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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第142話 『Time and become one yourself/決して避けられない変化の定め』



リズム・てまり・ダイチ『しゅごしゅごー♪』

リズム「ドキッとスタートドキたまタイムだぜっ! さて、今日の話は」

てまり「星の道を進むあむちゃん達……はさておき、聖夜市の方もなにやらトラブル続きのご様子」

ダイチ「主にやく一名のせいでな」

リズム「いや、そうも言い切れないっぽいぞ?」



(立ち上がる画面に映るのは、そんなトラブルメイカーな方々)



ダイチ「おいおい、この上更になんか起きるのかよっ!」

てまり「その辺りも注目という事で。さぁ、それではいきましょう。せぇの」

リズム・てまり・ダイチ『じゃんぷっ!』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



どうも聖夜学園に不時着したらしい僕は、逃げようとしたりっかと×たまを素早く捕縛。



と言っても実際に捕まえたわけではなく、結構狭い結界内に瞬間的に閉じ込めた。



幾何学模様の空を見てりっかと×たまは動きを止めて、周囲を慌てた様子で見渡し始める。





「りっか、僕は逃げていいとは一言も言ってないんだけどねぇ」



出来る限り優しい声を出すと、りっかは振り返りながら僕の方を怯えた様子で見る。



「せ、せんぱ……東京に行ってるんじゃ」

「ちょい諸事情で予定キャンセルになったのよ。あ、土産は買ってるから明日渡すわ。……で、どういう事かな」



でもりっかはなにも答えない。このままだんまりで睨み合っててもしょうがないので、まずはワンアクション取って反応を見る事にした。



「まぁいいや。とりあえず……変身」

≪Riese FormU≫

「だめっ!」



一歩踏み出しながら変身すると、りっかが×たま達をかばうように足を止めた。



「先輩、浄化しないでくださいっ! この子達悪い×たまじゃないんですっ! いたずらとかもしないしおとなしい子達なんですっ!」

「……りっか、おのれはどうも分かってないっぽいね。別に僕達は×たまが悪い子だから浄化するし助けるわけじゃない」

「へ?」

「その子達がそのままだと、宿主がとんでもない事になるから助けるのよ。おのれが先日見たぬいぐるみの子みたいにね」



そのままりっかへ近づきながら、左手でアルトの鯉口を持つ。



「そしておのれが×たまが帰れるかどうか気になって追いかけた時に見たあの子みたいにね。
あの子の姿をよく思い出してみろ。×たまが戻るまであの子は、虚ろな目で未来を諦め続けてただろ」



りっかの目が更に開き、瞳が揺れ始める。どうやらそこを忘れるほどボケてはないらしい。



「僕はガーディアンに入ってから、助けられるたまごと宿主は全部助けるって決めてるのよ。だからどけ。
それが嫌なら事情を話せ。どっちもムリっていうなら……お前をぶっ飛ばした上でその子達を浄化する」

「先輩、ホントにこの子達は悪い子じゃないんですっ! 絶対、絶対……だからお願いしますっ!
あむ先輩達にはこの事言わないでくださいっ! あたしが責任持ちますから、信じてくださいっ!」

「りっか」



足を止めて冷たい声で名前を呼ぶと、りっかは身体を震わせ始めた。



「信じて欲しいなら、まず姿勢を示せ。ホントの事も言わないし×たまも浄化するな? ふざけるのも大概にしろ。
どうやっても今のお前の事なんざ信じられねぇよ。お前が選ぶ道は二つに一つだ。事情を話すか、そこをどくか」

「その通りよ、りっかちゃん」

「ほたる」

「それにりっかちゃんだって分かってるでしょう? 隠したままにはしておけないって。……ね?」





りっかが静かに頷くのを見て、僕は臨戦態勢を解除。リーゼフォームへの変身も解除した上で結界も解く。



そしてりっかの方を気にするように×たま達は近づき……悪意の類が感じられない。とりあえずりっかに懐いてるのは分かった。










All kids have an egg in my soul


Heart Egg――The invisible I want my




『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第142話 『Time and become one yourself/決して避けられない変化の定め』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それから僕はりっかと泣きじゃくってるややを引っ張って全員でロイヤルガーデンに戻った。



驚くリインとひかるは気にせずにりっかと×たまを一旦床に座らせた上で尋問開始。



その結果、このバカが前の街に居る時から×たまをペットにしていた事が判明しました。





「――どうしても見てられなくて。てゆうか、先輩達に会うまで×たまとか知らなくて」

「それは本当なの。だからりっかちゃん、余計に言い出し辛かったみたいで」

「なるほど、事情は分かった。というわけで……このバカ共がっ!」



ロイヤルガーデンが僕の怒号によって揺れ、正座体勢なりっかとほたると横にちょこんと存在している×たま達が身体を震わせる。



「恭文君……やっぱりそうなっちゃうわよね」

「なるに決まってるでしょうがっ! 最初の時に言ったでしょうがっ! おのれの頭はザルかっ!
こころに×を付けた宿主がどういう状態なのかも知ってるよねっ! もうありえないわっ!」

「ですですっ! 正体知らなかった時はともかく、りっかちゃんもうちゃんと知ってるですよねっ!
その子達にはちゃんと宿主が居て、帰らなくちゃいけないとこがあるですよっ! それなのに」

『ムリムリッ!』



りっかの周囲の×たま達が浮かび上がり、りっかをかばうように前に出た。



「あんた達」

『ムリムリムリー!』

『ムリムリー!』

「よし、りっか通訳っ! おのれかばってるのは分かるけど、細かいとこさっぱりだわっ!」

「あの、あたしは悪くないって……この子達ですよっ!? あたしじゃないですからっ!」



いや、そこ慌てて言う必要ないから。さすがにそこ分からないほどバカじゃないから。まぁガチで言ってたら殴るけど。



『ムリムリムリムリームリムリー!』

「あたしが一緒に遊んでくれて、見つけてくれて嬉しかった」

『ムリムリ……ムリムリムリムリー!』

「ほたるが生まれてからは……え、そうなの?」



りっかが驚いた顔してるけど、僕達はさっぱりなので首を傾げる。



「りっか」

「あの、ほたるが生まれてからはちょっと寂しかったって……でも自分達の事忘れてくれなかったから、嬉しかった。
さっきも自分達をかばってくれて、嬉しかった。守ろうとしてくれて……嬉しかった」

『ムリムリムリムリー!』

『ムリムリ……ムリー!』



りっかは×たまの言葉が続く毎に、瞳に涙を浮かべながら両手で口元を押さえる。

それで猛烈に嫌な予感が走る。てーか歌唄がまだ敵側だった時の事を思い出してしまった。



「だから……あたしと一緒が、いい。自分達を捨てた子達なんて……先輩っ!」



りっかは×たま達の前に出て、僕に頭を下げる。



「お願いしますっ! あたしが面倒見ますっ! あたしがみんなの事守りますっ! 絶対迷惑かけないようにしますっ! だから」

「ふざけんじゃねぇっ!」



また怒号をあげて、りっかの言葉を止める。それから驚いて固まったりっかを見ながら、呼吸を整える。



「もし本気でそうするっていうなら、ガーディアン辞めろ」



りっかの気持ちは分からなくはない。でも……僕はそこを飲み込んで、あえて厳しさをかざす。

りっかは僕が振りかざした厳しさに目を大きく開いた。



「もしそれが守る事だと勘違いしてるなら、お前にここに居る資格はない。とっとと僕達の目の前から消えろ」

「せん……ぱい」



りっかは言葉を続けない。悲しげに涙を瞳に溜めて……拳を強く握り締める。



「×たまは×たまを呼ぶものだ」



そんなりっかに少し困った顔をしながら、ひかるが声をかける。



「×たまはマイナスエネルギーの塊だ。そして×たまの波動は、別の人間のこころにも影響する。
マイナスエネルギーに当てられて勝手にこころのたまごが抜き出されて、そのたまごに×が付く。
その子達が意識しなくても、別の誰かのこころに×を付ける可能性もあるんだ。そのままにはしておけない」

「だからこの子達、居ちゃいけないの? 帰るとこなんて、ないのに。ないから迷子なのに」

「それは君が勝手に決めた事だ。実際がどうかなど誰にも分からないだろう」



りっかがひかるを睨みつけるけど、ひかるは意に介さない。



「そのたまご達はまだ、宿主のところに帰れるだろう?」



そう思っていたけど、ひかるは少し厳しい表情をしながら言葉を続けた。



「宿主のところに帰って、本当にそうじゃないかを確かめる事が出来る。
もしそれでダメだというのなら、その時は君が面倒を見ればいい。僕達も相談には乗る」

「でも……それでこの子達がまた悲しい思いしちゃったらどうするのっ!?
この子達、捨てられたんだよっ! ずっと側に居たのに諦められて……それなのにっ!」

「そうだな。だがりっか、君はその子達を友達と言ったな」



りっかはひかるを睨みつけるけど、ひかるはひかるなりに言いたい事があるらしいので僕は黙ってた。



「なら、なぜ友達の宿主も守ろうとしない」

「え?」

「しゅごキャラは宿主のもう一人の自分――なら口ではどう言おうとたまご達にとって宿主は大切な存在なはずだ。
なのになぜ君は、たまごと宿主が揃って笑える時間を目指そうとしない。それは非合理的だ」



なにも言えなくなったりっかから×たま達へと視線を移したひかるは、やっぱり険しい表情のまま。



「それは君達もだ。そろそろ気づけ。今のまま君達がここに居る事は、りっかの罪を増やすだけなんだ」

『ムリ……ムリ』

『ムリムリ、ムリ』



ひかるは戸惑った様子でお互いを見合わせ始めた×たま達からりっかへ視線を戻した。



「もう一度言うがこの子達はまだ、帰れるんだ。まだ宿主達の夢は、消えていないんだ。
それに君はこの子達を友達と言った。なら……その友達を守るためにやる事は、これじゃないはずだ」



俯き涙目になるりっかを見て僕は……大きくため息を吐いてほたるの方を見た。



「ほたる、今りっかの家に居る×たまを全員ここに連れて来て」

「恭文さん、浄化するですか」

「当然でしょ」



りっかが信じられないと言いたげな顔で僕を見上げてくるけど、硬い声と表情を変えない。

そしてりっかの両手両足にバインドがかけられ、りっかは動きを戒められた。……当然僕がかけたんだけど。



「な……なにこれっ!」

「邪魔されても困るから、お前はしばらくここで張りつけだ」



りっかが呆然とした顔をして、そこから嗚咽を漏らし始める。でも僕は構わずにりっかの周りの×たま達を見る。



「当然お前達もりっかの家に残ってるのがこっちに来たら同じだ。今のうちに別れを惜しんでおくんだね」

「恭文君待ってっ! りっかちゃんは……確かに言いたい事も分かるのっ!
でもお願いだからもう少し落ち着いてっ! りっかちゃんに考える時間をちょうだいっ!」

「そうだぞヤスフミ、いきなり過ぎたらりっかも×たま達もついていけないだろっ!」

「甘えた事言ってんじゃねぇよ」



二人の方を軽く睨みつけ、その言葉を止める。



「コイツには考える時間はあった。材料もあった。それを無駄に使い潰しただけだろうが。そこに配慮してやるほど僕は優しくないんだよ」

「だがこれじゃあダメだろっ! コイツら友達なんだぞっ! こんな別れ方させていいのかよっ!」

「くどいぞ、ショウタロス先輩」



そう言って不満そうなショウタロスを止めたのは……ヒカリだった。ヒカリは手に持っていたクロワッサンを一口で食べ切ると、しっかりと咀嚼。



「私達がなにを優先すべきか、忘れるな。私達が守るべきは未来を諦めて自分に×を付ける人達のはずだ。
そしてそのための守護者だ。夢を守るは守護者の使命――それは決して曲げてはいけない」

「だがりっかの気持ちはどうなるっ! コイツらの気持ちもっ! そこに×付けてもなんの解決にもならないだろうがっ!」

「そうか、なら逆に聞こう。このバカ共の気持ちを優先している間に、ひかるが言ったように『本当に帰れなくなったら』どうするんだ」



ヒカリが珍しく厳しい口調でそう言うと、ショウタロスが固まった。



「そうなった時、お前は責任を取れるのか」

「それ、は」



ショウタロスは舌打ち気味にソフト帽を右手で抱えた。ヒカリはそれに構わずほたるの方を見る。



「ほたる、それはお前も同じだ。そうなってからでは取り返しがつかないんだぞ」

「えぇ、分かってる。分かってた……はずなのに」



ほたるも俯きながら瞳を揺らし始める。場は少しだけ、静寂に包まれた。



「分かったわ。家に居る子達も連れてくる」



でも静寂は意を決したほたるの一言で破られた。りっかが『やめて』と言いたげな顔をほたるに向けるけど、ほたるはもう揺らがない。



「分かってくれて嬉しいよ。あ、そうそう。大事な事忘れてた。りっか、こっちに連れて来た×たま達はお前が浄化しろ」

「……え」



りっかが呆けた顔をしなが僕の方を見る。それでややにショウタロス達も驚いた顔を僕に向けて来た。



「それが無理ならお前がここに集めたみんなを浄化されるように説得しろ。
それも今日中にだ。それがお前のやった事へのけじめだ」

「あたしが……やだ。そんなの、そんなの出来ない。だってあたし、みんなと一緒に」

「なら×たま達は無理矢理僕達が浄化するしかない」



りっかを見ながら僕は嘲るようにそう言って、軽くお手上げポーズを取る。



「それで帰れなくなっても僕達は一切責任を取れない。もし出来るとしたら、みんながちゃんと帰れるかどうか追いかけて見守る事だけだよ」

「や……そんなの、いやっ! 先輩、お願いだからやめてっ! あたしがみんなを守るからっ!
あたしが……あたしがもうこの子達を悲しませないようにするからっ!」

「それは無理だ。……てーか甘えてんじゃねぇぞ、クソガキ。
さっきひかるが言った事、もう一度その腐った脳みそで噛み砕いて考えろ。話はそれからだ」



また俯いて泣き始めたりっかは無視で、僕はロイヤルガーデンの玄関を目指して歩き出す。

その後を困った顔をしながらリイン達が追って来てくれた。



「……恭文さん、×たま達を刺激するとかえってトラブルになるんじゃ」

「あ、ややも同感。怒るのは分かるけど、あんま派手にやっちゃダメだよー。
それにあのたまご達の気持ちが今の通りなら、浄化しても意味があるのかなぁ。
本当にまたりっかちゃんのところに戻っちゃうかも知れないし」

「それも分かってる。りっかが説得するまでは浄化もしないつもりだから」



なぜか驚いた顔をするみんなは気にせず、僕は隣に来てくれたほたるの方を見る。



「ほたるもそこの辺り、りっかの家に居る×たま達に説明して。それで逃げられない問題って事もだよ。
今回の事はりっかだけが悪いわけじゃない。……りっかの気持ちに甘えてる連中にも責任がある。そこは自覚させる」

「ヤスフミ、お前……最初からりっかに任せるつもりだったのかよ」

「さすがに無理矢理やるつもりなかったよ。ただそれも、りっかがこのままだったらアウトだけど。猶予は本当にないよ」

「お兄様の言うように、どちらにしても浄化だけは今日のうちにやっておかなければいけません。そこは最低条件ですよ」





さっきもひかるが言ってたけど、×たまは×たまを呼ぶものなんだよ。あの子達が意識してなくてもトラブルに発展する可能性もある。



あの子達だけならともかく、他の人間に迷惑かけるようなマネはしたくないのよ。あとは……ヒカリが言った事。



ここが一番重要だよ。だからこそりっかの言葉は否定しなきゃいけないし、みんなの感情に流されるわけにもいかない。





≪それにあの×たま達の宿主が自分で自分のたまごを砕いて、本当の意味で諦めてしまう前になんとかしないと≫

≪なのなの。そうなったらあの子達、もうりっかちゃんのところにも居られないし宿主のところにも帰れないの≫

「そう……だよな。あぁもう、ちくしょお」





悔しがって頭をかくショウタロスは気にせずに、現状を改めて整理。それで……相当ヤバい状況かなとも思ってる。

りっかが前の街から連れて来た子もかなりの数居るらしいから、たまごが離れてどれだけ時間が経ってるかも分からない。

ちなみにりっかが保護した時間はアテにならない。その前から彷徨ってた可能性もあるわけだしさ。



その間ずっと宿主の子達はこころが空っぽで、未来を諦め続けている。でもギリギリのところで踏みとどまっているとも思う。

まだあの子達はここに居る。消えたりせずにちゃんとそこに居て……それが唯一の希望だよ。

でもそれだっていつまで持つか分からない。例えばここからじゃあ予測出来ないなにかで宿主が更にダメージを負ったとする。



それにより完全に未来や『なりたい自分』を諦めたら? あの子達はその瞬間ここから消滅して、ゆりかごに戻っていく。

もうここまで言えば分かると思うけど、りっかは今のままじゃ本当にあの子達を『守る』事なんて出来ないんだよ。

りっかはただ×たま達が今まで自分が見てきたみたいないたずらや暴れ方をしなければ良いと思ってる。でもそれは違う。



今あの子達はいつ消滅してもおかしくない状況なんだ。宿主があの子達を自分で砕いてしまう前に浄化して戻さないと……先はない。



そこを抜いてもりっかの言葉は矛盾に満ち溢れてる。あれで頷くバカは、ショウタロスみたいなお人好しくらいだよ。





「あ、それならややに名案ー」

「なによ」



りっかから距離を取ったので足を止めて、右側に居るややの方を見る。



「あむちーにお話してもらうのはどうかなー。恭文よりは効果あると思うんだけど」

「確かにあむさんなら……りっかちゃんを刺激する心配もないですし、納得出来るかもです。恭文さん、すぐに」

「それは無理。てーかあむには頼れない。……実は」





というわけで毎度おなじみな『かくかくしかじか』で説明終了。



全員話を聞いて一気に空気が沈み込んだ。ややに至っては今にも泣きそうになってたので、右手を伸ばして頭を思いっ切り撫でてやる。



ややは驚いた様子で軽く声を出すけど、すぐに僕の手を受け入れておとなしくなった。





「だからみんな、あむが戻って来ても気をつけておいてね。
まだ四人とも取り戻せるかどうか分からないんだ。ヘタしたらあむのこころをざっくりえぐるよ?」

「わ、分かった。でもあむちんが……そんな」

「本来なら喜ぶべきでもあるんだろうがな」

「こらひかるっちっ! どうしてそういう事言うのかなっ!」

「話通りならあむが当初描いていた『なりたい自分』に近づけたからこその別れじゃないか。
もちろん僕もラン達に会えなくなるのは……こう、少しもやもやする。だがそれだけではない」



ひかるが少し表情を曇らせながらそういうと、全員顔を見合わせて……一応納得。



「……そっか。うん、そうだよね。あむちーが外キャラ全開だった時の自分を変えられたから……でも、寂しいよ」

「さよならもなにもなしでちからね。それで恭文、後は」

「あとはあむ次第だよ。僕の見た感じだともう全部のカードは揃ってる。あとはあむがそれに気づくか」



――突如ロイヤルガーデンにドスンと結構重めななにかが落ちるような音が響いた。その発生源は僕達とりっかの間。

そこに落ちた制服姿の男の子は、尻を右手で撫でながら立ち上がり周囲を見渡す。



「痛たた……あれ、ここロイヤルガーデン? てゆうかキセキも……まさかはぐれちゃったっ!?」

「唯世っ!」

「あ、蒼凪君……え、×たまっ!? なんで×たまがロイヤルガーデンにっ!」





次の仕事はKチェアへの状況説明とこの場には居ないみんなへの連絡らしい。本当に今日は密度が濃い。



あむの事は気になりつつも僕はまず、目の前の問題に対処する事にした。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ぎゃっ!」



司さんに手を引かれながら星の道を進んでいると、左のツインテールになんか違和感を感じた。

てーかこう……いきなり重くなったというか触れられた感覚がした。



「日奈森さん、どうし」





こっちへ振り返った司さんが固まって、困った笑いを浮かべながら視線をやっぱり左のツインテールに向ける。

あたしは自然と司さんと同じ笑いを浮かべながら左のツインテールを触って、そこにくっついてたなにかを掴んで髪から離す。

なんかサイズ的に覚えあるなぁと思いつつ掴んだものを改めて見てみると、そこにはちっちゃい猫なしゅごキャラが居た。



猫なしゅごキャラは目を回して気絶してる感じで……てーかヨルじゃんっ!





「ヨル、アンタなにしてんのっ!?」

「ふにゃ」



手の中で目を回していたヨルはあたしの声で焦点を定めて、あたしの手の中で身体を起こす。



「あー、あむ。お前なにしてるにゃ」

「いやいや、それあたしのセリフだしっ! ほら、イクトどうしたのっ!」

「イクト……うーん、よく覚えてないにゃ。てゆうかここ、どこにゃ」



ヨルはあたしの質問に答える事もなく首を傾げてワケが分からないという顔しかしない。

しかも自分がなんでここに居るのかも分かってないっぽくて……どうなってるの、これ。



「そっか、君も……なんだね」



司さんはそう言って優しく微笑みながら、あたしの手の中のヨルを指先で優しく撫でる。それでヨルは司さんの方を振り向いた。



「ふにゃ、にぼしのあんちゃん……じゃないにゃ」

「あはは、そうだね。……さて、これは」

【もしかしたら流星ゾーンに巻き込まれちゃったのかも知れないわね。それでこっちに入って来ちゃった】

「だろうね。星の道は時間も場所も飛び越える。そしてたまごのゆりかごを通じて、世界中のみんなのこころは繋がっている」



司さんは視線を前に向けて、優しくそう言った。あたしには背中しか見えてないから、司さんがどんな顔してるか分からない。



「それじゃあ、あの」

「なにかな」

「イクトにもこの道は、繋がってるのかな」



司さんはこっちを見て、微笑みながら頷いてくれた。



「うん、きっと繋がってる。だからこのまま進もうか。ヨルも元の場所へ帰らなくちゃいけないし」

「分かった。それじゃあヨル、一緒に行こうか」

「おぉ。なんだかよく分からにゃいけど、頑張るにゃ」





探しものがもう一つ増えちゃったけど、まぁいいか。最後のきらめきの欠片、見つけなくちゃ。



それでラン達の事を取り戻して……その後はどうしよう。あたし、もしかしてちょっと迷ってる?



もし唯世くんが言ったみたいにあたしが本当に『なりたい自分』になったからラン達と別れたなら……あたしは。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ゆかりさんが俯いて考え込んでいる間に、私とティアナはゆっくりとお茶を頂いて……あれ、インターホンが鳴った。



それに反応した私をティアは優しく制し、なにも言わずに立ち上がって部屋の入口に備えつけてある受話器に手を伸ばす。



それはカメラ付きで、受話器を取ると外の様子が見れる防犯機能付き。何気に便利なんだよね。





「はい、蒼凪で……え?」

『あはは……ティアやっほー。遊びに来ちゃった』



あれ、この声って……間違いないっ!



「なのはさんっ!?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかくなぜか困った顔のなのはを家の中に招き入れて、ゆかりさんの事はティアに任せて自室に移動。



ベッドに腰かけながら同じように隣に座るなのはの表情は分からなくて、少し首を傾げてしまう。





「なのは、いきなりどうしたの? というかヴィヴィオは」

「ヴィヴィオはコロナの家にお泊りしてるから……それでその、フェイトちゃんどうしようっ!」



いや、いきなり言われても困るよ。こっちが『どうしよう』だから……私はそこで思い直して、少し居住まいを正す。



「なのは、なにかあったのかな。仕事でトラブルとか」

「仕事じゃなくて、プライベートの方だね。実はその――かくかくしかじかって感じなんだ」

「はぁっ!?」



なぎひこ君の家にお泊りして添い寝して生で胸触られて――あぁ、だめ。意識をしっかり持って。ちょっとクラってしちゃったけどしっかり。



「そ、それはその……だめだよっ! なぎひこ君は小学生なんだよっ!?
なにかあった時に責任問題どうするのかなっ! あ、まさかなぎひこ君がなのはの方へ迫って」

「違うよっ! なぎひこ君そんな事しないからっ! なのはの方が寝てる内になぎひこ君の布団に潜り込んじゃったのー!」

「でもなのは、それで妊娠してたらどうするの? やっぱり責任」

「エッチな事もないよっ! いや、胸触った事はエッチだけど……でも最後まではないからー!」



なのはは涙目で必死に私の方を見ながら声をあげる。その様子を見るに、どうやらそこは嘘じゃないっぽい。



「と、とにかくその……なぎひこ君と顔合わせ辛いというか、迷惑かけちゃって申し訳ないというか」

「でも事故だったんだよね。なぎひこ君にも本当に他意がないなら」



そこで思い直して、少しだけ苦い表情を浮かべてしまう。



「そういうわけにもいかないか。なぎひこ君も気にしちゃってるんだよね。なぎひこ君、男の子で責任感強い方だし」

「……うん。ちょっとメールしてみたんだけど、返事もなくて」



やっぱりなぎひこ君も気にして……いや、気にしないわけないよね。現にあむのあれだって相当悩んでるし。

これはなぎひこ君にも連絡を取って事情を聞かないとだめかなぁとちょっと思ったりした。



「というかなのは、なぎひこ君の事……好きなの?」



そう聞くとなのはの顔が一瞬で真っ赤になって、少し恥ずかしげにもじもじしながら……頷いた。



「そう、だね。これが恋っていうなら……好きかな。おかしいよね、10歳も年下で子どもなのに」



その姿はあまりに驚きだった。だってなのはがその……こういう恋する乙女的な姿を見せるのは初めてだから。

私ももう付き合いが12〜3年になろうとしているけど、初めて見る顔だよ。それはヤスフミの事見てる時とも違う、女の子の顔だった。



「でもなぎひこ君とずーっと繋がっていけたら嬉しいなって……思ってるんだ。恋人っていうのは、方向性の一つ?
ちょっと距離の離れたお姉さんでも良いし、友達でも良いし。今はまだ、お互いにその形を探してる感じ」

「そっか。じゃあユーノの事断ったのってもしかして」

「かも知れない。もちろんね、ユーノ君がなのはの事ずっと応援して背中押しててくれたのは嬉しいの。でもちょっと違う」



なのはは申し訳なさそうに苦笑してから、視線を下に落とす。



「なのはは一緒にジャンプしていける人の方が気になって……好きみたい」

「なぎひこ君は、そういう相手なんだ」

「うん。『とぶ』場所は全然違うけど、そうみたい」





どうやらなのはの方は気持ちが固まってるみたい。だったらあとは……なぎひこ君かぁ。



うーん、今日の内はこの手の相談所みたいになってるね。ゆかりさんとかもそういう感じだし。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――話は分かった」



落ちてきた唯世に事情説明終了――唯世は険しい表情で、未だにむせび泣いているりっかを見る。



「なら柊さんと×たま達の事はこっちに任せて。蒼凪君達は柊さんの家の×たま達の回収を」

「大丈夫? 万が一を考えると」

「蒼凪君よりは上手く出来る自信はあるよ?」

「よし、明日の訓練は密度三倍にしようか。唯世、地獄を見ようね」

「そういうのやめないっ!? というかね、それは蒼凪君の悪いクセだと思うんだっ!」



なぜか全員頷くのに疑問を持ちつつも、僕はりっかの方を見る。りっかはまだ泣きじゃくって……もう逃げ場ないのにねぇ。



「真城さんも相馬君、藤咲君もすぐ来てくれるそうだし、そこはなんとかなるよ。あとは僕も……やっぱりKチェアとして話はしたい。
どうも柊さんは×たまの言葉が分かる分、それだけをなんとかしようとするきらいがあるみたいだしね」



唯世は少々呆れ気味にそう言って、りっかを横目で見た。



「でもそれじゃあだめだって事、ちょっと話してみるよ」

「分かった。じゃあ王様、あとお願いね」

「うん、任せて」



僕達は唯世に後を任せてロイヤルガーデンを出た。それで僕は歩きながら懐から携帯端末を取り出して……通信っと。



『もしもし、ヤスフミっ!? 今どこに居るのかなっ!』



音声オンリーでかけたのは、今慌てた様子で出てくれたフェイトのところ。やっぱり心配かけてたなーと思って、ちょっと反省。



「聖夜小だよ」

『聖夜小って……あ、もしかしてあむ』

「ううん、まだラン達は戻ってない。流星ゾーンで僕と途中で合流した唯世は落とされちゃったんだよ」

『……そう。でも進展は』

「かなりあったよ」



足を進めながら僕は画面の向こうのフェイトに見えないのに笑ってしまう。



「エンブリオの正体についての仮説も立てられたし、ラン達がいきなり消えた理由やどうしてあそこで旅をする必要があるのかもばっちり」

『エンブリオもなのっ!? ……それで、どういう事なのかな』

「まずエンブリオについては」



ここは話が長くなるのでかくかくしかじか――で説明。

その間に僕達は中庭を抜けて学園の外に出た。



「ほたる、りっかちゃんの家はどっちー?」

「こっちよ」



話を続けながらもほたるの案内通りに道を進み……フェイトが感嘆とした様子で息を吐く。



『確かに……ありえない話じゃないね。伝承の始まりが正確でも、それを受け取る側によって解釈が変わるパターンはよくある。
もしくはその伝承そのものがなにか難解な言葉で書かれていて、そのために都合の良い解釈になったとも考えられる』

「カリムさんの予言みたいに?」

『そうそう。だから私もヤスフミの仮説、かなりアリだと思う。今までの疑問に全て説明もつくしね。
とにかくここはクロノにも報告かな。それであむの方は……どうしてランちゃん達が消えちゃったの?』

「……あむが『なりたい自分』になったからだよ」



あの映像の中のあむの姿を思い出しながら僕は、少し表情をしかめた。

映像の中のあむは外キャラがあれでも、どこか自信なさげで怯えてた感じがしてたせいかな。



「あむは最初の頃のあむは外キャラにも負けてほんとの自分が出せなくて、変わる事そのものも怖かった。
星の道の中でね、まだラン達が生まれる前のあむの姿を見たんだ。あむはそんな自分を変えたくて、変わりたいと願った。
そうしたらほんとにラン達が生まれて……でもそれは2年という月日の中で達成された」





イースターとの戦いやガーディアンとしての活動、そしてちょっとずつ変わっていった自分や周囲の環境。

あむはこの2年の間に沢山の変化に晒されて――それで変わる事が怖い事だけじゃないという事実に気づいた。

変わっていく事はただ流されるだけじゃなくて、自分で選び取っていく事が出来る。そうして自分を変えられる。



それに気づいたあむは変わる事を怖がるだけじゃなくて、そういう期待に近いものを持てるようになったんじゃないかな。





『ホントの自分が出せるようになって、変化自体も怖くなくなって……だからランちゃん達が居なくなった?
ランちゃん達はあむのそういう、どこか臆病な自分を補う形で生まれて来たから』

「そうなんだと思う。でも消えたのはラン達だけじゃない」



次に思い出すのは、この旅の発起人であるダイヤ。あの今一つ考えが読めないフリーダムキャラの顔を思い出して、また表情が苦いものになる。



「あむは四つの煌きのかけらを見つけないといけなかった。そしてあむの生んだしゅごたまは……四つ」

『ちょっと待って。ヤスフミ、まさか』

「そうだよ」





あの旅の意味は、あむが初めてラン達と出会った時の気持ちを思い出していく事。

そうしてゆりかごに戻ったラン達を、また自分の中に受け入れていく事。それがあの煌きをあむの中に入れる行為に繋がる。

なら四つめの煌きは――僕は流星ゾーンに飲み込まれそうになった時、歌唄と戦った時のあれを思い出してた。



そしてあむが歌唄と戦いながら叫んだあの言葉。それが最後の答えなんだと思う。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



司さんとヨルとあたしの中のダイヤと四人で星の道を進んで居ると、光の波の中になにかを見つけた。



それはあたしも前に遊びに行った事のある庭付きの和風の家で……てーかあれ、唯世くんの家?



それで縁側に焦点が絞られて、一気にその中の光景が映る。そこには唯世くんと大人の男の人と女の人が居た。





『――ダンプティ・キーにはどんな秘密があるんでしょうか。それと……ハンプティ・ロック。
あのロックは、今は僕の仲間の女の子が持っています。そしてあれらは対になるもの』

『……あぁ』

「あの、これって」

「これはイクト兄……イクト君が海外に旅立つ事を報告しに来た後だね」



司さんは少し驚いた様子でそう教えてくれて……胸が痛くなってきた。てゆうか、元旦のあの事思い出して、ちょっと苦しい。



「司さんも知ってたんだ……って、当然か。親戚だもんね」

「まぁね」

『教えてください、お父様。僕はどうも、あのロックとキーがただのアクセサリーの類とはどうしても思えなくて』

『いや、秘密と言える程の事はないんだ。或斗に贈ったのもさっき言ったように友情の証だしな。それにそのロックの事も知らん。
私が手に入れたのはあくまでもキーだけ。おそらくそれは司なり天河家の人間がどこからか見つけたものだろう』



あたしはまた自然と司さんを見たけど、司さんは画面の中を懐かしそうに見ているだけだった。



『そうですか。ならアレはどこで』

『アレは……私と或斗と奏子が留学していた最中の事だ。もう17年以上も前の事だな』





そこから話されるのは、あたしもりっかが聖夜小に来た直後に唯世くんから聞いてたロックとキーの秘密。



しかも今度は……映像付きで。あたしは映像で一方的にだけど、イクトのお父さんと初めて会った。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ヤスフミと通信を終えてからなのはにも了解を得た上で、クロノに連絡。ちょうど自分の執務室で仕事中だったクロノはすぐに出てくれた。



それで今あむの身に起こっている事とヤスフミが星の道の中で見たものを話すと……表情を険しくした。





『それは……まるでお伽話だな』

「クロノ、それ今更だよ。でもこう考えると、エンブリオ伝説には説明がつくでしょ?」

「確かに、そうだよね。外国とかに伝承が残っていたのもそうだし、あとは明治時代で探してる人が居たのも……だよね」



クロノとなのはは納得した様子で……ううん、なのははそこで首を傾げた。



「でもフェイトちゃん、それだとどうして次元世界には伝わってないのかな。ほら、こころのたまごとしゅごキャラはミッドとかにも居るし。
もしかしたら今のあむさん達みたいに、ゆりかごを見た宿主としゅごキャラだって居たかも知れないのに」

「そこなんだよね。実はヤスフミもその理由付けが今ひとつ上手く出来ないっぽくて」

『それならば一つだけだが仮説が立てられる』



クロノが硬い声でそう言ったので、私達は目の前に展開しているモニターを見る。



『こちらの人間がその伝承を――ゆりかごの存在を、こころのたまごの存在を信じなかったんだ』

「クロノ君、それはどうしてかな。実際に見た人が居るならまだ大丈夫と思うんだけど」

『自分達の常識の中での証明が無理だったせいではないかと、僕は考えている。
例えば僕達がエンブリオの話を初めて聞いた時、ロストロギアと考えたのと同じ事だ。
自分の常識や知っている世界の中の出来事にそれを当てはめた』



クロノはそこで腕を組み、一瞬だけ瞳を閉じる。



『言い方は悪いが、こちらの技術水準は地球などより高い。そういうファンタジーじみたものも、こちらではまた見方が違う。
科学的に解釈の出来るありふれた話に変換出来る事が多い。だからもし次元世界の人間がエンブリオの事を知ったなら』

「その証明をしようとした。でもそれが出来なかったから、自然と情報が淘汰された?」



ゆりかごに至る宿主自体も少なかっただろうし、証明が出来なければ見向きもされないとクロノは言いたいらしい。



『そうだ。そもそもしゅごキャラはキャラ持ちかある特殊な条件を満たした人間にしか見えない。それならば見えない人間が信じる事は難しい。
当然ながらそのたまごの集合体であるゆりかごも同じ。僕達の科学では証明どころか触れる事すら出来ないだろう。
過去にそれを探す人間が居たとしても、すぐにエンブリオの存在証明は出来ないという事に気づく』

「当然宿主の話だけでは証明にはならない。証明には第三者の客観的視点が必要だから。
その結果次元世界でエンブリオないしこころのたまごの話は、『情報を残す価値もないデマ』と考えられた?
だから無限書庫にも情報が残らなかった。クロノはそう考えてるんだね」

『科学力の高さゆえの早計という側面を踏まえる事が前提だがな。
もちろん少し無理もある解釈なのは自覚している』

「確かにね。でも、もし本当にそうだとしたら……少し悲しいね」



少し目を細めてそう言うと、なのはとクロノが首を傾げた。



「次元世界は――そこの人間である私達は、しゅごキャラの宿主でもない限り自分達の常識の枠の中でしか物を見れないという事だもの」

『そう思うか』

「うん。自分の事に当てはめていったら、それはもうね。……次元世界って、発達してるように見えて閉じてるんだよ」





なんでも分かってるような顔して、それから外れるものを否定していく。それも、否定するものの良し悪しを知ろうともせずにだよ。

過去私や母さんにアルフがヤスフミに対して取った態度もそう。局がヴェートルとかに対してやった事もそう。

そういう意味では次元世界は臆病な人達の集まりとも言える。知ろうとする勇気もなく、ただ過去と常識に逃げ込む臆病者達が作る世界。



管理局の世界の管理も、そう考えるととても怪しくなってくる。……右手を伸ばして、そっとお腹をさする。

私は本当に、自分の仕事の意味を何一つ理解していなかったのかも知れない。

もしこれが事実だとしたら、私は臆病者達が自分が怖くないものを全て排除する事を仕事にしていた。



知ろうとする勇気もなく、ただ邪魔で異質なものを排除する……そんなディストピアの管理者みたいな事をしていた。



それを誇りとし、仲間達を信じる事が正しいと説く。それはとんでもない勘違いだよ。私は自嘲の笑みを浮かべ、自分を嘲笑う。





「この1年この街で暮らしててね、今までの自分が本当に狭い世界の中に居たんだなって痛感してるんだ。
知ろうとする勇気もなくただ否定し続ける世界に発展性なんてない。そんな人間に……未来なんて描けないよ」

『そうか。だが……それでも世界は変わり始めた』



視線を上げるとクロノは私を安心させるように笑っていた。それは隣に居るなのはも同じ。



『今までよりも少しだけ優しく、柔らかい形にな。もしかしたらあの時、世界中の人間のこころが繋がったせいかも知れない。
もしかしたらその時、ゆりかごに居る世界中のしゅごキャラが力を貸してくれたせいかも知れない。
僕達は目には見えなくても全ての人達と繋がっていて、変わっていける。それで誰もがきっと……こころの中でそれを感じ取ったんだ』

「……そうだね。だとしたら、本当に嬉しい」



改めて視線を大きくなったお腹に移して、ニコニコしながら右手で撫でる。



「この子達が生まれて育って、たくさん冒険していく世界がちょっとでも明るいものになってるなら……本当に嬉しい」



瞳を閉じてお腹の中に居るこの子達の事を考えてると……あ、そうだ。

大事な話がもう一つあったんだ。すっかり忘れちゃってたのを反省しつつ、私は目を開く。



「クロノ、実は今同時進行でちょっと厄介な事が起きてるんだ」

『厄介な事? ……まさか例の一之宮ひかる君になにか』

「ううん、そうじゃないの。えっと……最近柊りっかちゃんっていう子がガーディアン見習いに入ったんだけど」



ここからはおなじみのあれで説明したので割愛。話を聞いてクロノは渋い顔をしていた。



『つまり彼女はその、×たまをペット化していたと。もうなんでもありだな』

「そうでもないよ。私達は以前全く同じ事を経験してる」

『というと?』

「ブラックダイヤモンド事件の時の歌唄とダイヤだよ」



クロノもあの時のあれこれについては当然知っているし覚えているから、納得しつつ表情を引き締めて頷いてくれる。



「あの時もダイヤは自分に×を付けたあむを見限って、自分の仲間を壊し続ける歌唄の側についた。
ダイヤモンドは傷がないから輝く――そう言ってね。今回も同じ事が起こってるんだよ」

『では×たま達はその柊りっかを新しい宿主と考えているのか』

「うん」



私もそうだしヤスフミも直にりっかちゃん達の様子を見て、あの時の事を思い出したみたい。

もちろんあの時と違って、りっかちゃんが×たま達の力を悪用しようとか考えていないんだけど。



「しかも×たま達を保護したりっかちゃんも情が移ってるっぽくて……ヘタをすると数十の×たまが一気に暴走するかも」

『それでは今浄化するのは危険ではないのか。彼らの感情がそれならば』

「そこはヤスフミも考えてる。ここは私も賛成したし、無理強いはしないようにって釘も刺した」



×たま達が集まって暴走するととんでもない事になるのは、11月の事件だけじゃなくて他のあれこれで私達は見ている。

やっぱり理想は説得してお互いに納得した上で浄化して、ハッピーエンドっていうのが一番なんだよね。



「あむが居ればなんとかなったと思うんだけどね。りっかちゃん、あむの事憧れてるっぽいから」

「でもあむさんはランちゃん達も居なくなって……あぁもう、やっぱりトラブルって重なるものなのかな」

「どうもそうみたい。また別口でトラブル起きてるし」



少し頭が痛くなっていると、着信音が響いた。慌てて展開している画面を見ると、クロノの顔を移す映像の左下に着信を知らせるサインが出てた。



「これ……シャーリーだ」

「という事は海里君のお姉さんのあれこれ、なんとかなる算段ついたのかな」

「多分ね」





でもシャーリー、どうするつもりなんだろ。ゆかりさんもまだ素直になり切れてない感じだし……まぁここはいいか。



まずは通信を繋いで、シャーリーに現状を確認してからだよ。あ、エンブリオの事も話しておかなきゃ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『――そして二人は帰国してすぐに結婚した。昔の話だ』



長いようで短い話は終わり、あたし達が見ていたイクトのお父さんとお母さんと唯世くんのお父さんの思い出の映像は終わった。

それでまた唯世くん達家族の映像に切り替わって、お父さんは懐かしそうだけど……少し寂しげな顔をした。



『それで或斗が失踪直後、その鍵は或斗から送り返されて来た。唯世、お前に預けたのはその時だ』

『あ、はい。よく……覚えてます』



あたしも聞いてる、唯世くんがキーを預けられた時の話だよね。それでそれからしばらくして……イクトの手にキーが戻った。



『私はずっとなぜ或斗は鍵を送り返したのだろうと考えていた。それでまぁ、私も奏子と同じく信じる事しか出来なかった』



唯世くんのお父さんは苦笑してまた頭をかきながら唯世くん達を見る。

でもその瞳の色は、どこか寂しげな色がある。イクトのお父さんの事、思い出してるからかな。



『もう或斗にあのキーはいらない。或斗は音楽――ヴァイオリンという自分だけの鍵を見つけたんだと思う。
それでたくさんの人の心を開くために旅立っていったんだ。アイツも、幾斗君と同じだった。そのキーを捨てられなかった』



そうだ、イクトもそう言ってた。捨てたくても捨てられなかった。でも最後の最後で逃げていた自分に気づいた。

イクトにとってのキーはやっぱり音楽。なのにあたし、それを否定して……あたしやっぱ子どもなのかなと思って、表情が苦くなる。



『だから次にそれが必要な人間のために、私の元に残した』

『……私、そんな事とは知らずに子どもっぽい意地を張って……その上あんなヒドい事を』

『そうだな。だが、私も悪かった。私もちゃんと伝える努力をしていなかった。
私には今、こんなに近くにこころをアンロックしていかなければいけない人が居たのに……瑞恵、すまない。
今更だが許してくれるだろうか。私は、今お前だけを愛している。お前が私にとっての一番なんだ』

『あな……あなた……!!』



唯世くんは空気を読んだのかなにも言わずにキセキと一緒に部屋から出て、そのまま廊下を歩いていく。



『唯世』

『なにかな、キセキ』

『僕は先程のお父様の話で、ようやく納得出来た。キーが人のこころを開ける鍵ならば』

『うん。ロックは人のこころそのものを表してたんだ。
もしかしたらロックやキー自体には、特別な力はないのかも知れないね』





右手であたしの胸元で輝くロックを掴んで握り締める。……これはあたし達のこころそのもの。最初はどうして錠が必要か分かんなかった。

だってキーがこころをアンロックするものなら、錠を作る必要ないんじゃないかーって思ってたんだ。

でもそうじゃなかった。こころは目には見えないから自分でもワケ分かんない時があって、だからロックが必要なんだ。



ロックの中にあたし達はみんな自分の心を映していて、それで……自分のこころをアンロックするきっかけをもらってた。





『なら今までロックとキーが起こしたと思われる不思議な事は、僕達が自分自身の力で発生させていたのか』

『可能性としてはあるね。あれらは僕達の中の力を、想いを表に出す出入口みたいになっていたんだと思う。……ねぇキセキ』

『なんだ?』

『僕、なんだか分かったよ』



唯世くんが足を止めて、空を大きく見上げる。その時あたしと目が合った感じがして、ちょっとドキッとしてしまった。



『お父様が或斗さんと奏子さんにキーを渡した時の気持ち。今の僕になら』

「今の僕になら、凄く分かる」



あたしは驚きながら司さんの方を見た。司さんはあたしの視線に気づいて、優しく微笑んでくれる。

でもそれじゃあ誤魔化されない。だって司さんは今……唯世くんが言おうとしてた事を先に言ったんだから。



「司さん、どうして……唯世くんの言葉を」



司さんはなにも言わずに、右手ですっと光の中を指差す。それで視線をそちらに向けると、そこにはまた別の映像が映ってた。

その姿は紺色のコートを羽織って、たくさんの人に囲まれながら楽しげにヴァイオリンを演奏する……イクトの姿が映ってた。



「イクトっ!?」

「にゃにゃっ!」

「これってその、いつの話っ!? てゆうかあの人達誰っ!」





イクトの横には金髪だったり赤毛でガタイの良いおじさん達が居る。しかもその人達も楽器演奏してるの。



一人は両手で叩く太鼓っぽい楽器使ったり、あたしの身長くらいのヴァイオリン弾いたり……これはなに?



それ見てるギャラリーっぽい人達の服とか周りの様子とか見ると、あそこが日本で聖夜市なのは分かるけど。





「……あ、そっか。今だとこれがあったんだっけ」

「司さん、なにか知ってるの?」

「うん。イクト君やイクト君のお父さんがお世話になった楽団が、ちょうど日本に来てたんだよ」



どうやらイクトの周囲で一緒に演奏している人達がその楽団の人達みたい。でも……まただ。

またイクトが離れちゃうのが苦しくて胸が痛い。あたしなりに覚悟、決めてたはずなのに。



「それってその、イクトを誘いに?」

「それもあったらしい。あとはほら、11月の異変で日本も大変だったよね。だからイクト君や奏子さんの事も心配になったとか」

「あ、それでか」





あの異変は世界規模で起こってて、それなりに事故とかも起きたりしてたっぽい。イクトのお父さんと仲良しならそりゃ心配もするか。



でも、いい人達なんだね。わざわざそのためにこっちに来るなんて……うん、そこは分かった。



それでイクトが生き生きしてるのも分かる。イクト、ヴァイオリン演奏してて楽しそうなの。それを見てると、自然と胸の痛みが薄れた。





「にゃ……イクトー!」



いきなりヨルが叫んで前に飛び込んだ。するとヨルの飛び込んだ先に空間の歪みみたいなのが出来て、ヨルはそのまま姿を消した。



「ちょ、今のなにっ! てーかヨルどこ行ったっ!」

「星の道だしね。多分……あ、あむちゃんあれ」





司さんが指し示す方を見ると、イクトの映像の脇にヨルの姿が映った。そこはちょうどイクト達の居る場所の近く。

ヨルはイクトに近づいてくけど、自然と足を止めていた。ヨルの視線の先には、演奏を終えて楽しげに笑うイクトの姿があった。

楽団の人達と英語で……アイツ英語話せたんだなぁ。とにかく英語で話しながら笑っているイクトを見て、ヨルは呆けた顔をする。



ううん、ただ呆けてるわけじゃない。その表情の中には寂しさや嬉しさ――色んな感情が詰まっていた。

でもあたしはその表情を見て、寒気を感じていた。寒気と同時に襲ってくる強い驚きが怖くて、両手で口元を押さえる。

てゆうかこれ、見た覚えがある。この表情は昨日、ラン達があたしに見せた顔と同じだ。



あたしがまだ見えない『なりたい自分』、ちょっとずつでも探していくんだって言ったら、ラン達はこの顔をした。



それで『――そっかー』って言って……ヤバい、寒気が強くなる。今まで否定したかった答えを突きつけられる感じがして、怖い。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「イクトー」



背後から聴こえた声の方を振り向くと、ヨルがとたとたと地面を走ってこっちに来てた。

俺は楽団のみんなに気づかれないようにヨルに近づき、しゃがみ込んで右手を差し出す。



「ヨル……お前、今までどこ行ってたんだよ。急に居なくなって、ずっと探してたんだぞ」

「オレにゃ、思い出したんだ」

「おい、質問に答えろよ。なんで完全無視なんだよ」

「いいから聞くにゃ。イクトはもう……自由な野良猫にゃ」



その言葉は本当に突然で、だが確かに俺の胸を貫いた。でも意味が……いや、分かる。

嬉しそうに笑いながらも瞳から涙を零すヨルを見てたら、俺の手の中のコイツを見てたら、自然とその意味が分かった。



「だから、オレ」



ヨルは両手で涙を拭いながらもオレの方を見上げて、やっぱり明るく笑う。



「あれ、にゃんだろ」



涙を零すヨルの姿は徐々に半透明になっていき、そして透明なヨルのたまごの上下が一瞬だけ現れた。



「オレはこれからはイクトの中で……ずーっとずーっとっ! 一緒にゃっ!」



……こういう時、口下手な自分が恨めしい。あのやたらと口のうまい俺の義弟候補を見習いたいくらいだ。

だから俺はヨルに笑い返してからゆっくりと左の頬をくっつけて、どんどん消えて行くヨルに頬ずりをする。



「ずっと一緒だ。ヨル」





頬を離すとヨルの姿はほとんど見えなくなっていて、そこには黒色の粒子が残っているだけだった。



俺はそっと胸元にその粒子を近づけて、ヨルを迎え入れる。それから零れそうになる涙を堪えて、立ち上がった。



泣く必要はない。俺達はずっと一緒なんだ。もう会えなくなるが……それでも、一緒だ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



――気まぐれで謎ばっかりだけど、本当はいつも一人で傷だらけだったイクト。あたしと会ったのも、そんな時だった。

あたしは幸か不幸かアイツと関わる機会が他のみんなより多くて、なんか放っておけなくて……でも今はもう違う。

イクトは本当の『なりたい自分』を見つけたんだ。それで寂しいはずなのに、涙を堪えて立ち上がって前に進もうとしている。



その姿を見てあたしは……痛い。また胸が痛くなってる。さっきのあれとは違う痛みが走って、とても苦しい。





【ヨル、たまごのゆりかごに戻っていったわね。ここで会ったのも最初から】

「ラン達と、同じ」

【えぇ。さ、私達も】

「ランもミキもスゥも、ヨルが帰っちゃったみたいに……もう居ないんじゃないかな」

【……あむちゃん?】



さっきのイクトの姿を、ヨルの笑顔を思い出してあたしは……もうワケ分かんなくなってた。ここに居る事自体がバカなんじゃないかって思った。



「今ね、映像越しだけどイクトに会えて嬉しかった。でも……まだ会っちゃいけない気がした」

【どうして、かしら】

「だってイクト、どんどん先に進んでる。他のみんなだって同じだよ。なのにあたしだけ……こんな」



イクトはヨルとちゃんとお別れ出来た。でもあたしは……ワケ分かんなくて、大きくため息を吐いちゃう。



「こんな風に子どもみたいにラン達の事探してて、いいのかな」

【あむちゃん、ストップっ! それ以上は言っちゃだめっ! きらめきのかけらが――輝きが弱くなってるっ!】

「そうだよ、子どもみたいに……あたし、中途半端だ。唯世くんとイクトの事だってそう」

「中途半端?」

「ずっと前になぎひこに言われたの。好きと恋の境界線の話」



もう1年近く前の話だね。ちょうど恭文がこっち来たくらいで、なでしこが転校する直前。

なんかもう、あの頃が遠い昔みたいに思えて……自然と涙出てきちゃうし。



「あたしは唯世くんの事好きだったけど、ホントの唯世くんを好きじゃなかった。
イメージだけの――外キャラ唯世くんを好きになってた。でもそんな時イクトが」



イクトが心の中に入り込んでた。そうだ、あたし……だから中途半端なんだ。

ようやく唯世くんがホントのキャラを見せてくれるようになって、振り向いてくれたのに傷つけたりしてさ。



「……でもこれがホントに恋なのかよく分かんない。もしかしてまたホントの自分じゃないかも。自信、ないよ。
自分の気持ちも分からなくて、夢や『なりたい自分』も結構あやふやで……あたし一人中途半端で」

「あむちゃん」



俯いたあたしの頭に、優しく右手が乗った。視線を上げると……まぁ分かってはいたけど、やっぱり手の主は司さんだった。



「大丈夫だよ、あむちゃん。きっとそんな風に思ってない。今君は、ちゃんと前に進んでるから。……慌てて自分に×を付ける事はないんだよ」

「前に?」

「うん。ゆっくりと大人になればいい。それで」



そこでいきなり強い風が拭いて、司さんの言葉はそこで止められた。あたしは司さんから引き離されるように飛ばされる。



「これ、また流星」

「あむちゃんっ!」



あたしは必死に司さんに手を伸ばす。でも司さんも手を伸ばしてくれるのにどんどん離れちゃって……だめ、もう届かない。



「司さんっ!」

「未来で」



光の中で薄れていく司さんが、大きく声を上げた。



「未来で……待ってるよっ!」





あたしは流星ゾーンの奔流に飲み込まれながらその言葉の意味が分からなくて、首を傾げてしまう。



でも続きを聞く事も出来ずにあたしは中に居るダイヤ共々流されて、また二人だけになってしまった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



完全に離されちゃったなぁ。これだとあむちゃんを探すの、かなり難しいかも。



まぁダイヤも居るし大丈夫とは思うけど……ううん、大丈夫だよね。あとはあむちゃん次第だ。





「唯世っ!」



光の世界の中では上下も分からなくなる時があるけど、それでも後ろくらいは分かる。

なので振り向いて後ろからかかった声の方を見ると、そこにはあの頃と何一つ変わらないキセキの姿があった。



「いや、ここは司2号と言った方がいいだろうか」



そんなキセキは僕の傍らに来てから、意地悪い顔をしてそんな事を言う。僕は……困った顔しか出来ない。



「キセキ、それやめて。ホント最近蒼凪君や歌唄ちゃんにからかわれまくってるんだから。あとお父様達もだよ」

「だろうな。……やっと見つけたぞ。今日は一日流星ゾーンに振り回されっ放しだ」

「そうだね。でも、そのおかげでまたキセキに会えた」



僕はあの子が消えた方を見て、少しだけ口元を緩める。



「あの頃のあの子にも。それでキセキ、小学生の僕は無事に帰れた?」

「うむ。恭文に続く形でな。僕も後を追って戻る事にする」

「そう、気をつけてね。あ、それと」



分かっているとは思うけど念のためと思って、キセキの方を見て両手を合わせる。



「僕の事はあむちゃんはもちろんだけど、小学生の僕と蒼凪君達にも内緒で。これがバレちゃうとオーナーとかにも怒られちゃうから」

「分かっている。……なぁ、唯世」

「ん、なにかな」

「唯世が大人になった世界に、僕は居なかった」



キセキは視線を落として、寂しげにそう言った。



「僕だけではない。ぺぺもてまりもリズムもダイチも、クスクスもシオンにヒカリにショウタロウ達も……僕達はじきに消えるのだな」

「……ん」

「そして恭文は子どもに身長がいつ抜かれるかという恐怖に怯えていた。あと現地妻が10号まで増えたらしいな」

「あ、あはは……そこはまぁ気にしない方向で」



現に一之宮君にも抜かれて一時期相当ヘコんでたからなぁ。だから蒼凪君、もう30代なのに小学生で通るルックスだし。



「とにかくこころのたまごは子どものこころのものだ。大人になれば僕達しゅごキャラの役目も終わる」

「それは違うよ」



キセキの言葉を首を横に振って否定して、僕はまたあの子が消えた方を見る。



「これから僕は元の時間に戻る。そこではもうしゅごキャラは居ない。けれど……消えてしまうわけじゃないんだ」





しゅごキャラはずっと一緒なんだ。だから僕の中には、ゆりかごに戻っていったキセキが居る。もちろん他のみんなもだよ。

藤咲君の中にはてまりとリズムが、結木さんの中にはぺぺが、真城さんの中にはクスクスが、相馬君の中にはダイチが、蒼凪君の中にはシオン達が居る。

もちろん歌唄ちゃんやイクト兄さんに、これまで僕達が関わってきたキャラ持ちのみんなも同じだ。



僕達はもうキャラなりもキャラチェンジも出来ないけど、それでもそれぞれの『なりたい自分』と一緒なんだ。

みんなと騒いで暴れて、たまにシリアスにゴタゴタもして……そうやって過ごしてきた時間はまだ続いている。

なにも消えたりなんてしない。僕達はずーっと、ずーっと一緒。ただ会えなくなってるだけなんだ。



僕はキセキの方に視線を戻して、安心させるように笑う。キセキは納得してくれた様子で表情を崩し、頷いてくれた。





(第143話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、あっちもこっちもラストに向けてクライマックス。そして猫男と一体化してゆりかごへ戻ったヨル。
しゅごキャラと宿主の別れの瞬間が描かれた第142話――みなさんいかがだったでしょうか。お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。それで今回の話は……りっかちゃんだね。またキツい事を」

恭文「でもこのままにしてたらいずれにしろ最悪な形で別れる事になる。それも……どのタイミングでそうなるかもさっぱりだし」



(きっと次回に株が上がる……はず)



恭文「まぁこっちはほたるも協力してくれてるからなんとかなるよ。でもフェイト、フェイトの方も恋愛絡みでトラブルが」

フェイト「あははは……そうなんだよね。これはほんと、どうしようか」



(閃光の女神、苦笑い。さすがに二つは無茶らしい)



フェイト「でもヤスフミ、あの司さんってその」

恭文「うん、成長した唯世だよ。この星の道編はアニメではやってない話だから、漫画絵だと大体10代後半から20代前半だね。
そして……司さん2号。成長したらマジで司さんそっくりになってきているという恐怖。これはまた恐ろしい」

フェイト「そ、そう言えば本人そこ気にしてたっけ。でも……うん、あとはあむか」



(閃光の女神、ちょっとシリアスな顔になる)



フェイト「最後のかけらはあと一つ」

恭文「うん」

フェイト「それでヤスフミの予想通りにこの旅が自分の輝きを――ランちゃん達の事を思い出してまた自分の中に受け入れるものだとしたら」

恭文「当然最後のかけらは、あれになるんだよね。あとはあむがそれに気づけるかどうか。
……というわけで、あむの星の道での旅ももうちょっと終わりそうな感じで次回に続きます。お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪でした。それじゃあみなさん、また次回に」





(次回――あー、どうなるんだろう。多分恭文の方の描写が多めになります。
本日のED:MARIA『つぼみ』)

















恭文「ドキたま/だっしゅも残り4〜5話くらいだよ。いよいよゴールが見えてきたね」

やや「そうだねー。でもでも、そんな短いんだー」

恭文「アンコールの方、僕と歌唄が付き合う事で出来ない話が一話出来たしね。
まぁそこは色々やりようがあるから気にしなくていいんだろうけど……りっかェ」

やや「ねぇ恭文、りっかちゃん……ホントに悪い事してるのかなぁ」

恭文「……保護自体は悪くないと思う。×たま達の様子を見るに、それは間違いない。
でも、あのままなのがダメなんだよ。それを望んで、そうする事を『守る』と言ったのが罪だ」

やや「そっかぁ。それは……うん、そうだよね。ひかるっちやヒカリちゃんが言ってた事、ややにも分かるもん。
あのままは、だめなんだよね。それを続けちゃったらりっかちゃん、きっと知らない内にたくさん悪い事しちゃう」

恭文「だからそれは早めに止めないと。このままで居られないなら、せめて変化を良い方向に持ってこなきゃ」

やや「うん」





(おしまい)





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