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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory07 『共に戦うという意味/PART2』



ついに始まる模擬戦――あたし達はチーム毎に指定されたスタート地点に立った。

向こうも同じようにしているはずなので、あとはセットアップするだけで試合開始。……うぅ、ドキドキしてきた。

訓練はしてたけど、今も横ではしゃぐように翼羽ばたかせてるこの子と一緒に戦うのは初めてだしなぁ。



ヤバい、マジ緊張してきたかも。と、とにかく深呼吸深呼吸。





「落ち着けよ、日奈森」



空海がそう言いつつ、手の平サイズで長方形の端末を取り出した。てゆうか、あれが空海のデバイスの待機状態。



「別に一人で戦うってわけじゃないんだ。よく言うだろ?
一人はみんなのために、みんなは一人のためにってさ」

「……それくらい、分かってるし」

「ははは、そうか。んじゃ」



空海は手の中の端末を軽く回して、一気に右だめに引く。



「行くぜ、ゴウラスっ!」

≪だから……そのださい名前なんとかしてよっ! あたし女性人格って言ってるじゃないのよっ!≫



そのまま端末から聴こえた声完全無視で端末を前に突き出す。



「変身っ!」

≪無視するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!≫





空海の身体がオレンジ色に包まれ、その中で緑のコートに白のロングパンツ、黒のインナーを身に着けた姿に変わる。

ブーツは茶色で革っぽい感じになっている。左手には同じ色のグローブを、右手には銀色の薄手のガントレットを装備。

最後は頭にゴーグルを装着して……変身完了。光が弾け、空海は背に黄色の星マークが描かれたコートをなびかせる。



あたしは何度も見てるから、空海のジャケットのデザインはすぐ分かる。





≪Sky Form≫

「そんじゃま」





それで空海は両腰のホルスターに入れてあるオレンジ色の銃を取り出す。えっと……ラッパ銃とか言ってたっけな。

黒い銃口がラッパみたいに開いてて、上に銀色で丸い円筒形のパーツが銃身に収められる形で付けられてる。

それで柄の上の方にクリスタル状の星マークがあって、銃身下にはオレンジ色の小さな刃がある。



空海が右手で持っている方の銃を手の中で回すと銃は一瞬オレンジ色の光に包まれた。

そうかと思うと、次の瞬間にはオレンジ色の刃を持つサーベルに変わった。反り返った刃は全て魔剣X製。

全体の色や特徴的なパーツ配置はさっきと同じ。あとはアメイジアみたいにサーベルガードがあるくらい?



全長60センチ前後のそれを肩に担いで、空海は不敵に笑った。





「派手に行くかっ!」

≪その前にあたしの話を聞けっ!≫

「空海、とりあえずゴウラスって名前はやめない? さすがにそれは」

「なんでだよ、カッコいいじゃねぇか」

「可愛い名前にしないっ!? 女の子なんだしさっ!」



ダメだ、コイツも恭文と同じでセンスない。だいぶ前から知ってたけど……ダメかぁ。



「そういうお前はどんな名前にしたんだよ」

「そ、それは……これから見せるし。それじゃあ行くよ、フォルティア」

「ぴよぴよー♪」



フォルティアはラテン語で『希望』――なんかこう、いいなぁって思って考えてたんだ。

まさか鳥とは思ってなかったけど。でも長いので、一応略称も考えた。だってほら、咄嗟の時に呼びにくいし。



「ルティ、ベルトモード」

「ぴよー」





ルティはピンク色の光に包まれて、四葉のクローバーのレリーフが刻まれている銀色のバックルになる。

そのレリーフの葉の色は時計回りにピンク・青・緑・金となっていて、アイツがなにイメージして作ったかはすぐに分かった。

あと、結構ぶ厚めなバックルの右横にグリップ的なものがついてるところからもよーく分かった。やっぱアイツはバカだ。



あたしはそれを左手で持って、腰の前に当てた。そうしたら両端からベルトの帯が飛び出て腰に巻きつく。

その瞬間両腰に5センチ前後の装置が入るようなスロットが装着される。装置の中には既に装置が――スイッチが入っている。

スロットの前にはそれぞれマークが描かれていて、右側はハートとスペードが描かれていた。



ハートマークのスロットに入っているのは、同じくハート型で押し込むタイプのスイッチ。





≪Heart≫



その隣にあるスペードのスロットには、蒼いレバー式のもの。



≪Archaic≫



左側のスロットはクローバーとダイヤのマーク。まずクローバーには王冠型でつまんで回すタイプのもの。



≪Royal≫



ダイヤには赤色で星型の部分を押し込むタイプのものがある。



≪Clown≫



スロットに刻まれたマークの下にレバー式のスイッチが付けられていて、あたしはそれを右の前の方から上から下に入れていく。

全てスイッチを入れたら、右手でバックル横のグリップを握って……もう覚悟決めて、前に押し込む。



「変身っ!」



スイッチは少しだけ前に移動して、すぐに元の位置にバネでも仕込まれてるみたいに戻っていった。



「……日奈森。お前、そうなんだな。お前もついにこの良さが分かって」

「違うしっ! なんかこうしないと変身出来ないって」

≪Amulet States≫





言ってる間にピンク色の光に包まれて弾けて、あたしの姿があっという間に変わった。

えっと、黒のハーフパンツに黒と紫のストライブなシャツと薄手の白のジャケット。

あとは首元に巻かれてる長めのマフラーっぽいのと、薄いガントレットとアンクレットか。



結構サイズが大きいから、外から見ると半袖なジャケットやハーフパンツと繋がってるようにも見える。

でもこれ、おかしい。なんかこう、ガントレットは腕の外側に、足は前側にへこみがあるんだ。

へこみは色つきでそれぞれ形が違ってて、右手がピンク色のハートで右足が青のスペード。



左手が緑のクローバーで、左足が黄色のダイヤ。とにかくこれでジャケット装着完了だけど……さて、やるか。



視線を恭文の居る方に映すと、ルティが通信画面開いてくれた。そこに恭文の顔が映ってて……めちゃくちゃ良い笑顔だし。





「恭文、これなにっ!? てゆうかこれ、フォーゼじゃんっ! しかもなんか服ださいしっ!」



このベルトやらガントレットやら……なんか今年やってる仮面ライダーだしっ! てゆうか初めて見た時びっくりしたしっ!

あとあと、ヴィヴィオちゃんや空海が凄い目キラキラさせ始めてるのが恐ろしいんですけどっ!



『あー、ごめんね。だから自分でデザイン変えて? 本来バリアジャケットってそういうもんだし』

「……あ、そっか」



空海とか恭文とか見てるとつい忘れがちだけど、バリアジャケットって自分でデザイン変えられるんだよね。

そこ思い出しながら、あたしは今の自分の格好を改めて見て……その上で視線を画面の中の恭文に戻した。



『ガントレットとアンクレット、マフラー以外は変更可能だよ。それらはフォルティアの一部でもあるから変えられないけど。
あ、それとスイッチ機能は使わない形での変身も出来るようにしてあるから』

「そうなのっ!?」

『うん……あれ、その子から聞いてない? アミュレットステイツと通常のバリアジャケット的なベースステイツとで分けてたんだけど』

「いやいや、そんな首傾げられても困るってっ! てゆうか、この子ぴよぴよしか言わないしっ!」



とにかくそういう普通な変身も出来るようにしてくれてるのはありがたい。

スイッチ使うと逆にやり辛い時はそっちって事だね。そこは納得したので、あたしは表情を緩めた。



「分かった。まぁその、そういう事なら後でじっくり考える」

『うん、そうして。あ、他のステイツに変身しても同じようにしてるから』

「まだ他にあるわけですかっ!」





そこで通信は終わって……あたしは緊張をごまかすように深呼吸し始める。



うぅ、ジャケットの事は納得しとくけどやっぱり緊張する。いきなり模擬戦だし、ちゃんと出来るかなぁ。










魔法少女リリカルなのはVivid・Remix


とある魔導師と彼女の鮮烈な日常


Memory07 『共に戦うという意味/PART2』









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「恭文君、あれ……さすがにあむさんには難易度大きいんじゃ」



なのはは軽く頬を引きつらせながら、緊張気味のあむの様子を画面で見ていた。

それはノーヴェやスバルも同じで、三人は事情知らないからしょうがないかなーと納得。



「そのためにベースステイツを入れてある。あむの戦闘スタイルが変化してスイッチが合わなくなったら、そっちにすればいい」

「あ、なるほど。ヴィヴィオのプラットフォームと同じなんだね」



スバルに頷きを返しつつ、また画面の中のあむ達を見る。



「あれ、別に僕の趣味だけでやったわけじゃないんだよ」

「というと?」

「最初にアイディア思いついた時、ややを筆頭に全員が凄い勢いで乗ってきてさ。
最初は変身可能なフォームが10以上あるとんでもジャケットになってた」

「「はぁっ!?」」



二人が驚きのあまり声をあげる。フェイトやティアナはそれを見て苦笑い。



「で、それだとあむが絶対使いこなせないからもうちょっとスケールダウンさせて……スイッチにしたの」

「スケールダウンしたらどうしてああなるのっ!?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――変身っ!」

「ブランゼル、セットアップッ!」



空海さん達が楽しそうなのと同時進行で、ヴィヴィオとコロナもセットアップー。

SEI-Oベルトの金のスイッチを押した上でパスをセタッチすると、バックルから金色の光が溢れる。



≪Lancer Form≫





ヴィヴィオは光の中ですぐにボンキュッボンなお姉さんに変身して、髪を某セイバーさんみたいにアップにする。

それから素早くジャケット装備ー。でもでも、その格好はフェイトママのインパルスフォームやエリオさんのジャケット準拠だったりする。

白のハーフパンツに黒色の制服っぽい上着を装備して、上から金色の留め金がつけてあるマントを装備。



両手は黒の指出しグローブで、両足に今はジャッキ付きな銀色なアンクレットを装備。

これはブーツ型のアームドデバイス『エストレア』。ジンさんのレオーやスバルさん達のキャリバーズを元に作ったらしい。

エストレアはバージョンアップで追加された装備で、ぶっつけ本番だけど……なんとかなるかー。



それから両手を伸ばすと、ヴィヴィオの手の中に雷撃が生まれる。それは一瞬でストラーダによく似た1メートルほどの槍に変化。

中心に真ん中の線が入った白の刃と、金色のボディに刃と同じ色の柄をしたショートランスの名前は『グラム』。

でもストラーダみたいにブーストやカートリッジはないんだけどねー。ここはIMCSのルールに乗っ取ってって感じ?



ショートランスなのも……あ、槍って種類がいくつかあるんだ。その内の一つがショートランス。

普通の刀剣よりちょっと長い程度のそれは取り回しが良くて、片手でも扱えるのが特徴。

武装錬金の武藤カズキさんが使ってたサンライトハート改や精霊の守り人のお姉さんが使ってるアレを想像して欲しいな。



とにかくグラムを右手で掴んでしっかりと頭の上で回し、ヴィヴィオの周囲の光を振り払うように逆袈裟に振るう。

これで変身完了ー。この姿の名前はもう言うまでもないけど、ランサーフォーム。

まさかこれが最初に来る思わなかったー。てっきりブレードだと思ってたのにな。あ、もちろんコロナも変身してる。



コロナのジャケットはまず肩から肘までが出てる形で、黒のゆったりとした長袖上着。袖口が白くて大きく広がってるの。

両手は黒の指出しグローブで、足首までのシューズに白のスカート。スカートは裾と前と後ろに青のラインが入ってる。

前後に入っているラインは、ちょうどコロナの肩の増したにある感じで単調なデザインにならないようにしてる。



それは上着も同じかな。襟元には灰色で裾に知ろのラインが入っているセーラー服みたいな襟がついてる。

上着の真ん中には白とそれを両端から挟む形でピンクのラインが通ってて、腰には丸いバックル付きのベルトを着用。

バックルは金色でなにかの紋様が描かれていて、帯は太く布生地をそのまま巻きつけたような感じ。



そんなコロナが右手に持ってるのは、金色の刃の短剣。特徴的なのは鍔元とナックルガードかな。

鍔元は薔薇の装飾があって、ナックルガードは葉のようなクリスタルの装飾がつけられている。

あれはルールーがつくったっていうブランゼルの待機状態そのままだね。戦う剣というよりは、観賞用って感じ?



とにかくヴィヴィオは金とクリーム色の魔力の光を弾けさせながら変身完了。ちなみにコロナは大人モードじゃないのであしからずー。





「みんなー、ヴィヴィオに釣られてみるー?」

「ヴィヴィオちゃん、さすがに聞こえてないよ」

「いいのー。こういうのは気分なんだから」

「みんな準備完了みたいね」



そう言って微笑ましそうにヴィヴィオ達を見るルールーはもう既にジャケット装着完了してる。デザインは今までと変わってないかな。

ただその、胸の谷間がもろに出てるけど。ルールー、そろそろデザイン変えないと……フェイトママよりは大丈夫かー。



「もうすぐスタートだから、あとは作戦通りに。でも空海、ホントにエリオが突っ込んでくるの?」

「来るな」



なんか空海さん曰くそうらしい。しかも会議しながら念話で言ってきてびっくりだよ。その狙いは……また無謀な。

ヴィヴィオだって初見の相手が居るのにそんな真似怖くてしたくないのに。エリオさん、初心者中心だから油断してるね。



「さっきのあの反応や会議してる時の様子をちらちら見てたが」

≪そこはあたしも協力してちょろちょろとねー≫

「え、それいいわけっ!?」

「いいんだよ。恭文だってそこは禁止してねぇ。日奈森、あの会議は俺達がチームとしてまとまるための時間ってだけじゃない」



空海さんはそこで目を閉じて、なにか思い出すような顔をしながら不敵に笑う。



「俺達あんま距離取らずにまとまって会議始めただろ?
だからそれを利用して相手チームの情報や様子を盗み取る事も出来た」

≪やらない方がおかしいってー。向こうは大した作戦は立ててないから、とりあえず初手はリード出来るわよ≫

「いやいや、それだめじゃんっ! ほら、フェアなんちゃらかんちゃらーってっ!」

「あむさん、フェアプレーですよ? でもでも、そういうのは大丈夫だよー」



あむさんは今ひとつ分かってみたいなので、ヴィヴィオは笑顔で背中を押す事にした。



「だって勝てば官軍っていうしー」

「それ悪役のセリフじゃんっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



時間の都合上私やリオのセットアップシーンはカットよ。まぁ外見だけ説明すればいいわよね。

私は……実はティアナさんのジャケットが元なの。その元になっていたのがなのはさんのだと聞いた時は、やめようかとも思ったけど。

基本的なライン自体は変わってないんだけど、結構細かいところが違うのよね。まず私はフリフリロングスカート。



肩の袖口も白のフリフリになっていて、両手には、ファンタズムになる前のクロスミラージュそっくりな拳銃。

ただしグリップ上の丸装飾は、丸の中に×印があるものじゃなくて星と涙の形になってるけど。

右手で持っている時は、手の外側が星型の装飾で内側が涙型の装飾になるわ。左手だと当然逆。



角張っていた長方形型の銃身も円筒形のものが二つ組み合わさった形に変化しているわ。

その銃身下部には小さいけど私の魔力光と同じ赤色の刃……恭文、ホントに複合武器って好きよね。

とにかくティアナさんが使ってるクロスミラージュのちょっとミニ版なこれの名前は、クロスクラウン。



実はこれ、ファンタズムに改修した後も取っておいた元々のクロスミラージュのボディを使ってるの。中身は別物だけど。



恭文がせっかくティアナさんが主だって教えてくれるのならって言って、気を利かせて私にフラグを立てたの。まぁ問題があるとすると。





≪りま様、あの……ご無理はなさらないように。もし体調が悪いようならすぐに休んで≫



この子の性格がやたらと心配性な事よ。どうしたらこういう性格になるのか今でも疑問だわ。まぁ悪くはないんだけど。



「大丈夫よ。さて、とりあえず率先して空海を潰しておこうかしら。一番叩きやすいし」





聞き耳立てて色々やっててくれてたみたいだしね。こっちもそうしたかったけど……だめだった。

空海、肝心なところは念話で説明したらしくてほとんど重要なところは分からなかった。実は私もどうくるかはちょっとね。

そこの辺りをエリオに話す事も考えたけど、やめたわ。そこを言って揉めるのも疲れるから。



なにより今のエリオに言っても意味がないように思う。やられなければ大丈夫だろうと思いつつ、私は空海達の居る方を見る。





≪りま様、笑いが黒いですっ! その目はダメですー!≫

「当然よ。私は何時だって全力なんだから」

「君身内に向かってなにとんでもない事言ってるのっ!? あと作戦と違うからだめだよっ!」

「冗談よ。エリオ、女のジョークを受け止める余裕もない男は嫌われるわよ?」



私はクロスクラウン――クロを持ちながら、両手でお手上げポーズを取る。



「恭文を見なさいよ。恭文は余裕があるからお嫁さん四人ももらってるもの」

「その余裕は多分ダメな方向じゃないかなっ! いや、僕は常々そう思ってるんだよっ! あと四人目誰っ!」



さて、この調子だと……実はこの作戦、バレてるのを抜いてもかなり穴だらけなのよね。今の反応を見るに、エリオは気負ってもいるみたいだし。

これでも人間観察とか得意なのよ? ガーディアンとして1年やってきたおかげでね。……まぁ別にいいんだけど。



「りまさん……凄いですよねー。アタシみたいに大人にならなくてもおっきいしー」





そんな事を言うのは、私の隣で私より大きい身長をしたリオよ。自己流で身体強化用の魔法を組んだそうなの。

それがこれよ。大人になってリーチを上げて……という事らしい。ちなみにジャケットは中国風ね。

袖なしでピンクなチャイナドレスが基本で、腰に赤くて大きめなフードを見につけてる。てゆうかこれ、フードじゃないわね。



とても大きい布状の帯みたいになってるの。その端が銀色の石突みたいになってる。

両手には鈍い銀色で腕の外側だけを守る手甲。両足は白のハイソックスを身につけてて、足首まであるピンクのシューズ。

あと上半身が注目ね。胸から上は黒くて、襟元に赤くて白のフリフリがついた襟がある。



その胸も実はとても慎ましやかで……リオが私をまじまじと見るのもそのせいよ。私の美貌は、女すら狂わせてしまうのね。



それが私の罪というなら、数えるしか無い。そんな事を考えながらリオの羨望の眼差しを受けて軽く笑う。





「これも愛ゆえよ。リオ、あなたも人を愛する気持ちに目覚めれば分かるわ。愛は人を美しくし、巨乳にするの」

「おぉ、大人な発言だー!」

「あの、だからそこなんの話してるっ!? あとりまちゃん、それちょっとおかしいからっ! 特に最後っ!」

「そうだよりまちゃん、人をどんなに愛してもね……巨乳になるのなんて一部なんだからっ!」

「キャロ、どうしてそこツッコむところ違うよっ! あとなんで僕に殺気向けるのっ!? いや、槍向けるのもやめてよっ!」



あっちはあっちで大変そうだけど、無視するわ。てゆうかエリオ、あなたツッコむ前に……やめとこ。

そんな事よりもリオの方よ。羨望の眼差しを受けるのも悪くないけど、ちょっと疑問が出来たのよね。



「でもリオ」

「なんでしょ」

「あなたそれ変身魔法なのよね。だったら」

「あ、えっと」



変身前と違ってロングヘアーなリオは少し困りながらアインハルトを見る。アインハルトはその視線にすぐ気づいて、首を傾げた。



”いや、その……それ考えたんです。ヴィヴィオもなんかやってるっぽいし”



そのせいか念話に切り替わった。つまりこれ、誰かに聞かれたくない話という事かしら。しかもリオはそこで背を丸め落ち込み始めた。



”でも……なにか負けた気がして。そこ目的で変身魔法使うのは負けた気がして。てゆうか、究極の偽乳だし”

”そう、納得したわ”



確かにこれはアインハルトに聞かせられないとも納得した。だってアインハルトも……でも大きさでは私の方が勝ってるわ。

数値だけで比べれば向こうが上だけど、カップは体型とのバランスだもの。そう、私は負けてない。だってろりきょぬーだから。



「大丈夫よ、リオ。さっきも言ったでしょう?」



だからこそ私は、人生の先輩として迷える後輩に笑顔でアドバイスを送る。



「ようは人を愛する気持ちよ。それがあなたを真の巨乳にしてくれるわ」

「……はいっ! ありがとうございます、りまさんっ! いえ――師匠っ!」

「師匠……いい響きだわ」



これも罪なのかしら。私という輝きが、リオを魅了してしまった。なら私は……その罪を受け入れる。

不敵に笑いながら、一旦右のクロを消して二丁拳銃状態を解除。その上でリオを見上げて手を差し出す。



「ならリオ、私についてきなさい。その先にあなたの目指す巨乳の星があるわ」

「うっすっ!」



そこで私達は笑顔で固い握手を結んだ。そう、ここからが私達の伝説の始まり。私達は……真の勝利者となるの。



「だからそこ話おかしいからっ! あとキャロをなんとかしてよっ! 僕に殺気向けてくるんだけどっ!」

『それじゃあそろそろ始めるぞー。準備いいな』



エリオのツッコミは無視して、突然展開した画面の方に目を向ける。そこには声の通りノーヴェさんが居た。

私達は握手を解除して、画面を見ながら真剣な顔で頷く。それは他三人も同じ。



『よし、それじゃあ――試合始めっ!』





その声と同時に、どこからともなく銅鑼の音が聴こえてきた。それに一瞬首を傾げてしまうけど、今は集中。

私は指示された作戦通りに前に駆け出しつつ、キャロの隣に行く。キャロがちょっと殺気立ってるけど、私は気にしないわ。

それで少しすると、私達の両脇を走っていたアインハルトとリオが左右に分かれてビルの合間へ消えていった。



でも構わずに私達はエリオを先頭にして突っ込み……これ、やっぱり無謀じゃないかしら。





「キャロ」

”ごめんりまちゃん、エリオ君ちょっと焦ってるみたいで”



私の言いたい事が分かったのか、念話がかかってきた。まぁ念話の内容に関しては……納得してる。



”そう。でもこれ”

”うん。だから……勝ちに行くよ”



その意味は多分私が考えていた『勝ち』と同じ。それだけは真剣な声の様子から感じ取れた。

念話している間にも私達はさほど狭くはない街の中を走り抜け、どんどん向こうの陣地へと迫っていく。



”多分今のエリオ君は止めても聞かないだろうし、好きにやらせてその後で”

”……あなた、相当性格悪いでしょ”



というか、相手の陣地がどんどん近づいてくる。これは……おかしい。同時に突撃したならもう誰かしら遭遇してていいのに。

やっぱり嫌な感じがするけど、エリオは遠慮無く突撃していく。まるで自分が居れば大丈夫と言いたげな表情が予感を強める。



”私はともかくあなたは付き合い長いのに”

”いいの。それに失敗したからこそ分かる事もあるだろうし、今は思う通りにさせてあげたいんだ”



その言葉は別に目の前で槍を持って全力疾走しているパートナーを見下しているような感じじゃない。

むしろ心配して、支えてあげたくて……そういう私の中にもある気持ちだった。だからキャロの言葉は、胸に響いた。



”迷って足が止まってなにも出来なくなっちゃうよりは、ずっといいから”

”納得したわ。でも、出来る限りそうならないようにフォローしましょうか”

”うん、ありがと”



言っている間に向こうに人影が見えた。しかもその数は……五人? 私はキャロ共々足を止めつつしっかり確認する。

そうだ、間違いない。こっちに全力疾走しながら近づいてくる人の数は五人だ。つまり向こうは、全員で突っ込んで来てる。



”あれ……そう来たか”

”空海発案ね。エリオ、ここは一旦下がりましょう。下手に突っ込んだら”

”いや、大丈夫だっ!”



それでもエリオは止まらずに突撃し、ストラーダをガシャガシャ言わせ始める。あれ、カートリッジ使ってるのよね。

ガシャガシャの音から考えて、数は3発。エリオ、1ダースしか使っちゃダメなのをここで使ってる。



”エリオ君、ダメだよっ! ここはりまちゃんの言うように一旦下がってっ!”

”アインハルトさん、リオ、一気に五人を囲んでっ!”



私は舌打ちしつつ、両手のクロで狙いを定めて魔力弾を10発生成。

キャロもそれに乗っかる形で両手で持った槍の切っ先を向けて、こっちは20発弾丸を生成する。



「クロスファイア、シュートッ!」



私は声で、キャロは思念でトリガーを引き、赤と桃色の魔力弾を一斉に発射する。

それは尾を引き突撃していたエリオに接近。エリオは槍を右手で構え、走りながら身を伏せる。



”僕がみんなを引きつけるっ! その間に陣形を作って集中砲火で一気に仕留めるっ!”

”無謀です”

”そうだよっ! 相手五人なんですよねっ!”

”でも下がったら一気に押し込まれるっ! 大丈夫、任せてっ!”



アインハルトの声も無視でエリオは更に速度を上げ、その身体が金色の光に包まれていった。



≪Sonic Move≫

”スピードには自信があるっ!”





金色の光はそのまま突撃していった。それで空海が左のゴウラスの銃口を向けると、急停止して地面を跳躍。

フェイトさんも使うソニックムーブを使ったエリオは、そこから右側のビルの壁に跳んで足をつける。

それからすぐに反対側のビルへ跳躍し……そうやってビルの合間を三回ほど飛びながら地面へ降りる。



というか、墜落かもって速度で飛び込んで空海達の背後に回り込んだ。あのバカ……私達の援護とか完全無視ですか。

確かに前後を挟む形になったけど、これじゃあ甘い。その原因はコロナよ。

空海達の前にコロナの髪と同じ色の火花が走って、その箇所がせり上がって一瞬で大きな壁になる。



その壁を避ける事も出来ずに私達の誘導弾は全てぶつかり、壁の表面で連続的な小さな爆発が起こる。





「な、なにあれっ! あんななぎさ」



キャロはそこで言葉を止めて、驚きながら私の方を見る。



「まさか……りまちゃんっ!」

「コロナよ」





キャロも恭文の能力の事を知っているから、こういう短いやりとりだけであれがコロナの仕業だというのが分かった。



やっぱり物質操作系の術式は作ってたか。まぁ恭文がかなり活用もしてたし、同じ答えに行き着くのも当然よね。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まさかマジでエリオ中心で攻めてくるとは思わなかった。そういうブラフってのも考えてたんだが……ダメだろ、それ。

俺がそれ対策でやったのは、ルーテシアの準備を終えてから全員で突撃する事だ。もちろんバックスなルーテシアも込み。

連中の作戦はリーダーな俺なり経験者で強めなルーを潰して、各個撃破って感じだ。



そのためにエリオが突出したんだよ。自分を囮にして、他の連中を俺なりルーテシアから引き剥がす作戦を取った。

ここは仮にエリオが一発で俺を仕留められなくてもいいんだ。後ろに下がってるルーテシアを姿消してる連中が不意打ちしてもいい。

だから今回は、纏めてやられる危険性も考えたが引き剥がしにくい状態で突撃したんだよ。



そんな俺達の前からかなりの数の魔力弾が襲ってくるが、まず前はコロナが防いでくれる。

コロナの奴、しっかり勉強してるし俺の意図も理解してくれたしな。あとは……今金色の光に包まれたエリオの方だ。

俺が銃口向けたら、予想通りに逃げやがった。雷光は俺達の頭上10数メートルな位置でビルの谷間を飛び交う。



だがそれもこれも無駄なアクションだ。引っかけにもなってないそれらは隙。その間に準備はさせてもらう。





”日奈森、クラウンのスイッチ入れて後ろを守れっ!”

”え、でも前から”

”早くしろっ!”

”わ、分かったっ!”





俺もソニックムーブで跳躍したエリオには構わず、右のゴウラスを持ったまま親指より太い銀色のカートリッジを腰のベルトから取り出す。

同時に左のゴウラスのグリップ上にある円筒形のパーツが、45度くらいの角度まで跳ね上がった。

パーツの先は俺を向くようになっていて、そこには大きめの穴がある。そこにカートリッジを挿入。



そのまま右のゴウラスの柄尻で、円筒形のパーツ――弾倉を押して再び銃身に納める。





≪Final Wave≫



星型のクリスタルが虹色に光り出したのを確認したら、それを……直感に従って後ろに向ける。

その銃口の先にはちょうど日奈森が居た。あ、念のために指示飛ばすのも忘れないでおく。



”日奈森、俺が合図したら右に跳べっ!”

”あぁもう、ワケ分かんないけど分かったっ!”



そう言いながらも日奈森はロイヤルのスイッチを左手でつまんで回す。



≪Royal≫





日奈森の左腕にあるダイヤのへこみに、王冠型の装飾が一瞬で現れて埋め込まれた。

そのまま日奈森は左手を前にかざす。そして右上から、金色の光が降りて来て日奈森の前に着地。

その光が槍を突き出しながら突撃してくるのと、日奈森が力を発動するのとはほぼ同時。



本来なら日奈森を打ち抜くはずだった雷撃の槍は、日奈森が発生させた金色の障壁によって防がれた。





「な……!」

「ホーリー……クラウンッ!」



後ろではコロナが壁を作って真城とキャロの魔力弾を防いでくれてる。これで……隙が出来た。

悪いな、局員。戦闘経験で俺達が負けてるのは、めちゃくちゃ理解してんだよ。だから早々に退却してもらうぞ。



”日奈森っ!”





ホーリークラウンを解除して日奈森は、伏せるように俺の指示した方向へ跳ぶ。金色の障壁は消えて、雷撃がこちらへ迫る。

エリオが日奈森の脇を抜けてこちらに飛び込んできて、銃口を向けている俺と目を合わせた。

それで驚きながら咄嗟に金色の光に包まれようとするが……遅ぇよ。俺はとっくに引き金を引いていた。



その瞬間、銃口にオレンジ色の火花が走ったかと思うと、そこから俺の身長とほぼ同じ大きさの光の奔流が放たれた。

走っていた火花と同じ色のそれはエリオをあっさりと飲み込み、地面に真っ直ぐな線を刻みつつも200メートルほど先にあるT字路に衝突。

そこで大きな爆発を起こす。砲撃に飲み込まれたエリオも当然あそこで……これがゴウラスの特化機能だ。



ゴウラスは特注のカートリッジを使っていてな。使う場合は、そこに込められた一発分の魔力全て使う形になってる。

そのおかげでこういう攻撃が出来るようになってる。恭文曰くユニコーンのビームマグナムからヒントを得たそうだ。

IMCSのようにカートリッジの使用数が決まってるなら、その一発の重さを徹底的に強めたらどうなるかで考えたとか。



その狙いはばっちしかんこんで、一撃当たればたいていの奴はエリオみたいになる。

ただまぁ、さっきも言ったがIMCSルールだとカートリッジの使用数が決まってるから使い所が大事だけどな。

残りは11発――これで俺は、俺の戦い方を知らない奴からも警戒される事が決定した。



もう今みたいな不意打ちは通用しねぇだろうな。だがそれでいい。2発目からは不意打ちかまそうなんて思ってねぇよ。



ファイナルウェーブはその一つ一つがマジックの種だ。まず一つ、種を撒いた。なのでここからは。





”ルーテシアっ!”

”分かってる”





壁を飛び越えて、槍を持ったキャロが俺達を見据える。おいおい、マジでバックスが前衛務めるのかよ。

そんなキャロの周囲には、援護のために放たれたと思われる赤い魔力弾。あとフリードまで居やがる。

だが召喚師は召喚獣を召喚時は攻撃出来ないはず。それで……なんかの引っかけか。



キャロは『フリ』で槍を頭上で回しながら振り上げ、フリードは口に小さな火球を作って俺達を狙う。



それだけじゃなくて5時方向と7時方向から気配がする。どうやら本命はこっちらしい。キャロとフリード、それに弾丸達は囮だ。





「あぁもう、言わんこっちゃないっ!」

「く」




リオとアインハルトが拳を引きつつこっちに突撃して来るが、もう遅ぇよ。ルーテシアの術式は既に完成している。



俺達の姿は次の瞬間にはそこから消えて、スタート地点に戻ってきた。……これで奇襲成功。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「これでエリオは脱落だな。しっかし早かったなぁ。いや、その前に恭文お前……あれなんだ」

「そ、そうだよねっ! さっきの唯世君のホーリークラウンだよねっ! どうしてあむさんがっ!?」

「そういうスイッチだからだよ」



驚くノーヴェやなのはにそう言いつつ、また予想通りに倒されて全身ボロボロなエリオの方を見る。

壁に叩きつけられたエリオは目を回しているらしく、動く様子も……アホが。



「みんなのキャラなりの固有能力を一つのデバイスに詰めて、あむが魔力を送る事で発動出来るようにしたんだ。
クラウンならなのはも知っての通り……あ、これはカートリッジって扱いにはならないから。デバイスのアダプターみたいなもんだし」

「それは分かるけど、またどうしてこんな面倒なのを。普通の術式じゃだめだったの?」

「うん、ダメだった。普通にホーリークラウン再現しようとしても、あの強度にはならないもの」





あのスイッチ一つ一つに基本となる術式がひとつ入っていると考えてもらえばいい。だからあむの素の術式じゃないのよ。

こういうちょっと面倒で一見意味が分からないものを作った理由の一つは……実は僕の能力の再現。

詠唱の手間やタイムラグを極力少なくするために、機械的なものを通して魔力をその形に変換したらどうなるかーって考えたんだ。



ここは第5世代デバイスの発想からもヒントを得た。まだ実験段階の域を出てないけど、手応えはある。

あと、スイッチを用いて戦闘を行う事で一つ解決出来る問題もあるんだ。それは今後のあむ次第だけど。

スイッチは魔法でもあるけど同時に武装でもある。あむは今、最大で六つの『武器』を持っている。



特性の違う武装をどう扱うかであの子の真価は変わる。あむにはそれぞれをちょっとずつ使いこなす方向で頑張ってもらおうっと。





「でもヤスフミ、今のルーテシアの転送早くなかった?」

「うん。術式を省略したね。てゆうか、もう原因分かってるよね」

「まぁスタートにまごついてたからそれはね。……スタート地点に転送の目印を立てた」

「そういう事」





実は空海のチームは、エリオ達よりスタートが遅れてた。その間にルーがなにかしてたのは見えたんだけどね。

あれ、フェイトの言うように目印を立ててたんだよ。まず転送魔法って、基本的に結構手間がかかる術式なんだ。

自分の居るところから目的地まで瞬間移動するには、目的地の座標軸固定やそこまでの道を魔力で作る必要がある。



ルーは予め目印を立てる事で、その工程を半分以上省略したんだよ。だからあんな早く転送出来た。

今やったのは既に行き先が決まっているどこでもドアのドアを開けてそこをくぐっただけ。

本来はドアを出して行き先を設定してってとこからやらないと転送魔法が使えないのは留意して欲しい。



だから空海の作戦はこうだね。まずエリオ達がリーダーな自分やチームの中で一番経験のあるルーを狙うと踏んだ。

てゆうか、ゴウラスで聞き耳立ててたしなぁ。ちゃんと僕達が出してるあの作戦会議での裏の課題を理解してる。

僕達がわざわざあの場でチーム組ませて作戦会議なんてさせたのは、そういうのも込みだからだよ。だからマナー・ルール違反じゃない。



やってほしくなかったら最初からスタート地点に分かれさせた時点で会議するように言ってるよ。鍛えた甲斐があったなぁ。

とにかくエリオの作戦を通そうと思って考えられる手段は、チーム戦だと大きく分けて二つ。

集団でターゲットを囲んでタコ殴りにするか、エリオがやったみたいな死角からの不意打ちするか。



こういう作戦を取った理由はもう一目瞭然だろうけど、エリオが経験にあぐらをかいて相手を見誤ったのが大きい。

だから空海はあえて無謀と思える集団での突撃を取って、タコ殴りの可能性を消した。転送っていう逃げのための手も用意した上でね。

もちろんエリオがどういう手を取るかも見越してた。エリオはリーダーなのに、自分だけで状況を変えようとした。



回避能力の高い自分が相手の陣形をかき乱して時間を稼ぎ、その間に囲んで全員をタコ殴りにしようとする。

でもそれすらも読まれちゃってたから、あむが後ろに回ってホーリークラウンで防御。そこで空海が一撃で仕留める。

空海がとどめを刺したのは、エリオが自分の戦い方をほとんど知らないと踏んだから。りまに確認もしてなかったっぽいしねぇ。



それで不意をついた時の影響が大きいと踏んだ。てゆうか、普通いきなりあれで砲撃が来るとは思わないよね。

イチバチ過ぎるしこれだと機能ありきかなと思って仕様変更も考えてたんだけど、これならやっぱ問題ないか。

空海は僕の予想を大きく超える形でゴウラスの力を引き出してる。単純に火力に頼ったような戦い方はしてないの。



そのキモがマジック。マジックには錯覚と幻惑と科学の三つの要素を上手く使う事が必要になる。

だからこそ、あのバスターライフルもどきも使い方次第ではマジックの種になる。

エリオを撃墜出来た事もそうだけど、その種をキャロとアインハルトとリオに植えつけられたのは大きい。



マジックはそれを使う事そのものが次のマジックの種を撒く事になる。まずは空海のチームが一歩リードだね。





「あの子はほんとに……自然保護隊でなに勉強してたのよ。連携も取れてないしチーム戦してないじゃない」



ティアナは右手で頭を抱え、呆れた様子でため息を吐く。リインも同じだし、スバルは……あ、なんか反省気味だね。



「あっさりし過ぎですよね。てゆうか、知らない相手にあんな油断しちゃだめなのですよ」

「あ、あははは……私も気をつけようっと」



ティアナ達から視線を応援しているしゅごキャラーズに映すと、みんなは勢いで盛り上がってた。

てゆうかダイチが……ダイチが号泣し始めてる。あれはどうしてなんだろう。



「うぅ、空海……よくやったっ! 俺は感動したぞー!」

「ダイチさん、まだ雑魚を一人蹴散らしただけです。……とにかくこれでモンディアルさんは脱落。
数の上では向こうが有利になりましたね。ですがもう奇襲は通用しないかと」

「あぁ」



ヒカリはシオン共々頷きつつ、クロワッサンをかじる。



「それに厄介なのが二人居るからな。ここからは簡単にいかないぞ」

「キャロとりまだな」

「違うぞ、ショウタロス先輩。二代目魔王とりまだ」

「もうやめてやれよ、それっ! 今ならまだ戻れるかも知れないだろうがっ!」



ショウタロス、残念ながらキャロはもう戻れないよ。さっきも待機してた時に魔王のオーラ出してたしさ。

こりゃ、エリオとは無理かなぁとちょっと思ったり。肝心のエリオも色恋沙汰はボンクラなままだし。



「恭文さん、このままだと……空海さん達が一方的に勝つのでは。数の問題もありますし、キャロ達は踏み込み過ぎてます」

「普通ならそうだね。でも、空海達も一時撤退してる。ここから仕切り直しは充分出来るよ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



私達はその場に居ては危ないと判断し、自分達のスタート地点の方へ戻っていく。というか、相手と距離を取る?



まさかいきなり全員で突撃してくるとは思ってなかったので、何気に全員動揺している。





「ど、どうしよー! エリオさんもう戦えないし……てゆうか、あのバスターライフルもどきなにっ!」



その中で一番動揺してるのはリオね。あの火力を見てビビっちゃってる。



「空海のゴウラスの能力よ。特注カートリッジ1発分の魔力を一度に使うの。ちなみに恭文作よ」

「なぎさん、またそんな無茶なデバイスを」



隣を走るキャロ的には納得らしいけど、私は最初に見た時はかなり驚いた。キャロみたいに受け入れられなかったもの。



「あの火力は脅威ですね。一撃当たれば……ですがりまさん、なぜそれを今まで」

「エリオが聞かなかったからよ。他に理由ある?」

「……いえ」



アインハルトがそこで納得してくれるのは、エリオのリーダーシップがちょっとあれなのが原因ね。

正直唯世とか恭文とかに比べると見劣りするのは否めないし……とにかく今の事よ。



「それでキャロ、どうする?」

「私が指示出しするよ。私、これでもサリエルさん目標だから」



走りながらキャロは右手で持っている槍を見せてきた。……それで納得したわ。でもキャロって基本バックスよね?

バックスは率先して突っ込んでいかないと思った私は、気のせいじゃない。てゆうか、間違ってないわ。



「とにかく数の上では不利だし、ちょっと絡め手も使わないと。りまちゃん、協力してくれないかな」

「具体的には」

「まずはコンビを組んで散開。絶対単独行動はダメだから。そうなったら相手に押し込まれる。みんなもそれでいい?」

「了解ですー。ならなら、アタシはアインハルトさんとですか」

「そうだよ。それでまずは逃げて相手を引きつけつつ陣形を乱す。その間にスキル確認をするから。それで」



キャロはそこで真剣な顔をして、私達一人一人を見る。



「状況によってはみんなをいきなり『呼び出す』けど、そうなっても驚いて動きを止めないようにね」

「え、それってどういう」

「そこも逃げながら説明する。さ、行動開始だよ」





私達は左右に分かれて、ビルや住宅の合間に身を隠した。まずはこれでって事ね。



サーチならバレバレなんだろうけど……そこも含めて相手を撹乱するという事かしら。



とにかく今はやられない事中心で動いているらしい隣のキャロを見て、少し気になった事を聞いてみる。





「キャロ、フリードはどうするの? さっきは」

「くきゅくきゅー」

「フリードは途中で送還だね。今の状況で召喚獣に頼り切っちゃうのは怖いから」

「くきゅっ!?」

「ごめんね。でも出番があるようならすぐに力を借りたいから、ちょっと待っててね。……さて、どう来るかな」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――キャロ達、二手に分かれたね。一人では行動しないっぽい」



こっちのスタート地点に戻ってからルーテシアがサーチすると、早速動き出しやがった。

ここから陣形が一気に崩れる方向だと助かったんだが……そうはならなかったか。



「うし、ならこっちも二手に別れるぞ。ルーテシア、ここで待機」

「待って空海、それはやめた方がいい」

「なんでだ?」

「あのね、キャロはさっきも言ったけど召喚師。召喚術には変則的な術式の一つに、自分のチームメイトを『召喚』する術式があるの」



俺はもう一度今の陣形を見る。二手に別れた連中はどんどん離れながらも、こっちに攻め込んで来てる。

これならすぐにバックアップなんざ出来ねぇ。だがさっきのルーテシアの言葉がすげぇ引っかかった。



「ルーテシアちゃん、それってどういう」

「まぁ転送魔法だね。相手の魔力反応なんか掴んでればすぐに出来ちゃうんだ。
……優秀な召喚師は、優秀な転送魔法の使い手でもあるの。だからヘタに突っ込むと」

「それ使われて一瞬で囲まれるってわけか。でもそれ、すぐ使えるわけじゃないよな」

「お父さんやコロナみたいな能力がないと無理だね。でも召喚術の術式も絡めると、簡単な詠唱だけで使えるから」



つまりそこまで時間がかかるわけじゃないって事か。だが下手に近づいても乱戦になって収集がつかねぇ。



「ルーテシア、その術式はお前も」

「もちろん使えるよ。さっきの転送も実はその応用に近いんだ」

「うし、なら攻め込むぞ」





ここでルーテシアを連れて行くのは、こっちのサポートもあるが狙い撃ちにされないためだ。

その術式であっちこっち逃げられつつ、最初に危惧したみたいに奇襲されるかも知れないからな。

だが条件的にはこっちも同じだ。だからこそバックスなキャロも一緒に攻め込んできてる。



転送って要素が絡むと、数の不利は一瞬で覆されるのが今の状況だ。だからこっちも活用してかないと。



俺はいくつか考えられる攻め方を立てた上で、みんなに指示を飛ばす。





「ルーテシア、お前はヴィヴィオとコロナをアインハルト達の進行方向に今すぐ跳ばしてくれ。その後は俺と日奈森と一緒にキャロ達を叩く」

「分かった」

「ヴィヴィオ、コロナ、お前はアインハルト達の足止めを頼む。倒せるなら倒しちまってもいいが、無理だけはするな」

「了解ー」

「分かりました」



返ってきた返事に満足しつつ、不安げな日奈森を見る。



「日奈森、お前も今回は立派な戦力だ。きっちりやってくぞ」

「分かってるって。うん、なんとかしてみる」

「うし、それじゃあもういっちょ行くぞっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ルシエさんの指示通りに相手チームの方を目指していると、急に何かが砕けるような音が前から連続的に響いてきた。

それは一瞬で私とリオさんの頭上を超え……感じた予感に従って振り返り、右拳を背後に向かって叩きつける。

それは打ち込まれた槍の矛先とぶつかり、金色の火花を放つ。その火花は私の腕に纏わりついて痺れを生み出した。



その槍を打ち込んだのは、髪をアップにしたヴィヴィオさんだった。ヴィヴィオさんはそのまま後ろに下がり、宙返りしながら地面に着地。



私達と距離を取りながらもショートランスを構えた。……以前とは武装が違う。それにベルトのバックルの色も金色?





「ここから先へは行かせません」



背後からはコロナさんの声……挟まれたか。でも気配はほとんどなかった。まるで突然現れたかのようだ。



「転送魔法、使われちゃったみたいですね」





その疑問はリオさんの言葉であっさり砕け散った。そう言えばアルピーノさんはルシエさんと同じく召喚師だったはず。



そうか、勝負の条件的には同じだったか。おそらくルシエさんも分かってはいただろうけど……私は二人を警戒しながらも素早く念話。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



頭上から私とりまちゃんを覆う大きな影が生まれた。私は咄嗟に嫌な予感がして、りまちゃんを抱える形で前に跳ぶ。

すると上の方からオレンジ色の奔流が落ちてきて、それが地面に着弾。大きな爆発を起こす。

その勢いに押されながらも吹き飛んだ私は、りまちゃんを抱えたまま地面を少し転がって停止した。



素早く起き上がって辺りを警戒している間に、前からあむちゃんが来た。それで後ろには……ルーちゃんか。





「――よっとっ!」





それでさっきの爆発の前の方に、空海さんが着地。すると左手のラッパ銃上部のシリンダーから、大きめの薬莢が排出された。

あれがさっき言ってたバスターライフルもどきの正体か。私はすぐに口元で小さく詠唱を……だめだ。

こっちにはルーちゃんが居る。ルーちゃんも召喚師だから、きっと私と同じ事をすぐにやろうとするに決まってる。



そうなったら数の上で不利な私達は一気に押し込まれる。それは今もなんだけど……今の方がマシかな。

数が多いと不確定要素が多くなり過ぎて、不意を突かれやすくなる。だったら取るべき手は、一つ。

私は立ち上がり、頭上で槍を振り回して腰だめに構える。りまちゃんも立ち上がって、クロスミラージュそっくりなデバイスを構えた。





「日奈森っ!」

「う、うんっ!」



あむちゃんが左腰の方をいじると、左足に赤くて大きい長方形の装置が付いたレッグパーツが生まれた。



≪Clown≫

「ジャグリング」



足の外側についてるその装置の前の方が観音開きに開くと、そっからジャグリングのピンみたいな形の赤い魔力弾が放たれた。



「パーティー!」





数にして十数発あるそれに対処しようとすると、素早くりまちゃんが両手の銃のトリガーを引く。

銃口から放たれた直射弾は空間を射抜くように鋭く突き抜け、尾を引き揺らめく軌道を描きながら迫っていた弾丸全てを撃ち落とす。

連続的な爆発が私達の前で広がる中、私は……驚きを一旦封印してそのまま突撃。



爆炎を突き抜けながらあむさんに迫ると、その前に空海さんが立ちはだかって右のサーベルを打ち込んでくる。

私はそれを十字槍の切っ先で受け、左に払い弾きながら柄尻を空海さんの足に打ち込む。

そうして空海さんの足を払い、コカしたところでさきほど打ち込んだ柄尻に魔力をまとわせて再度突き出す。



でも空海さんはそれを転がって後ろに避け、柄尻はレンガ造りな地面を浅く砕くだけに終わった。

私は柄尻を僅かに上げて刃を左に引きながら突撃。このまま下を薙いでやろうと思ったら、空海さんがこっちに銃口を向けてきた。

さっきの砲撃を思い出して咄嗟に左に跳んでいる間に、空海さんは起き上がる。でもそこに赤い直射弾が襲う。



それは空海さんの前に回り込んだあむちゃんがまた左手をかざして。





≪Royal≫

「ホーリークラウンッ!」





金色の障壁を発生させて全て防いだ。りまちゃんの方に戻ろうかと思っている間に、空海さんが迫ってきた。

引いていた刃を左薙に打ち込むと、空海さんは右腕を大きく伸ばして刃を盾にして斬撃を防いだ。

それなりの重さがあるはずの薙ぎ払いを地面を滑りながらもなんとか耐えた空海さんは、また私に銃口を向けてくる。



やっぱりあの火力を思い出した私は右に跳んで、次の瞬間に放たれた数発のオレンジ色の魔力弾達を回避。

銃口は私を追いかけるように向けられたので、後ろに向かってジグザグに跳んで放たれた弾丸をなんとか避けていく。

それだけじゃなくて眼前で槍を振るってなんとか斬り払って……だめだ。あの火力を見たせいか接近するのが怖い。



あの壁のせいで発射前の予備動作も見えなかったから、りまちゃんから話を聞いてるはずなのに過剰に動いちゃう。



とにかく私は後ろに下がってりまちゃんと合流。背後を見るとルーちゃんは……姿を消していた。





「りまちゃん、ルーちゃんは」

「挟み撃ちにされると思ったんだけど、すぐ転送した。居場所は分からないわ」

「近くに居るね。でも、それならそれで助かるかも」





ルーちゃんが高みの見物をしてくれているおかげで、目の前の二人に集中出来る。



というかね、ルーちゃんの手持ちスキルを考えると不意打ちする場合のやり口は見えてるからまだ楽なんだ。



そこはりまちゃんにも戦いながらお話しようと覚悟を決めて……私は今はフロントアタッカーとして二人に突撃。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



”アインハルトさん、転送は”

”無理でしょうね”



キャロさんと真城さんに念話して、たった今そう返されてしまった。だから即答出来る。



”乱戦になれば、数で負けているこちらは押し切られます”

”それは今も同じじゃ”

”いいえ、数が多ければ多いほど不確定要素が多くなります。それが怖いんです”



例えば相手方のコンビネーションなどがあるけど、それ以外にも乱戦の中での不意打ちの可能性も高くなる。

それで状況が覆るならともかく、悲しい事にそれで覆しやすいのは数の多い方。やはりモンディアルさんが瞬殺されたのが痛い。



”なのでここで取れる戦法は、ただ一つ”

”アタシ達でヴィヴィオを早々に倒して、救援と”

”えぇ。数の上で同じになれば、乱戦での勝率も高くなります。ではリオさん、後ろはお任せしても”





リオさんの実力が未知数なのが不安要素ではあるけど、ここでは私とコロナさんとの相性も加味しなければならない。

ヴィヴィオさんとは二度拳を合わせたから多少勝手も分かるけど、コロナさんとは初手合わせ。そこが怖くもある。

しかもコロナさんは私のカイザーアーツを直に見てもいる。もし対策を整えられた場合、私が不利になる要素が多い。



もちろんそれでも負けるつもりはないのだけど、こちらのチームが不利なだけにあまり無茶な事はしたくない。

なのでここは私が勝手の分かるヴィヴィオさんを相手にし、コロナさんの事をよく知るリオさんがコロナさんの相手をするのが妥当かと。

勝手に決めてしまって申し訳なくなりつつも横目でリオさんを見ると、リオさんは私に背中を向けながら頷いてくれる。





”大丈夫です。こっちはお任せー”

”お願いします”





私は前に意識を集中し、左半身を前に向ける形で拳を構える。ヴィヴィオさんはショートランスの中程を片手で持ちながら、腰を落とす。

それで彼女の周囲に八つの魔力スフィアが生まれる。スフィアの表面に、金色の火花が走っていた。

間違いない。先ほどのは電撃の魔力変換。あれもそれを用いた上での射撃魔法。しかし驚いてしまった。



ヴィヴィオさんは魔力の属性変換も出来るのか。同時に武器も扱えるとは、中々にスキルの幅が広い。



だが甘い。我が覇王流にも、ミドルレンジの射砲撃や武器を持った相手対策くらいはある。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それじゃあコロナ」



リオちゃんはその場で髪を揺らしながらとんとんと跳躍。数度跳んで、群青色の髪をなびかせながら突っ込んできた。



「いくよっ!」





握り締めた右手に赤い炎を、左手に黄色い雷撃を宿しながら一気にこちらに近づき、拳を振るう。

……実はリオちゃんは炎と雷撃の両方の魔力変換が出来る。ちなみに先天性で、本当に珍しいタイプ。

私は術式を詠唱して目の前に壁を作り、その拳を防ぐ。壁の向こうから連続的に三発の打撃音がした。



でもその壁は四撃目で大きく砕け散って、私は右に跳んで飛び込んできた炎の拳を避ける。

リオちゃんの方へ振り返りながらも後ろに数度跳躍して距離を取り、両手をパンと合わせて地面に当てる。

その瞬間に私の髪と同じ色の火花が地面に走り、そこから数本の縄が生まれてリオちゃんに襲いかかる。



地面と同じ材質のそれをリオちゃんは左右交互のフックで払いのけ、雷撃と炎の粒子と縄の合間を縫って私に迫る。

軽く跳躍しながらも身を捻って、右足に炎をまとわせ回し蹴り。それを咄嗟に伏せて避ける。でもリオちゃんは止まらない。

コマみたいに身体を反時計回りに回し続けて、今度は雷撃を左足にまとわせてしゃがんだ私に向かって後ろ回し蹴り。



地面を這うような蹴りを見て術式発動。しゃがんだ体勢な私の身体は、そこから一気に持ち上がった。

というか、地面にまた火花が走ってせり上がって、大きな四角形の柱が私を持ち上げた。リオちゃんの蹴りは柱にヒビを入れるけど、砕けはしない。

リオちゃんは舌打ちしながら足を引いて、一気にこちらに跳んでくる。私は左に転がるようにして地面に降りた。



それからすぐに柱から離れて、両足でスタンプするみたいに落ちてきたリオちゃんを避ける。

リオちゃんの足はレンガ式の地面を砕いて穴を開ける。……やっぱり避けるので精一杯だよ。

恭文さんを見て覚えた物質操作魔法、有効だけど私はまだちゃんと使えてない。



だったらここは……私はブランゼルのナックルガードについているクリスタルの葉を左手で取る。

あっさりとナックルガードから離れたそれを、後ろに下がりながら地面に投擲。クリスタルは地面に吸い込まれるようにして消えていった。

それでリオちゃんはまた私に向かって突撃してくる。でもその突撃を、私の身長くらいの大きな手が止めた。



いきなり地面から生えた黒いそれは、リオちゃんに通せんぼをしていたかと思うと一気に手の平を叩きつけてくる。

リオちゃんはたまらずその手と私から距離を取って下がっていく。その間にその手と周囲のものが黒い甲冑へと変化する。

まるで地面から抜け出すように金色の紋様を刻み込んだその甲冑を身に着けた巨人は、姿を表していく。



体長はだいたい4メートル前後で、太い灰色の肌と丸みを帯びた甲冑が特徴なそれが……私の切り札。

魔力を込めた物質を他の物質に埋め込んで、それを触媒として周りの物質も巻き込んで新しい形にする。

恭文さんの物質を作り替える魔法と私の人形を動かす術式を元にした、私のオリジナル魔法。



その名も創成魔法(クリエイト)。私なりの、私の中にある歪な能力との向き合い方。



そんな向き合い方の形を、リオちゃんは目をキラキラさせながら見てくれる。それがちょっと嬉しいかも。





「いいねいいねー。これとやってみたかったんだー」





リオちゃんはそう言って笑いながら両手を腰だめに構えて、またそれぞれの手に炎と雷撃をまとわせていく。

でもさっきまでとは力の込め方が――凝縮の仕方が違う。それらは一瞬手の表面に薄く張りついているんじゃないかというレベルになる。

でもそれらは膨張したかのように一気に膨らみ、龍の顔をした形に変わる。まるでリオちゃんの手が龍になったみたい。



リオちゃんは右に宿る炎龍を身体の前に向け、左の雷龍を引きながら腰を落とし半身に構えた。





「それじゃあコロナ、ぱぱっと終わらせてもらうよ」

「終わらないよ。ゴライアスは、簡単には砕けないんだから」





私はリオちゃんにそう返しながら、ブランゼルを身体の前に構える。……とは言え扱いには気をつけないと。

万が一事故が起こった時のために、実はゴライアスの強度と質量はさほど高くしてないんだ。

ほら、あの巨体がリオちゃんに向かって倒れかかるだけでも大怪我だから。あくまでも普通程度の防御力しかない。



それでIMCSだと……でもそれだって私の戦い方次第だ。判断さえ間違えなければ、この子は簡単には負けない。



私は呼吸を整え、右手をかざしてゴライアスに敵を打ち砕けと命令。ゴライアスはリオちゃんに踏み込みつつ、右手を振りかぶる。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「2対2の状況になって来たか。こりゃこのまま決着か?」

「というか、やっぱり空海君のチームが有利じゃ。ほら、数も多いし」

「そんなわけないでしょうが」



今ひとつ状況が分かってないっぽいナカジマ姉妹にそうツッコミつつ、腕を組んでため息を吐く。



「この勝負、数の勝負に見えるだろうけど実際は機動力の勝負になってきてる」

「機動力? でも恭文、スピード自慢のエリオは倒されちゃったのに」

「そっちじゃない。転送を絡めて考えろって事だよ」



スバルは軽く首を傾げてるけど、ノーヴェは言いたい事が分かって真剣な顔で頷いてくれた。



「どっちの陣営も数の不利や劣勢は味方の転送によって解消出来る状況になってる。
空海がルーを下がらせたのだってそれだよ。ルーがやられたら、そこに支障が出て追い込まれる」

「それがヤスフミの言ってる機動力だね。なら多少不利なのは、その機動力を担ってるキャロが出てるチームかな」

「そうなるんだけど、そのキャロが前衛も出来ちゃうスーパーオールラウンダー見習いだしなぁ」





さっきも空海相手に遠慮無くどつき合ってた。キャロの方はスランプとか抜きで順当に魔王への道を進んでいるらしい。

それでキャロの厄介なところは、すべてのポジションの勉強をしているが故に相手の行動を読む事に長けてる部分がある事。

つまりよ、色んなポジションの基本的な戦い方や得意とする事や苦手とする事を熟知してるのよ。



というか、そこを知らなかったら瞬時にポジション切り替えなんて出来るわけがない。そこがキャロの強み。

キャロには苦手項目がないって言ってもいい。そのかわり相手の苦手項目を突いて、勝ちを拾うって感じ?

ちなみに僕の隣のフェイトは、さっきのキャロの様子を見て嬉しそうにしている。まぁ保護者だしね、当然か。





「ここからは互いのチームの召喚師のスキル次第で状況が大きく変わってくよ。それも一瞬でだ」

「……でもエリオ、そんな状況に一切絡んでないなんて」

「フェイト、しょうがないよ。奴はチーム戦を甘くみていたし」





とりあえずあむの方は調子良さそうなのでなによりだよ。あと気になるのは、ヴィヴィオの方かな。



ヴィヴィオはランサーフォーム実装直後なので、きっちりチェックを続けていく事にする。





(Memory08へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、作者はPSPVITAなんてガン無視でNEWラブプラスを買うかどうか考えているそうです。
というわけでみなさんこんばんみ。作者が自分の嫁の話しかしなくなっても温かく見守ってほしいと思う蒼凪恭文です」

フェイト「そ、そうなんだ。えっと……フェイト・T・蒼凪です」

恭文「でも僕はリアルフェイトプラスやってるからOK。フェイトー♪」

フェイト「ん……いいよ。あの、その……恥ずかしいけど嬉しいかも」



(ぎゅー。すりすりぎゅー)




フェイト「それで今回はチーム戦。お互いにキーは自分のチームの召喚師になってるね」

恭文「だね。本来ならバックスは打たれ弱いのが基本なんだけど、キャロはむしろ……魔王だし」

フェイト「魔王じゃないよっ! キャロはまだ間に合うからっ!」



(というか、何気にキャロは戦闘シーン書きやすかったり。まぁサリエルと同じラインだしなぁ)



恭文「それであむの方ですけど、リンクユニゾンとかやってくとフォームが半端なくなるのでリンクスイッチにしました。
基本ラインはあんな感じですね。一芸特化な魔法が使えるようになる。ただそれと同時にスイッチに頼らない方向の戦闘も出来るようにしてます」

フェイト「それがベースステイツだね。こっちはスイッチは使わないで、あむ自身の技能を使う普通のスタイル。
リンクスイッチが使いにくい状況の時にはこっちに切り替えて……と。そこは使い分けだね。
ヤスフミの各フォームより頻繁に使い分ける感じにしたいって言ってたけど」

恭文「空海やりま、コロナとリオも戦闘スタイルをそれぞれ披露。コロナとりまは僕とティアナのライン」

フェイト「ただコロナは格闘はさほどじゃないらしいし、ヤスフミよりは後衛向きだよね」



(なので古き鉄よりも後ろで戦うシーンが多くなる……はず)



フェイト「あとはヴィヴィオの新フォームだね。でもブレードフォームじゃなかったんだね」

恭文「剣は空海とかが居るしね。あとランサーは読者アイディアで面白いアクションが出来るから、ちょっとやってみたかったらしい。
そんなランサーフォームの真価は次回に取っておくとして……さて、ここからどう崩そうか。だいたいの勝敗は決めてるんだけど」

フェイト「やっぱり召喚師と数の問題かな。そっちを軸に」

恭文「だね。というわけで、本日はここまで。次回はきっとランサーフォームが大活躍するはず……お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪でした。それではまた」





(というわけで、次回……どうしよう。展開どうしよう。
本日のED:Astronauts『Giant Step』)










あむ「いよいよあたしのジャケット登場だけど……でも素の状態のも用意してくれるとは思わなかった」

恭文「ここはIMCSのルールとの兼ね合いがあるから。四つもスイッチで魔法枠埋めたら、他の魔法入れる余裕なくなるしね」

あむ「あ、スイッチひとつが魔法一つって扱いなんだよね。じゃあそういう時にはこっち使って……か。でもアミュレットステイツの方が強いかも」

恭文「それはあむの今後のがんばり次第だよ。大丈夫、読者アイディア鑑みてパワーアップしていくから」

あむ「そのメタい発言やめてくんないっ!?」





(おしまい)





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あきゅろす。
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