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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory06 『共に戦うという意味/PART1』



「これね、覇王イングヴァルトの回顧録なんだ」

「回顧録?」

「記録、あるいは文学作品の一形式だよ。事象や時代に関する自らの経験を記したもの」

「あ、自伝なん……え、覇王の自伝なんてあったんだっ!」

「ううん、違うよ」



首を傾げている私を見ながら、ヤスフミが首を横に振る。



「確かに重なる部分はあるけど、観点が違う。自伝はそれが書かれた時点以前の人生全体を、その個人の生活や内面に重点を置いて書かれる。
でも回想録はより狭い時間範囲を対象とするんだ。さっきルーが事象って言ったのはそういうところから来てる」

「えっと……一つの出来事を事細かに書いてるって事なのかな」

「そういう解釈で合ってはいるかな。とにかくみんな座って」



私達はアイリ達を抱えたまま、近くにあったテーブルに着席。私達の向かい側にルーテシアが座って、その回顧録を開く。



「でもルー、覇王の回顧録なんて……誰が贈ったの? 相当価値があるんじゃ」

「実はフェイトさん」

「私がっ!?」

「前にたくさん贈ってくれた本の一冊がこれ」

「でも私、そんな貴重な本を贈った覚えは」



いや、分からなかったのかな。仕事柄そういうロストロギア関連――古代ベルカの歴史とかについては、簡単にだけど勉強はしていた。

でも本の学術的価値とかそういうのはさっぱりだから、本についてはユーノやヤスフミに相談して簡単に見繕ってたんだ。



「分からないのも当然だよ。だってこれ、オリジナルじゃないし」



私の表情から考えてる事が分かったのか、ルーテシアがクスリと笑う。



「これは後世に作られた写本だから、価値としてはそれほどじゃないんだ」

「あ、そうなんだ」

「うん。それで」





ルーテシアが開いたページには、白黒の肖像画が1ページ丸々使われて描かれていた。

マントの下に丈の長いコートような上着をはおり、その下にはロングパンツ。足元は……ちょっと見えないかな。

腰には黒いベルトが幾重にも重ねられて巻かれて、左の方に短めの鎖が出されている。



両手は指出し型で薄手のガントレットを装着したその男性は、ちょうどヤスフミと同じくらいの髪の長さ。





「これが覇王かな」

「そうだよ。それでこっちが」



ページがめくられると、また別の肖像画が出てきた。ノースリーブの上着にロングスカート、

肘辺りまでの長さがあるガントレットを装着した髪を後ろにひとまとめにした女性を見て、私は自然と表情が苦くなる。



「お父さん達もよく知っているオリヴィエ・ゼーゲブレヒト。聖王家の王女にして後の『最後のゆりかごの聖王』」

「ヴィヴィオの、オリジナル」

「うん。あの時ヴィヴィオを私がさらって、ドクターとみんなで無理矢理聖王に仕立て上げた理由がここにある」





ルーテシアも険しい表情になっていたので、ちょっと今の反応はダメだったかなと思って慌ててしまう。



でもルーテシアはそんな私を見て表情を緩めた。なんか考えている事が見抜かれたらしい。



腕の中のアイリ達もなぜか私を見て、手を伸ばしながら笑ってくれる。それでちょっと、気持ちが楽になった。





「それでね、もうフェイトさんもお父さんから聞いてると思うけど」

「え、なんで私が知らなかった事前提っ!?」

「だってフェイトさん、お仕事の事ばっかりでこういう勉強してなさそうだもの」



ルーテシアに苦笑気味に言われた事がショックで……というか、胸になにかが鋭く突き刺さった。



≪まぁ間違ってはいませんね≫

≪なのなの。ジガンも色々聞いてるの≫

「私もだな。というか、たまごの中から三人でお前のバカっぷりは笑わせてもらってたぞ」

「……悪い、フェイト」

「ショウタロウすらもそれっ!? でも……否定出来ないのが辛い」





私、よく考えたらヤスフミやルーテシアみたいな解説役とかほとんどしてないしなぁ。

なにか事件が起きると大体私は『これどういう事?』って首を傾げる側で、ヤスフミとかに説明してもらうの。

執務官として仕事をして10年以上のキャリアがあるのにそのイメージってだめなんじゃ。



そこで改めて自分の修行不足を痛感。もちろん子育てしながら、そういう知識面の勉強もしてる。



でも辛いよー。あぁ、背中を撫でてくれるヤスフミの手の温かさが嬉しい。でも泣きたい。





「とにかくね、オリヴィエとイングヴァルトの関係については諸説あったんだ」

「あ、それはヤスフミから」



言いかけてまたヘコんだけど、首を横に振ってその欝な気持ちを振り払う。



「ヤ、ヤスフミから聞いたよ。二人が仲良しだという説もあるし、実は全然違う時代の人間で接点がなかったとも言われてるんだよね」

「そうだよ。古代ベルカ文字の解読はやっぱり難しいし、確たる証拠もないしね」

「ですがストラトスさんという存在が出た。その記憶が偽りなく事実なら」

「二人は接点があった事になるね。まぁその証明をする術は僕達にはないんだけど。……デンライナーでも使わない限り」

「そんな事したらオーナーや良太郎さん達に怒られそうだけどね。それでこの回顧録では二人は……そうだな」



ルーテシアはそこで顔を上げて、私達を微笑ましそうな目で見出した。



「ちょうどお父さんやフェイトさんみたいな感じって書かれてる。恋愛関係じゃないけど、とっても仲良しで離れられない」

「私達と」



私はヤスフミと驚きながら顔を見合わせ……自然と笑顔を送りあった。だ、だってこう……見つめ合ってると嬉しいんだもの。



「あ、そうだ。ルーテシア、私疑問があったんだけど」

「なにかな」

「どうしてオリヴィエとイングヴァルトは仲良しになったの? 一応戦乱中で別の国同士だよね」

「えっと、この本によると……あ、ここは諸説あるうちの一つだというのは承知しておいてね」



もちろん分かっているので頷きを返すと、ルーテシアはページをぱらぱらとめくっていく。あるページに行き着くと、手の動きが止まった。



「あぁ、ここだ。オリヴィエが覇王家のあった国に留学って体裁だったみたい。戦乱中と言えど、交流はあったしね。でも」

「でも?」

「ここは別の本の情報なんだけど、オリヴィエはゆりかご生まれの正統王女とは言え、継承権は低かったようなの。
そこから考えると……この留学、人質交換だったんじゃないかな。国同士の協定によって、オリヴィエは人質として送られた」

「……聖王家が裏切ったら、オリヴィエが殺されるって事かな」

「うん。この当時だと覇王家の方が力関係は強かったって記述もあるから、多分ね。ただ」



物騒な話になってきたなと思っていると、ルーテシアの表情は一気に緩んで次のページをめくった。



「これ見て」





私達がルーテシアが見せてくれた本の中身を見ると……ルーテシアが見せたかったのはこれか。



そこには、また1ページ丸々使った肖像画があった。そこに描かれているのは、覇王と聖王。



二人は穏やかな表情をしていて、椅子に腰掛けるオリヴィエの隣によりそうようにイングヴァルトが立っていた。





「二人にとってはそういうの関係なかったみたい。この本ね、ここからはオリヴィエとの事ばかり書かれてるの」

「そればっかって……なぁ、それってまだ半分過ぎてないよな。序盤も序盤って感じだけど」



ショウタロウの言うように、右開きの本のページはほとんど進んでいない。ここから先には、ルーテシアがめくった五倍以上のページが残っている。



「うん。だからこれは、覇王イングヴァルトと聖王オリヴィエが共に過ごした時間の回顧録なんだよ」



その言葉を聞いて、私はさっきのヤスフミの説明を思い出してた。確か回顧録はひとつの事象を描いたもの……だったよね。

あぁそっか。だから覇王の人生の中で、聖王というワードが絡んでいる部分をこの回顧録に詰めてるんだ。



「この本によるとね、聖王オリヴィエは太陽のように明るくて花のように可憐で、なにより魔導と武技が強い人とされている」

「……彼女自慢?」

「そういう側面はあるかもね。ただそんな彼女も、乱世の中で亡くなった。その原因は、やっぱりゆりかご」



あの時空に上がった巨大戦艦の姿を思い出して、胸が痛んだ。でも……アイリのぬくもりのおかげで、すぐに冷静になった。



「覇王イングヴァルトはそれを止められなかった。それで皮肉な事に、彼女を失って覇王は強くなった。
全てを投げ打ち武の道に打ち込み、一騎当千の力を手に入れて」

「でも無駄だった」



恭介を抱きながらヤスフミは困った顔で、ため息を吐いた。



「本当に守りたいものを守れなかったから、そのまま後悔の念を抱いて亡くなった」

「そうだよ。そこで回顧録は終わってる。その顛末については、本当に短くダイジェスト的に語られてるけどね」

「なら大半はそういう楽しい時間になっているって事か。本の中だけでも、楽しいままで気分よく終わりたかったのかな」

「ヤスフミ、どうして続きが……あ、当然か」





アインハルトの話してた事を鑑みれば、その続きが分かるのは当然だよ。それでその記憶は子孫に受け継がれ……アインハルトに繋がった。

その痛みを想像すると私は……ううん、私達はなにも言えなくなってしまって、場に少し沈黙が訪れる。

さっきルーテシアが覇王と聖王の関係を私達と同じって例えたせいなのかな。もし私だったらって考えちゃうの。



失ったものは取り戻せない。だから失わないように、その価値を守れるように努力する。でもそれが出来なかったら?

もちろん私の答えは決まっている。プレシア母さんやリンディ母さんの姿を見て、私は私の道を決めた。

私の事で言うなら、ヤスフミが居なかったら生きていけない自分にはなっちゃいけない。クローン作って取り戻そうとしてはいけない。



もしヤスフミが居なくなっても……私自身や私の大切な人の笑顔を守る道を行くべきなんだ。でも、それが出来ない人も居る。

きっと覇王がそれだ。覇王は取り戻したいものがあって、そのために足掻いて無念だけを遺した。

過去に引きずられて今の中で迷子になって、それが……私は自然とヤスフミと肩を寄せ合っていた。



そんな私達を、窓から差し込む優しい光が包んでくれていた。それで改めて、失う前にこの温もりを取り戻せた幸運に感謝する。










魔法少女リリカルなのはVivid・Remix


とある魔導師と彼女の鮮烈な日常


Memory06 『共に戦うという意味/PART1』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



大人組はお昼の後に本格的なトレーニング開始。まぁエリオとキャロは大人というには微妙な年齢だけど、ここは気にしない。

てゆうか、ルーテシアのレイヤー建築のレベルがありえない。なんで極々普通に六課で使ってたような訓練装置組んでるのよ。

今は洋風な市街地を再現した訓練場を見て、瞳を輝かせるスバルや感心するなのはさん達と違って私とノーヴェは、頬を引きつらせていた。



これ、マジでどうやって作ったんだろ。プロジェクトX的なあれで最初から完成までの経過をちょっと見てみたいわ。





「お嬢から聞いてはいたが……すげーなこれ」

「ほんとよね。これ、どうやって作ったのかしら」

「……あ、そこについてはアタシ聞いてるぞ」

「ホントに?」



隣に居るノーヴェの方を見ると、ノーヴェはこちらを見返して頷きを返してくれた。



「こっちに常駐してる局の連中に手伝ってもらったそうだよ」

「はぁ? それなんでよ。失礼だけどあの子まだ罪を償っている最中の元犯罪者なのに」

「もちろん交換条件がある。局の連中も訓練のためにここを使う事になってるんだ」



ノーヴェは私から訓練場の方に視線を移して、どうしてか困った顔で笑った。



「ここ開発中だろ? この世界での本部の近くに訓練場なんて作ったら、後々めんどい。
だから比較的人里から離れてて、周囲の動植物への影響も少ないここに訓練場を建てた」

「あぁ、そういう事か。でも距離的な問題は」

「ミッドとかで考えたらまだ許容範囲だろ。訓練設備も備えた部隊隊舎って、どうしても都心からやや離れたところに出来るからな」



そう言えばそうだ。108や機動六課もそうだったし……もうちょっと言うと本局も規模が段違いだけど一応それに入る。

ここに来るまで車で30分前後とかだったし、ノーヴェの言うように許容範囲は超えてないと思う。



「よし、それじゃあ訓練始めよっか」

『はいっ!』

「じゃあまずは……お昼も食べたばかりだし、軽く柔軟体操。それから本格的に動いてくよ」





なのはさんの号令に頷いてから、私達は各々身体を動かしてしっかりとウォーミングアップ。



さっきのアスレチックで温まった身体に、もう一度動けるように指令を出していく。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ねーねーディード」



屈伸をしていると、隣のスバルがにこにこしながら話しかけてきた。



「ディードのしゅごキャラ、もう生まれたの? なんかたまごが出てきたーってのは聞いてたんだけど」

「えぇ」

「えー、だったらみたいなー。どんな子かな」



屈伸を続けながらもそう言えばと朝から姿を見ていないなと……いや、違う。私は思わず苦笑してしまった。



「ディード?」

「すみません。実は」

『ごめんー、ぐっすり寝てたー』



その瞬間、左側に居るスバルと私の間にもうすっかり見慣れたたまごがどこからともなく現れた。

そのたまごにぎざぎざの割れ目が入り、上下に分かれてぱかりと開く。



「んぱっ!」



中から出てきたのは、金色の髪に蒼い瞳をした白いドレス姿の女の子。頭には白の花型の髪飾りが装着されてる。

その子は私の方へ向き直って、照れたように笑いながら右手で頭をかく。



「ごめんねディードちゃん、もうぐっすりで……あ、お昼はっ!? わたしお腹ぺこぺこー!」

「……既に食事は終わってるけど」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 楽しみにしてたのにー!」



涙目になりながら落ち込むこの子を見て、私はまた表情を緩め……あ、屈伸止まってた。続けないと。



「えっと……ディード?」

「すみません。……ベル、スバルに挨拶を」

「はーい」



ベルはスバルの方へ振り向いて、ぺこりとお辞儀をする。



「初めましてー。わたしベル、ディードちゃんのしゅごキャラです」

「あ、うん。初めまして」



スバルもベルと向き直って、頭を下げる。……でもエリオとキャロが怪訝そうにこちらを見ているから、それはやめて欲しい。

それに気づいていないのか、スバルは顔を上げてまじまじとベルを見る。というか、面食らっているようにも見えた。



「ディード、その……この子今までどこに?」

「寝てたんです。実は昨日」

「わー、バラさないでー!」





慌ててこちらへ詰め寄るベルが可愛らしくて、私はなにも言わずに屈伸を続ける事にした。

ちなみにベルがここまで出て来なかった理由は実に簡単。昨日の夜一睡もしてなかったから。

今回の旅行でヴィヴィオさんやみんなと会うのが楽しみで、遠足に行く前の子どもみたいに眠れなかった。



だから朝になってぐっすりで、シオン達のように不可思議空間の中に入り込んでいた。そんなちょっと抜けている子が、私の『なりたい自分』。



本当はもっと話したい事がたくさんあるけど、今は自重する。だって……やっぱりエリオとキャロが怪訝そうにこちらを見ているから。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ストレッチを終えて、デバイスに手をかける。ただそうしながらもやっぱり僕達は疑問顔。なんだろう、なにか置いてけぼりにさせられてるような。



スバルさんとディードもさっき虚空を見ながら話していたし、なのはさん達もそれに気づいてないっぽいし……これはどういう事?





「エリオ君、私達なにかこう」

「そう、だよね」





キャロも感じている疎外感というか、聖夜市メンバーが絡んでからちょくちょくフェイトさんや恭文、ティアさんの様子がおかしいのには首を傾げていた。

ティアさんも執務官になるのをやめて高校生になったりしたし、なんかおかしい事が多いんだよなぁ。

特に聖夜市メンバーが関わって来たのが、あの11月の大異変が起きた年だから余計にそう思ってしまう。



まぁ偶然だよね。ガーディアンのみんなはただの子どもで、局の仕事にもほとんど関わってないんだし。



そこはフェイトさんや恭文も同じ。みんなが、あんな異変に関係あるとも思えないよ。そういうのは僕達局の人間の仕事だから。





「それはフリードもなんだよね」

「フリードも? キャロ、それってどういう」

「フリード、あむさん達と居る時は虚空を見つめて楽しそうにしてる事が多いの。前々から気になってはいたんだけど」

「……それは怖いね」



フリードまでそれって……まぁここはいいか。僕は首を横に振って、もやもやする気持ちを振り払う。



「キャロ、今は訓練に集中しよう? 久しぶりのなのはさんの教導だし」

「そうだね。特にエリオ君は最近調子落ちてるし、相談してみようよ」

「……うん」





余計な事を色々考えてしまうのは、集中し切れていないせいかも知れない。というか、ここで反論出来ない自分が情けない。

六課解散から四年――自分なりに仕事を通して鍛えていたと自負は持っている。それなりの修羅場だって超えている。

でも実際は違う。この2年前後マリアージュ事件以外は実戦に出ていない恭文やフェイトさんにも負けている。



もやもやする気持ちを払うように、僕はストラーダをセットアップして柄を強く握り締めた。

服装は10歳当時と変わらないけど、下がハーフパンツからロングパンツに変化して銀のアンクレットを装着している。

さすがに素足出すのが恥ずかしいというかなんというか……こちらの方が防御力高そうなのでデザイン変更した。





「エリオだめだよー。今からエリオは軽めに射撃訓練だから。まだ模擬戦じゃないよー?」

「あ……ご、ごめんなさいっ!」

「エリオ君、やっぱり調子が落ちてるね」

「くきゅくきゅー」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ヴィヴィオ達子ども組は午後は自由時間。でもでも引きこもってるのもつまらないから、ママ達の訓練を見に来た。

今はちょうど模擬戦してるね。ママがディードとティアナさんと組んで、スバルさんとエリオさんとキャロと三対三の模擬戦。

お互い久しぶりに訓練してるから、調子を見ている感じかな。ガチな模擬戦というよりはほんとに練習って感じ。



ママやティアナさんの魔力弾が飛び、ディードがスバルさんとエリオの突撃を真っ向から受ける。拳と斬撃がぶつかって見応えあるなぁ。



でもディード、もしかしてかなり鍛えてる? 前に見た時よりかなり強くなってるような。軽音部もあるのによく時間あるなぁ。





「まさかヴィヴィオさんのお母様が高町教導官だったとは……その、顔合わせした時も思いましたけどやはり驚きです」



真剣な表情でみんなの様子を見つつ、危ないとこやダメなとこを指摘するママの様子はアインハルトさんからすると衝撃みたい。

そういう顔してるんだよね。ヴィヴィオやあむさん達はそういうの普通になってたから、つい苦笑い。まぁ当たり前の事なんだよね。



「あいちんもなのはさんの事知ってるんだー」

「えぇ。高町なのはと言えば閃光の女神と並んで有名な……あいちんっ!?」



今までとは違う別の驚きを顔に浮かべて、アインハルトさんはニコニコ顔なややさんの方を見る。



「そうだよー。アインハルトちゃんだからあいちんー」

「そ、それはその……あだ名というのでしょうか」

「うんうん。こっちの方が可愛いしー」

「やや先輩、自重してください。ストラトスさんが戸惑っていますよ?」

「えー、いいじゃんいいじゃんー。ややもあいちんともっと仲良くしたいしー」



ややさんは戸惑い気味なアインハルトさんは完全無視で、頬を膨らませる。

……やっぱりこのキャラ変わってないなぁ。それで唯世さんが苦笑いしながらもアインハルトさんを見る。



「ストラトスさん、ごめんね。結木さん、そういうあだ名を女の子の友達につける時があって」

「あ、いえ……大丈夫です。その」



アインハルトさんはちょっと頬を赤らめてもじもじし出した。その予想外な反応に、ヴィヴィオ達はちょっと戸惑ってしまう。



「あだ名などつけられるのは初めての経験で……過剰に驚いてしまって」

「そうなんだ」

「ですがあだ名……友達、ですか」

「あぁ。日奈森だったら『あむちん・あむちー』。真城だったら『りまたん』とかだな」



ヴィヴィオ達と違ってあんま動揺してないっぽい空海さんは、リインさんを見た。



「リインは普通に名前呼びだが」

「リインもあだ名つけられた事あるですよ? 一番最初の時ですけど」

「でもでも、『りーちゃん』とか『りいたん』とかだと普段の呼び方と変わらないんだー。だからリインちゃんにしたのー」

「マジかよっ! 俺それ初耳だぞっ!」



えっと……よし、ヴィヴィオ達ちびっ子三人で早速念話会議だ。これは予想外過ぎるもの。



”ねね、アインハルトさんってもしかしてこう、そんなクールキャラじゃない?”

”なのかななのかなっ! アタシすっごい拒否反応起こすと思ってたんだけどっ!”

”でもそういうのなかったよね。そこも驚きだけど”



コロナはヴィヴィオ達の念話に返しながら、感心した様子であむさん達――てゆうか空海さんを見る。若干頬が赤らんでるのは気のせいじゃない。



”空海さん達、あんまり驚いてないんだよね。まるで今の反応が自然なものだって分かってるみたい”

”だよねー。でも……空海さんが一番かー。コロナもしかして”

”あ、リオ気づいた? 実はコロナは”

”だめー! あの、そういう話を勝手にするの禁止っ!”





えっと……慌てるコロナはそれとしてアインハルトさんの方だよ。もしかしなくてもこれ、いわゆる『外キャラ』ってやつ?



アインハルトさんの外キャラはクールで物静かな感じだけど、実際はちょっと人とコミュニケーション下手なだけとか。



あー、それならあむさん達がアインハルトさんに優しい瞳を向けているの分かるかも。ほら、みんなはそういうの専門だし。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



――2時方向・上50度前後の位置からウィングロードに乗って突撃してくるスバルの拳を、右の刃を右薙に打ち込みつつ弾いて捌く。

空中でスバルと交差しながらも私は振り返り、7時方向からソニックムーブで突撃してきたエリオと対峙。

袈裟に襲ってくるストラーダを左のツインブレイズを左薙に打ち込んで払い、踏み込みつつ袈裟に一撃。



けどエリオはまた身体を金色の光に包み、一気に私から見て右に回避。そうして距離を取り、近くのビルに着地。

再度突撃とも考えたけど、左からまた突っ込んできたスバルを大きく後ろに跳んで回避。その余裕は一気に削られてしまった。

空中を滑りながら体勢を立て直している間にスバルはウィングロードを曲げて、再び私に突撃。



エリオもストラーダでこちらに突撃しながらプラズマランサーのスフィアを周囲に四つ生成。

突撃槍のサイドにあるブースターが火を噴く中、スフィアから連射された雷撃の槍がこちらへ飛んできた。

でもそれらは下からすくい上げるようなオレンジ色の弾丸によって全て撃ち抜かれていく。



私とこちらへ接近してくるエリオの間で連鎖的にいくつも爆発が置き……私は大きく跳躍。

そんな爆発に構わず突撃してきたエリオを飛び越え、一気にスバルに向かっていく。

両のツインブレイズを唐竹に振るい斬撃を打ち込むと、スバルは前面にラウンドシールドを生成。



ベルカ式の青い障壁と私の斬撃は衝突し……私は裂帛の気合いを入れて刃を一気に引き斬った。





「はぁっ!」





鋭い蒼の斬撃はシールドに二条の線を刻み込み、スバルの障壁を粉砕した。スバルは……意外と冷静だった。

障壁が砕けた瞬間に一歩下がって斬撃を避け、隙だらけな私に向かって踏み込みながら右足を横から叩き込んで来る。

咄嗟に左腕を上げて肩と腕の筋肉で蹴りを受けつつ、勢いに逆らわず左に跳ぶ。スバルが足を振り抜くと、私は一気に吹き飛んだ。



近くのビルの外壁にぶつかる前に空中で身を捻り体勢を整え、その外壁に足をつける。

外壁は衝撃でヒビが入り、小さなクレーターが出来た。そんな私の目の前に金色の雷光が迸る。

当然ながらまたまたこっちに来たエリオ。エリオはストラーダから雷撃を迸らせ、それを唐竹に振るう。



慌てて左下に跳躍し、地面へと落ちて行く。エリオの斬撃はその場で数度振るわれ、ビルの外壁の一部を微塵に砕いた。

その様子を横目で見ながらレンガ造りな地面に着地、右のツインブレイズを右薙に振るって展開。

蒼の片刃は蒼と赤の二つの輝きを宿した蛇腹剣となり、その切っ先がうねりながらエリオに迫る。



エリオはストラーダのブーストを噴かせて上に急上昇して私の蛇腹剣での刺突を避けた上で、外壁を左足で蹴る。

その途端にまた雷光に包まれたエリオは反対側にあるビルの壁を蹴り、私に一気に迫ってくる。

蛇腹剣を収納している余裕は……私は右のツインブレイズの柄を先で円を描くように動かし、蛇腹剣をうねらせる。



うねった刃がちょうど円を描き始めたのを見て取ってから、柄をこちらに突撃してくるエリオに向かって放り投げた。

展開状態だった蛇腹剣はエリオの前に立ちふさがり、エリオはまともにその中に飛び込む。

いや、横から蛇腹剣がエリオに巻きつく形になった。もちろんこれであの突撃が止まったりはしない。



でもエリオの身体に蛇腹剣が絡みついた事で、突撃の勢いが若干殺される。



当然軌道も乱れて……それだけあれば充分。私は逆手に持ち替えた左のツインブレイズに力を込め、その輝きを強める。





「そこっ!」





絡まっているツインブレイズの合間を狙って、右薙に斬撃を放つ。蒼の閃光はエリオの腹を確かに捉えた。



エリオは私と交差した途端にバランスを崩し地面に突撃――いや、墜落。レンガ造りの地面を割り砕き線を作るようにして滑っていく。



そうして10メートルほどのところで停止。あれだけ滑ってもストラーダを離さないのが凄いというかなんというか。





『あー、みんな一旦ストップッ! エリオ、大丈夫っ!?』

「は、はい……なんとか」





エリオはツインブレイズに巻きつかれている状態でよろよろと身体を起こし……そのまま地面に倒れた。



……やっぱり装甲薄いから打たれ弱いのかしら。恭文さんならコレくらいはOKなんだけど。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「わわ、痛そー」

「てゆうかディードさん、加減しないなぁ。しかも武器投擲するなんて」

「間違いなく恭文の影響だよね、あれ。アイツもアルトアイゼン投擲したりするし」

「そ、そうなのですか。さすがは古き鉄――常識に縛られないのですね」



あいちん、凄い感心してるなぁ。でもやっぱり恭文に対しての態度とかがおかしいと思う。いや……まさかね。



「……あ、そうだっ! あむさんごめんなのですっ!」



リインちゃんが慌てた様子で声をかけて来たのでそっちを見る。リインちゃんは懐をごそごそと両手で探っていた。



「ごめんってなにが?」

「あむさんのデバイス、恭文さんから預かってたのです」

「マジでっ!?」

「はい。それがこれです」



それで懐から取り出してあたしに差し出してきたのは、白い正方形の箱。あたしはドキドキしながらもそれを受け取る。



「あむちゃんあむちゃん、早く開けようよー」

「どんなデバイスか、楽しみですぅ」

「落ち着きなって。アイツの事だから変身ベルトかも知れないし」



箱を開けてみると、その中にはくすんだ金色のような色合いの丸い時計が入っていた。

上の方にはピンクと青と緑と金色の飾り紐がつけてあって、秒針は時を淡々と刻み続けていた。



「……懐中時計?」

「はいです。一応それが普段の待機状態で……目を覚ますですよー」



箱の中の懐中時計がピンク色に光って、ふわふわと浮かび上がる。その中で懐中時計が姿を変えていく。

それで光が弾けると、中からピンク色の体色で黄色のくちばしと足に爪、青いくりくりとした瞳に緑の首輪をつけた鳥が出てきた。



「ぴよ」



体長20センチ前後のその子は翼をパタパタとはばかせながらあたしの事見て……なにこれっ!



「ぴ……ぴよっ!? てゆうか鳥ってっ!」

「ヴィヴィオのクリスと同じくぬいぐるみ形態に出来るですよ」

「じゃあこれ、ぬいぐるみなわけですかっ!」

「ぴよ♪」



なんかぴよぴよって鳴いてるその子にヴィヴィオちゃんの傍らのクリスがふわふわと近づいて、右手をビッと上げる。



「ぴよー」



一鳴きしながらその子は……あ、笑ってる。それでクリスが手を伸ばして、元懐中時計なあの子の頭を撫でる。



「なんか早速仲良くなってるっぽいね」

「ぬいぐるみ同士だからかな。あ、ややのアルトちゃんとも仲良くなれちゃうかもー」

「同じぬいぐるみさんですしねぇ」



で、でもシュールな光景かも。鳥とうさぎが仲良しって……まぁおまけ機能って感じだよね。うん、そこは分かった。



「この子、まだ名前も決まってないから考えといてくださいね」

「え、恭文が決めてたんじゃないのっ!?」

「さすがにそれはないですよ。一応あむさんがマスター候補って事前情報は入れてるですけど、正式登録はまだです。だから」



リインちゃんはあたしの事見上げながら、ニヤリと笑う。その笑いがあんまりに黒いので、あたしは一歩後ずさった。



「早めに登録しないと、誰かに取られちゃうですよー? いつぞやのダイヤの時みたいに」

「まぁ、それは怖いわね。あ、でもあむちゃんがこれから主役をやろうと思ったら展開としてありなのかしら。
勝手にこの子のマスターになった相手とライバル関係になって……あむちゃん、大丈夫よ。私の時もなんとかなったもの」

「アリじゃないしっ! アンタに×付いた時マジ大変だったんだからそういうのやめてっ!」



口元に拳を当てて咳払いをしてから、あたしの事首傾げながら見てるこの子の頭を左手で軽く撫でる。

実際に触る事でぬいぐるみなんだって実感出来て……てゆうかこう、触り心地良くてつい頬が緩んじゃう。



「とにかく……あとで恭文にお礼言っとく。てーか直接渡せばいいのに」

「そうしたかったですけど、お昼からは恭文さん休憩だったですから。まぁ名前は早めに登録お願いするですよ」

「うん、分かった」





とにかくまぁ、恭文にはマジでお礼言わないと。あたしタダで作ってもらったし……なんか悪くないっ!?



緊急事態で装備必要とかじゃないのに、これタダでもらうってなんか甘えてるみたいでダメじゃんっ!



ど、どうしよっ! なんかこう、改めてすっごい申し訳なくなってきたんだけどっ! これやっぱお金とか払った方がいいんじゃっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



頭を抱えている間に訓練も終わり、辺りはすっかり暗くなった。あたし達はルーテシアちゃんの案内で夕飯前にお風呂タイムを実行。

ルーテシアちゃんがやけに自信を持ってたので首を傾げてたけど……もうね、納得しました。

あたし達が男女に分かれて入ったのは、露天風呂。しかもやたらデカいの。どっかのスーパー銭湯かって思うような規模がある。



岩造りなそこはちょっと天然チックになっていて、あたし達は全員揃って身体を洗った上で入浴開始。





『――はぁ』



全員揃ってそこで息を吐いて、つい力を抜いちゃう。このちょっと熱い感じがこう、温泉って感じでいいよね。



「うーん、広いお風呂ってさいこー。やや泳ぎたくなっちゃうかもー」

「やめなってやや。せっかくの温泉なんだし……でもルーテシアちゃん」

「うん、なにかな」

「これマジで天然温泉?」



なんかルーテシアちゃん、ここに居る間暇だったからあのガリューと一緒に穴掘ったらたまたま温泉出たって言ってたのよ。

そこはもうびっくりしてたからつい確認しちゃったんだけど……ルーテシアちゃんは笑顔で頷いた。



「そうだよ。ホントはロッジの拡張のための整備活動だったんだけど、ほんとに偶然出ちゃって。
それでせっかくだからって事で、お父さんにも協力してもらってかなり本格的に作ったんだ」

「あー、アイツこういうの作るの得意だしね。だからやたらと……じゃあさ」



滝湯とかもあるこのお風呂の中で異彩を放っているのが、ライオンの像だよ。てゆうか、ライオンだよね?

なんか蛇の尻尾にコウモリの翼とか生えてるんだけど。それでなんかデザインが丸っこいんだけど。



「あの口からお湯吐き出してる像はもしかして」

「お父さんの趣味。ここには絶対これが必要だって言って聞かなくて」

「アイツ学生と子育てしながらなにやってるっ!? てゆうか相変わらずセンスないしっ!」

「でも慣れると可愛いよ?」

「慣れる時間が必要な時点であれ完全に不必要じゃんっ!」



あたしは前にひかる君に『不必要な――無価値なものはない』って言った気がする。でもごめん、あれは必要ないと思うの。

だってこの天然設計の中で明らかにミスマッチだし。あそこにあれなかったらもっとアリだよ?



「……カッコ良いです」

「だよねー。私もありだと思うな」

「むしろアレないとダメだよね」

『はぁっ!?』



ディードさんとスバルさんとヴィヴィオちゃんがとんでもない事言い出したので、あたし達は声を揃えて三人を見た。



「あむ、三人は気にしちゃだめよ。基本的に三人とももう手遅れなんだから」

「そ、それは確かに。あのノーヴェさん」

「悪い、アタシもアレは訂正不可能だ。ティアナはどうだ」

「同じくよ。あの子……ホントに」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なんか女湯の方が騒がしいが、男湯は男湯でゆっくり楽しんでる感じだ。ただまぁ、エリオがやたらと静かなのが気になるが。



それは置いておくとして、俺達はお湯に肩まで浸かりながら空を見上げる。空には満点の星空が広がっていた。



星の配置が地球と全然違うのは、ここがマジな別世界だからだよな。ミッドも同じような感じだったが……何度見てもこういうの面白ぇ。





「なんかもう、ここ観光地だよな。ルーテシアやメガーヌさんには感謝しないと」

「えぇ。とても有意義な休みになりそうですから」

「なにかお礼出来ればいいよね。手伝い関係はキセキ達に任せっぱなしだし」



あー、それはあるな。今もアイツら夕飯の準備手伝ってくれてるし……うし、帰る前に掃除くらいはするか。

それで恭文に頼んで帰ったらなにかこう……お中元的なものも届けられるようにすれば更に良しじゃね?



「でもあむちゃん、元気そうでよかった」

「それは確かに。その……蒼凪さんとやや先輩から聞いた感じだとちょっとアレでしたし」

「アレだったよな」



アイツの外キャラ、とんでもない事になってるらしいからな。なんか恭文の後継者とかなんとか……どうしてそうなんだよ。

そこの辺りめちゃくちゃ心配してた唯世と三条がお湯につかりながらほっとした顔するのも、当然なんだよな。



「でもアインハルトとは中々良い感じに友達してね? 結構リードしてるっぽいし」

「そうだね、僕もそう見えた。まだ距離はある感じだけど……あれなら安心かな」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



みんながお風呂を楽しんでいるのに入れないのは寂しいけど、僕とフェイトはもう一仕事あったりするので訓練場の方に来た。



てゆうか、なのはに呼び出された。なにかあったのかなと思って二人揃って首を傾げる。



それでもライトアップされた訓練場に到着して、ピンクのジャージ姿ななのはに手を振りつつ近づく。





「なのは、来たよー」

「あ、ごめんね二人共。えっと、アイリ達は」

「メガーヌさんとシオン達に見てもらってる。特にぺぺちゃんが気合い入れてくれてて、こっちは大助かりだよ」

「赤ちゃんキャラだから?」

「うん、赤ちゃんキャラだから」



なのははクスリと笑うけど、次の瞬間には少し困った顔に戻って腕を軽く組む。



「あのね、二人に来てもらったのってエリオの事なんだ。フェイトちゃん、エリオの最近の様子でおかしいところとか聞いてない?」

「エリオ? ううん、そういうのは……旅行の日程調整のために最近はよく連絡取ってたけど、変なところはないよ」

「そっかぁ。だったら一人で……いや、キャロ共々抱え込んでた感じなのか。やっぱり無理にでも聞き出して正解だった」

≪お母さん、どういう事なの? エリオ君がどうしたの≫

「うん、ちょっとこう……今日の訓練の様子がおかしくて」



その言葉に表情をしかめると、なのはは慌てて両手を胸元まで上げて横に振る。



「あ、別に身体壊してるとかそういうのじゃないの。ただこう、調子が悪いっていうのかな。
動きはしっかりしてると思うんだけど、切れ味が鈍いというか不意を突かれ過ぎというか」

「……それ、エリオとキャロに直接確認した方がいいんじゃないの? てーか僕達が確認するけど」

「そこについては私が念話で確認した。さすがにおかしかったから。なんかスランプみたいなんだ。
キャロとの組手も勝率悪くなってるし……伸び悩みっていうのかな。限界感じてきてるみたい」

「あー、そう言われると分かるわ。エリオも14歳だもんなぁ」



腕を組み、エリオもついにそういう年頃になったのかと感心して腕を組み何度も頷く。



「厨二病にかかるような年頃だし、色々考えちゃうんでしょ。将来の事とか今の事とかさ」

「ヤスフミ的にはそれで調子悪くなってる感じなのかな」

「いや、かなり適当に言ってる。ぶっちゃけ知ったこっちゃないし」

「「ちょっとっ!?」」

「でも刺激が足りないのは間違いない」



驚いた様子の二人は僕が続けた言葉で息を飲み、神妙な顔をし出した。



「六課が解散して自然保護隊に入ってもう4年――向こうのミラさん達が定期的に外で研修させてるだけじゃそろそろ足りなくなってきた。
将来の事とか考え出すような年頃だし、今までのままじゃ知らず知らずのうちにもやもやしたものが積み重ねってくるんでしょ」

「そういうものかなぁ。なのは達は覚えな」



なのははそこで言葉を止めて、反省しきりという顔をしながら背を丸めた。



「うぅ、言う権利ないか。なのは達、青春ムダにしてたし」

「そ、それは私も。局に入って『これが自分の仕事だ』って思ってたから……そういうの考えなかったしね」

「だねぇ。直接エリオと話さなきゃここは断定的な事言えないけど、もしそうなら今そういう壁にぶつかってるのは良い事だよ。
このまま惰性で続けて青春ムダにする事だけは避けられる。改めて自分の道を考えて『なりたい自分』を探すきっかけにはなるでしょ」

「さすがに元ガーディアンが言うと説得力があるね。なら……よし」



なのはは両手をぱんと合わせて、左手を軽く前にかざす。



「あのね、今回のオフトレではいつもと違う形で模擬戦やろうと思ってるんだ」



その言葉に合わせるように、なのはの前に空間モニターが展開。それから右手で僕達を手招きするので、僕達はなのはの両脇に寄る。

画面の中にはここに居る魔導師組の顔が映っていて、それが大まかに分けて二組に分かれてる。



「違う形っていうとどういうものかな」

「ルーテシアがこんな立派な施設作ってくれたし、そこは有効活用しようと思って。
今までよりは結界や周囲の影響に気を使う必要もなくなったから……例えばチーム戦?
例えばIMCSの正式ルールに則って試合形式で戦ったりとか。それで刺激多めにするの」

「なるほど……あ、それならいいの思いついた」



両手で拍手を打ち、今居るメンバーが移る画面を見ながらにこにこする。



「今なのはが言ったの両方盛り込もうか」

「両方? つまりチーム戦でIMCSルールって事だよね」

「そうだよ。それで」



視線を画面からフェイトとなのはに移し、僕はニヤリと笑う。



「僕達は最初模擬戦には参加しない」

「「えぇっ!」」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして翌日――なんかこう、自然たっぷりで空気も美味しい場所だから凄い早くに目が覚めてしまった。

あたしはパジャマから黒と紫の縞模様のシャツに白のミニスカ履いて、髪も整えた上で朝のお散歩開始。

当然のようにラン達もついて来て、あとは……パタパタと翼を羽ばたかせながらあの子も来る。てーかあれだ、おかしいのよ。



この子全然元に戻らないの。あたしがお願いしたら懐中時計になるんだけど、すぐに鳥に戻っちゃう。





「ぴよぴよぴよー」



可愛い声で気持ちよさそうに鳴いてる鳥を見て、あたしは軽く頬を引きつらせる。なんかこう、違うの。

あたしが想像してたデバイスとだいぶ違う。そのせいか昨日一晩あれこれ考えても、全然名前思いつかなかったし。



「あむちゃんあむちゃん、この子ぴーちゃんって名前でいいんじゃないかなー」

「ぴよぴよ鳴いてますしねぇ」

「言い訳あるかっ! そんな安直な名前絶対やだしっ!」

「でも早めに決めないと、今日やるっていう模擬戦に参加出来ないよ?」

「そうね。もういっそぴーちゃんでいいんじゃないかしら」



だから絶対やだしっ! もっとこう……ヴィヴィオちゃんだって凝ってるのにさ。

でもこう、この子の状態を見てると確かにぴーちゃんでもいいかなとか考えちゃうのが怖い。



「まぁ元から考えてた名前はあるにはあるんだけど」

「考えてたよね、恭文からデバイス作ってるって聞いて楽しげに」

「楽しげとかじゃないしっ! 普通だしっ!」



ミキのツッコミは気にせず歩きながらあの子を見ると、翼を羽ばたかせながらあたしの事を見て首を傾げた。



「ぴよ?」

「なんかこう、合わない感じがして」

「だったらぴーちゃんだよー。ね、ぴーちゃん」

「ぴよー」

「アンタも頷くなっ! それだけは絶対嫌だからっ!」



てゆうかこの子、極々自然にしゅごキャラ見えてるんですけどっ! あたしがキャラ持ちだからなのっ!?



「と、とにかく」



あたしは腕を組み、横目で相変わらず目をくりくりさせてあたしを見るぴーちゃ……もとい、あたしのデバイスを見る。



「あたしのパートナーなんだから、こう……凄い素敵な名前にするんだから」

「じゃあアミュレットぴーちゃんね」

「凄いださい名前になってるじゃんっ! ダイヤ、アンタも黙っててっ! ……よし、決めたっ!」



このままじゃあたしがマスターのはずなのに、ラン達に勝手に名前決められて終わっちゃう。

もう事態は一刻を争う。あたしは覚悟を決めて、両手でガッツポーズを取る。



「だったら今すぐ名前決めるしっ! てゆうか、元々考えてた名前でいいやっ!」

「だからそれがアミュレットぴーちゃんなのよね」

「スゥ達の仲間みたいで素敵ですぅ」

そんなワケあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
それ元から考えてたってあたしどんだけっ!? 鳥ってとこまで予測してたわけですかっ!






朝の空気をぶち壊すような叫びが出てしまったのは、もう許して欲しい。てゆうかどうしてアミュレットぴーちゃんで行こうとする?



いや、考えるまでもない。あのドSのせいだ。よし、朝ご飯の時に文句言ってやる。てゆうか……アイツがあたしのしゅごキャラ奪ってくー!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「今、なにか凄い声が聴こえたような」

「気のせいじゃないかな。それでコロナ」

「あ、うん」



私は一緒に朝のお散歩してたルーちゃんに笑顔を返しながら、首からかけていたうちの子を見せる。

クリスタルの葉の中心に赤いバラがあるこの子は、ブランゼル。実はルーちゃんお手製デバイスなんだ。



「この子、とっても調子良いよ。でも作ってもらって良かったのかな」



少し前にいきなり『これだけ用意出来ればデバイスが作れる』って突然ヴィヴィオちゃん経由で連絡が来てびっくりしたんだけど。

それでお年玉とかで貯めていたお金の一部をルーちゃんに振り込んで、最近これが家に届いてびっくりしちゃった。



「いいよ。私も半分趣味だし、しっかりお金も出してもらったし」



白の肩出しワンピース姿なルーちゃんは左手を軽く振りながら微笑む。



「それにコロナの能力やスキルに特化した形でのデバイスを組んでみたかったしね。
本来はお金もらうのも悪いくらい。というかごめんね? どう見積もっても材料代がまかなえなくて」

「ううん、そこは大丈夫。パパとママも納得してくれたし、むしろこう……だから大切にしたいなとか考えるし。なんか不思議だね」

「そう言ってくれるとありがたいよ。さて、それじゃあ今日の模擬戦で大活躍しないとね」





ルーちゃんはブランゼルを見ながらクスリと笑う。私もその笑いに返して……そうだ、頑張ろう。思わず気合い入っちゃう。



だって今日やる予定な模擬戦は空海さんも見ている。というか、空海さんと戦うかも知れないんだもの。だから頑張れ、コロナ。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なにか叫びのような声で目が覚めた僕達だけど、あむが怒ってたのとか気にせずに朝ご飯をいただく。

朝ご飯は焼き立てパンに目玉焼きにベーコンとサラダ――軽めだけどとっても美味しい幸せな朝食。

ここに関しては僕とフェイトと唯世達が自主的に手伝ったのでかなり楽に出来た。特に海里の働きが大きい。



みんなにも概ね好評なのでホクホク顔をしつつ、僕達は食後の余暇を充分に取った上で練習場に来た。



もうここまで来ると全員なにやるかとか分かってるので、自然と覇気が出ている。……エリオ以外。これはやっぱり刺激が必要らしい。





「それじゃあ今日と明日は大人も子どもも混じって楽しく模擬戦三昧だよ。ただ最初は」



ここが肝なので、僕はついついニヤリと笑ってしまった。



「僕とフェイトとなのはとティアナ、スバルとノーヴェとディードとリインは参加しない」

『はぁっ!?』



全員揃ってまさかそう来るとは思ってなかったのか、とても驚いた顔を僕に見せてくれた。



「ちょっとちょっと、アンタやフェイトさん参加しないってどういう事っ!?」

「もちろん理由はあるよ。まず一つに今回ここで大人数の模擬戦するのは実は初めてだからさ。
多人数が一度にここで大暴れした場合の影響っていうのを、改めて確認しておきたいから」

「私達はそのために必要な処置をする感じだね。昨日のなのは達の訓練でもやってはいたけど、ちょっと不安が残ったから」

≪次に……あむさん、あなたもそうですけどヴィヴィオさんやコロナさんもデバイスを使っての模擬戦は初めてです。
だからその辺りの調子を見るためにも、開発者スタッフは一度外からデバイスの調子を確認する事にしました≫



あむが軽く首を傾げてたけど、コロナやリオ辺りは一応納得してるっぽいので問題なし。エリオとキャロは……なんか驚いてるね。



「あれ、でも待って。ヴィヴィオちゃんはアインハルトと」

「実はSEI-Oベルト、機能がひとつ復旧したんです」



ヴィヴィオが困った顔で右手を上げ、後頭部をかく。それで隣にプカプカ浮かんでるクリスもそれに習う。



「それのテストも込みだから、実は最初はウォーミングアップがてらそうしてくれるとありがたいなって」

「あ、そうだったの? でもあたしなにも聞いてなかったけど」

「こっちに来る直前でOKになったんです」

「えっと、それじゃあ模擬戦参加は」

「まずあむちゃんとヴィヴィオちゃん、ストラトスさんにティミルさんとウェズリーさん」



あむの疑問に答えるように、唯世が参加メンバーを見ながら言葉を続ける。



「あとはモンディアル君とルシエさんに相馬君と真城さんにアルピーノさんだね」

「そうだよ。それでチーム分けも既に考えてる。まずAチームは」



右手を上げてモニターを展開し、画面の中を五本の指で軽く叩いて……みんなの前に別の大きめな画面を出す。



「Aチームはヴィヴィオとあむと空海とコロナ、ルー。チームリーダーは空海、出来るね?」

「おう、当たり前だっ!」



空海がガッツポーズで答えてくれたのに安心しつつ、次のチーム発表に移る。



「Bチームはエリオとキャロとアインハルトとりまとリオだね。チームリーダーは……エリオ」

「え、チームリーダーとか決めるのっ!?」

「そうだよ。全体の指揮と戦況を見極めての纏め役だよ。まぁ出来ないっていうならしょうがないけど。りま辺りにやらせればいいし」

≪なのなの。りまちゃんは視野が広いからリーダー向きなの≫



そう言ってから空海とりまを視線で指すと、エリオは不愉快そうに表情をしかめて首を横に振る。



「いいや、出来るよ。僕だって成長してるんだから」

「そう。だったらその成長の成果をしっかり見せつけてもらおうか。んじゃ、今から作戦タイムね。
今回の模擬戦はIMCSルールに則ってやるから、そこの辺りも踏まえて作戦立てるように」

「分からないところがあったら私達が答えるから、気軽に聞いてね」





全員が頷きを僕とフェイトに返してから、チーム毎に分かれて作戦開始。さて、これで最初の展開が決まってくるね。



この作戦タイムはただ作戦を決めれば良いというわけじゃない。誰がチームのリーダーかを印象づける大事な試験でもある。



そういう意味ではエリオの方が難易度高くはあるんだけど、これも刺激だから。まぁ頑張って欲しい。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まぁ恭文やフェイトさん達とやり合えないのは残念だが、最初って話だからな。ここは納得しておく。

それよりも今は作戦の方だ。一応俺は去年IMCSにも出てるしルールは熟知してるが、改めて今年のルールを確認。

今年のルール表、もう発行されてるんだよな。そこはヴィヴィオのクリスがネットに繋いでくれたから楽に出来た。



その画面をみんなで肩を寄せ合って、食い入るように見る。





「えっと、まずは魔法は……六つまでか。基本的な三種防御魔法は数に入らないが、その応用は魔法の一つに入る」

「そこはさっきなのはさん達からもらった」



日奈森が右手に持っていた縦に細長い六角形のクリスタルを俺に見せる。これがDSAAってとこが作ったIMCSの試合用タグだ。

試合中はデバイスとこれをリンクさせて、選手の状態観察なんかも行う。まぁ俺の目には見えないとこだがな。



「これに登録すればいいんだよね?」

「そうだ。そこの辺りはタグとリンクすれば自然と判定されるから、あとは適当に……というわけにもいかないか」



カートリッジが1ダースしか使えないとことか、なぜか今年からLP制じゃなくなった事とかもしっかり確認しながら口元を右手で押さえる。

これは……つまり普通にノックアウトしろって事か。まぁLPの計算の中身が今ひとつワケ分かんなかったし、ここは問題ないな。



「コロナ、お前のあれってスロットいくつ使う?」

「スロット……あー、そっか。そう言えばIMCSって、魔法によってはそれひとつで普通の魔法二つとか三つ分とか使うんだっけ」

「あぁ。そういうのもタグの中のソフトウェアが判定してくれる。それでコロナ」

「えっと、四つですね」



コロナはもう魔法入れ始めてるらしく、別の画面を見ながら困った顔をしていた。



「ただ私の創成魔法(クリエイト)はひとつのカテゴリーとして入りますから、本来の使い方以外でも応用は利きます」

「そうか。だがそれ以外の魔法を入れるのは」

「かなり厳しいです。ヴィヴィオちゃんとルーちゃんは」

「ヴィヴィオの方は大丈夫だよー。プラットフォームと使えるようになったあれの専用技だけでちょうど六つ」

「私も同じく。召喚に関してのルール確認も出来てる。……さすがに白天王は呼べないか」



白天王……あー、思い出した。あのモビルスーツみたいな大きさの召喚獣か。まぁあれ呼び出したら一発だしなぁ。

そりゃアウトだろ。てーかアウトになってよかったよ。コイツ、すっげー残念そうな顔してやがるし。



「日奈森、お前はどうだ」

「うん、あたしの方もなんとか。……でもさ空海」

「なんだ」

「アイツなに考えてるっ!? やりたい事は分かるけど、もうあれ魔法関係ないじゃんっ!」



どうやら日奈森は横でぴよぴよ言っている奴の名前とかちゃんと決めた上でここに来てるらしい。

てゆう事は一度セットアップしてあれこれ試したのか。まぁ言いたい事は分かるので、俺は……右手で日奈森の頭頂部を軽く小突く。



「そう言ってやるな。むしろ俺が使いたいくらいなんだしよ。それにお前にぴったりだろ?」

「ま、まぁそれは……うん。自己ブーストとかする必要なさそうだしさ」

「……必要あっても絶対やるなよ? アイツなのはさんのブラスターの事があるからすっげー心配してるしよ」

「分かってるって」



日奈森のデバイスはかなり癖が強いが、日奈森の適性を伸ばすための一つの形であると俺は思っている。

日奈森自身もそこが分かっているから、困った顔しながらも頷いてくれるわけだ。



「それで空海、作戦どうしようか」

「だよな。真城は分かるんだが、他の戦闘スタイルが……ヴィヴィオ」

「エリオさんがフェイトママと同じ高速型のGW。キャロさんがルールーと同じFBな召喚師」



ヴィヴィオは言いたい事がすぐ分かったらしく、俺の疑問にすらすらと答えてくれる。



「アインハルトさんが陸戦が得意なFGで、リオが近・中距離攻撃が得意なGWです。
でも戦術関係はさっぱり。ヴィヴィオもエリオさんが指揮なんて見た事ないし」

「ありがとよ」



結構前衛寄りな編成なんだな。まぁこっちもコロナの術式があれだから同じだが。



「こうなるとやっぱ、射程が問題だな。あっちには真城が居る」

「私がガリューを召喚しようとしても、狙撃で邪魔されたり?」

「するかもな。てーか召喚……あぁ、OKだったな」





IMCSルールでは、召喚は試合中に行うのであればOKだ。ただデメリットもある。

召喚師が召喚獣を出している間は、回避・防御以外での魔法使用は厳禁。術者は攻撃しちゃだめなんだよ。

したい場合は召喚獣を元のとこに帰すしかない。ちなみに召喚獣がやられたらその時点で負けになる。



まぁこれやると実質2対1の勝ち抜きになるしな。それくらいの厳しさは必要……あれ。



そういやコロナのあの魔法ってそこの辺りの裁定どうなってんだっけ。よし、聞いてみよう。





「なぁコロナ、お前のあれがやられた場合はどうなるんだっけ」

「さっき確認しましたけど、『ゴーレム』系統もやっぱり完全粉砕されたら負けになるみたいです。
やられる直前で元に戻すとかそういうのはOKだそうですけど……うぅ、厳しいですね」

「しょうがないよー。それくらいのデメリットをかぶっても余りあるメリットがあるわけだし」



召喚成功した場合、戦力が単純に増えるからなぁ。そうなると……召喚を基本にして攻めた方が得か?

でも相手の火力がどの程度か分からないしな。それに向こうにも召喚師が居る。条件は変わらない。だったら……うし。



「とりあえず前に出れる奴は出て、相手の進行止めるぞ。この配置なら真城とキャロは後ろに下げるだろうから、前線三人か」

「それで向こうのうち誰か一人には余った人をプラスして二人で襲いかかってフルボッコですか?」

「そういうこった。ただ問題はルーテシアの守りが薄くなる事なんだが」





さっきは真城の狙撃を例に出したが、それ以外にも誰か一人が影から忍び寄って一気に襲いかかる可能性もある。

攻め込むにしても、ルーテシアとの距離は離さないようにしたいな。相手がどういう攻め方しても対応出来るようにしたい。

消極的だとは思うが、向こうのやり口が分からない以上多少は慎重に行きたい。もちろん攻め時は逃さない。



それも実際に試合が始まって、相手と手合わせしてからだ。出来るだけ早めに攻めに回るつもりではあるが。





「あー、それはあるなぁ。てゆうかキャロさんってサリエルさんみたいになりたいって思ってるから、実は近接戦闘も得意なんです」

「……マジかよ」

「マジです。本人的にはスーパーオールラウンダー目指してるらしくて」





じゃああれか、サリエルさん見習いが向こうには居るって事かよ。じゃあ前衛抜いてバックタコ殴りってのは難しそうだな。



そうなると……逆に無理して抜く事は考えなくていいかも知れないな。下手に突出したら前と後ろで挟まれてやばくなる。



どの程度の練度かって問題が出てくるが、あのサリエルさん目指してるならそれなりに強いって考えた方がいいよな。





「でもルールーはそういうのじゃないよね。基本フルバックな召喚師だし」

「それなら大丈夫だよ」



ルーテシアは不安になり始めた俺や他の連中を安心させるように笑って、右手で髪を軽くかき上げる。



「私だってここに居る間建築だけしてるわけじゃないんだよ? それなりの備えはある。
キャロとは方向性が違うけど、自衛くらいならなんとかなるよ」

「そうか、なら安心だな」

「ただ、そのためにはみんなにちょっと協力して欲しいんだけど……いいかな」

「なんだ?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それで、どういう作戦で動くつもり?」

「基本は突撃かな。前線を維持して、キャロと真城さんの射撃と援護も絡めてどんどん押していく」



あとは状況に応じて突出してきた相手を囲んで倒す。やっぱり基本に忠実なのが一番だよ。でも真城さんは、僕を見て表情をしかめた。



「それで通用するかしら」

「え?」

「空海、サッカー部の主将だったの。そういうのがあるから、実はこういう集団戦が得意だったりするわ」

「でもそれってスポーツの話だよね。あのね、魔導師戦はそれとは違うし」

「もちろん魔導師戦も同じよ。恭文とフェイトさんが空海のそういう能力に注目して鍛えてるし」



つまり……空海さんはそういう指揮官が出来る人? そうか、だからあんなに自信満々に頷けたんだ。

でも大丈夫。僕には今までの経験があるわけだし、簡単には負けない。こういう時には自分の武技をしっかり信じないと。



「とにかく基本は各個撃破ですよね」

「うん。それで……向こうの指揮官には僕が対処する」



みんなが驚いた顔をするので、僕はまぁ……ちょっと照れた笑いを返す。



「早々に潰して、相手の陣形を崩す」

「エリオ君、大丈夫?」

「大丈夫だよ。こっちのペースに持ち込めれば負けない。それで前線を崩して、狙うはルーだ。ここも僕がやる」



僕がこの中では一番速度があるし、全力全開で一気にいけば……よし、なんとかなる。



「ルーと指揮官を狙い撃てば、自然と向こうの統率は崩れる。あとは各個撃破で」

「……そう」

「なにか問題あるかな」

「別にいいわよ。指揮官はあなたなんだもの」



なにか棘がある言葉が続くなと思うけど、会ったばっかりだししょうがないと判断する。

とにかく作戦はこれで決まった。あとは前線の維持さえ出来ればどうとにでもなる。



「でもエリオ君」

「キャロ、大丈夫だよ。無茶はしないし」

「そうじゃなくて、どうやって突撃するの? ストラーダのブーストでの飛行は禁止なのに」

「……え?」

「ほら、ここ」



展開していたIMCSのルール表をキャロが指差すので、慌ててその部分を見る。



「飛行魔法関係は一切禁止……なにこれっ!」

「それだけじゃなくて、カートリッジの使用も制限がついてるわよ」



後ろの真城さんからそう言われて、慌ててルール表を見返して……顔が青くなった。



「一試合に使っていいのは12発までっ!? じゃあストラーダの形状変換はほとんど使えないじゃないかっ!」



ストラーダは形状変換やブーストによる加速にもカートリッジを使う。もちろん攻撃の威力増強にもだよ。

しかも飛行による移動にも制限もついていたら……僕が得意な高機動戦闘はほとんど出来ない。



「……エリオさん、ルールちゃんと確認してなかったんですか? さすがにアタシもちゃんとしてたのに」

「私も同じくです」



慌てて後を振り向き、僕達や向こうのチームを見ていたフェイトさん達に声をかける。



「フェイトさん、この飛行禁止やカートリッジの制限ってやらなきゃいけないんですかっ!?」

「うん、当然だよ。他のみんなも同じなんだから」

「でもこれじゃあ」

「エリオ、エリオはプロの魔導師だよね。だったらどんな状況にも合わせられるように頑張らなきゃ」



フェイトさんにそう言われて……冷静になった。てゆうか、反省してしまった。僕、ちょっと油断し過ぎてたかも。

そんな自分を反省しつつ、頬を引きつらせながらフェイトさんにあいまいな笑いを返した。



「そ、そうですよね。頑張らないとだめですよね」

「うん、だめだよ」





そうだよね、僕はプロの魔導師だもの。プロとして現場に立ち続けた経験がある。

だったらこれくらいのハンデはちゃんとクリアしなきゃ。その上で作戦通りに戦っていく。

はっきり言えばあのチームの中で警戒しなきゃいけないのはルーだけなんだ。



だから早々に空海さんを墜として、ルーも続けていく。それで流れはこっちのものになる。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ヤスフミ、この試合」

「もう結果は出てるね。まぁ予測通りって感じかな」



ヤスフミは一人だけで気合いを入れるエリオの様子を見て、大きくため息を吐いた。



≪ただ、その結果もエリオさんに限った話になるんですよね≫

≪なのなの。これはチーム戦なの≫

「じゃあもしその意味にエリオが気づいたら」

「結果は変わる。まずないだろうけどね」





もうすぐ私達のコミュの中では若い子達による模擬戦が始まる。エリオにとっても他のみんなにとっても有意義な模擬戦であって欲しい。



私はまぁ、一応保護者な立場なのでそう願わずには居られなかった。あとはもちろん……怪我が無いように?





(Memory07へ続く)


















あとがき



恭文「というわけで、少し変則的な模擬戦開始です。原作通りじゃないのは……察して?
ほら、大人組が目立っちゃうと空海やあむにりま達のお披露目出来なくなっちゃうし」

フェイト「ヴィヴィオ達もそうだけど、若年層が話の中心になるしね。そこは気を使って……でもエリオ、フラグ立てまくってるね」

恭文「スランプ設定になってるしね。ただここも後々の展開のためだよ。
だってほら、もうエリオとキャロは話に出なくても良いキャラだし、きっかけないと絡まないし」

フェイト「そこまで言わないであげてっ!? 二人だって頑張ってるのっ! と、とにかくお相手はフェイト・T・蒼凪と」

恭文「そんなフェイト大好きな蒼凪恭文です。フェイトー♪」

フェイト「ん……だめだよ。あの、ハグは家に帰ってからで」



(……やっぱりいちゃつく二人であった)



恭文「それで今回はいよいよあむのデバイスが登場です。名前はアミュレットぴーちゃん」

フェイト「違うよっ! その名前はなしになったよねっ! ……そう言えばヤスフミ、セインが出てないけど。ほら、あの話」

恭文「ただでさえ登場人物が多いのでリストラです。てゆうか、やる意味なかった」



(『なぜー!?』)



恭文「というか、あれだよね。次回から中身をちょこちょこ変えて模擬戦して尺を稼ごうという汚い考えが見え隠れしているわけですけど」

フェイト「ヤスフミ、それはぶっちゃけ過ぎだよっ! 確かにその通りな感じするけどっ!」

恭文「まぁここはいいんだよね。尺稼ぎならこの後の展開もあるし。特にアインハルト絡みで色々と」



(もしかしてVividの主人公はこの子じゃないのかという気がしてきた今日この頃)



恭文「あ、それで最近販売開始したStS・Remix第一巻ご購入いただいた皆様、本当にありがとうございました。
結構新しい挑戦が満載の話でしたけど、概ね好評で作者は安心していたりします」

フェイト「最新カードが出ないけど、その分当時は禁止制限に入ってないカードが活躍したりするからアリだとも仰ってくれたしね。それでドキたまの方は」

恭文「ドキたまは三話までRemix完了。こっち取り掛かってたからちょっと手つけてないけど……あ、とまかのも仕上げないと」

フェイト「もうすぐ470万Hitだしね。それでは本日はここまで。お相手はフェイト・T・蒼凪と」

恭文「蒼凪恭文でした。それではみなさん、また次回にー」




(というわけで、StS・Remixもドキたまもよろしくお願いします。
本日のED:田村ゆかり『Endless Story』)









恭文「さてさて、作者は最近StS・Remixで登場したティアナデッキの改良型でタッグフォースしてます。
融合とか特殊召喚とかするデッキではなく、基本除去ガジェで火力を一族の結束で上げたタイプですね」





モンスター


イエローガジェット×3

グリーンガジェット×3

レッドガジェット×3

マシンナーズ・ギアフレーム×3

マシンナーズ・フォートレス×3



魔法


一族の結束×3

強欲で謙虚な壺×3

サイクロン×3

地砕き×3

死者蘇生×1

月の書×1

貪欲な壺×1

ブラックホール×1

リミッター解除×1






神の警告×2

神の宣告×1

激流葬×1

次元幽閉×1

聖なるバリアミラーフォースー×1

トラップスタン×2

奈落の落とし穴×2




フェイト「同人版だとサイバードラゴンが入ってるけど、今使ってるのはマシンナーズ・フォートレスやギアフレームが入ってるんだよね」

恭文「うん。あと強欲で謙虚な壺も。このカードも便利なんだけど、実は同人版の時期だと出て無いカードなんだよね。
とにかくコンセプトは『シンプル・ザ・ベスト』。複雑なコンボや特殊召喚ギミックを廃して、下級モンスターだけで殴り勝てるデッキにしました。
コンボらしいコンボは一族の結束やリミッター解除だけですけど、その分手札消費を魔法や罠に回して防御を固めています」

フェイト「基本は除去ガジェだからモンスターを魔法・罠で除去して、火力を一族の結束やリミッター解除で上げて……だよね」

恭文「ちなみにこのデッキで一番気持ちの良い勝ち方をした時は……CPUで雲魔物系モンスターが出てきた時?
攻撃表示だったモンスターをガジェットで殴ったんですよ。ただし一族の結束を二枚発動して、ダメージステップ時にリミッター解除使って。
結果攻撃したグリーンガジェットは攻撃力6000となり、相手のライフ5100を一気に削りました」

フェイト「しかもその時自分のライフは100とかだったから……でも魔法・罠が発動しなくてよかったよね」

恭文「よかったねー。召喚邪魔されてたらアウトだったもん」

ティアナ「……マシンナーズ・フォートレス、同人版に出せないかな。使ってみたいんだけど」

恭文「難しいんじゃない? 作者的には味方より敵を強くしたいって考えっぽいし」

フェイト「あ、勉強したよ。それを一度のドローで全部覆すんだよね」

恭文「そうそう」





(おしまい)





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あきゅろす。
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