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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第140話 『Missing EGG/その輝き、見つめ直す時』



シオン・ヒカリ(しゅごキャラ)・ショウタロス『しゅごしゅごー♪』

シオン「ドキッとスタートドキたまタイム。そろそろ終わりが見えてきたこの物語ですが」

ヒカリ(しゅごキャラ)「今回からいわゆる『最終章』に入る。ようは総まとめだな」

ショウタロス「今まで謎のままだったあんな事やこんな事が分かったり解決したりする盛りだくさんな内容だ。みんな、しっかりついてきてくれよ?」



(立ち上がる画面に映るのは、変わりゆく季節に思いを馳せる人達。そして……消えゆく輝き)



ショウタロス「おいおい、もしかしなくてもいきなりピンチかよっ!」

シオン「そこについては本編をチェックで。それではみなさんご一緒に」

リオン・ヒカリ(しゅごキャラ)・ショウタロス『じゃんぷっ!』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



2月も平穏無事に過ぎる中、僕はもうにっこにっこだよ。お嫁さん三人な現状に慣れてる痛みもあるけどにこにこだよ。



あぁ、世界崩壊を防いで良かった。きっと神様は善良市民である僕をいつも見守ってくれてるんだなぁ。





「あの、恭文? アンタなんでそんなにやにやしまくってるのかな」

「え、だってもうすぐゆかなさんのライブだしー♪」

「そこっ!?」





今度の2月20日の日曜日、東京・渋谷でゆかなさんのシークレットバースデーライブが行われる。



当然予約したさ。それで今回は、安定期に入っているフェイトも一緒。というか、泊まりがけでちょっと旅行?



それが楽しみで楽しみで仕方なくて、僕はもうにっこにこ。なのにどうしてか全員が引き気味な顔をする。





「そう言えば前回はアレで行けなかったものね。だから楽しみも倍と」

「オフコース♪」

「先輩、ゆかなさんって誰ですか?」

「声優だな」



ひかるは例の端末で調べていたらしく、隣に座るりっかにその画面を見せる。それでりっかは表情を綻ばせた。



「わぁ、すっごい綺麗な人ー」

「恭文、かなり前からファンなのよ。そのお姉さんのブログとか見てるしライブとかも必ず行ってるの」

「もうこだわりようが凄いんだよね。でも恭文君、一応僕達も卒業式の準備があるから日曜は学校」



そんな事を言うなぎひこに思いっ切り笑顔を向けると、なぜかなぎひこは頬を引きつらせた。



「……ううん、なんでもない」

「まぁこの時期6年のガーディアンメンバーは仕事が免除されるのが通例だしね。僕達は参加しなくても問題はないけど」

「『そんなのだめー!』」



通例に意義を申し立てるのは、当然ながら僕の第二夫人だよ。しかも頬膨らませてくるし。しかも微妙に声真似してる。



「『やや達だけで準備とか無理無理ー! みんなも一緒にやるのー!』――って、ややちゃんが怒るですよ?」

「いやいやっ! ややちゃんとリインちゃんだけならともかく、りっかちゃんとひかる君も居るよねっ! それで怒るってありえなくないっ!?」

「リインも思ったですけど、この人数で準備した方が早いのです。戦力倍なわけですし、その分楽が出来るのですよ」

『そういう理由っ!?』





卒業の時は刻々と近づいてきていて、らしくもなくドキドキしまくっている。だって初めての卒業式だし。



寒い冬はもうすぐ終わりを迎えて、春が来る。春になったら……ここでこうやってお茶をする日々も、一応の終わり。










All kids have an egg in my soul


Heart Egg――The invisible I want my




『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第140話 『Missing EGG/その輝き、見つめ直す時』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さてさて、現在聖夜小は……全体的に甘い雰囲気に満たされている。その原因は今日が2月の14日だから。



そう、今日はバレンタインです。だからお茶菓子も今日はチョコが主だったりする。なお提供者は僕となぎひこ。



僕はこれでお世話になったみんなへの感謝の気持ちとしている。そこはなぎひこも同じく。





「でもなぎひこ、マジでバレンタインに自分から贈り物するんだね。あたしお菓子持って来てたの見てびっくりしたし」

「あははは……もう習慣みたいになってるしね。日本じゃ一般的じゃないとは分かってるんだけど」



あぁ、なぎひこがまた嘘を積み重ねる。それでりまの視線が厳しくなる。もうあとひと月しかないのに……これ、どうするんだろ。



「でも恭文も持って来るとは思わなかったわ」

「買ったものだからそこまで大したものじゃないよ。まぁあれだよ、この1年みんなには世話になりっ放しだったしね」



少し照れくさくなりつつそう言うと、あむ達は目を見開いて……でもすぐに優しい表情に変わる。



「そっか。じゃあこれ、大事に食べないとね。ありがと」

「ううん、大丈夫」

「……あ、大丈夫と言えば結木さんは」

「そっちも問題ないよ。さっきディードから無事に到着したって連絡があったし」

「なら良かった」





実はここにややの姿がないのは、ややが学校が終わってからかなりの速度でミッドの方に行ったから。



ただ単独だとちょっと危ないのでディードもついててもらって……なお目的地は、当然あそこ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



綺麗な木目のドアに右手をこんこんと軽めに叩きつける。そんなどーんって感じじゃなくて、あくまでも優しく。



そうじゃないと中に居る子を驚かせちゃうもん。だから優しく優しく……でもドキドキしてるから自然と力が入る。





「はい」



中から聴こえて来たいつも聞いてる優しい声に嬉しくなって、ややはにこにこしちゃう。



「イクスちゃん、ややだよー」

「ぺぺも居るでちー。今入っても大丈夫でちか?」

「えぇ、どうぞ」



ややは返事が帰って来た事が嬉しくて、やっぱりニコニコしながら部屋の中に入る。

その後にセインさんとディードさんが入って……あれ、ややが連れて来たみたいになってる。



「おっじゃましまーす♪ また遊びに来ちゃったよー」



窓際のベッドでやや達に笑いかけてくれるイクスちゃんの姿はいつも通りで、それがやっぱり嬉しい。

今日はイクスちゃんが1週間に一回目を覚ます日。だからやや、来ちゃったんだー。それにちょうどいいしー。



「やや、学校はどうしたのですか? サボりはいけません」

「うー、それはないよー。パパとママも心配するしー。……今日はね、イクスちゃんにおみやげ持ってきたんだー」



ややは左手で持っていたカラフルな紙袋を持ち上げて、ベッドの上のイクスちゃんに見せる。



「バレンタインでちから、チョコの山盛りでち」

「陛下と一緒に食べようと思って、ややが持ってきたんです」

「バレンタイン?」

「あ、そこから説明しないとだめかー。あのねあのね、バレンタインっていうのはー」





――ややはもうすぐ6年生。この1年の間にややには今まで出会えなかったお友達がたくさん出来た。

それで悲しい事もあって泣いちゃったり大変だったりした事もあった。でもみんなと一緒は楽しくて……だからお別れは寂しい。

ややは赤ちゃんキャラだから、あむちーや恭文達とお別れはいや。寂しくて泣いちゃう。



でもでも赤ちゃんキャラも頑張っちゃう時もあるの。頑張って笑っちゃう時もあるの。



あむちー達が心配してガーディアンの方に戻って来ないように頑張って……赤ちゃんキャラなKチェアになるぞー! おー!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うぉっ!」

「唯世くん、どうしたの?」

≪あなた、顔真っ青ですよ。私の刀身かあなたの顔かってくらいに真っ青じゃないですか≫

「いや、その……今猛烈に強い悪寒が」



ガーディアン会議も終わっていつもの帰り道、僕は今日は珍しく唯世と二人で家路に着く。

何気にみんな一緒にって事はあっても、唯世と二人は……ホント少ないなぁ。



「でもあむちゃん、大丈夫かなぁ」

「あー、卒業文集に載せる写真コーナーの事?」

「うん。ガーディアンでそこの辺りの実務能力は鍛えられてると思うけど」



だったら心配する必要もないと思うけど、唯世的にはまた違うものが見えているらしい。



「あむちゃんの場合、その手のセンスが高い方でしょ? 逆にこだわり過ぎて煮詰まっちゃいそうで」

「なるほど。相変わらず心配性だねぇ、王様」

「当然だよ。王は家臣の事をしっかり見ていくものだから。……蒼凪君」

「なに?」

「ありがとう、僕の家臣で居てくれて」



僕の右隣を歩きながら唯世はそう言って、照れくさそうに笑って僕を見下ろす。

こっちに来た頃は僕より少し低かった唯世の身長は、もうとっくに僕を追い越していた。



「蒼凪君が居てくれたから助かってたとこ、ほんとにかなりあるんだ。最初はプレッシャーの方が大きかったけどね。
たかだか小学校の生徒会長の僕が、次元世界でも有名で強い魔導師を預かるーなんて」

「有名って言っても悪名の方が多いよ。僕の事大体の人間は身長4メートルで多腕なガーゴイルと思ってるし」

「……そう言えばそうだったね。蒼凪君、過激だから」

「失礼な。僕はいつでも世界のスタンダードなのよ」



唯世はそこでおかしそうに笑いを深くして、視線を前に向ける。



「それ言えば僕の方が唯世に感謝してるよ」

「え?」

「だって僕が前に出る時は、しっかり後ろを守ってくれてるしさ。
……あのホーリークラウンの輝きと硬さは、ホント心強かった」



それは嘘偽りのない本音で、少し驚いたような顔をした唯世の方を見ながら苦笑する。



「唯世の『盾』があったから、僕はいつも通りに前に突っ込めた。
やっぱあむ達のフォローとか考える事が多かったけど、唯世が居る時はいつも通りに暴れられたし」

「……そっか」



唯世はそこでまた笑って、足を進めながら視線を前に戻す。



「それはかなり、嬉しいかも。ありがと」

「ううん。ま、これからも持ちつ持たれつって事で」

「そうだね。でも、もうすぐ卒業かぁ」






二人で見上げる空はもう夕闇になりかけていて、一番星が生まれている。



少しずつだけど陽の沈む時間が遅くなってる。こういうところからも季節が変わっていく事を感じる。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



持っていったチョコはみんなに好評で、恭文君のも合わせて完食。その食べっぷりに僕達はもう驚くばかりだった。

もちろん嬉しかったけど……どうしよう。もうすぐ卒業しちゃう。そうなったら『なでしこ』が戻って来てしまう。

今日もあむちゃんが『僕』の写真を見ながらニコニコしていて……も、もう隠し切れないよね。でも言うのすっごい怖いんですけど。



そんな恐怖に苛まれながら屋敷の表玄関をくぐり、庭を少し抜けて家の中に入った。





「ただいまー」

「ナギー、お前ヘコみ過ぎだって。そんなに悩むならもうカミングアウトすればいいのによ」

「ですわよ。なぎひこ、ここが踏ん張りどころです」

「あはは……そうだよね。でも僕、踏ん張れないんだよね」



またヘコみながら靴を脱いで靴箱に入れていると、とたとたと後ろから足音が響いた。

足音の方を見ると、灰色にあさがおの絵柄の着物を着たばあやがこっちに着ていた。



「ぼっちゃま、おかえりなさいませ。実はぼっちゃまにお客様達が」

「お客様? ……あ、ティアナさんとかかな」



うちの方で花嫁修業してるしその関係……じゃないっぽい。ばあやは首を横に振って、なぜか僕を微笑ましそうに見る。



「ぼっちゃま、ばあやは応援しておりますよ」

「は?」

「歳の差はあるでしょうけど、これからです。『年上の女房は金の草鞋を履いてでも探せ』と言いますし」

「いや、だからなんの話っ!? 一体誰が来てるのかなっ!」





――とにかくそこからばあやにお客様達が客間に居る事を確認した上で移動開始。

ばあやの様子がおかしかったのに嫌な予感がしつつも、客間の前に到着。

中から聴こえる微笑ましい談笑に予感が強まりつつも、まずはふすまの前で正座。



いきなり開けると失礼になるので、あくまでも優しく穏やかに声をかけてからふすまを開ける事にする。





「失礼します」

「あぁなぎひこ、今帰ったのですか」



お母様が居る。中にお母様が居る。しかもどうしてかばあやはあんな事を言う。

しかもしかも、談笑の声に聞き覚えが……頬を引きつらせつつも呼吸を整えた。



「え、えぇ。それで入っても」

「かまいませんよ」

「では、失礼します」



僕は意を決してふすまを開け、客間の中に視線を向けた。



「なぎひこ君、お邪魔してまーす」

「してまーす」



僕はお茶を飲んでいたらしいその二人を見て驚愕の表情を浮かべ、崩れ落ちた。でもすぐに身体を起こす。



「なのはさん……ヴィヴィオちゃんもなにしてるんですかっ! 仕事はっ!? 学校はっ!」

「えっとね、なぎひこ君にチョコ持って来たんだー」



そう言ってなのはさんは傍らに置いてあった茶色の紙袋を僕に見せる。それはヴィヴィオちゃんも同じく。



「でももう学校には居ないだろうし、家の方かなーと思って来たら……あの、すみません。お邪魔しちゃって」

「いえいえ。なのはさんの事はなぎひこから伺っておりましたし……もちろんヴィヴィオちゃんの事も。
夏休みにお世話になりましたし、お礼もせずに返す方が失礼というものです」

「え、パパヴィヴィオ達の事話してたんですか?」

「ほらそこっ! パパって言わないでっ! 僕はまだ小学生だからっ!」



あぁ、恭文君の気持ちが分かったっ! いきなりパパって呼ばれるのは怖いってよく分かったよっ!

しかもお母様の前で……まさかばあやがあんな事言ったのって、これが原因っ!? いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!



「こらヴィヴィオ、ダメだよっ! 変な誤解させてなぎひこ君に迷惑かけちゃうでしょっ!?」



なのはさんはやっぱりまともらしく、ヴィヴィオちゃんの洒落の利かないボケを一喝してからお母様の方を申し訳なさげに見る。



「……あの、すみません。ほんとになぎひこ君とは現在そういう関係ではないので。
えぇ、さすがに小学生に直接的に手を出すのは大人としてどうかなと。成長歪めちゃいますし」



あれ、なにか突き刺さる。これはこれでしょうがないと思うのになにか突き刺さる。

なんで僕、なのはさんに頷けないんだろ。言ってる事は間違いじゃないはずなのに。



「あら、なぎひこは今年で中学生ですよ? 好きな女性の一人くらいは出来てもおかしくないでしょう。
むしろ私としては、なのはさんよりヴィヴィオちゃんの方に興味を持つ方が不安で」

「お母様、ちょっとお話をしましょうっ! 主にお母様の中にある常識関係についてっ!
なにか大事なものがすっぽり抜け落ちておられるとお見受けしましたがっ!」

「そうですよっ! 確かにその不安は分かりますけど、そこじゃないですよねっ!」



なんでそこ微笑ましそうに笑うんですかっ!? 反応おかしいでしょっ! あとその『私は分かっていますよ』って目もやめてくださいよっ!



「そうだわ。もしよろしければ今日はお泊りになりませんか?
おみやげまでもらってしまいましたし、このまま返しては当家の恥です」



そう言ってお母様が傍らから取り出すのは白さ香る驚きの洗浄力『ホワイティ・ホワイティ』。

うん、そういう洗剤な――ちょっと待ってっ! どうしてなのはさん洗剤のおみやげなんて持って来たのっ!?



「いえ、あの……さすがにそれは。いきなりでご迷惑ですし、私も仕事が」

「よろしくお願いしますー。パパ、今日は三人で一緒に寝ようねー」

「ヴィヴィオ、そこどうしてママ無視で話引き受けちゃうのかなっ! あとパパ呼びはホントやめようねっ!」

「なのはさん、私は大丈夫ですよ。むしろなぎひこに父性が目覚めているとしたらそれは成長」

「お母様、ホントお話しましょうっ! というかおもしろがってますよねっ!」





2011年のバレンタインは、落ち込む暇もなく慌ただしく過ぎていく事が決定した。



結局なのはさんとヴィヴィオちゃんはお泊り……あぁごめんなさいっ! 本当にごめんなさいっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



今日はバレンタインという事で、フェイトとチョコの食べさせあいっことかしようと考えていた。



でもそれどころじゃなくなった。そのために僕は訓練や夕飯やお風呂と言った夜のあれこれが終わってから、三人で布団に入ってる。





「ねぇフェイトさん、妊娠中でもエッチってするの?」

「え? それは……うん、するよ。激しくは無理だけど。そういう歌唄は」

「私は残念ながらまだ。添い寝も二度目だし」



はい、もうこれだけで現状分かりましたね? うん、そういう事なんだよ。バレンタインだから歌唄押しかけてきてたよ。

だからこそ僕の枕元には合計五個のしゅごたまが存在しているわけですよ。



「思うに三人でするのもアリなのかしら。男ってそういうの好きって言うし」

「そうなんだよね。でも私、そういう複数プレイって当然経験なくて……女の子同士でもキスとかしなきゃいけないのかな」

「私に聞かないでもらえる? でも三人でエッチなんだからしなくちゃいけないかも。
というか、私とフェイトさんもエッチするのよ。キスしたり胸触りあったり」

「そ、それは恥ずかしいね。というかあの」

「怖い?」



僕の右隣のフェイトは左隣の歌唄の方を見ながらコクンと頷く。



「私も。だってコイツならともかく、そうじゃないわけだし。例え相手が奥さん仲間でも……やっぱりね。
フェイトさんとキスしたり身体くっつけあってエッチしたりする自分が想像出来ないもの」

「そっか。でも一般的な一夫多妻制だと、奥さん同士でそういう事もありなのかな」

「ちょっと調べてみた方がいいのかしら。それでもしアリだったら改めて考えて」

「――アリじゃないからねっ!?」



あーもうだめっ! このまま寝てしまおうかと思ったけどコイツら全開だしっ!

これはもう僕にツッコめって事でしょっ! だったらお望み通りツッコんであげようじゃないのさっ!



「なに僕を挟んでアウトな会話してるっ!? お願いだから落ち着いてよっ!」

「あらいいじゃない。バレンタインだもの」

「そうだよ。あの、恥ずかしいけど……ちゃんとお話しないとダメだと思うんだ。ほら、私達も付き合い始めの頃からそういう事してるし」

「だからって今する話じゃないよねっ! 歌唄一応まだ中学生なんだから自重してー!」

「そんな言葉に意味なんてないわよ。……そう言えば恭文」



歌唄が少し身体を起こして、僕を見下ろす。歌唄はツインテールにしていた髪を解いているから今はロング。

普段と印象が違う感じで、その姿にちょっとドキドキしたりする。



「リインも一緒じゃなくていいの? 本人来たがってたけど」

「……いいの。リインにもちゃんと話してるし、今日は遠慮してもらってる」



そのかわり明日は単独添い寝だけど。添い寝しながらいっぱいお話だけど。ここは僕から言い出したから問題ない。



「それに第二夫人としてもらう事も改めて考えたいなと」

「またどうして。アンタようやく覚悟決まった感じなのに」

「別に白紙にするとかじゃないよ。リインとずっと一緒に居たいって気持ちも変わらない。ただ……ちょっとねぇ」



ここも最近考えてたところなんだよなぁ。特に……ややと絡む姿とかを見て?



「リイン最近、ややに引っ張られる形で子どもっぽくなってるんだ」

「あ、それ前に言ってたよね。……ヤスフミ、まさかそれで」

「言っておくけどフェイトが思ってるみたいな悪い意味に捉えてはないよ? むしろ良い傾向だと思ってるの。
……リインってね、生まれた時からそれなりに自我が固まってる感じなんだよね。つまり精神年齢が高い?」



だから僕と初めて会った時もしっかりしてたし、六課の時もそうだった。リインは精神的に大人なのよ。

リインの背伸びとかも、ある意味では当然とも言える。でもそれは、こっちに来てから少し様子が変わった。



「でも聖夜小に通うようになってややが友達になってからは、僕が見た事ないくらい子どもっぽい顔をする時があるんだ。
そういう顔を見てると……なんかこう、僕との関係がリインの変化を邪魔する部分もあるのかなーとか考えたりするの。
……やっぱ全部そこなんだよね。リインが僕の事だけになってしまう事が怖い。それはリインの可能性を奪ってるもの」

「それ、リインを引き取る時にも言ってた事だよね。今もそこは変わらないんだ」

「むしろ以前より強くなった。この1年でこころのたまご絡みの事件に関わって……かなりね」



リインの気持ちは嬉しいし、僕もリインと同じ。もしそういう形でリインと繋がれたら嬉しいなとも思う。

だけど……同時に色々考えてしまって、結構煮詰まりそうになる時がある。そんな僕を見て歌唄は、また身体をベッドに落とした。



「まぁここはちゃんとリインと話すよ。僕一人だけであれこれ決めてもダメだろうし。
僕は今のちょっと子どもっぽいリインも好きだからーっていっぱい伝える」

「そうね。ちゃんと分かってるみたいだし、私はなにも言わない」

「私も同じく。これでヤスフミだけで決めようとしてたらさすがに怒るけど」

「それはないよ。きっとその選択は……『勇気』を出していないと思うから」



パリに戻ったかおるさん一家のあれこれを思い出しつつ、枕元のスターライトのたまごの子に言われた事を思い出しつつ、僕は頷く。

二人はそんな僕を見て安心した様子で笑ってくれて……それがまた嬉しい。



「じゃあ疑問も解けたところで……実はね、私もちょっと報告があったの」

「なに?」

「しばらくこっちに来られそうもないの。ちょっと大きな仕事入ってね。今日お泊りしたかったのもそれがあるからなの」

「あ、そうなんだ。歌唄、それってやっぱり歌の仕事? しばらくって事は……アルバム制作とか」

「ごめんフェイトさん、そこも話せないの。まだオフレコの段階だから」



申し訳なさげな歌唄を見ながらフェイトは大丈夫と言いたげに首を横に振る。



「ううん、大丈夫。ごめんね、聞きにくい事聞いちゃって」

「じゃあ歌唄とメールもしばらく」

「それはきっちりやってくわよ。てゆうか、返信しなかったら殴るから」



なんでいきなり暴力に走るのっ!? あとその殺し屋の目はやめてっ! 胎教に悪いからっ!

しかもほんとに出来るのが怖いのっ! あの携帯のストーカー状態は未だに継続だしっ!



「だから今のうちに」



歌唄は殺し屋の目を解除してから優しく笑って、僕に思いっ切り身体を寄せる。



「アンタの匂いや温もり、いっぱい補充しときたいんだ。……ね、恭文」

「なに?」

「私もね、アンタがさっき漏らしてたような心配させないように頑張ってく。
……前に私、イクトに対して全く同じ事をやっちゃったわけだしさ」



歌唄はそこで顔を起こして、僕の事を凄い間近で見つめてくる。それで両手をそっと伸ばして、僕の顔を掴む。



「好きな人の事が一番になるのは当然だけど、それだけじゃダメなのよね。
その人が居るからなにか諦めなきゃいけないっていうのは、どこか歪んでる。
好きな人も自分が大好きな事も、両方守れたら……最高だもの」

「……そうしてくれると、嬉しいかも。だって僕、歌唄の歌が好きだから」

「ありがと」



歌唄はそのまま顔を降ろして僕と唇を重ねて……ん、やっぱり凄い。

甘い痺れにドキドキしつつも唇が離れると、歌唄は顔を赤くしながらまた笑ってくれる。



「もちろん私もだよ」



それで次はフェイト。二人して僕が腕枕状態で動けないのを良い事に攻めてくる。あははは、なんか胸が痛い。



「私にもね、夢があるんだ。子育ての事もそうだけど、それが一段落したら執務官の仕事も再開したい。
それでまた悲しい事や道を間違えた事で未来を諦めてしまう人達を助けていきたい。
他にもたくさんやりたい事はあって……私の中にもキラキラに輝く夢があって、その中にはもちろんヤスフミとの時間もある」

「……うん」

「だからヤスフミも、自分の夢を大切にして欲しい。私ももちろん大切にする。
それで……たくさんこれからもケンカしながら伝え合っていきたい。そうして繋がっていこうね」

「もちろんだよ。だからフェイト、その……愛してる」

「うん、私も愛してる」



今度はフェイトと唇を重ねて、舌を軽く絡ませてから甘い触れ合いを終える。

それで僕の事を見上げる二人を見ながら僕は嬉しくて……慣れてしまってきている自分が居るのにちょっとヘコんだ。



「もう、また気にしてる。私達は四人でいいんだよーって言ってるのに」



え、なんで分かるのっ!? 二人ともその呆れた顔するのほんとやめてー!



「しょうがないわね。フェイトさん、これはちょっとお仕置きする必要があるわね」

「そうみたいだね。でもどうしようか」

「とりあえず交互にキスし合って、三人でラブラブする事に慣れてもらいましょ」

「あ、それいいかも。じゃあ……ヤスフミ、頑張ろうね」

「頑張れないからっ! だから待ってっ! お願いだから二人同時とかやめてっ! 僕にも心の準備がー!」





でも二人にキスしちゃった時点でそんなのは言い訳にもならなかった。

こうして僕の2011年のバレンタインデーは理性と向き合い戦う時間へと変化した。

……しょうがないよねっ! だって歌唄居るからそれ以上とか無理だしっ!



三人でエッチとかって絶対ないからっ! しかも歌唄は未経験なのに……デリカシーないからー!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



どうしよう、お母様とばあやがバカだった。失礼だと思うけどバカだった。なんで僕の部屋になのはさんとヴィヴィオちゃんが居るんだろ。



なんで僕達川の字になって寝てるんだろ。だ、だめ。眠れない。なんかこう、変に意識しちゃってダメだ。





「にゅ……パパぁ、ママと弟か妹作……むにゅ」





きゃー! ヴィヴィオちゃんがとんでもない夢見てるっ! しかもこの状況でその寝言はないよねっ!

わざとかなっ! 実は狸寝入りしてるとかかなっ! あと僕小学生だっていう大事な設定を忘れないでっ!

お、落ち着け。素数を――素数を数えるんだ。素数を数えながらなのはさんの方をなんとなしに見てみる。



お母様の和服タイプの寝間着を借りているなのはさんはさっきまで緊張していた表情だった。

なのに今は気持ち良さ気に……寝ちゃってるよ。え、この状況についていけてないのって僕だけ?

もうこうなったらどうしようもない。覚悟を決めて僕は最後の手段に出る事にした。



――羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、羊が四匹、羊が五匹。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



身体に強い力というか、重量がかかった感じがしてうっすらと目が覚める。あれ、なんだろ。凄い柔らかい感触がする。

てゆうか僕、なんか温かい。良い匂いするしふかふかだし、特にこの手の中に収まってるのが……あれ。

そこまで考えて僕はよーく現状を確認してみる。まず頭と身体が腕と手らしきものに押さえられてしまっていて、動けない。



あと視界がこう、肌色のなにかでいっぱいになっていて見えない。そして手の中の感触はやたらと柔らかい。





「ん……なぎひこ、君」





しかも頭の上から本来聴こえちゃいけないような声が聴こえた。ま、まさかこれは……僕はおそるおそる視線を上に向ける。

するとそこには、なんでか幸せそうな顔のなのはさんが……僕は顔を青くしながら右手を見る。

僕の手はどういうわけかなのはさんの胸を触っていた。てゆうかあの、寝巻きの中に手入れてるんですけど。



思わず大きな声を上げそうになったけど、それを必死に押さえてまず手を離そうとする。

でも……あれ、離れない。腕が床側になっているのとなのはさんに抱きかかえられてるせいで、全然動かない。

なんとか身を捩って逃げようとするけど、なのはさんは更に力を強めて幸せそうに吐息を漏らす。



こ、これどういう事っ!? 確か羊1000匹くらいまで数えてたのは覚えてるんだけど、そこからどうしてこうなったのっ!?

なんでなのはさん僕の布団……だよね? とにかくなんで僕と添い寝状態なのかなっ! しかもどうして胸触ってるのかなっ!

しかもその、なのはさんはブラを着けてないから……ヤバい、寒気しかしない。それが怖くて身体が激しく震え出した。



本来なら嬉しいはずの感触と温もり全てが死亡フラグとしか思えない。いや、僕はきっと死ぬ。

なんとかこの状況から脱出し……力を強めないでっ! あとその色っぽい吐息もやめてくださいっ! 

あぁ、これどうすればいいのっ!? 誰か助けてっ! いや、むしろ誰もここに来ないで助けてっ!



――そして翌朝、なのはさんと僕はとっても大変な事になるけど……ごめんなさい。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



今日は2月の19日――ほたるが生まれてから毎日楽しいなー。

この間の総会もちゃんと出来たし、新しい事とかも出来ちゃいそうで無敵って感じだしー。

というわけで、今日も遊戯王で遊んで……あれ、よく考えたらなにかおかしいような。



プレイングにはおかしいとこないよねー。今はお互い6ターン目終了で、あたしのライフが5000でほたるのライフが3000。

それであたしの場にはアトランティスとシーラカンスとセットカードがあって、ほたるの場にはカードは魔法・罠ゾーンにカードが一枚。あたしの手札は三枚で、ほたるは五枚。

さっきほたるにボマー・ドラゴンってモンスターでシンクロ召喚した子がやられちゃったけど、ここもおかしくない。



あたしの場に伏せてある罠カード一枚も禁止や制限とかじゃないし、ほたるが今やったドローも変なとこは0。



あれ、だったらなんでおかしいって感じちゃうんだろー。プレイングは……あ、分かった。





「ねーねーほたる、カードどこで用意したのー? ほら、そんなちっちゃいカードどこにも売ってないしー」



そうだよそうだよっ! ほたるとやってるのはいいけど、カードどうやったのっ!? しかもそれ、しゅごキャラサイズだしっ!

あたしのバカー! 既に五回も勝負してるのになんで気づかないのかなー!



「ふふ、どこでかしらねぇ。さて、それじゃあ魔法カード龍の鏡発動よ」



ほたるが手札から出したのは、金色で丸くて枠の鏡が描いてあるカード。それで鏡には翼と手みたいなかざりがついてる。

鏡の色が暗い虹色で、その中から赤い龍の首だけ出てる。



「龍の鏡はフィールド上または墓地に存在する融合素材となるモンスターをゲームから除外。
ドラゴン族の融合モンスター一体をエクストラデッキから特殊召喚するわ」

「えっと……素材を除外する代わりにモンスター出せちゃうカードだよね」

「えぇ」





融合っていうのはデュエルモンスターズの最初の頃からある特殊召喚の方法なんだー。



特定のモンスターを融合って効果が発動するカードを使って合体させちゃうの。それで強力なモンスターを出す。



だから龍の鏡はモンスターが除外されてもう死者蘇生とかじゃ復活出来ないけど、そのかわりポーンとその融合モンスターを出せるの。





「というわけで墓地に居る三体の青眼の白龍を除外し」





青眼の白龍は遊戯王の中でもすっごく有名で、青白い綺麗なドラゴンなんだー。

モンスター効果はないけど攻撃力が3000で殴るだけならとっても強いレベル8の……え、三体?

ほたるはニコニコしながら自分の墓地のカードを両手であさって、その中から青眼の白龍三枚を取り出す。



それをちょっと横に置いた上で、シンクロモンスターとかが入っているエクストラデッキの方を手に取って、その中から一枚のカードを取り出す。





「エクストラデッキから青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)を特殊召喚するわ」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」





ほたるが出したカードは、青白い翼と身体を持つ三つ首のドラゴン。その目は名前通りに青い。



てゆうかあの、あたしこれ初めて見たんだけどっ! いや、こんなちっちゃいカードも初めて見たけどっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン) 融合モンスター 星12/光属性/ドラゴン族/攻4500/守3800



融合素材:「青眼の白龍」+「青眼の白龍」+「青眼の白龍」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ほたる、これどこで手に入れたのっ!? これって確か、世界大会優勝者とかじゃないともらえないはずなのにっ!」



それでそれで、なんかネットのオークションで100万円以上したーとかって前の学校の子が騒いでたのにー!

うん、すっごいレアカードなんだよっ!? コピーとかじゃない限りは……100万円って、ポテトチップス何袋買えるかなぁ。



「秘密よ」

「気になるー!」

「気にしてる場合かしら。続けて魔法発動よ。魔法カード――スタンピングクラッシュ」



ほたるがニコニコしながら出してきたのは、ちっちゃくて絵が見えにくいけど巨大なドラゴンの足で踏み潰されるモンスターの絵が入ったカード。



「このカードは場にドラゴン族モンスターが居る場合のみ発動可能。りっかちゃんの場の魔法・罠カードを一枚破壊するわ」

「えっと」

「りっかちゃんから見て右側のでお願い。というか、今場に残っている最後の一枚ね」

「あぅー。聖なるバリアミラーフォースーがー」



言っててもしょうがないので墓地にカードを送って……あれ、ちょっと待って。スタンピングクラッシュの効果って確か。



「スタンピングクラッシュは破壊したカードのコントローラーに500ポイントのダメージを与えるわ」

「うげっ! じゃ、じゃありっかのライフは」

「りっかちゃんの今のライフは5000だから、残り4500ね」





うぅ、究極竜はモンスター効果がないから、戦闘で破壊する以外なら楽なのにー。で、でも大丈夫。

りっかの場にはシーラカンスも居るし、アトランティスの効果で強くなってる。だからダメージは最小限で済む。

それに究極竜は弱点があって、空海先輩とのデュエルでやったみたいに効果を使った破壊には弱い。



普通に攻撃して倒そうと思ったらすっごく大変だけど、モンスター・魔法・罠のカード効果を使えば簡単に倒せる。

スターダストみたいにそういう破壊効果に耐性があるわけじゃないのが、その理由なんだ。

実はあたしの手札にはブラックホールっていう相手と自分のモンスターを全部破壊する魔法カードがある。



本当は攻撃した時にミラーフォースーを発動して究極竜破壊ってのが一番良かったんだけどなぁ。

でもそれはもう出来ないから、次のあたしのターンだよ。それが出来ればブラックホールで究極竜は破壊出来る。

だからまだだ。ここでもしシーラカンスが倒されちゃっても……あ、そうだ。



あたしだめだな、ここでなんとかする手あるじゃん。





「りっかちゃん、チェーンはなにかある?」

「うん、あるよっ! あたしはセットカードをオープンッ! 速攻魔法『月の書』を発動っ!」





あたしが場に置いたのは、青い魔法の本が描かれたカード。これは相手のモンスターを裏側守備表示にしちゃうカードなんだ。

そうしちゃうとそのターンだけは攻撃表示に出来なくなっちゃう。でも効果はそれだけじゃない。

例えば表側表示になって『こういうモンスターですよー』って分かる状態の時に効果を発動するモンスターも居るんだ。



そういうモンスター相手にこれを使うと、その場しのぎだけど効果を封じる事が出来る。



それから自分のモンスターや魔法・罠カードでモンスターを倒すって事も出来るから、かなり便利なカードなんだ。





「あたしは青眼の究極竜を選択して、裏側守備表示にするっ! ……なにかある?」

「うーん、残念」

「へ?」

「実は対策カードがあるのよね。私は伏せていた罠カード『神の宣告』を発動」



ほたるはがひっくり返したカードは、白いフードを着ているヒゲのおじいさんが描かれた絵。というかこの人、神様だっけ。

……って、そうじゃないっ! 言ってる場合じゃないよっ! たしか神の宣告って。



「げ、それって」

「えぇ。モンスターの召喚・・反転召喚・特殊召喚と相手の魔法・罠カードの発動のどれか一つを無効化して破壊する効果よ。
そのかわりライフを半分払うけど……3000から1500になっても問題ないわね。なにかある?」

「な、ないです」



りっかは少し涙目になりながら、出した月の書を墓地に置く。ううん、まだだ。これで攻撃を受けてもライフは残るし。



「更に私はボマー・ドラゴンを通常召喚するわ」

「え……あー! そう言えば通常召喚まだだったー! てゆうかまたっ!?」

「あら、このカードの三詰みは基本よ? ドラゴン族の貴重な除去カードだもの」





ほたるが手札から出したカードは、紺色で翼にキバみたいなのが生えてるドラゴン。



そう言えばさっきもこの子が……やばいー! 凄いヤバいー!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ボマー・ドラゴン 効果モンスター 星3/地属性/ドラゴン族/攻1000/守0



このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、このカードを破壊したモンスターを破壊する。



このカードの攻撃によって発生するお互いの戦闘ダメージは0になる。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「りっかちゃん、ボマー・ドラゴンの召喚に対してなにかある?」

「あ、ありません」

「ならバトルフェイズに移行。ボマー・ドラゴンでシーラカンスに攻撃。
今のシーラカンスは攻撃力3000だから、攻撃力1000のボマー・ドラゴンは破壊される」



ほたるはそう言いながらボマー・ドラゴンを墓地の方へ優しく置く。カードの扱い凄く丁寧なんだよねー。



「でもそこで効果を発動。ボマー・ドラゴンの効果により、その戦闘相手となったシーラカンスは破壊され墓地へ送られるわ」

「うぅ、シーラカンス−」



りっかは更に涙目になりつつ、シーラカンスを墓地に送る。これでりっかの場にカードはアトランティスだけ。

でもでも、アトランティスだけあっても意味がないよー。



「えっと、ほたるにダメージはないんだっけ」

「えぇ。そういう効果だもの。それじゃあ続けていくわよ。青眼の究極竜でりっかちゃんにダイレクトアタック。
青眼の究極竜の攻撃がそのまま通るなら、りっかちゃんのLPはちょうどこの子の攻撃力と同じ4500だから」

「うぅ、お疲れ様でした。……また負けたー」



りっかは机の上で崩れ落ちて、うーうー唸っちゃう。うぅ、これで五回連続で負けだよー。



「ほらほら、落ち込まないで? 成功も失敗も」

「あたしの大事な宝物?」

「正解。りっかちゃんはきっと、また強くなるわ」

「でもほたるのドラゴン族デッキ強過ぎー。……でもでも、次は勝つもん」

「ふふ、楽しみにしてるわね」



そんなほたるの言葉が嬉しくてにこにこして……あたしは忘れてた事をふと思い出して、一気に身体を起こす。



「ほたる、やっぱりそのカードどうやって手に入れたか気になるんだけどっ!」

「あら、負けた事はいいの?」

「そっちよりカードだってっ! もうすっごい謎だしー!」

「りっかちゃん、謎は謎のままにしておいた方が良い事もあるのよ?」

「えー、そんなー!」



気になるよー! ほたるが遊び相手になってくれるのは嬉しいけど、やっぱり気になるってー!



「それよりもりっかちゃん」

「うん、なに?」

「そろそろ」

『ムリームリー!』



後ろから聴こえたうちの子達の方を見ると、うちの子達はみんなはしゃぐみたいにぴょんぴょん跳ねてた。



「え、なに? 遊びたい……え、まさかカード持ってるのっ!?」

『ムリムリっ!』

『ムリー!』

「あー、さすがにそれはないか。ごめんごめん。……よし、それじゃあ今度はみんなと」



ふと机の上の時計を見たら、時刻は夜の10時。あー、すっかり遅くなって……あ。



「しまったー! あたし明日朝イチで学校だったっ! みんなごめん、遊ぶのまた今度っ!」

『ムリムリッ!?』

『ムリームリー!』

「ホントごめんっ! あとカード出せないからとか関係ないからっ!
カード出せなくてもみんなと遊ぶからっ! と、とにかく早く寝ないとっ! ほたる」

「……うん、大丈夫よ。早めに寝ないと明日大変だものね。じゃあ後片づけ開始」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



どうしましょう。りっかちゃんに黙っておいてと言われているから今まで放置してたけど……さすがにマズいわよね。

だってこの子達にはちゃんと帰るべき家とも言うべき場所がある。本来ならここにずっと居る事そのものがおかしいわけだし。

私はあの子達の方を見る。あの子達は少し寂しげだったけど、布団に入ったりっかちゃんを見ながら身体を縦に振る。



それでそのうちの一個が部屋を照らすライトのスイッチに近づき、壁に設置されたそれをOFFに入れる。



すると部屋はあっという間に真っ暗になって、りっかちゃんが布団の中から左手を出してこの子達に振る。





「ありがとー」

『ムリムリー』

「うぅ、慌てんぼうじゃないし。りっかは落ち着いた子に……すぅ」



もう寝ちゃったわね。でも……このままじゃやっぱり、だめなのよね。よし、明日こそはりっかちゃんにちゃんと話そう。

この子達を今帰るべきところに戻してあげた方がいいんじゃないかって。だってやっぱりしゅごキャラは、宿主と一緒に居たいだろうし。



「みんな、今度は一緒に……むにゃ」

『ムリっ!』

『ムリー! ムリムリー!』



でも一緒に居たいのはりっかちゃんも同じなのかしら。寝言でもみんなの事考えてるもの。



「ほたるみたいにカード出してデュエルトーナメント……すぴ」

『ムリっ!?』

『ムリムリムリー! ……ムリ』





えっと、やっぱりカードの出所教えないとダメ? あとみんな、私をジッと見ないで欲しいな。



ほら、乙女って秘密が多いのよ? それはもうたくさん……あれ、納得してくれないのね。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「フェイト、体調大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。むしろわくわくしてるくらい」

「そっか」



渋谷近辺のホテルで今日はお泊りな僕達は……あぁ、大きめなダブルベッドが素晴らしい。

フェイトも余裕を持って寝られるし、ちょっと奮発して良い部屋取ってよかったなー。



「でも無理しなくていいよ? 辛い時はすぐに言って欲しいんだ」

「もう、心配し過ぎだよ。私とっても元気なのに」

「それでも心配するの」



横になっているフェイトの頭を右手で撫でて、自信満々に笑ってみる。



「だってお父さんだから。フェイトも子ども達の事もちゃんと守りたいし」

「ん、ありがと」



僕も微笑むフェイトに並ぶ形で寝転んで、ゆっくりと顔を近づけて……唇を近づける。

僕達はほぼ同時に瞳を閉じて、優しく唇を重ねる。やっぱり……かなり幸せ。



「――おーいっ! オレ達の事忘れるなよっ! お前らなに二人の世界作ってるっ!?」

「ショウタロス先輩、もう気にしてはいけません。この二人に自覚はないのですから」

「そうだぞ。先輩はダメだな、スルースキルがない」

「スルー出来るレベルじゃねぇだろ、これっ! どんなボケだってツッコミに回らざるを得ないだろっ!」



ゆっくりと唇を離して、二人見つめ合って……お互いに手を伸ばして頬を撫で合う。にこにこしちゃうのは、きっと今がいっぱい幸せなせい。



「あのね、ヤスフミ……せっかくだしその、コミュニケーションする?」

「ふーん」



フェイトが恥ずかしがりながら誘ってくれたのが嬉しいので、ちょっといじめる事にする。



「昨日もしたのに……やっぱり予想通りだね。フェイトは子作りしてる間に、すっかりコミュニケーションが好きになってる。
フェイトはもしかして、もうコミュニケーションなしじゃあダメな子になってるのかなぁ」

「ち、違うよ。それはヤスフミの方だよね? うん、ヤスフミはいっぱいエッチな事するんだから」

「そんな事ないよ。それを言えばフェイトの方が……最初だって」

「その話はもう禁止ー!」



フェイトはそこで僕をぽかぽかと叩き出して……僕はその両手を取って、フェイトの動きを止める。



「ヤスフミ、あいかわらず意地悪なんだから。うん、いじめっ子だよね。
私の事もコミュニケーションしてる時いっぱいいじめるし、恥ずかしい事言わせるし」

「でも最近は優しいでしょ? お腹に赤ちゃん居るし負担かけたくないし」

「それは……うん。でもちょっとだけだよ。いっぱいいじめて私が恥ずかしいところを見て、楽しんでる。
私の身体のどこがどういう風になってるとか、私がどうして欲しいのかとか言わせていじめるんだから」



フェイトは少し恨めしげにこちらを見ながら僕の手を優しく解いて、腕を首に回してくる。



「だから私もいじめるよ? お母さんになっても、ヤスフミをいじめていくんだから」

「ん、分かった。じゃあゆっくりだね。無理せず優しくしていくから」

「お願い」



それから僕達はまた唇を重ねて、今度は少し濃厚にしていく。うぅ、やっぱりドキドキと甘いのは全然薄れない。

フェイトも同じなのはしっかり伝わってきて……それが嬉しくて僕は、また優しくフェイトをいじめる事にする。



「おーいっ! なに平然とR18いこうとしてんだよっ! お前らマジ落ち着けー!」

≪ショウタロス、ホント慣れましょうよ。私達に必要なのは静かにスリープモードに入る覚悟ですよ≫

≪なのな……すぴー≫

「それでお前は寝るの早過ぎんだよっ! ちょっとはツッコめっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



もう卒業式まであとひと月ちょい。そんな中あたしはうちのクラスの『思い出スナップ』担当になった。

……あー、簡単に言えば卒業文集の中に、今までの行事で撮った写真を載せるページがあるんだよ。

そのページでどういう写真を載せようかなとかかなり考えている最中で……自宅で机に座りながらかなり考え中。



ページ自体は4ページとかそれくらいだから、そのページの構成も考えちゃうんだよね。

でも……普通じゃんけんで決めるかなぁ。まぁくじで決めるのも無しだったからしょうがないんだけど。

だってほら、くじだとうちのクラスには決定的に運の悪い書庫を整頓する係の奴が居るから。



結局恭文、三学期も書庫係だったしなぁ。もううちのクラスはくじでなにか決めるのは無しになってるよ。





「でも、結構色んな写真が集まったよねー」

「この1年、本当に大変だったから。ほら、最初は学級崩壊してたし」

「してましたねぇ。りまさんが転校してクラスが二分割されてぇ」

「あたしあの時、女子側の神輿になった感じだったからそれはもうビビったよ。ダイヤに×も付いちゃったし」

「ふふ、そう言えばそうだったわね」



でも時間を経つ毎にりまの事を知っていって、悪い子じゃないんだなーって分かって……うん、まとまってきたね。

それでそのまとまった後の写真があるんだよねー。あたしは数枚の写真を手に取ってニコニコしちゃう。



「海里、元気にしてるかなぁ。年賀状もらったし、最終決戦の時にも会った」



そこまで言ってあたしは夏のあの告白の事思い出して……机に突っ伏す。



「あむちゃんっ!?」

「愛の告白の事、思い出したか」

「そう言えばちゃんとお返事しないといけませんねぇ。あむちゃん、どうしますぅ?」

「恋多き女としては、やっぱり逆ハーレムかしら」

「そんな事、しないから。あたし恭文じゃないし」





マジどうしようと思いながらも身体を起こし、改めて写真に向かい合う。

一応5年の時の写真とかも……あー、なでしこの写真もあるんだよねー。

後々、鳩羽ゆきちゃんの写真もある。これももう2年近く前なんだよなぁ。



あたしがガーディアンに入った直後にこの子、自分のこころに×を付けたんだよね。

アメリカに転校する事になってて、そういう変わる事が怖くて怖くて……なんかプレッシャーかかってたっぽい。

みんなから頭良いからアメリカでもやってけるって言われて、不安に押し潰されそうになってた。



実はこの間エアメールもらったんだよね。その時に友達みたいになってたから。





「あむちゃん」



横からスゥがやけに静かな声を出したので驚きながらそっちを向くと、スゥはあたしの事……やけに真剣な顔でジッと見てた。



「やっぱり今も怖いですかぁ? 変わっていくのは、寂しいですかぁ?」



あたしは視線をスゥから鳩羽さんの写真に移して、ゆっくりと瞳を閉じる。



「そう言えばあたしこの時、ガーディアンに入ったりするのが――変わっちゃうのが怖いって言ってたっけ」

「それでキャラなり出来なくて苦戦して」

「ホントだよねー。あむちゃん相変わらずドジなんだからー」

「うっさいっ! アンタが妙なプレッシャーかけるせいじゃんっ!」





……そうなんだよ。今スゥが言った事って、この写真を撮った頃のあたしが思ってた事なんだ。



変わるのが怖くて、自分では止めようのない変化で自分がなくなっちゃう感じがする事が怖くて仕方なかった。



その時の事を思い出して苦笑しながら、写真の中の鳩羽さんを――あの頃のあたしも見ていく。





「そりゃあね。いつだってやっぱり、変わるのってちょっと怖いよ。
でも今はちょっとだけわくわくしてるの。だって」



あたしはみんなの方を見て、なんか照れくさいけど……思いっ切り笑ってやった。



「あたしのまだ見えない『なりたい自分』、ちょっとずつでも探していくんだから」

『――そっかー』

「うし、じゃあ写真……でもただ写真載せるだけでいいのかなぁ」

「なにか飾りみたいなのがあるといいかもね。月曜にみんなに相談してみたら?」

「ん、そうしようかな」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――迷った」



俺はこんな時間になにをしているんだろう。やはり駅でタクシーを拾うべきだっただろうか。

いっそ職質でもされた方が話が早いのではと思ってしまってもおかしくはない。



「地図が古かったようだな。我ながらなんたる不覚」

「姉上殿に連絡して迎えに来てもらうか?」

「その方がいいだろうか」

『その必要はない』



後ろに突然生まれた声と気配に驚きながら振り向くと、そこには……肌が浅黒い蒼凪さんの姿があった。

だが服装が白いエプロン着用のジーンズ姿というのはおかしい。蒼凪さんのセンスは0だが、これはありえないだろ。



「蒼凪さん……いや、BYか」

「悠殿の家に住み着いたという×ロットか。噂通りに蒼凪殿とそっくりだな」

『そうだ。……一応言っておくが私はもう』

「いや、分かっている」



俺は自然に取ってしまっていた警戒を解いて、右手で眼鏡を正す。



「姉さんや二階堂さんから予め聞かされていたからな。すまない、今のは驚いてしまっただけだ」

『気にする必要はない。確かにこんな夜道でいきなり声をかけられればそうなるだろう』



予想よりずっと流暢な喋りをするものだと驚いてしまったが、同時に心強いとも思う。……俺達はさっきまで道に迷ってたわけだし。



「して、お主はなぜここに」

『お前達を迎えに来た。三条ゆかりはともかく、二階堂悠は心配していたからな』

「そうか、それは助かる。では姉さんの家の場所も」

『問題ない。ついて来てくれ』





そのまま俺の左横を通り過ぎ歩いて行くBYを追って、また歩き出した。



空を見上げると相変わらず綺麗な星空が俺達の頭上にはある。――久しぶりに会えるだろうか。



この街に住むあの騒がしくも心強い人達と……日奈森さんと。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!



翌朝――あたしの朝は絶叫から始まった。あたしが今見ているのは、みんなの寝床になって長いバスケット。

白いクッション付きのその中には本来存在しているはずのあの子達の姿が何処にもなかった。



「ちょ、みんなどこ行ったのっ!? あたし寝坊とか」



ベッドの横に置いてある目覚まし時計を見ると、時刻は朝の8時半。日曜の朝としてはちょっと早めなくらい。



「して、ないよね。スゥは朝のお散歩? いやいや、それならラン達も揃って居なくなるはずが……みんなどこー!?」

「ここよー」



いきなり左の耳元から声が聴こえたので、身体を震わせながら枕元に後退りして身体を壁につける。

あたしがそれまで居たベッドの中ほどを見ると、そこにはなぜかにこにこしているダイヤが居た。



「ダ、ダイヤっ! アンタいきなりなにっ!?」

「いえ、呼んだからそっと声をかけたんだけど」

「だからってどうしていきなり耳元っ!? マジやめてっ!」

「もう、あいかわらず怖がりねぇ。せっかく胸もぺたんこじゃなくてそれなりの大きさになってきてるっていうのに」

「うっさいっ! 今その話関係ないじゃんっ!」



ま、まぁ確かに嬉しいけどさ。恭文にもう『ぺったんこ・平原』とかってからかわれないし……ってそうじゃないっ!



「ダイヤ、ラン達どこ行ったの? あ、恭文のとこ……ないか。恭文今東京だし」

「どこに行ったって……どうしてそんな事聞くの?」

「いや、どうしてって当たり前じゃん。朝起きたら姿見えないし」

「それこそ当たり前よ。あの子達はもう居ないんだから」



ダイヤが本当に分からないという顔をしながらそう言うのであたしは……ちょっと待って。

この子なんて言ったの? ラン達が――もう居ないって。



「居ないって……ど、どういう」

「言ったまんまよ。ほら、思い出してみて? しゅごキャラ達が現れた時の事。しゅごキャラは突然宿主の前に現れる。
だったら居なくなる時だって突然だわ。どこから来てどこに行ったのかなんて、誰にも分からないの」





淡々と……ただ静かにそう告げられてあたしは力なくベッドの上にへたり込む。

なにかの冗談だとも思う。でもそうじゃないってどっかで……そうだ、あたし知ってる。

ダイヤの言葉が嘘じゃないって、あの子達がここには居ないってもう知ってる。



だから自然とあの子達の声と笑顔を思い出しながらボロボロに泣き始めた。





「どうしたら、いいの? あたしずっと……あの子達に会えないのかな」

「……あむちゃん」





分かってた。あたしはずっと分かってた。しゅごキャラは大人になったら消えちゃうって、前に聞いてたんだから。

だからあの時――カレントボードに乗って楽しかった日の帰り道、あたしはその事を考えた。

――あたし達は変わっていく。そんな中で自分が変えたいって思う通りに変わっていく事はきっと出来る。



その中であたしはいつかアンタ達とも……続く言葉は、『アンタ達とも別れなくちゃいけない』だった。

でもこんなに突然なんて思わなかった。もっとちゃんと、さよならとか言えるのかなって思ってて……ダメ、涙が止まらない。

あたしもっともっとあの子達と一緒に居たかったのに。今だけならそれも出来て……なのに。





「泣かないで、あむちゃん」



ダイヤは優しくそう声をかけてくれるけど、涙が止まらない。てゆうか、無理だよ。こんないきなりじゃ……無理だよ。



「居なくなったからってもう会えないとは限らないでしょ。探しに行けばいいじゃない」



でも続いた言葉であたしは顔を上げ、すぐ近くまで来てくれていたダイヤの目をジッと見る。



「探しにって……だってもうみんな、居なくなったんだよねっ! さっきそう言ったじゃんっ!」

「居なくなったみんなを追いかける道があるとしたら、どうする?」



ダイヤは楽しげに笑いながら言った言葉のせいで、あたしは息が止まった。



「……マジなの?」

「えぇ。私がナビゲートするわ。というわけで、あむちゃんのこころ」



『解錠』アンロック



「アンロック」

「え……えぇっ!」



あたしの身体は光に包まれて、たまごに戻ったダイヤと一つになりながらベッドの上で姿を変えていく。

その光が弾けた瞬間あたしは、ゆったりとした白い服とマイク装備なツインテールの女の子になってた。



「キャラなり、アミュレットダイヤ……って、なんでいきなりこれっ!?」

【あむちゃん、ヘッドホンに耳を済ませながらマイクを上にかざしてみて】

「え、えぇっ!?」

【いいから】



首を傾げながらも言われるがままにマイクをかざすと、ヘッドホンから『さらさら』となにかが流れるような音が聞こえた。



「……あれ、なんか水が流れ……違う。これ、砂?」

【聴こえたみたいね。それじゃあいきましょ】

「いや、行くって」



言いかけたその時、マイクから虹色の光と星が飛び出した。



「わぁっ!」



その光に包まれて目を閉じてしまう。それでなんか足元がすっきりした。ベッドに座ってたはずなのにその感触がなくなっちゃったの。



子どもはみんな、目には見えないこころのたまごを持っている



え、この声――というかこの文、司さんが描いた絵本の最初のあれだよね? あたしはおそるおそる目を開ける。

するとそこは虹色の道と輝く星達で彩られた世界だった。てゆうかもう、そうとしか言えない。それしかないし、それだけがたくさんある。



【行く先は決まったみたいね。あむちゃん、行くわよ】

「いや、だから待ってっ! まずここは」



そんな世界の中であたしの身体は、自然と前に突き進んでいく。

あたしは飛ぼうとかそういうの考えてないのにどんどん進んで、一気に速度を上げていく。



「わわわわわっ! なんか身体が勝手にー!」

【ここは星の道よ】

「星の道っ!?」



手足をじたばたさせながら、お腹が先にでちゃっている今の体勢をなんとか立て直そうとする。

あたしは見えない力に引っ張られながら縦に一回転して、なんとか頭を前に出す跳ぶ時の普通の体勢になった。



【ここは光だけが通れる秘密の抜け道。光がなによりも速いスピードで遠くまで行けるのは、この抜け道があるからなのよ。
そしてその余りの速さゆえに、空間や時間を追い越す事も出来る。逆にゆっくり動いているように見えたり、周りから見るとパッと消えたり】

「ごめん、あたしにも分かるように言ってっ! もうさっぱりなんだけどっ!」

【あら、あむちゃんは分かってるはずよ? 現にあむちゃんはこの道の力を何度も使っているもの】

「へ?」

【例えばブラックダイヤモンド事件の時――私と初めてキャラなりした時を思い出して?】



今日のダイヤは考えてるとこが分かりにくいなと思いつつも、あたしは星の道とやらを凄い速度で進みながら思い出してみる。



【あの時あむちゃんは落下するヘリの速度を遅くしたわよね】

「あ、うん」

【あれがこの道の力なの。この道の中にあるたくさんの煌きの一部分だけどね】



言ってる事はやっぱりよく分かんないけど、それがその……速過ぎるから逆に遅く見えるって話に繋がるのは分かった。

あれ、ちょっと待て。そういう力をあたしが使ってた? でもあたしそういう自覚なかったんだけど



「もしかしてこのキャラなりって」



あたしは飛びながら自然と右手を上げて、その手をジッと見てみる。



【えぇ、星の道の力を借りているの。私はラン達よりもこの煌きと近い位置に居るから。そこはショウタロスも同じかしら】

「ダイヤ、それってどういう」





身体に揺れを感じて、慌てて視線を前に向けてどこまでも続く光と星の道を見据える。

でも見ていた光が遠ざかって……あれ、なんか身体がいきなり揺れ出した。

てゆうか、いきなりすっごいぐるぐる回り出してるんですけどっ!



体勢整えて……だめっ! なんかさっきとは違う別の力で引っ張られてるっぽいっ!





【あらら、流星ゾーンに入っちゃったみたいね。あむちゃん、ごめん】

「その新用語なにっ! あといきなり謝るのやめてっ! てゆうかこの……なんか周囲の景色ぐちゃぐちゃだしっ!」



いや、それ以前にさっきまで前に進んでたはずなのにあたし……後ろに引き寄せられてるっ!?



【星の道はちょっと気まぐれで、たまにこういう事が起きちゃうの。こればかりは私にもどうしようもなくて】

「それはかなり困るんですけどっ! てゆうかあたし、どうなるのー!?」



あたしはそのまま得体の知れないなにかに吸い込まれてしまって……落ちた。

結構固めなカーペットらしきものが敷いてある床の上に落ちたあたしは呻きながらも身体を起こし、周囲を見渡す。



「イタタタ……ここ、どこ?」



白い壁におしゃれなスタンドと丸いテーブルに大きめな部屋――ホテルっぽい場所だった。

それで前を見ると、すっごい驚いた顔したシーツにくるまれた二人が居た。てゆうか、知り合いだった。



「――よし、警察に連絡だ」



あたしの身体はいきなり生まれた蒼い縄に縛られ……バインドかけられたっ!? しかもコイツ躊躇いなくやってくれちゃったしっ!



「フェイト、不審者に近づいちゃだめだよ? あぁ、残念だよ。まさか知り合いに手錠をかける事になるなんて」

「いや、ちょっと待ってっ! アンタツッコむとこ違うっ!」

「そうだよっ! てゆうかその……あむ、いきなりどうしたのっ!? あの、まず後ろ向いてっ! さすがに恥ずかしいからっ!」

「なにがっ!? 二人ともパジャマ着てるのに……いや、それ以前にここどこっ! なんで二人居るわけっ!」

「「それはこっちのセリフだよっ!」」





(第141話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、原作だと11巻のあの話に突入。消えたラン達を追ってあむと僕のガーディアンとしては最後となる冒険が始まります。
今回の最終章は結構視点があっちいったりこっちいったりする予定だと予め言っておく蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。というかこれ、一応パーティーのあの話と同時進行っぽくなる感じなんだよね」

恭文「うん。まぁ多少展開変えるかもって作者は言ってたけど。りっかが予定より落ち着いたキャラ出来る子になってきてるし」



(まぁここはあむの方の話とのバランスも取りつつで)



恭文「それで今回の話はしゅごキャラという作品の本当に最後のネタバレ連発話。
今まで謎に包まれていた部分も明かされまくっちゃうという急展開話です」

フェイト「あとはまたこっちに来たあの子達だよね。そこの話も絡んで……やっぱり視点あっちいったりこっちいったりするね」

恭文「しちゃうね。何気にレギュラーメンバーフル稼働になりそうなのが怖い。
きっと濃密な最終章になるよ。そしてややがKチェアに」



(『さ、寒気が止まらない』)



フェイト「ヤスフミ、一人怯えてるんだけど」

恭文「大丈夫、きっとあの子なら立ち上がれるよ。というわけで本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪でした。それではみなさん、また次回に。……ランちゃん達、どこに行っちゃったんだろ」

恭文「だよねぇ。てーかさよならもなしなんて……さすがに嫌だし」





(消えた三人の行方は如何に。次回は次回でまた密度が濃いです。
本日のED:Kra『絆 -キズナ- 』)










恭文「というわけで、遊戯王オンラインもちょくちょくやってます。
それでデッキからやっぱりレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンが手放せなかったり」

フェイト「墓地からドラゴン族を引っ張り上げられるんだよね」

恭文「うん。というか、デザインが好きだから手放せないの。やっぱり好きなカード使うって楽しいよね」

フェイト「それは私も分かるなぁ。そういうので勝つと余計楽しいしね。よし、それじゃあ同人版StS・Remixでも頑張らないと」

恭文「……え、なにそれ」

フェイト「あれ、聞いてない? 同人版のStS・Remixは遊戯王やるって聞いてるけど。
前にアイディアもらった感じで、本編とクロスとかじゃなくて架空デュエル式」

恭文「はいっ!?」

フェイト「それでもう5話まで書き上がってるんだって。ただ展開がHP版と全然違うから全話書き下ろし。
StSの設定も絡ませて架空デュエルやる理由も無理がない感じになったとか」

恭文「ちょっとちょっと、僕聞いてないんだけどっ! てゆうかそれならデッキ用意しないとダメじゃないのさっ!」





(おしまい)




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