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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Battle06 『運命の出会いっ! 英雄龍ロード・ドラゴンッ!/前編』



そして――あっという間に夏休みは終わり、新学期。IS学園に再び生徒達が戻ってきた。

八神恭文や織斑一夏的には亡国機業の残党やサイレント・ゼフィルスの事と懸念事項は多いが、それでも二学期スタートである。

当然ながら約ひと月ぶりに会う面々同士で『久しぶり』などの会話も交わされ、学内は自然とお気楽ムード。



ただしそれも今日まで。もうすぐ学園祭もある関係で、明日からは基本てんやわんやとなる事はたやすく予想された。



そんなわけで二学期が始まったその日。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――って、ちょっと待ったー!」

え、なにか問題でも

「それまだっ! 先のシーンの話だからっ!」

はい? いやいや、そんなはずは



そしてナレーターは素早く台本を確認しているらしい。なにかこう、パラパラというペーパーノイズが聴こえる。



あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! し、失礼いたしましたっ! 私とした事がとんだイージーミスをっ!

「というわけで、今はまだ夏休みだよ。まだ新学期じゃないからねー。読者のみんなもそこんとこよろしくー」

「あの……恭文くん誰と話してるんですかっ!? というかこの声本当に誰ですかっ!」

――時は一夏と箒の夏祭りでの邂逅から遡り、八神家。夕飯を終えた恭文は現在修羅場だった

「しかも言い直しましたよっ!?」





まだまだ慣れない様子の真耶さんが混乱してるのはそれとして……どうしよう。

食事も終わって幸せ満喫している僕は、さっきまで寝転がってたソファーに座ってまたまた問題に直面していた。

その原因は潰れてなお僕に迷惑をかけてくれる亡国機業。ただそれより気になるのはセシリア。



凄い真剣な目をしてエンジンかかっている様子に、少々目を細めてしまう。それで食後にフェイトが入れてくれたお茶を一口。





「まぁ山田先生はともかくとして……今恭文さんも織斑さんもそれなりに危険な位置に居ます。
本来なら政府の保護を受けるべきなのでしょうけど、その政府自体が信用出来ない状態になっていますし」

≪まぁ亡国機業の事があるのに保護受けろとか言うのは、さすがにありえないでしょうね≫

≪なのなの。日本にもフィクサー居たっぽいの。もしかしたらまだ残ってる残党が主様達を売るかも知れないの≫

「そう考えると異常事態だよなぁ」



テーブルの上のショウタロスはカレーのせいか若干唇腫らしつつも、自分サイズな麦茶をそう言ってシオン共々飲む。



「政府って国民守るのが仕事じゃね? なのに信用出来ないなんてよ」

「日本に亡国機業のフィクサーが居なければ良かったんですけどねぇ。
でも現に逮捕者も出て……どうもECHELONの傍受局設置のあれこれ、本当っぽいです」

「それでフィクサーが日本にも出来て……かぁ。そんな要請突っぱねれば良かったのによ」

「しょうがないよ、ショウタロス。日本はアメリカに第二次世界大戦で戦争に負けてるから、立場的に弱いのよ」

「アメリカからそういう要望出されたら、引き受けるしかないのよね。
イラク戦争当時にはもうIS出来てたし、そういう影響もあるんでしょ」





日本は第二次世界大戦に負けて、戦勝国となったアメリカの管理下に置かれた。

その影響で今も日本には各地には米軍があるし、日本は戦争放棄を理念として掲げている。

もちろん防衛戦力として自衛隊があるけど、それでは足りない場合も考えられる。



それでイラク戦争――そのきっかけとなる同時多発テロは、その足りない場合を連想させるに充分。

あとはデジモンの事もあったんだと思う。日本は異変の中心地だったし、また『怪獣騒ぎ』が起きる可能性もあった。

そんな状況でアメリカの庇護がなくなったらどうなるかってのを考えたらなぁ。



そうして引き受ける事そのものがアウトとも考えられるけど、ここまでの積み重ねだけで狙われる危険もあった。



どっちにしても防衛戦力とそれを引き出せるアテは必要だった。でも……頼むから僕に迷惑かけないで欲しいよ。





「もちろん恭文さんの実力はよく存じておりますけど、亡国機業の残党もそれなりの戦力は揃えております。
織斑さんの方は織斑先生が居るので心配ないとして、あとは恭文さんです。なのでわたくし、しばらくこちらにお邪魔させて頂きます」

「あ、あたしも同じく。どっちにしても学校始まるまで暇だしさー」



これが現在僕を襲っている問題……せっかく覇王(ヒーロー)目指して明るく話進めようとしてるのに、なんですかこれ。

くそ、マジで残党来たらぶっ潰してやる。でもその前に、とりあえず『三人』を止めよう。



「あの、ちょっと待って」

「なんですの? 一応断っておきますが、わたくしも放ってはおけないんです。
先程も話したようにサイレント・ゼフィルスの奪取命令も出ておりますし」

「いや、そこは分かる。多分僕がNOって言ってもあれなんだろうしさ。でもワケ分かんないのは」



セシリアはもう立場的にそうしないと怒られる感じだからしょうがないと納得する。

でも多分そういうワケじゃないだろう二人に、つい厳しい視線を向ける。



「なんでリンと山田先生までそういう話になってるのっ!?」

「私だって同じですよ? 万が一なにかあるなら、その中心点は恭文くんと織斑くんです。
そのガードをするのは先生としての勤めで……あ、でも明日には帰りますけど」

「山田先生、そうですのっ!? さきほどまでこちらに居ると仰っていたのにっ!」

「私もそのつもりだったんですけど、さっき織斑先生から連絡が来たんです。それで別に仕事が入ってしまって」





そこでどうして残念そうな顔するんだろう。でも仕事入ってこっちつけないっていうのは理解出来る。



先生というのは夏休みと言えど仕事があるのよ。二学期の行事関係の準備とかも含めてさ。



しかも山田先生は副担任。担任の織斑先生が仕事はしっかり出来る人だし、きっと忙しいんだろうなぁ。





「でも前に言った事は、変えていません。だから私が近くに居る時は頼ってください」



向かい側に座る真耶さんは身体を前のめりにして、瞳を潤ませながら僕を見つめてくる。

それによりやや胸元の開いている服装な真耶さんの谷間が……僕はつい目を逸らしてしまう。



「魔法関係やあなたのD-3の事がバレないようにするためにも、協力者は必要なはずです。
私にあなたを守らせてください。私はあなたの先生ですから、あなたの事を……恭文くん? 目を逸らさないでください」

「山田先生、そりゃ無理だわ。だって胸の谷間凄い事になってるし」

「え……きゃっ!」



ちょっとちょっと真耶さん、それやめてよっ! 僕が覗いたみたいじゃないのさっ!

今食卓に座ってこっちの様子伺ってるフェイトにも睨まれるしさっ! ……あ、でもフェイトは普通だからOKか。



「ご、ごめんなさい。あ、そう言えば凰さん」

「あたしもしばらくこっち居ますよ? 学校始まるまでほんと暇だし、学園居てもあれだし」

「リン……おのれは織斑一夏のとこ行け」



真耶さんの体勢が元に戻ったっぽいので、視線を前に戻す。それでリンは僕を不満気に見始めた。



「なによ、迷惑ってわけ? せっかく美味しいおみやげたくさん持ってきたのに」

「だからそのおみやげ持って行けって言ってるの。中学の同級生とかに会いに行けばいいでしょうが」

「あ、それもう行って来た」

「マジですかっ!」

「マジマジ」



八重歯を出してしてやったりという顔でリンは笑う。でも僕はまだ諦め切れないので、更にツッコむ。



「じゃあ中国の実家の方は?」

「そっちも大丈夫よ。警防の人達がガードしてくれてるから」

「そう。だったら中国帰れ」

「アンタそんなにあたしに居て欲しくないわけですかっ!」





居て欲しくないというよりは、これで誤解されても困るから行って欲しいってのが正解だったりする。

なのに今ひとつそこが理解されていないのは悲しいなぁと思いつつ……まぁ当たり前か。

ただまぁ、リンの前に気にしなきゃいけない人が居る。僕はお茶を飲みながら自然と、その人に視線を向ける。



とりあえず今のところは力の抜いた表情をしているあの子を見ながら、念のために確認開始。





”フェイト、一つ質問”

”オルコットさんの事?”

”うん”



もうこのやり取りだけで予想通りなのがよく分かった。だって普通質問って言っていの一番にセシリアの事にはいかないって。

僕、まだ本題にも入ってないのにさ。試しにフェイトの方を見ると、フェイトは困った顔してた。



”やっぱりね、出身国のイギリスが亡国機業の大本の一つになっているのを相当気にしてるみたい。
多分亡国機業の問題というより、自分の国の問題でヤスフミや一夏君に迷惑かけてる感覚だよ”

”そこはサイレント・ゼフィルスの事も込み……だよね”

”間違いなくね。サイレント・ゼフィルスはオルコットさんが使ってる機体の発展機。
だから自分が取ったデータが使われて、それで……とか考えてスパイラル?”



そのせいでかなり気負ってるんだよねぇ。もう僕でも分かるくらいだから、フェイトやリインフォース達もばっちりなんでしょ。

だからね、さり気なくだけどうちの同居人の視線はセシリアに集まる事が多い。……うし。



”ねぇフェイト”

”私は大丈夫だよ? ちゃんとお話もしてもらったし、ヤスフミがしたい通りにしていい”

”ありがと”





僕はセシリアに告白されて嬉しかった。でもそれだけで三人目の彼女どうこうを考えているわけじゃない。



実を言うと、襲撃があってからまた迷った。多分その迷いの質は……今のセシリアと似てる。



でもあの時――だから放っておけない。僕は一人胸の中で気持ちをしっかりと固めた。










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Battle06 『運命の出会いっ! 英雄龍ロード・ドラゴンッ!/前編』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで早速行動開始。セシリアを引っ張って夜のデートにレッツゴー。

繁華街の方に出て、賑やかな雑踏を二人手を繋ぎながら少しゆっくり目に歩く。

セシリアはやや戸惑い気味だけど、笑顔でついてきてくれるのでそれは嬉しい。



とにかくセシリアへのフォローは僕が……やるしかないんだよなぁ。

フェイト達はツッコミ辛いし、真耶さんやリンが相手だと平気な顔すると思われる。

というか、冷静を装う? セシリア、最初のあれから分かるように気位高い方だし。



多分そういう弱みというか気にしてるところは隠そうとする方だと思う。だから……僕なのよ。



正直僕もそこなんとか出来る自信全くないんだけど、なにもしないわけにもいかないので頑張る。





「恭文さん、あの……これからどこへ。休まなくても大丈夫なのですか?」

「テニス用品」

「え?」

「見に行くって約束したでしょ? だからこれから。幸いな事にまだそれほど遅くないし」



セシリアに軽く微笑みながらそう言うと、少し驚いた顔をしながらもくすりと小さな笑いを返してくれた。



「もう、それなら明日でもよろしいのに」

「僕が行きたいからいいの。だからセシリアはそのまま振り回されててね」

「はい」





そのままセシリアはゆっくりと僕の腕に抱きつくようにシフト。

やっぱり豊かな胸の感触にちょっとドキドキするけど、ここは冷静に……冷静に。

目的はあくまでもセシリアのフォローだもの。やましい気持ちとかは封印。



それにその、先月の初デートのあれこれを思い出すにセシリアにはこう、そういう事意識させて困らせたくないし。





「でも珍しいですね。恭文さんがそんな事を言うなんて」

「まぁその、あれだよ。今日せっかく来てくれなかったのに相手出来なかったから」

「それは山田先生達も同じくではなくて?」

「じゃあセシリアはリンや真耶さんとデートに行ってた方が良かったのかな」

「質問に質問で返すのは感心しませんわよ」



セシリアは頬をふくらませるけど、それをすぐに嬉しそうな顔にしてくれる。



「それにその答えなら、もう分かっていただけてると思うのですが」

「分かっているというか……まぁそうだったら嬉しいなって感じかな」

あー!



背後から知っている声がかかって、僕は驚きのあまり足を止める。それでうんざりしながら振り向くと……やっぱり。



「恭文が浮気してるー!」

「やや先輩、落ち着いてくださいっ! きっと八神さんの事ですから……ねっ!」





そこにはボブロングストレートでピンクのキャミ姿なスレンダーな女の子と、やたらと背の高い緑髪で眼鏡の男が居た。

二人の身長さなんかを見ると兄妹のように見えるけど、一応あの二人……年齢で言うなら女の子の方が上。

でも今の二人の横にはあの変わらぬ姿のしゅごキャラ達はもう居ない。それに自然と寂しさを覚える。



僕達はもう子どもじゃなくなりつつあるという事みたい。歌唄、唯世に空海はもう……だしね。





「恭文さん、あの方達は」

「……僕の後輩。前に話した結木ややと三条海里だよ。てーかおのれら、なにしてる」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで行く道は同じっぽいので、途中まで四人と一緒に行く事になった。



セシリアの事も改めて紹介して……それでややがまた楽しそうな顔するのが辛い。





「えっと……あなた方にもその、しゅごキャラが居ますの?」

「えぇ。でも今はもう居ないですが」

「ぺぺちゃんもムサシも、もう帰っちゃったしねー」

「え」



セシリアが目を丸くしている間に、ややが両手を伸ばしておなじみな形でついてきていたショウタロウ達をぎゅーっと抱き寄せる。



「だからショウタロス達と会えて嬉しいんだー。変わってないっぽいしー」

「おいやや、やめろっ! つーかお前力込め過ぎだからなっ!」

「結木さん、うざいです」

「あー、この口調も懐かしいー。恭文、週末にはこっち戻ってたはずなのになんでだろー」



そんなやや達と僕を見比べながらセシリアは更に混乱してる様子で……そういやこの話、してなかったかも。



「セシリア、そこはまた改めて説明するよ。でも二人はどうして? デートとかかな」

「うーん、ちょっと違うよー。勉強会してたんだー。それでちょっと遅くなって、海里に送ってもらってるの」

「なるほど。ややが受験間近なのに勉強あんましてないから海里が見ていたと」

「正解です。それで……予想以上に酷かったです。やや先輩、一体中学でなにを勉強していたのか」

「海里ヒドいー! ややこれでも頑張ってたのにー!」



おそらくややのがんばりは全国の受験生から見たら『しばくぞゴラ』とキレたくなるレベルなんだろうなぁ。

大人っぽくはなっているのにこういうところは変わってないのが嬉しいやら呆れるやらで、つい苦笑してしまう。



「いいえ足りません。しかも志望がIS学園なら尚更です。どう考えても学力が足りませんよ」

「へぇ、IS学園受験する」



その言葉に目を見開き、僕はショウタロス達共々ややに驚きの視線をぶつける。



「IS学園っ!? ややがっ!? なんでっ!」

「八神さん、予想通りの反応ですね。それで俺も全く同じ事を言いました」

「えっとね、恭文IS学園入って大変そうだったけど」



ややは左手でほほをかきながら、照れた笑いを浮かべる。



「なんか楽しんでたからややもやってみたいなーって思って」

「お待ちになってください、結木さん」

「セシリン、なになに?」

「セシ……あぁ、この人も布仏さんと同じなのですね」



セシリア、そんな困った顔しないで。確かにあのタイプと言われたら否定出来ないとこはあるけどさ。



「その……分かっておりますの? ISがどういうものか」

「うん、分かってるよー。このお空の向こうへ行くためのものだよねー。いいなー。やや、月のうさぎさんとかと会ってみたいなー」

「そ、そうですの」





満面の笑みでそう言い切るややに、セシリアはなにも言えなくなった。

まぁややの言っている事は間違ってはいないし、そこの否定はISの根源の否定にもなるから言えるわけないか。

あいかわらず子どもっぽいんだか核心を見てるだけなのか分からないなと思っている間に、スポーツショップに到着。



ややの家はこの先なので、ここでお別れとなった。僕達は足を止め、そのまま先を急ぐやや達を見送る。





「それじゃあやや、海里、またねー」

「うん、またねー。セシリンも学校入ったらよろしくー」

「その前にやや先輩は、中学浪人の心配をするべきです」

「あー、海里ひどいー!」



セシリアが感心した表情でそのまま夜の闇に消えていく二人の背中を見ていた。



「明るい方ですのね」

「うん。昔からあんな感じだよー。明るくて甘えん坊で赤ちゃんキャラで」

「赤ちゃんキャラ?」

「ややがしゅごキャラ生んだのってね、自分の両親が双子の弟達の世話にばかりかまって寂しかったからなんだ」



もうその頃からの付き合いなんだなぁと少し懐かしくなるけど、まずは動く。

店の入口で固まっててもあれだしさ。僕はセシリアを引き連れて店内に入る。



「それまでは自分が家族の中心だったのに寂しかった。
だからみんなから愛される『赤ちゃんキャラ』になりたくて、しゅごキャラが生まれた」

「赤ちゃんキャラ……それも『なりたい自分』になりますの?」

「なるんだよ。どんな形でも、それが本人の望んだものならね。でも」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文さんがまたどこか寂しげな表情を浮かべる。ううん、寂しいというかこう……よく分からない。

寂しげではあるけど、それだけではない。色んな感情が心の中に混じり合っているような感じがする。

どうしてそんな表情が浮かべられるのかが分からなくて、わたくしは首を傾げながらテニス売り場に入る。



それでまずはラケットを見ていって……そう言えば亡国機業のあれこれでこの約束も忘れていた。



また一緒に出かける理由が出来て本当に嬉しかったはずなのに、わたくし……まぁ状況的にそんな場合じゃなかったんだけど。





「しゅごキャラってね、本当に突然出てくるんだ。僕の時もそれはもうさ」



蒼色のラケットを見ながら、恭文さんが唐突にそう言って来た。



「こころのたまごは、本来ならそのまま人の心の中で眠ってるもの。
だから外に出てきたしゅごキャラはある一定条件が整うとまた宿主の心の中に戻る」

「その条件は、なんでしょう」

「大人になる事」



あぁ、まただ。また恭文さんがあの表情を浮かべる。恭文君さんはラケットを元の棚に戻して、別の赤いラケットを持つ。



「正確にはしゅごキャラを生んだ時に描いた『なりたい自分』になれた瞬間。
しゅごキャラが宿主を見て『もう大丈夫』って思ったら……そのまま」

「ではさっきお二人が帰ったと言っていたのは」

「二人のしゅごキャラも同じなんだ。二人が描いた『なりたい自分』になれたから、元の場所に戻った。
それでずーっと一緒。どんなしゅごキャラも宿主とずっと繋がっていて、ずっと見守ってくれている。だから僕もいつか」





そこでラケットをくまなく見るために動かしていた恭文さんの手が止まる。わたくしは今の話でようやく理解出来た。

恭文さんの表情の原因は、そのしゅごキャラが帰る時の事を考えたから。もちろん夢が叶ったと考えれば嬉しいはず。

でも同時にそれは、今までずっと一緒に居たしゅごキャラ達と別れる事を意味する。



もちろんその別れは喜ぶべきものかも知れない。だけど……それでも寂しさは募る。だからあの表情になるんだ。





「別れたく、ありませんの?」

「それはないかな。ずっと一緒だって分かってるもの。でも、たまらなく寂しくなる時はある。
みんなとはバカやって、喧嘩して、一杯遊んで……そうやって仲良くなったから」

「やはりそうですか。でも、それでよろしいのではないでしょうか」



それを『別れたくない』と言うのかと思って、つい苦笑してしまう。

でも……きっと恭文さんの中での線引きは違うんだろうなと納得もした。



「それだけたくさん素敵な思い出があるという事ですもの。きっと良い事です」

「だといいんだけど。あ、セシリア」



恭文さんは寂しげな表情を変えて、明るく笑いながら一つのラケットをわたくしに差し出してくる。



「ラケット、これなんてどう?」

「えっと」



わたくしはそれを受け取り、試しに軽く握り込んでみて……驚いてしまった。



「……不思議と馴染みますわ。なんでしょう、これ」

「でしょ? 僕、こういう勘は良い方なんだよねー」





恭文さんはそこで少し自慢げに笑う。それを見てまた胸が締めつけられた。……わたくし達のせいだ。

こんな優しい人に色々な苦労をかけてしまっている。本来関わらなくて良い事に巻き込んでる。

それが辛くて苦しくて……どうしたんだろう。前は恭文さんと一緒に居るのが楽しかった。幸せだった。



もちろんそういう感情は今もある。でも……それよりもなによりも、わたくしは恭文さんと居るのが苦しい。



申し訳なくて辛くて苦しくて、ただただ胸に痛みが走る。わたくし、やっぱり気負い過ぎているのかも。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



その後はウェアとかもついつい買い込んで……ちょっとすっきりしてしまったのに自己嫌悪。

今くらいの時間に持っていくには少し多めな荷物を恭文さんと二人で持ちながら、また元来た道を戻る。

デートというにはちょっと物足りないけど、多分わたくしに気遣ってくれている。その……不安にさせないように?



今も繋いだ手からそういう優しさを感じる。だから余計に、胸が痛くなりもして。





「ねぇセシリア」

「はい」

「多分ね、気にするなって言っても無理だろうから……これだけは言っておく」



住宅街の中を歩きながらいきなり言われた言葉に、胸が締めつけられたように痛みが走る。

見抜かれて……いた? 恭文さんは私を見て苦笑しながらも、視線を前に向け続けていた。



「僕さ、前にセシリアに『IS学園に居ていい』って背中押された時、嬉しかったんだ。
ちょっと迷ってたところもあったからさ。だから……僕も同じ。試しに考えたのよ。
セシリアが亡国機業の事とかがあって、僕の側から離れたらーってさ」



でもそこでやや視線が落ち、その表情に陰りが生まれる。



「それでさ、答えが『そんなの嫌だ』しか出ないの。セシリアがそんな奴らのせいで自分のやりたい事や居たい場所を諦めるのは嫌。だから」

「恭文、さん」

「居なくならないで。もし今セシリアに居たい場所が、やりたい事があるなら絶対に諦めないで。
悪いのはセシリアじゃない。悪いのは……誰かのそういう気持ちを裏切る奴らだ」



そこでわたくしはつい吹き出して、苦笑してしまう。



「それは、わたくしが言った事とほぼ同じですわよ?」

「知ってる。だからね、ここからはオリジナル。……アイツらの事を理由に僕から離れないで。
僕はセシリアの事をもっともっと知りたい。だから居なくなられると困るの」

「結局ご自身の気持ちが一番なのですね」

「僕はそういう奴だよ。知らなかった?」

「えぇ。でも……ありがとうございます」



左手で持っている荷袋の持ち手に腕を通してから、人差し指でおかしいやら嬉しいやらで零れ始めた涙を拭う。



「ならわたくしが居たい場所に居ても、いいですか?」

「うん。セシリア、それはどこかな」

「それは」



わたくしは恭文さんの手を引いて歩速を速め、更に笑顔を深くする。



「たくさんです」

「そうなの?」

「えぇ。あなたの側にも居たいし、IS学園にも居たいし……だからたくさん」





そう、たくさん。わたくしの中にあるものは恭文さんだけじゃないから。それを再確認出来た。



星が綺麗に見える街を歩きながら、隣を歩く愛しい人に感謝。恭文さん、ありがとうございます。



背中を押してくれて、見ていてくれて、とても嬉しかった。わたくし……あなたの事がもっと好きになりました。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



セシリアはなんとか持ち直したっぽいので安心。それで僕は帰宅して就寝時間になったけど、自室に戻れず。

だって未だにお姉ちゃんがぐっすりなんだもの。さすがに同じ部屋で寝るのもあれだから、今日の寝床はリビングのソファーだよ。

ちなみにヒメラモン達はフェイトの部屋で寝てもらってる。てゆうかここに全員ソファーで寝るとか無理だった。



僕はまぁ、リインフォースの部屋とかあったのよ。リーゼさんとシャマルさんは居ないから勝手に使うのNGだけどさ。

でもセシリアとリンと真耶さんが客まで寝てるのにリインフォースと一緒は、さすがに躊躇われた。

だって僕、絶対いかがわしい事しちゃうし。……未だに治ってないんだよなぁ、寝てる時に相手の胸を触るくせ。



そういう意識がなくてもしちゃうからアウトだもの。なのでリインフォースがちょっと寂しげだったけど我慢してもらった。

時刻はもう午前1時で、みんな眠ってるような時間――でも僕は眠れずに一人深夜アニメをBGMにデッキの調整。

みんなの睡眠を邪魔してもあれなので音は絞り気味で、コブシとのバトルの反省もした上で更に煮詰める。



実はネットであれこれ調べてそういうのも参考にしてたりして……でも状況が状況だから、大会出れないかも。

やっぱりそういう連中が手出すとしたら、今みたいに僕達がバラバラな時か、他に人がたくさん居る場合か。

フィアッセさんのコンサートが襲われた時みたいに、周囲の不特定多数の人間を人質に取る可能性も考えられる。



その場合やっぱりそういう場所には……そこまで考えてカードを持っていた手が止まってしまった。

それまでに事態が解決しないようなら、それも考えなきゃいけない。でもまずは諦めずに進み続ける事からだ。

だって僕がセシリアに今日言ったんだもの。自分が居たいと思う場所に居ていいんだって。



なのにそれを言った僕が実践出来なかったら、セシリアが迷っちゃうよ。だから僕から頑張っていく。

というわけでデッキなんだけど……やっぱり僕のデッキの軸はマ・グーなんだよね。

マ・グーのコア回収能力はヤバいくらいに便利だからなぁ。正直禁止にならないか不安。



毎ターンラウラが使ったネイチャーフォースがノーコストで使えるカードだもの。もちろん弱点もあるけど。

そのうちの一つはウィニーみたいな一気呵成に襲う相手。それには単独で対処し切れない。

あとは指定アタックとかも出来ないから……試しにやった一人バトルでは、そういう数での勝負に持ち込めれば高確率で勝てた。



そこはジーク・ヤマト・フリードが出ても同じだと思う。デッキから引けたの、あの一回だけしかないけど。

速攻対策として競技場とかエゾノ・アウルとか入れたけど、それだとなぁ。やっぱもうちょっと色を絞ってギミックをシンプルにするか。

それで速攻対策は……一つ考えた。速攻には速攻ではないかと思うのよ。だから今度のデッキには速さを求める。



ガンスリンガーの事もあるし、どっちにしても必要なんだ。あと自分がウィッグバインドを使われた時の事も考えないと。



その上で自分の引き運も踏まえてカードの種類毎のバランスも。





「恭文さん」



カードとにらめっこしてると、リビングの入り口から声がかかった。そっちを見ると、ピンクのパジャマ姿なセシリアが居た。



「あ、ごめん。うるさかったかな」

「いえ、ちょっと喉が乾いたので」

「そっか」



一旦カードをひとまとめにして一緒に持ってきていた箱に入れる。その上で立ち上がり冷蔵庫の方へ向かう。



「なに飲む?」

「では……お水を」

「分かった」



麦茶の他に水も煮沸した上で冷やしてあるのでそれを取り出してコップに注ぎ、ソファーに座ったセシリアにそれを渡す。



「ありがとうございます」



セシリアはそれをゆっくりと飲んで、静かに息を吐いた。



「こんな時間まで起きてカードゲームしてましたの?」

「眠れなかったのよ。昼夜逆転してるし」

「そ、それでですの」



実はこれは今もぐっすりなお姉ちゃんのせいもある。てーかほぼお姉ちゃんのせいだ。

とにかく明日はゆっくりして体内時間を戻そう。そうしないと夏を楽しく過ごせない。



「恭文さん」

「なに?」

「隣に座っても、いいですか」

「……うん」



それで僕からちょっと離れてたセシリアは静かに立ち上がりそのまますっと僕の左隣を占領する。

なんとなくテレビを消して場を静かにした。それで特になにをするわけでもなく、言葉を探してしまう。



「わたくしは今、恭文さんと一夜を共に過ごしているのですね」

「うん」

「不思議です」

「僕も。学校から離れてるせいかな」



幸せにしたい人の中にセシリアは居るのかなと改めて考えて……やっぱりそういう感情が不思議で、頬を緩める。



「やっぱり大会、出るつもりですの?」

「まぁそれまでに亡国機業の残党引きずり出せたらかな。そうじゃないとさすがに怖いしなぁ」

「確かに……そうですわね。ごめんなさい、わたくしや政府にもどのタイミングで動くかもさっぱりですし」

「いや」



僕はなんとなく手持ち無沙汰になって、箱に入れてあるカードの中の一枚――サラマントルを右手に取る。



「実はそうでもなかったりする」

「そうですのっ!?」

「そこはほれ」



セシリアにサラマントルの素敵な姿を見せ、安心させるように不敵に笑う。



「相手の立場に立ったらっていうおなじみのあれだよ。まず亡国機業残党はそれなりに追い詰められている。
組織のデカさや実体がもはや邪悪レベルだった分、表からも裏からも関わりたくないと思われてる。
破滅覚悟でも僕達にケンカ吹っかけて勝つ気満々でも、それなりの戦力を整え状況は選ぶ。ここまではいい?」

「えぇ、仰りたい事はよく分かります。そのためのサイレント・ゼフィルスや『アラクネ』でしょうし。……それで」

「まず連中は一度切りのチャンスに賭けてるはず。つまり一度の襲撃で僕も織斑一夏も白式もかっさらうつもり。
それが出来る傍目から大きく見えるのチャンスが夏休みだけど」

「その通りです。だからわたくしも山田先生もここに来たくらいですし」

「でも夏休み中に襲ってくる事はないと思う。連中だってバカじゃないから、自分達の行動による結果」



改めてサラマントルを見ながら考えをまとめて、出来る限り分かりやすい形で説明を続ける。



「サイレント・ゼフィルスとかの行き先にこっちが気づいているのは承知しているはず」

「今手を出すと逆に危険で足がつく。そう考えていらっしゃるのですね」

「正解。それで僕達の関係者を誰かしらさらって人質を取るという方向もない。連中は逃亡犯だもの。
変に長期戦になるような形になれば、支援関係が不足している自分達が不利になるのは分かるはず。
人質を連れて逃げる手間や『テロリストには譲歩しない』という国際常識もあるしね」





一見人質どうこうという作戦は有効に見えるけど、実はリスクが高い作戦。それもかなりね。

人質でどうこうとなると、やっぱり交渉の場が必要になる。同時にそれなりの時間も使う。

そういう場と時間を確保するという事は、逃亡犯である自分達の居場所を相手に知られやすい。



亡国機業関係者は真耶さんの話通りだとすると四面楚歌も同然。一度捕捉されればそのまま圧殺される恐れもある。

あと……万が一こちらが人質を無視で攻撃してきた場合も想定される。人質があるから安心と考えるのは愚策。

しかも攻撃された時点で自分達に反撃手段がなくなるのも痛い。もちろんそこで人質を殺すのもアウト。



その時点でもう手札なし。反撃手段はなくなってしまうもの。だったらたくさんさらってしまえばいいと思う人も居るかも知れない。

でもそれをやってしまうと更に身動きが取り辛くなる。もちろん引き渡しも含めた交渉の時間も長くなる。

連中が事を起こす上でのリスクは、自分達と接触する時間――自分達の存在を表に出しているその瞬間。



その時間が1秒でも多ければ多いほどリスクは高まる。理想は短時間でターゲットを確保する事。

もちろんここはISでの戦闘も含まれる。下手に戦闘になればそれなりの時間を食うし、やっぱり危険。

だから戦闘以外の手段で来るはずなんだ。もちろんさっき言ったように短時間で僕達をかっさらえる方法だね。





「誘拐も休みの間の襲撃もないとすると……学校が始まってから? でもそれこそ無謀ですわ。
IS学園の中に入ってしまえばおいそれと手出しは……やはり夏休み中に行動を起こすのでは」

「セシリア、二学期の予定表確認してない? あるじゃないのさ、そのおいそれと手出し出来ない場所に入り込める隙が」

「二学期?」



そこでセシリアは首を傾げた。でも少し考え込むような仕草を見せて……ハッとした表情を浮かべる。



「まさか」

「そうだよ。9月後半に行われる予定のIS学園の学園祭。多分連中はそこを狙って行動を起こしてくる」





実はIS学園にも学園祭というのがあり、それの準備も二学期が始まったらすぐ入る事になっている。

基本やる事は普通の学園祭と同じなんだけど、来場客のほとんどはIS学園の関係者。

ここはISというテクノロジーを扱っている関係で、一般来場者を募れない事情がある。いわゆる秘匿義務ってやつ?



まぁそれはちょっと違うかもだけど、来場者は基本学園側から生徒へ支給される入場者チケットがないと入れない。

それも大量に支給されるわけじゃないから、生徒も本当に信頼出来る人のみ呼ぶのが通例。

そんなちょっと閉鎖的な匂いがする学園祭だけど、それでも毎年かなりの人数が来て盛況というのが真耶さんの談。





「基本一般人は学園の生徒に支給されるチケットがないと入れないけど」

「でも外部から人が入る事には変わらない。そこで電撃的に襲撃をかければ……成功率は高い?
それなら爆破・生物兵器テロのようなものを仕掛けるのも可能ですわ。
作戦次第でかなりの人数を人質を取る事も出来ます。それも手間は普通の誘拐より少ない」

「まぁいちいちさらって交渉するよりはね」





この作戦のメリットは手間の少なさだよ。しかも学園祭が始まればやっぱりあちらこちらも騒がしくなるから異常に気づきにくい。

そんな中爆弾とかを仕掛けるのも学園進入前の準備があるなら楽だろうし、一生徒である僕達とも接触しやすい。

ここは学園祭、または学園の中というシチュゆえの油断も見込める。セシリアも今言ってたでしょ? 学校が始まれば狙いにくいって。



今が狙いやすい時期なのは確かなの。そこあえて外して長期戦にする事で油断を引き出す意味もあると思う。

その上この作戦を起こす場合にかかるリスクは、変に関係者を狙うよりは低い。

最短コースだと『なにか仕掛ける→その上でターゲットに接触→脅して確保』という三工程でいけるから。



もちろんこちらから戦闘による解決も仕掛けにくい。被害が出ればそれは学園中に及ぶ。

方法なら色々あるよ? 単純な爆破物もあるけど、セシリアが言ったみたいな生物兵器を使う可能性もある。

生物兵器――いわゆる悪性ウィルスとかの類は『弱者の核兵器』と言われるほどに低コスト且つ効果的。



あ、毒ガスも一応それなのか。とにかくそういうものを仕掛けられたら、さすがに対処は慎重にならざるを得ない。

特に国の公的機関であるIS学園上層部とかはさ。下手に強引な手に出たら各国や世論から袋叩き。

つまり学園祭を、引いてはIS学園を狙う事は一見危険なように見えてかなりメリットもある。



向こうからすればアド取りたい放題の状況……こう考えると狙われない理由がないと思う。

これなら仮に連中の目的が破滅覚悟の特攻だったとしても納得は出来る。どうせ破滅するなら最後はド派手にってやつ?

いや、むしろそういう考えして仕掛けてくるならこっちをやると思う。だって被害が半端なくなるんだし。



もちろんターゲットの確保が目的だとしても有効なのは、『あの一件』を通して納得してもらえると思う。





「恭文さん、これはいつからお気づきに」

「デッキ調整しながらだから、少し前。話自体は明日の朝にでもするつもりだった。
いや、実は前にお世話になっている人のコンサートでそういうテロが仕掛けられてさ。
それは警備の人達が頑張ったから未然に防げたんだけど、いつ襲撃されるかって考えてその時の事思い出したんだ」





もう言うまでもないけど、これはフィアッセさんの一件。あの時の経験がなかったら、正直ここまで考えられなかった。

僕達の関係者『だけ』を巻き込んで利用する形では、リスクの軽減は成り立たない。

だったら……とことん巻き込む人数を多くしたらどうか。それが出来るシチュでの襲撃ならどうかってさ。



まぁ僕としてはこんな感じなんだけど……セシリアも今の表情を見るに、納得してくれてるっぽい。





「納得しましたわ。恭文さん……やはり凄いです」

「そんな事ないよ。亡国機業のせいで大会出れないって考えたら自然とだし」

「あ、それでですのね。大会に出て襲撃されるのと学園祭での襲撃はさほど変わらない。
シチュの差異はあれど、『不特定多数の人間を盾に出来る状況』ではあるから」

「そういう事」



なので学園祭だからどうこうじゃないんだよね。今セシリアが言ったようなシチュがもうすぐ来るってだけの話。

僕の計算では、このまま襲撃するよりは成功率が高くなる。安全な中だからこそ逆に目も緩みがちだからさ。



「というわけで」



箱の中のカードをまとめてデッキにして……右手で持ってガッツポーズ。



「学園祭で連中をぶっ潰して再起不能にしてやりゃあ問題ナッシングっ! さー、覇王(ヒーロー)目指して頑張るぞー!」

「そういう結論ですのっ!?」



驚いた様子のセシリアだけど、すぐに頬を緩めてくすりと笑う。



「でもそうですわね。あんな人達のために夢を諦めるのはバカげています」

「でしょ? だからまぁ……手伝ってくれると助かるかな。それで一緒に」

「はい」





なんだかんだでこの日僕は、また徹夜するハメになった。だってデッキ調整止まらないしー。



それでセシリアも付き合ってくれて……朝起きたみんなに凄いびっくりされたっけ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



数日後――僕は学校に戻った真耶さんに呼び出され、またまたIS学園に来ていた。

そこからまた車で移動開始。そのワゴンに後部座席に座りながら、一緒に来ている数人と資料を確認。

ちなみにメンバーはやっぱりうちで夏休み過ごし始めたセシリアと鈴、あと僕の提案で簪も引っ張ってきた。



それで資料の表紙に写っているのは建物。その白く近代的なデザインの建物が印象的なそこの名前は『陽昇研究所』。

そう、ここの所長はあのバトルフィールドを作った陽昇夫妻――ハジメのお父さんとお母さん。

僕達はバトルスピリッツに革新をもたらしたバトルフィールドシステムを生んだ研究所に向かうの。



だから自然とドキドキしてて……うぅ、楽しみだなぁ。でも織斑一夏や箒やシャルロット、ラウラが来れなかったのは残念。



シャルロットとラウラはなんか修行してて、織斑一夏と箒は予定があるらしい。それで織斑先生はそのガードとかなんとか。





「真耶先生、なんで僕達がここに」

「八神君、そこ知らないで私を誘ったの? いや、確かに嬉しいんだけど」

「確かに……更識さん、先程から楽しそうですものね」



セシリアが微笑ましそうに簪を見ると、簪は恥ずかしいのか目を窓の外に向けた。

簪が視線を向けた先には流れる街の景色――まぁ道路走ってるから当然だけど。



「でもわたくしも気になりますわね。ここはIS関連の施設というわけでもないですし」



差し込む日差しのせいで暑そうな外とは逆に涼しい車内の中で、全員が首を傾げるのは当然だった。

だって呼び出されたのも本当にいきなりだよ? セシリアの言うようにIS学園の施設ってわけでもない。



「まず更識さんに関しては問題ありません」



それで車は速度を落とし停止体勢に入る。ちょうど信号赤になったしね。



「実は私も織斑先生も知らなかったんですけど」



車が停止してから真耶さんは苦笑しながらこちらへ振り向き、軽く握った右手を口元に当てる。



「以前から陽昇夫妻が作られたバトルフィールドシステムをIS方面に転用出来ないかという話があったらしくて」

「バトルフィールドシステムを転用? いやいや、ちょっと待って。
あれ教官達や色んな子もやってるけど、あれとISはどうやっても結びつかないでしょ」

「普通はそうです。ですがバトルフィールドシステムは高度な仮想現実を実現化するシステムとも取れますよね」



仮想現実――その観点から考えると、あれとISを結びつける理由もなんとなく分かった。

特にその手の技術関係に造詣の深い簪は分かるっぽい。でも同時に……だからこそその表情がやや険しくなる。



「だからIS実習などで活用出来るのではないかと政府が考え、打診していたようなんです
陽昇夫妻が元々天才発明家として名が売れていたのも理由になっていいるとか」

「そういやバトルフィールドシステム以外でもあれこれ作ってたんですよね。僕も資料で見ました」

「お台場近辺で配布されていたDターミナルの開発にも関わっているとは聞いた事が……先生、信号青」

「あ、いけない」



真耶さんは慌てて視線を前に戻し、左右の確認をしっかりしてから車をまた走らせ始める。

……てゆうか、真耶さん車の運転出来たんだなぁ。なんだか意外かも。



「更識さん、ありがとうございます」

「いえ。でもそれ……陽昇博士達は絶対にOKしませんよね」

「えぇ。元々はお子さんのスピリット……でしたっけ? バトルスピリッツのモンスター。
それに会いたいという願いを叶えるための研究だからと」





そう言えばそれっぽい話出てたな。この間ハジメと会った時に直接聞いたから、更に理解出来た。

ハジメは『龍星皇メテオヴルム』っていうスピリットに会いたいって言って……そこから研究がスタートしたらしい。

でもなんつう無粋な。これはゲームを楽しむみんなの夢を叶える素敵な研究なのにさ。



そこに政府が都合丸出しであれこれ言うっておかしいでしょうが。空気読まないというかなんというか。





「一応事前に学園側から話はしているので、今回私は返答をもらう形で……本来は織斑先生が頼まれていたんですが」

「織斑先生……あー、ブリュンヒルデだからか。でもなんで学園がそんな事を? もう正式回答出てるっぽいのに」

「それでもそういうところは歩調を合わせないといけないですから」





ようは『政府と同じ考えです』と一応でもアピールが必要と。ここは学園どうこうより職員の問題なのかな。

亡国機業の問題でそれなりに日本政府も揺れてるから、ここで反抗的な態度を取る事はあまり良くない。

ヘタをしたら良識的な職員にとばっちりが来る可能性があるもの。もちろん完全アウトな提案なら跳ね除けていいと思うけど。



だから真耶さんの表情もあんま明るいものじゃなかったのか。ぶっちゃけちゃえばごますりだからなぁ。





「でも理事長や学園上層部も凰さんの言うように回答は覆らないと踏んでいます。
だからあくまでも確認だけで……本当にごめんなさい。本当なら私だけで良かったんですけど」

「じゃあなんで僕達がこっちに呼ばれたんですか。僕達が交渉しろとかそういう話じゃないだろうし」

「織斑先生の指示なんです。他の先生方の手も空いてないし……私一人じゃ、不安だからって」

『そんな理由っ!?』





大人ってやっぱり大変だなぁと思っている間にも、車は進んでいく。まぁ納得出来ないところは色々あるけど、大丈夫か。



だって……あのバトルフィールドを開発した研究所に行けるんだよっ!? なんだかんだでワクワクだってー!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



一方その頃――IS学園駅の隣街である門出町。ここで陽昇夫妻の息子の陽昇ハジメは暮らしている。

陽昇夫妻は現在バトルフィールドシステムの更なる発展と開発のため海外暮らし。

そのためハジメは陽昇夫妻の助手である巽博士の家で居候をしながら中学生活を送っているのだ。



そんな巽夫妻――キマリとコウタのご両親の家は庭付き一戸建てと結構な豪邸。



その庭に持ち込んだテントで寝泊まりしているハジメは。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ふんぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」



オレはいきなり獣と……いや、元から獣だけどっ! とにかくいきなり野獣みたいに唸ってどこかへ飛び出そうとしたサファリを押さえている最中。

散歩中にいきなり目を見開いて歯茎剥き出して全速力で走ろうとしてんだよ。しかもコイツ……やたら力強いしっ!



現在、巽家の飼い犬であるサファリ(大型の白いラブラドール・レトリバー)と散歩中だったりする

「おいナレーター! かっことじまで丁寧に言っている暇があるなら助けてくれよっ! あとこれ散歩じゃないからなっ!」

……無理っ!





言い切られたしっ! とにかくオレは坂道で足を踏ん張り両手でしっかりとリードを掴み抵抗中。

つーかコイツいきなりどうしたんだよ。原因が分からない……その時、サファリがとんでもなく大きな雄叫びをあげた。

同時に今まで以上に強い力でオレを引きずろうとする。なんとか抵抗しようとするけど、無駄だった。



坂道で踏ん張っていたオレの足は滑り、そのままサファリに引きずられながら凄い勢いで下へ降りていく。





「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 痛い痛い痛いっ!」

「がうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ♪」





え、コイツなんで嬉しそうな声出しちゃってるのっ!? オレは疑問に思いながらサファリの方を見て……ようやく理由が分かった。

坂道の一番下――T字路になっているところには一件の出店があった。

そのやたらとカラフルな飾り付けの店の名前はクラッキー・フライド『チクワ』。そう言えばキマリが言ってたっけ。



サファリはちょっと肥満体で、その理由は好物のフライドチクワを食べ過ぎてるせいだって……だからこれかぁ。



その事実に気づいた瞬間、オレとサファリは目を丸くしているお店の人に食いつかんばかりの勢いで激突した。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ボロボロになりながらごきげんなサファリをなんとかあの店から離して、ようやく帰宅した。



見慣れた二階建ての家の中に入ってフローリングが綺麗な玄関に腰を落とし、出迎えてくれたコウタに事情説明。



それでコウタはどう言っていいか分からないのか、なんかすっげー困った顔してた。





「ご、ごめんね。肥満解消のためにフライドチクワしばらくお預けにしてたから……多分そのせい」

「そっかぁ。どうりで涙流しながら食いついていたと思ったよ」



そのサファリは禁断症状っていうかお預け解消出来たから嬉しそうなんだよなぁ。オレとは正反対だよ。



「それでハジメあんちゃん、お店の人はなにか言ってた?」

「必死に謝って手持ちのお金でサファリが食べたフライドチクワ全部買い取ったら、許してくれた。
幸いお店の物が壊れたりとかはなかったしさ。でも……オレのお小遣いがー!」



横でごきげんなサファリをジト目で見るのも許して欲しい。頭抱えるのも許して欲しい。

だって小遣いには限りがあるんだよ。確かにオレの父ちゃん達はすげーけど、そんなめちゃくちゃもらってるわけじゃないしさ。



「覇王(ヒーロー)チャンピオンシップに向けて、新しいカード買おうと思ってたのにっ!」

「確かに……強力なライバルがきっと一杯出るだろうしね。デッキ強化は必須か。
テガマル組もそうだけど、恭文さんとか一夏さんとか、シャルロットさんとか」

「だろっ!? 特にテガマルと恭文さんだよっ! テガマルは言わずもがなっ!
恭文さんもコブシとのバトルで、手札めちゃくちゃ事故ってたのにアイツを圧倒したっ!」

「アレは凄かったよねー。ハジメあんちゃん的には恭文さんともバトルしたい感じかな」

「あぁっ! 焔竜魔皇マ・グー……強敵だけどオレとロード・ドラゴンで絶対に勝つっ!」





あのバトルでデッキを回してそのポテンシャルをより引き出したのは、間違いなくコブシだ。

デッキ事故ってようはデッキのポテンシャルが底辺化しているとも言いかえられるしな。それは否定出来ない。

でも恭文さんは……あ、年上だからさん付けな? とにかく恭文さんは戦術でそれを覆した。



出したスピリットもたった二体だけ……恭文さんとコブシ、チャンピオンとユーロチャンプのバトルを見て確信した。

覇王(ヒーロー)チャンピオンシップは凄い事になる。それだけは言い切れて、自然と両拳を強く握り締める。

テガマルや生徒会長、恭文さん達以外にもきっと覇王(ヒーロー)とチャンピオンとのバトルを目指して凄い奴らが集まってくる。



そう思うのはこの大会で決まる覇王(ヒーロー)が、マジで一番最初の覇王(ヒーロー)だからだ。

当然参加者の熱はかなり上がるだろうし、てゆうかオレが上がってるし。だから凄い事になるんだ。

きっとあの時のバトルと同じレベル……いいや、それ以上のバトルが大会が始まればあっちこっちで起こる。



それを起こすのは当然知っている顔もあれば、今まで見た事のないカードバトラーも居るはず。

そういう奴らと早くバトりたい。でもそのためにはやっぱりオレがもっと強くならなくちゃいけない……のにー!

ただカード買って強くなるってのも短絡的だよなぁとちょっと反省して、オレはため息を吐く。



違う、そういう事じゃないんだよ。ようはその……相当額がサファリの胃袋に消えたのが辛いだけなんだ。





「でもホント強くなりたい。きっと他にも凄いカードバトラーが出てくるしさ。そのためにもオレはもっと……それで」



腰から下げているデッキケースを左手で取って蓋を開け、中に入れていある一枚を大事に取り出す。

そこに描かれているのは白い陣羽織を身に纏い刀を振るう赤き龍。炎の翼を広げるその姿がめちゃくちゃカッコ良いオレの相棒。



「ハジメあんちゃんの運命の一枚にふさわしいカードバトラーになる?」

「あぁっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あれはまだバトルフィールドシステムが正式発表される前――オレはそのテストプレイヤーに選ばれた。

というか、父ちゃん母ちゃんの子どもだからって事で頼まれたんだ。こういうのは身内の方がやりやすいっぽい。

スピリットに会うって夢が叶えられるのが嬉しくてワクワクして、テストプレイ用のデッキを必死に調整してた。



そんなある日いつものようにバトスピショップに向かって、そこでオレは二つ運命の出会いをする事になった。





「ハジメ君、面白いカード出た?」

「うーん、まだ使った事のないのばっかだから今ひとつ」





オレはテストプレイ用のデッキを試す前にミカさん――ミカ姉とそんな話をしながらバトスピタワーでカードを引いてた。

バトスピタワーっていうのは、いわゆるカードダスの機械だな。お金を入れて太いグリップを回してカードを出すってやつ。

分からない人はガシャポンのカード版を想像してくれ。でも出たカードはどれも今ひとつ。



てゆうか、使ってみないとどうにもって感じだった。やっぱバラ買いかなぁと思っていると、後ろから歓声が聴こえた。





「すげー! この人もう10人抜きだー!」





10人抜き……反射的に凄い強いカードバトラーが来ているのかと思って、バトスピタワーから離れて人だかりの方へ向かう。

そこのプレイ用の机にはデカいアフロに黒いサングラス、そして紫のシャツを着た……変な人が居た。

いや、初対面で変な人って言うのもあれだと思うんだけど、さすがにあの格好はそう言うしかない。



しかも白くなってる袖の辺りに黄色い紐がたくさんついてるしさ。ああいうのこう、昔のテレビとかで居なかった?





「さぁさぁー、次の相手は誰かなー」

「はいはいっ!」



まぁ格好は気になったけど、とにかく強いならデッキを試すのにちょうどいいと思ってオレは右手を上げてアピール開始。



「オレやりたいっ!」

「おー、いいよ。君名前は」

「オレ、陽昇ハジメ。おじさんは?」

「人呼んでさすらいのカードバトラー! アフローヌさっ!」

「誰も呼んでないけどね」



オレの脇に来てあのおじさんを見ながらくすりと笑ったミカ姉に、アフロさんが凄い勢いで接近。

ミカ姉の右手を取って、サングラスの奥の目を閉じてなんか手の甲にチュってしようとしてきた。



「君が知らないだけさ、ミカちゃ」

「どさくさしないのっ!」





でもアフロさんの唇がミカ姉の手に触れようとした瞬間、ミカ姉の左手がアフロさんの側頭部を派手に叩く。



それでアフロさんが床に倒れて……仲良いのかな。なんか親しげな感じだし。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで気合いを入れてバトル開始。自慢のデッキだったし序盤はまぁ……いい感じだったんだよなぁ。



でもライフを不用意に削った事が失敗だった。今アフロさんの場に居る龍に押されに押されて。





「龍の覇王ジーク・ヤマト・フリードでアタック」

「……ライフで受けます」



最後のライフ――コアを人差し指で取り、それをそのまま下にズラしてリザーブへ置く。



「オレの、負けです。ありがとうございました」





見事に負けて……ほんと、ここまで圧勝だと笑うしかないってレベルだ。

なんかこう、分厚い壁みたいなのを感じた。それもとてつもなくデカい壁だ。

それは周りで見ていたみんなも同じらしくて、みんなアフロさんを見て目を輝かせてた。



オレ……もしかしたらこんな強い人とバトルしたの、初めてかも。



カードを戻してデッキをシャッフルしてるアフロさんを見ながら、すげードキドキしてる。





「君、よく研究してるね。4ターン目のコンボはうまく決まった」

「オレも気持ちよかったっ! 使えるカードを組んだ甲斐があったっ!」

「おーっとととと」



そのカードを見て、負けたけど手応えはちゃんとあったと実感してるとアフロさんがシャッフルを止めてオレの顔をじっと覗き込んでくる。



「使えるカードか、なるほど。じゃあ一つ質問」



アフロさんはオレのデッキゾーンにあるカード達を優しく手に取って、自分の右手の平の上に乗せた。



「このデッキの中で、君が使いたくて選んだカードはどれかな」

「使いたい……カード? え、えっと」

「あれぇ、すぐに出てこないか。俺のデッキはね」





手の平に乗せたオレのデッキをアフロさんはまた優しく掴み、両手でそっと戻してくれる。



本当に大事にオレのカード達を扱ってくれるから、触られても全然嫌な感じはしなかった。



それでアフロさんは視線をオレから自分のフィールドに置いたままにしてたデッキに向ける。





「自分が使いたいカードを中心に組んだものさ。コイツを中心にね」



そうしてデッキから取り出したのは、さっきオレの最後のライフを削り取ったアフロさんのキースピリット。



「龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード……さっき出てきた時にも思ったけど」

「なんだい」

「チャンピオンと同じキースピリットだよね。よく手に入ったなぁ」

「ま、まぁそこは大人買いでね。あははははははー」



アレ、オレ変な事聞いたかな。アフロさんちょっと困った笑いしてるし。

でも頭かいてたアフロさんはすぐにその笑いを消して、後ろからこっちの様子を見守っていたミカ姉を見る。



「例えば姉御だって、運命の一枚があるからね」

「もう禁止カード。昔の話よ」

「カードバトラーは誰にでも運命の一枚がある。それはデッキの中のヒーローだよ。
デッキってのは、ヒーローの登場を盛り上げるための壮大なドラマなんだよね」

「語っちゃってー」

「ヒーロー……か」





それが使いたいカードって事だよな。確かにオレ……そういうカード持ってないかも。

バトスピは大好きだけど、ただ使えるカード・強いカードばっか求めてたのかな。

オレは『運命の一枚』って奴に出会えて、それでバトル出来ているアフロさんが羨ましくて仕方なかった。



なおミカ姉には……触れない。そんなカードが禁止になったなんて、触れてもきっと誰も幸せにならない話だ。





「ハジメ君はまだ運命のヒーローと出会ってないんだね。だからデッキもただ強いだけで、特徴がない」

「きびしー。子ども相手でも容赦ないわねー」

「……よーしっ!」





だったらもうやる事は決まっていた。オレもそんなカードに出会いたい。オレもそんなカードと一緒にバトルしたい。

オレのデッキをただ強いだけじゃなくて、そんなヒーロー達でいっぱいにしたい。

オレのデッキにもドラマを――だからオレはデッキを大事にしまった上で机を立ち上がって、バトスピタワーへ急ぎ足でゴー。



お金を入れてガチャガチャ回してカードを出して……呼吸を整えながら出てきた四枚のカードを手に取り広げる。





「出てこい、オレのヒーロー!」



そこには見たカードばっか……いや、一枚だけ見た事のないカードがあった。それは炎の翼と白い陣羽織が印象的な龍。

絵の中の龍はカードの中で炎に包まれた刃を唐竹に振るっていた。あれ、なんだろ。オレ……このカード見てるとスゲードキドキしてくる。



「言われた側から運命の出会いー?」

「なんかすっごく」



オレは立ち上がってそのカードをミカ姉とアフロさんに見せた。

それでなんかもうワケ分かんなくなるくらい嬉しくて、思いっきり笑った。



「ピカーってきたっ!」

「ピカーって来たなら」



アフロさんはそこで立ち上がり、右足を椅子の上に乗せて思いっきり両腕を広げてきた。



「運命の出会いかも知れないぜー!」

「……アフローヌ、そのポーズカッコ悪い」

「姉御、いちいちツッコまないでっ!」





運命の一枚――オレのヒーロー。もしかしたら見つかったかも。オレは早速家に帰ってデッキ構築をやり直す事にした。



ただ強いだけじゃない。ただ使えるカードの集まりになってるだけじゃない。オレのヒーロー達が思いっきり暴れるデッキにする。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そしてテストプレイ当日――やれる事はやった。今のオレが出来る限りを尽くして、デッキの中にドラマを詰め込んだ。

あの日アフロさんから言われた事を何度も思い出して、何度もデッキと向き合って、正直苦しかった事もある。

今までの癖で使えるカードだけでやろうとした事もあったりしたからさ。でも、それでもオレはちょっと変われたと思う。



あとはそれを思いっきり前に出すだけだ。胸を張って全力で……よしっ!

研究所の中の一室を更衣室にしてもらって、オレはバトルフォームに着替え完了。

アニメとかと違って上半身だけアーマー装着とかじゃないんだなぁと、ちょっとびっくり。



しかも父ちゃん達の話だと、本仕様は着替えなしでこれ装着してバトル出来るらしいし……あれ、ノックだ。





「どうぞー」

「よう、久しぶりー」



そう言ってドアを勢い良く開けて入って来たのは、オレと色違いな紫のアーマーを装着したキマリ……キマリっ!?



「キマリっ! まさかオレの相手ってお前かっ!」

「そうよー」



それでキマリは左手を頭に、右手を腰に当てて何故か右目でウィンク……やば、今寒気した。



「どう、あたしかっこいいー?」

「……はいはい、カッコ良いですよ」

「第1ターン、あたしでキマリっ!」



おいおい、なに勝手に決めてるっ!? てーかこっち指差してドヤ顔するなよっ! ほんと相変わらず無駄に自信家だなっ!



「記念すべき実戦一回目だよー。世界で一番最初にスピリットを召喚した人間として、歴史の教科書にも載っちゃうんだからー」

「多分一番最初に召喚したのは研究所のみんなだと思うぞ。てーか変わんねぇな、お前」

「変わりませーん。全ては世界征服への第一歩よ」

「世界征服なんて今時死語だろ死語」

「これから死語じゃなくなる。だって私が実行しちゃうもん」





だめだ、コイツ本気で言ってるからタチが悪い。とにかく着替え終わったし、早く父ちゃん達のところ行こうっと。



それであとの手はずを聞いて……いよいよなんだよなぁ。うし、鉢巻締め直して上げてくぜー!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけでバトルフィールド(仮)にやってきたわけだが……真っ暗だ。もう辺り一面真っ暗なんだよ。

アニメに出てくるのとわりかし近い形状の透明なプレイ台が光ってるおかげでなんとか自分の顔は見えるが、正直不安もある。

というか、緊張してるのかも。オレもキマリもフィールドに実際に立つのは初めてだしさ。



リハとかやるかなと思ってたのに、ぶっつけ本番だしなぁ。やば、なんか更に緊張してきた。





『バトルスピリッツ関係者のみなさん、今日はお集まりいただきありがとうございますっ!』





お、どうやら始まったっぽい。この声はメインの研究室というかホストルームから。

今そこには、父ちゃんが言うようにバトルスピリッツ関係者がかなりの人数集まっている。

バトルフィールドシステムはバトルスピリッツというホビーに革新を呼ぶから、どうしてもなぁ。



そういう人達の視線とか期待とかを背負っているように錯覚して、より緊張しちまう。



……いやいや、これ違うから。オレはただのテストプレイヤー。背負ってるのは父ちゃん達だっつーの。





『早速バトルフィールドをご覧いただきます。本日のテストプレイヤーは我が息子ハジメ。
私達のパートナー巽デンジロウの愛娘キマリちゃんです』

「いぇーい。よろしくー」



お前、ちょっと遠いからあれだけどはしゃぐなよ。てーか手を振るな。どこぞのアイドルかっつーの。



『良いバトルを見せてくれよなー』



あれ、この声……チャンピオンじゃないかっ! うそ、チャンピオンも見に来てるのっ!? やば……緊張MAXかも。



『始まりは私達の息子、ハジメの一言でした』



あ、今度は母ちゃんだ。うぅ、声だけでも向こうと繋がってるってやっぱプレッシャー。



『スピリットに会いたい――この子の夢を叶えるために、私達の研究は始まったんです』





うん、そうだった。アニメみたいにスピリットに会いたくて……そうしたらマジで頑張ってくれてさ。

元々世界的な発明家だっていうのはあったけど、それでもめちゃくちゃ感謝してた。

もちろん今ここにこうやって立たせてくれた事もだ。秘匿義務とか絡むから身内の方が楽だとしてもすっげー嬉しい。



そんなオレの胸の中に収まり切らない色んな感情を膨らませてたら……自然と緊張は解けていった。





『それではお見せしましょうっ! バトルのかけ声はもちろん』



いつでも来いと思っているところに父ちゃんからの前フリ。オレはキマリと一瞬だけ目を合わせて、笑いながらあの言葉を叫ぶ。



「「ゲートオープン、界放っ!」」






その瞬間闇――黒色だった世界に光が灯り、黒の世界に沢山の色が生まれた。まずは光の色……色?

とにかく光の色。次に空と升目が描かれているフィールドの青色。フィールドを丸く取り囲む外壁の灰色。

プレイ台の白色、バトルフィールドの外側のどこまでも続く紺色に……とにかく一気に世界が広がった。



青くでっかいここに居るだけで、普通とは違う異世界に立っている感じがする。それがオレとキマリの気を引き締め、同時に笑顔にしていく。





「……おぉ」

「思ったよりひろーいっ!」

「とうとうオレ、バトルフィールドに立ってるんだ」



ヤバい、マジで泣きそうだ。これからスピリットに会えると思うと……でもそれはやめだ。



「父ちゃん、母ちゃん、ありがとうっ!」



まずは言葉でしっかりお礼を言ってから、両手で鉢巻をきつく締め直して……うっしっ!



「行くぜ、オレのヒーロー達っ!」





オレが今父ちゃん母ちゃん達に出来るお礼に涙なんていらない。オレは思いっきり楽しんで、みんなに良いバトルを見せる。



ここが凄くい場所だってそうやってみんなに伝える。それが今のオレに出来る精一杯のお礼。だから……上げてくぜっ!





(Battle07へ続く)


















あとがき



恭文(A's・Remix)「というわけで今回から、織斑一夏と箒がお祭りで遊んでいた間のお話です」

フェイト(A's・Remix)「あ、そうなんだ。だから一夏君や織斑先生が出てないんだね。じゃあこの日の夜に」

恭文(A's・Remix)「前回のアレがスタートだね。なお織斑先生は話の展開上どうしても出しにくかったのでお休みです。今回のお相手は八神恭文と」

フェイト(A's・Remix)「フェイト・テスタロッサです。今回は比較的のんびりというか穏やか? 成長したややちゃん達も出てきたし」

恭文(A's・Remix)「セシリアにもフォローしたし……そして後半からそんな静かな空気を壊すハジメ達」

フェイト(A's・Remix)「まぁアニメも……カオスだよね、あれ」

恭文(A's・Remix)「カオスだよねー。ブレイヴからの空気のままに見ると目丸くする感じ」



(そう、バトスピ覇王はカオスなアニメ)



恭文(A's・Remix)「そしてそんなバトスピ覇王に……シルビィ二号が」

フェイト(A's・Remix)「あの人だね、美由希さんと同じ声の」

恭文(A's・Remix)「そうそう。既に拍手で『どっかで見た事ある』っていう感想が。
もちろんあの手のキャラはシルビィに限らず昔から居るから、二号は正確じゃないけど」



(でも放送を見てビビった。いや、似てるどうこうじゃなくてあの気の多さに)



恭文(A's・Remix)「それで今回は……実は回想に入ったのも含めて全て導入部な感じで、特筆する事なかったり。
せいぜい今までゲストキャラ的だったハジメ達の描写が増えていってるくらい?」

フェイト(A's・Remix)「回想でテストプレイの時の話してるしね。というかそれが特筆すべきところじゃ」

恭文(A's・Remix)「まぁそうなる。ここも今後の話で大事なところだから……というか単純にアフロさんの話したかっただけで」

フェイト(A's・Remix)「……あの人だね。あ、それで確か今度出るはじめてセット【VSハイランカー】の中身がようやく分かったんだっけ」

恭文(A's・Remix)「うん。そのために作者はセブン&ネットで二つ予約してしまいました」

フェイト(A's・Remix)「どうしてっ!?」

恭文(A's・Remix)「あのね、これ確実に元が取れるのよ。収録内容は……もうWikiに載ってた」



(詳しくはバトルスピリッツWikiなどで)



恭文(A's・Remix)「もうはっきり言おうか。これから始める人はこれ買うだけでいいと思う。
てゆうかこれ一個買うだけで元取れるどころかおつり来るから。それも余裕で」

フェイト(A's・Remix)「双光気弾や絶甲氷盾はそれぞれ三枚セットで1000円言ってるしね。収録内容が本当なら」

恭文(A's・Remix)「さっき言った通りおつりがくる。他のカードもあるしさ。
例えばフェニック・キャノンやフェニック・ソードもそれなりにするし」



(今ヤフオクで検索したら、三枚セットでフェニック・キャノンは600円。
フェニック・ソードは一枚1000円。三枚セットだと……それが一つ買えばキャノンが二枚、ソードが一枚だしなぁ)



恭文(A's・Remix)「でもセシリアのデッキ、この青赤ベースでいいな」

フェイト(A's・Remix)「自分で構築しないのっ!?」



(いや、自分でやるよりそっちのほうが強そうだから)



フェイト(A's・Remix)「まぁバトスピの話はここまでとして……もうすぐ3月だね」

恭文(A's・Remix)「そうだねー。そんな中新番組も始まったり」

フェイト(A's・Remix)「あ、ゴーバスターズだね。私も一話見たけど、力入ってたよね。アクションもカッコ良いしCGもバリバリ動いて」



(こう、一話を見て次も見たいと思える良いお話だったなとは。
ゴーカイジャーの後だからどうなるのかと思ったら……これは予想以上だった)



恭文(A's・Remix)「だからこそ逆に第4話辺りが不安になるんだけど。
最初はプロモも兼ねてるから力入ってるのが当然っていうのが通説だしね」

フェイト(A's・Remix)「毎回あれだったら凄いの?」

恭文(A's・Remix)「凄いっていうか……スタッフが倒れたり予算が途中でなくなるんじゃないかって心配をしてしまう」

フェイト(A's・Remix)「もうちょっと純粋な目で作品を見ないっ!?」

恭文(A's・Remix)「いや、見てるよ? でも同時に最初に力が入って予算使い過ぎて方向転換を強いられた作品とかを知ってるから……ね?」





(あれ、ストフリノロウサがなぜかアップを始めた。
本日のED:奥田民生『何と言う』)










恭文「まぁ3月というのはいろいろ動く時期で……例えば遊戯王も制限改訂の時期です」

唯世「そう言えば去年の9月にTF6買った時もその話してたよね」

恭文「あとはStS・Remixの同人版とかでもね。それでまぁ……なぁ」

空海「……スポーアやグローアップ・バルブ禁止ってなんだよ。トリシューラはまぁ納得出来るが、これは」(ヘコみ中)

りっか「ふぇー! これじゃあシューテングクェーサー出せないー!」(涙目)

唯世「そ、相馬君と柊さんが涙で埋もれてる」

ひかる「……仕方あるまい。エクシーズ押しとは言え、シンクロの重要カードが禁止だからな」

恭文「僕もせっかく組んだジャンクドッペル……うぅ」

ひかる「君はアイドルデッキでも組んでいろ。そうしたらチートレベルの引き連発だろ」

恭文「それでも悲しいのー! 特にトリシューラは結構したのにー!」





(おしまい)





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あきゅろす。
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