小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) Bonus Track12 『積み重ねられていく未来へのF/変わらなかった世界』 恭文(A's・Remix)「前回のあらすじ――全員で覇王(ヒーロー)を目指す事になりました」 フェイト(A's・Remix)「え、えっと……ホントにカードゲーム路線?」 恭文(A's・Remix)「うん。なぜなら……もう原作は打ち切りで結末が分からなくなるからっ! カードゲームは文量が稼げるからっ!」 フェイト(A's・Remix)「ヤスフミ、そこぶっちゃけなくていいんじゃないかなっ! しかも後半完全にこっちの都合だよねっ!」 恭文(A's・Remix)「そもそもさぁ、原作本筋には既に戻れないわけだよ。だって今までの情報を統合すると最終巻とか出ないし。 ソードマスターヤマトでさえあった最終回なんて無くあのままコンテンツとして封印される感じっぽいし」 ※IS打ち切りに関する現在まで出ているザッとした情報 ・既刊は再出荷や生産はされず残っている分だけ。 ・書店から最低ランクの扱いを受け、もうすぐ店から撤去される危険がある。 ・MF文庫のPVからハブられる。 ・あともうちょっと最新刊発売から1年――にも関わらず新刊の話は未だ出ず。 恭文(A's・Remix)「それに戻れっていうのはようは奈落の底に続いている滝に向かって自分から飛び込むのと同じなのよ? もうどうしようもないでしょうが。このままじゃ織斑一夏はマジでバナージ・リンクスだという妄想に取り憑かれるよ」 フェイト(A's・Remix)「でもほら、原作を元にオリジナル展開考えて……とか」 恭文(A's・Remix)「ダメ。まずオリジナル展開は賭けてもいい。絶対に積むね。もうはっきり言っていい? めんどい」 フェイト(A's・Remix)「そこ言い切っちゃだめなんじゃないかなっ!」 恭文(A's・Remix)「というわけでISクロスはこのままカードゲーム路線に方向転換するのであしからず。 決定事項なのでなにがあろうともう絶対に覆りません。それでスピリットの戦闘シーンを飽きるまで書く」 フェイト(A's・Remix)「スピリットの戦闘シーンってなにかなっ!」 恭文(A's・Remix)「バトルスピリッツのアニメはCGの使い回しが目立つ分、それで再現されてるスピリットの動きが凄いのよ。 その動きと迫力たるやさすがはサンライズと思うほどだよ。実はバトスピクロスの真の目的は……あれを小説で再現したいからなんだよっ! あの迫力あるCGで再現された動きやエフェクトを書きたいからなんだよっ! ただそれだけのためのクロスだよっ!」 フェイト(A's・Remix)「な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! ……これでいい?」 恭文(A's・Remix)「グッジョブ」(サムズアップ) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ というわけで店の入口近くの壁に背を当て、日陰に入るようにしながらも通信画面を開く。 普通の場ならともかく、IS学園の近くならこういう事も出来る。ほら、技術力に差が出てるから。 さっきの着信音はリンディさんだってすぐ分かった。それで予想通りに画面の中にはあの人だよ。 『はーい。恭文君、今大丈夫……あれ、外?』 「今非公式の部活やってる最中なんですよ。織斑一夏達も一緒です」 『あらそうなの。残念だわ、せっかくデートに誘いたかったのに。もちろん泊まり込み』 「アンタマジでなに言ってるんですかっ!? てゆうか僕婚約者居るからー!」 『ねぇ恭文君、それはもうリインフォースやシャマル達を受け入れてるあなたが言う言葉じゃないわよ? しかも噂によるとその婚約者候補をもう一人増やしたらしいわね。それもセシリア・オルコットさん』 ……泣かない。二人にも理解してもらってるしなんかもうアレだけど……泣かない。 というか、今大事なところはそこじゃないので冷静を装いつつ……ごめん、やっぱり申し訳なくなってしまう。 「あの、その……それを言われると弱いんですけど、ごめんなさい」 『私はだめ?』 「リンディさんはその、お母さんみたいだから」 そう言うとリンディさんが驚いたようで目を見開いた。 「僕、親居ないじゃないですか。だからずっとお母さんって居たらこうなのかなって思ってて……だからリンディさんとは」 『そう。ならしょうがないわね』 「ごめんなさい」 『謝らなくていいの。それに嬉しい、お母さんって……思っててくれたんだ』 内心どうなるかと心配だったけど、リンディさん的にはOKらしくほっと胸を撫で下ろす。 リンディさんは嬉しそうに笑って、僕の事をじっと見て……うぅ、気恥ずかしい。 『それで本題だけど……みんなと一緒なら用件は手短かに言うわね。 よく考えたらあなたにジェイル・スカリエッティの写真とかを渡してなかったなーと思って』 「ジェイル・スカリエッティ? なんですかそれ」 『あなたとフェイトさんが襲撃された事件、局の高官が裏を引いてたでしょ? スカリエッティはその高官の子飼いの人間よ。 ただ子飼いと言っても体よく利用されていた感じで……被害者としての側面が強い可能性の高い人物よ。 その人物と関係者十数名の行方を今局でも追っていて、保護して事情を聞く必要があると判断している』 あの勢いでそういう奴を利用してまた悪さしてたって事か。やっぱ相当根が大きい事件なんだな。でも疑問も残るので少しツッコむ。 「でもリンディさん、どうしていきなりその話を? 今まで黙ってたのに」 『理由はあるわ。ジェイル・スカリエッティはプロジェクトFの基礎理論を打ち立てた人物なのよ』 「……納得しました。ソイツがフェイトや関係者である僕に手出しするかもと」 『そういう事よ。ただまぁ、フェイトさんは大丈夫だと思うの。今のあの子止めたかったら、ヘイハチさんを味方につけるしかないわ』 リンディさんがかなり困った顔をするのは……もう察して。僕は触れたくない。もう一生フェイトには勝てないと思うの。 ≪でもリンディさん、あなたさっき体よく利用されていたと言ってたじゃないですか。それならその心配はないのでは≫ 『そういうの抜きで生粋の悪人である可能性もあるからよ。 ジェイル・スカリエッティの人物像はあなたも知っての通りさっぱりだし』 「アルト、そうなの?」 ≪えぇ。局が長年に渡って追っていたのに映像や音声データだけでしか確認されていません。 とりあえず局の関係者が直に会った記録はないはずです。私も話だけで顔は知らないですし……まぁそれも当然ですけどね≫ 『えぇ。その局が彼を匿っていたわけですから。なのであなたにも顔を覚えておいて欲しいの。 あ、今スカリエッティと彼の関係者の写真送るわね。モニターで確認して』 モニターの隅に少し小さめだけどかなりの数の人間の顔写真が展開した。 数は十数名で、大半が女性……僕はその内の三人を見て固まった。 『今まではスカリエッティしか分からなかった。でも更迭した高官のデータベースから彼女達の事も判明して……恭文君?』 「おいおい……コイツらっ!」 「この性格悪そうな眼鏡と淑女は」 シオンとショウタロスも気づいたらしい。僕は慌てて右手でその三人の写真を指でクリック。 それにより全身像が出てきた。……髪型とかアクセサリー関係は違うけど、だいたいの背格好は同じ。間違いない。 「ドク、ター……!」 『えぇ、スカリエッティは生態関係の違法研究を中心に行なっていたからドクターと呼ばれて……あぁ、知っていたのね。フェイトから聞いた?』 「違いますっ! 僕達……ついさっきまでコイツらと一緒に居たんですっ! カードゲームしてたんですっ!」 『……えぇっ!』 確かにいきなりバトル申し込んで来たし最初の時の態度からちょっとおかしいなとも思った。でも……これは予想外過ぎる。 なにより信じられない。僕はバトルを通じてあの人が本当にバトスピを楽しんでいるように思えた。だから、信じられない。 『とまとシリーズ』×『IS』 クロス小説 とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/いんふぃにっと Bonus Track12 『積み重ねられていく未来へのF/変わらなかった世界』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 僕は慌てて店内に戻り、簪とモノドラモン以外の全員を引っ張った上で店の裏手へ行く。そこで改めてリンディさんに通信。 同時にモニターで画面を展開しあの三人の写真を見せた上で自己紹介とかすっ飛ばした上で事情説明――それで全員が驚きのあまり言葉を失った。 「ちょ、ちょっとお待ちになってくださいっ! この方達がそちらの世界での重犯罪者っ!?」 「確かに背格好は似てるけど……いや、ぼくが見るかぎりそのままですけど」 『それはこっちも聞きたいわ。本当にあなた達なにもされていないのね? ただその、恭文君とスカリエッティがカードゲームをしただけ』 「はい。プレイしていた八神とあの方はともかく、私達も特になにかされたりなどは」 そこで僕に視線が集まるのは、まぁしょうがない。でもみんな、僕を見られても困る。僕だってどうしてこうなったのかさっぱりだし。 『どういう事かしら。こういう言い方はあれだけどスカリエッティの興味を引く要素は揃っていたはずよ? 例えば織斑一夏さん、例えば第四世代ISを持つ篠ノ之箒さん、それに……恭文君』 「えっと、そこ八神や箒も入るんですか?」 『えぇ。恭文君は魔導師として少し特殊な能力の持ち主だから。あとはあなたと同じでISが動かせる男性ですし。 ……実は彼を利用していた雇い主の高官は、あなた達を実験材料かなにかと見ていたフシがあるの。 それで箒さんはお姉さんとあなたの事を絡ませた上で懐柔するつもりだったらしいわ。ようは亡命扱いよ』 それで篠ノ之箒が目を細め、左拳を胸に当てながら苦しげに呻く。 「マジで危ないとこだったわけか。前の篠ノ之さんなら……そりゃあねぇ」 「……反論出来ん。だがなにもしてこなかったというのは気になるな。 あの場で魔法技術が使えるのは八神だけだ。それなりに戦力があるのなら手を出していいはず」 「なので戦力がなかったとも考えられるが、それでノコノコとこちらに来るだろうか。 リンディ提督、スカリエッティ一味はそちらの警備組織で行方を追っているのでしたね」 『えぇ。それもかなり力を入れてね。とにかくこっちの方で手を回して、人員を送るわ。 ……あ、あなた達には迷惑をかけない方向で動くから心配しないで? 捜査員を現地入りさせて、目撃情報や転移反応がないかどうか調べるだけだから』 「お願いします」 とりあえずこっちはどうしたものかと考えていると、リンディさんの表情が曇った。 『まぁ多分無駄だろうけど』 「はい? どうしたんですか、また弱気な」 『あなた達の言う眼鏡の女性――クアットロには、少し特殊な能力があるの。簡単に言えばステルスね。 それもかなり徹底とした電子戦も可能とするレベル。そういうのもあるから動きが掴み辛くて』 「それでですか。じゃあ僕達は」 『そのまま部活していても問題ないわよ?』 あんまりに軽く言われたので少しびっくりして、一瞬固まってしまった。ただ一応確認はする。 「いいんですか?」 『えぇ。せっかくの休みですもの。ただあなたを通じてみんなの状態をサーチさせて欲しいんだけど』 「……囮ですか?」 『はっきり言えばそうなるわ。あなた達がここで下手に守りに回ると相手の足取りが更に掴めない可能性もあるし。 だからあなた達には今日普通に過ごして欲しいの。ただしIS学園に戻るまで単独行動は禁止だけど』 さすがにそれは僕の一存では判断出来ないのでみんなの方を見ると……あぁ、表情だけで分かる。 「八神、私は問題ない。あくまでも居場所が分かるようにという事であればな」 みんなもうとっくに腹決めてるのよ。しかもいの一番に口火を切ったのが篠ノ之箒なのに驚いてしまった。 「……なんだ、その顔は」 「いや、いきなり篠ノ之箒がそんな事言うとは思わなくて」 「別に大した理由はない。私達が普通に過ごす事がいつまでも逃げてる連中を保護する手助けになるのならと考えただけだ」 そこで篠ノ之箒はそっぽを向いて腕を組んだ。その様子を見て全員が篠ノ之箒に微笑ましい視線を送る。 「まぁずっと覗かれるのは勘弁だけど、ぼく達もそういう事でしたら。イチカ」 「オレも大丈夫だ。リンディさん、よろしく頼みます」 『ありがとう。じゃあ恭文君、アルトアイゼンとこっちとのリンクは絶対に切らないでね。 切れたらなにがあっても異常事態と見なすから。あとあなた達の近くにも人員を配置する』 「分かりました」 そこで通信は終わり、全員が安堵のためか息を吐く。それで織斑一夏は右手で頭をかいた。 「でも分かんないなぁ。あの人そんな悪そうな人には見えなかったが」 「あの眼鏡の方――クアットロさん、でしたっけ? あの方はともかくもう一人のウーノさんもとても好感の持てる方でしたのに。 それ以前にどうしてこちらに来たのでしょう。逃亡犯である上にスポンサーを失っているならこちらとの接触は危険なはずですのに」 「ううん、いくつか予測出来る事がある」 「確かにな」 ラウラ共々同時にそう言って、ついお互いの顔を見合わせてしまう。 「お、さすがは教官とボーデヴィッヒ。で、なにが分かったの?」 「まず三人にとって僕達との遭遇は予想外だった。ほら、最初の時かなり驚いてたよね?」 「あれも今なら納得出来るね。ヤスフミやぼく達の事ひと目見てすぐ……あれ、ちょっと待って。それだと」 「うん。まずアイツらがあそこに居た目的は僕達の行動を先回りしたからとかそういう理由じゃない」 そういう理由なら驚く必要はないと思う。ただ篠ノ之箒は疑問があるらしく首を傾げた。 「だが八神、そう思わせる事が目的――フェイクだとは考えられないか?」 「篠ノ之、おそらくそれはない。あの時のスカリエッティ達の驚きは本物だった。あとは……私にもだな。 さっきの写真の中で気づいたが、一味の中に私とそっくりの少女が居た」 「確かチンク、だったな。私も驚いたが」 そこは僕も気づいてた。バトル始める前から三人の視線がどうもラウラに向く事が多かったなーとはさ。 ただラウラは眼帯つけてるしそういうところから目立っているだけなのかとも考えられたけど、あれらが本当にスカリエッティ一味なら関係ある。 だってそのチンクとラウラは本当に瓜二つなんだもの。しかも左右逆だけど眼帯つきってところも同じ。 まぁ髪の色や髪型に若干の違いは見られるけど、基本は同じ……だしなぁ。 「なので三人揃ってちらちらと私の事をよく見ていたよ。もし本当に私達の事を下調べした上でこちらに来たのなら、あれはない。 その段階で私の存在に気づき、ああいう反応を起こしていたはずだ。だから余計に今回の遭遇が奴らにとって事故だと思えてしまう」 「反応が新鮮だったという事か。だがどうして奴らがそれを知らないんだ? 私や一夏に目をつけていたなら」 「それが奴らのスポンサーの独断だとしたらどうだ?」 そこでラウラが僕を見上げてくる。 「お前も同じ結論だな」 「うん。……まずね、リンディさんの話だと管理局はISの事を相当危険視してる。 一部高官には不干渉の理念を曲げて特例的に地球を管理世界に置くべきだという人も居る」 「ヤスフミ、言いたくないけどそれ」 「侵略だね。リンディさんもそこは認めて本気で腹立ててたよ」 あの人、局のルールとか重視する頭の硬い人のように見えて実は全然そんな事ないからなぁ。 あくまでも組織が貫こうとしている理念に惹かれているのであって、それを曲げる事が許せないだけなのよ。 「それはスカリエッティのスポンサーだった奴も同じ。だから僕とフェイトを拘束した上でIS学園に手出ししようとした。 ……で、ここで疑問が残るわけだよ。どうして奴らがスカリエッティとその一味の戦力を使わなかったのか。 僕はさっき写真と一緒に連中のスペックみたいなの確認したけど、全員投入すれば1Dいくらの奴らよりは成功確率上がってたはず」 それでもフェイトには絶対に勝てないというのは確定だけど……まぁそんなの分かるわけないしなぁ。 ≪なおかつスカリエッティは襲撃事件前まで次元世界では単なるイカれたマッドサイエンティストという扱いでした。 スカリエッティの戦力を活用すれば例え失敗したとしてもそれをミスリードとして、自身に追求が及ぶ事は避けられます。 リンディさんの話しぶりだと、連中がそのスポンサーについて言及したとしても誰も信じる人間が居ないっぽいですしね≫ 「実は私も先ほどの話からそう感じた。そもそもそれだけの重犯罪者がいきなり『被害者』に早変わりだ。 管理局内部によっぽどの事情があると見て間違い無いだろう。なので」 「あくまでも八神と八神の婚約者に対する襲撃はスポンサーの独断。 スカリエッティはあずかり知らぬところだったと推測されるわけか」 その通りなので篠ノ之箒の方を見ながらラウラ共々頷く。 「というかね、スカリエッティの経歴も改めて考えるとらしからぬ行動なのよ。 局のあれこれがあるとしても数十年に渡って直接的に姿を見た人間は居ない」 「じゃあわたくし達があの方達と初めて話した人間ですの?」 「犯罪者関係はあれだけど、そうっぽい。だからどっちにしてもそういう慎重な奴だと思うの。 行動するにしてもある程度後ろ盾だったり大丈夫という確証がある上で動くタイプのはず」 局のあれこれにあぐらをかいて調子乗ってるだけじゃあないと思う。現にここからスポンサーに繋がらなかったらさっぱりだったっぽいし。 そういう慎重な奴は、まず自分達の存在を隠そうとする。その上で行動しようとする。 だから篠ノ之箒が言った『フェイク』を使ってまで待ち受けていたってのは考え辛いのよ。 しかもスカリエッティはスポンサーを失った事で現在は孤立状態が予想される。まぁ別の誰かを見つけている可能性もあるけどさ。 でもそれはない可能性が高い。だって今局はスカリエッティ達に対して全力で手を伸ばしている。 そんな奴を匿うような真似をしてもし自分達も巻き込まれたら? だからスポンサー候補達は自分から引くはずだ。 今のスカリエッティは爆弾と同じ。抱きかかえれば胸元で暴発する危険に晒され続ける事になる。 それはスカリエッティ自身だって分かってるはず。だからああいう形での干渉は絶対にしない。 ではどういう形ならしてくるか? 簡単だよ、あの1Dいくらの分際で調子こいた連中みたいに闇討ちすればいい。 少なくとも真っ昼間から襲うような事はない。特に僕達IS学園の生徒達に対してはだ。 スポンサーの僕達への干渉が予想外のものなら、スカリエッティは局がこの周辺で動いている事も予想してるはず。 それで派手な行動を取ればそれだけで致命傷になる可能性がある。だからこそ慎重に動くはず。 決めるならその上できっと迅速かつ大胆に……自分でもどうしてここまで言い切れるのかと考えて、苦笑してしまう。 僕、あの時のバトルの感覚から言ってるや。あの人のバトルはまさにそんな感じだったし。 「なら奴らはどうしてここに? まさか本当にゲームをするためだけに来たわけではあるまい」 「それが目的だとしたらどうだ?」 「はぁっ!?」 「本人が言っていたはずだぞ? 『研究畑の方なんだが……今日は噂のバトルフィールドを体感しに来たんだ』とな。 奴らはここにバトスピをしに来たんだ。少なくともあの時はそれが一番の目的だった。 だから恭文や一夏、お前に私達の事は二の次になっていて、驚いてしまった。それなら納得が出来る」 ラウラも同じ結論に達していたのには納得……いや、篠ノ之箒は驚くやら呆れるやらって顔してるか。 「いや、さすがにそれはないだろっ! 奴ら逃亡犯だぞっ!?」 「そうだな。だが実質逃亡犯扱いで平然と私達の前に姿を現したお前の姉のような奴も居る」 そこで篠ノ之箒が軽く唸ってのけぞる。それを見て織斑一夏が困った視線をラウラに向けた。 「ラウラ、さすがにそれは」 「……すまんな、今のは失言だった」 「いや、いいさ。お前の言いたい事は分かった」 ただ篠ノ之箒は予想外にも冷静で、苦笑気味に息を吐いた。 「スカリエッティの人物像がそういう遊びや自分の感情を主目的に置く人間ならそれもあり得る。そうだろう?」 「あぁ。なので単純にここのバトルフィールドを体感したかったか、もしくは」 そこでラウラは左に視線を向けた。そこはただの壁だけど、その向こうにあのバトルフィールドやお店の喧騒がある。 ラウラが壁の向こうのそれを見ているのは、ここに居るみんなはすぐに分かった。 「ここで遊ぶ事でなにかを得ようとしていたか。なんにしても局の保護を受けてどうこうというつもりはないようだがな」 「てゆうか、そのつもりがあるなら、こんな事する前にとっくに自首してるわよね。 ……まぁそろそろ戻ろうか。更識さんとモノドラモン達を待たせてもマズいし」 「そうだな。八神、行くぞ」 「うん」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ まぁ、カードゲームばっかしてても僕達だけが楽しい結果になってしまうので、僕達は揃ってお店から出た。 もち覇王チャンピオンシップへの出場手続きも済ませた上でだよ。うぅ、デッキしっかり強化しないと。 ただ篠ノ之箒やリンからは『お前らはあんな事があってもやっぱり出るのか』と呆れた視線を向けてきたけど。 とにかく手続きを終えるともうお昼過ぎ。陽は天高くに存在し街やその中を行き交う人々を照らし続ける。 そこには僕達も居て、そんな僕達は簪とモノドラモンとも一緒で……てゆうか、リンとシャルロットが引っ張る形でついてきた。 「あー、でもあれいいなぁ。よし、またやりに行こう」 「では次の部活もあそこか?」 「いや、部活は部活でまた別のとこ考えてる。ほら、他のお客さんも居るし、オレ達ばっかも無理だしな」 「なるほど、それは確かに」 まぁ簪やモノドラモンに気取られてもあれだし、普通に過ごす事にした。だからこういう会話になるのであしからず。 「なら次の活動は、皆でお昼か」 「そうなるな。……あー、みんななにか食べたいものがあるならリクエスト聞くぞ」 僕と共に先頭を歩く織斑一夏は振り向き、安心させるような笑顔を浮かべる。 「財布の中身とも要相談なのも居るだろうし……てーかオレとかな」 「お前は……やはり会わない間に変わったな。こう、所帯染みているところがあるというか」 「しょうがないだろ。千冬姉仕事で家に居ない事があったし、家事オレがほとんどやってたしよ。それで箒は」 「うむ、この場合はやはり……塩気のあるものが欲しいな。汗も一応かいているわけだし、水分と塩分補給は大事だ」 「……オレよりお前の方が所帯染みてるだろ。あと『昼飯なにが良い』って聞かれて成分で答えるな。もっと大まかなくくりで答えてくれよ」 まぁ篠ノ之箒の言いたい事は分かる。でもリクエストとしてはないのでボッシュート。 「あ、あたし中華。難しいようなら別にいいけど……でも美味しいとこは絶対。これでご飯マズかったら辛いしー」 「ぼくは結構こってりしたものが欲しいかなぁ」 「……甘味が欲しい。なんかこう、糖分が欲しい。頭フル回転してたらどっと疲れが」 「八神、それは3時のおやつまで待て。というか、昼食抜きでいきなりおやつは身体に悪いだろ」 「それもそうだね。とにかく僕もシャルロットと同じくこってりした感じがいいかな」 さすがに『塩分』とか言うのもあれなので味わいで言う事にした。これなら問題ないでしょ。 「セシリアはなにかあるか?」 「わたくしは……うーん、特にありませんわね。むしろここは、みなさんお薦めのお店に行って見聞を広めてみたいなと」 「あ、そういうのも面白いよな。自分が知らない味とかに出会える事もあってさ。それでラウラは」 「コーヒー牛乳だ。日本では勝利の後にコーヒー牛乳を飲み、そのほろ苦さを味わうものだと聞いた。なので」 「お昼っつってるよなっ! 頼むからもうちょい重い物考えろよっ! それだけだとマジでお前の食生活心配しなきゃいけないだろうがっ!」 織斑一夏はため息を吐き、今まで黙ったままの簪とモノドラモンを見る。 「えっと、更識さんとモノドラモンはなにか食べたいものがあるか?」 「いや、私達はここで」 「えっとえっと……オレハンバーグー!」 「モノドラモン、だめ。これ以上お邪魔したら悪いよ」 「いや、いいって。モノドラモン、ハンバーグ好きか」 織斑一夏の方に近づいてから、モノドラモンは首をぶんぶんと縦に振る。 「そうか。ハンバーグ美味しいよなぁ。オレも家ではよく作ってたぞ。安上がりだし、栄養価も高いし」 「えいようか?」 「身体に良いって意味だ。肉と野菜をバランスよく食べられるしな。 あ、でも食べ過ぎはダメだぞ? どんなものでも過剰に食べるとアウトなんだ」 「分かった。じゃあオレ、適度に食べる」 「そうだな」 笑顔でモノドラモンの頭を撫でる織斑一夏を見て、全員が表情を緩める。 「恭文さん、織斑さん楽しそうですわね」 僕と同じ事に気づいていたのか、セシリアが小声でそう言ってきた。 「うん。きっと弟みたいな感じがして嬉しいんだよ。僕も覚えある」 「弟……そう言えばモノドラモンは男性人格ですから、そうなりますね」 なんか織斑一夏のモノドラモンに対してのあれこれを見てると、そういう印象を受ける。 自分より下の弟や妹が居ないから、ついそういう風にしちゃうんだね。 「さて、そうなると」 「一夏、私は皆に合わせるぞ。というか、部長なお前と八神に任せる」 「サンキューな……ってオレ達部長かっ!?」 「当然だ。非公式とは言え、元々はお前達二人で始めた事だろうが」 「「あ、それは確かに」」 揃って両手で柏手を打つとなぜか篠ノ之箒は苦笑し、織斑一夏や僕を優しい瞳で見出した。 「なら……うし。八神、ちょっと早いけど予定してたあそこ、行ってみようぜ」 「あ、あそこだね。確かにあそこなら全員の要望に応えられるか。でもいいのかな」 「とにかく一旦腰落ち着けてから考えようか。別にただご飯食べてくっちゃべってるだけでもいいんだしよ」 「だね。うし、それじゃあみんな、僕達についてきてー」 約一名を除いて頷いたみんなに安心しつつ、僕は少し下がって簪の隣を取って笑顔を向ける。 「ほら、簪も」 「でも迷惑じゃ」 「いいからいいから。付き合わせたお礼もしたいしさ。……ね?」 「かんざし、行こうよー」 簪は戸惑った表情を浮かべるけど、自分の手を引くモノドラモンを見てから……僕に視線を戻して頷いた。 「なら、お言葉に甘えて」 「うん。じゃあモノドラモン、行こうか」 「おー。……あ、そうだ。ねねやすふみ」 「なにかな」 ……あれ、このパターンにはすっごいデジャヴを感じる。だからつい横目でショウタロス達を見てしまう。 「さっきから気になってたんだけど、やすふみの横に居る妖精ってなんだ?」 やっぱり来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! てゆうか失敗したっ! 簪との遭遇やスカリエッティの事でモノドラモンが見える可能性とかすっかり忘れてたっ! ど、どうしよ……よし、確認だ。 「妖精? あ、このストフリノロウサやクインマンサの事かなぁ」 「違うよー。ほら、横にシスターさんと帽子かぶった子が居るよね。それにほら、さっきもちょくちょく話してたし」 く、お子様キャラの割にちゃっかり見てやがるっ! ヤバいヤバいヤバい……これで全員に説明とかマジめんどいぞっ! 「なんかすげー! オレ、妖精って初めて見たー!」 「モノドラモン、どうしたの? 妖精なんて居ないのに」 「えー、居るよねー! ほらほら、やすふみの肩にー!」 「もう、変な事言って困らせないの。ごめんね、八神君」 「い、いや」 まぁモノドラモンになら……でもしっかり口止めは僕からしておこう。バレるとちょっとめんどいし。 「よしモノドラモン、その話はまた後で。今はちょっと時間ないから」 「うん、分かったー」 「八神君、無理に付き合わなくても」 「いいよいいよ。それじゃあモノドラモン、まずはご飯食べ行こうか」 「うんっ!」 駄目だ、ごまかし切れる自信がない。なによりモノドラモンが可哀想で見てられない。……しょうがないか。 このままモノドラモンが嘘言ってるように思われるのも嫌だし、ちゃんと話そう。でも口止めはしっかりと……うし。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 通信を終えてから私は大慌てでクロノに連絡を取って事情説明して人員を送って、そこでようやくフェイトさんに手を伸ばす。 もう一箇所他に連絡するところがあったから、少し遅れてしまったのを謝りつつフェイトさんも関係者として……それでフェイトさんは驚愕の表情を浮かべる。 『――スカリエッティがヤスフミと織斑一夏君達のところにっ!?』 「えぇ」 『それでリンディさん、ヤスフミとみんなは……それにスカリエッティは』 「あー、心配しないで。なにも起きてないから。……そうなのよね、なにも起きてないのよ」 どうにも不可解で私は首を傾げる事しか出来なかった。そんな私の様子を見て画面の中のフェイトさんが怪訝な表情を浮かべる。 「まずね、スカリエッティとその関係者達と恭文君が遭遇した場所が問題なの」 『遭遇した場所って……IS学園じゃないんですか? 襲撃してきたとか』 「いいえ、バトスピショップなのよ。あ、バトスピっていうのはバトルスピリッツ。今世界的に大流行してるのよね」 『えっと……あぁ、そうですね。実は学校の友達やなのはがやってるので、分かります』 「あらそうなの」 なのはさんも……って、当然か。あの子高校生やりながら花嫁修業してるし、ちょうどゲームの対象年齢だものね。 「それでね、襲撃されたわけでもない。なんでもバトルフィールドを体感しに来たそうなのよ」 『バトルフィールド?』 「最近出来たらしいの。バトルスピリッツのアニメみたいに特殊なフィールドに入ってゲームをする施設が」 『私は詳しくないんですけど……あ、ちょっと待ってください』 フェイトさんは画面の中で視線を忙しなく動かし、さほど経たずに納得した表情を浮かべる。 『ネットで検索したらすぐ出てきました。実際にカードの中のモンスターがフィールドの中に召喚されて会う事が出来るって触れ込みで』 「それっぽいのよ。確かに普通の襲撃や待ち伏せどうこうで考えたら疑問が残るのは確かなの。でも更におかしい疑問に行き当たるわ」 『なんの目的でそうしたのか、ですよね。そこについてヤスフミと織斑一夏君達は』 「さっき言った通りよ。『ドクター』曰く噂のバトルフィールドを体感しに来た……らしいわ」 でもやっぱり分からない。なんのためにそんな事する必要があるの? クロノにも相談したけど頭抱えてたもの。 趣味とも考えたけど、それだと今までのスカリエッティの行動から推測出来る人物像から大きく外れる。 だから恭文君達以外の理由であそこに行かなきゃいけない意味があったとしか思えないんだけど、それもなぁ。 それがどこかの研究施設とかならともかく、単なるカードショップなのよ? 逃亡中に危険を犯してまで行くべき場所じゃないわよ。 『これは……よし、それなら』 「フェイトさん、あなたはスカリエッティの捜査に加えられないわよ? あなたは関係者でもあるし、なによりやるべき事が」 『違います。あの、多分私達がこうやって議論してても分からないと思うんです。 どうしてスカリエッティが体感したいと思ったのか……多分その答えはバトルフィールドの中にしかない』 「それは正論ね。つまり?」 『私もバトスピ始めます』 突然出てきた予想だにしない返答に、つい『はぁ?』と声を漏らしながら首を傾げてしまう。 『ヤスフミも始めてるっぽいし、教えてもらう形でバトルフィールドを体感して……そうじゃないと分からないかなぁと』 「いや、さすがにそれでは……それくらいしないとだめかしら」 『とっかかりもなにもないですし、多分。ヤスフミから話を聞くだけじゃ分からない事ももしかしたら分かるかも』 ちょっとどうかなと思ったけど、フェイトさんが言わんとしている事は分かる。ようは犯人の視点に立って事件を考えるという事なのよ。 この場合はスカリエッティが恭文君に言っていたらしい『バトルフィールドを体感しに来た理由』を自分もやる事で見つけるの。 それは事件捜査に置いて重要な事の一つで難しい事でもある。そう考えられるって事は……フェイトさんが冷静なのにちょっと安心。 やっぱりこの子は私の娘にならなくてよかったと思う。それがちょっと悲しくもあるけど同時に、とても嬉しい。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ というわけでやってきたのは少しエスニック風な内装が特徴のカラオケ屋さん。幸いな事に結構広めな部屋が取れた。 なのでその10人以上が使うと思われる部屋に入り腰を落ち着け、全員が心地よい涼しさとセンスの良い部屋の中で気を緩める。 「か、からおけ……一夏、八神、私は歌は苦手なのだが」 「私も歌は」 「あー、ここに来たのはそこが主目的じゃないって。ほれ、まずはこれを見てみろ」 「簪もこれ見て?」 僕は簪に、織斑一夏は篠ノ之箒にテーブルの上に置いてあった厚めなメニュー表を渡して見せる。それで二人は驚いた様子で目を見開いた。 「「……これは」」 「凄いですわね。料理がこんなに沢山」 「品揃えばっちりだね。イチカ、もしかしてここでご飯?」 「そうだ。ここ、カラオケボックスの中では抜群に料理が美味いんだよ。その分ちょっとお高めだけどな」 「単純にここでご飯食べてパーティーする人も居るんだよね。だから予定に組み込んでたの。 ほら、カラオケボックスだから人数多いのも長時間ここに居るのもOKだし」 このカラオケボックスの名前はパセラ――そう、あのパセラです。少しお高いけど味に関しては保証されているあのパセラです。 ハニトーが有名なあのパセラです。いやぁ、やっぱここいいよねー。雰囲気最高だしご飯美味しいしさー。 「確かに……普通の飲食店では1〜2時間居座っていては、お店の方に迷惑がかかるしな。 だがカラオケボックスの料理がそんなに美味しいのか? 冷凍物などが多いと聞くが」 「ここはそんな事ない。まぁそこは注文して味わってからだな。ここの系列店には何度か来てるし、味は保証する。な、八神」 「うん。僕も聖夜市の仲間内で何度も来てるしさ。それでここ、結構便利なんだー。例えば」 そこで僕はみんなを安心させるように笑う。なのにどういうわけか全員身を反らして僕から距離を取った。 「人に聞かれたくない話を密談する時とか?」 「八神君、どうしてそこで黒い笑いを浮かべるの? 一体なにを密談していたのかな」 「更識さん、気にしなくていいわよ。教官実はIS絡み以外でも結構暴れてるから。そっち関係でそうなってるだけだから」 「とにかくみんなで割り勘すれば一人1000円前後でそれなりに食べられるよ。なにより今回僕は」 懐に右手を伸ばし、長方形で色鮮やかなチケットを出してみんなに見せる。 「こんなの持ってるんだよねー!」 「おいおい、それもしかして割引券かっ!? オレもそこ聞いてなかったがっ!」 「実は僕もこの間家に戻った時に見つけた。そういうわけだからみんな、期限ギリギリだし遠慮しなくていいよ。 もう中華でも塩でも好きなだけ食べていいから。もちろんコーヒー牛乳もカフェオレという形ならあるし」 「本当に全ての要望に答えられるのか。だが少し悪い……って、ちょっと待てっ! 塩ってなんだっ!」 篠ノ之箒が今更な事を聞くので、僕は当然今そう言ったばかりの子を指差す。すると僕だけじゃなく織斑一夏やセシリア達まで指差していた。 「私だったっ!」 「篠ノ之さん、ほら……ここここ。岩塩をつけて食べる天ぷらだって。篠ノ之さんには岩塩だけあげるから、ぼくは天ぷらを」 「やめてくれっ! 頼むからそれなら天ぷらも食べさせてくれっ! 塩分とは言ったが塩そのものとは言ってないぞっ!」 「では海の水などどうだ? なんなら私が持ってくるが」 「それもやめてくれー! あとボーデヴィッヒ、お前が言うとシャレに聞こえないからやめろっ!」 こうしてカラオケはさておきみんなで楽しく食事をしながらわいわいがやがやと楽しい時間を送る事になった。 もちろんその間に僕の方で周囲の気配には注意して……今日はこれで学園の方に戻った方がいいよなぁ。 でもほんと、なんのためにあの人来たんだろ。初心者だって言ってたからマジで興味本位? 僕は篠ノ之箒に塩を送りながらもそこのところばかり考え、首を傾げ続けていた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ もうすぐ夏休みという事もあり、あれほど騒がしい1学期もなかったなと仕事中につい手を止めて振り返ってしまう事もある。 まぁ懸念事項がないわけではないが、八神の知り合いであるリンディ・ハラオウン提督は信用の置ける人物で助かった。 こちらが抱える問題に直接的に干渉は出来ないものの、自分達の領域からなにか気づいたらすぐ教えてくれる事になった。 ただしこちらにもそれなりの協力を求められたが。それも当然だろうと思い身構えていたら、予想と違った。 彼女は『学園に居る間だけでいいからあの子の力になって欲しい』と頭を下げてきた。思わず目を丸くしてしまった。 どうも八神の周囲の人間はアイツのIS学園入りに対して微妙な感情しか持っていないらしい。まぁ当然か。 八神は男性でISが使えるという事もあってIS協会から織斑共々身柄の引き渡し要求まで来ている有様だ。 ここは今までの常識である『女性のみの装備』という概念が著しく崩れてしまう事に起因する。 もちろんそんな事はさすがに許されないし世論の問題もあるので、日本政府も引き気味で突っぱねている。 ここは私より八神の存在が大きい。アイツ、警防だけでなくバニングス社や月村工業、イースター社とも繋がりが深いしな。 もしそんな人間を敵に回してそんな真似をすれば……もちろん八神は積極的にそういう手を取る奴ではない。そこは言い切れる。 だがアイツの外見を見ている人間はそうは見えない。だからそこの要求もなんとかなりそうで安心はしている。 ……話が逸れたな。とにかくそういうわけで改めて『よろしく頼む』と言われたよ。それもついさっきだ。 八神達のところに妙な客が来た話に頭を痛めつつも、まずはあの方への義理を果たすために山田先生を職員室に呼び出した。 「部活、ですか?」 「あぁ」 用件はつい先ほどリンディ提督から聞いた話だ。どうも連中……というか八神と織斑がこそこそしてると思ってたんだが、納得したよ。 職員室の一角――自分のデスクに座りながら傍らに立つ山田先生を見ながら、ついため息を吐いてしまう。 「どうも八神と織斑が主導で非公式な部活を設立したらしい。篠ノ之とオルコット、凰とデュノアとボーデヴィッヒが部員だ」 「それはまた……教師としては聞き捨てなりませんね。部活ならちゃんと申請してもらわないと。で、どんな内容なんです?」 「みんなで楽しく遊ぶ部活だそうだ」 「はぁ? いやいや、それただ仲が良いだけじゃ」 「だが本人達は部活と言っている。……山田先生、察してやってくれ。 八神と織斑はなぜ今の今までどの部にも所属していないと思う?」 私が珍しく困った顔でそう言うと、山田先生は息を飲み事態を察してくれたらしい。 「納得しました。だからその、部活だと言ってるんですね」 「あぁ」 ようはあのバカ共、自分が部活に入ると面倒事になると思って入らないんだ。その懸念は実に正しい。 織斑は織斑であのバカのどこがいいのか分からんが、女子達からの人気は非常に大きい。……まぁ姉としては嬉しくもあるが。 八神は八神でボーデヴィッヒの件で女子達を一喝した事から、外見に似合わず男気なところがあるとしてファンが増えた。 だが正直うちの生徒の将来が心配になる。織斑はともかく八神は婚約者が居るのにあれだからな。 奴らは全員愛人とかそっちを志望しているように見えて時々本気で頭が痛くなる時がある。 「まぁこれに関してどうこう言うつもりはない。仲良しグループと考えればありだしな。 ただ……山田先生も知っての通り、アイツらの周囲は色々と騒がしい」 「あちら側の方々は」 「幸いな事に本当に真摯に現状を憂いて協力してくれている。 ここは八神の人徳に感謝するしかない。……山田先生」 「なんでしょう」 「アイツが誰かを助けたり守ったりするために飛び込んで来た事は、決して無駄ではないようだ。つい先ほど八神の『母親』からそういう話をされた」 さっきのリンディ提督の声や表情を思い出し、自分の不甲斐なさというか情けなさを突きつけられたようで……つい自嘲の笑いを浮かべる。 「守るために、正しい事を貫くために力を尽くす八神がみんな好きで、だから力になりたいとな。 疾風古鉄も今までそういう八神を見てきた人達によって出来たそうだ」 「母親……!? あの、八神くんって確かご両親はもうっ!」 「血の繋がりはないが、母親だよ。私にはそう見えた。まぁそういう立ち位置の方が居るという事で納得してくれ」 「は、はい。でも……そうなんだ。よかった」 山田先生はそこで安堵の息を吐きつつ、左手を胸に当て表情を緩める。 八神に味方が多い事を、本当に喜んでいるんだろう。……やはりそうなのか。 「とにかくだ、そこを抜いても非公式の部活なので状態監査が必要だと私は考える」 「つまり八神くんと織斑くんの部活がどんなものか確認していこうと。でもどうやって」 「簡単だ。部活には顧問が必要になる。山田先生、よろしく頼む」 「分かりました」 そこで山田先生は緩んでいた表情を一気に強張らせ、私に前のめりになりながら詰め寄る。 「……はぁっ!? ちょっと待ってくださいっ! 顧問ってなんですかっ!」 早速やる気を出してくれている山田先生に、先程プリントしたばかりの書類十数枚を渡した。 「というかこれなんですかっ!」 「八神と織斑がやっているカードゲームの資料だ。ざっとだが集めてみた」 「いやいや、答えになってませんよねっ! そもそも私顧問なんてした事ないですし、みんなにどう言えばっ!?」 「まずは活動内容や今後の目標などをざっと見るだけでいい。本当は私がやりたいところだが、仕事があってなぁ」 自分でもわざとらしいと思ってしまうようなため息を吐いて、私は再びペンを取り書類に向かい合う。 「私だってあるんですけど……って、織斑先生聞いてますっ!? お願いですからこっちを見てくださいっ!」 「山田先生、顧問になれば八神と居る時間が増えるぞ?」 そう言ってから山田先生の方を横目で見ると、その瞳が揺れ顔を赤らめていた。 「それと今は私だけしか居ないんだし、いつも通りに『恭文くん』でもいいんだぞ。私は気にしない」 「話逸らさないでくださいっ! というかそれはその、お仕事関係なく八神くんと居る時だけなんですからだめですっ! あと本当に誤解してますよねっ! 八神くんとはそういうのじゃありませんからっ! あくまでもその、違うんですっ!」 「山田先生、八神の彼女になったのではないのか?」 「それも違いますからっ! というかそれ、織斑先生のせいですよねっ! 私八神くんに申し訳なくて申し訳なくて……って、こっち見てくださいっ!」 すまないがそれは出来ない。テーブルの上の据え置き電話がなったからな。私はその受話器を取って右耳に受話器を当てる。 「はい、織斑です」 『やっほー♪ ちぃちゃんお久しぶりー』 「……なんの用だ、束」 少し硬い声でそう言うと山田先生がはっとした表情を浮かべ、すぐに頷いて部屋の左側に置いてある端末に小走りで向かう。 そこに座ってキーボードを叩き……逆探知の準備だ。学校の電話にかけてきてくれたおかげで、すぐにそれも出来る。 『あー、冷たいなー。幼馴染なのに』 「篠ノ之をややこしい状況に追い込んでおいてなにを言っている。お前はもう立派な犯罪者だぞ」 『でも箒ちゃん、ちゃんと持ち直して一人で立ち上がれたでしょ?』 「……束、お前まさか」 『さぁ、どうだろうねー。もしかしたらちょっと良い姉に思われたくて嘘ついてるだけかも知れないよ?』 束は私をからかうようにそう言って電話の向こうで笑う。だが……コイツどこに居る。 電話の向こうから機械の作動音のようなものがひっきりなしに聴こえてきているが。 『でね、お話っていうのは……ちぃちゃんの方でも頭痛めてた事を解決したってお話』 「なんの事だ」 『亡国機業、ぶっ潰しちゃった♪』 「……は?」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『束、亡国機業を潰したとはどういう事だ』 「言っての通りだよー。いやぁ、さすがに苦労したよー。あ、ちぃちゃんのパソコンに連中のデータとか全部送ってるから確認して?」 巨大な正方形の部屋のど真ん中、左手でそこに立っている黒いモノリス型の造形物に手を当て明るくそう言うと、ちぃちゃんが黙った。 きっと今、慌てながら自分のパソコンの周りを片してデータ確認してるんだろうなぁ。ちぃちゃんものぐさちゃんだから、目に見えるようだよ。 『――なるほど、今届いた半端ない量のデータはお前の仕業か。パソコンが無駄に重くなっているんだが』 「だったら買い換えた方がいいねー。もしくは送ってくれたら改造するよ?」 『遠慮しておく。お前に任せるととんでもない状態で戻ってきそうだ。……で、連中は一体なにをやったんだ。 お前が自主的に動くところから見て、相当な事だと思うが。一夏や篠ノ之関連の事か』 「それもあるけど、今回は別口。……デジモン達の兵器転用って言えば分かるかな」 電話の向こうでちぃちゃんが息を飲んだ。でも思ってたよりも驚いてない。 まぁこれだけデジモンの能力について騒がれてれば、誰でも考えるところだし当然かぁ。 「こっちに来たデジモン達をさらって洗脳して、兵器として売りさばこうとしてた」 『それをあっさり潰したわけか、お前は』 「もちもちー。天才束さんに不可能なんてないんだから。それにやっくんやいっくん、箒ちゃんにも手出ししようとしてたし」 まぁさすがに苦労したけどね。相手の動きを掴んで大本を叩くために相当時間も使って……それこそ年単位。 さすがに一気には無理だったんだよねー。いやぁ、この1年は私本気で過労死するかってレベルで働いたわー。 「でもこれもべーちゃんやべーちゃんの仲間が幸せに暮らせる世界のため。 束さんはいわゆるソレスタル・ビーイング的な天上人として世界の平和を守るのさー。あはははー♪」 『むしろ災厄しか呼び込んでいないだろう。……今どこに居る。というかどうやって潰した』 「逆探知しようとしても無駄だよ? もうとっくに対策済み」 きっと今ちぃちゃんは電話の向こうで渋い顔をしてるね。いやぁ、やっぱ束さんは友達思いだなぁ。 退屈な話にならないようにちぃちゃんにいっぱいサプライズを用意するんだもの。うんうん、束さんは良い女だよー。 「まず亡国機業というのは、そういう実体を持たない幽霊企業(ゴースト・カンパニー)。 普通に追っても手がかりはなかった。なので逆転の発想で、ないんじゃなくて出ないようにするにはって考えた」 『それで証拠を見つけてこれなわけか。……それはなんだ』 「奴らの所有するスーパーコンピュータ――まぁバーチャル会議場と司令室だね」 私はそこでずっと手を当てているモノリス型のそれを見て、らしくもなく真顔になってしまう。 「亡国機業に関わる人間は全てそのコンピュータが会議の結果と情報から判断した総合意思に基づいて指示を受けてた。 はっきり言うけど、亡国機業なんて組織は元から存在していないのも同じなんだよ。ここの人間は自分から勝手に動いてただけ」 『……頼む、もう少し分かりやすく説明してくれ』 「まずスーパーコンピュータにアクセスした状態でフィクサーがよもやま話満載な会議をする。 さっきのアレで言うなら『デジモンを兵器に使ったらどうなるか』みたいな感じ? そのデータをコンピュータが取っていて、それを元にコンピュータが人間に指示を出すの」 『では亡国機業はその指示を……いや待て。それでどうして活動出来るんだ』 「もちろん元々活動していた基板があった上で出来る事。ようはそういう風にしてフィクサーに手が届かないようにしてたんだよ。 そうだなぁ、そういう活動形態にシフトして自分達の実体が分かりにくいようにしていたって感じ? まさしく亡国(ファントム)だよ」 そこがさっき亡国機業をゴースト・カンパニーと言った所以。亡国機業がこの科学力の発達した世の中で秘密結社で居られた理由の一つだね。 そういう時代の流れを先取りする目と勘が先人達にはあった。だからそういう形態にシフトしていったんだよ。 「21世紀に突入前後……まぁ私がIS作った影響もあるけど、今までと違ってネットとかで世界の色んな情報が引き出せるようになった。 ここは1990年代前半に起こったコンピュータ技術の急激な発達によるものが大きい。 その流れを亡国機業は見越して、自分達を守るためにこのシステムを考えた。今のまま秘密結社をしていても先はないしね」 『なぜだ』 「彼らは闇から世界を見ていた。だから見方を変えれば隠れている物を簡単に見通せる事を知っていた。 そういう見方を簡単に手に入れられるデジタルだったりネットだったりに恐怖を抱いたんだよ。 結社を存続させるために必要なのはなにか。それは結社の遺伝子を残す事。ただし生物的なものじゃない。 文化的というか、データとしてデジタルに遺せるもの――それを可能とするのがコンピュータ。亡国機業はこれに存続の命運を託した」 ほんとよく出来てるよー。フィクサーがよもやま話するだけで、コンピュータが代理として首領チックに人を動かすシステムなんだから。 あ、もちろんスーパーコンピュータには亡国機業に得するような形で結論を出すっていう前提がある。 しかもこのコンピュータの下には五つ小分けしたコンピュータがあって、そこから更に分岐……ほんとかなり複雑。 これじゃあ人を辿っては亡国機業のトップには絶対に辿りつけない。だって途中で絶対に人のラインが途切れる場所があるもの。 現に私が追っていた時はそうだった。もちろん端末から辿ってもそれに気づいたらマザーコンピュータがラインを切る仕組みになってる。 とにかく私の目の前にある黒いモノリス型のマザーコンピュータに絶対に辿り着かないようにって設計されてる。 ただそれだけじゃなくて、このマザーコンピュータにはもう一つとんでもない側面があったりする。 「しかもこれ、どうもECHELON(エシュロン)っぽいんだよね」 『ECHELON……束待て、それは』 「そうだよ。アメリカ合衆国を中心に構築された軍事目的の通信傍受(シギント)システム。このコンピュータの役割はもう一つある。 それは発達していったネットの中の情報を統括・整理していって、自分達に都合の悪い情報を削っていく統制システム。 ……ちぃちゃん、さっき私『情報』って言ったよね。その情報も入手出来るように作ってあったんだよ。これはその最新型」 『欧州連合の指摘通りに存在していたわけか。では亡国機業の母体は』 「もちろんアメリカとイギリス。ECHELONやその前身と亡国機業の設立時期も一致してるし間違いない」 ちなみにECHELONというのは、さっきも言った通りいわゆる情報収集システム。そのほとんどの情報をデジタルな形で入手してる。 1分間に300万の通信を傍受出来る史上最強の盗聴機関と言われている。ただ今までその存在は公表されてなかったけど。 えっと……分かりやすく言うと軍事・一般問わず全ての無線や電話、メールや通信を傍受出来るシステムって感じかな。 一時期光通信などは傍受不可能と言われてたけど、この子に関してはそういう問題を全てクリアしている。 それでECHELONの怖いところはただのコンピュータ上のシステムじゃなくて、いわゆる情報収集機関――人の集まりであるところ。 そのきっかけを説明する前に、まず1844年にモールス信号による電信通信が実用化された事から語らないといけない。 「ちぃちゃんなら知ってるだろうけど、1844年にモールス信号による電信通信が実用化された。 それ以降世界各地で今のネットのご先祖様とも言える電信網が整備されていった。……それから28年後の1872年に時代は更に動く。 大英帝国が英国とインドや香港という植民地との電信電話と通信業務を行う国有企業『イースタン・テレグラフ社』を設立」 『それがECHELONという情報収集機関の手本となった。ちょっと歴史をかじっている人間ならよく聞く話だ』 今はケーブル・アンド・ワイヤレス社という名前のそれは19世紀末には全世界の国際通信網の3分の1を保有するまでになった。 当時は個人や私企業が行う通信を盗聴・傍受するのを規制する障壁があまりなかったんだ。 だから英国政府はほぼ自由にイースタン・テレグラフ社の通信情報を取得出来ていた。今じゃ考えられないレベルでね。 ここがちぃちゃんの言ったようにECHELONというシステムの手本になる理由だよ。 ただイースタン・テレグラフ社はECHELONとは直接関係ないんだけどね。あくまでもそういうシステムが有効だという手本になっただけ。 それで1914年に第一次世界大戦が始まると英国の海軍省は省内に40号室という暗号解読専門部署を開設。 軍民の語学の専門家などが集められ、これがECHELONの直結の先祖となっていった。 ……そう、きっかけは戦争なんだよ。40号室は多数の秘密通信の解読で活躍し、情報戦争の有用性を示した。 そこから動きは米国に移り、世界大戦に参戦した米国は自国の暗号――脆弱性を認識して『MI8』をワシントンに開設した。 ここも40号室と同じで暗号を解読して情報戦を制するための部署。ただアメリカは当時暗号解読後進国だった。 そこでフランスの情報解読機関や英国陸軍の情報局と前述の40号室を初代課長が回ってそのノウハウを吸収。 でもどちらも第一次世界大戦終結によって縮小ないし一時的な閉鎖に追い込まれてたんだけど、その後ゴタゴタして復活。 第二次世界大戦が始まった事もあってアメリカと英国は暗号解読を担う部署同士の協力体制を1940年11月の段階で完了。 この二国の諜報機関の暗号解読能力はその後の戦局を左右するほどに強化され有効に活用された。 それから3年弱経って1943年5月17日に英米通信傍受協定・通称ブルサ協定が結ばれ、この時にECHELONシステムが誕生。 その5年後には米・英・カナダ・オーストラリア・ニュージランド間の秘密協定が結ばれ通信傍受の協力体制が作られた。 それからまた時は経ち1950年代に国家安全保障局・通称NSAが出来……てゆうか前組織から名称が改訂され? 一応ECHELONもそこの管轄になってるんだ。だからね、アメリカや英国だけの話じゃないの。まずそういう情報に関する協定がある。 米英が中心に結ばれているそれに参加している国と情報収集機関全てのものと言える。 例えばギリシャにスペイン、ドイツと日本も協力しているとされる。そこがアメリカが公式的にECHELONの存在を認めていない理由。 そういう監視システムを持ってるって事は批難対象だもの。もちろん国際情勢にも関わる。 今まではあくまでも『あるとされている』に留まっていた。実際は見ての通りだけど。ううん、想像よりずっと最悪だ。 しかも今名前を挙げた国にはそういう傍受局を置いてあるの。その位置は一般的に分からないように作られてるけどね。 ただ私個人としてはECHELONの存在を否定するつもりはない。その目的はあくまでも諜報活動のために絞るのなら……だけど。 情報戦によりテロとかを未然に防ぐために使われるのだとしたら、倫理的問題はともかくとしてそれは良い事だと思う。 でも世界中の通信網を監視して人の自由を奪い去るっていうのなら話は大きく変わってくる。それで今回は悲しい事にそっちなんだよ。 「多分歴代大統領もグルだね。さて、こうなるとケネディ暗殺とかの話も怪しくなってくるなー。 もしかしたらケネディは亡国機業の存在を公表しようとして暗殺された……とか? あとはあの人とかこの人とかその人とかー。うーん、疑わしい人がいっぱいだー」 『全て亡国機業のせいにするつもりか』 「そうとしか思えないくらいに影響力が大きいって事。ちぃちゃんだって分かるよね」 『まぁな。亡国機業がただのテロ屋や誇大妄想狂ではなく、ECHELONシステムを保有していたとなれば……とんでもない事だ。 束、話が話だから確認させてくれ。本当に間違いないんだな? マザーコンピュータはECHELONシステムを積んでいる』 「間違いないよ。亡国機業の正体はこの世界そのものだよ」 ホント腹立つよねー。もしかしたらちぃちゃんに送った愛あるメールが連中に覗かれてたんだから。ううんん、腹立つのはそこだけじゃない。 亡国機業の連中は自分達では姿を見せず、みんなの生活を覗き見て自然と自分の都合の良いように世の中が動かそうとしてた。 それがこの子の作られた意味。この子の作られた理由――反吐が出る。それで世界を自分達のいいようにしようとする思考は軽蔑する。 しかもその流れはべーちゃんやべーちゃんの仲間を虐げる選択だ。ううん、それだけじゃない。 二つの世界を救うために頑張った束さんの先輩達――やっくんに対する冒涜だ。奴らはやっくんのがんばりを踏みにじった。 踏みにじって嘲笑って、更に笑い続ける。これじゃあ意味がない。これじゃあ世界が救われた意味がない。 だから絶対に許さない。私も大概だと思うけど、それでも奴らは許さない。見過ごす事は出来ない。 もう幻影(ファントム)は必要ない。この私のありったけでお前らは……全員消えてもらう。 (Bonus Track13へ続く) あとがき 恭文「はい、というわけで新章突入前に邪魔な奴らは全て排除しようという今回の話です。 いや、こういう時束便利だよねー。束、おのれは今輝いてるよ。お礼に今度美味しいご飯をおごってあげよう」 フェイト「ヤスフミ、それぶっちゃけ過ぎだからっ! いや、分かるよっ!? 言いたい事はかなり分かるけどっ!」 (亡国機業なんてなかったんだ) フェイト「作者さんがなんかなげやりっ!? で、でもいいのかな。ほら、亡国機業って原作でも強敵っぽいのに」 恭文「……その強敵とどうなるかも分からないんだけどっ!? もう奴ら消えていいよっ! どうせ処理し切れないしっ!」 フェイト「ヤスフミ、落ち着いてっ! 私が悪かったと思うから冷静にー!」 (というわけで次々回からきっとバトスピ覇王クロスに本格突入。 さー、あのスピリットとかあのスピリットとかがしがし戦わせるぞー) フェイト「作者さんやっぱり投げやりっ!?」 恭文「投げやりにもなるよ。あの織斑一夏でさえ心砕かれてるし。というわけで今回はシリアス成分多めだったわけだけど」 フェイト「主に後半だね。でもECHELONって……あの設定考えられるならオリジナル路線も出来るんじゃ」 恭文「……フェイト、ECHELONは実際に存在してるものだよ?」 フェイト「えぇっ!」 (作者もシュタインズ・ゲートで知った。なお劇中で言った通り公的に存在が認められてはいないそうです) 恭文「だからあれだよ、フェイトが僕に送って来たエッチなメールもECHELONに」 フェイト「そ、そんなメール送ってないよっ! ヤスフミのばかー!」 (ほぺったむにー。……あいかわらず反撃が可愛らしい) 恭文「それで作者はやっぱりバトスピ勉強中。てゆうかね、作者は気づいたの」 フェイト「なにかな」 恭文「バーストデッキにジーク・アポロドラゴン組み込むより、それ軸に別にデッキ作った方がいいって」 (……てへ) 恭文「なので最強ジャンプデッキと太陽の合体ドラゴンのカードを元にブレイヴデッキを作成中。やっぱジーク・アポロドラゴンいいよねー」 フェイト「召喚した時に間近で見えるから?」 恭文「うん。これで光龍騎神サジット・アポロドラゴンを入れてゆかなさんデッキに」 フェイト「ゆかなさんじゃないよっ!? あれはゆかなさんじゃないからっ!」 (蒼い古き鉄、割りと本気でゆかなさんが好き……今更か。 本日のED:astronauts『ENDLESS PLAY』) 鈴「でも後半……かなり怖い話してたわよね。全部の通信見られてるかもーって」 恭文(A's・Remix)「まぁ目的が平和利用のためならともかく、一歩間違えば完全な支配の手段だしね。そりゃあ気にもなるよ」 セシリア「でも、正直腹立たしいです。いいえ、悲しいです」 恭文(A's・Remix)「セシリア?」 セシリア「だってそうでしょう? あれだけの事があってもなにも変わってない。 ただ影からこそこそと動いて自分達の事ばかり考えて……卑劣です」 恭文(A's・Remix)「……泣かなくていいよ。僕は大丈夫だから。なによりそこで変わる事を強制するのもきっと違うし」 セシリア「ですが」 恭文(A's・Remix)「焦って全部解決しようとしてもダメなんだよ。いっぱい時間がかかって当然。 だから……うん、覚悟は決めてる。とっくにそういう覚悟は、決めてるから」 鈴「そうよ。アンタの苛立ちも分かるけど、落ち着きなさい。もちろん……あたしも同じだから」 セシリア「鈴さん、恭文さん」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |