小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory08 『共に戦うという意味/PART3』
≪The song today is ”Clear Mind”≫
ベルトの付属機能で、音楽スタート。今回は……Clear Mindー♪ 遊戯王5D'sの名曲だよねー。
とにもかくにも突っ込んでいかなきゃ話にならないので……ヴィヴィオは突撃。同時に周囲に展開したランサーを射出。
自分に襲い来るランサーを見ながらアインハルトさんは、なぜか怪訝な表情を浮かべて身構える。
それでも静かに右手を上げ……その手首周囲に渦を巻くような魔力を生成。
「覇王」
それでヴィヴィオのランサーが到達する直前に、右手をヴィヴィオから見て反時計回りに捻りながら突き出した。
「旋衝波」
すると手首の周囲の魔力が腕の動きに合わせて打ち出され、一瞬でアインハルトさんを守る渦の障壁となる。
ランサーはそれで受け止められ……そこまでならよかったんだけど、まるで跳ね返るみたいにランサーがこっちに飛んできた。
「……はぁっ!?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ちょ、なによアレっ! 射撃攻撃を防ぐんじゃなくて、そのまま跳ね返すっ!?」
「ティア、あれなにかなっ! 私あんなの知らないよっ!」
「私だって同じよっ! てゆうかそう言ってるじゃないのよっ!」
「わわ、まるでレンゲルシロップのミラーみたい。あれどうやってるのー?」
「……これは驚いたわ」
試合を一緒に見ていたメガーヌさんが、感心するやら呆れるやらと言った表情を浮かべている。
なお、両手の中にはどういうわけかアイリが居る。私はそれが不思議で首を傾げてしまう。
「古代ベルカの術式にあの手のものがあるとは聞いてたけど、使う人が居るなんて」
「えー、メガーヌさんあれ知ってるんですかー」
「古代ベルカって……またそれでちか」
そんな事を聞くややの腕の中にはどういうわけか恭介が居る。
これだけ見るとアイツやフェイトさん達が育児放棄しているように見えるから不思議だわ。
「でもあれは厄介ね。半端な射撃魔法は通用しない事になるもの。あと」
「えっと、アインハルトちゃんがどの程度までああいう攻撃を跳ね返せるのかーっていうのが問題になるんですか?」
「正解。単純な射撃だけならともかく、砲撃や打撃や斬撃とかも跳ね返せると……ちょっと厄介かも。
ヴィヴィオちゃんはこれから攻撃していくなら、そこを確かめていく過程が必要になったわ」
ここは以前Wやカブタロスの奴が聖夜市に来た時のゴタゴタで戦ったクイーン相手に考えたのと同じね。
この手の反射系の防御は、まずそこを考えないといけないの。ただ……便利な能力にはそれ相応の対価が必要になる。
例えば反射範囲が限定されていたり、術の発動に2〜3アクション必要になったりとかね。
現にクイーンの能力も万能ってわけじゃなかった。でもあんなもんまで用意してるって、覇王流はどんだけ懐広いのよ。
でもちょっとは納得したかも。ストリートファイター達相手に連戦連勝してたのは、こういう札もあったせいなのね。
「うぅ、ヴィヴィオちゃん大丈夫かなー」
「なんだかんだでここまで黒星しかついてないでちからね。苦戦するかもでちよ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ヴィヴィオはその非常識な動きに驚きながらも足を止め、右に転がりながらランサーを避ける。
次々と地面に着弾するランサーに構わず、アインハルトさんの右側に回り込むように走って右手で持ったグラムを突き出す。
アインハルトは即座にヴィヴィオの方に向き直りながら左の掌底で槍を払いやり過ごしながら、右拳を振るう。
顔面に迫ってきたそれを伏せながらすれすれで避け、ヴィヴィオは交差する直前で足を止めて振り返りながら右薙の斬撃を打ち込む。
アインハルトさんはこちらへ踏み込みながら右腕を盾にしてそれを受け止め、今度は左拳を腹に突き立ててくる。
ヴィヴィオはグラムを握る手に力を入れて押し込み、アインハルトさんの腕を軸にして回転しながら拳をなんとか避け、術式発動。
グラムとアインハルトさんの腕の接触部分を始点に、金色の雷撃が迸ってアインハルトさんの身体を焼く。
「く……!」
苦悶の表情を浮かべるアインハルトさんは右腕を振るってグラムを無理矢理払って、雷撃から逃れる。
そのままヴィヴィオに向き直ったかと思うと、身を更に翻して右後ろ回し蹴りを放つ。
ヴィヴィオは咄嗟にグラムを盾にしてそれを受け止め、勢いにあえて圧されて後ろに吹き飛ぶ。
5メートルくらい吹き飛びつつ身を翻して着地すると、とっくにアインハルトさんは踏み込んでいた。
打ち込まれる右拳を左に避けつつ、右足で内太ももに徹も込みのローを打ち込む。同時に雷撃も発動させ、また足を攻めていく。
返しでこちらに打ち込まれた右の裏拳は伏せて避け、追撃の左フックは後ろに下がってすれすれで避ける。
それですぐに足を止めて、アインハルトさんの腹に向かってグラムを突き出した。
迫る切っ先はアインハルトさんの腹を僅かに捉えそのままなにもないところを……咄嗟に左に動いてかわされた?
それで素早くヴィヴィオの右腕を取って関節を決めた上で、左の肘打ちを顔面に一発。
その一撃を食らって怯んだところでヴィヴィオの身体は地面を離れ……咄嗟に身体から電撃を放ってアインハルトさんを更に焼く。
でもヴィヴィオはそのまま大きく投げ飛ばされ、近くのアパートっぽい建物の壁に身体を叩きつけて地面に落ちる。
それでも頭を振りながら素早く起き上がって……もう目の前にまで迫っていた拳を左に跳んで避けた。あ、術式詠唱と設置も忘れずにと。
アインハルトさんの左拳は洋式の外壁をいとも簡単に砕いて穴を開け、その衝撃と破砕音を周囲に撒き散らす。
ヴィヴィオはそこを狙って踏み込み……同時にバインドが発生。アインハルトさんの動きを止める事にする。
ベルトを使用している影響で金色になっているヴィヴィオのバインドは、アインハルトさんの左腕を一気に戒める。
これならあの旋衝なんちゃらの効果対象にはならない。ヴィヴィオはグラムを振りかぶって、刃に魔力を込める。
アインハルトさんはヴィヴィオの方に向き直りながら、なんとか反撃しようと思ったのか両足を踏ん張っていく。そして地面が踏み砕かれた。
本来ならバインドをかけてるんだから、警戒する必要もなかった。アインハルトさんの拳はヴィヴィオには届かない。
右腕や足だけなら対処はいくらでも出来る。でもその動きが昨日川で訓練していたあの時のアインハルトさんとかぶって見える。
突撃……だめ、止まれない。ヴィヴィオは咄嗟に振りかぶっていたグラムの柄を身体の前にかざす。
次の瞬間、アインハルトさんはヴィヴィオに向かって『左拳』を叩き込む。その拳と腕を戒めていたバインドは、いとも簡単に砕けた。
自分の周囲に撒き散らされていく金色の魔力の粒子を振り払うように、あの人の拳がヴィヴィオを――グラムを捉える。
ヴィヴィオは拳から放たれた強烈な衝撃に押されながら、また後ろの方に吹き飛んだ。
嘘、だよね。バインドを瞬間解除とかしたわけでもなんでもなく……拳を打ちながら砕いたっ!?
驚きながら地面に身体を叩きつけられ、ヴィヴィオは三度バウンドしてようやく停止。それで手に残る衝撃を払いながらアインハルトさんを見た。
アインハルトさん自身もどういうわけか驚いた顔をしていて、動きが止まっていた。
だから追撃は……ううん、今はここはいい。やっぱりあの人、強い。ヴィヴィオ一人じゃランサーフォームでも勝てる感じがしないよ。
しかも足への攻撃も注意されてるから、この間よりカウンター取られやすくなってるかも。電撃も……有効打にならないだろうなぁ。
電撃魔法は有効な攻撃ではあるけど、弱点もある。それはフィールド魔法のセッティングでいくらでも対応が出来る事。
JS事件の時、トーレはそれをやった上でフェイトママと戦って押し込んでたっていうし……やっぱりなぁ。でも大丈夫。
ヴィヴィオの手札は電撃魔法だけじゃない。それに今はチーム戦だもの。でもそこを活用するためには、まだ足りない。
コロナはうまくやってくれるだろうし、ヴィヴィオはまた踏み込んでアインハルトさんにヴィヴィオだけを見てもらう事にする。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今のは、いったいなんだろう。ヴィヴィオさんの槍での斬撃を払いながらさっきの感触を思い出していく。
あの時縛られながら行った動きは、昨日の川辺での訓練でのもの。自然とそれを行なっていたのが不思議でたまらない。
だけど……とても心地の良い打ち込みだった。今まで感じた事がないくらいに私は鋭く力を放てた。
なんだろう、これは。断空の技の中に自然に潜り込んできたこれは……一体。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「いっくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
リオちゃんが髪を揺らしながらこちらに飛び込んでくる。それで右拳を振りかぶり……それはゴライアスも同じく。
次の瞬間、振るわれた拳同士がぶつかってそこで衝撃が弾ける。……よし、押し負けはしていない。
そのままゴライアスに拳を振り抜いてもらって、リオちゃんを吹き飛ばす。リオちゃんは自分から拳を引きつつ、ゴライアスの左サイドに回り込んだ。
動きは読めていたのでゴライアスは身を翻し、リオちゃんに向かって左の後ろ回し蹴りを叩き込む。
リオちゃんはそれをジャンプで避け……そこを狙って右手での叩き落とし。リオちゃんは身体を縮めてそれをガード。
そのままゴライアスが腕を振るうと、リオちゃんは吹き飛ばされた。でも空中で何回も回転して着地。
またこちらに踏み込んで跳躍しながら、今度は雷に包まれた左拳を振りかぶってゴライアスに打ち込んでくる。
ゴライアスも応戦するように左拳を放ち……そこから雷の龍が口を開けてゴライアスの拳に噛みついた。
「どーんっ!」
次の瞬間雷撃の爆発が起こり、ゴライアスの拳は雷の龍によって噛み砕かれた。ゴライアスは衝撃に圧されて後ろに下がる。
リオちゃんは着地する前に右拳をゴライアスに向かって突き出し……右手の炎の龍もさっきと同じように射出。
そのまま身を反時計回りに翻し、自分の周囲にニ色の龍を展開させて着地。リオちゃんはこちらを見てにやりと笑う。
その笑みに反応してか、ニ色の龍はリオちゃんの手元から離れて地面に身体を埋め込む。
「双龍演舞……いくよっ!」
龍と一緒にリオちゃんがまたこちらに飛びかかってくる。私は慌ててゴライアスの左腕を再練成。
……ゴライアスにごめんと言いながら、最初に噛みついてきた炎の龍にゴライアスの左拳を叩きつける。
炎の龍はその拳に今度は噛みつかず、一気に巻きついて来た。それでゴライアスの肩に牙を突き立てる。
砲撃レベルの魔力を変換した上で自在に操っている事に驚いている間に、雷撃の龍がゴライアスの腰に巻きついてきた。
私は予定通りに術式を発動。ゴライアスの表面に私の魔力光と同じ色の火花が迸り……爆発が起こる。
ニ色の爆発はゴライアス『だったもの』を飲み込み、周囲に爆風を撒き散らす。私は咄嗟に両腕をクロスさせるように構えて、両足を踏み締める。
でも感心している場合じゃない。こっちに私の行動を予測してリオちゃんが突撃してきた。
リオちゃんは両手両足にさっきと同じように雷撃と炎をまとわせている。……出来ればあれで油断して欲しかったんだけど。
やっぱバレちゃってたんだ。私がゴライアスがやられる前に錬成解除して、ただの土にしちゃった事。
だから躊躇いなく私に飛び込みながら右拳を……私は前転してその下をかいくぐるようにそれを避け、術式発動。
リオちゃんがこちらを振り向きながら打ち込んでくる雷に包まれた左足での回し蹴りを、壁を生成して防ぐ。
その上で更に術式発動。リオちゃんの今打ち込んだ足を戒めるように壁から縄を生やして一気に縛り上げる。
「……ほえ?」
驚いている間に更に術式発動。密かに練習していた転送魔法でこの場を離れる。
同時に左手でブランゼルから触媒を抜いて、リオちゃんの近くに放り投げ……転送完了。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アタシは左足の雷の魔力を強め、雷撃で足を縛り上げる壁の一部と壁そのものを吹き飛ばす。
……あー、良かった。これで雷吸収とかされたらどうしようかと……そんなアタシを大きな影が覆う。
慌てて左側を見ると、そこにはでっかいゴライアスが居た。てゆうか、アタシに向かってなんか飛びかかっていた。
いわゆるボディプレスってやつ? それでアタシの事押し潰そうと……あれ、よく考えたらコロナ消えてるっ!
「ちょ、たんまぁっ!」
もうしょうがないので反射的に両手両足の炎と雷撃は解除。今使っていたエネルギーは全て右足に集中。
赤い炎の中に金色の雷撃が迸り、その力を感じながらアタシはその場で反時計回りに回転。
「絶招」
回転で揺れる髪や服には構わず、炎と雷撃に包まれた右足を回転の勢いを乗せた上でゴライアスの腹に叩きつける。
「炎雷砲っ!」
そしてアタシの拳はゴライアスを打ち砕……あれ、なんか手応えがない。てゆうかいきなりゴライアスが大量の砂になった。
それはアタシの身体や顔にまともにかかってしまって……コロナの奴ー! 砂が目に入りかけたじゃないのさー!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
まずゴライアスでボディプレスをしてもらって、私の事は一旦忘れてもらう事にする。
もちろんそのまま倒れたら危ないので、ゴライアスの錬成をリオちゃんの蹴りに合わせて解除。
その場でただの砂達なったゴライアスは、リオちゃんと周囲の地面に雨のように振りかかる。
リオちゃんはたまらず両腕でガードして……ダメージはないけど、リオちゃんの動きを完全に止めた。
私はその間にそこから少し離れた路地に入り込んで、私は民家の壁に両手をつけて物質操作を開始。家の中に入り込む。
中に足を踏み入れてからすぐに術式を連続詠唱。……こんなにチャンスが早く来るとは思っていなかった。
でも絶対に逃さない。リオちゃんには悪いけど……もう止まってもらおうっと。
魔法少女リリカルなのはVivid・Remix
とある魔導師と彼女の鮮烈な日常
Memory08 『共に戦うという意味/PART3』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
マズい……マズいマズいマズいっ! とにかく私は上の方から襲ってきた赤い魔力弾を左に側転して回避。
魔力弾が地面を砕く音を聞きながら、回り込んで唐竹に打ち込まれたサーベルを柄で受け止め、右足を上げて空海さんの腹を蹴り飛ばす。
でも空海さんは吹き飛ばされながらもまた銃を向けて来て、舌打ちしながら魔力弾を生成しつつ2時方向に走る。
空海さんは私の移動先に向かって銃口を向け……咄嗟に足を止めて左に飛んだ。
”りまちゃん、こっち来てっ!”
次の瞬間、私の右側面を巨大な魔力の奔流が通り過ぎて近くのアパートっぽい建物の外壁を一気に吹き飛ばす。
……単なるブラフだけじゃなくて、実際にチャンスを狙いつつ撃ってくるから怖い。しかもこれで残り8発あるから更に怖い。
とにかく射撃の隙を狙って突撃し、まず刺突を打ち込んで空海さんの動きを止める。その上で右側面に向かって魔力弾乱射。
そちら側に居るあむさんに牽制した上で槍を一旦引き、またまた突き出された銃に対処。
槍の柄尻を左薙に払って銃口を逸らしてから、そのまま踏み込み……カウンターで突き出されたサーベルは左に動いて回避。
柄尻を下げて左に振るって空海さんの足を払い、同時に身を素早く反時計回りに捻って左足で後ろ回し蹴り。
魔力も込めた上で空海さんの左脇腹を蹴り飛ばして、近くの壁に叩きつける。
それでも連射された魔力弾は槍を前面で回転させる事で払って……槍の動きを止めて柄尻を背後に突き出す。
≪Archaic≫
「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
私に向かって飛び込んで右足での回し蹴りを打ち込んでいたあむさんを、それで迎撃。
柄尻は蒼い光の刃に包まれた右足と衝突し、この場に衝撃を撒き散らし……この手応え、鉄輝一閃っ!?
よく見ると右足の脛のとこにブレードっぽい装飾があるしっ! なぎさん、これほんとどうやって作ったのかなっ!
まともに衝突しても押し切られるだけと判断し、柄尻を少しだけ下げて相手の蹴りをやり過ごした上で……こっちも魔力をまとわせる。
「鉄輝」
空中でただ回転するだけのあむさんを狙い、後ろの方はちょうど回り込んでくれたりまさんに任せる。
背後で魔力弾が複数ぶつかって破裂する音を聴きながら、桃色に輝く槍を右薙に打ち込む。
「一閃っ!」
私の桃色の鉄輝はあむさんを捉え、槍を振り抜くとそのまま近くの外壁に吹き飛ばした。……でも甘い。
咄嗟にあむさん、右足を上げてあの追加の装甲を装備した足で受け止めたの。
だから本当たりじゃないし壁に叩きつけられたダメージしかない。私はやっぱり困った顔をしつつも左に走る。
空海さんと射撃戦を演じていたりまちゃんも同じくで、二人で近くの路地に回り込んで……その前にお礼っと。
私は槍をさっきまで戦っていた場所に向け、魔力を切っ先に急速チャージ。そのまま砲撃を打ち込んだ。
砲撃は両脇の外壁を抉りながらもさっきの通りに向かって、地面に着弾。大きな爆発を起こして衝撃を撒き散らす。
それからすぐにそちらに背を向けてダッシュ。先を走るりまちゃんに追いついた。
「仕留めた?」
「ううん。ただのこけ脅し。衝撃とその効果範囲に比重を置いたものだから……でも目眩まし程度にはなってるはず」
とにかく二人がこっちを狙って来てるのが辛い。近接戦闘も込みだと、ミスショットを恐れてりまちゃんも射撃で対処しにくいみたいだし。
しかもちょこちょこルーちゃんが手を出してる感じがするのも……私は次の大通りに出たところで妙な気配を感じて、周囲に四発の魔力弾を生成。
「また……挟まれた」
く……やっぱりルーちゃんをフリーにさせてしまっているのが響いてる。
本当なら今の私の立ち位置はエリオ君にやって欲しいのに。後ろが厚い分、向こうの方が動きが良くなってる。
今二人が先回りしていた理由や、それをやるために必要なスキルには大体の想像がつく。
どれもこれも全部ルーちゃんが持っているものばっかり。やっぱりチーム戦だと、数を削られたらそこから一気に……かぁ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
というわけで、模擬戦も終わって僕達は早速お昼。今日のお昼はなーにかなー♪
やっぱり魚かなー。エリオが情けなく負けたし罰ゲームで魚をしっかり取らせてー♪
「待って待ってっ! ヤスフミ、それ違うっ! まだ終わってないよっ!」
「大丈夫だよ。一部終わってるのも居るから。あとは適当に観戦してるだけで」
あ、空海達の居る方で大爆発が起きてる。あの色は……キャロか。
魔王と魔力光が似ているだけあって、見事に恐怖をまき散らしてるわ。
「それはそうだけどもうちょっとがんばろうよー!」
フェイトが僕を掴んでゆさゆさ揺らしてくる。いやぁ、フェイトのこういうところは変わらなくて嬉しいなー。
「しょうがないなぁ。じゃあ監督役として仕事しますか」
「え?」
「エリオ、聴こえる?」
通信をかけるとボロボロなエリオが画面の中から出てきて……あー、とりあえず起き上がるのはOKか。
『なん、とか。すぐに試合復帰出来るから』
「バカ言ってんじゃないよ。おのれが気絶してから既に15分。とっくにおのれはリタイア決定だよ」
『……う』
さすがにそこが分からないほどバカじゃないらしい。それには安心。
「あのねエリオ、なんで僕がおのれを向こうのチームのリーダーに任命したか分かってないでしょ」
『それは、僕があの中で一番経験があるから』
「違う」
やっぱり勘違いしていたので首を横に振り、画面の中のエリオを見て嘲笑う。
「おのれにそうやって無様に負けて欲しかったからだよ。
リーダー頼むならキャロやりまに頼んだ方がずっと勝率が高い」
『な……それどういう事かなっ!』
「分かんない? だったらここ最近の自分をもう一度思い出そうか。僕やフェイトがなにも知らないと思ってたの?」
エリオは更に驚いて息を飲む。それでようやく理解してくれたっぽいね。
僕は最初からおのれがこうなると分かっていて、あえてリーダー頼んだってさ。
「エリオ、まずおのれはリーダーとしての仕事を勘違いしてる」
『勘違いって……なにがかな』
「それを聞く事自体が勘違いしてる証拠だよ。リーダーってのはね、人に仕事を押しつける図々しさが必要なのよ。
将棋やチェスだってそうでしょうが。王様の駒だけじゃゲームは成り立たないし勝てない。特性がそれぞれ違う駒を上手に使って勝ちに行く。
なのにおのれはあの中での王様の駒のはずなのに、自分一人で突っ込んで戦って……それじゃあダメなのよ」
険しい表情は変えずに横目でこっちを心配そうに視線を向けている唯世を見た。
「僕がお前の立場なら、そんな真似はしない。どうしてか分かる? 自分が取られたら、その時点でチームは崩れるからだ。
だからみんなに仕事を押しつけるんだ。ズルく汚く仕事を押しつけてこき使って、それでもみんなで勝利を掴むために前を見る」
またエリオの方を見て、困り果てた顔をする。画面の中のエリオは、ただただ戸惑うばかりだった。
「エリオ、自分の行動をよーく思い出してみようか。どうして王様なのに一人先陣を切って突っ込んだの。
どうして相手が固まってるのにGWのおのれが、ただ一人だけで突撃してどうにかしようとしたの。
奇襲仕掛けるならそっちはアインハルトに任せて、自分でやれば良かったよね。おのれの方が速度はあるんだし」
『それ……は』
もう答えなくても分かる。リーダーでこの中で一番の経験者って事で気張っていたからだよ。
だから自分がみんなを引っ張っていこうとして……ただそれだけを考えて周囲や相手の事をなにも考えなかった。
「どうしてアインハルトやリオが来るのを待たずに一人で突っ込んでいこうとしたの。
囲んでシバキあげるなら、到着を待つくらいの事はしてもいいでしょうが」
『それは、押し込まれると思ったから足止めを……前衛はあの中だと僕だけだし』
「そうなるように陣形を組んでしまった時点で失敗してるんだよ。
そんなので止められるわけないでしょうが。そんな事も分からないの?」
僕だったらフリーアタッカーはエリオとキャロにする。キャロはフルバックが基本ポジだけど、転送魔法使える関係で足速いのよ。
そうすればアインハルトとリオとりまというバランス的には良い本命チームが出来上がる。
それでもしさっきの空海達みたいに出られても、二人がフリーなら合流のための時間もかなり縮まる。
もしくはキャロが仲間を召喚する事で相手を空振りさせる事だって可能だ。ほら、キャロをフリーで動かした方が手堅い。
てゆうか、能力的にも未知数な人間をフリーアタッカーにしたらそこが読めなくて怖いじゃないのさ。
エリオの戦術は、根っこから崩れてしまっているのも同然。……あー、そうそう。読めないっていうところもアウトなのか。
「どうしてりまやリオにヴィヴィオやあむ達のスキル確認をしなかったの。してたらあんな不意打ちは予測出来てた」
エリオはなにも答えない。もう僕が言わなくても分かっているらしい。エリオはみんなを初心者だと見くびっていた。
だからなにがあっても対応出来るとタカをくくって、相手の情報を得られるチャンスを尽く棒に振った。
「もうそろそろ分かってきたでしょ。お前はみんなで戦おうとしてない。自分一人だけでなんとかする事しか考えてなかった。
間違いなくキャロ達は負けるよ。おのれが無能な王様だったから、みんなは負けるんだ」
ボロボロのエリオはそこで項垂れ、悔しげに唇を噛み締める。その様子を見て、大きくため息を吐いた。
「おのれは自分で思ってるよりも経験があるわけでもなんでもないし、強くなんてないよ。ヴィヴィオやあむ達とラインは変わらない」
『……違うっ!』
エリオはそこで顔を上げ、画面の中から僕を睨みつけてくる。
『僕は六課の中であれだけの実戦をクリアしてきたっ! その経験の濃さだけは自信を持ってるっ!
あそこを卒業してからも4年間……ずっと局員として一線に出ていたっ! 命がけの現場も何度も経験したっ!
僕にはその経験があるっ! 僕は……のんきに学生をやっていた恭文やヴィヴィオ達とは違うっ!』
「言いたい事はそれだけか、三流」
言うに事欠いてアホな事言い出したので、鼻で笑いながらこのバカを睨みつける。それでエリオは、身体を震わせた。
「そうやって負けた事から言い訳して逃げて、どうして負けたのかすら考えられない奴は……絶対に強くなれないんだよっ!」
エリオは身体を震わせ、また項垂れ……瞳から涙を零し始めた。当然優しい言葉なぞかけない。
「この負けをただの偶然かなにかと捉えるか、もしくはちゃんと原因があるものと考えるか。
エリオ、そこをどうするかでお前の人間としての格は変わってくるよ。ちょっと頭冷やせ」
そこまで言って右手の人差し指で画面をぽちっと押して、通信終了。また試合の様子を見る。それでフェイトは横で心配そうに表情を曇らせた。
「エリオ、大丈夫かな」
「知らない。でも今のままじゃ絶対に強くなれないしスランプも解消出来ない。なんでもそういうもんでしょ」
「……うん」
僕だって同じだよ。負けたり失敗した事をただ『運が悪かった』とかそういう話に持って行ったら、ここまでこれなかった。
フェイトだって同じだよ。自分の経験や実績にあぐらを欠いて省みる心を忘れたら、今のフェイトは居ない。
負けない人間や失敗しない人間なんて居ない。だからこそその中身と向き合って、どうしてそうなったのかを考えて反省する必要がある。
そこを越えて始めて一皮剥けるのよ。もちろんそれは楽な事じゃない。カッコ悪い自分と向き合う事でもあるしさ。
特に今のエリオは厨二病真っ盛りだからなぁ。こういう事を疎かにしがちなのよ。うん、あれは厨二病だからだね。
だから今までの経験やなんかを理由にしがちなの。それで自分をどこかで特別扱いもしてる。……僕もあったなぁ。
過去の自分を思い出して、胸がチクチクしてしまう。まぁエリオにはこれを機会に厨二病を脱してもらおう。
それよりも試合の方だよ。エリオがバカやらかした事で、試合はもう決着しつつある。……無能な指揮官ほど愚図なものもないね。
「でもやっぱ家族だよね」
ヴィヴィオ達の方は……まぁぼちぼちって感じか。なので次は空海達をチェックしつつ、つい呆れた顔をしてしまう。
「一人でなんとかしようってとこがフェイトそっくりだわ。マダマの時もこんな感じだったし」
「うぅ……否定出来ません。というかその、それはヤスフミにも言えるんじゃ」
「言えないよ。僕の場合は一人でなんとかするしかないんだから。
特に魔導師組はどいつもこいつもアテにならない奴らばっかりだしさー」
「そ、そうでした。でも」
フェイトはなぜかそこで表情を緩め、僕の頭を撫でる。
「前だったらあんな事、絶対言えなかったと思うな」
「気のせいでしょ。ほら、フェイトだって……かーぼちゃー♪ かーぼちゃー♪ みーんなは……かーぼちゃ♪」
「やめてー! というか、それは今の話と関係ないよねっ! ヤスフミがただ私をいじめたいだけだよねっ!」
「よく分かったねー。フェイトをいじめてからかって弄ぶのは僕のライフワークだから」
「うぅ、パパになったのにそういうとこ変わらないってどうなのかなっ! ヤスフミのバカバカバカー!」
フェイトにぽかぽか叩かれつつも画面の中に集中。それで空海達は……あむを無視でキャロに集中攻撃を仕掛けてる。
空海が銃形態のゴウラスで牽制しつつ、あむがクラウンのスイッチを使った射撃で急所を狙ってる感じだね。
りまももなんとかキャロに対する攻撃を止めようとあむに対して四苦八苦しているけど、二人はそれも計算した上で攻撃してる。
ここは空海が念話で逐一指示飛ばしてるんだろうね。そうじゃなかったらさっきのあむの奇襲は成り立たない。
対してりまとキャロは攻撃をなんとか捌きながら距離を取ろうとするけど……逃げ切れない。そこにはひとつ理由がある。
よーく上を見ると分かるんだけど、インゼクトが一匹キャロ達から目を離さないようにして見張ってるの。
IMCSのルールの問題で大量には出せないから、目が良いのを一匹出して視覚でも二人の動きを随時追って来てる。
だから物陰に隠れようと爆煙に紛れて姿を消そうと、すぐに動きを掴まれる。いちいちサーチで調べるよりはずっと早い。
キャロももうとっくにそこには気づいている。今焦った顔しまくっているのはそのせいだよ。
まぁ戦法としては妥当なところだね。本来ならキャロより戦闘力の低いりまを速攻で潰すってのが定石だったりするけど。
そうしないのは、キャロの札を警戒してだよ。下手に隙を見せたら逆に潰されると思ってる。
それならりまの方がまだ横から襲われた時に対処しやすい。でもキャロもキャロで強いから決定打にはならない。
だけど決定打にならなくてもいいんだよなぁ。今の状況なら、空海達は無理に攻め込む必要はない。
「蒼凪君、相馬君達はどうしてこう……先回りとか出来るの?」
「あ、それややも不思議ー。キャロちゃんやりまたんの行くとこ行くとこにすっごい回り込んでるしー」
「簡単だよ。隠れているルーテシアがキャロ達の捕捉と先回りのための転送役を担当してるから」
「なるほど、姿を消して後方支援に徹しているわけですね。そうなると……ヴィヴィオさんとティミルさん達にも」
「うん、ちゃんとサポートしてるだろうね。こりゃ決まりかなぁ」
実力差があるならまだ良かった。でも実際にはそれはないに等しかった。いや、あったものをエリオが潰してしまった。
そこが拮抗しているなら、気持ち……と言いたいとこだけど、今はその段階じゃない。この場合戦力層の厚い方が勝つのは必然だよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
砂を払いながらキョロキョロすると、急に足がなにかに掴まれたような感触……嫌な予感がして足元を見る。
するとアタシの足元は、どういうわけかさっきまでなかった土台みたいなのに埋まっていた。
「なにこれっ!」
慌てて魔力を込めて吹き飛ばそうとするけど、地面から縄みたいなのが生えてあっという間にアタシの身体を戒めてくる。
それで全然動けなくなって……あははは、もしかしなくてもアタシハメられた?
しかもね、更に恐ろしい事が目の前で起きてるの。ゴライアスが……さっき消えたはずなのになんか錬成され始めてる。
それであっという間に元通りっぽいゴライアスはアタシに向かって右腕を振りかぶる。同時に拳にコロナの魔力がまとわりついた。
さすがにそれは勘弁なので……アタシは呼吸を整えて気持ちを高め、瞬間的に魔力を身体の外側に放出。
『ダメだよ、リオちゃん』
そうしようとしたアタシの前に、突然地面から生えた杭が突き出された。それはアタシの顔の少し前で止まったけど、ビクッとなって驚いちゃう。
『もう詰みだから、ここは大人しくギブアップしようね。そうじゃないとちょっと乱暴な手を使っちゃう事になるし』
「と、と言いますと」
『恭文さん仕込みの……締めつけとか? 結構痛いらしいけど』
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! さすがにこれ締めつけられたら生命に関わると思うんだけどっ!
あとコロナ、ちょっと性格変わってないかなっ! いくらなんでもこれはないでしょっ!
「てゆうかこんなのあんまりだー! アタシ全然活躍してないのにー!」
『ごめんね。でもこれチーム戦だから、リオちゃんにばっかり構ってられないんだー』
「ヒドっ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
やっぱり電撃対策が取られた。ヴィヴィオは荒く息を吐きながら、アインハルトさんと2メートルほど距離を取る。……でも良い感じ。
アインハルトさんは今ヴィヴィオしか目に入ってない。あとはコロナがぱぱっとやってくれるかどうかで。
”ヴィヴィオちゃん、おまたせっ!”
それだけでコロナの状態が分かって、ヴィヴィオは内心でガッツポーズ。
”コロナ、グッジョブっ!”
それだけ言ってヴィヴィオはまた突っ込む。……やっぱ一本じゃ足りないか。
ならもう一本作ってもらって二槍が出来るようにしよう。Fate/Zeroのランサーとか、カッコ良かったしねー。
そこを決意しつつ唐竹にグラムを打ち込むと、アインハルトさんはそれを左のスウェーで避ける。
カウンターでアインハルトさんが打ち込んで来た右フックを顔を左に動かして避けた上で、右足をアインハルトさんの腹に叩き込む。
徹も込みで叩き込んだ右足にもアインハルトさんは揺らがず、逆にヴィヴィオの足を左手で掴んで……ちょっと甘い。
「エストレア、ジェットモードッ!」
両足に装着しているジャッキが金色の光に包まれ、流線型のブースターに変わる。
このジャッキ型デバイスのエストレアは、ジンさんのレオーを元にして作ったデバイスなんだー。
でもジンさんのデバイスとは違う事がある。それは……これが飛行用のブースターになってる事。
「ファイアッ!」
今回は右足だけからブースターが火を吹き、それに押されるようにしてアインハルトさんが大きく吹き飛ぶ。
魔力エネルギーで飛ぶものだから、アインハルトさんは大きな衝撃波で吹き飛ばされたていどにしか感じないから一安心。
続けて右足を下げながらグラムを地面に突き立て、術式発動。
≪Break Impulse≫
地面に振動破砕を送り込んで、ヴィヴィオの前面の地面を大きく破裂させる。轟音が響く中、別の術式も発動。
≪Sonic Move≫
ヴィヴィオは金色の光に包まれて地面を駆け抜け、アインハルトさんの背後に一気に回り込む。
でもそんなヴィヴィオの動きと次の瞬間に打ち込んだグラムでの刺突は、こちらに振り向いたアインハルトさんにあっさり対応されちゃう。。
アインハルトさんは振り向きながら右の掌底でグラムを払って軌道を逸らし、同時に柄を掴んで動きを止めてくる。
そのままヴィヴィオの懐に入り込んで……でもヴィヴィオはその前にグラムを手放して身体を伏せ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
アインハルトさんの腰にしがみつくようにして、ヴィヴィオは体当たりをする。
でもアインハルトさんは動かなくて……次の瞬間、上から強烈な肘での叩き込みを打ち込まれる。
思わず力を抜きそうになるけど、それに構わずに電撃を発生させてアインハルトさんを焼く。
それで更に身体を落として、アインハルトさんの足を押さえ込んでいく。
「無駄です」
二発目は拳が打ち込まれ、ヴィヴィオは電撃をストップ。それでほくそ笑みながらアインハルトさんから離れ、地面に落ちてたグラムも回収。
でもさすがに連続はキツくて……地面を転がってはぁはぁと息を荒くしちゃう。
「私は……負けるわけにはいかな」
アインハルトさんは言葉を止め、ハッとしながら自分の足元を見る。
そこは……いつの間にか地面から生えた縄に戒められていた。
「これは……!」
しかも縄はそこ以外からも生え、あっという間にアインハルトさんの両腕や首元を一気に縛り上げる。
うーん、さすがはコロナ。さっきの妙な断空の事も加味して、絶対に動きが取れないようにしてくれてるんだね。
それでアインハルトさんも、どうしてヴィヴィオがあんな事したのかよーく分かったらしい。うん、時間稼ぎだよ。
ヴィヴィオはコロナがフリーになったって分かったから、アインハルトさんの動きを止めるためにあえてああしたの。
というか、あれしか思いつかなかった? 本当はバインド使おうと思ってたけど、アレだしねー。
「ヴィヴィオちゃんっ!」
「分かってるっ!」
ヴィヴィオは左手でどこからともなく取り出したパスをベルトにセタッチ。
≪Full Charge≫
ベルトのクリスタル部分が金色に輝き、その火花がグラムの切っ先に伝わる。それによりグラムの切っ先が真ん中からぱかっと開いた。
まるで鋏のように啓いた刃の間から、クリアカラーのもう一つの刃が現れた。
その中で虹色の泡が次々と生まれ、その泡達が次々と弾ける。すると刃が一気に泡と同じ色に染まっていく。
これは魔剣X製の刃なんだー。ヴィヴィオのアイディアで作ってもらいましたー♪
その刃はあっという間に金色に染まり、ヴィヴィオはその魔力で鉄輝を打ち上げる。
「いくよ、ヴィヴィオの必殺技っ!」
ヴィヴィオは金色に輝くグラムを右手で持ち上げ、頭上で一回転。それから一気にアインハルトさんに踏み込む。
「雷牙」
そのままグラムの切っ先をアインハルトさんの胸元に突き立てた。
「激突っ!」
打ち込まれた切っ先から火花を迸らせる極光が走り、アインハルトさんは衝撃で吹き飛びその身体を焼かれていく。
電撃によるスタンダメージはなくても、魔力ダメージはばっちり叩き込んだ。
だからアインハルトさんは砕ける縄達と一緒に、地面に落ちる。……初勝利だけど、ちょっとなぁ。
だってヴィヴィオ一人で勝ったわけじゃないし。でもいいか、今はチーム戦なんだもの。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
遠慮無く打ち込んでくる槍をサーベルで払いつつ下がって……日奈森は真城の射撃に右往左往してるな。
だがそれでいい……そう思いつつ左に転がりながら槍での刺突を避け、続けてやってきた右薙の斬撃をサーベルの根元で受け止める。
それから左手を振り上げ……キャロが銃攻撃を警戒して強引に槍を振り抜き、俺はそのまま吹き飛ばされた。
地面を転がって起き上がってキャロの方を見ると、こっちに魔力弾を10数発ぶち込んできた。
俺は右のゴウラスも銃形態に変化させ、そのまま前を狙ってトリガーを引きまくる。
目の前でいくつもの爆発が起こり、その中を突き抜けて来た弾丸達を狙い右腕を振りかぶってまた形状変換。
変形させながらサーベルを右薙・袈裟・逆袈裟・突撃しながらの刺突で真っ二つにしていって爆煙の中に飛び込む。
爆煙の中でどこからともなく弾丸が出てきて、それらは誘導されるかのように二つのゴウラスの弾倉に入った。
≪Final Wave≫
いやぁ、こういう込め方も出来るように調整してもらってホント楽だわ。ちょっと魔力使うけどな。
とにかくそのまま爆煙を飛び出し、キャロに迫る。……まだだ、まだ使うな。俺は右のサーベルを唐竹に打ち込む。
キャロはそれを槍の柄で受け止めつつ左に流し、俺の腹に向かって右足を叩き込んでくる。
それは左足を上げてなんとか受け止め……左のゴウラスを奴に向ける。
「さすがに」
その瞬間、俺の身体を桜色のリングが戒めた。同時に腕の動きも制限されて、銃口は下にしか向かない。
右のゴウラスも同じだ。右腕も一気に戒められてるから、手首動かしてキャロに切っ先向けるくらいの事しか出来ない。
「ワンパターンだよっ!」
そのままキャロは動けない俺から距離を取り、身を縦に翻しながら3メートルほど後方に着地。
銀色の宝蔵院槍の刃が桃色に染まり、キャロはそれを右に振りかぶりながら俺を睨みつける。
「まずは……一人っ!」
そのまま踏み込んで刃は袈裟に振り下ろされ……俺はその瞬間、思念でトリガーを引く。
「いいや」
ゴウラスの刃が眩く輝き、こちらに接近してきたキャロの腹に向かってそれが射出された。
刃はその根元と鍔元が刃と同じ色の火花で繋がれたままキャロの腹を捉え一気に吹き飛ばす。
「また一人だっ!」
「な……!」
ちょっとしまらねぇが……しゃあねぇ。お前がこうしてくる事は分かってた。
今の今までゴウラス見せつけて脅してたのは、全てはこの瞬間のためだ。つーわけで切り札一つ切るぜ。
「コートパージッ!」
俺が羽織っていたコートが一気に弾け、その瞬間今近くの壁に叩きつけられたキャロのバインドも粒子に還る。
……実はこのコート、この手の拘束魔法を破壊する術式を組み込んでんだよ。
前に出場した時、バインド使う相手に結構苦戦してな。それ対策になにかないかと思って、自分で組んだ。
ここは緊急用のジャケットパージの機能を応用した。真城達にもまだ見せてない取っておきだ。不意はつけたからOKだな。
火力関係をゴウラスのファイナルウェーブに一部でも頼るっていうのは、悪い事ばっかじゃない。
こういう防御関係の魔法をその分充実させる事も出来るって事だ。普通の戦闘ならさほどじゃないが、IMCSルールだと途端に意味合いが変わる。
こういう魔法もスロット食うからよ。結構重要なとこだったりする。……それじゃあ壁に叩きつけられたキャロにもう一撃だ。
俺はコートとバインドを構築してた魔力の粒子が舞い散る中、身を右に捻る。
「必殺っ!」
すると射出されたゴウラスの刃は俺の動きに合わせて空間を薙ぐように動き、背後から迫っていた真城の銃撃も一刀両断に斬り裂き爆発させる。
「俺の必殺技」
それから壁に埋め込まれたキャロに向かって迫り……そのまま壁ごとキャロを一刀両断にする。次の俺は腕を大きく振り上げ。
「パートU!」
その動きに合わせて刃はまた壁を斬り裂きながらキャロに迫り、左の肩口から腰にかけてを斬り裂きダメージを叩き込む。
刃は地面に埋まるが、もう攻撃は終わったのでこちらに引き戻されるように戻ってくる。……俺はそのまま、目を見開いたキャロに左のゴウラスの銃口を向ける。
「コイツはおまけだっ!」
≪取っておきなさいっ!≫
こちらに戻ってくる刃と入れ替わるように、ゴウラスの銃口からオレンジ色の魔力の奔流が放たれる。
キャロは避ける事も出来ずにソイツにそのまま飲み込まれて、吹き飛ばされていった。……これでまた一人だ。
「へ……決まったぜ」
≪――ちょ、アンタ後≫
俺は肩に担いでいたサーベルゴウラスを振りかぶり、背後に向かって右薙に打ち込む。
それで俺の頭目がけて放たれていた赤い弾丸を斬り払って、なんとか終了だ。
「後ろがどうした?」
≪いや……なんでもないわ≫
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「キャロ……く」
≪りま様、どうしましょうっ! いくらなんでも3対5は不利過ぎますー!≫
『3対5じゃないよ』
そこで突然空海達の方からここには居ないはずの人間の声が聴こえた。これは……ヴィヴィオか。
『1対5だよー。こっちはもう終わっちゃったー』
≪えぇっ!≫
しかもご丁寧に画面まで開いたわ。その中に、縛り上げられているリオや倒れているアインハルトの姿が見えた。
≪アインハルトさん達が……嘘ー!≫
「これは、どうしようもないわね」
私は大きく息を吐いて、クロを持ったまま両手を上げた。
「降参よ。さすがに無理だわ」
≪りま様……ごめんなさいー! 私がもっとしっかりしてればー!≫
「バカね。あなただけのせいじゃないわよ。だから泣かないの」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「終わったか。でも……うーん」
「お兄様、なにか気になる事でも?」
「そう言えばさっきから唸ってばかりだったな。一体どうした」
なんかキャベツの葉っぱ丸かじりしてるヒカリやシオンの疑問に答えるように、あの時のアインハルトの様子を映像に出す。
「さっきのアインハルトのアレか」
「うん」
ショウタロスに頷きつつ、あの妙な衝撃はを見て更に首を傾げる。
「あれはバインドを術式で解除したとかじゃない。力ずくで振り払ったって言うには洗練され過ぎてる。
アインハルトが断空――覇王流の歩法を使っていたのは分かるけど、それだけであれは」
「アンチェイン・ナックルね」
「まさか……あれがアンチェイン・ナックルッ!?」
メガーヌさんとノーヴェが二人同時に声をあげ、お互い驚いた様子で顔を見合わせる。
「ノーヴェちゃん、あなたどうしてそれを」
「あー、えっと」
それでノーヴェがバツが悪そうに右手で頬をかき、メガーヌさんから目を逸した。
「うちで大掃除してた時、クイントさんの研究ノート見つけたんだ。その中に」
「……そう」
どうしてノーヴェが今みたいな仕草を見せるのか、僕にも分かった。
それはメガーヌさんにも分かったらしく……なにも言わずに僕に右側から近づいて、身体をくっつけて画面を見る。
「研究ノート……あれれ、確かノーヴェさん昨日そんな事言ってなかった?」
「そう言えば俺も覚えがあります。水斬りはそのノートから抜粋したとか」
「同じノートだ。それで実はな」
バツが悪そうにしていたノーヴェは気を取り直したのか真剣な表情に戻り、アインハルトの居る方を見る。
「あの訓練は、アンチェイン・ナックルって技を完成させるための必須練習項目だったらしい」
「あれがですかっ!?」
「あぁ。脱力した停止状態から、足先から下半身へ力を伝え……回転の加速で拳を押し出す。
その加速により、バインドやシールドも意味を成さない強烈な衝撃波が生まれるそうだ」
「それがアンチェイン・ナックル。クイントがミッド以外の武術関係も研究した上で創り上げたストライクアーツの奥義とも言うべき技よ」
足先から下半身を伝え……もう一度映像を巻き戻して見てみる。確かにそれっぽい動きがあるな。
地面を踏み砕いたところを見ると、断空の技法を使っているのも分かる……断空?
「メガーヌさん、待ってくださいっ! それ私全然知らなかったんですけどっ!
というか、ノーヴェもどうして教えてくれなかったのかなー! 私達姉妹なのにー!」
「いや、しょうがねぇだろ。ノートにはそういう基礎理論や基礎練習法だけが書かれててさ。
実際完成していたかどうかもさっぱりだったんだしよ。アタシはその練習法だけ使わせてもらってたんだ」
「でしょうね。クイント『とっておき』って言って私にもあんまり見せてくれなかったから。でもまさか」
メガーヌさんは感心しているとも呆れているとも取れる表情を浮かべながら、ため息を吐いた。
「あの子がそれを出来るなんて。ノーヴェちゃん、アインハルトちゃんにそこを教えたりは」
「してないです。てゆうか、アタシも今の今まで幻の技としか思ってなかったから」
「ノーヴェ、水斬りってあれだよね」
僕は一つ確信が掴めたので、ノーヴェに一つ質問をする。
「ヴィヴィオからもメールで聞いてたけど……水の中で拳突き出して、水面割るってやつ」
「あぁ」
だとすると……僕は頭の中で幾つかのピースを噛み合わせて、ようやく納得出来た。
「あぁそっか、アインハルトなら出来るのかも」
「ヤスフミ、どういう事?」
「アインハルトのカイザーアーツは、地面を噛む事で力を発揮する」
ここは今までの話の中で解説した通りだね。アインハルトの加速や格闘時のパワーは、全てここから来てる。
それをより強く攻撃に応用したのがアインハルトの奥の手である覇王断空拳だよ。
「それは地面を蹴った事で生まれる反発力をロスする事なく拳や足――身体全体に伝えて打撃力に変えていく技能。
だからアンチェイン・ナックルを使う上で必要となる基礎技能自体は、元々習得済みなんだよ。そこに水斬りでの経験が生きて」
「アンチェイン・ナックル……発動させやがったのかよ。さすがに信じられねぇぞ」
「でも、間違い無いわ」
メガーヌさんは確信を持って、どこか嬉しそうに微笑む。
「あれは私が見たアンチェイン・ナックルだもの。まぁクイントにはちょっと負けるけどね」
「あの、メガーヌさん」
「なに?」
そこで僕を見てきょとんとしますか。あなたほんと……お願いだからこの腕をなんとかして欲しい。
「どうして僕と腕を組むんですか。というか胸押しつけないでください」
「そ、そうですよっ! ヤスフミは私の旦那様なのにー!」
「あらいいじゃない。私は恭文くんの現地妻4号なんだから」
「「それはもうやめてー!」」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
というわけで、なんかまた恭文にくっついてたメガーヌさんにはみんなの前なので自重してもらった上で全員集合。
てゆうか、ルールーも加わろうとしてフェイトママと対決状態になってたから、大変だった。
とにかく相当ヘコんでいるエリオさんも含めて、全員治療魔法をかけてもらった上で反省会開始です。
「というわけで、もうすぐ次の試合行ってもいいけど休憩も兼ねてちょっと反省会だよ。まず……エリオ」
現在エリオさんはギザギザな土台の上に正座させられていて、膝にはギザギザなおもしも乗っている。
しかも縛られてる。復活したキャロさんが笑顔で威圧してるから、もう怯えまくっているのが恐ろしい。あれ、拷問だよね。
「今回そっちのチームが負けた全責任はおのれにある。そこの辺りは……キャロ、説教任せたから」
「分かった。エリオ君、さすがにあれはスランプじゃあ言い訳立たないよ。
私も止めなかったから同罪だけど……だからこそ、一緒に反省していこうね」
「は、はい」
エリオさん、かわいそうに。しかも良い笑顔なのに威圧感が凄いのが……ヴィヴィオはしーらないっと。恭文の話に集中しようっと。
「あとはアインハルトとリオもちょっと失敗したね。二人とも、チーム戦だって事忘れて個人戦に走っちゃダメだよ」
「えー! でもでも、あの状況だとそうなるのにー!」
「甘いね。それでもならないようにしていくのが定石なのよ」
全く持ってその通りなので、空海さんやティアナさんが凄い頷いてる。
空海さんはやっぱサッカー部キャプテンの経験が生きてるんだなー。こういう事になると一家言持ってるみたい。
「アインハルト、どうしてあのタイミングでヴィヴィオがタックルしておのれの動き止めに来たか分かる?」
「それは……コロナさんの援護の隙を作るために」
「その通り。でもそれだけじゃない。あの状況でヴィヴィオはおのれに倒されてもいいと気持ちを固めてた」
「……え」
「だよね、ヴィヴィオ」
まぁその通りなので、困った顔しながら頷いた。もちろん最悪の場合っていうのがつくけど。
「そんな、どうしてですか。戦いなのに倒されてもいいなんて」
「チーム戦だからだよ。もちろんそうならないように防護策は張ってただろうけど、最悪の場合はと考えた」
む、ヴィヴィオの考えてる事が見抜かれてる。うーん、やっぱりヴィヴィオと恭文って以心伝心で通じ合ってるのかもー♪ ちょっとうれしくなっちゃった。
「あの場でやるべき事は、いきなりバインド・シールド無視の衝撃波なんて出せるようになったおのれを止める事。
チーム戦では、ヴィヴィオ一人が勝ったところで意味がない。全体の勝利のために行動する事が必要」
「あのね二人とも、私も同意見なんだ」
そう言って困った顔をするのは、なのはママ。というか、恭文をちょっと恨めしげに見る。
「恭文君ひどいよー。そういうのは私の仕事なのにどんどん話進めるんだから」
「いや、僕は魔王がちゃんと世代交代出来るようにと思って出番を取ってるのよ」
「だから魔王じゃないよっ! もう私、恋する乙女なんだからっ! もう魔王要素ないんだからっ!」
ママ、さすがに今年で24歳なのに乙女ってどうなのかな。せめて女性って言って欲しいなと……娘としては思った。
「とにかく……例えばコロナがリオをいいようにあしらって拘束したのもそれ。
リオと正面からぶつかって勝つより、全体の勝利を優先した」
「今言ったような一見無茶な手を取ったのもそれ。コロナだったら隙を作ればおのれの動きを完全に封じられると考えたから。
……二人に聞くけど、お互いの相手とやり合っている最中相手との念話なりで状況把握とかしてた?」
二人はハッとしながら首を横に振った……って、それはダメだよー。
ヴィヴィオも戦いながら向こうの方気にしてたのにー。あとはルールーに情報教えてもらったり?
「だからこっちのチームは全体的に連携が出来てなかったってのが痛かったね。
そこは相手チームのスキルに詳しいメンバーがちゃんと説明してなかったっていうのも大きいかな。
私が思うに、あの場で例え揉めてでもそこをしっかりとしてたらまた結果は変わったと思う」
「確かにね。私的には空気を読んだつもりだったんだけど……リオ、だめじゃない。もっとしっかりしなきゃ」
「はい」
リオは反省しきりという様子で頬をかき……ハッとしながらりまさんを見た。
「え、アタシっ!? そこアタシオンリーになっちゃうんですかっ!」
「いやいや、そこりまさんもだからねっ! リオだけのせいじゃないからっ!」
「大丈夫よ、なのはさん。私は過去を振り返らない女だから」
「大丈夫じゃないよー! こういうとこをきっちり反省していかなかったら絶対強くなれないんだからねっ!?」
そうは言いつつもちゃんと『分かった』と言って頷く辺り、りまさんはしっかりしてる。そんなりまさんを見て、ママも一安心。
「でも個人個人で見ると、エリオ以外のみんなはちゃんと戦えてた」
さり気なく笑顔でエリオさんを抜くところがママの外道たるところ。あぁ、エリオさんの背中になにかが突き刺さってる。
「確かにね。アインハルトに至ってはアンチェイン・ナックルなんて打てたし」
「そうだよー! あんなの私にも出来ないのにー!」
「アンチェイン・ナックル?」
「あー、そこはあとでアタシとメガーヌさんとで説明する。……なのはさん、話進めてください」
アインハルトさんが困った様子でヴィヴィオを見るけど、ヴィヴィオも知らないので首を横に振るしかなかった。
「それでキャロは……私見ててほんとびっくりしたよー。4年間ちゃんと頑張ってたんだね。
うん、成長が見て取れたしサリエルさんの影も見えた。フェイトちゃんもそうだよね」
「もちろん。私、キャロに追い抜かされないようにもっと頑張らないと」
「あ、ありがとうございます。でもその……まだまだです。結局負けちゃいましたし」
「そこも反省点だね。相手の情報を掴めるチャンスを逃しちゃってたし……それで空海君のチームだけど」
ママ達は空海さんやヴィヴィオ達の方を見る。それであむさんがちょっと緊張気味。
「全体的に良くまとまってたし、良い感じだったんだけど」
「だけど……なんでしょうか」
「それは相手チームの不備や不意打ちが成功したからっていうのが大きい。
もしもう一戦やったら、絶対に同じ手は通用しないと思うんだ。特に空海君」
ママはそこで空海さんを見て、少し困った顔をした。
「あの最後の一撃は見事だったけど、ちょっとリスキー過ぎるね。
バインド対策があったとは言え、あれは感心しなかった」
「えっと……だめっすか」
「うん、だめだよ。ここはエリオに恭文君が言った事と同じ事が適応される。
空海君だったらもうちょっと安全な撃ち方が出来るだろうし、そこは勉強していこうか。
そこを改善すると、IMCSみたいなトーナメント戦でもより勝率が上がると思う」
「IMCS――はいっすっ!」
空海さんが噛み締めるようにそう言って頷いたのを見て、ママはどこか嬉しそうに笑う。それからあむさんとヴィヴィオの方へ視線を移した。
「あむさんもほぼ初使用の装備でよく頑張ってたけど、もうちょっと積極的に動けるようになろうか。
……でも難しいよね。だってみんなの能力分スイッチあるもんね。そこは実験した上で」
「そ、そうします。まだ使ってないスイッチ大量にあるし」
「そうだよね。恭文君、やっぱりスイッチで戦闘は無理があるんじゃ」
ママの視線を受けて恭文は……うわ、頷いちゃったよ。そこ頷くとは思わなかった。
「だから普通のジャケットも使えるようにしてるのよ。僕だったら余裕なんだけど、あむだしさぁ」
「アンタそれどういう意味っ!? あとアンタ無駄にこういう事器用なんだから一緒にされても困るんだけどっ!」
「あむ、もしオリジナルの魔法や戦闘スタイル使いたい時はそっちで試してみてよ。ルティも調整が必要なら頑張るしさ」
「ま、まぁその……ちゃんとそういうのも用意してくれてるのは感謝するよ。ありがと」
あむさんは嬉しそうに笑いながらもそっぽ向いて……それでママはヴィヴィオを見ながら困った顔をする。
「ヴィヴィオは……そうだなぁ、やっぱり空海君と同じでリスクに対しての読みが少し甘いのがダメだね。
アインハルトさんが打撃でヴィヴィオを剥がそうとしてたからいいんだけど、あれがバインドとかだったらアウトだよ」
「その時は……死なばもろともー」
「それはもっとだめっ! チーム戦で重要なのはいかに生き残って相手だけを減らすかという事なんだから、自爆なんてもってのほかだよっ!」
「はーい」
まぁヴィヴィオもちょっとやり方ヘタだったなーと反省したので、そこは素直に頷く。
「それでルーテシアもそつなく動いてたし……もしかして相当鍛えてる?」
「うん。魔力封印が解けてからはがっつり。局の魔導師の人達の訓練にも混ざってるんだ」
「にゃはははは、そうか」
ママ、笑顔で次に行こうとするのやめない? ほら、ルールーが恭文にウィンクしてるから。そこはツッコむべきとこじゃないかなぁ。
「コロナも中々だった。相性的に良くはない相手なのに、よく動けたね」
「ありがとうございます。そこはその、以前恭文さんに教わった事や恭文さんの戦闘映像を元に」
それで全員が固まって、恭文の方をジッと見る。というか、ヴィヴィオも面白そうなのでそれに乗っかる。
「ティミルさんのやり口にすっごいデジャヴ感じてたんだけど……やっぱり蒼凪君だったんだ」
「やはりそうでしたか。あの相手のやる気を空回りさせて自分のペースに持っていくやり口は、まさしく蒼凪さんそのもの」
「恭文、コロナちゃんに謝ろうかー。大丈夫、ややも一緒に謝ってあげるからー」
「おのれらなにが言いたいのっ!? あと僕が悪いみたいな空気出すのやめてよっ!」
恭文、大丈夫だよ。ヴィヴィオは恭文の味方だから。ヴィヴィオは恭文のお嫁さん候補だし。
なのでガッツポーズとだっちゅーので……あ、だっちゅーのはだめだ。もう子どもに戻っちゃったもん。
「まぁ全体の総括としてはこんな感じだけど……次はどうしようか」
「えっと、次に出るメンバーは僕とフェイト、豆芝とティアナとノーヴェ、あとは魔王ななのはに」
「だから魔王じゃないよー!」
「リインとディードだね。4対4でちょうど良い感じになるけど」
恭文はそこでヴィヴィオ達の方を見て、なぜかにやりと笑った。
「この中で次も出たいって人は居るー? エリオはキャロの説教が待ってるからアレだけどー」
「はいっ!」
「はい」
そんな中素早く手を上げたのは、アインハルトさんと空海さんだった。
「今年のIMCSに向けて、なのはさんやスバルさんとガチにやりたいんだよっ! 参加させてくれっ!」
「私も……エース・オブ・エースや閃光の女神、それに古き鉄の実力を肌で感じたいです」
「そっか。他には……居ないみたいだね」
ヴィヴィオもみんなも一旦休憩モードに入ってるからなー。というか、改めて恭文やママ達の模擬戦を見て勉強? こういうのも大事だから
「なら二人も入れて5対5でやろうか。なのは、早速チーム分けを」
「あ、それならもう考えてるよ。二人はそこにそれぞれ入れればOKだから」
なのはママは力強く頷いて、目の前にモニターを展開して右手の人差し指で画面をぴぽぱと押していく。
「まず私とディード、リインとスバルがAチーム。次にティアナとフェイトちゃんと恭文君とノーヴェがBチーム」
「……なのは、ディードに手出したら殴るから。ディードには健全に育って欲しいのよ」
「どこでそういう答えになるのかすっごく気になるけど、今は無視するねっ!
あと私は百合じゃないよっ! ちゃんと男の子と恋愛中なんだからー!」
「分かってるって。ようは男役なんでしょ? それでおのれが責められる側でしょ? おのれドMだもんね」
「違うよっ! と、とにかくAチームには空海君に入ってもらって……Bチームにはアインハルトさんだね」
百合じゃないけど10歳年下の子とお付き合い始めてるなのはママは一度咳払いをしてから、今名前の出た二人を見る。
「大丈夫っすっ!」
「私も……問題ありません」
「むー、待ってくださいですっ! 問題大有りなのですよっ! リインと恭文さんが一緒じゃないのはおかしいのですー!」
「それじゃあ改めて参加する子の体調確認をして……あとアインハルトさんはメガーヌさん達から少しお話があるからそれも聞いて、その上でスタートだね」
「なのはさん無視するなですー!」
そんな事を言うリインさんはきっと知らない。IMCSではユニゾンなんて出来ないって事を……知らないって不幸だなぁ。
とにもかくにも、今回は大人組の模擬戦。うーん、やっぱ派手な潰し合いになるのかなー。ワクワクだよー。
(Memory09へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、久々のVivid編です。でも……お願いだから『更新まだ』とか催促かけるのはやめて欲しい。逆に疲れて書く気がなくなるから」
フェイト「いきなりダウナー!? どうしたのかなっ!」
恭文「だって同じ人からと思われるその手のメッセージが大量に……作者は疲れてしまった」
(……はぁ)
恭文「というわけで今後はそんな声に応えてVivid編は半年に一回更新で頑張っていこうと思います。
……え、スパンが長い? そういう声は何回も何回も同じ事を送った人に届けて欲しい。
もう作者と僕は知らない。というわけでVivid編の第9話です。お相手は蒼凪恭文と」
フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……エリオ、派手に負けちゃったね」
恭文「チーム全体がそれだね。不備はまぁまぁ多かったって感じで。例えばこれでエリオが魔王だったらまぁなんとかなるのよ。
でもエリオだもの。ここまでとまと随一のジミーだもの。実力伯仲なのを読み間違えた時点でこうなるのは決定していた」
フェイト「エリオ一人が頑張っても意味がないって感じなんだよね。あとはそこで空海君達が無理をせず対応していけば」
恭文「特にバックがねー。StS本編を見ている方々は分かるけど、召喚師は実はかなり有益なスキルが多いのよ。
召喚獣使って偵察とか、転送魔法で味方呼んだり送り込んだり……バックスで専門で動かせるうちはそっちで動かした方が得ってくらい」
(……実際ルーテシアが無事に残ってる時点でこの結果は変えようがなかった)
恭文「まぁそんな話はもういいか。半年に一回掲載になったし」
フェイト「そ、それはやめようか。ね? さすがにそれはね」
恭文「だが断る。というわけで最近カードを手に入れた作者は……一人でバトルスピリッツしてます」
フェイト「一人でっ!?」
(だって……一緒にやる相手が近くに居ない)
恭文「でもこれもしょうがないのよ。デッキの回し方とかゲームルールとか覚えないとショップバトルも行けないし」
フェイト「そのためなんだね。それでどんな具合かな」
恭文「えっとね、どういうわけか手札事故率が多くて……特にダブルノヴァデッキが」
フェイト「それだめだよねっ!」
(やっぱ最初はストラクチャーのままがいいのかなとか思ったり……ハジメデッキね。なんか強いっぽいし)
恭文「しかも入手したカードをちょくちょく入れ替えてダブルノヴァがジークヴルム・ノヴァデッキになっている有様」
フェイト「そ、そっかぁ。でもそうなるとアニメ再現難しいよね」
恭文「元々重くて事故率高めなデッキらしいし、調整は必要っぽいね。まぁそういうのも含めて楽しく遊んでるという報告だけ。
あとはバンダイナムコさんに頑張ってもらって、ゲームを出してもらうだけだよ。それで練習した方が早そうだし」
フェイト「出るといいよね。コア使う関係で難しいって聞いた事があるけど」
恭文「らしいね。……PSVITAなら出来るかな」
(というわけで、どんどん対応ネタを広げているという話でした。
本日のED:及川光博『君がまってる』)
恭文「そしてとまとの対応ネタはアイドルマスターにも本格的に広がった。ここはニコ動のあれこれのおかげだよ」
フェイト「ゲーム自体はしてなかったんだよね」
恭文「うん。だってゆかなさん出てなかったから」
フェイト「それヤスフミの趣味だよねっ! 作者さんの話じゃないよねっ!」
恭文「単純に乗り遅れただけだよ。作者はドン臭いから……というわけでフェイト、アイドルにならない? 僕が育成するから」
フェイト「え、えっと……それは嬉しいけど子育てあるし、ちょっと難しいかも。
それに私はアイドルじゃなくて、ヤスフミのお嫁さんとして頑張っていきたいな」(もじもじ)
ティアナ「いちゃつかないでもらえますっ!? てゆうかそれ意味分かんないんですけどっ!」
(おしまい)
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