小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) Bonus Track06 『積み重ねられていく未来へのF/試験中もみんな大変』 恭文がIS学園入ってから、アイツの周囲でばかり騒ぎが起きてる感じがする……気のせいやな。 襲撃されたんは完全に不可抗力やし、VTシステムとやらもドイツ軍の不手際やもん。 ただこれでも姉としては心配にはなっている。まぁえぇ友達も出来てるっぽいからそこまでやないけど。 とにかく今年で18歳なうちこと八神はやては、現在ミッドで暮らしながら特別捜査官やっとる。 中学卒業を機に、シャマルとリインフォースを除くみんなで引っ越したんよ。それで局員生活一本。 こっちにもデジモンが出てきとる関係で、うちとかヴィータとかもパートナーになって……でも問題も山積み。 というか、どうもおかしいんよなぁ。まずこっちに出てくるデジモン達は、デジタルワールドに関する記憶が抜けてる。 それは今うちの隣で翼ぱたぱたさせとるテントモンも同じくや。あ、うちは現在本局の自分のオフィスで書類仕事しとります。 「はやてはん」 「なんよ」 「恭文はんはえぇんでっか? こっち連れてくるとか手が色々あるでっしゃろうに」 「えぇよ。アイツはアイツで好き勝手に冒険したいっぽいし」 IS学園には無理矢理入れられたけど、そこは確かっぽいしなぁ。そう言い切ったアイツの顔思い出して、苦笑してまう。 「まぁ人権無視でなんかやられそうになったら、助ける事にはしとるからえぇよ」 「そうでっか。でも」 「まだなんかあるん?」 「いや、最近色々起こってるなぁと思いまして。ほれ、コードクラウンの事とか」 「……そやなぁ」 2年前から、デジタルワールドのものと思われる妙な物体が出るようになった。それは一応ロストロギア扱いを受けている。 そんな今一つなにがなんだか分からなくて、黒くて表面に小さなバーコードと色んな色の絵柄が描かれたSDカードがコードクラウンや。 コードクラウンはだいたいデジモンと一緒に転移してくるもので……実は結構問題にもなっとる。 一緒に飛んで来たデジモンは、コードクラウンの影響で凶暴化してまうんよ。それでその場で進化したりして暴れてまう。 局はそういうデジモンを非殺傷設定で一度ダウンさせて、コードクラウンと一緒に確保。その上で保護していった。 まぁそんなデジモンを実験台にしていたバカ共が居たりしたけどな。アイツが襲撃者半殺しにしたおかげで分かった事や。 あとはその前にその場に居た子のとこにディーアークが来て、パートナーになったりってパターンも多い。 うちやなのはちゃん、ヴィータはそっちやな。そういうトラブルになる事もなくこの子達と出会えた。 それでそういう暴れた子達も記憶がないんよなぁ。それが前々から奇妙というか不思議やったんやけど。 最近はそこを調べる意味も含めて、クロノ君とリンディさんを手伝う形でコードクラウンを追っていってる。 ただコードクラウンの出現場所や時期や時間バラバラで、捜査がめっちゃ難しいんよ。縄張り関係がうるさくてなぁ。 デジモンのパートナーも徐々に増えてるし、最高評議会の事も遅かれ早かれ公表するのにこれはマズいやろ。 特に局はなのはちゃんを筆頭にデジモンと協力して仕事してる局員をイメージアップの道具にもしていた。 ここは簡潔に言うと『局はデジモンの味方で、デジモンは人と共存出来る存在』って感じやな。 局は市民に嘘ついてたのも同然やしなぁ。ほんまこれはどないしたもんか。今は縄張りとか気にしてる場合やないのに。 絶対になにか起きてるんよ。そやないといきなりコードクラウンなんてこっちに来るはずないし、デジモン達も現れるはずがない。 しかもこっちのデジタルワールドに行った人間が今のところ一人も居ないっていうのも妙に気にかかる。 恭文達オリジナルD-3を持った選ばれし子ども達でさえ、こっちのネットワークの中には入れんっちゅうのもなぁ。 でもうちの声は上に届かん。もちろんクロノ君やリンディさんが手伝ってくれてるのはあるけど……うちはそこで手を止める。 それから両手で頬をぱんと叩くと、横に居たテントモンも止まって驚いた様子でうちを見た。 「いきなりどないしはったんでっか」 「気持ち入れ替えた。そこについては今はえぇやろ。クロノ君達も忙しいし、今は知り合いに手回すくらいの事しか出来ん」 リンディさんもクロノ君も、最高評議会のスキャンダルのあれこれでめっちゃ忙しいんよ。 二人が恭文から連絡受けたのがきっかけやから、調査本部みたいな扱い受けてもうてなぁ。 そやから……うん、うちは呼吸を入れ替えて、また書類をぽちぽちと打ち始めた。 今出来る事なんてほんのちょっと。でも今は……それが非常に腹立たしい。もっと力が欲しい。 うちもデジモンのパートナーになったから、こんなん嫌なんよ。変なアイテムのせいで意識もなく暴れさせられるなんてかわいそうやんか。 そやから助けたい。そのためにはやっぱり力が……歯がゆさは噛み締めつつ、まずは準備からやる事にする。 幸いな事にずっと渡り鳥してたから、アテはかなりある。それで準備を整えて、夢を一気に叶えたる。 今の状況を変えるには神風が必要や。縄張りもなにも飛び越える、強い風が。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「うーん、どうしたもんか」 部活で箒やセシリアを連れていく事が決定したのはいい。だが……オレは一人自室で腕を組み、勉強放り出して悩んでいた。 いやな、来るのは良いんだよ。同好の士が増えるのは、ラウラの時にも言ったが楽しい。でも問題はある。 カードゲームっていうのはこう……オレも覚えがあるが、初見だととっつき辛いんだよ。いやな、普通なら大丈夫なんだよ。 大体こういうのを始める奴は、アニメないし漫画の影響を受けてってパターンが多いからな。 友達の影響でそっちを見てからーっていうのもいいんだよ。てゆうか、それオレだし。でも二人はそういうわけじゃない。 まぁ八神もカードショップ散策は適度に切り上げて、後はカラオケなりしてって感じで考えてるらしいが……それでもいいよなぁ。 ただなにか引っかかっているので、勉強の手を止めてまであれこれ考え込んでしまっている。うーん、いったいなんだ? 八神の案が悪いわけじゃない。みんなで楽しくって原則を崩してまで趣味に走りたいわけじゃないしな。だったら……あ。 「そっか」 オレはなにがそんなに引っかかっていたのかを思い出して、すぐに備えつけの端末を使ってネットに繋げる。 そうだそうだ、なんで忘れてたんだよ。弾とかと受験前に盛り上がって……それどころじゃなくなってたしなぁ。 忘れてた理由も納得してすぐ、お目当ての情報が引き出せた。それで期間は……よし、もう始まってる。 これなら適度に切り上げてカラオケにもつれ込んでも込まなくても、箒とセシリアも楽しんでくれるはずだ。 オレは胸のつっかえが取れたので、安心して復習を再開した。今日みんなで勉強したわけだし、ここはしっかりやってくぞ。 『とまとシリーズ』×『IS』 クロス小説 とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/いんふぃにっと Bonus Track06 『積み重ねられていく未来へのF/試験中もみんな大変』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 部活のメンバーが一気に倍に増えた翌々日――勉強の成果もあって無事に普通科目のテストを超えた僕達はまだまだ修羅場中。 今日はようやくIS関連のテスト。まず最初は学科関連で、それから各クラス毎に時間をズラしつつも実技テスト。 時間をズラす原因はIS学園にあるISの数が決まっているから。他のテストみたいに全部の学年で同時にテストは無理なんだよ。 だからテストが始まってから学年でも実技テストがある日はズレる形になっていた。3年だと初日で、2年だと二日目――つまり昨日だね。 そういう理由からテスト期間中は生徒が訓練機を使用するための許可も降りないんだ。ホントにフル稼働っぽいから。 試験内容に関しては先日説明した通りに教官相手にがしがしやるという感じで……まずは僕からだよ。 おなじみなアリーナに来た僕はピットに入り、疾風古鉄を装着した上でカタパルトに乗り……呼吸を整える。 「八神恭文、疾風古鉄――出るよっ!」 そのままカタパルトからピットの外に向かって射出して、飛び上がって待ち受けている教官機に近づく。 大体20メートル前後の距離を取った上で停止し……ここも事前に指示されていた通り。 『それではテストを開始します。八神くん、準備はいいですね』 「はい」 通信で届いた真耶先生の声にそう返すと、テスト開始を知らせるアラームが鳴り響く。 僕は右腕を右薙に振るい、古風刃・壱を剣モードに展開。 「さぁ、振り切るよっ!」 ≪The song today is ”Zips”≫ 一気に加速し、アサルトライフルを構えた教官に突撃。その黒い銃口から迎撃で弾丸が三連続で放たれる。 1発目を僅かに下降し頭上すれすれに避け、2発目は右にきりもみ回転し、3発目は身を反時計回りに捻って左に回避。 そうしつつ教官機に近づき、懐に入る。教官機は下がりつつも上昇して僕の間合いから逃げた。 そこを狙って逆手で腰の後ろのサーベルを取り出し投擲。そこから展開した蒼の刃は再び向けられた銃口を貫き銃を爆散させる。 その爆音が響く中再び教官機に近づいて古風刃・壱で右薙の斬撃を打ち込み、生まれた爆煙ごと緑の機体を斬り裂く。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……あのバカISはまた」 いつものように管制室でテストの様子を見ている私と山田先生は、音楽を流しながら教官機を手玉に取っている八神に驚かされていた。 なお、クラスの担任としてテストは監督しなければならないのでここに居る。そこは覚えておいて欲しい。 それで実技関係のテストは今見ての通り全て他の先生方にお任せしている。ここは手心を加える事なく技能を見るのが理由だ。 ただそれだけではなく、クラスのIS技能の教導を担当している我々がちゃんと仕事をしているかどうか確認する意味もある。 そこはどのクラスでも同じだ。そこまで厳密な意味ではないが……これでも雇われの身だからな。 上の期待に応えるためにも、生徒達の将来のためにも、それなりに成果を出さないといけないんだ。 それはさて置き、最近八神と仲が良い山田先生も試験でこれをやるとは思っていなかったのか驚いている。 「で、でも効果はあるようですし問題はないのでは」 「それも信じがたいがな」 以前行われたクラス対抗戦のあれでも見られた事だが、本当にノリが強化されて動きがよくなっている。 あれで実は学園関係者は頭を抱えていたぞ。これからのISの装備として採用出来るかどうかも議論されかけた。 「まぁこの調子なら八神くんは大丈夫ですね。……美術以外」 「アイツは何気に苦手な授業科目がないからな。美術以外は」 八神はプログラム式の魔法を幼少期から使っていた関係で、理数関係も得意だ。 それでブレイクハウト――物質変換の能力も使えるために、化学や理科の類にも精通している。 旅が好きな関係で社会や語学関係にも明るく、それらがISの授業にも活かされている。 ここまでなら八神は欠点なしに見えるだろう? 私もそう思うのだが、そんな八神の勉学の中で一番のネックが美術だ。 あれで担当の先生が相当泣かされている。八神のセンスがどうしても理解出来ないと……それはもうな。 特に昨日などはなぁ。しかも今までと違って『普通の絵を描いて来た』と戦々恐々としながら私と山田先生に泣きついてきた。 私達はそれなら問題はないと思ったのだが、先生はもしかしたら自分がアイツの才能を潰したのではと考えてしまったんだ。 そのため八神には美術だけは追試……訂正。美術担当の先生との面談が待っている。それに私と山田先生も加わる事になってしまった。 あれは確かに今まで見せてもらった八神の絵とは全く違っていたからな。もうそうするしかなくなったんだ。 そんな未来を想像しながら私は、もうすぐ教官機を落としそうな画面の中の八神を見て大きくため息を吐いた。 八神、本当にすまん。ここ最近は先日の一件も含めて迷惑をかけているから、出来る限りこういう事は避けたかったが無理なんだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 八神は曲が終わると同時に教官機を撃墜し……これで教官の間で八神はまた伝説に近づいていく事だろう。 それで次はラウラだ。なお順番は順不同なのであしからず。ラウラのレーゲンも試験ギリギリになってしまったが、修復が完了した。 それまでは訓練機のラファール・リヴァイヴを使っていたので、久々のレーゲンでどうなるかと思っていたが……いらぬ不安か。 ラウラは襲い来る実弾攻撃を結界で防ぎつつ、肩のレールガンて的確に攻撃を決めていく。当然教官もそのままではやられない。 遠距離攻撃であえてラウラに停止結界を展開させた上でイグニッションブーストを使い、結界の死角に回り込む。 だがラウラは即座にそれに反応し、左腕に仕込んでいるブレードを展開して打ち込まれた教官の近接ブレードを受け止める。 当然その直後に停止結界を再展開して……あとは言うまでもないだろう。 ラウラは地味かも知れないが、堅実に相手にダメージを与えて追い詰めていっている。 「ボーデヴィッヒさん、教官の動きについていってますね。さすがはドイツ軍のエースと言ったところでしょうか。 レーゲンの操縦も久々なはずなのに遜色なく……ううん、以前よりずっとよくなっている」 「トーナメントでの経験も活かしているからな。AICに頼り過ぎるクセが抜けているんだ」 ラウラが先ほどの奇襲に対応出来たのは、教官が射撃を囮にしたのを見抜いていたからだ。 レーゲンはトーナメントでの一件で露見したように、複数の相手ないし多角的な攻撃には弱くなりがちだ。 特にAICを展開した直後などは危ない。距離によっては今教官がしたような方法も取れる。 だが今のラウラはオルコットと凰、織斑とデュノアと戦った経験を踏まえた上でAICの防御に対してそれほど信頼を抱いていない。 言い方は悪くなるが、その結果はプラスに働いている。逆にAICの展開という隙を活用する気概さえ出来ている。 もちろん今ラウラの相手をしている教官がそこのところを確かめるためにああいう手を取っているのもあるがな。 「この調子なら2学期からも大丈夫そうですね。情緒面も八神くんや織斑くん達と友達になったおかげで落ち着いていますし」 「山田先生、本当にそう言い切れるか?」 いつものようにコンソールに向かっている山田先生の身体がビクンと震えた。それでなぜか改めて身を捩って私に背を向ける。 「お、落ち着いてますよ。最初に比べたら」 「そうか。私は時折最初の頃の方が良かったのではと思ってしまう時がある」 「いえいえ、さすがにそれは……織斑先生、ボーデヴィッヒさんって元からああいうキャラだったんですか?」 「片鱗はあったな。アイツは元から思い込みの激しい奴だった」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ラウラも教官を撃退したので……もしかしたら反省会が開かれるかも知れないと心配しながらも、次は織斑だ。 織斑は教官のライフル射撃に四苦八苦しながらも接近を試み、雪片弐型と雪羅で攻撃を加えていく。 ただ雪羅や零落白夜の使用率はかなり少ない。雪片弐型を展開状態にするのも……やはりこうなってしまうか。 さすがにここでいつものように厳しいコメントも出来ず、進化した白式で必死に戦う織斑の姿を見ていた。 「織斑くん、やっぱり第二形態に慣れてないんですね」 「あのバカは……と言いたいところだが、今回はそうもいかないか」 「織斑先生でもあれをすぐ扱うのは難しいですか?」 「織斑よりは楽だがな。ただそれも私の経験ゆえだ。今の織斑にキツい事は変わらない」 確かに第二形態・雪羅の性能は圧倒的だ。それ自体は紅椿とタメが張れるようなレベルだろう。 だが問題は……それゆえの燃費の悪さだ。しかも全ての行動の消費が移行前の5割増し。 その上弱点だった遠距離攻撃を埋め、長所であった白式の火力を伸ばす理想の武装である雪羅も曲者。 今織斑が牽制のために教官に放った荷電粒子砲も、その上でイグニッションブーストをかけながら振りかぶった零落白夜のクローも、消費があまりに激しい。 もちろん零落白夜でのシールドもだ。正直に言わせてもらえれば、私はコレに乗るくらいならラファールの方がいい。 それくらいに第二形態の白式の扱いはシビアだ。既に単独で戦えるISではなくなっていると言い切っても構わないほどにな。 もちろん消耗の良い武装をつけて消費を抑えるという事も出来ない。白式の武装スロットに空きがないのは変わらずなんだ。 確かに当初に比べれば織斑も成長はしている。そこは認める。だがその織斑でさえ手を焼くのが今の白式だ。 「特化機体の長所を伸ばし過ぎると欠陥機になるという典型例だな。こうなったら織斑には今まで以上に頑張ってもらうしかあるまい」 「それしか……ないですよね」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 織斑はギリギリのところで零落白夜での一閃を当て、教官を落とした。だが本当にぎりぎりだ。 ほんの数瞬零落白夜の解除が遅れていたら、相打ちになっていたと思う。こういうのがロマン機体と言うのだろうな。 それで次はデュノアだ。カスタムされてこそいるが、同型機体での模擬戦になる。 そういうのもあってか中々に見応えのある空中での射撃戦が展開されていた。……八神はどうしたと? 私の中であれはラファールの領域には居ない。というか、自分から音楽を鳴らすラファールなんぞ私は知らん。 「デュノアさんはそつがないですね」 「そつがなさ過ぎてコメントに困るがな」 「そ、そういう言い方はどうかと」 苦笑していた山田先生だが、次の瞬間には頷いて真剣な顔で画面の中でそつなく戦うデュノアを見る。 「でもデュノアさんみたいなタイプが伸びにくいのは分かりますが。 全体的に技能が高くて器用な分、しっかり方向性を見定めないと成長がストップしがち」 「機体に関してもそういう傾向が強いからな。ここはデュノアとも相談の上で決めていくべきか」 「そうですね。デュノアさんは実家の会社の問題でフランス政府との関係もちょっと滞りがちですし……そこは私達で」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ デュノアはそつなく戦って勝ちを収め……本来ならこういうのは喜ぶべきなんだがな。それが出来ないのが辛い。 次はオルコットだ。オルコットはいつものようにブルー・ティアーズを展開して接近戦を仕掛けてくる。 教官はオルコットのビット操作能力を確かめるために回避しつつその射撃網を抜けようとするが、中々うまくいかない。 なのでビットの方を破壊してどうにかしようとするが、それも……やはり腕を上げているな。 「オルコットさん、好調ですね」 「近接型の八神を想定した訓練をしていたのが功を奏したな」 言っている間に射撃網を抜け、ラファールがオルコットに急速接近。 近接ブレードでの打突を、左手に出したインターセプターで弾いてやり過ごす。 その上でラファールに向き直りながらライフルで近接射撃を加え動きを止めつつ後退。 直後に距離をしっかりと取った上でビットが教官機を取り囲み、一斉射撃でSEを大きく削る。 「苦手だったインターセプターの装着も瞬間的に出来るようになっていますし、接近された時の対処も上手です。 もしかしたら専用機持ちの中で二番目に伸びたの、オルコットさんかも知れませんね」 「そこまでいくかどうかは知らないが、成長は認める。それで山田先生、一番は誰だ?」 「当然織斑くんです。初心者だった分、伸びだけなら凄かったですし」 「納得した」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そしてオルコットも教官と良い勝負を演じて勝利を収め……最後の専用機持ちは篠ノ之だ。 紅椿を使用していても苦戦しているが、これも仕方ない事と考える事にする。まず篠ノ之自体のIS適性はCと平均的。 その上操縦技能も一般レベルの生徒とさほど変わらず、未だ紅椿が宝の持ち腐れなのは変わらずだ。 ただ教官のライフルでの射撃に圧されながらも篠ノ之は今までが嘘のように動きが軽い。 教官機の事もしっかりと見た上で攻撃に対処しようとしている。やはりあの一件で針が振り切れたらしいな。 「篠ノ之さん、だいぶ動きが柔らかくなりましたね。前はこう……押しつけるような部分があったのに、今は状況を見ていこうとしてる」 「それでもまだまだだがな」 「でも絢爛舞踏、やっぱり使いませんね。あれがあると相手は一気にSEを0にしない限りは勝てなくなると思うんですけど」 「篠ノ之自体が使用条件を今ひとつ分かっていないせいだ。ここはいたし方あるまい」 そうなってしまうと、紅椿は少々燃費の悪いISに格下げだ。やはり紅椿を運用するためには……いや。 紅椿とその対となる白式を運用するために、篠ノ之には絢爛舞踏を覚えてもらう必要が出てきた。 現に先ほどの織斑もあまりにSE管理がシビアなために今の白式の本領を発揮し切れていなかった。 だが肝心要の絢爛舞踏の発動トリガーがさっぱりときている。篠ノ之自身にも分からないところが多い。 「織斑先生、確か紅椿は整備部の方にも見せていましたよね。 私は試験の準備などで忙しかったからさっぱりなんですけど……そちらは」 「整備部も同じだ。とりあえずスイッチのような分かりやすいトリガーではないらしい。 発動状況から考えるに篠ノ之の精神状態がトリガーかも知れないとは言っていたが」 「細かいところは分からないと……あ、終わりましたね」 突撃した篠ノ之の懐に入り、ショットガンを乱射か。それで紅椿の負けだ。だが成果は確かに見えた。 今の突撃も今までのような押しつけがましいものとは違う。篠ノ之は着実に成長している。 相手をしっかり見た上で失敗を恐れず、自分がここだと思ったところに一気に飛び込んで行った。 それでも失敗するのは、篠ノ之がまだまだなせいだ。だが同時に、篠ノ之自身の心がけが大きく変わった事で成長の見込みが出てきた。 専用機持ちもだが、うちのクラスの連中はそれぞれに伸びしろが出てきた感じに終わって……教師としては一安心といったところだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 無事にテストが終わり、クラスの中にも緩い空気が流れ始めた。あとは夏休みを待つばかり。 それでまぁ、緩い空気が流れる中でも多少明暗分かれているところがあるのもしょうがなくはある。 特に布仏本音辺りは悔しがってもいて……また訓練に付き合っていく事にする。 それはそれとして、テストが終わってからすぐに僕はショウタロス達と四組の教室に来ていた。それで……なんか目立ってるなぁ。 まぁ当然かと思いつつも、またあの子の方へ近づいていく。あの子は今度はこっちにすぐに視線を向けてくれた。 「約束通りに来たよ」 「……うん」 僕にそう返事をしたのは、更識簪。今日は約束した通りに、この子のISを見せてもらう。 「それじゃあドッグの方に行くから、ついてきて」 「分かった」 そのまま席を立ったあの子についていく形で教室を出て、廊下を歩いてISが置いてあるドッグへ入る。 いかにもメカが保管していある場所ってデザインと空気を感じ取りながらも……ここに来るのは初めてじゃないのに、ちょっとドキドキする。 更識簪はすたすたと足を進め、そのままの状態でずらーっと置いてあるIS達のうち、ある機体の前で足を止める。 その機体は他のと違って装甲などが備えつけられておらず、フレームだけの状態でそこにあった。 傍らには武装と思われる長い柄をした……薙刀の類と思われるものが置いてある。刃が片刃っぽいし、多分間違いない。 「これが私の専用機」 「……マジで完成してないんだな。骨組みだけかよ」 「この構造は……打鉄に似ていませんか? 教科書でこれっぽいのが出ていたと記憶しています」 「だね」 サイズ的にもそんな感じだし……でも骨組みまで形になっているんだ。僕はもう、まだパーツの段階だと思ってたんだけど。 「笑わないの?」 隣の簪は自分を嘲笑うようにそんな事を言う。その表情には、どこか諦めがあった。 「見ての通り未完成も良いところなのに」 「笑うわけないじゃないのさ。だってこう……なんかワクワクするし」 「ワクワク?」 「うん」 更識簪に頷いてから、僕はまだ未完成なこの子の姿を見て……自然にドキドキしていた。 「このISが完成したらどんな形になるのかーって考えたら、ワクワクするの。ね、この子名前は?」 「……打鉄弐式」 「やっぱり打鉄がベースになってるのかな」 「えぇ。というか後継機として作ってるって言ってた」 だからフレームの印象が打鉄と似ているのか。でもここまで作ったなら、放置せずに完成させちゃえばいいのに。 もしかして倉持技研、相当適当な事しかしない? 中の人間に問題ありまくりじゃ。 「武装はなにがあるのかな。薙刀っぽいのは分かったけど」 「一応予定しているのは……これ」 更識簪はどこからともなくタブレットを取り出し、それを右手の指でぽんぽんと叩く。その画面の中を僕はショウタロスとシオン共々見る。 「春雷(しゅんらい)と夢現(ゆめうつつ)と……山嵐(やまあらし)」 「春雷は連射型の実弾キャノンを想定してる。夢現はあなたの言う通り薙刀。 ただし刀身は超振動ブレードにして、威力を出してる。 山嵐は……マルチロックオンシステムって言えば分かるかな」 「えっと、ガンダムSEEDのフリーダムとかで出てくる」 「そう」 僕に頷きを返してから、更識簪は骨組みだけの機体を見て……頬を緩めた。 というか、心なしか口調が力強くなっている。やっぱりこの子にそれなりの夢や希望を込めてるっぽい。 「あれみたいなシステムを作って、機体に備えつけている合計六機の8門型ミサイルポットを一斉発射するの。 倉持技研が第3世代技術として研究していたものをそのままもらってきたんだ。まだ構想段階に等しいけど」 「それ凄いじゃないのさっ! 発射タイミングとかはあんな感じなんでしょっ!?」 「一応……そのつもり」 ……だめだ。こう、なんか我慢出来ない。なので両手をパンと合わせて、一つお願い。 「ね、やっぱ僕も手伝っちゃだめ? 早く動くこの子が見たいし」 「それはだめ。なにより最初の話と違う」 「そっか。それは残念」 やっぱいきなりは無理だよなーと思って、ここは諦める。下手にしつこくしちゃうと距離取られちゃうから。 でもでも、タブレットの中の完成予想図を見ているとドキドキが強まって……うぅ、やっぱり首突っ込みたい。 「簪でいい」 「え」 なにか言われたので、顔を上げて更識簪の顔を見ると……目の前の子は少しだけ笑っていた。 「あなた、私の事フルネームで呼ぶから。でも……簪でいい」 「いいの?」 簪が頷くので、僕はまぁ……その言葉に甘える事にした。 「じゃあ簪、見せてくれてありがと。とりあえず約束通りに本音にはそれなりの言い方しておくから」 「助かる」 「でもそのかわり、また見に来ていいかな。もちろん作業の邪魔にならないようにするから」 「……うん。私は放課後は大体ここで作業してるから……と言ってももうすぐ夏休みだけど」 「それでも見に来るよ。定期的にこっちに来れば、本音の心配も多少は和らぐだろうしね」 踏み出した一歩はとても小さく、そして儚い。でも一歩は一歩で、確実に僕と簪は距離を詰められている……はず。 これで本音に良い報告が出来そうなので、僕は一安心。ついでに学園最強なお姉さんも安心してくれると嬉しい。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 最初はバカにしているのかとも思った。でもこの子の目の輝きが、そんな私の疑いを嘘だと突きつけてきた。 この子は本当にこの未完成な弐式を見て、ワクワクしてくれている。私がISを最後まで作り上げる事を望んでくれている。 その気持ちが嬉しくて、続けて質問をしてくるこの子に答えていって……こういうのは久しぶりかも知れない。 それにこの子と居るのは嫌いじゃない。私はそれほど人付き合いが上手なわけじゃないのに……どうしてなんだろう。 もしかしたらそれは、この子の言葉には嘘を感じないからなのかも。それで……姉さんの影を感じないから。 この子は姉さんの話をしたりはしない。私の事を星みたいに輝いている瞳で見てくれる。それが心地良いのかな。 私は多分この瞬間、更識楯無の妹としてではなく……更識簪としてここに居るんだ。だからこんなに、饒舌になってる。 辿々しい感じではあるけど、普段の私からすればかなり喋ってる。そんな時間をくれたこの子には、一応感謝する。だから。 「それと」 「なにかな」 「八神君って、呼んでもいい?」 「別にいいけど」 「ありがと」 だから少しだけ臆病な自分を振り払って、この子の事を……本当は名前で呼ぶのが礼儀なんだと思う。 でもだめ。その……これが精一杯だから。こういう時姉さんみたいになれたらと、ちょっと思ってしまう。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ コードクラウン絡みの事件はほとんど進展しない。というか、やっぱ最高評議会の不正関連を暴いてく方に比重が向いてしまっとる。 もちろん現行で起きている事件が優先されなアカンのやけど……その中にかて優先順位が存在しとる。 その中でコードクラウン絡みの事件は、下の方や。そこは縄張り関係の問題からどうしてもって感じなんよなぁ。 ただ今後はそうはいかない。うちはこの件に関してどうにも嫌なもんを感じて仕方ないんよ。そんなわけでうちは……ここに来た。 ここは聖王教会の一室。うちが古代ベルカのとんでもロストロギアの所有者という事もあって、お世話になっとる人がここには居る。 「――いやぁ、やっぱりカリムはんの紅茶は最高ですなぁ。はやてはんが淹れてもこうはなりませんわぁ」 大事な話するとこなのに、なんでこの子はうちとか差し置いて平然と紅茶飲んで世間話するムードを出してるんやろうか。マジ疑問やわ。 それでカリムはカリムで向かい側に座って、くすくす笑って口元を右手で押さえてるし。カリム、そこ笑うところちゃうよ。 「ふふ、テントモンは相変わらずお世辞が上手ね」 「いやいや、お世辞なんかとちゃいますわ。やっぱり人格的なものが出るんですなぁ。はやてはん、マジ見習いましょ」 「アンタさっきからちょくちょくうちをディスってくれるなっ! それパートナーとしてどうなんよっ!」 「相変わらず仲がよさそうでなによりだ」 「こらそこのえりまきっ! ツッコむところちゃうでっ! もっとこの虫叩いていかなアカンやろっ!」 うちがえりまき言うたのは、カリムの首元にいる白くて狐顔をした細身のデジモン。それで胴体使って薬莢に巻きついとる。 マジでなにかのマフラーみたいなサイズのその子は、カリムのパートナーや。名前はクダモン。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ クダモン 成長期・聖獣型・ワクチン種 聖なる薬莢を常に巻きつけて離さない聖獣型デジモン。左耳のイヤリングに聖なる力を日々溜めていると言われ、蓄えた力が大きいほど次の進化に影響があるという。 冷静沈着な性格をしており、戦いにおいても的確に状況判断を行って、戦いを優勢に進める。 逆に劣勢になった場合は薬莢の中に入り、身を固める防御技も持っている。 必殺技は身体を回転しつつ薬莢ごとぶつける『弾丸旋風(だんがんせんぷう)』と、ピアスから発する大きな輝きで目を眩ます『絶光衝(ぜっこうしょう)』。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「それで今日突然やって来たのはまたどうして?」 「いやな、部隊設立の話……やっぱ時間かかるよなーって確認がしたくて」 「……コードクラウンの事、相当気にしてるのね」 「かなりな。てゆうかおかしいとこあるやんか。例えば……地球の定義で考えてみようか」 うちもカリムの紅茶を一口いただいて……マジ美味いし。これはテントモンがあれだけ言うのも分かるかも。 「もう形骸化しとるけど、本来地球でのデジモンのパートナーは『選ばれし子ども』や。 それはデジタルワールドの異変を解決するために、本来の接触から先んじてデジモンとパートナーになった子達を指す。 つまりは向こうの世界の住人だけじゃあ揉め事解決出来んから助けろって事でパートナーになった」 「そこは以前も話してくれた事よね。私達がどういう定義でデジモン達のパートナーになったかが一切不明。 地球の子達のように――恭文君のように、異変を解消するためのアンチウィルスとして選ばれたわけでもなんでもない」 「そこに対する疑念については、今も変わってない。なによりこれだけパートナーが増えつつある中で、デジタルワールドに行けんっちゅうのもどうもなぁ」 「恭文君やその知り合いのパートナー達に相談は」 「もちろんさせてもろうたよ」 恭文に拝み倒してなんとか光子郎君っちゅうめっちゃ頭のえぇ子も紹介してもらった。恭文は相当渋ってたけどな。 アイツは次元世界の事とかに基本関係ない人達を、それ絡みの事に巻き込むのを嫌うからなぁ。先日のあれも、結構悩んでたっぽいし。 「それでな、その子を通じて地球のデジタルワールドの方からなんか分からないのかとも聞いた。でも」 「さっぱりなのね」 「うん。まぁこっちとあっちとでは別のデジタルワールドになってるっぽいのは、なんとか分かったよ」 現に地球のデジタルワールドでは見られないデジモンがこっちやと多数居るそうやから。例えばカリムのクダモンかてそうよ。 まぁ次元世界のネットワークと地球のネットワークは別物やし、そこからデジタルワールドが生まれても全然違うものになるのは当然やろうな。 「ただ別物ってところがどうにも引っかかってなぁ」 「例えばどういう風に?」 「まぁテントモンやクダモン達は大丈夫やろうけど……例えば地球のデジタルワールドは、人間達に対して交流を持とうとしとるやんか」 選ばれし子どもというのも、その時が来た時のための試金石の意味合いがあるそうやしな。 人間とデジモンがそれぞれ手を取り合っていける可能性を探して……結果向こうさんはそれが出来ると踏んだ。 そやからこそちょっとずつちょっとずつ地球ではデジモンのパートナー達が増えていっている。それが今の世の中や。 ただ……こっちのデジタルワールドはそういうのがない。てゆうか、薄気味悪いとこがあってどうにも不安が拭えん。 悪い事ばっかり考えそうになっている思考を振り払うために、うちはまた紅茶を頂いて気持ちを落ち着かせる。 「でもこっちのデジタルワールドは、これだけ世界的にデジモンの存在が認知されるような動きがあるにも関わらずなにも言わん。 仲良くしたいとも……ちょお二人の前で言うのもあれやけど、世界を侵略してやるぞーみたいなサインもない」 「またはっきり言うな」 「気ぃ悪くしたら謝るよ」 「私はそこまで子どもじゃない。テントモン、お前もそうだろう」 それでテントモンは……マイペースに紅茶飲んでるわ。コイツはまたゴーイングマイウェイやなぁ。 ただそれでも一旦お茶を飲むのを切り上げて、カップをテーブルの上に置いてからすぐに頷いてくれるのは助かるけど。 「まぁどうしてワテやクダモン達がこっちに来る事になったのかがさっぱり言うんは不気味ですしなぁ。 ワテら、その辺りの記憶がマジさっぱりやないですか。デジタルワールドの事も全然思い出せませんし」 「……確かにな」 「そやからなカリム、コードクラウンやそれで暴走しとるデジモン達の対処をしていく部隊を早めに作りたいんよ。 ……ううん、うちがそれに関われなくてもいい。なんとかしてそこを始点にこの世界のデジタルワールドがどうなってるのかを知りたい」 「ただそれも……やっぱり時間がかかるわ。そもそもこの件があっちこっちで散発的に起きてしまっているせいで」 「そこも分かっとる」 カリムが困った顔で言っとるのは、縄張り関係の問題や。そこを解決する手立てが見つからないから……でも分かってるので、頷いてみせた。 「だからこう、どうしたらそういう流れを作れるか一緒に考えてくれんかな。いきなり今日明日部隊が作れるとは思ってないんよ。 もうな、怖いんよ。最高評議会の事が露見した事で、コードクラウンの危険性とかが全部うやむやになってしまいそうで」 「確かに……あれで部隊設立の流れが止まってしまった部分はあるわね」 「やろ? もちろんとんでもないスキャンダルやから、部隊作るまで明るみにしなければ良かったとは言うつもりはない。けどなぁ」 こういう時はもう、なんか辛い。その気持ちをごまかすように、うちはまた紅茶を飲む。……マジでなんとかせんとアカン。 ここでつい恭文が居ればとか考えるけど、その思考も振り払う。もうそこについての答えは出てる。 姉弟やから言うていちいちアイツをこっちに巻き込んで良い道理なんてないもん。そんなん、厨二病やった自分の焼き直しや。 そやからここはうちらが解決する。恭文が古き鉄やろうがなんやろうが関係ない。これは……うちがなんとかしたい思うてやっとる仕事なんやから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 私こと高町なのはは、中学を卒業後も変わらず局員を続けている。やっぱり私にとって教導は夢だから。 もちろん安易に考えたりはしていない。中学2年の時に出会ったあの長い髪の男の子にもいっぱい相談して……お父さん達とも話して決めた。 ただ高校の卒業資格くらいは取っておいた方がいいと思ったので、実は実家とミッドを行ったり来たりしてる生活を送っている。 というかその、一応将来的には踊りの家元の奥さんをやる予定だもの。それなりに学歴にも泊をつけないと。 もちろんお母さん達はそういうの気にしないで、好きなようにって言ってくれるけど……それでもね。 大切な夢に向かって今も踊って飛び続けているあの子に負けないくらい、私も頑張っていきたいから。 そんなわけで学校生活も頑張っている私は今、ミッド地上にある部隊の一つでお仕事中です。 「――それでは、これで2週間の教導をすべて終了します。みなさん、お疲れ様でした」 『お疲れ様でしたー!』 そして終わりました。敬礼した上で挨拶して、その場でこの部隊の人達は解散。 でも……うぅ、長期の教導はもうしばらくやりたくないなぁ。だって単位足りなくなるし。 「クイーン、お疲れ様でありますっ!」 「やっぱりクイーンは凛々しいのでありますっ! 素晴らしいのでありますっ!」 私の傍らからそう言ってくれるのは、大体80センチ前後の甲冑に包まれたデジモン達。姿格好は全く同じ。 でも一人は白色で、もう一人は黒色。あ、それと兜のゴーグル部分が金色ってところも同じだね。 基本的にすっごく可愛い子達なんだけど、私はつい苦笑いしながら左指の頬をかいて苦笑い……あんまりに苦いから二回言っちゃったよ。 「にゃはは……ありがと。でも二人とも、お願いだからそろそろクイーンっていうのやめて?」 「「だが断るでありますっ!」」 「だからそれどうしてー!?」 こんな二人の名前はポーンチェスモン。私がこの世界で出会ってパートナーにした、大切な子達。 私、遅れ馳せながらデジモンのパートナーもやっています。しかも二人のパートナー。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ポーンチェスモン(白・黒) 成長期・パペット型・ウィルス種 チェスゲームのスパコンから流出したデータから生まれたパペット型デジモン。 力は弱いが功績を挙げると成り上がり、究極体クラスの力を持つという謎を秘めた一般歩兵である。 口癖は「前進あるのみ!」。お互い先に功績を挙げようとライバル視している。 必殺技は、槍で突く『ポーンスピアー』と、円盾を構えて突進する『ポーンバックラー』。 また仲間の後方支援を得た時は完全体クラスのデジモンですら攻撃を躊躇する特殊陣形『ピラミッドフォーメーション』をもつ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「それではクイーン、早く帰るのでありますっ!」 「そうでありますっ! そうしないと単位が取れなくなって留年なのでありますっ!」 「そ、そうだったっ! えっと……とにかく明日の一限には遅刻せずに出てー!」 「高町教導官」 慌て始めた私の後ろから声がかかる。思わず瞬間的に居住まいを正して、前髪も軽く正して一気に振り向く。 すると私の後ろには、いつの間にかピンク色の髪をポニーテールにしたお姉さんが居た。 「あ、シグナム副隊長……お疲れ様でした。というか、2週間お世話になりました」 「いえ、こちらこそ」 実はここ、シグナムさんが大隊の副隊長として仕事をしている部隊なんだ。だからまぁ、私が呼ばれたという部分もある。 ちなみに敬語且つ役職をつけた呼び方をしているのは、ここが部隊内でまだ他の人が居るから。公私はキチンとしないとダメなの。 「どうでしょう、これから食事でも」 「えっと……その、嬉しいんですけどちょっと予定が」 「そのすぐ後に地上本部の方にお送りしますが。既に地球行きで転送ポートの予約も取りつけてあります」 「ホントですかっ!? それなら……あの、ぜひよろしくおねがいしますっ! というか、ありがとうございますっ!」 「「ありがとうでありますっ!」」 それで私はもうペコペコするばかりだよ。というかポーンチェスモン達も同じく。そんな私達を見て、シグナムさんは優しく笑った。 「あと同席させたい人間が二人ほど居るのですが」 「と言いますと」 「そこについては行きすがら説明します。うちの部隊の人間なので、そこはご安心を」 こうして私は、明日の一限になんとか間に合う事が決定。それで美味しいディナーもごちそうになる事も決定。 うぅ、嬉しいよー。なのははやっぱり色んな人に支えられて……あ、そうだ。 なぎひこ君にメールしようっと。その、一応彼女だから……大好きな彼氏にいっぱい気持ちを伝える感じで。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そしてテスト明けの翌日は……お休みです。そんなわけで僕達部活メンバーは全員私服で街へ繰り出した。 当然約束した通りに活動するためだよ。でも篠ノ之箒……私服が普通だ。てっきり和服でも着るものかと思ってたんだけど。 えっと、篠ノ之箒が城のノースリーブシャツに紺色のミニスカートで、リンが薄紫のパーカーとハーフパンツ。 シャルロットが黒のプリント入りシャツとジーンズで、ラウラが同じく黒で肩出しワンピース……二人とも合わせ技で来てる。 僕はいつものようにハードボイルドルックで、織斑一夏は白のYシャツにジーンズと結構ラフ。 ただまぁ、服装の事はもうここまででいいか。問題はね、もっと他にあるんだよ。具体的には織斑一夏を中心とした四人? もちろんガチでぶつかり合いとか言い争いとかはないんだけど、お互い気を使いながらもどこか主導権を握ろうと腹を探り合っているのが分かる。 「おいおいヤスフミ、コイツらなにやってんだよ。なんでギスギスした空気感じてんだよ。オレ達ただ街を歩いてるだけだぜ?」 「知らないよ。でもこれだって充分でしょうが。一時期に比べたらそれはもう」 「篠ノ之さんが落ち着いている分、より水面下で争いが起きている感じですよね」 「恭文さん、いったい誰とお話を……あ、もしかしてしゅごキャラ達ですの?」 「正解。二人もアレについてかなり気にしてる」 例えば、シャルロットが織斑一夏と手を繋ごうとする。その瞬間篠ノ之箒がゲームについてあれこれ聞いてその邪魔をする。 かと思えばラウラがそこに割り込んで初めて1週間も経ってないはずなのに上級者面をして、篠ノ之箒の相手をしつつも織斑一夏の隣を取る。 そこで篠ノ之箒は若干困った顔をするも、以前言った事が本心なのかそのままラウラと会話を開始……でもこれで終わらない。 ラウラが織斑一夏の方に行こうとすると、更に質問をした上でラウラを自分の方に引きつけようとする。 そこを狙ってシャルロットが再度アプローチを試みようとすると、それを見て篠ノ之箒とラウラが共同戦線を無言のうちに樹立。 一気に二人の会話に介入して……そんな事がIS学園を出てから今の今までずーっと続いてしまっているのが怖い。 しかも織斑一夏は嬉しそうなんだよ。ただここは……自分が三人の女の子にモテているからとかそういう理由じゃない。 織斑一夏は篠ノ之箒がシャルロットやラウラと仲良さげに見えているのが嬉しいのよ。それで涙ぐんでさえいる。 正直コイツの鈍感さを最初になんとか出来てたら、IS学園に来てからの問題の大半は片づいていたんじゃないかとさえ思う。 「ま、まぁ以前のようにシリアスな喧嘩になったりはしませんし、問題はないのでは」 そう言ってオルコットは……違った、セシリアだ。ヤバい、僕もあの無駄な争いが放つオーラに圧されてるのかも。 セシリアは苦笑気味に一団から僕の方へ視線を移し……さり気なく腕を絡ませる。 「むしろ同じ男性を想う者同士でコミュニケーションをしているようにも見えますわ。いつぞやのわたくしとフェイトさんと同じですわよ」 「それやめてー! あの時僕がどんだけ辛かったとっ!? しかもフェイト学校関係者じゃないのにっ!」 「あははは、教官は気づいてるが故に苦労してる感じかー」 それで空いていた右腕をリンに取られる。僕は二人の女の子と腕を組んでいる状態で、更に街を歩く事になってしまった。 「……リン、おのれはあの不毛な争奪戦に加わらなくていいの?」 「いや、あたし教官の彼女になるって言ったじゃないのよ。なにを今更」 「よーし、またジープで追いかけてあげるよ。どうも10キロランニングしただけじゃ足りなかったっぽいね」 「いやいや、それほんとやめてよっ! マジでテストの後にやっただけじゃ足りないっていうのっ!? てゆうか」 リンは僕の腕を離さないまま、騒々しいあの一団を横目で見る。 「さすがにあの中に飛び込む勇気はないわ。そもそも一夏は篠ノ之さんがみんなと仲良くして嬉しいって事しか感じないじゃない」 「アプローチが通じないという事ですね」 「まぁ……アイツ鈍いしなぁ」 「そうそう、そういう事よ。というか、始まったばっかでいきなり体力使い果たすのも嫌だし」 なるほど、無駄な事で体力を使い果たすよりは、後のイベントに期待しようと。だったらどうして僕と腕を組むのかが分からない。 「まぁその、リン」 「なに? あ、これは気にしないで欲しいな。いつものように決めている教官に泊がつくお手伝いをしてるから」 「あははは、だったら今すぐ離れろ。てゆうかこれでおのれと仲良くしたらなんか悪いじゃないのさ」 「なんでよっ! あたし教官の彼女になるって言ってるじゃないっ!」 「だからそれいらないっつってるよねっ! どんだけそのネタ引っ張るつもりなんだよっ! ……そうじゃなくて、迷ってるうちはあんまこういう事しない方がいいよ?」 なにも言わずに事態を見守ってくれているセシリアに感謝しつつ、歩きながら僕は表情を固めたリンに少し釘を刺しておく。 「ほら、おのれもよーく知っている通りアレはこの手の事には相当鈍いから。 ヘタをしたらおのれは僕の事が好きだとか妙な誤解をする可能性も」 「あ、それもいいかも」 「リン?」 「そんな睨まないでよ。ちゃんと分かってるから。でもさ」 リンはそう言って僕の腕から離れ、歩きながら両手を上げて伸びをする。でも仕草とは裏腹に表情には陰りが見える。 「そうしたら一夏、あたしの事もうちょっと見てくれるのかなとか……考えちゃって」 その言葉に僕はなにも言えなくなって……とりあえずフリーになった手でリンの頭を思いっきり撫でてやった。 やっぱそれなりに相談に乗る必要はあるらしい。フェイトもこの話知ってるし、少し相談しておこうかな。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そんなわけで、ようやくカードショップに到着。そこは先日セシリアと玄関から中を覗いたのと同じお店。 普通のショップでも良かったんだけど、なんでも織斑一夏曰く『カードショップ行くなら絶対ここ』という事らしい。 ここだとバトスピオンリーだけど……まぁ織斑一夏の事だからなにか考えがあると思って、僕もラウラも乗った。 店内に入ると、中はクーラーが効いていてとても涼しかった。僕達はお店の中に入った途端に大きく息を吐く。 7月の中旬を超えたという事もあって、ここに来るまでかなり暑かったしねー。やっぱ年々気温上がってるわ。 「大丈夫?」 「あ、あぁ」 織斑一夏が先導する形で広い店内の中を進みながら、篠ノ之箒に声をかける。あのね、マジで広いのよ。 吹き抜けで2階……ううん、3階部分もあるし、普通のショップなら結構隅の方にあるプレイスペースもかなり大きく取られてる。 それでカード自体の陳列は左側に居る金色ロングヘアーのお姉さんの周囲にあるのがほとんどだね。 なるほど。カードスペースをある程度絞って、広い店内でも目が届くようにしてるのか。 その分プレイスペースを多く取って、みんなが一度にたくさん遊べるようにしてると。現に今日もお客さんはたくさん。 机に向かい合わせで座って楽しげにプレイしていく子ども達を見ながら、全員が自然と表情を緩めた。 「というか、この程度の暑さなら問題はない。お前よりは薄着だしな」 「いや、そっちじゃなくて……あれで無駄に体力消耗したし」 現にラウラとシャルロットもここにつくまでに疲れが見えてた。 だから少し心配になって声をかけたんだけど……篠ノ之箒はそこで僕から顔を背けた。 「頼む、そこには触れないでくれ。なんかこう、一夏が私を微笑ましく見ていたのが辛かったんだ。泣きたくなったんだ」 「……そっか。ごめん、多分僕が空気読めてなかったわ」 「いや、大丈夫だ。心配してくれたのはありがたいからな。しかし」 篠ノ之箒は先を進む織斑一夏の背中を見ながら腕を組み、首を軽く傾げた。 「一夏の奴はどうしてここを指定したんだ。確かに大きい店で、活気があるのは分かるのだが」 「こういうところに初めて入るわたくし達に気を使ったとかでしょうか。 現にここにはたくさんの笑顔がありますもの。見ているだけで優しい気持ちになれますわ」 「かも知れないな。一夏は優しい奴だから……きっと」 『――七星の輝きの元、光を纏いて現出せよっ! 北斗七星龍ジーク・アポロドラゴン、レベル3で召喚っ!』 篠ノ之箒がのろけ始めた直後、店内に大きな声が響いた。その発生源は……入り口から見て奥にある巨大なモニター。 そこには赤と白で彩られたプロテクターを身に着けた子ども二人が、大きな円形のフィールドを挟んで向かい合う形で対峙していた。 そしてその中心には他で言うところのモンスターとなるスピリット達が数体居て……え、あれなんですか。 アニメってわけじゃないよね。スピリット自体はよく出来たCGで通るけど、あの子達やフィールドはリアルっぽいし。 そんな中新しく出てきたスピリットは、赤い体色に白と金色のラインが入った巨大な身体と四つの腕、そして大きな翼を持つ龍。 その手には丸っぽい柄が持たれていて、その先から凝縮された炎のようにも見える光の刃が生まれている。 その刃を振りかぶりながら龍は咆哮をあげ、向かい側に立つ子どもとスピリット達を威圧するように振舞っていた。 「な、なんだあれはっ!」 『北斗七星龍ジーク・アポロドラゴンの効果発動っ! このスピリットの召喚時、手札のブレイヴをノーコストで召喚するっ! 俺は』 効果を宣言した上でこの子は手札を取り出し、場に赤くて背に二門の黒い円筒形の砲塔を持つ恐竜を置いた。 『砲竜バル・ガンナーを召喚っ! そのままブレイヴッ!』 場に現れた恐竜は先に出た龍と一緒に飛び上がり、その身を縦に回転させて甲羅のような形状へと一瞬で変化。 その甲羅にはそれが先ほどの恐竜である事を示すように、黒い砲塔がそのまま残っていた。 それは赤くて大きな翼を羽ばたかせた剣を持つ龍の背に光を伴いながらも当てられ……その瞬間龍の目が見開く。 翼を羽ばたかせながら身を翻し、再び窪地となっているフィールドの上に着地。剣を広げ、翼から炎を放ちながら大きく咆哮をあげた。 こ、これはもしや……ううん、もしかしないっ! マジですかっ! 世の中いつの間にこんなに進んでたのよっ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「モンスターがモンスターに合体したぞっ! な、なんだあれはっ!」 「これは驚きかも。というかあの子達、危なくないのかな」 「あははは、驚いただろー」 ただただ10メートル以上もある巨大なモニターの中で繰り広げられる激闘に唖然としているわたくし達を見ながら、織斑さんは胸を張って笑っていた。 「これは最近この店にも導入された、バトルフィールドシステムだ」 「バトルフィールドシステム? 織斑さん、なんですのそれ」 「あのな、バトルスピリッツって販促のためにアニメもやってんだよ。それで」 そこで織斑さんは振り返り、また巨大なモニターの中を見た。 「アニメのキャラ達はこういうフィールドに入ってバトスピをやるんだ。これはアニメのそれを再現してる。 この中でスピリットを召喚すれば、ただのカードの絵であるスピリット達と実際に会う事も出来る」 「では今実際にモンスター……いえ、そのスピリットを召喚しているのは」 「もちろんここのお客だ。予め許可取った上でだったら、誰でも使えるそうなんだ。まぁ予約は店で直接だけどな。 ……いやな、考えたんだよ。カードショップって雰囲気独特だし、やっぱ初見だと入り辛いしさ。 でもこういうのがあるなら見てるだけでも楽しめるだろうし、箒やセシリアみたいな初見組にはいいかなーってさ」 「なるほど、それででしたの」 どうやら織斑さんは篠ノ之さんの言う通りの方だったみたい。その優しさが嬉しくて、わたくしは笑顔を返す。 「一夏……その、ありがとう。私やオルコットの事もちゃんと考えてくれていたのだな」 「当たり前だろ? みんなで楽しまなきゃ、部活にならないじゃないか」 「うむ……そうだな。うむ、その通りだ」 そこでわたくしの事もちゃんと入れてくれた事に少し驚くけど、それは一旦置いておく。まずはお礼を言わなくてはいけませんもの。 「織斑さん、ありがとうございます。というか、そこまでしていただくと逆に申し訳ないですわね」 「別にいいって。オレや八神がこれで遊ぶためでもあるしさ。というわけで八神、店員にちょっと聞いてくるから」 そこで織斑さんは言葉を止め、恭文さんを見て首を傾げた。それにわたくしや篠ノ之さん達も倣う。 わたくしの隣に居た恭文さんは、画面の中でところ狭しと動くスピリットを見て……目を輝かせていた。 その瞳の輝きがあまりに強くて、つい目を背けてしまった。こ、これは凄い事になっています。 「おい八神、しっかりしろっ! お前目が懐中電灯みたいになってるぞっ!」 「イチカ、ダメだよ。ヤスフミ感動しているのか聴こえてないみたい。というかボーデヴィッヒさんもだね」 デュノアさんが苦笑気味に隣のボーデヴィッヒさんを見る。彼女も恭文さんと同じような状態に陥っていた。 その表情があまりにも微笑ましくて、わたくし達は全員二人に温かい視線を送ってしまった。 「やっぱりか。まぁコイツらがこうなるのは予測出来てた。しばらくしたら元に戻るだろうし、このままで大丈夫だろ」 「そうね。あー、教官とボーデヴィッヒの事はあたしが見てるから、アンタは使用許可取ってきなさいよ」 「ならそうさせてもらう。悪いな、鈴」 「いいっていいってー」 織斑さんの気遣いに感謝しつつ、私は巨大モニターで大暴れを始めたあのドラゴンを見る。 確かにこれは初見でも楽しめますわね。事情を知らなかったら、ちょっとした怪獣映画と思いますもの。 「――あぁ、やっぱり凄い。見に来て正解だった。そう言えばスピリットのモーションの計算とかどうしてるんだろ。 毎回同じ動きじゃないし、ひとつのバトルの中でも攻撃を撃ち合ったりしてるし……もしかしてリアルタイム? だとしたら凄い技術だ」 「かんざし、これすげーよなっ! てゆうかかんざしもやってみようぜー! せっかくデッキ持ってるんだしよっ!」 「……いや、持ってないから。私が持ってるのは遊戯王のデッキだけだから。これでは使えないの」 どうやら恭文さん達と同じように瞳を輝かせている子がもう一人居られる様子。というか声やコメントでまる分かりですわ。 わたくしはその声が聴こえた左側を見ると、予想通りに瞳を輝かせている眼鏡をかけた女の子が居た。 スレンダーなその子は薄いピンクのパーカーに白と黒のしましまのシャツ、それにパーカーと同じ色のミニスカを着用していた。 ちょうどわたくし達と同年代くらいで……あれ、この方どこかで見た覚えがあるような。 それでその子の足元に、膝丈くらいの身長のデジモンが居る。筋肉質で薄紫色の身体をしていて、両手には翼のようなものがある。 四肢の先にある三本の爪はまるでドリルのようで、肩や手の平と額に金色の装甲板のようなものがある。 胸元には二本の赤い線が入り、瞳はくりくりとして金色で耳は逆立っていて……この子も見覚えがあるような。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ モノドラモン 成長期・小竜型・ワクチン種 両手にはこうもりのような翼がついているが、飛べることができない小竜型のデジモン。 ワクチン種でありながら、性格はかなり乱暴というよりも凶暴に近く、ケンカ好きなデジモンといった感じだ。 デジタルワールドでもたいがいのケンカの中心にはこのモノドラモンがいるくらいで、あのオーガモンですら、モノドラモンのしつこさには辟易しているそうだ。 また、後ろに伸びたツノは弱点と言われているが真相のほどは確かではない。 得意技はかんだ部分のデータを断片化させ、敵は噛まれた場所によっては機能不全に陥ってしまう『クラックバイト』。 必殺技の『ビートナックル』はものすごい勢いで突撃し、強力なツメでぶんなぐるという単純明快な大技。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 首を傾げているととこちらの視線に気づいたのかその子達はわたくしの方へ振り向いた。 それで目を見開き、デジモンはともかく女の子の方は一気に顔を赤くする。 「あ、その……申し訳ありません。お邪魔をしてしま」 「セシリア・オルコット?」 「……あの、なぜわたくしの名前を」 「それに篠ノ之箒に凰鈴音にシャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒ……というか、八神君まで。ど、どうしてここに」 ここに居る人間の名前も知っている? というか、恭文さんだけは苗字呼び……あ、まさか。 「もしかしてあなたはIS学園の方では」 「セシリア、どうしたんだ? なんか騒がしいが」 「に……織斑一夏」 そこで彼女の視線は強くなり、わたくしから織斑さんに集中。ただその視線がおかしい。 まるで恨み辛みがあるかのような感情が視線に見え隠れして……わたくしはつい織斑さんともども一歩後退ってしまう。 「え、なに? なんでオレいきなり敵意を……あの、落ち着こうか。まず君は誰かな。それでここは冷静に」 「お前の……お前のせいでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」 「ちょ、やめろっ! いきなり噛みつこうとするなっ! マジでお前も君もいったいなんなんだっ!?」 結局この方とデジモンの正体が分かったのは、わたくしの隣の恭文さんが現実に戻ってきてからの事になった。 でもなんという偶然かしら。まさか……あの学園最強と謳われている方の妹と、こんなところで鉢合わせするなんて。 (Bonus Track07へ続く) あとがき 恭文(A's・Remix)「というわけで、ISクロスはどうだったでしょうか。 今回は簪と他の専用機持ちとの接触話。というわけで本日のお相手は八神恭文と」 鈴「凰鈴音です。いやぁ、今回もあたしと教官ラブラブだったねー」 恭文(A's・Remix)「黙れよバカっ! どこにそんな要素あったっ!? むしろおのれ二組だから試験描写すらハブられてたじゃないのさっ!」 鈴「そこには触れないでよっ! くそー! 最初から一組に入ってればー!」 (大丈夫、鈴は出来るこ可愛い子) 鈴「今回は実は今までは拍手でしか出てなかったキャラとかも多く出てるのよね。ポーンチェスモン達とかさ」 恭文(A's・Remix)「あとはテントモンも実は本編初出番だよ。もう拍手ではおなじみだけど。 ふてぶてしい態度で毒舌で某海東とめちゃくちゃ仲良しなアレだけど」 鈴「……そういやそんなキャラだったわよね。光子郎さんのテントモンとは外見はや口調は一緒でも中身は大違い」 恭文(A's・Remix)「お姉ちゃんのパートナーだからこうなったんだね、分かります」 (『いやいや、うちのせいとちゃうやろっ! てゆうかアイツは最初の頃からあれやったでっ!? 突然登場したかと思ったらうちの名前をナチュラルに間違えまくるしっ!』) 鈴「それで教官は……またやっちゃったよねー」 恭文(A's・Remix)「……僕はなにもしてない。てゆうか、普通にちょっと友達に近づいただけだから」 鈴「まぁそうよね。てゆうか教官、あたしの扱いについて小一時間ほど問い詰めたいんだけど」 恭文(A's・Remix)「原作通りにIS装備して殴ったりしてればいいんじゃないの?」 鈴「いやいや、それやったらアイツ死ぬじゃないのよっ! てゆうかやっちゃダメでしょっ! ……でもさ、あたしヒロインっぽくない感じだし……ここはマジで彼女になるしか」 恭文(A's・Remix)「リン、ホントしっかりしようかっ! そのネタマジでいつまで引っ張るのっ!?」 鈴「アタシはキャラが立って二組だって事を理由にハブられないならなんでもいいのよっ!」 恭文(A's・Remix)「節操なさ過ぎじゃボケがっ!」 (……こうなったら押し倒すしかない。もしくはBlu-rayの付属小説みたいにやるしかない。 本日のED:T.M.Revolution『Zips』) ラウラ「というわけで次回は……激闘だ。いよいよ世界を揺るがすバトルが始まる」 一夏「始まらねぇよっ! その前にコイツらなんとかしてくれよっ! オレマジで初対面なんだがっ!」 箒「えぇい、お前も落ち着けっ! コイツはお前やお前のパートナーに覚えがないと言っているんだぞっ!」 ???「そんなわけあるかー! お前のせいでかんざしがめちゃくちゃ苦労してるんだぞっ! 知らないわけがないだろっ!」 簪「モノドラモン、伏せ」 ???「はうっ! ……って、かんざしー!」 簪「待て」 ???「はうっ!」 簪「そのまま。……あの、ごめん。この子ちょっと単純というか直情的なところがあって」 箒「う……なにかが胸に突き刺さる。というか、苦しい」 シャルロット「少し前の篠ノ之さんそのままだしね」 箒「そ、そうだな。うぅ……耐えろ私。この痛みを乗り越えた先に成長があるんだ」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |