうや」

『はぁっ!?』



あー、驚くわなぁ。うちかて驚くよ。てーか驚いて連絡くれたロッサに何度も確認したし。



「その仕事内容はスカリエッティ一味に加わってスパイ活動や。で、場合によっては謀殺。
その代わり自分を死亡扱いにして罪状をチャラにするのと、研究施設のを与えるって話になってたっぽい。
最高評議会のデータにそのやり取りが残っとって、それが今頃になって公表や」

「ちょっと待ってくださいっ! それでは実際の動き方とかなり違うではありませんかっ!
奴はスカリエッティをゆりかご上昇まで謀殺するような事もしていなかったっ!」

「途中でアイツが勝手に見限った感じやろうな。最高評議会もスカリエッティもどうせ共倒れになるからーって。
どうもアイツ、興味のない相手には結構そっけないし……その分恭文に向かってった感じやろうか。
でな、そこでフォン・レイメイをリンディさんやアルフさん、うちらが捕縛しようと考えていたのがマズいって話になっとる」

「どうして、かな」



今まで黙ってたなのはちゃんが視線を上げ、疲れた表情をうちに見せる。



「だって……逮捕してどうこうが局の仕事なのに。それが非殺傷設定なのに。
言いたくないけど殺した恭文君が悪いんだよね。なのにどうしてそうなるのかな」

「それはな、確保しても結局最高評議会の残党みたいなんに利用されるのがオチやという結論になったからや。
実際ロッサの調べやと、そういう流れみたいなものが予め作られてたっぽい。ここは偽装死の工作も込みでな」

「その片棒をアタシ達が担いでるとっ!? んなわけあるかっ!」

「問題がまだあるせいよ。二つ目は……フェイトちゃんやエリオにスバル達が事件に関わった事。
ようはうちらが『被疑者や被害者に直接的に関係のある人間を捜査に関わらせない』っちゅう不文律を破ってた事やな。
あと……ティアナの事や。ティアナが前にスランプに陥った時のアンタ達の対処法も一緒に問題視されとる」



あの時ティアナを殴ったシグナムとガキだと見捨てたヴィータ、それに……なにもしなかったなのはちゃんが苦い顔をする。

それはまさか自分達の中ではとっくに解決した問題の事まで持ち出されるとはという驚きに満ちた顔やった。



「こことフォン・レイメイの事が、三つ目の問題の事もあってかなり大きくなっている感じや。
一つ目の方はヴィータが言うた通り。うちらが局の不正の片棒担いでいたという疑いがあるから。
しかも……うちらは結局自分達の手で真相には辿りつけなかったやろ? それがまたマズい」

「あえてそうしなかったと」

「うん。うちらの本来の目的が予言の阻止っていうのがあるからなぁ。その分、目が厳しくもなっとる。
二つ目はうちらが身内に甘くていい加減な事をしていたという疑い。それも致命的なレベルでな。
そやからこそティアナの問題を自分達にとって都合の良い形でしか解決しなかった」

「では主はやて、その三つ目は」

「……リンディさんや。あの人がヴェートルの事件の時、局の嘘に率先して協力していた事」



なのはちゃんが居るのにも構わずうちが言い放った最大の原因は、シグナム達の顔を一気に青くするのには充分やった。



「リンディさん的には局の威信が揺るげば治安維持に差し障るって理屈やったそうやけど」

「まさか」

「そうや。そういう行動を取ったせいで、もう傍から見ると最高評議会と繋がってたとしか思えなくなってる」



最高評議会もヴェートルの件でこそこそ動いてたっぽいし、リンディさんと動き方かぶるのはしょうがないんやけどなぁ。

そこだけ見たら確かにこじつけ。ただ残念な事に、そのこじつけが真実に変わる火種をうちらは抱えてもうてる。



「そこだけならまだえぇんよ。ヴェートルに対しての事は言い方あれやけど、本局の総意でもある。
でもうちらもそれに――リンディさんや最高評議会の裏工作に乗ってもうた。真実を外に発信しようとはせんかった。
しかもあの人事件後にも恭文を局に入れようとしてたやろ? つい最近もそうやし。しかも最大の問題は」

「四つ目、あるのかよ」

「三つ目とほぼ同じよ。うちらどうも、最高評議会の後継者候補に選ばれてたっぽい」



重たい口を必死に動かして吐き出した言葉は、三人に更に望を叩きつけるに充分やった。

もちろんそれはうち自身に対してもや。突きつけられて苦しくて……コブシが思わず震えてまう。



「最高評議会はヴェートルの件で『英雄』になったうちらなら、自分達の後を引き継がせられると考えてた。
そやからレジアス中将にもうちらの邪魔をせんように圧力かけた。もうマジびっくりや」

「レジアス中将に圧力? 主、待ってください。レジアス中将は確か彼らの協力者では」

「それでもかけてたんよ。うちらが必要以上に動きにくくならないようにってな。そやからこそ査察もあの一回しかなかった」



うちな、もうちょい厳しく査察されて六課に対してあれやこれやと言うと思うてたんよ。でも……全然やった。

その原因はその圧力や。連中はうちらにそういう暗いところを作りたくなかったっぽい。



「六課設立に関しても、水面下で後押ししてたそうや。つまり裏の後見人がもう三人居たわけやな。
で、これらの要素を鑑みた結果……まずうちらはあの一件でレジアス中将と同じく最高評議会に認められ繋がりを得た。
もちろん出世コースも確保され、『反乱』を企てていたスカリエッティ達を謀殺するためにここが作られた」

「いやいや、それありえねぇよなっ! そんな事してもし自分達に捜査の手が及んだらどうすんだっ!」

「及ばなかったやろ。うちらが手伸ばせたんは、スカリエッティとレジアス中将だけや」





なにかにすがりつくようなヴィータの必死な言葉を一蹴して、うちは自嘲の笑みを浮かべる。

連中はそんな事にはならないと確信してんや。うちらが局員で、去年もそういう嘘に協力したから……全部見透かされてた。

なんのかんの言いながら結局自分の夢や保身が大事で、GPOと恭文の現状を見捨てたうちらの本心を全てや。



現実問題としてうちらの手は連中に及ばなかった。サリエルさんが居なかったら……ほんまに。



みんなの前やから必死に堪えてた無力感が一気に吹き出す。それでもう、瞳から涙ぼろぼろや。





「もう笑ってまうな。うちらの夢の部隊は構想段階から老害共の手の平の上やったわけや。ほんと……おかしい」

「それで主はやて、リンディ提督は」

「更迭されたそうや」

「更迭っ!? それ、実質クビって事かよっ!」

「いいや、更迭された上に不祥事に関わっていた可能性があるから留置場に入れられとる。
それでうちら機動六課部隊員にも……出頭命令が出とる。前線・ロングアーチ問わず全員や」



みんなの顔がこれ以上ないくらいに青くなっていく。

うちはそれを見ながらもっと青くなるやろうなと、妙な確信をしていた。



「もちろんうちもさすがに変やと思うて抗議もしたし、クロノ君とカリムにも相談した。
でも変わらんかった。どうもここ、恭文とギンガとフェイトちゃんが姿消しとるのも原因みたいや。
特に恭文はリンディさん――引いては最高評議会の意にそぐわない行動取ってた」

「そのためにリンディ提督がなにか手を出して……謀殺?」



シグナムの言う通りの方向で疑われているので、頷く。



「あとアルフさんもそれに手貸した可能性が高いって事で」

「そっちも逮捕扱いなのかよっ!」

「そや。いきなり海鳴に捜査員が乗り込んで来てそのまま」





あの人、恭文の家に怒鳴り込んだとことか目撃されてるからなぁ。それでご近所迷惑弁えずに喚き立てたりしとった。



そういうのでやりかねないと思われとるんよ。ここはPT事件の元被疑者なのもある。



アルフさんは主人のためやったら犯罪行為も平然と行うって前歴があるから、クロノ君でも庇い立て出来んのよ。





「それでなのはちゃん」



机の一番上の引き出しに閉まっていた書類一枚を手震わせながら取り出し、机の上に置く。



「ヴィヴィオもなのはちゃんが預かる事そのものを危険視されてるから、引き渡すようにと……命令書や」



うちの視線はずっとその命令書に向いたまま。もうなのはちゃんやみんなの顔……見られん。



「ヴィヴィオは近日中に本局の特別施設へ移送される手はずになっとる。もう決定事項や」

「ど……どうしてっ! ヴィヴィオは関係ないよねっ!」

「残念ながらあるんよ。それはアンタが去年GPOの分署をリンディさんの命令で砲撃したからや。
その事実もあるし、うちらもリンディさんの『嘘』に協力した。そやからこそ疑われとる。
あんな、アンタがあの程度の処分で済んだの……最高評議会が『エース・オブ・エース』を庇い立てしたからよ」

「……え」

「アンタがエース・オブ・エースやなかったら、とっくに局をクビになってたわ。外部組織の分署襲撃なんて前代未聞やもん。
でも最高評議会が圧力かけて、それをなしにしたんよ。アンタがそんな不名誉な退職したら局のためにならんから」





なのはちゃんの場合、親和力の事どうこうが説明出来ない上に目撃情報もあったからそういう方向だった。



実際教導隊もけじめが必要としてかなり言ってたっぽいし……でもそこに最高評議会がストップかけた。



そのせいで……もうだめや。必死に我慢しとったのに、涙が溢れる。現状があまりに怖くて声と身体がめっちゃ震える。





「うちらかて同じや。フォン・レイメイという局の暗部予定やった男を捕まえようとしたのも、最高評議会の眷属やから。
不文律を破りに破って身内人事しまくっとるのも、そういう眷属であるがゆえの奢りがあるから。
そもそも予言対策の部隊を作って手柄挙げるチャンスがあったりここまで出世したのも全部」

「そんなの言いがかりだよっ! それこそヴィヴィオには関係のない話だよねっ!」

「その通りだっ! 私は納得出来ませんっ! 確かに我々にも不手際はあったっ!
失敗はあったっ! だがこれはないっ! これはあんまりではありませんかっ!」

「はやて、なんとかならないのかっ!? てーかスバル達も含めて出頭ってやっぱおかしいだろっ! もう一度提督達に」

「無理なんよっ!」



みんなの叫びを同じ感情を込めた叫びで一蹴して、うちは瞳から更に涙を零す。

それで手の甲や書類が涙で濡れて、書類に至ってはシミが出来る。



「うちもなんとかしたい思うた。でも、クロノ君達も権限ほぼ奪われてるような状態なんよ。
ヘタしたら後見人も含めて全員大罪人扱い。もうどうにも、ならん」

「そんな……そんなのないよっ! ここは私達の夢の部隊なのにっ!」



なのはちゃんの叫びが部屋の中に響き、ヴィータとシグナムも口から信じられない様子で嗚咽を漏らす。



「どうしてみんなここをそんなに嫌うのっ!? どうして私達の夢を踏みにじるのっ!」





その答えはきっと、うちらの夢が間違っていたからや。うちらは……夢なんて見るべきやなかった。



ただそれだけの事。その瞬間、うちの中でずっと抱えてたものが粉々に砕ける音が響いた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――機動六課部隊員と関係者の拘束、数日中に完了する手はずとなっております」

「ありがとうございます」

「いえ、我々もあんな小娘達に好き勝手されるのは面白くありませんしね」

「本当だ。偉そうな顔で我々の正義を否定されても困る。
あんな犯罪者とモルモットの巣窟に住む連中は牢屋がお似合いだ」



そう言ってこの暗い会議室に集まった連中は楽しげに笑う。

私はなにも言わず、ただ彼らに合わせるようにして口元を歪めた。



「ですが驚きましたよ。こんなに証拠が揃えられるとは。特にこの予言の事など、よく分かりましたね」

「優秀な諜報部のおかげです。あと……あなた方に一つ報告が」

「報告? なんでしょう」

「簡単な事ですよ」



私が右手を上げ指をパチンと鳴らすと、今まで部屋に潜んでいた配下共が姿を現わし『豚』共を取り囲む。



「な、なんだ貴様らっ!」

「化け……化け物っ!?」

「これがその報告です」





そして配下から逃げようとする豚共は醜い鳴き声を漏らしみっともなくはいずり回る。

だがそんな事で逃げられるわけがない。一人……また一人と捕まり断末魔をあげる。

暗い室内で血と肉片が撒き散らされる中、私はただ静かにその光景を見ていた。



だが内心で昂ぶりを覚えていた。それも当然だ。ようやくこの養豚場を浄化出来るんだからなぁ。





「局の戦力問題は以前お話した通り、こちらで用意いたしますので。
それで彼らがその戦力となります。……あ、申し訳ない」



私はそこで両手を上げ、胸元の辺りで軽くパンと合わせる。



「この事は現在組織の中でも極秘事項でした。あなた方には全員死んでもらわなくては。本当に申し訳ない」





しかし……鳴滝の愚か者が。こちらの正体を見破られた上にあっさり倒されるとは。

その上せっかく上手くいっていた電王の世界での作戦まで台無しにした。だが予定外過ぎる。

まさか別世界の蒼凪恭文がこの件に絡んでこちらの正体を見破ってくるとは。やはり奴は悪魔か。



これでは諜報員代わりのコウモリも無意味だな。門矢士達もすぐにあれの正体に気づくだろう。

まぁいい。鳴滝やケバいコウモリがそれほど役に立つとは思っていなかった。

そうだな、今はその始末を門矢士達がやってくれた事と、ようやく『征服』開始に至った事を喜ぼうではないか。



この世界で邪魔と思われる機動六課はこれで動けない。私は奴らから全てを奪い去るからな。

だがそれは部隊そのものや自由、立場などではない。私は奴らからその全てである『餌』を奪う。

所詮奴らは権力者から栄誉や誰からも賞賛され認められるという餌をもらわなければ生きていけない家畜。



家畜は飼い主の言う通りにしか動けない。それは奴らが関わったJS事件でも明白だ。

奴らの志は権力者の家畜になる志でもある。それで自ら家畜になろうとしている愚かさに気づかないでいる。

本当にお笑い種だ。この世界はつまらない。そしてあまりに醜く狭い。もちろん電王との接触も無理だ。



そのためにチケットを持っていた蒼凪恭文をあの世界から叩き出したのだからな。そうだ、奴は邪魔だった。

奴はこの世界の中で明らかに異質な存在。同時にこの世界の形を繋ぎ止める力を持っている。

分岐点――奴が居る事でこの世界は嫌でも明るい未来とやらに繋がる線路を生み、そこへの道を辿る。



別世界の蒼凪恭文がこの件に絡んだのもそれが原因だろう。奴は我らにとって天敵のようなもの。

なので本来は我らの本拠地におまけごと転送した上で捕縛。モルモットとしてなぶり殺す予定だった。

だがそれすらも奴はその力で跳ね除け、門矢士と邂逅を果たした。出来れば早めに奴も始末したいな。



その上で門矢士をこの世界に迎え入れる事が理想だ。奴もこの世界に来たら失望するかな。

現に私はあまりにあっけなさ過ぎて大笑いしたくらいだ。ここは奴にとっての『始まりの世界』。

そこがそんな家畜の糞まみれの養豚場だと知ったらそれはショックも大きいだろう。



そうだ、その前に我々スーパー大ショッカーで家畜を処分して、少しでも綺麗な世界にするとしよう。

私は豚どもの断末魔を聴きながらその未来を想像し、すこぶる楽しい気分で笑う。

あぁ素晴らしい。豚も絶命する瞬間の叫びだけは、まるで小鳥のさえずりのように美しい。



世界中にこの叫びを響かせたいものだ。……私は豚は嫌いなのだよ。





(第19話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで……みんなおまたせー。ディケイドクロス、ちょっとゆっくりめに連載再開です。
なおきっかけはやっぱりリクエストがあったから。実はVivid・Remixとデジモンクロスもちょっとずつ書いてはいたり」

フェイト「ちょっとずつだけどね。とりあえず普段通りに適当に……大変なところはなんとか越えられたし」

恭文「一応ね。本日のお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。それで今回はカブトの世界……でも説明が大半」

恭文「それは許して欲しい。クロックアップのあれこれがあったから」



(このためにネットであれこれ調べて統合して……ちょっと気になって調べたらそれはもう長い時間がかかった)



恭文「とりあえずとまとでの現段階出ているクロックアップの解釈はこんな感じですね」



・タキオン粒子というカブトに出てくる特殊な粒子を使い時間流を操作する高速移動能力。
その粒子を目――身体に宿さないと視認する事すら出来ない。
そのためクロックアップに対抗するにはクロックアップが一番という素晴らしい結論になる。



フェイト「ここはWikiとかネット検索で?」

恭文「そうそう。基本ワームとそれを模して作られたカブトのライダーは、タキオン粒子を身体に宿してるの。
だからこそクロックアップ――タキオン粒子を操作して発動する高速移動が可能になる」

フェイト「でも攻撃力アップしないんだね。私、凄く速く動けるからその分威力上がると思ってた。ほら、キュベレイの体当たりみたいに」

恭文「実は作者も。でもそういうわけじゃないっぽい。そこについての細かい説明はまた次回かな。
だからまぁ……もうホントあっちの僕の言う通りだよ。生身の奴がワーム対策で居ると非常に邪魔」

フェイト「でもゼクトルーパーの人達は? それにほら、私達もバリアジャケットあるし」

恭文「あれだって武装してるよ? それもがっちり。てゆうかゼクトルーパーも実はクロックアップしてる相手には基本無力だし。
絵的にもスカートマント姿なフェイトとゼクトルーパー、どっち打たれ強いかって一目瞭然だし」

フェイト「でも防御魔法……あ、クロックアップされたら無意味か」

恭文「とりあえずバリア・シールド系はアウトだね。あとはまぁエグいけど……目突きとか急所狙いならフィールド関係ないかもだし」



(『だからゼクトルーパーは全員フルフェイスなんだ。自分の目を突かれないために、囮の目を用意している』
『な、なんだってー!』)



恭文「……そこうるさいよっ! あとそんな設定はなかったはずだからっ!」

フェイト「でもヤスフミ、どうして今回はそこまでその設定大事にするの? ほら、普段のとまとは描写重視なのに」

恭文「命と同じように設定は投げ捨てるものってのが基本だしね。長期連載で変わるところもあるし」



(井上敏樹先生をリスペクトしています。特に同人版)



恭文「その言葉の使い方はきっと違うでしょうがっ! 仮にそうだとしても劣化だよ劣化っ!
……いやね、カブトの世界のメインイベントとも言えるファイズ・アクセルフォーム対ザビーの映像を見てたのよ」

フェイト「うん」

恭文「それでネットでまたちょこちょこ調べたらどっちが強いかとか設定的に無理とか議論されててさ。
これはここの辺りの話をしないとだめかなーっと思って。あ、これが正解だーって話じゃないのよ」

フェイト「そうなの? 私てっきりそうかと思ってたのに」

恭文「そうじゃなくて、僕が仮面ライダー詳しいって話になってるでしょ?
だったら対抗策を考える時に当然クロックアップの設定関係への考察も必要になる」



(なので自然と? なお古き鉄の情報源はWikiやネットだったりします)



フェイト「ディケイドではその辺りどうだったのかな」

恭文「ネタバレになるけど、もやしはクウガ・ペガサスフォームの超感覚でワーム狙い撃ったよ。
アクセルフォームも同じく。とどめにクロックアップしてる相手に普通に斬りつけてダメージ与えてた」

フェイト「……まぁ士さんだしなぁ」

恭文「だよねぇ。ただ最後はやれるのよ。実際カブト初回でも天道総司さんが似たような事してたし。
でもあれだよ。電王の世界書いてからの中断期間は決して無駄ではないよ。だってその間にゴーカイジャーという良作が生まれたし」

フェイト「あれもディケイドと同じで過去作とのクロスオーバー……っていうのだっけ」

恭文「そうそう。なのでここからの話はゴーカイジャーの良いとこも出来る限り盛り込んだ上で進めていこう。
まぁカブトの話はこのへんにしておこうか。出来れば本編内でしたいしさ。場合によってはナレーター頑張ってくれるし」

フェイト「ナレーター出しちゃだめだよねっ!」



(『私、ライダーも詳しいですよ?』)



フェイト「だからだめだからっ! それでヤスフミ、遊戯王の新制限と同じようにバトルスピリッツも4月から制限が」

恭文「出たね。ウィッグバインドが……絵柄好きなのに」

フェイト「まぁしょうがないよ。本当に必殺技って感じだし」

恭文「だよねぇ。しょうがないからフェイトをいじめて可愛がっていこう」

フェイト「私関係ないよねっ! てゆうかそんないじめっ子な事言うと……私の髪でバインドしちゃうよっ!?」

恭文「自分を?」

フェイト「ヤスフミをだよー!」

恭文「いやいや、無理でしょ。だってフェイトドジだから」

フェイト「ド、ドジじゃないよっ! それくらいは出来るんだよっ!? 私ヤスフミと結婚してから少しずつしっかりしてきてるしっ!」

恭文「またまたー。てゆうかフェイト、カツラだったんだ」

フェイト「地毛だよっ! ヤスフミのバカー!」





(そして閃光の女神、また蒼い古き鉄を叩きながら涙目。
本日のED:YUI『NEXT LEVEL』)










恭文「……今更だけど話、あんま進んでないね。全く……はやて達がしゃしゃり出るから」

はやて「え、なんでそこうちら悪いって話になっとるんっ!? ほらほら、うちら揃ってめっちゃピンチやないかっ!」

恭文「なに言ってるのよ。たぬきや魔王の出番なんて誰も望んでないって。これはディケイドクロスよ?
そしてカブトの世界よ? 作者だってカブトの戦闘シーン書きたいがためにテンションを上げプロットを練り」

はやて「あんた言う事結構ヒドい事言うてるでっ!? いや、今ショックの余り同じ事二回言ってもうたけどっ!」

恭文「まぁそんなわけではやて達は勝手にやっててよ。ここは」

歌唄「当然私の出番よね」

恭文「おのれ出てきたらおかしい事になるでしょうがっ! はやて達より出てきちゃいけないからねっ!」

シオン「では当然、私の出番ですね。なぜなら私は選ばれし者――太陽そのものなのですから」(右手で天を指す)

恭文「おのれもだめだからっ! 出てきても処理し切れないからっ!」

歌唄「そうよ、私に決まってるでしょ? 恭文、大丈夫。私はいつでもアンタと一緒に居るわ」

恭文「お願いだからこの話の間だけは居なくていいって理解してよっ! あとどさくさ紛れに唇近づけてくるなっ!」





(おしまい)



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あきゅろす。
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