小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory04 『絶望の先にある初めまして』
結界の中で私が放った弾丸達は尽く斬り裂かれ、一気に距離を詰められる。やっぱりこの感覚は……慣れない。
最初に会った頃に攻撃されたからまだ大丈夫と思っていた私は、相当バカだと思う。
目の前で蒼い刃を振りかぶる男の子は、頭下げて感謝してもいいレベルで手加減をしてくれていた。
迎撃のために両手に持っている長方形型の銃身の銃を形状変換しようとするけど、間に合わない。
「鉄輝」
その瞬間、私は幾何学色の空の下で右薙に走る蒼の閃光に胸元を斬り裂かれ……大きく吹き飛んで地面を転がった。
「一閃っ!」
加減はしてくれてるからちょっと痛いだけで済んだけど……なんかもう、悔しい。全然届かないってどういう事だろ。
≪これで終了なのー。うーん、前回より二分は長く持ってるの。二人ともよく頑張ったのー≫
「ジガン、お前それは誉めてねぇだろ」
その声は、なんとか上半身を起こす私の左隣にある民家の屋根に下半身を突っ込んでいる空海。
そんな空海を見ていると、左の方から心配そうな顔をしたクスクスが私の視界に飛び込んで来た。
「りまー、大丈夫ー?」
「えぇ。いつも通りに加減してくれてるから。それよりも空海の方よ。あれは私より重傷だと思うわ」
「そうかもー」
空海がなぜああなったかは察して? そうね、落とし穴にハマって動けなくなったようなものと考えればいいわ。
「てーかなんだよこれっ! なんで俺こんな羞恥プレイっ!? 頼むからせめて撃墜してくれよっ!」
「えー、やだよー。だってそっちの方が僕的に笑えるし」
「お前先生としてその発言どうなんだよっ! もっと生徒の個性を伸ばすために努力してくれよっ!」
「いや、だから伸びてるよ。ほら、ど根性大根みたいで……その身長ちょっと僕によこせっ! なに僕の許可無く伸びてんだっ!」
「俺の個性そんなんだと思ってたのかよっ! そしてキレるなよっ!
俺の身長が伸びてるのはお前が無茶なく鍛えてくれてるおかげなんだよっ!」
そんな問答しつつも今私を斬り飛ばした恭文はアルトアイゼンを鞘に納めて、こちらに駆け寄ってくる。
「りま、大丈夫?」
「えぇ」
私真城りま――今年で中学2年生は、去年からちょっとずつ魔導師の訓練を始めている。
まぁパパとママの説得は骨が折れたけど。えぇ、それはもう大変だったわ。
あくまでも局の事関係なくチャレンジしたいだけだって分かってくれたから、今は応援してくれてる。
そこで『鍛えて自分で自分を守れるようになる』という目的を付随したから。私なりのみんなの笑顔の守り方の一つよ。
……ひょこっと起き上がりながら、恭文の方に飛び込んで軽くハグしてみる。それから胸を押しつける。
「……りま、頼むからそれやめて」
「あら、どうしてかしら。あなた巨乳が好きなのよね。歌唄もなんだかんだで大きくなってるし」
「そんな性癖ないからっ! てゆうかホントやめてー! りまのお父さんとお母さんに謝らなくちゃいけないからー!」
現在私は、急成長のおかげでDカップになった。体型の問題でいわゆるろりきょぬーになっている感じかしら。
まぁ恭文が少し困った感じなので、ちょっと離れてあげる。それがちょっとだけ寂しく感じつつも、私は両手を胸に当てる。
「まだ大きさが足りないみたいね。やっぱりHカップ目指さないと」
「りま、自分の体型考えてっ!? もう今ので充分だからっ! さすがにそれは成長しすぎだからっ! あと胸揉むなっ!」
「そう、満足してくれているのね。良かったわ」
「そういう事じゃないんだけどっ!」
「おい、お前ら俺をスルーするなよっ! 早くこの大根状態から助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
聖夜小卒業から1年――ガーディアンの業務も完全に海里やりっか達に託した私達は、平和な中学生として過ごしていた。
まぁ恭文は運が悪いのかいいのか知らないけど、×たまに遭遇して浄化したりが日常になってるんだけどね。
ガーディアンという場所を離れてからの1年、どこかぽっかり穴が開いたような感覚を覚えた私は、こうやって魔法訓練を始めた。
理由は……恥ずかしいから内緒。ただあれよ、私の夢はなにも変わっていないという事かしら。
みんなを笑顔にしたくて、その笑顔を守りたくて……なによりも隣に居るこの人の笑顔を守れる私で居たい。
魔法少女リリカルなのはVivid・Remix
とある魔導師と彼女の鮮烈な日常
Memory04 『絶望の先にある初めまして』
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蒼凪さん達の聖夜小卒業から1年――今年の春、ついに長年ガーディアンだったやや先輩とリインさんが共に卒業。
そんな中俺こと三条海里は最上級生として、4年に上がった柊さんと3年になった一之宮君と共にガーディアンの業務に勤しむ。
まぁそこまでは良かった。ただその……俺は最上級生として、それなりの重責を背負う事になった。
おなじみなロイヤルガーデンでは新しいメンバーも加えて、本日も会議が行われる。
「というわけで、今日の業務内容ですが」
「はいはい、Kチェアー」
そう呼ばれて身体が震えてしまい、俺は慌ててずれたメガネを右手で正す。
「な、なんでしょう柊さん」
「あー、やっぱりかぁ」
「……君はまだ慣れてないのか」
二人がなにに対して慣れていないと言っているのかは、もう言うまでもないだろう。
そう、俺は少学校生活最後の一年を……Kチェアとして過ごす事になった。それが俺の背負う重責だ。
「聞くところによると聖夜小に戻る前は、最年少の生徒会長だったそうだが」
「そうですよー。そんなに緊張しなくていいのにー。ほら、あたしとかひかるはもうお仕事慣れてるし」
「海里君、肩に力が入りまくりよね」
「いや、その……それでもいざ始めてみると重いものを感じてしまって。
辺里先輩や理事長もそうですが、Kチェアには錚々たるメンバーが入っていますし」
特に辺里先輩は、今はすっかり優良企業で子ども達の夢を守る方向で業務を行なっているイースターとの闘争の事もある。
蒼凪さんやフェイトさん達魔導師組の力添えがあったとは言え、その中で個性の強い元メンバーをまとめていた。
元敵である俺が言うのもおかしいとは思うが、そういう偉大な諸先輩方の影がこの立場に立ってとても大きく見える。
特にこう、俺は日頃補佐役が多かったので……自分から率先して人を引っ張るのは、中々にキツい。
「ややもその中に入っているがな」
「やや先輩もやや先輩なりのやり方で任期を全うしていますから。俺も近くに居てそれは強く感じていました」
やや先輩がKチェアになった当初はひどかったがな。特に辺里先輩がショックのあまり気絶したほどだ。
ただそれも本当に最初の事。実際業務が進めばやや先輩もKチェアとしてみんなを引っ張っていたが。
「でもでも、あんまり気にしてちゃだめですよー。先輩達は先輩達で、りっか達はりっか達だし」
「その通りだぞ、海里。辺里殿や結木殿達も各々のやり方で義を通した。お主も自分の信じるものをぶつければいい」
「……そうだな」
ムサシや柊さん達に背中を押され、その温もりに感謝の念を抱きつつも硬くなっていた表情を緩めた。
「すみません、やはり俺はまだ修行が足りないようです。では話を今日の仕事に戻します。今日は」
「あ、あの」
小さく手を上げたのは、新Aチェアで一之宮君――今年度のJチェアと同じ学年とクラスの少女。
つい最近転入して来たばかりのこの子は、腰まで届く黒髪ロングヘアーをお団子にしている。
その傍らにはおだんごヘアで赤いチャイナ服を着用したしゅごキャラが居る。あの子が少女のしゅごキャラだ。
なお、前に見せてもらったたまごは赤を基調として真ん中に金色の中華マークがついていた。
「なんでしょう、李(リー)さん」
「えっと、その」
「ねーねー、先代ガーディアンってそんな凄かったのっ!?」
しゅごキャラの方が前に出て、興味ありげに俺と一之宮君達の方へ近づく。
「華華(ふぁふぁ)、それわたしが言おうとしてたのに」
「早い者勝ちだってー。てゆうか、アタシ達がガーディアンの事とかまださっぱりだし、どんどん聞いてかないと。春玲(シュンレイ)はちょっとトロ過ぎ」
「トロ……ひどいよー」
彼女の名前は李春玲(リー・シュンレイ)。そしてしゅごキャラの華華(ファファ)。名前から分かる通り中国人……のはず。
ただ本人達曰く、家系はともかく生まれも育ちも日本のため中国語はほとんど話せないそうだ。
李さんは見ての通り少し控えめで気弱なところがある。というより、人見知りが激しいと言った方が良いだろうか。
実は俺や一之宮君達はまだ警戒されているフシがあり、彼女とは徐々に交流を持っている感じだ。
ただこれも仕方ない。彼女はまだ聖夜小へ来て間もないし、親しい友人も居ない。
なので過去同じ立場だったQチェアである柊さんが彼女の世話役という形に収まっている。
華華はそんな彼女とは対称的に明るく積極性があり、そういう意味では二人はバランスが取れているだろう。
ただ李さんの人見知りなところを考慮して、今は人と多数接するような仕事に一人で就かせる事は危険と判断していたりもする。
それよりも事務仕事などが得意らしいので、会計などのやり方を教えてそこの辺りを手伝ってもらっている最中だ。
「そうですね、凄いと言えば……凄いですね。全員キャラの濃い方々ばかりですから」
「実務能力より各々のキャラの方が立っていたのが僕からみると印象的だったな。その上で好き勝手する」
「でもでも、みんな良い人だよー。ちょっとこの街から出て留学してる先輩達も居るけど……あ、春玲と華華にも今度紹介するね」
「は、はい。よろしくお願いします」
「あー、どんなのが居るのかな。なんか楽しみだなー」
仕事とは関係ない部分だが……いや、必要か。今は李さんとの距離を縮めるのも大事な業務の一つだ。
昔話が一つのきっかけになるのなら、安いものだ。それでは改めて仕事の話を。
「失礼するよー」
そう思った矢先、ロイヤルガーデン入り口の方から声がした。そちらを見ると、バスケットを持った中等部の制服姿の蒼凪さんがそこに居た。
「蒼凪さんっ! 一体どうなさったんですかっ!」
「あー、ごめんね海里。すぐお暇するからそのままにしてていいよ」
蒼凪さんは慣れた足取りでロイヤルガーデン中央部に来て、柊さんに懐から取り出したCDケースのようなものを渡す。
「りっか、ヴィヴィオとコロナ達からりっか宛てにってビデオメール預ってきたよ」
「えー、ホントですかっ!?」
柊さんは蒼凪さんの差し出したケースを大切に受け取り、その表面を見て目を輝かせる。
「あ、間違いない。みんなの字だー。先輩、ありがとうございますー。……でも、なんでビデオメール?」
「メールとかじゃダメなのかしら」
「ダメっぽいよ? まぁ中身を見て暇な時に返事しといてよ。んじゃ、僕はこれで」
「えー、せっかく来たんだからもうちょっと居てくださいよー」
「その前におのれはとっとと仕事せんかい。それに僕は僕で用事あるのよ」
そう言って柊さんが納得した表情になるのは、蒼凪さんが子育てや相馬さん達との訓練に精を出しているのを知っているからだろう。
あとは……俺達に気を使っているからだな。卒業した人間があまり口出しするのも違うと思っておられるようだから。
蒼凪さんもそうだが辺里さん達元ガーディアンのみなさんは、卒業してからはこちらの業務に関わりを持たないようにしている。
やや先輩達も居るからというのもあるが、やはり中学生は中学生でやる事が色々とあるようだ。
ただ蒼凪さんに関してはそこの辺りが無意味になっているが……そこは察して欲しい。
とりあえず俺とランスターさん、シャーリーさんは泣いた。二階堂先生も話を聞いて涙してしまった。
「恭文、悪いが少し待ってくれ」
思わずその事を思い出して泣きそうになっていると、一之宮君が蒼凪さんを見上げながら引き止めた。
「ほらー、ひかるもすぐ帰るの寂しいって言ってるしー」
「そこまでは言っていない。……春玲、彼がさっき言っていた元ガーディアンだ」
彼が李さんを見ると、蒼凪さんも視線を彼女に移す。それでなぜ一之宮君が蒼凪さんを引き止めたのか、俺と柊さんは理解した。
「少々発言が過激な上に鬼畜で外道で、相手を屈服させて人に自分の靴を舐めさせるのが好きなドSだが、悪い奴ではない」
「こらそこのラスボスっ! もう完全に僕を悪人扱いじゃないのさっ!
てゆうかそれで悪い奴じゃないって信じるやつ居るっ!?」
「問題ない。僕は事実を言っているだけだ」
「どこがっ!? 僕は清廉潔白な天使のようなキャラだしっ!」
今、蒼凪さんを知っている人間全員が心の中で『嘘だ』と思ったのは間違いない。一之宮君達の表情からもそれは見て取れる。
確かに悪い人ではないが、鬼畜で外道でドSというところは事実だろう。そこだけは間違いない。
「まぁいいや。えっと」
「は、初めまして。李春玲です。それでこの子が」
「華華だよー。最近こっち来たばかりなんだー」
「そっか」
蒼凪さんは身体を伏せて、座っている李さんに目線を合わせて優しく微笑む。李さんが緊張しているのを察したのだろう。
「僕は蒼凪恭文。それでこっちが」
蒼凪さんは視線で自分の傍らに居たシオン達を指す。それにすぐに気づいたシオン達は蒼凪さんに頷きを返してから、李さんの目の前に来る。
「初めまして、シオンと申します」
「ヒカリだ」
「オレは」
「「ショウタロス先輩。いつでもどんな時でもパシリになってくれる頼もしい先輩」」
「だから違うつってるだろうがっ! オレはショウタロウなんだよっ! お前らいちいちオレで落とさないと気が済まないらしいなっ!」
李さんは少し呆けた顔をしたが、口元を右手で押さえてクスリと笑う。
「あははは、面白い面白いー。てゆうかアンタ、三人もしゅごキャラ居るんだー」
「どういうわけかね。でも僕の同級生には四人のしゅごキャラの宿主も居るけど」
「そうなんですか? こう……子沢山ですね」
「春玲、その感想間違ってるから。中学生にそういう事言っちゃだめだから」
李さんは人見知りだが、蒼凪さんとシオン達とはうまく話せているようで一安心と言ったところか。
俺は少々空気が読めていないかと思いつつも、そろそろ仕事の話をしていく事にする。蒼凪さんもそれで問題ないようだしな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私ティアナ・ランスターは、現在局の仕事からは完全に手を引いて高校生生活を満喫中。それで花嫁修業を続けている。
藤咲家での作法の勉強も継続していて、なぎひこが留学中なのもあってお母さんとばあやさんにかなり可愛がられてしまっている。
それが心苦しくなったりしつつも、普段は早めに家に帰ってフェイトさんの子育てを手伝う事が多い。
今日もアイリと恭介のおしめをアイツとフェイトさんの寝室におじゃました上で変える。
床に二人を寝かせて、キレイキレイして新しいおしめにして……最近夜泣きが無くなってきたのは嬉しいけど、まだまだ手がかかるなぁ。
寝返りも打つようになってるから、ちょっと目を離すのも怖い感じ? もちろんその成長が嬉しいんだけど。
子育ての大変さを改めて感じながらも、私は二人に新しいおしめをしっかりと装着。ズレも……ないな。
「これで……よしっと」
おしめを変えたら二人ともすっきりした顔しちゃって。さっきまで泣きじゃくってたのが嘘みたいよ。
そのままきゃっきゃとはしゃいだみたいに手足を動かして、私の指を軽く掴んでくる。
「ティア、だいぶうまくなったね」
隣のフェイトさんは微笑ましい表情で私の事を見て……ちょ、ちょっと恥ずかしいかも。
なんかこういうの、私のキャラじゃないのかなって思っちゃって、未だに慣れないのよね。
「これも花嫁修業の成果かな」
「まだまだですよ。私ハンバーグもうまく焼けないし」
困った笑いを浮かべながらそう返す。……とりあえずそのまま焼くのはちょっとダメだってのはようやく分かった。
水が必要なのも分かった。でも焦がしたり中ちょっと生だったりで……アイツやフェイトさんはなんであんなうまく焼けるんだろ。
「そこは慣れだよ。やっぱり私も最初はティアと同じだったし。……ね、ティア」
「はい?」
「ティアのたまごの中身、見つかって来てるかな」
少しだけ真剣なトーンでフェイトさんはそう聞いてきて、私は……苦笑を返すしかなかった。
「ちょっとずつですけど、見つかってます。とりあえず、あれですね。無理に執務官になる理由、やっぱりないんだって気づきました」
「お兄さんをバカにされたのを見返すのは? ほら、そういう理由で局員にもなったわけだし」
「それもないです。もちろんあんな事言った奴は未だに許せないですよ。えぇ、それはほんとに」
兄さんだからっていうのもあるけど、そこを抜いても……最低だと思う。現場で命を賭けている部下を侮辱したんだもの。
局員として、現場で働いてた人間としてそれは見過ごせない。でもそういう気持ちは一旦封印。だって赤ちゃんの前だしさ。
「逆を言えば私、それだけなんですよね。兄さんの事がほとんどで、そこを抜いたら今までの勢いで執務官を目指す理由がない。
ホント、改めてあれこれ考えてここ気づいた時にはショックでした。私、なんのために頑張ってたのかなって」
「知ってる。だからルルになぞたまにされちゃったくらいだし」
「ですよね。ただ、それ以外の夢は増えました。まずは」
私の指を握ったまま眠り始めた二人を見てクスリと笑ってから、フェイトさんの方を見る。
「ハンバーグをうまく焼けるようになる事ですか?」
「それがティアの夢の一つなんだね」
「はい」
もしも今よりも意地張ってた頃の私が今の私を見たら、きっと怒り狂うんじゃないかと思う。
でも私は、今の私に胸を張れる。前になぎひこが言ってたあれじゃないけど、今は夢を夢見る時間を大切にしてるの。
管理局や局員にこだわらなくても、私には夢がある。あやふやであいまいな形だけど、それはたくさん。
穏やかな日常の中で、あの戦いの日々で見つけたたくさんの夢達と向かい合う日々は継続中。
それで最大の夢は……お嫁さんかな。なんか最近、20歳超えたせいか結婚願望強くなっちゃってるのよね。
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中等部に入って1年経って、僕の身長はそれなりに伸びた。そのかわり蒼凪君の視線がたまに怖くなるけど。
あむちゃんが本当に留学しちゃって寂しさを感じるけど、それはそれとして蒼凪君と一緒に帰路に着いていた。
あれから1年――聖夜市も世の中も最終決戦以後は平和なもので、細々とした問題はあるけどそれもさほど引きずらずに解決していく。
もしかしたらクロノさんの言うように、本当に世界中のみんなが繋がっている事を知ったのかも。
だからどんな人でも、行き違っても伝え合う事を諦めない。それが……ちょっとだけ嬉しい。
「ねぇ、蒼凪君」
「なに?」
「あむちゃん……本当に大丈夫なの?」
隣を歩く蒼凪君の表情が一気に曇った時点で、答えは分かってしまった。
それにどうも蒼凪君とフェイトさん達は、イクスヴェリア陛下に会いに行くだけで済まなかったようだし。
「まぁその、転校して1週間で……魔法学院を掌握したって話になってた」
「それでオーバーSを魔法なしで倒す実力者と思われていますね」
「アレで友達が出来るかどうかが疑問だな。ヴィヴィオ達も初等部のせいでフォローも利かないだろうし」
「まぁ無理だな。……はむ」
「ここまで予想通りか。というか、それはこちらに来た当初と全く同じではないか」
キセキも頬を引きつらせているけど……でもね、それ以上だよ。魔法世界なせいか、その酷さが余計に大きくなってるもの。
しかもそれで勘違いされて、偶然向こうで起きてた格闘経験者対象の通り魔に襲われたっていうし……あむちゃん、なんでまた。
「よし、唯世も転校しようか。それで生徒会長になってあむに『あなたが好きです、王子様』って告白されて」
「今までのあれこれを全てやり直しっ!? 蒼凪君、さすがにそれは無茶だってっ!」
「じゃあどうしろとっ!? 僕だって現状なんとかしたいのに出来なくて内心ひやひやなんですけどっ!」
「お願いだから泣かないでー!」
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「ど、どうしよ。あたし……クラスの中で浮いてる気がする」
「あむちゃん、今更だよー」
「一日の間で話す相手が先生かアインハルトだけっていう状況だしね」
「そこ言わないでよっ! あぁもう、これどうすればいいのー!?」
あむさんと一緒に帰る道すがら、あむさんは頭を抱えて現実に打ち震えていた。
やっぱり初日で作られたあの外キャラは強烈らしくて……あ、そうだ。
「ならなら、ランにキャラチェンジしてもらって告白しましょうよー。ほら、あなたが」
「それ誰から聞いたっ!? 恭文かっ! てーか恭文しか居ないよねっ!」
「あむちゃん……成長したのに、外キャラの強さは相変わらずですぅ」
「頑張って、あむちゃん。大丈夫、私は見てて面白いから」
「ダイヤうっさいっ! あたし楽しくないのにっ! てゆうか、なんでこんな事にっ!」
それはきっと、あむさんの中の本質的な意地っ張りキャラが変わらないせいだと思う。
ただそこを言ってもあむさんが絶望するだけなので、ヴィヴィオは黙っている事にした。
でもアインハルトさんと話したりしてるんだ。……ヴィヴィオは並木道を歩きながら、あの悲しげな瞳を思い出していた。
今思い返してみるとヴィヴィオの事を見て戸惑っている感じで、戦いに集中し切れてなかったようにも思える。
それでまた戦えるのかと思うと不安はあるけど……まぁいいか。ヴィヴィオはヴィヴィオのありったけをぶつけるだけだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そうこうしている間に、あっという間に1週間。今日の13時からアインハルトさんと練習試合。
現在ヴィヴィオは昨日の夜からまたまたこっちに来てくれた恭文と一緒に、蒼とピンクの色違いのジャージを身に着けてランニング中です。
シオン達も早起きして、みんなで一緒に朝の空気を満喫しちゃっていたりする。
「結論から言うと、あの子覇王なのよ」
「え?」
それで近くの公園の中をランニング中にいきなり事情説明をする恭文は、やっぱりいきなり過ぎだと思う。
「かくかくしかじか――だね」
「そっか、納得した。恭文、あとで一発殴っていい?」
「問題ないよ? 回避するし」
そこ回避しちゃうんだぁ。やっぱり恭文は鬼畜だよ。ヴィヴィオの事も放置プレイだしさぁ。
「でもヴィヴィオ、聖王じゃないよ? まぁ無関係じゃないけど」
「うん、だからそれを教えて欲しいのよ。聖王として戦えなんて誰も望んでない。
さっきも言ったけど、アインハルト自身はとっくに『聖王』が居ないって分かってる。
でもアインハルトの中の覇王の記憶はそうじゃない。ずっと守れなかった『聖王』を求めてる」
「それにアインハルトさんが引っ張られ……ダメだねー。しつこい男は嫌われちゃうよ」
アインハルトさんは女の子だけど、その聖王は男の人らしいし……うん、だから嫌われちゃうねー。
「てーかほら、アインハルト同じ学校でしょ? 今まで鉢合わせしてなかったのが奇跡みたいなもんだし」
「しかもストラトスさんは、あなたを一目見てその聖王だと感じ取るだけのものを持っていました。つまり」
「ヴィヴィオに内緒で問題を解決するなら、アインハルトさんを別の世界に引越しさせて絶対にヴィヴィオに関わらないようにするしかない?」
恭文とシオン達はかなり困った顔で頷いてた。ヒカリはどこからか取り出した肉まんほうばってるけど。
「ただそれだって絶対じゃない。偶発的事故が起こる可能性はある。
そういう事がないようにアインハルトもカウンセリングを受けていて……あれなのよ」
「だからヴィヴィオに会わせようと……でもそれ、アインハルトさんにとっては絶望だね」
そこまで言って、1週間前に恭文が言っていた事の意味がよく分かったよ。あとはあの表情の意味もかな。
あれはアインハルトさんの中に居る覇王が悲しんでたんだ。それで絶望を噛み締めていた。
「確かにね。……ホントに悪い。僕やフェイト達でなんとか出来ればいいんだけど、これはどうも無理っぽいのよ。
しかもご両親に相談したら……泣きつかれたよ。なんとかしてあげたいのになんとも出来ないーってさ」
「そっか。というか、別に謝らなくていいよ。あ、でもでも面倒かけたんだから、今度ヴィヴィオの好きなもの買ってくれると嬉しいなぁ」
「金額によるよ? なのはママに怒られるの嫌だし」
なるほど、それほど高いものはダメって事か。まぁそれなら……ヴィヴィオは頭の中で一つ名案を思いついた。
「で、なに」
「えっとね……恭文とヴィヴィオとの婚約の誓い♪ ズバリプライスレスー」
ヴィヴィオは近年稀に見る素晴らしい笑顔で恭文にそう言って、恭文のハートを鋭く打ち抜いた。
なのに次の瞬間ヴィヴィオは、近くの噴水に向かって投げ込まれました。……解せぬ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
いつも見る夢がある。その中では一組の男女が燃え上がる炎の真っ只中で見つめ合っている。
男の方は怪我を負っているらしく、膝立ちで崩れ落ちて額や腕から血を流す。なお、髪を三つ編みにしてアップにした女性はほぼ無傷。
女性が自分に背中を向けてどこかへ去ろうとするのを、男性が止めようと声をあげる。でも女性は止まらない。
いつもの悲しい――覇王の記憶。私の中に刻まれた記憶は、その時の感情も私に伝えてくる。
ただそれに引きずられる日々にも、終止符を打たないといけない。そのために私は……絶望を知るんだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
決戦の場はミッドの首都から少し離れた港湾部の一角。ここは一般的には廃棄された区画なんだ。
あ、廃棄っていうのは違うかも。管理局が不要な倉庫や建物のある区画を買い取って、部隊の訓練用に使ってるの。
例えばノーヴェやスバルさんもお世話になっている港湾救助隊だね。今回ここを二人のツテで借りる事が出来た。
近くには海があるから波音が聴こえて、風に乗って塩の匂いもする。あとは倉庫やそれに連なる形で事務所っぽい建物もいくつからある。
そんな中でヴィヴィオはジーンズ上下にピンクと白の縞模様のシャツを着た上で、傍らのクリスと一緒にここに居た。
「でもなんというか……なんでコロナとリオまで?」
左側に呆れながら視線を向けると、ヴィヴィオのお友達二人とサリエルさんとドゥーエさんが居た。
あとはノーヴェとスバルさんだね。なお、サリエルさんが若干泣きそうなのは気にしないで欲しいな。
「いや、ヴィヴィオ……アンタそこ聞くの間違ってるから」
「そうだよ。遊びに来たらこういう事があるから、『よければ見に来るー?』って言ったのはヴィヴィオちゃんだよね」
「あ、そうだったねー」
「……サリエル、良かったわね。あなたのご主人様は立派に育っているわよ」
「ご主人様言うなバカっ! てーか4年前の俺のバカっ! なんであんな事気軽に言っちまったんだよっ!」
サリエルさんが頭を抱えたりドゥーエさんが苦笑する意味がよく分からなくて、ヴィヴィオは首を傾げる。
するとどこからともなく車の音が聴こえて、ヴィヴィオは視線を前に向けた。
前の方から、もう高町家所有の車両の一つになってしまっているミニパト・トゥデイが走って来ていた。
それはサリエルさん達の近くに止まると、その中から次々と人が降りてくる。
メンバーは恭文とフェイトママとリインさんにあむさん、それと……あの人だよ。
「お待たせしました。アインハルト・ストラトス、参りました」
「……お待ちしてました」
アインハルトさんは車から降りて、静かにヴィヴィオの前へ来る。
だけど距離は10メートルほど取っているところが、既にやる気な証拠。なお、服装は中等部の……私服無いのかな。
「ここは予めメールで伝えてるとは思うが、救助隊――局が水際での活動の訓練に使ってる。
もち正式な許可を取ってるから、遠慮無くやってくれていい。あー、だけどあんま物は壊すなよ?」
「分かったー」
「了解しました」
なので早速ヴィヴィオは左手でどこからともなくSEI-Oベルトを取り出し、腰に巻きつけて右手でパスを取り出す。
「それじゃあクリス、いくよ」
右手をビッと上げるクリスを横目で見つつ、まだ他のフォームは使えないのでヴィヴィオはそのままパスをセタッチ。
「変身っ!」
≪Plat Form≫
そしてヴィヴィオの身体は虹色の光に包まれて、一気に大きくなって変身完了。
光が弾けたその瞬間、ヴィヴィオの姿は恭文が大好きな巨乳なお姉さんになっていた。
「最初に言っておくっ!」
なのでその胸も揺らしつつ、右手を上げてアインハルトさんを指差す。
「ヴィヴィオはかーなーり……強いっ!」
あ、クリスもまた腕を上げてるー。『その通り』って言ってくれるのかなー。
いやぁ、これやりたかったんだよねー。これやるとノリが違うしー。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「恭文、お前やっぱロクな事教えねぇな」
「ほんとだよ。アレ明らかに――ヴィヴィオちゃん、可哀想に。若いのに人生を踏み外して」
「黙れバカ姉妹っ! そもそもおのれらはあれくらいやらないから原作でもパッとしないモブキャラ同然の扱いだっつーのっ!」
「うるせぇよっ! 原作の話はもうするなっ! アタシ達はアタシ達でオリジナル路線貫いてモブキャラ脱却してんだよっ!」
「ヤスフミ、それはダメだよっ! メタ発言過ぎるからー!」
とにかく立派に成長しているらしいヴィヴィオに感心するのは置いておくとして、アインハルトの方を見る。
アインハルトは一瞬ポカーンとしたけど、それでも表情をキツく引き締めてヴィヴィオをジッと見る。
「――武装形態」
ヴィヴィオとは違う薄緑色の光に包まれながらも、その中で起こる変化はほぼ同じ。
アインハルトは一瞬であの夜見た大人の姿になり、弾けた光の中でそのツインテールの髪を揺らした。
「え、あの人も大人モードッ!? なんでなんでっ!」
「リオちゃん、落ち着いて。ほら、大人モードって変身魔法と強化魔法のハイブリッドだから」
「……あ、そっか。レアスキルとかじゃないから、他に使ってる人が居てもおかしくないんだ」
「ねぇアンタ達、なんでここに居るの? あたしさすがに疑問なんだけど」
「あはははー、アタシ達ヴィヴィオの家に遊びに来て、そうしたらいつの間にかこんな事に」
今腰を落として半身に構えているヴィヴィオは、どうやら二人を遠慮無く巻き込んだらしい。やっぱり図太くなってる。
「ノーヴェさん、ルールの方は」
「前回と同じだ。射砲撃は禁止で格闘オンリー。ただし時間は無制限で一本勝負。
ダウンしてからの加撃は禁止だし、急所への攻撃もアウト。それでいいな」
二人が頷き構えをちゃんと取っているのを確認した上で、ノーヴェは腕を上げる。
「それじゃあ――始めっ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
試合がスタートしたその瞬間、もう目の前にアインハルトさんが居て――右拳が突き出されて来た。
ヴィヴィオは咄嗟に左腕で打ち込まれた拳をガードしつつ身を時計回りに逸らしてその拳を捌き、アインハルトさんの右サイドに回る。
というか、速いし重い。1週間前のあれより……続けてアインハルトさんは身を翻す。
そこから体重を乗せてヴィヴィオの顔めがけて打ち込まれた左フックを、右腕を盾にして受ける。
そして下から何かが迫ってくるのを感じて、ヴィヴィオは素早く後ろに半歩下がる。すると眼前を右拳が通り過ぎていた。
ガードを上げさせた上で意識がそちらに向いているところを狙って、アッパーを打ち込んだみたい。
ヴィヴィオはそれから一気に後ろに跳んで一旦距離を取る。それでヴィヴィオ達の距離は大体3メートル前後になった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「へぇ、あのツインテールの子やるな。中々のコンビネーションだ。速い上に打撃が重い」
「というか、不思議なフットワークよね。攻撃を打ち込む時にいちいち地面を噛んでるし」
「え、ドゥーエさんも格闘関係お強いんですか?」
「あ、そう言えば。なんかすっごいプロっぽい解説してたし」
フェイトとリイン、それにあむが驚いたようにドゥーエさんの方を見たので、僕とサリさんは視線を逸らす。
「えぇ。専業主婦の嗜みとしてそれなりにね」
「なるほど。やっぱりサリさんの影響とか」
「その前からね。しいて言うなら過去のほろ苦い経験からかしら」
「ふむふむ、意味深なのですー」
ほろ苦いどころの騒ぎじゃないでしょ。アンタアサシンだったんだから。ビター過ぎてこっちは胃もたれすら覚えるよ。
”やっさん、マジでフェイトちゃんとリインちゃんは気づいてないのかよ。いくらなんでもおかしいだろ”
”僕も常々そう思ってるんですけど、マジっぽいです。……時空管理局、よくあの時潰れなかったよなぁ”
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
距離を取った途端にまた踏み込んで来て、今度は左ストレートが打ち込まれる。
ヴィヴィオは身を伏せ僅かに右に移動。そうして拳を回避しながら踏み込み、右ストレートで胸元を狙い打つ。
その一撃は確かに命中して手応えがあって、アインハルトさんは僅かに後ろに下がった。
でも本決まりじゃない。アインハルトさん、咄嗟に右拳の甲を盾にしてヴィヴィオの拳を受け止めてた。
そこから続けて左拳を引きながら飛んでくる右足でのミドルキックを、ヴィヴィオは腕と肩で受け止める。
すぐに反撃で右足のロー。鋭くアインハルトさんの左足を狙い打つと、アインハルトさんの表情が僅かに歪んだ。
うん、さすがに効くよね。だってこれ、ヴィヴィオの切り札なんだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あの蹴り一発でアインハルトが表情をしかめた。その様子から見て僕はヴィヴィオがなにをしたかを察した。
あの蹴りには徹を込めてる。つまり内部浸透系打撃でアインハルトの足を痛めつけに来た。
それで断空――カイザーアーツの根っことも言える歩法を崩そうって魂胆っぽいね。うん、いい判断だ。
それで徹なら内部浸透系打撃だから、防御がどんだけ硬かろうが問題はない。ヴィヴィオ、よく考えてるね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アインハルトさんは素早く足を引いて、地面をまた踏み締めつつ鋭く右拳をストレートで打ち込む。
ヴィヴィオはそれを左手で受け止めつつ、打ち込んだままの右足を僅かに引いてハイで再度蹴り。
ローからハイに移行した二度目の蹴りにアインハルトさんは反応出来ず、ヴィヴィオの足は左頬に命中。
アインハルトさんは体勢を崩したけど、僅かに後ろに下がっただけでまた踏み込んで来る。
ヴィヴィオは痺れる左手を無理矢理握り締めて、同様に突撃。今が攻め時と判断する。
打ち込まれる右ストレートに合わせてこちらも同じように右拳を打ち込んで、アインハルトさんの顔面を捉えた。
――今が攻め時。ここで一気にヴィヴィオのペースに持ってっちゃう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「やったっ! カウンターだっ!」
「ヴィヴィオちゃん良い感じっ!」
「いや、ダメだな」
「「えっ!?」」
はしゃいでたちびっ子二人は驚きながら、そう言ったサリさんの方を見る。
「で、でも今綺麗にっ!」
「いや、フェイト……サリさんが言うように、アレは不発だよ。だって防がれてるし」
「え」
フェイトが驚きながらもアインハルトの方を見ると、アインハルトは……ようやく気づいたか。
アインハルト、咄嗟に右拳の甲でさっきと同じようにヴィヴィオの攻撃を受け止めたのよ。また良い反応するなぁ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今のは危なかった――と思っている間にあの子が拳を引くと、その姿が一気に見えなくなった。
同時に下から鋭くなにかが迫るのを感じて後ろを下がると、目の前に足が飛び上がって来た。
いつの間にか彼女は逆立ち状態になり、私に向かって左足を叩き込んでいた。それに気づいた瞬間、顎に衝撃。
左足を避けたと思ったその瞬間、私の回避先を狙って右足での蹴り上げが飛んできていた。
私はそのまま勢いに圧される形で浮き上がり、一瞬だけ意識が遠のく。
でもすぐに切れかけた意識を繋いで、コンクリの地面を転がりながらも体勢を立て直す。
起き上がると同時に、あの子がこちらに右拳を打ち込みながら踏み込んで来る。それを左に避ける。
右頬にあの子の拳の鋭い感触を感じながらも、私は両足を踏み締めてあの子の腹に向かって右拳を打ち込む。
だがそれは腹に似つかわしくない硬い感触で……これは、先程の私の攻撃の防ぎ方と同じ。
それと同時に左足に鋭い痛みと痺れが三回走る。またローを打ち込まれたのだと気づいた私は、右拳を引きながら左膝を打ち込んだ。
跳びかかりながらの一撃は余りに不恰好で威力はないが、それでもあの子の体勢を崩すのには充分。
二人揉み合う形で地面を転がり、それでも離れながら私達は3メートル程の距離を取りつつ起き上がる。
でも立ち上がると同時に左足に痛みが……たったこれだけのローでこんな。そしてあの子は踏み込み、再び右拳を打ち込む。
また先ほどのように防がれる事を恐れてしまった私は、素早く両腕でガードを固める。でもあの子の拳は来ない。
その代わりに素早くまた左足に四度痛みが走る。私は舌打ちしつつまた踏み込み、右拳をフックで打ち込む。
あの子は素早く下がりつつそれを避け、続けてくる左拳でのフックも難なく避けた。
いや、私の腕を両手で取って素早く関節を決め……アームロック? その上でまた三撃ローを打ち込む。
私は素早くアームロックを外す事なく、踏み込み右拳を全力であの子の腹に叩きつける。
私の拳は今度はあの子の腹を打ち抜き、あの子は目を見開き口から唾液を吐き出しながら前のめりになる。
ただそれでもローを更に二撃打ち込んで、アームロックを解除した上で私から距離を取った。
狙いは分かる。まさかここを1週間練習してきた? さほど手札は見せていないあの組み手の中で対策を整えたというの?
いや、そんな事はないと思う。もしかしたら恭文さんが――それこそない。あの人がそんな手心を加えるわけがない。
あの人はその、言い方は悪いけど私に絶望して欲しがっている。なによりそんな事をするような人じゃない。
そうだ、私はあの人の事を少しだけ知っている。拳を交えて話して――ずっと目で追いかけていたから分かる。
あの人はそんな事をするような人じゃない。つまりこれは……私はまだ相手を甘く見ていたらしい。
そしてあの子がまたこちらへ踏み込みながら打たれたローに私は呻き、軽く足が震え出すのを感じた。
表情を険しくしつつも右フックを打ち込むとあの子は左腕でそれをガードして、再びローを放つ。
この子は……どうしてここまで。師匠に近い人達が組んだ試合だから? 友達が見ているから?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「なるほど。ローでアインハルトの足を潰しにかかったか」
「それであの子のステップを潰そうって事だな。しっかしバシバシ決まるなぁ」
「……あ、もしかしてあれからずっとローキックの練習してたの、このためっ!?」
「あむちゃん、それだけじゃないよー。ヴィヴィオちゃん、格闘技でローキックの映像かなりの回数見てたしー」
「あ、それボクも見たよ。それでやたらと楽しそうなの」
驚くあむと冷静なランとミキのおかげで、ノーヴェとサリさんの疑問は見事に氷解した。
しかしローキック、徹込みでも特性的に即効性には欠けるのに……よくやるなぁ。
「でもヤスフミ、アインハルトの反応が悪くなってるね」
「うん。あの顎への蹴りが効いてるんだよ。まず打ち合いである程度ダメージを蓄積させて」
「カウンターでチャンスを作ってひたすらにローを打ち込むと。
それでクロスレンジでの攻防ではヴィヴィオもアインハルトには負けてないんだよね」
「パワーはともかく、ヴィヴィオはカウンター得意だしなぁ。目と反射は良いもの」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あの人の打ち込んでいたフックを、腕を動かして流しつつ一旦後ろに下がる。
その上でまた踏み込んで右足を僅かに上げると、アインハルトさんの左足が動く。
それはローへの防御体勢を整えるための行動なのは分かったので、ヴィヴィオは跳ぶ。
本当に軽く跳躍しつつ右ストレートを顔面に打ち込むと、アインハルトさんは左腕でガード。
続けて放った腹に向かっての左フックは、右腕でガード。だけど、その手応えはさっきよりも軽い。
確実にローが効いているのを痛感しつつ、左足で打ち込まれた向こうのローを下がって避ける。
ダメージが入っている足を平然と使うんだ。まぁ受けるよりは楽だろうけど……やっぱり負けたくない。
ヴィヴィオにだってそれなりの意地がある。先週あんな事になって、おとなしく負けてあげる程性格良くない。
ここは派手に負かせてあげるのがお礼ってものだと思うし。さて、相手の手札をここで再考察。
それでなにが来るかをいくつかまとめて、その上で対策も整えて――ヴィヴィオは息を整えてからまた踏み込む。
パワーと技能的なものを含めた防御ではアインハルトさんの方が上。でも、スピードと見切りではヴィヴィオの方が上。
ヴィヴィオが右拳を振りかぶりながら接近すると、アインハルトさんは左腕でまたガードを整えた。
でもそこでヴィヴィオは足を止めて左半身を前に出すようにスイッチ。ガードの空いている胸元と腹を狙って左でジャブ。
それは咄嗟に出された右腕でガードされたけど、そこを狙って一気に飛び込み右足で回し蹴り。
アインハルトさんはそれを下がりつつすれすれで避けてから、ヴィヴィオに向かって再度接近する。
でもヴィヴィオの身体の回転は止まらず、そのまま左足で後ろ回し蹴りを叩き込む。
ハイコースなそれをアインハルトさんは肩と左腕で受け止めようとするけど、その足が急激に下がった。
そのままヴィヴィオは体重を乗せた上でアインハルトさんの左太ももに向かってかかと落とし。
アインハルトさんのガードは上半身に集中していたから、急に下にコースが変わっても対処出来ない。
アインハルトさんの左足が震え、表情も苦しげなものになって腰が落ちる様子を見つつ、地面に倒れる形になったヴィヴィオはすぐに起き上がる。
起き上がって踏み込み、胸元に狙いを定めて右ストレートを打ち込もうと拳を握り締めた。
でもその瞬間、アインハルトさんの目が鋭く細まり、力が抜けかけていた両足に再びそれが戻った。
「覇王」
そして地面を『噛み』砕き、全身の力を右拳に乗せながらそれを真っ直ぐに打ち込んだ。
「断空拳っ!」
その拳は既に打ち込まれていたヴィヴィオの拳よりずっと速く突き出され、ヴィヴィオの腹を打ち貫く。
それでヴィヴィオの身体は一気に吹き飛び地面を転がり、意識を一瞬で奪われた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――そこまでっ! 勝者、アインハルト・ストラトスっ!」
ノーヴェの声にアインハルトは荒く息を吐きながらも打ち出した右拳を下げて、左足を震わせる。
そしてその場に左膝をついて崩れ落ち、ヴィヴィオが転がっていった方向を見る。というか、その場で倒れた。
「アインハルトっ!?」
「ちょ、アンタもそうだけどヴィヴィオちゃんも……ノーヴェさん、あたしヴィヴィオちゃんの方にっ!」
「あぁ、頼むっ!」
そしてヴィヴィオの方にはあむとコロナ達が。アインハルトの方にはノーヴェとスバルとサリさんが向かう。
僕が飛び出ようと思ったけど、なんか出番取られたので……あとはみんなに任せる事にする。
「うーん、あと一歩届かなかったか。ヴィヴィオの最後の一撃、当たりが浅かったしなぁ」
「あの断空とか言う技を受けた事で圧されちゃったみたいね」
「ヤスフミ、どういう事? というかドゥーエさんも」
「アインハルトちゃんが倒れたの、ヴィヴィオちゃんのカウンターが決まってたせいよ」
フェイトは驚きながら三人に介抱され始めたヴィヴィオの方を見る。
「あの最後のストレートの軌道を咄嗟に上に跳ね上げた。まぁ本当に僅かだけどね」
「それがアインハルトの顎を掠めてたんだよ。それで脳震盪を起こして」
「倒れちゃったと。じゃあもしその、当たりがもっと深かったら」
「同時KOか……上手くいけばヴィヴィオが勝ってたね」
しかしあのかかと落としで左足限界だったろうに、あそこで断空打ちますか。
「ま、そこはいいとして……ノーヴェー、サリさんー! 医療キット持ってきてるけど使うー!?」
「いや、大丈夫だー! 携帯用のは既に持ってるー!」
「アタシも同じくだー! お前はなんかこう、二人寝かせる場所なり枕っぽいの用意してくれっ! そういうの得意だろっ!」
「……僕の扱いって、そういう方向かい」
「まぁまぁ。頼りにされてるって事で」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一瞬意識が途切れてしまった私が次に目を覚ました時は、なぜか固めの白く薄いマットの上だった。
しかも枕まであって……隣には同じマットに寝かされているあの子が居た。私は少しふらつきながらも、上半身を起こす。
私達はそれぞれ武装形態を解除していて、セットアップ前の状態に戻っている。そして彼女の傍らには……うさぎ?
空を飛ぶ小さくて可愛いウサギが心配そうにあの子を見ていた。
「私は……どうして」
「最後の一撃、ヴィヴィオのカウンターが顎に入ってたんだよ」
そう言ったのは私の傍らの恭文さん。その隣にはフェイトさん――奥様が、私を心配そうに見ていた。
私はすぐに立ち上がろうとするけど、左足に痺れる感覚が走って上手く立てずにその場にまた座る。
「あ、無理しない方がいいよ。ヴィヴィオのロー、相当効いてるみたいだし」
「回復魔法はかけてるからすぐによくなるけど、今はじっとしてて。
……てーかその足でよく断空打てたね。あのかかと落としでダメになってただろうに」
「……自分でも不思議です。不発に終わるかと思っていましたから」
「そう。なら」
恭文さんは変わらない優しい瞳で、私の事をジッと見る。それからあの子に視線を移した。
「不発にしたくないだけのなにかが、アインハルトの中にあったんでしょ。だから成功した」
「そう、でしょうか」
「そうじゃないのかな。それがなにかは、僕には分からないけどね」
私は改めて、あの子を見る。あの子は目を閉じてまだ意識が戻らないらしい。……加減出来なかったから。
「あー、アンタもそんな心配そうな顔しなくていいって」
そう言ったのは、ヴィヴィオちゃんの側に居た日奈森さん。
「どっか折れてるとかもないし、気失ってるだけだから」
「そうですか。でも日奈森さん、私は……心配そうな顔など」
「いや、めちゃくちゃしてたから。ね、みんな」
日奈森さんの言葉に友人達や師匠に知人のみなさんも頷く。それがどうにも気恥ずかしくて私は、あの子の方へ視線を落とす。
「恭文さん」
「なに」
「絶望しました。聖王はもう、どこにも居ないのですね」
今は閉じられているこの子の瞳の色を思い出しながら、私はゆっくりと瞳を閉じる。
「この子の拳は私の――覇王の知る聖王の拳ではなかった。
強さも、その重さも……彼女とは全く違う。確かに私は絶望を知りました。ですが」
「ですが?」
「不思議なくらいに、悲しくないんです。むしろ清々しさも感じている」
もしかしたらそれは、恭文さんの言う『不発にしたくないだけのなにか』のせいなのかも知れない。
私は――アインハルト・ストラトスは、またこの子と拳を交えてみたい。つまりその、どう言えばいいのだろう。
上手く言葉に出来ない自分の感情の答えを確かめるように、私は未だ眠っているあの子の右手を両手で取る。
「――初めまして、ヴィヴィオさん。アインハルト・ストラトスです」
新暦79年の春、私の世界は強く凛々しいあの人の敗北から変わっていった。
その中で出会った彼女は、引きずり続ける悲しみに潰されそうになった私に『私』の感情を思い出させてくれた。
これが私達の鮮烈な物語の始まりの始まりになるとは、この時の私はまだ知らなかった。
今はただ、手の中の小さな温もりの在り方を知って見つめて……更に『絶望』していく道を進み続けるだけだった。
「ねぇアインハルト、せっかくだからそれはヴィヴィオが起きてから言ってあげたらどうかな」
「……恥ずかしいので嫌です。あと奥様もそうですが恭文さんも、ニヤニヤするのはやめてください」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
さてさて、ヴィヴィオちゃんとアインハルトとの初めましても兼ねた模擬戦も終わり……あたしはあたしで訓練の日々。
というか、贅沢な環境だよねぇ。学校終わって毎日訓練場で、教導官ななのはさんに直に訓練受けられるなんてさ。
「えっと、あむさんってミッド式なんだよね」
「え、今更なんですか」
「いや、おさらいは大事かなーって。ほら、デバイスが完成したらそれの慣熟訓練もやらなきゃいけないから」
あぁ、なるほど。だから改めてあたしの資質について確認してーと。デバイスもあたしの特性に合わせて作られてるしなぁ。
「それで適正はブースト系なんだよね。というか、回復魔法もそうだけど後衛より」
「あははは、らしいですね」
あたしはどうも恭文やフェイトさんみたいに前でガシガシ戦うタイプじゃないっぽい。
えっと、RPGで言うなら僧侶とかそっち系統? 回復魔法使ったり、強化魔法で味方の能力強化したりーとか。
「でも格闘も一応だけどこなせるんだよね」
「まぁヴィヴィオちゃんとかには負けます……あれ、なんか凄い情けない事言ってるような」
「あの、そんな事ないよ。訓練してる時間が倍近く違うんだし。それを言ったらなのはだって……うぅ」
そう言いながら夜の練習場で二人揃って涙目になるのは……うん、なのはさんも涙目なの。
だって二人揃ってヴィヴィオちゃんに格闘じゃあ勝てないもの。もうね、情けなくて辛い。
「やっぱり今後の方向性としては……まぁまずは長所を伸ばす?
最近練習してる防御魔法の強度ももっとあげないと」
「それでやられにくくするんですよね」
「そうそう。あとね、分かってはいると思うけど自己ブーストは使わないように」
なのはさんの言葉に軽く首を傾げてしまうのは、あたしの勉強不足ゆえかも知れない。てゆうか、なのはさんがなんか驚いた表情になった。
「え、あむさんちょっと待ってっ! 自己ブーストの事知らないのっ!?」
「自己ブースト自己ブースト……あ」
あー、そうだそうだっ! ヤバいってあたしっ! なんかすっごいど忘れしてたしっ!
「ごめんなさい、ど忘れしてましたっ! ちゃんと勉強してますっ!」
「そうなんだ。ならよかったー。それ知らなかったらどうしようかと思ってたよ。
……よし、じゃあそこを確かめるために簡単で良いから説明してみて?」
「あ、はい。えっと、自己ブーストは自分にかける強化魔法です」
元々ブースト――強化魔法は、第三者の能力を強化する魔法。例えばこう、バイキルト的な感じだね。
魔法を使った攻撃力とか身体能力とか、そういうのを強化する魔法を自分にかけるのが自己ブースト。
「えっと、自己ブーストの利点は一度かければ意識しなくても強化された能力を維持出来る事。
確か人にかける場合は、基本的に強化する効果時間には制限がある……でしたよね」
「そうだよ。ここは消費魔力の量と効果時間がイコールになっていると思ってくれていい。
自分の魔力を第三者に分け与えて、それを使用する方向を特化させたのが強化魔法になるの。ならそのデメリットは?」
「三つあります。元々魔力運用が上手な魔導師だと、自己ブーストは効果が薄くなる。
というか、意味がない? 自己ブーストかけて強化しなくても、運用が上手かったら素でその効果が出せる」
なのはさんが笑顔で頷くので、どうやら正解っぽい。それに安心しつつあたしは……あぁ、そうだ。
この事を説明してくれた時の恭文の真剣な表情を思い出して、自然と気が引き締まる。
「もう一つは、強化した状態で魔法を発動すると魔力消費が激しくなる。維持してるブーストと消費が乗算になるから。
それで最後は……めちゃくちゃ身体に負担がかかる。確か引き出せる魔力の量が多くなるからーとか」
「うん、正解だよ。通常の強化魔法でそういう事が起こらないのは、効果時間に制限があるのと二種類の魔力を使用しているから。
でも自己ブーストだと意識的に維持してしまうから、その状態で他の魔法を使っちゃうと魔導師のキャパをオーバーする」
「はい、恭文からも……てかあたしマジヤバいじゃんっ! そんなのど忘れしたらダメだしー!」
「あははは、さすがに私もびっくりしちゃったよ。というか、怖かったかも」
苦笑するなのはさんはそれとして、あたしは両手で頭を抱えてしまう。さすがにこれは……あれれ。
「あれ、でもちょっと待ってください」
「なに?」
「自己ブースト中に他の魔法使ったら危ないんですよね。魔力も体力も消費が乗算してくから」
「うん、そうだよ。だから私のブラスターも封印前はみんなから相当言われてたし」
あぁ、そう言えばあの恐怖の代名詞なブラスターも自己ブーストだっけ。
それ考えるとなのはさん……無茶してたんだなぁ、あの戦技披露会の時に。
「なら、自己ブーストだけを使う場合ってどうなるんですか?」
「あー、その場合だと単独の魔法だけになるからまだ……うん、まだ大丈夫かな。
でもね、それもやっぱり限度があるんだ。もちろんどこまで強化するかもある。
それよりも問題は強化魔法の数かな。ブーストをそこで重ねがけしちゃうと」
「複数の強化魔法を維持しちゃう事になるから、結果同じなんですね。つまりその、魔力運用上手くなる方が得?」
「そうなっちゃうね。限界突破を前提に置くなら自己ブーストだけど、そうじゃないなら絶対そっちの方が良いと思う」
「納得しました。うし、もうちょっと頑張ろうっと」
なのはさんやみんなにお世話になりつつ、あたしは忙しい日々を送る。
異世界での生活は……まぁラン達も居るからそんな寂しくない。
みんなもメールよくくれるしさ。ただやっぱり色々気になる事も……まぁここはいいか。
あたしはなのはさんと訓練を再開して、魔法が使えて戦える自分のキャラ目指して両手の中に自分の魔力を形にする。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
さてさて、ヴィヴィオは楽しく忙しく学生生活をエンジョイ中。それでね、アインハルトさんともちょっとずつお話してるの。
まぁ聖王や覇王どうこうなんてヴィヴィオははっきり言ってどうでもいいから、アインハルトさん自身の事をもっと知りたいなーと。
――え、ヒドい? でもヴィヴィオはそういう記憶ないから、今ひとつさっぱりだしなぁ。ついていけないとこもあるの。
まぁここはアインハルトさんも承知してくれてるところなので問題……うん、なんかあの練習試合で承知したっぽい。
そこについての謎は気にせずに、アインハルトさんとは『ごきげんよう』で毎日挨拶する中になった。
でもねぇ、こう……学部も違うから今ひとつ接点なくてー。むしろあむさんの方が親しいんじゃないかーって言うくらいなの。
それでそのあむさんはあむさんで、クラス内で一目置かれている状態だよ。うん、理由は察して?
というかね、いつの間にかあむさんが素手でオーバーSも一捻りなんてキャラになってるから、うちのクラスももう大変。
ちなみにこの話は先日のあれこれで恭文とフェイトママ経由で、とっくの昔に聖夜市組なみんなに伝わってる。
元担任の二階堂先生でさえ泣いてしまったというあむさんの現状が変わるのか……ごめん、ヴィヴィオには分からない。
というか、ぶっちゃけヴィヴィオはそこに構ってる余裕が無い。だって試験期間突入だから。
なんだかんだで1学期の前期試験を目前にしたヴィヴィオは、コロナとリオと毎日勉強漬け。
魔法学科は一応実技(試験官との模擬戦or選択した魔法技能の実践)があるから、余計に大変なんだー。
それは中等部も変わらずなので、それに関してあむさんが非常に強い期待を寄せられているのは察して欲しい。
「ねぇヴィヴィオちゃん、あむさん大丈夫かな」
「コロナ……いや、分かるけどさ。でもアタシ達おかしくない? 自分の試験よりあむさんが心配って」
だからこそいつものように図書館であむさんを待っている時、早々こんな話をしちゃうわけだよ。
「まぁあむさんはこっち来てからふた月も経ってないしねー。しょうがないよ」
一応基礎的なとこは出来てるし、そのまま転入でも問題ないからこその現状だけど……ごめん、さすがに心配。
特にあむさんは最近よその学校のストライクアーツ部を叩き潰したらしいし、そりゃあなぁ。
「というかさ、あむさんの噂どうなってんの? なんかアタシ、ベルカ剣術道場に道場破りして看板を20近く奪い取ったとかって聞いたんだけど」
「リオちゃんも? あの、私は古き鉄――恭文さんの後継者だって。というか、既にそれ以上の実力者だって」
「まぁ立場的に恭文はあむさんに負けてるのは認めるけど、さすがにそれはないよー。
……噂って尾ひれがつくんだねぇ。ヴィヴィオはさすがにびっくりだよ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
中等部の試験自体は……まぁまぁいい感じだよ。恭文はマジで色んな事教えてくれてたんだなと痛感している日々だし。
そのおかげで勉強についていけないとかもないし、あとは……あー、やっぱ言葉の問題が大きいかも。
日本語が――自分の国の言葉が通じてみんなと意思疎通出来るっていうのは、かなり気楽な部分があるのよ。
ただまぁ、だからこそ噂されてる事も丸分かり。あたしはヴィヴィオちゃんを待たせてるのに、学内を歩きながら頭を抱えてた。
「マジどうしよ。なんかこう、あたしの外キャラが凄い事に」
「もうこのままいけば、ミッドが支配出来そうな勢いですねぇ」
「あむちゃん、なのはさんのような魔王になるのかしら?」
「冗談っ! そんなんなるわけないしっ! あー、マジどうしよー!
なんか先生達からもめちゃくちゃ期待の視線ぶつけられるんですけどー!」
緑も豊かで、何気に聖夜学園に近い環境な学内を歩きつつ……ごめん、説明かぶるけど頭抱えてます。
てゆうか、どうしてこうなった? 初日以外は特に目立ったとことかもないしさぁ。
「でもでもあむちゃん、お友達とか出来ないよねー」
「アインハルトも結構一人で居る事が多いし、中々接点持てないよね。同じクラスなのに。つまりあむちゃんはひとり」
「ミキ、アンタそれ以上言ったらマジトイレ流すからっ!
うぅ、勉強は順調なのに何一つ喜べないってどうなわけっ!?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
どうしよう。日奈森さんがまた独り言を……さすがにその、声をかけ辛い。
というか、よく考えたらヴィヴィオさんやそのご友人であるコロナさん達も時々虚空を見つめて会話してるのが見受けられる。
学部は違えと同じ学校内だから、何気に顔を会わせる機会が多い。ここはその、どうしよう。
やはり遠慮するべきかと思っていたりして、少し迷っていると日奈森さんがこっちを向いてしまった。
「あ、アインハルト。どうしたの?」
「いえ、その」
ここはその、触れない方が優しさというものかも知れない。私だって世間一般では厨二病などと比喩される状況にあるわけだし。
私は平然を装って、呼吸を整え直した上で日奈森さんに向かって一歩踏み出し、そのまま歩み寄る。
「少しご相談が……というか、困った事が」
「アインハルトがあたしに? まぁ格闘や勉強関係じゃあないよね。あたしの方が弱いし」
日奈森さんが苦笑気味に言うのは、私が聞いた噂の大半が明らかなデマだから。
実際の日奈森さんは魔法も格闘技も初心者レベルで……なのになぜ現状に繋がるのかがさっぱり分からない。
ただそこについての疑問はさて置いて、私は首を横に振った。
「実はそれ関連です」
「へっ!?」
(Memory05へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、Vivid編第4話です。……大帝国はヤバい」
シルビィ「あぁ、あのゲームね。18歳未満お断りの」
恭文「一度起動したが最後、止め時が分からずにぶっ続けで徹夜してしまう」
シルビィ「そうね。でもヤスフミ、あなたは東郷さんを見習った方がよくないかしら。ほら、あの人は凄いわよー」
恭文「無理っ! あんなの絶対無理っ! と、とにかく蒼凪恭文です」
シルビィ「この頃にはヤスフミの第四夫人なシルビア・ニムロッドです」
恭文「ないからっ! てゆうかその前に僕はフィアッセさんに……あれ、なんか胃が痛く」
シルビィ「だから東郷さんよ」
恭文「それは無理っ!」
(なお、全て妄言なのであしからず)
恭文「とにかく今回はアインハルトとヴィヴィオの再戦。そして聖夜市のみんなもちょっと出てたりします」
シルビィ「みんな元気そうでなによりね。というかヤスフミ、あの春玲ちゃんって」
恭文「読者アイディアなキャラだね。どこまで出番があるか分からないけど」
(アイディア、ありがとうございました)
シルビィ「でも意外と格闘技してるわよね。まぁ魔法関係ほとんど使ってないからだけど」
恭文「そこの辺りは次回だね。でもオフトレ編は……数人空気になるな」
シルビィ「ここもしょうがないわよね。登場人物も多いし。でも主軸はヴィヴィオちゃん達よね」
恭文「うん。原作よりヴィヴィオやアインハルトが目立つ形にできたらいいなーとか考えてたり。
というわけで、本日はここまで。とりあえず作者はしばらく大帝国封印と言いたい蒼凪恭文と」
シルビィ「ヤスフミはやっぱりあの方向を目指すべきだと思うシルビア・ニムロッドでした」
恭文「だから無理だっつーのっ! あれ実際にやったら絶対どっかで刺されるしっ!」
(そう、刺される。あれは刺される。絶対無理だ。
本日のED:能登麻美子さんがうたう『とおりゃんせ』)
ヴィヴィオ「……なにっ! この恐怖の歌っ! 怖過ぎて夢見そうなんだけどっ! 息多過ぎなんだけどっ!」
覇王(公式CV:能登麻美子)「……すみません、私です」
ヴィヴィオ「アインハルトさんがうたってたのっ!?」
恭文「やっぱりアインハルトがうたうとこうなったか。アインハルトの中の人も同じ事になったんだけど」
ヴィヴィオ「でもヤスフミ、どうしてこうなるの?」
覇王(公式CV:能登麻美子)「私の声、ウィスパーボイスなので……静かで囁きかけるような歌はこうなってしまうようです」
ヴィヴィオ「確かに囁きかけられてたけど、これは……むしろあり? 個性的だし」
恭文「だね」
あむ(ガタガタ震えている。ただの魔法少女のようだ)
(おしまい)
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