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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第144話 『I am/変わらないあたしと変わっていくあたし』



11月の騒動の余波もほとんど収まった今日この頃――季節は3月へと突入。そんな時、クロノ君から突然通信が来た。

しかもうちとだけやのうて、カリムとマクガーレン長官と同時にライン開いてや。これだけでなにか事態が動いたのやと分かった。

だってこのメンバーはイースターとエンブリオ絡みのあれこれで一緒にあの子達支援したメンバーやし。



そして自室で受けた通信は予測通り、イースターやエンブリオ――こころのたまご絡みやった。



まずは今の一之宮ひかる君の状態から入って、最近あむちゃんと恭文が行った『ゆりかご』の話に入った。





「――恭文やクロノ君はエンブリオがそのゆりかごやと思うとるんやな。つまりこころのたまごそれ自体がエンブリオ」

『確証はないが、こう考えるなら全ての説明がつく。ただ恭文は確信しているようだが。
恭文の場合……最終決戦時に信じられないようなパワーアップをしているからな』



あー、あの他のこころのたまごから力もらってーってやつか。

てーかうちやうちの子達も映像見せられて乗っかったから、嘘とは思わんけどな。



『その経験から――キャラ持ちの感覚ゆえか』

『でももしそうだとしたら、皮肉ですね。イースターがエンブリオを探すためにあそこまでの行動を起こした事なんて特に』

『確かに。彼らが求めた輝きは、既に自分自身の中にあった事になる。
しかも……クロノ提督、こころのたまごもしゅごキャラも、なくならないのでしたね』

『そのようです。ただ現実世界で視認が出来なくなるだけ。全てゆりかごへ還るそうです。
もちろんそれで今存在しているこころのたまごが壊れても良いという事にはなりませんが』



画面の中のカリムは困ったような顔で視線を軽く落とす。マクガーレン長官も険しい顔で唸っとるしなぁ。



「それでクロノ君、どうするんよ。エンブリオも見つかったも同然やけど」

『相当するアイテムが実在している可能性もあるからな。恭文とフェイト達には継続して調査を頼んでいる』



まぁ二人は子育ても兼ねて当分向こうに居るし、そのついでって感じかな。



『ただ実際になにかあった際にメインで対処するのは、恭文曰く来年度からのガーディアンだが』

「なんや、アイツは聖夜小卒業したらもうノータッチか」

『そこが僕も気になってな。ただ……しっかり世代交代しないとズルズルと原作なのはのようになってしまうと』

「なにメタな事言うとるんよっ! せめてそこ種死とかでえぇやろっ!」



でも世代交代かぁ。確かにガーディアンに残るのってややちゃんとリインと、×たま飼ってたっていうりっかちゃんとひかる君だけやしなぁ。

……ややちゃんとリインがトップいうのが不安でしゃあないんやけど。リインはちょおアホやし、ややちゃんもアレやしなぁ。



『とりあえずガーディアンの業務には基本的にはもう関わらないらしい。×たまに遭遇したら浄化はするそうだが』

「また潔いなぁ。なんだかんだで関わり続ける思うてたんやけど」



いや、それもアカンか。今は身内が中心やけど、来年再来年と続けばそれもなくなる。

あんま先輩風吹かせても新しいガーディアンの子が育ったんしなぁ。アイツはアイツなりに考えてるって事か。



『それなら心配ないでしょう。アイツの事だ、どうせまたなにかに巻き込まれるようにして』

『マクガーレン長官、それはその……ありえますね』



全員で苦笑いしてまうのはなんでやろう。いや、そんなん分かり切ってるんやけど……ちょお不憫でもあるから考えたくない。



「それでその恭文は今どうしとるんよ」

『今なら……結果発表を見に行っている頃だろうか』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



結局ディードは編入ではなくマジで試験を受けて桜高に入る事になった。だって1年からの話になるしさ。

ギリギリのところで試験の手続きも出来て、詰め込み式に勉強して――僕達は桜が舞い散る中、あの学校に再びやってきた。

白の薄手の上着に紺色のシャツ、そしてジーンズ姿なディードと一緒に合格者の番号が乗っている板を凝視。



その左隅の方に、ディードの受験番号を見つけて僕は思わず隣のディードに抱き着いていた。





「ディード、あったよっ!」

「えっと」



顔を赤くしているディードが視線を泳がせるので、左手で番号のある方向を指し示す。

ディードは僕の指した先を見て、表情をほころばせた。



「見つけました」



声を弾ませ嬉しそうにそう言ったディードが可愛くて僕は、ハグを強めて涙を零す。



「うぅ、良かった……ディード良かったよ」

「ありがとうございます。というかその、恭文さん」

「なに?」

「……恥ずかしいです。嫌いではないですけど、その……出来れば二人っきりの時に」



恥ずかしげなディードの言葉で、現在の体勢にようやく気づいた。僕はディードの胸に顔を埋めて……慌ててディードから離れた。



「ご、ごめんっ! その……ついっ!」

「いえ、大丈夫です。あの、恭文さん」



ディードは僕がさっきまでくっついていた胸を両手で押さえて、頬を更に赤く染める。



”二人っきりの時なら……いつでも構いませんから。それ以上の事も、私は”

”い、いやっ! さすがにその……とにかく合格おめでとー!”

”話を逸らさないでください”





頬を膨らませたディードがまた可愛いなと思いつつ、僕は視線を合格発表の掲示板に移す。



世の中はまたまた大変な感じだけど、それでも僕達は……なんとか笑って今日を迎えている。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ランスターさん、番号あった?」

「……おーい、ティアナー」



肩を叩かれてハッとしながら、両脇の陽子と淳を慌てて見る。二人は少し困ったような顔で私の事見てた。



「あ、ごめん」

「……ランスターさん、大丈夫よ。来年があるわ」

「そうそう。それに予備の学校も受けたんでしょ? だったら編入って手もあるし」

「いきなりそれっておかしくないっ!? てーか番号ちゃんとあったわよっ! ほらっ!」



私が左手で番号のある場所を指差すと、二人はそちらを見て……ハッとした表情になる。

念の為に右手で持ったままだった受験番号が書いてある紙を二人に見せた。



「あら、本当。じゃあさっきのは」

「……自分でもあるのに驚いちゃって、一瞬意識飛んでた」

「なんだ。頼むから驚かせないでよー」

「ごめん。てゆうか二人は」





もう聞くまでもないらしい。二人揃って笑顔で頷いてくれたもの。私は改めて、掲示板の方を見る。

私も4月から高校生になるのが決定。もう少しだけこの学校で、私なりの未来を探す旅を続ける。

もしかしたらその結果こっちでずーっと暮らすかも知れないし、やっぱり執務官を目指して頑張るかも知れない。



それは私だけじゃなくて横の二人やうちの同居人達も同じ。――季節は春。出会いと別れの季節。



ちょっとだけ優しい形に変わり始めた世界の中で私達は、また一つの変化を超えて先へ進む。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『――それでは、卒業生入場』





二階堂先生の声に合わせてあたし達は講堂に入場。それで先頭の方には……恭文が居る。結構緊張気味な顔してたなぁ。

てゆうかあれなの。いつぞやの授業参観みたいに知り合いが来るんじゃないかってビクビクしてるんだよね。

もう小学生生活は日常になってるから問題ないっぽいんだけど、さすがに知り合いに見られるのは……あれ。



お、おかしいなぁ。保護者席の方によーく知った顔をしている人達が10数名居るんだけど。





「あ、恭文なのだー! 恭文ー!」

「もうアンジェラ、ダメよ。式の迷惑になっちゃうじゃない」

「おー、カメラ新調した甲斐があったなぁ。最高画質でめっちゃ綺麗に『中継』出来るで」

「しかしあむちゃん達も成長してるなぁ。初めて会った時とはまた雰囲気変わってるしよ」



ちょっとちょっと、なんかすっごい知った顔が追加で徒党組んでるんだけどっ!

てゆうかあれ、サリエルさんにはやてさんにシルビィさんとアンジェラちゃんだよねっ!



「ど、どうしてシルビィさん達が。辺里君、この事って」

「僕は聞いてない。多分」



あたしとなぎひこの後ろの唯世くんが、着席しながらも更に顔青くしてガタガタ震え出した恭文を見る。

……あ、説明遅れた。恭文以外の卒業生四人は『日奈森・藤咲・辺里・真城』と名前の順番が近い関係で全員隣です。



「蒼凪君も様子を見るに……全く」

「……だよねぇ」

「さすがのなぎなぎでもあれで胸張れないわけか。てーかすっごい目立ってるしなぁ」

「うむ。そのおかげで恭文に視線が集まっても居るしな。しかも」



キセキを横目で見ると、腕を組みながら後ろのみんなの方を見ていた。



「今はやてさんは『中継』とか恐ろしい事を口走っていた」

「えーとえーとー、それってもしかしてもしかしなくてもー」

「間違いなく他の知り合いにも映像が流されてるわね。次元世界全体で生中継よ」

「えー! それってクスクス達有名人ー!? あ、髪セットしなくちゃー!」



いや、既に身内の中だけだから問題は……でもそう考えたらめちゃくちゃ緊張してきて、あたしは身震いしながらみんなの方を見る。



「み、みんな。そこは忘れない? あの、思い出すとこう……あたし達まで泣きたくなるし」

「そう……だね」

「蒼凪君、しっかり」





でも、恭文には声は聴こえてないと思う。もう本人頭抱え出したし。やっぱり……辛かったんだなぁ。

季節は春――私達はちょっと普通な感じじゃない卒業式を超えて、また一つ大人になる。

てゆうか、卒業式の準備から大変だったからなぁ。直前でちょっとゴタゴタしちゃって全部やり直しになったし、日程ズレたし。



そんな中で途中からこの学校に来たあたしにとってはここでの2年と半年という小学校生活を終える。



それはちょっと寂しいけど嬉しくもあって、同時に少しだけ悲しい。だってあれからひと月経つのに、あの子達は……まだ。










All kids have an egg in my soul


Heart Egg――The invisible I want my




『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第144話 『I am/変わらないあたしと変わっていくあたし』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



卒業式は無事に終わり……うちの関係者全員連れて説教してやる。あとで帰り道でなにやってんだと説教してやる。



特に怖い発言してくれた狸は糾弾してやる。徹底糾弾してぶっ潰してやる。……それはさておき、僕達はロイヤルガーデンに来た。



それで来て早々、いきなり上の方ででっかいくす玉が割れて『卒業おめでとう』ののれんが出てきた。





「みんなー! 卒業おめでとうー!」

「おめでとうございます。素晴らしい……その、蒼凪さん頑張ってください。大丈夫です、身内で泣くのは俺も同じですから」

「海里、お願いだから思い出させるのやめてー! 今は空気読んで必死に抑え込んでたのにー!」

「それで後は反省会だな、分かるぞ」



ひかるが腕を組んでうんうんと頷きつつ、僕とシルビィ達を見る。



「せっかくの卒業式がなにかの処刑のようになったからな。蒼凪殿……これは不幸と言いがたいし、難しいところだ」

「むしろ幸運と言うべきだろうか。心労について度外視すればの話だが」



いや、不幸って言い切っていいっ! コイツら絶対出歯亀で来やがったしっ!

てーかフェイト達も後で話だからっ! 知ってたならちょっと厳しめに説教かましてやるー!



「えっと……この人達も先輩やフェイトさんの友達ですかー?」

「そうやー。うちはフェイトちゃんの幼なじみで八神はやてや。それでこっちはサリエル・エグザさん。
アンタの会った事のあるヒロリスさんの仕事仲間で、恭文の兄弟子や」

「それで私達はシルビア・ニムロッド。こっちはアンジェラよ」

「りっかちゃん、よろしくなのだー。お話は聞いてるよー。×たまとお友達になれるんだよねー」

「うん、よろしく……って、どうして知ってるのー!?」



りっかとアンジェラが早速仲良くしてるところで、僕は改めてやけにでかい金色コーティングなくす玉の方を見る。



「でもこれ、ややとリイン達で作ったの?」

「ですですー。びっくりさせようと思って頑張ったですよー」

「あ、海里も手伝ってくれたんだよー。てゆうか、海里が来てからバーっと進んだのー」

「いえ、俺は締めを少し手伝っただけですから。ほとんどはリインさん達の仕事です」



海里は少し照れたように笑って、右手でメガネを正す。



「そういや海里君、アンタわざわざみんなの卒業式見に来るとは凄い気合い入ってるなぁ」

「あ、それは私もびっくりしたよ。でもゆかりさんの結婚式も近いから、そのせいだよね」



なぜかフェイトがそう言いながら後ろから僕を抱き締めて頭を撫でるのは……当然かぁ。僕、ちょっと来てたし。



「ゆかりって……あぁ、歌唄ちゃんのマネージャーさんやな。……え、あの人結婚するんっ!?」

「あ、八神さんは知らなかったんですね。実はそうらしいんです。しかも……二階堂先生と」

「いわゆる元サヤなのよ。二人とも昔付き合ってて、歌唄がイースター出てから自然とそうなったらしくて。ちなみに結婚式は明後日

「それはめでたいわね。てゆうか、いいなー。ね、ヤスフミ。
あー、私もせっかくだから出席しようかなー。それでブーケをゲットよ」



シルビィ、そう言って僕と腕組むのやめて。あと胸押しつけるのやめて。

なんでそんなに……うん、分かってる。お話し合い必要だしね。



「ただ俺がこちらに居るのは、別に姉の結婚式だけの話ではないんです」

「うむ」

「三条君、それってどういう……あ、また蒼凪君と決闘とか」

「えー! それはだめー! 卒業式終わった直後なのにまたあんなのは禁止っ!」



それで僕にも批判の目を向けるのはやめて欲しい。合意の上での事だし一種のコミュニケーションなのに。



「残念ながら違います。実は俺は春から、また聖夜小の方でお世話になるので」

『――えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』



この話は僕達ガーディアン組も知らなかったので、全員揃って大きく声をあげた。

でも海里は驚く僕達の方を見て、少し嬉しそうに頷く。



「じゃあ海里さん、またガーディアンに入るですかっ!」

「それは理事長の采配次第ですが……またみなさんのお世話になるとは思います。それでその、日奈森さん」





海里は真剣な表情であむの方を見る。あむは少し首を傾げながら海里を見返した。



ただ僕は頬をまた赤らめ出した海里の様子を見て……ピンと来てしまった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「お、俺は……俺は今でもあなたの事が」

「そっかー」



私は海里君の後ろに回り込んで、思いっ切りハグ。小6間近なのに既に私より少し背の高い男の子は、それで身体を震わせる。



「海里君またこっち来るんだー。あー、なんか嬉しいなー」

「フィ、フィニーノさんなにをっ!」

「あ、また苗字呼びになってる。シャーリーって呼んで欲しいのになぁ。うーん、これはしょうがない」



そのまま私は後ろに下がって、海里君を引っ張っちゃう。



「ちょっとこっちでレッスン開始だね。さぁさぁー」

「あの、待ってくださいっ! 俺は日奈森さんに大事な話が」

「今はだめだよ」



海里君を引っ張りながら小声で言うと、海里君が抵抗を止めた。



「みんなも居るし、次に言うなら二人っきりの時だね。直球勝負もタイミングだよ?」

「フィニーノさん、それでは……これは」

「だめ、シャーリーだよ?」

「は、はぁ……って、そうではないっ! 頼みますから放してくださいっ! その……これは恥ずかしいんですっ!」





それでも海里君は私にズルズルと引きずられて……でもどうしよう。ちょっとドキドキしてくるかも。



いや、落ち着け。私はショタじゃない。ショタじゃないしなのはさんでもないし……悩みながらあむちゃんの方を見る。



すると今度はなぎひこ君が話をしたいらしく、さり気なく隣を取っていた。むむ、ライバル多いな。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ナギー、今日こそばしっと決めようぜっ!」

「う、うん」



そうだ、もう黙ってるわけにはいかない。だってもう僕小学校もガーディアンも卒業だし。『なでしこ』がいつ戻ってきてもおかしくない。

この状況言わなかったら、あとは……僕は気持ちをしっかりと固めて、あむちゃんに近づく。



「あ、あむちゃん」

「うん、なにかな」

「あの……実は僕」



お、落ち着け。もうストレートに言うしかない。それであとはなるようになれだ。

僕はなでしこ……僕はなでしこ、そう言うだけでいいんだ。



「な、なで……なでし、なで」

「なで?」

「なで……なでっ!」

なでなでされたい



真横からとんでもない事を言い出した人が居るのでそちらを見ると、はやてさんが居た。

それで腕を組んで僕の方を横目で見ながら『分かる分かる』という顔をしている。



「なでなで? いや、別にいいけど……なんで今かな」

「いや、その……それは」

「頭でいい?」

「いやいや、あむちゃんそれは違うで」



はやてさんは右手を上げて人差し指を立て、それを横に振る。



「男が女の子になでなでされたいとこ言うたら、股間に決まってるやろ」

「「はぁっ!?」」

「なぎひこ君はもう大人なんや。つまりよ、なぎひこ君はあむちゃんの事が好きやから股間を撫でてもらってジュ」

「はやてちゃん」



僕の身体に急激に寒気が走った。その途端、はやてさんが背後から伸びた手に頭を掴まれる。

その手をゆっくりと辿ると……笑顔を浮かべながらも言いようのない威圧感を剥き出しているなのはさんがいつの間にかそこに居た。



「な、なのはちゃ……なんでいきなり登場? ほら、ここまで居る描写なかったやんか」

「みんなの卒業式見に来たかったけど、緊急で仕事の連絡入って遅れちゃったんだ。ね、ヴィヴィオ」

「うんー。まぁ生中継見てたから大丈夫だったけどー」



それで足元には極々自然にヴィヴィオちゃんまで居る。ほ、本当にいつ入って来たんだろ。全然気づかなかったんだけど。



「それではやてちゃん、いくらなんでも今のはちょーっとジョークが過ぎるんじゃないかなぁ。なぎひこ君もあむさんもまだ小学生だよ?」

「い、いやいや。小学生くらいやったらOKやて。つまりな、あれはなぎひこ君なりの求あ」

「少し頭冷そうか」



なのはさんはそのままはやてさんを引きずりながら、ロイヤルガーデンの入り口を目指していく。



「ちょ、待ってよっ! 場を明るくするほんのちょっとのジョークやのにー!
てーかうちなにされるんっ!? なんかドナドナ聴こえてくるんやけどっ!」

≪ドナドナドーナードーナー♪ 牧場を超えてー♪≫

≪なのなのなーのーなーんー♪ なのなのなーのなのー♪≫

「アンタらがうたってたんかいっ! てーかみんな助けてよっ! うちこのまま消され」



はやてさんの悲鳴は、ロイヤルガーデンの外に出ると同時にぱったりと消えた。

僕はあむちゃんと顔を見合わせる。あむちゃんは顔を赤くしてすっと後ずさった。



「あむちゃん待ってっ! あんな事考えてないからっ! ほんとに考えてないからっ!」

「バ……バカじゃんっ!? なぎひこありえないしっ!」

「ほんとに違うのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まぁなぎひこがあんな事言うわけないし、そこは深呼吸して忘れる事にする。てゆうか、落ち着け。



でもおかしいよね。卒業式なのに全然しんみりとかなくていつも通りだし。ほんと……おかしい。だっていつも通りじゃないのに。





「あむちゃん」

「唯世くん」

「ラン達って、やっぱり」



続く言葉は聞かなくても分かる。あたしは困った顔しながら頷いて、懐に入れていたラン達を取り出してみんなに見せた。

色々騒がしかったみんなも一旦会話をストップしてあたしのとこに来て、表情をしかめる。



「やっぱその子達、たまごに戻ったままなのか」

「はい……え、サリエルさんどうして」

「やっさんから聞いてたんだよ。ほら、ゆりかごの事もあったから」





あー、そっか。ゆりかごがエンブリオかも知れないって恭文が仮説立てたからだね。



どうしてそんなとこに行ったのかも説明しなきゃいけなかったからって感じかな。それでサリエルさん……心配してくれてる。



それはシルビィさんとアンジェラちゃんも同じで、宿主なあたしとしてはありがたいやら辛いやら。





「みんなー、はやく起きるのだー。もうお外は温かいのだー。ぽっかぽっかで美味しいものたくさんなのだー」

「もうアンジェラ、冬眠してるわけじゃないのよ? ……あむちゃん」

「あの、大丈夫です。今は眠っちゃってるけど」



あたしは四つの温かいたまごを優しく抱き締める。みんなは眠ったままだけど、鼓動は変わらない。

あたしは心配そうな顔を変わらずに向けてくれるみんなを見て、安心させるように笑う。



「いつか……きっと目覚めてくれる。そう信じてるから」





卒業式をみんなで迎えられなかった事は、やっぱり寂しい。ずっと変わらなくて、このままだってどこかで思ってたせいかな。



でも、大丈夫だよね。きっとたまごの中で見てくれてた。そうだよね、みんな。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



終わった――卒業式後のパーティーは終わった。全部終わってしまった。どうしよう、本当にどうしよう。



僕は再度留学しちゃうから、新学期にまた会ってお話なんて難しい。帰り道を歩きながらずっとその事を考えて頭を抱え続ける。



住宅街の中でそんな事をする僕は、多分不審者の類に見えると思う。てゆうか、隣のなのはさん達も苦笑いだし。





「結局、言えなかったな」

「そう、だね」

「なぎひこ、どうします?」

「とりあえずはやてさんにはお礼の品を送りつける事にする。なんかこう、困るような感じで」



あれが……あれさえなければぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 最後のチャンスだったのにー!

人の気も知らないで……当たり前だよねっ! 僕が嘘ついて内緒にしまくってたんだからっ! ほんとどうしようこれっ!



「えっと……なぎひこ君」

「もういっそこのままでいいんじゃないかなー。ほら、なでしこさんは心の中で生きてるって感じで」

「ヴィヴィオ、それ死亡ルートだよねっ! てゆうかさすがにそんな事は出来ないよっ! ……と、とにかく落ち着いて?」



頭の上に優しい感触がして、僕は足を止めて横を見る。その感触の正体は、なのはさんの手。

なのはさんは優しく僕に笑いかけながら頭を撫でてくれていた。



「あの、ありがとうございます」

「ううん」

「やっぱりパパとママは仲良しだねー。一緒のお布団で寝るくらいだし」

「「――いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」



お互いに背を向け合って、僕達はその場で頭からスチームを出す。それで横目でヴィヴィオちゃんを見る。

ヴィヴィオちゃんはとってもいい笑顔で……悪魔だ。この子は小さい悪魔だ。てゆうか、恭文君の生霊が見える。



「そ、それは……大丈夫だからっ! あの、ホントに大丈夫っ!
気にしてない……わけじゃないんだけど、大丈夫なのっ!」

「でででででで……でもさすがにあれはっ!」

「いいのっ! なぎひこ君に触られたの、全然嫌じゃなかったからっ!」



後ろから聴こえた声で、身体の震えが一気に止まった。僕はおそるおそるなのはさんの方を見る。

なのはさんも同じようにしていて……僕達は傍から見たら、やっぱり不審者だったと思う。



「ただ……驚いただけだから。あの、嫌じゃない。全然嫌じゃなかった。
むしろその、なぎひこ君が嫌じゃなかったのかなって。迷惑かけちゃったし」

「そ、そんな事は……僕はなのはさんに申し訳なくて」

「わ、私は大丈夫なの。てゆうかその」



なのはさんはそこで言葉を止め、僕に向き直りながら首を横に振る。



「ううん、なんでもないっ! ……とにかくあむさんの事だけど」

「は、はい」

「海里君のお姉さんの結婚式、なぎひこ君も出るんだよね。その時には無理なのかな」



続いたなのはさんの言葉で僕は息を吐き、かがみ気味だった体勢を解除してなのはさんに向き直る。



「そうだ、あむちゃんも恭文君達も出るから」

「だったらまだチャンスは残ってるよ。最後の最後まで諦めちゃだめ。不屈の心はその胸に……だよ?」

「はい。あの、ありがとうございます。よし……やるぞ」





みんなが僕を笑顔で見てくれる中、ガッツポーズを取って気合いを入れる。そうだ、まだチャンスは残ってる。



今度はどんな邪魔が入ろうと絶対に最後までやり通す。それで……あむちゃんに告白するんだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



卒業式の翌日から中学の入学式まではあたし達は暇。もちろんガーディアンに残ったリインちゃん達も同じく。

みんなして春休みな中、あたしは明日の結婚式に着ていく服とかそっちの準備はまぁとりあえずとして……街を歩いていた。

それで自然とイクトの姿を探していた。だってあれからもう3ヶ月近く音沙汰なしで……あたしからも連絡してないけど。



てゆうか、ダメだな。あたし寂しがってるっぽい。卒業して、ラン達もまだ眠ったままで……だからイクトの事探してる。



こんなんじゃダメだと思いながら頭を横に振って顔を上げると、あたしは足を止めた。





「あたし、やっぱバカじゃん」





あたしが今目にしているのは、工事中の札がかけられていて全体に白くて高いフェンスが建てられている場所。

そこは……イクトとの思い出の遊園地。もうイクトが言っていたイースターの工事、始まってるっぽい。

工事中の看板には、イースターのマークもあるしさ。だからここにはイクトが居るはずがない。



このままでなんて居られない。みんな変わっていく。ここも……イクトも、あたし達も。それなりの覚悟は決めてたはずなのに、やっぱ怖いな。





「もう工事始まってんのな」



少し寂しげな声は、きっとあたしと同じものを感じているせい。その声はあたしの右横から聴こえた。

慌ててそっちに視線を向けると、あの時ゆりかごの中で見たままの姿のイクトが……そこに居た。



「イクトっ!」

「よ」

「アンタ、こんなとこでなにしてるわけっ!? てゆうかバカじゃんっ! 連絡もよこさないでっ!」

「そう言うなって」



イクトはあたしに不敵に笑いかけながらすっと近づいて、左腕をあたしの肩に回して抱き寄せる。それが妙に……ドキドキした。



「留年するかも知れなくて、必死に勉強しててな」

「留年っ!? なんでっ!」

「自業自得で失踪してたからな。単位が足りなかった」

「……納得した」



なんだかんだで4ヶ月だしなぁ。そりゃあ……うん、留年してもおかしくない。

納得したのであたしは左手でイクトの腕を外す。イクトはそれに不満そうにせずに、また笑った。



「で、なんとかなったわけ?」

「本当にギリギリだけどな。高校も無事に卒業したから、あとは旅暮らしだ」

「そっか。やっぱ……行っちゃうんだ」

「あぁ。……俺が居なくなって、寂しいだろ」

「バカじゃん? そんなわけないし」



腕を組んでそっぽを向いて、横目でイクトを見る。イクトは、あたしを見てやっぱり笑ってた。



「ホントにお父さん、見つかると思ってる?」

「さぁな。ただ……実はこの間、前に話した楽団の人達が日本に来てな」



ゆりかごで見たあの時の光景を思い出しながら、あたしは頷く。同時にあの時の楽しげなイクトの顔も思い出していく。



「その人達も父さんの行方調べてたらしくてな、生きてるって手がかりをいくつか見つけてたんだよ」

「そうなの?」

「まだどこに居るのかとか、決定的なのはないそうだけどな。
でも諦めねぇよ、俺は。ヨルだって、きっとそう言ってる」



イクトは遠い目をして、空を見る。それであの時……自分の中に帰っていったヨルの事、思い出してる。



「あむ、実はヨルはもう」

「知ってるよ」

「え?」

「そういや、アンタには話してなかったっけ。実はね」



あたしは懐からラン達を取り出して、イクトに簡単に説明。イクトは本当に驚いた顔してて……それがちょっとおかしかった。



「――じゃあラン達も」

「うん、見ての通り。てゆうかごめん、のぞき見するような真似して」

「別にいいさ。考えようによっては、お前がヨルをその……星の道だっけか?」



イクトが疑問顔でそう言って来たので、あたしは頷きを返す。



「その中で見つけてくれたおかげで、俺はヨルとちゃんとさよなら出来たんだからな。むしろ感謝しないとおかしいだろ」

「そういうもの?」

「多分な」



イクトは少しおどけたように笑って、あたしも同じ笑いを返す。イクト……優しい顔してる。



「イクト、なんだか変わったね。前はこう……意地悪で、なに考えてるか全然分からない顔してたのに」

「どんな顔だよ、それ。……だとしたら、お前のせいだな。俺はお前色に染められたんだよ」

「なにそれっ!? てゆうかまた茶化すっ!」

「茶化してねぇって。な、ちょっと近づいていいか?」



あたしはちょっと迷ったけど頷いて……そうしたら次の瞬間、イクトに思いっ切り抱き締められた。



「近過ぎだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ちょっとちょっと」

「ちょっとじゃないしっ!」



全然ちょっとじゃない。顔も近いしイクトの身体温かいし……ヤバい、ドキドキしてくる。



「誰にでも見せるわけじゃない、お前にだけ見せる顔だってあるんだよ。……これからもっと、俺の色んな顔をあむにだけ見せるよ」

「あ……あたしに、だけ」

「あぁ、だから」



イクトの顔がまたちょっとだけ近づく。それで真剣な目であたしの方、見てくる。



「俺にも――俺にだけ、色んなあむを見せてくれ」



色んな……あたし。その言葉で、たまごの中のラン達の事を思い出した。



「それって、どんな」

「それ今聞く? ここじゃあちょっとなぁ。人目がないところなら」

「どんなだぁっ!」



と、とにかく落ち着け。これだとまたいつものイクトのペースだし。深呼吸して……よし、反撃開始。



「そ、そんな事行ったってすぐに外国行っちゃうくせに。顔なんて全然見れなくなっちゃうじゃん」

「ふむ……それは確かに」

「ほらっ! 適当ばっかり……嘘ばっかりっ!」

「約束」



あたしの反論は、イクトの一言であっさり潰された。あたし、またイクトに振り回されまくってる。



「この先、どこに行ってもどんなに離れても、必ずお前のところに帰ってくる。
それでいつか、お前が大人になった頃に迎えに来るって約束するよ。
……俺がお前に惚れてる気持ちはずっと変わらないから」



イクトはそこで笑みを深くして、あたしにどんどん顔を近づける。あたし達が今まで触れた事のない境界線を、一気に超えた。



「てゆうか、もう降参だ。俺……お前に首ったけらしい」

「ちょ、イクト」

「信じられないなら、キスで誓う」

「だめ……だめっ!」



声をあげながらもドキドキしているあたしは、目を閉じた。それで……鼻に柔らかい感触がした。

……鼻? ちょっとおかしいと思って目を開けると、イクトがすっごい間近でいたずらっぽく笑ってた。



「――鼻ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「やーい、騙されてやんのー」



イクトはいたずらっぽく笑いながらあたしから素早く離れた。それを見てあたしは拳を握り締め……イクトへ突撃。



「この泥棒猫っ! ファースト鼻キス返せー!」



でもイクトはひょいっと左に跳んであたしの突撃を避けた。そのままあたし達はぐるぐると追いかけっこ。



「やだねー」

「この、変態っ! スケベっ!」

「期待してたのはどこの誰だよ」

「はぁっ!? き、期待なんてしてないしっ! バカじゃんっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



1年間愛用していた制服とももうお別れ。なので改めて感謝の意味も込めて自室でアイロンがけの最中。

この制服にはずいぶんお世話になったよなぁ。あとは……ガーディアンケープ。

暗器仕込めるように改造したのも懐かしい思い出だよ。それであむに『ありえないしっ!』って言われてさぁ。



あの時はこんなにこの街や学校に愛着が沸くとは思ってなかったなぁ。ただの通りすがりだと思ってたのに……人生分からないものだよ。





「あのね、フェイト」

「うん」

「僕、やっぱり旅と冒険がしたい」



ベッドに座りながらお腹を撫でるフェイトの方を見て、苦笑する。



「星の道に入って再確認したのは、あむだけじゃなかったっぽい。
……星の道にゆりかごを見て、めちゃくちゃわくわくしたんだ。楽しかったんだ。
知らない事や分からない事に触れていく勇気、確かに僕の中にあるんだ」



フェイトから視線を横に居るシオン達の方を見る。シオン達は僕に笑顔を返してくれた。



「そっか。なら……うん、私の事は大丈夫だよ。子ども達も家も守るし、行きたいところがあるならどこでも」

「だから、一緒に冒険して欲しいんだ」

「え?」



アイロンのスイッチを切った上で立ち上がって、僕はフェイトの隣に笑顔で座る。それから左手で、本当に大きくなったお腹を撫でた。



「子育てだって旅と冒険なんじゃないかって、ちょっと思ったんだ。知らない事や分からない事に手を伸ばす勇気が、きっとここにはある。
この旅と冒険は、フェイトと一緒じゃないと出来ないんだ。だからお願いしてる。……僕と、一緒に来て」

「ん」



フェイトは嬉しそうに笑ってくれて、僕の事を両手で抱き締めてくれる。



「もちろんだよ。だってこれは、私とヤスフミ二人の夢だもの。……あ、でも別の冒険もOKだよ?
デンライナーに乗るのも良いし、シルビィさん達が仕事してる世界の魔法を勉強するのも良いし」

「そこは相談の上で考えるよ。やっぱりこっちの夢も大事だし……うーん、夢がたくさんでわくわくだよ」

「それなら……安心かな。私ね、ちょっと怖かったんだ」



フェイトの抱擁がそこで強くなって、僕の顔はフェイトの大きな胸に蹲る。



「ヤスフミ、私と結婚したり赤ちゃん出来たり、昔の事思い出したりしたよね。
それでそういうドキドキやワクワク、置いてけぼりにしてるんじゃないかなって」

「そうなの?」

「うん。だいぶ落ち着いた感じで、前みたいにこう……飛び出してく感じが無くなってきてたから」

「そう。なら安心して欲しいな」



少しだけ胸にすりすりしてから、フェイトの腕を解いて身体を離す。それからフェイトの方を見上げて、安心させるように笑う。



「僕は今ここでこうしていても、旅と冒険を続けてるよ? フェイトと一緒に――みんなと一緒にしていく旅と冒険」

「私達と一緒に?」

「うん。夢は全然変わってない。むしろどんどん進化してる。
一人だけで描く夢じゃなくて、みんなと描く夢も……楽しいなって思ってる」



フェイトは嬉しそうに笑って、僕の頭を左手で撫でてくれる。その感触は、いつになっても幸せ。



「でも同時に、それが全部じゃないって戒めなきゃいけないとも思ってる」



その幸せを壊すような事を言うのは心苦しかったけど、それでも大事な話をする事にした。フェイトは手の動きを止めて、首を傾げる。



「確かにみんなで描く夢は楽しい。誰かとなにかを共有して手を伸ばしていく事は凄い事だ。
でもそれは当たり前じゃない。僕とフェイト――みんながそれぞれに持つたまごは違うんだから。
それは絶対に忘れちゃいけない。同じ夢を見るだけじゃだめなんだ」



この街に来てからの日々は、確かに僕を変えた。同時に今まで見えなかった答えも見えた。

これもその一つ。その答えの中で思い出すのは、やっぱり……あの人。



「僕達はそれぞれに違う夢がある。大切な人達の夢なんだから、それも守る選択をしたい。
……難しい事もあるかもだけど、最初から諦めたり見過ごしたりしたくない。それが出来なきゃ」

「母さんのように、なる?」

「うん」





思い出していたのは、今なお絶望の中に居るらしいリンディさん。あの人がそれだ。あの人はみんなの夢を踏みつけた。

自分の夢と理想を人に押しつけ、自分と同じ道でなければいけないと勘違いをした。

みんなで同じ夢を見て現実にしていく美しさに目を取られ過ぎて、あの人は自分の行動の醜さに目を伏せた。



確かにレティさんの言うように、リンディさんがああなったのには僕達にも責任はあるみたい。

でもそれは、その弱さを認めずあの人に合わせなかった事じゃない。それは絶対に違う。

僕達は過去から断罪される前に、その醜さに気づかせるために手を伸ばすべきだった。



今のままじゃ自分にも過去にも嘘をつく事になると……それが出来なかったのが僕達の罪だと、今更ながら痛感した。





「ホントは、もっと早く気づけば良かったんだろうけどね」



自嘲の笑みを浮かべて、僕はまず自分自身にその罪を突きつけていく。



「そうすれば……こんな事になる前に止められていたのかも。こころを、アンロックしてさ」

「そうだね。それは、私も反省してる。……ね、今度会いに行ってみようか。エイミィとアルフに状態を確認した上でだけど」

「あ、それいいね。それで……孫の顔でも見せようか。またなんかしようとしたらぶっ飛ばすけど」

「ヤスフミ、その発言は今までの流れ台なしにするからやめないっ!? ほら、アンロックし切ってないよっ!」





僕には夢がある。それは今を覆す勇気を持った人になる事。なにかを変えるために恐れず手を伸ばす勇気を忘れない事。

なにより自分が描く『なりたい自分』を目指す勇気を持っていきたい。それで全部を守りたい。

命も、夢も――守りたいと思ったものがキラキラに輝くために必要なもの全てを守れる魔法使いでありたい。



なにかを守る時、ほんの一瞬だけでいい。そうあれたらと……そんなテレビのヒーローみたいな形が、僕の『なりたい自分』。

僕はこれからも、たくさんのお嫁さんと仲間と三人の『なりたい自分』と一緒にこの街での旅と冒険を続けていく。

ドキドキとワクワクは変わらない。僕の夢は今もどんどん進化していく。決意を込めてガッツポーズを取ると、フェイトがクスリと笑う。



僕も釣られて同じように笑って……僕達は瞳を閉じて、優しく唇を重ね合った。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして――ついについにっ! 結婚式当日なんですっ! ラブの花が咲きまくりの満開なんで

「うるせぇっ! ぴーぴー騒ぐなっ!」



誓いの言葉もキスも終わってもうフラワーシャワーでハッピーエンドって時にエルが凄い大声を出すので、蹴飛ばして黙らせる。



「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」



エルがようやく黙ったところで、アタシは改めて二階堂と姉ちゃんの方を見た。

姉ちゃんは……ウェディングドレス姿でガタガタ震えてやがった。なお二階堂は白タキシードでバッチリだ。



『三条ゆかり、大丈夫か?』

「だ、大丈夫よ。てゆうかアンタ、さっきからそれ何回目よ」

『言いたくもなる』



黒タキシード姿で今日の二人の付添人もやってるBYは、お手上げポーズを取って首を横に振った。

……コイツ、こんな真似いつ覚えたんだよ。まんま恭文じゃねぇか。



『サーチしたところあなたの心拍数と呼吸は正常値ではない。体調の悪化を一番に考えるのは当然だ』

「こ、これはコンタクトのせいよっ! てゆうか公衆の面前でキスなんて……恥ずかしいっ!」

「ゆかり」



慌てふためくメガネ無しな姉ちゃんの方を見て苦笑していた二階堂が一言声をかけると、姉ちゃんが震えを止めて顔を上げた。



「ずっと僕に掴まってればいいよ」

「悠……ん、ありがと」



姉ちゃんはそこで震えを止めて、二階堂の腕に抱きつくようにしてまた足を進める。

外では喝采が響いて、フラワーシャワーが撒き散らされる。なお、その中にキセキ達がさりげに混ざってるのは内緒だ。



『では、私は裏から来場客の方に戻る』

「おう。わざわざありがとなー」



コイツ、姉ちゃんがあの調子なの気になったらしくて、わざわざ見に来てくれたんだよ。×ロットだけど結構良い奴なんだよなー。



『問題はない。三条ゆかりにも今後は世話になる。ならば私も彼女を助けなければならない』



また事務的な答え方を……やっぱコイツロボットってところは変わらないよなぁ。



『……どうもそれが家族というものらしいからな』

「へ?」

『学習した。共に生活し支え合う者同士は家族となるそうだ。二階堂悠の許可も得ている』

「へぇ……そっか」





機械的なところもあるけど、ちょっとずつコイツの中の心みたいなもんは進化してるって事か。



そっか、コイツにも可能性があるんだよな。それで……もしかしたらアタシ達みたいなしゅごキャラが居るかも。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



二階堂さん達が中々出てこないから心配だったんだけど、二人は白い教会の玄関からようやく出てきた。

笑顔な二人に安堵しつつ、来場客のみんなはフラワーシャワーを二人の道に撒き散らす。

色とりどりの花はまるで二人の未来を表しているように明るくて、見ていて自然と温かい気持ちになる。



ただそこはなぜかまた来ていたニムロッドさんや八神さん達に任せて……僕はイクト兄さんとお話。





「イクト兄さん」



イクト兄さんはそんなみんなの輪から少し離れた位置に居た。僕が声をかけると、イクト兄さんは僕の方を見る。



「ちゃんと来たんですね」

「まぁな。お前の未来予想図が星占いで俺の動き尽く潰しにかかってきてよ。逃げようにも逃げられなかった」



司さんなにやってるのっ!? てゆうかイクト兄さんがちょっと怯えてるんだけどっ! どんだけ精度の高い星占いやったのかなっ!



「で、お前はあのお祝いムードに参加しなくていいのか」

「その前にちょっと謝らなくちゃいけない事があるので」

「謝らなくちゃいけない事? ……あぁ、あの時貸した3万円か。安心しろ、出世払いって事にしといてやる」



いやいや、そんなの貸してな……だめだ。ここでイクト兄さんのペースになったら話が出来なくなる。落ち着け、僕。



「僕、イクト兄さんの事泥棒猫って言ってたけど……もう言えないかなと思ってるんだ」

「俺の渾身のボケを無視かよ。唯世、ツッコミが出来なかったらこの世界では生き残っていけないぞ。いや、崩壊するな」

「ツッコミは蒼凪君や藤咲君に任せているので大丈夫です。そうじゃなくて、僕も泥棒するかもって話なんです」



続いた言葉も無視して薄いピンクのワンピースを着て、髪を後ろで一つ結びにしているあむちゃんの方を見る。

あむちゃんはウェディングドレスのゆかりさんを見て目をキラキラさせながら花を投げてる。それが可愛くて、つい頬が緩んじゃう。



「イクト兄さんがあむちゃんをあんまり放っておいたら、勝手に奪っちゃいますから。
僕はあむちゃんに幸せになって欲しい。僕が奪う事でそれが叶うなら……僕は」



イクト兄さんの方に視線を戻すと、イクト兄さんは驚いた様子で僕の事をまじまじと見ていた。



「お前、いつの間にそんな強気キャラに」

「弱気な王子様キャラはもう卒業かなって思って。あとは……優秀な先生のおかげ?」

「そうか。ま、好きにすればいいだろ。……負けねぇけどな」

「うん」



イクト兄さんと顔を見合わせて笑い合って、揃ってあむちゃんの方を見る。

まだ先は分からないけど……気持ちは変わらない。そのためにもうちょっと頑張ってもいいかなって、思ってる。



「それはそれとして、唯世」

「なにかな」

「お前の言う『優秀な先生』ってのは」



イクト兄さんが少し困った様子で視線を向けたのは、蒼凪君。蒼凪君はフェイトさんと歌唄ちゃんに支えられながら、なんとか踏ん張ってる。

うん、言っている意味分からないよね。でも踏ん張ってライスシャワー投げてるんだ。もうあれは半分やけくそかも。



「なんで顔真っ青だったんだよ。あれ、一人だけ葬式ムードだろ」

「……触れないであげて。蒼凪君、前に知り合いの結婚式がドタキャンになりかけたのをほぼ一人で止めたらしくて」

「それ以来、アイツは結婚式を連想させるものを見たり聴いたりしただけでその時の恐怖を思い出すんだ。
なんでも新婦の親戚縁者が相当キレていたらしく、ヘタをすれば死人が出るような騒ぎに発展しかけたとか」

「……運の無い奴だな。それだと将来困るだろ」

「うん、僕もそれが心配」





蒼凪君、自分の結婚式はどうするんだろう。フェイトさんが出産して落ち着いたら挙げるとは言ってたけど。



でもその一件からもう2年も経つはずなのに……どれだけ四面楚歌だったんだろう。逆に興味があるかも。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文はフェイトさん達に任せておけば大丈夫なので、あたしはまぁ……キャラじゃないけどゆかりさんのウェディングドレスに見蕩れてた。

前に海鳴で結婚式に出た時も思ったけど、やっぱウェディングドレスっていいな。でも、あの時と違う事がある。

まず一つにここにラン達が居ない事。てゆうか、たまごのまま眠っている事。次に花嫁と花婿が違う人……これは当たり前か。



それで最後に、もうあの時みたいに色んな人の顔が浮かんだりもしない。唯世くんも空海も海里も全然。



第三夫人の攻勢止めるためにあたしを第三夫人にしようとするアホな恭文なんてもちろん出ない。あたし、恭文が出てこない事に一番安心してるかも。





「やっぱ花嫁さん、いいなぁ。あたしも」

「自分もいつかは……って感じか」

「イクト」



イクトがいつの間にかあたしの隣に来ていた。それでイクトもやっぱり、二階堂先生とゆかりさんを見てる。



「こういう時くらいみんなの輪に入ればいいのに」

「大事な話があったんだよ。で、お前もそんな感じか」

「まぁね。まだ遠いずっとずっと先の未来だけど」



あたしは自然と、イクトに右手を伸ばして手を繋いでいた。この手の温もりが心地良い。

こうしてると、いつかその未来にいけるって思うんだ。あたしが諦めなければ、きっと。



「あむちー、ブーケトスだってー!」



ややが声をかけて来たから、一旦思考中断。……あ、ホントだ。ゆかりさんがトス練習なのかなんか素振りしてる。



「海里、新生ガーディアンの初仕事ー! あれをとってややに献上っ!」

「それは仕事なのですかっ!?」

「なにを言っているのかしら。残念ながらあのブーケは……この私、シルビア・ニムロッドのものよっ! これでヤスフミゲットッ!」

「いいえ、私ですっ! 私が取ってIKIOKUREキャラ撤回するんだからっ! 空海、アンタちょっと手伝いなさいっ!」

「俺っすかっ!? てーかティアナさん気合い入り過ぎっすからっ! 目怖いっすよっ!」



うわぁ、なんか一部の人達が燃え上がってるし。でもあたしは……実はかなり冷静。そんなあたしを見て、イクトが首を傾げる。



「あむ、お前はあの女の戦争に参加しないのか?」



イクト、戦争って……いや、分かるけど。特にシルビィさんとティアナさんが気合い入り過ぎて怖いけど。



「ティアナさんとシルビィさんが怖いー! ひかるー、アンタなんとかしてよー!」

「りっかちゃん、さすがにひかる君にそれは無理じゃ」

「全くだ。この状況で僕にどうやって止めろと?」



あー、りっかも怯えちゃってるなぁ。てゆうか、二人が出す空気のせいで一気に場が殺伐としてるからなぁ。何気にややもエンジンかかってるし。



「戦争参加するなら肩車するぞ。その代わりお前、俺と結婚な」

「なにさり気なくあたしの遠い未来の事決めてるわけっ!? そんなの嫌だしっ! ……とにかくあたしはパスしとくわ」



確かにイクト身長あるし、肩車ならあたしより全然身長高いシルビィさんやティアナさん相手でも勝てるけど……やっぱ苦笑いだよ。



「てゆうかね」

「あぁ」

「あたし去年いとこの結婚式に出席した時に、ブーケキャッチしてるから……さすがに二度目は」

「ならしゃあないな。これで二度結婚する事になってもダメだろ」



なんて言っている間にパスが空高く投げられて、白い花が青い空と太陽の光を浴びてキラキラと輝く。



「あの、あむちゃんっ!」

「え……なぎひこ?」





いきなり横から声かけてきたなぎひこの方を一瞬見るけど、あたしはすぐに視線をブーケに戻す。



あの輝く花達を見ていると……なんでだろ。頭の中にいきなりラン達の声が響いた感じがした。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――あむちゃんあむちゃん、これ英語の教科書だよねー」



唐突に思い出したのは、ラン達が消える少し前。中学校で使う教科書が届いたからパラパラーっと自分の部屋で見てた時の事。

ちょうど最初に勉強する基本的なところを見ていて、自然とワクワクしてたっけ。



「そうだよ。中学で使う分。でも見てるだけでちんぷんかんぷんだし。小学校で特別授業的にちょっとやったのじゃ、足りないのかな」

「足りないようですよぉ。恭文さん曰く『こんなのじゃ文法はともかく英会話は出来ない』そうですからぁ」

「あー、言ってた言ってた。ボクも聞いたよ。恭文は実地で覚えてるからなぁ。
実際に喋れるようになるなら英語使うところで3〜4ヶ月暮らした方が早いって。
そうすると自然と書く事も覚えられるから、あんま効率良くないと」

「これから新しく勉強していくあたしのやる気を削ぐような事言うの、やめてもらえますっ!?
てゆうか聞きたくないっ! アイツが言ってると余計に真実味あるしっ!」



恭文、フィアッセさんと会った時に数ヶ月外国を旅したりなのはさんのお兄さん達から英語と広東語教わったそうだしなぁ。

だから事実とは思うんだけど、そのためにあたしの勉強の意欲が少なくなってもおかしいと思うんだ。



「えっとこれは……『I am』かぁ。ねぇあむちゃん、確かIが『私』でamが『なになに』だったわよね」

「あー、そうだね。それで『I am a Girl』とか『I am a HERO』とか……『am』のあとに続く言葉で意味が変わるんだっけ」

「まるでキャラチェンジみたいね」



ダイヤは少しおかしそうに笑って、あたしが広げた教科書の中を見る。あたしも同じように中を見て……あー、なんか分かるかも。



「でも、『I』は変わらないんだよね。それで『am』という動詞は『I』にしかつかない。
後に続く言葉がどんな言葉でも『私』はあって、そこには『am』がある」

「なら、やっぱりキャラチェンジね。どんなキャラになっても、あむちゃんはあむちゃんだもの」

「そうだね」





どんなあたしになっても、あたしは変わらない。『I am』の後に出てくるあたしがどんなキャラでも、あたしである事は変わらない。



あたしはこれから大人になっていく。でも、『I』を――あたしをなくさないでいればきっと、どんなあたしにだってなれる。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうだ、どうしてこんな簡単な事忘れてたんだろ。てゆうか、どうして今思い出すの?



なんかあたしの思考、空気読めてないみたいだし。……てゆうかブーケ投げるの高過ぎない? 全然落ちてこないんだけど。





「あむちゃん、実は僕……なでしこなんだっ!」

「……へ?」



なんかなぎひこが突然とんでもない事を言い出したので、そっちを見る。なぎひこはすっごい顔を赤くして深々と頭を下げてた。



「うちは男の子だと――子どもの頃から――女形の修行」

「えっ! ちょ、なぎひこっ!」

「今まで嘘ついてて、本当にごめんっ!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』



あたしの衝撃の叫びをかき消すように、別の叫びが周囲から沸き起こった。

もうワケ分かんないけど何事かと慌てて自分の周りを見渡すと……約一名が顔を青くしてブーケを持っていた。



「ヤ、ヤスフミ……それって」

「間違いなくあれですよね」

「あれよね。アンタ、なにやってるのよ」

「お願い、なにも言わないで。みんな、なにも言わないで」



高く投げられたブーケは今、恭文の手の中に収まっていた……って、アンタが取ってどうするっ! アンタ男じゃんっ!



「あー! 恭文ずるいー! ややのブーケッ!」

「ヤスフミ、あなたなにしてるのよっ! さすがにそれは見過ごせないわっ!」

「アンタ……どうしてくれんのよっ! 私IKIOKUREる寸前なのにっ!」

「ちょ、みんな待ってっ! てゆうかにじり……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



恭文は踵を返して一気に逃亡。シルビィさんとティアナさんとややに他数名が恭文を追い始める。



『待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』

「ちくちょー! 不幸だー! どうして、どうしてこんな事にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!」



みんな揃って近くの林の中に姿を消して、フェイトさん達は置いてけぼり。てゆうか、どうしていいのか分からなくてみんな固まってる。



「あむ、アイツやっぱり運ないよな。また結婚式のトラウマ増えるぞ。てーか」



イクトが次になに言いたいか分かるよ。だって……なんか破砕音みたいなのが響いてきてるしっ! みんな一体なにやってるっ!?



「アイツ死ぬぞ」

「だ、だよねぇ。マジどうしようか」

「あの、あむちゃん。本当に」

「ごめんなぎひこ、今それどころじゃない」

「ひどっ!」



どうしたものかと困っていると、林の中から必死な形相の恭文が出てきた。それであたしと目が合う。

恭文はだいたい50メートルほど前に居て……あたしの方を見ながらにこやかに笑った。それを見てあたしは寒気が走った。



「あむっ!」

「ちょ、待ってっ! アンタマジやめてっ! あたし一度取ってるしっ!」

「僕からの主役交代に向けてのお祝いだっ!」

「いいから話を聞けっ! それいらないからっ!」



恭文はそのままオーバースローでブーケをこっちにぶん投げてきた。



「受け取れっ! これが主役の証だっ!」

違うからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!





あのバカはブーケぶん投げたら早々に教会の影に姿を隠し、そのすぐ後に林の中からブーケを求める猛獣みたいなみんなが出てきた。

いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! あたしに突っ込んで来てるしっ!

武装はしてないけど気構えが戦闘しようって気持ちでいっぱいなんですけどっ! どんだけブーケに命賭けてるっ!?



ブーケキャッチはしたくないけど、せっかくのものを地面に落としたくもなくて……あ、イクトに取ってもらおう。

アイツ逃げ足早いしなんとか……周囲を見渡すと、イクトがどこにも居ない。てゆうかなぎひこも居ない。

もう一度慌てながら周りを見て姿を見つけたけど――アイツら射程外に逃げてるしっ! なに二人揃って敬礼してるのかなっ!



え、これマジであたしがキャッチするしかないのっ!? てゆうか死ぬっ! 今はキャラなりもキャラチェンジも出来ないから死ぬっ!





大丈夫だよー



慌てふためいていると声が響いた。それと同時に懐から四つのたまごが飛び出て、そのたまごの真ん中にギザギザの日々が入って割れる。



「はいっ!」

「よっと」

「ですぅ」

「いぇい♪」



その中から出てきた子達はあたしのところに落ちてきたブーケを揃ってキャッチ。そのままあたしの前に降りてきた。



「ナイスキャッチー」



明るく笑いながらそう言うのは、ピンク色のチアガールルックなハートマークが目印の子。



「綺麗なブーケですぅ」



ブーケの中の白い花達を見ているのは、白のエプロン姿にみどりのかぼちゃパンツ姿でクローバーのアクセサリーが目印の子。



「こころの中に、たまごがある限り」



ブーケを持ちながら私の方を見ながらウィンクしてくるのは、青い帽子にスペードマークが目印の子。



「私達は、ずーっと一緒よ」



スペードマークの子に続くのは、オレンジの髪をツインテールにして黄色のワンピースを着た……嘘。



「……ラン、ミキ、スゥ、ダイヤ」



みんなの名前を呼ぶと、四人はあたしの方を見て思いっ切り笑ってくれた。



『ただいまっ!』

「おかえり」



震える手を伸ばしながらみんなの方へ駆け出して……あたしは両手いっぱいにあの子をブーケごと抱き締める。



「おかえりっ! みんなっ!」

『恭文っ!』



でも手応えがなかった。確かにあの子達の居るところに飛び込んで抱き締めたのに……あれ、なんかすかすか。



「あれ?」



首を傾げながらもいつの間にか目に浮かんでた涙を拭って辺りをキョロキョロと見渡す。

すると20メートルくらい先にあの子達はいつの間にか移動していて……なんでだろ、あのバカにブーケ持って行ってるんだ。



「恭文、たっだいまー♪」



それでね、あたしの事より先に恭文の方に行ってるの。



「ボクが居なくて寂しかったでしょ」



それでさ、なんでかあたし置いてけぼりにであのバカ嬉しそうな顔してるんだ。



「うぅ、ご心配おかけしましたぁ。でもぉ、現地妻7号のスゥは健在ですよぉ」



スゥ、その設定生きてたんだ。アンタしゅごキャラなのに現地妻なんだ。だからあたし置いてけぼりなんだ。



「私も同じくよ。さぁ、二人で世界を照らしましょう」



ダイヤ、そこワケ分かんない。てゆうかアンタとランまであれっておかしいから。空気読んでないから。



「みんな、おかえり。ミキ、スゥ……僕、サヨナラも出来ないかと思って」

「ごめん。でももうちょっとだけなら大丈夫みたい」

「それで恭文さんとも、ずーっとずーっと、一緒ですよぉ」

「そうだね。ずっと一緒だ」



二人は恭文の手の上に乗ってニコニコ笑って……あれ、感動シーンのはずなのにすっごいムカついてきた。

とりあえずあれだ、右拳を左の平手に叩きつけながら、あたしはアイツに近づく。



「お、おい恭文っ!」

「お兄様、私達は避難させていただきます」

「てーかお前らまじ空気読めよっ! なんかもう台なしだろっ!」



シオン達がワケ分かんない事言いながら消えると、アイツはハッとしながらこっちを見た。



「え、えっと……あむ?」

「うん、なにかな」

「なんで拳バキバキ鳴らすのかな。てゆうかあの、怖い顔してるよ?」

「どうしてかなぁ。とりあえず……アンタ一発ぶん殴ったら分かるかも」



あたし達はそこでお互い笑いをあげた。それが数秒続いて……アイツは突然踵を返し、ブーケとラン達を抱えたままあたしから逃げた。



「逃げるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なんやなんや、なんでブーケ宙に浮いてたんよ。てーかアイツのとこに一人手に移動したで」

「あ、はやてさんには見えてなかったのね」



歌唄は嬉しそうに微笑みながら腕を組んで、追いかけっこを始めたヤスフミとあむの方を見る。



「ラン達が戻ってきたのよ」

「えぇっ! じゃ、じゃああの怪奇現象は」

「うん、そうだよ。ランちゃん達がブーケをキャッチしたの」



私もリインの肩を掴みながら、ヤスフミ達の方を見て……やっぱり嬉しくて笑っちゃう。



「私達、もうちょっとだけ一緒に居られるみたい」





でもあむ、相当キレてるなぁ。しかも……シルビィさん達もヤスフミが持ってるブーケを追跡し始めたし。



とりあえず結婚式がパーにならない程度の段階で止める事にする。……あむが止まればだけど。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



逃げる恭文を全力疾走で追いかけながら、あたしは林の中を駆け回る。この1年鍛えてるせいか恭文の速度にも一応追いつける。



てーかあのバカ、全然ラン達離さないしっ! それがもうなんかムカついてしょうがないんですけどっ!





「落ち着け魔法少女っ! 魔法少女はそういう暴力とか振るわないからっ! ほんと落ち着いてっ!」

「うっさいしっ! てゆうかあたしを魔法少女って呼ぶなっ! そして止まれっ! 一発ぶん殴ってやるっ!」

「だが断るっ!」

「断るなこのバカっ! いいからラン達を返せえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」





――あたし達は大人になっていく。ずっとこのままなんてありえなくて、それはもしかしたら悲しい事かも知れない。

でも変化は自分で選び取れる。自分で変わりたい自分を目指す事が出来る。それが『なりたい自分』。

ね、2年前のあたし。そんなに怯えなくていいんだよ? 変わっていく事は避けられないけど、変わらない事もあるの。



それは自分の中にある『I』。その後に『am』が付いて、そこから色んなキャラに変わっていく。きっとそれが、変化の形。

そうだ、あたしはもう知ってる。あたしの中にあるあたしを信じて、育てて……手を伸ばす勇気。

立派な役職とかそういうのなんてないけど、それがあたしの『なりたい自分』で、あたしの夢の一つ。



本当に最後の煌めきを手にした事が嬉しくて、あたしは更に速度を上げて走り続ける。……まずは恭文を追い抜く。



それでラン達も取り戻してせっかくだしブーケももらって……よし、やるぞっ!





「恭文、待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

≪……結局、最後までこの調子なんですね≫

≪なのなのー≫





(『とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!』……おしまい)




















あとがき



恭文「というわけで……マジで足掛け3年続いたドキたまもこれにて終焉。
みなさん、今まで応援ありがとうございました。本日のお相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむです。……恭文、ちょっと話しようか」

恭文「いや、なんでっ! あれ僕のせいじゃないしっ!」



(それでも現・魔法少女、拳をバキバキ)



恭文「とにかく、これで僕はVivid編からも主役なのが決定したわけだけど」

あむ「してないじゃんっ! ブーケそういう意味じゃないよねっ!」

恭文「あとはあれですね、『I am』のあたりであむの将来がどうなるかというのが暗示されていたりもします」

あむ「あ……うん、そうだね」



(現・魔法少女、勢いを殺されちょっともじもじ)



恭文「とにかく今回の話は全ての謎が明らかになっているので完全にエピローグ。そしてあむはやっぱり猫男と」

あむ「違うしっ! あたしそういうんじゃないしっ! ……あ、そう言えば」

恭文「なに」

あむ「最近作者さんが遊戯王オンラインに入ってないって」



(あー、うん。入ってない)



あむ「もしかして飽きた?」

恭文「いや、それは違う。作者の周囲には遊戯王を人と出来る環境がないから、オンラインは必須だもの」

あむ「じゃあなんで?」

恭文「それはね……まず理由の一つとして、HEROデッキが使いたくなったからだよ」



(ドラグニティ使ってだいぶルールは把握出来たので、そろそろ趣味なデッキに移行したいなと。
というか、StS・RemixのためにもHEROデッキの使い方は覚えないとマズい)



恭文「でもデッキの組み方が分からないので、しばらくフライングゲットしたPSPのタッグフォース6で練習」

あむ「あー、あれはお金かからないんだっけ」

恭文「うん。ゲーム中のポイントを使ってゲーム中のお店の中で買うからね。リアルマネーはソフト代だけだよ。
それで一応今は……Vジャンプに載ってた六武衆デッキを組んで」

あむ「それHEROじゃないじゃんっ!」

恭文「ポイント貯めないとパック買えないから、最初の段階で一番組みやすいデッキを作ったのよ。
その上でポイント貯めて、もうHEROデッキ用のパックは出してるよ? 20日に買ってから徹夜したから」



(そのせいで掲載遅れた……てへ)



あむ「徹夜って……マジですか」

恭文「マジだよ。それでHEROデッキで考えてるのが二種類あってー」



・ネオス軸で一族の結束を使った戦士族統一のHEROデッキ。

・シャイニング・フレア・ウィングマン軸でオネストも組み込んだオーソドックスな融合デッキ。



あむ「一族の結束? なにそれ」

恭文「墓地にある種族と自分フィールド上に居るモンスターの種族が同じなら、攻撃力を800ポイントあげるっていう永続魔法だよ。
実は某美味しんぼの架空デュエル動画でやってたものなんだけど、HEROデッキ作るなら試してみたいなと作者は思っているらしい」

あむ「それやると強いの?」

恭文「魔法がある事前提だけど、強いはず。普通の下級モンスターでもスターダストとか屠れるし。
ここもタッグフォースで実際に試してみたいところなんだよね。その上でオンラインで導入? まぁこっちはリアルマネーかかるけど」

あむ「でもHEROデッキかぁ」



(現・魔法少女、深く考えこむ)



あむ「……あたしもやってみようかなぁ」

恭文「なんでっ!?」

あむ「いや、りっかの話とかちょっとついていけないしさぁ。出来るとそういうの分かるかなーって……てーかチャレンジ?」

恭文「あー、それなら納得だ」

あむ「ね、今から初めても大丈夫かな」

恭文「大丈夫だよ。作者は20台後半で始めたから。えっと、それならまずはストラクチャーでルール覚える方向かな。それから好きなカードで組むのよ」





(なお、現・魔法少女がStS・Remix同人版に出てくるとかそんなとんでも展開はありませんのであしからず。
本日のED:UNISON SQUARE GARDEN『センチメンタルピリオド』)










フェイト「これでドキたまもおしまいかぁ。なんかこう……ほんとに長かったよね」

恭文「そうだね。フェイト、お疲れ様でした」

フェイト「ううん、ヤスフミこそお疲れ様でした。それで次は……Vivid編だね」

恭文「時系列で言うとそうなるね。でもねぇ、Vividは本編がどういう方向で行くかも分からないからちょっとなぁ。オリジナルで尺稼ぐにも限界があるし」

フェイト「ひと月に1話だしね。それに……あとは主要キャラの戦闘スタイルが」

恭文「そこなんだよねー。もしすぐにやるとしたらオフトレ編までやって、あとは話の様子見つつ?
本編がどんな転がり方しても、大会に突入しさえしなければ方向性は自由に出来るし」

ヴィヴィオ「ならなら、良い手があるよー」

フェイト「ヴィヴィオ?」

ヴィヴィオ「あのね、今年のIMCSは特別ルールでチーム戦にするの。それで大会はミッドチルダだけで行われる」

恭文「……あれ、それどっかで聞いたような」

ヴィヴィオ「でもその大会にイリアステルが出ていて……きゃー! 機皇神が出てきたー!」

恭文「ヴィヴィオ、それ却下っ! てーか遊戯王5D'sのWRGPじゃないのさっ! イリアステルとか機皇神とか出せないからっ!」

フェイト「そうだよっ! てゆうかチーム戦にしたら余計に大変じゃないかなっ!」

ヴィヴィオ「大丈夫だよ。強豪は全部ヴィヴィオ達に当たるって感じにすれば尺も完璧だし、あとは時械神が」

恭文「遊戯王から離れてっ! 格闘大会だからそっち路線で考えようよっ! ほら、幽遊白書とか烈火の炎とか先輩達居るからっ!」





(おしまい)





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あきゅろす。
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