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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory05 『オフ・トレーニング』



うちの双子達のお世話もあるので、僕は部活などには入らず毎日家に即帰る日々がほとんど。

まぁ夜に空海や唯世と訓練したり勉強見たりもあるけどねぇ。なお、りまはティアナが担当してる。

やっぱ可愛い妹な感じらしくて、りまが魔法勉強するの決めたら自分が教えたいって言って聞かなくてさぁ。



とにもかくにも、子ども用ベッドでぐっすりな双子を見て安心しつつ、僕達用のベッドに腰かけてるフェイトに改めてただいまのキス。



フェイトからのお帰りのキスを受け取った上で、僕はフェイトの隣に座る。





「それでヤスフミ、唯世君達の方は」

「そこは大丈夫。フェイトの方は?」

「エリオもキャロもお休みの調整は大丈夫だって。あ、それとスバルの方も引き継ぎは問題なし。だから予定通りに行けるよ」



フェイトは嬉しそうに微笑みながら、ぐっすりなうちの双子達を見る。



「今年はアイリと恭介達も一緒に」

「うん」



実はおなじみな新旧ガーディアンメンバーとエリキャロとスバルとティアナ、それに向こうの横馬達も含めてみんなで旅行予定なの。

ただしただの旅行じゃなくて、ルーテシア――ルーの居る世界でオフトレも込み。何気に恒例だったりするんだー。



「ただその前に……空海がなー」

「空海君、どうかしたの?」

「いや、これまでのパターンを考えるとそろそろ」



そしていきなり家の中でインターホンの音が鳴り響いた。



「――このように、勉強教えて欲しいと泣きつく頃だと思うのよ」

「あははは、凄い的中率。というか、テスト前はいつもこうだったね」

「うん」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ふふ……うふふー、どうしよ。笑いが止まらない。お父さん達、びっくりするかなぁ。

レイヤー建造物で組んだ住宅街での市街地戦を想定した訓練場はもうバッチリ。

私とガリューで組んだキロ単位のアスレチックゾーンはみんなのフィジカルトレーニングに最適。



我が家の横に建築した宿泊ロッジは、内外ともにパワーアップ。もうホテル営業出来ちゃうくらいだもの。

それでそれで、試しに掘ったら出てきた天然温泉は良い感じで改造しました。なお、最近の趣味は建築研究です。

でも、それもこれも全部時たまこっちに来てくれるお父さんの力添えがあったからこそ。ほら、お父さんは物質変換使えるから。



お父さん、ありがとう。それでそれで……今年こそは、大丈夫よね。私は確かに今まで子どもだったと思うの。

でも胸も去年よりも更に大きくなって、もうちょっとでお母さんに追いつける。

それに私はもう赤ちゃんを産める身体だもの。お父さんの全てを受け入れられる。そう、だから今年こそは頑張る。



この素晴らしいシチュでお父さんのハートをゲットして、お母さん共々お父さんのお嫁さんになるの。





「――頑張ろう、ルーテシア・アルピーノ。これで私は」

「ルーテシアー、屋根の上でなにしてるのー」



その声に足元――私達が暮らす我が家の玄関の方を見ると、薄紫のワンピースに白のストールを羽織ったお母さんが居た。



「あのね、お父さんのお嫁さんになる計画を立ててたの」

「そうなのー。でもルーテシア、抜け駆けは許しませんからー」

「分かってる」





ここはカルナージ――私が流刑処置を受けてお母さん共々やって来た世界。ただ、そんな世界も4年の間に少し様変わりした。

無人世界という事で、3年ほど前から開発が進んでいるんだ。ただこの世界自体は自然も豊富で温暖な気候のある優しい世界。

だから開発自体もその自然を壊さないように進んでいる。そこまでメカメカしくないんだ。



そんな世界にもうすぐ、お父さん達一団がやって来る。だから私はずっとわくわくしてる。



特にお父さんになったお父さんに会えるのが楽しみ。私はあとほんのちょっとだけ、ここから出られない日々が続くから。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――あー、合宿かぁ。ノーヴェさんから誘われたんだ」

「えぇ」



二人でせっかくなのでヴィヴィオちゃん達との待ち合わせ場所に向かいつつ話を聞いて、あたしは納得。

確かにあれは魔導師組のオフトレも込みだから、そりゃあ格闘関連にもなるよね。



「でもでも、ノーヴェさんアインハルトの事誘ってたんだねー」

「何気に気にかけてるとかかな」

「ノーヴェさん、優しいし面倒見も良い人ですからぁ」

「あとは格闘競技者同士のシンパシーでもあるのかも知れないわね」



ラン達もノーヴェさんが誘った事は納得してるみたい。でも、アインハルトはちょっと戸惑ってる感じっぽい。



「一応休み明けは練習のつもりで、その……断り切れなくて」

「じゃあ行きたくないの?」

「いえ。局の魔導師の方の戦技も見れるというので、参考にはなるかと。ただ問題が、その」



あれ、なんでアインハルトはもじもじしてちょっと視線落とすの?

とにかく問題があると踏んだあたしは、頭の中で軽くそれをまとめてみる。



「あー、親御さんの許可取れるかどうか分からないとか?」

「両親は恭文さんや日奈森さん達との交流には賛成なので……おそらくはかなり簡単に」



そこでいの一番に恭文の名前が出る事にたまらなく嫌なものを感じるけど、それでも笑顔を保つ。



「じゃあ誰かこう、苦手な人が居るからとか?」

「いいえ。お世話になった方々にそんな……それに、恭文さんも来るそうですし」



いや、だからどうしてそこで恭文? それで顔赤らめないで。あのバカがまたやらかしたのかと勘違いしちゃうから。



「じゃあなんでかな」

「その、お恥ずかしい話なのですけど」

「うん」

「私はこういう……団体旅行というのが初めてで。初対面の方も居るわけじゃないですか。
なのでその、ご迷惑をかけたり失礼をしたりしないかと色々考えてしまって。
というか、現時点でかなりご迷惑もおかけしてしまっていて、それでここまで世話になるのはどうなのかと」



かなり真剣な顔でそう呟いたアインハルトがなんかこう、あたしの知ってるクールキャラとはまた違って……あたしは自然と表情を緩めてた。



「……やはりおかしいでしょうか」

「あー、ごめんごめん。てゆうか、全然そんなの……まぁ、多少は気にしちゃうか。
あたしもね、そういうの分かる。あたしも外キャラが強いビビリキャラだし」

「外キャラ?」

「外向けのキャラ。ほら、あたしってなんかこう――すっごい出来るキャラみたいに言われてるじゃん?」



あたしと同じくらいの身長のアインハルトが極々普通に頷くのがちょっと突き刺さりつつも、あたしは前を見る。



「昔っからそうでさ。口下手で意地っ張りなのがクールでカッコ良いって思われて……だからまぁ、それでめんどい事もあってさ。
みんながお泊まり会企画しても『そういう事やりそうなキャラじゃない』って思われて誘われる事すらなかったし」

「そ、それは……寂しいですね」

「……うん。それで今のアインハルトの悩みとはまた違うけど、新しい事や誰かの輪の中に入るのにビビっちゃう事もたくさんあった。
そういう時ずーっとこう思うの。『そんなのあたしのキャラじゃないー』って。それで入りたい自分の気持ちに、嘘ついちゃう」



アインハルトの方を見ると、アインハルトはあたしの事まじまじとオッドアイの瞳を揺らしながら見てた。



「ね、アインハルトは本当はどうしたい? 人の迷惑とかそういう遠慮は抜きで、まずそこからじゃないかな。
ノーヴェさんに押し切られちゃったのは、そこで遠慮があるからだと思うんだ。だから、まずはそこに嘘をつかない」

「ですがそれで断っても」

「でもそういう遠慮の上でおどおどしながらみんなと接したら、余計印象悪くなっちゃうよ?」



アインハルトは戸惑い気味なのを見て、あたしはここで断定的な事言うのもアレかなーと思ってまた視線を前に移した。



「まぁちょっと考えてみなよ。行きたかったら行きたいでいいし、断りにくいようならあたしもノーヴェさんと話すしさ」

「……すみません」

「なんで謝るの? あたし達一応知らない仲じゃないんだし、これくらいは当然じゃん」





穏やかな陽気の中を歩きつつ、あたしはちょっと安心。こう、覇王でクールなのがこの子の全部じゃないんだなーと。

アインハルトの中には今みたいなちょっと遠慮しがちなキャラもあって、他にもきっとたくさんあって……まぁこれはしょうがないか。

というか、ここで安易に試合の事をなかった事にするのは罪を数える事にはならないんだよね。



被害者はノーヴェさんやあたし達だけじゃないんだしさ。一応ノーヴェさんともちょっと話しておこうかな。



アインハルトの中のそういうキャラと向き合う事も必要かもーって。よし、帰ったら早速メールしようっと。










魔法少女リリカルなのはVivid・Remix


とある魔導師と彼女の鮮烈な日常


Memory05 『オフ・トレーニング』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そんなこんなで地球とミッドの試験期間は無事終了。成績がアレな組も問題ない組も無事に試験はクリア。

あ、そういう風に恭文から連絡が来たんだー。だから一番心配だった空海さんもちゃんと来れるーって。

というわけで、本日はオフトレ出発当日。まずはリオとコロナがうちに来た。高町家が合流場所だからねー。



それでみんなで中央本部に向かって、そこの転送ポートから。ただ、ここは普通のポートじゃないんだ。

カルナージは今現在絶賛開発途中な世界で、向こうへの正式な転送ポートは開発の関係団体しか使えないの。

つまりそういう業務用の物資関係を運ぶの専用。それの使用許可を取ってなんとかって感じ?



ここの辺りはヴィヴィオ達が局――あそこの開発が決定する前に流刑処置を受けたルールーの関係者だから出来るの。

でもなんというか、一応でも犯罪者の流刑地なのにそこを開発するって……局の上の人は若干頭がおかしいんじゃないかな。

まぁそこの辺りは人口密度の問題もあるのかなぁと胸のうちで納得しつつ、ヴィヴィオ達はそれぞれ荷物を背負う。



あむさんも久々にガーディアンのみんなと会えるからうきうきしてるし、良い感じだねー。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、聖夜市組はまず全員でうちのマンション屋上に集まり、転送ポートで本局へゴー。

なおメンバーは、僕・フェイト・リイン・アイリ&恭介・ティアナ・ディードの魔導師組。

そして唯世・やや・りま・空海・海里としゅごキャラーズという集団である。



ちなみにりっかとひかるは家のみんなと旅行なので不参加。りっかがちょい残念がってたけどここはしょうがない。

シャーリーもはやてのとこで仕事してるから、ちょっと無理なのよ。りっか同様に残念がっていたなぁ。

それとなぎひこも現在ダンス留学中だからちょっと無理だった。向こうは向こうでまた生活サイクル違うしね。



それで……うん、人数多いよね。向こうの組も含めると、旅行編で出る人間は合計20人以上だよ。この時点で誰かしらが空気になる可能性が。





「蒼凪君、そのメタ発言はいいと思うんだけどっ!」

「唯世、地の文は読まなくていいのよ? しかし誰が空気化するかなぁ。
僕の予想ではエリキャロだと思うんだよね。あとは双子とか」

「自分の子どもを空気化要員に入れるんじゃないわよっ!
いや、確かに赤ん坊だから話の中で目立つ自己主張は難しいけどっ!」

「よし、ややは空気化しないように頑張るぞー!」

「アンタもそこ気合いの入れ方間違えてるからっ!」



そんな双子をフェイト共々専用なフロントキャリアで抱きかかえつつ、僕は足を進める。

なお、双子はキャッキャキャッキャと楽しそうにはしゃいで笑ってる。本局来るの初めてだから、楽しいみたい。



「アイリ、恭介、残念だがこれはやれん。これは辛めなせんべいだからな」

「お姉様、とりあえず消えてください」

「なぜだっ!?」

「当たり前だろっ! お前の食べてるもんを二人が食べそうになって大変だったあの時の事を忘れたのかよっ!」



そうそう、そう言えば一つ言い忘れていた気がする。ヒカリが生まれてから、うちのエンゲル係数は上がりました。



「あー、でも二人とも大きくなったよねー。もう歩いたり出来るかなー」

「やや、さすがにそれは無理よ。まずはよちよち歩きからじゃない?」

「まぁそれももうちょっとかな。まぁ、その分大変さも増してるけど」



そう言いながらフェイトは楽しげに笑って、胸元のアイリをいとおしそうに左手で撫でる。



「例えば……寝返り打ってうつ伏せになった時は、さすがに心臓止まりそうになったよねー」

「うん、そうだね。でもヤスフミ、それで神速使うのはやめようね。あれはちょっとびっくりした」

「だって早く起こさないと呼吸が」

「蒼凪さん、おそらくフェイトさんはそういう事を仰っているのではないかと」



そんな事を言うのは、去年からまた聖夜小に戻って来た海里。それでうちの双子を微笑ましい表情で見てる。何気に赤ん坊は好きらしい。



「それでその、蒼凪さん」

「なに、海里」

「いや、お主……拙者達の言いたい事は分かってるだろ」



そう言いつつムサシを筆頭に、全員が後ろで顔を青くしてふらつきながら歩く空海を見る。



「確かに相馬君、ずっとあの調子だけど……どうかしたの?」

「英語のテストで赤点ギリギリだったのよ。しかも自信満々なとこで凡ミス連続。それでヘコんでるの」

≪というか、ある箇所から答えが一つずつズレてたんですよ。合っていれば100点取れました≫

≪凡ミスさえしなければそれだからお兄さんズもダメ出しし辛くて……逆に気を使われて更にヘコむの≫



空海、何気に相当勉強したから自信持ってたのに……足元すくわれたわけですよ。

まぁそこの辺りは反省してもらって、今年のIMCSに活かしてもらうとしますか。



「まぁ現地に到着して、オフトレ始まれば元気も出るでしょ。あとは……あむの方か」

「あ、そう言えばあむちーのデバイス出来たんだよねー」

「完成したですよー。リインとシャーリーも手伝った自信作なのです」

「まぁそこについては」



僕は足を進めながら振り返り、みんなの方を見る。



「みんながデータ取り協力してくれたおかげだよ。ありがと」

「ううん、問題ないよー。でもでも恭文、あむち大丈夫かな。かなりクセが強いように感じるけど」

「大丈夫でしょ。というか、あむの性格考えるとなにかあった時は絶対前に出るだろうし……その辺も含めるとね」

「それは確かに。あむちゃんだしね」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



足をしばらく進めて、みんなとの待ち合わせ場所に到着。

そこは転送ポートの使用手続きをする受付のフロアで待ち合わせ。そのフロアは……まぁ受付だね。

ピカピカに掃除された壁に備え付けのたくさんのソファーと、陸士制服を着たお姉さん達が椅子に座って並んでいる。



あのお姉さん達のところで受付……というか、予約確認をした上で指定の転送ポートまで行く。



そしてそんな受付待ちな人が座るソファーに一角に、見慣れた赤毛と最近知り合ったツインテールが居た。





「ノーヴェー、アインハルトー」

「二人とも、ちょこっとだけお久しぶりー!」



フェイトとややが声をかけると、二人は立ち上がってこちらを見る。

アインハルトは丁寧にお辞儀をしてきた。僕達はそれに手を振り返しながらも、二人の方へ近づく。



「ノーヴェさん、お久しぶりです」

「あぁ。お前らも」



そこまで言ってノーヴェは未だにヘコんでる約一名に気づいて苦笑した。



「約一名を除いて元気そうだな。てーかアイツどうしたんだよ」

「空海、テストで凡ミスして赤点ギリギリだったらしいのよ。
それがなかったら100点取れてたから余計ヘコんでるの」

「あちゃ、それでかぁ。そりゃまた……あー、紹介遅れた」



そう言ってノーヴェは右の平手をアインハルトの方に軽く伸ばす。



「こっちが」

「初めまして、アインハルト・ストラトスです」



アインハルトはまた改めて唯世達にお辞儀。



「日奈森さんと結木さんの地球でのご友人と伺っております。その、よろしくお願いします」

「あ、僕達も蒼凪君とフェイトさんから簡単には。初めまして、辺里唯世です」

「三条海里と申します」



それで唯世と海里はアインハルトを見て、少し興味深そうに表情を崩す。

何気に格闘・剣術経験者なので、アインハルトの実力がなんとなく見て取れたらしい。



「フェイトさんの補佐官のティアナ・ランスターです。まぁ休職中に近いけど、一応局員」

「真城りまよ。それであっちでヘコんでるのが相馬空海。まぁそっとしておいてあげて」

「は、はい。それであの、恭文さん」



アインハルトは興味深そうに僕とフェイトの前に居る双子達を見る。



「あぁ、僕とフェイトの子ども。こっちが恭介で」

「この子がアイリ。双子なんだ」

「そうなんですか。愛らしい子達ですね」





二人は自然と笑いながらアインハルトに手を伸ばした。アインハルトは少し驚いた顔をするけど、表情を緩めて両手を上げる。



そうして差し出されたアインハルトの指を双子達は強く握って、更に声をあげて笑った。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ヴィヴィオ達は五人で戸締りをした後にレールウェイでミッド中央本部にやって来た。

そこから本局直通の転送ポートへ跳んで、そこから更に移動を開始。

それでヴィヴィオ達が辺りを見渡すと、ソファーに座ってるすっごい目立つ一団を見つけてしまった。



あのね、普通に目立つよね。だって10人前後でわいわいがやがやしちゃってるもの。





「なんというか、ガーディアンのみんなはすっごい分かりやすいよね」

「だよねー。ねぇなのはママ、確かスバルさんってこっちで合流だっけ」

「うん、そうだよ。だから」

「あー、みんな居たー! やっほー!」



後ろを見ると、元気に手を振っているノースリーブで黄色のキャミにジーンズミニスカなスバルさんが居た。



「合流するんだよね」

「ですよねー」




ヴィヴィオはママとリオ共々苦笑しつつ改めて一団の方を見る。



するとあむさんとコロナが既に嬉しそうな顔でそっちに近づいてた。……行動が速い。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




本局を出発し、無事カルナージに到着。ルールーの家はカルナージの開発区域からは少し離れた場所にある。

そこまでは駐留している局の人の車で送ってもらってーって感じかな。ここの辺りは一応ルールーの処置関係を気にしての事らしい。

まぁそんなわけで、開発という変化から距離を取ったここは山と緑に囲まれた穏やかな場所。



ただ気になる事があるとすれば、なんかしばらく来ない間にルールーとメガーヌさんの家の周囲がパワーアップしている事。

ヴィヴィオはルールーの事が嫌いでもなんでもないけど、一種の隔離処置のはずなのにこの自由さはいいのかと疑問。

ただルールーの処置が段階を踏んで軽くなってはいるからなぁ。もう魔力リミッターも解除になってるし、その関係だよね。



そう考えると大人な世界を知り始めたヴィヴィオの疑問が、とっても小さい物に思えて来てちょっと反省。



そんな反省も含めつつ、ヴィヴィオ達は出迎えてくれたルールー親子と対面です。





「みんな、いらっしゃいっ! ホテル・アルピーノへようこそー!」

「いらっしゃい」

『お世話になりますー』



全員揃ってお辞儀をして、オーナー二人にご挨拶。それで早速。



「メガーヌさん、お久しぶりでーすっ!」

「お久しぶりでちー」



ややさん、早速メガーヌさんの胸に飛び込むんですね。



「うん、二人ともお久しぶり。……あ、1年間のKチェアのお仕事お疲れさまでした。よく頑張ったわねー」

「えへへー、ありがとうございますー。でもでも、このふかふかな感じが懐かしいよー」

「でちー」

「あらあら、甘えん坊さんね。中学生になってからまた赤ちゃんキャラに戻っちゃったみたい」

「いいのー。だってややは元々赤ちゃんキャラだしー」



それでメガーヌさんは嬉しそうにややさんを抱き締めて撫でて……そこで受け入れちゃうんですね。



「ヴィヴィオさん、日奈森さん、アレは」

「あぁ、気にしなくていいですよ。メガーヌさんは、ややさんの師匠みたいなものなんです」

「そうそう。魔法どうこうは関係ないけどね」



ややさんが暴走状態に近かったノロウサアルトをコントロール出来たの、メガーヌさんのアドバイスが大きかったんだって。

その関係で今でもメールや電話でお話する事も多くて、ややさんがガーディアンのお仕事で困った時も相談してるとか。



「それでは、あの」



アインハルトさんはメガーヌさんとややさんのアレには納得したけど、納得し切れてないようすのもう一人を見る。



「お父さん、お久しぶり。通信でしか見てなかったけど、アイリと恭介も大きくなったね」

「うん。でもね、ルー」

「なに?」

「まぁなんていうかその、なんかこう……なぜにそんな胸元を強調するようなポーズを取る」



あぁ、なにが言いたいかよく分かったよ。だってルールー、キャミですっごい胸元開いてるしなぁ。



「えっとその……あの子はルーテシアって言うんだけど、恭文の事を愛称でお父さんって呼んでて」

「そうなんですか。恭文さんは……いわゆる『モテる』人なのですね」



あれ、どうしてアインハルトさんはちょっと表情曇らせるの? まさか……あぁ、やっぱりなんだ。

まさかまさかとは思ってたけど、やっぱりフラグ立ててたんだ。恭文、きっと読者のみんなが怒りに打ち震えてるよ。ヴィヴィオを放置だし。



「ルールー、こっちも見てー。紹介したい人が居るんだからー」



ヴィヴィオが声をかけると、ようやく嬉しそうな顔してたルールーは視線をヴィヴィオに向けてくれた。



「えっと……もしかしてその人がメールで聞いた」

「うん」



ヴィヴィオが右手でアインハルトさんを丁寧に指すと、アインハルトさんはペコリとルールーにお辞儀。



「アインハルト・ストラトスです。初めまして」

「初めまして、ルーテシア・アルピーノです。話はヴィヴィオから簡単に」

「お疲れ様ですー」



挨拶し合っていると、横から声がかかった。それでそちらから薪を数本抱えた男の子と女の子が来る。

男の子はロングで裾が締まってるズボンに黒シャツ。女の子は白の上にピンクのロングスカートを履いてた。



「あ、エリオ、キャロ」

「……エリオ、また許可無く背が伸びてるね。僕に今まで一度も勝ててないくせに」

「恭文、いきなり瘴気出すのやめてくれないかなっ! あとその設定はまだ継続っ!?」

「黙れ空気がっ! 背が伸びても影薄いの変わらないっつーのっ!」

「その意味不明なキレ方やめてよっ! あと影薄いとか勘違いだからっ!」



残念ながら勘違いじゃないと思っている間に、二人は一団に近づいて来た。それでスバルさんが感心した様子でエリオさんに近づく。



「エリオ、やっぱ背伸びてるよねー。もうフェイトさん完全に追い越してるし」

「あ、私もちょっとは伸びましたよ?」

≪あぁ、悪魔振りが伸びたんですよね。二代目魔王ですし≫

「違うよっ! 私どこが魔王なのかなっ! 同人版とか見てっ!? そんな影形はどこにもないからっ!」



そのメタな発言をしたキャロさんは息を整え、アインハルトさんとあむさん達の方を見る。



「あむちゃん、みんなも久しぶり。えっと、そっちは」

「初めまして、アインハルト・ストラトスです。日奈森さんとは同級で、今回参加させてもらう事になりました」



さすがにいきなり『私覇王です♪』とは説明出来ないから、あむさんを窓口みたいにするよね。

キャロさんもその傍らに居るエリオさんも納得した様子で、アインハルトさんにお辞儀を返した。



「初めまして、エリオ・モンディアルです」

「キャロ・ル・ルシエです。えっと……フェイトさんの家族なんだ」

「という事はご姉弟……あれ、でも苗字が」

「少し事情があって、私が保護責任者という扱いになってるんだ」

「あ、そうなのですか。失礼しまし」




アインハルトさんが言葉を止め、ハっとしながら後ろの方を見る。それに恭文以外の全員が釣られてそちらを見た。

なお恭文を抜かしたのは、ヴィヴィオ達より速く反応してそちらを見たから。そこには黒いダークヒーローと白い飛龍が居た。

アインハルトさんは人外のダークヒーローもどきの方に警戒心を向けて、素早く向き直りながら構える。



それを見て、ヴィヴィオ達は慌ててアインハルトさんを止めに入った。




「アインハルトさん、その子達は違いますからっ!」

「……え?」

「私とキャロの召喚獣なんだ。黒い方が私の召喚獣でガリュー」



アインハルトが咄嗟に迎撃態勢を取ったのが面白いのか、ルールーは右手で口元を押さえて笑う。



「白いぬいぐるみサイズな飛龍がフリード。二人とも狩りしててくれたんだ」

「くきゅー」



確かにガリューの背中にはかなり大きめのカゴがある。その中には鳥っぽいのがいくつか見えた。あれがその狩りの成果みたい。



「そ、それは……失礼しましたっ! あの、すみませんっ!」

「ううん、大丈夫。確かにいきなりだとびっくりするしね。……さて、お父さん」



ルールーは恐縮して頭を下げているアインハルトさんに、『大丈夫』と笑いかけつつ恭文の方を見た。



「大人組はお昼前にトレーニングだよね」

「うん。まぁフェイトのリハビリも込みで軽くね」

「久々の本格訓練だし、頑張るよ」



フェイトママがガッツポーズを取るのは、何気に今回のオフトレを楽しみにしてたから。

子育てって大変だから、適度な気分転換は大切みたい。あんまり集中し過ぎるとノイローゼに繋がるらしいし。



「ならアイリちゃん達は私が見てるわね。……あ、シオンちゃん達も手伝ってくれると助かるかも。お昼の準備もあるから」

「なら、私達は」



しゅごキャラーズのみんなは顔を見合わせて頷き合い、メガーヌさんの方へ一斉に飛んでいく。



「こちらの方ですね」

「はいでち。メガーヌさん、ぺぺ達もお手伝いするでち」

「ありがと。これだけ居てくれたら心強いわ」



メガーヌさんとしゅごキャラーズは楽しげだけど……あぁ、エリオさんとキャロさんとアインハルトさんがポカンとしてる。

三人はしゅごキャラ見えないからなぁ。確か恭文もエリオさん達には教えてないはずだし、しょうがないか。



「それで子ども達はどうする?」

「やっぱりまずは……川遊びかなと。あ、アインハルトもこっち来い」

「は、はい」

「じゃあ決定だね」



ママが両手をパンと叩いて全員の注目を集めてから、両手でガッツポーズを取る。



「まず大人組は着替えてアスレチック前に集合」

『はいっ!』

「アタシ達も水着に着替えて、ロッジ裏に集合するぞー。それでまずは『遊ぶ』」

『はーいっ!』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



合計すると10人以上の子ども組は、近くの川にやって来た。まずはアタシ先導でしっかりと準備運動。



それとお決まりな諸注意もしっかりと促した上で、男女混じり合って水かけっこから川泳ぎまで幅広く遊んでく事にする。





「あの、ノーヴェさん」



だがそんな中、戸惑い気味な表情を浮かべて川に入っていくみんなから離れているのが居る。もう言うまでもないがアインハルトだ。



「私はアスレチックの方に行っても」

「まぁまぁ。いいから連中と一緒にちょっと泳いでみろ」

「でも」

「てーかお前、その格好でアスレチック行くつもりか? 恭文はともかくエリオ辺りには刺激強いだろ」



現在のアインハルトの格好は、黒の肩紐なしなビキニ姿。アインハルトの体型がスレンダーなせいか、変な色気とかはない。

だがとりあえずアレだ、この格好でアスレチックするもんじゃないのは明白だろ。



「当然着替えますが」

「じゃあその前にひと泳ぎだな。騙されたと思ってちょっとやってみてくれ」





アインハルトの背中を押して、水の方に近づける。アインハルトは諦めた様子でそのまま水の中に入った。



ただその前に念のためにもう一度柔軟体操するのがいいな。さて……気づいてくれるといいんだがなぁ。



恭文は前に『日々これ精進、暮らしの中に修行あり』と言ったそうだ。だからまぁ、実を言うとこれも修行なんだよな。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ノーヴェさんの押しがやたらと強いのに首を傾げながらも、ヴィヴィオさんや日奈森さん達に交じる形で水遊び開始。



川の中でバレーをしたりちょっと潜って泳いだり……そんな事を続ける中、二つ気になる事がある。まず一つは。





「ぶくぶくぶくぶくー」

「りまたん、無理しないで浅いところ行こうよー。ほら、溺れちゃったら大変だし」

「ぶくぶくー」

「真城さん、なにを仰っているのか俺にはさっぱり分かりません」



日奈森さん達のご友人である真城さんが、川の中で溺れているようにしか見えない。つい心配で何度もそちらを見てしまう。

川の流れは早くはないけど、真城さんは体型が小柄……それなのになぜ、あのように谷間が出来るのだろう。私には疑問だ。



「アインハルトさんアインハルトさん」



真城さんが気になっていると、横からヴィヴィオさんが声をかけてくれた。



「はい、なんでしょう」

「こっちに魚が沢山居ますよ。ちょっと見に行きましょー。それで捕まえて夕飯に」

「捕まえられるのですか?」

「魔法で川に電撃流せば多分ー」

「ヴィヴィオちゃんそれダメっ! あたし達まで感電しちゃうじゃんっ!」





さすがにそんな事はしないと笑っているヴィヴィオさんを見て、私は頬を引きつらせるしかなかった。

まぁその……さすがにやらないだろう。そんな事したら真城さんが水死体に変わりそうで怖い。

とにかくヴィヴィオさんと一緒に川の中へ潜る。川の中は澄み切っていて、目も問題なく開いていける。



川の流れに逆らうようにヴィヴィオさんは進んでいくので、私もその後を追う。でも……徐々に離されていく。

全力でバタ足しているのに、ヴィヴィオさんに追いつけない。体格の問題? ううん、私も小柄な方だからそれはない。

なら川の流れに圧されて……それもない。ヴィヴィオさんだって条件は同じだし、この速度差はそういう話ではないと思う。



そう、これが私が気になる事の二つ目。私とヴィヴィオさんやみなさんとでは、泳ぐ速度や水の中での行動スピードに差がある。



あとは体力の問題。私もそこそこ鍛えているけど、ヴィヴィオさん達のペースに合わせるのはかなりキツい。なのにヴィヴィオさん達は……もの凄く元気。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



僕達大人組は、ルーが無人世界の中で作ったアスレチック場に向かう。

中々にハードなそこは、普通に遊べもするけど一気にクリアしようと思うと良い運動になる。

まずは一発目を軽くクリアした僕は、息も切らさずゴール付近で伸びをする。



その左隣でスバルとティアナが眼前に広がる森林風景に目を輝かせ、右隣ではフェイトが荒く息を吐いている。



フェイトの隣のディードはそんなフェイトの背中を撫でながらも、自分も呼吸を整えている。





「さ、さすがに……キツかったかも」

「いやいや、あのペースについて来れてそれなだけでも凄いですって。フェイトさん、むしろ前より体力ついてません?」

「そう、かな。お母さんになったからかな」



黒のジャージ姿なフェイトは息を整えながら身体を起こし、照れた笑いをスバルに向ける。



「前より集中力がついたかなーと思う時はあるんだ。周囲の変化にも敏感になってるし」

「うーん、やっぱりお母さんって強いんですね。でも」



そこでスバルは僕に視線を移し、表情を訝しげにした。



「恭文はおかしいって。基本普通の中学生なのに、なんであんな動けるの?」

「そりゃああの街に来てから、普通に魔導師やるよりずっと濃い戦闘経験積んでるしね。そのせいだよ」

「でももうガーディアンじゃないのに」

「……スバル、コイツ偶然×たまに遭遇する率が高いのよ。多分そのせい」



その瞬間、空気が固まった気がする。なぜかスバルが僕を気の毒そうに見出したし。



「あとはあれよ、コイツは空海や私の訓練に付き合ってくれてるから」

「それは私もですね。少なくとも錆びる要素はありません」

「そっか。でもティア」



スバルはティアナを見ながら、嬉しそうに笑った。ううん、羨ましそうにしているのかも。



「なんか綺麗になったよねー。ティアは単純に体力ついたってだけじゃないよ。雰囲気も変わったし」

「そう? 誉めてもなにも出ないわよ」

「もう、そういうのじゃないってー。……さて」



スバルは後ろの方へ振り向き、さっきからフェイト以上にぜーぜー言いながら地面に突っ伏している三人を見た。

フェイトも呼吸を整え、スバルと同じように三人を見る。その三人が誰かは……もう言うまでもないと思う。



「なのはさん、大丈夫ですかー?」

「エリオ、キャロ、まだ無理なら休憩時間伸ばすけどー」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「だ、だ……大丈夫です」

「バテてなんていな……げほげほっ!」

「キャロ、しっかり」





おかしい……これはどういう事? スバルさんはまぁ分かるんだよ。でも他がおかしい。

恭文もフェイトさんもティアさんもディードも、局の仕事や実戦から遠ざかってるはずなのに。

僕やキャロもそうだし、教導官ななのはさん……いや、なのはさんはもうしょうがないか。



とにかく僕達は実戦の中に居て訓練もしてるはずなのに、四人についていけないってなんかもうだめな気がするんだけど。



ただ同じ条件のヒロリスさん達があれだし……もしかして四人とも、子育てとかありながら相当鍛えてる?





「エリオ、君……私達全然、足りて」

「キャロ、喋るの辛いなら黙ってていいから。てゆうか、久々登場でなんだろコレ」





なんかこう、自信が砕けそうなんですけど。特に最近はキャロとの組手も勝率悪くなってきてるし……マズい。



空気や影薄いのも問題だけど、実力的にもこれじゃあだめだ。僕もしかして、伸び悩み? またはスランプ?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



みんなが忙しくしている間、私は私でお料理開始。アイリちゃん達の様子も見つつだから、普通なら大変。

だって20人近く居るのよ? さすがに私一人じゃあ手が余るわよ。でも今日は違うわ。

今我が家の調理場には、幸いな事に頼れるしゅごキャラちゃん達が居る。そんな中で一番張り切っているのは、スゥちゃん。



他のみんなは調理場の一角になぜか正座で横並びに整列して、そんなスゥちゃんを若干恐れるような目で見ている。





「というわけで、今日のお料理はバーベキューとポトフ、それにサラダですぅ。あとはアイリちゃん達の離乳食ですねぇ。
バーベキューのお肉とポトフはメガーヌさんがもう作ってくれているそうなのでぇ」

「えぇ、そこはバッチリ。昨日から仕込んでたから、とっても美味しくなってるわよー。
あと私特製のパンも焼けてるし、離乳食もフェイトちゃんから情報仕入れて準備してるわ」

「ならスゥ達はぁ、バーベキューのお野菜とサラダの仕込みですねぇ。材料を切って盛りつけて、ドレッシングも作るですよぉ」

「全く……王たる僕が一体なぜこんな事を」

キセキさんっ!



スゥちゃんが整列している中の中心に居るキセキくんを指差すと、不満そうだったキセキくんが身体を震わせスゥちゃんを見る。

スゥちゃんは瞳を輝かせながらも妖しく笑い、キセキくんを威圧しまくっている。



「働かざるもの食うべからずですよぉっ! 文句は言わずしっかりやってくださいっ!」

「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

「はいよろしいっ! ……あとあとぉ、アイリちゃん達の様子も見なきゃいけないのでぇ」

「そこはぺぺに任せるでち」



ぺぺちゃんが当然という顔をしながら右手を挙げた。それから両手を胸元で握り締め、表情を緩める。



「赤ちゃんの事は赤ちゃんキャラなぺぺが一番分かるでち。なのでここは当然でち」

「ならぁおまかせしますぅ。あ、ヒカリさんとシオンさんもお願いしますねぇ」

「……待てっ! なぜ私がアイリ達の子守なんだっ! 私は赤ちゃんキャラじゃないぞっ!」

「いや、しょうがないんじゃないかなー」



ヒカリちゃんは不満そうだけど、他のみんなは納得したという様子でヒカリちゃんを見る。



「だってヒカリ、食い意地張ってるし」

「お前始終なんか食べてるしな。多分つまみ食いとかするだろ」



ミキちゃんとダイチくんがそう言うと、ヒカリちゃんがずっこけた。



「ダイチ殿、そこは確定的で問題ないぞ。蒼凪殿がヒカリ殿が来てからエンゲル係数が倍上がりになったと言っていたしな」

「むしろ生肉に平然とかぶりつきそうで怖いわ。ヒカリ、あなたはおとなしく子守りしててくれないかしら」

「お前ら私をなんだと思っているっ! 私は調理前のものを食べるほど意地汚くないぞっ!」

「なるほど、つまり『しっかりと調理されたもの』なら遠慮なく食べると」



ちょっと気になったので私がツッコむと、ヒカリちゃんが固まって汗をだらだらと流し始めた。……これはビンゴね。



「お姉様、見抜かれてますね」

「なぜだ……完璧なはずだったのにっ!」

「どこがだよっ! お前の普段の行動鑑みればむしろ穴だらけだろっ! てーかお前どこの犯罪者っ!?」



これでヒカリちゃんはアイリちゃん達の子守り組に決定ね。でも恭文くんのしゅごキャラ……キャラ濃いなぁ。

あの11月のアレで三人に増えたって聞いた時はびっくりしたけど、三人ともそれぞれにキャラが立っているもの。



「じゃあ早速、調理スタートですよぉ」

『おー!』

「「……おー」」





スゥちゃんが意外と仕切り屋なのに驚きつつ、みんなの笑顔のために美味しいご飯作りを開始。



あー、でも楽しいなぁ。普段はルーテシアと二人っきりだから、それ以外の声や気配があると自然にニコニコしちゃうわ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さてさてぇ、バーベキューというのは薪・炭・ガスなどの直火によってお肉やお野菜、お魚さんや貝さんを焼く料理ですぅ。
もしくはその調理法や行為を示す言葉でぇ、語源は『丸焼き』を意味するスペイン語の『barbecue』。英語圏ではBBQとも略されますぅ。
アメリカでは年間数百ものバーベキューコンテストがあってぇ、調理に時間がかかるので開催期間は二日かけるそうですぅ」

「スゥちゃん、どうして解説?」

「読者さんへの配慮ですぅ」



その言葉に納得しつつ、まずは野菜の下ごしらえ。これもこの近くで群生している自然野菜を使っている。

この辺り、何気に食べられるものが多いのよね。ガリューにそういうのを見つけてもらって調達してもらってるからほんとありがたいわ。



「メガーヌさん、お肉はもう出来てるんですよねぇ」

「えぇ。メガーヌ特製ソースにしっかり漬け込んでるから、美味しいわよー」



私は視線で冷蔵庫を指す。あの中にいわゆるジップロック的なアレにソースと一緒に入っているお肉が数個。

お肉もこの世界に居てなおかつ食べられる牛や豚的なアレを捌いているの。ちなみに裏手に大きめのお肉保管庫があるわ。



「え、ソースって自分で作るのかよ。空海が家族とバーベキューした時は焼肉のタレ使ってたけど」

「そういうところもあるけど、自分の家で作る時もあるの」

「本場ではそうなんですよねぇ。ケチャップにウスターソース、果汁類とにんにくやしょうがなどを混ぜ合わせて作るんですぅ」





市販のバーベキューソースもあるけど、スゥちゃんの言うような形で作るところからバーベキューの楽しみはあるとされる。



それも自家製のレシピでね。さっき話に出たコンテストとかに出る人のほとんどは、自家製ソースを作ってるそうだから。



単純に焼くだけじゃなくて、そういうソースの出来とかも合わせた上で審査するの。でもこれも奥が深いのよね。





「ソースはこの近くで取れる果実や香辛料を使ったもので、結構スパイシーよ。ルーテシアもお気に入り」

「それは楽しみですねぇ。じゃあケチャップやウスターソースは使ってないですかぁ」

「えぇ。ここならそういうの使うより」



ついさっき冷蔵庫から取り出した玉ねぎ的なアレをまな板に置いて、まずはてっぺんと底の方を包丁で軽く切断。

その上で上から刃を入れて一刀両断にしてから片方を取り、鍔元を表面の皮の方に入れて……一気に玉ねぎ的なアレの皮を剥ぐ。



「現地で取れるものを使った方が楽ですもの」

「納得ですぅ」

「なぁメガーヌさん、その玉ねぎ的なアレ大丈夫なのか? なんか色が」

「た、確かに」



みんなが不安気に見るのは、私が輪切りに切っている玉ねぎ的なアレ。その中身は……鮮やかな紫色。

まぁこの中身はさすがに引くかかぁ。恭文くんでさえ初めて見た時には驚いてたしね。



「あぁ、大丈夫よ? 最近見つけたんだけど、これ良い感じなのよー。甘みも強くてこのままかじっても美味しいから」



玉ねぎのかけらを左手で取って、私はちょうど近くに居るダイチくんとキセキくんに差し出す。



「はい」

「え、えっと……それは僕達に食べろと言いたいのか」

「えぇ。ほらほらー、男の子なら度胸よ度胸。恭文くんだって度胸出して私に飛び込んで胸を揉んだくらいだもの」

「それ絶対違うよなっ! ……まぁそれなら」



ダイチくんとキセキくんは顔を見合わせて、意を決したように私が差し出した玉ねぎのかけらにかじりつく。

目を閉じてなにかを堪えている表情で紫色のアレを咀嚼していくと、二人の表情が一気に和らいだ。




「……なんだこれ、すっげーうめぇぞっ!」

「うむっ! シャキシャキ感と甘さがまたなんとも……これは外見騙しもいいところではないかっ!」

「気に入ってもらえて嬉しいわ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さて、拙者達はサラダ担当だ。メガーヌ殿、ドレッシングのレシピはこれで大丈夫でござろうか」



ムサシが視線で指すのは、調理場の壁に貼り付けられたレシピ表。そこにはボク達が担当するサラダに使うドレッシングもある。



「えぇ、大丈夫よ」

「でもドレッシングって、自分で作れるんだねー」

「それはもちろんよ。ドレッシングは『塩・酢・油』の三つがあれば誰でも作れるわ」



ランが目をキラキラさせながらドレッシングのレシピを見てると、メガーヌさんがボク達を見ながらくすりと笑う。



「塩は野菜の旨みを引き出すもので、酢は酸味によって野菜のエグ味を消しますぅ。
そして油はぁ、野菜のパサつき感を打ち消すものなんですぅ。
でもでもぉ、本当に美味しい野菜ならエグ味やパサつき感は少ないんですけどぉ」

「ただそれでもって人は居るのよね。そんな時にドレッシングを使うとこれが中々。
人間は本質的に生野菜が嫌いという説もあるから、ドレッシングは必須なのかも。
ちなみにドレッシングの語源はドレスから来てるわ。ソースによって生野菜を飾りつけるという意味」

『へー』



それで美味しさを引き出していくという事なんだね。メガーヌさん、なんだかお料理の先生みたい。



「だからサラダは、ソースが全体を支配するような味つけになるのはだめ。主役はあくまでも野菜で、爽やかさが必要だもの」

「あ、ボクテレビで見た。サラダはフルコースだとオードブル――一番最初に出される料理。
その役割は食欲をそそる事。だからメインになる料理を美味しく食べられるように演出しないとダメ」

「まぁ全体的なバランスが大事って事ね。一品だけならその一品の中に。何品かあるならその何品かの中に演出を込めるの」



メガーヌさんはそこまで言って、両手で拍手をポンと打った。



「あ、でもその前にみんなはまず、そこのレタス的なアレを適度な大きさにちぎって欲しいの」

「そうですねぇ、出来立てが美味しいですからぁ」

「え、ドレッシングって温かくないのに出来立てとか関係あるのぉ?」

「実はあるの。ドレッシングには油を使うでしょ? 油は時間が経つと酸化という現象が起きて、美味しくなくなっちゃうの」

「分かったー。よーし、頑張るぞー」



ランが先導を取る形で浮きながら手足をバタバタさせる。ボクも頑張ってお手伝いしようと思って右側を見ると……ごめん、そろそろコレについてツッコみたい。



「でも」

「ミキちゃん、どうかした?」

「いや、ボクの言いたい事もう分かってるよね」



ボクがずっと見ていたのは、キャベツ的なアレ。アレもたまねぎ的なアレ同様に、ちょっとおかしかった。



「なんでこのレタス的なアレ、青色なのかな」

「……実は拙者も気になっていた。前回お世話になった時はこのようなものはなかったと思うが」

「ムサシもか。実はオレもだ。てーか……なんじゃこれっ!」

「あ、それも美味しいのよ? 香草的なアレな要素も含んでるから、香りも良いし」

「アレアレ言い過ぎじゃねっ!? てーかこの周囲どんだけハイスペックな食材が揃ってんだよっ!」





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アタシもちょっと泳ぎたいとこではあるんだが、その前に横でゼーゼー言ってるアインハルトだよ。



アインハルトも戸惑い気味で連中の川遊びに付き合ってたんだが、思いっきりバテた。



あたしはなんか泳げないっぽいクリス共々アインハルトの隣に行く。





「どうだ、結構キツいだろ」



アインハルトは息を整えながらアタシを見上げ、頷いた。



「というかあの、みなさんはどうして」



バテないのかって言いたいらしい。アインハルトは視線を未だに川の中を泳ぎまくる連中を見る。

てーかややに海里達も普通について来てるんだよな。そこはちょっとびっくりだわ。



「まず原因の一つとして、水の中で動き回っているからってのがある。水の中で外と同じ速度で動こうと思ったら、筋肉の動かし方を変えないといけない。
アタシも救助隊で教わった事なんだけどよ、水の中ではその動かし方を覚えないと体力や動く速度にロスが出るんだよ」

「ではヴィヴィオさん達は」

「週2でプールに行って遊びがてら訓練してるからな。持久力のある柔らかい筋肉が出来てんだ。
体力的にはお前が上の方なんだけど、そのロスのせいでプラマイゼロ通り越してマイナスってわけだ」



納得した様子で感嘆の息を吐くアインハルトの隣に座る。ここは川辺だから、当然石の上とかだな。



「結構面白い経験だろ。なにか役に立つ事があるなら更にいい」

「……はい」



少し困った感じのアインハルトを見て……まぁしゃあないか。あむの話だとアタシ達に遠慮があるっぽいし。

まだアタシ達との距離感測りかねてるわけだし、適度につかず離れずな感じで接するか。アタシは方針を決めつつ、ちょっと立ち上がる。



「おーいっ! ヴィヴィオ、コロナ、リオ、ちょっと『水斬り』やって見せてくれよー!」



三人は泳ぐのを止めて、こっちに手を振ってくる。



『はーい』

「水斬り?」

「ちょっとしたお遊びだよ。おまけに打撃のチェックも出来るんだけどな」





三人は水の中で横に並んで、ゆっくりと腰を捻り拳を引く。他のみんなも動きを止めてヴィヴィオ達に注目。

それでまずコロナが水面に入ったままの拳を突き出す。コロナの拳の動きによって水面はまるで斬り裂かれたかのように二つに割れて水が跳ぶ。

次は次はリオ。リオの打撃はコロナよりも少し長く水面を斬り裂いた。あの距離が長ければ長いほどいい。



次はヴィヴィオ……こっちも派手に水音立てながら水面を斬り裂く。コロナとリオの中間くらいだな。





「わー、凄い凄いっ! ややもこれやりたいやりたいー!」

「なるほど。打撃によって水面に衝撃を放ち斬り裂くのですね」

「うし、だったら俺達もやろうぜ。なんか面白そうだしよ」

「うん。なら早速」





おーおー、唯世達は興味津々で早速やり出したか。それであむも慌てて唯世の隣に行く。



アタシはアインハルトの方を見て……アインハルトも意を決したように立ち上がってまた川の中へ向かった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



結木さんが拳を突き出すと、水は派手に撒き散らされるけど斬り裂かれはしない。

他のみなさんもそこは同じで……どうやらただ拳を突き出せば良いというわけではないらしい。

私の胸元ほどの深さまである水の中で呼吸を整えつつ、両足を広げて右拳を引く。……水中では大きな踏み込みは使えない。



ヴィヴィオさん達も上半身の動きを見るに、そのような事はしていなかった。ではどうしていたか。

それは腰の回転。回転により勢いをつけ、それを前に伝達する事で水を斬っていた。

あの水の斬れる長さは、その勢いによる衝撃をどれだけ前に伝えられているかと捉えればいい。



それなら私の領域だ。断空の技法は両足で地面を噛み、その勢いを拳に伝える事。

断空を打つ時の要領で両足で水の底を踏み締め、私は一気に拳を突き出した。

すると水は弾けたように『上』へ吹き飛び、周囲に雨を降らせる。それによりあちらこちらに虹が出来た。



それを見た結木さんやヴィヴィオさん達がはしゃいだように周囲を見渡す。





「わー、アインハルトちゃん凄い凄いー! 虹作っちゃったー!」

「な、なんか凄い。あたし自身なくすかも」

「ぶくぶくぶくぶく……ぶくー」

「りま、アンタ無理しなくていいからっ! てゆうか足ギリギリじゃんっ! 顔半分水の中に突っ込んでるしっ!」





あのウェーブ髪の子――真城さんという方は身長が低いせいで、口元が完全に水の中に居る。

それでもみんなと一緒に遊んでいるのは凄いけど……私はそれよりも弾け飛んだ水が水面を叩く音を聴きながら、別の事を気にしていた。

私の打撃は、ただ水を弾けさせただけ。水をヴィヴィオさん達のように切ってはいなかった。



衝撃を前に伝えてなどいない。ただ打突対象の表面で弾けさせただけ。これでは意味がない。





「お前もそうだけど他の連中も、初速が早過ぎるんだよ。つまり無駄が多い」



赤と白のビキニ姿のノーヴェさんは、自分もそうだったと言いたげな顔をして水面に足をつける。



「えぇ、それは分かりました」



そんなノーヴェさんを見ながら三条さんが、メガネを正すようなポーズを取る。普段からの癖だろうか。



「海里、それどういう事かな。早過ぎるって」

「日奈森さんはご存知でしょうが、水の中で動くには陸上とはまた違うコツが必要となります。
つまりヴィヴィオさん達のように水を斬ろうと思うなら、陸上に居る時とは別の打ち方が必須」

「それが出来てないから俺達は、全員揃って衝撃を前に出せないで弾けさせちまったってわけか。だったら……あぁ、そっか」



相馬さんが納得しながら呼吸を整え、また拳を引く。



「始めはゆるっと脱力して、初速はゆっくり」



水面や自分のフォームを確認してから、相馬さんは一気に拳を突き出した。



「はぁっ!」



……ううん、自分で仰られた通り初速はゆっくり。その上で段階を踏んで拳の速度を上げていた。

その結果相馬さんの拳は、水面を斬り裂き水を前に飛ばした。距離で言うとヴィヴィオさんと同じくらい。




「わぁ……空海やるじゃん」

「ホントだね。さすが相馬君」

「おっしゃっ!」



相馬さんはその様子を見ながら軽くガッツポーズ。



「ノーヴェさん、これで正解っすよね」

「そうだ。初っ端から力入れて最高速で打ち出そうとするから、ロスが出るんだよ。
拳が加速するための距離は短めでいい。そこにパワーを入れてやると、衝撃が前に伝わるってわけだ」

「ぶくぶくぶくーぶくー」

「……りま、お前無理しなくていいから。もうちょい浅瀬に行けよ。溺れてるみたいでアタシは見てて良い心地がしない」





そんな真城さんに迷惑をかけない方向に改めて向いた私は、さっきの相馬さんやヴィヴィオさん達の打ち込みを改めて思い出す。



初速はゆっくりで、拳が対象物を打ち抜くその瞬間だけ加速する。……私はそのイメージで拳を突き出した。



私の拳はまた水を大きく弾けさせてしまったけど、でも……ちょっとだけ前に進んだ。それが嬉しくて私は、また拳を引く。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ストラトスさん、なんだか楽しそうだね」



唯世くんが少し驚いたというか、意外そうな顔をしてアインハルトの事を見ていた。

それは海里や空海みたいに、アインハルトと初めて会った組は全員かも。



「結構クールっぽいキャラかと思ってたら、アイツそうでもないんだな」

「うん。やっぱあの子、格闘技とか好きみたいだから。あー、でもノーヴェさん」

「なんだ?」

「あたし思ったんですけど、これって実際に試合とかでやってなにか意味とかあるんですか? 打撃チェックって言ってたけど」

「あ、そこの細かい説明してなかったな」



両手で拍手をぽんと打ってからノーヴェさんは、熱心に拳を打ち出しては水を撒き散らすアインハルトを見る。



「さっきもちょっと話したが、水がその場で弾けるって事は拳や蹴りを打った時の衝撃がその場で全部拡散してるって事だ。
つまり効率よく対象物にダメージを与えられてない。ロスが出来ちまってるんだよ。そのロスの原因は」

「身体に入っている無駄な力ですね。先ほどの俺達は非効率な打撃の打ち方をしていた」

「そういうこった。だからこれは打撃を打つ時の無駄を確かめる訓練でもある」

「なるほど……ただの遊びじゃなかったんだ。こんなの思いつくなんて、ノーヴェさんなんか凄いかも」



感心しながらノーヴェさんを見ると、ノーヴェさんはなんでか苦笑いしながら目線を逸した。



「ノーヴェさん?」

「いや、実は……この訓練、最近始めたばっかなんだよ。それであれだ、アタシが思いついたわけじゃない」



ノーヴェさんは困った顔をアタシ達に向け、やっぱり右人差し指で頬をかいてる。



「年末に大掃除してたら、シューティングアーツの研究ノートみたいなのを見つけてよ。
その中にこの訓練法が書いてたんだよ。……スバルとギンガの母さんが遺したもんらしい」

「えー、じゃあノーヴェさんもこんなのあるって知らなかったのー?」

「あぁ。てーか読んだ時には目からウロコでさ。10年以上前にこういう訓練思いついてたってのは凄くてさ」





そこでノーヴェさんが一瞬悲しげな顔になったのをあたし達は見逃さなかった。それでなんか、辛そうなの。



だからあたし達はそれ以上その話題に触れる事はしなかった。なんかね、触れちゃいけないって思ったんだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



訓練前のウォーミングアップに川遊びを超えて、お昼はみんなでバーベキューとポトフと自家製パンに舌鼓を打つ。

それもこれも、メガーヌさんを手伝ってくれたスゥちゃん達のおかげ。もうほんとみんなには感謝だよ。

そのおかげで私もちょっとだけだけどウォーミングアップ出来たからなぁ。私、自分一人でお母さんやってるわけじゃないね。



ヤスフミもそうだけどシャーリーにティアナにあむ達、ちょくちょく遊びに来てくれる奏子さんや歌唄――色んな人に支えられてる。



改めて自分の環境が恵まれている事に感謝の念を持ちつつ、私はヤスフミとみんなと細長いテーブルに並んで座って食事開始です。





「それでは、天と地の恵みに感謝して」



上座に座るメガーヌさんの号令で私達は手を合わせる、一斉に軽くお辞儀。



『いただきまーす』





私とヤスフミの間に居るアイリ達もみんなの真似をしながら手を合わせた。それを見て、ヤスフミと一緒にクスリと笑っちゃう。

というわけで私は早速……青と紫色のコントラストが凄まじく嫌な予感を感じさせるサラダを取り分けて、ヤスフミと横に居るなのはに渡す。

アイリ達はメガーヌさんが用意してくれた離乳食だね。もうなにからなにまでお世話になりっぱなしだよ。



まず私達はサラダとバーベキューを一口ずつ頂く……その前に、アイリ達のご飯開始。





「はい、アイリちゃんあーんですよぉ」

「恭介たんもあーんでちよぉ」



ただ私が動く前に、スゥちゃんとぺぺちゃんがいつの間にか私達のところに来てご飯を食べさせてくれてたけど。

二人は小さいスプーンに離乳食をすくって、二人の口に運んでくれていた。……い、いつの間に。ちょっと目を離してただけなのに。



「二人とも、ありがと。でもいつの間に」

「ふ、二人ともあーんだよっ! はい、美味しいですねー!」



ヤスフミは二人からスプーンを慌てて奪い取って、そのままアイリ達に二口目を食べさせてあげる。そのいきなりな行動にスゥちゃん達も私も驚いてしまった。



「ヤスフミ、どうしたの? というかダメだよ。そんな乱暴にしちゃ」

「ごめん。でもフェイト、忘れたの? アインハルトとエリオ達が居る」



私はハッとしながら横目でアインハルト達の方を見る。三人は……よかった、こっちは見てないっぽい。



「そうでちたね。メガーヌさんやスバルさんが居るからアレでちたけど」

「スゥ達が見えない人も居るんですよねぇ」



だからさっきの、エリオ達から見るとスプーンが一人手に動いて双子にご飯を食べさせる怪奇現象に……あ、危なかった。



「そう言えばアインハルト、しゅごキャラ見えてなかったんだっけ」



ちなみにエリオととキャロについて聞かないのは、二人が見えていないのはもう周知の事実だから。

やっぱり常にしゅごキャラと行動とかしていないと、普通の人には見えにくいものみたい。



「アインハルトさんはスゥ達は見えてませんよぉ」



私の疑問に対する答えは、ヤスフミからではなくスゥちゃんの方から返ってきた。その間にヤスフミは二人にご飯を食べさせていく。



「だからアインハルトさん、たまにあむちゃんを怪訝そうな目で見るんですよねぇ。あむちゃんが独り言言ってるように見えるみたいですぅ」

「みたいですぅというか、そのままでちよ。ぺぺ達はやっぱり見える人の方が少ないでちから」

「でもあむ、アインハルトに対してもそれって……あ、ヤスフミ。次は私が」

「分かった。じゃあ交代だね」






ヤスフミからスプーンをもらって、次は私がアイリと恭介達にちょっとずつちょっとずつご飯を食べさせていく。

二人に速度を合わせてちょっとずつちょっとずつ……確かに大変なんだよね。もうそこは自分の子どもを産んで痛感した。

ご飯いきなり吐き出しちゃった時もあったし、それで泣き出した事があってどうしてなのか困り果てた事もあった。



そういう時はダメだって分かってるのにイライラってしちゃう時もある。でも、だからこそどうしてそうなるのかが分かった時は嬉しい。



この子達と一緒に居る時間は大変な事の方が多いけど、その分たくさんの冒険がここにあると思う。だから私、今もヤスフミと同じ夢を追いかけられる。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



美味しい食事を親子共々頂いた後、私もお母さんなので午後はちょっとだけ休憩。

アイリと恭介をヤスフミと抱きつつ、ルーテシアの案内で入ったのはそこそこ大きめな書庫。

これはルーテシアのところに私やキャロが贈った古い学術書の保管庫。



贈った一人としては、こういう風にちゃんと大事にしてくれてるのが嬉しいかな。ただ……大事にし過ぎとも思うけど。



だってこんな立派な保管庫を作っているなんて贈った当初は思わなかったもの。窓から差し込む光を浴びながら、私は軽く苦笑い。





「お父さんもフェイトさんも、訓練してていいのに。午後は私達自由時間だし、ちゃんと面倒見てるよ?」

「それはちょっとだめかな。アイリ達、寂しがってたから。多分そろそろぐずり出すと思うし」



書庫の中を歩くルーテシアが自分の後ろに居る私達の方へ振り返り、驚いた顔をした。



「そういうの分かるの?」

「自然とね。最初はいきなりで戸惑ってたけど……うん、なんとか」

「僕はカレル達のアレがあったから」

「そっか。なんだか凄いね、お父さんとお母さんって」



ルーテシアは私達に微笑みを返してから、視線を書庫の中に向ける。



「私も赤ちゃん、欲しいな。ねぇフェイトさん、私もお父さんのお嫁さんになっちゃだめかな」

「ダメだよっ! というかあの、それはお父さんじゃないからだめっ!」

「ルー、お願いだからそういう事言うのホントやめてっ! 歌唄がまた僕を殺し屋の目で見るのー!」

「もう、二人とも慌てなくていいのに。半分冗談だから」

「「半分なのっ!?」」



ルーテシアは慌てる私達を見てクスリと笑いながら本棚の一つに迷いなく手を伸ばし、その一角から一冊の本を取り出した。



「そ、それでルーテシア、私達に見せたい本ってそれかな」

「アインハルトの事――覇王の事、改めて知ってもらった方がいいかなって。二人が休憩するならちょうど良いしね」



茶色の皮表紙の古ぼけた本には、古代ベルカ文字っぽい言葉が書かれていた。



「これね、覇王イングヴァルトの回顧録なんだ」





(Memory06へ続く)




















あとがき



恭文「はい、作者はタッグフォース6で一族の結束型除去ガジェを組んで調整してます」

フェイト「あれ、E・HEROデッキは」

恭文「違うデッキも作りたくなって集中して……いやぁ、おかげで更新すっ飛ばしたよ」

フェイト「そのせいで遅れたのっ!?」



(めんごめんご)



恭文「というわけで、本日のお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。えっと、今回はオフトレ編だね。……私、もう真・ソニック着ないからっ!」

恭文「フェイト、まずそこっておかしいから。もっと話すべきとこあるでしょ」



(それでも閃光の女神は譲らない。……そんなにアレは嫌か)



恭文「それでオフトレ編だけど今回は……まぁ特筆するところもなく普通に進んだね」

フェイト「そうだね。あ、それと最近始まった新番組チェックし始めたけど……Fate/Zero凄いよね」

恭文「あ、あれはねー。初回1時間スペシャルの内容の濃さはもう。あとは作画にも期待? OPの戦闘シーンカッコ良かったし」



(Fate/Zeroの制作会社は、映画の空の境界とかを作っているところだそうです)



フェイト「私、アニメであんな綺麗な絵を見た事ないかも。ほら、あのグルグル回ってるとことか凄いよね」

恭文「……あ、あれね」



(蒼い古き鉄、頬を引きつらせる。でも閃光の女神は目をキラキラ)



フェイト「あれ、きっとなにかの伏線なんだよね。こう……ぐるぐる回ってるところが」

恭文「そ、そうだね。きっと……そうかも知れないね」



(蒼い古き鉄、どう言っていいのか分からない。なにかいい返答方法があったら教えて欲しいくらいだ)



フェイト「でもあれで半年続くって凄いよね。アニメ作るのって大変なんだよね」

恭文「フェイト、半年続かないから」

フェイト「……え? でも2クールって」

恭文「なんかね、今年の12月まで続けて一区切りつけて、続きは来年の4月からやるんだって」

フェイト「え、一気にやらないのっ!?」



(まだ噂話段階だけどそうらしい)



恭文「そうなのよ。まぁ作画があれだしね、ぶっ続けでやると持たないんじゃないかな。てゆうか死人が出る」

フェイト「そんなに大変なんだ」

恭文「動くアニメはそうだね。だからこそ……そうだな、銀魂を例に挙げようか」

フェイト「銀時さん達?」

恭文「うん。銀魂のアニメは戦闘シーンとか動くとこはバリバリ動くけど、普段はそれほどじゃない。ここは絵の枚数を節約してるからなのよ。
普段のギャグ話はあまり絵を動かさないようにして、シリアスなとこだったりそれ以外で枚数使いそうなところに回す」

フェイト「そう言えば……背景をバックに喋る事多いよね。こう、今居る場所の一部だけが映ってるだけどか」

恭文「そうそう。そういう貯蓄をしていくと必要なところでバリバリ動く絵が出来るわけだよ」

フェイト「じゃあみんなで協力していっぱい絵を描くとかは」

恭文「時間的な問題で難しいんじゃないかな。人件費もあるし……劇場版とかじゃない限りはそれはもう」



(そう言えば劇場版銀魂、戦闘シーン凄かったなぁ。特に最後)



恭文「そういう時間や経費節約のためにバンクシステムっていうのがあると以前読者さんに教えてもらったなぁ」



(蒼い古き鉄、遠い目)



恭文「だからほら、しゅごキャラもそうだけどセーラームーンとかも変身シーンカットとか少ないでしょ?」

フェイト「うん。……あ、あの分他のところの絵を描く時間が多くなるって事?」

恭文「そうそう。変身シーンが分単位なのもそれはしょうがない事なのよ。種や種死があっちこっちバンクだらけなのもしょうがないのよ」

フェイト「ヤスフミ、その話いいのっ!? 作者さんが顔青くしてるけどっ!」

恭文「大丈夫大丈夫。もう5年以上前の話なんだし、時効時効。……というわけで、とまとではFate/Zeroを絶賛応援しています」

フェイト「アニメの続き、楽しみだなぁ。特にあの雁屋って人が……きっと救われるよね。それでハッピーエンドだといいなぁ」

恭文「そ、そうだね。そうだといいね」




(蒼い古き鉄、また頬を引きつらせる。というか……言えない。このアニメが本編の10年前でエンドがあれなんて言えない。
本日のED:LISA『oath sign』)










空海「おい恭文、フェイトさんいいのかよ。Fate/Zeroの終わりってあれがあれであれだぞ?」

恭文「知ってるよ。でもフェイトはFate/Zeroがfate stay nightの前話譚じゃなくてIFストーリーかなんかだと思ってるのよ。
てーかfate stay nightの話知らない完全初見さんだから、なんかかるーく考えてるのよ」

空海「いやいや、お前のとこセイバー五人くらい居るだろ。それでなんで知らないんだよ」

セイバー「私達は特にそこについての説明をしていませんから。というか、衛宮って誰ですか? 私達のマスターはヤスフミだけです」

空海「おいおい、原作主人公居ない設定になってんのかよっ! どうしてこうなったっ!」

恭文「知らないよっ! 拍手の方で『衛宮さんとこ帰れ』って最初ツッコんだら、全員揃いも揃って知らないって話になったんだよっ!
てーかなんか知らないけど『そこについては触れるな』的な空気が流れて僕もどうなってるのか分からないんだよっ!」

空海「泣くなよっ! てーか俺も泣きたくなってきたから泣いていいかっ!?」

セイバー・ライオン「がおがおー」(お腹すいたー)





(おしまい)




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あきゅろす。
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